説明

パンチ金型の製造方法

【課題】母材との接続部分を残してパンチチップを加工し、パンチチップを母材から切断分離する際に、接続部分の一部を未加工部として残存させるパンチ金型の製造方法において、パンチチップの設計上の制約をなくし、加工工数の削減を図る。
【解決手段】母材から切断分離したパンチチップ20の未加工部12を除去仕上げせず、該未加工部12を含む形状に開口部30Aを設けたパンチプレート30に、前記パンチチップ20を挿入して固定し、該パンチチップ20の打ち抜き切断有効長さ分の深さ21だけ前記未加工部12の除去仕上げ処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパンチ金型の製造方法に関するものであり、特に、金属材料からなる母材との接続部分を残してパンチチップを加工し、該パンチチップを母材から切断分離する際に、前記接続部分の一部を未加工部として残存させるパンチ金型の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パンチ金型の製造方法としては、所望の形状に加工したパンチチップをパンチプレートに開口した穴に挿入して固定する方法が知られている。例えば、ワイヤ放電加工により所望の板材からチップ(パンチチップの打ち抜き切刃部分)を切り出す工程と、上記工程により切り出したチップの一端面に鋼製の柄体を溶接により結合する工程とからなる方法が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、パンチプレートに丸穴の組み合わせによってパンチ固定穴を製作することで、パンチプレートに角穴彫込加工ならびにリテーナーに廻り止めキー溝加工を必要としない方法が知られている(特許文献2参照)。
【0004】
また、複数の打ち抜きパンチを、切刃の反対側の根元が一体の結合関係となるように、共通の金型材料から加工成形した打ち抜き金型が知られている(特許文献3参照)。
【0005】
このほか、母材との接続部分を残してパンチチップを加工し、パンチチップを母材から切断分離する際に、接続部分の一部を未加工部として残存させるパンチ金型の製造方法を、図4〜図7にしたがって説明する。
【0006】
図4は母材の平面図であり、1つの母材10からワイヤ放電加工により複数のパンチチップ20,20…を切り出す。精密な位置決めが必要であるため、パンチチップ20の加工に際して母材10から分離しないように、母材との接続部分11を残して加工する。なお、説明の都合上、図示したものは各パンチチップ20が同一の形状になっているが、1つの母材10から複数の異なる形状のパンチチップ20を、連続的にワイヤ放電加工によって切り出すこともできる。
【0007】
図5は、母材10から個々のパンチチップ20を切り出す工程の説明図であり、同図(a)に示すように、破線の切り出し予定線をワイヤ放電加工で切り出すのであるが、同図(b)に示すように、母材との接続部分11を残して加工する。そして、同図(c)に示すように、母材との接続部分11の一部を未加工部12として残存させたまま、母材10からパンチチップ20を切断分離する。さらに、同図(d)に示すように、研削加工あるいは研磨加工などにより、未加工部12の除去を含む仕上げ処理を行ってパンチチップ20を所定の寸法形状にする。
【0008】
図6に示すように、パンチプレート30には前記パンチチップ20の形状に合わせて開口部31が設けられており、所定寸法に仕上げられた前記パンチチップ20をこの開口部31へ挿入する。そして、図7に示すように、パンプレート30の開口部31に挿入されたパンチチップ20を固定して、パンチ金型が形成される。
【特許文献1】特開昭56−105831号公報
【特許文献2】特開昭62−61735号公報
【特許文献3】特開平7−290164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1記載の発明は、板材から切り出したチップと、パンチプレートに挿入固定する柄体とを溶接にて結合するので、溶接工程が煩雑であり、寸法精度および機械的強度で問題がある。
【0010】
特許文献2記載の発明は、パンチチップの打ち抜き切刃部分と、パンチプレートの丸穴部分とが異形であり、1つの母材から製作する場合は打ち抜き切刃部分を別加工しなければならず、加工が煩雑であるとともに寸法精度に問題がある。
【0011】
ここで、パンチチップをパンチプレートに固定する際、正確に位置決めを行う必要がある。とくに、パンチプレートに複数のパンチチップを固定して、一回の打ち抜き工程で複数のパンチ穴を同時に加工する場合は、それぞれのパンチチップの形状精度および固定位置精度をより一層に正確にしなければならない。
【0012】
特許文献3記載の発明は、1つの母材から複数の打ち抜きパンチを製作するので、金型全体を切削加工する必要があり、加工工数が多くなるとともに金型材料の無駄が多い。また、一部のパンチが破損したときは金型全体を交換する必要がある。
【0013】
したがって、図4〜図7に示したように、母材から個々にパンチチップを切り出してパンチプレートに取り付ける製造方法を堅持したい。しかし、近年、打ち抜き形状が複雑化しつつあり、複雑な形状のパンチチップを製作するにあたり、前記未加工部を複数設ける場合や、1つの開口部に対して複数のパンチチップを組み合わせて挿入する場合もある。
