説明

パーフルオロフッ素樹脂複合体組成物

【課題】 無機層状化合物をフッ素樹脂樹脂中にナノレベルに均一に分散させたパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物からなる力学物性に優れ、ゼロずり粘度が高いパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物、その製法およびそれからなる成形品を提供すること。
【解決手段】 パーフルオロフッ素樹脂中に分散媒に膨潤またはヘキ開する性質を有する無機層状化合物が分散されている樹脂複合体組成物であって、動的粘弾性測定装置の平行板モードにて340℃で測定した、1rad/secにおける粘度(V)と0.1rad/secにおける粘度(V0.1)の比(V0.1/V)が1.5以上であるパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物、その製法およびそれからなる成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機層状化合物がフッ素樹脂中にナノレベルに均一に分散された力学物性が改善され、ずり速度またはせん断速度が小さくなっても溶融粘度が一定値に近づくのではなく、更にゼロずり粘度(Zero Shear Rate Viscosity)が高くなるパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物およびその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱溶融性フッ素樹脂のテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(EPE)などは、押出成形やブロー成形、射出成形などの溶融成形によって加工されているが、これによって得られるチューブ、ホース、容器、電線などの製品は耐熱性、耐薬品性、高周波電気特性、非粘着性、難燃性などの優れた特徴を有するため、酸、アルカリなどの薬液、溶剤、塗料などの移送用の配管、継ぎ手や薬液貯蔵容器などとして、あるいは配管やタンク等のライニング、あるいは電線被覆材料として広く利用されている。しかし、これらフッ素樹脂は、特にパーフルオロフッ素樹脂共重合体は分子間相互作用が殆どないことで、力学物性などに問題がある。また、パーフルオロフッ素樹脂共重合体は燃えにくい難燃性材料であるが、火災が発生した時のフッ素樹脂の高温の液滴が落ちて(ドリップ)、煙発生と火災が広がる問題が指摘されている。
【0003】
最近、高分子材料に無機微粒子などのナノ粒子を直接溶融混合して機械的特性、熱変形温度、耐薬液・ガス透過性などを向上させる手法が多くなされている。しかし、無機微粒子或いは無機ナノ粒子を樹脂に溶融混合すると、微粒子の凝集力は粒径が小さくなるほど大きくなり、粒子同士の再凝集が起こるため、ナノ粒子を樹脂と直接溶融混合してもナノ粒子をそのままナノ分散させることは極めて難しい(第47回 日本学術会議材料研究連合講演会、Vol.47、P150, 2003)。
【0004】
このような問題点を解決するため、高分子材料に有機化処理した無機層状化合物をナノ分散させる研究例が多く報告されているが、使用した高分子はポリアミド樹脂の様な極性の樹脂の場合が多い。また、有機化無機層状化合物をフッ素樹脂中に分散させた試みがあったが、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)の様な部分フッ素化樹脂中には無機層状化合物のナノ分散ができたが、THF/HEP共重合体(FEP)の様なパーフルオロフッ素樹脂にはナノ分散に成功してない(Journal of Applied Polymer Science, P1061, 2004)。また、特開2000−204214号公報には、主にフッ素系ゴムと有機化処理した無機層状化合物を溶融混合して得られたフッ素樹脂ナノコンポジットが記載されているが、パーフルオロフッ素樹脂については記載がない。
【0005】
パーフルオロフッ素樹脂に無機層状化合物をナノ分散させた例としては、例えば、特表2001−523278号公報には、有機化ホスホニウムで処理した無機層状化合物とパーフルオロフッ素樹脂を溶融混合して得られたパーフルオロフッ素樹脂複合体の力学物性の改善が報告されている。しかし、無機層状化合物がパーフルオロフッ素樹脂にナノ分散されているか確認するため必要なX線測定または電子顕微鏡観察などの評価結果についての記載はなく、改善されたパーフルオロフッ素樹脂複合体の弾性率も、パーフルオロフッ素樹脂単体の2倍以下である。更に、無機層状化合物を有機ホスホニウムで処理したため、得られたパーフルオロフッ素樹脂複合体の耐薬品性および耐熱性に問題が生じる。
【0006】
また、WO2004/074371 A1号公報には熱溶融性フッ素樹脂に有機ホスホニウムで処理した無機層状化合物と官能基含有熱溶融性フッ素樹脂を入れて一緒に溶融混合することで、熱溶融性フッ素樹脂の耐ガス・薬液透過性、弾性率などの力学物性などを向上させたフッ素樹脂複合体組成物が記載されている。しかし、有機ホスホニウム以外にも官能基含有熱溶融性フッ素樹脂が含まれているため、得られたフッ素樹脂複合体組成物の耐熱性が更に悪くなるとともに高価な官能基含有熱溶融性フッ素樹脂の使用による経済性の問題も生じる。
【0007】
更に、特開2004−10891号公報には、ポリクロロトリフロロエチレン(PCTFE)の様なフッ素樹脂に有機化処理してない無機層状化合物がナノ分散されたフッ素樹脂複合体組成物では、フッ素樹脂の耐薬品性と耐熱性を保持しながら、室温や100℃以上の高温での、力学物性および貯蔵弾性率の改善が掲載されている。そのフッ素樹脂複合体組成物は、PCTFEの様な水性フッ素樹脂ラテックスと有機化処理してない無機層状化合物の分散液を混合して水性の混合液から固相を沈殿・分離し、乾燥して得られる。しかし、PCTFEの様な極性を示すフッ素樹脂複合体組成物の高温(150℃)での貯蔵弾性率が使用したフッ素樹脂単体の約2.5倍まで高くなったが、極性が殆ど無く、完全疎水性のパーフルオロフッ素樹脂複合体でもそのような貯蔵弾性率の改善が得られるかについては記載されてない。また、そのフッ素樹脂複合体組成物溶融体のチキソトロピ特性についても一切記載されてない。また、水性樹脂ラテックスと無機層状化合物の分散液を混合した水性の混合物から固相を沈殿・分離し、乾燥して無機層状化合物を樹脂マトリックス中にナノ分散させる方法については、特開2004−10891号公報以前にも既に報告されている(例えば、中国公開特許 CN1238353A号公報或いはJournal of Applied Polymer Science、P1873およびP1879、2000年)。
【0008】
