説明

パーフルオロポリエーテル基、ウレタン基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物

【課題】硬化膜に優れた透明性及び防汚性を付与することができるパーフルオロポリエーテル基を含有するウレタン(メタ)アクリレートを提供する。
【解決手段】パーフルオロポリエーテル構造を有するジオール化合物と芳香族ジイソシアネート化合物との反応生成物に、水酸基及び5個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を反応させて得られる、パーフルオロポリエーテル基、ウレタン基及び10個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロポリエーテル基、ウレタン基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック(ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ノルボルネン系樹脂等)、金属、木材、紙、ガラス、スレート等の各種基材表面の傷付き(擦傷)防止や汚染防止のための保護コ−ティング材及び反射防止膜用コート材として、優れた塗工性を有し、かつ各種基材の表面に、硬度、耐擦傷性、防汚性、耐摩耗性、表面滑り性、低カール性、密着性、透明性、耐薬品性及び塗膜面の外観のいずれにも優れた硬化膜を形成し得る硬化性組成物が要請されている。
【0003】
このような要請を満たすため、種々の組成物が提案されているが、硬化性組成物として優れた塗工性を有し、硬化膜とした場合に、高硬度及び耐擦傷性を有し、透明性に優れ、さらに防汚性にも優れるという特性を備えたものはまだ得られていないのが現状である。
防汚性を付与する方法として、例えば、特許文献1に、(メタ)アクリロイル基を有するポリシロキサンを配合した硬化性組成物記載されているが、油性マーカー拭き取り性の観点からはさらに改良の余地があった。
【0004】
特許文献2は、反射防止膜表面の滑り性を改善でき、かつ非フッ素系の汎用溶剤に可溶で、薄膜形成の容易な反射防止膜形成用組成物を開示している。この反射防止膜形成用組成物は、反応性表面改質剤(I)及び反射防止膜材料(II)からなる組成物であって、そのうち、反応性表面改質剤(I)が、(A)ジイソシアネートを3量体化させたトリイソシアネートと(B)少なくとも2種の活性水素含有化合物との反応生成物からなる反応性基含有組成物であり、成分(B)が、(B−1)少なくとも1つの活性水素を有するパーフルオロポリエーテル、及び(B−2)活性水素と自己架橋性官能基を有するモノマーを含んでなる組成物からなっている。このような反応性表面改質剤(I)を添加することにより、反射防止膜の表面性状、特に表面滑り性(低摩擦係数化)、表面硬度、耐磨耗性、耐薬品性、汚染拭き取り性、撥水性、撥油性、耐溶剤性等を改善し、本来の塗膜の表面に改質された表面性状を付与することができると記載されている。尚、この反応性表面改質剤(I)と組み合わされる反射防止膜材料(II)は低屈折率層形成用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−36018号公報
【特許文献2】特開2006−37024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、得られる硬化膜に優れた透明性及び防汚性、特に油性マーカー拭き取り性を付与することができるパーフルオロポリエーテル基を含有するウレタン(メタ)アクリレートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は下記化合物及びその製造方法を提供する。
1.パーフルオロポリエーテル構造を有するジオール化合物と芳香族ジイソシアネート化合物との反応生成物に、水酸基及び5個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を反応させて得られる、パーフルオロポリエーテル基、ウレタン基及び10個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物。
2.前記芳香族ジイソシアネートが、2,4−トリレンジイソシアネートである上記1に記載の化合物。
3.前記5個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートである上記1又は2に記載の化合物。
4.下記一般式(1)で示される上記1〜3のいずれかに記載の化合物。
【化1】

[式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは単結合、メチレン基又はエチレン基であり、R及びRはそれぞれ独立にフッ化メチレン基又は炭素数2〜4のパーフルオロアルキレン基であり、nは5〜50の整数である。]
5.前記Rが水素原子である上記4に記載の化合物。
6.前記nが10〜30の整数である上記4又は5に記載の化合物。
7.(A)パーフルオロポリエーテル構造を有するジオール化合物と、芳香族ジイソシアネート化合物とを反応させる工程、
(B)水酸基及び5個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を反応させる工程
を含む、上記1に記載の化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の化合物は、硬化性組成物に添加することにより、得られる硬化膜に優れた透明性及び防汚性、特に油性マーカー拭き取り性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】化合物1のIRチャートである。
【図2】化合物1のH NMRチャートである。
【図3】化合物1の13C{H}の13C{H} NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の化合物を具体的に説明する。
本発明の化合物は、パーフルオロポリエーテル構造を有するジオール化合物と芳香族ジイソシアネートとの反応生成物に、5個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を付加して得られる、パーフルオロポリエーテル基、ウレタン基及び10個以上の(メタ)アクリロイル基を有することを特徴とする。
【0011】
芳香族ジイソシアネートとしては、メタフェニレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ジメチルベンゼンジイソシアネート、エチルベンゼンジイソシアネート、イソプロピルベンゼンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネート、2,7−ナフタレンジイソシアネート等が挙げられ、メタフェニレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネートが好ましい。
【0012】
5個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられ、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の化合物は、下記一般式(1)で示される構造を有することが好ましい。
【化2】

