ヒトまたは動物の組織、血液もしくは体液中のヘプシジンをスクリーニングすることによる疾患の診断方法およびそのための治療的使用
本発明は、プロヘプシジンおよびそのフラグメントを含むヘプシジンタンパク質の非生理的レベルを特徴とする疾患状態を診断するための方法およびキットに関しており、この方法は、被験者から組織または液体サンプルを入手するステップと、このサンプルをヘプシジンタンパク質の中央部分またはC末端に対応するポリペプチドに特異的に結合するそれらの抗体またはそのフラグメントと接触させるステップと、抗体およびポリペプチドの結合に基づくアッセイを使用してヘプシジンレベルを定量するステップとを含み、ヘプシジンの非生理的レベルが疾患状態を表示する。本発明は、さらにまた例えばヘプシジンを過剰発現させる、またはダウンレギュレートするためのような遺伝子工学的アプローチにおける用途のための診断方法およびキットに関する。本発明は、さらにヘプシジンおよびヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストを用いた被験者の治療による特定の疾患の治療的処置に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2002年11月19日に出願された特許出願第10/299,486号の一部継続出願である、2003年5月19日に出願された特許出願第10/441,089号の一部継続出願である。
【背景技術】
【0002】
鉄は、全ての生体組織の成長および発達にとって不可欠の必須微量元素である。鉄は、DNA合成や広範囲に及ぶ代謝工程にとって欠くことができない。しかし、鉄代謝の障害は、鉄欠乏性貧血、ヘモジデリン沈着症、または鉄過剰性疾患であるヘモクロマトーシスを含むがそれらに限定されない、多数の重大な哺乳動物の疾患に関連があるとされてきた(Pietrangelo,A.(2002)Am J Physiol.Gastrointest.Liver Physiol.282,G403−414;Andrews,N.C.(2000)Annu.Rev.Genomics Hum.Genet.1,75−98;Philpott,C.C.(2002)Hepatology 35,993−1001;Anderson and Powell(2002)Int J Hematol 76,203−203;Beutler et al.,(2001)Drug−Metab.Dispos.29,495−499)。生理的条件下では、ヒトの鉄含量は吸収を制御することによって調節される。哺乳動物では、鉄吸収は主として十二指腸および上部空腸において発生し、それにより鉄の貯蔵が生理的に制御される唯一のメカニズムである(Philpott,C.C.(2002)Hepatology 35,993−1001)。吸収された後、鉄は循環中トランスフェリンに結合し、身体全体の組織へ送達される。鉄貯蔵の主要部位である肝臓では、トランスフェリンに結合した鉄は伝統的なトランスフェリン受容体(TfRl)(Collawn et al.(1990)Cell 63,1061−1072)を介し、またおそらくより多くの量は、近年同定された同種トランスフェリン受容体2(TfR2)(Kawabata et al.(1999)J Biol Chem 274,20826−20832)を介して、受容体媒介性エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれる。このタンパク質の細胞外ドメインは、TfRlの対応する部分と45%同一である(Id.)。TfR2は、さらにまた二鉄トランスフェリンに結合して鉄の取り込みを促進することもできる。TfR2における突然変異は、鉄ホメオスタシスにおけるTfR2の重要な役割を示す特定の形態のヘモクロマトーシスと関連付けられてきた(Philpott,C.C.(2002)Hepatology 35,993−1001;Camasehella et al.,(2000)Nat.Genet.25,14−15;Fleming et al.,(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99,10653−10658)。TfR2は主として肝臓内で発現するが(Fleming et al.,(2000)Proc.Natl.Acadi.Sci.USA 97,2214−2219;Subramaniam et al.,(2002)Cell Biochem.Biophys.36,235−239)、正確な細胞局在はいまだ不明である。
【0003】
鉄欠乏性である個体では鉄吸収を強化するフィードバック機構が存在するが、鉄過剰であるヒトでは鉄吸収が減少する(Pietrangelo,A.(2002)Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 282,G403−414;Philpott,C.C.(2002)Hepatology 35,993−1001;Anderson and Powell(2002)Int J Hematol 76,203−203)。しかし遺伝性ヘモクロマトーシス(HH)では、この調節機構が損傷していると思われる。鉄過剰にもかかわらず、食事から吸収される鉄の量が上昇し、内臓中の過剰な鉄の蓄積を引き起こし、内臓障害および機能不全を生じさせる。腸が身体の鉄要求量変化に対応する分子機構に関しては十分には理解されていない。これに関連して、近年同定された哺乳動物ペプチドであるヘプシジン(Krause et al.(2000)FEBS Lett 489,147−150;Park et al.(2001)J Biol Chem 276,7806−7810)は、鉄ホメオスタシスを調節する重要なシグナリング成分であると予測される(Philpott C.C.(2002)Hepatology 35,993−1001;Nicolas et al.(2002)Proc Natl Acad Sci USA 99,4596−4601)。
【0004】
ヘプシジンは、主として肝臓で産生する、システインに富む小さなペプチドである。この分子は、腸内の鉄の吸収を調節し、マクロファージからの鉄の遊離を阻害する。ヘプシジンは最初に、抗菌活性を示すヒト血漿および尿中で25アミノ酸(aa)ペプチドとして単離された(Krause et al.(2000)FEBS Lett 489,147−150;Park et al.(2001)J Biol Chem 276,7806−7810)。引き続いて、鉄によって調節された肝特異的遺伝子を探索して、マウスにおける83aa前駆体ならびにラットおよびヒトにおける84aa前駆体をコードするヘプシジンcDNAが同定された(Pigeon et al.(2001)J Biol Chem 276,7811−7819)。ヒトヘプシジンのcDNA構造は、ヒトヘプシジンが84アミノ酸プレプロペプチドとして翻訳され、アミノ末端で60アミノ酸残基プロヘプシジンペプチドへプロセシングされ、さらに25アミノ酸ヘプシジンペプチドにプロセシングされることを示唆している(Park et al.(2001))。
【0005】
ヘプシジンの発現は、hfe−/−マウスにおいて見いだされる表現型と同一の表現型に似ている上流刺激因子2(Usf2)遺伝子の標的破壊に起因する鉄過剰を示すマウスでは無効にされ(Nicolas G,et al(2001)Proc Natl Acad Sci USA 98,8780−8785)、このペプチドが鉄代謝において極めて重要な役割を果たすという結論を導く。これとは対照的に、ヘプシジンの過剰発現はトランスジェニックマウスにおいて重度の鉄欠乏性貧血を生じさせることが証明されており(Nicolas et al.(2002)Proc Natl Acad Sci USA 99,4596−4601)、これはヘプシジンが鉄ホメオスタシスの主要な調節因子であることを示している。さらに、近年の研究は、hfeノックアウトマウスでは肝ヘプシジン発現が減少し(Ahmad et al.(2002)Blood Cells Mol Dis 29,361−366)、ヘプシジンペプチドにおける突然変異には重度の若年性ヘモクロマトーシスが関連している(Roetto et al.(2003)Nat Genet 33,21−22)ことを示しており、鉄過剰の分子病因論の理解において新しい展望を開いてきた。しかし、ヘプシジンが身体内鉄貯蔵のバランスを取る、または生理的状態および病理的状態において食事性鉄吸収を調整する機構はまだ同定されていない。
【0006】
この点で、このペプチドの細胞局在および様々な鉄の状態の調節は、ヘプシジン機能の研究において極めて重要である。様々な器官中のヒトおよびマウスヘプシジンmRNAレベルについてのノーザンブロット分析により、ヘプシジンは主として肝臓内で発現することが明らかになったが(Krause et al.(2000)FEBS Lett 489,147−150;Park et al.(2001)J Biol Chem 276,7806−7810;Nicolas et al.(2002)Proc Natl Acad Sci USA 99,4596−4601)、このペプチドの細胞局在に関するデータは存在していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ヘプシジンによる哺乳動物細胞の鉄取り込みの調節ならびに鉄代謝の障害に関係する疾患の診断におけるヘプシジンおよび/またはヘプシジン特異的抗体の使用に関する。本発明の診断用検出キットは、ヒトまたは動物いずれかの全集団のスクリーニングおよびこれらの疾患を有する被験者を同定する際に特に有用なことがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様は、非生理的レベルのヘプシジンを特徴とする疾患状態を診断するための方法であって、前記方法は、被験者から組織もしくは液体サンプルを入手するステップと、このサンプルをヘプシジンの中央部分(アミノ酸20から50)またはC末端(アミノ酸65から84)からのポリペプチドに特異的に結合する抗体もしくはそのフラグメントと接触させるステップと、抗体およびポリペプチドの結合に基づくアッセイを使用してヘプシジンレベルを定量するステップとを含み、非生理的レベルのヘプシジンが疾患状態を表示する。本発明の1つの態様では、ヒト血漿中のプロヘプシジンの検出を可能にする高感受性の診断方法およびキットが確立された。本発明は、上記で言及した疾患の治療中および治療後の進行のパラメーターとしてのヘプシジンを測定するためにヘプシジン抗体ならびに診断方法およびキットを使用できる、広範囲の治療上の展望を開く。
【0009】
本発明の1つの実施形態は、プロヘプシジンおよびそのフラグメントを含むヘプシジンタンパク質の生成および精製に関する。本発明のまた別の実施形態は、ヘプシジン特異的抗体、またはそれらのフラグメントもしくは変異体に関し、それらは順に、疑わしいヒトまたは動物においてプロヘプシジンを含むヘプシジンタンパク質を検出するためのイムノアッセイに使用できる。
【0010】
本発明のまた別の態様では、ヘプシジンによる診断方法およびキットは、例えばヘプシジンを過剰発現させる、またはダウンレギュレートするためのような遺伝子工学的アプローチに使用できる。
【0011】
本発明のさらにまた別の態様では、ヘプシジンは、ヘプシジン、およびヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストを用いて患者を治療することによって、本明細書に記載の疾患の治療的処置に使用できる。細胞中への鉄取り込みは、ヘプシジンの濃度を変化させ、鉄またはTfR2受容体へのヘプシジンの結合を阻害することによって調整できよう。したがって、ヘプシジン、およびヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストは鉄代謝の障害が存在する状態の治療において有用な可能性がある。例えば、そのような物質は上記の疾患などの治療において有用なことがある。
【0012】
本発明のこれらやその他の態様は、以下の図面および詳細な説明を参照することによってより明解に理解されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明では、ヘプシジンが哺乳動物細胞による鉄取り込みを調節すること、そしてヘプシジンの非生理的発現が鉄代謝の分布に関係する疾患を生じさせることについて記載する。本明細書で使用する用語「ヘプシジン」は、プロヘプシジン、ヘプシジン、もしくはそのフラグメントを意味する。血液中のヘプシジンの生理的濃度は、約50から約150ng/mLの範囲内である。非生理的濃度はこの範囲より下方または上方である。非生理的量のヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントは、鉄欠乏性貧血などの鉄欠乏症または過剰を生じさせる鉄代謝の障害;ヘモジデリン沈着症およびヘモクロマトーシスもしくは続発性ヘモクロマトーシス、セルロプラスミン欠乏症、低トランスフェリン血症、無トランスフェリン血症などの遺伝性および非遺伝性鉄過剰疾患;不確定原因の鉄過剰疾患、例えば胆管系の疾患、肝疾患、特にアルコール性肝疾患、非アルコール性脂肪肝炎、ならびに慢性B型およびC型肝炎感染症;鉄芽球性貧血、サラセミアなどの鉄を利用する疾患;白血病、赤血球増加症、大赤血球性、小赤血球性もしくは正赤血球性貧血、網状赤血球増加症を伴う貧血、溶血性貧血などの血液学的疾患;感染症および疾患に起因する細網内皮系の障害;炎症および敗血症を含む感染症;癌、肉腫、リンパ腫などの非生理的ヘプシジン濃度を生じさせる免疫学的疾患および腫瘍;アルツハイマー病およびウィルソン病などの神経変性性疾患と関連している。この発見によって、ヘプシジンタンパク質およびそのフラグメントについてのアッセイの開発、それに続くそれらの天然の構成および生理的活性を保持しながらの精製が可能になった。本発明は、一部には、ある種の障害に罹患している患者においてはヒトまたは動物の組織、血液および体液中にヘプシジンタンパク質が存在するという発見に基づいている。
【0014】
本発明は、これらの障害の患者におけるプロヘプシジンを含むヘプシジンタンパク質がヒトまたは動物の組織、血液および体液中において、これらの障害の患者ではない正常なヒトまたは動物の組織、血液および体液中において見いだされる濃度を大きく超える濃度で存在するという最初の証明を提供する。これは、患者からの組織、血液もしくは体液のサンプルを検査するステップと、ヘプシジンタンパク質および/またはプロヘプシジンの存在および量を検出するステップと、によって達成される。本発明による、組織、血液もしくは体液中のプロヘプシジンもしくはそのフラグメントを含むあらゆるヘプシジンタンパク質の検出および定量的測定は、罹患患者において本明細書に記載の疾患の臨床的診断を裏付け、またその疾患の経過を追跡する際に有用である。本発明は、そのような疾患を安定化させる、そのような疾患の発生を減少させる、または予防するという能力について検査される薬剤を用いた治療の期間中およびそれに続く期間にその疾患をモニタリングする際にも有用である。
【0015】
説明する目的でのみ、本発明を、(a)プロヘプシジンもしくはそのフラグメントを含むヘプシジンタンパク質を生成するステップ、(b)プロヘプシジンもしくはそのフラグメントを含むヘプシジンタンパク質に特異的に結合する抗体を生成するステップ、(c)本明細書に記載の疾患の亜型を診断する、またはモニタリングするための診断アッセイおよびキット、(d)ヘプシジンもしくはプロヘプシジンを過剰発現させる、およびダウンレギュレートするための方法、および(e)本明細書に記載の疾患の治療に関して記載する。
【0016】
本発明の1つの態様では、本出願人らは生理的状態および関連疾患においてヘプシジンが果たす役割を決定する方法を提供する。本発明のまた別の態様では、本出願人らはヘプシジン前駆体分子の中央部分およびC末端に対する特異的抗体を提供する。本発明のこの態様では、これらの抗体を使用してヒトおよびモルモット肝中のヘプシジンの細胞局在が明示された。HH、慢性腎不全(CRI)および腎性貧血(RA)を有する患者のヒト血清中のプロヘプシジンを検出する高感受性ELISAを確立した。本出願人らは、プロヘプシジンが肝細胞側底膜を越えて血液中へ遊離させられ、腎排泄を受けることを記載してきた。ヘプシジンの血清中レベルはHHおよび慢性RAでは顕著にダウンレギュレートされるので、ヘプシジンはこれらの疾患の病態生理において何らかの役割を果たすはずである。
【0017】
ヘプシジンタンパク質の産生
血液および体液からのヘプシジンタンパク質の単離
本発明のために、用語「ヘプシジンタンパク質」は、Pigeon and co−workers((2001)J.Biol.Chem.276,7811−7819)によって発表された予測アミノ酸配列と約80%のアミノ酸配列同一性を共有する哺乳動物ヘプシジンポリペプチドであると定義されている。本明細書で提供するヘプシジンタンパク質には、プロヘプシジン、ヘプシジンおよびそのフラグメントが含まれる。本明細書で提供するヘプシジンタンパク質には、さらにまた精製ヘプシジンタンパク質に類似するがその修飾が自然に提供される、または意図的に組換え作製されるアミノ酸配列を特徴とするタンパク質が含まれる。例えば、当業者であれば、公知の技術を使用してヘプシジンペプチドまたはDNA配列を修飾することができる。ヘプシジンタンパク質配列における当該の修飾には、コーディング配列中の選択されたアミノ酸残基の変更、置換、取替え、挿入または欠失が含まれてよい。例えば、分子の立体配座を変化させるために1つ以上のシステイン残基が欠失していてよい、または他のアミノ酸と取り替えられてよい。そのような変更、置換、取替え、挿入または欠失のための技術は当業者には周知である(例えば、米国特許第4,518,584号を参照)。好ましくは、そのような変更、置換、取替え、挿入または欠失は、そのタンパク質の所望の活性を保持する。タンパク質機能にとって重要であるヘプシジンタンパク質の領域は、一本鎖もしくは二本鎖アミノ酸とアラニンとの系統的置換、およびその後の結果として生じたアラニンを含有する変形を生物活性について検査することによるアラニンスキャン法を含む、当分野において知られている様々な方法によって決定できる。このタイプの分析は、生物活性における1つ以上の置換アミノ酸の重要性を決定する。
【0018】
ヘプシジンタンパク質の産生は、当業者に知られている標準技術を使用して、ヘモクロマトーシス、鉄欠乏性貧血、ヘモジデリン沈着症、肝硬変およびその他の本明細書に記載の疾患に罹患しているヒトまたは動物の組織、血液もしくは体液からヘプシジンタンパク質を単離するステップによって遂行できる。本発明に含まれるそのような技術は、さらにまた適切な培地中での宿主細胞の培養を増殖させるステップと、細胞またはその中で細胞が増殖する培養からヘプシジンタンパク質を精製するステップとを含む、ヘプシジンタンパク質を産生する方法に関する。
【0019】
当分野において知られている様々な方法を利用すると、本発明の単離ヘプシジンタンパク質のいずれか1つを入手できる。例えば、ヘプシジンタンパク質は、さらにまた、ヘプシジンタンパク質をコードするcDNAをクローニングおよびシーケンシングすることによって予測されるように、ヘプシジンタンパク質のアミノ酸配列の化学合成(Pigeon et al.,(2001)J.Biol.Chem.276,7811−7819)によって産生することもできる。このヘプシジンタンパク質配列情報を利用すると、当分野において知られている標準ペプチド合成方法を使用して化学合成されるヘプシジンタンパク質のフラグメントの適切なアミノ酸配列を予測することができる。これらの方法には、R.Bruce Merrifield,(Erickson and Merrifield,「Solid−Phase Peptide Synthesis」,in The Proteins,Volume 2,H.Neurath & R.Hill(Eds.)Academic Press,Inc.,New York pp.255−257;Merrifield,(1986)「Solid phase synthesis」,Science,242:341−347)によって考案された固相法が含まれる。固相法では、アミノ酸がポリスチレンビーズなどの不溶性マトリックスに結合している増殖中のペプチド鎖へ段階的に添加される。この方法の主要な利点は、各段階の所望の生成物が急速に濾過かつ洗浄できるビーズに結合させられる点であり、このため中間物を精製する必要が回避される点である。これらの反応は全てが単一容器中で実施されるので、生成物の反復輸送に起因する損失が排除される。この化学的ペプチド合成の固相法は容易に自動化できるので、約50残基を含有するペプチドを良好な収率および純度で日常的に合成することが実行可能になる(Stewart and Young,(1984)Solid Phase Peptide Synthesis,2nd ed.,Pierce Chemical Co.;Tam et al.,(1983)J.Am.Chem.Soc.,105:6442)。例えば、図9に示したアミノ酸残基1から50、または34から84に対応するヘプシジンタンパク質フラグメントを合成できよう。最も単純なレベルでは、ヘプシジンタンパク質の小ペプチドおよびフラグメントを産生するためには、市販で入手できるペプチド合成装置が特に有用である。フラグメントは、例えば天然ヘプシジンタンパク質に対する抗体を生成する際に有用である。
【0020】
当業者は、タンパク質を単離する公知の方法にしたがって本発明の単離ヘプシジンタンパク質の1つを容易に入手することができる。これらの方法には、イムノクロマトグラフィー、HPLC、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、およびイムノアフィニティクロマトグラフィーが含まれるが、それらに限定されない。例えば、Scopes,Protein Purification:Principles and Practice,Springer−Verlag(1994);Sambrook,et al.,in Molecular Cloning:A Laboratory Manual;Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biologyを参照されたい。
【0021】
最後に、ヘプシジンタンパク質をさらに精製するためには、例えばペンダントメチル基もしくは他の脂肪族基を有するシリカゲルなどの疎水性RP−HPLC媒質を使用する1つ以上の逆相高性能液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)ステップを使用できる。実質的に均質な単離組換えヘプシジンタンパク質を提供するためには、上記の精製ステップの一部または全部を様々な組み合わせで使用することができる。このように精製したヘプシジンタンパク質には実質的に他の哺乳動物タンパク質が含まれておらず、本発明によって単離タンパク質であると定義されている。
【0022】
ヘプシジンタンパク質の配列は、タンパク質シーケンシングのEdman分解法を使用して同定できる。この方法は、クロマトグラフィー法による引き続いての配列同定法のためにペプチドのアミノ末端から1回に1つのアミノ酸残基を連続的に除去する。例えば、Konigsberg and Steinman,(1977)Strategy and Methods of Sequence Analysis,in Neurath and Hill(eds.),The Proteins(3rd ed.)Vol.3,pp.1−178,Academic Pressに記載された技術を参照されたい。さらに、ヘプシジンタンパク質の配列分析は、(Hewick et al.,(1981)J.Biol.Chem,256:7990−7997;Stein and Undefriend,(1984)Analy.Chem.,136:7−23)に記載された技術にしたがった自動液相アミノ酸シークエネーターを使用して加速することができ、それによってピコモル量のヘプシジンタンパク質の分析が可能になる。
【0023】
精製ヘプシジンタンパク質は、ヘプシジンタンパク質に結合する分子を同定するために、当分野において周知のインビトロ結合アッセイに使用できる。これらの分子には、例えば小分子、コンビナトリアル・ライブラリーからの分子、抗体またはその他のタンパク質が含まれるが、それらに限定されない。結合アッセイで同定された分子は、次に当分野において周知のインビボ組織培養または動物モデル中でのアゴニストまたはアンタゴニスト活性について検査される。手短には、分子は複数の細胞培養または動物中で滴定され、次に動物/細胞の細胞死/動物死または長期生存のいずれかについて検査される。
【0024】
さらに、結合分子は例えばリシンもしくはコレラ菌などの毒素、または細胞にとって毒性である他の化合物と複合している場合がある。毒素結合分子複合体は次に、ヘプシジンタンパク質に対する結合分子の特異性によって腫瘍または他の細胞を標的とされる。
【0025】
組換えヘプシジンタンパク質のクローニングおよび発現
他の実施形態では、ヘプシジンタンパク質の産生は組換えDNA工学技術によって達成できる。例えば、適切なヘプシジンヌクレオチドのコーディング配列は、適切な宿主細胞中で合成する、クローニングする、および発現させることができる。ヘプシジンタンパク質をコードするDNA配列は知られているので(Pigeon et al.,(2001)J.Biol.Chem.276,7811−7819)、ヘモクロマトーシス、鉄欠乏性貧血、ヘモジデリン沈着症、肝硬変および本明細書に記載の他の疾患に罹患しているヒトまたは動物患者由来の肝組織から調製したcDNAライブラリーを特定のヘプシジンタンパク質cDNAについてスクリーニングするためのDNAプローブは、当分野において知られている標準方法によって合成することができる。これらのDNAプローブはさらに、当業者には周知の方法を使用してこれらのcDNAライブラリーからヘプシジンタンパク質遺伝子の全ファミリーを単離するために使用できる。例えば、Maniatis et al.,(1982)Molecular Cloning A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,N.Y.,Chapter 7に記載された技術を参照されたい。
【0026】
ハイブリダイゼーション方法は、標識化混合合成オリゴヌクレオチドプローブを使用することによる組換えクローンのスクリーニングのために有用であり、各プローブは、潜在的に、変性二本鎖DNAの非均質混合物を含有するハイブリダイゼーションサンプル中の特異的DNA配列の完全相補体である。そのようなスクリーニングのために、ハイブリダイゼーションは好ましくは一本鎖DNAまたは変性二本鎖DNAのどちらかについて実施される。非特異的結合を回避するように向けられたストリンジェントなハイブリダイゼーション条件を使用することによって、例えば、その完全相補体である混合物中のその一本鎖プローブに対する標的DNAのハイブリダイゼーションによって特異的DNAクローンのオートラジオグラフィーによる視認が可能になる(Wallace,et al.,(1981)Nucleic Acids Research,9:879)。
【0027】
あるいは、そのタンパク質に対する抗体を使用して、少なくとも1つのエピトープを有する本発明のヘプシジンタンパク質に対して発現ライブラリーを間接的にスクリーニングすることができる。そのような抗体はポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のどちらであってもよく、ヘプシジンタンパク質の存在を表示する発現産物を検出するために使用できる。一般に、λgt11ライブラリーは、Huynh,et al.,(1985)(in DNA Cloning:A Practical Approach,D.M.Glover,ed.,1:49)の方法によって免疫学的に構築かつスクリーニングされる。
【0028】
ヘプシジンタンパク質をコードする特異的DNA配列の発生は、さらにまた、(1)ゲノムDNAからの二本鎖DNA配列の単離と、(2)当該タンパク質にとって必要なコドンを提供するためのDNA配列の化学的製造と、によって入手できる。
【0029】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を利用すると、引き続くヘプシジンタンパク質cDNAのクローニングおよび発現のために、ヘプシジンファミリーの個々のメンバーを増幅させることができる(例えば、米国特許第4,683,202号;第4,683,195号;第4,889,818号;Gyllensten et al.,(1988)Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,85:7652−7656;Ochman et al.,(1988)Genetics,120:621−623;Triglia et al.,(1988)Nucl.Acids.Res.,16:8156;Frohman et al.,(1988)Proc.Nat’1 Acad.Sci.USA,85:8998−9002;Loh et al.,(1989)Science,243:217−220を参照)。
【0030】
ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列および適切な転写/翻訳制御シグナルを含有する発現ベクターを構築するために、当業者に周知の方法を使用することができる。これらの方法には、インビトロ組換えDNA技術、合成技術およびインビボ組換え/遺伝子組換え法が含まれる。例えば、Maniatis et al.,1982,Molecular Cloning A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,N.Y.,Chapter 12に記載された技術を参照されたい。
【0031】
ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントを発現させるためには、様々な宿主発現ベクター系を利用できる。これらにはヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントに対するコーディング配列を含有する組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNAもしくはコスミドDNA発現ベクターを用いて形質転換された細菌などの微生物;ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントに対するコーディング配列を含有する組換え酵母発現ベクターを用いて形質転換された酵母;ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントに対するコーディング配列を含有する組換えウイルス発現ベクター(例、バキュロウイルス)を用いて感染させた昆虫細胞系;またはヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントに対するコーディング配列を含有する組換えウイルス発現ベクター(例、アデノウイルス、ワクシニアウイルス)を用いて感染させた動物細胞系が含まれるが、それらに限定されない。
