説明

パラジウムクラスターとデンドリマーの複合体、その製造方法および当該複合体を利用した水素化方法

【課題】Pd16より大きいパラジウムクラスターを含むことのできるデンドリマーを母材とする複合体やそれを利用した水素化方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表されるデンドリマー
【化1】


(式中、Aは水素原子または酸素原子、kは0〜1の整数、lは2〜4の整数但しk+
2l≧5、mは2〜4の整数、nは1〜2の整数、R、R、R、R、及び
は同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素、炭素数1〜3のアルキル基
及び炭素数1〜3のアルコキシ基からなる群から選択されるいずれかを表す。)
の内部にパラジウムクラスターを含むことを特徴とするパラジウムクラスターとデンドリマーの複合体およびこれを水素化反応用触媒として利用した水素化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウムクラスターとデンドリマーの複合体、その製造方法および当該複合体を利用した水素化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属クラスターは、その大きさによって、比表面積、表面結晶面の分布比率および表面金属の電子状態が変化することから、触媒活性や選択性に特徴を持たせるためにクラスター径を制御するのはひとつの有用な方法と考えられる。また、当該クラスター粒径の均一性が高ければ、クラスター粒子毎の比表面積、表面結晶面の分布比率および表面金属の電子状態等の均一性もまた高くなることが期待される。従って、当該クラスターを活性点として有する触媒は、活性点の均一性が高く、副反応の抑制なとの観点で有効なものであると考えられる。この点から、粒径の揃ったクラスターの製造方法が望まれていた。
【0003】
このような粒子直径が揃ったパラジウムクラスターの製造方法として、C4コアのトリエトキシベンズアミド末端修飾ポリ(プロピレン)イミン第五世代デンドリマーを用いて、Pd、Pd、Pd、Pd16(Pd粒子径0.41〜0.97nm)(Pdの後の下付の数字はクラスターを構成する原子数を示す)のPdサブナノ粒子を製造する方法が知られている(特許文献1)。また、粒径の均一性の高いパラジウムクラスターを製造する方法で、デンドリマー以外の母材を用いる方法としては、モンモリロナイト上に平均粒径約0.8nmのPd粒子(Pd約10原子からなる粒子)を調製した例(非特許文献1)、ポリマーミセル内に平均粒径約0.7nmのPd粒子(Pd約7原子からなる粒子)を調製した例(非特許文献2)、FAU型(Y型)ゼオライトの細孔内に0.825nmのPd粒子(Pd13原子からなる粒子)を調製した例(非特許文献3)、およびMFI型・MOR型ゼオライトの細孔内に約0.68nmのPd粒子(Pd約7原子からなる粒子)を調製した例(非特許文献4)等が知られている。
【0004】
一方、前述した特許文献1のデンドリマーとパラジウムクラスター(Pd3〜16)の複合体の水素化活性を比較した場合、Pd数が多いクラスターのほうが高い水素化活性を持つことが明らかとなっている(非特許文献1および5)。
【0005】
しかしながら、より少ないパラジウム量で水素化反応を進行させるため、よりサイズの大きいパラジウムクラスターを含む複合体が要求されているが、当該複合体においては、Pd16より大きいパラジウムクラスターを製造することはできなかった。
【0006】
そのため、より高い水素化活性を発現するためにPd16より大きいパラジウムクラスターを含むことのできるデンドリマーを母材とする複合体やそれを利用した水素化方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−191320号広報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】T. Mitsudome, et al., Angew. Chem. Int. Ed., 46 (2007) 3288
【非特許文献2】K. Okamoto et al, J. Am. Chem. Soc., 127 (2005) 2125
【非特許文献3】K. Okumura et al., J. Catal, 231 (2005) 245
【非特許文献4】K. Okumura et al., J. Phys. Chem. B, 108 (2004) 6250
【非特許文献5】木畑貴行ら、104回触媒討論会、2009年9月29日、3I16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明はPd16より大きいパラジウムクラスターを含むことのできるデンドリマーを母材とする複合体やそれを利用した水素化方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の構造を有するデンドリマーを利用することにより、その内部にPd16より大きいパラジウムクラスターを生成させることができることを見出した。また、前記デンドリマーの内部にパラジウムクラスターを含ませた複合体が水素化反応用触媒として活性が高いことを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は下記一般式(I)で表されるデンドリマー
【化1】

(式中、Aは水素原子または酸素原子、kは0〜1の整数、lは2〜4の整数但しk+
2l≧5、mは2〜4の整数、nは1〜2の整数、R、R、R、R、及び
は同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素、炭素数1〜3のアルキル基
及び炭素数1〜3のアルコキシ基からなる群から選択されるいずれかを表す。)
の内部にパラジウムクラスターを含むことを特徴とするパラジウムクラスターとデンドリマーの複合体である。
【0012】
また、本発明は上記一般式(I)で表されるデンドリマーの内部に、パラジウムクラスターを生成させることを特徴とする上記パラジウムクラスターとデンドリマーの複合体の製造方法である。
【0013】
更に、本発明は上記複合体を有効成分とする水素化反応用触媒および当該触媒を用いる水素化方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のパラジウムクラスターとデンドリマーの複合体は、Pd16より大きいパラジウムクラスターを含むことができる。また、前記複合体の製造方法は、前記複合体の原料となるPd/デンドリマーのモル比を制御することにより、実質的にPd16より大きいパラジウムクラスターのみを含む複合体を製造することができる。
【0015】
また、当該複合体を水素化反応用の触媒として用いることにより、従来の複合体よりもより効率的な水素化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】参考例11で得たトリエトキシベンズアミド修飾C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=6)を示す図である。
