説明

パルス電場を用いる生体細胞の膜透過化のための方法

【課題】食品製品を低温殺菌するという目的で適用される場合に、所望でない細胞の死亡率を改善できる膜透過化のための新規な方法を開発すること。
【解決手段】製品中に含有される生体細胞の膜透過化のための方法であって、パルス電場を放出する、少なくとも1つの処理チャンバを含む処理デバイスに適用され、次の工程:−生体細胞を含む製品を所定の供給流速で、製品を含む供給ユニットから処理デバイスに供給する工程;−この生体細胞を含む製品を、以下の取り出し工程にて記載される取り出し流速を加えた上述の供給流速に対応する導入流速で処理チャンバ中に導入する工程;−このチャンバに導入された製品をパルス電場で処理する工程;−このチャンバの出口における製品を、このチャンバより上流でこの供給ユニットより下流に再び輸送するために、所定の取り出し流速で取り出す工程を含む、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス電場を用いる生体細胞の膜透過化のための方法に関する。
この方法は、最も詳細には、低温殺菌の分野、すなわち食品製品(例えば、乳、クリーム、ビール、果汁)に、これらの製品に最初に存在する微生物、特に病原菌を破壊することからなる処理をする分野に有用である。
故に、本発明の分野は、生体細胞の膜透過化、および特に低温殺菌による生体細胞の破壊の分野である。
【背景技術】
【0002】
低温殺菌技術は、先行技術において、特に長期間消費可能な状態であるために微生物の存在が極めて低くなければならない長寿命製品の開発に関して、多くの研究の主題となっている。
通常、低温殺菌は、食材の劣化起源である病原性細菌の耐熱閾値を超えるように規定期間にわたって規定温度に食材を加熱し、次いで破壊されていない細菌の増殖を防止するための温度(3〜4℃)にこの加熱された食材を急速冷却することからなる。
こうした通常の原理は、いわゆる「熱処理」の処理分類に属する多くの代替手段の主題となっている。
【0003】
低温殺菌のための熱処理は、次の手段を熱ベクトルとして用いることで構成されてもよい:
−電磁放射線、例えば赤外線放射線、マイクロ波放射線;
−低温殺菌されるべき製品が流れる管中に発生するジュール効果現象を起源とする熱;
−低温殺菌されるべき製品を通過する電流から生じるオーム熱。
熱経路を介して達成される低温殺菌温度は、通常70℃〜85℃の範囲である。しかし、これらの範囲の温度での処理後も、食品向けの製品には適合しない特定の病原性形態、例えば胞子が存続し得る。
【0004】
これらの病原性形態を破壊するために、解決策の1つは、上述の範囲よりも高い温度(例えば90℃を超える温度において)まで食材を加熱することからなってもよい。しかし、高温の使用は、処理された製品の変性、例えば製品中に存在するタンパク質の変性を不可避で伴い、これは多くの場合、製品の味覚特性を喪失させる。
これらの欠点の緩和策を見出すために、いわゆる「低温」方法を用いて製品の元々の味を保存することが提案された。これらの方法は、加熱の使用以外に病原性細菌を除去するための手段を用いることからなり、60℃を超えない温度での食材の処理を可能にする。これらの手段は、イオン化放射線、高圧の使用、パルス光、ガスの使用、例えば二酸化炭素の使用で構成され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
膜透過化方法、および特に低温殺菌方法について既に提案されていることを考慮して、本著者は、特に、食品製品を低温殺菌するという目的で適用される場合に、所望でない細胞の死亡率を改善できる膜透過化のための新規な方法を開発することを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
故に、第1の目的に従う本発明は、製品中に含有される生体細胞の膜透過化のための方法に関し、この方法は、パルス電場を放出する少なくとも1つの処理チャンバを含む処理デバイスに適用され、この方法は次の工程を含む:
−生体細胞を含む製品を所定の供給速度で、この製品を含む供給ユニットから処理デバイスに供給する工程;
−この生体細胞を含む製品を、以下の取り出し工程にて記載される取り出し速度を加えた上述の供給速度に対応する導入速度で処理チャンバ中に導入する工程;
