説明

パラアラミド繊維及びその製造方法

【課題】アラミド繊維の表面均一度を増進させることによって、高強度特性を有するパラアラミド繊維及びその製造方法を提供する。
【解決手段】芳香族ジアミンと芳香族ジアシドハライドを重合させることによって芳香族ポリアミド重合体を製造し、前記芳香族ポリアミド重合体を溶媒に溶解させることによって紡糸ドープを製造し、前記紡糸ドープを所定の紡糸口金に通過させた後、エアギャップ、凝固液が貯蔵された凝固槽、及び、噴射口を備えており、前記凝固槽の下部と連通される凝固チューブに順次通過させて紡糸することによってフィラメントを得ることを含んで構成され、このとき、前記凝固槽に貯蔵された凝固液の上面から前記凝固チューブに備えられた噴射口までの距離が10〜35mmであることを特徴とするパラアラミド繊維の製造方法、及びその方法によって製造されたパラアラミド繊維を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラアラミド繊維に関するもので、より具体的には、表面均一度に優れた高強度のパラアラミド繊維及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アラミド繊維は、各ベンゼン環がアミド基(CONH)を通して直線的に連結された構造のパラ系アラミド繊維と、そうでない構造のメタ系アラミド繊維とを含む。パラ系アラミド繊維は、約5mmの太さを有する細い糸であって、2トンの自動車を持ち上げるほどの非常に強い強度を有しており、防弾用途で使用されるとともに、宇宙航空分野の尖端産業で多様な用途で使用されている。
【0003】
アラミド繊維と称される芳香族ポリアミド繊維は、芳香族ジアミンと芳香族ジアシドクロライドをN―メチル―2―ピロリドンを含む重合溶媒中で重合させることによって芳香族ポリアミド重合体を製造する工程と、前記芳香族ポリアミド重合体を濃硫酸溶媒に溶解させることによって紡糸ドープを製造する工程と、前記紡糸ドープを紡糸口金を通して紡糸した後、紡糸物を凝固させることによってフィラメントを製造する工程とを経て製造される。
【0004】
このようなアラミド繊維は、中心層の弾性率に比べて表面層の弾性率が高いスキン―コア(Skin―core)構造を有しており、アラミド繊維にストレスが加えられる場合、表面層にストレスが集中される。したがって、アラミド繊維の表面層の物理的特性は、アラミド繊維の強度を決定する重要な要素になる。しかしながら、従来は、アラミド繊維の表面層に対する管理要素を考慮していなかったので、アラミド繊維の強度を増加させるのに限界があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記のような従来の問題を解決するためになされたもので、その目的は、アラミド繊維の表面均一度を増進させることによって、高強度特性を有するパラアラミド繊維及びその製造方法を提供することにある。
【0006】
以下、本明細書において、「アラミド繊維」は「パラアラミド繊維」を示す。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、高強度のアラミド繊維を得るための方案を研究し、アラミド繊維の表面均一度がアラミド繊維の強度増進に影響を及ぼすことを確認した。すなわち、アラミド繊維の表面均一度が増進するほど、アラミド繊維の強度が増進することを確認した。
【0008】
また、本発明者は、アラミド繊維の表面均一度を増進させるためにさらに研究し、その結果、紡糸工程を制御することによってアラミド繊維の表面均一度を増進できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0009】
以下、本発明の具体的な技術的手段を説明する。
【0010】
本発明は、芳香族ジアミンと芳香族ジアシドハライドを重合させることによって芳香族ポリアミド重合体を製造し、前記芳香族ポリアミド重合体を溶媒に溶解させることによって紡糸ドープを製造し、前記紡糸ドープを所定の紡糸口金に通過させた後、エアギャップ、凝固液が貯蔵された凝固槽、及び、噴射口を備えており、前記凝固槽の下部に連通される凝固チューブに順次通過させて紡糸することによってフィラメントを得ることを含んで構成される。このとき、前記凝固槽に貯蔵された凝固液の上面から前記凝固チューブに備えられた噴射口までの距離が10〜35mmであることを特徴とするパラアラミド繊維の製造方法を提供する。
【0011】
このとき、前記凝固槽の底面から前記噴射口までの距離は5〜20mmである。
【0012】