【0014】
式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、水素原子であることが好ましい。
は単結合、メチレン基又はエチレン基である。
及びRはそれぞれ独立にフッ化メチレン基(−CF−)又は炭素数2〜4のパーフルオロアルキレン基を示し、フッ化メチレン基、パーフルオロエチレン基、パーフルオロプロピレン基であることが好ましい。
nは5〜50の整数であり、好ましくは10〜30の整数である。nが5より小さいと、塗膜にした際、十分なすべり性、油性マーカー拭き取り性が得られないおそれがあり、50より大きいと、溶剤への溶解性が損なわれるおそれがある。
【0015】
本発明の化合物の分子量は、通常2000〜6000の範囲内であり、2500〜3500の範囲内であることが好ましい。ここで、分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフ法によって測定する。
【0016】
本発明の化合物は、下記本発明の製造方法によって製造することができる。
本発明の製造方法は、(A)パーフルオロポリエーテル構造を有するジオール化合物と、芳香族ジイソシアネート化合物とを反応させる工程、
(B)水酸基及び5個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を反応させる工程
を含むことを特徴とする。
【0017】
より具体的には、水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を、メチルエチルケトン等の溶媒中又は、無溶媒で、ジイソシアネート化合物と混合し、10〜20℃の水浴にて冷却する。溶液の温度が10〜20℃になったら、ジラウリル酸ジブチル錫等のルイス酸触媒を添加し、20〜65℃の範囲で反応液を1〜3時間撹拌する。その後5個以上の(メタ)アクリロイル基と水酸基を有する化合物を混合し45〜65℃にて3〜6時間撹拌することで製造することができる。
【0018】
パーフルオロポリエーテル構造を有するジオール化合物としては、パーフルオロポリアルキレンオキシドの両末端に水酸基を有する化合物であれば特に限定されないが、パーフルオロポリエチレンオキシドの末端ジオール化合物、パーフルオロポリプロピレンオキシドの末端ジオール化合物が好ましい。
また、好ましいパーフルオロポリエーテル構造を有するジオール化合物の市販品の例としては、Fluorolink D10H、Fluorolink D(ソルベイソレクシス社製)等が挙げられる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。尚、特にことわらない限り、「%」は質量%を表し、「部」は質量部を表す。
【0020】
実施例1
化合物1の合成
【化3】

