説明

ヒアルロン酸高分子量化剤および皮膚損傷回復促進剤

【課題】生体への浸透性に優れ、かつ生体中のヒアルロン酸を高分子量化させることができるヒアルロン酸高分子量化剤、および該化合物を含有する皮膚損傷回復促進剤の提供。
【解決手段】式(I):


(式中、R1〜R5は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基等を示す。)で表される繰返し単位を有し、粘度平均分子量が500〜20000である化合物を含有するヒアルロン酸高分子量化剤、及び該化合物を含有する皮膚損傷回復促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸高分子量化剤および皮膚損傷回復促進剤に関する。さらに詳しくは、損傷皮膚の回復に有用なヒアルロン酸高分子量化剤および皮膚損傷回復促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの皮膚の表皮層や真皮層には、細胞外マトリックスの主要成分として、ムコ多糖の一種であるヒアルロン酸などが存在している。かかるヒアルロン酸は、高い保水性を有することから、皮膚中の水分や当該皮膚の弾力性を維持する役割を果たしていると考えられている。
【0003】
ヒトの皮膚中のヒアルロン酸の含有量の減少は、皮膚の乾燥、皮膚の萎縮、皮膚の弾力性の低下、しわの形成などの皮膚の状態の異常に関与していると考えられている。そこで、前記皮膚の状態の異常を改善するための保湿成分として、前記ヒアルロン酸が配合された皮膚用化粧料などが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
前記ヒアルロン酸は、高分子量であるほど、親水性が高くなり、高い保水性を示す。しかしながら、高分子量のヒアルロン酸は、皮膚中に浸透しにくいため、その大部分が皮膚の表面に留まってしまうという欠点がある。また、皮膚の表面に留まったヒアルロン酸は、洗顔、入浴などによって皮膚の表面から洗い流されやすいため、皮膚の保湿効果を持続して得ることが困難であり、皮膚の状態を改善するのに十分な効果が得られないことがある。
【0005】
一方、例えば、N−アセチル−D−グルコサミン含有糖ベンジル誘導体を有効成分として含むヒアルロン酸合成促進剤などによってヒアルロン酸合成酵素の活性を上昇させ、ヒアルロン酸の合成量を増やすことが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、生体内では、ヒアルロン酸の合成と分解とが繰り返されていることから、前記ヒアルロン酸合成促進剤によってヒアルロン酸合成酵素の活性を上昇させても、当該ヒアルロン酸合成酵素によって合成されたヒアルロン酸がすぐに分解されてしまい、高分子量のヒアルロン酸が得られないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−363081号公報
【特許文献2】特開2009−191039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、生体への浸透性に優れ、かつ生体中のヒアルロン酸を高分子量化させることができるヒアルロン酸高分子量化剤を提供することを目的とする。また、本発明は、損傷皮膚への浸透性に優れ、損傷皮膚を早期に回復させることができる皮膚損傷回復促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、
(1)生体中のヒアルロン酸を高分子量化させるヒアルロン酸高分子量化剤であって、式(I):
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、R5は水素原子、アルカリ金属原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表される繰返し単位を有し、粘度平均分子量が500〜20000である化合物を含有するヒアルロン酸高分子量化剤、
(2)前記式(I)において、R1、R2、R3、R4およびR5がそれぞれ水素原子である前記(1)に記載のヒアルロン酸高分子量化剤、および
(3)損傷皮膚の回復を促進させるための皮膚損傷回復促進剤であって、前記(1)または(2)に記載のヒアルロン酸高分子量化剤を含有する皮膚損傷回復促進剤
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のヒアルロン酸高分子量化剤によれば、生体への浸透性に優れ、かつ生体中のヒアルロン酸を高分子量化させることができるという優れた効果が奏される。また、本発明の皮膚損傷回復促進剤によれば、損傷皮膚への浸透性に優れ、損傷皮膚を早期に回復させることができるという優れた効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は試験例1において、実施例1で得られた試料を接触させた線維芽細胞によって産生されたヒアルロン酸の泳動距離とピクセル強度との関係を示すグラフ、(b)は試験例1において、比較例1の試料を接触させた線維芽細胞によって産生されたヒアルロン酸の泳動距離とピクセル強度との関係を示すグラフである。
【図2】試験例1において、試料の種類と分布曲線の曲線下面積との関係を示すグラフである。
【図3】試験例3において、経過日数と経表皮水分蒸散量の回復率との関係を示すグラフである。
【図4】(a)は試験例5において、実施例7で得られた試料を塗布したモデル損傷皮膚の凍結切片の核染色像の観察結果を示す図面代用写真、(b)は試験例5において、前記モデル損傷皮膚の凍結切片の蛍光染色像の観察結果を示す図面代用写真を示す。