前記凝固液の上面から前記凝固槽の底面までの距離は5〜15mmである。
【0013】
前記噴射口は、異なる高さで複数形成され、前記凝固チューブの内部に多段で凝固液を噴射することができる。
【0014】
前記噴射口から前記凝固チューブの内部に噴射する凝固液の噴射速度と、前記凝固チューブから放出されるフィラメントの放出速度との比は0.8:1〜1.2:1である。このとき、前記噴射口から噴射する凝固液の噴射速度は150〜800mpmである。
【0015】
前記凝固槽に貯蔵された凝固液は硫酸溶液からなり、このとき、前記硫酸溶液における硫酸の濃度は5〜15重量%で、前記硫酸溶液の温度は1〜10℃である。
【0016】
本発明は、芳香族環の間にアミド結合が形成されており、前記芳香族環が前記アミド結合を通して直線的に連結された構造を有し、表面粗度がRMS0.2μm以下で、引張強度が22g/d〜26g/dであることを特徴とするパラアラミド繊維を提供する。
【0017】
ここで、前記アラミド繊維は2.8〜3.5%の伸度を有することができる。
【0018】
前記アラミド繊維は、緯糸及び経糸の繊度が1500デニールで、製織密度が260g/m2である平織物を基準にして5N以下の解糸時における最大抵抗力を有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、紡糸工程を最適化することによって、アラミド繊維の表面が均一に形成され、表面粗度特性が向上し、その結果、引張強度及び伸度特性に優れるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例に係る紡糸装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施例について具体的に説明する。
【0022】
1.芳香族ポリアミド重合体の製造
まず、重合溶媒を製造する。
【0023】
前記重合溶媒は、有機溶媒に無機塩を添加して製造する。
【0024】
前記有機溶媒としては、アミド系有機溶媒、ウレア系有機溶媒、又はこれらの混合有機溶媒を用いることができ、その具体的な例としては、N―メチル―2―ピロリドン(NMP)、N,N’―ジメチルアセトアミド(DMAc)、ヘキサメチルホスファミド(HMPA)、N,N,N',N'―テトラメチルウレア(TMU)、N,N―ジメチルホルムアミド(DMF)又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0025】
前記無機塩は、芳香族ポリアミドの重合度を増加させるために添加するもので、その具体的な例としては、CaCl、LiCl、NaCl、KCl、LiBr及びKBrなどのハロゲン化アルカリ金属塩又はハロゲン化アルカリ土金属塩を挙げることができ、これら無機塩は、単独で又は2種以上の混合物の形態で添加される。前記無機塩の添加量が増加するほど芳香族ポリアミドの重合度が増加するが、前記無機塩が過量で添加される場合、溶解されない無機塩が存在しうるので、前記無機塩は重合溶媒全体に対して10重量%以下であることが望ましい。
【0026】
次に、前記製造された重合溶媒に芳香族ジアミンを溶解させることによって混合溶液を製造する。
【0027】
前記芳香族ジアミンの具体的な例としては、パラフェニレンジアミン、4,4'―ジアミノビフェニル、2,6―ナフタレンジアミン、1,5―ナフタレンジアミン又は4,4'―ジアミノベンズアニリドを挙げることができるが、必ずこれらに限定されることはない。
【0028】
次に、前記混合溶液を撹拌しながら、前記混合溶液に所定量の芳香族ジアシドハライドを添加して予備重合を行う。
【0029】
芳香族ジアミンと芳香族ジアシドハライドの重合反応は、発熱と共に速い速度で進行されるが、このように重合速度が速くなれば、最終的に得られる各重合体間における重合度の差が大きくなるという問題が発生する。より具体的に説明すれば、重合反応が混合溶液全体で同時に進行されないので、先に重合反応が開始された重合体では、迅速な重合反応によって長い分子鎖を形成するが、後で重合反応が開始された重合体では、先に重合反応が開始された重合体よりも短い分子鎖を形成するしかない。すなわち、重合速度が速くなれば、最終的に得られる各重合体間における重合度の差が遥かに大きくなる。このように、最終的に得られる各重合体間における重合度の差が大きくなれば、物性偏差も大きくなり、所望の特性を具現することが難しくなる。
【0030】
したがって、まず、予備重合工程を通して所定長さの分子鎖を有する重合体を予め形成し、その後で重合工程を行うことによって、最終的に得られる各重合体間における重合度の差を最小化する。
