説明

パー(フェニルエチニル)アレーン誘導体を含有するポリマー組成物

【課題】例えば層間誘電体及びダイアタッチ接着剤で、特に有用であるポリマー組成物を与える。
【解決手段】ポリ(アリーレンエーテル)ポリマー、ポリスルホン、ポリイミド、ポリ(エーテルケトン)、ポリ尿素、ポリウレタン及びこれらの混合物から選択される第一のポリマー;並びにパー(フェニルエチニル)アレーンポリマー誘導体を含む第二のポリマーを有する、ポリマー組成物。ここで、上記ポリ(アリーレンエーテル)ポリマーが、次の構造のポリマー繰返し単位を有するポリマー組成物:
−(O−Ar−O−Ar−O−)−(−O−Ar−O−Ar−O)
(ここで、Ar、Ar、Ar及びArは、同じ又は異なるアリール基であり、mは0〜1、nは1−m)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示するものは、パー(フェニルエチニル)アレーン誘導体を含有するポリマー組成物であり、これは、例えば様々なエレクトロニクス用途、例えば限定されないが、ICチップアセンブリ用の3次元(3D)実装で用いることができる。また、このポリマー組成物を含む基材も開示される。
【背景技術】
【0002】
ICチップアセンブリの3D実装用の接着剤として使用するための低誘電率値の材料を有するポリマー材料が、エレクトロニクス製造産業において求められている。しかし、最終用途での条件だけでなく、さらに完成品の集積回路をもたらす処理条件の間の広範な条件にわたる材料適合性及び寸法安定性の必要性は、重大な課題を提示してきた。ポリマー材料の特性は、エレクトロニクス製造産業における集積回路又はマイクロチップのための厳格な製造要件に適合させる必要がある。一つの課題は、ポリマーの熱硬化系を作製することである。この問題は、特に、所望の反応(硬化)温度が200〜450℃の範囲となることがある高Tgのポリマーに関して、解決するのが難しいことである。
【0003】
ポリマー材料は、1.9〜3.5の範囲のε値を有することができ、これはその構造に強く依存する。ICチップの3D実装用、及び他の用途、例えばマルチチップモジュール実装用、カプセル化用、及びフラットパネルディスプレイ用に選ばれるポリマー材料は、表1に記載された一以上の化学的及び物理的特性を示すことが重要である。表1に与えられた必要条件は、様々なIC製造者によって提示されている。
【0004】
【表1】

