説明

パンの製造方法

【課題】 多量の難消化性澱粉を添加することにより、混捏したパン生地から伸展性、膨張性および弾力性が失われることに起因して、このパン生地を焼成したパンがボリュームの小さいものになり、形状が安定せずに均一性を欠いたり、またはクラストに亀裂が発生したりすることを防止し、または抑制することのできるパンの製造方法を提供する。
【解決手段】 パン生地の混捏工程で原料粉として小麦粉および難消化性澱粉を添加するパンの製造方法において、該小麦粉の一部として小麦蛋白質量が15質量%を超える高蛋白質含有量の超強力粉を添加するとともに、活性グルテンおよびグリアジンを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン生地の混捏工程で原料粉として小麦粉および難消化性澱粉を添加するパンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、難消化性澱粉(レジスタントスターチ)は「健康な人の小腸内で消化,吸収されない澱粉及び部分分解物の総称」と定義され、食物繊維又は類似の性質を有していることが知られており、近年、その生理的意義が注目されている。難消化性澱粉が注目される理由には、(イ)近年の食生活の洋風化に伴い、肥満症などの生活習慣病の予防因子である食物繊維の摂取量が低下傾向にあること、(ロ)更に近年の研究で、食後の血糖値上昇が大きく長く継続することにより、体重の増加だけでなく肥満,糖尿病などの生活習慣病のリスクがアップすることが知られるようになり、その指標であるGI値(グリセミックインデックス)に対する消費者の認知度が高まっているが、難消化性澱粉を添加することによりGI値の低減が図られる等が挙げられる。
そして、健康志向やダイエットブームを背景にし、難消化性澱粉の整腸作用、便通作用、血糖値上昇抑制作用、コレステロール低下作用、脂肪蓄積抑制作用等を利用することを目的として、有効な難消化性澱粉の開発とともに、パン生地に難消化性澱粉を添加するパンの製法が検討されている。
【0003】
従来から、パンの製造方法においては、パン生地の混捏工程で小麦粉の一部を各種の澱粉に置き換えて添加する技術が存在する。例えば、小麦粉の一部をα化澱粉に置き換えることにより、α化澱粉の保水性を利用して、しっとりした柔らかいパンを製造する方法(特許文献1参照)や、同じくある種の化工澱粉を添加することにより、もちもちした弾力感と歯ごたえのあるパンを製造する方法(特許文献2参照)や、同じく化工澱粉を添加することにより、歯切れが良好な軽い食感のパンを製造する方法(特許文献3参照)等々である。
【0004】
また、従来においては、パン生地の混捏工程で小麦粉の一部を難消化性澱粉に置き換えて添加するパンの製法も開発されている(特許文献4乃至10参照)。
具体的には、例えば、アミロース含量が30重量%以上の澱粉を耐圧性密閉容器内で減圧してから、蒸気等によって加圧状態下で湿熱処理することにより得られ、食物繊維含量が30重量%以上である澱粉素材の技術がある(特許文献4,5参照)。
また、約80%以上のアミロース含量を有し、化学的に修飾されていないトウモロコシ耐性澱粉を含有する食物繊維を高含量で含むパン等の食品組成物の技術がある(特許文献6参照)。
【0005】
更に、40重量%以上のアミロース含有率および10〜80重量%の湿分含有率を有する高アミロース澱粉を60〜160℃の温度で加熱することにより得られ、12%以上の食物繊維含有率の耐性粒状澱粉の技術がある(特許文献7参照)。
更にまた、ジャガイモ、タピオカ、トウモロコシ等の澱粉をα―アミラーゼ等の澱粉分解酵素によって部分的に加水分解して得た中間生成物、又は澱粉顆粒の水懸濁液をゲル化温度下で酸で処理した酸希釈澱粉を温水に溶解し、イソアミラーゼ、プルラナーゼ等の酵素によって脱分枝化し、老化させてから、酵素を不活性化し、若しくは酵素を不活性化してから老化させ、噴霧乾燥して得られる難消化性澱粉の技術がある(特許文献8,9参照)。
また、アミロース含量10〜30%を有する澱粉を澱粉分解酵素で限定加水分解した後、脱分枝化酵素を加えて反応させることにより得られる、水不溶性難消化性澱粉の技術がある(特許文献10参照)。
更には、難消化性澱粉とは異なる素材であるが、上記難消化性澱粉と同様の作用・効果を奏することが期待される素材として水溶性難消化性デキストリンが開発され、且つこれをパン生地の混捏工程で小麦粉の一部に置き換えて添加するパンの製法が開発されてきている(特許文献11乃至14参照)。
【0006】
【特許文献1】特開昭62−104536号公報
【特許文献2】特開平10−295253号公報
【特許文献3】特開平11−9174号公報
【特許文献4】特開平10−195104号公報
【特許文献5】特開平10−195105号公報
【特許文献6】特表平8−504583号公報
【特許文献7】特開平9−12601号公報
【特許文献8】特開平10−191931号公報
【特許文献9】特開平8−56690号
【特許文献10】特開2004−290176号公報
【特許文献11】特開平4−51840号公報
【特許文献12】特開平10−243777号公報
【特許文献13】特開2001−45960号公報
【特許文献14】特開平6−70670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、この難消化性澱粉を添加する製法においては、該製法によるパンに前記難消化性澱粉の各種の作用に由来する効能・効果の奏功を期待するためには、多量の難消化性澱粉を添加する必要がある。
しかし、このように多量の難消化性澱粉を添加すると、混捏したパン生地の小麦蛋白質量の割合が小さくなるために、パン生地から伸展性、膨張性および弾力性が失われ、オーブンスプリング(窯伸び)の小さいパン生地となる。従って、このパン生地を焼成したパンは、ボリュームが小さく、形状が安定せずに均一性を欠き、またクラストに亀裂が発生したりする。そして、これらの弊害は、機械的大量生産によるパンの製造方法において著しい。
また、多量の難消化性澱粉を添加すると、焼成したパンは、すえたような澱粉臭が強くなり、また小麦粉醗酵風味を欠くようになる等の問題があった。
さらに、本発明は、上記のボリュームが小さい、形状が安定せず均一性を欠く、クラストに亀裂が発生するという弊害を解決するために、活性グルテンを添加するが、これにより、焼成したパンの弾力が強く、かつ食感が重くなるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、機械耐性生地を製造することにより、機械的大量生産によるパンの製造方法においても、上述した多量の難消化性澱粉を添加することにより、混捏したパン生地から伸展性、膨張性および弾力性が失われることに起因して、このパン生地を焼成したパンがボリュームの小さいものになり、形状が安定せずに均一性を欠いたり、またはクラストに亀裂が発生したりすることを防止し、または抑制することのできるパンの製造方法を提供することを目的としている。
