説明

パン生地の製造方法

【課題】パン生地の製造に必要な小麦粉の一部に膨化米を代替したパン類の製造法であって、食感、風味、および、ふくらみが従来の米粉を用いたパンに比べて改善されたパン類を提供する。
【解決手段】膨化米100重量部に対して100重量部以上900重量部未満の範囲となる水を加えて混捏し、粘度が0.2Pa・s以上の中間生地を調整する工程、あるいは混捏後に、生地の温度が−5℃から15℃の範囲に保たれるよう4時間以上48時間未満静置する工程、及び前記いずれかの工程にて調整した中間生地に、当該膨化米100重量部に対して小麦粉300重量部以上2,500重量部以下の範囲となる小麦粉を加えて混捏する工程を備えるパン生地の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン生地の形成に必要な小麦粉の一部を膨化米に代替した、パン生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米の消費拡大のため、米粉を小麦粉の代替品として用いる方法が模索されている。そのひとつとして、米粉を用いたパン生地の製造方法が提供されている。米粉は、粒子が粗いことに加え、小麦粉には含まれるグルテンが含まれていないことから、ふくらまない、時間がたつと硬くなるといった理由で、パン類や洋菓子の原料には不向きとされている。
【0003】
その欠点を補うため、小麦粉を用いずに米粉のみを用いてパン類を製造する際には、米粉の一部をα化する方法、あるいは米を加圧下で加熱処理したのち、急激に低圧下に放出して得られた膨化米を一部に用いる方法等により改善が試みられている。例えば、米粉100重量部に対し、4重量部以上8重量部以下の範囲の米粉に、その15倍量の水を加えて混合後に加熱し、α化する方法(例えば、特許文献1参照)や、米粉100重量部に対し、膨化米を1重量部以上50重量部以下の範囲で配合する方法(例えば、特許文献2参照)等が知られている。これらの方法により、米粉由来の独特な粘りや、しっとりとした食感のあるパンが得られるようになるが、最大の課題であったふくらみの悪さは、十分に改善されず、風味も小麦粉に比べて劣る。
【0004】
一方、小麦粉の一部に米粉を代替する場合も、米粉をα化する方法等により、風味やふくらみの改善が試みられている。例えば、小麦粉70重量部以上95重量部以下に対し、α化した後に粉砕した米粉を5重量部以上30重量部以下の範囲で混合する方法(例えば、特許文献3参照)が知られている。
【0005】
あるいは、米粉80重量部に対して、グルテン10重量部以上20重量部以下の範囲で添加し、熱湯で捏ねて糊化する方法(例えば、特許文献4参照)や、玄米粉100重量部に対し、タピオカあるいは葛由来の澱粉を1重量部以上20重量部以下の範囲で添加することで、米粉に不足しているグルテンを強制付加し、ふくらみの悪さを改善する方法(例えば、特許文献5参照)が知られている。しかしながら、小麦粉の一部を米粉で代替する方法や、米粉にグルテンを配合する方法では、通常の小麦粉を用いたパンに比べ、ふくらみが悪い上に、米とグルテンのなじみが悪く分離しやすいため、パン生地が均一になりにくく、加工しにくいといった問題も生じ、小麦粉に代えて米粉を用いる大きな利点がないのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開2004−267144号公報
【特許文献2】特開2006−174822号公報
【特許文献3】特開昭54−023150号公報
【特許文献4】特開2003−304801号公報
【特許文献5】特開2006−136257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、膨化米を小麦粉の一部に代替して用いても、ふくらみがよく、かつ、風味、食感が改善され、嗜好性が高められたパン類が得られるパン生地の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、膨化米に水を加え、粘度が0.2Pa・s以上になるまで混捏することで中間生地を調整し、当該中間生地に小麦粉を加えて調整したパン生地を用いると、焼成後に米粉を用いたことによるふくらみの悪さが有意に改善され、かつ、米由来の良好な風味ともっちりとした食感をもつ嗜好性の高いパン類が得られることを見出し、本発明に至った。さらに、膨化米に水を加えて混捏した後に、一定時間、定常状態にて保存することで中間生地を調整し、当該中間生地に小麦粉を加えて調整したパン生地を用いると、焼成後のふくらみがさらに良好となることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1) 膨化米100重量部に対して100重量部以上900重量部以下の範囲となる水を加えて混捏し、粘度が0.2Pa・s以上となる中間生地を調整する工程、及び前工程にて調整した中間生地に、当該膨化米100重量部に対して300重量部以上2,500重量部以下の範囲となる小麦粉を加えて混捏する工程を備えるパン生地の製造方法。