【0032】
これらのベクターの発現要素は、それらの強度および特異性が相違する。利用される宿主/ベクター系に依存して、構成性および誘導性プロモーターを含む多数の適切な転写および翻訳要素のいずれかを発現ベクターにおいて使用できる。例えば、細菌系中でクローニングすると、バクテリオファージλ、plac、ptrp、ptac(ptrp−lacハイブリッドプロモーター)などのpLなどの誘導性プロモーターを使用できる。昆虫細胞系中でクローニングすると、バキュロウイルスポリヘドリンプロモーターなどのプロモーターを使用できる。哺乳動物細胞系中でクローニングすると、アデノウイルス後期プロモーターまたはワクシニアウイルス7.5Kプロモーターなどのプロモーターを使用できる。組換えDNAまたは合成技術により産生したプロモーターは、さらにまたヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントに対する挿入されたコーディング配列の転写を提供するために使用できる。
【0033】
酵母では、構成性または誘導性プロモーターを含有する多数のベクターを使用できる。概論については、Current Protocols in Molecular Biology,Vol.2,(1988)Ed.Ausubel et al.,Greene Publish.Assoc.& Wiley Interscience Ch.13;Grant et al.,(1987)Expression and Secretion Vectors for Yeast,in Methods in Enzymology,Eds.Wu & Grossman,(1987)Acad.Press,N.Y.,Vol.153,pp.516−544;Glover,(1986)DNA Cloning,Vol.II,IRL Press,Wash.,D.C.Ch.3;and Bitter,(1987)Heterologous Gene Expression in Yeast,Methods in Enzymology,Eds.Berger & Kimmel,Acad.Press,N.Y.,Vol.152,pp.673−684;およびThe Molecular Biology of the Yeast Saccharomyces,(1982)Eds.Strathern et al.,Cold Spring Harbor Press,Vols.I and IIを参照されたい。酵母中での相補性アッセイのためには、ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントに対するcDNAを、酵母2μ円の存在に起因して酵母中で自発的に複製する酵母エピソームプラスミド(YEp)内にクローニングすることができる。ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントの配列はADHもしくはLEU2などの構成性酵母プロモーターまたはGALなどの誘導性プロモーターのどちらかの後方でクローニングされてよい(Cloning in Yeast,Ch.3,R.Rothstein(1986)In DNA Cloning Vol.11,A Practical Approach,Ed.DM Glover,IRL Press,Wash.,D.C.)。構築物は、同源ヘプシジンタンパク質mRNAまたは酵母遺伝子に対応するヘプシジンタンパク質mRNAの5’および3’非翻訳領域を含有していてよい。YEpプラスミドは高い効率で形質転換し、これらのプラスミドは極度に安定性である。あるいはまた、酵母染色体内への異種DNA配列の統合を促進するベクターが使用されてもよい。
【0034】
ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントを発現させるために使用できる特に良好な発現系は昆虫系である。そのような1つの系では、Autographa californica核多核体病ウイルス(AcNPV)が異種遺伝子を発現させるためのベクターとして使用される。ウイルスは、Spodoptera frugiperda細胞中で増殖する。ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列は、ウイルスの非必須領域(例えばポリヘドリン遺伝子)内にクローニングしてAcNPVプロモーター(例えばポリヘドリンプロモーター)の制御下に置くことができる。ポリヘドリン遺伝子の挿入の成功は非閉塞性組換えウイルス(すなわち、ポリヘドリン遺伝子によってコードされたタンパク質性被膜が欠如するウイルス)の産生を生じさせる。これらの組換えウイルスは、次にその中で挿入遺伝子が発現するSpodoptera frugiperda細胞を感染させるために使用される。(例えば、Smith et al.,(1983)J.Biol.,46:586;Smith、米国特許第4,215,051号を参照)。さらに、バキュロウイルス/昆虫細胞発現系のための材料および方法は、例えばInvitrogen社(米国カリフォルニア州サンディエゴ)(MaxBat(商標)キット)からのキット形で市販で入手することができ、そのような方法は参照して本明細書に組み込まれるSummers and Smith,Texas Agricultural Experiment Station Bulletin No.1555(1987)に記載されているように、当分野において周知である。本明細書で使用するように、本発明のヘプシジンポリヌクレオチドを発現することができる昆虫細胞は形質転換されている。
【0035】
アデノウイルスを発現ベクターとして使用した場合は、ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列を後期プロモーターおよび三連リーダー配列などのアデノウイルス転写/翻訳制御複合体へライゲートすることができる。このキメラ遺伝子は次に、インビボまたはインビトロ組換えによってアデノウイルスゲノム内に挿入することができる。ウイルスゲノムの非必須領域(例、領域E1もしくはE3)内への挿入は、感染した宿主中で生育性であり、そしてヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントを発現することができる組換えウイルスを生じさせるであろう。(例えば、Logan & Shenk,(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.,(USA)81:3655−3659を参照)。あるいは、ワクシニア7.5Kプロモーターが使用されてもよい。(例えば、Mackett et al.,(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.,(USA)79:7415−7419;Mackett et al.,(1984)J.Virol.,49:857−864;Panicali et al.,(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.,79:4927−4931を参照)。
【0036】
挿入されたヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列を効率的に翻訳するためには、特異的開始シグナルが必要になることがある。これらのシグナルには、ATG開始コドンおよび隣接配列が含まれる。それの固有の開始コドンおよび隣接配列を含む全ヘプシジンタンパク質ゲノムが適切な発現ベクター内に挿入されると、追加の翻訳制御シグナルが不要になる可能性がある。しかし、ヘプシジンタンパク質コーディング配列の一部分しか挿入されない場合は、ATG開始コドンを含む外因性翻訳制御シグナルが提供されなければならない。さらに、開始コドンは、全挿入物の翻訳を保証するためにヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列のリーディングフレームと同位相でなければならない。これらの外因性翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然および合成の両方の様々な起源由来であってよい。発現効率は、適切な転写エンハンサー要素、転写ターミネーターなどを包含することによって強化できる(例えば、Bitter et al.,(1987)Methods in Enzymol.,153:516−544を参照)。
【0037】
さらに、挿入された配列の発現を調節する、または所望の特定方法で遺伝子産物を修飾およびプロセシングする宿主細胞株を選択することができる。ある種のプロモーターによって駆動される発現は、一定の誘導物質(例、メタロチオネインプロモーターに対する亜鉛およびカドミウムイオン)の存在によって上昇させることができる。このため、遺伝子組換えにより作製されたヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントの発現は制御できる。これは、クローン化異種遺伝子のタンパク質産物が宿主細胞にとって致死性である場合は重要である。さらに、タンパク質の機能にとってはタンパク質産物の修飾(例、グリコシル化)およびプロセシング(例、開裂)が重要なことがある。種々の宿主細胞は、タンパク質の翻訳後プロセシングおよび修飾のために特徴的かつ特異的機構を有する。発現した異種タンパク質の正確な修飾およびプロセシングを保証するためには、適切な細胞系または宿主系を選択できる。
【0038】
ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列を含有し、そして生物学的に活性なヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントの遺伝子産物を発現する宿主細胞は、少なくとも4種の一般的アプローチによって同定できる。(a)DNA−DNAハイブリダイゼーション;(b)「マーカー」遺伝子機能の存在もしくは不在;(c)宿主細胞中のヘプシジンタンパク質mRNA転写体の発現によって測定される転写レベルの評価;および(d)イムノアッセイまたはその生物活性によって測定されるヘプシジンタンパク質遺伝子産物の検出。
【0039】
第1アプローチでは、発現ベクター内に挿入されたヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列の存在は、実質的に近年に記載されたように(Pigeon et al.,(2001)J.Biol.Chem.276,7811− 7819)ヘプシジンタンパク質のコーディング配列もしくはその特定部分と相同であるヌクレオチド配列を含むプローブを使用してDNA−DNAハイブリダイゼーションによって検出できる。
【0040】
第2アプローチでは、組換え発現ベクター/宿主系は一定の「マーカー」遺伝子機能(例、チミジンキナーゼ活性、抗体に対する抵抗性、メトトレキセートに対する抵抗性、形質転換表現型、バキュロウイルス中での閉塞体形成など)の存在もしくは不在に基づいて同定および選択することができる。例えば、ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列をベクターのマーカー遺伝子配列内に挿入すると、マーカー遺伝子機能の不在によってヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列を含有する組換体を同定できる。あるいは、使用される同一もしくは相違するプロモーターの制御下でヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列と平行に配置すると、マーカー遺伝子は、ヘプシジンコーディング配列の発現を制御することができる。誘導または選択に反応したマーカーの発現は、ヘプシジンタンパク質コーディング配列の発現を示唆している。
【0041】
第3アプローチでは、ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング領域についての転写活性をハイブリダイゼーションアッセイによって評価できる。例えば、RNAは実質的に(Pigeon et al.,(2001)J.Biol.Chem.276,7811−7819)に記載されているようにヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列またはそれらの特定部分と相同であるプローブを使用するノーザンブロットによって単離および分析することができる。あるいは、そのようなプローブに対するハイブリダイゼーションのために宿主細胞の全核酸を抽出およびアッセイすることができる。
【0042】
第4アプローチでは、ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントの産物の発現は、例えばウェスタンブロット法、放射性免疫沈降法、酵素結合イムノアッセイなどのイムノアッセイによるように免疫学的に評価できる。
【0043】
ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントを発現する組換体が同定されると、遺伝子産物が分析されなければならない。これはその産物の物理的、免疫学的または機能的特性に基づくアッセイによって達成できる。例えば、本発明の方法には、本発明のヘプシジンポリヌクレオチドを含有する適切な発現ベクターを含有する宿主細胞がコードされたヘプシジンタンパク質の発現を可能にする条件下で培養される、ヘプシジンタンパク質を産生するための工程が含まれる。ヘプシジンタンパク質は、培養から、便宜的には培地から、または宿主細胞から調製された溶解液から回収し、さらに精製することができる。好ましい実施形態には、そのような工程によって産生したタンパク質がそのタンパク質の全長形または成熟形である実施形態が含まれる。
【0044】
本発明は、本発明の核酸フラグメントまたは本発明の核酸フラグメント変性変異体によってコードされた単離ヘプシジンタンパク質をさらに提供する。「変性変異体」とは、本発明の核酸フラグメント(例、ORF)とは核酸配列が相違するが、しかし遺伝コードの縮重のために同一タンパク質配列をコードするヌクレオチドフラグメントを意図する。本発明の好ましい核酸フラグメントは、タンパク質をコードするOrbである。
【0045】
本発明のヘプシジンタンパク質は、あるいはまたヘプシジンタンパク質を発現するように変化させられた細胞から精製することができる。本明細書で使用するように、細胞は、その細胞が遺伝子操作を通してそれが通常は産生しない、またはその細胞が通常は低レベルで産生するヘプシジンタンパク質を産生するようにさせられた場合に所望のポリペプチドまたはタンパク質を発現するように変化させられる。当業者であれば、本発明のヘプシジンタンパク質を産生する細胞を精製するために組換えまたは合成配列のどちらかを真核細胞または原核細胞内へ導入および発現させるための方法を容易に採用することができる。
【0046】
本発明のヘプシジンタンパク質は、さらにまたトランスジェニック動物の産物として、例えばヘプシジンタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含有する体細胞または胚細胞を特徴とするトランスジェニックウシ、ヤギ、ブタ、またはヒツジの乳汁の構成成分として発現させることもできる。
【0047】
ヘプシジンタンパク質は、知られている従来型化学合成によって産生させることもできる。合成手段によって本発明のヘプシジンタンパク質を構築する方法は当業者には知られている。合成法により構築したヘプシジンタンパク質配列は、天然ヘプシジンタンパク質と一次、二次または三次構造および/または立体配座特徴を共有することによって、タンパク質活性を含むそれらと共通する生物学的特性を有する可能性がある。そこで、それらは治療用化合物のスクリーニングおよび抗体を発生させるための免疫学的工程において天然の精製ヘプシジンタンパク質に対する生物学的に活性な、または免疫学的代用物として使用できる。
【0048】
本発明のヘプシジンタンパク質は、組換えタンパク質を発現させるために適切な培養条件下で形質転換宿主細胞を培養することによって調製することができる。結果として生じる発現したヘプシジンタンパク質は次に、ゲル濾過およびイオン交換クロマトグラフィーなどの知られている精製工程を使用して、そのような培養から(すなわち、培地または細胞抽出液から)精製することができる。ヘプシジンタンパク質の精製は、そのタンパク質に結合する物質を含有しているアフィニティーカラム、コンカナバリンA−アガロース、heparin−toyopearl(商標)もしくはCibacrom blue 3GA Sepharose(商標)などの親和性樹脂にわたる1つ以上のカラムステップ、フェニルエーテル、ブチルエーテル、もしくはプロピルエーテルなどの樹脂を使用する疎水性相互作用クロマトグラフィーを含む1つ以上のステップ、またはイムノアフィニティクロマトグラフィーをさらに含むことができる。
【0049】
あるいは、本発明のヘプシジンタンパク質はさらにまた精製を容易にする形態で発現させることができる。例えば、それはマルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)またはチオレドキシン(TRX)の融合タンパク質などの融合タンパク質として、またはHisタグとして発現させることができる。そのような融合タンパク質の発現および精製のためのキットは、New England BioLab社(マサチューセッツ州ベバリー)、Pharmacia社(ニュージャージー州ピスカタウェイ)およびInvitrogen社各々から市販で入手できる。ヘプシジンタンパク質はさらにまた1つのエピトープを用いてタグ付けし、引き続いてそのようなエピトープに向けられた特異的抗体を使用することによって精製できる。そのようなエピトープの1つ(「FLAG(登録商標)」)はKodak社(コネチカット州ニューヘブン)から市販で入手できる。
【0050】
タンパク質活性の全体または一部(例、TfR2受容体への結合、ヘプシジン特異的抗体への結合など)を維持すると予想され、スクリーニングまたは他の免疫学的方法のために有用であるヘプシジンタンパク質/ペプチドの配列のその他のフラグメントおよび誘導体もまた本明細書の開示を前提にすると当業者であれば容易に作製することができる。そのような修飾は本発明によって包含されている。
【0051】
ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントは、それが遺伝子配列の一部分である全遺伝子配列の発現から生じたのか、またはキメラタンパク質の産生を指示するためにライゲートされる2つ以上の遺伝子配列の結果として生じたのかにはかかわらず免疫反応性のはずである。この反応性は、放射性免疫沈降法、放射性免疫競合法、またはイムノブロットなどの免疫学の標準技術によって明示できる。
【0052】
ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントを定義する抗体の生成
当分野において知られている様々な方法を使用すると、ヘプシジンタンパク質の中央部分(アミノ酸20から50)またはエピトープのC末端(アミノ酸65から84)に対する抗体を産生することができる。ヘプシジン特異的抗体はそれらのエピトープに結合するが、他の知られている配列には結合しない。そのような抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、FabフラグメントおよびFab発現ライブラリーが含まれるが、それらに限定されない。抗体を産生させるためには、ウサギ、マウス、ラットなどを含むがそれらに限定されない様々な宿主動物を特定ヘプシジンタンパク質もしくは合成ヘプシジンタンパク質を用いた注射によって免疫にすることができる。免疫学的反応を増加させるためには、宿主の種に依存して、フロイントの(完全および不完全)アジュバント、水酸化アルミニウムなどのミネラルゲル、リゾレシチンなどの界面活性剤、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油性エマルジョン、アオガイヘモシアニン、ジニトロフェノール、ならびにBCG(bacille Calmette−Guerin)およびcorynebacterium parvumなどの潜在的に有用なヒトアジュバントを含むがそれらに限定されない様々なアジュバントを使用できる。
【0053】
ポリクローナル抗体は、例えばウマ、ウシ、様々な鳥類、ウサギ、マウス、またはラットなどの種々の温血動物から当業者が容易に生成することができる。手短には、ヘプシジンは、フロイントの完全もしくは不完全アジュバントなどのアジュバントの腹腔内、筋肉内、眼内、または皮下注射を通して動物を免疫にするために利用される。数回のブースター免疫後に、血清サンプルが収集され、ヘプシジンに対する反応性について試験される。特に好ましいポリクローナル抗血清は、これらのアッセイの1つでバックグラウンドより少なくとも3倍以上高いシグナルを生じさせるであろう。動物の力価がヘプシジンに対する反応性に関してプラトーに到達すると、週1回の出血、または動物を放血させることのどちらかによってより大量の抗血清を容易に入手できる。
【0054】
ヘプシジンのペプチドに対するモノクローナル抗体は、培養中の連続的細胞系による抗体分子の産生を提供するいずれかの技術を使用することによって調製できる。これらには、Kohler and Milstein,(Nature,(1975)256:495−497)によって最初に記載されたハイブリドーマ技術、より近年のヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kosbor et al.,(1983)Immunology Today,4:72)およびEBV−ハイブリドーマ技術(Cole et al.,(1985)Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.,pp.77−96)が含まれるが、それらに限定されない。本発明の追加の実施形態では、ヘプシジンタンパク質/ペプチドに特異的なモノクローナル抗体は、近年の工学技術を利用して無菌動物中に生成することができる(PCT/US90/02545)。本発明によると、ヒト抗体を使用でき、そしてヒトハイブリドーマを使用することによって(Cote at al.,(1983)Proc.Natl.Acad.Sci.,80:2026−2030)またはインビトロでEBVウイルスを用いてヒトB細胞を形質転換させることによって(Cole et al.,(1985)in,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,pp.77−96)入手できる。実際に、本発明により、「キメラ抗体」の産生のために開発された技術(Morrison et al.,(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.,8 1:6851−6855;Neuberger et al.,(1984)Nature,312:604−608;Takeda et al.,(1985)Nature,314:452−454)は、適切な生物活性を備えるヒト抗体分子由来の遺伝子と一緒に、適切な抗原特異性を備えるマウス抗体分子由来の遺伝子をスプライシングすることによって使用できる。そのような抗体は本発明の結果である。
【0055】
本発明によると、ヘプシジンタンパク質特異的一本鎖抗体を産生するために一本鎖抗体を産生するために記載された技術(米国特許第4,946,778号)を適合させることができる。
【0056】
本発明の追加の実施形態は、ヘプシジンタンパク質/ペプチドに対する所望の特異性を備えるモノクローナルFabフラグメントの迅速かつ容易な同定を可能にするFab発現ライブラリーを構築するために記載された技術(Huse et al.,(1989)Science,246:1275−1281)を利用する。
【0057】
ヘプシジンタンパク質に対する特異的結合部位を含有する抗体フラグメントは、公知の技術によって生成できる。例えば、そのようなフラグメントには、抗体分子のペプシン消化によって生成できるF(ab’)2フラグメントおよびF(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋を減少させることによって生成できるFabフラグメントが含まれるが、それらに限定されない。
【0058】
診断アッセイおよびキット
本発明のさらにまた別の目的は、ヘモクロマトーシス、鉄欠乏性貧血、ヘモジデリン沈着症、肝硬変および本明細書に記載のその他の疾患に罹患している個体からヘプシジンタンパク質を検出するための診断アッセイに使用するための試薬を提供することである。
【0059】
この実施形態の1つの様式では本発明のヘプシジンタンパク質はヘモクロマトーシス、鉄欠乏性貧血、ヘモジデリン沈着症、肝硬変および本明細書に記載のその他の疾患に罹患しているそれらの個体を検出するためのイムノアッセイにおける抗原として使用できる。本発明のヘプシジンタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドは、ほんの少数を挙げると、ラジオイムノアッセイ、酵素結合免疫吸着アッセイ、「サンドイッチ」アッセイ、沈降素反応、ゲル拡散免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、蛍光イムノアッセイ、タンパク質Aイムノアッセイおよび免疫電気泳動法アッセイを含むがそれらに限定されない当分野において知られているいずれかのイムノアッセイシステムで使用できる。米国特許第4,629,783号およびその中で言及された特許もまた適切なアッセイについて記載している。
【0060】
本発明によると、様々な形態のヘプシジンタンパク質に対して産生したモノクローナルまたはポリクローナル抗体は、ヘモクロマトーシス、鉄欠乏性貧血、ヘモジデリン沈着症、肝硬変および本明細書に記載のその他の疾患に罹患している患者を診断するために血液、脊髄液またはその他の体液のサンプルに対するイムノアッセイにおいて使用できる。
【0061】
本発明の1つの実施形態では、血液サンプルは静脈切開によって患者から採取され、EDTAなどの抗凝固剤と接触させられ、混合され、600gで10分間遠心され、血漿が当分野において一般的であるように採取される、または脊髄液サンプルは腰椎穿刺によって患者から採取される。
【0062】
本明細書に記載の抗体は、組織、血液もしくは体液のサンプル中のヘプシジンタンパク質の存在を決定するために多数の様々なイムノアッセイにおける基本的試薬として使用できる。一般的に述べると、抗体は定性的であっても定量的であろうと、あらゆるタイプのイムノアッセイにおいて使用できる。これには非競合タイプの2サイト・サンドイッチアッセイおよび1サイト・イムノアッセイの両方、ならびに伝統的競合結合アッセイが含まれている。
【0063】
検出の容易さ、およびその定量的性質のために特に好ましいのは、多数の変形が存在するサンドイッチアッセイまたは二重抗体アッセイであり、その全てが本発明に包含されることが意図されている。
【0064】
例えば、典型的なフォワードサンドイッチアッセイでは、非標識抗体が例えばマイクロタイタープレートウエルのような固体基質上に固定され、そして検査対象のサンプルが結合した分子と接触させられる。抗体−抗原二元複合体の形成を許容するために十分な期間である適切なインキュベーション時間後、次に検出可能なシグナルを誘導できるレポーター分子で標識された二次抗体が添加され、相違する部位での抗原との結合および抗体−抗原−標識抗体の三元複合体の形成を可能にする十分な時間にわたりインキュベーションが継続される。未反応物質は洗い流され、既知量の抗原を含有するコントロールサンプルとの比較によって定量できるシグナルの観察によって抗原の存在が決定される。フォワードサンドイッチアッセイの変形には、サンプルおよび抗体の両方が結合抗体へ同時に添加される同時アッセイ、または標識抗体および検査対象のサンプルが最初に結合され、インキュベートされ、そして非標識表面結合抗体へ添加される逆サンドイッチアッセイが含まれる。これらの技術は当業者には周知であり、小さな変形の可能性は容易に明白であろう。本明細書で使用する用語「サンドイッチアッセイ」は、基本的2サイト法の全ての変形を包含することが意図されている。
【0065】
本発明のサンドイッチアッセイについては、唯一の限定因子は両方の抗体がヘプシジンタンパク質に対して相違する結合特異性を有することにある。そこで、多数の組み合わせが考えられる。
【0066】
より特別な実施例として、典型的なフォワードサンドイッチアッセイでは、一次抗体は固体支持体へ共有的、または受動的のどちらかで結合させられる。固体表面は通常はガラスまたはポリマーであり、最も一般的に使用されるポリマーは、セルロース、ポリアクリルアミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルまたはポリプロピレンである。固体支持体は、チューブ、ビーズ、ディスクもしくはマイクロプレート、またはイムノアッセイを実施するために適切な任意のその他の表面であってよい。結合工程は、当分野において周知である。結合に続いて、固相−抗体複合体は検査サンプルの調製において洗浄される。検査対象のヘプシジンタンパク質を含有する体液のアリコートが次に固相複合体に添加され、ヘプシジンタンパク質に対して特異的な抗体へ提示されたいずれかのヘプシジンタンパク質の結合を可能にするために十分な時間にわたり25℃でインキュベートされる。次に二次抗体が固相複合体へ添加され、一次抗体―抗原固相複合体への結合を可能にする十分な追加の時間にわたり25℃でインキュベートされる。二次抗体はレポーター分子へ結合させられ、レポーター分子の可視シグナルを使用してサンプル中の抗原への二次抗体の結合が表示される。本明細書で使用する用語「レポーター分子」は、その化学的性質によって、抗原結合抗体の検出を許容する分析的に検出可能なシグナルを提供する分子を意味する。検出は、サンプル中の抗原の量の決定を可能にするために少なくとも相当に定量可能でなければならないが、これは絶対的な意味で計算できる、または知られている正常レベルの抗原を含有する標準物質(または一連の標準物質)との比較で行うことができる。
