説明

ヒアルロン酸の精製方法

【課題】イオン交換樹脂等による処理を追加することなく、簡便にカチオン成分を低減させるヒアルロン酸の精製方法を目的とする。
【解決手段】本発明のヒアルロン酸の精製方法は、ヒアルロン酸を含む水性液に、塩とキレート剤とを添加してカチオン成分を除去することよりなる。本発明のヒアルロン酸の精製方法は、前記ヒアルロン酸を含む水性液に、吸着剤を添加混合した後にろ過してろ液を回収し、前記ろ液に塩とキレート剤とを添加することが好ましく、前記キレート剤は、クエン酸であることが好ましく、前記塩は、塩化ナトリウムであることが好ましく、pH3〜5において行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒアルロン酸の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸およびその塩(以下、総じてヒアルロン酸等という)は、例えば、軟骨保護薬、人口水晶体挿入や全層角膜移植時の手術補助剤、点眼薬等の医薬品分野での利用、保湿剤としての化粧品分野での利用、そして栄養補助食品として食品分野での利用がされている。そして、分子量が数百万から1万以下に至るものまで、用途に合わせて様々なヒアルロン酸等が生産されている。近年では、医療用用途に、より分子量が大きく、粘度の高いヒアルロン酸等が求められている。
ヒアルロン酸等は、関節、硝子体、へその緒、皮膚、脳等、広く生体内に存在している。従来、ヒアルロン酸等は動物組織、例えば鶏冠から抽出する方法により、生産が行われていたが、近年ではヒアルロン酸生産能を有する微生物を用いた醗酵法で、工業的に大量生産されている(例えば、非特許文献1)。
一般に、前述した生体からの抽出液や、微生物を用いた醗酵により得られた培養液(総じて、ヒアルロン酸等含有液という)は、タンパク質等の不純物が除去されて、精製されたヒアルロン酸等として、粉末の形態にて流通・販売されることが多い。ヒアルロン酸等の一般的な精製方法としては、塩と有機溶剤とをヒアルロン酸等含有液に添加して、沈殿したヒアルロン酸等を回収し、これを再度、水に溶解させた後に、活性炭処理により精製する方法がある。また、トリプシンでタンパク質を分解して除き、ピリジンの存在下で硫酸アンモニウムでの分別沈殿を行う方法や、酢酸ナトリウム、フェノール、トリクロル酢酸で抽出する方法がある。
また、精製処理の精度向上と工程の煩雑さの回避を目的とした発明も多数報告されている。例えば、水溶性有機溶剤を加えてヒアルロン酸ナトリウムを沈殿させて得る方法(例えば、特許文献1、2)、塩および水溶性有機溶剤を添加して、発熱性物質を除去する方法(例えば、特許文献3)、酵素を用いてヒアルロン酸等を分解した後、限外ろ過と、塩および水溶性有機溶剤を添加して晶析する方法(例えば、特許文献4)等が報告されている。
【特許文献1】特開昭62−288197号公報
【特許文献2】特開平2−142801号公報
【特許文献3】特開平9−324001号公報
【特許文献4】特開平11−124401号公報
【非特許文献1】バイオインダストリー協会発酵と代謝研究会編、「発酵ハンドブック」、共立出版株式会社、2001年7月、p329
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の精製技術では、タンパク質や色素を除去するには適しているものの、カチオン成分の除去が不充分であるという問題があった。このため、イオン交換樹脂等を利用して、カチオン成分を除去することが行われており、製造のコストアップとなっていた。
本発明は、イオン交換樹脂による処理を行うことなく、簡便にカチオン成分を低減させるヒアルロン酸の精製方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のヒアルロン酸の精製方法は、ヒアルロン酸を含む水性液に、塩とキレート剤とを添加してカチオン成分を除去することを特徴とする。本発明のヒアルロン酸の精製方法は、前記ヒアルロン酸を含む水性液に、吸着剤を添加混合した後にろ過してろ液を回収し、前記ろ液に塩とキレート剤とを添加することが好ましく、前記キレート剤は、クエン酸であることが好ましく、前記塩は、塩化ナトリウムであることが好ましく、pH3〜5の条件下で精製することが好ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明のヒアルロン酸の精製方法によれば、イオン交換樹脂による処理を行うことなく、簡便にカチオン成分を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の実施形態の一例について、以下に説明する。
