説明

パワーステアリング装置

【課題】 ハンドルの中立剛性を向上させて、車両の安定な直進走行を可能とすると共に、ラック軸と出力軸との噛合部における衝撃を防止して破損を抑制できるようにしたパワーステアリング装置を提供するにある。
【解決手段】
ラック軸6に作用するラック軸6の軸方向の振動を減衰させるダンパ11を備えたことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーステアリング装置に係り、特に、路面の状況がハンドル側へ不快な振動となって伝わる現象や、該振動がハンドル側へ異音となって伝わる現象を抑制するようにしたパワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6乃至図8は従来技術(例えば、特許文献1に示す)の電動パワーステアリング装置を示す。図6は該電動パワーステアリング装置の外観を示す。図7は、図の矢示B―B方向断面図を示す。図8は作用を説明するための図である。
【0003】
【特許文献1】特開2003−291831
【0004】
電動パワーステアリング装置100は入力軸101と、出力軸102と、電動モータ(図示せず)を備えている。入力軸101の上端側には、ステアリングコラム104等を介してハンドル105が連結されている。又、出力軸102の下端側にはピニオンギヤ106が形成されている。
【0005】
該ピニオンギヤ106は、ラック軸107のラック108に噛合している。該ラック軸107の両端はジョイント部109を介してタイロッド110に連結されている。該タイロッド110は被操舵側に連結されている。図7に示すように、前記出力軸102にはウォームホイール111が設けられている。該ウォームホイール111には電動モータ(図示せず)の駆動軸に設けられたウォーム112が噛合している。
【0006】
前記電動モータは前記入力軸101のハンドルトルクを検出するポテンショメータ113の出力に応じて前記出力軸102を回転駆動させるものである。
【0007】
そして、運転者がハンドル105を操作すると、該ハンドル105の操舵力に応じて電動モータが出力軸102を回転駆動させる。該出力軸102の回転はピニオンギヤ106とラック108とを介してラック軸107に伝達されて該ラック軸107を軸方向へ駆動させることにより、被操舵系側へ操舵補助力を付与することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように構成された電動パワーステアリング装置100においては、ラック108とピニオンギヤ106との噛み合い量を大きくさせるために、図8に示すように、ラック108とピニオンギヤ106とを斜めに噛合させる構造になっている。
【0009】
このため、路面の凹凸の状況に応じて、ラック軸107が仮に、同8図中、一点鎖線で示すように、水平方向(ラック軸107の軸方向)へ振動した場合、ラック108とピニオンギヤ106との噛合部分において、当該振動によって、同8図中、二点鎖線で示すように、出力軸102及び入力軸101の軸方向(上下方向)の振動が発生するものである。
【0010】
そして、当該軸方向の振動が出力軸102、及び入力軸101を伝わってハンドル105側へ伝達されることにより、ハンドル105を細かく振動させて運転者に不快感を与えるだけでなく、この振動はステアリングコラム104等を通過する際にラトル音(以下、異音という。)となってハンドル105側へ伝わるものである。この異音は、運転中、運転者にとって耳障りなものであって、運転者の不快感の原因となっていた。
【0011】
又、前述のように、路面の凹凸の状況に応じて、ラック軸107が仮に、同8図中、一点鎖線で示すように、水平方向(ラック軸107の軸方向)へ振動した場合、ラック108とピニオンギヤ106との噛合部分において、ラック108とピニオンギヤ106に衝撃が加わるため、ラック108とピニオンギヤ106には、この衝撃に耐え得るだけの構造上の強度が必要になって、構造上、丈夫に形成しなければならないため、軽量化に限界があった。
【0012】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたもので、その目的は、路面の凹凸の状況がハンドルの振動や異音となって運転者側へ伝わらないようにすることにより、運転者が爽快の気分で運転できるようにすると共に、ラック軸の軸方向の振動を減衰させることにより、ラックとピニオンギヤとの噛合部分の構造上の軽量化にも寄与できるようにしたパワーステアリング装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明にかかるパワーステアリング装置は、ハンドルから操舵力が入力される入力軸と、該入力軸と同軸に設けられて該ハンドルの操舵力に応じて回転力が付与される出力軸と、両端に被操舵系が連結されるラック軸とを備え、前記出力軸に設けられたピニオンが前記ラック軸に設けられたラックに噛合することにより、前記ラック軸に対して操舵力を付与するようにしたパワーステアリング装置において、