【0067】
このタイプのアッセイで最も一般的に使用されるレポーター分子は、酵素または蛍光体のどちらかである。酵素イムノアッセイの場合には、酵素は、しばしばグルタルアルデヒドまたは過ヨウ素酸塩によって、二次抗体へコンジュゲートさせられる。しかし容易に認識されるように、極めて広範囲の様々なコンジュゲーション技術が存在しており、当業者には周知である。一般に使用される酵素には、特にホースラディッシュペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼおよびアルカリホスファターゼが含まれる。特定酵素と一緒に使用される基質は、対応する酵素による加水分解後に一般に検出可能な変色を産生させるために選択される。例えば、アルカリホスファターゼコンジュゲートと一緒に使用するためにはp−ニトロフェニルホスフェートが適切である;ペルオキシダーゼコンジュゲートのためには、1,2−フェニレンジアミンまたはトルイジンが通例使用される。さらにまた、上記の色素原基質以外の蛍光産物を産生する蛍光原基質を使用することもまた可能である。全ての場合に、酵素標識抗体が第1抗体−ヘプシジンタンパク質複合体に添加され、その複合体に結合させられ、そして次に過剰な試薬が洗い流される。次に適切な基質を含有する溶液が抗体−抗原−標識抗体の三元複合体へ添加される。基質は二次抗体に結合した酵素と反応し、定性的可視シグナルを生じさせ、これはさらに通常は分光光度法によって定量すると血清サンプル中に存在する抗原の量の評価を可能にする。
【0068】
あるいは、フルオレセインまたはローダミンなどの蛍光化合物は、それらの結合能力を変化させずに抗体へ化学結合することもできる。特定波長の光線を用いて照明して活性化させると、蛍光色素標識抗体は光線エネルギーを吸収し、特徴的な長い波長での光線の放射に続いて分子に励起性の状態を誘導する。発光は、光線顕微鏡を用いて可視的に検出できる特徴的な色として現れる。酵素イムノアッセイ(EIA)におけるように、蛍光標識抗体は一次抗体−ヘプシジンタンパク質複合体へ結合させられる。未結合試薬を洗浄した後、残っている三次複合体は次に適切な波長の光線に暴露させられ、そして観察された蛍光は抗原の存在を指摘する。免疫蛍光法およびEIA法はどちらも当分野において極めて良好に確立されており、本発明の方法のためには特に好ましい。しかし、放射性同位体、化学発光または生物発光分子などの他のレポーター分子もまた使用できる。当業者には、必要な使用に適応させるために手順を変化させる方法は容易に明白であろう。
【0069】
あるいは、ヘプシジンタンパク質を含有するヒトの血液または脊髄液のいずれかである検査対象のサンプルは1サイトイムノアッセイに使用できるが、サンプルは固体基質へ共有的または非共有的のどちらかで付着させられる。非標識抗ヘプシジンタンパク質抗体は固体基質上に結合したサンプルと接触させられる。抗体−抗原二元複合体の形成を許容するために十分な期間である適切なインキュベーション時間後、次に検出可能なシグナルを誘導することのできるレポーター分子で標識された二次抗体が添加され、抗原−抗体−標識抗体の三元複合体の形成を可能にする十分な時間にわたりインキュベーションが継続される。1サイト・イムノアッセイのためには、二次抗体は、当該のヘプシジンタンパク質に対して特異的である抗体と結合できる一般的抗体(すなわち、免疫グロブリンに対する異種抗体、特にレポーター分子に結合した抗−(IgMおよびIgG)抗体)であってよい。
【0070】
ヘプシジン遺伝子(突然変異または正常)は鉄代謝のアッセイに利用できる。この遺伝子は、いずれかの付随分子と共に、もしくは伴わずに、ヒトもしくは動物被験者、健常被験者由来の細胞系もしくは一次細胞中、または他の有機体(齧歯類、昆虫、細菌、両生類など)由来の細胞中で発現する。これらの細胞による鉄の取り込みは、例えば放射性同位体を使用して測定される。さらに、ヘプシジン遺伝子産物への鉄の結合もまた測定できる。そのような実験は、鉄の取り込み、結合、ならびに細胞による、もしくは細胞中の輸送におけるヘプシジン遺伝子およびヘプシジン遺伝子産物の役割を評価するのに役立つ。
【0071】
治療的処置
本発明の1つの態様では、ヘプシジンによる診断方法およびキットは、例えばヘプシジンを過剰発現する、またはダウンレギュレートするためのような遺伝子工学的アプローチに使用できる。一定の治療用途では、ヘプシジン遺伝子、突然変異ヘプシジン遺伝子、ヘプシジンタンパク質、または突然変異ヘプシジンタンパク質の発現および/または機能をダウンレギュレートするのが望ましい。例えば、鉄が例えばある種の貧血(すなわち、サラセミア、溶血性貧血、輸血)で、身体内の蓄積量が少ない状態では、正常ヘプシジン遺伝子もしくは正常ヘプシジンタンパク質のダウンレギュレーションが望ましい。他方、鉄が身体内に過剰に蓄積されている状態では、突然変異ヘプシジン遺伝子またはヘプシジンタンパク質のダウンレギュレーションが望ましい。
【0072】
上記のように、正常または突然変異ヘプシジンタンパク質に特異的な抗体を調製できる。そのような抗体は、本明細書に記載の疾患において治療的に使用できる。例えば、突然変異タンパク質に関連する機能が正常ヘプシジンタンパク質機能をアップレギュレートして身体内の鉄の過剰蓄積をもたらす場合に、突然変異または正常ヘプシジン遺伝子の作用を遮断するために使用できる。同様に、抗体は身体内の鉄の過少蓄積を引き起こすヘプシジンタンパク質の作用を遮断するために治療的に使用できる。
【0073】
同様の方法で、正常または突然変異形のいずれかであるヘプシジン遺伝子は、その遺伝子またはその転写体に対して向けられたアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用を通してダウンレギュレートすることができる。上記で考察したように抗体と結び付けて類似の戦略を利用できる。アンチセンスオリゴヌクレオチドの設計に関する考察および使用についての特に貴重な概論については、その開示がこれにより参照して組み込まれるUhlmann et al.,(1990)Chemical Reviews 90:543−584を参照されたい。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、いずれかの知られている化学的オリゴヌクレオチド合成方法によって合成できる。そのような方法は、一般に、例えばWinnacker Chirurg(1992)63:145に記載されている。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、最も有益には市販で入手できるいずれかの自動核酸合成装置を利用して調製される。そのような装置の1つであるApplied Biosystems社製380B型DNA合成装置は、β−シアノエチルホスホロアミダイトの化学的性質を利用する。
【0074】
ヘプシジン遺伝子に相補的であるDNAの完全ヌクレオチド合成は知られているので、cDNA配列のmRNA転写体もまた知られている。したがって、そのような転写体のいずれかの部分とハイブリダイズ可能なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、当業者に知られているオリゴヌクレオチド合成方法によって調製できる。本発明の実践ではいずれかの長さのオリゴヌクレオチドを利用できるが、12塩基より短い配列は標的mRNAへハイブリダイズする際に特異性が小さく、酵素消化によってより容易に破壊され、そして酵素消化によって不安定化される可能性がある。したがって、12ヌクレオチド以上を有するオリゴヌクレオチドが好ましい。長い配列、特に約40ヌクレオチドを越える配列は、標的細胞による取り込みが低下するために、翻訳を阻害することに有効性がいくらか低い可能性がある。そこで、好ましいのは12〜40ヌクレオチド、より好ましいのは15〜30ヌクレオチド、最も好ましいのは18〜26ヌクレオチドのオリゴマーである。特に最も好ましいのは18〜24ヌクレオチドの配列である。
【0075】
本発明のさらにまた別の態様では、ヘプシジンは、ヘプシジン、ならびにヘプシジンのアゴニストまたはアンタゴニストを用いて患者を治療することによって、本明細書に記載の疾患の治療に使用できる。細胞中の鉄取り込みは、ヘプシジンの濃度を変化させることによって、および/または鉄またはトランスフェリン受容体へのヘプシジン結合を阻害することによって調節できる。したがって、ヘプシジン、およびヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストは鉄代謝の障害が存在する状態の治療において有用な可能性がある。例えば、そのような物質はヘモクロマトーシス、神経変性疾患、虚血性脳卒中もしくは外傷を含む虚血性組織損傷、心疾患、および腫瘍、特に皮膚癌、ならびに本明細書に記載のその他の疾患などの状態の治療において有用なことがある。
【0076】
本発明は、さらにまたヘプシジンを使用する鉄代謝を変調する方法を包含している。特に、本発明は鉄代謝における障害を含有する状態を治療するための方法であって、鉄変調量のヘプシジン、またはヘプシジンの刺激剤、アゴニストもしくはアンタゴニストを投与するステップを含む方法に関する。本発明の方法を使用して治療できる鉄代謝の障害を含む状態には、例えば、ヘモクロマトーシス、神経変性性疾患、虚血性脳卒中もしくは外傷を含む虚血性組織損傷、心疾患、および腫瘍、特に皮膚癌ならびに本明細書に記載のその他の疾患が含まれる。ヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストである物質は、その物質がヘプシジンと鉄との、またはヘプシジンとトランスフェリン受容体TfRlもしくはTfR2との結合活性に及ぼす作用、またはその物質がヘプシジンを発現できる細胞中のヘプシジンの発現に及ぼす作用を決定することによって同定でき、この細胞は、それらの表面上でヘプシジンを発現するように遺伝子組換えにより作製された細胞を含む。
【0077】
このため本発明は、1つの態様で、ヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストを同定する方法に関しており、これは、ヘプシジンが鉄に結合できる条件下でヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストであることが疑われる物質とヘプシジンおよび鉄とを反応させるステップと、鉄に結合したヘプシジンの量を測定するステップと、鉄と結合したヘプシジンの量をコントロールについて決定した量と比較することによってその物質の作用を決定するステップとを含む。本発明は、さらにまたヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストを同定する方法に関しており、この方法は、ヘプシジンがトランスフェリン受容体に結合できる条件下でヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストであることが疑われる物質とヘプシジンおよびトランスフェリン受容体とを反応させるステップと、トランスフェリン受容体に結合したヘプシジンの量を測定するステップと、トランスフェリン受容体と結合したヘプシジンの量をコントロールについて決定した量と比較することによってその物質の作用を決定するステップとを含む。
【0078】
本発明はさらにまた、ヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストを同定する方法に関しており、この方法は、ヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストであることが疑われる物質とヘプシジンを産生する細胞とを反応させるステップと、細胞によって発現したヘプシジンの量を測定するステップと、ヘプシジンの発現量をコントロールについて決定した量と比較することによってその物質の作用を決定するステップとを含む。本発明はさらにまた、ヘプシジン媒介性鉄取り込みのアゴニストもしくはアンタゴニストを同定する方法に関しており、この方法は、鉄の存在下およびトランスフェリンの不在下においてその表面上でヘプシジンを発現する細胞とヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストであることが疑われる物質とをインキュベートするステップと、細胞内への鉄取り込み量を測定するステップと、および細胞内の鉄取り込み量とその物質の不在下でのコントロールインキュベーションからの細胞内の鉄取り込み量とを比較することによってヘプシジン媒介性鉄取り込みのアゴニストもしくはアンタゴニストを同定するステップとを含む。
【0079】
本発明の一部の実施形態では、ヘモクロマトーシスなどの一次鉄過剰疾患もしくは症候群、または例えば繰り返しの輸血のような二次的原因により引き起こされた他の鉄過剰状態の症状を有する患者において治療使用するためのヘプシジンペプチドが提供される。ヘプシジンペプチドは、全長ヘプシジンまたはヘプシジンの一部のフラグメントであってよい。好ましくは、ヘプシジンペプチドはヘプシジンの28から47または70から80のアミノ酸残基を含む。ヘプシジンの予測されるアミノ酸配列ならびにゲノムおよびcDNA配列は、これによりそれらの全体が参照して組み込まれる(Krause et al.,(2000)FEBS Lett.480,147−150;Pigeon et al.,(2001)J.Biol.Chem.276,7811−7819)に提供された。ヘプシジンタンパク質もしくそのフラグメントは、例えば複合体の形状にあるβ−2−ミクログロブリンと一緒に投与されてよい。一部の実施形態では、約20アミノ酸より大きいヘプシジンタンパク質はβ−2−ミクログロブリンとの複合体で投与される。
【0080】
本発明の一部の実施形態では、ヘプシジンタンパク質もしくはトランスフェリン受容体のアゴニストもしくはアンタゴニストが提供される。ヘプシジンポリペプチドのアゴニスト、および/またはトランスフェリン受容体のアンタゴニストは例えば原発性もしくは続発性鉄過剰疾患もしくは症候群の治療において有用であるが、他方ヘプシジンポリペプチドのアンタゴニスト、またはトランスフェリン受容体のアゴニストは例えば貧血症などの鉄欠乏性状態の治療において有用である。他の実施形態では、野生型ヘプシジンタンパク質のアンタゴニストとして機能する突然変異ヘプシジンタンパク質/ペプチドが提供される。アンタゴニストもしくはアゴニストは、トランスフェリン受容体、またはヘプシジンタンパク質の中央部分(アミノ酸20から50)もしくはC末端領域(アミノ酸65から84)に対して向けられた抗体であってよい。本発明の一部の実施形態では、ヘプシジンポリペプチドはトランスフェリン受容体のアンタゴニストとして機能できる。本発明のさらにまた別の実施形態では、ペプチドミメティックは、当分野において周知の技術を使用してヘプシジンタンパク質および/またはトランスフェリン受容体のアンタゴニストもしくはアゴニストとして設計できる。
【0081】
トランスフェリン受容体のためのリガンドは、アンタゴニストであってもアゴニストであっても、トランスフェリン受容体に結合する能力について本明細書に記載の技術を使用してスクリーニングすることができる。さらに、トランスフェリン受容体へのヘプシジン結合に対する競合は、当分野において周知の技術を使用して実施できる。リガンド、またはより一般的には、ヘプシジンタンパク質に対する結合パートナーは、例えば本明細書に記載の技術を使用して、ヘプシジンポリペプチドのβ−2−ミクログロブリンへの複合体化を阻害する能力についてスクリーニングすることができる。
【0082】
本発明の一部の実施形態では、トランスフェリンのアゴニストもしくはアンタゴニストは、同様に、患者の肝細胞またはリンパ球などの細胞内に輸送される鉄の量を増加または減少させるために利用される。例えば、薬物、治療薬、アゴニストもしくはアンタゴニストの有効性は、その調節をインビトロ細胞系中でモニタリングされるスクリーニングプログラムにおいて同定できる。様々な突然変異ヘプシジンタンパク質/ペプチドを発現する宿主細胞系は一次スクリーニング系として使用するために適合する。候補薬は、これらの細胞とのインキュベーションおよびヘプシジン遺伝子に依存する細胞機能を測定することによって、または適正なヘプシジンタンパク質のフォールディングまたはプロセシングを測定することによって評価できる。そのようなアッセイは、さらにまたヘプシジン遺伝子機能の研究によって決定されるような受容体様活性、鉄輸送および代謝、遺伝子転写またはその他の上流もしくは下流生物学的機能を測定するステップも必要とすることがある。
【0083】
あるいは、無細胞系を利用することもできる。精製ヘプシジンタンパク質は、無細胞系中でスクリーニングされる人工の膜もしくは小胞および薬物内で再構成することができる。そのような系はしばしばより便宜的であり、本質的には高スループットタイプのスクリーニングおよび自動化にとってより扱いやすい。
【0084】
ヘプシジンタンパク質の純度を決定するための基準には、タンパク質科学の分野にとって標準的な基準が含まれる。これらには、N末端アミノ酸決定法、一次元および二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動法、ならびに銀染色法が含まれる。精製タンパク質はドラッグデザインにおいて役立つように二次および三次構造の決定に関する研究、そして分子の生物学的機能についてのインビトロ研究において使用するために有用である。
【0085】
本発明の一部の実施形態では、構造の知見および知られているヘプシジンタンパク質の機能相互関係からヘプシジン遺伝子およびヘプシジンタンパク質活性を調節するための薬剤を設計できる。このため、X線結晶学検査、コンピュータ援用分子モデリング(CAMM)、定量的もしくは定性的構造−活性関係(QSAR)、および類似の工学技術の使用による合理的ドラッグデザインはさらに新薬発見の努力に焦点を合わせることができる。合理的設計は、ヘプシジンタンパク質活性と相互作用してヘプシジンタンパク質活性を修飾できるタンパク質もしくは合成構造の予測を可能にする。そのような構造は、化学合成できる、または生体組織中で発現することができる。このアプローチは、Capsey et al.,Genetically Engineered Human Therapeutic Drugs,Stockton Press,New York(1988)において検討されている。さらに、コンビナトリアルライブラリーを設計し、合成し、スクリーニングプログラムにおいて使用できる。
【0086】
本発明に基づく、またはそれに由来する治療薬を投与するために、改善された輸送、送達、耐性などを提供するために適切な担体、賦形剤、およびその他の物質を調製物中に組み込めることは理解されるであろう。
【0087】
全ての製薬専門家に知られている処方集では極めて多数の調製物を見いだすことができる。Remington’s Pharmaceutical Sciences,(15th Edition,Mack Publishing Company,Easton,Pa.(1975))、特にその中のBlaug,Seymourによる第87章。これらの調製物には、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ろう、オイル、脂質、無水吸収基剤、水中油型もしくは油中水型エマルジョン、カーボワックスエマルジョン(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半流動ゲル、およびカーボワックスを含有する半流動混合物が含まれる。
【0088】
上記の調製物は、調製物中の活性物質がその調製物によって不活化されない、そしてその調製物が生理学的に適合性であることを条件に、本発明による治療および療法において適切な可能性がある。
【0089】
本発明は、本明細書に記載の実施形態には限定されず、本発明の範囲から逸脱せずに修飾または変更することができる。
【実施例1】
【0090】
ヒト肝組織および組織標本中でのヘプシジンの発現
本研究で使用したヒト肝サンプル(n=7)は、肝転移を伴う成人被験者における部分的肝切除術後に入手した。健常組織は、免疫組織化学検査のために4%パラホルムアルデヒド中で固定するか、またはRT−PCR、ウェスタンブロットおよび免疫蛍光分析のために液体窒素中で急速冷凍した。
【0091】
モルモット(n=7)およびマウス(n=5)に麻酔をかけ、引き続いて頸椎脱臼によって致死させた。肝臓、骨格筋および心臓からの組織標本を切除し、ウェスタンブロット分析のために液体窒素中で急速冷凍するか、またはパラホルムアルデヒド中で固定した。
【0092】
ペプチド合成、免疫方法、および抗体
公表されたプロヘプシジン配列(Krause et al.,(2000)FEBS Lett.480,147−150;Pigeon et al.,(2001)J.Biol.Chem.276,7811−7819)から、ペプチドであるヘプシジン−(28−47)およびヘプシジン−(70−84)を、標準Fmocプロトコール(Cetin et al.,(1994),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91,2935−2939)を使用してC末端アミドとして合成した。これらのペプチドはm−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを使用してアオガイヘモシアニンへ結合させ、そして2匹のSPFウサギ(Charles River Iffa Credo)を各ペプチドコンジュゲート(Eurogentec社、ベルギー国スラン)により免疫にした。本研究では、ELISAによって力価を試験した後、ヘプシジン−(70−84)に対して向けられた[EG(1)−HepC]ならびに各々ヘプシジン−(28−47)に対して向けられたEG(1)−HepNおよびEG(2)−HepNの3種の抗血清を使用した(図1)。(ヘプシジン28−47:PQQ TGQ LAE LQP QDR AGA RA(配列番号3)、ヘプシジン70−84:CGC CHR SKC GMC CKT(配列番号4))。抗血清を生成させるために使用したペプチドエピトープは、BLAST P2探索によって確証されたようにこれまでに報告されたいずれのタンパク質に対しても相同性を提示しなかった。
【0093】
あるいはマウスTfR2(BioTrend社、ドイツ国ケルン)に対するBT−TFR21S抗体は、例えばヒトTfR2−αの対応する領域に対して68%配列相同性を示しているαおよびβアイソフォームへスプライシングしたマウスTfR2−α(TfR2)のマウスの細胞質N末端に対して産生した。例えばFleming et al.,(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97,2214−2219)を参照されたい。この抗体をウサギにおいて生成し、アフィニティ精製した。
【0094】
ヒト肝における発現分析
RNA単離は、DNA消化を含むQiagen RNAeasyキットを使用して実施した。逆転写(RT)−PCR分析は、以前に記載のとおりに(Kulaksiz et al.,(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99,6796−6801;Kulaksiz et al.,(2002)Am.J.Pathol.161,655−664)、5−3’方向付けに提示された以下のプライマーおよび仕様ヒトヘプシジン(GenBankデータベース受託番号NM0211175)、ヌクレオチド位置147〜165および338〜316に対応する5’−CTG CAA CCC CAG GAC AGAG−3’(配列番号5)、および5,GGA ATA AAT AAG GAA GGG AGG GG−3’(配列番号6)を使用して実施した。ヌクレオチド位置2496〜2515および2694〜2675に対応するヒトTfR2(#AF067864)、5’−GAT TCA GGG TCA GGG AGG TG−3’(配列番号7)および5’−(GAA GGG GCT GTG ATT GAA GG−3’(配列番号8)。94℃、4分間での初期変性後;反応液には35サイクルの次の加熱プログラムを受けさせた。94℃で30秒間、60℃で30秒間、および72℃で30秒間;このプログラムの後には最後に72℃での5分間の鎖延長ステップが続いた。増幅産物は、臭化エチジウム染色した1.8%の89mM Tris/89mMホウ酸/2mM EDTA(pH 8.3)アガロースゲル上でランさせた。有意なレベルのゲノムDNAの増幅は、適切なコントロールによって排除した。
【0095】
HEPG2細胞中での発現分析
ヒト肝臓癌HepG2細胞をGerman Collection of Microorganisms and Cell Culture(ドイツ国ブラウンシュヴァイク)から入手し、10%(v/v)熱不活化FBS、ペニシリン(100単位/mL)、およびストレプトマイシン(100mg/mL)を補給したRPMI 1640培地(Gibco社、ドイツ国カールスルーエ)中の5% CO2中において37℃で増殖させた。細胞は、上記のプライマー仕様を使用してRT−PCRによって分析した。免疫蛍光アッセイ顕微鏡検査のためにHepG2細胞をメタノール中で4分間かけて固定したガラススライド上で増殖させ、そしてPBS中の0.5% Triton X−100を用いて透過処理した。ヘプシジン(1:2000)およびTfR2抗体(1:1000)の60分間に渡るインキュベーション、およびそれに続くCy−3−結合抗ウサギ抗体(Dianova社、ドイツ国ハンブルク)と一緒のインキュベーション後に、適切なフィルターを使用してOlympus AX70顕微鏡下で免疫染色を調査した。
【0096】
血清、組織およびHEPG2細胞からのヘプシジンおよびTFR2の抽出
ヘプシジンのより大きな起源として、本出願人らは慢性腎不全の患者から収集した血清を使用した。ヘプシジンを抽出するため、0.01N HClを用いて20mLの血清サンプルを1:1に希釈し、濃HClを用いてpH 3.0へ調整した。冷凍組織およびHepG2細胞を0.5M酢酸中で混合し、(Cetin et al.(1994)Proc Natl Acad Sci USA 91,2935−2939;Cetin et al.(1995)Proc Natl Acad Sci USA 92,5925−5929)に記載されたように8分間沸騰させた。Ultra−Turraxホモジナイザー(Janke & Kunkel、ドイツ国シュタウフェン)を用いて均質化した後、サンプルは4℃で20分間かけて20,000×gで遠心し、上清を孔径0.45μmのフィルターに通して濾過した。タンパク質を濃縮させるため、血清サンプル、細胞および全組織抽出液をオクタデカシリル(C18)Sep−Pakカートリッジ(Waters社、マサチューセッツ州)へ塗布した。カラムを0.01M HClで洗浄し、30%(v/v)の2−プロパノール/30%(v/v)のメタノール/0.01M HClを用いて溶離させた(Cetin et al.(1994)Proc Natl Acad Sci USA 91,2935−2939)。タンパク質分画を凍結乾燥させ、使用時まで−80℃で貯蔵した。TfR2分析のために、組織および細胞は100mM NaCI、50mM Tris−HCl(pH 7.4)、10%グリセロール、1% Triton X−100、2mg/mLのロイペプチン、2mg/mLのペプスタチン、および1mMのフッ化フェニルメチルスルホニルを含有するTris−HClバッファー中で均質化させ、そして4℃で30分間にわたり100,000gで遠心した。
【0097】
免疫ブロット分析
ウェスタンブロット分析のために、タンパク質抽出液は4%(w/v)SDS(Merck社、ドイツ国ダルムシュタット)、50mM Tris−HCl(pH 8.15)、1mM EDTA、3.24mMジチオスレイトール(Roth社、ドイツ国カールスルーエ)、12.5%(w/v)グリセロール(Merck社)、および0.002%ブロモフェノールブルー(Merck社)を含むサンプルバッファー中において94℃で7分間インキュベートした。ヘプシジンを検出するために、16.5%トリシン−SDS−ポリアクリルアミドゲルを公表されたプロトコール(Cetin et al.,(1994),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91,2935−2939;Kulaksiz et al.,(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99,6796−6801;Kulaksiz et al.,(2002)Am.J.Pathol.161,655− 664;Cetin et al.,(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92,5925−5929)によって使用した。TfR2イムノブロットは、8% SDS−ポリアクリルアミドゲルを使用して実施した。電気泳動法後に、半乾式ブロット法によって疎水性フッ化ポリビニリデンを基剤とする膜(Pall社、英国ポーツマス)上にタンパク質を移した。これらの膜は、上記の希釈率でヘプシジンまたはTfR2抗体と一緒に一晩インキュベートした。10mM Tris−HCl(pH 8.0)、150mM NaCl、および0.05% Tween 20を含有するTris−緩衝生理食塩液中で洗浄した後、色原体としてのニトロブルーテトラゾリウムおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェート(Sigma社)を使用してアルカリホスファターゼ結合ヤギ抗ウサギ抗体(希釈率1:50,000;Sigma社)とのインキュベーション後に各免疫反応性タンパク質を可視化した。ウェスタンブロット上の免疫反応は、抗体と対応するペプチド免疫原とのプレインキュベーション後に特異的に遮断された。第2ヤギ抗ウサギ抗体との公差反応性は、適切なコントロールによって排除した(Cetin et al.(1994)Proc Natl Acad Sci USA 91,2935−2939;Kulaksiz et al.(2002)Proc Natl Acad Sci USA 99,6796−6801;Kulaksiz et al.(2002)Am J Pathol 161,655−664;Cetin et al.(1995)Proc Natl Acad Sci USA 92,5925− 5929)。
【0098】
免疫組織化学検査および免疫蛍光法