【0031】
前記芳香族ジアシドハライドの具体的な例としては、テレフタロイルジクロライド、4,4'―ベンゾイルジクロライド、2,6―ナフタレンジカルボン酸ジクロライド又は1,5―ナフタレンジカルボン酸ジクロライドを挙げることができるが、必ずこれらに限定されることはない。
【0032】
次に、前記予備重合工程を完了した後、0〜30℃で撹拌しながら前記混合溶液に芳香族ジアシドハライドの残量を添加して重合を行う。
【0033】
芳香族ポリアミドの製造において、芳香族ジアシドハライドは、芳香族ジアミンと1:1のモル比で反応するので、芳香族ジアミンと芳香族ジアシドハライドは同一のモル比で添加されればよい。
【0034】
前記のような重合工程を完了した後、重合溶液全体のうち最終的な重合体の濃度が約5〜20重量%になるように芳香族ジアミンとジアシドハライドの量を調節することが望ましい。すなわち、最終的な重合体の濃度が5重量%未満になるように芳香族ジアミンとジアシドハライドを添加する場合、重合速度が低下し、反応に長期間が要されるので、経済性が低下する。また、重合体の濃度が20重量%を超えるように芳香族ジアミンとジアシドハライドを添加する場合、重合反応が円滑に進行されないので、重合体の固有粘度を5.5以上に向上させることができない。
【0035】
重合工程によって得られる芳香族ポリアミド重合体の具体的な例としては、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド:PPD―T)、ポリ(4,4'―ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン―4,4'―ビフェニレン―ジカルボン酸アミド)又はポリ(パラフェニレン―2,6―ナフタレンジカルボン酸アミド)を挙げることができる。
【0036】
次に、得られた芳香族ポリアミド溶液にアルカリ化合物を添加し、重合反応中に生成された酸を中和する。
【0037】
重合反応が進行されれば、塩酸などの酸が生成されるが、このような酸は、重合装置の腐食などの問題を引き起こすので、重合反応の間又は重合反応後に無機アルカリ化合物又は有機アルカリ化合物を添加し、重合反応時に生成された酸を中和する。
【0038】
このとき、重合反応を経て得られた芳香族ポリアミドは、パン粉のような形態で存在するので、前記芳香族ポリアミド溶液の流動性が良くない。したがって、その流動性を向上させるために、前記芳香族ポリアミド溶液に水を添加してスラリー状にした状態で以後の工程を進行することが望ましく、このために、中和工程時、芳香族ポリアミド溶液にアルカリ化合物と共に水を添加して中和工程を進行することができる。
【0039】
前記無機アルカリ化合物は、NaOH、LiCO、CaCO、LiH、CaH、LiOH、Ca(OH)、LiO又はCaOのアルカリ金属、アルカリ土金属の炭酸塩、アルカリ土金属の水素化物、アルカリ土金属の水酸化物、又はアルカリ土金属の酸化物からなる群から選択される。
【0040】
次に、中和工程を完了し、酸が除去された芳香族ポリアミド重合体を粉砕する。
【0041】
すなわち、後述する抽出工程時、重合体の粒子サイズが過度に大きい場合、重合溶媒抽出工程に多くの時間が要され、重合溶媒抽出効率が低下するので、抽出工程の前に重合体の粒子サイズを小さくするために粉砕工程を行う。
【0042】
次に、芳香族ポリアミド重合体に含有された重合溶媒を抽出し、重合体から重合溶媒を除去する。
【0043】
重合によって得られた芳香族ポリアミド重合体内には重合工程のために使用した重合溶媒が含有されており、このような重合溶媒を重合体から抽出しなければならない。また、抽出された重合溶媒は重合工程で再び使用するようになる。
【0044】
このような抽出工程は、水を用いて行うことが最も効果的かつ経済的である。抽出工程は、排出口が備えられた浴槽にフィルタを設置し、前記フィルタの上に重合体を位置させた後、水を注入し、重合体内に含有された重合溶媒を水と共に前記排出口に排出する工程からなる。
【0045】
次に、前記抽出工程後、残留する水を脱水し、乾燥工程を経て芳香族ポリアミド重合体の製造を完成する。その後、紡糸工程のために、サイズ別に芳香族ポリアミド重合体を分類する分級工程を行うことができる。
【0046】
2.パラアラミド繊維の製造
まず、前記のような方法によって製造された芳香族ポリアミド重合体を溶媒に溶解させることによって紡糸ドープ(spinning dope)を製造する。
【0047】