本発明のヒアルロン酸の精製方法は、粗製ヒアルロン酸を含む水性液である、粗製ヒアルロン酸水性液に、キレート剤と塩とを添加して行う方法である。
【0007】
まず、粗製ヒアルロン酸水性液に所定量の吸着剤を添加混合する。この間、粗製ヒアルロン酸水性液中の水溶性タンパク質や色素等が、吸着剤に吸着される(吸着処理)。その後、粗製ヒアルロン酸水性液をろ過し、ろ液を得る(ろ過処理)。ろ液には、水溶性タンパク質や色素等が除去された粗製ヒアルロン酸が溶解している。次いで、得られたろ液に、所定濃度となるようにキレート剤と塩とを添加混合する。この間、組成ヒアルロン酸にイオン結合するNa以外のカチオン成分が溶媒に移行し、該カチオン成分とキレート剤とでキレート化合物を形成する(キレート処理)。そして、水溶性有機溶剤を添加して析出した沈殿物を回収し、脱水して精製ヒアルロン酸を得る(脱水処理)。この間、前記沈殿物に含まれる前記キレート化合物は、水溶性有機溶剤に移行し、除去される。
【0008】
粗製ヒアルロン酸とは、ヒアルロン酸抽出物等から、水溶性有機溶剤に溶解する物質を除去したものである。本発明における水性液とは粗製ヒアルロン酸等が水に溶解した水溶液のみならず、水中に分散した状態の分散液をも含むものである。
ここで、粗製ヒアルロン酸水性液の調製方法は特に限定されることはなく、既知の手法で調製することができる。例えば、鶏冠や牛の目の硝子体等の生体抽出液や、微生物を用いた醗酵(ヒアルロン酸発酵)により得られた培養液に、水溶性有機溶剤を添加し、析出したヒアルロン酸を含む組成物を粗製ヒアルロン酸として回収し、該粗製ヒアルロン酸を脱イオン水に溶解したものを挙げることができる。
なお、得られるヒアルロン酸の分子量分布を制限し、品質の安定を図る面からは、微生物を用いた醗酵(ヒアルロン酸発酵)により得られる培養液を用いて粗製ヒアルロン酸水性液を調製することが好ましい。ここで、ヒアルロン酸発酵の方法は特に限定されず、回分培養法、連続培養法、半連続培養法や、培養液に血清、リゾチウム、界面活性剤、アミノ酸を添加する培養法、二酸化炭素や窒素ガスを吹き込む培養法、酸化還元電位をある範囲に維持する培養法等、いずれの培養法により得られる培養液であっても良い。
【0009】
粗製ヒアルロン酸水性液の濃度は特に限定されることはないが、粗製ヒアルロン酸水性液の粘度と、使用する攪拌装置等の能力とを考慮して決定することが好ましい。例えば、粗製ヒアルロン酸濃度として0.12〜0.36質量%であることが好ましい。0.12質量%未満であると生産性が低く、経済性が悪いためである。0.36質量%を超えると粘度が高くなり、ろ過工程でのろ過性が悪くなり、生産性が低くなるため好ましくない。
粗製ヒアルロン酸水性液中のヒアルロン酸の分子量は特に限定されることはなく、あらゆる分子量のヒアルロン酸を精製の対象とすることができる。
【0010】
前記吸着処理で使用される吸着剤とは、粗製ヒアルロン酸水性液中の水溶性タンパク質や色素等の不純物を吸着する物質である。吸着剤としては特に限定されることはなく、既存の吸着剤を使用することができる。例えば、活性炭や合成吸着剤等を挙げることができる。
活性炭は特に限定されることなく、既存の活性炭を使用することができる。中でも、活性炭の細孔半径が小さいものが好ましく、具体的には平均細孔半径が0.1〜2nmのものを用いることが好ましい。平均細孔半径が2nmを超えると、水溶性タンパク質の除去効率が低くなり、0.1nm未満であると、水溶性タンパク質の除去効率は低下するためである。ここで、平均細孔半径は、ガス吸着法により固体中の平衡状態での吸着ガス量を相対圧力と関係づけ吸着等温線を作成し、累積細孔容積・微分細孔容積より平均細孔半径を求めた。
また、活性炭の最小粒径は0.5〜500μmであることが好ましい。0.5μm未満であると後述のろ過処理が不充分となり、ろ液に活性炭が混入するおそれがあり、500μmを超えると水溶性タンパク質の除去効率が低下するためである。このような活性炭の商品として、キリンフードテック株式会社製の白鷺(商品名)RM50W−Tやタケコール(商品名)等を挙げることができる。
活性炭の添加量は特に限定されず、粗製ヒアルロン酸等水性液の純度等を勘案して決定することが好ましく、例えば、活性炭/粗製ヒアルロン酸(質量比)が、0.5〜3となるように添加することが好ましい。0.5未満であると水溶性タンパク質の除去効率は低下し、3を超えても水溶性タンパク質の除去効率の大きな向上が図れないためである。
【0011】
合成吸着剤としては特に限定されることなく、除去する不純物に合わせて選択することができるが、水溶性タンパク質や色素の除去率を上げる観点からは、(メタ)アクリル酸エステル系合成吸着剤を併用することが好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル系合成吸着剤とは、(メタ)アクリル酸エステル系の母体構造を持ち、比表面積500〜1200m/g(乾燥)の多孔質構造を有する架橋高分子である。かかる(メタ)アクリル酸エステル系合成吸着剤を併用することにより、より多くの不純物を取り除くことができる。(メタ)アクリル酸エステル系合成吸着剤の中でも、高極性向け(メタ)アクリル酸エステル系合成吸着剤が好ましく、このような商品として三菱化学株式会社製、HP2MGを挙げることができる。なお、「高極性向け」とは、分子内に存在する電気的な偏りの大きな物質を対象としていることを意味する。
(メタ)アクリル酸エステル系合成吸着剤の場合、添加量は特に限定されず、粗製ヒアルロン酸等水性液の純度等を勘案して決定することが好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸エステル系合成吸着剤/粗製ヒアルロン酸(質量比)が、0.5〜3となるように添加することが好ましい。0.5未満であると水溶性タンパク質の除去効率は低下し、3を超えても水溶性タンパク質の除去効率の大きな向上が図れないためである。吸着処理に用いる吸着剤は、それぞれ単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0012】
吸着処理における粗製ヒアルロン酸水性液の温度は特に限定されないが、0〜60℃であることが好ましい。0℃未満であると、液の粘度が著しく増大し吸着処理が困難となるため好ましくない。また、60℃を超えると水溶性タンパク質の除去効率が低下するため好ましくない。
また、吸着処理の時間は特に限定されず、温度や目的とする精製ヒアルロン酸等の純度を勘案して決定することが好ましく、例えば5分〜3時間であることが好ましい。5分未満であると吸着処理が不充分となるため好ましくない。また、3時間を超えても水溶性タンパク質の除去効率の効果に変化は見られないためである。
吸着処理におけるpHは特に限定されることはなく、精製ヒアルロン酸等の回収率と性状等を勘案して決定することが好ましい。例えば、pH3.0〜5.0の範囲で決定することが好ましく、pH3.5〜4の範囲で決定することがより好ましい。pH3.0未満であると精製ヒアルロン酸等の回収率が低くなる可能性があり、pH5.0を超えると不純物の除去が不充分となるおそれがある。
また、吸着処理に用いる装置は、攪拌と静置ができるものであれば特に限定されず、既存の装置を用いることができる。このような装置としては、攪拌槽、ろ過乾燥機、コニカルドライヤー等を挙げることができる。
【0013】
ろ過処理とは、粗製ヒアルロン酸水性液から、不純物を吸着した吸着剤を取り除き、ろ液を得るものである。
ろ過処理に用いる装置は特に限定されないが、粗製ヒアルロン酸等水性液に添加した吸着剤を効率よく除去するために、フィルタープレスを用いることが好ましい。
【0014】
キレート処理における塩は特に限定されることはない。塩としては、除去するカチオンを含まない塩を用いれば良く、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属イオン等およびアルミニウムイオン等からなる陽性成分と、塩素、臭素等のハロゲンイオン、硫酸、硝酸等の無機酸、蟻酸、酢酸等の有機酸等の陰性成分とからなる塩を挙げることができる。具体的には、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等を挙げることができ、取り扱いと経済面とから、塩化ナトリウムを使用することが好ましい。これらの塩は単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
