説明

パン用品質改良剤

【課題】パン生地調製時の分散性が改善されたペクチンを提供する。
【解決手段】油性物質で被膜されたペクチンを含有することを特徴とするパン用品質改良剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン用品質改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製パン時の作業性の改善、パンの品質向上およびパン体積の増加などを目的として、パン生地に増粘多糖類を添加することが行われており、例えばペクチンについては、中種生地法によってパン類を製造するに際し、ペクチンを本捏段階でパン生地に添加混捏し、次いで常法によってパン生地を焼成することを特徴とするパン類の製造方法(特許文献1参照)や、平均粒子径が20μm以下の増粘安定剤を含有することを特徴とする製菓・製パン用品質改良剤(特許文献2参照)などが開示されている。しかし、粉末状のペクチンを添加した場合、パン生地調製中にペクチン自身が吸水・凝集してしまい、分散効率が低下することにより老化防止効果が低下する上、ペクチンの凝集物自身がパンの食感に悪影響を及ぼし、ねとつき等を生じてしまい、口どけ感の低下があるという問題がある。
【0003】
【特許文献1】特開平07−289144号公報
【特許文献2】特開2002−291396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、パン生地調製時の分散性が改善されたペクチンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ペクチンを予め油性物質で被膜し、得られたペクチン加工品をパン生地に添加することによりペクチンの分散性が改善されることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、油性物質で被膜されたペクチンを含有することを特徴とするパン用品質改良剤、からなっている。
【発明の効果】
【0006】
パン生地調製時の分散性が改善されたペクチンを使用することにより、従来ペクチン添加の際問題となっているパン生地調製時のべたつきが抑制される。
本発明のパン用品質改良剤を使用したパン類は、保湿感、口溶け感、ソフト感に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の本質は、ペクチンを油性物質で被膜することにある。以下、油性物質で被膜されたペクチンを、ペクチン加工品と称する。
【0008】
本発明で用いられるペクチンとは、サトウダイコン、ヒマワリ、アマダイダイ、グレープフルーツ、ライム、レモン、又はリンゴより、熱時水又は酸性水溶液で抽出した物より得られもの、又はこれをアルカリ性水溶液若しくは酵素で分解したものより得られたものである。成分はメチル化ポリガラクチュロン酸等の多糖類である。
メチルエステル化度が50%以上のものは高メトキシルペクチン(HMペクチン)、エステル化度が50%未満のものは低メトキシルペクチン(LMペクチン)と呼ばれている。本発明においてペクチンとしては、高メトキシルペクチンのみを用いても、低メトキシルペクチンのみを用いても、また両者の混合物を用いても良い。
【0009】
本発明で用いられる油性物質としては、例えば油脂、ワックス、乳化剤、ステロール等が挙げられる。これらの油性物質は1種類で用いても良いし、2種類以上を任意に組み合わせてもよい。
【0010】
上記油脂(トリアシルグリセライド)としては、食用可能な油脂であれば特に制限はなく、例えば大豆油、菜種油、トウモロコシ油、綿実油、ヒマワリ油、サフラワー油、パーム油、ヤシ油、パーム核油等の植物性油脂、およびそれらの水素添加された硬化油や、豚脂、牛脂、鶏脂等の動物性油脂およびそれらの水素添加された硬化油、あるいはこれらの油脂類のエステル交換油およびそれらの水素添加された硬化油が挙げられる。好ましくは融点40℃以上、100℃未満で食用可能な油脂であり、例えば極度硬化大豆油、極度硬化菜種油、極度硬化綿実油及び極度硬化パーム油等の植物油脂、極度硬化牛脂、極度硬化豚脂及び極度硬化魚油等の動物油脂が挙げられる。
【0011】
上記ワックスとしては、食用可能なワックスであれば特に制限はなく、好ましくは融点40℃以上、100℃未満で食用可能なワックスである。例えばウルシロウ、カルナウバロウ、カンデリラロウ、コメヌカロウ、サトウキビロウ、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ミツロウ、モクロウ及びモンタンロウ等が挙げられる。
【0012】
上記乳化剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。ここで、グリセリン脂肪酸エステルには、グリセリンと脂肪酸のエステルの外、グリセリン有機酸脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステル等が含まれる。グリセリン有機酸脂肪酸エステルには、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルおよびグリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル等が含まれる。これら食品用乳化剤は、1種類で用いても良いし、2種類以上を任意に組み合わせていてもよい。
