説明

パワーインテグリティ解析装置及び方法並びにプログラム

【課題】切り欠き等の複雑な形状を含むPDNを、高速に解析することができるパワーインテグリティ解析装置を提供する。
【解決手段】パワーインテグリティ解析装置1は、多層構造の回路基板に含まれる電源層及びグラウンド層の形状とその配置を示す構造情報を入力する構造情報入力部10と、電源層及びグラウンド層を格子状に分割し、対向する2つの単位面によって挟まれた3次元領域を単位セルとして画定する単位セル画定部11と、各単位セルに単位セル等価回路の基本構成を適用し各単位セルの単位面の大きさと単位面間の距離とに基づいて、各単位セルの等価回路を構成する接地キャパシタ及びインダクタの値を決定して各単位セルの等価回路を生成した後、互いに隣接する単位セルの等価回路を連結して全体の等価回路を生成する等価回路生成部13と、所定の位置に電圧を印加したときに他の位置に生じる電圧値を計算するパワーインテグリティ計算部14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板のパワーインテグリティを解析する装置及び方法並びにコンピュータにより実行可能なプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の高速化、低電圧化によって、これらを搭載するパッケージやボードレベルにおけるパワーインテグリティの確保が重要視されている。詳細なパワーインテグリティの検証では、実装基板内の電源分配回路網(PDN:Power Distribution Network;以下、PDNという。)の3次元的なレイアウトを考慮した詳細回路シミュレーションを行う必要がある。実装基板内の電源・グラウンド層が平行平板プレーンと見な単位セル場合、PDNはユニット単位セルを用いて単純なRLC回路網としてモデル化することができる(例えば、非特許文献5参照。)。
【0003】
図13は解析対象の回路基板であって、誘電体基板73の上下に、理想的な平行平板からなる電源導体層(以下、電源層という。)P及びグラウンド導体層(以下、グランド層という。)Gを貼り合わせた回路基板の構造例及びその中の基本セル70の構造を示す斜視図である。この回路基板のパワーインテグリティを解析する際には、図13に示すように、回路基板をM×N個のユニット単位セルに分割し、ユニット単位セル毎に等価回路のモデルを求める。このようにモデル化されたRLC回路網は、LIM(潜在性挿入方法:Latency Insertion Method;以下、LIMという。)に代表されるアルゴリズムを用いることで、効率よく過渡解析できることが報告されている(例えば、非特許文献2〜3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−065765号公報。
【特許文献2】特開2008−177384号公報。
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】L. D. Smith et al., “Power Plane SPICE Models and Simulated Performance for Materials and Geometries”, IEEE Transactions on Advanced Packaging, Vol. 24, No. 3, pp.277-287, August 2001.
【非特許文献2】J. E. Schutt-Aine, “Latency Insertion Method (LIM) for the Fast Transient Simulation of Large Networks,” IEEE Trans, on Circuits and Systems", Vol. 48, No. 1, pp. 81-89, Jan. 2001.
【非特許文献3】Z. Deng et al., “Stability analysis of latency insertion method (LIM)”, in Proceedings of IEEE Topical Meeting on Electrical Performance of Electronic Packaging (EPEP) 2004, pp. 167-170, 2004.
【非特許文献4】T. Watanabe et al., “Parallel-Distributed Time-Domain Circuit Simulation of Power Distribution Networks with Frequency-Dependent Parameters”, in Proceedings of Asia and South Pacific Design Automation Conference (ASP-DAC) 2006, January 2006.
【非特許文献5】T. Watanabe et al., “Fast Transient Simulation of Power Distribution Networks Containing Dispersion Based on Parallel-Distributed Leapfrog Algorithm”, IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics, Communications, Vol. E90-A, No. 2, pp.388-397, February 2007.
【非特許文献6】E. Engin et al., “Multilayered finite-difference method (MFDM) for modeling of package and printed circuit board planes”, IEEE Transactions on EMC, Vol. 27, No. 2. 2007.
【非特許文献7】K. Bharath et al., “Signal and Power Integrity Co-Simulation for Multi-layered System on Package Modules”, in Proceedings of IEEE International Symposium on Electromagnetic Compatibility 2007, pp. 1-6, July 2007.
【非特許文献8】Synopsys Corporation, “HSPICE Simulation and Analysis User Guide”, pp.312, June 2006.
【非特許文献9】丹治裕一ほか,「線形回路シミュレータFALCONのマルチコアCPU上での実装」,電子情報通信学会研究報告,非線形問題研究会,NLP2009−58,pp.77−81,2009年8月。
【非特許文献10】K. Kundert, “SPARSE 1.4”, Internet URL: http://sparse.sourceforge.net/, as published in January 2010.
【非特許文献11】E. A. Ege et al., “Multilayered finite difference method (MFDM) for modeling of package and printed circuit board planes”, IEEE Trans. on EMC, Vol.27, No.2, 2007.
【非特許文献12】渡邉貴之,「3次元構造の等価回路表現とその回路シミュレーションに関する一考察」,電子情報通信学会研究技術報告,非線形問題研究会,NLP2007−102,pp.39−44,2007年11月。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、現実の実装基板における電源・グラウンド層では、多数の切り欠きやホール、スリットが存在しており、理想的な平行平板として見なすことは困難である。このような複雑な形状を含むPDNのモデル化方法として、多層有限差分法(Multilayered finite-difference method;以下、M−FDMという。)が提案されている(例えば、非特許文献11参照。)。
【0007】
一方、LIMが適用できる回路構造には、すべての節点に接地キャパシタを含み、すべての枝にインダクタを含まなければならないという制約があるが、M−FDMによってモデル化された等価回路はこの制約に合致していない。
【0008】
本発明の目的は以上の問題点を解決し、切り欠き等の複雑な形状を含むPDNを、高速に解析することができるパワーインテグリティ解析装置及び方法並びにコンピュータにより実行可能なプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明に係るパワーインテグリティ解析装置は、
少なくとも1つの電源層及び少なくとも1つのグラウンド層を含む多層構造の回路基板の上記電源層及び上記グラウンド層の形状とその配置を示す構造情報を入力する構造情報入力部と、
上記電源層及び上記グラウンド層を格子状に分割し、分割された単位面毎に対向する電源層又はグラウンド層の単位面を上記構造情報に基づいて求め、対向する2つの単位面によって挟まれた3次元領域を単位セルとして画定すると共に各単位セルの位置関係を求める単位セル画定部と、
単位セルの電気的特性を表現した単位セル等価回路の基本構成であって、全節点に接地キャパシタが接続され、全節点間にインダクタが接続された単位セル等価回路を記憶する記憶部と、
上記単位セル画定部にて画定された各単位セルに対して、上記記憶部に記憶された単位セル等価回路の基本構成を適用し、かつ、上記各単位セルの単位面の大きさと単位面間の距離とに基づいて、上記各単位セルの等価回路を構成する接地キャパシタ及びインダクタの値を決定して上記各単位セルの等価回路を生成した後、互いに隣接する単位セルの等価回路を連結することにより、上記回路基板全体の等価回路を生成する等価回路生成部と、
上記回路基板の所定の位置に電圧を印加したときに上記回路基板の他の位置に生じる電圧値を計算して出力するパワーインテグリティ計算部とを備えたパワーインテグリティ解析装置において、
上記等価回路生成部は、
上記回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが変化する位置があるときに、当該厚さが変化する位置である節点が、上記各基本セルを接続する節点に対応するように、上記記憶部に記憶された単位セル等価回路の基本構成を適用して、上記回路基板全体の等価回路を生成し、
上記回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが第1の厚さから、上記第1の厚さよりも大きな第2の厚さに変化する位置があるときに、当該厚さが変化する位置である節点において、上記等価回路を互いに隣接する複数のサブ等価回路に分割して切り離し、一方のサブ等価回路の基本セルに対して当該基本セルの節点から流れる電流と等価な電流を流す電流制御電流源を付加する一方、他方のサブ等価回路の基本セルに対して当該基本セルの節点に印加される電圧と等価な電圧を印加する電圧制御電圧源を付加することにより、互いに隣接する複数のサブ等価回路どうしを関係付け、上記回路基板の等価回路を生成することを特徴とする。
【0010】
上記パワーインテグリティ解析装置において、上記等価回路生成部は、上記回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが第1の厚さから、上記第1の厚さよりも大きな第2の厚さに変化する位置があるときに、上記第2の厚さの部分において電源層が存在して上記厚さが変化しないように仮定したときの仮定電流を仮定し、上記第1の厚さの電源層に流れる電流が当該電源層から上記グランド層に流れる電流と上記仮定電流とに分岐して流れるように仮定するという条件のもとで、上記電流制御電流源及び上記電圧制御電圧源を付加することを特徴とする。
