説明

パン生地とパンの製造法

【課題】従来パン製造に使用されていた酵母は、発酵能は優れているものの、香気成分およびトレハロース生産能を兼ね備えたものは存在しなかった。このため、トレハロースの機能性を付与したパン生地、冷凍パン生地、パンの製造は困難であった。
【解決手段】トレハロース高生産酵母Saccharomyces
cerevisiae GITC−1−6を使用したパン生地、冷凍パン生地、パンの製造法を提供する。これにより、充分な発酵を行いながら香気成分と多量のトレハロースを含むパン生地、冷凍パン生地、パンが製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Saccharomyces cerevisiaeGITC−1−6(寄託番号NITE P−47)を使用することを特徴とするパン生地および冷凍パン生地およびこれらのパン生地を用いたパンの製造法に関する。更に詳細には、トレハロース産生能にすぐれているだけでなくパンの製造に必要な発酵性、香気成分の産生にもすぐれているSaccharomyces
cerevisiaeGITC−1−6を用いた、トレハロースを高濃度に含み、従来の酵母を使用した場合と同等以上の発酵能、香気成分生成能および冷凍耐性能を有するパン生地、冷凍パン生地やこれらのパン生地を使用したトレハロースを高濃度に含有するパン等の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トレハロースはブドウ糖2分子が結合した2糖類であり、でんぷんの老化抑制効果、たんぱく質の変性抑制効果等のような機能をもち、スポンジ、麺類、卵焼き等に添加され、その用途が拡大されてきた。先行技術としては特許文献1〜5が知られている。
【0003】
パンを製造する際の発酵性に優れた酵母としてはサッカロミセス ロゼイ(特許文献6)、サッカロミセス セレビシエFTY(FRY−413)(特許文献7)、サッカロミセス
セレビシエIAM4724(特許文献8)、サッカロミセス セレビシエFTY−3(特許文献9)、サッカロミセス セレビシエKYF(特許文献10)等が知られている。また、微生物を用いてトレハロースを製造する先行技術として、酵母をトレハロースに接触させる方法(特許文献11)や、酵母以外の微生物を使用する方法(特許文献12)が知られている。
【特許文献1】特開平11−42057
【特許文献2】特開平11―18701
【特許文献3】特開平9−107899
【特許文献4】特開平7−79689
【特許文献5】特表2001−190248
【特許文献6】特公昭59−25584号
【特許文献7】特公昭59−48607号
【特許文献8】特公昭63−58536号
【特許文献9】特表2001−500480
【特許文献10】特公平6−87772号
【特許文献11】特開2002−65465号
【特許文献12】特開平7−296097号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上に述べた従来のトレハロース生産技術、パン製造技術においては、トレハロースの生産能と発酵能および香気成分生産能を兼ね備えた酵母が得られていないため、多量のトレハロースを含み充分な発酵能を持ったパン生地を製造することは困難であった。
【0005】
本発明の目的は、酵母としてSaccharomyces cerevisiae GITC−1−6(寄託番号NITE P−47)を使用して、トレハロースを高濃度に含み、従来の酵母を使用した場合と同等以上の発酵能、香気成分生成能および冷凍耐性能を有するパン生地、冷凍パン生地の製造法とこれらのパン生地を用いたトレハロースを高濃度に含むパンの製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、酵母としてSaccharomyces
cerevisiae GITC−1−6(寄託番号NITE P−47)を使用してパン生地を製造することにより、トレハロースを高濃度に含み、従来の酵母を使用した場合と同等以上の発酵能、香気成分生成能および冷凍耐性能を有するパン生地が得られることを見いだした。また、酵母としてSaccharomyces cerevisiae GITC−1−6(寄託番号NITE P−47)を使用して製造されたパン生地を用いて、でんぷんの老化抑制効果、たんぱく質の変性抑制効果等の機能を有する糖であるトレハロースを含有するパンが得られることを見いだした。すなわち、本発明は次の[1]、[2]である。
【0007】
[1]酵母としてSaccharomyces cerevisiaeGITC−1−6(NITE P−47)を使用することを特徴とするパン生地および冷凍パン生地の製造方法。
【0008】