前記溶媒としては、97〜100%の濃度を有する濃硫酸溶媒を用いることができ、濃硫酸の代わりに、クロロ硫酸やフルオロ硫酸などを使用することもできる。
【0048】
前記紡糸ドープ内の重合体の濃度が10〜25重量%であれば、繊維物性の面で望ましい。ポリアミド重合体の濃度が増加するほど紡糸ドープの粘度も増加するが、臨界濃度(critical concentration point)を超えれば、紡糸ドープの粘度が急激に減少する。このとき、紡糸ドープは、固体相を形成しない状態で光学的等方性から光学的異方性に変化する。異方性紡糸ドープは、構造的及び機能的特性によって別途の延伸工程なしにも高強度のアラミド繊維に製造できるので、紡糸ドープ内のポリアミド重合体の濃度は、前記臨界濃度を超えることが望ましい。しかし、ポリアミド重合体の濃度が過度に大きい場合、紡糸ドープの粘度が過度に低くなるという問題が発生する。
【0049】
次に、図1に示すように、前記紡糸ドープを所定の紡糸口金10に通過させた後、エアギャップ17、凝固槽20及び凝固チューブ30に順次通過させて紡糸することによってフィラメント1を形成する。
【0050】
前記紡糸口金10は、直径が0.1mm以下である多数の毛細管15を有する。紡糸口金10に形成された毛細管15の直径が0.1mmを超える場合、生成されるフィラメントの分子配向性が悪くなるので、結果的にフィラメントの強度が低くなるという結果をもたらす。
【0051】
前記エアギャップ17としては、主に空気層や不活性気体層を使用することができ、エアギャップの長さが2〜20mmの範囲であれば、製造されるフィラメントの物性向上の面で望ましい。
【0052】
前記凝固槽20は、前記紡糸口金10の下部に位置し、その内部に凝固液22が貯蔵されており、前記凝固槽20の下部には凝固チューブ30が形成されている。前記凝固チューブ30は前記凝固槽20の下部と連通されている。
【0053】
したがって、前記紡糸口金10の毛細管15を通過した紡糸物は、エアギャップ17と凝固液22を順次通過しながら凝固され、フィラメントを形成しながら凝固チューブ30を介して排出される。フィラメントと共に、凝固液22も前記凝固チューブ30を介して排出されるので、その排出液の量だけ凝固槽20に凝固液を持続的に供給しなければならない。
【0054】
前記凝固チューブ30には噴射口35が形成されており、前記噴射口35を介して前記凝固チューブ30を通過するフィラメントに凝固液が噴射される。前記噴射口35は、前記凝固チューブ30の周囲に複数形成されるか、又は環状に形成されており、このような噴射口35は、凝固液がフィラメントに対して対称的に噴射されるように整列されることが望ましい。前記凝固液の噴射角度は、フィラメントの軸方向に対して0〜85゜であることが望ましく、特に、商業的生産工程においては20〜40゜であることが望ましい。
【0055】
前記凝固槽20に貯蔵された凝固液22の上面から前記凝固チューブ30に備えられた噴射口35まで、より正確に、前記噴射口35の上端までの距離Lは10〜35mmであることが望ましい。前記距離Lが10mm未満である場合、フィラメントが充分に凝固されていない状態で凝固液が噴射されるので、フィラメントの結晶配向が損傷されるおそれがある。また、前記距離Lが35mmを超える場合、フィラメントが完全に凝固された状態で凝固液が噴射されるので、フィラメントの表面が損傷されるおそれがある。このように、噴射口35から凝固液を噴射する工程をフィラメントが適切に凝固された状態で行わなければならないので、この点を考慮した上で、前記距離Lを10〜35mmに設定した。
【0056】
前記凝固液22の上面から前記凝固槽20の底面までの距離Lは、5〜15mmであることが望ましい。前記距離Lが5mm未満である場合、空気による渦流が発生し、紡糸工程の制御が難しくなる。また、前記距離Lが15mmを超える場合、凝固槽20内でフィラメントの凝固が非常に多く行われ、前記噴射口35の位置設定が難しくなる。すなわち、凝固槽20内でフィラメントの凝固が多く行われる場合、フィラメントが完全に凝固される前に凝固液が噴射されるように噴射口35の位置を凝固チューブ35の上端に近く設定しなければならないという負担がある。さらに、噴射口35を凝固チューブ35の上端に過度に近く設定すれば、後述するように、フィラメントの集束が充分でない状態で凝固液が噴射されるという問題が発生する。
【0057】