−チャンバに導入された製品をパルス電場で処理する工程;
−チャンバの出口における製品を、チャンバより上流でこの供給ユニットより下流に再び輸送するために、所定の取り出し速度で取り出す工程。
【0007】
本発明の方法は、生体細胞の膜透過化のためのインビトロ方法であり、すなわち動物生命体外にある製品に関して適用される方法であることを理解する。
本発明者らは、驚くべきことに、少なくとも1つの処理チャンバを用いる本発明の方法は、使用される特定エネルギーが同じであっても、上述のような取り出し工程を用いずに上述のチャンバ中に製品を1回以上通過させることを含む方法に比べて、細胞の膜透過化を顕著に増大させる可能性がある(この増大は、細胞の死亡率の点で定量化される)ことに気付いた。
【0008】
本発明によれば、この方法の範囲内で処理される細胞は、原核、真核細胞であってもよく、これらの細胞は、生きていても死んでいてもよく、全体であっても一部であってもよく、動物または植物起源の細胞であってもよい。
特に、これらの細胞は、単細胞または多細胞有機体、例えば細菌(特に、真正細菌)、菌類(特に、カビ、イースト(サッカロマイセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae))のようなもの)、カビ、藻類(特に微細藻類)、ウィルスおよびプリオンから生じてもよい。
これらはまた、細胞内組織体または細胞内部の化合物、例えばミトコンドリア、ウィルス、タンパク質、プリオンであってもよい。
細胞は、栄養期または休眠期(これは胞子、例えば細菌胞子の場合にあてはまり得る)であってもよい。
【0009】
処理されるべき細胞は、食材液体、例えば果汁、野菜ジュース、乳、水であってもよい製品中に含まれる。
さらに、こうした細胞を含む製品は、組織、巨大分子、例えばバイオポリマー、有機または無機分子を含有してもよい。
細胞を含む製品が供されるパルス電場は、こうした細胞を透過化する作用を有する。
理論に束縛されることを意図しないが、細胞を外部電場に曝すことにより、細胞の構成膜の両側において電位差を誘導する。この電場が非常に強い場合(特に、10,000V/cmを超える場合)、細胞の自然電位よりも高い値の膜内外電位差を誘導し得る。膜内外電位差が臨界値に到達したとき、膜の両側において荷電した分子間の静電気現象が、細胞膜に孔を形成し、それによってその透過性を増大させる。細胞膜での孔形成が不可逆性である場合、これが細胞含有物の外側への移動を生じ得るので、細胞が死に至る。
【0010】
本発明によれば、所望の透過化レベルに依存して、パルス電場は、電圧値、パルス数、シグナル形状、この電場により送達される特定エネルギーの観点から、この透過化を得るために必要とされる特徴を有する。
パルス電場は、通常、50ナノ秒から1ミリ秒、例えば1μsの範囲であってもよい期間での放電から通常生じ、5kV/cm〜200kV/cmの範囲のパルス電場ピーク値を生じる電圧を送達する電気パルスの形態で実体化される。電圧は、100V〜100,000Vの範囲であってもよい。
【0011】
電気パルスを用いることによって、ジュール効果により製品が加熱される現象、ひいては製品の温度を最小限にできる(通常50℃未満)。これに関して、製品に存在する構成成分の変性(通常、高温を含む方法の適用の間に見られる変性)を避けることができる。
電気パルスは、電流が電気パルスとして通過可能な電極を含むエンクロージャの形態を有していてもよい処理チャンバ内に送達される。これらの電極は、平面、円形、同軸または共線、回転体であってもよく、または任意の他の好適な幾何学形状を有していてもよい。
【0012】
先に示したように、この方法は、細胞を含む処理されるべき製品を、製品を含む供給ユニットから所定の供給速度にて処理デバイスに供給する工程を含む。
この工程は、通常、処理されるべき製品をそれが含有される槽のような供給ユニットから輸送の際に処理チャンバに連結された供給導管に向かって通過させることからなる。
実施の観点から、処理されるべき製品は、場合により供給ポンプを備えた供給導管を介して、所定の供給速度、例えば0.01L/h〜10,000L/hの範囲の速度、例えば20L/hの流速で供給ユニットから処理デバイスに送りこまれる。