【図5】(a)は試験例5において、比較例5で得られた試料を塗布したモデル損傷皮膚の凍結切片の核染色像の観察結果を示す図面代用写真、(b)は試験例5において、前記モデル損傷皮膚の凍結切片の蛍光染色像の観察結果を示す図面代用写真を示す。
【図6】(a)は試験例5において、試料の種類と蛍光標識剤の濃度との関係を示すグラフ、(b)は試験例5において、試料の種類と蛍光標識剤の濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[ヒアルロン酸高分子量化剤]
本発明のヒアルロン酸高分子量化剤は、前記したように、生体中のヒアルロン酸を高分子量化させるヒアルロン酸高分子量化剤であって、式(I):
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、R5は水素原子、アルカリ金属原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表される繰返し単位を有し、粘度平均分子量が500〜20000である化合物(以下、「化合物A」という)を含有することを特徴とする。
【0017】
本発明者らは、前記化合物Aを線維芽細胞と接触させたとき、線維芽細胞によって産生され、当該線維芽細胞外に分泌されるヒアルロン酸のうち、低分子量のヒアルロン酸の量が当該化合物Aを線維芽細胞と接触させていないときと同程度であるにもかかわらず、高分子量のヒアルロン酸の量が多くなることを見出した。また、本発明者らは、かかる化合物Aを損傷皮膚に塗布すると、前記化合物Aが損傷皮膚の表面から真皮層に至る範囲にまで浸透し、しかも損傷皮膚の回復を促進することを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0018】
なお、本明細書において、「高分子量化」とは、生体中のヒアルロン酸のうち、高分子量のヒアルロン酸の量を増大させることをいう。また、本明細書において、「高分子量化剤」とは、生体、例えば、人体に適用したときに、生体中のヒアルロン酸のうち、高分子量のヒアルロン酸の量を増大させる薬剤をいう。本明細書において、「高分子量」とは、粘度平均分子量が3000000〜5000000であることをいう。
【0019】
また、本明細書において、前記化合物Aの粘度平均分子量は、
(a) 前記化合物Aを含む試料溶液を複数種類調製するステップ、
(b) ウベローデ粘度計を用いて、前記ステップ(a)で得られた試料溶液の測定温度30℃における流下秒数(以下、「流下秒数A」という)と前記試料溶液の溶媒の測定温度30℃における流下秒数(以下、「流下秒数B」という)とを測定するステップ、
(c) 前記ステップ(b)で得られた流下秒数Aの値および流下秒数Bの値を用い、式(II):
【0020】
比粘度=〔流下秒数A/流下秒数B〕−1 (II)
【0021】
に基づいて、比粘度を算出するステップ、
(d) 前記ステップ(c)で得られた比粘度と、前記試料溶液中の前記化合物Aの濃度(g/100mL)(以下、「濃度C」という)とを用い、式(III):
【0022】
還元粘度=比粘度/濃度C (III)
【0023】
に基づいて、還元粘度を算出するステップ、
(e) 前記ステップ(d)で得られた複数種類の試料溶液それぞれの還元粘度を縦軸とし、複数種類の試料溶液それぞれにおける濃度Cを横軸として、検量線を作成するステップ、
(f) 前記ステップ(e)で得られた検量線において、濃度C=0を補外することにより、極限粘度を求めるステップ、および
(g) 前記ステップ(f)で得られた極限粘度の値を用い、式(IV):
【0024】
極限粘度=k×(分子量)α (IV)
【0025】
(式中、kおよびαは、それぞれ、前記化合物Aの種類と試料溶液の溶媒の種類とによって定まる定数である)
に基づいて、分子量を求めるステップ
を行なうことによって求められた値である。このとき、前記化合物Aが、例えば、式(I)において、R1、R2、R3、4およびR5がそれぞれ水素原子である化合物であり、かつ溶媒が水である場合、前記kは0.036であり、αは0.78である。
【0026】
本発明のヒアルロン酸高分子量化剤は、前記化合物Aを含有している点に1つの大きな特徴がある。
【0027】
前記化合物Aは、生体への浸透性に優れており、しかも生体に適用したときに、当該生体中におけるヒアルロン酸のうち、低分子量のヒアルロン酸の量を一定量に保ちつつ、高分子量のヒアルロン酸の量を増大させることができる。したがって、本発明のヒアルロン酸高分子量化剤によれば、生体中に良好に浸透させることができ、しかも生体中のヒアルロン酸を高分子量化させることができるので、損傷皮膚の回復を促進させることができるという優れた効果が奏される。
【0028】
式(I)において、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。アルキル基の炭素数は、水溶性を確保する観点から、1以上、好ましくは2以上であり、十分な親水性を確保し、生体への十分な浸透性を確保する観点から、4以下、好ましくは3以下である。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基およびブチル基が挙げられる。R1、R2、R3およびR4のなかでは、十分な親水性を確保し、生体への十分な浸透性を確保する観点から、それぞれ水素原子が好ましい。
【0029】
式(I)において、R5は水素原子、アルカリ金属原子または炭素数1〜4のアルキル基である。アルカリ金属原子としては、例えば、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子などが挙げられる。アルカリ金属原子のなかでは、十分な親水性を確保し、生体への十分な浸透性を確保する観点から、ナトリウム原子が好ましい。炭素数1〜4のアルキル基は、前記R1、R2、R3およびR4における炭素数1〜4のアルキル基と同じである。R5のなかでは、十分な親水性を確保し、生体への十分な浸透性を確保する観点から、水素原子またはナトリウム原子が好ましい。
