説明

パルス状レーザービームを用い食品材料を加工する方法

【課題】本発明は、パルス状レーザービーム(16)を用いて食品材料(12)を加工する方法に関する。
【解決手段】該方法においては、レーザービームの波長は、近赤外線(IR)の範囲内にあり、レーザービームは、集束レーザースポット(18)を有する。方法は、1〜1000fsの範囲内にあるパルス持続時間を有するレーザーパルスを食品材料に適用するステップを備える。該方法においては、集束レーザースポットが食品材料の表面上にまたは食品材料の本体内にあり、レーザーパルスは、集束レーザースポットの位置において食品材料に空洞を作り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束レーザースポット(a focussed laser spot)を有するパルス状レーザービームを用い食品材料を加工する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ナノセカンド(ns)範囲のパルス持続時間(pulse durations)を有する連続波(CW)またはパルス状レーザービームを用い、チーズ、肉またはパン製品のような食品材料を切断またはスライスすることが知られている。一般に、長波長の赤外線(IR)の範囲(8〜15μm)にある波長を有するCO2レーザーがこの方法に使用される。食品材料の切れ目または穴は、通常、レーザービームの近くの材料の溶融や蒸発または昇華により作り出される。このアプローチに関連する大きな問題の1つは、切断プロセス中にかなりの量の熱が発生し、例えば、食品材料の汚れた切断縁や燃焼のような熱損傷をもたらすことにある。このような結果は、レーザー切断方法が、例えば、チョコレートや菓子類のような低溶融温度を有する、熱に敏感な食品材料に適用される場合、特に問題がある。
【0003】
近年、チーズを紫外線(UV)の波長範囲にある波長(266及び355nm)を有するパルス状レーザービームを用いてスライスする方法が研究されている(非特許文献1参照)。10nsのパルス持続時間及び20Hzの繰り返し数が使用された。このアプローチにおいて、食品材料は、フォトアブレーション(photoablation)により切断される。すなわち、食品材料の最上層はレーザービームの作用により連続して気化し(除去され)、したがって、ビームの位置において切り口(a kerf)を、最終的には切断線を作り出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H.Choi and X. Li 著、“Journal of Food Engineering 75”、2006年、p.90−95
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、確実で精密且つ損傷の全くない、食品材料を加工する方法を提供することにある。この目標は、クレーム1の技術的特徴を有する方法によって達成される。本発明の好ましい実施態様は、従属クレームから得られる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、パルス状レーザービームを用い食品材料を加工する方法を提供する。該方法においては、レーザービームの波長は、近赤外線(IR)範囲内にあり、レーザービームは、集束レーザースポットを有する。方法は、1〜1000fsの範囲内にあるパルス持続時間を有するレーザーパルスを食品材料に適用するステップを備える。該ステップでは、収束レーザースポットは、食品材料の表面上にまたは食品材料の本体内にあり、レーザーパルスは、集束レーザースポットの位置で食品材料に空洞を作り出す。用語「近赤外線(IR)範囲」は、約750〜1400nmの波長範囲を示す。用語「空洞」は、集束レーザースポットの位置に依存する、食品材料の表面または内側に形成される中空の空間または凹部を指している。空洞が形成される領域は、本質的に、集束レーザースポットの位置に制限されるので、レーザーパルスにより作り出される空洞の大きさは、実質的に、レーザースポットの大きさにより決定される。従来の光学技術においては、数ミクロン(μm)または1ミクロン(μm)以下でさえものレーザースポットの大きさが容易に達成され得る。その結果、空洞形成は、非常に小さな領域または容積に制限され得る。さらに、主として、非常に短いパルス持続時間により、しかし、(例えば、紫外線光と比較して)近赤外線範囲にある光の低光子エネルギにより、レーザーパルス中、比較的少量のエネルギしか食品材料に蓄積されず、実質的にレーザースポットの位置の外側に熱が全く発生しない。したがって、空洞は、高度の精密さで、且つ、空洞を取り囲む材料に対し、いかなる熱損傷をも引き起こすことなく食品材料に、作り出される。本発明の方法は、したがって、チョコレート、菓子類、またはアイスクリームのような熱的に敏感な食品材料にも適用され得る。
