説明

パネル接合構造

【課題】高精度な前処理を必要としないパネル接合構造を提供すること。
【解決手段】第1面板11と第2面板12とが山形に配置された斜めの継ぎ部材13で連結されてなる中空状の長尺なパネル1を、摩擦攪拌溶接を利用して幅方向に接合するものであり、パネル1は、幅方向両端部の継ぎ部材13が同じ方向に傾くようにして第1面板11と第2面板12とがずれたものであって、その幅方向端部の継ぎ部材13aから幅方向に突き出して形成された突出部11a,11b,12a,12bを有し、そのパネル同1士の突出部11a,11b/12a,12bを上下に重ねて配置したその重なり部分を摩擦攪拌溶接によって接合するものであり、その重なり部分にかかる回転工具50の荷重を、平行に配置された幅方向端部の一対の継ぎ部材13aと、その一方の継ぎ部材13aと山形をなす継ぎ部材13bによって支えるようにしたパネル接合構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば長尺な中空パネルを摩擦攪拌溶接を利用して接合し、鉄道車両の構体などを構成するパネル接合構造に関し、2枚重ねして形成された長尺なパネルについて高精度な前処理を必要としないで行うことができるパネル接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
2枚の板からなる中空構造のパネルなどは、例えばアルミニウム合金製の鉄道車両構体や建築材に見ることができる。そうしたパネル同士をつなげる従来のパネル接合構造には、下記特許文献1として示した特開平11−207475号公報を挙げることができる。図4及び図5は、同特許文献1に記載されているパネル接合構造を示した断面図であり、パネルの端部同士を付き合わせて接合する場合の工程図である。
【0003】
先ず、図4に示すように、中空型材(パネル)101の端には凹んだ角部103,104が形成され、中空型材(パネル)102の端部の突片105,106の先端が角部103,104にはめ合わされている。このとき、2つのパネル101,102の突き合わせ部分、すなわち回転工具50が押圧されることになる位置には支持板107が存在している。そこに回転工具50が回転を与えながら突き合わせ部分に当たると、パネル101,102は突片105,106下方までが塑性流動状態になり、摩擦攪拌溶接され接合される。同様に、凸部52の径よりも大きく塑性流動状態になる。そして、接合においては、突片105,106と支持板107との接触部まで摩擦攪拌溶接される。そして、図5に示すように、支持板107の厚さの中心の延長線上に接合ビード110の幅の中心が位置するように接合された状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−207475号公報(第4−5頁、図3、図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
摩擦攪拌溶接は、MIG溶接やTIG溶接などに比べると、接合時の歪みが相当に少ないことと、接合による入熱量が少ないため接合部の強度が向上することにより接合方法として利用が増えつつある。しかし、MIG溶接やTIG溶接などに比べ、同溶接に必要となる接合部の加工精度より相当高度な前処理精度が要求されるという製作上の問題があった。つまり、従来のパネル接合構造では、接合する両パネルの突き当て部分を溶接ポイントとして連続溶接していたので、その突き当て部分を確実に溶接できるようにするため高精度な前処理を行わなければならなかった。更に、摩擦攪拌溶接の時に作用する回転工具50の押し付け荷重が大きいため、一方のパネル101に支持板107を有するような特別な構造でなければならず、従来から使用されているパネルとは異なるパネルを製造する必要があった。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、高精度な前処理を必要としないパネル接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るパネル接合構造は、第1面板と第2面板とが山形に配置された斜めの継ぎ部材で連結されてなる中空状の長尺なパネルを幅方向に並べ、摩擦攪拌溶接を利用して前記パネル同士を長手方向に接合するものであり、前記パネルは、幅方向両端部の継ぎ部材が同じ方向に傾くようにして前記第1面板と第2面板とがずれたものであって、その幅方向端部の継ぎ部材から幅方向に突き出して形成された突出部を有し、そのパネル同士の突出部を上下に重ねて配置したその重なり部分を長手方向に摩擦攪拌溶接によって接合するようにしたものであり、その重なり部分にかかる摩擦攪拌溶接のための回転工具の荷重を、平行に配置された前記幅方向端部の一対の継ぎ部材と、その一方の継ぎ部材と山形をなす継ぎ部材とによって支えるようにしたものであることを特徴とする。
【0008】
また、パネル同士の接合部にシール剤や接着剤を塗布するようにしたものであることが望ましい。
更に、前記幅方向端部の継ぎ部材同士の間にできる空間に発泡タイプの遮音材や断熱材を充填するようにしたものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