また、本発明は、多量の難消化性澱粉を添加したとしても、焼成したパンがいやな澱粉臭がなく、小麦粉の焙焼香と醗酵風味を有し、また甘味を有するようになるパンの製造方法を提供することを目的としている。
さらに、本発明は、多量の難消化性澱粉を添加するとともに活性グルテンを添加することにより、焼成したパンの弾力が強く、かつ食感が重くなることを防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するための本発明のパンの製造方法は、パン生地の混捏工程で原料粉として小麦粉および難消化性澱粉を添加するパンの製造方法において、該小麦粉の一部として小麦蛋白質量が15質量%を超える高蛋白質含有量の超強力粉を添加するとともに、活性グルテンおよびグリアジンを添加する構成としている。
【0010】
これにより、多量の難消化性澱粉を添加することにより生じる混捏したパン生地の小麦蛋白質量の不足分を補うことができるようになる。即ち、多量の難消化性澱粉を添加しても、混捏したパン生地は伸展性、膨張性および弾力性を維持し、このパン生地を焼成したパンにおいては、ボリュームが小さくなり、形状が安定せずに均一性を欠いたり、またはクラストに亀裂が発生したりすることが防止され、または抑制される。
また、活性グルテンを添加することにより、超強力粉と相俟って、多量の難消化性澱粉を添加して混捏したパン生地の小麦蛋白質量の不足分を補うことにより、該パン生地の弾力性を回復することがより確実に可能となる。そして、該パン生地を焼成したパンは、ボリュームがあり、形状が均一で安定し、またクラストに亀裂が発生することなくきれいな外観を有するようになる。
さらに、グリアジンを添加するので、超強力粉および活性グルテンを添加することにより生じる弊害を回避できる。即ち、超強力粉および活性グルテンを添加することにより、焼成したパンが強い弾力感と引きを感じさせるタフな食感となり、硬くて歯切れが悪くなり、口当たりが重くなり、また口溶けが悪くなることがあるが、これが回避される。
【0011】
そして、必要に応じ、前記超強力粉は前記小麦粉のうちの17質量%〜27質量%の量を使用する構成としている。20質量%〜24質量%の量を使用することがより望ましい。これにより、適当量の活性グルテンおよびグリアジンを添加する構成と相まって、多量の難消化性澱粉を添加して混捏したパン生地の小麦蛋白質量の不足分を補うことが、より確実に実現されるようになる。
また、活性グルテンを過剰に添加する必要がなく、このことに起因して生じる、焼成したパンのクラストが硬くて噛み切れなくなるとか、クラムも引きと弾力が過度に強くなって、口当たりが重くなるとか、口溶けが悪くなるとかの現象も、より確実に回避することができるようになる。
超強力粉の添加量がこれよりも多過ぎるときには、パン生地中の小麦蛋白質量が多くなり過ぎて、該パン生地を焼成したパンは、過度の弾力感と引きを感じさせるタフな食感となり、硬くて歯切れが悪く、口当たりおよび口溶けも悪くなる。これに対し、超強力粉の添加量がこれよりも少な過ぎるときには、活性グルテンを多めに添加しないと、前記本発明の効果を奏しなくなるし、また活性グルテンの添加量が多くなり過ぎると、前記弊害が生じる。
上述した本発明の構成により、多量の難消化性澱粉を添加したとしても、機械耐性生地を製造することができるようになり、機械的大量生産によるパンの製造方法においても、上述した本発明の製パン性及び品質の改善効果を奏するようになる。
【0012】
そしてまた、必要に応じ、前記超強力粉は、前記難消化性澱粉を添加する工程で添加して一緒に混捏する構成としている。超強力粉は、上述した小麦蛋白質量の不足分を補うことを目的として添加するため、難消化性澱粉を添加する工程で添加して一緒に混捏することが望ましい。こうすることにより、超強力粉を添加することによる前記効果をより有効に奏することができる。
【0013】
そして、必要に応じ、前記難消化性澱粉は前記原料粉全体に対して10質量%〜40質量%の量を添加する構成としている。10〜30質量%の量を添加することがより望ましく、さらに15〜25質量%の量を添加することがより一層望ましい。難消化性澱粉は、上述もしたように、整腸作用、便通作用、血糖値上昇抑制作用、コレステロール低下作用、脂肪蓄積抑制作用等を呈する利点があり、添加量はできるだけ多い方がその効果は大きいが、反面上記の弊害を生じる。そのため、このような難消化性澱粉の添加量にすることにより、パンに、難消化性澱粉を使用する効能・効果を奏するとともに、パンに多量の難消化性澱粉を添加することから生じる前記弊害をより一層解消することができるようになる。
【0014】
また、必要に応じ、前記活性グルテンは前記原料粉全体に対して1質量%以上の量を添加する構成としている。1.2質量%以上の量を添加することがより望ましく、1.5質量%以上の量を添加することがより一層望ましい。また、活性グルテンは、前記活性グルテンを過剰に添加することに起因して生じる弊害を回避するためには、適宜量のグリアジンを併用することを前提として、原料粉全体に対して3質量%以下の量を添加することが望ましく、2.5質量%以下がより望ましく、2.2質量%以下がより一層望ましい。
このように活性グルテンを添加することにより、上述したとおり超強力粉を併用する構成等と相俟って、多量の難消化性澱粉を添加して混捏したパン生地の小麦蛋白質量の不足分を補うことにより、該パン生地の弾力性を回復することがより確実に可能となる。そして、該パン生地を焼成したパンは、ボリュームがあり、形状が均一で安定し、またクラストに亀裂が発生することなくきれいな外観を有するようになる。
活性グルテンの添加量がこれよりも少なくなると、原料の種類やパン製法如何によっては、前記改善効果が乏しくなる。
【0015】
更に、必要に応じ、前記グリアジンは前記原料粉全体に対して0.1質量%以上の量を添加する構成としている。0.5質量%以上の量を添加することがより望ましく、2質量%以上の量を添加することがより一層望ましい。また、グリアジンは、原料粉全体に対して5質量%以下、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下とすることが望ましい。これよりも多く添加しても、その効果が顕著に現れるわけではない。