【0013】
上記乳化剤を構成する脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数14〜24の飽和脂肪酸が挙げられ、好ましくはベヘン酸である。
【0014】
上記ステロールとしては、例えば動物を基原とするコレステロール、植物を基原とするカンペステロール、シトステロール、スチグマステロール、イソフコステロール、ブラシカステロール、グラミステロール、シトロスタジェノール、オブツシホリオール、シクロオイカレノール及びシクロアルテノール、並びに菌類を基原とするエルゴステロール等が挙げられ、好ましくは一般にフィトステロールと総称される植物を基原とするステロール類である。
ステロールは、遊離の状態であって、融点が約100〜160℃の範囲のものが好ましい。
【0015】
尚、本発明において、融点は「基準油脂分析試験法(I)1996年版」(社団法人日本油化学会)の[2.2.4.2_1996 融点(上昇融点)]に準じて測定される。
【0016】
本発明において、ペクチン加工品は、攪拌型混合造粒機を使用して製造されるのが好ましい。以下に、好ましい態様を例示する。例えば、攪拌型混合造粒機に粉末のペクチンと油性物質を入れ、室温下で混合する。次に攪拌を続けながら槽内を加熱し、好ましくは40〜160℃の温度で、約15〜180分間混合することにより製造される。
【0017】
上記攪拌型混合造粒機としては、攪拌・混合羽根と造粒羽根を併せ持った混合造粒機であれば特に制限はなく、例えば、ハイスピードミキサー(深江パウテック社製)、ハイフレックスグラル(深江パウテック社製)、グラニュレーター(奈良機械製作所社製)、バーチカル・グラニュレーター(パウレック社製)等が挙げられる。
【0018】
得られるペクチン加工品100質量%中のペクチンの含有量は約60〜98質量%、好ましくは約70〜95質量%であり、油性物質の含有量は2〜40質量%、好ましくは約5〜30質量%である。
【0019】
ペクチン加工品は、更に、粉砕処理されるのが好ましい。ペクチン加工品を粉砕処理するための装置としては特に限定されず、例えばカッターミル、ハンマーミル又はボールミル等の粗粉砕機、ファインインパクトミル(ホソカワミクロン社製)、スーパースクリーンミル(奈良機械製作所社製)等の微粉砕機、アトマイザー(パウレック社製)、カウンタージェットミル(ホソカワミクロン社製)等の超微粉砕機等を用いることができる。粉砕処理後、得られた粉砕物を篩い分けし目的とする粒子形のものを得ても良い。このような状態であれば、パン製造工程、例えば計量工程、混合工程などにおけるハンドリング性が良好であると同時に、他の粉末状添加物と簡単に混合することができる。
【0020】
本発明のパン用品質改良剤は、ペクチン加工品単独であっても良いし、または他の食品素材や、食品添加物などを含んでも良い。
【0021】
本発明のパン用品質改良剤主要成分であるペクチン加工品のパン生地への添加量は、小麦粉100質量部に対し通常0.01〜20質量部、好ましくは0.01〜10質量部である。パン用品質改良剤の添加量が0.01質量部未満であると、十分な老化防止効果が得られない。また、20質量部を越えると製パン時の作業性が悪くなると同時に、パンの食感が悪くなる。
【0022】
本発明でいうパン類とは食パン、ロールパン、菓子パン、ドーナツ、調理パン等が挙げられる。食パンとしては白食パン、フランスパン、バラエティーブレッド、イングリッシュマフィン等、ロールパンとしてテーブルロール、バターロール、ドックロール(コッペパン)、スィートロール、バンズ等、菓子パンとしてアンパン、クリームパン、ジャムパン、カレーパン等のフィリング類をパンに詰めたもの、レーズンパン、メロンパン、クロワッサン、デニッシュペストリー、ブリオッシュ等、ドーナツとしてアンドーナツ、カレードーナツ等のイーストドーナツ、調理パンとしてはハンバーガー、ホットドック、ピザ等が挙げられる。
【0023】
以下に本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
ハイフレックスグラル(型式:HF−GS−2J型,内容量2L;深江パウテック社製)にHMペクチン(商品名:GENU pectin type YM−115−H−J; CP Kelco社製)450g、パーム極度硬化油(横関油脂工業社製;融点59℃)50gを仕込み、室温にて、主軸回転数400rpm、副軸回転数1200rpmの条件で5分間混合した。混合を続けながら、ジャケット内に温水を通して槽内を加熱し、内容物の品温が80±5℃に達温後、その温度を保ったまま約15分間混合した。その後、内容物を取り出し室温まで冷却し、得られたペクチン加工品の一部(約200g)を篩い分け(26メッシュ:目開き600μm)して大きな粒子を除き、粉末状のパン用品質改良剤(試料1)約190gを得た。