前記凝固槽20の底面から前記噴射口35まで、より正確に、前記噴射口35の上端までの距離Lは5〜20mmであることが望ましい。前記距離Lが5mm未満である場合、フィラメントの集束が充分でない状態で凝固液が噴射されるので、フィラメントに対する均一な凝固が行われなくなる。また、前記距離Lが20mmを超える場合、凝固槽20に貯蔵された凝固液22に対するポンピング能力が低下するおそれがある。すなわち、噴射口35から凝固液を噴射すれば、凝固槽20と凝固チューブ30との間の圧力差が発生し、凝固槽20に貯蔵された凝固液22が凝固チューブ30内に迅速に移動してポンピングされるが、噴射口35を凝固槽20の底面から過度に離れた位置に形成すれば、そのような凝固液22に対するポンピング能力が低下するようになる。
【0058】
前記噴射口35は、異なる高さで複数形成され、前記凝固チューブ30の内部に多段で凝固液を噴射することができる。このように多段で凝固液を噴射すれば、フィラメントに加えられるけん引力(Drag Force)が分散されるので、フィラメントの表面が均一になり、配向性が向上し、強度低下が防止される。また、フィラメントから硫酸が急激に抜け出るのが防止され、表面の均一度が増進される。
【0059】
一方、前記噴射口35から噴射する凝固液の噴射速度Vと、前記凝固チューブ30から放出されるフィラメント1の放出速度Vとの比は0.8:1〜1.2:1であることが望ましい。前記噴射口35から噴射する凝固液の噴射速度Vと、前記凝固チューブ30から放出されるフィラメント1の放出速度Vとの間の差が大きくなれば、フィラメント1の表面が損傷されるおそれがあるが、両者間の速度の比(V:V)が前記範囲を逸脱すれば、特に、フィラメントの表面損傷に対する憂いが大きくなる。フィラメント1の放出速度を考慮するとき、前記噴射口35から噴射する凝固液の噴射速度は150〜800mpmであることが望ましい。
【0060】
前記凝固液22としては、硫酸溶液、望ましくは、水、エチレングリコール、グリセロール、アルコール、又はこれらの混合物に硫酸が添加された溶液を用いることができる。紡糸口金10を通過した紡糸ドープは、凝固液22を通過する過程でその内部の硫酸が除去されながらフィラメントを形成する。このとき、硫酸がフィラメントの表面から急激に除去されれば、その内部に含有された硫酸が抜け出る前にフィラメントの表面が凝固され、フィラメントの均一度が低下するという問題が発生するので、このような問題を解決するために、硫酸を添加して凝固液22を形成する。
【0061】
前記凝固液22における硫酸の濃度は5〜15重量%であることが望ましい。硫酸の濃度が5重量%未満である場合、フィラメントから硫酸が急激に除去されるおそれがあり、硫酸の濃度が15重量%を超える場合、フィラメントから硫酸が抜け出るのが難しくなる。
【0062】
前記凝固液22の温度は1〜10℃であることが望ましい。すなわち、凝固液22の温度が1℃未満である場合、フィラメントから硫酸が抜け出るのが難しくなり、凝固液22の温度が10℃を超える場合、フィラメントから硫酸が急激に抜け出るおそれがある。
【0063】
次に、得られたフィラメントに残存する硫酸を除去する。
【0064】
紡糸工程によって製造されたフィラメントには硫酸が残存しうるが、このようにフィラメントに残存する硫酸は、水、又は水とアルカリ溶液との混合溶液を用いた水洗工程を通して除去される。
【0065】
前記水洗工程は、多段階で行うこともできるが、例えば、硫酸を含有したフィラメントを0.3〜1.3%の苛性水溶液(aqueous caustic solution)で1次的に水洗し、引き続いて、0.01〜0.1%のより薄い苛性水溶液で2次的に水洗することができる。
【0066】
次に、フィラメントに残留する水分含有量を調節するために乾燥工程を行う。
【0067】
乾燥工程では、加熱された乾燥ロールにフィラメントが接触する時間を調節するか、前記乾燥ロールの温度を調節することによってフィラメントの水分含有量を調節することができる。
【0068】
一方、前記のような紡糸、水洗、中和及び乾燥工程中に前記フィラメントに張力が加えられる。ここで、乾燥工程中にフィラメントに加えられる張力の最適な大きさは、全体的な紡糸条件によって決定されるが、約0.1〜3.0gpdであることが望ましい。乾燥時の張力が0.1gpd未満である場合、分子配向度が減少し、結果的に繊維の強度が低下する。その一方、乾燥時の張力が3.0gpdを超える場合、フィラメントが切断されるおそれがあり、製造上の困難さが伴う。一方、フィラメントに加えられる張力の大きさは、フィラメントを移動させるロールの表面速度を適宜制御することによって調節される。
【0069】
乾燥ロールは所定の手段によって加熱され、加熱されたロールからの過度の熱放出によって発生する熱損失を防止するために、前記乾燥ロールは、少なくとも部分的に熱遮断手段によって取り囲まれることが望ましい。