【0011】
また、上記パワーインテグリティ解析装置において、上記等価回路生成部は、上記回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが第1の厚さから、上記第1の厚さよりも大きな第2の厚さに変化する位置があるときに、上記第2の厚さが実質的に上記第1の厚さの2倍の厚さであるとき、上記第2の厚さの部分において電源層が存在して上記厚さが変化せず、上記第1の厚さをそれぞれ有する2つのサブ等価回路に分割するように仮定したとき、各サブ等価回路での回路基板の面に平行な2つの磁界が上記分割しないときの当該磁界に実質的に一致するという条件のもとで、上記電流制御電流源及び上記電圧制御電圧源を付加することを特徴とする。
【0012】
さらに、上記パワーインテグリティ解析装置において、上記等価回路生成部は、互いに隣接する第1の単位セルと第2の単位セルの単位セル等価回路を関係付ける場合に、上記第1の単位セルの単位セル等価回路に、上記第2の単位セルの単位セル等価回路において上記第1の単位セルとの境界に流れ込む電流と等価の電流を与える電流制御電流源を付加し、
上記第2の単位セルの単位セル等価回路に、上記第1の単位セルの単位セル等価回路において上記第2の単位セルとの境界に印加される電圧と等価の電圧を与える電圧制御電圧源を付加することを特徴とする。
【0013】
またさらに、上記パワーインテグリティ解析装置において、上記パワーインテグリティ計算部は、上記回路基板の所定の位置に電圧を印加したときに、上記回路基板全体の等価回路の各節点に印加される電流及び各節点間に流れる電流の値を時間的に交互に計算する潜在性挿入手法(Latency Insertion Method;LIM)を用いて上記回路基板の他の位置に生じる電圧値を計算して出力することを特徴とする。
【0014】
またさらに、上記パワーインテグリティ解析装置において、上記パワーインテグリティ計算部は、上記回路基板の所定の位置に電圧を印加したときに、上記回路基板全体の等価回路の各節点に印加される電流及び各節点間に流れる電流の値を、各電流と各電圧との関係を示す連立方程式を数値積分法を用いて解くことにより計算するシミュレーションプログラム(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis;SPICE)を用いて上記回路基板の他の位置に生じる電圧値を計算して出力することを特徴とする。
【0015】
またさらに、上記パワーインテグリティ解析装置において、上記記憶部は、単位セルの電気的特性を表現した単位セル等価回路の基本構成であって、全節点に接地キャパシタ及び接地コンダクタンスが接続され、全節点間にインダクタ及び抵抗が接続された単位セル等価回路を記憶することを特徴とする。
【0016】
第2の発明に係るパワーインテグリティ解析方法は、
少なくとも1つの電源層及び少なくとも1つのグラウンド層を含む多層構造の回路基板のパワーインテグリティをコンピュータにより解析するパワーインテグリティ解析方法であって、
上記コンピュータは、単位セルの電気的特性を表現した単位セル等価回路の基本構成であって、全節点に接地キャパシタが接続され、全節点間にインダクタが接続された単位セル等価回路を記憶する記憶部を備え、
上記パワーインテグリティ解析方法は、
少なくとも1つの電源層及び少なくとも1つのグラウンド層を含む多層構造の回路基板の上記電源層及び上記グラウンド層の形状とその配置を示す構造情報を入力するステップと、
上記電源層及び上記グラウンド層を格子状に分割し、分割された単位面毎に対向する電源層又はグラウンド層の単位面を上記構造情報に基づいて求め、対向する2つの単位面によって挟まれた3次元領域を単位セルとして画定すると共に各単位セルの位置関係を求めるステップと、
上記単位セル画定部にて画定された各単位セルに対して、上記記憶部に記憶された単位セル等価回路の基本構成を適用し、かつ、上記各単位セルの単位面の大きさと単位面間の距離とに基づいて、上記各単位セルの等価回路を構成する接地キャパシタ及びインダクタの値を決定して上記各単位セルの等価回路を生成した後、互いに隣接する単位セルの等価回路を連結することにより、上記回路基板全体の等価回路を生成するステップと、
上記回路基板の所定の位置に電圧を印加したときに上記回路基板の他の位置に生じる電圧値を計算して出力するステップとを含むパワーインテグリティ解析方法において、
上記等価回路を生成するステップは、
上記回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが変化する位置があるときに、当該厚さが変化する位置である節点が、上記各基本セルを接続する節点に対応するように、上記記憶部に記憶された単位セル等価回路の基本構成を適用して、上記回路基板全体の等価回路を生成し、
上記回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが第1の厚さから、上記第1の厚さよりも大きな第2の厚さに変化する位置があるときに、当該厚さが変化する位置である節点において、上記等価回路を互いに隣接する複数のサブ等価回路に分割して切り離し、一方のサブ等価回路の基本セルに対して当該基本セルの節点から流れる電流と等価な電流を流す電流制御電流源を付加する一方、他方のサブ等価回路の基本セルに対して当該基本セルの節点に印加される電圧と等価な電圧を印加する電圧制御電圧源を付加することにより、互いに隣接する複数のサブ等価回路どうしを関係付け、上記回路基板の等価回路を生成することを特徴とする。
【0017】
上記パワーインテグリティ解析方法において、上記等価回路を生成するステップは、上記回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが第1の厚さから、上記第1の厚さよりも大きな第2の厚さに変化する位置があるときに、上記第2の厚さの部分において電源層が存在して上記厚さが変化しないように仮定したときの仮定電流を仮定し、上記第1の厚さの電源層に流れる電流が当該電源層から上記グランド層に流れる電流と上記仮定電流とに分岐して流れるように仮定するという条件のもとで、上記電流制御電流源及び上記電圧制御電圧源を付加することを特徴とする。
【0018】
また、上記パワーインテグリティ解析方法において、上記等価回路を生成するステップは、上記回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが第1の厚さから、上記第1の厚さよりも大きな第2の厚さに変化する位置があるときに、上記第2の厚さが実質的に上記第1の厚さの2倍の厚さであるとき、上記第2の厚さの部分において電源層が存在して上記厚さが変化せず、上記第1の厚さをそれぞれ有する2つのサブ等価回路に分割するように仮定したとき、各サブ等価回路での回路基板の面に平行な2つの磁界が上記分割しないときの当該磁界に実質的に一致するという条件のもとで、上記電流制御電流源及び上記電圧制御電圧源を付加することを特徴とする。
【0019】
さらに、上記パワーインテグリティ解析方法において、
上記等価回路を生成するステップは、
互いに隣接する第1の単位セルと第2の単位セルの単位セル等価回路を関係付ける場合に、上記第1の単位セルの単位セル等価回路に、上記第2の単位セルの単位セル等価回路において上記第1の単位セルとの境界に流れ込む電流と等価の電流を与える電流制御電流源を付加し、
上記第2の単位セルの単位セル等価回路に、上記第1の単位セルの単位セル等価回路において上記第2の単位セルとの境界に印加される電圧と等価の電圧を与える電圧制御電圧源を付加することを特徴とする。
【0020】
またさらに、上記パワーインテグリティ解析方法において、
上記パワーインテグリティを計算するステップは、上記回路基板の所定の位置に電圧を印加したときに、上記回路基板全体の等価回路の各節点に印加される電流及び各節点間に流れる電流の値を時間的に交互に計算する潜在性挿入手法(Latency Insertion Method;LIM)を用いて上記回路基板の他の位置に生じる電圧値を計算して出力することを特徴とする。
【0021】
またさらに、上記パワーインテグリティ解析方法において、
上記パワーインテグリティを計算するステップは、上記回路基板の所定の位置に電圧を印加したときに、上記回路基板全体の等価回路の各節点に印加される電流及び各節点間に流れる電流の値を、各電流と各電圧との関係を示す連立方程式を数値積分法を用いて解くことにより計算するシミュレーションプログラム(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis;SPICE)を用いて上記回路基板の他の位置に生じる電圧値を計算して出力することを特徴とする。
【0022】
またさらに、上記パワーインテグリティ解析方法において、
上記記憶部は、単位セルの電気的特性を表現した単位セル等価回路の基本構成であって、全節点に接地キャパシタ及び接地コンダクタンスが接続され、全節点間にインダクタ及び抵抗が接続された単位セル等価回路を記憶することを特徴とする。
【0023】
第3の発明に係るコンピュータにより実行可能なプログラムは、上記パワーインテグリティ解析方法の各ステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
従って、本発明に係るパワーインテグリティ解析装置及び方法並びにプログラムによれば、全節点に接地キャパシタが接続され、全節点間にインダクタが接続された回路基板全体の等価回路を生成し、当該全体の等価回路を用いてパワーインテグリティの計算を高速に行うことができる。特に、上記回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが第1の厚さから、上記第1の厚さよりも大きな第2の厚さに変化する位置があるときに、当該厚さが変化する位置である節点において、上記等価回路を互いに隣接する複数のサブ等価回路に分割して切り離し、一方のサブ等価回路の基本セルに対して当該基本セルの節点から流れる電流と等価な電流を流す電流制御電流源を付加する一方、他方のサブ等価回路の基本セルに対して当該基本セルの節点に印加される電圧と等価な電圧を印加する電圧制御電圧源を付加することにより、互いに隣接する複数のサブ等価回路どうしを関係付け、上記回路基板の等価回路を生成することができる。これにより、電源層において切り欠け等があっても、従来技術に比較して高精度でしかも高速で当該回路基板のパワーインテグリティを計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るパワーインテグリティ解析装置の構成を示すブロック図である。
【図2】(a)は解析対象の回路基板の電源層及びグラウンド層を格子状に分割した例を示す斜視図であり、(b)は(a)に示す多層構造の回路基板をB−B方向から見た側面図である。
【図3】(a)は図1のパワーインテグリティ解析装置で用いる単位セルの等価回路30の基本構成を示す回路図であり、(b)は(a)の基本構成を2個縦続接続してなる等価回路30−2の回路図であり、(c)は(a)の基本構成を3個縦続接続してなる等価回路30−3の回路図である。
【図4】図2の回路基板に対して単位セルの等価回路を適用したときの全体の等価回路(3つのサブ回路からなる)を示す図である。
【図5】図4において、互いに隣接する単位セルについて関係付けを行った全体の等価回路を示す図である。
【図6】図1のパワーインテグリティ解析装置のハードウェア構成を示す図である。
【図7】図6のパワーインテグリティ解析装置によって実行されるパワーインテグリティ解析処理を示すフローチャートである。
【図8】図7のパワーインテグリティ処理の計算結果の一例を示す図であって、入力電圧Vinに対する出力電圧Voutを示す波形図である。
【図9】図7のパワーインテグリティ処理によって得られた回路基板の全体の等価回路を示す回路図である。