組織を4%パラホルムアルデヒド中で18時間にわたり4℃で固定した。段階的希釈率でのエタノール中での脱水後、標本はパラフィン中に包埋した。パラフィン切片(5μm)をヘプシジン(抗体EG(l)−HepN、EG(2)−HepN、およびEG(l)−HepC、各希釈率1:2000)またはTfR2(抗体BT−TFR21−S.希釈率1:1000)に対して、以前に記載したとおりのアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ複合体(ABC)法およびインキュベーション順序(Kulaksiz et al.,(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99,6796−6801;Kulaksiz et al.,(2002)Am.J.Pathol.161,655−664)によって免疫染色した。これらの切片は各抗体と一緒に4℃で24時間インキュベートし、次に希釈率1:200のビオチニル化抗ウサギIgG(Jackson Immunoresearch社、米国ペンシルベニア州ウェストグローブ)と一緒に30分間インキュベートした。これらの切片は次にPBS中で希釈して前形成したビオチン−ペルオキシダーゼ/ストレプトアビジン(Jackson Immunoresearch社)の複合体と一緒に30分間インキュベートした(最終濃度:ビオチン−ペルオキシダーゼ、0.7μg/mL;ストレプトアビジン、5μg/mL)。抗原−抗体結合部位は、0.05M Tris−HCl(pH 7.6)中の07mM塩酸ジアミノベンジジン/0.002% H2O2中での切片のインキュベーションによって可視化された。
【0099】
免疫蛍光顕微鏡検査のために、ヒト肝からの組織切片(2〜4μm)はクライオトーム(FrigoCut 2800E;Leica社、ドイツ国Nussloch)を用いて調製し、2時間をかけて風乾し、そして低温アセトン(−20℃)中で10分間かけて固定した。二重免疫蛍光標識化は、特異的ヘプシジン抗体(希釈率1:1000)および希釈率1:30の小管P−糖タンパク質(Centocor社、ペンシルベニア州マルヴァーン)に対して産生されたモノクローナル抗体C219(id.)を使用して以前に記載されたとおり実施した(Rost et al.,(1999)Hepatology 29,814−821)。各抗血清とのインキュベーション後、マウスおよびウサギIgG(Dianova社、ドイツ国ハンブルク)に対するCy2−(1:200)およびCy3−(1:600)標識抗体とのインキュベーションによって染色を実施した。顕微鏡写真は、デジタルカメラ(color view 12,soft imaging system SIS社、ドイツ国ミュンスター)および分析ソフトウエア(SIS社、ドイツ国ミュンスター)を装備したOlympus AX70顕微鏡を用いて撮影した。
【0100】
特異性コントロール
方法依存性の非特異性は、(Cetin et al.,(1994),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91,2935−2939;Cetin et al.,(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92,5925−5929)に記載されたようにコントロールをランすることによって排除した。抗体特異性は、抗体と同種および異種抗原ペプチドとの前吸着によって試験した(6.25〜100μg/mLの抗血清)(Kulaksiz et al.,(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99,6796−6801;Kulaksiz et al.,(2002)Am.J.Pathol.161,655−664)。抗体と6.25μg/mLという低い濃度での同種抗原との前吸着は肝組織および細胞中での免疫染色を完全に遮断したが、抗体と100μg/mLまでの濃度の異種抗原との前吸着は免疫染色に影響を及ぼさなかった。
【0101】
ヘプシジンELISA競合結合アッセイ
血清サンプルは、26例の健常個体(女性13例、男性13例、年齢26〜64歳、平均43歳)、瀉血療法を受けた患者(15例)および受けていない患者(20例)を含むHFEにおけるC282Y突然変異に対するHHホモ接合性を備える患者35例(女性14例、男性21例、年齢23〜82歳、平均54歳)、ならびに長期的血液透析を受けている腎不全の患者59例(女性33例、男性26歳、年齢26〜96歳、平均57歳)から入手した。サンプル収集中には、患者が感染しないように細心の注意を払った。腎不全症群の患者19例は、最大値11g/dlのヘモグロビン値を特徴とする腎性貧血を有していた。慢性腎不全症を有する全患者は、3,000IEの組換えヒトエリスロポエチン(EPO)を用いて週2〜3回治療した。10mLの血液サンプルは氷温血清チューブ内に採取し、4℃で10分間、2,500×gで遠心した。測定は、40mM Tris−HCl(pH 7.3)、100mM NaClを含有するTris緩衝生理食塩液(TBS)中に1:4000で希釈したウサギ抗ヘプシジン抗体EG(2)−HepNで被覆された(200μL/ウエル)96ウエルマイクロタイタープレートを使用して2回ずつ実施した。様々な量の合成ペプチド(0、20、100、500、および1,000ng/mL)またはヒト血清サンプルを含有する標準物質50μLと、N末端がビオチニル化されたヘプシジン−(28−47)(Peptide Specialty Laboratories社、ドイツ国ハイデルベルク)150μLとを各ウエルに添加し(2ng/ウエル)、室温で1時間インキュベートした。TBST(0.05% Tween 20を含むTBS)を用いて洗浄した後、ビオチニル化抗原−抗体複合体は、基質のテトラメチルベンジジン(DRG Instruments社、ドイツ国マールブルク)を用いてストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ酵素(Dako社、ドイツ国ハンブルク)によって検出された。呈色反応は1M H2SO4を用いて停止させ、この溶液の吸光度を波長450/630nmで読み取った。
【0102】
当該の4つの群中で測定したヘプシジン値をEXCELのスプレッドシート内に入力し、SAS WIN Version 8.2を使用して評価した。測定値は、診断グループ毎の次の要約統計量:観察回数、相加平均、標準偏差、最小値、中央値、および最大値によって要約した。可能性のある群間差はペアワイズWilcoxon U検定を用いて分析した。有意性レベルは5%(0.05)に設定した。プロヘプシジンと鉄、フェリチンまたはトランスフェリンとの相関関係はSpearman順位相関によって分析した。
【0103】
肝およびHEPG2細胞中のヘプシジンおよびTFR2の発現
RT−PCR分析は、ヘプシジンがヒト肝で発現することを証明した(Gehrke et al.(2003)Blood MS#2002−11−3610.R2)。同様に、192−bpの予測されたPCR産物がHepG2細胞(コントロール)中で検出されたが、これらは既にヘプシジンを発現することが証明された(Pigeon C et al.(2001)J Biol Chem 276,7811−7819;Gehrke et al.(2003)(図2A)。さらに、RT−PCR分析は、TfR2がヒト肝およびHepG2細胞中で発現することを明確に解明した(データは示していない)。
【0104】
ウェスタンブロット分析では、全ヘプシジン抗体[EG(l)−HepN、EG(2)−HepN、およびEG(1)−HepC]は一致してヒトおよびモルモット肝の抽出液中で〜10kDaの免疫反応性バンドを同定した。この肝ペプチドは、HepG2細胞のホモジネート中でヘプシジン抗体によって認識された免疫反応性バンドと共移動した(図2B〜D)。全抗体は、さらにまたヒトおよびモルモット肝抽出液もしくはHepG2細胞抽出液を負荷した全レーンにおいて〜20kDaで免疫反応性タンパク質を同定した。骨格筋抽出液(コントロール)のウェスタンブロット分析は、10kDaの免疫反応性バンドも20kDaのバンドも示さなかった(図2B〜D)。TfR2抗体BT−TFR21−Sを用いたウェスタンブロット分析は、マウス肝の抽出液中で予想された(Fleming et al.,(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97,2214−2219)〜105kDaタンパク質の染色を生じさせた。ヒト肝およびHepG2細胞の抽出液中では、〜95kDaの免疫反応性TfR2および少ない程度で〜105kDaの免疫反応性タンパク質が同一抗体によって認識された(データは示していない)。心臓(コントロール組織)中では、免疫反応性は検出されなかった。
【0105】
HEPG2細胞中の免疫蛍光
エピトープ特異的抗ヘプシジン抗体を使用して、HepG2細胞中のヘプシジンペプチドの発現を免疫蛍光分析により調査した。全抗体は同様に、強力な免疫反応性を生じさせたHepG2細胞中でヘプシジンを同定した(図3)。ヘプシジンの細胞局在に一致して、TfR2抗体は同一細胞中でTfR2を検出した(データは示していない)。
【0106】
ヘプシジンおよびTFR2の細胞局在および細胞内局在
様々な領域特異的抗体を用いた免疫組織化学的試験は一致して、ヘプシジンをヒト肝の肝細胞へ局在化した(図4)。クッパー細胞、内皮細胞、胆管、および血管系ではヘプシジン免疫反応性は完全に欠如していた。同一抗体は、モルモット肝においても強度のヘプシジン免疫反応性を検出した(図4)。肝小葉はヘプシジン免疫反応性に関して不均一であった。肝小葉内では、ヘプシジン免疫反応性細胞は主として門脈周囲体に位置しており、ヘプシジン陽性細胞の頻度は門脈三管から中心静脈に向かって連続的に減少した(図5)。顕著にも、ヘプシジン陽性細胞間には明確な細胞間の相違が存在した。大多数の肝細胞はヘプシジンに対して強度に陽性であったが、他の肝細胞はほんのかすかな染色しか示さなかった、またはヘプシジンに対して完全に非反応性であった(図5)。細胞内レベルでは、免疫組織化学によってヘプシジン免疫反応性は肝細胞の側底(=洞様)膜ドメインに限定された。各細胞の頂端膜ドメインでは免疫反応性は見いだされなかった(図2)。同様に、免疫蛍光分析は側底膜ドメインでヘプシジンに対する強力な免疫反応性を証明した;小管P−糖タンパク質に対して産生されたC219抗体を用いた二重染色によって明らかになったように頂端膜ドメインからの免疫反応性は見られなかった(Rost et al.(1999)Hepatology 29,814−821)(データは示していない)。
【0107】
ヘプシジンの局在に対応して、タンパク質特異的抗体BT−TFR21−Sはヒトおよびマウス肝中でTfR2を検出した。細胞レベルでは、TfR2は肝細胞の側底膜で見いだされたが、これは免疫反応性の強度に関する明確な細胞間の相違を明らかにした(データは示していない)。不均質性は肝小葉内でも観察され、中心静脈から門脈三管に向かって免疫反応性が増加した。
【0108】
ヒト血漿中のヘプシジンプロペプチドの検出
特異的N末端ヘプシジン抗体EG(2)−HepNを用いて、高い再現性および感受性を備える安定性プロヘプシジンELISAアッセイ(DRG Instruments社、ドイツ国マールブルク)が開発された。図6から明らかなように、ELISAは、ヒト血清中のプロヘプシジン濃度が決定される範囲である4から400ng/mLまでの間の最高解像力を示した。特異性コントロールとして、異種ペプチドを用いてELISAにおけるインキュベーションを実施した。異種ペプチドを使用したときに、交差反応性は観察されなかった。
【0109】
血中のプロヘプシジンの存在は、ウェスタンブロット分析により確証された。全ヘプシジン抗体は、ヒト血清の抽出液中で肝組織およびHepG2細胞抽出液中の免疫反応性ヘプシジンと一緒に正確に共移動した〜10kDa分子量の単一ヘプシジン免疫反応性バンドを同定した(図2、B〜D)。
【0110】
ELISAの特性
このアッセイの感受性は3.95ng/mLであった。最も低い標準物質(20ng/mL)との重複は見られなかった。ゼロ標準物質に溶解させたヒトプロヘプシジンの連続希釈液は90.6〜111.6%の範囲内の回収率でプロヘプシジンELISAの検量線と平行にランした。予測濃度からの観察されたパーセンテージとして表示した回収率は91.8%から105.7%であった。アッセイ範囲の全域で試験したプロヘプシジンの3種の濃度で良好な精度が証明された(全CV<10%)。
【0111】
遺伝性ヘモクロマトーシス、慢性腎不全症および腎性貧血中のプロヘプシジンレベル
高感受性ヘプシジンELISAを使用して、51.6〜153.4ng/mL(血清)(平均値±SE;106.2±32.1ng/mL)の範囲内のプロヘプシジンが健常志願者26例のコントロール群中で検出された(図7、表1)。HH患者では、プロヘプシジンの濃度は12.1から153.9ng/mL(血清)(平均値±SE;70.2±38.1ng/mL)であった。これらの濃度は、コントロール被験者の濃度と比較して有意に低かった(P<0.05)(図7、表1)。CRIに罹患している患者の血清中のプロヘプシジン濃度は31.1から471.3ng/mL(平均値±SE;1481±88.0ng/mL)まで変動し、コントロール被験者(P<0.01)およびHH(P<0.001)における濃度と比較して有意に増加した。これとは対照的に、RAを有する血液透析患者中のプロヘプシジンレベル(115.0±53.1ng/mL;範囲、20.5〜252.4ng/mL)(P=0.05)はCRI患者と比較して有意に低下した(図7、表1)。
【0112】
プロヘプシジンと鉄、フェリチンまたはトランスフェリン飽和との間で、本出願人らのサンプル(HH、CRI、およびRAからの血清)中で有意な相関は見いだされなかった(図8)。ゼロからの差についての試験は有意性を示さなかった。
【0113】
【表1】
【0114】
考察
特異的プライマーを用いたRT−PCR分析は、ヘプシジンが、多くの態様において正常肝細胞の生理学を示している明確に分化した肝細胞癌細胞系であるHepG2細胞(コントロール)中で高度に発現することを証明した(Aden et al.(1979)Nature 282,615−616)。HepG2細胞中に上首尾で使用された適切なプライマー仕様および組み合わせを使用して、RT−PCR試験はヒト肝中でのヘプシジンの発現を確証した。ヘプシジン前駆体分子中の様々なエピトープを認識する3種の相違する抗体(図1)は、ウェスタンブロット分析によって、HepG2細胞中だけではなく、2つの種であるヒトおよびモルモットの肝抽出物中でも、〜10kDaの免疫反応性ペプチドを同定した。この免疫反応性ペプチドの見かけの分子量は、cDNA配列からのヘプシジンプロホルモンに対して推定された予測分子量にしたがっている(Pigeon C et al.(2001)J Biol Chem 276,7811−7819)(図1)。興味深いことに、〜20kDaの第2免疫反応性バンドはHepG2細胞ならびにヒトおよびモルモット肝の抽出物中で全ヘプシジン抗体によって検出されたが、コントロール組織中では欠如していた。この免疫反応性タンパク質は、ダイマータイプのヘプシジンを反映する可能性がある。実際に、以前の研究では、凝集特性および可能性のあるマルチマーの形成がヘプシジン−25については記載されているがヘプシジン−20については記載されていない(Hunter et al.(2002)J Biol Chem 277,37597−37603)。
【0115】
領域特異的および分子ドメイン特異的ヘプシジン抗体を用いた免疫細胞化学的研究は、既に分子生物学技術によって証明されたように、これらの細胞中でのヘプシジンの発現を示すHepG2細胞中の強力な免疫反応性を解明した(Gehrke et al.(2003)Blood MS#2002−11−3610.R2)。これらの様々なヘプシジン抗体を使用した免疫組織化学的および免疫蛍光検査は、ヒトおよびモルモット肝中で、ヘプシジンが特に主として門脈三管の周囲に位置する肝細胞中に特異的に局在することを示した。ヒトおよびモルモット肝中だけではなくHepG2細胞中での様々な領域特異的抗体による一致した染色は、肝細胞がヘプシジンの起源であることを指摘している。ヘプシジン免疫反応性は門脈周囲帯から中心静脈に向かって減少した。この門脈小葉内での帯域は、門脈周囲肝細胞が腸から鉄富裕な血液を輸送する門脈静脈への初回通過アクセスを有するので、機能的有意性を有する可能性がある。顕著にも、ヘプシジンの発現または分泌における細胞間の相違を反映する可能性があるヘプシジン免疫反応性の密度に関してヘプシジン陽性細胞間には明確な細胞間の相違が存在した。
【0116】
細胞内レベルでは、ヘプシジンは肝細胞の側底膜ドメインに集中していた。頂端膜ドメインでは、免疫反応性は見いだされなかった。細胞内レベルでのヘプシジンの離散的な分布パターンからは、ヘプシジンの肝洞様血管内への遊離が側底膜へ向けられたことを推論できる。この指向性の分泌経路はヒト血清中でのヘプシジンプロホルモンの検出(図1)によって追加して立証された(下記参照)。その結果、これらの所見はプロヘプシジンの分泌を介して内分泌腺法で鉄代謝を調節できるというさらなる証拠を提供している。
【0117】
TfR2ならびに各標的膜ドメインの発現および細胞分布を分析するために、細胞レベルでのRT−PCR、ウェスタンブロットおよび免疫組織化学的研究を実施した。以前の研究で証明されたように、RT−PCR分析はTfR2がヒト肝中で高度に発現することを解明した。(Fleming et al.,(2000)Proc.Natl.Acadi.Sci.USA 97,2214−2219)。このタンパク質の存在は、ヒトおよびマウスTfR2に対して特異的なBT−TFR21−S抗体を使用してウェスタンブロット試験によって確証された。〜105kDaの免疫反応性タンパク質はマウス肝抽出物中で検出された。免疫反応性TfR2のこの分子量は予想された95kDa(Fleming et al.,(2000)Proc.Natl.Acadi.Sci.USA 97,2214−2219)よりわずかに大きく、以前に記載されたように(Kawabata et al.,(2000)J.Biol.Chem.275,16618−16625)何らかの翻訳後修飾を表す場合がある。しかし同一条件下で、TfR2−抗体は予想分子量95kDaのタンパク質およびヒト肝抽出物中では低い親和性を備える105kDaタンパク質を同定した。ヒトおよびマウス肝のイムノブロット間の矛盾は、種間の相違に起因すると考えられる。
【0118】
免疫組織化学的検査は、TfR2がヒトおよびマウス肝の肝細胞に局在することを解明した。ヘプシジンの細胞分布に一致して、タンパク質特異的抗体はTfR2を排他的に側底膜に局在化した。このタイプのTfR2の膜特異的関連は特に、二鉄トランスフェリンに結合して血液から肝細胞内へのトランスフェリン結合鉄の取り込みを媒介することによって鉄代謝に関係している、TfR2の側底膜活性化を支持している(Philpott,C.C.(2002)Hepatology 35,993−1001;Subramaniam et al.,(2002)Cell Biochem.Biophys.36,235−239)。注目すべきことに、ヘプシジンについて記載されたものに類似する小葉帯域がTfR2について観察され、免疫反応性は門脈周囲帯から中心静脈に向かって減少した。
【0119】
細胞レベルでのヘプシジンとTfR2との相互作用が以前の研究で考察されているので(Nicolas et al.,(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98,8780−8785;Frazer et al.,(2002)Gastroenterology 123,835−844)、HepG2細胞−明確に分化した肝細胞癌細胞系(Aden et al.,(1979)Nature 282,615−616)中のヘプシジンとTfR2との共在が分析され、多くの態様において正常肝細胞の生理学的性質が証明された。ヒト肝中で使用されて成功した適切なプライマー仕様および組み合わせを使用するRT−PCR試験は、HepG2細胞中のヘプシジンおよびTfR2の発現を同定した。翻訳レベルでは、HepG2細胞中のヘプシジンおよびTfR2の存在は、肝組織由来の対応する免疫反応性バンドと共移動する正確な分子量の免疫反応性タンパク質バンドを生じたウェスタンブロット試験によって確証された。HepG2細胞中の各タンパク質の共局在化は、対応する領域特異的および分子ドメイン特異的抗体を使用する免疫細胞化学によって特に実証された。全抗体は、HepG2細胞中のヘプシジン標識化を証明しており、これらの細胞中の顆粒免疫反応性パターンを解明し、これは電子顕微鏡によって肝細胞中で既に証明されている小さな分泌小胞へのペプチドの局在化を推測させる(Schwartz et al.,(1985)EMBO J.4,899−904)。TfR2は、固有の分布パターンを伴って、HepG2細胞へ免疫細胞化学的に局在化された。
【0120】
転写レベルおよび翻訳レベルでの本試験データに基づくと、ヘプシジンおよびTfR2は肝臓内で共発現し、肝細胞の側底膜ドメインに共局在化される。細胞レベルでのTfR2およびヘプシジンの一致する局在化に加えて、門脈周囲帯における集中した免疫反応性および中心静脈に向かって減少する染色を伴う肝小葉内のこれらの分子の類似の分布もまた検出された。共通(側底)膜ドメインおよびそれらの類似の小葉帯域におけるこれらのタンパク質の調整発現は、調節性ペプチドホルモンヘプシジンとTfR2を介してのトランスフェリン結合鉄の取り込みとの形態機能的結合を支持している。実際に、様々なデータがヘプシジンとTfK2との相互作用を実証している。第一に、おそらくはTfR2によって感知されるトランスフェリン飽和における変化は肝性ヘプシジンの発現を調節する(Philpott,C.C.(2002)Hepatology 35,993−1001)。第二に、ヒト肝上での定量的RT−PCR分析から明らかなように、TfR2の肝性発現はトランスフェリン飽和によって調節されるヘプシジン発現と有意に相関している(S.G.Gehrke,H.Kulaksiz et al.、未公表データ)。第三に、ヘプシジンおよびTfR2は共通細胞膜ドメインに共局在しており、突然変異の症例ではTfR2(Fleming et al.,(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99,10653−10658)およびヘプシジン(Nicolas et al.,(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98,8780−8785)の発現を無効にする部位である門脈周囲帯における強力な免疫反応性を伴う同様の小葉分布を明らかにしているが、ヘプシジン(Zhou et al.,(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95,2492−2497;Levy et al.,(1999)Blood 94,9−11)およびB2m(Santos et al.,(1996)J.Exp.Med.184,1975−1985)の肝性鉄過負荷も発生する。第四に、TfR2遺伝子における突然変異はヘモクロマトーシスを引き起こすと報告された(Camasehella et al.,(2000)Nat.Genet.25,14−15)。これは、順に鉄吸収の上昇を生じさせる減少したヘプシジン発現の結果として発生する可能性がある(Nicolas et al.,(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98,8780−8785)。
【0121】
HepG2細胞中のヘプシジンおよびTfR2の同時の存在およびそれらの肝臓内での共通する極性局在および小葉分布は、ヘプシジンがトランスフェリン飽和によって調節され、そして順にヘプシジン発現を変調させるTfR2へ形態機能的に結合した内因性肝性ペプチドであることを指示している。そこで、ヘプシジンのシグナル経路に関する研究から関連する所見が得られると予想される。
【0122】
肝臓などの血液形成組織および鉄貯蔵部位は食事性鉄に対する身体の要求を指示する腸細胞へシグナルを伝送するので(Philpott C.C.(2002)Hepatology 35,993−1001)、ヘプシジンは肝細胞から分泌され、腸性鉄吸収を調節する候補シグナル因子である。しかし本発明の以前には、血液中における一定の分子形態のヘプシジンの存在については論争があった(Krause et al.(2000)FEBS Lett 489,147−150;Park et al.(2001)J Biol Chem 276,7806−7810;Hunter et al.(002)J Biol Chem 277,37597−37603)。
【0123】
ヘプシジンのプロホルモンが血液中に分泌されるかどうかを分析するため、そして健常志願者および様々な疾患を有する患者のヒト血清中のプロヘプシジンレベルの範囲を評価するために、ヘプシジンプロホルモンに対して産生されたN末端抗体EG(2)−HepNを適用することによってELISAが開発された。C末端抗体EG(l)−HepCはドットブロット(データは示していない)、ウェスタンブロット、免疫組織化学、および免疫蛍光の実験(図1〜4)において特異的結果を明らかにしたが、ELISAでは免疫反応性を入手することはできなかった。ヘプシジンの緻密なフォールディングパターンおよびその三次構造は、EG(l)−HepC抗体が循環中ヘプシジンを同定する能力がないことの原因である可能性がある。
【0124】
抗体EG(2)−HepNを用いたELISAは3.95ng/ウエルの検出限界をもつ高再現性、安定性および感受性ならびに4から400ng/mLの範囲内の強力な分解能を特徴とした。この範囲はヘプシジン濃度が決定された範囲であった。健常個体(n=26)由来のヒト血清中で、プロヘプシジンは51.6から153.4ng/mL(平均値±SE;106.2±32.1ng/mL)の範囲内で測定されたが、これは知られている調節性ペプチドホルモンの濃度に匹敵しており、ヒト尿中のヘプシジン濃度より約11倍高い(Park et al.(2001)J Biol Chem 276,7806−7810)。興味深いことに、測定された濃度は、このペプチドが強力な調節を受ける可能性があることを示す広範囲のプロヘプシジンを示した。
【0125】
cDNA構造は、ヘプシジンが、20〜25アミノ酸ペプチドへN末端でプロセシングされる84aaプレプロペプチドとして翻訳されることを示唆している(Park et al.(2001)(図1および9))。単一配列開裂部位に対する強力なコンセンサス配列は60残基プロペプチドを生じさせるであろうGly24とSer25との間に位置するが、以前の研究は肝組織および血液のような天然起源からより大きなプロペプチドを単離することに失敗した(Park et al.(2001))。技術的困難に加えて、肝臓中の富裕なプロペプチドコンバターゼは一定のプロペプチドの単離を阻害することがある。これに関連して、近年の研究は、血液(Krause et al.(2000)FEBS Lett 489,147−150)および尿(Park et al.(2001)J Biol Chem 276,7806−7810)中において2つの研究グループによって記載されたヒトにおけるヘプシジンの循環形態がこのタンパク質のC末端20−25アミノ酸から構成されることを証明している。しかし、本発明のELISA測定はヘプシジン前駆体のN末端に対して産生された特異的抗体を用いて実施され、これは20−25アミノ酸のプロセシングされた形態の他に、ヘプシジンプロホルモンが分泌され、ヒト血液中で循環することを示している。実際に、血液中へのプロヘプシジンの潜在的遊離がウェスタンブロット分析によって確証された。全ヘプシジン抗体はヒト血清の抽出液中で肝臓およびHepG2細胞の組織抽出物中の免疫反応性ヘプシジンと一緒に正確に共移動した〜10kDaの単一ヘプシジンバンドを同定した(ポジティブコントロール;図1)。10kDaより小さいヘプシジンフラグメントは検出されなかった。ヒト血清中のプロヘプシジンの存在は、肝細胞が内分泌経路を介する食事性鉄吸収を減少させる可能性があるヘプシジンのプロホルモンを分泌することを示している。
【0126】
鉄過剰を有する患者におけるヘプシジンの有意性を分析するために、本発明は検査下の全HH患者において検出される鉄過剰の典型的特性を有するHFEにおけるC282Y突然変異に対してホモ接合性であるHH患者35例の血清中のヘプシジン濃度を提供する。ヘプシジン濃度は、以前に想定されたように腸性鉄吸収を減少させるためにこれらの個体においては増加しなかった(Fleming and Sly(2001)Proc Natl Acad Sci USA 98,8160−8162)。HH患者の血清中のプロヘプシジンレベルは、非処置患者においてだけではなく、週1回の瀉血療法を受けている個体においても予想外にダウンレギュレートされた。健常志願者と比較して、プロヘプシジン濃度は106.2から70.2ng/mL(血清)へ顕著に低下した。処置および非処置HH患者間で相違は観察されなかった。これらの所見は、肝ヘプシジン発現がhfeノックアウトマウス(Ahmad et al.(2002)Blood Cells Mol Dis 29,361−366;Muckenthaler et al.(2003)Nat Genet 34,102−107)およびHFE関連性ヘモクロマトーシス患者においては有意に低下していることを証明した以前のHH試験と一致している。それらはさらに一次ヒト肝細胞およびHepG2細胞の鉄負荷がヘプシジンmRNAをダウンレギュレートすることを証明しているインビトロ試験とも一致している(Gehrke et al.(2003)Blood MS#2002−11−3610.R2;Nemeth et al.(2003)Blood 101,2461−2463)。鉄吸収がHHでは鉄過剰にもかかわらず強化され(Pietrangelo A.(2002)Am J Physiol.Gastrointest Liver Physiol 282,G403−414;Philpott C.C.(2002)Hepatology 35,993−1001;Anderson and Powell(2002)Int J Hematol 76,203−207)、そして構成性ヘプシジン発現はヘモクロマトーシスのマウスモデルでは鉄過剰を防止するので(Nicolas et al.(2003)Nat Genet 34,97−101)、HH患者ではヘプシジン調節は中断されると想定される。低下した濃度のヘプシジンは、明らかに上昇した腸性鉄吸収を十分に阻害することはできない。さらにこれらの所見は、肝ヘプシジン発現がhfeノックアウトマウス(Ahmad et al.(2002)Blood Cells Mol Dis 29,361−366;Muckenthaler et al.(2003)Nat Genet 34,102−107)およびHH患者(Bridle et al.(2003)Lancet 361,669− 673)においては有意に低下しているという所見に基づくと、鉄過剰にもかかわらずHHにおけるプロヘプシジンアップレギュレーションの欠如は、HFEが血清中ヘプシジンレベルの調節に関係している可能性があることを指摘している。