【0014】
このため、未加工部の仕上げ工数が増加し、あるいは、パンチチップ自体が微小化するために仕上げ精度が厳しくなるという問題が発生する。特に、仕上げ精度がばらつくと、パンチチップをパンチプレートに挿入したときにガタツキが生じたり、パンチプレートからパンチチップが垂直に突出しなくなったりする。然るときは、パンチ金型とダイスとの相対位置精度の不整合により、打ち抜き加工時にバリが発生する不具合や、パンチ金型の寿命が短くなるなどの不具合が生じる。
【0015】
このような、不具合を防ぐため、従来は、未加工部をできる限り小さく、かつ箇所を少なくして、仕上げ工数の削減を図るようにパンチチップの設計を行っていた。したがって、パンチチップの設計上の制約が多くなっていた。
【0016】
そこで、本発明は、金属材料からなる母材との接続部分を残してパンチチップを加工し、該パンチチップを母材から切断分離する際に、前記接続部分の一部を未加工部として残存させるパンチ金型の製造方法において、パンチチップの設計上の制約をなくし、加工工数の削減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、金属材料からなる母材との接続部分を残してパンチチップを加工し、該パンチチップを母材から切断分離する際に、前記接続部分の一部を未加工部として残存させるパンチ金型の製造方法において、前記母材から切断分離したパンチチップの未加工部を除去仕上げせず、該未加工部を含む形状に開口したパンチプレートに前記パンチチップを挿入して固定し、該パンチチップの打ち抜き切断有効長さ分の深さだけ前記未加工部の除去仕上げ処理を行うことを特徴とするパンチ金型の製造方法を提供する。
【0018】
この構成によれば、母材から切断分離したパンチチップの未加工部を除去仕上げせずに、そのままの状態でパンチプレートの開口部へ挿入し、パンチチップをパンチプレートに固定した状態で仕上げ処理を行う。このとき、未加工部をすべて除去するのではなく、パンチチップの打ち抜き切断有効長さ分の深さだけ除去仕上げ処理を行う。
【0019】
請求項2記載の発明は、上記パンチチップは、所定の仕上がり寸法よりもやや大きめに加工されて母材から切断分離され、上記パンチプレートへ挿入固定した後に、前記仕上がり寸法に仕上げ処理を行うことを特徴とする請求項1記載のパンチ金型の製造方法を提供する。
【0020】
この構成によれば、母材からパンチチップを切り出し加工する際に、所定の仕上がり寸法よりもやや大きめに加工し、パンチチップをパンチプレートへ挿入固定した状態で、未加工部の除去とともにパンチチップを仕上がり寸法に仕上げ処理を行う。
【0021】
請求項3記載の発明は、上記パンチチップの未加工部はエンドミルにて除去仕上げ処理を行うことを特徴とする請求項1または2記載のパンチ金型の製造方法を提供する。
【0022】
この構成によれば、パンチチップの未加工部を除去仕上げする際に、パンチチップをパンチプレートへ挿入固定した状態でマシニングセンタにセットし、エンドミルで前記未加工部を除去仕上げする。このとき、未加工部だけではなく、パンチチップの未加工部を含む面あるいは他の面もエンドミルで仕上げ加工するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0023】
請求項1記載の発明は、母材から切断分離したパンチチップの未加工部を除去仕上げせずに、そのままの状態でパンチプレートの開口部へ挿入し、微細なパンチチップ単体の状態ではなく、パンチチップをパンチプレートに固定した状態で仕上げ処理を行うので、保持状態が安定し、仕上げ精度や位置精度が向上する。また、未加工部をすべて除去するのではなく、パンチチップの打ち抜き切断有効長さ分の深さだけ除去仕上げ処理を行うので、仕上げ工程を短縮することができる。
【0024】
請求項2記載の発明は、母材からパンチチップを切り出し加工する際に、所定の仕上がり寸法よりもやや大きめに加工し、パンチチップをパンチプレートへ挿入固定した状態で、未加工部の除去とともにパンチチップを仕上がり寸法に仕上げ処理を行うので、請求項1記載の発明の効果に加えて、仕上げ工数をさらに削減することができる。
【0025】
請求項3記載の発明は、パンチチップの未加工部はエンドミルにて除去仕上げ処理を行うので、請求項1または2記載の発明の効果に加えて、パンチチップの仕上げ面が、より一層滑らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
母材との接続部分を残してパンチチップを加工し、パンチチップを母材から切断分離する際に、接続部分の一部を未加工部として残存させるパンチ金型の製造方法において、パンチチップの設計上の制約をなくし、加工工数の削減を図るという目的を達成するために、本発明は、母材から切断分離したパンチチップの未加工部を除去仕上げせず、該未加工部を含む形状に開口したパンチプレートに前記パンチチップを挿入して固定し、該パンチチップの打ち抜き切断有効長さ分の深さだけ前記未加工部の除去仕上げ処理を行うことにより実現した。
【実施例1】
【0027】