一方、パーフルオロフッ素樹脂は優れた電気物性、難燃特性、耐熱性のため、通信ケーブル(プレナムケーブル)の絶縁およびジャケット材料として使われている。これらの通信ケーブル用のパーフルオロフッ素樹脂は、溶融粘度が低い程(或いはメルトフローレート(MFR)が高い程)電線押出し形成性が良くなるが、溶融粘度が低いパーフルオロフッ素樹脂からなる通信ケーブルは、火災のときに高温液滴が落ちて(ドリップ)、煙発生と火災が広がる原因になるため、ケーブルに起因する火災延焼を防止するためのケーブルの難燃性が厳しく定められている(例えば、米国NPFA-255規格)。従って、せん断速度が速い電線押出し成形では、溶融粘度が低くて成形性に優れ、押出し成形して電線になってからは、火災が発生してもドリップが発生する低せん断速度の条件では逆に溶融粘度が高くなってドリップが発生し難くなる、いわゆるゼロずり粘度が高いパーフルオロフッ素樹脂が要求されている。
【0009】
ドリップ防止用パーフルオロフッ素樹脂組成物としては、例えば、米国公開特許2005/0187328A1号公報には、パーフルオロフッ素樹脂に10%〜60%の酸化亜鉛の様な大量の無機充填剤と物性低下を防ぐための少量の炭化水素樹脂をブレンドすることによってドリップ性の改善が記載されている。しかし、大量の酸化亜鉛の様な無機充填剤の使用によってパーフルオロフッ素樹脂のその他の物性が損なわれる問題が生じる。また、酸化亜鉛とパーフルオロフッ素樹脂を直接溶融混合するため、高速押し出し成型性が悪い従来のマイクロコンポジットが得られ、ナノコンポジットには成れない。一方、ナノコンポジットでは、押し出し速度が下がらず、薄肉押し出しが可能になる。
【0010】
【特許文献1】特開2000−204214号公報
【特許文献2】特表2001−523278号公報
【特許文献3】特開2004−10891号公報
【特許文献4】WO2004/074371 A1号公報
【特許文献5】中国公開特許 CN1238353A号公報
【特許文献6】米国公開特許2005/0187328A1号公報
【非特許文献1】Journal of Applied Polymer Science, P1061, 2004
【非特許文献2】第47回 日本学術会議材料研究連合講演会、Vol.47、P150, 2003
【非特許文献3】Journal of Applied Polymer Science、P1873, P1879、2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、フッ素樹脂一次粒子が界面活性剤(以下、乳化剤ということがある)に取り囲まれ溶媒中に安定に分散したパーフルオロフッ素樹脂のエマルジョン(以下、ラテックスということがある)と分散媒に膨潤またはヘキ開する性質を有する無機層状化合物を含有する分散液とを攪拌して、樹脂一次粒子と膨潤またはヘキ開無機層状化合物を均一に混合した水性分散液を、0℃以下の温度で凍結するか、電解物質を加えて混合液のイオン強度またはpHを変化させるか、せん断力をかけることでフッ素樹脂1次粒子と無機層状化合物の均一混合状態を固定させた後(以下、この過程を凝集ということがある)、得られた凝集体を水性の溶液から分離・乾燥することで無機層状化合物を樹脂中にナノレベルに均一に分散させたパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物は、耐熱性を維持しながら、力学物性に優れ、溶融状態で高いゼロずり粘度を示すことを発見した。
本発明の目的は、無機層状化合物をフッ素樹脂樹脂中にナノレベルに均一に分散させたパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物からなる力学物性に優れているゼロずり粘度が高いパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物およびその製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、パーフルオロフッ素樹脂中に分散媒に膨潤またはヘキ開する性質を有する無機層状化合物が分散されている樹脂複合体組成物であって、動的粘弾性測定装置の平行板モードにて340℃で測定した、1rad/secにおける粘度(V)と0.1rad/secにおける粘度(V0.1)の比(V0.1/V)が1.5以上であるパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物を提供する。
【0013】
前記パーフルオロフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエ−テル)から選ばれるモノマーの重合体または共重合体である前記したパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0014】
前記分散媒に膨潤またはヘキ開する性質を有する無機層状化合物が、スメクタイト族粘度鉱物、膨潤性雲母族粘度鉱物およびそれらの組み合わせからなる群から選択された無機層状化合物である前記したパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0015】
前記パーフルオロフッ素樹脂複合体組成物中の無機層状化合物の含量がフッ素樹脂複合体に対して0.5〜15重量%である前記したパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0016】
前記パーフルオロフッ素樹脂複合体組成物中に分散されている無機層状化合物の厚みが100nm以下である前記したパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0017】
本発明は、パーフルオロフッ素樹脂のエマルジョンと分散媒に膨潤またはヘキ開する性質を有する無機層状化合物を含有する分散液とを攪拌下に混合した水性分散混合液を凝集させて得られる凝集体から水性成分を分離・乾燥することにより、前記したパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物を製造する方法を提供する。
【0018】
前記凝集体が、水性分散混合液を、0℃以下の温度で凍結するか、電解物質を加えて混合液のイオン強度またはpHを変化させるか、またはせん断力をかけることによって凝集させて得られたものである前記パーフルオロフッ素樹脂複合体組成物の製造方法は、本発明の好ましい態様である。
【0019】
前記パーフルオロフッ素樹脂複合体組成物が前記乾燥して得られたパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物を溶融押出ししたペレットは、本発明の好ましい態様である。
【0020】
本発明はまた、前記したパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物からなる電線または電線被覆ジャケットを提供する。
【0021】
本発明はまた、前記したパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物からなる管またはシートを提供する。
【0022】