粗製ヒアルロン酸水性液に添加する塩の添加量は特に限定されず、粗製ヒアルロン酸水性液中の粗製ヒアルロン酸の含量や、カチオン成分の含量を勘案して決定することが好ましい。例えば粗製ヒアルロン酸水性液に対して0.1〜5.0質量%の範囲で添加することが好ましい。
【0015】
キレート剤としては、カチオン成分である金属イオンと錯体または塩を形成するものであれば特に限定されず、除去するカチオン成分に応じて決定することができる。キレート剤としては、アミノカルボン酸型キレート剤、ヒドロキシカルボン酸型キレート剤、エーテルカルボン酸型キレート剤、有機ホスホン酸型キレート剤、ジチオカルバミン酸型キレート剤等を用いることができる。これらのキレート剤の中でも、ヒドロキシカルボン酸型キレート剤が好ましく、中でもクエン酸を用いることが特に好ましい。
【0016】
また、粗製ヒアルロン酸水性液に添加するキレート剤の添加量は特に限定されず、粗製ヒアルロン酸水性液中のカチオン成分の含量を勘案して決定することが好ましい。例えば、キレート剤にクエン酸を用いる場合には、粗製ヒアルロン酸水性液中のカチオン成分に対して、1〜100倍molの範囲で添加することが好ましく、2.5〜20倍molであることがより好ましい。1倍mol未満であるとカチオン成分を有効に除去できない場合があり、100倍molを超えても水溶性タンパク質の除去効率の大きな向上が図れないためである。
【0017】
キレート処理は、粗製ヒアルロン酸水性液と、キレート剤と塩とを混合できるものであれば特に限定されず、既存の攪拌槽等を用いて行うことができる。
キレート処理の時間は特に限定されることなく、粗製ヒアルロン酸の回収率や、作業効率等を勘案して決定することが好ましく、例えば5分〜1時間の範囲で決定することが好ましい。
また、キレート処理における粗製ヒアルロン酸水性液の温度は特に限定されず、キレート剤の種類や添加量、粗製ヒアルロン酸中のカチオン成分の含量等を勘案して決定することが好ましい。例えば、0〜60℃の範囲で決定することが好ましい。0℃未満であると、液の粘度が著しく増大し吸着処理が困難となるため好ましくない。また、60℃を超えると水溶性タンパク質の除去効率が低下するため好ましくない。
キレート処理におけるpHは特に限定されず、添加するキレート剤の種類等を勘案して決定することが好ましい。例えばキレート剤にクエン酸を用いる場合には、pH3〜6で決定することが好ましく、pH4〜5がより好ましい。pH3〜6であれば、カチオン成分の除去を効率的に行えるためである。pH4〜5でキレート処理を行うことで、精製ヒアルロン酸中のカチオン成分をさらに低減できる。
また、キレート処理に用いる装置は、攪拌混合ができるものであれば特に限定されず、既存の装置を用いることができる。このような装置としては、攪拌槽、ろ過乾燥機、コニカルドライヤー等を挙げることができる。
【0018】
脱水処理における水溶性有機溶剤は、ヒアルロン酸を析出できるものであれば特に限定されず、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール類、アセトン等のケトン類、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル等を挙げることができる。このうち、アルコール類、中でもエタノールやイソプロピルアルコールを用いることが好ましい。
また、添加する水溶性有機溶剤の量は特に限定されず、ヒアルロン酸等含有液中のヒアルロン酸等が析出するのに充分な量を添加することが好ましい。例えば、ヒアルロン酸等含有液と水溶性有機溶剤を添加混合した後の、水溶性有機溶剤の濃度が60〜80質量%の範囲とすることが好ましい。60質量%未満ではヒアルロン酸等含有沈殿は溶解し、80質量%を超えると水溶性有機溶剤を多用する必要があるため好ましくない。
【0019】
脱水する方法としては特に限定されず、例えば遠心分離や熱風乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥等を例示することができ、これらの乾燥方法を組み合わせて行うこともできる。この内、熱風乾燥等、加熱を伴う乾燥の場合には、50℃〜80℃で行うことが好ましい。50℃未満であると乾燥に長時間を要し、また、微生物が残留していた場合、増殖するために好ましくない。80℃を超えると、粗製ヒアルロン酸等の分子量が低下するために好ましくないためである。