【0005】
架橋は、電子材料ポリマーの必要条件に対処する一つの方法として理解されている。過去の試みは、ポリマーを架橋する様々な異なるアプローチを用いた。一つのそのような試みは、本出願の出願人に譲受されている特許(特許文献1)に記載されている。この特許文献1は、ポリ(アリーレンエーテル)骨格にグラフトした芳香族基を有し、このグラフトが200〜450℃の温度範囲でポリマーの架橋を可能とするポリ(アリーレンエーテル)ポリマー組成物の使用について記載している。特許文献2は、同様に本出願の出願人に譲受されている、エレクトロニクス産業用の低誘電率の中間層としてのポリ(アリーレンエーテル)の使用について述べており、ここでは、ポリ(アリーレンエーテル)は、例えば、約350℃超の温度にさらしてそれ自体で架橋させることによって、あるいは架橋剤を提供することによって、架橋させることができる。加えて、特許文献2は、公知の末端変性剤(end cap agent)、例えば、フェニルエチニル、ベンゾシクロブテン、エチニル及びニトリルを用いてポリマーを末端変性することも教示する。
【0006】
非特許文献1は、側鎖にフェニルエチニル基を有するポリフェニルキノキサリンの調製、及び分子内付加環化によるその熱硬化、並びに2,2’−ジ(フェニルエチニル)ビフェニル部を加熱して、ポリマーのTgを高める9‐フェニルジベンゾ[a,c]アントラセン部を生成することを報告している。
【0007】
非特許文献2は、分子骨格に沿って側鎖にフェニルエチニル基を有するポリ(フェニルキノキサリン)の調製について報告しており、ここでこれらの材料は、高い熱安定性の熱硬化樹脂用の前駆体として評価するために調整された。
【0008】
特許文献3及び特許文献4には、ジアリールアセチレンで末端変性されたポリイミド、ポリアミド酸、ポリアミド酸エステル、ポリイソイミドについて記載している。その硬化した生成体を、電子デバイスのカプセル化用に、接着剤として、また型(molding)として用いることができる。
【0009】
特許文献5は、様々なマルチ−フェニルエチニル化合物(multi−phenylethynyl compound)を開示し、これらは幅広い種類の基材、例えばコンピューターチップをコーティングするために用いることができる。
【0010】
非特許文献3は、アセチレンの環化反応による炭素のはしご型ポリマー(carbon ladder polymer)の調整について記載している。
【0011】
特許文献6は、ポリマー(オリゴマー)、例えば特許文献7に記載されたポリマーを二重結合及び三重結合を有する反応性基で末端変性したものついて記載している。
【0012】
特許文献8は、架橋できるフッ素化された芳香族エーテル化合物について記載している。
【0013】
特許文献9は、熱架橋できるポリマーを調整するのに使用するためのフェニルエチニル化されたモノマーの調製を教示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6,060,170号
【特許文献2】米国特許第5,658,994号
【特許文献3】米国特許第5,138,028号
【特許文献4】欧州特許出願公開第443352号
【特許文献5】国際公開WO97/10193号
【特許文献6】米国特許第5,179,188号
【特許文献7】米国特許第5,114,780号
【特許文献8】国際公開WO91/16370号
【特許文献9】国際出願PCT/US96/10812号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Hedberg,F.L.;Arnold,F.E.; J.Polym.Sci.,Polym.Chem.Ed.(1976)14,2607−19 and Banihashemi,A.;Marvel,C.S.;J.Polym.Sci.,Polym.Chem.Ed.(1977)15,2653−65
【非特許文献2】Hergenrother,P.M.;Macromolecules(1981)14,(4)891−897;and Hergenrother,P.M.; Macromolecules(1981)14,(4)898−904
【非特許文献3】Zhou,Q et al., Polym.Preprint(1993)34(1),193−4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
集積回路及びチップの製造には、適切なポリマーコーティング、並びに実装及び他の用途のための適切な材料を必要とする。しかし、これらの用途のためのポリマーに適切な架橋を与えるための様々な試みにもかかわらず、本技術分野は、次の必要条件の少なくとも一つを満たすポリマー材料を与える課題を解決できていない:改良された熱膨張係数(CTE)、改良された硬度、改良された接着抗力(ここで、これらの必要条件の一つ又は全てを、基材の接着性、熱安定性又はこの両方の顕著な喪失がない状態で達成させる)。
【0017】
本明細書で引用した全ての参考文献は、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のポリマー組成物は、ポリ(アリーレンエーテル)ポリマー、ポリスルホン、ポリイミド、ポリ(エーテルケトン)、ポリ尿素、ポリウレタン及びこれらの組合せから選択される第一のポリマー、並びにパー(フェニルエチニル)アレーンポリマー誘導体を含む第二のポリマーを有する。ここで、そのポリ(アリーレンエーテル)ポリマーは、次の構造のポリマー繰返し単位を有する:
−(O−Ar−O−Ar−O−)−(−O−Ar−O−Ar−O)
(ここで、Ar、Ar、Ar及びArは、同種の又は異種のアリール基であり、mは0〜1、nは1−m)。
【0019】