前記ラック軸に作用するラック軸の軸方向の振動を減衰させるダンパを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るパワーステアリング装置においては、ラック軸の軸方向(水平方向)の振動は、ダンパによって抑制される。このために、ラック軸の軸方向(水平方向)の振動がハンドル側へ伝わって運転者を不快にさせたり、当該ラック軸の軸方向(水平方向)の振動が、耳障りな異音となって運転者側へ伝わることがなく、しかも、ラック軸の軸方向(水平方向)の振動は、ダンパによって抑制されるため、出力軸のピニオンギヤとラック軸のラックとの噛合部分の構造上の軽量化にも寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、油圧を用いたパワーステアリング装置にも適用できるものであるが、第1実施形態においては、本発明を電動パワーステアリング装置に適用した場合を示す。図1乃至図4は本発明の第1実施形態を示す。図1は電動パワーステアリング装置及びその周辺の外観図である。図2は図1のA―A線矢示方向断面図である。図3は図2の右側面図を示す。図4は、図3に示すダンパの拡大図である。
【0016】
図1中、一点鎖線で示すように、該電動パワーステアリング装置1は、ハンドル2によって操舵される入力軸3と、図2に示すように、該入力軸3の操舵力を検出するポテンショメータ4と、該入力軸3と同軸状に設けられた出力軸5と、該ポテンショメータ4の出力に応じて該出力軸5を回転駆動させる電動モータM(図3に示す)と、ラック軸6とを備えている。図1中、104はステアリングコラムである。
【0017】
前記出力軸5の下部には、ピニオンギヤ7が設けられている。又、前記ラック軸6にはラック8が設けられている。前記ピニオンギヤ7が前記ラック8に噛合することにより、前記出力軸5の回転がラック軸6を軸方向(水平方向)へ駆動させるようになっている。前記ラック軸6は、図1、図3に示すように、ハウジング9内に収容されると共に、その両端は該ハウジング9内から突出してタイロッド10,10に連結され、且つ、該タイロッド10を介して被操舵側に連結されている。
【0018】
図3、図4に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置1には、ダンパ11が設けられている。該ダンパ11は、ラック軸6の軸方向(水平方向)への振動を減衰させるものである。前記ダンパ11は、前記ラック軸6の周囲に設けられたダンパ室12と、前記ラック軸6の外周から径方向へ突出して設けられて前記ダンパ室12を第1、第2ダンパ室13、14に区画するピストン15と、前記ダンパ室12に充填された作動流体16と、前記第1、第2ダンパ室13、14を連通させて前記作動流体を流通させる流路抵抗部17(図4に示す)とを備えている。
【0019】
図4に示すように、前記ダンパ室12は、前記ハウジング9の内面から径方向内側へ突出して前記ラック軸6の外周に接するように設けられた一対の隔壁18、19と、ラック軸6と、ハウジング9によって囲まれて形成されている。同図4に示すように、前記各隔壁18、19とピストン15との距離Lを、前記ラック軸6が移動する距離以上に離間して設けることにより、前記ラック軸6が軸方向へ作動する際に、前記ピストン15は前記隔壁18、19に衝突して破損することがない。
【0020】
前記流路抵抗部17はオリフィスによって構成することができる。図4中、Sは機密性を保持するシール部材である。該シール部材Sは、隔壁18、19とラック軸6との間を気密に保ち、又、ハウジング9の内面とピストン15の間を気密に保っている。又、作動流体16としては、油、水等の非圧縮性の流体が好ましい。
【0021】
次に、入力軸3、出力軸5、トーションバー21等の具体的な構成について説明する。図2に示すように、前記入力軸3、出力軸5、及びトーションバー21は同軸状に設けられている。前記入力軸3は中空状に形成されて、トーションバー21が挿入されている。 該トーションバー21は、上端側がピン22によって入力軸3に取り付けられ、下端側は該入力軸3内から下方へ突出している。
