説明

パーキンソン病治療薬

本発明は、パーキンソン病患者の症状を緩和する及び/又はニューロンを再生及び/又は保護する薬剤の単位用量の製造に関する。本発明によれば、パーキンソン病患者の症状を緩和する及び/又はニューロンを再生及び/又は保護する薬剤の1週間〜6週間毎に皮下注射する単位用量を製造するために、アパミンを1μg以上10μg以下の量で使用する。本発明は、特に医薬分野において利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキンソン病におけるニューロンを再生及び/又は保護する及び/又は長期対症治療用の薬剤を製造する際の、アパミン又はハチ毒の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病は、脳の一部、筋肉運動を制御する黒質緻密部において、神経細胞又はニューロンを侵す障害である。パーキンソン病では、ドパミンを産生するニューロンが死滅するか、又は正常に機能しない。
【0003】
しかしながら、運動の開始及び協調を可能にするシグナルを送るのは、とりわけ、ニューロンが産生するドパミンである。
【0004】
神経細胞損傷の原因は知られていない。
【0005】
通常、60歳前後の個体がパーキンソン病に侵されるが、より早期に発症する場合もある。
【0006】
無動はパーキンソン病の主症状である。この症状は主として、運動開始に関する問題として定義されており、患者の運動活性が徐々に減少する。著者によっては、無動という用語をより広範な意味で使用しており、運動量の減少(運動低下)、運動遂行の減速(運動緩徐)及び自動運動を遂行する能力の損失をも含む。したがって、パーキンソン病の患者は、筋緊張の特徴的な増加(「歯車様」固縮)を示す。最後に、約2/3の症例において静止時振戦(4Hz〜8Hz)が存在する。症状が増幅されるようになると、パーキンソン病に罹患した個体は、歩行、会話又は単純作業の実施が困難である。パーキンソン病個体は、うつ病性障害、睡眠障害、さらに認知障害及び自律神経障害を有する場合もある。
【0007】
通常、パーキンソン病の症状は、黒質のドパミン作動性ニューロンの50%が破壊されて初めて発現すると認識されている。これら50%の破壊ニューロンに加えて、15%〜20%がサイレント、すなわち、形態学的に無傷であるが、もはやドパミンを産生しないか、又はほとんどドパミンを産生しないと言われている。
【0008】
現在使用されている薬剤は、確かに相当程度パーキンソン病の症状を緩和することだけはできるが、疾患の進行を停止することはできず、まして損傷を受けたニューロンの機能を再生することはできない。
【0009】
現在使用されている薬剤は主として、各種形態のL−ドパ、さらにドパミン作動性アンタゴニストである。ドパミン作動性ニューロンにおいて、L−ドパはドパ脱炭酸酵素によりドパミンに変換される。これらの薬剤は、種々の末梢性副作用、特に低血圧及び悪心を生じる。より深刻なことに、治療の5年〜10年後、生理的なドパミンの定常放出とは対照的に、1日数回の摂取でこれらの分子の投与を繰り返すと、通常非常に耐え難い運動症状の変動(motor fluctuations)が誘発されるという事実がある。したがって、これらの分子は単に対症的に作用するものであり、変性過程を減速させないことに留意することが重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、未損傷ニューロンを保護するだけでなく、「サイレント」ニューロンの機能を再生しつつ、同時にL−ドパの投与に起因する副作用を引き起こさないことが可能である薬剤を提案することにより、パーキンソン病の治療で使用される薬剤の欠点を解消することを目的とする。したがって、短期的には、本発明により持続性の対症効果を得ることが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この趣旨で、本発明は、パーキンソン病に罹患した患者の症状を緩和する及び/又はニューロンを再生及び/又は保護する薬剤の1週間〜6週間毎に皮下注射する単位用量の製造において、1μg以上10μg以下の量でアパミンを使用することを提案する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
アパミンは、配列:CNCKAPETAL CARRCQQH(配列番号1)の18アミノ酸ペプチドである。
【0013】
アパミンは血液脳関門を通過することができる。
【0014】
アパミンは、中脳のドパミン作動性ニューロンが発現するSK3サブユニットカリウムチャネルのブロッカーでもある。
【0015】
パーキンソン病に罹患した患者の症状を緩和する及び/又はニューロンを再生及び/又は保護する薬剤の皮下注射する単位用量の製造に使用するアパミンの量は、患者自身、特にその体重によって決まる。
【0016】
したがって、この量は、1μg〜10μg、好ましくは2μg〜5μg、より好ましくは3μg〜3.5μgである。
【0017】
この単位用量の注射回数はまた、患者及び該患者の疾患の段階によって決まる。
【0018】
したがって、治療開始時は、週1回の注射が適当である。そして、患者の病態の進行に応じて、注射回数は6週間に1回の注射になる場合がある。
【0019】
いずれにしても、これは毎日且つ1日数回投与する必要があるL−ドパと比べて相当な利点である。
【0020】
パーキンソン病に罹患した患者の症状を緩和する及び/又はニューロンを再生及び/又は保護する薬剤の1週間〜6週間毎に皮下注射する単位用量の製造におけるアパミンの使用の好ましい一実施形態では、アパミンがハチ毒中に含有される。
【0021】
すなわち、ハチ毒全体を使用して所望量のアパミンを提供してもよい。
【0022】
これは、ハチ毒が、ハチ毒に対してアレルギーのある個体の脱感作に既に治療的に使用されている十分に管理された天然物であるからである。
【0023】
しかしながら、特に、ハチ毒のアパミン含有量は、ハチ毒の全重量に対して約3重量%である。
【0024】
一般的な欧州原産のハチであるアピス・メリフェラ(Apis mellifera:セイヨウミツバチ)の毒の組成を下記表Iにて報告する:
【0025】
【表1】