このようにグリアジンを添加することにより、上述したとおり、前記超強力粉及び活性グルテンを添加することにより、焼成したパンが強い弾力感と引きを感じさせるタフな食感となり、硬くて歯切れが悪くなり、口当たりが重くなり、また口溶けが悪くなるのを確実に回避することができるようになる。
【0016】
更にまた、必要に応じ、前記活性グルテンおよびグリアジンは、前記難消化性澱粉を添加する工程で添加して一緒に混捏する構成としている。こうすることにより、活性グルテンおよびグリアジンを添加したことによる効果をより有効に奏することができるようになる。即ち、このように活性グルテンおよびグリアジンを添加することにより、混捏したパン生地に適度な伸展性、膨張性および弾力性を付与し、このパン生地を焼成したパンの食感が重くなるのを回避しつつ、該焼成パンをボリュームがあり、安定した均一な形状のものとし、またクラストに亀裂が発生することを抑制することができるようになる。
【0017】
そしてまた、必要に応じ、前記パン生地の混捏工程として中種混捏工程およびその後の本捏工程を備えた中種法を採用するとともに、当該中種混捏工程で前記難消化性澱粉を添加する構成としている。本発明において、パン生地を製造する方法としては、中種法、直捏法、短時間製法、ノータイム法、液種法、その他のパン製法を採用することができるが、長時間の醗酵によりパン生地(中種を含む)の熟成を促してグルテンを十分に発達させることにより、本発明のより顕著な効果が得られるという観点からすれば、中種法や直捏法が望ましく、特に中種法が望ましい。
この場合、難消化性澱粉を添加する時期は、中種の混捏工程でも、また本捏生地の混捏工程でも、または該澱粉を二つに分割して両者の工程でもよいが、中種の混捏工程で添加する場合には、これにより、パン生地に多量の難消化性澱粉を添加しても、これを中種の混捏工程で添加することにより、焼成したパンは、いやな澱粉臭がなくなり、小麦粉の焙焼香と醗酵風味を有し、また甘味(あまみ)を有するようになる。
【0018】
或いは、必要に応じ、前記パン生地の混捏工程として中種混捏工程およびその後の本捏工程を備えた中種法を採用するとともに、当該本捏工程で前記難消化性澱粉を添加する構成としている。
これにより、パン生地に多量の難消化性澱粉を添加しても、これを本捏工程で添加することにより、中種の混捏工程で添加するよりも一層、焼成したパンをボリュームがあり、安定した均一な形状のものとし、またクラストに亀裂が発生することを抑制することができるようになる。
【0019】
本発明は、必要に応じ、前記パン生地の混捏工程で酒種を添加する構成としている。
これにより、難消化性澱粉を多量に添加した場合に発生するおそれのある澱粉臭をマスキングすることができ、従って、焼成したパンは、いやな澱粉臭の発生が抑制され、また甘味(あまみ)を有する。
【0020】
更に、必要に応じ、前記酒種は、前記難消化性澱粉に対して2〜20質量%の量、及び/又は前記原料粉全体に対して0.1〜4質量%の量を添加する構成としている。
これにより、より有効に、前記酒種を添加する効果を奏することができる。
【0021】
また、本発明は、必要に応じ、前記パン生地の混捏工程で架橋澱粉及び/又は増粘剤含有油脂を添加する構成としている。
本発明は、活性グルテンを添加するが、その弊害として焼成したパンの引きや弾力が強く歯切れも悪く、かつ口当たりや食感がタフで重くなる傾向が見られる場合があるが、前記架橋澱粉及び/又は増粘剤含有油脂を添加することにより、該弊害が解消され、焼成したパンを引きのない歯切れが良好で、かつ食感も軽いものにするとともに、口溶けを良好にし、口当たり及び食感をソフトで柔らかいものにすることができる。
【0022】
更に、必要に応じ、前記架橋澱粉は、前記パン生地を構成する前記原料粉に対して0.1質量%〜3質量%の量を添加する構成としている。
これにより、前記架橋澱粉を添加する効果をより有効に奏することができる。
【0023】
更に、必要に応じ、前記増粘剤含有油脂を、前記パン生地を構成する前記原料粉に対して1質量%以上の量を添加する構成としている。
これにより、前記増粘剤含有油脂を添加する効果をより有効に奏することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のパンの製造方法によれば、多量の難消化性澱粉を添加することにより生じる混捏したパン生地の小麦蛋白質量の不足分を補い、機械耐性生地を製造することができるようになり、機械的大量生産によるパンの製造方法においても、混捏したパン生地は伸展性、膨張性および弾力性を維持し、このパン生地を焼成したパンにおいては、ボリュームがあり、形状が均一で安定し、またクラストに亀裂が発生することなくきれいな外観を有するようにすることができる。
そして、難消化性澱粉の利点である整腸作用、便通作用、血糖値上昇抑制作用、コレステロール低下作用、脂肪蓄積抑制作用等を生かした有用なパンとすることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態に係るパンの製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態の記載に限定されない。
本発明の実施の形態に係るパンの製造方法について説明する。これは、パン生地の混捏工程で原料粉として小麦粉および難消化性澱粉を添加するパンの製造方法であり、該小麦粉の一部として小麦蛋白質量が15質量%を超える高蛋白質含有量の超強力粉を添加するとともに、活性グルテンおよびグリアジンを添加する構成のパンの製造方法である。
【0026】
詳しくは、本発明の実施の形態に係るパンの製造方法において、該小麦粉とは強力粉を意味する。該強力粉は、小麦蛋白質量が12質量%以上であることが望ましい。
次に、難消化性澱粉とは、上述した効能・効果のうち少なくともいずれか一つを若干でも奏するような実質有効成分である難消化性成分(狭義の難消化性澱粉)を一部含有しているものを広く意味する。即ち、狭義の難消化性澱粉を一部含有する生成物又は調製物という広義のそれを意味する。
【0027】
難消化性澱粉は、上記従来の技術又はその他の製法により、各種の澱粉を物理的に加工し、および/または化学的に化工することにより生成または調製されるものである。具体的には、例えば、ジャガイモ、タピオカ、トウモロコシ等の澱粉をα―アミラーゼ等の澱粉分解酵素によって部分的に加水分解して得た中間生成物を温水に溶解し、イソアミラーゼ等の酵素によって脱分枝化するとともに、老化させてから、酵素を不活性化し、若しくは酵素を不活性化してから老化させ、噴霧乾燥することにより、狭義の難消化性澱粉を50質量%前後含有する難消化性澱粉が得られる。