【0007】
1つの実施態様においては、本発明の方法は、1〜1000fsの範囲にあるパルス持続時間を有する連続するレーザーパルスを食品材料に適用するステップを備え、該ステップにおいて、集束レーザースポットは、食品材料の表面上にまたは食品材料の本体内にあり、レーザーパルスそれぞれは、集束レーザースポットの位置において食品材料に空洞を作り出している。
【0008】
この実施態様に係る方法は、さらに、連続するレーザーパルスを加えている間、食品材料の表面を横切って及び/または食品材料の本体を通って集束レーザースポットの位置を移動させ、それにより、食品材料に連続する空洞を作り出すステップを備えることが好ましい。本明細書においては、レーザースポットの移動は、例えば、静止している食品材料を横切ってレーザービームを走査させることによって、あるいは、レーザービームを動かさずに、位置決めユニットを用いてレーザースポットの位置に対して食品材料を移動させることによって達成され得る。これらの2つの技術の組み合わせ、すなわち、レーザービーム及び食品材料の2つを同時に移動させることが、また、実行可能である。この実施態様の方法は、例えば、それを燃やすことにより材料に対するいかなる損傷も引き起こすことなく、例えば、その表面に及び/またはその本体の内側に複数の空洞を作り出すことにより、食品材料の外見(texture)及び/または硬さ(consistency)(口当たり)を変えるために用いられ得る。さらに、多くの空洞を有する食品材料の表面を提供することは、食品材料の外観(the appearance)及び/またはつかみ感(the grip feel)を変えるのに用いられ得る。
【0009】
食品材料の連続する空洞は、食品材料が切断される切断線または切断面を画定する。この場合、従来の切断またはスライス技術と異なって、冷凍、乾燥、樹脂またはパラフィン内への埋め込み、または脱灰のような切断前の食品材料のさらなる準備は全く必要とされない。空洞の容積は、本質的に、上述したように、非常に小さくされ得るレーザースポットの大きさにより限定されるので、また、空洞を取り囲んでいる材料には熱損傷が全く生じないので、明確で且つ精密な切断線及び/または切断面が達成され得る。さらに、本発明の方法は、所定の食品材料内に正確に画定された形状と寸法を有する穴や溝を開けるのに用いられ得る。
【0010】
本発明の方法は、さらに、切断線または切断面において、切断された食品材料を切り離すステップを備えることが好ましい。いくつかの実施態様において、(重力は別として)切断された食品材料に作用するさらなる外力がその完全な分離のために必要とされる。高水準の精密さに起因して、本方法は、ミクロン(μm)範囲での正確さを持って、食品材料の制御された分離(切断、スライスなど)を可能とする。さらに、本方法の場合、空洞(または切断線/切断面)の領域の外側で熱損傷が全く誘発されないので、大量の摩擦熱の発生、食品材料への熱損傷の発生のような、従来の切断、スライスまたは粉砕(milling)技術に関連する問題が回避される。このように、砂糖、砂糖代用品または食塩結晶のような小さな食品粒子でさえも、従来技術のように微細な粒子摩擦(かす、屑)を発生させることなく、精密に切断され、成形され得る。食品材料粒子の大きさ、形状及び配列は、ミクロン(μm)規模で、全て同時に制御され、様々な食品加工の可能性を与え得る。その高水準の正確さ及び制御に起因して、本方法は、同一の粒子形状及び/または大きさを有する複数の滑らかに成形された食品粒子、例えば、砂糖、砂糖代用品または食塩結晶を製造するために有利に使用され得る。
【0011】
例えば、本方法は、実質的に、切断領域の外側に熱が全く発生しないので、砂糖にアモルファス層(amorphous layers)の形成を引き起こすことなく、砂糖粒子(または、人工甘味料のような砂糖代用品)を制御可能に切断または粉砕するのに使用され得る。このような方法で砂糖粒子を切断または粉砕することは、種々の利点を提供する。第1に、加工された粒子には好ましくない味を発生させる恐れが極めて低い。第2に、明確な粒子形状及び大きさを有する砂糖は、例えば、脂肪分の少ない相(less fat phase)が少なくとも同様の流動性及び口当たりや咀嚼中の味覚の発散(taste release)のような感覚的知覚(sensorial perception)を得るために要求されるので、高濃度の懸濁液、例えば、菓子製品に使用され、材料のカロリー値を減少させ得る。そのような切断されたまたは粉砕された粒子上に分子溶媒層を形成するために必要とされる最小量を上回ることにより、食品の全体的なクリーミイさ(overall creaminess)が制御されるとともに、同時に、脂肪分の追加水準は非常に低く維持される。特に、本方法は、単分子層で完全に覆われた粒子表面を形成するのに必要とされる脂肪分の量を減少させるために、界面張力を操作するように、ざらつきのある表面を有する単一の粒子を製造するのに使用され得る。さらに、製品の全体的な甘さの知覚が外見の設計的特徴により操作され得る。加えて、含水砂糖粒子が精密に制御された方法で切断または粉砕される場合、それらの融点などのような、材料特性が制御可能に変えられ得る。さらに、砂糖または食塩結晶は、立方体のような所望の幾何学的形状を示すように切断または粉砕され得る。そのような精密に切断または粉砕された結晶は、次に、欠点、短所、汚染物質などに関して著しく改善される結晶構造を有するより大きな結晶を成長させるための種晶(seed crystals)として使用され得る。