本発明はまた、前記したパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物からなるブロー成型品を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、無機層状化合物をフッ素樹脂樹脂中にナノレベルに均一に分散させたパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物からなる力学物性に優れて、ゼロずり粘度が高いパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物が提供される。
本発明によれば、ゼロずり粘度が高いパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物からなるすぐれた性能を有する各種の成形品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明において用いられるパ−フルオロフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)などのパ−フルオロモノマーの重合体又は共重合体などを挙げることができる。パ−フルオロフッ素樹脂の具体的な例としては、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)、TFE/PAVE共重合体(以下、PFAという)、TFE/HEP共重合体(以下、FEPという)、TFE/HEP/PAVE共重合体(以下、EPEという)などを挙げることができる。この内、テトラフルオロエチレンとパ−フルオロ(アルキルビニルエーテル)との共重合体においては、パ−フルオロ(アルキルビニルエーテル)のアルキル基が炭素数1〜5、特に1〜3が好ましい。また、これらの重合体または共重合体をブレンドして使用しても良い。
【0025】
本発明において用いられるフッ素樹脂エマルジョンは、上記のパ−フルオロフッ素樹脂を含むエマルジョンである。例えば、パーフルオロフッ素樹脂エマルジョンとしては、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)から選ばれるモノマーの重合体又は共重合体などのパ−フルオロフッ素樹脂エマルジョンを挙げることができる。フッ素樹脂エマルジョンとしては、従来公知のものを適宜選択して使用することができる。これらの重合体のエマルジョンは、通常乳化重合によって製造される。
【0026】
本発明では、パーフルオロフッ素樹脂エマルジョンと分散媒に膨潤またはヘキ開する性質を有する無機層状化合物を含有する分散液とを攪拌して、樹脂一次粒子と膨潤またはヘキ開した無機層状化合物を均一に混合した水性分散液を、凝集させることでフッ素樹脂1次粒子と無機層状化合物の均一混合状態を固定させた後、得られた凝集体を水性の溶液から分離・乾燥することで無機層状化合物を樹脂中にナノレベルに均一に分散させたパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物得ることが出来る。
【0027】
したがって、本発明では無機層状化合物の層の一部が剥離されて水中に分散されている無機層状化合物を含有する分散液を樹脂一次粒子が安定に分散したエマルジョンに入れて混合してから、無機層状化合物とフッ素樹脂一次粒子が均一に分散された混合液を凝集・乾燥することで、樹脂一次粒子と無機層状化合物が均一に分散された凝集体の乾燥粉末が得られるので、乾燥工程までは、使用する樹脂の一次粒子は単なる物理的な粒子として働くことになる。従って、使用する樹脂の化学的な性質や分子構造、融点、結晶化温度、溶融粘度などに関係なく、乳化重合で得られるあらゆる樹脂エマルジョンを使用することができる。但し、凝集体の乾燥粉末を溶融成形するためには目的に応じて使用する樹脂エマルジョンの溶融粘度またはメルトフローレート(MFR)の範囲を決めることができる。例えば、パーフルオロフッ素樹脂複合体組成物の溶融粘度は、溶融押出し成形、射出成形などの溶融成形用としては、372℃においてのメルトフローレート(MFR)が0.5〜100g/10分、好ましくは0.5〜50g/10分の範囲である。
【0028】
本発明で用いる膨潤またはヘキ開する性質を有する無機層状化合物の具体例としては、例えば、天然または合成のベントライト、サポナイト、スチブンサイト、ベイデライト、モンモリロナイト、ベントナイト等のスメクタイト族粘土鉱物やNa型テトラシリシックフッ素雲母、Li型テトラシリシックフッ素雲母、Na塩型フッ素テニオライト、Li型フッ素テニオライト等の膨潤性雲母族粘土鉱物およびバーミキュライト、またはこれらの置換体や誘導体、或いはこれらの混合物が挙げられる。
【0029】
なお、前記置換体には、層間イオンのNaイオン、或いはLiイオンの一部がKイオンで置換されているもの、四面体シートのSiイオンの一部がMgイオンで置換されているものも含まれる。市販品としては、ラポナイトXLG(英国、ラポート社製合成ヘクトライト類似物質)、ラポナイトRD(英国、ラポート社製ヘキトライト類似物質)、スメクトンSA−1(クニミネ工業製ナポナイト類似物質)、ベンゲル(豊潤洋行販売の天然モンモリロナイト)、クニピアF(クニミネ工業販売の天然モンモリロナイト)、ビーガム(米国、バンダ-ビルト社製の天然ヘクトライト)、ダイモナイト(トピー工業製の合成膨潤性雲母)、クロイサイト(米国、サザンクレイ社製のモンモリロナイト)、ソマシフ(MF−100、コープケミカル製の合成膨潤性雲母)、SWN(コープケミカル製の合成スメクタイト)などが挙げられる。
【0030】
前記膨潤性無機層状化合物の中では、タルクとケイフッ化アルカリの混合物を加熱処理して得られる膨潤性雲母が好ましく、タルクとケイフッ化ナトリウムおよび/またはケイフッ化リチウムを混合した微粉末を600℃〜1200℃に加熱処理して得られるものが更に好ましい。
【0031】
本発明の無機層状化合物原料の粒径は、使用目的にもよるが、高いゼロずり粘度の目的としては、粒径が10,000nm以下、好ましくは5,000nm以下である。また、フッ素樹脂マトリックス中に均一にナノレベルに分散された状態の無機層状化合物のアスペクト比(粒径/厚み)は、40以上、好ましくは100以上である。
【0032】