【実施例2】
【0025】
ハイフレックスグラル(型式:HF−GS−2J型,内容量2L;深江パウテック社製)にHMペクチン(商品名:GENU pectin type YM−115−H−J;CP Kelco社製)350g、パーム極度硬化油(横関油脂工業社製;融点59℃)35g、フィトステロール(商品名:リケステリン;理研ビタミン社製;融点129℃)115gを仕込み、室温にて、主軸回転数400rpm、副軸回転数1200rpmの条件で5分間攪拌し、混合した。攪拌を続けながら、ジャケット内に加圧温水を通して槽内を加熱し、内容物の品温が120±5℃に達温後、その温度を保ったまま約15分間混合した。内容物を取り出し室温まで冷却し、得られた粒状の一部(約200g)を小型粉砕機(型式:SM−2型;アズワン社製)により粉砕し、粉砕物を篩い分け(26メッシュ:目開き600μm)して大きな粒子を除き、粉末状のパン用品質改良剤(試料2)約195gを得た。
【実施例3】
【0026】
ハイフレックスグラル(型式:HF−GS−2J型,内容量2L;深江パウテック社製)にHMペクチン(商品名:GENU pectin type YM−115−H−J:CP Kelco社製)350g、グリセリンモノベヘン酸エステル(商品名:ポエムB−100;理研ビタミン社製;融点71℃)10g、パーム極度硬化油(横関油脂工業社製;融点59℃)25g、フィトステロール(商品名:リケステリン;理研ビタミン社製;融点129℃)115gを仕込み、室温にて、主軸回転数400rpm、副軸回転数1200rpmの条件で5分間攪拌し、混合した。攪拌を続けながら、ジャケット内に蒸気を通して槽内を加熱し、内容物の品温が110±5℃に達温後、その温度を保ったまま約15分間混合した。内容物を取り出し室温まで冷却し、得られた粒状の一部(約200g)を小型粉砕機(型式:SM−2型;アズワン社製)により粉砕し、粉砕物を篩い分け(26メッシュ:目開き600μm)して大きな粒子を除き、粉末状のパン用品質改良剤(試料3)約195gを得た。
【0027】
[試験例1]
<パンの作製>
竪型ミキサー(型式:マイティ60:30Lボウル使用;愛工舎製作所社製)に表1の20倍量の中種原材料を入れ、ボウルを氷水で冷やし生地の温度が24℃になるように調整しながら低速3分、中速1分で混捏して中種生地とした。この生地を27℃ 75%RHの発酵室にて、4時間放置(発酵)させた。
次に、上記発酵させた中種生地およびショートニング以外の表1の20倍量の本捏原材料を竪型ミキサーに入れ、ボウルを氷水で冷やし生地温度を27℃に調整しながら、低速3分、中速2分、高速1分混捏後、表1の20倍量のショートニングを添加し、低速2分、高速4分混捏して本捏生地とした。
本捏生地を27℃の発酵室で20分間放置(フロアータイム)後、分割機(型式:DQE;オシキリ社製)使用して250gに分割し、ラウンダー(型式:RQ;オシキリ社製)を使用し、丸めを行なった。
この生地を20分間室温(20℃)にて放置(ベンチタイム)後、モルダー(型式:WF;オシキリ社製)使用し、成形を行ない、容積6300mlの食パン型に250gの生地を6個型詰めした。
成形した生地を38℃ 80%RHの発酵室に入れ、パン生地が型の体積の85%に到達するまで発酵させた後、発酵室から取り出し、型に蓋をつけオーブン(型式:ニューコンポ;三幸機械社製)を使用し、上火200℃、下火210℃の条件下、35分間焼成しパンを作製した。
【0028】
【表1】

表中数値の単位は質量部(g)である。
1)強力粉:カメリア(日清製粉社製)
2)イースト:オリエンタルイースト(オリエンタル酵母工業社製)
3)イーストフード:C・オリエンタルフード(オリエンタル酵母工業社製)
4)HMペクチン:GENU pectin type YM−115−H−J(CP Kelco社製)
5)ショートニング:スーパーアトランタ(豊年リーバ社製)
【0029】
<評価方法・結果>
1)試験区1〜4でのパン作製に於いて、本捏生地作製時の生地物性を表2に示す評価基準に従い評価した。
2)得られたパンを焼成後1時間常温に放置した後、ビニール袋に密閉し、20℃で3日間放置した後、厚さ20mmにスライスし、表2に示す評価基準に従い、保湿感・口溶け感・ソフト感を評価した。
官能試験は、男性10人、女性10人の計20人のパネラーで行い、結果は20名の評点の平均値として求め、表3の基準に従って記号化した。結果を表4に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

表4の様に、本発明であるパン用品質改良剤を使用した実施例のパンは、パン生地物性が良好で、官能評価も良好、又は極めて良好であった。一方、比較例のパンは、実施例のパンと比べて、全ての評価項目において大きく劣っていた。
このことより、本発明のパン用品質改良剤であるペクチン加工品は、パン生地への分散性が改善したといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性物質で被膜されたペクチンを含有することを特徴とするパン用品質改良剤。