以下、本発明に係るパンチ金型の製造方法について、好適な実施例をあげて説明する。本発明においても、図4にて説明したものと同様に、1つの母材10からワイヤ放電加工により複数のパンチチップ20,20…を切り出す際に、精密な位置決めが必要であるため、パンチチップ20の加工に際して母材10から分離しないように、母材との接続部分11を残して加工する。
【0028】
図1は、母材10から個々のパンチチップ20を切り出す工程の説明図であり、図5において図(a)〜(c)にて説明したものと同様の手順にて、母材との接続部分11の一部を未加工部12として残存させたまま、母材10からパンチチップ20を切断分離する。ただし、従来のように、パンチチップ20が単体の状態で、未加工部12の除去仕上げ処理は行わず、後述するように、パンチチップ20の未加工部12を残存させた状態でパンチプレートの開口部へ挿入する。
【0029】
図2に示すように、パンチプレート30には前記パンチチップ20に合わせて、未加工部12を含む形状の開口部31Aが設けられており、前記未加工部12を残存させた状態のパンチチップ20をこの開口部31Aへ挿入する。
【0030】
そして、図3(a)に示すように、パンプレート30の開口部31Aに挿入されたパンチチップ20を固定し、この状態で、未加工部12の除去仕上げ処理を行う。このとき、未加工部12をすべて除去するのではなく、図3(b)に示すように、パンチチップ20の打ち抜き切断有効長さ分の深さ21だけ除去仕上げ処理を行い、打ち抜き加工に影響のない残りの未加工部は残存させたままとする。
【0031】
このように、母材10から切断分離したパンチチップ20の未加工部12を除去仕上げせずに、そのままの状態でパンチプレート30の開口部31Aへ挿入し、微細なパンチチップ単体の状態ではなく、パンチチップ20をパンチプレート30に固定した状態で仕上げ処理を行うので、保持状態が安定し、仕上げ精度や位置精度が向上する。また、未加工部12をすべて除去するのではなく、パンチチップの打ち抜き切断有効長さ分の深さ21だけ除去仕上げ処理を行うので、仕上げ工程を短縮することができる。
【0032】
上記パンチチップ20の打ち抜き切断有効長さ分の深さ21を除去するには、研削加工あるいは切削加工など任意の加工方法が可能であるが、本発明では、前記パンチチップ20をパンチプレート30へ挿入固定した状態でマシニングセンタ(図示せず)にセットし、エンドミルで前記未加工部12の打ち抜き切断有効長さ分の深さ21を除去仕上げする。このとき、パンチチップ20の未加工部12だけではなく、未加工部12を含む面の全部あるいは隣接する他の面もエンドミルで仕上げ加工してもよい。
【0033】
とくに、請求項2記載の発明では、母材10からパンチチップ20を切り出し加工する際に、所定の仕上がり寸法よりもやや大きめに加工し、パンチチップ20をパンチプレート30へ挿入固定した状態で、未加工部12の除去とともにパンチチップ20を仕上がり寸法に仕上げ処理を行う。
【0034】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係るパンチチップを母材から切り出す工程の説明図。
【図2】本発明に係るパンチチップとパンチプレートの斜視図。
【図3】(a)パンチプレートにパンチチップを挿入固定した状態の図2B−B位置の断面図、(b)図3(a)の状態からパンチチップの打ち抜き切断有効長さ分の深さだけ除去仕上げ処理した状態の断面図。
【図4】1つの母材から複数のパンチチップを切り出す説明図。
【図5】従来のパンチチップを母材から切り出す工程の説明図。
【図6】従来のパンチチップとパンチプレートの斜視図。
【図7】パンチプレートにパンチチップを挿入固定した状態の図6A−A位置の断面図。
【符号の説明】
【0036】
10 母材
11 母材との接続部分
12 未加工部
20 パンチチップ
21 パンチチップの打ち抜き切断有効長さ分の深さ
30 パンチプレート
31,31A 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料からなる母材との接続部分を残してパンチチップを加工し、該パンチチップを母材から切断分離する際に、前記接続部分の一部を未加工部として残存させるパンチ金型の製造方法において、
前記母材から切断分離したパンチチップの未加工部を除去仕上げせず、該未加工部を含む形状に開口したパンチプレートに前記パンチチップを挿入して固定し、該パンチチップの打ち抜き切断有効長さ分の深さだけ前記未加工部の除去仕上げ処理を行うことを特徴とするパンチ金型の製造方法。
【請求項2】
上記パンチチップは、所定の仕上がり寸法よりもやや大きめに加工されて母材から切断分離され、上記パンチプレートへ挿入固定した後に、前記仕上がり寸法に仕上げ処理を行うことを特徴とする請求項1記載のパンチ金型の製造方法。
【請求項3】
上記パンチチップの未加工部はエンドミルにて除去仕上げ処理を行うことを特徴とする請求項1または2記載のパンチ金型の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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