また、本発明では、フッ素樹脂一次粒子が界面活性剤に取り囲まれ溶媒中に安定に分散したパーフルオロフッ素樹脂エマルジョンと分散媒に膨潤またはヘキ開する性質を有する無機層状化合物を含有する分散液とを攪拌して、樹脂一次粒子と膨潤またはヘキ開無機層状化合物を均一に混合した水性分散液を作製する方法としては、無機層状化合物の粉末を直接パーフルオロフッ素樹脂エマルジョンに入れて攪拌・混合しても良いが、フッ素樹脂一次粒子と無機層状化合物の粉末を均一に混合するため、混合液に強いせん断力をかけると、フッ素樹脂一次粒子の界面活性剤が破壊され、パーフルオロフッ素樹脂エマルジョン不安定になり、均一な混合液が得られない場合がある。したがって、無機層状化合物が混合液中に微細にまた均一に分散し得るという観点から、予め無機層状化合物の粉末を水に入れて、無機層状化合物濃度としては、水の量に対して0.5重量%〜30重量%、温度としては20℃〜80℃の範囲が好ましく、また、使用する攪拌装置の種類と構造にもよるが、攪拌下(機械的攪拌および/または超音波処理)に2時間以上、好ましくは4時間以上、更に好ましくは6時間以上混合を行い、無機層状化合物を分散させることが好ましい。この様にして得られた無機層状化合物を含有する水性分散液は、無機層状化合物の層間に水が浸入し膨潤し、更に一部の無機層状化合物の層が剥離されて水中に分散されている(Clay and Clay Minerals,vol.32,P320,1984)。また、無機層状化合物を含有する水性分散液の攪拌の際、強い攪拌を行う事で、一部の無機層状化合物層がお互いにずれて、いわゆる無機層状化合物層をヘキ開させるか更にヘキ開が進み、無機層状化合物層を層剥離させることができる。
【0033】
従って、このように予め無機層状化合物層の一部がヘキ開または層剥離されて水中に分散されている無機層状化合物を含有する分散液をフッ素樹脂一次粒子が安定に分散したパーフルオロフッ素樹脂エマルジョンに入れて更に混合することで、ヘキ開された層の層剥離が更に進み、無機層状化合物および無機層状化合物とフッ素樹脂一次粒子が均一に分散された混合液を得ることが可能である。
【0034】
樹脂一次粒子と無機層状化合物を均一に混合した水性分散液を凝集させる方法としては、水性分散混合液を0℃以下の温度で凍結するか、電解物質を加えて混合液のイオン強度またはpHを変化させるか、せん断力をかける方法を挙げることができる。
【0035】
水性分散液にせん断力をかける方法は、より具体的には攪拌装置による強いせん断力で樹脂エマルジョンと上記無機層状化合物層の一部が剥離されて水中に分散されている無機層状化合物を含有する分散液からなる混合液を攪拌してフッ素樹脂エマルジョンの中の界面活性剤のミセル構造を破壊して凝集する方法(物理的凝集)である。
【0036】
水性分散液に、電解物質を加えて混合液のイオン強度またはpHを変化させる方法は、より具体的には樹脂エマルジョンと無機層状化合物の混合液に電解物質を入れてイオン強度またはpHを変化させることで樹脂エマルジョンと無機層状化合物の混合液の安定性を急に低下させて凝集する方法(化学的凝集)である。
【0037】
水性分散混合液を0℃以下の温度で凍結する方法は、より具体的には樹脂エマルジョンと無機層状化合物混合液を凍結して発生する氷晶の成長によって氷晶間でコロイド粒子を圧着させて凝集する方法(凍結凝集)である。
【0038】
中でも、パーフルオロフッ素樹脂エマルジョンと無機層状化合物を含有する分散液との混合液に電解物質または無機塩などを入れて樹脂エマルジョンまたは混合液の安定性を急に低下させて、一気に樹脂1次粒子と無機層状化合物の均一混合状態を固定して異種粒子が均一に分散された凝集体を得る化学的凝集方法が好ましい。化学的に凝集する前の混合液中の樹脂一次粒子または無機層状化合物の種類およびその割合にもよるが、例えば、パーフルオロフッ素樹脂エマルジョンのフッ素樹脂一次粒子を化学的に凝集させる目的として使用される電解物質としては、水に可溶なHCl、HSO、HNO、HPO、NaSO、MgCl、CaCl、ギ酸ナトリウム、酢酸カリウム、炭酸アンモニウムなどの無機または有機の化合物を例示することが出来る。これらの中では、後の凝集体の乾燥工程で揮発可能な化合物、例えばHCl、HNO、炭酸アンモニウムなどを使用するのが好ましい。また上記電解物質以外にもハロゲン水素酸、燐酸、硫酸、モリブデン酸、硝酸のアルカリ金属塩、アルカリ土金属塩、アンモニウムの塩など、好ましくは、臭化カリウム、硝酸カリウム、ヨウ化カリウム(KI)、モリブデン酸アンモニウム、リン酸ニ水素ナトリウム、臭化アンモニウム(NHBr)、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化銅、硝酸カルシウムなどの無機塩を単独または組み合わせで使用することもできる。これらの電解物質の使用量は、電解物質の種類、フッ素樹脂エマルジョンと無機層状化合物を含有する分散液の固形分濃度にもよるが、パーフルオロフッ素樹脂エマルジョンと無機層状化合物を含有する分散液との混合液の重量に対して0.001〜5重量%、特に0.05〜1重量%の割合で使用することが好ましい。またパーフルオロフッ素樹脂エマルジョンと無機層状化合物の混合液に水溶液の形で添加するのが好ましい。電解物質の使用量が少なすぎる場合には、部分的にゆっくり凝集が起こる所があるため、全体的に一気に樹脂1次粒子と無機層状化合物の均一混合状態を固定することが出来なく、無機層状化合物が樹脂中に均一に分散されたパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物を得ることが出来ない場合がある。
【0039】
また、パーフルオロフッ素樹脂エマルジョンと無機層状化合物を含有する分散液の固形分濃度にもよるが、パーフルオロフッ素樹脂エマルジョンと無機層状化合物を含有する分散液を攪拌して均一な混合液を得る目的で、パーフルオロフッ素樹脂エマルジョンまたは無機層状化合物を含有する分散液を予め純水などで薄めて固形分濃度を調整してから攪拌・混合することも可能である。
【0040】
パーフルオロフッ素樹脂エマルジョンと無機層状化合物を含有する分散液とを攪拌して、樹脂一次粒子と無機層状化合物を均一に混合してから、更に物理的または化学的に混合液を凝集させる装置は、特に制限されるものではないが、攪拌速度が制御できる攪拌手段、例えばプロペラ翼、タービン翼、パドル翼、かい型翼、馬蹄形型翼、螺旋翼などと排水手段を備えた装置であることが好ましい。このような装置中にパーフルオロフッ素樹脂エマルジョンと無機層状化合物または無機層状化合物を含有する分散液の混合液に電解物質または無機塩を入れ攪拌することにより、樹脂のコロイド粒子または/および無機層状化合物が凝集して異種粒子の凝集体となり、水性媒体から分離させる。凝集体から水性媒体を分離する工程の攪拌速度は、パーフルオロフッ素樹脂エマルジョンと無機層状化合物を含有する分散液の混合工程の攪拌速度より1.5倍以上早い方が好ましい。異種粒子の凝集体を、水性媒体を排出し必要に応じて水洗された後、樹脂の融点または熱分解開始温度以下の温度で乾燥することでパーフルオロフッ素樹脂複合組成物の粉末が得られる。乾燥する温度は、パーフルオロフッ素樹脂の熱劣化や分解が起こらない温度内で、電解物質や界面活性剤などが揮発できる温度範囲が好ましい。また、分散媒に無機層状化合物が充分膨潤またはヘキ開された場合は、電解物質または無機塩を入れ攪拌することにより得られる樹脂のコロイド粒子または/および無機層状化合物が凝集したゲル状の凝集体は、攪拌しても水と分離できない場合があるが、このときはゲル状の凝集体をそのまま乾燥してもよい。
【0041】
パーフルオロフッ素樹脂複合体組成物に対する無機層状化合物の割合は、パーフルオロ樹脂複合体組成物の用途にもよるが、0.1〜30重量%、更に好ましくは0.3〜20重量%、もっとも好ましくは0.5〜15重量%である。無機層状化合物が樹脂中にナノレベルで分散されたナノ樹脂複合体混合物或いはいわゆる高分子ナノコンポジットは、フィラーがミクロンレベルで分散された従来の樹脂複合体混合物に比べて、ナノ粒子と樹脂マトリックス間の界面面積が大幅に増えるため、無機層状化合物を従来の樹脂複合体混合物より少量入れても物性の改善ができる利点がある。
【0042】
一般の高分子濃厚溶液または溶融体は、代表的な非ニュートニアン流体であって、粘度はずり速度に依存して変化し、ずり速度が速くなると粘度は低くなり、ずり速度が小さくなると粘度は増加する。しかし、ずり速度が更に小さくなると漸近的に一定値に近づく。この極限値をゼロずり粘度(η*、Zero Shear Rate Viscosity)と呼び、高分子の粘度を表すもっとも重要な物理量の1つであり、分子量の指数関数で表される。
例えば、通常にパーフルオロフッ素樹脂の溶融粘度は、ずり速度が小さくなると一定に近づき、ニュートニアン流体的な挙動を示す(図1のA)。また、無機層状化合物をパーフルオロフッ素樹脂中に分散させた従来の樹脂複合混合体も、粘度そのものは無機層状化合物を入れてないパーフルオロフッ素樹脂に比べてほぼ一定の割合で高くなるが、ずり速度が小さくなると一定値に近づき、ほぼニュートニアン流体的な挙動を示す(図1のB)。
【0043】
しかし、無機層状化合物がパーフルオロフッ素樹脂中に均一にナノ分散されている本発明のパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物は、ずり速度が小さくなっても溶融粘度が一定値に近づくのではなく、ずり速度が小さくなると粘度は更に高くなり、非ニュートニアン流体的な挙動を示す(図1のC、D)。この様に無機層状化合物がパーフルオロフッ素樹脂マトリックス中に均一にナノレベルに分散されたパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物は、ずり速度が小さくなると粘度は更に高くなるため、電線などの樹脂製品に火災が発生した時の高温液滴が落ちにくい(ドリップ防止)用途に使用できる。
【0044】
本発明のパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物の場合は、動的粘弾性測定装置の平行板モードにて340℃で測定した、1rad/secにおける粘度(V)と0.1rad/secにおける粘度(V0.1)の比(V0.1/V)は、パーフルオロフッ素樹脂一次粒子と無機層状化合物の混合の割合および無機微粒子の粒子径にもよるが、1.5以上、好ましくは2.0以上、更に好ましくは3.0以上である。
【0045】
本発明において、上記凝集・乾燥工程で得られるパーフルオロフッ素樹脂一次粒子と無機層状化合物が均一に分散されている異種粒子の凝集体の乾燥粉末は、通常の溶融押出し機を通してペレットにしてから押出成型、射出成型、トランスファー成型、ブロー成型などの溶融成型をすることができる。勿論、前記のようにペレット化しない異種粒子の凝集体の粉末を直接成型原料にするか、あるいは成型機ホッパーで凝集体粉末の食い込みをよくするためコンパクターで乾燥した凝集体の粉体を固めて溶融成型することも出来る。ペレット化しない異種粒子の凝集体の粉末の方がペレット化したものより弾性率および低せん断速度での粘度(ゼロずり粘度)が高く、伸び率が低くなる傾向があるので使用する目的に応じて凝集体の粉末またはペレットを選択することが出来る(表1、表2参照)。また、溶融押出し機を通してペレット化する過程で、パーフルオロフッ素樹脂の物性が損なわれない範囲で、任意に添加剤を配合するか他の樹脂とブレンドすることができる。添加剤の配合は、溶融押出し工程では勿論、前期樹脂エマルジョンと無機層状化合物の水性分散液の混合工程で行うことも出来る。このような添加剤として、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、グラファイト、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、酸化ケイ素、酸化チタン、銀のナノ粒子などを例示することが出来る。更に、本発明で得られるパーフルオロフッ素樹脂一次粒子と無機層状化合物が均一に分散されている異種粒子の凝集体の粉末を更に造粒して粉末成型や粉末コーティング、回転成形用材料としても用いることができる。
【0046】
本発明の成型品を得るための溶融成型方法および条件に関しては特に制限がなく、従来から熱溶融性フッ素樹脂について適用されているチューブ類、シート類、フィルム類、棒類、繊維類、電線被覆などについての押出し条件や容器類などについてのブロー成型条件、トレイ類などについての射出成型条件をそのまま利用することが出来る。粉末成型品や粉末コーティング成型品、回転成型品を得ることもできる。
【0047】
最終的に製造する成形品の種類は、樹脂中に粒子がナノレベルに均一に分散されることでその効果の改善が期待できるあらゆる分野に応用することが出来、特に限定されるものではない。例えば、チューブ類、シート類、フィルム類、棒類、繊維類、ファイバー類、パッキング類、ライニング類、シールリング類、電線被覆、プリント基板などがある。特に、樹脂中に粒子がナノレベルに均一に分散されるとずり速度が非常に小さい時のゼロずり粘度がナノ分散されてない場合に比べて非常に高くなるため、電線などの樹脂製品に火災が発生した時の高温の液滴が落ちにくい(ドリップ防止)用途にも使用できる。
【実施例1】
【0048】
以下に本発明を、実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、この説明が本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
本発明において各物性の測定は、下記の方法によって行った。
【0049】
A.物性の測定
(1)融点(融解ピーク温度)
示差走査熱量計(Pyris1型DSC、パーキンエルマー社製)を用いた。試料約10mgを秤量して専用のアルミパンに入れ、専用のクリンパーによってクリンプした後、DSC本体に収納し、150℃から360℃まで10℃/分で昇温をする。この時得られる融解曲線から融解ピーク温度(Tm)を求めた。
【0050】
(2)メルトフローレート(MFR)
ASTM D1238−95に準拠した耐食性のシリンダー、ダイ、ピストンを備えたメルトインデクサー(東洋精機製)を用いて、5gの試料粉末を372±1℃に保持されたシリンダーに充填して5分間保持した後、5kgの荷重(ピストンおよび重り)下でダイオリフィスを通して押出し、この時の押出速度(g/10分)をMFRとして求めた
【0051】
(3)無機層状化合物分散状態
パーフルオロフッ素樹脂複合体組成物試料を350℃で溶融圧縮成形することによって作製された厚み約200μmの試料より、10mm×10mmの試片を3ヶ所切り取り、光学(偏光)顕微鏡(NIKON製、OPTIPHOT2−POL)を使用して、大きさが10μm以上の無機層状化合物からなる凝集体があるか分散状態を評価した。10μm以上の無機層状化合物からなる凝集体が観察されない試料のみ、15mm×8mmの試片を切り取り、エポキシ樹脂で固め包埋し、ウルトラミクロト-ムで厚み70nmの薄膜に切り、透過型電子顕微鏡(Phillips CM-300)を使用して、パーフルオロフッ素樹脂中の無機層状化合物の分散状態(粒子径および厚み)を観察し、下記の基準で評価した。
◎:殆どの無機層状化合物が厚み50nm以下にナノ分散されている。
○:無機層状化合物の凝集体が僅かに残っている。
×:光学顕微鏡で10μm以上の無機層状化合物の凝集体が数多く残っている。
【0052】
(4)引っ張り物性(引っ張り強度、伸び率、引っ張り弾性率)
パーフルオロフッ素樹脂複合体組成物を350℃で溶融圧縮成形することによって作成された厚み約1mm試料より、JIS K 7127に準じて、引っ張り速度50mm/分で測定した。
【0053】
(5)溶融粘度比(ゼロずり粘度比)
パーフルオロフッ素樹脂複合体組成物試料を350℃で溶融圧縮成形することによって作製された厚み約1.5mmのシート状試料より直径25mmの試験試片を作り、Rheometric Scientific社製ARES粘弾性測定装置の25mm平行板を使用し、340℃で100〜0.1rad/secの周波数(ずり速度)範囲で溶融粘度を測定した。また、1rad/secにおける粘度(V)と0.1rad/secにおける粘度(V0.1)の比(V0.1/V)を計算した。
【0054】
(6)X線回折結果の解析
パーフルオロフッ素樹脂複合体組成物試料を350℃で溶融圧縮成形することによって作製された厚み約1.5mmのシート状試料より20mm×20mmの試片を切り取り、X線広角散乱測定装置(RIGAKU、Cu Kα放射、波長:0.154nm)を使用して、反射法でX線解析を行い、無機層状化合物の面間隔および厚みなどのパーフルオロフッ素樹脂中の無機層状化合物の分散構造を評価した(Element of X-Ray Diffraction,Addison-Wesley,Reading,MA,1978,P99-P106)。
また、PFAエマルジョンと混合する前の、水に分散させた無機層状化合物からなる水性分散液中の無機層状化合物分散構造を調べるため、無機層状化合物の水性分散液をガラスの上に薄く塗って、そのままX線回折測定を行い、水性分散液中の無機層状化合物の面間隔および厚みを求めた。
【0055】
B.原料
本発明の実施例、および比較例で用いた原料は下記の通りである。
(1)パーフルオロフッ素樹脂エマルジョン
三井・デュポンフロロケミカル製、乳化重合で得られたPFA水性分散液(PFA固形分:29重量%、PFA 一次粒子の平均粒子径:200nm、pH:9、融点:309℃、メルトフローレート:2g/10分)。
【0056】
(2)無機層状化合物
(イ)ME−100(コープケミカル(株)製、膨潤性合成雲母、粒子径:2〜5μm)
(ロ)SWN(コープケミカル(株)製、膨潤性合成スメクタイト、粒子径:約0.05μm)
(ハ)クニピアF(クニミネ工業製、Na−モンモリロナイト、粒子径:約2μm)
【0057】
(実施例1)
膨潤性合成雲母(ME−100)10.53gと純水500gをビーカー(2L)に入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌装置を使用して350rpmで6時間攪拌してから更に15分間超音波処理して得られたME-100の分散液に、ME−100含量がPFA樹脂複合体に対して5重量%になるようにPFA水性分散液687.3gを入れ、また350rpmで30分間攪拌したあと、60%硝酸6gを加えて、ゲル化が進み攪拌が出来なくなるまで攪拌しながらPFA一次粒子とME−100粒子を一気に凝集させた。得られたゲル状の凝集体をさらに450rpmで5分攪拌し凝集体から余分の水を除去した後に残った凝集体を170℃で10時間乾燥させ、凝集体の乾燥粉末を得た。凝集体の乾燥粉末(以下、溶融混合前試料)は、350℃で圧縮成形し、得られた厚み約1.0mmおよび1.5mmの試料を用いて引っ張り物性・MFR測定、光学・透過型電子顕微鏡観察、粘度測定を行い、結果を表1及表2に示す。また、凝集体の乾燥粉末を更に溶融混合装置(東洋精機製作所製R−60バッチミキサー)を用い、350℃、100rpmで3分間溶融混合し、パーフルオロフッ素樹脂複合体組成物を得た(以下、溶融混合後試料)。大きさ約3mmの小片にして溶融混合後試料を350℃で圧縮成形し、得られた厚み約1.0mmの試料を用いて物性測定を行い、結果を表3および表4に示す。更に、X線測定結果を表5に示す。X線解析結果からフッ素樹脂マトリックス中に分散されている層状化合物の厚み(H001)は、11.3nmであった。また、透過型電子顕微鏡観察からも厚み約10nmのME−100がフッ素樹脂マトリックス中に分散されていることが確認出来た(図2)。参考に、水性分散液中のME−100の厚みは15.8nmであった。
【0058】
(実施例2)
膨潤性合成雲母(ME−100)15.05gと純水500gをビーカーに入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌を使用して350rpmで6時間攪拌してから更に15分間超音波処理して得られたME-100の分散液に、ME−100含量がPFA樹脂複合体に対して7重量%になるようにPFA水性分散液687.3gを入れ、実施例1と同じ手順で凝集体の乾燥粉末および溶融混合したフッ素樹脂複合体組成物を得た。乾燥粉末および溶融混合したパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物を350℃で圧縮成形し、得られた試料の物性測定結果を表1、表2、表3、表4に示す。更に、X線測定結果を表5に示す。X線解析結果からフッ素樹脂マトリックス中に分散されている層状化合物の厚み(H001)は、10.6nmであった。
【0059】
(実施例3)
膨潤性合成雲母(ME-100)22.2gと純水500 gをビーカーに入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌を使用して350rpmで6時間攪拌してから更に15分間超音波処理して得られたME-100の分散液に、ME−100含量がPFA樹脂複合体に対して10重量%になるようにPFA水性分散液687.3gを入れ、実施例1と同じ手順で凝集体の乾燥粉末および溶融混合したフッ素樹脂複合体組成物を得た。乾燥粉末および溶融混合したパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物を350℃で圧縮成形し、得られた試料の物性測定結果を表1、表2、表3、表4に示す。更に、X線測定結果を表5に示す。X線解析結果からフッ素樹脂マトリックス中に分散されている層状化合物の厚み(H001)は、10.2nmであった。