【0127】
以前の研究は尿によるヘプシジン排泄が血清中フェリチン濃度と明確に相関することを証明しているが(Nemeth et al.(2003)Blood 101,2461−2463)、本研究では、HHもしくは透析患者における循環中プロヘプシジンと血清中鉄もしくはフェリチンレベルとの間で相関関係は見いだされなかった。同様に、プロヘプシジンと、肝ヘプシジンの発現を調節すると言われている(Gehrke et al.(2003))トランスフェリン飽和との間の相関関係も検出されなかったが、検査下のHH患者はヘプシジンに影響を及ぼすパラメーターを表す貧血、低酸素症または炎症の影響を受けなかった。これらのデータは、鉄貯蔵による血清中のプロヘプシジンレベルの調節が複雑な間接的作用を含むことを示唆している(Nemeth et al.(2003)Blood 101,2461−2463)。
【0128】
ヘプシジンは尿からも単離されているが、本発明は腎不全症患者におけるヘプシジン調節の評価を提供する。HH患者および健常被験者とは対照的に、CRI患者の血清中の免疫反応性プロヘプシジン濃度は健常被験者における106.2ng/mLから148.1ng/mLへ有意に増加した。透析患者における増加したプロヘプシジンレベルは、腎臓が循環中ペプチドの代謝および/または排出に関係している可能性を示唆している。しかし、尿中ヘプシジンは血液から濾過されるだけであるのか、または腎臓起源であるのかについては現在は不明である。本発明に基づくと、ヘプシジンは腎尿細管細胞中でも見いだされたので(Kulaksiz et al.(2003)、未公表データ)、ヘプシジンが少なくとも一部には腎臓から遊離されることを排除できない。
【0129】
本発明は、正色素性、正球性赤血球を特徴とする進行性腎不全の明確に認識された合併症であるRAを有する透析患者におけるプロヘプシジン血清中レベルの決定を提供する。健常被験者と比較して、免疫反応性プロヘプシジン濃度はRA患者においては有意に高くはなかった(平均値、115.0ng/mL)。ペプチドホルモンの蓄積をもたらすこれらの患者における末期腎不全にもかかわらず、プロヘプシジンレベルは貧血を伴わない透析患者におけるより有意に低かった(平均値、148.1ng/mL)。本発明から、RAにおけるヘプシジン調節は炎症または肝細胞腺腫の貧血におけるヘプシジン調節とは相違すると結論される。RAにおけるプロヘプシジンのダウンレギュレーションは、腸による鉄吸収および細網内皮系マクロファージからの鉄遊離を強化させるためのペプチドの反応性の生理的変調を反映している。本発明は、プロヘプシジンがEPO療法にもかかわらず貧血を伴わないCRI患者群では増加することを提供する。そこで、ヘプシジンが失血のためにRAでは減少すると結論され、これがヘプシジンのダウンレギュレーションの理由である可能性がある(Nicolas et al.(2002)J.Clin.Invest 110,1037−1044)。
【0130】
本発明は、ヒト血清中のプロヘプシジンレベルを測定するためのELISAを提供する。このアッセイは非侵襲性である上に容易に実施することができ、したがってルーチン作業のために適切である。プロヘプシジンアッセイは、その精度、感受性、再現性およびヒト血清サンプルのヘプシジン−(28−47)の正確な決定に基づいている。本ELISAの適用は、数種の鉄代謝障害に罹患している患者におけるプロヘプシジンの検出および決定を初めて可能にする。様々な鉄の状態におけるプロヘプシジン作用の正確な分子機序を同定するためにはより詳細な研究が必要とされる。本発明は、さらにまたヘプシジンのアゴニストおよびアンタゴニストが鉄障害の予防および治療における潜在的薬物であることを提供する。
【0131】
ヘプシジンの役割を理解するためには、ペプチドの細胞起源およびシグナル経路についての知識が必須である。この点に関し、本発明は、肝細胞の側底膜ドメインに局在している部位であるヒトおよびモルモット肝中のヘプシジン免疫反応性について記載する。以前の研究は、これらの細胞と吸収性腸細胞との間に関連がある推測していた(Hunter et al.,(2002)J.Biol.Chem.,M205305200;Anderson et al.,(2002)Biochem.Soc.Trans.30,724−726)。本発明は、ヒト血漿中でのプロヘプシジンの検出について記載し、それにより、内分泌経路を介する食事性鉄吸収を減少させ得るヘプシジンのプロホルモンを、肝細胞が分泌することを示す。さらに、ヘプシジンはHepG2細胞中で検出され、その細胞中に新規発見のトランスフェリン受容体タイプ2も見いだされた(データは示していない)。
【0132】
ヒトまたは動物の血清およびその他の体液中におけるヘプシジンの定量的測定のための酵素イムノアッセイ
本発明の1つの実施形態では、ヘプシジン酵素イムノアッセイ(「EIA」)が使用される。EIAは、競合原理に基づく固相酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)である。96ウエルマイクロタイタープレートのマイクロタイターウエルは、ヘプシジン−(28−47)に対して向けられたポリクローナルウサギ抗ヘプシジン抗体で塗布される。サンプル中に存在する未知量のプロヘプシジンおよびビオチン分子と共役結合した固定量のヘプシジン−(28−47)は、ウエル上に固定されたヘプシジン抗体の結合部位を得るために競合する。1時間のインキュベーション後、競合反応を停止させるためにマイクロタイタープレートが洗浄される。引き続くインキュベーション後に、結合ビオチン分子がストレプトアビジンホースラディッシュペルオキシダーゼを用いて検出される。1時間半のインキュベーション後、プレートは2回洗浄される。基質溶液を添加した後、ヘプシジン濃度は測定された光学密度と反比例している。
【0133】
材料:
ウエルを抗ヘプシジン抗体で塗布したマイクロタイターウエル(96ウエル);試薬:ビオチンコンジュゲート(ビオチンにコンジュゲートしたヘプシジン)7mL;基準標準物質セット、各1.0mL;0、20、100、500、1,000、2,000ng/mL;プロヘプシジンコントロール、低および高、2バイアル(凍結乾燥物);試薬:酵素複合体(ホースラディッシュペルオキシダーゼにコンジュゲートしたストレプトアビジン(「HRP」))14mL;試薬:基質溶液 − HS−TMB、14mL;停止液、0.5M H2SO4、14mL;洗浄液、40×、30mL;マイクロタイタープレートリーダー(45±10nm)(例、DRG Instruments社マイクロタイタープレートリーダー);50および100μLのディスポーザブルチップを備える精密マイクロピペット;標準型の冷蔵庫;吸収紙;脱イオン水。
【0134】
この実施形態を好ましい材料に関して記載してきたが、本発明の分野における当業者であれば本発明において他の材料を使用できることを理解するであろう。例えば、当業者は、本発明においてビオチン/ストレプトアビジン以外の相補的結合成分ならびにホースラディッシュペルオキシダーゼ/過酸化物以外の酵素/基質の組み合わせを使用できることを理解するであろう。
【0135】
貯蔵条件
2〜8℃で貯蔵したときに、未開封試薬は使用期限までは反応性を維持するであろう。この期限の経過後に試薬を使用しないこと。マイクロタイターウエルは2〜8℃で貯蔵しなければならない。ホイル包装が開封されると、再度密に閉鎖するために注意を払わなければならない。塗布されたマイクロタイターウエルの免疫反応性は、開封されているが、乾燥剤を含有する緊密に閉鎖されたプラスチック製ファスナー付きパウチ中で約6週間安定性である。
【0136】
標本の収集および調製
本アッセイでは、ヒトまたは動物の血清またはEDTA血漿を使用しなければならない。生物学的サンプルの特別な前処理は不要である。生物学的サンプルは24時間までは2〜8℃で貯蔵することができるが、これより長期間については−20℃以下で冷凍しなければならない。肉眼的に溶血した、または肉眼的に脂肪血性である標本は使用しないこと。その他のサンプル材料については、特別な抽出プロトコールが必要になることがある。
【0137】
アッセイの性能:一般的所見
全ての試薬および標本は、使用前に室温にしなければならない。全ての試薬は、泡立たせずに混合しなければならない。
【0138】
テストがいったん開始されると、全ステップを中断させずに完了しなければならない。
【0139】
交差汚染を回避するためには、各試薬、標準物質または標本に対して新しいディスポーザブルのプラスチック製ピペットチップを使用すること。基質溶液および停止液を分注するためには、金属製パーツを備えるピペットを避けること。
【0140】
標準物質およびサンプルをウエルの底部にピペットで移す。酵素コンジュゲートおよび停止液をピペットで添加するためには、ピペットをウエルの上方で垂直位置に保持し、酵素コンジュゲートとサンプルまたは標準物質との、および停止液と基質溶液との完全な混合が達成されるように、ウエルの中心に相当する溶液を分注する。
【0141】
アッセイを開始する前に、全試薬を用意し、キャップを取り外し、必要な全てのウエルをホルダー内に固定することなどが推奨される。これは中断せずに各ピペット操作ステップを実施するために同等の経過時間を保証するであろう。
【0142】
一般的に、酵素反応は時間および温度と線形に比例している。これは一定の物理的−化学的条件のために内挿を可能にする。試験ランにおいてゼロ標準物質の吸光度が1.0未満またはマイクロタイタープレート分光計の性能上限より上方にある場合は、色の最終酵素的形成のインキュベーション時間を30もしくは10分間へ延長または短縮することができる。各ランにおいてキャリブレーターがアッセイされるので、吸光度の変動は結果に影響を及ぼさない。
【0143】
基質液は無色またはかすかなブルーもしくはグリーンでなければならない。この溶液がダークブルーである場合、試薬は使用不能なので廃棄しなければならない。
【0144】
基質溶液とのインキュベーション中には、マイクロタイタープレート上への直射日光を回避すること。
【0145】
試薬の調製
基準標準物質およびコントロール:1.0mLの二重蒸留水を用いて標準物質/コントロールバイアルの凍結乾燥内容物を再構成する。注意:再構成した標準物質/コントロールは2〜8℃で6日間は安定である。より長期間にわたり貯蔵するためには−20℃で冷凍する。洗浄液:40倍に濃縮した洗浄液(含量:30mL)へ脱イオン水を添加して最終量を1200mLとする。希釈洗浄液は、室温で2週間は安定である。
【0146】
アッセイ方法
所望の数の被覆されたストリップをホルダー内に固定する。
50μLのヘプシジン標準物質を適切なウエル内に分注する。
50μLのサンプルを選択したウエル内に分注する。
50μLのビオチンコンジュゲートを各ウエル内に分注する。
プレートを10秒間、完全に混合する。このステップで完全に混合することが重要である。
室温で60分間インキュベートする。
ウエルの中身を力強く振とうする。
希釈洗浄液を用いてウエルを3回すすぎ洗いする(1ウエル当たり400μL)。残っている液滴を取り除くために吸収紙上でウエルを激しくぶつける。
全ウエルに100μLのストレプトアビジンHRP複合体を添加する。
室温で30分間インキュベートする。
ウエルの含量を元気よく振とうする。
希釈洗浄液を用いてウエルを3回すすぎ洗いする(1ウエル当たり400μL)。残っている液滴を取り除くために吸収紙上にウエルを激しくぶつける。
指定時間間隔で、各ウエルに100μLの基質溶液を添加する。
室温で15分間インキュベートする。
ステップ10と同一時間間隔で各ウエルに100μLの停止液を添加することにより酵素反応を停止させ、450±10nmで各ウエルの吸光度を決定する。
【0147】
最終反応安定性
ステップ15から30分間以内にウエルを読み取ることが推奨される。
結果の計算
450±10nmで吸光度を決定できるあらゆるマイクロウエルリーダーを使用できる。各サンプルのテストステロン値を以下のとおりに入手する。
a.線形−線形または半対数グラフ用紙を使用して、各基準標準物質の平均吸光度(Y)をその対応する濃度(X)(ng/mL)に対してプロットすることによって検量線を構成する。検量線を構成するためには、4パラメーターロジスティック関数を推奨する。
b.必要であれば初期サンプル希釈率を掛けることによって、この検量線からの単純な内挿によって各サンプルの平均吸光度を使用して対応するテストステロン値を決定する。
【0148】
DRG ELIZA MAT 3000およびDRG回帰プログラムは、読取りおよび4パラメーターロジスティック関数を使用したコンピュータ援用解釈を可能にする。
【0149】
検量線の例
以下のデータは証明することだけを目的としており、アッセイ時点のデータ生成の代わりに使用することはできない。
【0150】
【表2】
【0151】
性能特性:感受性
図6は、ng/mL単位でのヘプシジン−(28−47)の濃度および波長450nmでのELISA溶液の吸光度を示している循環中ヒトプロヘプシジン検量線に対する代表的ELISAを示している。
【0152】
【表3】
【0153】
分析感受性は、平均値からゼロ標準物質の21回の反復分析(n=21)の2SD(SD=0.055)を差し引くことにより計算した。
【0154】
このアッセイの感受性は3.95ng/mLであった。このアッセイの直線性は、相違するヘプシジンレベルを有するサンプル(血清)をゼロ標準物質で希釈することによって評価した。希釈サンプル中のヘプシジン含量をELISAによってアッセイした。各サンプルおよび回収率(%)については3種の希釈率を計算した。
【0155】
【表4】
【0156】
ヘプシジンの分析的回収率は、血清サンプル中の3種の濃度で推定した。様々な初期ヘプシジン濃度を備えるサンプルへ、非標識ヘプシジンの量を増加させながら(50ng/mL、250ng/mL、500ng/mL)添加した。各サンプル(スパイクされていない、スパイクされている)をアッセイした。ヘプシジン濃度を測定し、回収率(%)を計算した。
【0157】
【表5】
【0158】
アッセイ内精度(ラン内)変動は、相違するヘプシジン含量を含む3つのコントロールサンプルの反復測定(n=12)によって決定した。
サンプル1:平均値=426.7;SD=20.2;CV(%)=4.69
サンプル2:平均値=210.7;SD=8.58;CV(%)=4.07
サンプル3:平均値=110.7;SD=4.74;CV(%)=4.28
【0159】
アッセイ間精度(ラン間)変動は、3種の相違するロットのキット中の相違する3つのコントロールサンプル(n=23)の反復測定(3×)によって決定した。
サンプル1:平均値=431.96;SD=20.8;CV(%)=4.82
サンプル2:平均値=216.17;SD=14.44;CV(%)=6.68
サンプル3:平均値=109.8;SD=10.72;CV(%)=9.76
【実施例2】
【0160】
ヒト腎臓中のヘプシジンの発現
ヘプシジンは遠位尿細管中で発現し、尿中に遊離される。
鉄ホメオスタシスは食事性鉄の吸収によって主として消化管内で制御されると広く考えられている。しかし、近年の研究は腎臓もまた鉄代謝に関係することを証明している。鉄調節性および抗菌性ペプチドであるヘプシジンはヒト尿から最初に単離されたので、本出願人は哺乳動物の腎臓におけるヘプシジンの細胞局在および細胞内局在を調査し、血清および尿中のプロヘプシジン濃度を分析するためにELISAアッセイを開発した。
【0161】
ヘプシジンの発現および細胞局在は、ヘプシジン特異的ポリクローナル抗血清を用いてヒト、マウス、およびラット腎においてRT−PCR、ウェスタンブロット、および免疫細胞化学検査によって証明された。その血清中および尿中濃度は感受性ELISAによって決定された。
【0162】
ヘプシジンは、ヒト、マウス、およびラット腎中で発現する。領域特異的抗血清を用いたウェスタンブロット分析は、プロヘプシジンの見かけの分子量に対応する〜9.5kDaのペプチドを同定した。局在試験は、ヘプシジンが腎皮質および腎の髄質外層中の遠位尿細管で発現することを明らかにした。細胞内レベルでは、ヘプシジンは尿中での追加の存在に基づいて、明白に尿中へ頂端で遊離される分泌性尿細管細胞の頂端膜ドメインに局在する。上昇したレベルのプロヘプシジン(156.8ng/mL、健常志願者104.2ng/mL)はCRI患者において決定されたが、これは腎臓が循環中ホルモンを代謝および/または排泄できることを示している。
【0163】
哺乳動物の腎臓中でのヘプシジンの発現から、本出願人らは鉄調節性ホルモンであるヘプシジンが内因性腎ペプチドであり、ヘプシジンは腎によって排泄/代謝されるだけではなく、腎尿細管系においても合成かつ尿中へ管腔を通して遊離されると結論する。腎臓中のヘプシジンの局在は、このペプチドが腎尿細管系において調節的役割を果たすことを意味している。
【0164】
緒言
近年の研究は、HFE−関連性ヘモクロマトーシスにおける異常なヘプシジン発現(Muckenthaler et al.,(2003)Nat Genet,34:102−107)および中断したヘプシジン調節(Bridle et al.,(2003)Lancet,361:669−673;and Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)ならびにヘプシジン突然変異と重度の若年性ヘモクロマトーシス(Roetto et al.,(2003)Nat.Genet.,33:21− 22)との関連を見いだした。これらの観察所見に基づくと、ヘプシジンが小腸における鉄吸収およびマクロファージからの鉄遊離の負の調節因子として作用する鉄ホメオスタシスにとって重要な構成要素であることが示唆されている(Nicolas et al.(2002)Proc Natl Acad Sci USA 99,4596−4601)。
【0165】
大多数の研究はヘプシジン産生の主要部位である(Park et al.;Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)肝臓中でのヘプシジンの調節および機能に集中しているが、このペプチドが腎臓および尿管においても役割を果たす可能性があるという指摘も集まっている(Id.,Wareing et al.,(2003)Am J Physiol Renal Physiol、印刷に先行する電子出版;およびFerguson et al.,(2003)Kidney Int.,64:1755−1764)。鉄ホメオスタシスは食事からの取り込みレベルでは主として消化管内で制御されると広く考えられている。生体中には鉄の分泌経路がないというのが現在の定説である。しかし、近年の研究は腎臓が鉄のホメオスタシスにおいて重要な役割を果たすことを証明している(Wareing et al.,(2003)Am J Physiol Renal Physiol.、印刷に先行する電子出版;Ferguson et al.,(2003)Kidney Int,64:1755−1764;およびGunshin et al.,(1997)Nature,388:482−488)。糸球体による限外濾過によって有意な比率の血清中の鉄を入手することができ、糸球体で濾過された鉄の大多数は再吸収される(Wareing et al.,(2000)J Physiol,524.2:581−586)。
【0166】
したがって、ヘプシジンが局所ペプチドとして腎臓内にも存在するかどうかを分析するのは合理的である。このため、本出願人らはヘプシジン前駆体分子の様々なエピトープに対して抗血清を産生し、転写および翻訳レベルで3種の哺乳動物種について調査した。本出願人らの所見は、腎臓における血清中ヘプシジンの排泄の他に、このペプチドが哺乳動物の腎の遠位尿細管細胞中の内因性ホルモンとしても産生され、尿中に管腔を通して遊離されることを示しており、これは腎臓および/または尿管中でのヘプシジンの調節性の役割を意味している。
【0167】
材料および方法
組織および組織の調製:本研究で使用したヒト腎サンプル(n=5)は副腎腫を有する成人患者における腎切除術後に入手した。本研究で使用したヒト肝サンプル(n=7)は肝転移を伴う成人患者における部分的肝切除術後に入手した(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)。健常組織を免疫組織化学検査のためには4%パラホルムアルデヒドまたはブアン固定液中で固定するか、またはRT−PCRおよびウェスタンブロットのためには液体窒素中で急速冷凍した。ラット(n=5)およびマウス(n=5)に麻酔をかけ、引き続いて頸椎脱臼によって致死させた。腎臓および肝臓からの組織標本を切除し、RT−PCRまたはウェスタンブロット分析のためには液体窒素中で急速冷凍するか、またはパラホルムアルデヒド中で固定した。
【0168】
ペプチド合成、免疫方法、および抗体:公表されたプロヘプシジン配列(Krause et al.,(2000)FEBS Lett.480,147−150;Pigeon et al.,(2001)J Biol Chem 276,7811−7819)から、ペプチドであるヘプシジン−(28−47)およびヘプシジン−(70−84)を、標準Fmocプロトコール(Kulaksiz et al.,(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99:6796−6801;and Kulaksiz et al.,(2002)Am J Pathol.,161:655−664)を使用してC末端アミドとして合成した。これらのペプチドはm−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを使用してアオガイヘモシアニンへ結合させ、そして2匹のSPFウサギ(Charles River−Iffa Credo)を各ペプチドコンジュゲート(Eurogentec社、ベルギー国スラン)により免疫した。抗体EG(l)−HepC、EG(2)−HepC[各々プロヘプシジン−(70−84)に対して向けられた]、ならびにEG(l)−HepNおよびEG(2)−HepN[各々プロヘプシジン−(28−47)に対して向けられた]が生成され、特性付けられ、そして使用された(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)。
【0169】
腎臓中での発現分析:GenBank cDNA配列に基づいて、以下のプライマーを構築かつ使用した。5’−3’の方向で与えられるヒトヘプシジン(データベース受託番号:NM021175)5’−CTG CAA CCC CAG GAC AGA G−3’および5’−GGA ATA AAT AAG GAA GGG AGG GG−3’;ラットヘプシジン(#NM053469)、5’−ACA GAA GGC AAG ATG GCA CT−3’および5’−GAA GTT GGT GTC TCG CTT CC−3’、マウスヘプシジン−1(#NM032541)、5’−CGA TAC CAA TGC AGA AGA GAA GG−3’および5’−TTC AAG GTC ATT GGT GGG GA−3’。これらのプライマーは以前報告された配列に対する相同性を示さなかった。
【0170】
RNA単離は、DNA消化を含むQiagen社製RNAeasyキットを使用して実施した。逆転写(RT)−PCR分析は、以前に記載のとおりに実施した(Kulaksiz et al.,(2002)Proc Natl Acad Sci USA,99:6796−6801;およびKulaksiz et al.,(2002)Am J Pathol.,161:655−664)。94℃、4分間での初期変性後;反応液には30サイクルの次の加熱プログラムを受けさせた。94℃で30秒間、60℃で30秒間、および72℃で30秒間;このプログラムの後には最後に72℃での5分間の鎖延長ステップが続いた。増幅産物は、臭化エチジウム染色した1.8%の89mM Tris/89mM ホウ酸/2mM EDTA(pH 8.3)アガロースゲル上でランさせた。特異性についてのコントロールとして、増幅したPCR産物をMWG−Biotechによってシーケンシングした。
【0171】
免疫ブロット分析:ウェスタンブロット実験を16.5 %のトリシン−SDS−ポリアクリルアミドゲル上で実施した。ヒト、マウス、およびラットの腎および肝、ならびにヒト尿由来のタンパク質(各実験のために50mL)を公表されたプロトコール(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊;Kulaksiz et al.,(2002)Proc Natl Acad Sci USA,99:6796−6801;およびKulaksiz et al.,(2002)Am J Pathol.,161:655−664)によって抽出した。電気泳動法後に、半乾式ブロット法によって疎水性フッ化ポリビニリデンを基剤とする膜(Pall社、英国ポーツマス)上にタンパク質を移した。1:1000で希釈したヘプシジン抗体と一緒に膜を一晩インキュベートした。10mM Tris−HCl(pH 8.0)、150mM NaCl、および0.05% Tween 20を含有するTris−緩衝生理食塩液中で洗浄した後、色原体としてのニトロブルーテトラゾリウムおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェート(Sigma社)を使用してアルカリホスファターゼ結合ヤギ抗ウサギ抗体(希釈率1:50,000;Sigma社)とのインキュベーション後に免疫反応性タンパク質を可視化した。ウェスタンブロット上の免疫反応は、抗体と対応するペプチド免疫原とのプレインキュベーション後に特異的に遮断された。第2ヤギ抗ウサギ抗体との交差反応性は適切なコントロールによって排除した(Kulaksiz et al.,(2002)Proc Natl Acad Sci USA,99:6796−6801;およびKulaksiz et al.,(2002)Am J Pathol,161:655−664)。
【0172】
免疫細胞化学的プロトコール:組織を4%パラホルムアルデヒド中、またはブアン固定液中に4℃で18時間固定し、パラフィン中に包埋した。パラフィン切片(4〜5μm)をヘプシジン(抗体EG(l)−HepN、EG(2)−HepN、EG(l)−HepC、およびEG(2)−HepC、各希釈率1:2000)に対してアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ複合体(ABC)法によって免疫染色した。インキュベーション順序および抗原−抗体結合部位の可視化は以前に詳述したように実施した(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊;Kulaksiz et al.,(2002)Proc Natl Acad Sci USA 99:6796−6801;およびKulaksiz et al.,(2002)Am J Pathol 161:655−664)。手短には、これらの切片は各抗体と一緒に4℃で24時間インキュベートし、次に希釈率1:200のビオチニル化抗ウサギIgG(Jackson Immunoresearch社、米国ペンシルベニア州ウェストグローブ)と一緒に30分間インキュベートした。これらの切片は次にPBS中で希釈した前形成したビオチン−ペルオキシダーゼ/ストレプトアビジン(Jackson Immunoresearch社)の複合体と一緒に30分間インキュベートした(最終濃度:ビオチン−ペルオキシダーゼ、0.7μg/mL;ストレプトアビジン、5μg/mL)。抗原−抗体結合部位は、0.05M Tris−HCl(pH 7.6)中の0.7mM塩酸ジアミノベンジジン/0.002% H2O2中での切片のインキュベーションによって検出した。
【0173】
特異性コントロール:方法依存性の非特異性は、公表されたようにコントロールをランすることによって排除した(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)。抗体特異性は、抗体と同種および異種抗原ペプチドとの前吸着によって試験した(6.25〜100μg/mLの抗血清)(Kulaksiz et al.,(2002)Proc Natl Acad Sci USA 99:6796−6801;およびKulaksiz et al.,(2002)Am J Pathol 161:655−664)。抗体と6.25μg/mLという低い濃度での同種抗原との前吸着は腎臓中での免疫染色を完全に遮断したが、抗体と100μg/mLまでの濃度の異種抗原との前吸着は免疫染色に影響を及ぼさなかった。
【0174】
ヘプシジンのELISA競合結合アッセイ:血清および尿サンプルを個体22例(女性11例、男性11例、年齢23〜59歳、平均39歳)から入手し、および血清サンプルは長期血液透析を受けている腎不全症を有する患者22例から入手した(女性11例、男性11例、年齢25〜77歳、平均48歳)。慢性腎不全症を有する全患者は、3,000 IEの組換えヒトエリスロポエチン(EPO)を用いて週2〜3回治療した。サンプル収集中には、健常志願者および患者が感染も出血もしないように細心の注意を払った。10mLの血液サンプルは血清チューブ内に採取し、10mLの尿サンプルは採尿チューブ中に採取し、4℃で10分間、2,500×gで遠心した。測定は、以前に記載したように(8)96ウエルマイクロタイタープレートを使用して2回ずつ実施した。手短には、1:4,000で希釈したウサギ抗ヘプシジン抗体EG(2)−HepN200μL/ウエルで、マイクロタイタープレートを被覆した。様々な量の合成ペプチド(0、20、100、500、および1,000ng/mL)またはヒト血清および尿サンプルを含有する標準物質50μLならびにN末端がビオチニル化されたヘプシジン−(28−47)(Peptide Specialty Laboratories社、ドイツ国ハイデルベルク)150μLを各ウエルに添加し(2ng/ウエル)、室温で1時間インキュベートした。TBST(0.05% Tween 20を含むTBS)を用いて洗浄した後、基質のテトラメチルベンジジン(DRG Instruments社、ドイツ国マールブルク)を用いてストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ酵素(Dako社、ドイツ国ハンブルク)によってビオチニル化抗原−抗体複合体を検出した。呈色反応は1M H2SO4を用いて停止させ、この溶液の吸光度は波長450/630nmで読み取った。