【0070】
このような工程を経て得られた本発明に係るパラアラミド繊維は、芳香族環の間にアミド結合が形成されており、前記芳香族環が前記アミド結合を通して直線的に連結された構造を有し、その表面粗度がRMS0.2μm以下になる。表面粗度値が小さいのは、表面の均一度に優れていることを意味し、本発明に係るアラミド繊維は、表面の均一度に優れているので、22g/d〜26g/dの優れた引張強度を有する。
【0071】
また、本発明に係るアラミド繊維は、2.8〜3.5%の伸度を有する。繊維の表面が均一でなくなれば、伸長時に繊維が容易に切断されるが、本発明に係るアラミド繊維は、表面の均一度に優れているので、伸長時に容易に切断されず、結果として高い伸度範囲を有する。
【0072】
また、本発明に係るアラミド繊維は、緯糸及び経糸の繊度が1500デニールで、製織密度が260g/m2である平織物を基準にして5N以下の解糸時における最大抵抗力を有する。解糸時における最大抵抗力とは、繊維を製織して織物を得た後、織物から1本の繊維を引き出すときの最大抵抗力を意味し、繊維の表面が均一である場合、織物から繊維がよく引き出されるようになり、抵抗力が小さくなる。すなわち、解糸時における抵抗力が小さいほど、繊維表面の均一度に優れるようになる。
【0073】
3.実施例及び比較例
1)実施例1
N―メチル―2―ピロリドン(NMP)にCaClを添加して重合溶媒を製造した後、パラフェニレンジアミンを前記重合溶媒に溶解させることによって混合溶液を製造した。
【0074】
その後、前記混合溶液を撹拌しながら、前記混合溶液に前記パラフェニレンジアミンと同一のモルのテレフタロイルジクロライドを2回に分けて添加し、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)重合体を生成した。その後、前記重合体を含む重合溶液に水とNaOHを添加し、酸を中和した。その後、重合体を粉砕した後、水を用いて芳香族ポリアミド重合体に含有された重合溶媒を抽出し、脱水及び乾燥工程を通して最終的に芳香族ポリアミド重合体を得た。
【0075】
その後、得られた芳香族ポリアミド重合体を99%の濃硫酸に溶解させ、紡糸ドープを準備した。紡糸ドープ内の重合体の濃度は20重量%にした。その後、図1に示すような紡糸装置を用いて前記紡糸ドープを紡糸した。すなわち、前記紡糸ドープを紡糸口金10に通過させて紡糸した後、7mmのエアギャップ17、凝固液22として5℃及び10重量%濃度の硫酸溶液が収容されている凝固槽20、及び前記凝固槽20下部の凝固チューブ30に通過させながら凝固させ、フィラメントを製造した。
【0076】
このとき、前記凝固槽20に貯蔵された凝固液22の上面から前記凝固チューブ30に備えられた噴射口35までの距離Lは20mmに設定し、前記凝固液22の上面から前記凝固槽20の底面までの距離Lは10mmに設定し、前記凝固槽20の底面から前記噴射口35までの距離Lは10mmに設定した。
【0077】
また、前記噴射口35から噴射する凝固液の噴射速度V及び前記凝固チューブ30から放出されるフィラメント1の放出速度Vは、同一に600mpmに設定した。
【0078】
その後、フィラメントを水洗して残存する硫酸を除去し、乾燥させた後、巻き取って1500デニールのアラミド繊維を得た。
【0079】
2)実施例2
上述した実施例1において、前記凝固槽20に貯蔵された凝固液22の上面から前記凝固チューブ30に備えられた噴射口35までの距離Lは10mmに設定し、前記凝固液22の上面から前記凝固槽20の底面までの距離Lは5mmに設定し、前記凝固槽20の底面から前記噴射口35までの距離Lは5mmに設定したことを除けば、上述した実施例1と同一の方法でアラミド繊維を得た。
【0080】
3)実施例3
上述した実施例1において、前記凝固槽20に貯蔵された凝固液22の上面から前記凝固チューブ30に備えられた噴射口35までの距離Lは35mmに設定し、前記凝固液22の上面から前記凝固槽20の底面までの距離Lは15mmに設定し、前記凝固槽20の底面から前記噴射口35までの距離Lは20mmに設定したことを除けば、上述した実施例1と同一の方法でアラミド繊維を得た。
【0081】
4)実施例4
上述した実施例1において、前記噴射口35から噴射する凝固液の噴射速度Vは700mpmに設定し、前記凝固チューブ30から放出されるフィラメント1の放出速度Vは600mpmに設定したことを除けば、上述した実施例1と同一の方法でアラミド繊維を得た。
【0082】
5)実施例5
