説明

パン生地の製造方法

【課題】ゲル化剤や増粘多糖類を必ずしも必要とせず、簡便な方法で、分割、丸め、成形時に良好な物性を呈するパン生地を、安定して得ることができる多加水パン生地の製造方法、該特徴を有するパン生地、さらにはソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきのない良好な食感を有する多加水パンを提供すること。
【解決手段】澱粉類100質量部に対し水60〜150質量部を含むパン生地を製造する際に、上記水を2回以上に分けて添加、練り込むことを特徴とするパン生地の製造方法、該パン生地の製造方法で得られたパン生地、さらには該パン生地を成形した後、焼成して得られたパン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン生地の製造方法に関し、詳しくは加水量が通常のパン生地に比べて顕著に多い多加水パンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パンの食感に対してさまざまな要求があるが、ソフト性としとり感は最も多い要求である。一般的にソフトでしとり感のあるパンを得るためには水の添加量(吸水量)を増加すればよい。
しかし、小麦粉100質量部に対し吸水量が70質量部以上となると、得られるパン生地は保型性を失い流動状となり、各種の成形を行うことが困難となる。
【0003】
そのため、このような吸水量の多いパン生地(多加水パン生地)を用いて得られるパンはチャバタ等の特殊なパンに限定されている。
【0004】
そこで、多加水パン生地でありながら、従来の一般的な成形をおこなうことが可能な物性であるパン生地とするための発明が各種紹介されている。
【0005】
たとえば、ゲル化剤や増粘多糖類を使用する方法(例えば特許文献1〜3参照)や、微細小麦粉を使用する方法(例えば特許文献4参照)、あらかじめ糊化した小麦粉をパン生地に添加する方法(例えば特許文献5参照)、流動状を呈する多加水パン生地に固形物を大量に添加することで保型性を出し、成型可能な物性とする方法(例えば特許文献5参照)等が知られている。
【0006】
しかし、ゲル化剤や増粘多糖類を使用する方法では、得られるパンがねちゃつきやすいという問題があり、また、微細小麦粉を使用する方法では、得られるパン生地が粘つき成形が難しいという問題があり、あらかじめ糊化した小麦粉をパン生地に添加する方法では、パン生地の伸展性が悪く良好な物性が得られにくく、また安定した製造が難しいという問題があった。さらに、多加水パン生地に固形物を大量に添加する方法では、食パンやテーブルロールなどの固形物を含有しない通常のパンが得られず、また、安定したボリュームのパンが得られないという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開2006−320207号公報
【特許文献2】特開2004−187526号公報
【特許文献3】特開平10−179012号公報
【特許文献4】特開2004−194518号公報
【特許文献5】特開2000−245332号公報
【特許文献6】特開2005−102609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、多量のゲル化剤や増粘多糖類を使用せずとも、簡便な方法で、分割、丸め、成形時に良好な物性を呈するパン生地を、安定して得ることができる多加水パン生地の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、製パン混捏時の水の添加方法を工夫することにより、上記の従来技術の問題を解決可能であることを知見した。
【0010】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、穀粉類100質量部に対し、水60〜150質量部を含むパン生地を製造する際に、上記水を2回以上に分けて添加、練り込みを行なうことを特徴とするパン生地の製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、上記の本発明のパン生地の製造方法で得られたパン生地、さらには、該パン生地を成形した後、焼成して得られた、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきのない良好な食感を有するパンを提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパン生地の製造方法によれば、多量のゲル化剤や増粘多糖類を使用することなく、分割、丸め、成形時に良好な物性を呈するパン生地を、簡単な方法で得ることができる。
【0013】
また、本発明のパン生地の製造方法で得られたパン生地を使用して得られたパンは、腰持ちがよく、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきのない良好な食感を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