【0175】
統計的分析:データは平均値±SEMとして表示した。統計的分析はスチューデントのt検定によって評価した。P<0.05である差を有意であると見なした。
【0176】
結果
哺乳動物腎臓中のヘプシジンの発現:RT−PCR分析は、肝臓(陽性コントロール、Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊を参照)だけではなくヒト、ラットおよびマウス腎においてもヘプシジンの明白な発現を解明した(図10)。これらの動物種の肝臓(データは示していない)および腎臓中で、ヒトに対する192bpの予想PCR産物、マウスに対する193bpの産物、ラットに対する201bpの産物が検出された。配列分析により、PCR生成産物が対応するペプチドのcDNAと完全相同性を有することが解明された。
【0177】
翻訳レベルでは、ヘプシジンの存在が領域特異的抗体を用いてのウェスタンブロット試験によって確証された(図10)。ヘプシジン前駆体分子のCおよびN末端に対して向けられた抗血清は一致して、ヒト、ラットおよびマウス腎の抽出物中において〜9.5kDaの免疫反応性バンドを同定した。
【0178】
ヘプシジンの細胞局在:領域特異的ヘプシジン抗血清を用いた免疫組織化学的試験は、一致してヘプシジンをヒト、マウス、およびラット腎の遠位尿細管中へ局在化した(図11〜15)。近位腎尿細管、集合管、および糸球体には完全にヘプシジン免疫反応性が欠如していた。免疫反応性遠位尿細管は腎皮質および腎の髄質外層へ限定され、腎の髄質内層はヘプシジンに対する免疫染色を示さなかった(図11、12)。注目すべきことに、ヘプシジン陽性尿細管細胞間には明確な細胞間の相違が存在した。大多数の尿細管細胞はヘプシジンに対して強度に陽性であったが、他はほんのかすかな免疫反応性しか示さないか、またはヘプシジンに対して完全に非反応性であった(図14)。著しくは、調査した全切片において、ヘプシジン抗血清は遠位尿細管を内張りしている上皮細胞の細胞質中で糸球体免疫反応性パターンを明らかにした(図11、12)。一部の組織では、ヘプシジン陽性細胞は分泌性細胞の頂極で濃縮した強力な免疫反応性を示したが(図13、15)、各細胞の側底膜ドメインでは免疫反応性は見いだされなかった。
【0179】
血清および尿中のヘプシジンプロペプチドの検出:特異的N末端ヘプシジン抗体EG(2)−HepNを用いて、高い再現性および感受性を備える安定性ヘプシジンELISAアッセイが開発された(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)。図16に見られるように、ELISAはヒト血清中にプロヘプシジンが存在することを明らかにした。プロヘプシジンは、健常被験者の血清中で68.5から139.2ng/mL(平均値±SE;104.2±19.5ng/mL)の範囲内で測定された。慢性腎不全に罹患している患者の血清中のプロヘプシジン濃度は63.9から327.3ng/mL(平均値±SE;156.8±61.9ng/mL)まで変動し、コントロール群における濃度と比較して有意に増加した。
【0180】
感受性ヘプシジンELISAを使用して、プロヘプシジンはコントロール群からのヒト尿中では13.9から456.0ng/mL(平均値±SE;180.1±94.8ng/mL)の範囲内で検出された。ヒト尿中のプロヘプシジンの存在は、さらにウェスタンブロット分析によっても確証された。ヘプシジン抗血清はヒト尿の抽出物中で腎組織中の免疫反応性ヘプシジンと一緒に正確に共移動した〜9.5kDa分子量の単一ヘプシジン免疫反応性バンドを同定した(図10)。
【0181】
考察
新規ホルモンであるヘプシジンは抗菌性ペプチドそして鉄ホメオスタシスの中心的調節因子である(Park et al.,(2001)J Biol Chem,276:7806−7810;Krause et al.,(2000)FEBS Lett,480:147−150;Pigeon et al.,(2001)J Biol Chem,276:7811−7819;Nicolas et al.,(2001)Proc Natl Acad Sci USA,98:8780−8785;およびNicolas et al.,(2002)Proc Natl Acad Sci USA,99:4596−4601)。以前の研究では、肝臓がヘプシジンの主要起源であることが証明された(Park et al.,CH(2001)J Biol Chem,276:7806−7810;およびKulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)。ヘプシジンは最初にヒト尿(Park et al.,(2001))および血液濾液(Krause et al.,(2000))から単離されたが、腎臓ではこの調節ペプチドの発現は検出されなかった(Pigeon et al.,(2001))。
【0182】
肝臓で使用して成功した適切なプライマー仕様および組み合わせ(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊;およびGehrke et al.,(2003)Blood,102:371−376)を使用して、本RT−PCR分析は、ヘプシジンが肝臓中だけではなく、ヒト、ラット、およびマウスの3種の哺乳動物種の腎臓中でも発現することを明白に証明した。シーケンシング分析は生成したPCR産物の特異性を解明した。
【0183】
腎臓中の翻訳されたヘプシジンペプチドの存在を検証するために、本出願人らはヘプシジンに対する大量の領域特異的抗血清を産生し、それらをウェスタンブロット分析および免疫組織化学において使用した。ウェスタンブロット分析は、腎臓中でのヘプシジンの発現を確証した。ヘプシジン前駆体分子中の様々なエピトープを認識する4種の抗血清は3種の動物種の腎臓中で〜9.5kDaの免疫反応性ペプチドを同定したが、これは各cDNA配列から推定されたヘプシジンプロホルモンの分子量に対応する(Pigeon et al.,(2001))。この免疫反応性ペプチドの見かけの分子量もまた、肝臓中で検出されたヘプシジンプロホルモンの分子量と一致している(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)。出願人らの所見は、ヘプシジンが腎臓中にも存在するので、ヘプシジンが肝特異的ではないことを明確に証明した。
【0184】
4種の領域特異的ヘプシジン抗血清を用いた免疫組織化学的調査によって、ヒト、マウス、およびラットの腎臓中では、ヘプシジンが腎皮質および髄質外層の尿細管系に特異的に局在することが明らかになった。これらの免疫反応性尿細管は、光学顕微鏡で検出されたそれらの典型的な形態学的特徴によって遠位腎尿細管であると同定された。ヒトにおいてだけではなくマウスおよびラットの腎臓中での様々な領域特異的抗体による一致した染色は、遠位尿細管が腎ヘプシジンの起源であることを指摘している。近位腎尿細管、集合管、および糸球体または腎臓の髄質内層中ではヘプシジンに対する免疫反応性が検出されなかった。
【0185】
腎皮質および髄質外層では、ヘプシジンの免疫反応性は遠位尿細管の上皮分泌性細胞に限定された。注目すべきことに、全ヘプシジン抗血清は糸球体免疫反応性パターンを生じさせたが、これは既に電子顕微鏡によってこれらの細胞中で同定されている各細胞の小さな分泌小胞またはリソソーム中にこのペプチドが局在することを推定させる(van Katachalan MA,Kritz W:Pathology of the kidney.Edited by JC Jennette,JL Oldson,MM Schwarz,SG Silver:Philadelphia,Heptinstall’s,1998,pp 3−66)。顕著にも、ヘプシジンの発現または分泌における細胞間の相違を反映する可能性があるヘプシジン免疫反応性の密度に関して同一尿細管の上皮細胞間には明確な細胞間の相違が存在した。注目すべきことに、一部の尿細管ではヘプシジンの免疫反応性は上皮細胞の全細胞質中に存在したが、他の尿細管中では強力なヘプシジンの免疫反応性は分泌性細胞の頂極に集中していた。この細胞レベルでのヘプシジンの特有の分布パターンは、ヘプシジンの管腔を介する遊離を前提としている。本出願人らは、腎尿細管細胞の側底膜ドメインではヘプシジン発現を検出しなかった。これは、腎ヘプシジンが尿細管を内張している分泌性細胞によって血中に遊離されないことを示唆している。
【0186】
身体の鉄ホメオスタシスの制御は主として近位小腸における食事からの鉄取り込みの緊密な調節に依存すると広く考えられている。しかし、近年の研究は腎臓が鉄ホメオスタシスにおいて重要な役割を果たすことを証明している(Wareing et al.,(2003)Am J Physiol.Renal.Physiol.、印刷に先行する電子出版;Ferguson et al.,(2003)Kidney Int,64:1755−1764;およびGunshin et al.,(1997)Nature,388:482−488)。Wareingおよび共同研究者らは、代謝的に重大な量の鉄が糸球体で濾過され、実際的に尿中へ排泄されるのは濾過された鉄の0.8〜1.5%に過ぎないことを納得できるように証明することができた(Wareing et al.,(2000)J.Physiol.,524.2:581−586)。そこで、腎尿細管に沿って鉄再吸収のための極めて有効な経路があり、強力な調節が行われるに違いない。実際に、Fergusonおよび共同研究者らは、腎臓の尿細管系中で二価金属トランスポーター1(DMT−1)を局在することができた(Ferguson et al.,(2001)Am J Physiol Renal Physiol.,280:F803−F814)。このタンパク質は、消化管による食事性鉄の取り込みのための主要経路であると提案されている(Gunshin et al.,(1997))。注目すべきことに、DMT−1発現は、本出願人らもまたヘプシジンを見いだした場所である腎皮質および髄質外層の尿細管細胞の頂端膜ドメインで最高であることが証明されている。さらに、近年の研究は、変化した食事性鉄の摂取が腎DMT−1発現を強力に調節することを証明している(Wareing et al.,(2003))。ヘプシジン発現が十二指腸DMT−1の発現と逆相関していることを証明するこれらの所見およびデータ(Frazer et al.,(2002)Gastroenterology,123:835−844)に基づくと、本出願人らは腎鉄輸送においてヘプシジンが調節性の役割を果たすことを提案している。
【0187】
尿中へのヘプシジンの遊離の可能性は、ウェスタンブロット試験によって実証された。領域特異的ヘプシジン抗血清は、一致して、腎組織抽出物の場合と同様に免疫反応性プロヘプシジンと正確に共移動する正確な分子量(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)の強力に標識されたバンドを同定した。これらの所見は、プロヘプシジンが分泌性遠位尿細管によって合成され、そこでは尿細管タンパク質分解および再循環を免れる尿中へ管腔を通して遊離されることを明らかに示している。ヒト尿中のプロヘプシジン濃度を測定するために、3.95ng/ウエルの検出感受性を備える高感受性ELISAを開発した。すでにELISA実験(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)で使用されて成功を収めているヘプシジン抗血清EG(2)−HepNを用いたELISA分析は、健常被験者の尿中で13.9から456.0ng/mL(平均値±SE;180.1±94.8ng/mL)の範囲内の高濃度のプロヘプシジンを明らかにした。この濃度は、同一個人の循環中のプロヘプシジン濃度(68.5から139.2ng/mL;平均値±SE、104.2±19.5ng/mL)より相当に高い。注目すべきことに、循環中プロヘプシジンと血清中鉄もしくはフェリチンレベルとの間で相関は見いだされなかった(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)。同様に、尿中プロヘプシジンと肝中ヘプシジン発現を調節すると提案されている血清中鉄もしくはフェリチンレベル(Pigeon et al.,(2001)J Biol Chem,276:7811−7819;Nemeth et al.,(2002 Blood,101:2461−2463;およびGanz T,(2003)Blood,102:783−788)との間でも相関は検出されなかった(データは示していない)。このため、本出願人らは腎/尿中プロヘプシジンの調節は血清中鉄もしくはフェリチンによる直接的影響を受けないと提案する。
【0188】
長期的血液透析を受けている腎不全症患者におけるプロヘプシジン調節の評価は、これらの患者の血清中のプロヘプシジン濃度は健常被験者における104.2ng/mLから156.8ng/mLへ有意に増加することを明らかにした。透析患者における増加したプロヘプシジンレベルは、腎臓がヘプシジンの合成に関係しているだけではなく、それらが循環中ペプチドの代謝および/または排出にも関係している可能性を示唆している。興味深いことに、最新の研究では、腎ホルモンであるエリスロポエチンが肝ヘプシジン遺伝子発現をダウンレギュレートすることが証明されている(Nicolas(2002)Blood Cells,Molecules,and Diseases,29:327−335)。したがって、透析患者における増加したプロヘプシジン濃度についてまた別の説明は、末期腎不全症において一様に遭遇するエリスロポエチンの相対欠乏性であろう(Eckardt KU,(2000)Clin.Nephrol,53:S2−8;およびSantoro A:(2002)Rev Clin Exp Hematol,Suppl 1:12−20)。しかし、本出願人らはヘプシジン阻害性ホルモンであるエリスロポエチンを用いて治療された慢性腎不全症患者において測定されたプロヘプシジンの増加したレベルを報告しているが、これはヘプシジンの腎濾過を支持している。本発明の1つの実施形態は、尿中ヘプシジンが一部は腎臓、そして一部は肝臓を起源とすることを提供する。このため、測定された尿中プロヘプシジンが遊離された腎ペプチドおよび排泄された循環中ペプチドの総計であることに注目しなければならない。
【0189】
これらをまとめると、近年の研究は腎臓が鉄ホメオスタシスにおいて重要な役割を果たすことを証明しているが(Wareing et al.,(2003)Am J Physiol Renal Physiol、印刷に先行する電子出版;Ferguson et al.,(2003)Kidney Int,64:1755−1764;Gunshin et al.,(1997)Nature,388:482−488;Wareing et al.,(2000)J Physiol,524.2:581−586およびFerguson et al.,(2001)Am J Physiol Renal Physiol,280:F803−F814)、腎鉄輸送の調節機構についてのデータは存在しない。これに関連して、本出願人らは3種の哺乳動物種の腎臓中で最初にヘプシジンを局在した。本出願人らの所見は、ヘプシジンが肝臓特異的ではないことを示している。腎臓における血清中ヘプシジンの排泄の他に、ペプチドは分泌性腎遠位尿細管中の内因性ホルモンとしても産生され、尿中に管腔を通して遊離されることを示しており、これは腎臓および/または尿管中でのヘプシジンの調節性の役割を意味している。腎尿細管系におけるヘプシジンの調節機構は、今後の研究で分析されなければならない。
【実施例3】
【0190】
ヒト膵臓中のヘプシジンの発現
本研究に使用した膵臓組織は、膵臓癌に罹患している患者におけるホイップル手術後に入手した。肝臓および腎臓で使用されて成功を収めている適切なプライマー仕様および組み合わせを使用して、このRT−PCR分析は、ヘプシジンが肝臓および腎臓中だけではなく、ヒト膵臓中でも発現することを明らかにした。シーケンシング分析は、生成したPCR産物の特異性を解明した。
【0191】
特異的抗体を用いたウェスタンブロット分析は、膵臓中での翻訳レベルでのヘプシジンの発現を確証した。同一抗体を使用して、ヘプシジンは免疫組織化学によって膵臓中で局在化された。パラフィン切片は、ヘプシジンの免疫反応性が膵臓内分泌腺に局在することを明らかにした。膵臓外分泌腺では免疫反応性が見いだされなかった。
【産業上の利用可能性】
【0192】
本発明は、プロヘプシジンおよびそのフラグメントを含むヘプシジンタンパク質の非生理的レベルを特徴とする疾患状態を診断することに関連する用途を有している。
【0193】
本明細書では特定実施形態を参照しながら本発明について記載してきたが、これらの実施形態は本発明の原理および用途の単なる例示であることを理解されたい。このため、代表的な実施形態に多数の修飾を加えられること、そして添付の特許請求項によって規定された本発明の精神および範囲から逸脱することなく他の配置を考案できることを理解されたい。
【0194】
本明細書に言及した全ての特許文献および非特許文献は、本発明が関係する当業者の技術レベルを示している。これらの出版物および特許出願は全て、各々の出版物および特許出願が特別かつ個別に参照してここに組み込まれると指示されているのと同一程度に参照して本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0195】
【図1】N末端での典型的な24aaシグナルペプチド(aa24と25との間の線は推定シグナル配列開裂部位を示している)、35aaプロ領域、ならびに矢印で示したようにそれらのN末端短縮だけが相違するC末端20−、22−、および25−aaヘプシジンペプチドを含有するヒトヘプシジン前駆体タンパク質のアミノ酸配列を示した図である。ヘプシジン前駆体からのシグナルペプチドの開裂後、60aaから構成されるプロヘプシジン分子が産生する。ヘプシジン25において提案されたジスルフィド結合性は、破線によって示したように1−8、2−7、3−6、および4−5である(Hunter et al.,20から)。抗体記号によって示したように、抗血清EG(1および2)−HepNはヘプシジン前駆体aa28−47に対して産生され、抗血清EG(1)−HepCはaa70−84に対して産生される。
【図2】下記を示した図である。(A):ヘプシジンの遺伝子発現を示しているヒト肝(レーン2および3)およびHepG2細胞(レーン4および5)のRT−PCR分析。塩基対DNA格子が示されている(レーン1および7)。レーン6は陰性コントロールを示している。(B〜D):抗体EG(1)−HepN(B)、EG(2)−HepN(C)およびEG(1)−HepC(D)を用いた、モルモット(レーン1)およびヒト肝(レーン2)の抽出物ならびにHepG2細胞(レーン3)、ヒト血清(レーン4)、およびモルモット骨格筋(レーン5、コントロール)中でのヘプシジンのウェスタンブロット分析。全抗体を用いて入手した10および20kDaでの免疫反応性バンドがヘプシジン前駆体中で様々なエピトープを認識することに留意されたい(使用した分子量マーカー:ホスホリラーゼB、105kDa;グルタミン酸脱水素酵素、53kDa;炭酸脱水酵素、34kDa;ミオグロビンブルー、23kDa;ミオグロビンレッド、17kDa;リゾチーム、13kDa;アプロチニン、7kDa;インスリン、3kDa)。
【図3】抗体EG(1)−HepN(A)、EG(2)−HepN(B)、およびEG(1)−HepC(C)を用いた免疫蛍光顕微鏡によるHepG2細胞中のヘプシジンの検出を示した図である(スケールバー:8μm)。
【図4】モルモット(A〜F)およびヒト(G〜I)肝中のヘプシジンの細胞局在を示した図である。領域特異的抗体EG(1)−HepN(A、D、G)、EG(2)−HepN(B、E、H)およびEG(1)−HepC(C、F、I)を用いて免疫染色したパラフィン切片は、肝細胞の側底膜ドメイン(矢印)での明確な免疫反応性を示している。(倍率:A〜C、×180;D〜I、×540)。
【図5】肝小葉内のヘプシジンの明白な帯状構造を示しているモルモット肝の免疫組織化学的切片(A、抗体EG(1)−HepN;B、抗体EG(2)−HepN;C、抗体EG(1)−HepC)を示した図である。免疫反応性は門脈周囲帯域(星印)から中心静脈(矢じり)に向かって減少している。中心静脈周囲の肝細胞中では免疫反応性が見いだされないことに留意されたい(Bにおける矢印は門脈三管を示している)。(A〜C、×180)
【図6】循環中ヒトプロヘプシジンについてのELISA結果を示した図である。ng/mL単位でのヘプシジン−(28−47)の濃度および波長450nmでのELISA溶液の吸光度を示している代表的検量線である。ヘプシジン−(28−47)の濃度が4から400ng/mLの範囲内では分解能が高いことに留意されたい。
【図7】健常志願者26例(コントロール)、慢性腎不全症患者40例、慢性腎不全症および腎性貧血を有する患者19例、ならびに遺伝性ヘモクロマトーシス患者35例中での静脈血清中プロヘプシジン濃度値のボックスプロットを示した図である。ボックス内の線は中央値を示し、円は平均値を示している。ボックスの下縁および上縁は、第1および第3四分位を示し、ひげは最小値および最大値を示している。破線は、循環中免疫反応性プロヘプシジンに対するコントロール群の平均レベルを記している(106.16ng/mL)。
【図8】治療を受けた、および受けていないHH患者のサンプル中でのプロヘプシジンと鉄との相関関係(A)、フェリチンとの相関関係(B)およびトランスフェリン飽和との相関関係(C)を示した図である。本出願人らのサンプル中では顕著な相関が見いだされなかったことに留意されたい。
【図9】GenBankデータベース受託番号NM021175およびAAH20612各々から再現したヘプシジンの1つの形態の完全ヌクレオチド(配列番号1)およびアミノ酸配列(配列番号2)を示している。
【図10】下記を示した図である。(A):ヘプシジンの遺伝子発現を示しているヒト(レーン2)、マウス(レーン3)、およびラット(レーン4)腎のRT−PCR分析。塩基対DNA格子が示されている(レーン1および5)。(B、C):抗体EG(2)−HepN(B)、およびEG(1)−HepC(C)を用いてヒト(レーン1)、ラット(レーン2)、およびマウス(レーン3)腎の抽出物中、ならびにヒト尿(レーン4)中のヘプシジンのウェスタンブロット分析。両方の抗体を用いて入手した9.5kDaでの免疫反応性バンドがヘプシジン前駆体中で相違するエピトープを認識することを留意されたい(使用した分子量マーカー:ホスホリラーゼB、105kDa;グルタミン酸脱水素酵素、53kDa;炭酸脱水酵素、34kDa;ミオグロビンブルー、23kDa;ミオグロビンレッド、17kDa;リゾチーム、13kDa;アプロチニン、7kDa;インスリン、3kDa)
【図11】ラット腎皮質中のヘプシジンの細胞局在を示した図である。領域特異的抗体EG(l)−HepC(A)、EG(2)−HepC(B)、EG(1)−HepN(C)、およびEG(2)−HepN(D)を用いて免疫染色したパラフィン切片は、腎皮質の遠位尿細管中の明確な免疫反応性を示している。一部の尿細管では免疫反応性は上皮細胞の細胞質(矢印)内に分布しているが、他の尿細管中では免疫反応性は各細胞の頂極(D、矢じり)に局在している。腎糸球体(星印)にはヘプシジン免疫反応性が欠如することに留意されたい。(倍率:A、×90;B〜D、×180)
【図12】ラット(AおよびC)およびマウス(BおよびD)腎中でのヘプシジンの組織分布を示した図である。抗体EG(2)−HepNを用いての免疫組織化学検査結果は、黒色弧状点線によって示される外帯(os)と内帯(is)との間のヘプシジン免疫反応性の顕著な減少を伴う髄質外層(AおよびB)を示している。CおよびDは、髄質内層(m)内でのヘプシジン免疫反応性の欠如を示している。皮質(c)中では強度の免疫反応性が観察されている。(倍率:A、B、およびD、×90;C、×180)
【図13】抗体EG(1)−HepN(A)、EG(2)−HepN(BおよびD)、およびEG(1)−HepC(C)を用いたラット腎中のヘプシジンの細胞内局在を示した図である。一部の遠位尿細管では免疫反応性は上皮細胞の細胞質(矢印)内に分布しているが、他の尿細管中では免疫反応性は各細胞の頂極に向かって強度に集中している(黒色矢じり)。腎糸球体(星印)および近位尿細管(透明矢じり)にはヘプシジン免疫反応性が欠如することに留意されたい。(倍率:A〜D、×360)
【図14】ヒト腎臓中のヘプシジンの細胞局在を示した図である。抗体EG(1)−HepN(A)、EG(2)−HepN(BおよびD)、およびEG(1)−HepC(C)は腎皮質遠位尿細管(矢印)中の明確な免疫反応性を示している。同一尿細管では、細胞質染色を伴う強度の(黒色矢じり)およびかすかな(透明矢じり)免疫反応性の上皮細胞を示しているヘプシジン免疫反応性の細胞内の相違が存在する。糸球体(星印)中では免疫反応性は見られない。(倍率:A〜C、×180;D、×360)
【図15】抗体EG(1)−HepN(A)、EG(2)−HepN(BおよびD)、およびEG(2)−HepC(C)を用いたヒト腎中の遠位尿細管細胞の頂極でのヘプシジン免疫反応性の検出を示した図である。分泌性上皮細胞の頂極(黒色矢じり)では強度の免疫染色が見られるが、一部の細胞はヘプシジン免疫反応性が欠如する(透明矢じり)ことに留意されたい。星印は腎糸球体を示している。(倍率:A〜C、×180;D、×360)。
【図16】健常志願者22例(コントロール)および慢性腎不全を有する患者22例における静脈血清および尿中プロヘプシジン濃度値のボックスプロットを示した図である。ボックス内の線は中央値を示し、円は平均値を示している。ボックスの下縁および上縁は、第1および第3四分位を示し、ひげは最小値および最大値を示している。破線は、循環中免疫反応性プロヘプシジンに対するコントロール群の平均レベル(104.2ng/mL)を記している。
【配列表】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2002年11月19日に出願された特許出願第10/299,486号の一部継続出願である、2003年5月19日に出願された特許出願第10/441,089号の一部継続出願である。
【背景技術】
【0002】
鉄は、全ての生体組織の成長および発達にとって不可欠の必須微量元素である。鉄は、DNA合成や広範囲に及ぶ代謝工程にとって欠くことができない。しかし、鉄代謝の障害は、鉄欠乏性貧血、ヘモジデリン沈着症、または鉄過剰性疾患であるヘモクロマトーシスを含むがそれらに限定されない、多数の重大な哺乳動物の疾患に関連があるとされてきた(Pietrangelo,A.(2002)Am J Physiol.Gastrointest.Liver Physiol.282,G403−414;Andrews,N.C.(2000)Annu.Rev.Genomics Hum.Genet.1,75−98;Philpott,C.C.(2002)Hepatology 35,993−1001;Anderson and Powell(2002)Int J Hematol 76,203−203;Beutler et al.,(2001)Drug−Metab.Dispos.29,495−499)。生理的条件下では、ヒトの鉄含量は吸収を制御することによって調節される。哺乳動物では、鉄吸収は主として十二指腸および上部空腸において発生し、それにより鉄の貯蔵が生理的に制御される唯一のメカニズムである(Philpott,C.C.(2002)Hepatology 35,993−1001)。吸収された後、鉄は循環中トランスフェリンに結合し、身体全体の組織へ送達される。鉄貯蔵の主要部位である肝臓では、トランスフェリンに結合した鉄は伝統的なトランスフェリン受容体(TfRl)(Collawn et al.(1990)Cell 63,1061−1072)を介し、またおそらくより多くの量は、近年同定された同種トランスフェリン受容体2(TfR2)(Kawabata et al.(1999)J Biol Chem 274,20826−20832)を介して、受容体媒介性エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれる。このタンパク質の細胞外ドメインは、TfRlの対応する部分と45%同一である(Id.)。TfR2は、さらにまた二鉄トランスフェリンに結合して鉄の取り込みを促進することもできる。TfR2における突然変異は、鉄ホメオスタシスにおけるTfR2の重要な役割を示す特定の形態のヘモクロマトーシスと関連付けられてきた(Philpott,C.C.(2002)Hepatology 35,993−1001;Camasehella et al.,(2000)Nat.Genet.25,14−15;Fleming et al.,(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99,10653−10658)。TfR2は主として肝臓内で発現するが(Fleming et al.,(2000)Proc.Natl.Acadi.Sci.USA 97,2214−2219;Subramaniam et al.,(2002)Cell Biochem.Biophys.36,235−239)、正確な細胞局在はいまだ不明である。
【0003】
鉄欠乏性である個体では鉄吸収を強化するフィードバック機構が存在するが、鉄過剰であるヒトでは鉄吸収が減少する(Pietrangelo,A.(2002)Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 282,G403−414;Philpott,C.C.(2002)Hepatology 35,993−1001;Anderson and Powell(2002)Int J Hematol 76,203−203)。しかし遺伝性ヘモクロマトーシス(HH)では、この調節機構が損傷していると思われる。鉄過剰にもかかわらず、食事から吸収される鉄の量が上昇し、内臓中の過剰な鉄の蓄積を引き起こし、内臓障害および機能不全を生じさせる。腸が身体の鉄要求量変化に対応する分子機構に関しては十分には理解されていない。これに関連して、近年同定された哺乳動物ペプチドであるヘプシジン(Krause et al.(2000)FEBS Lett 489,147−150;Park et al.(2001)J Biol Chem 276,7806−7810)は、鉄ホメオスタシスを調節する重要なシグナリング成分であると予測される(Philpott C.C.(2002)Hepatology 35,993−1001;Nicolas et al.(2002)Proc Natl Acad Sci USA 99,4596−4601)。