2) 膨化米100重量部に対して100重量部以上900重量部以下の範囲となる水を加えて混捏し、4時間以上48時間以下静置する工程、及び当該膨化米100重量部に対して300重量部以上2,500重量部以下の範囲となる小麦粉を加えて混捏する工程を備えるパン生地の製造方法。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、パン生地の一部に膨化米を用いたにもかかわらず、焼成後のふくらみの悪さが改善され、かつ、米由来の良好な風味ともっちりとした食感をもつ嗜好性の高いパン類を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における膨化米は、玄米、精白米あるいは粉砕米等の原料米を、高温、高圧下から瞬時に常圧下に放出することで得られる。具体的には、原料米を、バッチ式、瞬間連続膨化方式、エクストルーダー方式などの膨化処理装置を用いて高温、高圧状態から急激に常圧状態にして膨化させる方法が使用できる。
【0012】
膨化処理を行う場合の温度や圧力等の条件は、使用する装置に応じ適宜設定すればよく、例えば、気流加熱方式による膨化食品製造装置(特公昭46−34747号参照)を使用する場合では、ゲージ圧力4〜7kg/cmの範囲で、飽和蒸気温度よりも80〜130℃高い加熱水蒸気を用いて、原料米を数秒間加圧加熱すればよい。
【0013】
中間生地は、膨化米100重量部に対して100重量部以上900重量部以下の範囲の水を加えて混捏することで得られる。この水量は、最終的なパン生地の形成に必要な全水量100重量部に対して30重量部以上70重量部以下の範囲である。
【0014】
中間生地の混捏は、ホモジナイザー等により一定時間混合することで調整する。例えば、ポリトロンホモジナイザー(KINEMATICA社製)により高速(9,000rpm)にて5分間混合すると、膨化米100重量部に対し500重量部の加水を行った場合は、約30Pa・sの粘度の中間生地を、900重量部の加水を行った場合は約0.3Pa・sの粘度の中間生地を得ることができる。
【0015】
中間生地の粘度は0.2Pa・s以上が好ましい。中間生地の粘度が0.2Pa・s未満の場合は、生地の形成が困難となり、また、焼成した際に生地の適度な膨張が起こりにくく、パン類の中間生地としては不向きな物性となる。より良好なふくらみや風味を得るために、好ましい中間生地の粘度は10Pa・s以上100Pa・s以下の範囲で、より好ましくは、20Pa・s以上40Pa・s以下の範囲である。
【0016】
静置は、中間生地を4時間以上定常状態にて保存することで調整する。この工程を経ることで、中間生地の成分が均一となり、従来の方法であれば、一定量以上の米粉をパン生地の調整に用いた場合に起こるグルテンの形成阻害や、グルテンのなじみが悪くパン生地の成分が均一化しにくいといった欠点が解消され、この方法により調整したパン生地を焼成すると、ふくらみが良く、もっちりとした食感をもったパン類を得ることができる。雑菌の繁殖を抑えるために、中間生地の温度が−5℃以上15℃以下の範囲に保たれるよう静置するのが望ましい。
【0017】
最終的なパン生地は、前記工程にて調整した中間生地に小麦粉および水を加えて混捏することで調整する。加える小麦粉の量は、中間生地形成の過程で用いた膨化米100重量部に対して300重量部以上2,500重量部以下の範囲である。
【0018】
2,500重量部を超える量の小麦粉を加えた場合は、米由来のもっちりとした食感が得られず、品質的に全量小麦粉を用いたパンと変わらなくなる。300重量部以下の小麦粉を加えた場合は、生地の形成に必要な加水が相対的に多くなり、できあがりの水分が多くなりすぎるために、通常の食パンとしては不向きな食感、物性となる。より好ましくは、膨化米100重量部に対して小麦粉が650重量部以上2,000重量部以下となる範囲であり、この範囲で配合することで調整したパン生地を用いたパン類は、焼成後のふくらみが最も良く、風味も良好となる。
【0019】
最終的なパン生地を調整には、小麦粉の他に食塩、砂糖、脱脂粉乳、油脂等の中から任意に選択した1種あるいは2種以上のものを適宜量添加し、混捏することができる。油脂としてはバター、マーガリン、ショートニング、ラード等、固体、液体等の形状を問わず使用することができる。パン生地を調整する方法としては、中種法、直捏法、ノータイム法、その他のパン製法を採用することができる。最終的なパン生地を得た後、常法により一次発酵、分割、成型、二次発酵、焼成の工程を経てパンを製造する。