【図10】図8の実施例の計算条件について説明する図であって、回路基板の斜視図である。
【図11】図7のパワーインテグリティ処理の解析結果の一例を示す図であって、入力電圧Vinに対する出力電圧Voutを示す波形図である。
【図12】図7のパワーインテグリティ処理によって得られた、回路基板の別の例の全体の等価回路を示す回路図である。
【図13】解析対象の回路基板であって、誘電体基板73の上下に、理想的な平行平板からなる電源層71及びグラウンド層72を貼り合わせた回路基板の構造例及びその中の基本セル70の構造を示す斜視図である。
【図14】図13の基本セル70の3次元の等価回路を示す回路図である。
【図15】(a)は潜在性挿入手法(Latency Insertion Method;LIM)を用いて回路解析するときの、2つの節点間の枝の回路を示す回路図であり、(b)は(a)の節点からの電流流出及び接地回路を示す回路図である。
【図16】(a)は解析対象の多層回路基板の縦断面図であり、(b)は(a)の多層回路基板の等価回路を示す回路図である。
【図17】(a)は3つのプレーン81(P1)〜83(P3)を含む基本セルの構造を示す斜視図であり、(b)は従来技術に係る多層有限差分法(Multilayered finite-difference method;以下、M−FDMという。)による基本セルの等価回路を示す回路図である。
【図18】中間の電源層も右半分において切り欠けがあるときの回路基板の一例を示す縦断面図である。
【図19】従来技術に係るM−FDMを用いて作成された図18の等価回路を示す回路図である。
【図20】(a)は従来技術に係るM−FDMを用いて作成された等価回路の一例を示す回路図であり、(b)は本実施形態に係る基本セルモデルを用いて作成された等価回路の一例を示す回路図である。
【図21】変形されたM−FDMを用いて作成された等価回路の一例を示す回路図である。
【図22】本実施形態に係る基本セルモデルを用いて作成された図18の等価回路を示す回路図である。
【図23A】図22の3つのサブ回路を接続するための変数を定義するための回路基板の構造を示す斜視図である。
【図23B】本実施形態に係る等価回路を作成するときに用いる仮定条件を説明するための図23Aの斜視図である。
【図24】本実施形態に係る基本セルを用いた等価回路作成方法によって作成された全体の等価回路の第1の例の回路図である。
【図25】本実施形態に係る基本セルを用いた等価回路作成方法によって作成された全体の等価回路の第2の例の回路図である。
【図26】本実施形態による解析対象のPDN回路基板の一例を示す斜視図である。
【図27】図26のPDN回路基板に印加する入力電圧Vinを示す波形図である。
【図28】図26のPDN回路基板に入力電圧Vinを印加したときに各解析方法によって得られた出力電圧Voutを示す波形図である。
【図29】図26のPDN回路基板に入力電圧Vinを印加したときに、図28の場合に比較して10倍の損失抵抗を設定したときの各解析方法によって得られた出力電圧Voutを示す波形図である。
【図30】図29の場合において各解析方法によって得られた出力電圧Voutを示す波形図である。
【図31】図29の場合において各解析方法によって得られた出力電圧Voutを示す波形図である。
【図32】本実施例に係る等価回路に対してHSPICEシミュレーションを行ったときのCPU時間を示す表である。
【図33】本実施例に係る等価回路に対してHSPICEシミュレータ及びリープフロッグシミュレータを用いてシミュレーションを行ったときのCPU時間を示す表である。
【図34】本発明の第3の実施形態に係る等価回路において電流制御電流源及び電圧制御電圧源を付加する方法を示す回路図である。
【図35】(a)は第3の実施形態の実施例1に係る回路基板の縦断面図であり、(b)は実施形態に係る基本セルで分割画成したときの回路基板の縦断面図であり、(c)は(b)の回路基板に対して本実施形態に係る基本セルの等価回路、並びに、電流源及び電圧源の付加方法を用いたときの全体の等価回路の回路図である。
【図36】(a)は第3の実施形態の実施例2に係る回路基板の縦断面図であり、(b)は実施形態に係る基本セルで分割画成したときの回路基板の縦断面図であり、(c)は(b)の回路基板に対して本実施形態に係る基本セルの等価回路、並びに、電流源及び電圧源の付加方法を用いたときの全体の等価回路の回路図である。
【図37】(a)は第3の実施形態の実施例3に係る回路基板の縦断面図であり、(b)は実施形態に係る基本セルで分割画成したときの回路基板の縦断面図であり、(c)は(b)の回路基板に対して本実施形態に係る基本セルの等価回路、並びに、電流源及び電圧源の付加方法を用いたときの全体の等価回路の回路図である。
【図38】図36の実施例2に係る等価回路に対してSPICEを用いて解析したときの等価回路を示す回路図である。
【図39】図38の解析結果を示す図であって、入力電圧V1並びに出力電圧V11,V12を示す波形図である。
【図40】図37の実施例3に係る等価回路に対してSPICEを用いて解析したときの等価回路を示す回路図である。
【図41】図40の解析結果を示す図であって、入力電圧V1並びに出力電圧V11,V12を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態のパワーインテグリティ解析装置及びパワーインテグリティ解析方法について説明する。なお、以下の各実施形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0027】
第1の実施形態.
図1は本発明の第1の実施形態に係るパワーインテグリティ解析装置1の構成を示すブロック図である。本実施形態に係るパワーインテグリティ解析装置1は、解析の対象となる回路基板の構造情報を入力する構造情報入力部10を有している。また、パワーインテグリティ解析装置1は、入力された構造情報に基づいて回路基板全体の等価回路(以下、全体の等価回路という。)を生成するための構成として、単位セル画定部11と、等価回路生成部13とを有している。さらに、パワーインテグリティ解析装置1は、全体の等価回路に基づいて回路基板のパワーインテグリティを計算するパワーインテグリティ計算部14と、計算結果を出力する結果出力部15とを有している。以下、パワーインテグリティ解析装置1の各構成について説明する。
【0028】
構造情報入力部10は、回路基板に含まれる電源層とグラウンド層の形状と配置の情報を構造情報として入力する。回路基板には少なくとも1つの電源層と少なくとも1つのグラウンド層が含まれている。電源層とグラウンド層の形状の情報とは、電源層とグラウンド層に存在する切り欠きやホールの座標情報である。また、電源層とグラウンド層の配置の情報とは、電源層とグラウンド層の各層間の距離を示す情報である。多層構造を有する回路基板の各層の厚さが決まっている場合には、電源層やグラウンド層が何層目にあるかを示す情報であってもよい。例えば、一層の厚みがd[mm]である場合に、第1層、第7層がグラウンド層、第5層が電源層であるとの情報を入力すると、グラウンド層(第1層)と電源層(第5層)との間には3層の配線層が介在することが分かり、その距離を3×d[mm]と求めることができ、電源層(第5層)とグラウンド層(第7層)との距離をd[mm]であると求めることができる。
【0029】
単位セル画定部11は、電源層P及びグラウンド層G1,G2を格子状に分割する。図2(a)は解析対象の回路基板の電源層P及びグラウンド層G1,G2を格子状に分割した例を示す斜視図である。図2(a)に示す例では、グラウンド層G1、電源層P、グラウンド層G2の3層構造を持つ回路基板を示している。電源層Pは、半分が切り欠かれた形状を有している。単位セル画定部11は、グラウンド層G1、電源層P、グラウンド層G2を格子状に分割して、単位面を形成する。次に、単位セル画定部11は、分割により得られた単位面のそれぞれについて、対向する電源層P又はグラウンド層G1,G2の単位面を構造情報に基づいて求める。そして、単位セル画定部11は、対向する2つの単位面によって挟まれた3次元領域を単位セル30〜35として画定し、各単位セル30〜35の位置関係を求める。
【0030】
図2(b)は、図2(a)に示す多層構造の回路基板をB−B方向から見た側面図である。図2(b)に示す構造情報に基づいて、各単位面に対向する単位面を求める。図2(b)では、例えば、以下のように単位セル30〜36を画成する。
(1)単位面21と単位面25が対向しており、単位面21と単位面25で挟まれる3次元領域を単位セル30として画定する。
(2)単位面22と単位面28が対向しており、単位面22と単位面28で挟まれる3次元領域を単位セル31として画定する。
(3)単位面25と単位面27が対向しており、単位面25と単位面27で挟まれる3次元領域を単位セル32として画定する。
(4)単位面23と単位面29が対向しており、単位面23と単位面29で挟まれる3次元領域を単位セル33として画定する。
(5)単位面20と単位面24が対向しており、単位面20と単位面24で挟まれる3次元領域を単位セル34として画定する。
(6)単位面24と単位面26が対向しており、単位面24と単位面26で挟まれる3次元領域を単位セル35として画定する。
【0031】
ここで、例えば単位面25は、単位面21の他に単位面27とも対向している。高周波数で動作する回路基板においては、電流は、電源層P又はグラウンド層G1,G2の表面を流れる表皮効果が生じる。従って、単位面25の上面に流れる電流と下面に流れる電流は互いに影響せず、単位面25の上下の単位セル30,32を電気的に独立した単位セルとして扱うことができる。このように、単位セル画定部11は、電源層P及びグラウンド層G1,G2の構造情報に基づいて単位セル30〜35を画定し、各単位セル30〜35の大きさ(単位面の大きさ、対向面の距離など)の情報と共に、各単位セルの位置関係を求めて記憶部16に記憶する。
【0032】
等価回路生成部12は、単位セル画定部11にて画定した単位セルの電気的特性を表す単位セルの等価回路を用いて、全体の等価回路を生成する。記憶部16には、単位セル等価回路の基本構成が記憶されている。
【0033】
図3(a)は図1のパワーインテグリティ解析装置で用いる単位セルの等価回路30の基本構成を示す回路図である。図3(a)に示すように、単位セルの等価回路の基本構成は、全節点に接地キャパシタ(C/2)及び接地コンダクタンス(G/2)が接続され、全節点間にインダクタL及び抵抗Rが接続されている。実質的に無損失のとき、もしくは損失を考慮しないときは、G=R=0としてもよい。なお、単位セルの等価回路を求める計算方法は、例えば、非特許文献12に詳しく記載されている。図3(a)に示す単位セル等価回路の基本構成は、当該非特許文献12に記載された方法に従って求めたものである。
【0034】
図3(b)は図3(a)の基本構成を2個縦続接続してなる等価回路30−2の回路図であり、図3(c)は図3(a)の基本構成を3個縦続接続してなる等価回路30−3の回路図である。図3(b)及び図3(c)に示すように、互いに隣接する各2つの接地キャパシタ(C/2)及び各2つの接地コンダクタンス(G/2)を並列接続することにより1つの接地キャパシタC及び1つの接地コンダクタンスGにまとめている。
【0035】
等価回路生成部13は、単位セル画定部11にて画定された各単位セルに対して、記憶部16に記憶された単位セル等価回路の基本構成を適用し、かつ、各単位セルの単位面の大きさと単位面間の距離とに基づいて、各単位セルの等価回路を構成する接地キャパシタ及びインダクタの値を決定して各単位セルの等価回路を生成した後、互いに隣接する単位セルの等価回路を連結することにより、回路基板全体の等価回路を生成する。ここで、等価回路生成部13は、回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが変化する位置があるときに、当該厚さが変化する位置である節点が、各基本セルを接続する節点に対応するように、記憶部に記憶された単位セル等価回路の基本構成を適用して、回路基板全体の等価回路を生成する(図4)。図4は図2の回路基板に対して単位セルの等価回路を適用したときの全体の等価回路(3つのサブ回路からなる)の回路図であって、図2(b)に示す単位セル30〜35の単位セル等価回路をその位置関係と共に示す回路図である。