【0004】
ヘプシジンは、主として肝臓で産生する、システインに富む小さなペプチドである。この分子は、腸内の鉄の吸収を調節し、マクロファージからの鉄の遊離を阻害する。ヘプシジンは最初に、抗菌活性を示すヒト血漿および尿中で25アミノ酸(aa)ペプチドとして単離された(Krause et al.(2000)FEBS Lett 489,147−150;Park et al.(2001)J Biol Chem 276,7806−7810)。引き続いて、鉄によって調節された肝特異的遺伝子を探索して、マウスにおける83aa前駆体ならびにラットおよびヒトにおける84aa前駆体をコードするヘプシジンcDNAが同定された(Pigeon et al.(2001)J Biol Chem 276,7811−7819)。ヒトヘプシジンのcDNA構造は、ヒトヘプシジンが84アミノ酸プレプロペプチドとして翻訳され、アミノ末端で60アミノ酸残基プロヘプシジンペプチドへプロセシングされ、さらに25アミノ酸ヘプシジンペプチドにプロセシングされることを示唆している(Park et al.(2001))。
【0005】
ヘプシジンの発現は、hfe−/−マウスにおいて見いだされる表現型と同一の表現型に似ている上流刺激因子2(Usf2)遺伝子の標的破壊に起因する鉄過剰を示すマウスでは無効にされ(Nicolas G,et al(2001)Proc Natl Acad Sci USA 98,8780−8785)、このペプチドが鉄代謝において極めて重要な役割を果たすという結論を導く。これとは対照的に、ヘプシジンの過剰発現はトランスジェニックマウスにおいて重度の鉄欠乏性貧血を生じさせることが証明されており(Nicolas et al.(2002)Proc Natl Acad Sci USA 99,4596−4601)、これはヘプシジンが鉄ホメオスタシスの主要な調節因子であることを示している。さらに、近年の研究は、hfeノックアウトマウスでは肝ヘプシジン発現が減少し(Ahmad et al.(2002)Blood Cells Mol Dis 29,361−366)、ヘプシジンペプチドにおける突然変異には重度の若年性ヘモクロマトーシスが関連している(Roetto et al.(2003)Nat Genet 33,21−22)ことを示しており、鉄過剰の分子病因論の理解において新しい展望を開いてきた。しかし、ヘプシジンが身体内鉄貯蔵のバランスを取る、または生理的状態および病理的状態において食事性鉄吸収を調整する機構はまだ同定されていない。
【0006】
この点で、このペプチドの細胞局在および様々な鉄の状態の調節は、ヘプシジン機能の研究において極めて重要である。様々な器官中のヒトおよびマウスヘプシジンmRNAレベルについてのノーザンブロット分析により、ヘプシジンは主として肝臓内で発現することが明らかになったが(Krause et al.(2000)FEBS Lett 489,147−150;Park et al.(2001)J Biol Chem 276,7806−7810;Nicolas et al.(2002)Proc Natl Acad Sci USA 99,4596−4601)、このペプチドの細胞局在に関するデータは存在していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ヘプシジンによる哺乳動物細胞の鉄取り込みの調節ならびに鉄代謝の障害に関係する疾患の診断におけるヘプシジンおよび/またはヘプシジン特異的抗体の使用に関する。本発明の診断用検出キットは、ヒトまたは動物いずれかの全集団のスクリーニングおよびこれらの疾患を有する被験者を同定する際に特に有用なことがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様は、非生理的レベルのヘプシジンを特徴とする疾患状態を診断するための方法であって、前記方法は、被験者から組織もしくは液体サンプルを入手するステップと、このサンプルをヘプシジンの中央部分(アミノ酸20から50)またはC末端(アミノ酸65から84)からのポリペプチドに特異的に結合する抗体もしくはそのフラグメントと接触させるステップと、抗体およびポリペプチドの結合に基づくアッセイを使用してヘプシジンレベルを定量するステップとを含み、非生理的レベルのヘプシジンが疾患状態を表示する。本発明の1つの態様では、ヒト血漿中のプロヘプシジンの検出を可能にする高感受性の診断方法およびキットが確立された。本発明は、上記で言及した疾患の治療中および治療後の進行のパラメーターとしてのヘプシジンを測定するためにヘプシジン抗体ならびに診断方法およびキットを使用できる、広範囲の治療上の展望を開く。
【0009】
本発明の1つの実施形態は、プロヘプシジンおよびそのフラグメントを含むヘプシジンタンパク質の生成および精製に関する。本発明のまた別の実施形態は、ヘプシジン特異的抗体、またはそれらのフラグメントもしくは変異体に関し、それらは順に、疑わしいヒトまたは動物においてプロヘプシジンを含むヘプシジンタンパク質を検出するためのイムノアッセイに使用できる。
【0010】
本発明のまた別の態様では、ヘプシジンによる診断方法およびキットは、例えばヘプシジンを過剰発現させる、またはダウンレギュレートするためのような遺伝子工学的アプローチに使用できる。
【0011】
本発明のさらにまた別の態様では、ヘプシジンは、ヘプシジン、およびヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストを用いて患者を治療することによって、本明細書に記載の疾患の治療的処置に使用できる。細胞中への鉄取り込みは、ヘプシジンの濃度を変化させ、鉄またはTfR2受容体へのヘプシジンの結合を阻害することによって調整できよう。したがって、ヘプシジン、およびヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストは鉄代謝の障害が存在する状態の治療において有用な可能性がある。例えば、そのような物質は上記の疾患などの治療において有用なことがある。
【0012】
本発明のこれらやその他の態様は、以下の図面および詳細な説明を参照することによってより明解に理解されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明では、ヘプシジンが哺乳動物細胞による鉄取り込みを調節すること、そしてヘプシジンの非生理的発現が鉄代謝の分布に関係する疾患を生じさせることについて記載する。本明細書で使用する用語「ヘプシジン」は、プロヘプシジン、ヘプシジン、もしくはそのフラグメントを意味する。血液中のヘプシジンの生理的濃度は、約50から約150ng/mLの範囲内である。非生理的濃度はこの範囲より下方または上方である。非生理的量のヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントは、鉄欠乏性貧血などの鉄欠乏症または過剰を生じさせる鉄代謝の障害;ヘモジデリン沈着症およびヘモクロマトーシスもしくは続発性ヘモクロマトーシス、セルロプラスミン欠乏症、低トランスフェリン血症、無トランスフェリン血症などの遺伝性および非遺伝性鉄過剰疾患;不確定原因の鉄過剰疾患、例えば胆管系の疾患、肝疾患、特にアルコール性肝疾患、非アルコール性脂肪肝炎、ならびに慢性B型およびC型肝炎感染症;鉄芽球性貧血、サラセミアなどの鉄を利用する疾患;白血病、赤血球増加症、大赤血球性、小赤血球性もしくは正赤血球性貧血、網状赤血球増加症を伴う貧血、溶血性貧血などの血液学的疾患;感染症および疾患に起因する細網内皮系の障害;炎症および敗血症を含む感染症;癌、肉腫、リンパ腫などの非生理的ヘプシジン濃度を生じさせる免疫学的疾患および腫瘍;アルツハイマー病およびウィルソン病などの神経変性性疾患と関連している。この発見によって、ヘプシジンタンパク質およびそのフラグメントについてのアッセイの開発、それに続くそれらの天然の構成および生理的活性を保持しながらの精製が可能になった。本発明は、一部には、ある種の障害に罹患している患者においてはヒトまたは動物の組織、血液および体液中にヘプシジンタンパク質が存在するという発見に基づいている。
【0014】
本発明は、これらの障害の患者におけるプロヘプシジンを含むヘプシジンタンパク質がヒトまたは動物の組織、血液および体液中において、これらの障害の患者ではない正常なヒトまたは動物の組織、血液および体液中において見いだされる濃度を大きく超える濃度で存在するという最初の証明を提供する。これは、患者からの組織、血液もしくは体液のサンプルを検査するステップと、ヘプシジンタンパク質および/またはプロヘプシジンの存在および量を検出するステップと、によって達成される。本発明による、組織、血液もしくは体液中のプロヘプシジンもしくはそのフラグメントを含むあらゆるヘプシジンタンパク質の検出および定量的測定は、罹患患者において本明細書に記載の疾患の臨床的診断を裏付け、またその疾患の経過を追跡する際に有用である。本発明は、そのような疾患を安定化させる、そのような疾患の発生を減少させる、または予防するという能力について検査される薬剤を用いた治療の期間中およびそれに続く期間にその疾患をモニタリングする際にも有用である。
【0015】
説明する目的でのみ、本発明を、(a)プロヘプシジンもしくはそのフラグメントを含むヘプシジンタンパク質を生成するステップ、(b)プロヘプシジンもしくはそのフラグメントを含むヘプシジンタンパク質に特異的に結合する抗体を生成するステップ、(c)本明細書に記載の疾患の亜型を診断する、またはモニタリングするための診断アッセイおよびキット、(d)ヘプシジンもしくはプロヘプシジンを過剰発現させる、およびダウンレギュレートするための方法、および(e)本明細書に記載の疾患の治療に関して記載する。
【0016】
本発明の1つの態様では、本出願人らは生理的状態および関連疾患においてヘプシジンが果たす役割を決定する方法を提供する。本発明のまた別の態様では、本出願人らはヘプシジン前駆体分子の中央部分およびC末端に対する特異的抗体を提供する。本発明のこの態様では、これらの抗体を使用してヒトおよびモルモット肝中のヘプシジンの細胞局在が明示された。HH、慢性腎不全(CRI)および腎性貧血(RA)を有する患者のヒト血清中のプロヘプシジンを検出する高感受性ELISAを確立した。本出願人らは、プロヘプシジンが肝細胞側底膜を越えて血液中へ遊離させられ、腎排泄を受けることを記載してきた。ヘプシジンの血清中レベルはHHおよび慢性RAでは顕著にダウンレギュレートされるので、ヘプシジンはこれらの疾患の病態生理において何らかの役割を果たすはずである。
【0017】
ヘプシジンタンパク質の産生
血液および体液からのヘプシジンタンパク質の単離
本発明のために、用語「ヘプシジンタンパク質」は、Pigeon and co−workers((2001)J.Biol.Chem.276,7811−7819)によって発表された予測アミノ酸配列と約80%のアミノ酸配列同一性を共有する哺乳動物ヘプシジンポリペプチドであると定義されている。本明細書で提供するヘプシジンタンパク質には、プロヘプシジン、ヘプシジンおよびそのフラグメントが含まれる。本明細書で提供するヘプシジンタンパク質には、さらにまた精製ヘプシジンタンパク質に類似するがその修飾が自然に提供される、または意図的に組換え作製されるアミノ酸配列を特徴とするタンパク質が含まれる。例えば、当業者であれば、公知の技術を使用してヘプシジンペプチドまたはDNA配列を修飾することができる。ヘプシジンタンパク質配列における当該の修飾には、コーディング配列中の選択されたアミノ酸残基の変更、置換、取替え、挿入または欠失が含まれてよい。例えば、分子の立体配座を変化させるために1つ以上のシステイン残基が欠失していてよい、または他のアミノ酸と取り替えられてよい。そのような変更、置換、取替え、挿入または欠失のための技術は当業者には周知である(例えば、米国特許第4,518,584号を参照)。好ましくは、そのような変更、置換、取替え、挿入または欠失は、そのタンパク質の所望の活性を保持する。タンパク質機能にとって重要であるヘプシジンタンパク質の領域は、一本鎖もしくは二本鎖アミノ酸とアラニンとの系統的置換、およびその後の結果として生じたアラニンを含有する変形を生物活性について検査することによるアラニンスキャン法を含む、当分野において知られている様々な方法によって決定できる。このタイプの分析は、生物活性における1つ以上の置換アミノ酸の重要性を決定する。
【0018】
ヘプシジンタンパク質の産生は、当業者に知られている標準技術を使用して、ヘモクロマトーシス、鉄欠乏性貧血、ヘモジデリン沈着症、肝硬変およびその他の本明細書に記載の疾患に罹患しているヒトまたは動物の組織、血液もしくは体液からヘプシジンタンパク質を単離するステップによって遂行できる。本発明に含まれるそのような技術は、さらにまた適切な培地中での宿主細胞の培養を増殖させるステップと、細胞またはその中で細胞が増殖する培養からヘプシジンタンパク質を精製するステップとを含む、ヘプシジンタンパク質を産生する方法に関する。
【0019】
当分野において知られている様々な方法を利用すると、本発明の単離ヘプシジンタンパク質のいずれか1つを入手できる。例えば、ヘプシジンタンパク質は、さらにまた、ヘプシジンタンパク質をコードするcDNAをクローニングおよびシーケンシングすることによって予測されるように、ヘプシジンタンパク質のアミノ酸配列の化学合成(Pigeon et al.,(2001)J.Biol.Chem.276,7811−7819)によって産生することもできる。このヘプシジンタンパク質配列情報を利用すると、当分野において知られている標準ペプチド合成方法を使用して化学合成されるヘプシジンタンパク質のフラグメントの適切なアミノ酸配列を予測することができる。これらの方法には、R.Bruce Merrifield,(Erickson and Merrifield,「Solid−Phase Peptide Synthesis」,in The Proteins,Volume 2,H.Neurath & R.Hill(Eds.)Academic Press,Inc.,New York pp.255−257;Merrifield,(1986)「Solid phase synthesis」,Science,242:341−347)によって考案された固相法が含まれる。固相法では、アミノ酸がポリスチレンビーズなどの不溶性マトリックスに結合している増殖中のペプチド鎖へ段階的に添加される。この方法の主要な利点は、各段階の所望の生成物が急速に濾過かつ洗浄できるビーズに結合させられる点であり、このため中間物を精製する必要が回避される点である。これらの反応は全てが単一容器中で実施されるので、生成物の反復輸送に起因する損失が排除される。この化学的ペプチド合成の固相法は容易に自動化できるので、約50残基を含有するペプチドを良好な収率および純度で日常的に合成することが実行可能になる(Stewart and Young,(1984)Solid Phase Peptide Synthesis,2nd ed.,Pierce Chemical Co.;Tam et al.,(1983)J.Am.Chem.Soc.,105:6442)。例えば、図9に示したアミノ酸残基1から50、または34から84に対応するヘプシジンタンパク質フラグメントを合成できよう。最も単純なレベルでは、ヘプシジンタンパク質の小ペプチドおよびフラグメントを産生するためには、市販で入手できるペプチド合成装置が特に有用である。フラグメントは、例えば天然ヘプシジンタンパク質に対する抗体を生成する際に有用である。
【0020】
当業者は、タンパク質を単離する公知の方法にしたがって本発明の単離ヘプシジンタンパク質の1つを容易に入手することができる。これらの方法には、イムノクロマトグラフィー、HPLC、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、およびイムノアフィニティクロマトグラフィーが含まれるが、それらに限定されない。例えば、Scopes,Protein Purification:Principles and Practice,Springer−Verlag(1994);Sambrook,et al.,in Molecular Cloning:A Laboratory Manual;Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biologyを参照されたい。
【0021】
最後に、ヘプシジンタンパク質をさらに精製するためには、例えばペンダントメチル基もしくは他の脂肪族基を有するシリカゲルなどの疎水性RP−HPLC媒質を使用する1つ以上の逆相高性能液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)ステップを使用できる。実質的に均質な単離組換えヘプシジンタンパク質を提供するためには、上記の精製ステップの一部または全部を様々な組み合わせで使用することができる。このように精製したヘプシジンタンパク質には実質的に他の哺乳動物タンパク質が含まれておらず、本発明によって単離タンパク質であると定義されている。
【0022】
ヘプシジンタンパク質の配列は、タンパク質シーケンシングのEdman分解法を使用して同定できる。この方法は、クロマトグラフィー法による引き続いての配列同定法のためにペプチドのアミノ末端から1回に1つのアミノ酸残基を連続的に除去する。例えば、Konigsberg and Steinman,(1977)Strategy and Methods of Sequence Analysis,in Neurath and Hill(eds.),The Proteins(3rd ed.)Vol.3,pp.1−178,Academic Pressに記載された技術を参照されたい。さらに、ヘプシジンタンパク質の配列分析は、(Hewick et al.,(1981)J.Biol.Chem,256:7990−7997;Stein and Undefriend,(1984)Analy.Chem.,136:7−23)に記載された技術にしたがった自動液相アミノ酸シークエネーターを使用して加速することができ、それによってピコモル量のヘプシジンタンパク質の分析が可能になる。
【0023】
精製ヘプシジンタンパク質は、ヘプシジンタンパク質に結合する分子を同定するために、当分野において周知のインビトロ結合アッセイに使用できる。これらの分子には、例えば小分子、コンビナトリアル・ライブラリーからの分子、抗体またはその他のタンパク質が含まれるが、それらに限定されない。結合アッセイで同定された分子は、次に当分野において周知のインビボ組織培養または動物モデル中でのアゴニストまたはアンタゴニスト活性について検査される。手短には、分子は複数の細胞培養または動物中で滴定され、次に動物/細胞の細胞死/動物死または長期生存のいずれかについて検査される。
【0024】
さらに、結合分子は例えばリシンもしくはコレラ菌などの毒素、または細胞にとって毒性である他の化合物と複合している場合がある。毒素結合分子複合体は次に、ヘプシジンタンパク質に対する結合分子の特異性によって腫瘍または他の細胞を標的とされる。
【0025】
組換えヘプシジンタンパク質のクローニングおよび発現
他の実施形態では、ヘプシジンタンパク質の産生は組換えDNA工学技術によって達成できる。例えば、適切なヘプシジンヌクレオチドのコーディング配列は、適切な宿主細胞中で合成する、クローニングする、および発現させることができる。ヘプシジンタンパク質をコードするDNA配列は知られているので(Pigeon et al.,(2001)J.Biol.Chem.276,7811−7819)、ヘモクロマトーシス、鉄欠乏性貧血、ヘモジデリン沈着症、肝硬変および本明細書に記載の他の疾患に罹患しているヒトまたは動物患者由来の肝組織から調製したcDNAライブラリーを特定のヘプシジンタンパク質cDNAについてスクリーニングするためのDNAプローブは、当分野において知られている標準方法によって合成することができる。これらのDNAプローブはさらに、当業者には周知の方法を使用してこれらのcDNAライブラリーからヘプシジンタンパク質遺伝子の全ファミリーを単離するために使用できる。例えば、Maniatis et al.,(1982)Molecular Cloning A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,N.Y.,Chapter 7に記載された技術を参照されたい。
【0026】
ハイブリダイゼーション方法は、標識化混合合成オリゴヌクレオチドプローブを使用することによる組換えクローンのスクリーニングのために有用であり、各プローブは、潜在的に、変性二本鎖DNAの非均質混合物を含有するハイブリダイゼーションサンプル中の特異的DNA配列の完全相補体である。そのようなスクリーニングのために、ハイブリダイゼーションは好ましくは一本鎖DNAまたは変性二本鎖DNAのどちらかについて実施される。非特異的結合を回避するように向けられたストリンジェントなハイブリダイゼーション条件を使用することによって、例えば、その完全相補体である混合物中のその一本鎖プローブに対する標的DNAのハイブリダイゼーションによって特異的DNAクローンのオートラジオグラフィーによる視認が可能になる(Wallace,et al.,(1981)Nucleic Acids Research,9:879)。
【0027】
あるいは、そのタンパク質に対する抗体を使用して、少なくとも1つのエピトープを有する本発明のヘプシジンタンパク質に対して発現ライブラリーを間接的にスクリーニングすることができる。そのような抗体はポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のどちらであってもよく、ヘプシジンタンパク質の存在を表示する発現産物を検出するために使用できる。一般に、λgt11ライブラリーは、Huynh,et al.,(1985)(in DNA Cloning:A Practical Approach,D.M.Glover,ed.,1:49)の方法によって免疫学的に構築かつスクリーニングされる。
【0028】
ヘプシジンタンパク質をコードする特異的DNA配列の発生は、さらにまた、(1)ゲノムDNAからの二本鎖DNA配列の単離と、(2)当該タンパク質にとって必要なコドンを提供するためのDNA配列の化学的製造と、によって入手できる。
【0029】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を利用すると、引き続くヘプシジンタンパク質cDNAのクローニングおよび発現のために、ヘプシジンファミリーの個々のメンバーを増幅させることができる(例えば、米国特許第4,683,202号;第4,683,195号;第4,889,818号;Gyllensten et al.,(1988)Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,85:7652−7656;Ochman et al.,(1988)Genetics,120:621−623;Triglia et al.,(1988)Nucl.Acids.Res.,16:8156;Frohman et al.,(1988)Proc.Nat’1 Acad.Sci.USA,85:8998−9002;Loh et al.,(1989)Science,243:217−220を参照)。
【0030】
ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列および適切な転写/翻訳制御シグナルを含有する発現ベクターを構築するために、当業者に周知の方法を使用することができる。これらの方法には、インビトロ組換えDNA技術、合成技術およびインビボ組換え/遺伝子組換え法が含まれる。例えば、Maniatis et al.,1982,Molecular Cloning A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,N.Y.,Chapter 12に記載された技術を参照されたい。
【0031】
ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントを発現させるためには、様々な宿主発現ベクター系を利用できる。これらにはヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントに対するコーディング配列を含有する組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNAもしくはコスミドDNA発現ベクターを用いて形質転換された細菌などの微生物;ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントに対するコーディング配列を含有する組換え酵母発現ベクターを用いて形質転換された酵母;ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントに対するコーディング配列を含有する組換えウイルス発現ベクター(例、バキュロウイルス)を用いて感染させた昆虫細胞系;またはヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントに対するコーディング配列を含有する組換えウイルス発現ベクター(例、アデノウイルス、ワクシニアウイルス)を用いて感染させた動物細胞系が含まれるが、それらに限定されない。
【0032】
これらのベクターの発現要素は、それらの強度および特異性が相違する。利用される宿主/ベクター系に依存して、構成性および誘導性プロモーターを含む多数の適切な転写および翻訳要素のいずれかを発現ベクターにおいて使用できる。例えば、細菌系中でクローニングすると、バクテリオファージλ、plac、ptrp、ptac(ptrp−lacハイブリッドプロモーター)などのpLなどの誘導性プロモーターを使用できる。昆虫細胞系中でクローニングすると、バキュロウイルスポリヘドリンプロモーターなどのプロモーターを使用できる。哺乳動物細胞系中でクローニングすると、アデノウイルス後期プロモーターまたはワクシニアウイルス7.5Kプロモーターなどのプロモーターを使用できる。組換えDNAまたは合成技術により産生したプロモーターは、さらにまたヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントに対する挿入されたコーディング配列の転写を提供するために使用できる。
【0033】
酵母では、構成性または誘導性プロモーターを含有する多数のベクターを使用できる。概論については、Current Protocols in Molecular Biology,Vol.2,(1988)Ed.Ausubel et al.,Greene Publish.Assoc.& Wiley Interscience Ch.13;Grant et al.,(1987)Expression and Secretion Vectors for Yeast,in Methods in Enzymology,Eds.Wu & Grossman,(1987)Acad.Press,N.Y.,Vol.153,pp.516−544;Glover,(1986)DNA Cloning,Vol.II,IRL Press,Wash.,D.C.Ch.3;and Bitter,(1987)Heterologous Gene Expression in Yeast,Methods in Enzymology,Eds.Berger & Kimmel,Acad.Press,N.Y.,Vol.152,pp.673−684;およびThe Molecular Biology of the Yeast Saccharomyces,(1982)Eds.Strathern et al.,Cold Spring Harbor Press,Vols.I and IIを参照されたい。酵母中での相補性アッセイのためには、ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントに対するcDNAを、酵母2μ円の存在に起因して酵母中で自発的に複製する酵母エピソームプラスミド(YEp)内にクローニングすることができる。ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントの配列はADHもしくはLEU2などの構成性酵母プロモーターまたはGALなどの誘導性プロモーターのどちらかの後方でクローニングされてよい(Cloning in Yeast,Ch.3,R.Rothstein(1986)In DNA Cloning Vol.11,A Practical Approach,Ed.DM Glover,IRL Press,Wash.,D.C.)。構築物は、同源ヘプシジンタンパク質mRNAまたは酵母遺伝子に対応するヘプシジンタンパク質mRNAの5’および3’非翻訳領域を含有していてよい。YEpプラスミドは高い効率で形質転換し、これらのプラスミドは極度に安定性である。あるいはまた、酵母染色体内への異種DNA配列の統合を促進するベクターが使用されてもよい。
【0034】
ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントを発現させるために使用できる特に良好な発現系は昆虫系である。そのような1つの系では、Autographa californica核多核体病ウイルス(AcNPV)が異種遺伝子を発現させるためのベクターとして使用される。ウイルスは、Spodoptera frugiperda細胞中で増殖する。ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列は、ウイルスの非必須領域(例えばポリヘドリン遺伝子)内にクローニングしてAcNPVプロモーター(例えばポリヘドリンプロモーター)の制御下に置くことができる。ポリヘドリン遺伝子の挿入の成功は非閉塞性組換えウイルス(すなわち、ポリヘドリン遺伝子によってコードされたタンパク質性被膜が欠如するウイルス)の産生を生じさせる。これらの組換えウイルスは、次にその中で挿入遺伝子が発現するSpodoptera frugiperda細胞を感染させるために使用される。(例えば、Smith et al.,(1983)J.Biol.,46:586;Smith、米国特許第4,215,051号を参照)。さらに、バキュロウイルス/昆虫細胞発現系のための材料および方法は、例えばInvitrogen社(米国カリフォルニア州サンディエゴ)(MaxBat(商標)キット)からのキット形で市販で入手することができ、そのような方法は参照して本明細書に組み込まれるSummers and Smith,Texas Agricultural Experiment Station Bulletin No.1555(1987)に記載されているように、当分野において周知である。本明細書で使用するように、本発明のヘプシジンポリヌクレオチドを発現することができる昆虫細胞は形質転換されている。