【0030】
前記化合物Aの両末端は、それぞれ水酸基または炭素数1〜4のアルキルオキシ基である。
【0031】
前記粘度平均分子量は、生体中のヒアルロン酸のうち、高分子量のヒアルロン酸の量を増大させる効果を十分に発揮させる観点から、500以上、好ましくは1000以上、より好ましくは3000以上であり、生体への十分な浸透性を確保する観点から、20000以下、好ましくは10000以下、より好ましくは5000以下である。
【0032】
前記化合物Aのなかでは、十分な親水性を確保し、生体への十分な浸透性を確保する観点から、式(I)において、R1、R2、R3、R4およびR5がそれぞれ水素原子である化合物が好ましい。
【0033】
前記化合物Aは、単一の分子量を有する化合物であってもよく、互いに異なる分子量を有する化合物の混合物であってもよい。
【0034】
また、前記化合物Aのなかでは、生体への十分な浸透性を確保する観点から、式(I)で表される繰返し単位を有し、両末端がそれぞれ水酸基または炭素数1〜4のアルキルオキシ基であり、かつ粘度平均分子量が10000以下である化合物(以下、「化合物A1」という)の濃度が40質量%以上であり、式(I)で表される繰返し単位を有し、両末端がそれぞれ水酸基または炭素数1〜4のアルキルオキシ基であり、かつ粘度平均分子量が50000以上である化合物(以下、「化合物A2」という)の濃度が0.5質量%以下である化合物が好ましい。
【0035】
前記化合物A中における前記化合物A1の濃度は、生体中のヒアルロン酸のうち、高分子量のヒアルロン酸の量を増大させる効果を十分に発揮させる観点から、40質量%以上、好ましくは70質量%以上である。前記化合物A1の濃度の上限値は、ヒアルロン酸高分子量化剤の用途などによって異なるので、一概には決定することができない。
【0036】
前記化合物A中における前記化合物A2の濃度は、浸透性を維持する観点から、0.5質量%以下、好ましくは0.1質量%以下である。前記化合物A2の濃度の下限値は、ヒアルロン酸高分子量化剤の用途などによって異なるので、一概には決定することができない。
【0037】
本発明のヒアルロン酸高分子量化剤においては、前記化合物Aを単独で用いてもよく、前記化合物Aを溶媒に溶解させた溶液として用いてもよい。
【0038】
溶液である本発明のヒアルロン酸高分子量化剤の場合、本発明のヒアルロン酸高分子量化剤中における前記化合物Aの含有量は、ヒアルロン酸高分子量化剤の用途、前記化合物Aの種類、溶媒の種類、当該溶媒に対する化合物Aの溶解性などによって異なるので、一概には決定することができないため、ヒアルロン酸高分子量化剤の用途、前記化合物Aの種類、溶媒の種類、当該溶媒に対する化合物Aの溶解性などに応じて適宜設定することが好ましい。通常、本発明のヒアルロン酸高分子量化剤中における前記化合物Aの含有量は、生体中のヒアルロン酸のうち、高分子量のヒアルロン酸の量を増大させる効果を十分に発揮させる観点から、10質量%以上であり、好ましくは20質量%以上であり、製造の容易性の観点から、30質量%以下である。
【0039】
本発明のヒアルロン酸高分子量化剤は、本発明の目的が阻害されない範囲内で、例えば、生体中への前記化合物Aの浸透をさらに促進させるための助剤、皮膚への塗布しやすさを調整する粘度調整剤などを含有していてもよい。
【0040】
なお、本発明においては、本発明の目的が阻害されない範囲内であれば、本発明のヒアルロン酸高分子量化剤において、前記助剤などと前記化合物Aとを反応させ、複合体や化合物を形成させたものを用いてもよい。
【0041】
本発明のヒアルロン酸高分子量化剤によれば、生体中に良好に浸透させることができ、しかも生体中のヒアルロン酸を高分子量化させることができるので、損傷皮膚の回復を促進させることができる。したがって、本発明のヒアルロン酸高分子量化剤は、ヒアルロン酸の欠乏または減少に起因する生体の状態の異常、例えば、ヒトの皮膚の状態の異常を改善する用途などに有用である。かかる生体の状態の異常としては、例えば、ヒトの皮膚における損傷皮膚、老化に伴う皮膚の乾燥、皮膚の萎縮、皮膚の弾力性の低下、しわの形成、などが挙げられる。
【0042】
[皮膚損傷回復促進剤]
本発明の皮膚損傷回復促進剤は、損傷皮膚の回復を促進させるための皮膚損傷回復促進剤であって、前記ヒアルロン酸高分子量化剤を含有していることを特徴とする。
【0043】
本発明の皮膚損傷回復促進剤は、前記ヒアルロン酸高分子量化剤を含有している点に1つの大きな特徴がある。本発明の皮膚損傷回復促進剤は、当該皮膚損傷回復促進剤に含まれている前記ヒアルロン酸高分子量化剤が損傷皮膚によく浸透し、生体中のヒアルロン酸を高分子量化させることで、損傷皮膚を早期に回復させる。したがって、本発明の皮膚損傷回復促進剤によれば、損傷皮膚への浸透性に優れ、損傷皮膚を早期に回復させることができるという優れた効果が奏される。
【0044】
損傷皮膚としては、例えば、紫外線による肌荒れ、接触皮膚炎、過度の脂質の洗浄による肌荒れなどが挙げられる。
【0045】
本発明の皮膚損傷回復促進剤中における前記ヒアルロン酸高分子量化剤の含有量は、前記皮膚損傷回復促進剤の用途、前記皮膚損傷回復促進剤に含まれる前記化合物Aの種類などによって異なるので、一概には決定することができないため、前記皮膚損傷回復促進剤の用途、前記化合物Aの種類などに応じて適宜設定することが好ましい。例えば、本発明の皮膚損傷回復促進剤中におけるヒアルロン酸高分子量化剤が溶液であるヒアルロン酸高分子量化剤である場合、通常、本発明の皮膚損傷回復促進剤中における前記ヒアルロン酸高分子量化剤の含有量は、本発明の皮膚損傷回復促進剤中における前記化合物Aの含有量が、損傷皮膚の回復を促進する効果を十分に発揮させる観点から、10質量%以上、好ましくは20質量%以上となり、製造の容易性の観点から、30質量%以下となるように調整されることが望ましい。