こうした本発明のパネル接合構造では、両パネルに形成された突出部の重なり部分を摩擦攪拌溶接するようにしたので、これまでのように高精度な前処理を行わなくても確実に溶接することができ、製作工程を単純化することができる。そして、接合部分の継ぎ部材、すなわち幅方向端部の継ぎ部材が近い距離で配置され、二重になって摩擦攪拌溶接時の荷重を受けるので、従来のように補強部を有する特殊な構造のパネルを製造することなく、従来からのパネルを使用することができる。
また、シール剤や接着剤によって気密性を確保することができ、また、遮音材や断熱材を充填することで遮音性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】パネル同士を接合する接合構造の一実施形態を示した断面図である。
【図2】パネル同士を接合する接合構造の他の一実施形態を示した断面図である。
【図3】パネルを接合して構成した鉄道車両構体を示した断面図である。
【図4】従来のパネル接合構造を示した断面図である。
【図5】従来のパネル接合構造を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明に係るパネル接合構造の一実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。図1は、パネル同士を接合する接合構造を示した断面図であり、特に鉄道車両の構体を構成する場合におけるパネル接合構造を示したものである。このパネル1は、図面を貫く方向に長尺なアルミニウム型材であって、図面上側に記載された車体室内側の内側面板11と、図面下側に記載された車体外側の外側面板12とが、継ぎ部材である斜めのリブ材13,13…(図1では13a,13bと表示)によって連結さてなる中空構造をしている。そして、こうした複数のパネル1,1…が幅方向(図面横方向)に連結され、図3に示す断面のように鉄道車両構体2が構成される。すなわち、この中空構造断面を有するパネル1は、長尺な長方形形状をしたものであり、長手方向側部(幅方向端部)同士が接合され、図3に示すように箱形の鉄道車両構体を形成する。そうしたパネル1同士の具体的な接合構造が図1に示すものである。
【0012】
各々のパネル1,1…は、図示した向きに見る断面では、図面右側端部において図面下側の外側面板12が図面上側の内側面板11よりも長く、逆に図面左側端部においては、内側面板11が外側面板12よりも長い。すなわち、上下に内側面板11と外側面板とは左右幅方向にずれてリブ材13によって連結されている。そして、左右いずれも最端部のリブ材13aより内側面板11と外側面板12が幅方向に突き出している。本実施形態においてパネル1,1…を接合する場合には、この突出部11a,11b,12a,12bが上下に重なるようにはめ合わされ、その重なり合った部分に対して摩擦攪拌溶接が行われる。
【0013】
上下にずれた突出部11a,11bと突出部12a,12bは、図1の場合には一方を他方の内側に差し込むようにして重ねているが、その他にも図2に示すように互いを同じ上下方向にずらすようにしてもよい。そして、室内側および室外側を問わず、その外側に重ねられる突出部11a,12aの先端を突き当てるように、また、他方のパネル1にはその突出部11a,12aなどに対応した段部15が形成されている。こうしてパネル1,1同士がはめ合わされるとき、特に外側面板12が鉄道車両構体2の外形面、すなわち鉄道車両の外観をなす意匠面となるため、段差15と、そこに突き当てられた突出部12aとは、外側面板12,12が連続して面一になるように形成されている。そして、その接合部分には段差や凹みがないことが必要であるが、本実施形態では加工精度が要求されないことを目的としているため、突出部12aの突き当て部分にできる隙間はパテ埋めが行われる。一方、内側面板11,11も面一となるように突出部11bと段差15が形成されているが、室内を構成する化粧板によって覆われるため、必ずしも面一でなくてもよく、また接合部分に生じる多少の隙間は問題とならない。
【0014】
図1に示すようにパネル1,1が突き合わされた後、回転工具50によって摩擦攪拌溶接が行われて一体に接合される。その際、本実施形態では、先端が突き当てられた突出部11a,12bの先端を連続溶接するのではなく、突出部11a,12aと突出部11b,12bの重なり部分を、しかも図に示すようにスポット的に溶接するようにしている。スポット的に溶接するようにしたのは、摩擦攪拌溶接時の入熱量を減らしてパネル1,1に歪みが生じるのを防止するためである。
【0015】
内側面板11,11同士の接合部と外側面板12,12同士の接合部とは、上下に重なることなく左右にずれた位置にある。摩擦攪拌溶接を行う場合、回転工具50はパネル1,1に対して直交方向に押し付けられ、その押し付け荷重が大きいため、前記特許文献1などではその荷重位置に垂直なリブ材107などを設けて支えとしている。本実施形態では、例えば内側面板11,11を接合する場合、外側面板12,12側が台の上に載せられたパネル1,1に対して行われる。そして、その接合位置は、前述したように突出部11a,12aが重なった部分であり、そこは互いに近いリブ材13,13によって挟まれた中間位置にある。
【0016】
図面上方から下方にかかる回転工具50の荷重は、主に図面左側のパネル1の山形に配置されたリブ材13a,13bによって支えられる。このとき本実施形態では、内側面板11と外側面板12とがずれていることにより、接合部分のリブ材13a,13aを近い距離で二重にすることができている。従って、回転工具50の荷重がより大きく作用する一方の接合部分のリブ材13aを、他方のリブ材13aがその回転工具50の荷重を受けて補助するようになっている。こうして内側面板11,11が接合した後、外側面板12,12の接合を行う場合も同様である。