まず、本発明のパン生地の製造方法について詳細に説明する。
【0015】
本発明で用いる澱粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉などの小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉などのその他の穀粉類、アーモンド粉、へーゼルナッツ粉、カシュ―ナッツ粉、オーナッツ粉、松実粉などの堅果粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉などの澱粉や、これらの澱粉をアミラーゼなどの酵素で処理したものや、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、グラフト化処理などの中から選ばれた1種又は2種以上の処理を施した化工澱粉等が挙げられ、本発明では、澱粉類中、好ましくは小麦粉類を50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは100質量%使用する。
【0016】
本発明で用いる水としては、特に限定されず、天然水や水道水などが挙げられる。
本発明では、上記パン生地における水の含有量は、上記澱粉類100質量部に対し、60〜150質量部、好ましくは60〜100質量部、さらに好ましくは68〜85質量部である。
【0017】
なお、本発明においては、上記水の含有量は、上記天然水や水道水に加え、下記のその他の原料中の水分も含有するものである。
【0018】
本発明においては、必要に応じ、一般の製パン材料として使用することのできるその他の原料を使用することができる。該その他の原料としては、例えば、油脂、イースト、糖類や甘味料、増粘安定剤、β−カロチン・カラメル・紅麹色素などの着色料、トコフェロール・茶抽出物などの酸化防止剤、デキストリン、カゼイン・ホエー・クリーム・脱脂粉乳・醗酵乳・牛乳・全粉乳・ヨーグルト・練乳・加糖練乳・全脂練乳・脱脂練乳・濃縮乳・純生クリーム・ホイップ用クリーム(コンパウンドクリーム)・植物性ホイップ用クリームなどの乳や乳製品、ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・クリームチーズ・ゴーダチーズ・チェダーチーズなどのチーズ類、原料アルコール、焼酎・ウイスキー・ウオッカ・ブランデーなどの蒸留酒、ワイン・日本酒・ビールなどの醸造酒、各種リキュール、グリセリン脂肪酸エステル・グリセリン酢酸脂肪酸エステル・グリセリン乳酸脂肪酸エステル・グリセリンコハク酸脂肪酸エステル・グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル・ソルビタン脂肪酸エステル・ショ糖脂肪酸エステル・ショ糖酢酸イソ酪酸エステル・ポリグリセリン脂肪酸エステル・ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル・プロピレングリコール脂肪酸エステル・ステアロイル乳酸カルシウム・ステアロイル乳酸ナトリウム・ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド・レシチンなどの乳化剤、膨張剤、無機塩類、食塩、ベーキングパウダー、イーストフード、生地改良剤、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、ハーブ、豆類、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、野菜類・肉類・魚介類などの食品素材、コンソメ・ブイヨンなどの植物及び動物エキス、食品添加物などを挙げることができる。
【0019】
上記その他の原料は、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができるが、好ましくは、上記澱粉類100質量部に対して合計で100質量部以下、より好ましくは50質量部以下となる範囲で使用する。
【0020】
なお、上記油脂としては、例えば、ショートニング、マーガリン、バター等の可塑性油脂組成物、流動ショートニング、液状油等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。なお、上記油脂が乳化物である場合、その乳化形態は、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わない。
【0021】