【0046】
本発明の皮膚損傷回復促進剤には、本発明の目的が妨げられない範囲で、例えば、水、緩衝液、防腐剤、酸化防止剤、粘度調整剤、香料、紫外線吸収剤などの他の成分が配合されていてもよい。
【0047】
本発明の皮膚損傷回復促進剤の剤形としては、特に限定されないが、例えば、エアゾール剤、液剤、軟膏剤、パップ剤などが挙げられる。
【0048】
本発明の皮膚損傷回復促進剤によれば、当該皮膚損傷回復促進剤を前記損傷皮膚と接触させることにより、損傷皮膚の回復を促進させることができる。
【0049】
本発明の皮膚損傷回復促進剤を損傷皮膚と接触させる際の前記皮膚損傷回復促進剤の使用量は、損傷皮膚の種類や範囲、前記皮膚損傷回復促進剤に含まれる前記化合物Aの種類などによって異なるので、一概には決定することができないため、損傷皮膚の種類や範囲、前記化合物Aの種類などに応じて適宜設定することが好ましい。通常、前記皮膚損傷回復促進剤の使用量は、損傷皮膚の面積10cm2あたりの前記化合物Aの量が、損傷皮膚の回復を促進させる効果を十分に確保する観点から、10mg以上、好ましくは50mg以上となり、前記皮膚損傷回復促進剤と損傷皮膚との接触時間を短縮させる観点から、300mg以下、好ましくは1000mg以下となる程度に調整されることが望ましい。
【0050】
本発明の皮膚損傷回復促進剤と損傷皮膚との接触は、当該皮膚損傷回復促進剤の剤形などに応じた方法によって行なうことができる。
【0051】
本発明の皮膚損傷回復促進剤によれば、損傷皮膚に良好に浸透させることができ、しかも生体中のヒアルロン酸を高分子量化させることができるので、損傷皮膚の回復を促進させ、損傷皮膚を早期に回復させることができる。したがって、本発明の皮膚損傷回復促進剤は、前記損傷皮膚を早期に回復させる用途などに有用である。
【実施例】
【0052】
つぎに、本発明を実施例に基づいてさらに詳しく説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
(製造例1)
攪拌機およびジャケットを備えた300L容量のタンクに、硫酸含有アセトン水溶液〔組成:0.5質量%硫酸、80質量%アセトン、残部水〕110Lを入れ、前記硫酸含有アセトン水溶液を攪拌しながら、温度が60℃になるまで加熱した。
【0054】
その後、前記硫酸含有アセトン水溶液の温度を60℃に維持し、撹拌しながら、式(I)において、R1、R2、R3およびR4それぞれが水素原子であり、かつR5がナトリウム原子である繰返し単位を有し、両末端がそれぞれ水酸基であり、粘度平均分子量が2100000である化合物の微粉末〔キユーピー(株)製、純度:97%〕6kgを前記硫酸含有アセトン水溶液に添加した。
【0055】
得られた混合物を15分間攪拌して硫酸含有アセトン水溶液中に前記化合物の微粉末を分散させた。得られた分散液を静置し、上清を除去して、沈殿物を得た。
【0056】
得られた沈殿物に、60℃に維持された硫酸含有アセトン水溶液110Lを添加した。その後、得られた混合物の温度を60℃に維持しながら、当該混合物を15分間攪拌した。その後、前記混合物を静置し、上清を除去して、沈殿物を得た。さらに、前記沈殿物を用い、前記と同様の操作を2回繰り返した。
【0057】
つぎに、得られた沈殿物を、80質量%アセトン水溶液110Lで洗浄した。洗浄後の沈殿物を100000×g、60分間遠心分離した。その後、前記沈殿物を室温で6時間真空乾燥させて当該沈殿物中の残存溶媒を除去し、式(I)において、R1、R2、R3、R4およびR5それぞれが水素原子である繰返し単位を有し、両末端がそれぞれ水酸基であり、粘度平均分子量が約9000である化合物の白色微粉末5.3kg(収率約88%)を得た。
【0058】
(実施例1)
製造例1で得られた化合物を、濃度が1×10-4質量%となるように、10質量%ウシ胎仔血清(FBS)含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に溶解させ、試料を得た。
【0059】
(比較例1)
10質量%FBS含有DMEMを比較例1の試料として用いた。
【0060】
(試験例1)
培養面積150cm2のフラスコ上の10質量%ウシ胎仔血清(FBS)含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)50mL中において、5×10細胞のヒト胎児皮膚由来線維芽細胞〔細胞名:TIG−3S細胞、ヒューマンサイエンス研究資源バンク供給〕を、5体積%二酸化炭素の雰囲気中に37℃で24時間培養した。
【0061】
得られた細胞培養物中の液体成分を実施例1で得られた試料と交換し、5体積%二酸化炭素の雰囲気中に37℃で24時間培養した。
【0062】
得られた細胞培養物から、線維芽細胞によって産生され、当該線維芽細胞外に分泌されるヒアルロン酸を含む培養上清を得た。その後、前記培養上清を凍結乾燥させた。得られた乾燥物15μgをリン酸緩衝化生理的食塩水200μLに溶解させ、測定用試料を得た。
【0063】
得られた測定用試料およびヒアルロン酸のサイズマーカーを、それぞれ、0.75質量%アガロースゲルのウェルに供し、電圧50Vで2.5時間電気泳動した。なお、電気泳動用緩衝液として、10倍希釈TAEバッファー(pH7.9)を用いた。また、ヒアルロン酸のサイズマーカーとして、分子量が既知である市販のヒアルロン酸を用いた。
【0064】