【0028】
該難消化性澱粉は、人が経口摂取したときに、胃および小腸では消化および吸収されないで大腸の結腸まで到達して、結腸である種の腸内微生物により醗酵し、種々の短鎖脂肪酸が生成される。この短鎖脂肪酸は結腸で醗酵する澱粉の種類により異なってくる。そして、結腸内で生成された短鎖脂肪酸は結腸上皮細胞により急速に吸収されることになる。
従って、上述した、またはその他の難消化性澱粉の生理作用は、第一に胃および小腸で消化吸収されない性質と、第二に大腸の結腸で腸内細菌の醗酵基質となり醗酵する性質のうち少なくともいずれかの性質に由来すると推測される。そして、血糖値上昇抑制作用、インシュリン低下作用およびコレステロール低下作用等は、難消化性澱粉の前者の生理作用によるものであり、また潰瘍・腫瘍の治癒もしくは縮小等は、後者の生理作用によるものであると考えられる。
【0029】
また、難消化性澱粉は、狭義の難消化性澱粉を30%以上含有していること、好ましくは40%以上含有していること、より好ましくは45%以上含有していることが望ましく、50%程度含有していれば十分である。難消化性澱粉中の狭義の難消化性澱粉以外の成分は、難消化性澱粉の調製方法や原料の澱粉素材により相違するが、一般には、それから難消化性澱粉を調製する前段階の素材や中間段階の生成物及び/又はこれらの構成成分で狭義の難消化性澱粉にならなかったもの等であると推測される。
【0030】
このような難消化性澱粉は、前記原料粉全体に対して10〜40質量%の量を添加することが望ましく、また10〜30質量%の量を添加することがより望ましく、さらに15〜25質量%の量を添加することがより一層望ましい。こうすることにより、パンに、難消化性澱粉を使用する効能・効果を奏するとともに、パンに多量の難消化性澱粉を添加することから生じる前記弊害を解消することができるようになる。
【0031】
そして、本実施の形態は、前記強力小麦粉の一部として超強力粉を添加することを構成としている。ここで、超強力粉とは、小麦蛋白質量が15質量%を超える、具体的には、例えば、15〜18質量%の高蛋白質含有量の強力小麦粉であり、好ましくは15.5〜18質量%の高蛋白質含有量、より好ましくは15.5〜17質量%の高蛋白質含有量、さらにより好ましくは16〜17質量%の強力小麦粉である。これにより、多量の難消化性澱粉を添加することにより生じる混捏したパン生地の小麦蛋白質量の不足分の大部分を補うようにする。
該超強力粉は、前記強力小麦粉のうちの17質量%〜27質量%の量を使用することが望ましく、20質量%〜24質量%の量を使用することがより一層望ましい。これにより、適当量の活性グルテンを添加する構成と相まって、多量の難消化性澱粉を添加して混捏したパン生地の小麦蛋白質量の不足分を補うことが、より確実に実現されるようになる。すなわち、多量の難消化性澱粉を添加しても、混捏したパン生地は伸展性、膨張性および弾力性を維持し、このパン生地を焼成したパンは、ボリュームが小さくなり、形状が安定せずに均一性を欠いたり、またはクラストに亀裂が発生したりすることを防止し、または抑制することができるようになる。
【0032】
また、活性グルテンを過剰に添加する必要がなく、このことに起因して生じる、焼成したパンのクラストが硬くて噛み切れなくなるとか、クラムも引きと弾力が過度に強くなって、口当たりが重くなるとか、口溶けが悪くなるとかの現象も、より確実に回避することができるようになる。
超強力粉の添加量がこれよりも多過ぎるときには、パン生地中の小麦蛋白質量が多くなり過ぎて、該パン生地を焼成したパンは、過度の弾力感と引きを感じさせるタフな食感となり、硬くて歯切れが悪く、口当たりおよび口溶けも悪くなる。これに対し、超強力粉の添加量がこれよりも少な過ぎるときには、活性グルテンを多めに添加しないと、前記本発明の効果を奏しなくなるし、また活性グルテンの添加量が多くなり過ぎると、前記弊害が生じる。
超強力粉は、上述した小麦蛋白質量の不足分を補うことを目的として添加するため、難消化性澱粉を添加する工程で添加して一緒に混捏することが望ましい。こうすることにより、超強力粉を添加することによる前記効果をより有効に奏することができる。
【0033】
さらに、本実施の形態において、活性グルテンは、バイタルグルテンとも言われるが、多数の市場流通品が存在していて、これらのものを用いることができる。活性グルテンは、小麦蛋白濃縮物であり、基本的には、小麦粉と水とを混捏してグルテンが発達した生地を形成した後、該生地の澱粉等の水溶性成分を除去することにより、小麦蛋白質の含有量を高めたものであり、通常、その80%〜95%が小麦蛋白質からなる。この市場流通品は一般に粉体である。
【0034】
該活性グルテンは前記原料粉全体に対して1質量%以上の量を添加することが望ましく、1.2質量%以上の量を添加することがより望ましく、1.5質量%以上の量を添加することがより一層望ましい。
このように活性グルテンを添加することにより、上述したとおり超強力粉を併用する構成等と相俟って、多量の難消化性澱粉を添加して混捏したパン生地の小麦蛋白質量の不足分を補うことにより、該パン生地の弾力性を回復することがより確実に可能となる。そして、該パン生地を焼成したパンは、ボリュームがあり、形状が均一で安定し、またクラストに亀裂が発生することなくきれいな外観を有するようになる。
活性グルテンの添加量がこれよりも少なくなると、原料の種類やパン製法如何によっては、前記改善効果が乏しくなる。
また、活性グルテンは、前記活性グルテンを過剰に添加することに起因して生じる弊害を回避するためには、適宜量のグリアジンを併用することを前提として、原料粉全体に対して3質量%以下の量を添加することが望ましく、2.5質量%以下がより望ましく、2.2質量%以下がより一層望ましい。
【0035】
さらに、本実施の形態においては、グリアジンを添加する。グリアジンとは、グルテニンとともに小麦グルテンの構成成分であり、上述した活性グルテンを得る方法と同様の方法で小麦グルテンを得た後に、一般的には、例えば、該小麦グルテンからアルコール水溶液等の溶媒を用いてその可溶性成分として抽出・分離し、さらに通常はこれを乾燥して粉末化することにより得ることができる。このようにして得られるグリアジンは、グリアジンが例えば60%以上の高濃度で存在するグリアジン濃縮物の形で存在している。該グリアジン濃縮物中のグリアジンの濃度(含有量)は、製造コストや価格が高くなるが、高(多)ければ高い(多い)ほど望ましく、具体的には、例えば、70%以上であることが望ましい。本発明においては、該グリアジンとしては、小麦グルテンから低濃度の、好ましくは30%以下の、酸性化した、好ましくはpH3〜5.5のエタノール水溶液を溶媒として用いて抽出・分離したグリアジン濃縮物を乾燥粉末化したものが望ましい。