脱水して得られた精製ヒアルロン酸は、そのまま利用しても良いし、さらに粉砕して粉末状あるいは顆粒状にしても良い。
【0020】
上述の実施形態によれば、粗製ヒアルロン酸水性液にキレート剤と塩とを添加混合することで、得られる精製ヒアルロン酸中のカチオン成分を低減することができる。また、かかる精製方法によれば、特段の装置や投資の追加を伴わず、簡便な方法でカチオン成分を低減することができる。さらに、得られる精製ヒアルロン酸は高い粘度を維持することができるため、医療用用途等で求められる高分子量のヒアルロン酸を、高い粘度を維持したまま提供することができる。
【0021】
なお、上述の実施形態では、吸着処理後のろ液に対して、キレート剤処理を行っていたが、キレート処理を行うタイミングは特に限定されず、吸着処理前の粗製ヒアルロン酸水性液に対して行っても良い。ただし、カチオン成分を効率的に除去する観点からは、吸着処理後のろ液に対して、キレート処理を行うことが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、実施例に限定されるものではない。
(測定方法)
<粘度>
精製ヒアルロン酸をそれぞれイオン交換水に溶解し、0.1質量%精製ヒアルロン酸水溶液を調製した。得られた0.1質量%精製ヒアルロン酸水溶液をBL型粘度計(ロータNo.2、30rpm)にて、25℃にて測定した。
【0023】
<カチオン成分量>
精製ヒアルロン酸中のカチオン成分の定量は、試料を硝酸により湿式分解し、原子吸光光度法により測定した。
【0024】
(実施例1)
イオン交換水に粗製ヒアルロン酸30gを溶解し、粗製ヒアルロン酸水性液25kgを調製した。前記粗製ヒアルロン酸水性液に、粗製ヒアルロン酸水性液に対して0.5質量%となる塩化ナトリウムと、粗製ヒアルロン酸に対して2質量倍の活性炭(白鷺(商品名)RW50−T、キリンフードテック株式会社製)と、粗製ヒアルロン酸に対して0.5質量倍の合成吸着剤(HP2MG、三菱化学株式会社製)を添加した。さらに塩酸水溶液、および水酸化ナトリウム水溶液にて、pH4に調整した後、15℃で1時間攪拌混合し、吸着処理を行った。次いで、パーライトろ過助剤(三井金属鉱業株式会社製、ロカヘルプ409)を粗製ヒアルロン酸に対して17質量倍量を添加混合し、プレコートろ過法によりフィルタープレス(ろ材:ナイロン布、ろ過面積:0.23m、圧力:0.5〜0.6Mpa、平均ろ過流速:0.36m/(m×h))、を用いてろ過し、ろ液を得た。
得られたろ液に対し、ろ液中のカチオン成分に対して2.5倍molとなるようにクエン酸を添加して混合液とし、攪拌混合して、キレート処理を行った。キレート処理の後、前記混合液に対して6体積倍のイソプロピルアルコールを添加して、ヒアルロン酸を析出させた。析出したヒアルロン酸を80℃、1時間の条件で乾燥して、精製ヒアルロン酸Aを得た。得られた精製ヒアルロン酸Aについて、粘度測定とカチオン成分の定量分析を行い、その結果を表1に示す。
【0025】
(実施例2)
添加するクエン酸量を5倍molとしてキレート処理を行った以外は、実施例1と同様にして精製ヒアルロン酸Bを得た。得られた精製ヒアルロン酸Bについて、粘度測定とカチオン成分の定量分析を行い、その結果を表1に示す。
【0026】
(実施例3)
添加するクエン酸量を10倍molとし、塩化ナトリウム濃度を1.5質量%としてキレート処理を行った以外は、実施例1と同様にして精製ヒアルロン酸Cを得た。得られた精製ヒアルロン酸Cについて、粘度測定とカチオン成分の定量分析を行い、その結果を表1に示す。
【0027】
(実施例4)
添加するクエン酸量を20倍molとしてキレート処理を行った以外は、実施例3と同様にして精製ヒアルロン酸Dを得た。得られた精製ヒアルロン酸Dについて、粘度測定とカチオン成分の定量分析を行い、その結果を表1に示す。
【0028】
(比較例1)
クエン酸を添加せずにキレート処理を行った以外は、実施例1と同様にして精製ヒアルロン酸Eを得た。得られた精製ヒアルロン酸Eについて、粘度測定とカチオン成分の定量分析を行い、その結果を表1に示す。
【0029】
(比較例2)