[2][1]に記載のパン生地および冷凍パン生地を使用し、トレハロースを高濃度に含有することを特徴とするパンの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酵母としてSaccharomyces cerevisiae GITC−1−6(寄託番号NITE P−47)を使用することを特徴とし、トレハロースを多量に含み、十分な発酵性や香気成分の生成能を有するパン生地、冷凍パン生地およびパンの製造法を提供することができる。
【発明の実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いる酵母としては、Saccharomyces
cerevisiae W―3(協会4号)と野生酵母GITC−No3(寄託番号NITE P−46)を細胞融合し、育種して得られたSaccharomyces
cerevisiae GITC−1−6(寄託番号NITE P−47)を使用する。
【0011】
本発明のパン生地およびパンの調製法は、例えば以下の通りである。すなわち、小麦粉、砂糖、食塩、ショートニング、イーストフード、Saccharomyces
cerevisiae GITC−1−6(寄託番号NITE P−47)を混捏後、発酵した生地を分割し、ベンチタイムをとってパン生地とする。パン生地を成形後、ホイロで発酵したのち、オーブンで焼成する。酵母の添加法としてストレート法、中種法のいずれを用いても、機能性を付与するために必要なトレハロースの産生能とパンを製造するために十分な発酵能、ジアセチル、アセトイン等の香気成分生成能を得ることができる。
【0012】
本発明の冷凍パン生地の製造方法として、通常ストレート法と中種法がある。ストレート法では生地を調製後、一次発酵、分割、成形した後−50〜−80℃でショック冷凍する。その後一般的な温度(例えば−20〜−30℃)で冷凍保存する。中種法では、一部の生地材料で生地を調製後、中種発酵を行い、残りの生地材料を加えて生地を調製し、分割、成形した後ショック冷凍する。この生地を解凍後最終発酵し焼成してパンとする。パンの製造法については、上記の方法で製造したパン生地を一般的な条件、すなわちオーブンで200℃、30分間焼成することによりトレハロースを高濃度に含有するパンを得ることができる。本発明のパン生地は、生地中に十分なトレハロースを産生し、冷凍耐性を有する。また、解凍後の2次発酵で十分な発酵性と香気成分の生成能を示すので、できあがったパン生地、パンの性能は従来の酵母を用いた場合と同等である。
【0013】
本発明のパン生地の組成は小麦粉100重量部に対して、砂糖3〜25重量部、食塩1〜2重量部、無塩マ−ガリン10〜20重量部、イーストフード0.5〜3重量部、酵母Saccharomyces cerevisiae GITC−1−6(寄託番号NITE P−47)3〜10重量部、水40〜50重量部であり、必要により脱脂粉乳1〜4重量部、全卵10〜20重量部などを加えることができる。酵母の添加量が3重量部未満の場合は十分な発酵能が得られない。また、酵母の添加量を10重量部より多くしても、トレハロースや香気成分の産生量が多くならないのでコスト面で不利を生じる。
【0014】
本発明のパン生地は、0.1〜5.0重量%のトレハロースを含有する。トレハロース含量が0.1重量%未満では冷凍耐性を付与することができない。また、トレハロース含量が5.0重量%以上になると、当該パン生地を用いて製造したパンの食味が変化するので好ましくない。
【0015】
本発明のパン生地は以下の冷凍耐性を有する。すなわち、市販冷凍耐性パン酵母を用いて調製したパン生地を−20℃で14日間保存し、焼成したパンの冷凍耐性能(貯蔵冷凍生地で焼成したパンの体積/非冷凍生地で焼成したパンの体積×100)が80であるのに対し本発明のパン生地を用いて調製したパンの冷凍耐性能は90以上であり、冷凍耐性が認められる。
【0016】
本発明のパン生地を用いて、製造したパンは0.1〜5.0重量%のトレハロースを含有する。トレハロース含量が0.1重量%未満では目的とする機能性を付与することができない。また、トレハロース含量が5.0重量%以上になると、パンの食味が変化するので好ましくない。
【0017】
次に試験例、実施例、比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。以下の記載において、「%」は特に断らない限り「重量%」を意味する。
【0018】
試験例1、トレハロースの測定
【0019】
酵母を遠心分離後ホモジナイザ−で破砕し、凍結乾燥後に70℃にて環流抽出した。パン生地とパンは凍結乾燥後に70℃にて環流抽出した。各サンプル中のトレハロース量を高速液体クロマトグラフ(カラム:Finepak SIL NH2(4.6mmID×250mm)、溶離液:CH3CN/H2O/リン酸=80/17/3、流量:1ml/min、検出器:示差屈折計検出器