【0036】
該グリアジンは、前記原料粉全体に対して0.1質量%以上の量を添加することが望ましく、0.5質量%以上の量を添加することがより望ましく、2質量%以上の量を添加することがより一層望ましい。
このようにグリアジンを添加することにより、超強力粉を使用するとともに、活性グルテンを添加することと相俟って、焼成したパンが強い弾力感と引きを感じさせるタフな食感となり、硬くて歯切れが悪くなり、口当たりが重くなり、また口溶けが悪くなるのを回避することができるようになる。
また、グリアジンは、原料粉全体に対して5質量%以下、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下とすることが望ましい。これよりも多く添加しても、その効果が顕著に現れるわけではない。
【0037】
そして、活性グルテンおよびグリアジンの両者の添加割合としては、これに限られないが、例えば、その一例として、前者対後者がそれぞれ1.8〜2.6:0.3〜1.2の割合となるように調整することができるが、この場合には、さらには2.0〜2.4:0.5〜0.9となるように調整することがより望ましく、さらには、2.1〜2.3:0.6〜0.8となるようにすることがより一層望ましい。

活性グルテンおよびグリアジンは、難消化性澱粉を添加する工程で添加して一緒に混捏することが望ましい。こうすることにより、活性グルテンおよびグリアジンを添加したことによる効果をより有効に奏することができるようになる。
このように活性グルテンおよびグリアジンを添加することにより、上述した通りに超強力粉の使用とともに、混捏したパン生地に適度な伸展性、膨張性および弾力性を付与し、このパン生地を焼成したパンの食感が重くなるのを回避しつつ、該焼成パンをボリュームがあり、安定した均一な形状のものとし、またクラストに亀裂が発生することを抑制することができるようになる。
【0038】
本実施の形態においては、パン生地の混捏工程として中種混捏工程およびその後の本捏工程を備えた中種法を採用するとともに、当該中種混捏工程又は当該本捏工程で前記難消化性澱粉を添加している。パン生地を製造する方法としては、中種法、直捏法、短時間製法、ノータイム法、液種法、その他のパン製法が存在するが、長時間の醗酵によりパン生地(中種を含む)の熟成を促してグルテンを十分に発達させることにより、本発明のより顕著な効果が得られるという観点からすれば、特に中種法が望ましい。
【0039】
また、中種法においては、難消化性澱粉を添加する時期は、中種の混捏工程でも、また本捏生地の混捏工程でも、または該澱粉を二つに分割して両者の工程でもよいが、中種の混捏工程で添加する場合には、これにより、パン生地に多量の難消化性澱粉を添加しても、これを中種の混捏工程で添加することにより、焼成したパンは、いやな澱粉臭がなくなり、小麦粉の焙焼香と醗酵風味を有し、また甘味(あまみ)を有するようになる。
これに対し、本捏工程で添加する場合には、パン生地に多量の難消化性澱粉を添加しても、これを本捏工程で添加することにより、中種の混捏工程で添加するよりも一層、焼成したパンをボリュームがあり、安定した均一な形状のものとし、またクラストに亀裂が発生することを抑制することができるようになる。
【0040】
ところで、中種法を採用するとともに、中種混捏工程で難消化性澱粉を添加する本実施の形態においては、中種に多量の難消化性澱粉を添加することから相対的に中種中の小麦グルテンの量が少なくなるために、グルテンが未熟傾向となり、グルテン気泡膜の網目が過度に細かく形成されるようになる。
従って、パン生地を構成する原料粉としての小麦粉は、一般的には、中種混捏工程では小麦粉全量の50〜100質量%の小麦粉を使用するが、本発明では、中種混捏工程では該小麦粉全量の60〜100質量%の小麦粉を使用することが望ましく、70〜100質量%の小麦粉を使用することがより一層望ましい。
中種混捏工程で添加するイーストは、通常、例えば、前記原料粉全体に対して2.0〜3.0質量%、好ましくは2.3〜2.7質量%である。
【0041】
また、中種混捏工程で難消化性澱粉を添加する場合には、中種の未熟によるグルテン気泡膜の過度に細かい網目の形成を改善するために、中種混捏工程でイースト醗酵性糖類を添加することが望ましい。イースト醗酵性糖類としては、具体的には、例えば、砂糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、その他のイーストが醗酵するときの栄養源となってイーストの醗酵活動を促進するように作用する糖類のうちのいずれか一つを、または二つ以上を組み合わせて添加することができる。しかし、イースト醗酵性糖類としては、ブドウ糖が望ましい。このように中種混捏工程でイースト醗酵性糖類を添加することにより、中種醗酵後の中種の未熟さを解消し、グルテン気泡膜の網目の形成を適度に細かい良好なものにしながら、焼成したパンの澱粉臭を軽減することができるようになる。
【0042】
イースト醗酵性糖類は、中種混捏工程で添加する難消化性澱粉に対して0.5〜15質量%添加することが望ましく、1〜10質量%添加することがより望ましく、3〜8質量%添加することがより一層望ましい。また、イースト醗酵性糖類は、中種混捏工程で使用する原料粉に対して0.2〜3.8質量%添加することが望ましく、0.4〜2.5質量%添加することがより望ましく、0.6〜2質量%添加することがより一層望ましい。さらには、イースト醗酵性糖類は、中種混捏工程で添加するイーストに対して10〜100質量%添加することが望ましく、25〜75質量%添加することがより望ましく、40〜60質量%添加することがより一層望ましい。イースト醗酵性糖類の添加量を多くするほど、醗酵後の中種の未熟さが解消されて、グルテン気泡膜の網目の形成が良好になるとともに、焼成したパンの澱粉臭をより一層軽減して、小麦粉の焙焼香と醗酵風味を増大させることができる。しかし、イースト醗酵性糖類の添加量が中種に添加する原料粉に対して2.5質量%を超えるようになると、焼成したパンのクラムの内相が荒くなるおそれがある。
【0043】
尚、ここで、中種の未熟によるグルテン気泡膜の過度に細かい網目の形成を改善するために、中種混捏工程で添加するイーストの添加量を増量することも考えられる。しかし、この方法も、焼成したパンの澱粉臭を軽減することができるが、その弊害として焼成したパンのイースト臭やアルコール臭が強くなって、小麦粉の焙焼香と醗酵風味を消してしまうため、望ましくない。