【0017】
前述したようにこのパネル1,1…は、外側面板12,12が車体外形面をなすため、接合部の気密性が要求される。しかしながら、本実施形態では連続溶接することなくスポット的に溶接しているので、気密性を保つために接合部には、その突出部11b,12aの突き当て部分に沿ってシール剤や接着剤が塗布される。更に、リブ材13a,13aの間に空間ができるが、ここに発泡タイプの遮音材や断熱材を充填するようにして気密性を高めるようにしてもよい。
【0018】
更に、図2に示すパネル同士を接合する接合構造では、前述したように上下にずれた突出部11a,11bと突出部12a,12bとが、図1の場合には一方を他方の内側に差し込むようにして重ねられているのに対し、互いを同じ上下方向にずらすようにしている。そして、突出部11a,12bの先端を段部15に突き当てるようにしてパネル1,1同士がはめ合わされ、少なくとも鉄道車両構体2の外形面になる外側面板12は、接合部分において段差や凹みがないように面一になるように形成されている。パネル1,1が突き合わされた後、回転工具50によって摩擦攪拌溶接が行われて一体に接合される。その際、入熱量を減らすため突出部11a,11b,12a,12bの重なり部分をスポット的に溶接する。スポット的に溶接した接合部の気密性を保つためシール剤や接着剤が塗布され、更にリブ材13a,13aの間に空間には発泡タイプの遮音材や断熱材を充填するようにして気密性を高めるようにしてもよい。
【0019】
よって、本実施形態のパネル接合構造によれば、両パネルの重なり部分を摩擦攪拌溶接するようにしたので、これまでのように高精度な前処理を行わなくても確実に溶接することができ、製作工程を単純にすることができるようになった。また、図1及び図2に示すパネル1,1…は、摩擦攪拌溶接を行うための特別なリブ材を設けることなく、MIG溶接やTIG溶接を行って接合していた従来のパネル構造と同じものを使って摩擦攪拌溶接するようにしたので、その点でコストをかけることなく摩擦攪拌溶接によるパネル接合構造を実現した。そして、連続溶接することなくスポット的に摩擦攪拌溶接するようにしたので、MIG溶接やTIG溶接などに比べて入熱量の少ない摩擦攪拌溶接の入熱量を更に少なくし、歪みを格段に抑えたパネル接合構造とすることができた。
【0020】
また、スポット的に摩擦攪拌溶接するようにした本実施形態のパネル接合構造は、接合実績があり十分な強度上の信頼性があるものの気密性に劣る場合もあるが、その点はシール剤や接着剤によって気密性を確保することにより解決できる。また、その際、接合部に位置するリブ材13a,13aの間の空間に発泡タイプの遮音材や断熱材を充填することによって、遮音性と気密性を高めることができる。
【0021】
以上、本発明に係るパネル接合構造について一実施形態を説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では図3に示すように鉄道車両構体を構成する場合のパネル接合構造について説明したが、建物の外壁を構成する建築材に関するパネル接合構造であってもよい。
【符号の説明】
【0022】
1 パネル
11 内側面板
12 外側面板
13 リブ材
11a,11b,12a,12b 突出部
50 回転工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面板と第2面板とが山形に配置された斜めの継ぎ部材で連結されてなる中空状の長尺なパネルを幅方向に並べ、摩擦攪拌溶接を利用して前記パネル同士を長手方向に接合するパネル接合構造において、
前記パネルは、幅方向両端部の継ぎ部材が同じ方向に傾くようにして前記第1面板と第2面板とがずれたものであって、その幅方向端部の継ぎ部材から幅方向に突き出して形成された突出部を有し、そのパネル同士の突出部を上下に重ねて配置したその重なり部分を長手方向に摩擦攪拌溶接によって接合するようにしたものであり、
その重なり部分にかかる摩擦攪拌溶接のための回転工具の荷重を、平行に配置された前記幅方向端部の一対の継ぎ部材と、その一方の継ぎ部材と山形をなす継ぎ部材とによって支えるようにしたものであることを特徴とするパネル接合構造。
【請求項2】
請求項1に記載するパネル接合構造において、
パネル同士の接合部にシール剤や接着剤を塗布するようにしたものであることを特徴とするパネル接合構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載するパネル接合構造において、
前記幅方向端部の継ぎ部材同士の間にできる空間に発泡タイプの遮音材や断熱材を充填するようにしたものであることを特徴とするパネル接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−172682(P2009−172682A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114157(P2009−114157)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【分割の表示】特願2003−309865(P2003−309865)の分割
【原出願日】平成15年9月2日(2003.9.2)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】