電気泳動後のアガロースゲルに、ビオチン標識ヒアルロン酸結合タンパク質〔生化学工業(株)製、商品名:ヒアルロン酸結合性タンパク質−ビオチン〕と西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン〔カルビオケム(CALBIOCHEM)製、商品名:ストレプトアビジン、ペルオキシダーゼコンジュゲート〕とを接触させた。さらに、前記アガロースゲルに、過酸化水素およびジアミノベンジジンを接触させ、ゲル上のヒアルロン酸を染色した。その後、デンシトメーターを用い、アガロースゲルのウェルからのヒアルロン酸の泳動距離および前記ヒアルロン酸に対応するアガロースゲル上のバンドのピクセル強度を測定した。
【0065】
つぎに、ヒアルロン酸に対応するバンド毎に、ヒアルロン酸の泳動距離と、ピクセル強度とを、x軸が泳動距離であり、y軸がピクセル強度である2次元座標上にプロットして、ヒアルロン酸の泳動距離の分布曲線を作成した。得られた分布曲線を用い、実施例1で得られた試料を接触させた線維芽細胞によって産生されたヒアルロン酸の泳動距離とピクセル強度との関係を調べた。
【0066】
また、実施例1で得られた試料の代わりに、比較例1の試料を用いたことを除き、前記と同様に操作を行ない、試料を接触させた線維芽細胞によって産生されたヒアルロン酸の泳動距離とピクセル強度との関係を調べた。
【0067】
試験例1において、実施例1で得られた試料を接触させた線維芽細胞によって産生されたヒアルロン酸の泳動距離とピクセル強度との関係を示す図1(a)に、試験例1において、比較例1の試料を接触させた線維芽細胞によって産生されたヒアルロン酸の泳動距離とピクセル強度との関係を図1(b)に示す。
【0068】
つぎに、図1(a)および(b)それぞれに示されるグラフを用い、泳動距離が1〜200ピクセル〔ヒアルロン酸の粘度平均分子量:約3000000(泳動距離200ピクセル)以上、約4000000(泳動距離1ピクセル)以下〕の範囲および泳動距離が200ピクセルを超え、850ピクセル以下〔ヒアルロン酸の粘度平均分子量:約1000000以上(泳動距離850ピクセル)、約3000000(泳動距離200ピクセル)未満〕の範囲それぞれについて、前記分布曲線と座標軸とにより囲まれる部分の面積(分布曲線の曲線下面積)を算出した。得られた分布曲線の曲線下面積をヒアルロン酸の量の指標として用い、線維芽細胞に接触させた試料の種類と、泳動距離が1〜200ピクセルのヒアルロン酸の量および泳動距離が200ピクセルを超え、850ピクセル以下のヒアルロン酸の量との関係を調べた。
【0069】
試験例1において、試料の種類と分布曲線の曲線下面積との関係を図2に示す。図中、白棒は泳動距離が1〜200ピクセルのヒアルロン酸の量の指標、黒棒は泳動距離が200ピクセルを超え、850ピクセル以下のヒアルロン酸の量の指標を示す。
【0070】
図2に示された結果から、実施例1で得られた試料を線維芽細胞に接触させたときの泳動距離が1〜200ピクセルのヒアルロン酸の量に対応する曲線下面積は、比較例1の試料を線維芽細胞に接触させたときの泳動距離が1〜200ピクセルのヒアルロン酸の量に対応する曲線下面積と比べ、多いことがわかる。一方、実施例1で得られた試料を線維芽細胞に接触させたときの泳動距離が200ピクセルを超え、850ピクセル以下のヒアルロン酸の量に対応する曲線下面積は、比較例1の試料を線維芽細胞に接触させたときの泳動距離が200ピクセルを超え、850ピクセル以下のヒアルロン酸の量に対応する曲線下面積とほぼ同程度であることがわかる。
【0071】
これらの結果から、実施例1で得られた試料を線維芽細胞に接触させたときに産生されるヒアルロン酸のうち、低分子量のヒアルロン酸の量は、対照試料を線維芽細胞に接触させた場合の低分子量のヒアルロン酸の量と同程度に保たれているにもかかわらず、高分子量のヒアルロン酸の量は、対照試料を線維芽細胞に接触させた場合の高分子量のヒアルロン酸の量よりも多くなっていることがわかる。したがって、実施例1で得られた試料によって生体中のヒアルロン酸を高分子量化させることができることがわかる。
【0072】
(実施例2)
実施例1において、製造例1で得られた化合物の代わりに、製造例1で得られた化合物と同じ繰返し単位を有し、両末端がそれぞれ水酸基であり、粘度平均分子量が20000である化合物を用いることを除き、実施例1と同様に操作を行ない、試料を得る。
【0073】
(実施例3)
実施例1において、製造例1で得られた化合物の代わりに、製造例1で得られた化合物と同じ繰返し単位を有し、両末端がそれぞれ水酸基であり、粘度平均分子量が750である化合物を用いることを除き、前記実施例1と同様に操作を行ない、試料を得る。
【0074】
(試験例2)
試験例1において、実施例1で得られた試料の代わりに、実施例2で得られた試料または実施例3で得られた試料を用いることを除き、試験例1と同様の操作を行ない、線維芽細胞に接触させた試料の種類と、泳動距離が1〜200ピクセルのヒアルロン酸の量および泳動距離が200ピクセルを超え、850ピクセル以下のヒアルロン酸の量との関係を調べる。
【0075】
その結果、実施例2で得られた試料または実施例3で得られた試料を用いた場合、実施例1で得られた試料を用いた場合と同様の結果が示される。
【0076】
なお、実施例1において、製造例1で得られた化合物の代わりに、式(I)におけるR1、R2、R3およびR4のいずれかがメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基であり、R5がナトリウム原子、カリウム原子、メチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基である繰返し単位を有する化合物を用いて得られた試料を用いた場合にも、実施例1で得られた試料を用いた場合と同様の結果が示される。
【0077】