【0060】
(実施例4)
膨潤性合成雲母(ME−100)10.53gと純水500gをビーカーに入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌を使用して350rpmで2時間攪拌してから更に15分間超音波処理して得られたME-100の分散液に、ME−100含量がPFA樹脂複合体に対して5重量%になるようにPFA水性分散液687.3gを入れ、実施例1と同じ手順で凝集体の乾燥粉末および溶融混合したフッ素樹脂複合体組成物を得た。乾燥粉末および溶融混合したパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物を350℃で圧縮成形し、得られた試料の物性測定結果を表1、表2、表3、表4に示す。更に、X線測定結果を表5に示す。X線解析結果からフッ素樹脂マトリックス中に分散されている層状化合物の厚み(H001)は、25nmであった。また、透過型電子顕微鏡観察からも厚み約20nmのME−100がフッ素樹脂マトリックス中に分散されていることが確認できた。
【0061】
(実施例5)
合成スメクタイト(SWN)10.53gと純水500gをビーカーに入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌を使用して350rpmで6時間攪拌してから更に15分間超音波処理して得られたSWNの分散液に、SWN含量がPFA樹脂複合体に対して5重量%になるようにPFA水性分散液687.3gを入れ、実施例1と同じ手順で凝集体の乾燥粉末および溶融混合したフッ素樹脂複合体組成物を得た。乾燥粉末および溶融混合したパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物を350℃で圧縮成形し、得られた試料の物性測定結果を表1、表2、表3、表4に示す。更に、X線測定結果を表5に示す。SWNをPFAマトリックス中に分散させた試料のX線回折パターンにはSWNの回折ピークが無くなったので、SWNはPFAマトリックス中に完全に剥離・ナノ分散されていることが分かる(図3)。従って、X線解析結果からフッ素樹脂マトリックス中に分散されているSWNの厚み(H001)は、計算上は1nmになる。また、透過型電子顕微鏡観察からも厚み約1nmのSWNがフッ素樹脂マトリックス中に分散されていることが確認出来た(図4)。参考までに、水性分散液中のSWNの厚みは2.5nmであった。
【0062】
(実施例6)
Na−モンモリロナイト(クニピアF)10.53gと純水500gをビーカーに入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌を使用して350rpmで6時間攪拌してから更に15分間超音波処理して得られたクニピアFの分散液に、クニピアF含量がPFA樹脂複合体に対して5重量%になるようにPFA水性分散液687.3gを入れ、実施例1と同じ手順で凝集体の乾燥粉末および溶融混合したパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物を得た。乾燥粉末および溶融混合したフッ素樹脂複合体組成物を350℃で圧縮成形し、得られた試料の物性測定結果を表1、表2、表3、表4に示す。更に、X線測定結果を表5に示す。クニピアFをPFAマトリックス中に分散させた試料のX線回折パターンにはクニピアFの回折ピークが無くなったので、クニピアFはPFAマトリックス中に完全に剥離・ナノ分散されていることが分かる(図5)。従って、X線解析結果からフッ素樹脂マトリックス中に分散されているクニピアFの厚み(H001)は、計算上は1nmになる。参考までに、水性分散液中のクニピアFの厚みは6nmであった。
【0063】
(比較例1)
膨潤性合成雲母(ME−100)7gと実施例1のPFA水性分散液を凝集・乾燥して得られたPFA粉末63gを溶融混合装置(東洋精機製作所製R−60バッチミキサー)を用い、350℃、100rpmで3分間溶融混合してパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物を得た。フッ素樹脂複合体組成物を350℃で圧縮成形し、得られた試料の物性測定結果を表2、表4に示す。表1と表3の溶融混合前の結果は、溶融混合した試料の結果を代用した。また、偏光顕微鏡観察結果から、大きさ約150μmのナノ分散されてないME−100が多数観察されたため、X線および透過型電子顕微鏡観察は行わなかった。
【0064】
(参考例)
無機層状化合物の使用を省略したフッ素樹脂のみの物性を表2、表4に示す。表1と表3の溶融混合前の結果は、溶融混合した試料の結果を代用した。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
【表5】

【0070】
X線回折および透過型電子顕微鏡観察結果から、本発明の実施例1〜実施例6のいずれについても、厚み25nm以下の無機層状化合物がPFAマトリックス中にナノレベルで均一に分散されていることが分かった。しかし、無機層状化合物とPFAを直接溶融混合した比較例1では、光学顕微鏡でも大きさ100μm以上の無機層状化合物が多数観察された。
【0071】
表1に示された溶融混合前の試料については、本発明によるシフッ素樹脂複合体組成物(実施例1〜実施例6)は、引っ張り弾性率はPFA単体より高くなり、無機層状化合物含量の増加とともに更に高くなった。しかし、伸び率が非常に低くなった。また、本発明の実施例1〜実施例6における試料のMFRは、測定中に溶融ストランドが僅かにダイから出て、測定用サンプル採取ができなかったので、0.2g/10分以下と表記した。
【0072】
また、表3の溶融混合前の試料の粘度比については、無機層状化合物がPFAマトリックス中にナノ分散された試料(実施例1〜実施例6)の粘度比(V0.1/V)は4以上になり、非常に高いゼロずり粘度を示した(但し、実施例4を除く)。しかし、ナノ分散されてない試料(比較例1)およびPFA単体(参考例1)は、粘度比(V0.1/V)が1.3以下であり、殆どチキソトロピ性を示さない。
【0073】
