説明

パラジクロロベンゼンの製造方法

【課題】パラジクロロベンゼンを製造する際に、実装置として稼働するにあたり、高収率で目的物が得られ、かつ安定した運転が可能な方法を提供する。
【解決手段】ベンゼン及びモノクロロベンゼンの少なくとも一方を原料として塩素ガスにより塩素化してパラジクロロベンゼンを製造する方法において、アルミナを主成分とする触媒を内装した複数段を有する反応器に導く。各反応器には塩素ガスを並列に供給し、初段の反応器に前記原料及び塩素ガスを供給し、前段の反応生成物を次段の反応器に供給し、次段以降の反応器には塩素ガスを並列に供給し、最終段の反応生成物からパラジクロロベンゼンを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジクロロベンゼンの製造方法、特にベンゼン(以下「Bz」とも表す)及びモノクロロベンゼン(以下「MCB」とも表す)の少なくとも一方を原料として、アルミナを触媒として、塩素ガスにより塩素化してパラジクロロベンゼン(以下「p−DCB」または「PDCB」とも表す)を製造する方法に関するものである。なお、本明細書において、「アルミナ触媒」は、「アルミナを主成分とする触媒」を示す。
【背景技術】
【0002】
p−DCBは、医薬、農薬の原料として、またそれ自体が殺虫剤、防虫剤として、さらにポリフェニレンサルファイド(PPS)の原料として工業的価値のきわめて高い化合物である。
【0003】
従来、p−DCBは、塩化第二鉄、五塩化アンチモン等のルイス酸を触媒として、ベンゼン及び/またはモノクロロベンゼンを液相塩素化する製造法が知られている。塩化第二鉄は活性が高く、塩素転化率は99.99%以上に達し、副生する塩酸ガス中の未反応塩素は極微量残存する程度である。しかし、目的とするパラ置換体の選択率は触媒単独ではせいぜい60%程度で、助触媒を加えて75%程度まで引き上げている。
【0004】
近年、p−DCBを選択率90%以上のものとして製造する方法として、特許文献1や特許文献2などに示されているように、触媒としてL型ゼオライトを用いる方法が開示されている。しかし、ゼオライト触媒は価格が高く、条件によっては比較的短時間で劣化する等の問題が見られた。
【0005】
特許文献3には、ベンゼン及び/またはモノクロロベンゼンを塩素化してジクロロベンゼンを製造するにあたり、触媒として活性アルミナを使用する方法が開示されている。この方法によって、75%と高いパラ選択性が見られ、塩素転化率も99.8%と高く、また、長時間にわたって触媒の劣化が見られないことが示されている。しかし、特許文献3に開示される方法は、実験室レベルのものであり、実装置として稼働できる程度の具体的なものではないと思われる。また、ベンゼンの塩素化反応は激しい発熱反応であるために、実装置では、温度上昇を適確に抑制し、ある温度範囲に運転を維持することが非常に重要であるが、特許文献3はこの点についての有効な解決手段について教示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭63−12450号公報
【特許文献2】特開2001−213815号公報
【特許文献3】特許第2518095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、p−DCBを製造する際に、実装置として稼働するにあたり、より低コストで、安定した運転が可能な方法を提供することにある。 他の課題は、以下の説明により明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決した本発明は、次のとおりである。
〔請求項1記載の発明〕
ベンゼン及びモノクロロベンゼンの少なくとも一方を原料として塩素ガスにより塩素化してパラジクロロベンゼンを製造する方法において、アルミナを主成分とする触媒を内装した複数段を有する反応器の、各反応器には塩素ガスを並列に供給し、初段の反応器に前記原料及び塩素ガスを供給し、前段の反応生成物を次段の反応器に供給し、次段以降の反応器には塩素ガスを並列に供給し、最終段の反応生成物からパラジクロロベンゼンを得ることを特徴とするパラクロロベンゼンの製造方法。
【0009】
〔請求項2記載の発明〕
ベンゼン及びモノクロロベンゼンの少なくとも一方を原料として塩素ガスにより塩素化してパラジクロロベンゼンを製造する方法において、アルミナを主成分とする触媒を内装した複数段を有する反応器のうち、初段の反応器に前記原料、塩素ガス及び/又は後段の未反応塩素ガスを供給し、前段の反応生成物を次段の反応器に供給し、次段以降の反応器には過剰量の塩素ガスを供給し、最終段の生成反応物からパラジクロロベンゼンを得ることを特徴とするパラジクロロベンゼンの製造方法。
【0010】
〔請求項3記載の発明〕
ベンゼン及びモノクロロベンゼンの少なくとも一方を原料として塩素ガスにより塩素化してパラジクロロベンゼンを製造する方法において、アルミナを主成分とする触媒を内装した複数段を有する反応器のうち、初段の反応器に前記原料、塩素ガスを供給し、前段の反応生成物を未反応原料と生成物に分離し、未反応原料は前段の反応器に戻し、生成物を次段の反応器に供給し、次段以降の反応器には塩素ガスを供給し、最終段の反応生成物からパラジクロロベンゼンを得ることを特徴とするパラジクロロベンゼンの製造方法。
【0011】
〔請求項4記載の発明〕
前記反応器が、前記アルミナを主成分とする触媒を固定床として内装した反応器である請求項1〜3のいずれかに記載のパラジクロロベンゼンの製造方法。
【0012】
〔請求項5記載の発明〕
前記原料及び塩素ガスをダウンフローで流通させる請求項4に記載のパラジクロロベンゼンの製造方法。
【0013】
〔請求項6記載の発明〕
クロロメタン及びクロロエタンの少なくとも一種の冷却媒体を前記反応器の各段に導入し、前記冷却媒体を蒸発させて前記塩素化反応の温度上昇を抑制する請求項1〜5のいずれかに記載のパラジクロロベンゼンの製造方法。
【0014】
〔請求項7記載の発明〕
前記冷却媒体の蒸発ガス分は反応器外で凝縮させ、その凝縮液を前記冷却媒体として再利用する請求項1〜6のいずれかに記載のパラジクロロベンゼンの製造方法。
【0015】
〔請求項8記載の発明〕
ベンゼン及びモノクロロベンゼンの少なくとも一方を原料として塩素ガスにより塩素化してパラジクロロベンゼンを製造する方法において、前記原料及び前記塩素ガスをアルミナを主成分とする触媒をスラリー床として内装した反応器に導くことを特徴とするパラジクロロベンゼンの製造方法。
【0016】
〔請求項9記載の発明〕
前記アルミナが、比表面積の高いナノアルミナである請求項1〜8のいずれかに記載のパラジクロロベンゼンの製造方法。
【0017】
〔請求項10記載の発明〕
前記ナノアルミナが、ナノ粒子ゲル及び/またはナノ粒子ゾルから製造される請求項9記載のパラジクロロベンゼンの製造方法。
【0018】
〔請求項11記載の発明〕
前記塩素化反応を温度40〜130℃、圧力10atm以下で行う請求項1〜10のいずれかに記載のパラジクロロベンゼンの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ベンゼン及び/またはモノクロロベンゼンの塩素化反応が激しい発熱反応であるにもかかわらず、温度上昇を的確に抑制し、かつ実装置として稼働するにあたり、長時間安定した運転が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態のフローシ−トである。
【図2】原料、塩素ガスをアップフロー条件で供給するフローシートである。
【図3】γ−アルミナの電子顕微鏡写真、及び構造概略図である。(A)ハイドロゲルの電子顕微鏡写真、(B)焼成後の電子顕微鏡写真、(C)焼成後の構造概略図、(D)細孔のフラクタル構造。
【図4】本発明の第2の実施形態のフローシートである。
【図5】本発明の第3の実施形態のフローシートである。
【図6】本発明の第4の実施形態のフローシートである。
【図7】γ−アルミナ(ナノ粒子ゲル)、βゼオライト、シリカアルミナを触媒とした系におけるジクロロベンゼン収率、及びパラ選択性を示すグラフである。
【図8】ナノ粒子ゲル、ナノ粒子ゾルのγ−アルミナを触媒とした系におけるジクロロベンゼン収率、及びパラ選択性を示すグラフである。
【図9】γ−アルミナ(ナノ粒子ゲル)を触媒とした系における20時間の反応安定性を示すグラフである。
【図10】従来例(比較例:均一系触媒使用)の反応装置の概要構成図である。
【図11】従来例(均一系触媒使用)での各物質の組成変化グラフである。
【図12】従来例(均一系触媒使用)でのp−DCBの選択性のグラフである。
【図13】従来例(均一系触媒使用)での塩素化に伴うp−DCB収率のグラフである。
【図14】従来例(均一系触媒使用)での選択性の反応温度の影響を示すグラフである。
【図15】従来例(均一系触媒使用)での選択性の触媒量の影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(発明の基本的な思想)