【0022】
前記出力軸5には、上面に開口する有底の凹部23が形成されている。該出力軸5の途中には前記ウォームホイール24が設けられ、下端側には前記ピニオンギヤ7が形成されている。
【0023】
前記入力軸3及びトーションバー21の下端側は、前記出力軸5の凹部23内に挿入されている。そして、前記トーションバー21の下端側はセレーション25を介して出力軸5に連結されている。
【0024】
前記入力軸3の下端側の外周と、出力軸5の上端側の外周にはスリーブ26が嵌合されている。該スリーブ26の内周には雌型のヘリカルスプライ27ンが形成される一方、前記入力軸3の外周には雄型のヘリカルスプライン28が形成されている。スリーブ26のヘリカルスプライン27と入力軸3のヘリカルスプライン28とは噛合している。又、前記スリーブ26には軸方向に向けて長孔状の軸方向溝29が形成されている。該軸方向溝29には、前記出力軸5に圧入されたピン30が挿入されている。
【0025】
このように形成されることにより、図1に示すハンドル2の操舵力によって入力軸3が回転してトーションバー21が捩れることにより、スリーブ26がヘリカルスプライン27、28からなるカム機構の螺旋軌道によって軸方向(上下方向)へ移動することになる。
【0026】
そして、図2に示すように、前記スリーブ26の外周には凹部31が形成され、この凹部31にはポテンショメータ4の検出レバー32が挿入されている。該検出レバー32は該凹部31に挿入されることにより、スリーブ26の軸方向への移動量をポテンショメータ4が検出できるものである。このため、スリーブ26が前述のように軸方向へ移動した場合には、この移動は前記ポテンショメータ4が検出することにより、ハンドル2の操舵力を検出できることになる。
【0027】
前記電動モータM(図3に示す)は前記ポテンショメータ4によって検出された前記ハンドル2の操舵力に応じて前記出力軸5を回転駆動するもので、該電動モータMの駆動軸に設けられたウォーム33が、出力軸のウォームホイール24に噛合している。
【0028】
ラック軸6のラック8は、ラック押付機構34によって、出力軸5のピニオンギヤ7に常時押し付けられるように付勢されている。
【0029】
前記入力軸3、ポテンショメータ4はギヤケース35に支持されている。該ギヤケース35の上部にはボールベアリング36が設けられている。該ボールベアリング36によって入力軸3は回転自在に支持されている。又、前記出力軸5はギヤボックス37に支持されている。該ギヤボックス37の上部、及び下部には、ボールベアリング38、39が設けられている。該ボールベアリング38、39によって出力軸5は回転自在に支持されている。
【0030】
又、該ギヤボックス37の上端は拡径状に広がって、前記ギヤケース35の下端に接続されている。ギヤケース35の下端と、ギヤボックス37の上端とによって拡径状の空間40が形成されて、該空間40内に前記ウォーム33、及びウォームホイール24が収容されて互いに噛合している。
【0031】
又、図3に示すように、ギヤボックス37が水平に延設されることにより、前記ラック軸6を収容するハウジング9になっている。該ハウジング9の両端と前記タイロッド10との間には、保護部材Gが取り付けられている。該保護部材Gは筒状の蛇腹状に形成されることにより、軸方向への伸縮が可能になっている。従って、前記ハウジング9に対して、前記ラック軸6の軸方向(水平方向)への移動を許容できる構造になっている。
【0032】
次に作用について説明する。車両が路面上を走行することにより、路面のうねりのような凹凸の状況等に応じて、図3に示すように、ラック軸6を軸方向(水平方向)に振動させようとする外力F1―F2が作用したとする。
【0033】
仮に、ラック軸6が前記外力F1によって軸方向の左方向へ移動しようとすると、図4に示すように、ピストン15が隔壁18に接近して第1ダンパ室13の容積が縮小することにより、該第1ダンパ室13内の作動流体16が流路抵抗部17を通って第2ダンパ室14へ移動する。しかし、作動流体16は流路抵抗部17を通過する途中で流路抵抗を受けることにより、第1ダンパ室13から第2ダンパ室14へ円滑に移動できない。
【0034】
その結果、ラック軸6は軸方向の左方向へ円滑に移動できないことになる。又、仮に、図3に示すように、該ラック軸6を軸方向の右方向へ移動させようとする外力F2がラック軸6に作用したとしても、前述と同様に、該ラック軸6は軸方向の右方向へ円滑に移動できないことになる。つまり、該ラック軸6の軸方向への振動が減衰することになる。
【0035】