上記の糖類や甘味料としては、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ糖、果糖、蔗糖、麦芽糖、乳糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、還元乳糖、還元水飴、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、ステビア、アスパルテーム、はちみつなどが挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0022】
上記増粘安定剤としては、キサンタンガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、ペクチン、プルラン、タマリンドシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、ファーセルラン、タラガム、カラヤガム、トラガントガム、ジェランガム、大豆多糖類などが挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0023】
本発明のパン生地の製造方法は、澱粉類100質量部に対し水60〜150質量部を含む上記パン生地を製造する際に、水を2回以上に分けて添加、練り込みを行なうことを特徴とするものである。
【0024】
従来の一般的なパン生地の製造方法では、たとえばストレート法では、澱粉類、水、必要に応じその他の原料を混合し、混捏し、グルテンを十分に出した生地に、油脂を添加し、さらに仕上げの混捏を行なうことによって得られる。すなわち、上記水の添加は生地製造の最初の1回のみである。
【0025】
また、中種法や湯種法では、澱粉類の一部をあらかじめ水の一部で水和あるいは糊化させたのち一定時間熟成させ、ここに残余の澱粉類、水、必要に応じその他の原料を混合し、混捏し、グルテンを十分に出した生地に、油脂を添加し、さらに仕上げの混捏を行なうことによって得られる。よって、水の添加は2回であるが、1回目の添加後に練り込み(生地を均質になるまで混捏する)を行なっていない点において本発明と異なる。すなわち、本発明においては、中種法や湯種法における中種生地や湯種生地のような中間生地作成の際の水の添加は、その後の本捏ミキシング時に添加する1回目の水の添加に含まれるものである。
【0026】
本発明のパン生地の製造方法は、上記水の添加、練り込みが複数回である点において、上記従来のパン生地の製造方法とは異なっている。
【0027】
この水の添加、練り込みが複数回であることによって、1回目に添加した水は穀粉類と十分に水和し、2回目以降に添加した水は、練り込む過程において、その水和した生地中に均質に分散することであたかも生地中に水が乳化するような形で取り込まれるため、良好な物性を保ったまま大量の水の添加(吸水)を行なうことができるものである。
【0028】
すなわち、本発明のパン生地の製造方法においては、澱粉類100質量部に対し、水60〜150質量部を含むパン生地を製造する際に、まず、水の一部を添加して均質な生地となるまで練り込み、好ましくは十分にグルテンがでるまで混捏して、その後、残余の水を1回〜数回に分けて添加、練り込みを行い、再び均質な生地とするものである。
【0029】
この水の添加、練り込みは、水を添加する際に添加する水が多いためにただ複数回に分けるのではなく、また、パン生地の粘弾性の調整のために複数回に分けるのでもなく、1回目において完全に練り込み、均質な生地とすることが必要である。
【0030】
本発明のパン生地の製造方法における、水の添加回数は、2回であることが特に好ましい。これは水の添加回数が3回以上であると、パン生地中の水分含量によっては、良好な物性のパン生地が得られにくくなるおそれがあるためである。なお、水の添加回数の上限は、特に制限はないが、5回以下であることが好ましい。
【0031】
本発明のパン生地の製造方法における、1回目の水の添加量は、好ましくは水の全添加量の70〜95質量%、より好ましくは78〜95質量%である。1回目の水の添加量が70質量%未満であったり、95質量%を超えると、本発明の効果が得られにくくなる。
【0032】
次に、本発明のパン生地について述べる。
【0033】
本発明のパン生地は、上記本発明のパン生地の製造方法により得られたもので、水分含量が高いパン生地でありながら,分割、丸め、成形時にべとつかず良好な物性を呈する。
【0034】
最後に、本発明のパンについて述べる。
【0035】
本発明のパンは、上記の本発明のパン生地を、適宜、成形し、必要に応じホイロ、リタード、レストをとった後、焼成することにより得ることができる。
【0036】
上記成形は、どのような形状に成形してもよく、型詰めを行っても構わない。
これらの成形は、手作業で行っても、連続ラインを用いて全自動で行っても構わない。
【0037】
焼成する場合の加熱条件は、ベーカリー食品の種類によって異なるが、例えばオーブンを使用する場合、好ましくは150〜240℃で4〜25分、さらに好ましくは180〜230℃で5〜20分である。
【0038】