これらの結果から、式(I)で表される繰返し単位を有し、両末端がそれぞれ水酸基であり、粘度平均分子量が500〜20000である化合物は、線維芽細胞によって産生され、当該線維芽細胞外に分泌されるヒアルロン酸のうち、高分子量のヒアルロン酸の量を増大させることができることがわかる。このことから、前記化合物Aは、生体中のヒアルロン酸を高分子量化させるヒアルロン酸高分子量化剤として有用であることが示唆される。
【0078】
(実施例4)
製造例1で得られた化合物を、当該化合物の濃度が1質量%となるように精製水に溶解させ、試料を得た。
【0079】
(比較例2)
実施例4において、製造例1で得られた化合物の代わりに、式(I)において、R1、R2、R3、R4およびR5それぞれが水素原子である繰返し単位を有し、両末端がそれぞれ水酸基であり、粘度平均分子量が1200000である化合物〔(株)資生堂製、商品名:バイオヒアルロン酸NA12〕(以下、「化合物B」という)を用いたことを除き、実施例4と同様に操作を行ない、試料を得た。
【0080】
(試験例3)
健常な成人男性13名の被験者を、22℃、相対湿度50%の試験室内で20分間馴化させた。前記被験者の左前腕腕内側部および右前腕腕内側部のそれぞれ1.5cm×10cm四方の部分(以下、「テープストリッピング部位」という)の長手方向両端部より2cm内側の部分(測定部位)における経表皮水分蒸散量を測定した。得られた経表皮水分蒸散量の値を「TEWL値A」という。
【0081】
つぎに、前記測定部位における経表皮水分蒸散量の値が20〜30g/m2・hになるまで、前記テープストリッピング部位へのセロハンテープ〔ニチバン(株)製〕の小片(1.5cm×10cm)の貼付および剥離を繰り返してテープストリッピングを行ない、モデル損傷皮膚を得た。テープストリッピング直後のモデル損傷皮膚の前記測定部位における経表皮水分蒸散量を測定した。得られた経表皮水分蒸散量の値を「TEWL値B」という。
【0082】
つぎに、前記テープストリッピング部位に、実施例4で得られた試料100μLを1日あたり2回3日間塗布した。最初の塗布から1日間または3日間経過後に、前記測定部位における経表皮水分蒸散量を測定した。最初の塗布から1日間または3日間経過後の前記測定部位における経表皮水分蒸散量の値を「TEWL値C」という。
【0083】
つぎに、TEWL値Aを100%、TEWL値Bを0%として、モデル損傷皮膚形成時から測定時までの間の経表皮水分蒸散量の回復率を、式(V):
【0084】
(TEWL値A−TEWL値C)/(TEWL値A―TEWL値B)×100 (V)
【0085】
に基づいて算出した。
【0086】
また、実施例4で得られた試料の代わりに、比較例2で得られた試料または精製水(比較例3)を用いたことを除き、前記と同様に操作を行ない、経表皮水分蒸散量の回復率を算出した。
【0087】
試験例3において、経過日数と経表皮水分蒸散量の回復率との関係を図3に示す。図3中、黒丸は実施例4で得られた試料を用いたときの経表皮水分蒸散量の回復率、黒三角は比較例2で得られた試料を用いたときの経表皮水分蒸散量の回復率、黒四角は比較例3の試料(精製水)を用いたときの経表皮水分蒸散量の回復率を示す。
【0088】
図3に示された結果から、モデル損傷皮膚形成から1日間および3日間経過後のいずれにおいても、実施例4で得られた試料をモデル損傷皮膚に塗布したときの経表皮水分蒸散量の回復率は、比較例2で得られた試料または比較例3の試料(精製水)をモデル損傷皮膚に塗布したときの経表皮水分蒸散量の回復率と比べて多くなっていることがわかる。このことから、実施例4で得られた試料によれば、損傷皮膚の回復を促進させることができることがわかる。
【0089】
(実施例5)
実施例4において、製造例1で得られた化合物の代わりに、製造例1で得られた化合物と同じ繰返し単位を有し、両末端がそれぞれ水酸基であり、粘度平均分子量が20000である化合物を用いることを除き、実施例4と同様に操作を行ない、試料を得る。
【0090】
(実施例6)
実施例4において、製造例1で得られた化合物の代わりに、製造例1で得られた化合物と同じ繰返し単位を有し、両末端がそれぞれ水酸基であり、粘度平均分子量が500である化合物を用いることを除き、実施例4と同様に操作を行ない、試料を得る。
【0091】
(比較例4)
実施例4において、製造例1で得られた化合物の代わりに、化合物Bと同じ繰返し単位を有し、両末端がそれぞれ水酸基であり、粘度平均分子量が50000である化合物を用いたことを除き、実施例4と同様に操作を行ない、試料を得る。
【0092】
(試験例4)
試験例3において、実施例4で得られた試料の代わりに、実施例5で得られた試料、実施例6で得られた試料または比較例4で得られた試料を用いることを除き、試験例3と同様に操作を行ない、経表皮水分蒸散量の回復率を算出する。
【0093】
その結果、実施例5で得られた試料または実施例6で得られた試料を用いた場合、実施例4で得られた試料を用いた場合と同様の結果が示される。
【0094】
なお、実施例4において、製造例1で得られた化合物の代わりに、式(I)におけるR1、R2、R3およびR4のいずれかがメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基であり、R5がナトリウム原子、カリウム原子、メチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基である繰返し単位を有し、両末端がそれぞれ水酸基、メチルオキシ基、エチルオキシ基、プロピルオキシ基またはブチルオキシ基である化合物を用いて得られた試料を用いた場合にも、実施例4で得られた試料を用いた場合と同様の結果が示される。
【0095】
一方、比較例4で得られた試料を用いた場合、比較例2で得られた試料を用いた場合と同様の結果が示される。
【0096】