このため、路面の状況等に応じて、ハンドル2が不用意にぶれるという現象が抑制されて、ハンドル2が安定感良く、中立に維持されることにより、中立剛性感が向上する。
【0036】
又、路面の状況に応じてラック軸6が軸方向へ振動しないため、当該振動が運転者側へ伝わったり、当該振動が異音となって運転者側へ伝わることがないため、運転者は爽快な気分で車両を運転することができる。
【0037】
又、前述のように、ラック軸6が軸方向へ振動する現象が抑制されることにより、ラック軸6のラック8が出力軸のピニオンギヤ7に衝突する現象が抑制される。このため、ラック8とピニオンギヤ7とを構造上、厚肉に強固に形成する必要がなく、構造上、軽量化を図ることができる。
【0038】
図5は、第2実施形態を示す。この第2実施形態の特徴は、第1ダンパ室13と第2ダンパ室14とを配管51によって接続し、該配管51の途中に、流路抵抗部17としてのオリフィスを設けた点にある。この第2実施形態においては、ピストン15が仮に図中左側へ移動した場合には、第1ダンパ室13内の作動流体16は配管51を流通すると共に、流路抵抗部17を通過する際に流路抵抗を受けることによって、第1実施形態と同様の作用によって、ラック軸6の不用意な振動が抑制されることにより、ハンドル2が不用意にぶれることなく、ハンドル2が中立に維持されることにより、ハンドル2の中立剛性感が向上する。
【0039】
又、この第2実施形態においては、路面の状況に応じてラック軸6が軸方向へ振動しないため、ラック8とピニオンギヤ7との間の衝撃が抑制されることにより、ラック8とピニオンギヤ7とを構造上、厚肉に強固に形成する必要がなく、構造上、軽量化を図ることができる。
【0040】
更にまた、この第2実施形態においては、路面の状況に応じてラック軸6が軸方向へ振動しないため、当該振動が運転者側へ伝わったり、当該振動が異音となって運転者側へ伝わることがないため、運転者は爽快な気分で車両を運転することができる。
【0041】
尚、前記流路抵抗部17を車両の速度に応じて、可変にすることができる。例えば、車両の速度が高速になるに従って、流路抵抗部17を構成するオリフィスの隙間を狭くすることにより、該流路抵抗部17の流路抵抗を大きくすることができる。このようにした場合、車両が高速になった際、車両の安定感の良い直進走行性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】電動パワーステアリング装置及びその周辺の外観図である。
【図2】図1のA―A線矢示方向断面図である。(第1実施形態)
【図3】図2の右側面図である。(第1実施形態)
【図4】図3の一部拡大図である。(第1実施形態)
【図5】図4と同様の図である。(第2実施形態)
【図6】電動パワーステアリング装置及びその周辺の外観図である。(従来技術)
【図7】図8のB―B線矢示方向断面図である。(従来技術)
【図8】出力軸のピニオンギヤとラック軸のラックとの噛合の状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 パワーステアリング装置
2 ハンドル
3 入力軸
5 出力軸
6 ラック軸
7 ピニオンギヤ
8 ラック
11 ダンパ
12 ダンパ室
13 第1ダンパ室
14 第2ダンパ室
15 ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルから操舵力が入力される入力軸と、該入力軸と同軸に設けられて該ハンドルの操舵力に応じて回転力が付与される出力軸と、両端に被操舵系が連結されるラック軸とを備え、前記出力軸に設けられたピニオンが前記ラック軸に設けられたラックに噛合することにより、前記ラック軸に対して操舵力を付与するようにしたパワーステアリング装置において、
前記ラック軸に作用するラック軸の軸方向の振動を減衰させるダンパを備えたことを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
前記ダンパは、前記ラック軸の周囲に設けられたダンパ室と、前記ラック軸に設けられて前記ダンパ室を第1、第2ダンパ室に区画するピストンと、前記ダンパ室に充填された作動流体と、前記第1、第2ダンパ室を連通させて前記作動流体を流通させる流路部とを備え、
該流路部は、該流路部を流通する前記作動流体に対して流路抵抗となることを特徴とする請求項1に記載のパワーステアリング装置。
【請求項3】
前記流路部は、オリフィスによって構成されたことを特徴とする請求項2に記載のパワーステアリング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate