説明

パワー半導体モジュールとそれを適用した電力変換装置

【課題】18in1モジュールを並列接続して、大容量のマトリクスコンバータ装置を構成すると、配線が複雑になり、装置が大型で、高コストとなる。また、モジュールの歩留まりも低い。
【解決手段】パワー半導体モジュールにおいて、双方向スイッチを3個搭載し、前記3個の双方向スイッチ各々の一方の端子を共通に接続して得られた第1の外部端子と、前記3個の双方向スイッチ各々の他方の端子を接続して得られた第2〜第4の外部端子とを備え、前記各端子を1列状に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置特にマトリクスコンバータ回路に適用するパワー半導体モジュール及びそれを適用した電力変換装置の構成法に関する。
【背景技術】
【0002】
図6に交流電源ACPから任意の周波数の交流を直流回路を介さずに作り出す電力変換回路であるマトリクスコンバータの回路例を示す。本回路は一般的なAC−DC−AC変換回路と比較して直流回路が省略できるため、小型化や電解コンデンサレス化による長寿命化が可能といった特長を有する。
ACPが3相交流電源でそれぞれがR相、S相、T相である。C1、C2、C3が入力フィルタ用コンデンサ、LR、LS、LTが入力フィルタ用のリアクトル、MCがマトリクスコンバータ変換器部、Mがモータなどの負荷である。変換器部MCにおいて、S1〜S9が双方向スイッチ素子で、図7(a)に示すような逆耐圧を有するIGBTを逆並列に接続する構成や、図7(b)、図7(c)に示すように逆耐圧を有しないIGBTとダイオードとの組み合わせで実現できる。
【0003】
また図6のシステムを構築するにあたり、変換器部MCに適用するパワー半導体モジュールは、装置の小型化と、各素子間の配線の複雑化を解消するために、一般に小型化と各素子間の配線を省略化するために、18個の逆阻止形の素子(または逆耐圧を有しないIGBTを使用する場合は36個の素子)を1つのパワー半導体モジュールに内蔵したもの(18in1モジュール)が特許文献1に記載されている。
【0004】
図8に、18in1モジュールの概略構成図(平面図)例を示す。モジュールMJの上部にR相、S相、T相の出力端子R、S、T、モジュール下部にU相、V相、W相の出力端子U、V、Wが設置され、モジュール内部に18個の逆耐圧を有するIGBTチップQTが図6の回路図に従い搭載された構成である。
図9は、18in1モジュールを3個(M1、M2、M3)並列接続した時の配線図である。3個のモジュールの入力端子R、S、T同士及び出力端子U、V、W同士はそれぞれ並列接続される。
従来のマトリクスコンバータの回路例や図8のマトリクスコンバータ用の18in1モジュール例の詳細については、特許文献1に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−218205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、18in1モジュールの場合、1モジュール内に18個の素子(または36個の素子)を搭載しているため、DC−AC変換器などに一般的に適用されている2in1モジュール(1モジュール内に1相分となる上下アームのIGBTとダイオードの逆並列回路を搭載)と比べて、必然的に歩留まりが悪くなり、その結果モジュールがコストアップとなる課題を有する。またシステムの大容量化のために、図8のモジュールを多数個並列接続すると(図9に3並列化した場合の例を示す)、各U、V、Wの出力端子間及び各R、S、Tの入力端子間をそれぞれ接続する必要があるため、必然的に配線構造が複雑になるといった課題を有する。
本発明は、これらの課題を解消すること、即ちモジュールの歩留まりの向上と配線構造の容易化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、第1の発明においては、電力変換装置に適用するパワー半導体デバイスを搭載したモジュールであって、正逆両方向の電流を遮断する双方向スイッチ3個と、前記3個の双方向スイッチ各々の一方の端子を共通に接続して得られた第1の外部端子と、前記3個の双方向スイッチ各々の他方の端子を接続して得られた第2〜第4の外部端子と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
第2の発明においては、第1の発明における前記双方向スイッチは、逆阻止型半導体スイッチ素子を逆並列接続した構成であることを特徴とする。
【0009】
第3の発明においては、第1の発明における前記双方向スイッチは、ダイオードを逆並列接続した半導体スイッチ素子を逆直列接続した構成であることを特徴とする。
【0010】
第4の発明においては、第1〜第3の発明において、前記第1〜第4の外部端子を一列状に配置したことを特徴とする。
【0011】
第5の発明においては、第1〜第3の発明において、前記第1〜第4の外部端子を一列状に配置し、前記第1の外部端子を、一列状の配置の端部に設けたことを特徴とする。
【0012】
第6の発明においては、電力変換装置において、第1〜第5の発明に記載のパワー半導体モジュールの第1〜第4の各端子が各々同列状に並ぶように前記パワー半導体モジュールを1列状に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、パワー半導体モジュールにおいて、双方向スイッチを3個搭載し、前記3個の双方向スイッチ各々の一方の端子を共通に接続して得られた第1の外部端子と、前記3個の双方向スイッチ各々の他方の端子を接続して得られた第2〜第4の外部端子とを備え、前記各端子を1列状に配置している。
この結果、マトリクスコンバータシステムを構築する際、各モジュール間の配線が容易に実現できるとともに、モジュールを多並列接続することによる変換器の大容量化が容易に実現可能となる。さらに各モジュールに内蔵しているデバイス数は6素子であるため、従来の18in1モジュールと比較して歩留まりの向上を図ることが可能である。また、以上によって、マトリクスコンバータ装置の低コスト化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施例を示す回路図である。
【図2】本発明の第2の実施例を示す概観図である。
【図3】本発明を用いた第1の配線図例である。
【図4】本発明を用いた第2の配線図例である。
【図5】本発明を用いた第3の配線図例である。
【図6】マトリクスコンバータ装置の回路構成例である。
【図7】双方向スイッチの回路構成例を示す。
【図8】従来の18in1モジュールの構造例である。
【図9】従来の18in1モジュールを用いた並列接続例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の要点は、パワー半導体モジュールにおいて、双方向スイッチを3個搭載し、前記3個の双方向スイッチ各々の一方の端子を共通に接続して得られた第1の外部端子と、前記3個の双方向スイッチ各々の他方の端子を接続して得られた第2〜第4の外部端子とを備え、前記各端子を1列状に配置している点である。
【実施例1】
【0016】
図1に、本発明の第1の実施例を示す。
図1(a)は、モジュール端子として4端子(A、B、C、D)を設け、端子A、端子B、端子Cの各端子と端子Dとの間に、各々双方向スイッチを接続した構成である。端子Aと端子Dとの間には、逆阻止型IGBTRB1とRB2を逆並列接続した双方向スイッチが、端子Bと端子Dとの間には、逆阻止型IGBTRB3とRB4を逆並列接続した双方向スイッチが、端子Cと端子Dとの間には、逆阻止型IGBTRB5とRB6を逆並列接続した双方向スイッチが、それぞれ接続された構成である。
【0017】
図1(b)は、図1(a)の双方向性スイッチの代わりに逆耐圧を有しないIGBTとダイオードの逆並列接続回路を逆直列接続した構成である。即ち、端子Aと端子Dとの間には、IGBTQ1とダイオードD1の逆並列回路と、IGBTQ2とダイオードD2の逆並列回路とが逆直列接続された双方向スイッチが、端子Bと端子Dとの間には、IGBTQ3とダイオードD3の逆並列回路と、IGBTQ4とダイオードD4の逆並列回路とが逆直列接続された双方向スイッチが、端子Cと端子Dとの間には、IGBTQ5とダイオードD5の逆並列回路と、IGBTQ6とダイオードD6の逆並列回路とが逆直列接続された双方向スイッチが、それぞれ接続された構成である。
【0018】
図1(C)は、図1(b)の各双方向スイッチの構成で、ダイオードが逆並列接続されたIGBT同士を逆直列接続する時の逆直列接続の接続方向を逆にした構成である。
これらの構成は、端子DからA、B、Cの各端子を見た場合に全て同一の回路機能となっているため、図6に示したマトリクスコンバータの回路を構成する場合、3個のモジュールを用いて、各モジュールのD端子をそれぞれ入力側の端子R、S、Tとした場合、各モジュールの端子A同士、端子B同士、端子C同士をそれぞれ接続することにより、これら3端子は出力端子U、V、Wとすることができる。また各モジュールの端子Dをそれぞれ出力側端子U、V、Wとした場合は、各モジュールの端子A、端子B、端子Cはそれぞれ入力端子R、S、Tとすることができる。
【実施例2】
【0019】
図2に、本発明の第2の実施例を示す。
図1(a)〜(c)の回路をモジュール化した場合の出力端子の配列を示したものである。半導体チップを搭載した基板BPと樹脂ケースCASEの上面に1列状に配置した主回路端子A〜Dとゲート駆動端子GA、GBを配している。ここで端子Dは、後述の図3〜図5に示すように端部に設置することがより有効であるが、必ずしも端部に設置する必要はない。
【実施例3】
【0020】
図3に、本発明の第3の実施例を示す。