クエン酸を添加せずにキレート処理を行った以外は、実施例3と同様にして精製ヒアルロン酸Fを得た。得られた精製ヒアルロン酸Fについて、粘度測定とカチオン成分の定量分析を行い、その結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示すとおり、塩とキレート剤とを添加してキレート処理を行った実施例1〜4は、いずれも、比較例1、2に比べてカチオン成分が低減されていた。また、粘度の著しい低下も見られなかった。
さらに、実施例1、2と比較例1との比較、ならびに実施例3、4と比較例2との比較において、塩とキレート剤を併用してキレート処理を行うことで、よりカチオン成分を低減できることが判った。
【0032】
表1に示す結果を基に、クエン酸添加量に伴う、精製ヒアルロン酸中のK、Ca、Mg、Fe濃度、およびこれらの濃度合計(以下、カチオン成分濃度という)の変化、および精製ヒアルロン酸の粘度変化を図1、2に示す。図1は、塩化ナトリウム濃度を0.5質量%とした際の、カチオン成分の濃度変化と粘度変化を表し、縦軸にK、Ca、Mg、Fe濃度、カチオン成分濃度、粘度を示し、横軸にはクエン酸添加量を示す。また、凡例(a1)はK濃度、(b1)はCa濃度、(c1)はMg濃度、(d1)はFe濃度、(e1)はカチオン成分濃度、(g1)は粘度を示す。
図1に示すとおり、クエン酸添加量の増量に伴い、K濃度(a1)、Ca濃度(b1)、Mg濃度(c1)、Fe濃度(d1)が減少する傾向にある。そして、カチオン成分濃度(e1)は、カチオン成分に対して5倍molのクエン酸を添加することで、約50%となった。
一方、精製ヒアルロン酸の粘度は、クエン酸の添加量の増量に影響を受けず、安定していた。
【0033】
図2は、塩化ナトリウム濃度を1.5質量%とした際の、カチオン成分の濃度変化と粘度変化を表し、縦軸にK、Ca、Mg、Fe濃度、カチオン成分濃度、粘度を示し、横軸にはクエン酸添加量を示す。また、凡例(a2)はK濃度、(b2)はCa濃度、(c2)はMg濃度、(d2)はFe濃度、(e2)はカチオン成分濃度、(g2)は粘度を示す。
図2に示すとおり、クエン酸添加量の増量に伴い、Ca濃度(b2)、Mg濃度(c2)、Fe濃度(d2)が減少し、K濃度(a2)のみが増加する傾向にあった。ただし、カチオン成分濃度(e2)は、クエン酸添加量の増量に伴い減少し、カチオン成分に対して20倍molのクエン酸を添加することで、約40%となった。
一方、精製ヒアルロン酸の粘度は、クエン酸の添加量の増量に影響を受けず、安定していた。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】塩化ナトリウム濃度0.5質量%における、クエン酸添加量に伴う、精製ヒアルロン酸のカチオン成分濃度変化と粘度変化とを示すグラフである。
【図2】塩化ナトリウム濃度1.5質量%における、クエン酸添加量に伴う、精製ヒアルロン酸のカチオン成分濃度変化と粘度変化とを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸を含む水性液に、塩とキレート剤とを添加してカチオン成分を除去する、ヒアルロン酸の精製方法。
【請求項2】
ヒアルロン酸を含む水性液に、吸着剤を添加混合した後にろ過してろ液を回収し、前記ろ液に塩とキレート剤とを添加することを特徴とする、請求項1に記載のヒアルロン酸の精製方法。
【請求項3】
前記キレート剤は、クエン酸であることを特徴とする、請求項1または2に記載のヒアルロン酸の精製方法。
【請求項4】
前記塩は、塩化ナトリウムであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のヒアルロン酸の精製方法。
【請求項5】
pH3〜5の条件下で精製することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のヒアルロン酸の精製方法。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−256463(P2009−256463A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106889(P2008−106889)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】