前述のように、塩化第二鉄などの均一系触媒では、p−DCBの選択性が低いばかりでなく、触媒の分離回収の装置的な負担が大きくなる。本発明ではアルミナ触媒を使用することで、p−DCBの選択性を高め、また固体触媒を使用することにより、再利用を可能とした。
【0022】
また、前述のように、塩素化反応は、激しい発熱反応である。ちなみに、除熱しないと、400〜500℃に簡単に昇温してしまう。したがって、温度上昇を適確に抑制し、ある温度範囲に運転を維持することが必要である。温度が低すぎると粘性が高くなり、圧損が増加する。逆に高温の場合、塩素溶解律速となり反応は抑制される。また、ベンゼンの沸点は80.1℃であり、当然ベンゼンが蒸発する条件では反応は抑制される。適正な反応温度(反応速度)を維持できるように反応圧を決定する必要もある。
【0023】
発熱反応を抑制する方法として、ジャケットやコイルなど反応器に冷却部を備える方法、多量の溶剤を用いることにより温度上昇を抑制する方法(溶剤の候補としては、1.2ジクロロエタンやMCBが考えられる。)、及び冷却部と溶剤の併用による方法などが考えられ、当然にこれらの方法を使用することも可能である。しかし、好適な反応条件(40〜130℃、10atm以下)では、気液混相状態となるが、反応部−金属部−冷却部の全体の伝熱速度は、気相容積が液相容積に圧倒的に勝るため反応部での伝熱速度が支配的となり、総括伝熱係数は10〜30kcal/m2hr℃程度にしかならず、この条件では巨大な伝熱面積が必要となり、反応器として具体化することが困難となる。
【0024】
そこで、本発明では、より好適な条件として、冷却溶媒の蒸発潜熱を利用した直接冷却方式を提案するものである。これは反応条件と同じ程度の沸点をもつ化合物を反応系に存在させることにより、その化合物が蒸発することに伴う蒸発潜熱をその化合物に移行させ、発生する巨大な反応熱を吸収することが可能となる。
【0025】
蒸発した化合物は凝縮して再利用すればよく、凝縮の際は、総括伝熱係数600〜1100kcal/m2hr℃を確保できるシェルアンドチューブなどの、汎用の外部熱交換器を用いることが可能である。
【0026】
このような直接冷却媒体に利用できる化合物は反応しないことが条件となり、p−DCB合成の塩素化反応に適するのは、ジクロロメタン(Tb 40.2℃)、トリクロロメタン(Tb61.1℃)、テトラクロロメタン(Tb76.8℃)、1.1−ジクロロエタン(Tb57.℃),1.1.1−トリクロロエタン(Tb73.9℃)などのクロロメタン類、クロロエタン類である。望ましい反応温度と、ベンゼンと直接冷却媒体の沸点を考慮して適した圧力条件を選定することにより安定した温度管理が可能となる。
【0027】
以下に説明するプロセスでは、常圧沸点61℃をもつトリクロロメタン(別名、クロロホルム)を採用した例をもって説明するが、前記の他のクロロメタン類やクロロエタン類の使用も可能であり、また、これらは複数使用できることも確認済みである。
【0028】
ところで、本発明は、ベンゼン及び/またはクロロベンゼン及び塩素ガスを使用するとともに、前記直接冷却媒体(以下の例ではクロロホルム)を使用する。これを整理すると次記のとおりである。
1)原料及び原料不純物:ベンゼン、クロロベンゼン、塩素
2)溶剤・溶液及びその不純物:クロロホルム、水
3)反応生成物:モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、塩化水素
以上の成分を考慮して、適宜の分離手段を組み合わせて、目的にパラジクロロベンゼンを得る。
【0029】
反応式の一例を示すと、次記のとおりである。
Bz(C66)→MCB(C65Cl)→PDCB、MDCB、ODCB(p−C64Cl2、o−C64Cl2、m−C64Cl2→ TCB(C63Cl3
PDCB合成反応システム:
66 +Cl2 → C65Cl+HCl (1)
65Cl +Cl2 → p−C64Cl2+HCl (2)
65Cl +Cl2 → o−C64Cl2+HCl (3)
65Cl +Cl2 → m−C64Cl2+HCl (4)
p−C64Cl2+Cl2 → C63Cl3+HCl (5)
o−C64Cl2+Cl2 → C63Cl3+HCl (6)
63Cl3 +Cl2 → C62Cl4+HCl (7)
【0030】
好ましくない副反応である塩素付加反応の一例を示すと次記のとおりである。
ベンゼンの塩素付加反応によるテトラクロロシクロヘキセン及びベンゼンヘキサクロライドの生成:
66 + 2Cl2 → C66Cl4 (8)
66 + 3Cl2 → C66Cl6 (9)
好ましくない副反応により生成するテトラクロロシクロヘキセン及びベンゼンヘキサクロライドは触媒の被毒物質となる可能性があり、触媒の劣化につながる可能性が懸念される。