上述した実施例1において、前記噴射口35から噴射する凝固液の噴射速度Vは500mpmに設定し、前記凝固チューブ30から放出されるフィラメント1の放出速度Vは600mpmに設定したことを除けば、上述した実施例1と同一の方法でアラミド繊維を得た。
【0083】
6)比較例1
上述した実施例1において、前記凝固槽20に貯蔵された凝固液22の上面から前記凝固チューブ30に備えられた噴射口35までの距離Lは8mmに設定し、前記凝固液22の上面から前記凝固槽20の底面までの距離Lは5mmに設定し、前記凝固槽20の底面から前記噴射口35までの距離Lは3mmに設定したことを除けば、上述した実施例1と同一の方法でアラミド繊維を得た。
【0084】
7)比較例2
上述した実施例1において、前記凝固槽20に貯蔵された凝固液22の上面から前記凝固チューブ30に備えられた噴射口35までの距離Lは40mmに設定し、前記凝固液22の上面から前記凝固槽20の底面までの距離Lは15mmに設定し、前記凝固槽20の底面から前記噴射口35までの距離Lは25mmに設定したことを除けば、上述した実施例1と同一の方法でアラミド繊維を得た。
【0085】
8)比較例3
上述した比較例2において、前記噴射口35から噴射する凝固液の噴射速度Vは400mpmに設定し、前記凝固チューブ30から放出されるフィラメント1の放出速度Vは600mpmに設定したことを除けば、上述した比較例2と同一の方法でアラミド繊維を得た。
【0086】
9)比較例4
上述した比較例2において、前記噴射口35から噴射する凝固液の噴射速度Vは750mpmに設定し、前記凝固チューブ30から放出されるフィラメント1の放出速度Vは600mpmに設定したことを除けば、上述した比較例2と同一の方法でアラミド繊維を得た。
【0087】
10)比較例5
上述した比較例1において、凝固槽20に収容された凝固液20、すなわち、硫酸溶液の温度を0℃に維持したことを除けば、上述した比較例1と同一の方法でアラミド繊維を得た。
【0088】
11)比較例6
上述した比較例1において、凝固槽20に収容された凝固液20、すなわち、硫酸溶液の温度を15℃に維持したことを除けば、上述した比較例1と同一の方法でアラミド繊維を得た。
【0089】
12)比較例7
上述した比較例1において、凝固槽20に収容された凝固液20、すなわち、硫酸溶液の濃度を3重量%に維持したことを除けば、上述した比較例1と同一の方法でアラミド繊維を得た。
【0090】
13)比較例8
上述した比較例1において、凝固槽20に収容された凝固液20、すなわち、硫酸溶液の濃度を20重量%に維持したことを除けば、上述した比較例1と同一の方法でアラミド繊維を得た。
【0091】
以上のような実施例及び比較例に係る主要な工程条件を要約すれば、下記の表1に示す通りである。
【0092】
【表1】

【0093】
前記表1において、Lは、凝固液22の上面から噴射口35までの距離で、Lは、凝固液22の上面から凝固槽20の底面までの距離で、Lは、凝固槽20の底面から噴射口35までの距離で、Vは、噴射口35から噴射する凝固液の噴射速度で、Vは、凝固チューブ30から放出されるフィラメント1の放出速度である。
【0094】
4.実験例
1)アラミド繊維の表面粗度測定
それぞれの実施例及び比較例に係るアラミド繊維を25cmに切って各サンプルを準備した後、表面粗度測定装備であるAFM(Atomic Force Microscopy)を用いて各サンプルに対する表面粗度を測定した。
【0095】
具体的には、各サンプルを基板のV字状溝内によく固定した後、英国のデジタルインスツルメンツ社(Digital Instruments)のナノスコープ III マルチモード(Nanoscope III a Multimode)を使用して各サンプルに対する表面粗度を測定した。その結果は下記の表2に示す通りである。
【0096】
2)アラミド繊維の引張強度測定
それぞれの実施例及び比較例に係るアラミド繊維を25cmに切って各サンプルを準備した後、ASTM D―885試験方法によって引張強度を測定した。
【0097】
具体的には、インストロン試験器(Instron Engineering Corp、Canton、Mass)を用いて引張速度300mm/分で各サンプルが破断されるときの力(g)を測定し、測定値をサンプルのデニールで割って引張強度(g/d)を求めた。その結果は下記の表2に示す通りである。
【0098】
3)アラミド繊維の伸度測定
それぞれの実施例及び比較例に係るアラミド繊維を25cmに切って各サンプルを準備した後、各サンプルに対する伸度を測定した。