【図2】参考例12で得たトリエトキシベンズアミド修飾C4ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=4)を示す図である。
【図3】参考例13で得たトリエトキシベンズアミド修飾C2ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=2)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、パラジウムクラスターとは、パラジウム原子が数個から数十個集まって構成されるパラジウム粒子のことをいう。また、パラジウムクラスター中のパラジウム原子数は、放射光を用いたパラジウムK端EXAFS測定によって、測定することができる。
【0018】
また、本明細書において、デンドリマーとはコアと呼ばれる中心分子とデンドロンと呼ばれる側鎖部分から構成される分子のことをいう。デンドロン部分の分岐回数は世代数と呼ばれる。更に、デンドリマーの分子末端は該分子の最外殻に位置し、デンドリマーの反応性や機能に影響を与えることが知られている。
【0019】
本発明のパラジウムクラスターとデンドリマーの複合体(以下、単に「本発明複合体」という)は、下記一般式(I)で表されるデンドリマー(以下、単に「デンドリマー」という)の内部にパラジウムクラスターを含むものである。
【化2】

式中、Aは水素原子または酸素原子、好ましくは酸素原子、kは0〜1の整数、lは2〜4の整数但しk+2l≧5、好ましくは8≧k+2l≧6、mは2〜4の整数、好ましくは3、nは1〜2の整数、好ましくはAが水素原子のときは2、酸素原子のときは1、R、R、R、R、及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素、炭素数1〜3のアルキル基及び炭素数1〜3のアルコキシ基からなる群から選択されるいずれか、好ましくは水素または炭素数2のアルコキシ基を表す。
【0020】
上記デンドリマーは、例えば、以下のような1,ω−アルカンジアミンを用いたダイバージェント(divergent)法によって得ることができる。
【0021】
まず、ヘキサメチレンジアミン(1,6−ヘキサンジアミン)に5〜20倍質量部の純水を加えて攪拌し、これに2〜4倍質量部のアクリロニトリルを滴下した後、60℃〜溶媒の沸点で3〜6時間還流する。還流した溶液を減圧下で濃縮して、未反応のアクリロニトリルを留去した後、水相を除去し、残った有機相を純水で洗浄し、有機相を減圧乾燥させて、ニトリル基末端ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代1)(k+2l=6)を得る。この質量1部に対し、ラネーコバルト触媒をコバルト換算で1〜3倍質量部、400g/L水酸化ナトリウム水溶液3〜6倍質量部、メタノール8〜15倍質量部を混合して、60〜80℃、水素圧3〜5MPaで0.5〜3時間攪拌することにより、デンドリマーの末端ニトリル基を水素化する。水素化後、ラネーコバルト触媒はろ過により除去し、反応液をジクロロメタン15〜30倍質量部で抽出、減圧濃縮する。さらに透析膜(SPECTRUM社製、セルロースエステル、MWCO 100D−500D)を用いて脱塩精製し、アミノ基末端ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代1)(k+2l=6)を得る。
【0022】
上記で得られるアミノ基末端ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代1)を、上記と同様に、純水とアクリロニトリルで処理して、ニトリル基末端ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代2)を得、これをラネーコバルト触媒で水素化してアミノ基末端ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代2)を得る。以下同様の操作を複数回繰り返して、アミノ基末端ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)を得る。
【0023】
このアミノ基末端ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)質量1部に対し、8〜20倍質量部のテトラヒドロフランを加えて溶解し、6〜10倍質量部のトリエチルアミンと3〜6倍質量部の3,4,5−トリエトキシベンゾイルクロリドを2〜4倍質量部のテトラヒドロフランに溶解した溶液を加えて室温で24〜96時間攪拌保持した後、減圧下で濃縮して、トリエチルアミンとテトラヒドロフランを留去する。この残渣に40g/L水酸化ナトリウム水溶液40〜100倍質量部を加えて、1〜6時間還流させて、水相と有機相を分離させる。これから水相を取り除いた後、有機相に純水40〜100倍質量部を加えて還流して、再び水相を取り除く。この操作を水相が中性になるまで繰り返し、有機相を真空乾燥して、トリエトキシベンズアミド修飾C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)を得る。
【0024】
また、上記デンドリマーに含まれるパラジウムクラスターはパラジウム原子数が2以上、好ましくは17以上、より好ましくは17〜30(Pd17〜30)のものである。また、このパラジウムクラスターは上記デンドリマーの内部に1つ以上、好ましくは2つ以上4つ以下、より好ましくは2つ含むことができる。更に、上記デンドリマーの内部にパラジウムクラスターを2つ以上含む場合、パラジウムクラスターの大きさは全て同じでも違っていてもよいが、好ましくはそれらのパラジウムクラスターの少なくとも1つのパラジウム原子数が17以上であり、より好ましくは全てのパラジウムクラスターのパラジウム原子数が17以上である。
【0025】
上記パラジウムクラスターは、上記デンドリマーの内部に、パラジウムクラスターを生成させることにより製造することができる。パラジウムクラスターを生成方法は、特に限定されないが、例えば、パラジウム化合物原料に、パラジウム化合物原料をパラジウムクラスターに変換する変換剤(以下、単に「変換剤」という)を作用させることによって行うことができる。
【0026】