【0013】
次に、本発明の方法は、生体細胞を含む製品を、以下の取り出し工程において記述される取り出し速度が加えられた上述の供給速度に対応する導入速度で処理チャンバに導入する工程を含む。
製品は処理チャンバに導入された後、電気パルスにより実体化されたパルス電場に供され、それが液体中に含有される細胞の透過化を生じる。
電気パルスは、100〜100,000V、例えば10,000〜50,000Vの範囲であってもよいパルスが有利であり、求める生物学的作用に従って所望の透過化を得るために十分なエネルギーが送達される。各パルスによって送達されるエネルギーは、通常0.005J〜500Jを含む。
【0014】
故に、細胞の死を生じる細胞の透過化を得ることが所望される場合、(特に製品の低温殺菌または滅菌の目的で)、処理パラメータ、および特に各体積要素(処理チャンバの体積に対応する)に送達されるパルスの総数は、30MJ/m超過、好ましくは100MJ/m超過の特定エネルギーを製品に送達するように選択される。
細胞の死を得るために、各パルスにて送達されるエネルギーに依存して、および処理チャンバの体積に依存して、各体積要素(処理チャンバの体積に対応する)に送達されるパルスの総数は、特定エネルギーの意図する値を達成するために調節される。このパルス総数は、10〜1,000で構成されてもよい。
【0015】
細胞と周りの媒体との交換を促進するために、細胞の透過化を得ることが望まれる場合、処理チャンバによって放出される電気パルスは、プロセスの全体期間にわたって、20MJ/m未満、例えば1〜20MJ/mの特定エネルギーを製品に送達するために選択されてもよい。パルスの総数は、2〜100で構成されてもよい。
実際は、所望の透過化割合に依存して、当業者が、パルス数、電圧、送達される特定エネルギーの観点から適切な電気パルスの特徴を選択する。
【0016】
各体積要素に適用されるべきパルス数は、いくつかの組に分配されてもよい。
例として、製品を処理するために各体積要素に関して120パルスが必要であると考えられる場合、適用されるパルス総数は、例えば3組、6組または10組に分配されてもよく、各組は、それぞれ40、20、または12パルスの適用を可能にする。
処理チャンバ内部において、製品は、特に液体としてある場合、乱流水圧条件に供されてもよい。この水圧モードは特に有利である。実際、放電中の細胞の透過化は、電極に対面して位置した細胞膜の面において優位に行われる。細胞が電極に対して無秩序運動状態にあって(製品が乱流条件に供される場合)、一連のパルスに供される場合、細胞は、散逸された衝撃を受け、透過化の観点から、処理の効率を増大させることに寄与する。反対に、電極に対して不動の細胞は、集中した衝撃に供され、処理の効率が低下する。
【0017】
本発明の方法に従って処理工程が達成されたら、処理チャンバ中で処理された製品に関して、処理チャンバより下流にて所定の取り出し速度で取り出し工程が行われ、処理チャンバより上流で供給ユニットより下流にこの取り出された製品を再び輸送するようにし、これにより、取り出された製品を再び処理チャンバに導入し、再びパルス電場に供する。
本発明の特定実施形態によれば、取り出し工程は、処理チャンバの下流部分と処理チャンバの上流部分とを連結する少なくとも1つの循環ループによって達成される。処理チャンバの出口において、処理された製品は、チャンバより下流に位置する循環ループの入口を介して取り出され、循環ループの出口を介してチャンバより上流に注入され、この循環ループは、循環導管としてある。
【0018】
取り出し速度は、上述の供給速度以上であってもよい。
有利なことには、取り出し速度は、供給速度超過、例えば2〜100倍高く、好ましくは2〜20倍高い。これにより、各製品画分は、処理チャンバを少なくとも2回通過可能になる。
本発明に従う取り出し工程の適用は次の利点を有する。
これに関して、水圧短絡現象、すなわち処理された細胞集団を全体として見たとき1つの細胞が、この集団の残りよりも素早く処理チャンバを通過する確率を軽減できる。
【0019】