【0099】
具体的には、インストロン試験器(Instron Engineering Corp、Canton、Mass)を用いて引張速度300mm/分で各サンプルが破断されるときの伸びた長さを測定し、測定値をサンプルの最初の長さで割って伸率(%)を求めた。その結果は下記の表2に示す通りである。
【0100】
4)アラミド繊維の解糸時における最大抵抗力測定
それぞれの実施例及び比較例に係る繊度が1500デニールであるアラミド繊維を緯糸及び経糸にし、製織密度を260g/m2にして平織に製織し、80mm×80mmサイズの織物サンプルを準備した後、各織物サンプルから1本のアラミド繊維を引き出すときの最大抵抗力を測定した。
【0101】
具体的には、インストロン試験器(Instron Engineering Corp、Canton、Mass)を用いて引張速度300mm/分で各サンプルから1本のアラミド繊維を引き出すときにかかる最大の力(N)を測定した。その結果は下記の表2に示す通りである。
【0102】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジアミンと芳香族ジアシドハライドを重合させることによって芳香族ポリアミド重合体を製造し、
前記芳香族ポリアミド重合体を溶媒に溶解させることによって紡糸ドープを製造し、
前記紡糸ドープを所定の紡糸口金に通過させた後、エアギャップ、凝固液が貯蔵された凝固槽、及び、噴射口を備えており、前記凝固槽の下部と連通される凝固チューブに順次通過させて紡糸することによってフィラメントを得ることを含んで構成され、
前記凝固槽に貯蔵された凝固液の上面から前記凝固チューブに備えられた噴射口までの距離が10〜35mmであることを特徴とするパラアラミド繊維の製造方法。
【請求項2】
前記凝固槽の底面から前記噴射口までの距離は5〜20mmであることを特徴とする、請求項1に記載のパラアラミド繊維の製造方法。
【請求項3】
前記凝固液の上面から前記凝固槽の底面までの距離は5〜15mmであることを特徴とする、請求項1に記載のパラアラミド繊維の製造方法。
【請求項4】
前記噴射口は、異なる高さで複数形成され、前記凝固チューブの内部に多段で凝固液を噴射することを特徴とする、請求項1に記載のパラアラミド繊維の製造方法。
【請求項5】
前記噴射口から前記凝固チューブの内部に噴射する凝固液の噴射速度と、前記凝固チューブから放出されるフィラメントの放出速度との比は0.8:1〜1.2:1であることを特徴とする、請求項1に記載のパラアラミド繊維の製造方法。
【請求項6】
前記噴射口から噴射する凝固液の噴射速度は150〜800mpmであることを特徴とする、請求項5に記載のパラアラミド繊維の製造方法。
【請求項7】
前記凝固槽に貯蔵された凝固液は硫酸溶液からなり、前記硫酸溶液における硫酸の濃度は5〜15重量%であることを特徴とする、請求項1に記載のパラアラミド繊維の製造方法。
【請求項8】
前記凝固槽に貯蔵された凝固液は硫酸溶液からなり、前記硫酸溶液の温度は1〜10℃であることを特徴とする、請求項1に記載のパラアラミド繊維の製造方法。
【請求項9】
芳香族環の間にアミド結合が形成されており、前記芳香族環が前記アミド結合を通して直線的に連結された構造を有し、表面粗度がRMS0.2μm以下で、引張強度が22g/d〜26g/dであることを特徴とするパラアラミド繊維。
【請求項10】
前記アラミド繊維は2.8〜3.5%の伸度を有することを特徴とする、請求項9に記載のパラアラミド繊維。
【請求項11】
前記アラミド繊維は、緯糸及び経糸の繊度が1500デニールで、製織密度が260g/m2である平織物を基準にして5N以下の解糸時における最大抵抗力を有することを特徴とする、請求項9に記載のパラアラミド繊維。

【図1】
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【公表番号】特表2011−517736(P2011−517736A)
【公表日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502852(P2011−502852)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【国際出願番号】PCT/KR2009/001636
【国際公開番号】WO2009/145446
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(597114649)コーロン インダストリーズ インク (99)
【Fターム(参考)】