【0031】
また本反応では微量の水分がアルミナ触媒でのイオン反応の発現に必要と考えられる。ただし必要以上の水分は装置の腐食を引き起こし、また反応に関しても反応性の低下、及び副生成物生成の可能性がある。従って原料中の水分は適宜調整されることが望ましい。
【0032】
(アルミナ触媒の好適な形態)
本発明では、アルミナを含む触媒を使用する。アルミナ(Al23)は、その結晶形態から、主にα型、γ型、δ型、θ型に分けられる。このうちγ−アルミナは、高い比表面積を有し、触媒または触媒担体として多用されている。活性アルミナといわれる触媒活性その他の活性を有するアルミナの多くは、γ−アルミナを主成分としている。安定相のα型アルミナは、γ型を1000℃以上に熱して焼結させることで生成され、おもにセラミックス材料として広く使用されている。δ型、θ型は、γ型を焼結させα型に変換する過程で生じる中間体である。
【0033】
図3にγ−アルミナのナノ粒子の電子顕微鏡写真、及び構造概略図を示す。図3(A)が中和沈殿で生成したゲルの状態を表しており、図3(B)が乾燥550℃焼成後のγ−アルミナ粒子である。図3(C)に示すように、γ−アルミナ粒子はナノオーダーの階段状の形状をしており、またそのようなγ−アルミナ粒子の間隙として形成される細孔も図3(D)のようにナノオーダーの凹凸が多いフラクタル構造になっているため、比表面積は大きく、反応活性も高い。
【0034】
α型、δ型、θ型のアルミナは、γ−アルミナを高温で相転移させることによって形成され、その際に比表面積は著しく低下する。したがって、これらのアルミナにおいては、γ−アルミナのような高い触媒活性は有さないとされる。したがって、本発明に使用するアルミナ触媒としては、比表面積、触媒活性の高いγ−アルミナの使用が好ましい。なお、γ−アルミナは、ナノ粒子ゲル、ナノ粒子ゾル、いずれの形態からでも好適に製造できるが、固定床として使用する際には、ナノ粒子からの製造がより好ましい。
【0035】
(反応装置の概要)
本発明において、アルミナ触媒は、反応器内に内装される。アルミナ触媒は長時間安定な触媒ではあるものの、反応器は触媒の劣化に備えて多段 (最低 2段)にし、交換的に使用する。アルミナ触媒は、固定床として使用し、原料及び塩素ガスを流通させてもよく、またスラリー床として使用してもよい(図6)。スラリー床は、反応生成物、未反応成分と触媒の分離が必要となり操作が煩雑となる反面、反応器内の攪拌によって温度上昇を抑制できることから、後述の溶媒による除熱を必要とせず、ジャケットによる水冷のみで十分な温度上昇抑制が可能となるため、好適に使用することができる。
【0036】
触媒を固定床として使用する場合、前記原料、塩素ガスは、アップフローで流通させることも可能であるが(図2)、ダウンフローでの流通がより好ましい(図1)。アップフローで流通させると、反応器内が液の連続相となるために、溶液への塩素ガスの溶解が律速となることや、液中反応生成物の逆混合が起こるという問題が残るが、ダウンフローにすることにより、反応器内をガスの連続相とすることで前記の問題を解決することが可能である。
【0037】
この場合、塩素ガス中心とするガス相の分散と液相均一流れを確保し、逆混合を排除するようにするのが望ましい。採用する反応器径によりガス液混相流のフローパターンが変化する。採用すべきフローパターンは、脈動流(Pulsing and Foaming Flow)か、潅液流(Gas−continuous or Tricking Flow)であるが、望ましくは潅液流である。脈動流とは液ホ−ルドアップの大きい個所と小さな個所が交互にながれる状態であり、潅液流は液体が触媒粒子上を重力によって膜状に流下し、その空間をガスが連続相となって流れる状態である。ガス液混相流の流速が大きくなるにしたがって、フローパターンは脈動流から潅液流に変化する。
【0038】
また、反応器固定床の段数は複数段を有し、好適には3段を有する。固体触媒の劣化は多くの場合、劣化原因物質の入口部からの流入による活性点の消失がある。これに対する対策としては、各固定床を独立槽3基をシリーズで接続し、劣化したら接続を入れ替えてサイクリックに運用する方式とできる。クロロホルムの添加量も多段にすることにより使いまわしが可能となり、系内循環のクロロホルム量を抑制できる。
【0039】
反応温度としては、温度が低すぎると粘性が高くなり、圧損が増加する。逆に高温の場合、塩素溶解律速となり反応は抑制される。したがって、反応温度としては、40〜130℃、より好ましくは、55〜90℃である。