上記パラジウム化合物原料としては、特に制限されず、公知のパラジウム化合物の1種単独または2種以上の組み合わせを挙げることができる。これらのパラジウム化合物の中でも、反応性や得られるパラジウムクラスターの直径等の観点から、可溶性パラジウム化合物であることが好ましい。このような可溶性パラジウム化合物としては、例えば、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、トリス[ビス(p−イソプロピルフェニル)ペンタ−1,4−ジエン−3−オン]二パラジウム(0)、テトラアセタトテトラカルボニル四パラジウム(I)、ビス(2,4−ペンタンジオナト)パラジウム(II)、ジクロロビス(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、プロピオン酸パラジウム(II)、2−エチルヘキサン酸パラジウム(II)等の有機溶媒可溶性パラジウム化合物、硝酸パラジウム(II)、テトラクロロパラジウム(II)酸、テトラクロロパラジウム(II)酸リチウム、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム、テトラクロロパラジウム(II)酸カリウム、テトラブロモパラジウム(II)酸カリウム、テトラアンミンパラジウム(II)塩化物、テトラアンミンパラジウム(II)硝酸塩、テトラアンミンパラジウム(II)酢酸塩、ビス(エチレンジアミン)パラジウム(II)塩化物、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸ナトリウム、ジニトロジアンミンパラジウム(II)硝酸溶液等の水溶性パラジウム化合物が挙げられる。
【0027】
上記変換剤としては、上記パラジウム化合物原料をパラジウムクラスターに変換することができる物質であれば特に限定されない。具体的に、パラジウム化合物原料が0価のパラジウム原子および1価のパラジウム原子のどちらか一方または両方を含む場合、変換剤としては、例えば、アンモニア、水、エチレンジアミン等が挙げられる。これらの変換剤は、ハードなルイス塩基性の配位子を供し、これらの配位子を、0価または1価という低原子価のパラジウム化合物原料を安定化されるホスフィン類やカルボニル、オレフィン等のソフトなルイス塩基と競合させることによって、該パラジウム化合物原料を分解に導き、パラジウムクラスターに変換するものである。これらの変換剤の中でも、アンモニアまたは水が好ましい。また、パラジウム化合物原料が2価のパラジウム原子および4価のパラジウム原子のどちらか一方または両方を含む場合、変換剤としては、水素、水素化リチウムアルミニウム、テトラヒドロホウ酸ナトリウム、テトラヒドロホウ酸カリウム、蟻酸、蟻酸ナトリウム、シュウ酸、シュウ酸ナトリウム、ヒドラジン等が挙げられる。これらの変換剤の中でも水素、水素化リチウムアルミニウム、テトラヒドロホウ酸ナトリウムまたはテトラヒドロホウ酸カリウムが好ましい。更に、これらの変換剤は1種単独または2種以上を組み合わせてもよい。
【0028】
より具体的に、上記パラジウム化合物原料に変換剤を作用させて上記デンドリマーの内部にパラジウムクラスターを生成させるには、上記デンドリマーの存在下で変換剤とパラジウム化合物原料中のパラジウム原子とをモル比(変換剤/パラジウム化合物中のパラジウム原子)が1.0〜10、好ましくは1.1〜2.2となる量比とし、これらを混合攪拌、必要により加熱して反応させればよい。また、同時に上記パラジウム化合物原料中のパラジウム原子と上記デンドリマーのモル比(パラジウム化合物原料中のパラジウム原子/デンドリマー)を、得られるパラジウムクラスター中に含まれるパラジウム原子数の観点から17〜100、好ましくは17〜50となる量比とすることが好ましい。また、パラジウムクラスターのサイズを揃えるという観点からすると、例えば、Pd18のクラスターに揃えたい場合、上記デンドリマーに対する上記パラジウム化合物原料中のパラジウム原子のモル比(パラジウム化合物原料中のパラジウム原子/デンドリマー)は18の倍数すなわち18、36、54、72、90となる量比であることが好ましく、18または36となる量比がより好ましい。
【0029】
上記反応は湿式、すなわち、溶媒中で行うこともできるし、湿式の一部のプロセスを乾式、すなわち、溶媒を用いないで行うこともできるが、湿式で行うことがパラジウム化合物原料および変換剤に由来する反応生成物を複合体からろ過等の手段で容易に除去できるという点から好ましい。
【0030】
湿式で反応を行うには、まず、デンドリマーを溶媒に添加して、デンドリマーの溶液または分散液を得る。次にこの溶液または分散液に、パラジウム化合物原料をそのままあるいは必要によりパラジウム化合物原料を予め溶媒に溶解したものを添加して、デンドリマーとパラジウム化合物原料の中間生成物を得る。この中間生成物においてパラジウム化合物原料はデンドリマー内部に取り込まれているものと推測される。得られた中間生成物は、必要に応じて精製し、更に溶媒中で上記中間生成物に変換剤を作用させることにより、本発明複合体を製造することができる。このとき、パラジウムクラスターはデンドリマー内部で生成する。
【0031】
上記反応において、デンドリマーの溶液または分散液を得るために用いる溶媒としては、デンドリマーが実際に溶解または分散する溶媒であれば特に制限されないが、親水性デンドリマーの場合には高極性溶媒が好ましく、疎水性デンドリマーの場合には低極性溶媒が好ましい。高極性溶媒の例としては、水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、トリエチルアミン、アセトン等が挙げられる。低極性溶媒の例としてはヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独または2種以上を組み合わせてもよい。このときに使用する溶媒量については、デンドリマーが実際に溶解または分散する溶媒量であれば特に制限するものではないが、溶媒中のデンドリマーのモル濃度が、0.1〜100mmol/L、好ましくは0.5〜10mmol/Lとなるような溶媒量であることが望ましい。また、使用温度条件は0℃から溶媒の沸点まで、好ましくは20〜50℃である。更に、使用する圧力は特に制限するものではないが、操作の簡便性という観点から、大気圧(0.1MPa)であることが好ましい。
【0032】
また、可溶性パラジウム化合物を含む溶液を得るために用いる溶媒としては、可溶性パラジウム化合物が実際に溶解する溶媒であれば特に制限されないが、可溶性パラジウム化合物として有機溶媒可溶性パラジウム化合物を用いる場合には、溶媒として有機溶媒を用いることが好ましく、水溶性パラジウム化合物を用いる場合には、溶媒として水または含水有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒としては、例えばヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、トリエチルアミン、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。また、含水有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒と水との混合物であれば特に制限されないが、例えば、水とメタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、トリエチルアミン、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等との混合物が挙げられる。これらの溶媒は1種単独または2種以上を組み合わせてもよい。このときに使用する溶媒量については、可溶性パラジウム化合物が実際に溶解する溶媒量であれば特に制限するものではないが、溶媒中のパラジウムのモル濃度が、1〜500mmol/L、好ましくは10〜100mmol/Lとなるような溶媒量であることが望ましい。また、使用温度条件は0℃から溶媒の沸点まで、好ましくは20〜50℃である。更に、使用する圧力は特に制限するものではないが、操作の簡便性という観点から、大気圧であることが好ましい。