以上の結果から、式(I)で表される繰返し単位を有し、両末端がそれぞれ水酸基または炭素数1〜4のアルキルオキシ基であり、粘度平均分子量が500〜20000である化合物は、損傷皮膚の回復を促進させることができることがわかる。
【0097】
(実施例7)
蛍光標識剤〔1,2,3,4−テトラヒドロ−6,7−ジメトキシ−1−メチル−2−オキソキノキサリン−3−プロピオン酸ヒドラジド(以下、「DMEQ−ヒドラジド」という)〕を用い、得られた化合物を標識した。蛍光標識された化合物を、濃度が1質量%となるように、10体積%エタノール水溶液に溶解させ、試料を得た。
【0098】
(比較例5)
実施例7において、製造例1で得られた化合物の代わりに、前記化合物Bを用いたことを除き、実施例7と同様の操作を行ない、試料を得た。
【0099】
(試験例5)
(1)モデル損傷皮膚の作製
予め皮下脂肪を除去したユカタンミニブタ全層皮膚モデル〔日本チャールズ・リバー(株)社製、約10cm四方〕を直径24mmの円形にくりぬき、フランツ型拡散セル〔レセプター相12mL〕に装着させた。セルの有効塗布部分である直径15mmの円形のエリアをテープストリッピング部位として用い、前記テープストリッピング部位に対して十分に大きいセロハンテープ〔ニチバン(株)製〕の小片(約17cm×約30mm)の貼付および剥離を行なった。TEWLの値が20〜30g/m2・hになるまで、前記全層皮膚モデルの表面へのセロハンテープの貼付および剥離を繰り返して、モデル損傷皮膚を形成させた。その後、前記テープストリッピング部位におけるTEWLの値が定常状態になるまで、前記モデル損傷皮膚を約1時間放置した。
【0100】
(2)皮膚透過性試験(用量有限試験)
前記(1)で得られたモデル損傷皮膚のテープストリッピング部位に、実施例7で得られた試料10μgを1時間ごとに4回塗布した。つぎに、精製水でモデル損傷皮膚を洗浄し、キムワイプで清拭した。その後、モデル損傷皮膚の表面の残存物を除去した。残存物除去後のモデル損傷皮膚から凍結切片を作製した。得られた凍結切片の蛍光染色像を蛍光顕微鏡で観察した。さらに、前記凍結切片をヘマトキシリンおよびエオジンで染色した。得られた核染色像を光学顕微鏡で観察した。
【0101】
また、実施例7で得られた試料10μgの代わりに、比較例5で得られた試料10μgを用いたことを除き、前記と同様に操作を行ない、凍結切片の蛍光染色像および核染色像を観察した。
【0102】
試験例5において、実施例7で得られた試料を塗布したモデル損傷皮膚の凍結切片の核染色像の光学顕微鏡による観察結果を示す図面代用写真を図4(a)に、試験例5において、前記モデル損傷皮膚の凍結切片の蛍光染色像の蛍光顕微鏡による観察結果を示す図面代用写真を図4(b)に示す。図中、スケールバーは、100μmを示す。また、試験例5において、比較例5で得られた試料を塗布したモデル損傷皮膚の凍結切片の核染色像の光学顕微鏡による観察結果を示す図面代用写真を図5(a)に、試験例6において、前記モデル損傷皮膚の凍結切片の蛍光染色像の蛍光顕微鏡による観察結果を示す図面代用写真を図5(b)に示す。図中、スケールバーは、100μmを示す。
【0103】
図4(a)および(b)に示された結果から、実施例7で得られた試料中の蛍光標識された化合物に含まれる蛍光標識剤に基づく蛍光は、角層および角層直下の部位に検出され、局所的に、表皮深層に検出されることがわかる。この結果から、実施例7で得られた試料に含まれる製造例1で得られた化合物は、皮膚の表面から表皮深層まで浸透することがわかる。これに対して、図5(a)および(b)に示された結果から、比較例5で得られた試料中の蛍光標識された化合物に含まれる蛍光標識剤に基づく蛍光は、皮膚の外において検出されるが、皮膚中では検出されないことがわかる。この結果から、比較例5で得られた試料に含まれる化合物は、皮膚中に浸透しないことがわかる。
【0104】
(3)皮膚透過性試験(用量無限試験)
前記(1)で得られたモデル損傷皮膚と実施例7で得られた試料0.5mLとを、32℃で24時間接触させた。
【0105】
その後、前記モデル損傷皮膚から表皮層を摘出し、精製水5mL中で破砕し、抽出物を得た。得られた抽出物を、蛍光分光光度計〔(株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名:F−7000〕に供して、実施例7で得られた試料または比較例5で得られた試料中の蛍光標識された化合物に含まれる蛍光標識剤に基づく蛍光強度を測定した。得られた蛍光強度の値と、予め作成した検量線とを用い、表皮層中における蛍光標識剤の濃度を算出した。前記と同様の操作を行ない、さらに4種類のモデル損傷皮膚の表皮層それぞれにおける蛍光標識剤の濃度を算出した。
【0106】
また、前記モデル損傷皮膚から表皮層を摘出する代わりに、真皮層を摘出したことを除き、前記と同様の操作を行ない、5種類のモデル損傷皮膚の真皮層中における蛍光標識剤の濃度それぞれを算出した。
【0107】
試験例5において、試料の種類と、蛍光標識剤の濃度との関係を図6(a)に、試験例5において、試料の種類と、蛍光標識剤の濃度との関係を図6(b)に示す。図6(a)中、試料番号1〜5は、いずれもモデル損傷皮膚の表皮層である。また、図6(b)中、試料番号1〜5は、いずれもモデル損傷皮膚の真皮層である。
【0108】
図6(a)に示された結果から、表皮層中における蛍光標識剤の濃度は、約50〜100μg/cm3であることがわかる。また、図6(b)に示された結果から、真皮層中における蛍光標識剤の濃度は、約0.03〜0.07μg/cm3であることがわかる。したがって、これらの結果から、実施例7で得られた試料中に含まれる製造例1で得られた化合物は、皮膚の表面から真皮層まで浸透することがわかる。
【0109】