【0040】
反応後、断熱蒸発したクロロホルム及び反応生成物を回収して次段で再利用するために冷却することとなる。クロロホルムの凝縮冷却のためには、シェルアンドチューブなどの、汎用の外部熱交換器を用いることができる。
【0041】
PDCBも気化するがPDCBの融点は53℃であるため、PDCBが単独で凝縮するような環境では53℃以下にできない。しかし、クロロホルムはPDCBに対して溶剤として働くのでクロロホルムが存在すれば、常温近辺でもPDCBの析出は起きないことを実験的に確認している。40℃以下まで下げることは不可能ではない。
【0042】
直接冷却媒体のトリクロロメタン(クロロホルム)は塩素と反応しテトラクロロメタンに転化する。その結果、テトラクロロメタンがトリクロロメタン循環系に蓄積することがないように、テトラクロロメタンをトリクロロメタンより分離して系外に除去するのが望ましい。
【0043】
次に、プロセス構築に望ましい操作について補足的に説明する。
反応器での反応生成物中には、副生物(炭化水素化合物)及び塩化水素が含まれている。塩化水素の沸点は−85℃であり、極めて液体回収が難しいので、水溶液として回収する。回収する塩化水素濃度はできるだけ高い方が望ましいが、35%HCl程度ならば容易に回収できる。
【0044】
すなわち、反応器での反応生成物を塩化水素除去塔に送り、塩化水素除去塔の塔頂から塩化水素及びこれに同伴する炭化水素化合物を分離し、塩化水素及びこれに同伴する少量の炭化水素化合物を冷却塔に送り、この冷却塔内に、付属のコンデンサで冷却した水相分を塔内に散布して冷却することにより、冷却塔底で水相と炭化水素化合物に分離するようにし、その分離した水相分として35%HCl水溶液を得る。分離した炭化水素化合物については、後段の分離塔により水と炭化水素化合物とに分離し、炭化水素化合物については、再利用する。
【0045】
塩化水素除去塔の塔底に集まる反応生成物については、その後に、TCB、m−DCB、o−DCBを除去しながら、目的のp−DCBを晶析させて製品化することができる。
また、系内の液はプロセス内の適宜の位置に返送して再利用することができる。
【0046】
(第1の実施形態)
次に、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の好適な実施の形態を示す。
10は反応器であり、実施の形態では3段構成である。原料たるベンゼン1は、必要により図示しない水分除去手段により予め水分が除去された後に、第1段の反応器10の塔頂から供給される。
塩素ガス2は、各段の反応器10、10、10に並列にそれらの塔頂から供給される。各反応器10、10、10にはコンデンサ12、12、12が付設されている。クロロホルム(冷却媒体)3は、貯蔵タンクから、混合器14に送られ、ポンプ16により、第1段の反応器10にその塔頂から供給される。また、詳細は図示していない処理フローの後工程で回収された回収クロロホルム3Aがベンゼン1と共に、第1段の反応器10の塔頂から供給されるようになっている。また、前記混合器14には、同じく詳細は図示していない処理フローの後工程で回収された回収クロロホルム3Bが供給される。
各反応器10、10、10内にはアルミナ触媒18(成型体)が固定床として内装されており、原料(ベンゼン)、塩素ガスがダウンフローで流通するようになっている。反応器10周壁には冷却用ジャケット11が設けられ、水などの冷却媒体によって冷却されるようになっている。
【0047】
反応生成物は、順次ポンプ20、20により次段の反応器10、10に導かれる。反応器10内で蒸発成分は、コンデンサ12、12、12により凝縮された後、次段の反応器10、10及び混合器14に送られる。凝縮しなかった少量の反応生成物の一部は、冷却塔24に送られる。
【0048】
最終段の反応器10の塔底成分は、塩化水素除去塔22に送られ、下部加熱により、塩化水素除去塔22の塔頂から塩化水素及びこれに同伴する炭化水素化合物を分離し、これを冷却塔24に送り、この冷却塔24内に、付属のコンデンサ26で冷却した水相分を、ポンプ28により塔内に散布して冷却することにより、冷却塔24において水相と炭化水素化合物に分離するようにし、その分離した水相分として35%HCl水溶液を得る。冷却塔24の塔底の下部に設けられた沈殿槽30に集めた炭化水素化合物については、後段の分離塔(図示せず)により水と炭化水素化合物とに分離し、炭化水素化合物については再利用する。
【0049】