【0026】
この組成は、ハチの種によってわずかに変動する場合がある。
【0027】
したがって、本発明は、パーキンソン病に罹患した患者の症状を緩和する及び/又はニューロンを再生及び/又は保護する薬剤の1週間〜6週間毎に皮下注射する単位用量を製造するための、33μg〜330μgの量でのハチ毒の使用にも関する。
【0028】
アパミンの使用の場合と同様に、この単位用量の製造で使用するハチ毒の量は、治療すべき患者、特に該患者の体重によって決まる。
【0029】
このハチ毒の量は通常、33μg以上330μg以下、好ましくは66μg以上165μg以下、最も好ましくは100μg以上110μg以下である。
【0030】
この単位用量の注射回数は、アパミンを含有する単位用量の場合と同様である。
【0031】
以下に続く、非限定的且つ単に例示的な実施例を参照して為される記載を通読することにより、本発明がより明確に理解されると共に、本発明の他の利点及び特徴がより明確に浮かび上がる。
【実施例】
【0032】
体重82kg、パーキンソン病の進行した段階(15年来の疾患)にある患者を、ハチ毒に対するアレルギー反応を観察しながら、ハチ毒110μgを毎月注射して治療した。
【0033】
各注射後、統合パーキンソン病評価尺度(UPDRS III)で求められる運動スコアは、数時間で70%改善し、その後、上記患者は、2週間〜4週間、受けているL−ドパ治療を完全に不要にすることができた。
【0034】
いずれにしても、ハチ毒の注射後且つ次の注射前の2週間の間、L−ドパによる上記患者の治療は、ハチ毒の注射前の期間との比較で50%減少した。
【0035】
このことから、アパミンには、対症的であると共に神経保護的な活性があることが示され、特に、パーキンソン病における神経再生活性があることが示される。
【0036】
当然のことながら、アパミン又はハチ毒を含有する単位用量を、他の療法と併用することができる。
【0037】
このアパミン又はハチ毒の単位用量はまた、皮下経路以外の経路で投与してもよい。しかしながら、投与する全量の利用能の理由から、やはり皮下注射経路が好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキンソン病に罹患した患者の症状を緩和する及び/又はニューロンを再生及び/又は保護する薬剤の1週間〜6週間毎に皮下注射する単位用量を製造するための、1μg以上10μg以下の量でのアパミンの使用。
【請求項2】
アパミンの量が2μg以上5μg以下であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
アパミンの量が3μg以上3.5μg以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記アパミンがハチ毒中に含有されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。

【公表番号】特表2010−531862(P2010−531862A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514041(P2010−514041)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【国際出願番号】PCT/FR2008/000938
【国際公開番号】WO2009/022068
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(505132183)
【Fターム(参考)】