【0012】
一方、本方法は、また、ナッツ(nuts)、カカオ豆、果物または野菜のようなより大きな大きさの食品材料にも有利に適用され得る。例えば、方法は、ナッツの内側から表面へのナッツ・オイルの移動を阻止するために、皮をむかれたナッツの表面を荒廃化(desolate)させるのに使用され得る。このようにして、ファット・ブルーム(fat bloom)の形成が避けられ、ナッツは、乾ききることが防止され、その保存期間を延ばすことが可能となる。さらに、本方法は、果物やサラダ用の生野菜のような野菜の皮をむいたり、あるいはそれを切断するために使用され得る。例えば、サラダ用生野菜の葉を本発明の方法を用いて切る場合、切断領域の近くのサラダ用生野菜の組織は、切断工程後においても無傷のままであり、それにより、茶色の縁(brown edges)の形成を防ぐ。
【0013】
食品材料の加工される少なくとも一部がレーザービームの波長において光学的に透過性である(transparent)ことが好ましい。
【0014】
この場合、集束レーザースポットは、それが食品材料の本体、すなわち、食品材料の表面下の内側にあるように位置決めされ得る。そのようなアプローチにより、加工される食品材料は、その表面を切断する必要なしにその本体の内側をきれいに切断され得る。例えば、食品材料の表面は変えないで、食品材料の外見及び/または硬さ(例えば、口当たり)を変えるために、複数の空洞が食品材料の内側に形成され得る。さらに、「目に見えない」(すなわち、外側から見えない)破断線または破断面が板チョコ(a chocolate tablet)のような食品材料内に作り出され、所定の破断領域として機能し得る。そのような線は、例えば、あるカロリー値と関連する部分を使用するために、消費者を案内するのに使用され得る。
【0015】
パルス持続時間は、1〜800fsの範囲内にあることが好ましく、1〜400fsの範囲内にあることがより好ましい。適用されるレーザーパルスまたは複数のパルスの持続時間が短ければ短いほど、レーザーパルスあたりの食品材料に蓄積されるエネルギ量は小さくなる。したがって、パルス持続時間の減少は、空洞が食品材料に形成される精密さのさらなる増大を生み出す。これは、熱損傷に対して極端に敏感である食品材料が加工される場合にとって特に有益である。
【0016】
連続するレーザーパルスの繰り返し数は、1〜1000MHzの範囲内にあることが好ましい。このオーダーの繰り返し数は、特に、高速レーザー・スキャナー及び/または位置決め装置と組み合わせて使用されるとき、食品材料の高速加工を可能にさせる。
【0017】
食品材料の空洞(複数の空洞)は、光破断(photodisruption)により作られる。用語「光破断」は、空洞が形成されることになっている材料の領域において光学的破壊(an optical breakdown)を誘発することによって材料に空洞(中空の空間)を作り出すプロセスを意味する。具体的には、集束レーザースポット内の高い光強度(the high light intensity)は、多光子イオン化またはカスケードイオン化(cascade ionisation)のような、非線形効果によってスポット区域内での材料原子のイオン化を引き起こし、したがって、スポット位置においてプラズマ(a plasma)を作り出す。このように発生した自由電子の密度が所定の閾値を越えた場合、光学的破壊が起きる。局部的に作り出されるプラズマは、レーザースポットの区域内の材料に対してそこに蓄積されたエネルギを放出し、それにより、材料は破壊され、空洞が形成される。光破断プロセスは、集束レーザースポットの区域に本質的に限定される非常に局部的なプロセスである。したがって、光破断による空洞(または、切断線/面、穿孔)の形成は、空洞(または、切断線/面、穿孔)を取り囲む材料に対して熱損傷を起こすことがない高度の位置精度を可能にさせる。
【0018】