塩化水素除去塔22の塔底に集まる反応生成物については、その後に、適宜の処理手段を使用して、TCB、m−DCB、o−DCBを除去しながら、目的のp−DCBを晶析させて製品化することができる。なお、符号32は減圧ポンプである。
【0050】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態を示す。
反応器10は3段構成である。原料たるベンゼン1は、必要により図示しない水分除去手段により予め水分が除去された後に、第1段の反応器10の塔頂から供給される。
塩素ガス2は、最終段の反応器10の塔頂から過剰量が供給される。各反応器10、10、10内にはアルミナ触媒18(成形体)が固定床として内装されており、原料(ベンゼン)、塩素ガス及び冷却媒体がダウンフローで流通するようになっている。反応器10周壁には冷却用ジャケット11が設けられ、水などの冷却媒体によって冷却されるようになっている。
【0051】
反応生成物は、順次ポンプ20、20により次段の反応器10、10に導かれる。反応器10内で蒸発成分(主に冷却媒体)は、コンデンサ12、12、12により凝縮された後、次段の反応器10、10及び混合器14に送られる。反応器10における未反応塩素ガス及び/または反応により生成した塩化水素は、前段の反応器10の塔頂から供給される。凝縮しなかった少量の反応生成物の一部とクロロホルムは、冷却塔24に送られる。
【0052】
最終段の反応器10の塔底成分、及び冷却塔24に送られた未凝縮の反応生成物とクロロホルムのその後のフローは、第1の実施形態と同様である。
【0053】
(第3の実施形態)
図5は、本発明の第3の実施形態を示す。
反応器10は2段構成である。原料たるベンゼン1は、必要により図示しない水分除去手段により予め水分が除去された後に、第1段の反応器10の塔頂から供給される。
【0054】
塩素ガス2は、各段の反応器10、10に並列にそれらの塔頂から供給される。各反応器10、10にはコンデンサ12、12が付設されている。クロロホルム(冷却媒体)3は、貯蔵タンクから、混合器14に送られ、ポンプ16により、第1段の反応器10にその塔頂から供給される。また、詳細は図示していない処理フローの後工程で回収された回収クロロホルム3Aがベンゼン1と共に、第1段の反応器10の塔頂から供給されるようになっている。また、前記混合器14には、同じく詳細は図示していない処理フローの後工程で回収された回収クロロホルム3Bが供給される。
【0055】
反応生成物は、順次ポンプ20、20により未反応物質分離塔13、13に導かれる。反応器10内で蒸発成分(主に冷却媒体)は、コンデンサ12、12により凝縮された後、次段の反応器10及び混合器14に送られる。凝縮しなかった少量の反応生成物の一部とクロロホルムは、冷却塔24に送られる。
【0056】
未反応物質分離塔13では、下部加熱により、未反応物質分離塔13の塔部から前段の未反応物質及びこれに同伴する塩化水素を分離する。さらに未反応物質分離塔13内での蒸発成分はコンデンサ15により凝縮された後、未反応物質を前段の反応器10に返送する。凝縮しなかった塩化水素及び少量の未反応物質の一部は冷却塔24に送られる。
【0057】
冷却塔24内では、付属のコンデンサ26で冷却した水相分を、ポンプ28により塔内に散布して冷却することにより、冷却塔24において水相とクロロホルム相に分離するようにし、その分離した水相分として35%HCl水溶液を得る。冷却塔24の塔底の下部に設けた沈殿槽30に集めたクロロホルム相については、後段の分離塔(図示せず)により水とクロロホルムとに分離し、クロロホルムについては再利用する。
【0058】
反応器10の最終段からの冷却媒体は、コンデンサ12により冷却した後、混合器14に導き、新クロロホルムの供給用に使用できる。
【0059】
最終段の未反応物質分離塔13の塔底に集まる反応生成物については、その後に、適宜の処理手段を使用して、TCB、m−DCB、o−DCBを除去しながら、目的のp−DCBを晶析させて製品化することができる。
【0060】
(第4の実施形態)
図6は、本発明の好適な実施の形態を示す。
反応器610は3段構成である。原料たるベンゼン1は、必要により図示しない水分除去手段により予め水分が除去された後に、第1段の反応器610へ供給される。
【0061】
塩素ガス2は、各段の反応器610、610、610に供給される。各反応器610、610、610内にはアルミナ触媒618がスラリー床として内装されている。反応器610周壁には冷却用ジャケット611が設けられ、水などの冷却媒体によって冷却されるようになっている。各反応器610、610、610には攪拌機617、617、617が付設されている。