【0044】
前記パン生地の混捏工程で酒種を添加することが望ましい。
本発明の実施の形態で添加する酒種とは、米、米麹、水などを原料として、酵母を醗酵させた醗酵種である。具体的には、例えば、生米、蒸米、米麹、水を原料として酒種を作成する場合、蒸米に由来する澱粉を米麹が分解してブドウ糖などを生成し、ブドウ糖などの生成物を、生米の表面に付着した酵母の栄養源にして、酵母を増殖、醗酵させることにより酒種を作成するのである。また、酒種の酵母として、生米に付着した酵母に替えて、清酒酵母等を用いることも可能であり、その場合には、生米を添加するとともに、又は生米を添加する替わりに清酒酵母等を添加する。酒種を安定的に製造するためには、生米を添加する替わりに清酒酵母等を添加する方法を採用するのが望ましい。さらに、雑菌の繁殖を抑制するためにpHを低下させる目的で乳酸を添加することも可能である。そして、これら酒種原料を混合して醗酵させるのであるが、醗酵温度は、通常、24℃前後であるが、これに限定されない。
【0045】
また、醗酵時間は、比較的長く、例えば120時間位とした場合には、醗酵後の醗酵物を直ちに酒種として利用することができる。これに対し、醗酵時間を比較的短く、例えば48時間位とした場合には、醗酵後の醗酵物を元種にして、この元種に蒸米、米麹、水等を添加・混合して、さらに約24時間醗酵させて、即ち種継ぎをして、継ぎ種を作成し、この継ぎ種を酒種として利用することもできる。さらに、このような種継ぎを複数回行って得た継ぎ種を酒種として利用することもできる。そして、種継ぎを行う場合も、行わない場合も、最後の醗酵後の醗酵物の米粒を粉砕するための乳化、乳製品等を添加しての成分調整、殺菌、ろ過等の工程を適宜採用して酒種を完成させることができる。なお、本発明における酒種の調製方法は、これに限られない。
【0046】
酒種は、中種混捏工程で添加してもよいし、本捏工程で添加してもよいし、両者の工程で添加してもよいが、本捏工程で添加することが望ましい。
酒種は、難消化性澱粉に対して2〜20質量%の量を添加することが望ましく、また5〜17質量%の量を添加することがより望ましく、さらには8〜15質量%の量を添加することがより一層望ましい。また、酒種は、原料粉全体に対して0.1〜4質量%の量を添加することが望ましく、また0.5〜3.5質量%の量を添加することがより望ましく、さらには1〜3質量%の量を添加することがより一層望ましい。これにより、より有効に、焼成したパンからいやな澱粉臭が生ずるのを抑制し、また甘味(あまみ)を有するようにすることができる。
【0047】
前記パン生地の混捏工程で架橋澱粉を添加することが望ましい。
本発明の実施の形態で添加する架橋澱粉とは、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉、甘薯澱粉等の澱粉を、好ましくはタピオカ澱粉を、トリメタリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、オキシ塩化リン、アジピン酸、エピクロルヒドリン等の架橋剤を用いて常法に従って架橋したものであり、好ましくは該リン酸塩により架橋したリン酸架橋澱粉である。
【0048】
該架橋澱粉の架橋度は、膨潤度が3〜15であり、かつ溶解度が15質量%以下となるように調整することが望ましい。
その他の化工処理、例えば、ヒドロキシプロピル化等のエーテル化や、アセチル化等のエステル化を施した架橋澱粉でも、本発明の目的・効果を損なわない限りかまわないが、このような化工処理は必要ではない。また、α化処理は望ましくない。本発明でα化処理した架橋澱粉を添加すると、焼成したパンはネチャついた食感となり、本発明が目的とする引きのない良好な歯切れ感と軽い食感を実現できないおそれがある。
このように、本発明で架橋澱粉を添加することにより、焼成したパンを引きのない歯切れが良好で、かつ食感も軽いものにすることができる。
【0049】
本実施の形態では、該架橋澱粉は、パン生地を構成する前記原料粉に対して0.1質量%〜3質量%の量を添加することが望ましい。そして、増粘剤含有油脂を添加するので、該架橋澱粉は、同じく0.1質量%〜1.5質量%の量を添加することが望ましく、0.5質量%〜1質量%の量を添加することがより一層望ましい。これにより、確実に、焼成したパンを引きのない良好な歯切れ感および適度に軽い食感を有するものにすることができるようになる。
【0050】
該架橋澱粉は、パン生地の混捏工程として中種混捏工程およびその後の本捏工程を備えた中種法を採用する場合には、当該本捏工程で添加することが望ましい。
【0051】
前記パン生地の混捏工程で増粘剤含有油脂を添加することが望ましい。
本発明の実施の形態では、増粘剤含有油脂を添加する。ここで増粘剤とは、キサンタンガム、グアガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、カラヤガム、タマリンドシードガム、タラガム、グルコマンナン、プルラン、イオタカラギナン、HMペクチン、LMペクチン、トラガントガム、結晶性セルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、水溶性大豆多糖類、ガティガム、メチルセルロース、サイリウムシードおよびカシャガム等があげられる。そして、これらの増粘剤の1種を単独で用いることができるし、また異なる2種以上のものを組み合わせて用いることもできる。風味および食感の点で、キサンタンガム、グアガム、ローカストビーンガムが好ましく、より好ましくはキサンタンガムである。
【0052】
油脂は、食用油脂であれば特に制限はないが、例えば、大豆油、ナタネ油、パーム油、コーン油、綿実油、ヤシ油、パーム核油等の植物油脂類、牛脂、ラード、魚油、鯨油、乳脂等の動物油脂類のいずれも使用することができる。そして、これらを水添処理したもの、およびエステル交換したものも使用することができる。さらに、これらの油脂の1種を単独で用いることができるし、また異なる2種以上のものを組み合わせて用いることもできる。
【0053】
増粘剤を油脂に含有させる方法としては、例えば、油脂および好ましくは乳化剤を、両者の融点温度以上の温度で加熱し、均一溶解させた後、これに増粘剤を添加して均一に混合攪拌し、該均一に混合攪拌したものを、前記油脂および増粘剤の融点以下の温度、好ましくは30℃以下まで冷却する方法が望ましい。
【0054】
本実施の形態では、該増粘剤含有油脂は、パン生地を構成する前記原料粉に対して1質量%以上の量を添加することが望ましく、さらに1.5質量%以上の量を添加することがより望ましく、さらには2質量%以上の量を添加することがより一層望ましい。また、該増粘剤含有油脂は、パン生地を構成する前記原料粉に対して15質量%以下の量を添加することが望ましい。