このポリマーを含有する硬化させたフィルムは、次の特性の少なくとも一つを示す:160〜180℃のTg、周波数に依存しない2.7未満の誘電率、及び0.17wt%未満の最大吸水率。したがって、このポリマーは、例えば層間誘電体及びダイアタッチ接着剤で、特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、ポリ(アリーレンエーテル)ポリマーを含む第一のポリマー及びパー(フェニルエチニル)アレーン誘導体を含む第二のポリマーを有する組成物のポリマーネットワークの図解を与える。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書で記載されるポリマー組成物は、ポリ(アリーレンエーテル)ポリマー、ポリスルホン、ポリイミド、ポリ(エーテルケトン)、ポリ尿素、ポリウレタン及びこれらの混合物から選択される第一のポリマー、並びにパー(フェニルエチニル)アレーン又はパー(フェニルエチニル)アレーン誘導体から導かれる第二のポリマーを有する。ここで、上記のポリ(アリーレンエーテル)ポリマーは、次の構造のポリマー繰返し単位を有するポリマー組成物である:
−(O−Ar−O−Ar−O−)−(−O−Ar−O−Ar−O)
(ここで、Ar、Ar、Ar及びArは、同種の又は異種のアリール基であり、mは0〜1、nは1−m)。
【0022】
このポリマー組成物は、ポリマー組成物に含む構成成分を、第一のポリマーと第二のポリマーとして規定しているが、これは、この組成物が単に2種類のポリマーからなることを示す意図はない。本明細書で記載されるポリマー組成物は、1種以上の第一のポリマーと、1種以上の第二のポリマーを有することができると考えられる。このポリマー組成物への第二のポリマーの添加、又はパー(フェニルエチニル)アレーンから導かれる少なくとも一つのポリマーの添加は、次の特性の少なくとも一つを与えることができると考えられる:高Tg(400℃以上)で且つ高温(例えば400℃以上)で最小限の重量損失(0.5wt%以下);シリカのCTEと同等のCTE;改良された硬度(例えば、ポリマー組成物が、パー(フェニルエチニル)アレーン誘導体を有さない同等のポリマーよりも超える硬度を有する);及びこれらの組み合わせ。上記の特性を、ポリマー組成物の基材接着性、熱安定性又はこれらの両方の顕著な喪失がない状態で得ることができる。
【0023】
一つの特定の実施態様において、ポリ(アリーレンエーテル)ポリマー、ポリスルホン、ポリイミド、ポリ(エーテルケトン)、ポリ尿素、ポリウレタン及びこれらの混合物から選択される第一のポリマー、並びにパー(フェニルエチニル)アレーン又はパー(フェニルエチニル)アレーン誘導体から導かれる第二のポリマーから本質的になるポリマー組成物であって、上記のポリ(アリーレンエーテル)ポリマーが、次の構造のポリマー繰返し単位を有するポリマー組成物が与えられる:
−(O−Ar−O−Ar−O−)−(−O−Ar−O−Ar−O)
(ここで、Ar、Ar、Ar及びArは、同種の又は異種のアリール基であり、mは0〜1、nは1−m)。
【0024】
この特定の実施態様において、ポリマー組成物は、次の特性の少なくとも一つに悪影響を与えないならば、さらに追加の構成成分を含むことができる:高Tg(400℃以上)で且つ高温(例えば400℃以上)で最小限の重量損失(0.5wt%以下);シリカのCTEに匹敵するCTE;改良された硬度(例えば、ポリマー組成物が、パー(フェニルエチニル)アレーン誘導体を有さない同等のポリマーよりも超える硬度を有する);及びこれらの組み合わせ。
【0025】
さらなる他の一実施態様において、ポリ(アリーレンエーテル)ポリマー、ポリスルホン、ポリイミド、ポリ(エーテルケトン)、ポリ尿素、ポリウレタン及びこれらの混合物から選択される第一のポリマー、並びにパー(フェニルエチニル)アレーン又はパー(フェニルエチニル)アレーン誘導体から導かれる第二のポリマーからなるポリマー組成物であって、そのポリ(アリーレンエーテル)ポリマーが、次の構造のポリマー繰返し単位を有するポリマー組成物が与えられる:
−(O−Ar−O−Ar−O−)−(−O−Ar−O−Ar−O)
(ここで、Ar、Ar、Ar及びArは、同種の又は異種のアリール基であり、mは0〜1、nは1−m)。
【0026】
図1は、ポリ(アリーレンエーテル)ポリマーを含む第一のポリマー及びパー(フェニルエチニル)アレーン誘導体を含む第二のポリマーを有する組成物のポリマーネットワークの図解を与える。これは、半相互侵入ポリマーネットワークを形成している。本明細書で用いられる場合に用語「誘導体」は、パー(フェニルエチニル)アレーンポリマーから導かれるポリマーを表している。
【0027】
パー(フェニルエチニル)アレーン誘導体を、このポリマー組成物に様々な方法で添加することができ、あるいはパー(フェニルエチニル)アレーン誘導体を、その場(in situ)で形成することができる。その場で形成する場合の実施態様において、第二のポリマーを、第二のポリマーのその場形成によって、例えば反応機構1で表される1,2,4,5−テトラ(フェニルエチニル)ベンゼンのバーグマン環化(Bergman cyclization)によって、ポリマー組成物に加えることができる。
【0028】
機構1において、パー(フェニルエチニル)アレーン誘導体ポリマーを、バーグマン反応の反応生成物でのポリマーネットワーク内において、下記のドット(点)で示された場所で、一以上のパー(フェニルエチニル)アレーン誘導体ポリマーに結合させることができる。この実施態様又は他の実施態様において、パー(フェニルエチニル)アレーン誘導体ポリマーを、一以上のドットで示される場所で、第一のポリマー、例えばポリ(アリーレンエーテル)ポリマー、ポリスルホン、ポリイミド、ポリ(エーテルケトン)、ポリ尿素、ポリウレタン及びこれらの混合物に結合させて、架橋したポリマーネットワークを与えることができる。
【0029】
【化1】

【0030】
他の一実施態様において、第二のポリマー又はパー(フェニルエチニル)アレーンポリマー誘導体(例えば、1,2,4,5−テトラ(フェニルエチニル)ベンゼン)を、ポリ(アリーレンエーテル)ポリマー、ポリスルホン、ポリイミド、ポリ(エーテルケトン)、ポリ尿素、ポリウレタン及びこれらの混合物から選択される少なくとも一種のポリマーである第一のポリマーに加える。これらの実施態様において、パー(フェニルエチニル)アレーン誘導体ポリマーは、第一のポリマーと相溶性があり、これは、硬化のときに、第一のポリマーとの架橋を形成した。1,2,4,5−テトラ(フェニルエチニル)ベンゼンの調製の例を、機構2に示す。これは、熱硬化を用いている。
【0031】
【化2】

【0032】
次の構造は、パー(フェニルエチニル)アレーンポリマー誘導体の例であり、これを第一のポリマーに添加して、本明細書に記載したポリマー組成物を与えることができる。
【0033】
【化3】

【0034】
上記の構造において、R1、R2、R3及びR4は、次の基からそれぞれ独立に選択される。
【0035】
【化4】

【0036】
ある種の実施態様において、R1、R2、R3及びR4の少なくとも一つは、異種の基である。他の実施態様において、R1、R2、R3及びR4の少なくとも一つは、同種の基である。
【0037】
ある種の実施態様において、第一のポリマーは、一以上のポリ(アリーレン)エーテルポリマー、例えば参照により本明細書に完全に組み込まれる特許文献1に記載されているポリマーを含む。一実施態様において、第一のポリマーは、次の構造の繰り返し単位を有するポリ(アリーレンエーテル)ポリマーを含む:
−(O−Ar−O−Ar−)−(−O−Ar−O−Ar
(ここで、mは0〜1、nは1−m)。
【0038】
一以上の芳香環構造を表すモノマーAr、Ar、Ar及び/又はArを、次の構造から選択することができる(重合の前に、ジハロゲン化された形態であり(Ar及びAr)、又はジヒドロキシの形態であり(Ar及びAr)、それぞれ好ましくはジハロゲン化された形態に関しては二臭素化された形態であり、またヒドロキシに関してはカリウム、ナトリウム、リチウムの形態であり、ここでそのモノマーの混合体は、ジハロゲン化されたモノマーAr及び/又はAr並びにジヒドロキシモノマーAr及び/又はArが、ウルマン縮合(Ullman condensation)における共エーテル化(co−etherification)のために選択されるようになものであり;且つAr、Ar、Ar及びArは、化合物Iが存在しない限り、結晶化の問題のため、共に異性体的な同等物(isomeric equivalent)となることができないが、全てではないAr構造の一部は、異性体的な等価物となることができる)。
【0039】
【化5】

【化6】

【0040】
ある種の実施態様において、グラフト化されたポリアリーレンエーテルポリマーは、それらが化学的に不活性であり、且つそれらが、マイクロエレクトロニクスデバイスの製造における用途に不利となるあらゆる官能基を保持しないという点で、そのグラフトの存在以外では、官能基がない。それらは、水の吸収を促進するカルボニル部分、例えばアミド、イミド、及びケトンを持たない。それらは、金属堆積プロセスで金属源と反応することがあるハロゲン、例えばフッ素、塩素、臭素、及びヨウ素を持たない。それらは、芳香環構造への近接性に起因して芳香族炭素の特性の多くを有する9,9−フルオレニリデン基内のブリッジカーボンを除いて、芳香族炭素から本質的に構成される。本発明の目的に関して、カーボンは、パーフェニル化されたカーボン(perphenylated carbon)であるとみなされる。無官能のポリ(アリーレンエーテル)ポリマーの場合では、エーテル結合以外で、それらはブリッジする基を持たず、より詳しくは、それらは硫黄結合を持たない。他の実施態様において、グラフト化されたポリアリーレンエーテルポリマーは、官能化されている。
【0041】
ポリ(アリーレンエーテル)をグラフト化するためのこのグラフト化プロセスの特定の例は、次のとおりである。
【0042】
【化7】

【0043】
溶媒は、テトラヒドロフラン、グリシン、エチルエーテル、ブチルエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、2−メトキシエチルエーテル、ジ(エチレングリコール)ジエチルエーテル、及びこれらの混合物からなる群より選択される。
【0044】
芳香族ポリマーにグラフト化でき、且つ熱的に誘導する架橋に役立つ特定のケトンのいくつかの例(包括的ではない)は、次のとおりである。
【0045】
【化8】

【0046】
一実施態様において、第一のポリマーは、熱的に導入して、ポリマーを架橋させることができるグラフトを有するポリ(アリーレンエーテル)ポリマーを含み、且つこのポリマーは次の構造を有する。
【0047】
【化9】

【0048】
上記の構造において、m=0〜1.0;n=1.0−m;且つAr1、Ar2、Ar3及びAr4は、個々にアリーレン基であり、且つG1−8は、個々に、H、次の構造I若しくは構造II、又はこれらの組み合わせ構造であり、そのポリマーの繰り返し単位あたりのI又はIIであるG基の平均数であるZが0.1〜4.0であり、R、R、R、Rが個々にH又はアルコキシ基であり、このアルコキシ基はC1〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有することができる。
【0049】
【化10】

【0050】
この実施態様又は他の実施態様において、ポリ(アリーレンエーテル)ポリマーは、無官能の繰り返し単位から本質的になり、ここでAr、Ar、Ar及びArは、個々に次の群及びこれらの混合体より選択されるアリーレン基であるが、2価基(diradical)の9,9−ジフェニルフルオレン以外では、Ar及びAr、又はAr及びArは、異性体的に等価体ではない。
【0051】
【化11】

【0052】
一つの特定の実施態様において、ポリアリーレンエーテルポリマーは、グラフトされ、且つ次の構造の繰り返し単位を有する。
【0053】
【化12】

【0054】
ここで、G1〜8は、上記のように定義され;m=0〜1.0;且つn=1.0−m;且つAr及びArは、個々に次の群の構造及びこれらの組み合わせ構造より選択されるアリーレン基である。
【0055】
【化13】

【0056】
理論に拘束されないが、熱的に誘導する架橋を起こすことができる複数のメカニズムがある。これは、次のように視覚化できる。
【0057】
熱的誘導架橋反応の第一段階
熱的誘導反応(硬化)の第一段階は、脱水に関する縮合反応を伴う。この反応は、200〜260℃の温度範囲で起こる。この反応は、架橋をもたらさずに、分子内で起こすことができる。しかし、反応は分子間でも起きて、それによって次に示すように架橋を形成する。
【0058】
【化14】

【0059】
熱的誘導架橋反応の第二段階
グラフト化された架橋部に存在する適切な置換基によって、二次的な架橋も起こすことができる。これらの反応は、一般的に300〜450℃の温度で起きる。以下はいくつかの例である。
【0060】
グラフトにあるパラ−メトキシ基(グラフトの各芳香環に1つ)によって、熱的誘導架橋の第二段階を、二つの異なる方法で実施することができる。350〜400℃の空気(酸素)中で、パラ−メトキシフェニル基は、酸化して、オルト−ベンゾキノン型の基になる。これらの温度では、オルト−ベンゾキノン基は、すばやく他のポリマー鎖に反応して、架橋を形成する。425〜450℃の不活性ガス、例えば窒素中では、メタノールが失われて、ベンザイン型の付加体(appendage)が形成される。これらの付加体は、すばやく他のポリマー鎖と反応して、架橋を形成する。各環に2つのメトキシ基が存在する場合(互いにオルト又はパラに)、オルト−ベンゾキノン型の基を、空気(酸素)の必要なしで形成することができ、そして同様の架橋をするであろう。同様に、ジアルコキシベンゼンをベンゾキノン型構造へと熱的に誘導する転位が、Schraaらによって報告されている(J.Chem.Soc.Perkin Trans.2(1994)189〜197)。しかし、彼らは、続く縮合反応をさせることができる部位を生じさせることに、このタイプの転位を使用する可能性について認識していない。
【0061】
他の実施態様において、第一のポリマーは、ポリスルホン、ポリイミド、ポリアミド、ポリ(エーテルケトン)、ポリ(尿素)、ポリ(ウレタン)及びこれらの混合物から選択されるポリマーを含む。ポリ(アリーレンエーテル)ポリマーに加えて、あるいはポリ(アリーレンエーテル)ポリマーに代えて、上記リストのポリマーを、このポリマー組成物に加えることができる。
【0062】
このポリマー組成物を、当業者に知られている多数の方法で、硬化させることができる。一実施態様において、このポリマー組成物を、100〜400℃の範囲の温度での熱硬化を用いて硬化させる。他の一実施態様において、ポリマー組成物を、紫外線硬化を用いて硬化させる。さらなる実施態様において、このポリマー組成物を、熱硬化と紫外線硬化の組み合わせを使って硬化させる。
【0063】
ある種の実施態様において、本明細書に記載されたポリマー組成物を、マルチチップモジュールで用いることができる。ここでは、典型的にはシリコン製、ガラス製、又はセラミック製である基材が、高密度の多層配線を支持し、その個々の層間に絶縁を与える誘電体材料が、本発明のポリマーを含む。その配線を、配線内の導電体によって互いに接続される半導体チップ又は集積回路上に実装する。また、基材は、例えば電源と接地のための導電体を含むことができる。リードフレームは、外部回路への接続を与える。そのような多層配線では、層の電気的な接続は、本発明のポリマーを含む誘電体材料によって互いに絶縁されている。また、本明細書に記載されたポリマー組成物は、導電体の様々な領域を絶縁し、例えば共通の層の個々の分離した導電体の間を絶縁する。ビアは、個々の層の間に、必要に応じて接続を与える。配線を、ボンドパッドによって集積回路チップに接続する。ビアはスタックピラー(stacked pillar)デザインとすることができるが、当該技術分野で一般的な他のデザイン、例えば階段状(stair−stepped)又はネストバイア(nested via)デザインを使用してもよい。本明細書に記載されたポリマー組成物を使用できる他のマルチチップモジュールの設計は、当該技術分野で知られている。
【0064】
本明細書に記載されたポリマー組成物を、より詳しくはそれらの架橋した形態でのポリマー組成物を、単一の集積回路チップに関する配線での層間誘電体としても使用できる。集積回路チップは、その表面に、架橋したグラフト化ポリマー誘電体の複数の層及び金属導電体の多層を典型的には有する。それは、集積回路の同じ層又は階層において、別々の金属導電体又は導電体領域の間に、架橋したグラフト化ポリ(アリーレンエーテル)誘電体の領域を含むこともできる。グラフト化ポリマーを、従来のシリコンと合わせて使用することもできる。ここではグラフト化ポリマーを、導電体材料の層間で誘電体材料として使用されるシリコンを含む層上の金属配線の間で使用する。
【0065】
本明細書に記載されたポリマー組成物を、更に、アルファ粒子に対する保護のための集積回路チップ上の保護コーティングとして使用することができる。パッケージングの放射性微量汚染物質又は他の近い物質から放出されるアルファ粒子が活性面(active surface)にあたる場合、半導体デバイスは、ソフトエラーを起こしやすい。集積回路は、本発明のグラフト化ポリマーの保護コーティングを備えることができる。典型的には、集積回路チップは、基材に取り付けられて、そして適切な接着剤で適切な位置に固定される。本発明のグラフト化ポリマーのコーティングは、チップの活性面に対してアルファ粒子の保護層を提供する。随意に、追加の保護を、例えばエポキシ又はシリコーンでできたカプセル化剤によって与える。
【0066】
本明細書に記載されたポリマー組成物、好ましくは架橋した形のポリマー組成物を、回路基板又はプリント配線板における基材(誘電材料)として使用することもできる。本明細書に記載されたポリマー組成物で構成された回路基板は、様々な導電性回路のためのパターンをその表面に実装する。この回路基板は、本明細書に記載されたポリマー組成物に加えて、様々な補強材、例えば非導電性繊維織物(例えばガラスクロス)を含むことができる。そのような回路基板は、片面基板、両面基板又は多層基板とすることができる。
【0067】
本明細書に記載されたポリマー組成物のフィルム又はコーティングを、溶液技術、例えばスプレー、スピンコーティング又はキャストによって形成することができ、スピンコーティングがより好ましい。好ましい溶媒は、2−エトキシエチルエーテル、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、N−メチルピロリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メチルイソブチルケトン、2−メトキシエチルエーテル、5−メチル−2−ヘキサノン、γ−ブチロラクトン、及びこれらの混合物である。典型的には、コーティングの厚さは、約0.1〜約200μmである。層間誘電体としては。
【0068】
接着促進剤を使用して、本明細書に記載されたポリマー組成物を、適当な基材に付着させることもできる。そのような促進剤の代表は、ヘキサメチルジシラザンであり、これを使用して、表面に存在することがある利用可能なヒドロキシル官能基、例えば水分又は湿分にさらされた二酸化ケイ素に存在することがある利用可能なヒドロキシル官能基と、相互作用させることができる。ここで、二酸化ケイ素を水分又は湿分にさらすと、そのようなヒドロキシル官能基が形成される。
【0069】
次の例は、本明細書に記載されたポリマー組成物を例証するものであり、決してそれを限定することを意図しない。次の例において、他に特定しない限り、面積割合のガスクロマトグラフィー(area percent gas chromatography)(GC)解析を、25mの長さで、0.17μmのフィルム厚さのHP−5カラムを用いて実行した。引裂強度を除いて、このポリマーコーティングの物理特性に関する表1及び2の試験結果を、2インチ/分の引張り速度でのASTM D−412標準を用いて得た。引裂強度は、ASTM D−624標準を用いて得た。様々なポリマー組成物に対するガラス転移温度を、ASTM D696を用いて、示差走査熱量計(DSC)によって測定した。
【実施例】
【0070】
例1:パー(フェニルエチニル)アレーンポリマーとしての1,2,4,5−テトラ(フェニルエチニル)ベンゼンの調製
【0071】
【化15】

【0072】
三つ口のガラス反応容器に、温度計、磁気撹拌子、コンデンサー、固定された窒素流入口及び追加の漏斗を取り付けて、9.00グラム(g)(0.0229mol)の1,2,4,5−テトラブロモベンゼン、0.2232g(0.318mmol)のビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)クロライド、0.1668g(0.636mmol)のトリフェニルホスフィン、0.121g(0.636mmol)のヨウ化銅(I)及び180gのトリエチルアミンを装填した。この溶液を攪拌しながら70℃に加熱した。9.34g(0.0914mol)のフェニルアセチレンの溶液及び50gのトリエチルアミンを、2時間にわたって滴定して添加した。添加速度は、反応物の混合体の温度が80℃を超えないようにした。完全な添加の後、反応物混合体を、追加で17時間、80℃で攪拌した。反応物混合体を、その後、室温まで冷却し、沈殿物をろ過により除去した。フィルターのケーキを、テトラヒドロフラン(THF)を用いて洗浄した。洗浄液を含むその組み合わせた溶液から、減圧下で、ロトエバポレーター(roto−evaporator)を用いて70℃の最大浴温度で揮発物を揮発させた。その後、残留の濃縮させた溶液を、200mLのメタノールと200mLの水との混合体に流し込むことで、急速攪拌を伴って、沈殿させた。その沈殿物を、減圧濾過によって採取した。その後、この沈殿物を、最小限の量のTHF(約200mL)に溶解し、そして、樹脂カラム中の20gのポリ(ビニルピリジン)樹脂(Reillex(商標)425)及び100gのシリカゲルカラムを用いて処理した。この溶媒を蒸発させる。この粗生成物を、トルエン(<100mL)で再結晶化する。再結晶後に単離された収率は、約58%(6.36g)となる。
【0073】
例2:PAE−2及び1,2,4,5−テトラキス(フェニルエチニル)を含むポリマー組成物の調製
【0074】
0.2999gのPAE−2、及び例1に従って調製した0.2008gの1,2,4,5−テトラキス(フェニルエチニル)を、約15mLのテトラヒドロフランで組み合わせ、そしてホットプレート上で100℃で手短に乾燥させ、次にオーブン中で120℃で終夜にわたって乾燥させた。残留物を、窒素雰囲気中で30分間、220℃にさらした(速度10℃/分)。これは1.24%の重量損失をもたらした。その後、これを冷却し、そして400℃に10℃/分で再加熱し、400℃で120分間保持した。残留物は、400℃等温線で、3.42%の重量損失があった。DSCは、1回目の加熱において、185℃で融解吸熱(melt endotherm)を示し、また約305℃及び390℃で二つの発熱ピークを示した。2回目の加熱では、主に特徴はなく、これは架橋が起こっていたこと及び相互侵入ネットワークが形成されていたことを示す。
【0075】
例3:PAE−2及び1,2,4,5−テトラキス(フェニルエチニル)ベンゼンを含むポリマー組成物の接着の結果
【0076】
次の通りである1,2,4,5−テトラキス(フェニルエチニル)ベンゼン及びPAE−2(例2に従って調製)から、溶液を調製した。
【0077】
【化16】