【0033】
更に、上記したデンドリマーの溶液または分散液を得るために用いる溶媒と、可溶性パラジウム化合物を含む溶液を得るために用いる溶媒とは同一であっても異なっていてもよいが、両溶媒としてともに混合溶媒を用いる場合には、混合溶媒を構成する溶媒の種類および組成比のいずれもが同一であってもよいし、いずれか一方または両方が異なっていてもよい。
【0034】
上記反応において得られるデンドリマーとパラジウム化合物の中間生成物を必要に応じて精製する場合、精製操作としては、例えば、洗浄やカラムクロマトグラフィー等が挙げられる。洗浄としては、例えば、分離膜を用いたろ過洗浄法や透析法、デンドリマーの溶液または分散液を得るために用いた溶媒とこの溶媒とは混和しない溶媒との組合せを用いた液々抽出法等が挙げられる。液々抽出法で用いる溶媒の組み合わせとしては、ジクロロメタン、クロロホルムまたはベンゼン等と水の組合せが挙げられる。ここで用いる水は純水であっても、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア、塩化水素等の電解質を含んでいてもよい。またカラムクロマトグラフィーとしては、例えばシクロデキストリン系充填剤を用いたカラムクロマトグラフィー、逆相系充填剤を用いたカラムクロマトグラフィー、純相系充填剤を用いたカラムクロマトグラフィー等が挙げられる。シクロデキストリン系充填剤または逆相系充填剤を用いてカラムクロマトグラフィーを行う場合、溶媒としては水、メタノール、アセトニトリルやこれらの混合溶媒、順相系充填剤を用いてカラムクロマトグラフィーを行う場合、溶媒としては例えば、ヘキサン、ベンゼン、クロロホルムやこれらの混合溶媒等が挙げられる。これらの精製操作は単独でもよいが、2種以上を組み合わせてもよい。
【0035】
また、上記反応において、中間生成物に変換剤を作用させるために用いる溶媒としては、この反応により本発明複合体を製造することができる溶媒であれば、特に制限されないが、例えば、有機溶媒、水、含水有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、例えばヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、トリエチルアミン、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。また、含水有機溶媒としては、水と混和する溶媒と水との混合物であれば特に制限されないが、例えば、水とメタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、トリエチルアミン、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等との混合物が挙げられる。これらの溶媒は1種単独または2種以上を組み合わせてもよい。このときに、デンドリマーとパラジウム化合物の中間生成物を分散または溶解させるために使用する溶媒量については、当該中間生成物が実際に分散または溶解する溶媒量であれば特に制限するものではないが、溶媒中のパラジウムのモル濃度が、1〜500mmol/L、好ましくは10〜100mmol/Lとなるような溶媒量であることが望ましい。また、使用温度条件は0℃から溶媒の沸点まで、好ましくは20〜50℃である。使用する圧力は特に制限するものではないが、操作の簡便性という観点から、大気圧であることが好ましい。また、変換剤を中間生成物に作用させるにあたり、変換剤が水素ガスの場合にはガス状のまま直接導入すればよいが、変換剤が固体または液体の場合には溶媒に希釈または溶解して使用する。このときの溶媒は、変換剤が溶解または混和する溶媒であれば特に制限されないが、例えば、有機溶媒、水、含水有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、例えばヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、トリエチルアミン、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。また、含水有機溶媒としては、水と混和する溶媒と水との混合物であれば特に制限されないが、例えば、水とメタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、トリエチルアミン、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等との混合物が挙げられる。これらの溶媒は1種単独または2種以上を組み合わせてもよい。変換剤を希釈または溶解させるために使用する溶媒量については、当該変換剤が実際に混和または溶解する溶媒量であれば特に制限するものではないが、溶媒中の変換剤のモル濃度が、10〜10,000mmol/L、好ましくは100〜1,000mmol/Lとなるような溶媒量であることが望ましい。また、使用温度条件は0℃から溶媒の沸点まで、好ましくは20〜50℃である。使用する圧力は特に制限するものではないが、操作の簡便性という観点から、大気圧であることが好ましい。
【0036】
以下に、本発明複合体を製造するための好ましい1態様を示す。
トリエトキシベンズアミド修飾C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=6)を0.5〜10mmol/Lとなるようにクロロホルムに溶解する。パラジウム濃度として10〜100mmol/Lのテトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム水溶液を、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム中のパラジウム原子とデンドリマーのモル比(テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム中のパラジウム原子/デンドリマー)が18または36となるように、室温、大気圧下で添加し、攪拌保持した。この溶液に、更に飽和食塩水を加え、分液ロートで水相を分離した。クロロホルム相は硫酸ナトリウムを加えて脱水後、減圧下で濃縮乾固して蒸発乾固物を得た。