[上記式中、n=10〜15である。]
【0021】
撹拌機、還流管及び乾燥空気導入管を備えた反応容器に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(吉富ファインケミカル社製、ヨシノックスBHT)(0.024g、0.1mmol)、パーフルオロポリエーテルジオール(ソルベイソレクシス社製、Fluorolink D10H)(37.00g、24.6mmol)、2,4−トリレンジイソシアネート(三井化学ポリウレタン社製、TOLDY−100)(8.58g、49.2mmol)及びメチルエチルケトン(丸善石油化学株式会社製)(45.58g)を加え、水浴にて冷却を行う。10℃±5℃にてジラウリル酸ジブチル錫(共同薬品社製、CASTIN−D)(0.080g、0.1mmol)を添加した後、60℃まで昇温し、1.5時間加熱した。次いで反応混合物を水浴にて冷却し、ここに、メチルエチルケトンで固形分濃度50%に希釈したジペンタエリスリトールペンタアクリレート(東亞合成株式会社製、アロトニックスM403)(108.84g)を、滴下漏斗を用いて添加した。これを60℃まで昇温し、4時間加熱した。このようにして前記の化学構造式で示される化合物1のメチルエチルケトン溶液(200g)を得た。
【0022】
得られた化合物1のIRチャート、H NMRチャート、13C{H} NMRチャートをそれぞれ図1〜3に示す。
【0023】
<硬化性組成物の製造>
実施例2
シリカ粒子分散液(分散媒:メチルエチルケトン、日産化学株式会社製:製品名MEK−ST−L)216.9質量部(シリカ粒子として65.08質量部)を固形分量70%になるまで濃縮し、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬株式会社製:KAYARAD DPHA)31.62質量部、光開始剤(チバスペシャルティケミカルズ(株)製:イルガキュア184)3.00質量部、メチルイソブチルケトン70質量部を混合し、実施例1で合成した化合物1を0.3質量部添加し攪拌した。さらに、固形分濃度が50質量%になるようにメチルエチルケトンを添加し、撹拌して硬化性組成物を得た。
【0024】
比較例1
各成分を表1に示す量で配合した以外は実施例2と同様にして硬化性組成物を得た。
【0025】
<硬化膜の製造>
厚さ80μmのTACフィルム上に、上記実施例2及び比較例1で得られた各硬化性組成物をバーコーター(12ミル)を用いて塗工した。80℃で2分乾燥した後、高圧水銀灯を用いて空気下で照射量1.0J/cmの強度で紫外線を照射して光硬化させて各硬化膜を作製した。
【0026】
<硬化膜の物性評価>
得られた硬化膜のヘーズ、全光線透過率及び接触角を測定した。また、油性マーカー拭き取り性、耐スチールウール性及び塗膜外観を評価した。結果を表1に示す。
【0027】
(1)ヘーズ(%)の測定
硬化膜のヘーズ(%)を、カラーヘーズメーター(スガ試験機(株)製)を用いて、JIS K7105に準拠して測定した。
【0028】
(2)全光線透過率(Tt;%)の測定
硬化膜の全光線透過率(%)を、カラーヘーズメーター(スガ試験機(株)製)を用いて、JIS K7105に準拠して測定した。
【0029】
(3)油性マーカー拭き取り性試験
硬化膜に油性マーカー(ゼブラ株式会社、マッキーMO−120−MC−BK)を付着させ、30秒後に不織布(旭化成製、商品名:ベンコットS−2)にて拭き取った。完全に拭き取れた場合には、再度油性マーカーを付着させ、再度拭き取りを繰り返した。この拭き取り可能回数を数え、下記評価基準に従って評価した。
A:油性マーカー拭き取り可能回数10回以上
B:油性マーカー拭き取り可能回数5〜10回
C:油性マーカー拭き取り可能回数1〜4回
D:油性マーカー拭き取り可能回数0回
【0030】
(4)接触角(°)の測定
水及びヘキサデカンに対する、硬化膜の接触角を協和界面化学株式会社製の接触角計Drop Master500を用いてJIS6768に準拠して測定した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果から、本発明の化合物を添加した硬化性組成物を硬化させて得られた硬化膜は、透明性及び油性マーカー拭き取り性に優れていることがわかる。また、水、ヘキサデカンの接触角が共に高く、耐水性、耐油性にも優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の化合物は、硬化性組成物に添加することにより、硬化性組成物を硬化させて得られる硬化膜に、優れた透明性及び防汚性を付与できるため、各種コート材の表面改質剤として有用である。
特に、硬化膜の透明性を損なわないため、光学用途を目的とする硬化膜の添加剤として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロポリエーテル構造を有するジオール化合物と芳香族ジイソシアネート化合物との反応生成物に、水酸基及び5個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を反応させて得られる、パーフルオロポリエーテル基、ウレタン基及び10個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物。
【請求項2】
前記芳香族ジイソシアネートが、メタフェニレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ジメチルベンゼンジイソシアネート、エチルベンゼンジイソシアネート、イソプロピルベンゼンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネート、又は、2,7−ナフタレンジイソシアネートである請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記芳香族ジイソシアネートが、2,4−トリレンジイソシアネートである請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記5個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートである請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
下記一般式(1)で示される請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【化4】

[式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは単結合、メチレン基又はエチレン基であり、R及びRはそれぞれ独立にフッ化メチレン基又は炭素数2〜4のパーフルオロアルキレン基であり、nは5〜50の整数である。]
【請求項6】
前記Rが水素原子である請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
前記nが10〜30の整数である請求項5又は6に記載の化合物。
【請求項8】
(A)パーフルオロポリエーテル構造を有するジオール化合物と、芳香族ジイソシアネート化合物とを反応させる工程、
(B)水酸基及び5個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を反応させる工程
を含む、請求項1に記載の化合物の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−256597(P2009−256597A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28288(P2009−28288)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】