【0055】
また、該増粘剤は、該油脂中に0.1〜5質量%含有することが望ましく、さらに1〜4質量%の量を含有することが望ましく、さらには1.5〜3.5質量%の量を含有することがより一層望ましい。
【0056】
該増粘剤含有油脂は、さらに乳化剤を含有することが望ましい。乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート類、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、レシチン誘導体等を使用することができ、これら2種以上を混合した系を使用することがより望ましい。また、乳化剤の増粘剤含有油脂中の好ましい含有量は、例えば、油脂/乳化剤の比率が6.5以下であり、且つ、増粘剤含有油脂全体に対し10〜30質量%、より好ましくは14〜26質量%である。
【0057】
該増粘剤含有油脂は、パン生地の混捏工程として中種混捏工程およびその後の本捏工程を備えた中種法を採用する場合には、当該本捏工程で添加することが望ましい。該増粘剤含有油脂をパン生地の混捏工程の早い段階で添加すると、パン生地の混捏に長時間を要し、その結果パン生地をいためてしまうおそれがあるため、従って、中種法を採用する場合には、該増粘剤含有油脂は、本捏工程で添加するのが望ましく、更には本捏工程の途中で添加するのがより望ましい。
【0058】
このように、本実施の形態では、架橋澱粉および増粘剤含有油脂の両者を併用して添加したので、焼成したパンを引きのない歯切れが良好で、かつ口当たりおよび食感も軽く、またソフトで柔らかいものにすることができるようになる。特に、両者を併用して添加すると、両者のいずれかを単独で添加した場合よりも、焼成したパンがソフトなものであるため、より歯切れの良さやサクみが感じられるようになり望ましい。
また、パン生地の混捏工程として中種混捏工程およびその後の本捏工程を備えた中種法を採用する場合には、両者を当該本捏工程で添加することが望ましい。
【0059】
尚、上記各実施の形態においては、原料粉として、小麦粉および難消化性澱粉を用いているが、原料粉(小麦粉および難消化性澱粉からなる)以外の穀粉としては、本発明の目的・効果の実現を妨げない範囲で、小麦粉及び難消化性澱粉以外にも、これらの一部と置き換えて、小麦全粒粉、ライ麦粉、米粉等の穀粉、α化澱粉、エーテル化澱粉若しくはエステル化澱粉、架橋澱粉等の澱粉を使用することができる。
【0060】
本発明は、機械的大量生産によるパンの製造方法において好適であり、有効である。上述した本発明の構成により、多量の難消化性澱粉を添加したとしても、機械耐性生地を製造することができるようになり、機械的大量生産によるパンの製造方法においても、上述した本発明の製パン性及び品質の改善効果を奏するようになる。
本発明の機械的大量生産によるパンの製造方法とは、具体的には、例えば、100kg以上の大量の生地の混捏を1バッチとし、1バッチごとに大型ミキサーで一度に大量の生地を混捏してから分割機(ディバイダー)で最終製品の生地重量に分割し、丸め機(ラウンダー)で丸め、必要に応じて中間醗酵させてから多段ローラー等により機械的にガス抜きをした後、整形工程、ホイロ工程、焼成工程をとる方法があげられる。また、必要に応じ、分割後の各工程間の生地の搬送は、ベルトコンベア等の機械的な手段にて行うことができる。
【実施例】
【0061】
次に、本発明の実施例について説明する。実施例及び比較例においては、難消化性澱粉として、上掲の特許文献8(特開平10−191931号)に記載の調製物、具体的には、タピオカ澱粉をα―アミラーゼにより部分加水分解して得た中間生成物を温水に溶解し、イソアミラーゼによって脱分枝化するとともに、老化させてから、酵素を不活性化し、噴霧乾燥することにより得られた難消化性澱粉(狭義の難消化性澱粉を約50%含有する。)を使用した。難消化性澱粉中の狭義の難消化性澱粉は、水不溶性であった。
酒種は、蒸米、米麹、水、清酒酵母を混合して、22℃で120時間醗酵させた後、米粒を粉砕するために乳化し、乳成分を添加して成分調整し、殺菌、ろ過をして作成された液状種を使用した。
以下の実施例及び比較例では、全て上述した機械的大量生産によるパンの製造方法でパンを製造した。
【0062】
〔実施例1〕
まず、本発明の実施例1は、中種法を採用して、本捏で難消化性澱粉、超強力粉、活性グルテンおよびグリアジンを添加し、以下の機械的大量生産で、図1に示す配合と工程条件で角型食パンを製造した。
中種の混捏(中種配合原料を大型ミキサーで混捏)、中種醗酵、本捏(醗酵後の中種と本捏配合原料を大型ミキサーで混捏して750kgの生地を作成する)、フロアタイム、分割(ホッパー付きディバイダー使用)、丸め(ラウンダー使用)、ベンチタイム(オーバーヘッドプルファー使用)、圧延(ガス抜き。三段ローラーモルダー使用)、整形(機械的に巻き込み(カーリング)後M字に折り込む)、型詰め(自動機械)、ホイロ、焼成の各工程を経て角型食パンを製造した。尚、分割後の各工程間の生地の搬送は、ベルトコンベアで自動的に行った。
このようにして製造した食パンは、機械的大量生産によるものでも、多量の難消化性澱粉を添加しているにもかかわらず、混捏したパン生地から伸展性、膨張性および弾力性が失われることなく維持されており、このパン生地を焼成したパンは、オーブンスプリングが大きく、形状が安定して均一であり、またクラストに亀裂が発生しなかった。
特に、中種法により、難消化性澱粉を本捏で添加したことで、より有効にボリュームの増大、形状の安定・均一化及びクラストの亀裂発生抑制の効果を得ることができるようになった。
また、混捏したパン生地の小麦蛋白質の含有量を適度に調整していることから、小麦蛋白質を過剰に含有することに起因して生じる、焼成したパンのクラストが硬くて噛み切れなくなるとか、クラムも引きと弾力が過度に強くなって、口当たりが重くなるとか、口溶けが悪くなるとかの弊害も発生せず、良好な食感であった。
また、多量の難消化性澱粉を添加しているにもかからわず、パン生地の混捏工程で酒種を添加したことにより、いやな澱粉臭の発生が抑制され、また甘味(あまみ)を有するものであった。
さらに、架橋澱粉および増粘剤含有油脂を添加したことにより、超強力粉および活性グルテンを添加しているにもかかわらず、引きのない歯切れが良好で、かつ口当たりおよび食感が軽く、またソフトで柔らかいものであった。
【0063】
〔実施例2〕
実施例2としては、中種法を採用して、中種混捏工程で難消化性澱粉、