所定の特定エネルギーに関して、本発明に従う取り出し工程を適用することによって、処理チャンバを通過させることによる液体の第1処理、続いて、第1の処理と第2の処理との間に槽で貯蔵された後、同じ処理チャンバでの第2の処理を有する方法に比べて、細胞透過化の点から良好な結果が得られる。
有利なことには、この方法は、取り出し工程の前、すなわち、取り出し工程を介して処理チャンバに再導入される前に、処理された製品を停滞貯蔵するための工程を含まない。
リサイクルループが存在するために、各体積要素に送達されるパルス数が数回送達されるという作用に関連する予測されない作用から、別の利点が得られる。処理チャンバ中の所与の水圧条件に関して、および所与のパルス総数に関して、驚くべきことに、リサイクルループを用いず、ただ1回のパルス総数に処理されるべき製品を供する場合よりも、この総数を数回で分配するのがさらに有利であることが認められた。
【0020】
本発明の別の実施形態によれば、取り出し工程は、いくつかの循環ループを介して行われてもよく、それらの入口は処理チャンバより下流に位置し、それらの出口は処理チャンバより上流に位置する。
いくつかの循環ループを確立するという事実は、上記で規定されるように、細胞が水圧短絡状況に陥る確率を低減できる。
【0021】
本発明の方法はまた、有利なことには、上述の供給速度に対応するのが有利な抽出速度にて処理デバイスから処理された製品を抽出する工程を含む。
抽出工程とは、デバイス中の製品の蓄積を避けるために、製品を処理するためのチャンバより下流のデバイス出口にて抽出することで構成される工程を意味する。抽出され処理された製品は、収集槽にて回収されてもよい。
上述したように、処理デバイスは、少なくとも1つの処理チャンバを含むが、これは複数のチャンバを含有してもよいことを意味する。
この場合、処理チャンバは並列で配置され、工程のサイクル、すなわちそれぞれ上記で説明されたような導入工程、処理工程および取り出し工程が、各処理チャンバで行われてもよい。
【0022】
本発明の方法は、次のものをそれぞれ含む処理デバイスを用いて適用されてもよい:
−処理されるべき製品を供給するユニットであって、例えば処理されるべき製品を含有する槽としてある、ユニット;
−供給導管を介して供給ユニットに連結されたパルス電場を放電する少なくとも1つの処理チャンバ;
−処理チャンバより下流に位置する出口導管;
−少なくとも1つの循環ループであって、その入口が処理チャンバより下流に位置し、出口導管に連結され、その出口が処理チャンバより上流に位置し、供給導管に連結されているループ。
ポンプが、供給導管および循環ループに備え付けられてもよい。
【0023】
本発明の方法は、取り出し工程が単一の循環ループを介して行われる場合、図1に例示されるように、次のそれぞれを含む処理デバイス1から行われてもよい:
−処理されるべき製品を含む供給ユニット2;
−供給ユニットを処理チャンバ5に連結する供給導管3であって、その経路においてポンプ、例えば主ポンプ7および二次ポンプ9を介在させてもよい導管;
−内部にパルス電場が送達される処理チャンバ5;
−処理された液体を受容するための槽11に処理チャンバ5を連結する出口導管10;
−導管として実体化される循環ループ13であって、その入口15が出口導管10において処理チャンバより下流に位置し、その出口17が供給導管3において処理チャンバ5より上流に位置し、このループにより、処理チャンバより下流の処理された製品の少なくとも1つの部分を輸送でき、結果としてこの部分が再びパルス電場に供されるループ。
【0024】
本発明の方法は、取り出し工程がいくつかの循環ループを介して行われる場合、図2に例示されるように、次のそれぞれを含む処理デバイス1から行われてもよい:
−処理されるべき製品を含む供給ユニット2;
−供給ユニット3を処理チャンバ5に連結する供給導管3であって、その経路においてポンプ、例えば主ポンプ7および二次ポンプ9を介在させてもよい導管;
−内部にパルス電場が送達される処理チャンバ5;
−処理された液体を受容するための槽11に処理チャンバ5を連結する出口導管10;
