説明

パーフルオロポリエーテル変性シラン化合物、これを含有する防汚性コーティング剤組成物およびこれを適用した膜

【課題】防汚性を有する変性シラン化合物と;基材との密着性および耐久性を兼備する防汚性コーティング性組成物の提供。
【解決手段】下記化学式1のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物及び該化合物を含むコーティング剤組成物。[化学式1]


式1でnは10〜70、mは1〜3、p、qは2又は3、Rは炭素数2〜4のアルキレン基、Rは炭素数1〜6の低級アルキル基又はフェニル基、Rは炭素数1〜6のアルキレン基又はフェニレン基、Rは=C−(CH−(O)−(CH−(式中、a及びcは0〜6の整数、a+cは1〜6、bは0又は1)で表される基、Rは炭素数1〜6の低級アルキル基又はフェニル基、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防汚性、耐スクラッチ性および耐久性を向上させるために、新規のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を導入した防汚性コーティング剤および前記組成物がコーティングされて形成された膜に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素系機能性素材は先端産業である光通信、光電子、半導体、自動車およびコンピュータ分野などにおいて次世代技術の核心素材であり、世界的に関心を集めている。特に、急増する液晶ディスプレイなど各種ディスプレイの最外層に使用される光学フィルムは産業的な需要が急増している。光学フィルムの構造を見ると、液晶もしくは偏光機能層、液晶を保護して平板化するためのハードコーティング層、外部の光干渉を防止して鮮明な画質を提供するための反射防止層、そして表面の汚染を防止する防汚層にて構成されている。特に、防汚層を含む光学フィルムを製造するための各種素材技術は産業的に非常に重要である。
【0003】
現在の技術によると、反射防止膜は屈折率と厚さを調節するために親水性が非常に大きい無機酸化物薄膜の多層構造となっているため、使用中に容易に汚染され、汚染物質の除去が容易ではない。また、溶剤などを使用して汚染物質を除去する場合、ディスプレー薄膜表面の損傷を誘発するという短所を持っている。光機能性フィルム、ガラスなどの表面に汚染防止および撥水性を付与するためにはシリコンもしくはフッ化炭素高分子を表面に硬化膜を形成することが知られている。
【0004】
前記目的で使用されている表面コーティング剤として、C81724Si(NH)3/2、C4924Si(NH)3/2またはポリシロキサザン(polysiloxazane)などを挙げることができる[特許文献1]。前記化合物を単独で使用する場合、基材である無機酸化物と反応架橋性が悪く、摩擦耐久性が不良であり、フッ素化合物のみ単独で使用する場合はフッ素化合物の固有表面の特性である汚染除去性が不良であり、ポリシロキサザン化合物の場合は、相対的にフッ素化合物より表面エネルギーが高いため初期汚染防止性能が不良である。また、3次元構造を形成するための機能基の数によって十分な架橋結合が行われないため、遊離転移温度が低くなり汚染物が累積したり、付着し、指紋が残存する。特許文献2では、やはりパーフルオロ基を有するシランを遊離表面改質剤として使用しているが、このようなコーティング剤もやはり十分な撥水性、汚染防止性および汚染除去性を同時に併せ持たすことができないという短所がある。
【0005】
このような問題点を解決するための手段として、ガラスなどの無機材料と有機材料を結合させるシランカップリング法が提示されている。この方法は一分子中に有機官能基もしくは有機材料と親和性が良い化学構造と反応性アルコキシシラン基を有しており、このアルコキシシラン基が空気中の水分などにより自己縮合反応を引き起こし、シロキサンとなり被膜を形成する。これと同時に、ガラスや金属などの表面と化学的結合を形成し、強固な密着性を発現する。従って、シランカップリング剤は各種基材表面のコーティング剤成分もしくは下塗剤(primer)として利用されている。
【0006】
このようなシランカップリング剤とパーフルオロ基を化学的に結合させた化合物は成膜性が良好であり、基材との密着性および耐久性が良好なコーティング剤成分として開示されている[特許文献3〜6]。これらによると、パーフルオロアルキル基をシランカップリング構造を有する基材表面に固定させると、防汚性(撥水性、撥油性)が向上すると記載している。しかし、このような化合物ではパーフルオロ基の長さ(分子量)に制限があるため、撥油性能が不十分であり、十分なパーフルオロ基の長さ(分子量)を有するとしても、パーフルオロ基を含む分子全体の分子量に対するアルコキシシラン基が占める比率が低下し、接着性もしくは接着耐久性が不足しているという欠点がある。
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,678,688号
【特許文献2】特開平2−233535
【特許文献3】特開昭58−167597
【特許文献4】特開昭58−122979
【特許文献5】特開平10−232301
【特許文献6】特開第2000−143991
【非特許文献1】JAMES T.HILL,J.Macromol.Sci.Chem.,A8,(3),p499(1974)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、防汚性を有する新規のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を提供することにある。
【0009】
また、本発明の別の目的は、基材との密着性および耐久性を兼備する防汚性コーティング性組成物および前記組成物から得られる被膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は下記化学式1で表されるパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を提供する。
(化学式1)

【0011】
前記化学式1において、nは10〜70の整数であり、mは1〜3の整数であり、pおよびqは各々2または3であり、R1は炭素数2〜4のアルキレン基であり、R2は炭素数1〜6の低級アルキル基またはフェニル基であり、R3は炭素数1〜6のアルキレン基またはフェニレン基であり、R4は=C−(CH2a−(O)b−(CH2c−(式中、a及びcは0〜6の整数であり、a+cは1〜6であり、bは0又は1である)で表される基であり、R5は炭素数1〜6の低級アルキル基またはフェニル基であり、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基である。
【0012】
また、本発明は前記化学式1で表されるパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物0.05〜50質量%および溶剤50〜99.95質量%を含む防汚性コーティング剤組成物を提供する。
【0013】
更に、本発明は前記防汚性コーティング剤組成物がコーティングされて形成された膜を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明による前記化学式1のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物は防汚剤として非常に有用である。本発明による前記化学式1の化合物を主成分とする防汚性コーティング剤組成物は透明なガラス製品またはプラスチック製品の表面にコーティングし、防汚性、耐スクラッチ性および耐久性が優れ、基材自体の透明性も維持させる防汚性コーティング剤組成物を提供することができる。
【0015】
更に、本発明による防汚性コーティング剤組成物はレンズ類、ガラス窓類、液晶、平板表示素子(PDP)、有機発光素子(EL)および電界放出ディスプレー(FED)のようなフラットパネルディスプレー用反射防止膜または光学フィルターに適用される場合、付着防止性および拭取る性質が大きく改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は新規のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物、これを含む防汚性コーティング剤組成物およびこれを含む膜に関する。
【0017】
以下、本発明を更に詳しく説明すると下記の通りである。
【0018】
前記化学式1で表されるパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物において、nは10〜70の整数であり、mは1〜3の整数であり、pおよびqは各々2または3である。この時、nが10未満の整数である場合は、パーフルオロポリエーテル基の長さが十分ではないため、防汚性が十分に発現されないという問題が発生し、70を超過する整数である場合は、パーフルオロポリエーテル変性シラン化合物中のアルコキシシラン基の比率が低くなり、硬化被膜の密着性が低下し、耐久性も低下するという問題が発生し得る。また、pおよびqが各々2未満の整数である場合も、上と同様に、硬化被膜との結合力が弱くなり、耐久性が低下するという問題が発生し得る。従って、前記範囲の化合物を使用することが好ましい。
【0019】
また、R1は炭素数2〜4のアルキレン基であり、R2は炭素数1〜6の低級アルキル基またはフェニル基であり、R3は炭素数1〜6のアルキレン基またはフェニレン基であり、R4は=C−(CH2a−(O)b−(CH2c−(式中、a及びcは0〜6の整数であり、a+cは1〜6であり、bは0又は1である)で表される基であり、R5は炭素数1〜6の低級アルキル基またはフェニル基であり、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基である。
【0020】
より好ましくは、防汚性、透明性、耐スクラッチ性および耐久性の性質を考慮する時、下記化学式1a、1bまたは1cで表されるパーフルオロポリエーエル変性シラン化合物が提案される。
(化学式1a)

(化学式1b)

(化学式1c)

【0021】
前記化学式1a、1bまたは1cにおいて、nは10〜70の整数である。
【0022】
本発明によるパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物の合成方法は、当分野で一般的に使用される方法であり、その諸法を特別に限定しないが、例えば、下記の合成方法を通して合成し得る。パーフルオロポリエーテル化合物を合成する第1段階、前記パーフルオロポリエーテル基をメチルエステル化する第2段階、前記メチルエステル化されたパーフルオロポリエーテル化合物とアミノシラン化合物を混合し、アルコキシシラン基を導入する第3段階および前記パーフルオロポリエーテル変性シラン化合物の2級アミノ基にエポキシシラン化合物を追加で反応させる第4段階を含む合成方法。本発明の化合物は、従来の化合物と比較し、基材との密着性および被膜形成性を促進するアルコキシシラン基を多く保有するようになる。従って、防汚性を発揮するパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物は防汚性を含む基材との密着性および被膜の耐久性を確保することができる。
【0023】
パーフルオロポリエーテル化合物を合成する第1段階において、前記パーフルオロポリエーテル化合物は下記のように公知の方法により合成することができる[JAMES T.HILL,J.Macromol.Sci.Chem.,A8,(3),p499(1974)]。即ち、ヘキサフルオロプロピレンオキシド(HFPO)とフッ化セシウムを溶媒に入れて混合する。この時、前記溶媒は当分野で一般的に使用されるものが用いられ、特別に限定はされないが、例えば、トリグリム(triglyme)、テトラグリム(tetraglyme)、ブチルジグリム(butylglyme)およびエチルジグリム(ethylglyme)の中から選択される溶媒を使用する。前記方法で合成されたパーフルオロポリエーテル化合物の重合度(分子量)はHFPOの導入速度および反応温度により制御される。
【0024】
パーフルオロポリエーテル基をメチルエステル化する第2段階において、前記パーフルオロエーテル化合物はメタノールと混合して20〜30℃の範囲の温度で攪拌することにより、容易にメチルエステル化することができる。前記メチルエステル化された化合物は精製、真空および乾燥を順次に行う。この時、ゲル透過クロマトグラフィー法により、パーフルオロポリエーテル化合物の分子量を測定することで、その重合度を確認することができる。前記重合度は前記化学式1のnのような概念であり、防汚性、基材との密着性および耐久性を決定する重要な変数である。
【0025】
前記メチルエステル化されたパーフルオロポリエーテル化合物とアミノシラン化合物を混合してアルコキシシラン基を導入する第3段階において、前記アミノシラン化合物は当分野で一般的に使用されるものが使用され、特別に限定されないが、例えば、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルエトキシシランおよび3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシランの中から選択されるものを使用する。
【0026】
より好ましくは、本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を含む防汚性コーティング剤組成物のコーティング時の硬化速度を考慮し、コーティング被膜との結合特性が優れた3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランまたは3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシランを使用することが良い。この時、前記アミノシラン化合物の含量は特別に限定されないが、例えば、溶媒内でメチルエステル化されたパーフルオロポリエーテル化合物1.0モルに対して1.0〜3.0モル比で混合する。この時、反応温度はパーフルオロポリエーテル化合物の粘度と溶媒の沸点の特性を考慮し、60〜80℃の温度条件を維持することがよい。また、前記溶媒は当分野で一般的に使用されるものが使用され、特別に限定はされないが、例えば、トリフルオロベンゼン、1,3−ビストリフルオロベンゼン、1.4−ビストリフルオロベンゼンの中から選択される溶媒を使用する。前記混合物に対して、精製、真空および乾燥工程を順次に行うことで、アルコキシシラン基が導入されたパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を得ることができる。
【0027】
また、前記パーフルオロポリエーテル変性シラン化合物の2級アミノ基にエポキシシラン化合物を追加で反応させる第4段階において、前記エポキシシラン化合物は当分野で一般的に使用されるものが使用され、特別に限定はされないが、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランおよび3−(3,4エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシランの中から選択されるものを使用し、より好ましくはエポキシ基の反応性およびアルコキシシラン基の反応性による被膜形成性を考慮し、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランまたは3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランを使用することが良い。この時、前記エポキシシラン化合物は溶媒内で前記第3段階で製造されたパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物1.0モルに対して、例えば、1.0〜2.0モル比で混合する。また、前記溶媒は当分野で一般的に使用されるものが使用され特別に限定はされないが、例えば、トリクロロトリフルオロエタン、トリフルオロベンゼン、1,3−ビストリフルオロベンゼン、1.4−ビストリフルオロベンゼンの中から選択される溶媒を使用する。前記混合物に対して、精製、真空および乾燥工程を順次に行うことにより、パーフルオロポリエーテル変性シラン化合物の2級アミノ基にエポキシシラン化合物のエポキシ基を反応および付加させることができる。
【0028】
このような方法を通して、前記化学式1で表される本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を合成することができる。
【0029】
また、本発明は前記化学式1のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物0.05〜50質量%および溶剤50〜99.95質量%を含む防汚性コーティング剤組成物を提供する。
【0030】
更に、本発明は前記化学式1で表されるパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物の末端アルコキシ基(X)を加水分解する加水分解触媒を更に含む防汚性コーティング剤組成物を提供する。この時、前記加水分解触媒はアルコキシ基(X)の加水分解を促進し、コーティング剤組成物を基材に塗布して被膜をコーティングする時、基材との接着性および被膜化を良好にするために追加される。前記加水分解触媒は当分野で一般的に使用されるものが使用され、特別に限定されないが、例えば、有機スズ化合物、有機チタン化合物、有機酸および無機酸の中から選択される単一化合物または2種以上の混合物を使用することができる。より好ましくは、ジブチルスズジメトキシド、ジブチルスズジラウレートなどの有機スズ化合物、テトラn−チタン酸ブチルなどの有機チタン化合物および酢酸やメタンスルホン酸などの有機酸、塩酸や硫酸などの無機酸を使用することができる。
【0031】
前記パーフルオロポリエーテル変性シラン化合物の含量は特別に制限されるわけではなく、皮膜上に塗布しやすい濃度を選定することが良い。一般的に、変性シラン化合物の濃度が0.05〜50質量%を使用するが、特に0.05〜20質量%とすることが好ましい。また、前記溶剤は塗布方法、組成物の安定性、基材に対する濡れる性質および揮発速度を考慮し、当分野で一般的に使用されるものが使用され、特別に限定はされないが、例えば、フッ素変性炭化水素系または炭化水素系溶剤が好ましく、より好ましくは、パーフルオロヘプタン、パーフルオロヘキサン、m−六フッ化キシレン(m−xylene hexafluoride)、ベンゾトリフルオリド、メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、石油ベンゼン、ミネラルスピリッツ、イソパラフィン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルグリム、メチルトリグリム、メチルテトラグリムおよびテトラヒドロフランの中から選択される単一化合物または2種以上の混合物を使用する。
【0032】
本発明は前記防汚性コーティング剤組成物がコーティングされて形成されることを特徴とする膜を提供する。
【0033】
この時、防汚性コーティング剤組成物を塗布する方法は当分野で一般的に使用される方法が使用され、特別に限定されないが、例えば、スピンコーティング法、浸漬コーティング法、カーテンコーティング法、ゾル−ゲル法および真空蒸着法などの公知の方法を利用し、レンズ類、ガラス窓類、液晶、平板表示素子(PDP)、有機発光素子(EL)および電界放出ディスプレー(FED)のようなフラットパネルディスプレー用反射防止膜または光学フィルターをコーティングすることができる。このようにコーティングされた膜は厚さが0.005〜0.5μmの範囲であるものが好ましい。厚さが0.005μm未満の場合は水や油に対する防汚性が確実に発現できないという問題が発生し得、0.5μmを超過する場合は、光透過性が減少し、厚さが不均一となるため、反射特性の劣化干渉模様が発生するという問題が発生し得るため、前記範囲の厚さを維持することが良い。
【0034】
本発明による防汚性コーティング剤組成物を含む膜は無機ガラスや有機ポリマーおよび各種物品の最外層表面に形成することができるが、特に、汚れ防止の側面で、無機ガラスや透明な有機ポリマーから構成され、汚れの付着が実生活の中で大きな不便をもたらすレンズ類、ガラス窓類、液晶、平板表示素子(PDP)、有機発光素子(EL)および電界放出ディスプレー(FED)などのフラットパネルディスプレー用反射防止膜または光学フィルターの防汚性の用途で使用することができる。また、本発明の防汚性コーティング剤組成物と基材との間に、帯電防止層、反射防止層および電磁波シールド層などの多様な機能性コーティング層が共に含まれて使用される。
【0035】
本発明は透明なガラス製品またはプラスチック製品の表面にその固有の透明性は低下させずに、防汚性、耐スクラッチ性および耐久性が優れた防汚性コーティング剤組成物を提供することができる効果がある。従って、ガラス物またはプラスチック剤の物品に塗布して上のような特徴を必要とする全ての分野に応用することができる。具体的には、眼鏡、カメラなどのレンズ類、各種製品の液晶表面、一般家庭用、産業用車両などの窓ガラス類、台所、浴室などの水周辺用品、建築外装材、そして美術用品などにも使用することができる。
【0036】
以下、本発明は下記実施例に依拠して更に詳しく説明するが、本発明が下記実施例に限定されるわけではない。
【0037】
(合成例1)
攪拌器、冷却ジャケット、温度計、圧力計が設置されたステンレス製高圧反応器にテトラグリム2.49g、フッ化セシウム1.69g、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)87.75gおよびヘキサフルオロプロピレンオキシド420gを投入し、−35℃で反応させHFPOオリゴマーを得た。この時、総反応時間は36時間であった。このHFPOオリゴマーを19F−NMR測定を行い、以下のスペクトルデータを得た。
19F−NMR
83.3ppm s、3F、C3CF2
131.3ppm m、2F、CF32
83.2ppm m、2F、CF3CF22
s、3F、CF(C3)COF
146.2ppm t、1F、OCCF3
81.6ppm m、3F、OCF(C3)CF2
m、2F、OCF(CF3)C2
132.0ppm t、1F、CCOF
【0038】
前記HFPOにメタノール5gを添加し、室温で12時間攪拌し、HFPOオリゴマーメチルエステルを得た。ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)測定によりこのHFPOオリゴマーメチルエステルの分子量がMW=4400であり、HFPOが約26量体であることが分かった。
【0039】
未反応のメタノールを真空乾燥にて除去した後、HFPOオリゴマーメチルエステルに反応溶媒として、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを投入し、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランを16g添加した後、70℃で6時間反応させ、メタノールで沈殿精製した。反応生成物(フルオロアミノシラン化合物)に再び反応溶媒として、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを投入した後、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを20g添加し、室温で6時間反応させ、メタノールで沈殿精製した。このフルオロシラン化合物は下記化学式1aに表され、FT−IRを測定して下記のようなスペクトルデータを得た。
[化学式1a]

FT−IR(cm-1
3250〜3410(N−H)
2780〜3000(C−H)
1710(CONH)
1100〜1340(C−F)
【0040】
(合成例2)
合成例1と同様に形成するが、HFPOオリゴマーを合成する時、投入するヘキサフルオロプロピレンオキシドの量を800gに増加させた。
【0041】
前記HFPOにメタノール5gを添加し、室温で12時間攪拌してHFPOオリゴマーメチルエステルを得た。ゲル透過クロマトグラフィー測定によりこのHFPOオリゴマーメチルエステルの分子量がMW=8,000であり、HFPOが約48量体であることが分かった。以降の製造順序は合成例1と同様であり、このフルオロシラン化合物は下記化学式1aで表される。
[化学式1a]

【0042】
(合成例3)
前記合成例1でHFPOオリゴマーメチルエステルに添加して反応させるアミノシラン化合物である3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン16gの代りに、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン15gを添加し、その他の合成条件は合成例1と同様に行った。このフルオロシラン化合物は下記化学式1bで表される。
[化学式1b]

【0043】
(合成例4)
前記合成例1で反応生成物(フルオロアミノシラン化合物)に添加し、反応させるエポキシ化合物である3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン20gの代りに、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン17gを添加し、その他の合成条件は合成例1と同様に行った。このフルオロシラン化合物は下記化学式1cで表される。
[化学式1c]

【0044】
(比較合成例1)
前記合成例1で投入されるHFPの量を63.25gとして投入した。この反応生成物にメタノール5gを添加した後、室温で12時間攪拌し、HFPOオリゴマーメチルエステルを得た。ゲル透過クロマトグラフィー測定によりこのHFPOオリゴマーメチルエステルの分子量はMW=12,000であり、HFPOの約72量体である事が分かった。その他の合成条件は合成例1と同様に行った。このフルオロシラン化合物は下記化学式1aで表される。
[化学式1a]

【0045】
(比較合成例2)
前記合成例1で投入されるHFPの量を63.25g、HFPO投入時間を9時間とした。この反応生成物にメタノール10gを添加し、室温で12時間攪拌し、HFPOオリゴマーメチルエステルを得た。ゲル透過クロマトグラフィー測定によりこのHFPOオリゴマーメチルエステルの分子量MW=1,500であり、HFPOの約9量体であることが分かった。その他の合成条件は合成例1と同様に行った。このフルオロシラン化合物は下記化学式1aで表される。
[化学式1a]

【0046】
(比較合成例3)
前記合成例1のHFPOオリゴマーメチルエステルに3−アミノプロピルトリメトキシシラン15gを添加し、70℃で6時間反応させた。反応生成物(フルオロアミノシラン化合物)にエポキシシラン化合物を反応させずに、そのまま1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンから抽出した後、真空乾燥を行った。その他の合成条件は合成例1と同様に行った。このフルオロシラン化合物は下記化学式2で表される。
[化学式2]

【0047】
(実施例1〜4および比較例1〜3)
合成例1〜4および比較合成例1〜3にて合成された化学式1a、1b、1cおよび2で表されるフルオロシラン化合物0.2gをパーフルオロブチルエチルエーテル(<ノベック>HFE7200 C49OC25、住友スリーエム)99.8gに溶解させてスライドグラス(2.6×7.6×0.1cm)にスピンコーティングにより塗布した。スピンコーティングは2,000rpmの条件で30秒間実施した。塗布後、20℃、65%RHの恒温恒湿の雰囲気下で24時間放置して硬化被膜を形成させた。
【0048】
(比較例4)
スライドグラスに何も処理を加えていないものを直接利用した。
【0049】
(実験例)
(1)スライディング角度測定
傾斜角を変えることのできる試片固定台に硬化被膜を形成させたスライドグラスを固定し、水、n−ヘキサデカンの液滴(液滴量30μL)を硬化被膜の表面に付着する。水平(0°)から徐々にスライドグラスの傾斜角を増加させ、液滴が硬化被膜面を滑り始める角度を測定した。このようなスライド角度が低いほど良い疎水性被膜の形成を意味する。従って、本発明では20°以下を合格角度とした。
【0050】
(2)接触角測定
接触角計DCA−WZ(協和界面科学)を用いて、水、n−ヘキサデカンの接触角を測定した。室温で液滴量は3μLであった。このような接触角は高いほど低い表面エネルギーを有することを意味する。従って、本発明では、水110°以上、n−ヘキサデカン70°以上を合格角度とした。
【0051】
(3)類似指紋およびマジックインキの付着防止性評価
スクワレンに青色の油性染料(Oil Blue 403)を5質量%溶解させたものを指に適当量付着させ、1kgfの力でスライドグラスの硬化被膜面に5秒間強圧して汚れ成分を付着させた。
【0052】
市販のマジックインキ(ぺんてる)の赤色と黒色を用いてスライドグラスの硬化被膜面に線を引いた。肉眼検査にて付着した汚れを判定した。
【0053】
汚染物付着防止性判定基準
○:汚れがほとんど付かない。
△:若干の汚れが付く。
×:かなりの汚れが付く。
【0054】
(4)汚染物を拭取る方法
前記実験例3で付着した指紋およびマジックインキをキムワイプス(Yuhan Kimberly、韓国)を用いて、1kgfの力で5回往復して処理表面の汚れを拭取った。各々肉眼検査にて汚れの拭取り特性を判定した。
【0055】
汚染物を拭取る性質の判定基準
○:汚れを全て拭取ることができる。
△:汚れをほとんど拭取ることができるが、若干跡が残る。
×:汚れが残り、はっきりとした跡が残る。
【0056】
(5)耐久性評価
平面磨耗試験機(山口科学)を使用して精錬された綿製のブロード布に125gf/cm2の荷重を使い、往復で水平摩擦(ラビング処理)を実施した。ラビング処理は100回往復と50回往復の2種類の方法にて実施した。ラビング処理後、接触角、汚れ付着防止性および拭取る特性試験をラビング前と同様に行った。
【0057】
ラビング処理後の汚染物付着防止性の判定基準
○:汚れがほとんど付かない。
△:若干の汚れが付く。
×:かなりの汚れが付く。
ラビング処理後の汚染物を拭取る性質の判定基準
○:汚れを全て拭取ることができる。
△:汚れをほとんど拭取ることができるが、若干跡が残る。
×:汚れが残り、はっきりとした跡が残る。
【0058】
【表1】

【0059】
表1において、何も処理されていない比較例4と本発明の防汚性コーティング剤組成物(実施例1〜4)を比較して見る時、指紋などの油性の汚れが付着しにくく、更に、摩擦に対して耐久性が顕著に高いことが分かる。
【0060】
比較例1および2によると、HFPOの単量体の長さが非常に長いか短い場合、摩擦に対する耐久性は同等または低下し、汚れ付着防止性や汚れを拭取る性質も減少することを確認することができた。
【0061】
また、比較例3によると、ラビング後の汚れ付着防止性や汚れを拭取る性質は低下し、摩擦に対する耐久性もまた減少することを確認することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表されるパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物。
[化学式1]

前記化学式1において、nは10〜70の整数であり、mは1〜3の整数であり、pおよびqは各々2または3であり、R1は炭素数2〜4のアルキレン基であり、R2は炭素数1〜6の低級アルキル基またはフェニル基であり、R3は炭素数1〜6のアルキレン基またはフェニレン基であり、R4は=C−(CH2a−(O)b−(CH2c−(式中、a及びcは0〜6の整数であり、a+cは1〜6であり、bは0又は1である)で表される基であり、R5は炭素数1〜6の低級アルキル基またはフェニル基であり、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基である。
【請求項2】
下記化学式1a、1bまたは1cで表されるパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物。
[化学式1a]

[化学式1b]

[化学式1c]

前記化学式1a、1bまたは1cにおいて、nは10〜70の整数である。
【請求項3】
1)下記化学式1で表されるパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物0.05〜50質量%および
2)溶剤50〜99.95質量%
を含むことを特徴とする防汚性コーティング剤組成物。
[化学式1]

前記化学式1において、nは10〜70の整数であり、mは1〜3の整数であり、pおよびqは各々2または3であり、R1は炭素数2〜4のアルキレン基であり、R2は炭素数1〜6の低級アルキル基またはフェニル基であり、R3は炭素数1〜6のアルキレン基またはフェニレン基であり、R4は=C−(CH2a−(O)b−(CH2c−(式中、a及びcは0〜6の整数であり、a+cは1〜6であり、bは0又は1である)で表される基であり、R5は炭素数1〜6の低級アルキル基またはフェニル基であり、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基である。
【請求項4】
前記化学式1で表されるパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物の末端アルコキシ基(X)を加水分解する加水分解触媒を更に含むことを特徴とする、請求項3記載の防汚性コーティング剤組成物。
【請求項5】
前記溶剤が、フッ素変性炭化水素系または炭化水素系溶剤であることを特徴とする、請求項3記載のコーティング剤組成物。
【請求項6】
前記溶剤が、パーフルオロヘプタン、パーフルオロヘキサン、m−六フッ化キシレン(m−xylene hexafluoride)、ベンゾトリフルオリド、メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、石油ベンゼン、ミネラルスピリッツ、イソパラフィン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルグリム(methylglyme)、メチルトリグリム(methyltriglyme)、メチルテトラグリム(methyltetraglyme)およびテトラヒドロフランの中から選択される単一化合物または2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項5記載のコーティング剤組成物。
【請求項7】
請求項3乃至6のうちいずれか一項の防汚性コーティング剤組成物がコーティングされて形成されることを特徴とする膜。
【請求項8】
前記膜は、厚さが0.005〜0.5μmの範囲であることを特徴とする、請求項7記載の膜。
【請求項9】
前記膜はフラットパネルディスプレー用反射防止膜または光学フィルターに使用されることを特徴とする、請求項7記載の膜。
【請求項10】
前記フラットパネルディスプレーはレンズ類、ガラス窓類、液晶、平板表示素子(PDP)、有機発光素子(EL)および電界放出ディスプレー(FED)であることを特徴とする、請求項9記載の膜。

【公開番号】特開2009−144133(P2009−144133A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192312(P2008−192312)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(502115844)韓国化學研究院 (1)
【Fターム(参考)】