本発明のパンは、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきのない良好な食感を有する。また、水分含量の高いパンでありながら腰持ちが良好である。
【実施例】
【0039】
以下に本発明の実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
強力粉70質量部、生イースト3質量部、イーストフード0.1質量部及び水40質量部をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で2分、中速で2分混合し、中種生地を得た。捏ね上げ温度は24℃であった。この中種生地を生地ボックスに入れ、温度28℃、相対湿度85%の恒温室で、4時間中種醗酵を行なった。終点温度は29℃であった。この中種醗酵の終了した生地を再びミキサーボウルに投入し、以下のように本捏ミキシングを行なった。強力粉30質量部、食塩1.7質量部、上白糖15質量部、水20質量部を添加し、低速で3分、中速で3分ミキシングした。ここで、練込油脂(マーガリン:油分含量80質量%)8質量部を投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で3分ミキシングした。ここで、さらに水10質量部を添加し、低速で3分、中速で3分、高速で1分ミキシングして練り込みを行ない、テーブルロール生地を得た。
【0041】
ここで、フロアタイムを20分とった後、60gに分割・丸目を行なった。分割・丸目時のテーブルロール生地はべたつかず、作業性は良好であった。次いで、ベンチタイムを20分とった後、ツイスト成形し、展板に並べ、38℃、相対湿度80%で50分ホイロをとった後、表面に塗り卵し、200℃に設定した固定窯に入れ13分焼成してテーブルロールを得た。
【0042】
得られたテーブルロールは良好なボリュームを有し、腰持ちがよく、ソフトでしっとりしたねちゃつきのない良好な食感を示した。
【0043】
(実施例2)
実施例1の本捏ミキシング時に、強力粉に食物繊維(シトリファイ100G:鳥越製粉製)を3質量部混合添加し、1回目の水の添加量を20質量部から25質量部に変更した以外は実施例1の配合・製法と同様にして実施例2のテーブルロール生地、及び、テーブルロールを得た。
【0044】
得られたテーブルロール生地は実施例1で得られたテーブルロール生地よりも水の添加量が多いにも係らず、実施例1と同等の生地の扱いやすさであり、さらに得られたテーブルロールは良好なボリュームを有し、腰持ちがよく、実施例1よりさらにソフトでしっとりしたねちゃつきのない良好な食感を示した。
【0045】
(実施例3)
実施例2の食物繊維(シトリファイ100G:鳥越製粉製)の添加量を3質量部から2質量部に、1回目の水の添加量を25質量部から19質量部に、2回目の水の添加量を10質量部から16質量部に変更した以外は実施例1の配合・製法と同様にして実施例2のテーブルロール生地、及び、テーブルロールを得た。
【0046】
得られたテーブルロール生地は実施例2で得られたテーブルロール生地よりも食物繊維の添加量を減じたにも係らず、実施例2と同等の生地の扱いやすさであり、腰持ち及び食感もほぼ同等であった。
【0047】
(比較例1)
実施例1の本捏ミキシング時に、水を2回に分割せず、1回目に全量添加し、2回目の水の添加と練り込みを行なわなわかった以外は実施例1の配合・製法と同様にして比較例1のテーブルロール生地、及び、テーブルロールを得た。
【0048】
得られたテーブルロール生地は実施例1で得られたテーブルロール生地と同一の水の添加量であるにも係らず、べとついて扱いにくい生地であった。また、得られたテーブルロールは腰持ちが悪く、実施例1よりねちゃついた不良な食感であった。
【0049】
(比較例2)
実施例1の本捏ミキシング時に、2回目の水の添加と練り込みを行なわなかった以外は実施例1の配合・製法と同様にして比較例2のテーブルロール生地、及び、テーブルロールを得た。
【0050】
得られたテーブルロール生地は実施例1で得られたテーブルロール生地より水の添加量が10質量部少ないが、実施例1で得られたテーブルロール生地と同等の物性であった。なお、得られたテーブルロールは実施例1とよりボリュームがやや小さく、実施例1より硬い食感でソフト性としとり感に乏しい、不良な食感であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉類100質量部に対し水60〜150質量部を含むパン生地を製造する際に、上記水を2回以上に分けて添加、練り込むことを特徴とするパン生地の製造方法。
【請求項2】
1回目に添加する水の添加量が、水の全添加量の70〜95質量%であることを特徴とする請求項1記載のパン生地の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のパン生地の製造方法によって得られたパン生地
【請求項4】
請求項3記載のパン生地を成形した後、焼成して得られたパン。