本発明の方法の1つの実施態様において、食品材料の加工される少なくとも一部は、平坦で且つ滑らかな表面を有する。本明細書では、用語「滑らかな(even)」は、(例えば、20±2μmのふちの長さを有する角砂糖に関しては)わずか4μmの山から谷までの値(凹凸のある面の最も高い面と最も深い面との間の距離)及びわずか2μmのRMS値(二乗平均平方根;表面に関連する平均二乗偏差)のような低い表面粗さを有する平坦な表面を意味する。食品材料のそのような形状は、食品材料の表面であるかそれともその本体の中であるかどちらかにある集束レーザースポットの精密な位置決め及びその正確な大きさに関する正確な制御を可能にさせる。このようにして、凹凸のある、すなわち、きめの粗い食品材料の表面の場合に生じ得る、不均一な光の吸収、反射、回折、または散乱による焦点の低下(deterioration)のような複雑な問題が回避され得る。さらに、液浸油(an immersion oil)のような液体が、表面の谷部または細長い谷部を埋め、それによりさらに表面を平らにするために、加工される食品材料部分の表面に適用され得る。そのような液体は、さらに、加工される食品材料の屈折率に整合し、したがって、光の散乱や反射による損失を最小限に抑えるように、良好な屈折率整合特性を有する。
【0019】
食品材料が加工される少なくとも一部は、材料中にピンホールを全く示すことがなく、及び/または、瑕疵及び/または欠陥が実質的にない表面を有する。食品材料のそのような構成は、加工ステップの制御性及び精度の改良をさらに可能にさせる。
【0020】
本発明の方法により加工される食品材料は、砂糖、シオ、ナッツ、カカオ豆、果物、チョコレート、粉ミルク、サラダ用生野菜またはアイスクリームであることが好ましい。この場合、本方法のたくさんの有益な効果や種々の適用可能性が既に上に説明されてきた。他方、本発明の方法は、これらの材料に限られるものではないが、一般的に、有利なことに、やし殻(cocoa husks)、肉、チーズ、魚または冷凍食品のようなどのような種類の食品材料にも適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】好ましい実施態様に係る方法を適用するために用いられる装置の概略断面図である。
【図2】切断前の食品材料サンプル(氷砂糖)のOCT(光コヒーレンス・トモグラフィー)画像である。
【図3】図1の実施態様に係る方法を用いて切断された後の図2の食品材料サンプルのOCT画像である。
【図4】図1の実施態様に係る方法を用いて切断された後の別の食品材料サンプル(氷砂糖)のOCT画像である。
【図5】図1の実施態様に係る方法を用いて切断された後の別の食品材料サンプル(氷砂糖)のSEM(走査電子顕微鏡法)画像である。
【図6】図5の食品材料のより大きな倍率のSEM画像である。
【図7】図1の実施態様に係る方法を用いて切断された後のさらに別の食品材料サンプル(氷砂糖)のSEM画像である。
【図8】図7の食品材料のより大きな倍率のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の方法に係る限定されない実施例及び実験結果が説明される。
【0023】
図1は、現在のところ好ましい実施態様に係る方法を適用するために用いられる装置の概略断面図を示している。装置は、商業的に入手可能なレーザー・ミクロトーム(a laser microtome)10(Rowiak 社の Laser Microtome LMT F14)及びサンプル・ホルダー14を含んでいる。本実施態様においては、食品材料サンプル12は、氷砂糖の一片(a piece of rock sugar)であって、該サンプル12は、光学的適用の間、サンプル12とホルダー14との間に塗布される液浸油の層を有するサンプル・ホルダー14上に置かれている。図1には示されていない従来のOCT(断層映像法)装置(Thorlabs 社の「スペクトル・レーダー」)が、切断を実行する前と後に、側面から、すなわち、x−z平面に直交する方向(図1参照)において、氷砂糖のサンプル12を映し出すために使用される。画像をとるときに使用されるOCT装置のパラメータは、波長が約930nm、画像速度(an image rate)が1Hz、軸方向(すなわち、x方向の)分解能及び横方向(すなわちz方向の)分解能が4〜6μm、及びが像の大きさが1024×512画素数である。さらに、(図1には示されていない)従来の走査電子顕微鏡がサンプル・ホルダー14の平面に平行な氷砂糖のサンプル表面を映し出すために使用される。レーザー・ミクロトーム10は、約1030nmの波長を有するパルス状レーザービーム16及び集束レーザースポット18を作り出す。氷砂糖のサンプル12は、レーザーのこの波長において光学的に透過性である。切断前に、氷砂糖のサンプル12は、平坦で滑らかなサンプル表面を作り出すために、例えば、目の細かい紙やすりにより磨かれ、切断ステップ中における集束レーザースポットの精密な位置決め及びその大きさの正確な制御を可能とさせる。
【0024】