【0062】
反応生成物は、順次ポンプ20、20、20により分離器619、619、619に導かれる。分離器619、619、619では反応生成物とアルミナ触媒とを分離し、分離したアルミナ触媒は前段の反応器610、610、610に返送する。アルミナ触媒を分離した反応生成物は次段の反応器610、610及び塩化水素除去塔22へ供給される。各反応器610、610、610内で発生した塩化水素ガスは次段の反応器610、610または冷却塔24へ送られる。
【0063】
塩化水素除去塔22では、下部加熱により、塩化水素除去塔22の塔頂から塩化水素及びこれに同伴する炭化水素化合物を分離し、これを冷却塔24に送り、この冷却塔24内に、付属のコンデンサ26で冷却した水相分を、ポンプ28により塔内に散布して冷却することにより、冷却塔24において水相と炭化水素化合物に分離するようにし、その分離した水相分として35%HCl水溶液を得る。冷却塔24の塔底の下部に設けた沈殿槽30に集めた炭化水素化合物については、後段の分離塔(図示せず)により水と炭化水素化合物とに分離し、炭化水素化合物については再利用する。
【0064】
塩化水素除去塔22の塔底に集まる反応生成物については、その後に、適宜の処理手段を使用して、TCB、m−DCB、o−DCBを除去しながら、目的のp−DCBを晶析させて製品化することができる。
【実施例】
【0065】
(実施例1,2及び比較例1,2)
γ−アルミナ(ナノ粒子ゲル、実施例1)、γ−アルミナ(ナノ粒子ゾル、実施例2)、βゼオライト(BEA、比較例1)、シリカアルミナ(比較例2)を触媒として反応器に固定床として内装し、図1のフローに従ってベンゼンを原料として塩素ガスにより塩素化してp−DCBを製造した。反応条件を、温度80℃、圧力1.8kg/cm2として、ジクロロベンゼン収率、ジクロロベンゼンのパラ選択性を検討した。
【0066】
実施例1及び比較例1,2の結果を図7に示す。γ−アルミナ(ナノ粒子ゲル)を触媒とした場合、BEAと同等のジクロロベンゼン収率が得られ、さらにBEAより高いパラ選択性を示すことが判明した。アルミナを含む触媒、及び触媒担体として広く使用されるシリカアルミナは、本反応系においては収率が低く、使用に適さない。
【0067】
実施例1,2の結果比較を図8に示す。γ−アルミナは、ナノ粒子ゲル、ナノ粒子ゾル、どちらの形態から製造しても、高い収率、パラ選択性を示すことが判明した。
【0068】
実施例1については、断続的に計20時間の反応を行い、反応安定性を検討した。図9のように、20時間反応後においても、γ−アルミナ(ナノ粒子ゲル)の触媒活性及び反応選択性は劣化していないことが示された。
【0069】
(比較例3)
従来法である均一系触媒塩化第二鉄FeCl3を用いた比較例3を示す。反応装置としては、図10に示すように、ジャケット51及び攪拌機52付き完全混合型反応器50を使用し、これに塩素を供給ブロアから、ベンゼン及びFeCl3を供給し、冷却水ユニット53によりジャケット51を介して冷却しながら反応を行うものである。底部からの反応生成物は冷却後に液貯槽54に、頂部からのガス液成分は冷却後にガス液貯槽55に貯留した。
【0070】
反応条件は、次記のとおりである。
○ 触媒FeCl3濃度:0.0088触媒mol/ベンゼンmol
○ 原料塩素ガス供給速度:0.85mol/ベンゼンmol
○ 反応温度:80℃
【0071】
この反応過程におけるベンゼンの塩素化の生成物変化を反応進行度(塩素化度)であらわすと図11となる。
図11から均一系触媒は反応が逐次及び併発的にも進行していることがわかる。この理由として、均一系触媒は拡散の抵抗がないため、ベンゼンとMono体、あるいはMono体とDi体が同時に反応したためだと考えられる。それ故、反応におけるDi体選択性は最大80%に留まる。
【0072】
DCB収率に伴うDCBの中でのPDCBの選択性の変化を図12、塩素化に伴うPDCB収率の推移を図13に示す。均一系触媒はOrtho−Para配向に立体障害がないため、Para体選択性は図12に示すように60%と低い値である。またDi体選択性は最大80%に留まるため反応におけるPara体最大収率は図13に示すように50%である。
【0073】
標準条件の反応温度80℃から70℃に下げて実験を行った。結果を図14に示す。反応温度を下げても、Para体選択性は変わらないことがわかる。
【0074】
次に、触媒量を0.0181 g−cat/g−Bz (0.0088触媒mol/ベンゼンmol)から約1/20の0.0010 g−cat/g−Bz (0.00049触媒mol/ベンゼンmol)にまで減らした結果、活性は変わらず、図15に示すように一本の曲線で整理され選択性も変わらないことが明らかとなった。