なお、実施例7で得られた試料の代わりに、比較例5で得られた試料を用いた場合、表皮層および真皮層への比較例5で得られた試料中に含まれる化合物の浸透はみられなかった。
【0110】
(実施例8)
実施例7において、製造例1で得られた化合物の代わりに、製造例1で得られた化合物と同じ繰返し単位を有し、両末端がそれぞれ水酸基であり、粘度平均分子量が20000である化合物を用いることを除き、実施例7と同様に操作を行ない、試料を得る。
【0111】
(実施例9)
実施例7において、製造例1で得られた化合物の代わりに、製造例1で得られた化合物と同じ繰返し単位を有し、両末端がそれぞれ水酸基であり、粘度平均分子量が500である化合物を用いることを除き、実施例7と同様に操作を行ない、試料を得る。
【0112】
(比較例6)
実施例7において、製造例1で得られた化合物の代わりに、前記化合物Bと同じ繰返し単位を有し、両末端がそれぞれ水酸基であり、粘度平均分子量が50000である化合物を用いたことを除き、実施例7と同様に操作を行ない、試料を得る。
【0113】
(試験例6)
(1)皮膚透過性試験(用量有限試験)
試験例5(2)において、実施例7で得られた試料の代わりに、実施例8で得られた試料、実施例9で得られた試料または比較例6で得られた試料を用いることを除き、試験例5(2)と同様に操作を行ない、凍結切片の蛍光染色像および核染色像を観察する。
【0114】
その結果、実施例8で得られた試料および実施例9で得られた試料を用いた場合、実施例7で得られた試料を用いた場合と同様の結果が示される。
【0115】
なお、実施例7において、製造例1で得られた化合物の代わりに、式(I)におけるR1、R2、R3およびR4のいずれかがメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基であり、R5がナトリウム原子、カリウム原子、メチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基である繰返し単位を有する化合物を用いて得られた試料を用いた場合にも、実施例7で得られた試料を用いた場合と同様の結果が示される。
【0116】
一方、比較例6で得られた試料を用いた場合、比較例5で得られた試料を用いた場合と同様の結果が示される。
【0117】
(2)皮膚透過性試験(用量無限試験)
試験例5(3)において、実施例7で得られた試料の代わりに、実施例8で得られた試料、実施例9で得られた試料または比較例6で得られた試料を用いることを除き、試験例5(3)と同様に操作を行ない、モデル損傷皮膚の表皮層中における蛍光標識剤の濃度およびモデル損傷皮膚の真皮層中における蛍光標識剤の濃度それぞれを算出する。
【0118】
その結果、実施例8で得られた試料および実施例9で得られた試料を用いた場合、実施例7で得られた試料を用いた場合と同様の結果が示される。
【0119】
なお、実施例7において、製造例1で得られた化合物の代わりに、式(I)におけるR1、R2、R3およびR4のいずれかがメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基であり、R5がナトリウム原子、カリウム原子、メチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基である繰返し単位を有し、両末端がそれぞれ水酸基、メチルオキシ基、エチルオキシ基、プロピルオキシ基またはブチルオキシ基である化合物を用いて得られた試料を用いた場合にも、実施例7で得られた試料を用いた場合と同様の結果が示される。
【0120】
一方、比較例6で得られた試料を用いた場合、比較例5で得られた試料を用いた場合と同様の結果が示される。
【0121】
以上の結果から、式(I)で表される繰返し単位を有し、両末端がそれぞれ水酸基または炭素数1〜4のアルキルオキシ基であり、粘度平均分子量が500〜20000である化合物は、皮膚中に良好に浸透して、皮膚中におけるヒアルロン酸を高分子量化させることができ、損傷皮膚の回復を促進することが示唆される。したがって、前記化合物Aは、皮膚中に良好に浸透し、かつ損傷皮膚の回復を促進することから、皮膚損傷回復促進剤として有用であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体中のヒアルロン酸を高分子量化させるヒアルロン酸高分子量化剤であって、式(I):
【化1】

(式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、R5は水素原子、アルカリ金属原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表される繰返し単位を有し、粘度平均分子量が500〜20000である化合物を含有してなるヒアルロン酸高分子量化剤。
【請求項2】
前記式(I)において、R1、R2、R3、R4およびR5がそれぞれ水素原子である請求項1に記載のヒアルロン酸高分子量化剤。
【請求項3】
損傷皮膚の回復を促進させるための皮膚損傷回復促進剤であって、請求項1または2に記載のヒアルロン酸高分子量化剤を含有してなる皮膚損傷回復促進剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−246416(P2011−246416A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123184(P2010−123184)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年2月1日 インターネットアドレス「http://nenkai.pharm.or.jp/130/pc/ipdfview.asp?i=1912」に発表
【出願人】(390011442)株式会社マンダム (305)
【Fターム(参考)】