−それぞれ導管として実体化される3つの循環ループ15、17および19であって、それぞれの入口21、23および25は、出口導管10において処理チャンバ5より下流に位置し、それぞれの出口27、29および31は、供給導管3において処理チャンバ5より上流に位置し、これらのループより、処理チャンバより下流の処理された製品の少なくとも1つの部分を輸送でき、結果としてこの部分が再びパルス電場に供され、場合により循環ループ全体に共通してもよくまたは循環ループのそれぞれに独立していてもよいポンプを介するループ。
【0025】
循環ループにおいて、1つ以上の装置、例えば熱交換機、物質交換機(例えば相分離機、運動量交換機(すなわち流体の循環を変更および改善できるデバイス、例えばポンプ、可動性撹拌機、静的撹拌機))を挿入してもよい。
本発明の方法に従って処理されるべき製品は、透過化されるべき生体細胞を含む液体として泥または多細胞有機体、例えば果実の形態であってもよい。
これが液体である場合、これは特に水、液体流出物、下水処理場からの液体泥、果汁、乳、液状卵、ソース、スープ、とろ火で煮込んだ果実およびピューレであってもよい。
これは特に、生体細胞から生じる組織体または分子、例えばミトコンドリア、DNAまたはRNAを含む液体であってもよい。
これらが泥である場合、これらは特に、下水処理場からの泥であってもよい。
【0026】
本発明の方法は、種々の使用、例えば以下のような使用を目的としてもよい:
−液体、例えば水、液体流出物、果汁、乳、液状卵、ソース、スープ、ピューレ、とろ火で煮込んだ果実およびピューレの低温殺菌または滅菌;
−下水処理場からの泥の拡散前または乾燥前の脱水の前に、特定の多細胞有機体および微生物を除去するための、これらの泥の処理;
−外因性分子(例えばDNA、RNA、タンパク質、ウィルス)に対して透過性にすることを目的とした遺伝子工学の分野における生体細胞の処理;
−果汁または脂質抽出物を得るためのその後の圧縮を促進することを目的とした多細胞有機体、例えば果実、藻類における細胞の破壊。
【0027】
本発明の方法は、最も詳細には、液体の低温殺菌または滅菌に適合される。
故に、本発明はまた、以下で定義されるような方法の適用を含む製品の低温殺菌または滅菌方法に関し、そのパルス電場のパラメータは、液体中に存在する生体細胞の膜透過化を得て、それらの死を導くように設定される。
これは、特に、生体細胞として、イースト、例えばサッカロマイセス・セレヴィシエを含む果汁の低温殺菌または滅菌であってもよい。
ここで本発明は、限定としてではなく、例示として与えられる以下の実施例を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の方法を適用可能にする循環ループを含む処理デバイスの例を説明する。
【図2】本発明の方法を適用可能にする3つの循環ループを含む処理デバイスの例を説明する。
【図3】比較例(曲線a)および本発明の実施例(曲線b)に関して、送達される特定エネルギー(MJ/m単位)に対するLog(N/N)を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次の実施例は、一方で本発明の範囲内ではない方法(いわゆる比較例)の適用および本発明に従う方法(いわゆる本発明の実施例)の適用を説明する。
これを行うために、サッカロマイセス・セレヴィシエ・イーストが混入したオレンジジュースが使用される。これらのイーストは、糖および酸が豊富な水溶液で、糖の酸化代謝からCOの放出を生じながら繁殖する傾向があり、この現象のために、製品は消費に不向きになる。
【0030】
第1の段階において、以下の実施例のために、サッカロマイセス・セレヴィシエ・イーストが1ミリリットルあたり10個の量(ゲロースタイプの特定媒体での成長に関する標準方法により計数される)で混入したジュースを得るために、低温殺菌されたオレンジジュース(すなわち、最初にイーストを含まない)に対して、濃縮された接種菌を添加しながら、このジュースの播種を進める。
【0031】
比較例
同じ体積のオレンジジュース(20リットル)を最初に、平面状平行ステンレススチール電極を含む体積5.5cmの処理チャンバを含む処理デバイスを用いて、流速25L/hで処理する。
電極間に送達される電気シグナルは、チャンバ中に存在する液脈によって形成された電気抵抗にコンデンサーが放電することを特徴とする指数関数的低下を伴うシグナルである。電場のピーク値は、最初に約47kV/cmの値に調節され、1パルスあたり約5.5J/パルスのエネルギーを生じる。τ=RCによって定義されるパルスの時間定数τは、約700nsであり、ここでRは電極間の電気抵抗であり、Cは放電コンデンサーのキャパシタンス値である。
【0032】
最初に処理された(n=1処理)ジュースは、カーボイ中に回収され、中間で貯蔵され、それから続いてそれを第1の処理の間と同じ操作条件下で処理システムに再び通すことによって2回目の処理を行う(n=2処理)。
中間の停滞貯蔵に必要な遅延を考慮しない場合は、総処理時間は1時間36分である。
第1の処理の間に各液体単位要素(各要素は処理チャンバの体積に対応する)が供されるパルスの総数(ntotal)(各パルスはコンデンサーの単一の放電に対応する)は、120に等しく、また第2の処理中も120に等しく、最終的なパルス数は240になる。パルスの特徴を以下の表に示す、すなわちピーク電場値46.6kV/cmおよび1立方メートル(1m)に基づく各液体単位要素に送達された特定エネルギー120MJ/m、すなわち両方の処理では240MJ/m
各処理の特徴を以下の表1に示す。
【表1】

【0033】
は、処理されるべき液体の処理数に対応する;
totalは、各液体単位要素(各要素は処理チャンバの体積に対応する)が供されるパルス総数に対応する;
Q(L/h単位)は、液体の供給速度に対応する;
E(kV/cm単位)は、電気パルスそれぞれによって放出される電場のピーク値に対応する;
spec(MJ/m単位)は、1立方メートル(1m)にした各液体単位要素に送達される特定エネルギーに対応する;
LogN/Nは、処理前の微生物の数(N)に対する処理後の微生物の数(N)の比の常用対数(decimal logarithm)に対応する。
【0034】
この表から、各処理の作用は、各処理により10×10のオーダーで微生物の数が減少しているという意味で相加的であることが明らかである。外挿により、3回の処理で微生物の個体数のLogを、360MJ/mの特定エネルギーの消費で6低下させ得ることが考慮される。
【0035】
本発明の実施例
上記の比較例と同じバッチの20Lオレンジジュースを調製する。
このジュースを、処理デバイスに20L/hの量で供給する。
処理デバイスは、5.5cm体積の処理チャンバの出口に配置される循環ループが提供される以外は、上記で議論された比較例の適用に関して使用されたものと同様である。循環ループの特徴は以下である:直径8mmおよび体積50mL。このループ内の循環速度は、360L/hに設定され、これはチャンバへの導入流速が380L/hであることを意味する。
【0036】
異なる試験は以下のように行った:
−同じ体積のジュースを処理する(20L);
−ジュース供給流速を20L/hに設定する一方で、循環ループからの取り出し流速を360L/hに設定する;
−処理期間は1時間である;
−電場のピーク値は、最初は約48kV/cmの値に調節し、上記比較例の値と同程度のパルスあたりのエネルギー約5.8J/パルスを生じさせる;
−各液体単位要素(処理チャンバの体積に対応する)に送達されるパルス総数は、各試験によって異なる決定値を有し、所与の特定エネルギーに対応する。
【0037】
適用される試験の操作パラメータを以下の表2に示す。
【表2】

【0038】
totalは、各液体単位要素(処理チャンバの体積に対応する)に送達されるパルス総数に対応する;
spec(MJ/m単位)は、1立方メートル(1m)にした各液体単位要素に送達される特定エネルギーに対応する;
は、処理前の微生物数に対応する;
Nは、処理後の微生物数に対応する。
【0039】
この表から、2.4Logを超える不活性化が特定エネルギー80MJ/mに関して得られること(一方で比較例の場合は、こうした不活性化を得るためには120MJ/m超過の特定エネルギーが必要であった)、4Logを超える不活性化が特定エネルギー99MJ/mで得られること、および特定エネルギー118MJ/mに関して、6.34Logの不活性化が得られる(一方で特定エネルギー120MJ/mの場合には、2Logオーダーの不活性化だけしか得られなかった)ことが明らかである。
図3は、比較例(曲線a)および本発明の実施例(曲線b)に関して、得られる値についての特定エネルギーW(MJ/m単位)に対するLog(N/N)を説明するグラフを表す。
【0040】
結果として、4Logの不活性化(すなわち処理前より処理後は生存微生物が10,000倍少ない)は、本発明の実施例の範囲内では2.4倍少ないエネルギーで得られ得ることが明らかである。また、同じ特定エネルギー値(この場合は120MJ/m)では、比較例に対して本発明の実施例の範囲内では4Logの利益(gain)が得られることが明らかである。
循環ループを確立することによって、比較例において説明されているように処理されるべき同じ体積のジュースを複数回通過させることによって得られる結果よりも優れた結果を得ることができる。
【0041】
故に、本発明の方法によれば、微生物の復活の危険性を低減しながら投資コストおよび操作コストの両方において、顕著な低減を想定できる。
循環ループを含まない方法に比べて、デッドスペースが最小限になる(すなわち、比較例の場合にあるように、第2の通過前の処理された液体が中間槽において貯蔵される、処理された液体の停滞体積)。
本発明の独創性はまた、この方法の予期できない作用に由来するものであり、ここで循環ループは、混合装置として作用するだけでなく、また水圧条件を増大させるように作用する。
【0042】
以下において、細胞死亡率における差を、同程度の特定エネルギー値に関して比較する。
処理される製品は、先行する製品と同様にイーストが混入したオレンジジュースからなる。この製品を、48kV/cmの電場ピーク値に関して同じ処理チャンバで処理し、パルスあたり5.7Jに等しいエネルギーを生じさせる。不活性化の結果は、100MJ/m(すなわちパルス総数100)の与えられた特定エネルギーに関してもたらされる。
第1の場合、循環ループがなく、20Lの充填、25L/hの供給流速において、図3に例示される曲線の値を外挿することにより、不活性化は1.5Logである。
第2の場合、依然として循環ループを用いず、500Lの充填で、500L/hの供給流速にて、良好な撹拌に等価な良好な流体力学条件から実験値LogN/N=2が得られる。
【0043】
図3を参照すると、20Lの充填、20L/hの供給流速において、循環ループが適用される場合、処理チャンバを通過する総流速が380L/h(ループにおいて360L/hおよび供給から20L/h)では、すなわち水圧条件が500L/hの場合よりわずかに劣る場合に、5の不活性化LogN/Nが得られる。故に、細胞死亡率に対する望ましい作用は、本質的に、水圧条件ではなく、循環ループの通過回数から生じる。
結果を以下の表3に示す。
【表3】

【0044】
いくつかの循環ループ、例えば2または3つの循環ループが提供されてもよい。
上記表2において、118MJ/mの特定エネルギーに関して、単一の循環ループを用いると、水圧短絡に陥る危険性なく、すなわちこの場合、約2*10分の1の通過確率で微生物が見掛け上移動することが認められ得る。第2の循環ループを加える場合、すべてがさらに等しく、微生物の直接通過確率は、約(2*10分の1、すなわち4*1012分の1になる。第3の循環ループを加える場合、微生物の直接通過確率は、約(2*10分の1、すなわち8*1018分の1になる。
故に、通常1ミリリットルあたり10〜10個の微生物量が混入した供給液体から、本発明に従う方法を用いて、微生物が水圧短絡に陥る確率をほぼ取り消すことができ、ひいてはパルス電場によって殺菌された液体が活性化する危険性から保護できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品中に含有される生体細胞の膜透過化のための方法であって、
パルス電場を放出する、少なくとも1つの処理チャンバを含む処理デバイスに適用され、
次の工程:
−生体細胞を含む製品を所定の供給流速で、この製品を含む供給ユニットから処理デバイスに供給する工程;
−この生体細胞を含む製品を、以下の取り出し工程にて記載される取り出し流速を加えた上述の供給流速に対応する導入流速で処理チャンバ中に導入する工程;
−このチャンバに導入された製品をパルス電場で処理する工程;
−このチャンバの出口における製品を、このチャンバより上流でこの供給ユニットより下流に再び輸送するために、所定の取り出し流速で取り出す工程