図3及び4に示される氷砂糖のサンプルは、サンプル12の本体に位置決めされた集束レーザースポット18によりx方向に沿って連続的に切断される(図1参照)。切断プロセス中、レーザースポット18は、レーザー・ミクロトーム10の一部であって、図1には明確に示されていないレーザー・スキャナーを使用することによりサンプル12を横切って移動し、全体に、サンプル・ホルダー14の平面に平行なサンプル平面にある「平坦な」切断線20をもたらす(図1)。原則として、本発明の方法は、全ての種類の異なる切断線または切断面形状を高精度で作り出すのに使用され得る。そのような異なる形状の例、すなわち、「トンネル状の」切断線または切断面(20’、図1参照)が図5〜8を参照して以下に説明されるだろう。氷砂糖サンプル12への空洞の形成は、今後は切断線(切断面)20、20’も、上で詳細に説明されている光破断の物理的プロセスに基づいている。図3及び4に示されている氷砂糖サンプル12を切断するために、レーザーのパルス持続時間は、約350fsであり、繰り返し数は、10MHzであった。切断中のビーム出力は、約1Wであり、切断速度は、約1.5mm/sであった。z方向の切断線20の厚さは、それぞれ、75μm(図3)及び50μmであるように選択された。切断プロセス中、サンプル12には黄色のグロー(a yellow glow)が観察された。それは、食品材料12が光破断により切断されるという事実に基づいて、プラズマの発生に起因する。
【0025】
図2〜4に示されるOCT画像は、図1に示される装置の配置の図と比べると上下逆になっている。その結果、図2〜4の下側が、パルス状レーザービーム16がサンプル12に入る側である。
【0026】
切断前の氷砂糖サンプル12のOCT画像が図2に示されている。サンプル・ホルダー14の表面22と氷砂糖サンプル12の表面24は、明瞭に確認されている。
【0027】
図3は、上で詳細に説明された方法及びパラメータを用いて、図1に示される装置の配置により切断が実行された後における図2の氷砂糖サンプル12のOCT画像を示す。切断線20(厚さ75μm)は、サンプル・ホルダー14の表面22に略平行であるOCT画像の輝線20により明白に示されているように、その表面24のまさに下の氷砂糖サンプル12の本体内に形成されている。図3と図2との比較は、切断線20の下の砂糖材料、すなわち、パルス状レーザービーム16が線20を切断するために通り抜けなければならい材料が、実質的に変化していない、すなわち、切断プロセス中においてこの材料に対して損傷は全く起こらなかった。
【0028】
図4は、切断線の厚さ(ここでは50μm)は別として、図3のそれと同じ配置、方法及びパラメータを用いて切断が実行された後の別の氷砂糖サンプルのOCT画像を示す。図3の場合と同様に、その表面のまさに下の氷砂糖のサンプルの本体内に形成されている切断線20が明瞭に確認され得る(図4の輝線20)。
【0029】
図5〜8は、レーザーパルス持続時間が約400fsであり、パルス繰り返し数が10MHzである図1の実施態様に係る方法を用いて切断された後の2つのさらなる氷砂糖サンプルのSEM(走査電子顕微鏡)画像を示す。使用される装置の配置は、実質的に図1の配置であり、レーザービーム16が下からサンプル・ホルダー14を通ってサンプル上に当てられるという点でのみ異なっている。サンプル・ホルダー14と同様に、切断プロセスに対して使用される波長(1030nm)においてレーザー光に対して透過性であるスライド・ガラスが使用された。
【0030】
上述した通り、図5及び6に示されるサンプルと図7及び8に示されるサンプルは、図3及び4のサンプルとは異なって、すなわち、「トンネル状の」切断線または平面20’で切断された。図1に概略的に示されるように、そのようなトンネル状切断面20’は、サンプル・ホルダー14の面と略平行な水平部分と該水平部分に略直交し、且つ該水平部分に連結する2つの垂直部分とからなる。そのような切断形状を適用することにより、明確な構造が切り取られ、サンプルから取り出され得る。このようにして、立方体または棒状体のような同一の粒度及び/または粒子形状を有する複数の滑らかに成形された食品粒子が、迅速に且つ効率的に作り出され得る。図5〜8は、そのような切断面20’の一連の垂直部分を示す。ここで、これらの垂直部分は、サンプル表面からサンプルの本体内まで30μmの(z方向に沿う、図1参照)深さを有し、互いに平行に配列されている。
【0031】
図5及び7より大きい倍率を有する図6及び8は、垂直切断部分に隣接する、突出しているまたは「張り出している」サンプル部分26の存在を示しており、切断プロセス中に、これらの領域において、材料が、上を覆っているサンプル層を損傷することなく、サンプル表面の下から取り除かれたことを証明し、したがって、水平なトンネル状切断部分の存在を示している。
【0032】
図2〜8から明らかように、本発明の方法は、透過性の食品材料サンプル12の本体の内部で該食品材料サンプル12を、高精度で且つ切断線(面)20、20’ を取り囲む材料またはサンプル12の表面24を損傷することなく切断するために使用され得る。図5〜8は、本方法が、サンプルにおいて、明確な形状を有する一連の切断線及び/または面20’を高精度で作り出すことができることをさらに証明している。したがって、本方法は、例えば、同一の粒度及び/または粒子形状を有する複数の滑らかに成形された食品粒子を効率的に且つ迅速に作り出すのに有益に使用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザービームの波長が近赤外線の範囲内にあり、
レーザービームが集束レーザースポット(18)を有する、
パルス状レーザービーム(16)を用いて食品材料(12)を加工する方法であって、
該方法は、1〜1000fsの範囲内にあるパルス持続時間を有するレーザーパルスを食品材料に適用するステップを備え、
集束レーザースポットは、食品材料の表面上にまたは食品材料の本体内にあり、レーザーパルスは、集束レーザースポットの位置において食品材料内に空洞を作り出すことを特徴とする方法。
【請求項2】
1〜1000fsの範囲内にあるパルス持続時間を有する連続するレーザーパルスを食品材料に適用するステップを備え、レーザーパルスそれぞれは、集束レーザースポットの位置において食品材料内に空洞を作り出すことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
食品材料の表面を横切って及び/または食品材料の本体を通って集束レーザースポットの位置を移動させると同時に、連続するレーザーパルスを適用し、それにより、食品材料に連続する空洞を作り出すステップをさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
食品材料の連続する空洞は、食品材料が切断される切断線(20)または切断面(20’)を画定することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
切断線または切断面において切断された食品材料を切り離すステップをさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
食品材料の加工される少なくとも一部は、レーザービームの波長において光学的に透過性であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
集束レーザースポットは、食品材料の本体内にあることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
破断線または破断面は、食品材料の本体内に作り出されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
パルス持続時間は、1〜800fsの範囲内にあることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
パルス持続時間は、1〜400fsの範囲内にあることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
連続するレーザーパルスの繰り返し数が1〜1000MHzの範囲内にあることを特徴とする請求項2または請求項2に従属する請求項としての請求項3〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
食品材料の空洞は、光破断により作り出されることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
食品材料の加工される少なくとも一部は平坦で且つ滑らかな表面を有することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
食品材料は、砂糖、塩、ナッツ、カカオ豆、果物、チョコレート、粉ミルク、サラダ用生野菜またはアイスクリームであることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
同一の粒子形状及び/または粒度を有する複数の滑らかに成形された食品粒子が作り出されることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−30568(P2011−30568A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−170482(P2010−170482)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(501175214)クラフト・フーヅ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・インコーポレイテッド (56)
【氏名又は名称原語表記】KRAFT FOODS R & D, INC.
【Fターム(参考)】