Shodex SE-31)を用いて定量した。
【0020】
あらかじめ作成した検量線と測定値を比較して、菌体、パン生地、パン中のトレハロース含量(重量%)を求めた。
【0021】
試験例2 香気成分の測定
【0022】
香気成分の測定は以下の方法で行った。すなわち、ガスクロマトグラフィーとしてGC6890型(Agilent製)、カラムとしてHP−WAX(0.25mm×60m:スペルコ社製)を用い、キャリアガスはヘリウムガス1.1ml/min、カラム温度35℃(5分保持)5℃/分で240℃まで昇温、注入部温度240℃、検出器温度240℃とした。5mm角に切ったパンを内部標準のカプロン酸メチル(100ppm溶液)100μlとともに容積20mlのサンプル瓶に入れ、密封した後ヘッドスペース採取装置によりヘッドスペースガスをガスクロマトフィーに導入した。あらかじめ求めておいた検量線により、ジアセチルとアセトインの含有量(mg/kg)を測定した。
【0023】
実施例1
【0024】
パン生地とパンの製造
【0025】
以下の方法で本発明のパン生地、パンを製造した。すなわち、小麦粉1kg、砂糖50g、食塩20g、酵母20gを混捏後、30℃で2時間発酵した生地を分割し、30分のベンチタイムをとった。生地を成形後、38℃のホイロ中で生地が型から0.5cm出るまで発酵してから200℃で30分間焼成した。できあがったパンの一斤の体積、生地とパン中のトレハロース含量、アセトインとジアセチル含量を表1に示した。また酵母の発酵試験として混捏後の生地を150gに分割し、500mlシリンダ−中において30℃で140分間発酵後の体積を測定して表1に示した。
【0026】
実施例2:冷凍生地の製造
【0027】
次の方法で冷凍パン生地を調製した。すなわち、原料として小麦粉1kg、砂糖120g、食塩17g、脱脂粉乳30g、無塩マ−ガリン150g、卵150g、イ−ストフ−ド1g、酵母 30g、水 415mlを用い、ミキシング 低速1分間、中低速6分間、高速2分間、こね上げ温度
30℃でパン生地を調製した。調製したパン生地を30℃、2時間発酵した後、250gに分割した。できあがった生地を−20℃で冷凍した。冷凍後1、2、および4週間後に30℃で2時間解凍し、ワンロ−フに成型した後38℃のホイロで発酵してから200℃で20分間焼成して体積とトレハロース含量、アセトインとジアセチル含量を測定した。表2に本発明のパン生地の冷凍後の発酵力とトレハロース含量、アセトインとジアセチル含量を示した。
【0028】
比較例1〜3
【0029】
市中で購入したLT酵母(オリエンタル酵母工業製)、冷凍生地用YFイ−スト45酵母(JT製)、FT−3(協和発酵工業(株)製)を用いて、実施例1と同じ方法でパン生地とパンを製造した。できあがったパンの体積、生地とパン中のトレハロース含量、アセトインとジアセチル含量を表1に併せて示した。
【比較例4〜6】
【0030】
市中で購入したLT酵母(オリエンタル酵母工業製)、冷凍生地用YFイ−スト45酵母(JT製)、FT−3(協和発酵工業(株)製)を用いて、実施例2と同じ方法で冷凍生地を製造した。表2にLT酵母(オリエンタル酵母工業製)、冷凍生地用YFイ−スト45酵母(JT製)、FT−3(協和発酵工業(株)製)を用いたパン生地の冷凍後の冷凍耐性能:(貯蔵冷凍生地で焼成したパンの体積/非冷凍生地で焼成したパンの体積)と冷凍する前後のトレハロース含量、アセトインとジアセチル含を示した。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】パンの体積とトレハロース含有の比較
【図2】冷凍生地の発酵能とトレハロース含量
【0032】
表1〜2に示されるように、本発明の融合酵母は、親株や市販の冷凍耐性酵母と比較して優れたトレハロ−ス産生能と冷凍生地解凍後の充分な発酵能、香気成分の産生量が認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母としてSaccharomyces cerevisiaeGITC−1−6(寄託番号NITE P−47)を使用することを特徴とするパン生地および冷凍パン生地の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のパン生地および冷凍パン生地を使用し、トレハロースを高濃度に含有することを特徴とするパンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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