表2の溶融混合後の試料については、溶融混合によって無機層状化合物5%試料(実施例1、実施例4,実施例5,実施例6)の伸び率が約200%以上まで上がった。また、溶融混合によって無機層状化合物がPFAマトリックス中にナノ分散された試料(実施例1〜実施例6)の粘度比(V0.1/V)が溶融混合前の試料の55%〜85%まで低下したがPFA単体に比べて充分高いゼロずり粘度を示した。特に、SWNが5重量%含まれている実施例5の場合は、溶融混合しても粘度比(V0.1/V)が4.5になり非常に高いゼロずり粘度を示した。これは大きさ約50nm、厚み約数nmの層間剥離されたSWNがPFAマトリックス中にナノレベルで均一に分散されたためであると思われる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明では、フッ素樹脂一次粒子が界面活性剤(以下、乳化剤ということがある)に取り囲まれ溶媒中に安定に分散したパーフルオロフッ素樹脂エマルジョン(以下、ラテックスということがある)と分散媒に膨潤またはヘキ開する性質を有する無機層状化合物を含有する分散液とを攪拌して、樹脂一次粒子と膨潤またはヘキ開無機層状化合物を均一に混合した水性分散液を、0℃以下の温度で凍結するか、電解物質を加えて混合液のイオン強度またはpHを変化させるか、せん断力をかけることでフッ素樹脂1次粒子と無機層状化合物の均一混合状態を固定させた後(以下、この過程を凝集ということがある)、得られた凝集体を水性の溶液から分離・乾燥して無機層状化合物をフッ素樹脂中にナノレベルに均一に分散させることで、力学物性に優れ、ゼロずり粘度が高いパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物を提供する。
【0075】
本発明のパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物から製造される成形品の種類は、フッ素樹脂中に無機層状化合物がナノレベルに均一に分散されることでその効果の改善が期待できるあらゆる分野に応用することができる。例えば、圧縮成型、押出し成型、トランスファー成型、ブロー成型、射出成型、ライニングなどで得ることが出来る、チューブ類、シート類、フィルム類、棒類、繊維類、ファイバー類、パッキング類、ライニング類、シールリング類、電線被覆などに使用することができる。
本発明により提供されるパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物は、フッ素樹脂中に無機層状化合物がナノレベルに均一に分散されるとずり速度が非常に小さい時のゼロずり粘度がナノ分散されてない場合に比べて非常に高くなるため、電線などの樹脂製品に火災が発生した時の高温の液滴が落ちにくい(ドリップ防止)用途に最適である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】パーフルオロフッ素樹脂複合体組成物のずり粘度測定結果である。
【図2】実施例1で使用したパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物の透過型電子顕微鏡写真。
【図3】実施例5で使用したパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物およびSWN単体の水性分散液のX線回折パターンである。
【図4】実施例5で使用したパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物の透過型電子顕微鏡写真。
【図5】実施例6で使用したパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物およびクニピアF単体の水性分散液のX線回折パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロフッ素樹脂中に分散媒に膨潤またはヘキ開する性質を有する無機層状化合物が分散されている樹脂複合体組成物であって、動的粘弾性測定装置の平行板モードにて340℃で測定した、1rad/secにおける粘度(V)と0.1rad/secにおける粘度(V0.1)の比(V0.1/V)が1.5以上であるパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物。
【請求項2】
前記パーフルオロフッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエ−テル)から選ばれるモノマーの重合体又は共重合体であることを特徴とする請求項1記載のパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物。
【請求項3】
前記分散媒に膨潤またはヘキ開する性質を有する無機層状化合物が、スメクタイト族粘度鉱物、膨潤性雲母族粘度鉱物およびそれらの組み合わせからなる群から選択された無機層状化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物。
【請求項4】
前記パーフルオロフッ素樹脂複合体組成物中の無機層状化合物の含量がフッ素樹脂複合体に対して0.5〜15重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物。
【請求項5】
パーフルオロフッ素樹脂複合体組成物中に分散されている無機層状化合物の厚みが100nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物。
【請求項6】
パーフルオロフッ素樹脂のエマルジョンと分散媒に膨潤またはヘキ開する性質を有する無機層状化合物を含有する分散液とを攪拌下に混合した水性分散混合液を凝集させて得られる凝集体から水性成分を分離・乾燥して得られる請求項1〜5のいずれかに記載のパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物の製造方法。
【請求項7】
前記凝集体が、前記水性分散混合液を、0℃以下の温度で凍結するか、電解物質を加えて混合液のイオン強度またはpHを変化させるか、またはせん断力をかけることによって凝集させて得られたものであることを特徴とする請求項6に記載のパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物を溶融押出して得られるペレット。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載のパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物からなる電線または電線被覆ジャケット。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載のパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物からなる管またはシート。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載のパーフルオロフッ素樹脂複合体組成物からなるブロー成型品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−88305(P2008−88305A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271228(P2006−271228)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(000174851)三井・デュポンフロロケミカル株式会社 (59)
【Fターム(参考)】