【0078】
0.3997g部分の1,2,4,5−テトラキス(フェニルエチニル)ベンゼン及び0.6003gのポリ(アリーレンエーテル)PAE−2を、9.0gの蒸留したシクロヘキサノンに溶解した。この溶液を、6つの1インチ×4.25インチ×0.32インチの冷間圧延スチールクーポン(cold roll steel coupon)(Act Laboratories Inc.社製、製品番号APR14839)に適用した。このクーポンを、重ね合わせて、0.5インチ四方の重なり領域を有する3つの試験片を形成した。3つの試験片の全てを、400℃まで加熱し、各試験片上に置いた10ポンドの重りで、10分間この温度で固定した。3つの試験片を、ラップ剪断解析(ASTM法 D−1002(金属))の対照とした。この解析の結果を、以下の表2に与える。この結果は、この硬化したポリマーマトリクスのスチール基材への良好な接着性を示す。
【0079】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(アリーレンエーテル)ポリマー、ポリスルホン、ポリイミド、ポリアミド、ポリ(エーテルケトン)、ポリ尿素、ポリウレタン及びこれらの組合せから選択される第一のポリマー;並びに
パー(フェニルエチニル)アレーンポリマー誘導体を含む第二のポリマー
を有する、ポリマー組成物であって、
前記ポリ(アリーレンエーテル)ポリマーが、次の構造のポリマー繰返し単位を有する、ポリマー組成物:
−(O−Ar−O−Ar−O−)−(−O−Ar−O−Ar−O)
(ここで、Ar、Ar、Ar及びArは、同種の又は異種のアリール基であり、mは0〜1、nは1−m)。
【請求項2】
前記アリール基が、次の基からなる群より独立に選択される、請求項1に記載の組成物:
【化1】

【請求項3】
ポリ(アリーレンエーテル)ポリマー、ポリスルホン、ポリイミド、ポリアミド;ポリ(エーテルケトン)、ポリ尿素、ポリウレタン及びこれらの組合せから選択される第一のポリマー、並びに
パー(フェニルエチニル)アレーンポリマー誘導体を含む第二のポリマー
を有する、ポリマー組成物であって、
前記ポリ(アリーレンエーテル)ポリマーが、熱的に架橋をもたらすことができるグラフトを有し、
前記ポリ(アリーレンエーテル)ポリマーが、次の構造を有し:
【化2】

(ここで、m=0〜1.0;n=1.0−m;Ar、Ar、Ar及びArは、個々にアリーレン基であり;G1〜8は、個々にH、次の構造I若しくは構造II、又はこれらの構造の組合せであり;前記ポリ(アリーレンエーテル)ポリマーの繰り返し単位あたりの構造I又は構造IIであるG基の平均数であるZは、0.1〜4.0であり;R、R、R及びRが、個々にH又はアルコキシ基であり、前記アルコキシ基は、C1〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有することができる):
【化3】

前記ポリ(アリーレンエーテル)ポリマーは、無官能の繰り返し単位から本質的になり;且つ
Ar、Ar、Ar及びArは、個々に次の構造及びこれらの構造の組合せより選択されるアリーレン基であるが、2価基の9,9−ジフェニルフルオレン以外の、Ar及びAr、又はAr及びArは、異性体的に等価物ではない、ポリマー組成物:
【化4】

【請求項4】
前記グラフトを有するポリマーが、次の構造の繰り返し単位を有する、請求項3に記載の組成物:
【化5】

ここで、G1〜8は、請求項3と同じであり、m=0〜1.0;n=1.0−m:且つAr及びArは、個々に次の構造及びこれらの構造の組合せから選択されるアリーレン基である:
【化6】

【請求項5】
前記グラフトを有するポリマーが、次の構造の繰り返しのポリマー単位を有する、請求項4に記載の組成物:
【化7】

ここで、G1〜4は、個々に、H、及び次の構造、並びにこれらの構造の組合せからなる群より選択され:ポリマー単位あたりのG基の平均数であるZは、0.1〜4.0である:
【化8】

【請求項6】
前記グラフトを有するポリマーが、次の構造の繰り返し単位を有する、請求項3に記載の組成物:
【化9】

ここで、G1〜4は、個々に、H又は次の構造であり:ポリマー単位あたりのG基の平均数であるZは、0.1〜4.0である:
【化10】

【請求項7】
Zが、0.25〜1.5の範囲である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
Zが、おおよそ0.9である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、架橋しており、且つマイクロエレクトロニクスデバイスでの誘電体材料を構成している、請求項3に記載の組成物。
【請求項10】
前記誘電体材料を、集積回路の導電領域に隣接して与えている、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記ポリマー及び前記グラフトが架橋している、請求項3に記載の組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2011−530647(P2011−530647A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523062(P2011−523062)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【国際出願番号】PCT/US2009/053250
【国際公開番号】WO2010/019488
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】