【0020】
以下、実施例に即して本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの記載によって、なんら制限されるものではない。
【実施例1】
【0021】
市販の(1)強力粉(日清製粉社製;比較例1)、(2)上新粉(三立粉菓社製;比較例2)、(3)膨化米(キッコーマン社製;本発明1,2)を用いて、中間生地を調整した。各試料25gに水110gを加え、ポリトロンホモジナイザー(KINEMATICA社製)により9,000rpmにて5分間混合した。
【0022】
次いで中間生地の温度が1℃となるように維持しながら、0時間(本発明1)あるいは16時間静置し(比較例1,2、本発明2)、各試料で調整した中間生地を得た。
【0023】
前記の方法で調整した各中間生地に、強力粉(日清製粉社製)225g、バター25g、砂糖36g、スキムミルク18g、食塩4.5g、水100g、ドライイースト4.5gを加えて混捏し、最終的なパン生地を調整した。
【0024】
前記の方法で調整したパン生地を常法に従って発酵・焼成した。焼成後のパンの外観を比較したところ、図1に示すように、上新粉を用いたパン(比較例2)では、全量強力粉を用いたパン(比較例1)に比べふくらみが悪かったのに対し、膨化米を用いたパン(本発明1,2)では、米粉を用いたことによるふくらみの低下が改善され、全量強力粉を用いたパンと比べても、ふくらみが良好となった。また、静置時間の違いがパンのふくらみ具合に与える影響を観察したところ、静置を行わなかったパン(本発明1)に比べ、16時間の静置を行ったパン(本発明2)は、焼成後のふくらみが、さらに良好となった。
【0025】
また、図2で示すように、膨化米を用いたパン(本発明2)は、焼成の段階において形成される気泡のきめが非常に細かく、かつ、気泡が潰れることなく形成されていることが確認された。一方、上新粉を用いたパン(比較例2)は、気泡のきめ自体は、全量小麦粉を用いたパン(比較例1)と比べても大差はなかったが、気泡がパンの重みに負けて潰れてしまっており、結果として食感の悪いパンとなってしまった。
【実施例2】
【0026】
実施例1により得られたパンの官能評価試験の結果を表1に示す。試験は、18人のパネラーに対するブラインドテストにより実施し、外観、嗜好性についての評価を行った。外観の評価は、目視により、嗜好性の評価は、各サンプルの相対的な評価を平均化することで算出した。
【0027】
【表1】

※嗜好性の評価
1=好ましくない、2=やや好ましくない、3=どちらともいえない、4=優れている、5=非常に優れている
【0028】
表1に示すように、本発明により得られるパン生地を用いて焼成したパンは、従来の製法によって調整したパン生地を用いて焼成したパンと比べ、ふくらみや、きめの細かさ等の外観および味、香り、食感等の風味が優れていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】強力粉(全量;比較例1)、上新粉(10%;比較例2)、または、静置時間を0時間(本発明1)および16時間(本発明2)の二通りに設定した膨化米(10%)を含有させた中間生地を用いて製造したパンの外観を示す写真。
【図2】強力粉(全量;比較例1)、上新粉(10%;比較例2)、または膨化米(10%;本発明2)を含有させて中間生地を用いて製造したパンの断面図を示す写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨化米100重量部に対して100重量部以上900重量部以下の範囲となる水を加えて混捏し、粘度が0.2Pa・s以上となる中間生地を調整する工程、及び前工程にて調整した中間生地に、当該膨化米100重量部に対して300重量部以上2,500重量部以下の範囲となる小麦粉を加えて混捏する工程を備えるパン生地の製造方法。
【請求項2】
膨化米100重量部に対して100重量部以上900重量部以下の範囲となる水を加えて混捏し、生地を4時間以上48時間以下静置する工程、及び当該膨化米100重量部に対して300重量部以上2,500重量部以下の範囲となる小麦粉を加えて混捏する工程を備えるパン生地の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−119316(P2010−119316A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293994(P2008−293994)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】