この蒸発乾固物をアルゴン雰囲気下で、パラジウム濃度が10〜100mmol/Lとなるような溶媒量のメタノールに溶解させ激しく攪拌しながら、テトラヒドロホウ酸カリウムと蒸発乾固物中のパラジウム原子のモル比(テトラヒドロホウ酸カリウム/テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム中のパラジウム原子)が1.1〜2.2となる量のテトラヒドロホウ酸カリウムを含む水−メタノール混合溶液(7:3、100〜1,000mmol/L)を加えた。30℃で2時間撹拌した後、溶媒を減圧除去し、トリエトキシベンズアミド修飾C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=6)の内部にパラジウムクラスターを生成させ、パラジウムクラスターとデンドリマーの複合体を調製した。この複合体はパラジウム原子数が18のパラジウムクラスターを1つ(テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム中のパラジウム原子とデンドリマーのモル比は18)または2つ(テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム中のパラジウム原子とデンドリマーのモル比は36)含む。
【0037】
斯くして得られる本発明複合体は、触媒として用いることができる。特に本発明複合体は、水素化反応用触媒として用いることが好ましい。本発明複合体を水素化反応用触媒として用いる場合には、複合体をそのまま用いてもよいし、複合体を通常の触媒の担体に担持させたものであってもよい。
【0038】
上記水素化反応用触媒を用いる本発明の水素化方法は、上記水素化反応用触媒の存在下、反応基質に水素を接触させることにより行われる。
【0039】
上記水素化方法に用いられる反応基質としては、例えば、水素化が可能な官能基を有する化合物が挙げられ、そのような化合物としては、芳香環結合ハロゲン原子、O−ベンジル基、芳香族ケトン性カルボニル基、N−ベンジルオキシカルボニル基、芳香族ニトリル基、炭素−炭素二重結合、炭素−炭素三重結合、芳香族アルデヒド性カルボニル基、芳香族ニトロ基等の官能基の1種または2種以上、好ましくはスチレン、シクロヘキサジエン等の2つ以上の炭素の共役二重結合(C=C)を有するものが挙げられる。
【0040】
なお、これら反応基質となる化合物には、上記水素化が可能な官能基以外の官能基があっても差し支えない。
【0041】
上記水素化方法は湿式で、即ち、溶媒中で行うことができる。この方法で用いられる溶媒については特に限定されないが、反応基質を溶解するものが好ましい。水溶性の反応基質に対する溶媒としては含水メタノール、含水エタノール、含水アセトニトリル等の含水有機溶媒が好ましく、非水溶性の反応基質に対する溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族類、及び、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類が好ましい。
【0042】
上記水素化方法における反応温度は特に限定するものではないが、室温(20℃)から溶媒の沸点までの温度範囲が好ましい。
【0043】
また、上記水素化方法において水素の存在は必須である。水素は遊離の状態の水素であり、通常、水素ガスとして反応中にあるいは反応に先んじて反応系に供給すればよい。例えば、攪拌下の反応液の上部気相部に供給してもよいし、通気してもよい。水素は例えば窒素等の不活性気体との混合ガスとして供給してもよい。供給された水素の圧力は特に限定するものではないが、水素分圧として0.005MPa〜10MPaが好適であり、0.05〜1MPaが特に好適である。反応終了後は、用いた触媒をろ過等の簡便な方法で生成物を含む溶液から容易に分離することができる。
【0044】
上記水素化反応用触媒を用いる水素化方法は、炭素の共役二重結合を2つ以上、好ましくは 2つ有する化合物を反応基質とし、炭素の共役二重結合を1つ以上、好ましくは1つ有する水素化反応物を得ることができる。具体的に1,3−シクロヘキサジエンを反応基質とすればシクロヘキセンが得られ、α−フェランドレンを反応基質とすればカルボメンテンが得られる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例等を挙げて説明するが、本発明は何らこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0046】
本発明の実施例で使用したC6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=6)は、以下の参考例に記載の通り、ヘキサメチレンジアミンを用いたダイバージェント(divergent)法によって合成した。
【0047】
参 考 例 1
ニトリル基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代1)(k+2l=
6)の調製:
ヘキサメチレンジアミン35.3g(0.304mol)に純水215mlを加えて攪拌し、アクリロニトリルを100ml滴下したのち、80℃で4時間還流した。これを減圧下で濃縮して、未反応のアクリロニトリルを留去した。次にこれから水相を除去し、残った有機相を純水で洗浄した後、有機相を減圧乾燥させて、ニトリル基末端ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代1)(k+2l=6)を得た。このデンドリマーの収量は79.4g(0.4mol)であった。
【0048】
参 考 例 2
アミノ基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代1)(k+2l=
6)の調製:
アルゴン雰囲気下、ラネーコバルト(コバルト48質量%)14.26gを常法により展開したラネーコバルト触媒、水酸化ナトリウム水溶液15ml(400g/l)、ニトリル基末端ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代1)(k+2l=6)5.0g(15mmol)、メタノール60mlをガラス内筒を装備したステンレス製オートクレーブ(オーエムラボテック社製、高圧マイクロリアクター、MMJ−300)に入れ、70℃、水素4MPa下で1時間撹拌して反応液を得た。
【0049】
撹拌後、反応液からラネーコバルト触媒をろ過により除去し、反応液をジクロロメタン80mlで抽出、減圧濃縮した。更に、これを透析膜(SPECTRUM社製、セルロースエステル、MWCO 100D−500D)を用いて脱塩精製し、淡黄色のアミノ基末端ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代1)(k+2l=6)を得た。このデンドリマーの収量は1.14g(3.3mmol)であった。
【0050】
参 考 例 3
ニトリル基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代2)(k+2l=
6)の調製:
参考例1において、ヘキサメチレンジアミン35.3g(0.304mol)の代わりに、アミノ基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代1)(k+2l=6)5.75g(16.7mmol)を用いた以外は参考例1と同様にして、ニトリル基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代2)(k+2l=6)を得た。このデンドリマーの収量は8.43g(11.0mmol)であった。
【0051】
参 考 例 4
アミノ基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代2)(k+2l=
6)の調製:
参考例2において、ニトリル基末端ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代1)(k+2l=6)5.00g(0.015mol)の代わりに、ニトリル基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代2)(k+2l=6)3.43g(4.46mmol)を用いた以外は参考例2と同様にして、アミノ基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代2)(k+2l=6)を得た。このデンドリマーの収量は2.43g(3.03mmol)であった。
【0052】
参 考 例 5
ニトリル基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代3)(k+2l=
6)の調製:
参考例1において、ヘキサメチレンジアミン35.3g(0.304mol)の代わりに、アミノ基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代2)(k+2l=6)2.43g(3.03mmol)を用いた以外は参考例1と同様にして、ニトリル基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代3)(k+2l=6)を得た。このデンドリマーの収量は3.26g(1.98mmol)であった。
【0053】
参 考 例 6
アミノ基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代3)(k+2l=
6)の調製:
参考例2において、ニトリル基末端ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代1)(k+2l=6)5.00g(0.015mol)の代わりに、ニトリル基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代3)(k+2l=6)3.26g(1.98mmol)を用いた以外は参考例2と同様にして、アミノ基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代3)(k+2l=6)を得た。このデンドリマーの収量は3.10g(1.81mmol)であった。
【0054】
参 考 例 7
ニトリル基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代4)(k+2l=
6)の調製:
参考例1において、ヘキサメチレンジアミン35.3g(0.304mol)の代わりに、アミノ基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代3)(k+2l=6)3.10g(1.81mmol)を用いた以外は参考例1と同様にして、ニトリル基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代4)(k+2l=6)を得た。このデンドリマーの収量は3.75g(1.10mmol)であった。
【0055】
参 考 例 8
アミノ基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代4)(k+2l=
6)の調製:
参考例2において、ニトリル基末端ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代1)(k+2l=6)5.00g(0.015mol)の代わりに、ニトリル基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代4)(k+2l=6)3.75g(1.10mmol)を用いた以外は参考例2と同様にして、アミノ基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代2)(k+2l=6)を得た。このデンドリマーの収量は3.35g(0.95mmol)であった。
【0056】
参 考 例 9
ニトリル基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=
6)の調製:
参考例1において、ヘキサメチレンジアミン35.3g(0.304mol)の代わりに、アミノ基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代4)(k+2l=6)3.35g(0.95mmol)を用いた以外は参考例1と同様にして、ニトリル基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代4)(k+2l=6)を得た。このデンドリマーの収量は4.72g(0.68mmol)であった。
【0057】
参 考 例 10
アミノ基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=
6)の調製:
参考例2において、ニトリル基末端ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代1)(k+2l=6)5.00g(0.015mol)の代わりに、ニトリル基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=6)2.00g(0.29mmol)を用いた以外は参考例2と同様にして、アミノ基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代2)(k+2l=6)を得た。このデンドリマーの収量は1.74g(0.24mmol)であった。
【0058】
参 考 例 11
トリエトキシベンズアミド修飾C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5
)(k+2l=6)の調製:
参考例10で得たアミノ基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=6)1.74g(0.24mmol)をテトラヒドロフラン20mLに溶解し、これにトリエチルアミン11.1g(110mmol)、3,4,5−トリエトキシベンゾイルクロリド5.91g(21.7mmol)を5mLのテトラヒドロフランに溶解させた溶液を加えた。この溶液を室温で48時間攪拌保持し、減圧下で濃縮した後、トリエチルアミンとテトラヒドロフランを留去した。これの残渣に水酸化ナトリウム水溶液(40g/L)100mLを加え2時間還流させて、水相と有機相を分離させた。これから水相を取り除いた後、有機相に純水100mLを加えて還流して、再び水相を取り除いた。この操作は中性になるまで繰り返した。最後に残った有機相を真空乾燥して、トリエトキシベンズアミド修飾C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)を得た。このデンドリマーの収量は4.9g(0.22mmol)であった。また、このデンドリマーの構造を図1に示した。
【0059】
参 考 例 12
トリエトキシベンズアミド修飾C4ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5
)(k+2l=4)の調製:
参考例1において、ヘキサメチレンジアミン35.3g(0.304mol)の代わりテトラエチレンジアミン26.8g(0.304mol)を用いて、ニトリル基末端C4ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代1)(k+2l=4)を調製し、これをニトリル基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代1)(k+2l=6)の代わりに用いて、参考例2から参考例10までと同様に操作してアミノ基末端C4ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=4)1.73g(0.24mmol)を得た。これを、C6アミノ基末端ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=6)1.74g(0.24mmol)の代わりに用いた以外は参考例11と同様にして、トリエトキシベンズアミド修飾C4ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=4)を得た。このデンドリマーの収量は4.9g(0.22mmol)であった。また、このデンドリマーの構造を図2に示した。
【0060】
参 考 例 13
トリエトキシベンズアミド修飾C2ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5
)(k+2l=2)の調製:
参考例1において、ヘキサメチレンジアミン35.3g(0.304mol)の代わりエチレンジアミン18.3g(0.304mol)を用いて、ニトリル基末端C2ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代1)(k+2l=2)を調製し、これをニトリル基末端C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代1)(k+2l=6)の代わりに用いて、参考例2から参考例10までと同様に操作してアミノ基末端C2ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=2)1.73g(0.24mmol)を得た。これを、C6アミノ基末端ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=6)1.74g(0.24mmol)の代わりに用いた以外は参考例11と同様にして、トリエトキシベンズアミド修飾C2ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=2)を得た。このデンドリマーの収量は4.9g(0.22mmol)であった。また、このデンドリマーの構造を図3に示した。
【0061】
実 施 例 1
パラジウムクラスターとデンドリマーの複合体の調製:
参考例11で得たトリエトキシベンズアミド修飾C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=6)55.7mg(2.5μmol)をクロロホルム3.8mlに溶解した。テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム13mg(パラジウムとして45μmol:テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム中のパラジウム原子/デンドリマーのモル比は18)を含む2mlの水溶液を添加し、攪拌保持した。この溶液に、更に飽和食塩水2mlを加え、分液ロートで水相を分離した。クロロホルム相は硫酸ナトリウムを加えて脱水後、減圧下で濃縮乾固して蒸発乾固物を得た。
【0062】
この蒸発乾固物をアルゴン雰囲気下で、2mlのメタノールに溶解させ激しく攪拌しながら4.8mg(90μmol:変換剤/テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム中のパラジウム原子のモル比は2)のテトラヒドロホウ酸カリウムを含む水−メタノール混合溶液(7:3、0.13mL)を加えた。30℃で2時間撹拌した後、溶媒を減圧除去し、トリエトキシベンズアミド修飾C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=6)の内部にパラジウムクラスターを生成させ、パラジウムクラスターとデンドリマーの複合体を調製した。この粒子をHR−TEMで観察して直径を測定しようとしたが小さすぎて測定不能であった。そこで、SPring−8の放射光でパラジウムK端EXAFS測定したところパラジウムクラスターの原子数は18であった。
【0063】
また、参考例11で得たトリエトキシベンズアミド修飾C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=6)と、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウムの量を、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム中のパラジウム原子/デンドリマーのモル比が20.0、24.0、28.0、32.0または36.0となるようにする以外は、上記と同様にパラジウムクラスターとデンドリマーの複合体を調製した。これらの複合体ではパラジウム原子数が18のパラジウムクラスターが少なくとも1つ、最大で2つ(テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム中のパラジウム原子/デンドリマーのモル比は36.0)生成されていた。
【0064】
比 較 例 1
パラジウムクラスターとデンドリマーの複合体の調製(1):
実施例1においてトリエトキシベンズアミド修飾C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=6)を、参考例12で得たデンドリマー(k+2l=4)に代えて、更に、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム中のパラジウム原子とデンドリマーのモル比を変えて得られるパラジウムクラスターとデンドリマーの複合体を調製した。これらの複合体ではパラジウム原子数が16のパラジウムクラスターが少なくとも1つ、最大で2つ(テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム中のパラジウム原子/デンドリマーのモル比は32.0)生成されていた。
【0065】
比 較 例 2
パラジウムクラスターとデンドリマーの複合体の調製(2):
実施例1においてトリエトキシベンズアミド修飾C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=6)を、参考例13で得たデンドリマー(k+2l=2)に代えて、更に、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム中のパラジウム原子とデンドリマーのモル比を変えて得られるパラジウムクラスターとデンドリマーの複合体を調製した。これらの複合体ではパラジウム原子数が12のパラジウムクラスターが少なくとも1つ、最大で2つ(テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム中のパラジウム原子/デンドリマーのモル比は24.0)生成されていた。
【0066】
実 施 例 2
パラジウムクラスターとデンドリマーの複合体を触媒とする1,3−シクロヘキサジ
エンの水素化:
実施例1で得たトリエトキシベンズアミド修飾C6ポリ(プロピレンイミン)デンドリマー(世代5)(k+2l=6)とパラジウムクラスターの複合体を、パラジウムとして1.25μmolとなる量、溶媒としてトルエンを2ml、基質として1,3−シクロヘキサジエン40mg(0.5mmol)をシュレンク管へ入れ、30℃で常圧の水素を導入して、水素化反応を行った。生成物をガスクロマトグラフィーによって分析し、単位パラジウム質量当たり・単位時間当たりの水素化触媒活性(TOF)を算出した。
【0067】
また、比較例1および2で得たパラジウムクラスターとデンドリマーの複合体についても同様の実験を行い、各条件でのTOFを算出した。これらの結果を表1に示した。
【0068】
【表1】

【0069】
更に、各条件での単位複合体(デンドリマー単位モル)当たり、単位時間あたりの水素化活性を、最も活性の高かったパラジウム原子とデンドリマーのモル比が36のときの活性を100として算出した。それらの結果を表2に示した。
【0070】
【表2】

【0071】
以上の結果からk+2l≧5の一般式(I)で現されるデンドリマー内にてパラジウムクラスターを生成させると、Pd17より大きいパラジウムクラスターが生成し、前記デンドリマー内にPd16以下のパラジウムクラスターが生成された場合と比較して高い水素化活性を与える触媒を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明のパラジウムクラスターとデンドリマーの複合体の製造方法によれば、従来は困難であったPd16より大きいパラジウムクラスターとデンドリマーの複合体の製造が可能となるため、電子材料、センサー等への応用が期待できる。
【0073】
また、本発明のパラジウムクラスターとデンドリマーの複合体を水素化触媒として用いると、従来公知のパラジウムクラスターとデンドリマーからなる複合体と比較して、高い水素化活性にて水素化することができ、水素化触媒および水素化方法として非常に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるデンドリマー
【化1】

(式中、Aは水素原子または酸素原子、kは0〜1の整数、lは2〜4の整数但しk+
2l≧5、mは2〜4の整数、nは1〜2の整数、R、R、R、R、及び
は同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素、炭素数1〜3のアルキル基
及び炭素数1〜3のアルコキシ基からなる群から選択されるいずれかを表す。)
の内部にパラジウムクラスターを含むことを特徴とするパラジウムクラスターとデンドリマーの複合体。
【請求項2】
パラジウムクラスターを1つ以上含み、それらのパラジウムクラスターの少なくとも1つのパラジウム原子数が17以上である請求項1記載のパラジウムクラスターとデンドリマーの複合体。
【請求項3】
下記一般式(I)で表されるデンドリマー
【化2】

(式中、A、k、l、m、n、R、R、R、R、及びRは前記と同じ意味を表す。)
の内部に、パラジウムクラスターを生成させることを特徴とする請求項1または2記載のパラジウムクラスターとデンドリマーの複合体の製造方法。
【請求項4】
パラジウムクラスターの生成を、パラジウム化合物原料に、パラジウム化合物原料をパラジウムクラスターに変換する変換剤を作用させることによって行う請求項3記載のパラジウムクラスターとデンドリマーの複合体の製造方法。
【請求項5】
パラジウムクラスターの生成を、前記一般式(I)で表されるデンドリマーの存在下で行う請求項3または4記載のパラジウムクラスターとデンドリマーの複合体の製造方法。
【請求項6】
パラジウム化合物原料を分解する変換剤とパラジウム化合物原料中のパラジウム原子のモル比(パラジウム化合物原料を分解する変換剤/パラジウム化合物原料中のパラジウム原子)が1.0〜10である請求項4記載のパラジウムクラスターとデンドリマーの複合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2記載のパラジウムクラスターとデンドリマーの複合体を有効成分とする水素化反応用触媒。
【請求項8】
請求項7記載の水素化反応用触媒を用いる水素化方法。
【請求項9】
反応基質が2つ以上の炭素の共役二重結合を有する化合物である請求項8記載の水素化方法。
【請求項10】
請求項9記載の水素化方法によって得られ、1つ以上の炭素の共役二重結合を有する水素化反応物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−36123(P2012−36123A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177131(P2010−177131)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月12日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第90春季年会 2010年 講演予稿集▼3▲」に発表
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000228198)エヌ・イーケムキャット株式会社 (87)
【Fターム(参考)】