超強力粉、活性グルテンおよびグリアジンを添加し、実施例1と同様の
機械的大量生産により、図2に示す配合と実施例1と同じ工程条件で角
型食パンを製造した。
このようにして製造した食パンは、機械的大量生産によるものでも、多量の難消化性澱粉を添加しているにもかかわらず、混捏したパン生地から伸展性、膨張性および弾力性が失われることなく維持されており、このパン生地を焼成したパンは、オーブンスプリングが大きく、形状が安定して均一であり、またクラストに亀裂が発生しなかった。
また、混捏したパン生地の小麦蛋白質の含有量を適度に調整していることから、小麦蛋白質を過剰に含有することに起因して生じる、焼成したパンのクラストが硬くて噛み切れなくなるとか、クラムも引きと弾力が過度に強くなって、口当たりが重くなるとか、口溶けが悪くなるとかの弊害も発生せず、良好な食感であった。
特に、中種法により、難消化性澱粉を中種の混捏工程で添加していることにより、パン生地に多量の難消化性澱粉を添加しても、焼成したパンは、いやな澱粉臭がなくなり、小麦粉の焙焼香と醗酵風味を有し、また甘味(あまみ)を有するようになる。
また、多量の難消化性澱粉を添加しているにもかからわず、パン生地の混捏工程で酒種を添加したことにより、さらに一層、いやな澱粉臭の発生が抑制され、また甘味(あまみ)を有するものであった。
さらに、架橋澱粉および増粘剤含有油脂を添加したことにより、超強力粉および活性グルテンを添加しているにもかかわらず、引きのない歯切れが良好で、かつ口当たりおよび食感が軽く、またソフトで柔らかいものであった。

【0064】
〔比較例1〕
比較例1として、実施例1と同様の機械的大量生産により、実施例1
の配合のうち、中種配合の強力粉を64質量%から55質量%に減じ、
且つ、本捏配合の超強力粉を18質量%から7質量%に減じるとともに、
該減少分に相当する20質量%の強力粉を本捏で配合するようにした以
外は、実施例1と同様の配合及び工程条件で角型食パンを製造した。
比較例1で得られた食パンは、クラストには少し亀裂があった。

【0065】
〔実験例1〕
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2で得られた食パンの外観、
内相、食感、風味を評価した結果を図3に示す。

【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施例1に係るパンの製造方法において、パン生地の配合と工程を示す表図である。
【図2】本発明の実施例2に係るパンの製造方法において、パン生地の配合を示す表図である。
【図3】実験例の結果を示す表図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン生地の混捏工程で原料粉として小麦粉および難消化性澱粉を添加するパンの製造方法において、該小麦粉の一部として小麦蛋白質量が15質量%を超える高蛋白質含有量の超強力粉を添加するとともに、活性グルテンおよびグリアジンを添加することを特徴とするパンの製造方法。
【請求項2】
前記超強力粉は、前記小麦粉のうちの17質量%〜27質量%の量を使用することを特徴とする請求項1に記載のパンの製造方法。
【請求項3】
前記超強力粉は、前記難消化性澱粉を添加する工程で添加して一緒に混捏することを特徴とする請求項1または2に記載のパンの製造方法。
【請求項4】
前記難消化性澱粉は、前記原料粉全体に対して10質量%〜40質量%の量を添加することを特徴とする請求項1、2または3に記載のパンの製造方法。
【請求項5】
前記活性グルテンは、前記原料粉全体に対して1質量%以上の量を添加することを特徴とする請求項1、2、3または4に記載のパンの製造方法。
【請求項6】
前記グリアジンは、前記原料粉全体に対して0.1質量%以上の量を添加することを特徴とする請求項1、2、3、4または5に記載のパンの製造方法。
【請求項7】
前記活性グルテンおよびグリアジンは、前記難消化性澱粉を添加する工程で添加して一緒に混捏することを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6に記載のパンの製造方法。
【請求項8】
前記パン生地の混捏工程で酒種を添加することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6または7に記載のパンの製造方法。
【請求項9】
前記酒種は、前記難消化性澱粉に対して2〜20質量%の量、及び/又は前記原料粉全体に対して0.1〜4質量%の量を添加することを特徴とする請求項8に記載のパンの製造方法。
【請求項10】
前記パン生地の混捏工程で架橋澱粉及び/又は増粘剤含有油脂を添加することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8または9に記載のパンの製造方法。
【請求項11】
前記架橋澱粉は、前記パン生地を構成する前記原料粉に対して0.1質量%〜3質量%の量を添加することを特徴とする請求項10に記載のパンの製造方法。
【請求項12】
前記増粘剤含有油脂は、前記パン生地を構成する前記原料粉に対して1質量%以上の量を添加することを特徴とする請求項10に記載のパンの製造方法。
【請求項13】
前記パン生地の混捏工程として中種混捏工程およびその後の本捏工程を備えた中種法を採用するとともに、当該中種混捏工程で前記難消化性澱粉を添加することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12に記載のパンの製造方法。
【請求項14】
前記パン生地の混捏工程として中種混捏工程およびその後の本捏工程を備えた中種法を採用するとともに、当該本捏工程で前記難消化性澱粉を添加することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12に記載のパンの製造方法。
【請求項15】
前記パンの製造方法は、機械的大量生産によるものであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14に記載のパンの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−142016(P2008−142016A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333093(P2006−333093)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000178594)山崎製パン株式会社 (42)
【Fターム(参考)】