【0075】
以上のように、均一系触媒を使用する限り、p−DCBを高い選択性をもって製造することはできないものであることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、PPSの原料として工業的価値のきわめて高い化合物を連続的に得ることができる。
【符号の説明】
【0077】
1…ベンゼン、2…塩素ガス、10,610…反応器、11,611…ジャケット、12…コンデンサ、13…未反応物質分離塔、18…アルミナ触媒、20…ポンプ、22…塩化水素除去塔、24…冷却塔、26…コンデンサ、28…ポンプ、30…沈殿槽、32…減圧ポンプ、617…攪拌機、619…分離機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゼン及びモノクロロベンゼンの少なくとも一方を原料として塩素ガスにより塩素化してパラジクロロベンゼンを製造する方法において、アルミナを主成分とする触媒を内装した複数段を有する反応器の、各反応器には塩素ガスを並列に供給し、初段の反応器に前記原料及び塩素ガスを供給し、前段の反応生成物を次段の反応器に供給し、次段以降の反応器には塩素ガスを並列に供給し、最終段の反応生成物からパラジクロロベンゼンを得ることを特徴とするパラクロロベンゼンの製造方法。
【請求項2】
ベンゼン及びモノクロロベンゼンの少なくとも一方を原料として塩素ガスにより塩素化してパラジクロロベンゼンを製造する方法において、アルミナを主成分とする触媒を内装した複数段を有する反応器のうち、初段の反応器に前記原料、塩素ガス及び/又は後段の未反応塩素ガスを供給し、前段の反応生成物を次段の反応器に供給し、次段以降の反応器には過剰量の塩素ガスを供給し、最終段の生成反応物からパラジクロロベンゼンを得ることを特徴とするパラジクロロベンゼンの製造方法。
【請求項3】
ベンゼン及びモノクロロベンゼンの少なくとも一方を原料として塩素ガスにより塩素化してパラジクロロベンゼンを製造する方法において、アルミナを主成分とする触媒を内装した複数段を有する反応器のうち、初段の反応器に前記原料、塩素ガスを供給し、前段の反応生成物を未反応原料と生成物に分離し、未反応原料は前段の反応器に戻し、生成物を次段の反応器に供給し、次段以降の反応器には塩素ガスを供給し、最終段の反応生成物からパラジクロロベンゼンを得ることを特徴とするパラジクロロベンゼンの製造方法。
【請求項4】
前記反応器が、前記アルミナを主成分とする触媒を固定床として内装した反応器である請求項1〜3のいずれかに記載のパラジクロロベンゼンの製造方法。
【請求項5】
前記原料及び塩素ガスをダウンフローで流通させる請求項4に記載のパラジクロロベンゼンの製造方法。
【請求項6】
クロロメタン及びクロロエタンの少なくとも一種の冷却媒体を前記反応器の各段に導入し、前記冷却媒体を蒸発させて前記塩素化反応の温度上昇を抑制する請求項1〜5のいずれかに記載のパラジクロロベンゼンの製造方法。
【請求項7】
前記冷却媒体の蒸発ガス分は反応器外で凝縮させ、その凝縮液を前記冷却媒体として再利用する請求項1〜6のいずれかに記載のパラジクロロベンゼンの製造方法。
【請求項8】
ベンゼン及びモノクロロベンゼンの少なくとも一方を原料として塩素ガスにより塩素化してパラジクロロベンゼンを製造する方法において、前記原料及び前記塩素ガスをアルミナを主成分とする触媒をスラリー床として内装した反応器に導くことを特徴とするパラジクロロベンゼンの製造方法。
【請求項9】
前記アルミナが、比表面積の高いナノアルミナである請求項1〜8のいずれかに記載のパラジクロロベンゼンの製造方法。
【請求項10】
前記ナノアルミナが、ナノ粒子ゲル及び/またはナノ粒子ゾルから製造される請求項9記載のパラジクロロベンゼンの製造方法。
【請求項11】
前記塩素化反応を温度40〜130℃、圧力10atm以下で行う請求項1〜10のいずれかに記載のパラジクロロベンゼンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−254582(P2010−254582A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102917(P2009−102917)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000165273)月島機械株式会社 (253)
【Fターム(参考)】