図3は、図2のモジュールを3個使用してマトリクスコンバータを構成した場合の配線図例である。各モジュールの端子Dを交流入力R、S、T相とした場合、端子A、端子B、端子Cは交流出力U、V、W相となるが、本モジュール構成のように、第1〜第4の外部端子を一列状に配置し、さらに第1〜第4の各端子が各々同列状に並ぶように配置することにより、端子A同士、端子B同士、端子C同士は直線状の導体30〜32で結線可能となる。この結果、全体の配線構造が簡易化され、従来の18in1モジュールを適用した場合と同様の配線数(6本)で構築可能となる。
【実施例4】
【0021】
図4に、本発明の第4の実施例を示す。
図2のモジュールを9個使用してマトリクスコンバータを構成した場合の配線図例である。
システムの大容量化のためにモジュールを多並列接続する場合の例(図では3並列の場合を示している)を示す。図4は本発明のモジュールをR相3個、S相3個、T相3個の順に横並びに配置した構造で、端子Dは並列接続されるモジュール間で接続する必要はあるが、端子A、端子B、端子Cは各端子間同士を直線状の導体33〜35で接続するだけで回路を構成することができる。従来の18in1モジュールの場合の配線構造例(図9)と比較して簡易化が図れる。
【実施例5】
【0022】
図5に、本発明の第5の実施例を示す。
本発明のモジュールをR相、S相、T相に1個ずつ横並びに配置して一つのマトリクスコンバータ回路を構成し、さらにこのマトリクスコンバータ回路を3ユニット並列接続した場合の構造である。配線の簡易化が図れることは、第4の実施例と同様である。
尚、本実施例では、パワー半導体デバイスとしてIGBTを用いた例を示したが、MOSFETやその他の自己消弧形デバイスでも実現可能である。
また、モジュールの構成上、図中において入力側のR相、S相、T相と、出力側のU相、V相、W相を入れ替えて適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、双方向スイッチを使用したモジュールの構成であり、変換装置としては、マトリクスコンバータへの適用に限らず、単相交流チョッパ、3レベルインバータ、3レベルコンバータなどへの適用が可能である。
【符号の説明】
【0024】
ACP・・・交流電源 LR、LS、LT・・・リアクトル
C1〜C3・・・コンデンサ S1〜S9・・・交流スイッチ
MC、M1〜M2・・・マトリクスコンバータ変換部 M・・・モータ
MJ・・・モジュール QT・・・IGBTチップ
RB1〜RB6・・・逆阻止型IGBT D1〜D6・・・ダイオード
Q1〜Q6・・・IGBT MN・・・モジュール外観
BP・・・基板 CASE・・・モジュールケース
GA、GB・・・ゲート端子 A、B、C、D・・・端子
R、S、T・・・入力端子 U、V、W・・・出力端子
30〜32、33〜35・・・導体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換装置に適用するパワー半導体デバイスを搭載したモジュールであって、正逆両方向の電流を遮断する双方向スイッチ3個と、前記3個の双方向スイッチ各々の一方の端子を共通に接続して得られた第1の外部端子と、前記3個の双方向スイッチ各々の他方の端子を接続して得られた第2〜第4の外部端子と、を備えたことを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項2】
前記双方向スイッチは、逆阻止型半導体スイッチ素子を逆並列接続した構成であることを特徴とする請求項1に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項3】
前記双方向スイッチは、ダイオードを逆並列接続した半導体スイッチ素子を逆直列接続した構成であることを特徴とする請求項1に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項4】
前記第1〜第4の外部端子を一列状に配置したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項5】
前記第1〜第4の外部端子を一列状に配置し、前記第1の外部端子を、一列状の配置の端部に設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュールの第1〜第4の各端子が各々同列状に並ぶように前記パワー半導体モジュールを1列状に配置したことを特徴とする電力変換装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−120376(P2011−120376A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275450(P2009−275450)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】