【0036】
次いで、等価回路生成部13は、例えば、図2(b)に示すように、電源層Pに切り欠けがあるときなど、回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが第1の厚さdから、第1の厚さdよりも大きな第2の厚さdに変化する位置があるときに、当該厚さが変化する位置である節点において、等価回路を互いに隣接する複数のサブ等価回路に分割して切り離し、一方のサブ等価回路の基本セルに対して当該基本セルの節点から流れる電流と等価な電流を流す電流制御電流源を付加する一方、他方のサブ等価回路の基本セルに対して当該基本セルの節点に印加される電圧と等価な電圧を印加する電圧制御電圧源を付加することにより、互いに隣接する複数のサブ等価回路どうしを関係付け、回路基板の等価回路を生成する(図5)。ここで、等価回路生成部13は、回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが第1の厚さdから、第1の厚さdよりも大きな第2の厚さdに変化する位置があるときに、図23A及び図23Bを参照して説明するように、第2の厚さd2の部分において電源層が存在して厚さが変化しないように仮定したときの仮定電流を仮定し、第1の厚さdの電源層に流れる電流が当該電源層からグランド層に流れる電流と仮定電流とに分岐して流れるように仮定するという条件(後述の式(22)参照)のもとで、電流制御電流源及び電圧制御電圧源を付加する。なお、当該条件は、詳細後述するように、第1の厚さdから、第1の厚さdよりも大きな第2の厚さdに変化する位置があるときに、第2の厚さdが実質的に第1の厚さdの2倍の厚さであるとき、第2の厚さdの部分において電源層が存在して厚さが変化せず、第1の厚さdをそれぞれ有する2つのサブ等価回路に分割するように仮定したとき、各サブ等価回路での回路基板の面に平行な2つの磁界が分割しないときの当該磁界に実質的に一致する(後述の式(23)参照)という条件である。
【0037】
また、等価回路生成部13は、互いに隣接する第1の単位セルと第2の単位セルの単位セル等価回路を関係付ける場合に、第1の単位セルの単位セル等価回路に、第2の単位セルの単位セル等価回路において第1の単位セルとの境界に流れ込む電流と等価の電流を与える電流制御電流源を付加し、第2の単位セルの単位セル等価回路に、第1の単位セルの単位セル等価回路において第2の単位セルとの境界に印加される電圧と等価の電圧を与える電圧制御電圧源を付加する(図5)。
【0038】
図5は図4において、互いに隣接する単位セルについて関係付けを行った全体の等価回路を示す図である。図5に示すように、単位セル31の単位セル等価回路に対して、互いに隣接する単位セル30の単位セル等価回路に印加される電圧V1と等価な電圧を与える電圧制御電圧源40と、互いに隣接する単位セル32の単位セル等価回路に印加される電圧V2と等価な電圧を与える電圧制御電圧源41を付加している。なお、電圧制御電圧源40,41を元にあったRC回路と入れ替えているが、これは電圧制御電圧源40,41が電圧V1,V2と等価な電圧を強制的に印加する機能を有するためである。また、単位セル30の単位セル等価回路に対して、互いに隣接する単位セル31の単位セル等価回路を流れる電流Iaと等価な電流を与える電流制御電流源42を付加している。同様に、単位セル32の単位セル等価回路に対して、互いに隣接する単位セル31の単位セル等価回路を流れる電流Iaと等価な電流を与える電流制御電流源43を付加している。
【0039】
パワーインテグリティ計算部14は、全体の等価回路の所定の節点(以下、入力節点という。)に所定の入力電圧(例えば、パルス電圧)を印加したときに、入力接点とは異なる節点(以下、出力節点という)に生じる電圧値の変化を求める。パワーインテグリティ計算部14は、例えば、上記回路基板の所定の位置に電圧を印加したときに、上記回路基板全体の等価回路の各節点に印加される電流及び各節点間に流れる電流の値を時間的に交互に計算するLIM(潜在性挿入方法:Latency Insertion Method)を用いて、入力節点から出力節点に至る経路上にある節点に生じる電圧及び節点間に流れる電流を時間的に交互に計算する。結果出力部15は、パワーインテグリティ計算部14にて計算された出力節点の電圧の時間変化の結果を例えばディスプレイに出力して表示し、もしくはプリンタに出力して印字する。なお、パワーインテグリティ計算部14は、回路基板の所定の位置に電圧を印加したときに、上記回路基板全体の等価回路の各節点に印加される電流及び各節点間に流れる電流の値を、各電流と各電圧との関係を示す連立方程式を数値積分法を用いて解くことにより計算するシミュレーションプログラム(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis;SPICE)を用いて上記回路基板の他の位置に生じる電圧値を計算して出力してもよい。
【0040】
図6は図1のパワーインテグリティ解析装置1のハードウェア構成を示す図である。パワーインテグリティ解析装置1は、CPU50、RAM51、ROM52、通信インターフェース54、ハードディスクメモリ55、操作部56、ディスプレイ57がデータバス58によって接続された、例えばデジタル計算機などのコンピュータによって構成される。CPU50が、ROM52に書き込まれたプログラム53に従って演算処理を実行することにより、上記したパワーインテグリティ解析装置1の機能が実現される。このようなプログラム53は、本発明の範囲に含まれる。当該プログラムは、コンピュータによって実行可能であって、例えばCD−ROMなどの記録媒体に記録して提供してもよい。
【0041】
図7は図6のパワーインテグリティ解析装置によって実行されるパワーインテグリティ解析処理を示すフローチャートである。パワーインテグリティ解析装置1は、まず、解析対象の回路基板の構造情報の入力を受け付ける(S10)。構造情報は、回路基板に含まれる電源層及びグラウンド層の形状及び配置を示す情報である。パワーインテグリティ解析装置1は、回路基板の設計図の情報から電源層及びグラウンド層の情報を読み込むこととしてもよい。
【0042】
パワーインテグリティ解析装置1は、入力された構造情報に基づいて単位セルを画定する(S12)。具体的には、上述したとおり、電源層及びグラウンド層を格子状に分割し、分割によって形成された単位面が対向する3次元領域を単位セルとして画定する。パワーインテグリティ解析装置1は、画定した単位セルの情報及び単位セルの位置関係のデータを記憶部16に記憶する。パワーインテグリティ解析装置1は、画定された各単位セルに対して、記憶部16に記憶された単位セル等価回路の基本構成を適用し、かつ、上記各単位セルの単位面の大きさと単位面間の距離とに基づいて、上記各単位セルの等価回路を構成する接地キャパシタ及びインダクタの値を決定して上記各単位セルの等価回路を生成した後、互いに隣接する単位セルの等価回路を連結することにより、上記回路基板全体の等価回路を生成する(S16)。ここで、記憶部16に記憶された単位セル等価回路の基本構成を読み出し、読み出した基本構成に含まれる接地キャパシタ、インダクタの値を単位セルの大きさや回路基板の材質等に基づいて決定する。パワーインテグリティ解析装置1は、各単位セルの単位セル等価回路を関係付けて、回路基板の全体の等価回路を生成する(S16)。
【0043】
また、等価回路生成部13は、互いに隣接する第1の単位セルと第2の単位セルの単位セル等価回路を以下のようにして関係付ける。すなわち、第1の単位セルの単位セル等価回路に印加される電圧と等価の電圧を印加する電圧制御電圧源を第2の単位セルの単位セル等価回路に付加する。これとは逆に、第1の単位セルの単位セル等価回路に対しては、第2の単位セルの単位セル等価回路に流れる電流と等価の電流を流す電流制御電流源を付加する。等価回路生成部13は、互いに隣接するすべての単位セルについて上記の処理を行うことにより、すべての単位セルの単位セル等価回路を関係付けて全体の等価回路を生成する。
【0044】
パワーインテグリティ解析装置1は、全体の等価回路を用いて、回路基板のパワーインテグリティを計算する(S18)。全体の等価回路の所定の入力節点に所定の入力電圧(例えば、パルス電圧)を印加したときに、全体の等価回路の出力節点に生じる電圧の時間変位を求める。具体的には、パワーインテグリティ計算部14は、入力節点から出力節点に至る経路上にある節点に生じる電圧及び節点間に流れる電流を例えばLIMを用いて時間的に交互に計算し、出力節点における電圧を求める。パワーインテグリティ解析装置1は、パワーインテグリティの計算結果をディスプレイに表示することによって出力する(S20)。
【0045】
図8は図7のパワーインテグリティ処理の計算結果の一例を示す図であって、入力電圧Vinに対する出力電圧Voutを示す波形図である。また、図9は図7のパワーインテグリティ処理によって得られた回路基板の全体の等価回路を示す回路図である。すなわち、図8は、図9に示す全体の等価回路において、入力節点にパルス電圧Vinをかけたときに出力節点に生じる電圧Voutの時間変化を示す。図8に示すように、入力節点にパルス電圧をかけると、出力節点の電圧値が変動することが分かる。以上、本実施形態のパワーインテグリティ解析装置1の構成及び動作について説明した。
【0046】
本実施形態のパワーインテグリティ解析装置1は、対向する単位面によって挟まれた3次元領域を単位セルとし、単位セルの電気的特性を表現した単位セル等価回路を生成する。そして、互いに隣接する単位セル等価回路どうしを関係付けて全体の等価回路を生成する。この全体の等価回路は、全節点に接地キャパシタが接続され、全節点間にインダクタが接続されているので、節点に印加される電流及び節点間に流れる電流の値を時間的に交互に計算することができ、パワーインテグリティの計算を高速に行うことができる。
【実施例】
【0047】
図10は図8の実施例の計算条件について説明する図であって、回路基板の斜視図である。本実施例では、グラウンド層G1、電源層P、グラウンド層G2の3層を含む回路基板のパワーインテグリティを解析した。なお、電源層Pは切り欠かれており、グラウンド層G1,G2の半分の大きさである。図10では、各層を格子状に分割したときの単位面の数によって各層の大きさを示している。回路基板の比誘電率は3.0、導体損失は0.0001[Ω]、各層間の距離は1[mm]として計算した。また、単位面のサイズが20[mm]×20[mm]となるように、電源層P、グラウンド層G1,G2を分割した。
【0048】
このような回路基板において、グラウンド層G1と電源層Pとの間に入力電圧Vinを印加したときに、対角線上にある頂点において、グラウンド層G2に現れる出力電圧Voutの時間的変化を本発明のパワーインテグリティ解析装置1によって求めた。また、比較例1として、従来技術に係るM−FDMを用いて回路基板の等価回路を生成し、公知のSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis;以下、SPICEという。)を用いてパワーインテグリティの解析を行い、比較例2として本実施形態と同様に生成した回路基板の等価回路に基づいてSPICEを用いてパワーインテグリティの解析を行った。
【0049】
図11は図7のパワーインテグリティ処理の解析結果の一例を示す図であって、入力電圧Vinに対する出力電圧Voutを示す波形図である。図11に示すように、本発明の実施例、比較例1及び比較例2は、ほぼ同じ精度で解析を行うことができた。下記表1は、解析に要した時間を示す表である。
【0050】
【表1】

【0051】
表1に示すように実施例では、比較例1に示すように、従来技術に係るM−FDMでは、4017.681(秒)もの時間を要したのに対し、本実施例では、わずか0.054(秒)で解析を行うことができた。このように、実施例では、従来技術に係るM−FDMを用いたパワーインテグリティの解析方法と比較して、劇的に処理速度が向上した。また、本実施例と同様の単位セル等価回路を用いた場合であっても、パワーインテグリティの計算にSPICEを用いた場合には、比較例2に示すように41.074(秒)の時間を要し、本実施例より100倍程度の時間がかかった。
【0052】
比較例1、比較例2で用いたSPICEによる解析は、解析時に、時間ステップ毎に
、Ax=b(A:回路行列、x:未知数ベクトル、B:入力ベクトル)の連立方程式を解く方法である。本実施例では、LIMを用いたことにより、このような連立方程式を解かなくてもよいので、高速に計算を行えたと考えられる。
【0053】
なお、比較例2が比較例1よりも高速で計算を行えた理由としては、回路基板の等価回路の含まれる節点数が少ないこと、モデル化した回路行列に非ゼロ要素(フィル・イン)が少ないことが挙げられる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば、対向する単位面によって挟まれた3次元領域を単位セルとし、単位セルの電気的特性を表現した単位セル等価回路を生成する。単位セルの電気的特性は、全節点に接地キャパシタが接続され、全節点間にインダクタが接続された単位セル等価回路によって表現する。これにより、複数の単位セル等価回路を関係付けて生成した全体の等価回路では、節点に印加される電圧値と節点間に流れる電流値を例えば時間的に交互に計算することができ、パワーインテグリティの計算を高速に行うことができる。
【0055】
本実施形態のパワーインテグリティ解析装置1は、上記単位セル等価回路の基本構成を記憶した記憶部16を備え、上記等価回路生成部13は、記憶部16から上記単位セル等価回路の基本構成を読み出し、上記単位セルの単位面の大きさと単位面間の距離とに基づいて、上記単位セル等価回路を構成する接地キャパシタ及びインダクタの値を決定し、上記単位セル等価回路を生成してもよい。
【0056】
単位セル画定部11にて生成される単位セルはいずれも2つの単位面で挟まれた同一の構成を有しているので、その電気的特性を表す単位セル等価回路の基本構成は同じである。単位セル等価回路の基本構成をあらかじめ記憶部16に記憶しておくことにより、単位セル等価回路を高速に生成することができる。
【0057】
本実施形態のパワーインテグリティ解析装置において、等価回路生成部13は、互いに隣接する第1の単位セルと第2の単位セルの単位セル等価回路を関係付ける場合に、上記第1の単位セルの単位セル等価回路に、上記第2の単位セルの単位セル等価回路において上記第1の単位セルとの境界に流れ込む電流と等価の電流を与える電流制御電流源を付加し、上記第2の単位セルの単位セル等価回路に、上記第1の単位セルの単位セル等価回路において上記第2の単位セルとの境界に印加される電圧と等価の電圧を与える電圧制御電圧源を付加してもよい。この構成により、複数の単位セル等価回路を好適に関係付けることができる。
【0058】
第2の実施形態.
まず、第2の実施形態の背景技術について以下に説明する。
【0059】
近年、パワーインテグリティは、高速アナログ/デジタル混合回路の設計において最も重要な問題の1つとなっている。パワーインテグリティを検証するためには、電源分配回路網(PDN)を解析して、グランドバウンス、デルタ電流(ΔI)雑音及び同時スイッチング雑音(SSN)等の望ましくないノイズを推定しなければならない。
【0060】
通常、プリント配線基板(以下、PCBという。)又はプリント配線パッケージのPDNは、多層の電源/グランド(P/G)プレーンペア(以下、電源プレーンとグランドプレーンとのペアを、P/Gプレーンペアという。なお、プレーンは導体板を意味する。)を用いて設計される。全波電磁シミュレータを用いるPDNの詳細な解析は、正確な結果をもたらす。しかしながら、これは、膨大なCPU時間及び大量のメモリ容量を要する。PCB又はパッケージの場合、PDNは、多くの事例で二次元P/Gプレーンとしてモデル化することができる。
【0061】
図13は解析対象の回路基板であって、誘電体基板73の上下に、理想的な平行平板からなる電源層71及びグラウンド層72を貼り合わせた回路基板の構造例及びその中の基本セル70の構造を示す斜視図である。また、図14は図13の基本セル70の3次元の等価回路を示す回路図である。周知のように、1つのP/Gプレーンペアは、図13及び図14に示すような単位セルモデルへ空間的に離散化されることが可能である。単位セルの等価回路の各RLGCパラメータは、サイズ及び媒体係数によって導出される(例えば、非特許文献1参照。)。従って、全波シミュレータの代わりに、P/Gプレーンペアが多数の集中RLC素子としてモデル化されれば、SPICE等の従来型のシミュレータを利用可能である。しかしながら、SPICEを用いてこれらを解析することは、PDN回路が大規模であることに起因してやはり困難である。
【0062】
一方で、潜在性挿入方法(LIM)は、リープフロッグ(leapflog)アルゴリズムを基礎とする高速過渡シミュレーション方法の1つである(例えば、非特許文献2及び3参照、)。LIMシミュレーションでは、節点電圧ベクトル及び枝電流ベクトルが交互に計算される。これは、SPICEのようなシミュレータに使用される黙示的な数値積分とは対照的に、大規模RLC回路を極めて効率的に解析することができ、連立方程式を解く計算コストは遙かに少ない。例えば非特許文献4及び5において、発明者らは、リープフロッグアルゴリズムが、表皮効果及び誘電損失等の何らかの周波数依存分散を有する単位セルモデルよりなるPDN等価回路のシミュレーションに適することを示した。
【0063】
上述したように、1つのP/Gプレーンペアは、この単位セルモデルでモデル化することができる。しかしながら、実際のPDNは、通常は多くの正孔及びホールを有する多層P/Gプレーンペアよりなる。2つのプレーンペア間には、正孔を通じて垂直方向に電磁結合が存在することから、単位セルモデルを単純に適用して実際のPDNをモデル化することはできない。この問題を克服するために、例えば非特許文献6及び7において多層有限差分法(M−FDM)が提案されている。M−FDMは、正孔及びホールを有する複雑なプレーンペアを大規模RLC回路としてモデル化することができる。これらの回路は、SPICEにより時間領域で解くことができるが、演算速度は遅い。さらに、リープフロッグアルゴリズムは解析される回路構成に限界を有することから、リープフロッグアルゴリズムがM−FDMにより生成される等価回路を解くことは困難である。換言すれば、すべての枝はインダクタを有していなければならず、すべての節点は悉く接地されたキャパシタと接続されなければならない。M−FDMにより生成される等価回路は、LIMの条件を満たさない。
【0064】
本実施形態では、正孔及びホールを有する多層P/Gプレーンペアよりなる電源分配回路網(PDN)の効果的なモデル化方法を提案する。発明者らの方法では、垂直方向に結合される独立したプレーンペアをそれぞれ、単位セルモデルよりなる集中RLC等価回路としてモデル化する。正孔又はホール同士の境界では、別々にモデル化した回路を、電界と磁界との関係に従って電圧制御電圧源(VCVS)及び電流制御電流源(CCCS)によって接続する。その結果、発明者らの方法により生成される等価回路全体は、リープフロッグアルゴリズムにより難なく解くことができる。さらに、発明者らの方法により生成される等価回路は、SPICEを用いても、M−FDMにより生成されるものよりはるかに高速で解くことができる。
【0065】
次いで、以下では、リープフロッグアルゴリズムを基礎とする高速過渡回路シミュレーション方法の1つであるLIMを簡単に説明する(例えば、非特許文献2及び3参照。)。例えば非特許文献4及び5において、発明者らは既に、LIMが単位セルモデルよりなるPDN等価回路のシミュレーションに適することを示している。LIMにより解析されるべき回路は、各枝がインダクタを有しかつ各節点が接地されたキャパシタを有することを要する。
【0066】
図15(a)は潜在性挿入手法(Latency Insertion Method;LIM)を用いて回路解析するときの、2つの節点間の枝の回路を示す回路図であり、図15(b)は図15(a)の節点からの電流流出及び接地回路を示す回路図である。図15(a)に示すように、直列のインダクタ、抵抗及び電圧源よりなる枝の場合、キルヒホッフの電圧則方程式(以下、KVL方程式という。)は次式で表される。なお、当該明細書において、数式がイメージ入力された墨付き括弧の数番号と、数式が文字入力された大括弧の数式番号とを混在して用いており、また、当該明細書での一連の数式番号として「式(1)」の形式を用いて数式番号を式の最後部に付与して(付与していない数式も存在する)用いることとする。
【0067】
【数1】

【0068】
ここで、上付き文字nは時間指数を示す。次に、枝電流は次式のように更新される。
【0069】
【数2】

【0070】
各節点は、図15(b)に示すように、キャパシタ、コンダクタンス及び電流源のグランド(接地)への並列接続回路を有する。よって、キルヒホッフの電流則方程式(以下、KCL方程式という。)は次式で表される。
【0071】
【数3】

【0072】
ここで、Mは節点aへ接続される枝の数である。次に、節点電圧は次式のように更新される。
【0073】
【数4】

【0074】
最後に、式(2)及び(4)に従った、かつ交互的な半分の時間ステップにおける枝電流及び節点電圧の交互「リープフロッグ」更新によって過渡シミュレーションが行われる。安定的なシミュレーションを行うために、時間ステップΔtのサイズは、回路内のインダクタンス及びキャパシタンスの最小値を基礎として、次式のように決定される。
【0075】
【数5】

【0076】
次いで、多層有限差分法について以下に説明する。
【0077】
図16(a)は解析対象の多層回路基板の縦断面図であり、図16(b)は図16(a)の多層回路基板の等価回路を示す回路図である。複数のP/Gプレーンペアが積層されるものとすると、図16に示すように、プレーンペア間に正孔及びホールが存在しなければ、各P/Gプレーンペアは、単位セルモデルよりなる等価回路として別々にモデル化することができる。これは、周波数が高い電流は、表皮効果によって導体の表面のみを流れることに起因する。一方で、実際の多層のP/Gプレーンペアは通常、多くの正孔及びホールを有する。2つのプレーンペア間には正孔を通じて垂直方向に電磁結合が存在することから、単位セルモデルを単純に適用して実際のPDNをモデル化することはできない。この問題を克服するために、例えば非特許文献6及び7において多層有限差分法(M−FDM)が提案されている。以下は、最初にこのM−FDMを簡単に説明し、次に、M−FDMに導体損失のモデル化を改良する余地のあることを指摘する。
【0078】
ここで、まず、M−FDMを基礎とする多層プレーンペアのモデル化について以下に説明する。
【0079】
図17(a)は3つのプレーン81(P1)〜83(P3)を含む基本セルの構造を示す斜視図であり、図17(b)は従来技術に係る多層有限差分法(Multilayered finite-difference method;以下、M−FDMという。)による基本セルの等価回路を示す回路図である。M−FDMは、図17のような多層プレーンをモデル化する。この事例では、プレーン83(P3)が共通基準端子として選択されている。プレーン81(P1)及びプレーン82(P2)の部分自己インダクタンスがそれぞれL1及びL2であれば、プレーン81(P1)とプレーン82(P2)との間に部分相互インダクタンスL2が導入される。
【0080】
図18は中間の電源層も右半分において切り欠けがあるときの回路基板の一例を示す縦断面図である。図18において、切り欠けにより誘電体層90が厚さd及びdから厚さd1(≒2d)に変化している(図23A及び図26も同様に示す。)。図18に示す例は、中間プレーンの右半分がないことから、単位セルモデルによって単純にモデル化することはできない。これに対して、M−FDMはこれを図19のようにモデル化することができる。
【0081】
図19は従来技術に係るM−FDMを用いて作成された図18の等価回路を示す回路図である。図19の等価回路はSPICEによって解くことができるが、リープフロッグアルゴリズムは解析されるべき回路構成に限界を有することから、リープフロッグアルゴリズムがこれを解くことは困難である。
【0082】
次いで、単位セルモデルとM−FDMとの等価性について以下に説明する。
【0083】
図20(a)は従来技術に係るM−FDMを用いて作成された1次元の等価回路の一例を示す回路図であり、図20(b)は本実施形態に係る基本セルモデルを用いて作成された1次元の等価回路の一例を示す回路図である。多層プレーンペア間に正孔及びホールが存在しなければ、M−FDMにより生成される等価回路は、数学的には1つの単位セルモデルよりなるものに等しくなるはずである。例えば、図20に示すように3つのプレーンを含む単純な一次元事例では、M−FDMにより生成される等価回路のKVL方程式は次式で表される。
【0084】
[数1]
an−1−Van=(R+sL+sL)Ian−1+sLbn−1 (6)
[数2]
bn−1−Vbn=sLan−1+(R+sL)Ibn−1 (7)
【0085】
ここで、s=jωである。また、KCL方程式は次式で表される。
【0086】
[数3]
(G+sC)(Van−Vbn)=Ian−1−Ian (8)
[数4]
(G+sC)Vbn=Ibn−1−Ibn+Ian−1−Ian (9)
【0087】
=R=0のように導体損失が無視できるものであるとして、発明者らは下記のような変数の変更を導入する。
【0088】
[数5]
abn=Van−Vbn,Vabn−1=Van−1−Vbn−1 (10)
[数6]
I’bn=Ian+Ibn,I’bn−1=Ian−1+Ibn−1 (11)
【0089】
その結果、式(6)から(9)は、下記のように書き換えられる。
【0090】
[数7]
abn−1−Vabn=sLan−1 (12)
[数8]
bn−1−Vbn=sLI’bn−1 (13)
[数9]
(G+sC)Vabn=Ian−1−Ian (14)
[数10]
(G+sC)Vbn=I’bn−1−I’bn (15)
【0091】
実際のところ、式(12)から(15)は、図20(b)に示すような単位セルモデルを用いる等価回路のKVL及びKCLと全く同じである。従って、抵抗Rが無視できるものであれば、M−FDMと単位セルモデルとの間に等価性を見出すことができる。しかしながら、高周波では、導体損失は通常無視できる程度ではない。導体損失を含む事例では、図20(a)と図20(b)は数学的に等しくはない。
【0092】
図21は変形されたM−FDMを用いて作成された等価回路の一例を示す回路図である。従って、発明者らは導体損失の処理を是正するために、M−FDMを基礎とする等価回路を図21のように変形する。この変形では、プレーン81(P1)とプレーン82(P2)との間に相互抵抗を導入する。図21のKVL方程式は次式で表される。
【0093】
[数11]
an−1−Van=(R+R+sL+sL)Ian−1+(R+sL)Ibn−1
(16)
[数12]
bn−1−Vbn=(R+sL)Ian−1+(R+sL)Ibn−1 (17)
【0094】
式(10)及び(11)を使用すれば、式(16)及び(17)は次式のように書き換えられる。
【0095】
[数13]
abn−1−Vabn=(R+sL)Ian−1 (18)
[数14]
bn−1−Vbn=(R+sL)I’bn−1 (19)
【0096】
式(18)及び(19)は、図20(b)に示す単位セルモデルを用いる等価回路のKVLに等しいことが分かる。図21の等価回路がSPICEによって解析されるとすれば、電流制御電圧源であるH素子を相互抵抗として使用することができる。一方で、M−FDM及び変形されたM−FDMにより生成される等価回路をLIMが解くことは、これらの方法がLIM条件を満たさないことから困難である。
【0097】
次いで、リープフロッグアルゴリズムに適する多層プレーンペアのモデル化について以下に説明する。すなわち、正孔及びホールを有する多層P/Gプレーンペアの効果的なモデル化方法を提案する。提案する方法では、垂直方向に接続される独立したプレーンペアをそれぞれ、単位セルモデルよりなる集中RLC等価回路としてモデル化する。例えば、図18の場合、プレーン81(P1)及び83(P3)は、これらのプレーンの右半分で接続されている。従って、このペアを独立した等価回路としてモデル化する。
【0098】
図22は本実施形態に係る基本セルモデルを用いて作成された図18の等価回路を示す回路図である。これらのプレーンの左半分には2つのプレーンペアが存在することから、図22に示すように、独立した3つのサブ回路の等価回路を得ることができる。
【0099】
次には、3つのサブ回路の等価回路を正しく接続することが必要である。例えば非特許文献6は、プレーンペア間の相互接続を実現することは困難であると述べているが、この問題を電磁レベルで考察すれば、これらを正しく接続することは難しくない。
【0100】
図23Aは図22の3つのサブ回路を接続するための変数を定義するための回路基板の構造を示す斜視図であり、図23Bは本実施形態に係る等価回路を作成するときに用いる仮定条件を説明するための図23Aの斜視図である。
【0101】
まず、電圧、電流及び磁界を図23(a)に示すように定義する。ここで、Δx、Δy及びΔzはそれぞれ、x、y及びz方向の単位セルサイズを示す。例えば、Vz1とIz1との関係は次式で表される。
【0102】
【数6】

【0103】
ここで、σ及びεはそれぞれ誘電損失及び誘電率である。次に、垂直電流Iz1及びIz2を、アンペアの法則によって次の近似式のように概算することができる。
【0104】
[数15]
z1≒Hy1Δy−Hy3Δy=Ix1−I (21)
[数16]
z2≒Hy2Δy−Hy3Δy=Ix2−I (22)
【0105】
ここで、x方向の磁場は除外する。その結果、図22に示す3つの等価回路を電圧制御電圧源(VCVS)及び電流制御電流源(CCCS)によって図24に示すように接続することができる。上記式(21)及び(22)の近似の設定条件は、図23Bに示すように、プレーン82(P2)を延在させるように仮定したときに、延在するプレーン82(P2)の上側の磁界Hy3aと下側の磁界Hy3bと、プレーン82(P2)を延在させないときの磁界Hy3(図23A)が次式のごとく実質的に同一となる条件である。
【0106】
[数17]
y3≒Hy3a≒Hy3b (23)
【0107】
図24は本実施形態に係る基本セルを用いた等価回路作成方法によって作成された全体の等価回路の第1の例の回路図であり、図25は本実施形態に係る基本セルを用いた等価回路作成方法によって作成された全体の等価回路の第2の例の回路図である。図24及び図25に示すように、互いに隣接する基本セルの等価回路において、電圧制御電圧源と、電流制御電流源及びそれに並列接続されたGC回路との並列回路とを入れ替えることができる。図18は典型例であるが、提案方法は、さらに複雑な構成を難なくモデル化することができる。さらに、発明者らが提案する方法によって生成される等価回路は、LIM等のリープフロッグアルゴリズムによって解くことができる。
【0108】
次いで、第2の実施形態の数値計算結果について以下に説明する。
【0109】
図26は本実施形態による解析対象のPDN回路基板の一例を示す斜視図である。まず、提案するモデル化方法の有効性を検証するために、図26に示すPDNをシミュレーションした。図27は図26のPDN回路基板に印加する入力電圧Vinを示す波形図である。入力電圧Vinの電圧源ポイントを、図27にプロットした三角波形で励起した。P/Gプレーンペアは、異なる3つのモデル化方法で、すなわちM−FDM、変形されたM−FDM及び発明者らが上記で提案した方法でモデル化する。提案するモデル化の有効性及び効率を検証するために、シノプシス社のStar−HSPICE(登録商標)を使用してシミュレーションした過渡応答を比較した。シミュレーションはすべて、32ビットWindows Vista(登録商標)オペレーティングシステムを有するインテル製Core2Duo(登録商標)2.33GHzパーソナルコンピュータ上で実行した。HSPICE(登録商標)は、式(5)から3.54psecとして選択される一定の時間ステップサイズを使用する。また、発明者らは、正確なオプションを1に設定している。HSPICE(登録商標)では、正確なオプションを1に設定すると、より詳細なシミュレーションを実行することができるが、シミュレーション時間は長くなる(例えば、非特許文献8参照。)。
【0110】
単位セルのサイズ及び媒体係数は、w=1.0mm、d=0.2mm、t=0.02mm、σ=5.8x10、ε=4.5である。ここで、w、t及びdは単位セル70の幅、プレーン(導体板)厚さ、及び誘電体厚さであり、w>dであって、図13に定義されている。導体損失Rは次式で計算される。
【0111】
【数7】

【0112】
ここで、fは信号周波数である。当然ながら、例えば非特許文献5において提案した周波数依存の単位セルモデルを使用することもできるが、単純化のために周波数独立モデルを使用する。このシミュレーションでは、f=1GHzであるものとして、導体損失はR≒0.182Ωである。
【0113】
図28は図26のPDN回路基板に入力電圧Vinを印加したときに各解析方法によって得られた出力電圧Voutを示す波形図である。すなわち、図28はHSPICE(登録商標)を用いてシミュレーションした出力電圧Voutにおける電圧波形をプロットしたものである。提案するモデル化方法の波形は、他の波形とよく一致している。次に、導体損失のモデル化の正確さを検証するために、導体損失を故意に10倍に増大させ、この変形の後、再度HSPICE(登録商標)シミュレーションを実行した。
【0114】
図29は図26のPDN回路基板に入力電圧Vinを印加したときに、図28の場合に比較して10倍の損失抵抗を設定したときの各解析方法によって得られた出力電圧Voutを示す波形図である。すなわち、図29は出力電圧Voutにおける電圧波形をプロットしたものである。提案するモデル化方法の波形と変形されたM−FDMの波形とは完全に一致しているが、M−FDMの波形は、上述した理由により他とは異なっている。
【0115】
図32は本実施例に係る等価回路に対してHSPICE(登録商標)シミュレーションを行ったときのCPU時間を示す表である。フィルインの数は提案するモデル化方法が最少であることから、提案方法によって生成された等価回路は、M−FDM及び変形されたM−FDMにより生成されたものより高速で解かれ得ることが分かる。フィルインの数が最少である理由は、提案する等価回路ではキャパシタがすべて接地されることにある。
【0116】
次に、リープフロッグアルゴリズムの効率を検証するために、PDNの過渡応答をシミュレーションした。その配置は図26と同じであるが、プレーンの深さを25mmから100mmに変更した。リープフロッグアルゴリズムを基礎とする提案する過渡回路シミュレータを用いてシミュレーションした過渡応答を、疎行列(スパース行列)LU分解(例えば、非特許文献10参照。)を基礎とする発明者らの線形回路シミュレータであるFALCON(例えば、非特許文献9参照。)及びHSPICE(登録商標)と比較する。このシミュレーションでは、時間ステップオプションを2回に分けて変更することにより、HSPICE(登録商標)シミュレーションを実行した。MS−Visual C++コンパイラ、バージョン2008を用いて、発明者らの2つのシミュレータをコンパイルした。FALCON及びHSPICE(登録商標)シミュレーションでは、提案するモデル化方法によって生成された等価回路の節点数が76,860になった。
【0117】
図30及び図31は図29の場合において各解析方法によって得られた出力電圧Voutを示す波形図である。すなわち、図30は出力電圧Voutにおける電圧波形をプロットしたものである。図30及び図31から明らかなように、発明者らのシミュレータで計算された波形は、FALCON及び時間ステップが一定であるHSPICE(登録商標)とよく一致している。
【0118】
図33は本実施例に係る等価回路に対してHSPICEシミュレータ及びリープフロッグシミュレータを用いてシミュレーションを行ったときのCPU時間を示す表である。図33から明らかなように、発明者らのシミュレータが、同じ時間ステップサイズでFALCON及びHSPICE(登録商標)よりそれぞれ約105倍及び486倍高速であることを示している。HSPICE(登録商標)が可変時間ステップを使用すればCPU時間は改善されるが、図31に示すように、シミュレーションの精度は下がる。
【0119】
以上説明したように、本実施形態によれば、正孔及びホールを有する多層P/Gプレーンペアの効果的なモデル化方法を提案した。数値結果から、提案方法によって生成される等価回路は、SPICEを用いてもM−FDMにより生成されるものより高速で解くことができる。また、発明者らのモデル化方法が導体損失を正しくモデル化できることは明らかである。さらにリープフロッグアルゴリズムは、同レベルの精度でHSPICE(登録商標)より486倍の高速化を可能にする。
【0120】
第3の実施形態.
図34は本発明の第3の実施形態に係る等価回路において、2つのサブ回路に分割して電流制御電流源及び電圧制御電圧源を付加する方法を示す回路図である。図34において、基本的な手順は以下の通りである。
(1)ある節点において2つのサブ回路に分割したときに、接地キャパシタ及び接地コンダクタンスGを分割したどちらか一方の節点に残す。
(2)接地キャパシタC及び接地コンダクタンスGが残った節点には電流制御電流源を接続する。
(3)接地キャパシタC及び接地コンダクタンスGが無くなった節点には電圧制御電圧源を接続する。
【0121】
図35(a)は第3の実施形態の実施例1に係る回路基板の縦断面図であり、図35(b)は実施形態に係る基本セルで分割画成したときの回路基板の縦断面図であり、図35(c)は図35(b)の回路基板に対して本実施形態に係る基本セルの等価回路、並びに、電流源及び電圧源の付加方法を用いたときの全体の等価回路の回路図である。図35及びそれ以下の図において、81,83はグランド層であり、82,84は電源層である。90は誘電体層である。図35(a)において、左半分では、電源層82,84により誘電体層90が各厚さdで分割されているが、右半分では、電源層82,84の切り欠けにより合計厚さd2(≒3d)となっている。図35(a)の回路基板で図1の単位セル画成部11により基本セルを画成すると、図35(b)のようになる。ここで、図35(b)の回路基板に対して、図1の等価回路生成部13により、基本セルの等価回路の適用、サブ回路への分割、及び電流制御電流源及び電圧制御電圧源の付加を行うと、図35(c)のようになる。なお、図35(c)において、右半分のサブ回路において、GC回路を1つの並列回路にまとめているが、本発明はこれに限らず、まとめなくてもよい。
【0122】
図36(a)は第3の実施形態の実施例2に係る回路基板の縦断面図であり、図36(b)は実施形態に係る基本セルで分割画成したときの回路基板の縦断面図であり、図36(c)は図36(b)の回路基板に対して本実施形態に係る基本セルの等価回路、並びに、電流源及び電圧源の付加方法を用いたときの全体の等価回路の回路図である。図36(a)において、左半分では、電源層82により誘電体層90が各厚さd,d1(≒2d)で分割されているが、右半分では、電源層84の切り欠けにより各厚さd1,dで分割されている。すなわち、2つの切り欠け位置は回路基板の平面上で一致しているが、深さが異なる例である。図36(a)の回路基板で図1の単位セル画成部11により基本セルを画成すると、図36(b)のようになる。ここで、図36(b)の回路基板に対して、図1の等価回路生成部13により、基本セルの等価回路の適用、サブ回路への分割、及び電流制御電流源及び電圧制御電圧源の付加を行うと、図36(c)のようになる。なお、図36(c)において、左下のサブ回路及び右上のサブ回路において、GC回路を1つの並列回路にまとめているが、本発明はこれに限らず、まとめなくてもよい。
【0123】
図37(a)は第3の実施形態の実施例3に係る回路基板の縦断面図であり、図37(b)は実施形態に係る基本セルで分割画成したときの回路基板の縦断面図であり、図37(c)は図37(b)の回路基板に対して本実施形態に係る基本セルの等価回路、並びに、電流源及び電圧源の付加方法を用いたときの全体の等価回路の回路図である。図37(a)において、図36(a)と同様に、左半分では、電源層82により誘電体層90が各厚さd,d1(≒2d)で分割されているが、右半分では、電源層84の切り欠けにより各厚さd1,dで分割されている。すなわち、2つの切り欠け位置は回路基板の平面上で一致しているが、深さが異なる例である。図37(a)の回路基板で図1の単位セル画成部11により基本セルを画成すると、図37(b)のようになる。ここで、図37(b)の回路基板に対して、図1の等価回路生成部13により、基本セルの等価回路の適用、サブ回路への分割、及び電流制御電流源及び電圧制御電圧源の付加を行うと、図37(c)のようになる。図37の実施例3では、図36の実施例2に比較して、3番目の電圧制御電圧源を右下のサブ回路ではなく、左下のサブ回路に挿入したことを特徴としている。このように構成しても等価回路としては等価である。
【0124】
図38は図36の実施例2に係る等価回路に対してSPICEを用いて解析したときの等価回路を示す回路図であり、図39は図38の解析結果を示す図であって、2つの三角波信号からなる入力電圧V1並びに出力電圧V11,V12を示す波形図である。また、図40は図37の実施例3に係る等価回路に対してSPICEを用いて解析したときの等価回路を示す回路図であり、図41は図40の解析結果を示す図であって、2つの三角波信号からなる入力電圧V1並びに出力電圧V11,V12を示す波形図である。図39と図41との比較から明らかなように、波形の解析結果は同じであり、図36の等価回路と、図38の等価回路とが等価であることを実証できた。
【0125】
変形例.
以上、本発明のパワーインテグリティ解析装置について実施形態を挙げて詳細に説明したが、本発明のパワーインテグリティ解析装置は上記した実施形態に限定されるものではない。
【0126】
上記した実施形態で示した等価回路は一例であり、等価回路としては別のモデルを採用してもよい。ただし、単位セルの等価回路(基本構成)は、少なくとも全節点に接地キャパシタが接続され、全節点間にインダクタを有することが必要である。
【0127】
また、上述の実施形態で示した各サブ回路の等価回路を関係付ける方法は一例であり、各単位セルの境界条件が整合すれば、別の方法で関係付けを行ってもよい。
【0128】
図12は図7のパワーインテグリティ処理によって得られた、回路基板の別の例の全体の等価回路を示す回路図である。例えば、図5に示す回路の一部を入れ替えて、図12に示す回路を生成して関係付けを行うことも可能である。
【0129】
また、上述の実施形態では、所定の出力節点の電圧の時間変位をパワーインテグリティの出力結果として出力する例を示したが、回路基板の全体の等価回路の全節点に生じる電圧変位を出力結果として出力してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0130】
以上詳述したように、本発明に係るパワーインテグリティ解析装置及び方法並びにプログラムによれば、全節点に接地キャパシタが接続され、全節点間にインダクタが接続された回路基板全体の等価回路を生成し、当該全体の等価回路を用いてパワーインテグリティの計算を高速に行うことができる。特に、上記回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが第1の厚さから、上記第1の厚さよりも大きな第2の厚さに変化する位置があるときに、当該厚さが変化する位置である節点において、上記等価回路を互いに隣接する複数のサブ等価回路に分割して切り離し、一方のサブ等価回路の基本セルに対して当該基本セルの節点から流れる電流と等価な電流を流す電流制御電流源を付加する一方、他方のサブ等価回路の基本セルに対して当該基本セルの節点に印加される電圧と等価な電圧を印加する電圧制御電圧源を付加することにより、互いに隣接する複数のサブ等価回路どうしを関係付け、上記回路基板の等価回路を生成することができる。これにより、これにより、電源層において切り欠け等があっても、従来技術に比較して高精度でしかも高速で当該回路基板のパワーインテグリティを計算することができる。
【符号の説明】
【0131】
1…パワーインテグリティ解析装置、
10…構造情報入力部、
11…単位セル画定部、
13…等価回路生成部、
14…パワーインテグリティ計算部、
15…結果出力部、
16…記憶部、
20〜29…単位面、
30〜35…単位セル、
30−2,30−3…等価回路、
40,41…電圧制御電圧源、
42,43…電流制御電流源、
50…CPU、
51…RAM、
52…ROM、
53…プログラム、
54…通信インターフェース、
55…ハードディスクメモリ、
56…操作部、
57…ディスプレイ、
58…バス、
70…単位セル、
P,71,82,84…電源導体層(電源層)、
G1,G2,72,81,83…グランド導体層(グランド層)、
73,90〜93…誘電体層、
P1〜P3…プレーン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの電源層及び少なくとも1つのグラウンド層を含む多層構造の回路基板の上記電源層及び上記グラウンド層の形状とその配置を示す構造情報を入力する構造情報入力部と、
上記電源層及び上記グラウンド層を格子状に分割し、分割された単位面毎に対向する電源層又はグラウンド層の単位面を上記構造情報に基づいて求め、対向する2つの単位面によって挟まれた3次元領域を単位セルとして画定すると共に各単位セルの位置関係を求める単位セル画定部と、
単位セルの電気的特性を表現した単位セル等価回路の基本構成であって、全節点に接地キャパシタが接続され、全節点間にインダクタが接続された単位セル等価回路を記憶する記憶部と、
上記単位セル画定部にて画定された各単位セルに対して、上記記憶部に記憶された単位セル等価回路の基本構成を適用し、かつ、上記各単位セルの単位面の大きさと単位面間の距離とに基づいて、上記各単位セルの等価回路を構成する接地キャパシタ及びインダクタの値を決定して上記各単位セルの等価回路を生成した後、互いに隣接する単位セルの等価回路を連結することにより、上記回路基板全体の等価回路を生成する等価回路生成部と、
上記回路基板の所定の位置に電圧を印加したときに上記回路基板の他の位置に生じる電圧値を計算して出力するパワーインテグリティ計算部とを備えたパワーインテグリティ解析装置において、
上記等価回路生成部は、
上記回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが変化する位置があるときに、当該厚さが変化する位置である節点が、上記各基本セルを接続する節点に対応するように、上記記憶部に記憶された単位セル等価回路の基本構成を適用して、上記回路基板全体の等価回路を生成し、
上記回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが第1の厚さから、上記第1の厚さよりも大きな第2の厚さに変化する位置があるときに、当該厚さが変化する位置である節点において、上記等価回路を互いに隣接する複数のサブ等価回路に分割して切り離し、一方のサブ等価回路の基本セルに対して当該基本セルの節点から流れる電流と等価な電流を流す電流制御電流源を付加する一方、他方のサブ等価回路の基本セルに対して当該基本セルの節点に印加される電圧と等価な電圧を印加する電圧制御電圧源を付加することにより、互いに隣接する複数のサブ等価回路どうしを関係付け、上記回路基板の等価回路を生成することを特徴とするパワーインテグリティ解析装置。
【請求項2】
上記等価回路生成部は、上記回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが第1の厚さから、上記第1の厚さよりも大きな第2の厚さに変化する位置があるときに、上記第2の厚さの部分において電源層が存在して上記厚さが変化しないように仮定したときの仮定電流を仮定し、上記第1の厚さの電源層に流れる電流が当該電源層から上記グランド層に流れる電流と上記仮定電流とに分岐して流れるように仮定するという条件のもとで、上記電流制御電流源及び上記電圧制御電圧源を付加することを特徴とする請求項1記載のパワーインテグリティ解析装置。
【請求項3】
上記等価回路生成部は、上記回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが第1の厚さから、上記第1の厚さよりも大きな第2の厚さに変化する位置があるときに、上記第2の厚さが実質的に上記第1の厚さの2倍の厚さであるとき、上記第2の厚さの部分において電源層が存在して上記厚さが変化せず、上記第1の厚さをそれぞれ有する2つのサブ等価回路に分割するように仮定したとき、各サブ等価回路での回路基板の面に平行な2つの磁界が上記分割しないときの当該磁界に実質的に一致するという条件のもとで、上記電流制御電流源及び上記電圧制御電圧源を付加することを特徴とする請求項2記載のパワーインテグリティ解析装置。
【請求項4】
上記等価回路生成部は、
互いに隣接する第1の単位セルと第2の単位セルの単位セル等価回路を関係付ける場合に、上記第1の単位セルの単位セル等価回路に、上記第2の単位セルの単位セル等価回路において上記第1の単位セルとの境界に流れ込む電流と等価の電流を与える電流制御電流源を付加し、
上記第2の単位セルの単位セル等価回路に、上記第1の単位セルの単位セル等価回路において上記第2の単位セルとの境界に印加される電圧と等価の電圧を与える電圧制御電圧源を付加することを特徴とする請求項1乃至3のうちのいずれか1つに記載のパワーインテグリティ解析装置。
【請求項5】
上記パワーインテグリティ計算部は、上記回路基板の所定の位置に電圧を印加したときに、上記回路基板全体の等価回路の各節点に印加される電流及び各節点間に流れる電流の値を時間的に交互に計算する潜在性挿入手法(Latency Insertion Method;LIM)を用いて上記回路基板の他の位置に生じる電圧値を計算して出力することを特徴とする請求項1乃至4のうちのいずれか1つに記載のパワーインテグリティ解析装置。
【請求項6】
上記パワーインテグリティ計算部は、上記回路基板の所定の位置に電圧を印加したときに、上記回路基板全体の等価回路の各節点に印加される電流及び各節点間に流れる電流の値を、各電流と各電圧との関係を示す連立方程式を数値積分法を用いて解くことにより計算するシミュレーションプログラム(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis;SPICE)を用いて上記回路基板の他の位置に生じる電圧値を計算して出力することを特徴とする請求項1乃至4のうちのいずれか1つに記載のパワーインテグリティ解析装置。
【請求項7】
上記記憶部は、単位セルの電気的特性を表現した単位セル等価回路の基本構成であって、全節点に接地キャパシタ及び接地コンダクタンスが接続され、全節点間にインダクタ及び抵抗が接続された単位セル等価回路を記憶することを特徴とする請求項1乃至6のうちのいずれか1つに記載のパワーインテグリティ解析装置。
【請求項8】
少なくとも1つの電源層及び少なくとも1つのグラウンド層を含む多層構造の回路基板のパワーインテグリティをコンピュータにより解析するパワーインテグリティ解析方法であって、
上記コンピュータは、単位セルの電気的特性を表現した単位セル等価回路の基本構成であって、全節点に接地キャパシタが接続され、全節点間にインダクタが接続された単位セル等価回路を記憶する記憶部を備え、
上記パワーインテグリティ解析方法は、
少なくとも1つの電源層及び少なくとも1つのグラウンド層を含む多層構造の回路基板の上記電源層及び上記グラウンド層の形状とその配置を示す構造情報を入力するステップと、
上記電源層及び上記グラウンド層を格子状に分割し、分割された単位面毎に対向する電源層又はグラウンド層の単位面を上記構造情報に基づいて求め、対向する2つの単位面によって挟まれた3次元領域を単位セルとして画定すると共に各単位セルの位置関係を求めるステップと、
上記単位セル画定部にて画定された各単位セルに対して、上記記憶部に記憶された単位セル等価回路の基本構成を適用し、かつ、上記各単位セルの単位面の大きさと単位面間の距離とに基づいて、上記各単位セルの等価回路を構成する接地キャパシタ及びインダクタの値を決定して上記各単位セルの等価回路を生成した後、互いに隣接する単位セルの等価回路を連結することにより、上記回路基板全体の等価回路を生成するステップと、
上記回路基板の所定の位置に電圧を印加したときに上記回路基板の他の位置に生じる電圧値を計算して出力するステップとを含むパワーインテグリティ解析方法において、
上記等価回路を生成するステップは、
上記回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが変化する位置があるときに、当該厚さが変化する位置である節点が、上記各基本セルを接続する節点に対応するように、上記記憶部に記憶された単位セル等価回路の基本構成を適用して、上記回路基板全体の等価回路を生成し、
上記回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが第1の厚さから、上記第1の厚さよりも大きな第2の厚さに変化する位置があるときに、当該厚さが変化する位置である節点において、上記等価回路を互いに隣接する複数のサブ等価回路に分割して切り離し、一方のサブ等価回路の基本セルに対して当該基本セルの節点から流れる電流と等価な電流を流す電流制御電流源を付加する一方、他方のサブ等価回路の基本セルに対して当該基本セルの節点に印加される電圧と等価な電圧を印加する電圧制御電圧源を付加することにより、互いに隣接する複数のサブ等価回路どうしを関係付け、上記回路基板の等価回路を生成することを特徴とするパワーインテグリティ解析方法。
【請求項9】
上記等価回路を生成するステップは、上記回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが第1の厚さから、上記第1の厚さよりも大きな第2の厚さに変化する位置があるときに、上記第2の厚さの部分において電源層が存在して上記厚さが変化しないように仮定したときの仮定電流を仮定し、上記第1の厚さの電源層に流れる電流が当該電源層から上記グランド層に流れる電流と上記仮定電流とに分岐して流れるように仮定するという条件のもとで、上記電流制御電流源及び上記電圧制御電圧源を付加することを特徴とする請求項8記載のパワーインテグリティ解析方法。
【請求項10】
上記等価回路を生成するステップは、上記回路基板の電源層とグラウンド層との間の厚さ、もしくは電源層と別の電源層との間の厚さが第1の厚さから、上記第1の厚さよりも大きな第2の厚さに変化する位置があるときに、上記第2の厚さが実質的に上記第1の厚さの2倍の厚さであるとき、上記第2の厚さの部分において電源層が存在して上記厚さが変化せず、上記第1の厚さをそれぞれ有する2つのサブ等価回路に分割するように仮定したとき、各サブ等価回路での回路基板の面に平行な2つの磁界が上記分割しないときの当該磁界に実質的に一致するという条件のもとで、上記電流制御電流源及び上記電圧制御電圧源を付加することを特徴とする請求項9記載のパワーインテグリティ解析方法。
【請求項11】
上記等価回路を生成するステップは、
互いに隣接する第1の単位セルと第2の単位セルの単位セル等価回路を関係付ける場合に、上記第1の単位セルの単位セル等価回路に、上記第2の単位セルの単位セル等価回路において上記第1の単位セルとの境界に流れ込む電流と等価の電流を与える電流制御電流源を付加し、
上記第2の単位セルの単位セル等価回路に、上記第1の単位セルの単位セル等価回路において上記第2の単位セルとの境界に印加される電圧と等価の電圧を与える電圧制御電圧源を付加することを特徴とする請求項8乃至10のうちのいずれか1つに記載のパワーインテグリティ解析方法。
【請求項12】
上記パワーインテグリティを計算するステップは、上記回路基板の所定の位置に電圧を印加したときに、上記回路基板全体の等価回路の各節点に印加される電流及び各節点間に流れる電流の値を時間的に交互に計算する潜在性挿入手法(Latency Insertion Method;LIM)を用いて上記回路基板の他の位置に生じる電圧値を計算して出力することを特徴とする請求項8乃至11のうちのいずれか1つに記載のパワーインテグリティ解析方法。
【請求項13】
上記パワーインテグリティを計算するステップは、上記回路基板の所定の位置に電圧を印加したときに、上記回路基板全体の等価回路の各節点に印加される電流及び各節点間に流れる電流の値を、各電流と各電圧との関係を示す連立方程式を数値積分法を用いて解くことにより計算するシミュレーションプログラム(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis;SPICE)を用いて上記回路基板の他の位置に生じる電圧値を計算して出力することを特徴とする請求項8乃至11のうちのいずれか1つに記載のパワーインテグリティ解析方法。
【請求項14】
上記記憶部は、単位セルの電気的特性を表現した単位セル等価回路の基本構成であって、全節点に接地キャパシタ及び接地コンダクタンスが接続され、全節点間にインダクタ及び抵抗が接続された単位セル等価回路を記憶することを特徴とする請求項8乃至13のうちのいずれか1つに記載のパワーインテグリティ解析方法。
【請求項15】
請求項8乃至14のうちのいずれか1つに記載のパワーインテグリティ解析方法の各ステップを含むことを特徴とする、コンピュータにより実行可能なプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23A】
image rotate

【図23B】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate

【図38】
image rotate

【図39】
image rotate

【図40】
image rotate

【図41】
image rotate


【公開番号】特開2011−76583(P2011−76583A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48113(P2010−48113)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名 EIC電子情報通信学会2009年総合大会講演論文集(DVD) 発行日 平成21年3月4日 発行所 社団法人電子情報通信学会 該当ページ A−1−12
【出願人】(396023993)株式会社半導体理工学研究センター (150)
【Fターム(参考)】