を含む、方法。
【請求項2】
生体細胞が、原核細胞、真核細胞から選択され、これらの細胞が、生きていても死んでいてもよく、全体であっても一部であってもよく、あるいは動物または植物起源の細胞であってもよい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生体細胞が、細菌、菌類、イースト、カビ、藻類から選択される単細胞または多細胞有機体から生じる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
パルス電場が、50ナノ秒から1ミリ秒の範囲であってもよい期間での放電から生じ、5kV/cm〜200kV/cmの範囲のパルス電場ピーク値を生じる電圧を送達する電気パルスとして実体化される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
製品が、特に液体としてある場合に、乱流水圧条件に供される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
取り出し工程が、処理チャンバの下流部分と、処理チャンバの上流部分とを連結する少なくとも1つの循環ループによって行われる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
取り出し流速が、供給流速より大きい、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
取り出し流速が、供給流速より2〜100倍大きい、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
取り出し流速が、供給流速より2〜20倍大きい、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
取り出し工程の前に処理された製品の停滞貯蔵工程を含まない、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
処理デバイスからの処理された製品を、好ましくは上述の供給流速に対応する抽出流速で抽出する工程をさらに含むのが有利である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
処理されるべき製品が、生体細胞を含む液体、生体細胞を含有する泥または多細胞有機体、例えば果実である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
処理されるべき製品が、生体細胞からの組織体または分子、例えばミトコンドリア、DNA、RNAを含む液体である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
液体が、水、液体流出物、下水処理場からの液体泥、果汁、乳、液状卵、ソース、スープ、とろ火で煮込んだ果実およびピューレから選択される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
除去されるべき生体細胞を含む製品を低温殺菌または滅菌する方法であって、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法を適用する工程を含む方法。
【請求項16】
製品が、生体細胞として、イースト、例えばサッカロマイセス・セレヴィシエを含む果汁である、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−522530(P2012−522530A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503992(P2012−503992)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054511
【国際公開番号】WO2010/115875
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(510097644)コミッサリア ア ロンネルジー アトミック エ オ ゾンネルジー ザルテルナティーフ (33)
【Fターム(参考)】