【0035】
アデノウイルスを発現ベクターとして使用した場合は、ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列を後期プロモーターおよび三連リーダー配列などのアデノウイルス転写/翻訳制御複合体へライゲートすることができる。このキメラ遺伝子は次に、インビボまたはインビトロ組換えによってアデノウイルスゲノム内に挿入することができる。ウイルスゲノムの非必須領域(例、領域E1もしくはE3)内への挿入は、感染した宿主中で生育性であり、そしてヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントを発現することができる組換えウイルスを生じさせるであろう。(例えば、Logan & Shenk,(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.,(USA)81:3655−3659を参照)。あるいは、ワクシニア7.5Kプロモーターが使用されてもよい。(例えば、Mackett et al.,(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.,(USA)79:7415−7419;Mackett et al.,(1984)J.Virol.,49:857−864;Panicali et al.,(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.,79:4927−4931を参照)。
【0036】
挿入されたヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列を効率的に翻訳するためには、特異的開始シグナルが必要になることがある。これらのシグナルには、ATG開始コドンおよび隣接配列が含まれる。それの固有の開始コドンおよび隣接配列を含む全ヘプシジンタンパク質ゲノムが適切な発現ベクター内に挿入されると、追加の翻訳制御シグナルが不要になる可能性がある。しかし、ヘプシジンタンパク質コーディング配列の一部分しか挿入されない場合は、ATG開始コドンを含む外因性翻訳制御シグナルが提供されなければならない。さらに、開始コドンは、全挿入物の翻訳を保証するためにヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列のリーディングフレームと同位相でなければならない。これらの外因性翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然および合成の両方の様々な起源由来であってよい。発現効率は、適切な転写エンハンサー要素、転写ターミネーターなどを包含することによって強化できる(例えば、Bitter et al.,(1987)Methods in Enzymol.,153:516−544を参照)。
【0037】
さらに、挿入された配列の発現を調節する、または所望の特定方法で遺伝子産物を修飾およびプロセシングする宿主細胞株を選択することができる。ある種のプロモーターによって駆動される発現は、一定の誘導物質(例、メタロチオネインプロモーターに対する亜鉛およびカドミウムイオン)の存在によって上昇させることができる。このため、遺伝子組換えにより作製されたヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントの発現は制御できる。これは、クローン化異種遺伝子のタンパク質産物が宿主細胞にとって致死性である場合は重要である。さらに、タンパク質の機能にとってはタンパク質産物の修飾(例、グリコシル化)およびプロセシング(例、開裂)が重要なことがある。種々の宿主細胞は、タンパク質の翻訳後プロセシングおよび修飾のために特徴的かつ特異的機構を有する。発現した異種タンパク質の正確な修飾およびプロセシングを保証するためには、適切な細胞系または宿主系を選択できる。
【0038】
ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列を含有し、そして生物学的に活性なヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントの遺伝子産物を発現する宿主細胞は、少なくとも4種の一般的アプローチによって同定できる。(a)DNA−DNAハイブリダイゼーション;(b)「マーカー」遺伝子機能の存在もしくは不在;(c)宿主細胞中のヘプシジンタンパク質mRNA転写体の発現によって測定される転写レベルの評価;および(d)イムノアッセイまたはその生物活性によって測定されるヘプシジンタンパク質遺伝子産物の検出。
【0039】
第1アプローチでは、発現ベクター内に挿入されたヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列の存在は、実質的に近年に記載されたように(Pigeon et al.,(2001)J.Biol.Chem.276,7811− 7819)ヘプシジンタンパク質のコーディング配列もしくはその特定部分と相同であるヌクレオチド配列を含むプローブを使用してDNA−DNAハイブリダイゼーションによって検出できる。
【0040】
第2アプローチでは、組換え発現ベクター/宿主系は一定の「マーカー」遺伝子機能(例、チミジンキナーゼ活性、抗体に対する抵抗性、メトトレキセートに対する抵抗性、形質転換表現型、バキュロウイルス中での閉塞体形成など)の存在もしくは不在に基づいて同定および選択することができる。例えば、ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列をベクターのマーカー遺伝子配列内に挿入すると、マーカー遺伝子機能の不在によってヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列を含有する組換体を同定できる。あるいは、使用される同一もしくは相違するプロモーターの制御下でヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列と平行に配置すると、マーカー遺伝子は、ヘプシジンコーディング配列の発現を制御することができる。誘導または選択に反応したマーカーの発現は、ヘプシジンタンパク質コーディング配列の発現を示唆している。
【0041】
第3アプローチでは、ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング領域についての転写活性をハイブリダイゼーションアッセイによって評価できる。例えば、RNAは実質的に(Pigeon et al.,(2001)J.Biol.Chem.276,7811−7819)に記載されているようにヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントのコーディング配列またはそれらの特定部分と相同であるプローブを使用するノーザンブロットによって単離および分析することができる。あるいは、そのようなプローブに対するハイブリダイゼーションのために宿主細胞の全核酸を抽出およびアッセイすることができる。
【0042】
第4アプローチでは、ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントの産物の発現は、例えばウェスタンブロット法、放射性免疫沈降法、酵素結合イムノアッセイなどのイムノアッセイによるように免疫学的に評価できる。
【0043】
ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントを発現する組換体が同定されると、遺伝子産物が分析されなければならない。これはその産物の物理的、免疫学的または機能的特性に基づくアッセイによって達成できる。例えば、本発明の方法には、本発明のヘプシジンポリヌクレオチドを含有する適切な発現ベクターを含有する宿主細胞がコードされたヘプシジンタンパク質の発現を可能にする条件下で培養される、ヘプシジンタンパク質を産生するための工程が含まれる。ヘプシジンタンパク質は、培養から、便宜的には培地から、または宿主細胞から調製された溶解液から回収し、さらに精製することができる。好ましい実施形態には、そのような工程によって産生したタンパク質がそのタンパク質の全長形または成熟形である実施形態が含まれる。
【0044】
本発明は、本発明の核酸フラグメントまたは本発明の核酸フラグメント変性変異体によってコードされた単離ヘプシジンタンパク質をさらに提供する。「変性変異体」とは、本発明の核酸フラグメント(例、ORF)とは核酸配列が相違するが、しかし遺伝コードの縮重のために同一タンパク質配列をコードするヌクレオチドフラグメントを意図する。本発明の好ましい核酸フラグメントは、タンパク質をコードするOrbである。
【0045】
本発明のヘプシジンタンパク質は、あるいはまたヘプシジンタンパク質を発現するように変化させられた細胞から精製することができる。本明細書で使用するように、細胞は、その細胞が遺伝子操作を通してそれが通常は産生しない、またはその細胞が通常は低レベルで産生するヘプシジンタンパク質を産生するようにさせられた場合に所望のポリペプチドまたはタンパク質を発現するように変化させられる。当業者であれば、本発明のヘプシジンタンパク質を産生する細胞を精製するために組換えまたは合成配列のどちらかを真核細胞または原核細胞内へ導入および発現させるための方法を容易に採用することができる。
【0046】
本発明のヘプシジンタンパク質は、さらにまたトランスジェニック動物の産物として、例えばヘプシジンタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含有する体細胞または胚細胞を特徴とするトランスジェニックウシ、ヤギ、ブタ、またはヒツジの乳汁の構成成分として発現させることもできる。
【0047】
ヘプシジンタンパク質は、知られている従来型化学合成によって産生させることもできる。合成手段によって本発明のヘプシジンタンパク質を構築する方法は当業者には知られている。合成法により構築したヘプシジンタンパク質配列は、天然ヘプシジンタンパク質と一次、二次または三次構造および/または立体配座特徴を共有することによって、タンパク質活性を含むそれらと共通する生物学的特性を有する可能性がある。そこで、それらは治療用化合物のスクリーニングおよび抗体を発生させるための免疫学的工程において天然の精製ヘプシジンタンパク質に対する生物学的に活性な、または免疫学的代用物として使用できる。
【0048】
本発明のヘプシジンタンパク質は、組換えタンパク質を発現させるために適切な培養条件下で形質転換宿主細胞を培養することによって調製することができる。結果として生じる発現したヘプシジンタンパク質は次に、ゲル濾過およびイオン交換クロマトグラフィーなどの知られている精製工程を使用して、そのような培養から(すなわち、培地または細胞抽出液から)精製することができる。ヘプシジンタンパク質の精製は、そのタンパク質に結合する物質を含有しているアフィニティーカラム、コンカナバリンA−アガロース、heparin−toyopearl(商標)もしくはCibacrom blue 3GA Sepharose(商標)などの親和性樹脂にわたる1つ以上のカラムステップ、フェニルエーテル、ブチルエーテル、もしくはプロピルエーテルなどの樹脂を使用する疎水性相互作用クロマトグラフィーを含む1つ以上のステップ、またはイムノアフィニティクロマトグラフィーをさらに含むことができる。
【0049】
あるいは、本発明のヘプシジンタンパク質はさらにまた精製を容易にする形態で発現させることができる。例えば、それはマルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)またはチオレドキシン(TRX)の融合タンパク質などの融合タンパク質として、またはHisタグとして発現させることができる。そのような融合タンパク質の発現および精製のためのキットは、New England BioLab社(マサチューセッツ州ベバリー)、Pharmacia社(ニュージャージー州ピスカタウェイ)およびInvitrogen社各々から市販で入手できる。ヘプシジンタンパク質はさらにまた1つのエピトープを用いてタグ付けし、引き続いてそのようなエピトープに向けられた特異的抗体を使用することによって精製できる。そのようなエピトープの1つ(「FLAG(登録商標)」)はKodak社(コネチカット州ニューヘブン)から市販で入手できる。
【0050】
タンパク質活性の全体または一部(例、TfR2受容体への結合、ヘプシジン特異的抗体への結合など)を維持すると予想され、スクリーニングまたは他の免疫学的方法のために有用であるヘプシジンタンパク質/ペプチドの配列のその他のフラグメントおよび誘導体もまた本明細書の開示を前提にすると当業者であれば容易に作製することができる。そのような修飾は本発明によって包含されている。
【0051】
ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントは、それが遺伝子配列の一部分である全遺伝子配列の発現から生じたのか、またはキメラタンパク質の産生を指示するためにライゲートされる2つ以上の遺伝子配列の結果として生じたのかにはかかわらず免疫反応性のはずである。この反応性は、放射性免疫沈降法、放射性免疫競合法、またはイムノブロットなどの免疫学の標準技術によって明示できる。
【0052】
ヘプシジンタンパク質もしくはそのフラグメントを定義する抗体の生成
当分野において知られている様々な方法を使用すると、ヘプシジンタンパク質の中央部分(アミノ酸20から50)またはエピトープのC末端(アミノ酸65から84)に対する抗体を産生することができる。ヘプシジン特異的抗体はそれらのエピトープに結合するが、他の知られている配列には結合しない。そのような抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、FabフラグメントおよびFab発現ライブラリーが含まれるが、それらに限定されない。抗体を産生させるためには、ウサギ、マウス、ラットなどを含むがそれらに限定されない様々な宿主動物を特定ヘプシジンタンパク質もしくは合成ヘプシジンタンパク質を用いた注射によって免疫にすることができる。免疫学的反応を増加させるためには、宿主の種に依存して、フロイントの(完全および不完全)アジュバント、水酸化アルミニウムなどのミネラルゲル、リゾレシチンなどの界面活性剤、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油性エマルジョン、アオガイヘモシアニン、ジニトロフェノール、ならびにBCG(bacille Calmette−Guerin)およびcorynebacterium parvumなどの潜在的に有用なヒトアジュバントを含むがそれらに限定されない様々なアジュバントを使用できる。
【0053】
ポリクローナル抗体は、例えばウマ、ウシ、様々な鳥類、ウサギ、マウス、またはラットなどの種々の温血動物から当業者が容易に生成することができる。手短には、ヘプシジンは、フロイントの完全もしくは不完全アジュバントなどのアジュバントの腹腔内、筋肉内、眼内、または皮下注射を通して動物を免疫にするために利用される。数回のブースター免疫後に、血清サンプルが収集され、ヘプシジンに対する反応性について試験される。特に好ましいポリクローナル抗血清は、これらのアッセイの1つでバックグラウンドより少なくとも3倍以上高いシグナルを生じさせるであろう。動物の力価がヘプシジンに対する反応性に関してプラトーに到達すると、週1回の出血、または動物を放血させることのどちらかによってより大量の抗血清を容易に入手できる。
【0054】
ヘプシジンのペプチドに対するモノクローナル抗体は、培養中の連続的細胞系による抗体分子の産生を提供するいずれかの技術を使用することによって調製できる。これらには、Kohler and Milstein,(Nature,(1975)256:495−497)によって最初に記載されたハイブリドーマ技術、より近年のヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kosbor et al.,(1983)Immunology Today,4:72)およびEBV−ハイブリドーマ技術(Cole et al.,(1985)Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.,pp.77−96)が含まれるが、それらに限定されない。本発明の追加の実施形態では、ヘプシジンタンパク質/ペプチドに特異的なモノクローナル抗体は、近年の工学技術を利用して無菌動物中に生成することができる(PCT/US90/02545)。本発明によると、ヒト抗体を使用でき、そしてヒトハイブリドーマを使用することによって(Cote at al.,(1983)Proc.Natl.Acad.Sci.,80:2026−2030)またはインビトロでEBVウイルスを用いてヒトB細胞を形質転換させることによって(Cole et al.,(1985)in,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,pp.77−96)入手できる。実際に、本発明により、「キメラ抗体」の産生のために開発された技術(Morrison et al.,(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.,8 1:6851−6855;Neuberger et al.,(1984)Nature,312:604−608;Takeda et al.,(1985)Nature,314:452−454)は、適切な生物活性を備えるヒト抗体分子由来の遺伝子と一緒に、適切な抗原特異性を備えるマウス抗体分子由来の遺伝子をスプライシングすることによって使用できる。そのような抗体は本発明の結果である。
【0055】
本発明によると、ヘプシジンタンパク質特異的一本鎖抗体を産生するために一本鎖抗体を産生するために記載された技術(米国特許第4,946,778号)を適合させることができる。
【0056】
本発明の追加の実施形態は、ヘプシジンタンパク質/ペプチドに対する所望の特異性を備えるモノクローナルFabフラグメントの迅速かつ容易な同定を可能にするFab発現ライブラリーを構築するために記載された技術(Huse et al.,(1989)Science,246:1275−1281)を利用する。
【0057】
ヘプシジンタンパク質に対する特異的結合部位を含有する抗体フラグメントは、公知の技術によって生成できる。例えば、そのようなフラグメントには、抗体分子のペプシン消化によって生成できるF(ab’)2フラグメントおよびF(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋を減少させることによって生成できるFabフラグメントが含まれるが、それらに限定されない。
【0058】
診断アッセイおよびキット
本発明のさらにまた別の目的は、ヘモクロマトーシス、鉄欠乏性貧血、ヘモジデリン沈着症、肝硬変および本明細書に記載のその他の疾患に罹患している個体からヘプシジンタンパク質を検出するための診断アッセイに使用するための試薬を提供することである。
【0059】
この実施形態の1つの様式では本発明のヘプシジンタンパク質はヘモクロマトーシス、鉄欠乏性貧血、ヘモジデリン沈着症、肝硬変および本明細書に記載のその他の疾患に罹患しているそれらの個体を検出するためのイムノアッセイにおける抗原として使用できる。本発明のヘプシジンタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチドは、ほんの少数を挙げると、ラジオイムノアッセイ、酵素結合免疫吸着アッセイ、「サンドイッチ」アッセイ、沈降素反応、ゲル拡散免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、蛍光イムノアッセイ、タンパク質Aイムノアッセイおよび免疫電気泳動法アッセイを含むがそれらに限定されない当分野において知られているいずれかのイムノアッセイシステムで使用できる。米国特許第4,629,783号およびその中で言及された特許もまた適切なアッセイについて記載している。
【0060】
本発明によると、様々な形態のヘプシジンタンパク質に対して産生したモノクローナルまたはポリクローナル抗体は、ヘモクロマトーシス、鉄欠乏性貧血、ヘモジデリン沈着症、肝硬変および本明細書に記載のその他の疾患に罹患している患者を診断するために血液、脊髄液またはその他の体液のサンプルに対するイムノアッセイにおいて使用できる。
【0061】
本発明の1つの実施形態では、血液サンプルは静脈切開によって患者から採取され、EDTAなどの抗凝固剤と接触させられ、混合され、600gで10分間遠心され、血漿が当分野において一般的であるように採取される、または脊髄液サンプルは腰椎穿刺によって患者から採取される。
【0062】
本明細書に記載の抗体は、組織、血液もしくは体液のサンプル中のヘプシジンタンパク質の存在を決定するために多数の様々なイムノアッセイにおける基本的試薬として使用できる。一般的に述べると、抗体は定性的であっても定量的であろうと、あらゆるタイプのイムノアッセイにおいて使用できる。これには非競合タイプの2サイト・サンドイッチアッセイおよび1サイト・イムノアッセイの両方、ならびに伝統的競合結合アッセイが含まれている。
【0063】
検出の容易さ、およびその定量的性質のために特に好ましいのは、多数の変形が存在するサンドイッチアッセイまたは二重抗体アッセイであり、その全てが本発明に包含されることが意図されている。
【0064】
例えば、典型的なフォワードサンドイッチアッセイでは、非標識抗体が例えばマイクロタイタープレートウエルのような固体基質上に固定され、そして検査対象のサンプルが結合した分子と接触させられる。抗体−抗原二元複合体の形成を許容するために十分な期間である適切なインキュベーション時間後、次に検出可能なシグナルを誘導できるレポーター分子で標識された二次抗体が添加され、相違する部位での抗原との結合および抗体−抗原−標識抗体の三元複合体の形成を可能にする十分な時間にわたりインキュベーションが継続される。未反応物質は洗い流され、既知量の抗原を含有するコントロールサンプルとの比較によって定量できるシグナルの観察によって抗原の存在が決定される。フォワードサンドイッチアッセイの変形には、サンプルおよび抗体の両方が結合抗体へ同時に添加される同時アッセイ、または標識抗体および検査対象のサンプルが最初に結合され、インキュベートされ、そして非標識表面結合抗体へ添加される逆サンドイッチアッセイが含まれる。これらの技術は当業者には周知であり、小さな変形の可能性は容易に明白であろう。本明細書で使用する用語「サンドイッチアッセイ」は、基本的2サイト法の全ての変形を包含することが意図されている。
【0065】
本発明のサンドイッチアッセイについては、唯一の限定因子は両方の抗体がヘプシジンタンパク質に対して相違する結合特異性を有することにある。そこで、多数の組み合わせが考えられる。
【0066】
より特別な実施例として、典型的なフォワードサンドイッチアッセイでは、一次抗体は固体支持体へ共有的、または受動的のどちらかで結合させられる。固体表面は通常はガラスまたはポリマーであり、最も一般的に使用されるポリマーは、セルロース、ポリアクリルアミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルまたはポリプロピレンである。固体支持体は、チューブ、ビーズ、ディスクもしくはマイクロプレート、またはイムノアッセイを実施するために適切な任意のその他の表面であってよい。結合工程は、当分野において周知である。結合に続いて、固相−抗体複合体は検査サンプルの調製において洗浄される。検査対象のヘプシジンタンパク質を含有する体液のアリコートが次に固相複合体に添加され、ヘプシジンタンパク質に対して特異的な抗体へ提示されたいずれかのヘプシジンタンパク質の結合を可能にするために十分な時間にわたり25℃でインキュベートされる。次に二次抗体が固相複合体へ添加され、一次抗体―抗原固相複合体への結合を可能にする十分な追加の時間にわたり25℃でインキュベートされる。二次抗体はレポーター分子へ結合させられ、レポーター分子の可視シグナルを使用してサンプル中の抗原への二次抗体の結合が表示される。本明細書で使用する用語「レポーター分子」は、その化学的性質によって、抗原結合抗体の検出を許容する分析的に検出可能なシグナルを提供する分子を意味する。検出は、サンプル中の抗原の量の決定を可能にするために少なくとも相当に定量可能でなければならないが、これは絶対的な意味で計算できる、または知られている正常レベルの抗原を含有する標準物質(または一連の標準物質)との比較で行うことができる。
【0067】
このタイプのアッセイで最も一般的に使用されるレポーター分子は、酵素または蛍光体のどちらかである。酵素イムノアッセイの場合には、酵素は、しばしばグルタルアルデヒドまたは過ヨウ素酸塩によって、二次抗体へコンジュゲートさせられる。しかし容易に認識されるように、極めて広範囲の様々なコンジュゲーション技術が存在しており、当業者には周知である。一般に使用される酵素には、特にホースラディッシュペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼおよびアルカリホスファターゼが含まれる。特定酵素と一緒に使用される基質は、対応する酵素による加水分解後に一般に検出可能な変色を産生させるために選択される。例えば、アルカリホスファターゼコンジュゲートと一緒に使用するためにはp−ニトロフェニルホスフェートが適切である;ペルオキシダーゼコンジュゲートのためには、1,2−フェニレンジアミンまたはトルイジンが通例使用される。さらにまた、上記の色素原基質以外の蛍光産物を産生する蛍光原基質を使用することもまた可能である。全ての場合に、酵素標識抗体が第1抗体−ヘプシジンタンパク質複合体に添加され、その複合体に結合させられ、そして次に過剰な試薬が洗い流される。次に適切な基質を含有する溶液が抗体−抗原−標識抗体の三元複合体へ添加される。基質は二次抗体に結合した酵素と反応し、定性的可視シグナルを生じさせ、これはさらに通常は分光光度法によって定量すると血清サンプル中に存在する抗原の量の評価を可能にする。
【0068】
あるいは、フルオレセインまたはローダミンなどの蛍光化合物は、それらの結合能力を変化させずに抗体へ化学結合することもできる。特定波長の光線を用いて照明して活性化させると、蛍光色素標識抗体は光線エネルギーを吸収し、特徴的な長い波長での光線の放射に続いて分子に励起性の状態を誘導する。発光は、光線顕微鏡を用いて可視的に検出できる特徴的な色として現れる。酵素イムノアッセイ(EIA)におけるように、蛍光標識抗体は一次抗体−ヘプシジンタンパク質複合体へ結合させられる。未結合試薬を洗浄した後、残っている三次複合体は次に適切な波長の光線に暴露させられ、そして観察された蛍光は抗原の存在を指摘する。免疫蛍光法およびEIA法はどちらも当分野において極めて良好に確立されており、本発明の方法のためには特に好ましい。しかし、放射性同位体、化学発光または生物発光分子などの他のレポーター分子もまた使用できる。当業者には、必要な使用に適応させるために手順を変化させる方法は容易に明白であろう。
【0069】
あるいは、ヘプシジンタンパク質を含有するヒトの血液または脊髄液のいずれかである検査対象のサンプルは1サイトイムノアッセイに使用できるが、サンプルは固体基質へ共有的または非共有的のどちらかで付着させられる。非標識抗ヘプシジンタンパク質抗体は固体基質上に結合したサンプルと接触させられる。抗体−抗原二元複合体の形成を許容するために十分な期間である適切なインキュベーション時間後、次に検出可能なシグナルを誘導することのできるレポーター分子で標識された二次抗体が添加され、抗原−抗体−標識抗体の三元複合体の形成を可能にする十分な時間にわたりインキュベーションが継続される。1サイト・イムノアッセイのためには、二次抗体は、当該のヘプシジンタンパク質に対して特異的である抗体と結合できる一般的抗体(すなわち、免疫グロブリンに対する異種抗体、特にレポーター分子に結合した抗−(IgMおよびIgG)抗体)であってよい。
【0070】
ヘプシジン遺伝子(突然変異または正常)は鉄代謝のアッセイに利用できる。この遺伝子は、いずれかの付随分子と共に、もしくは伴わずに、ヒトもしくは動物被験者、健常被験者由来の細胞系もしくは一次細胞中、または他の有機体(齧歯類、昆虫、細菌、両生類など)由来の細胞中で発現する。これらの細胞による鉄の取り込みは、例えば放射性同位体を使用して測定される。さらに、ヘプシジン遺伝子産物への鉄の結合もまた測定できる。そのような実験は、鉄の取り込み、結合、ならびに細胞による、もしくは細胞中の輸送におけるヘプシジン遺伝子およびヘプシジン遺伝子産物の役割を評価するのに役立つ。
【0071】
治療的処置
本発明の1つの態様では、ヘプシジンによる診断方法およびキットは、例えばヘプシジンを過剰発現する、またはダウンレギュレートするためのような遺伝子工学的アプローチに使用できる。一定の治療用途では、ヘプシジン遺伝子、突然変異ヘプシジン遺伝子、ヘプシジンタンパク質、または突然変異ヘプシジンタンパク質の発現および/または機能をダウンレギュレートするのが望ましい。例えば、鉄が例えばある種の貧血(すなわち、サラセミア、溶血性貧血、輸血)で、身体内の蓄積量が少ない状態では、正常ヘプシジン遺伝子もしくは正常ヘプシジンタンパク質のダウンレギュレーションが望ましい。他方、鉄が身体内に過剰に蓄積されている状態では、突然変異ヘプシジン遺伝子またはヘプシジンタンパク質のダウンレギュレーションが望ましい。
【0072】
上記のように、正常または突然変異ヘプシジンタンパク質に特異的な抗体を調製できる。そのような抗体は、本明細書に記載の疾患において治療的に使用できる。例えば、突然変異タンパク質に関連する機能が正常ヘプシジンタンパク質機能をアップレギュレートして身体内の鉄の過剰蓄積をもたらす場合に、突然変異または正常ヘプシジン遺伝子の作用を遮断するために使用できる。同様に、抗体は身体内の鉄の過少蓄積を引き起こすヘプシジンタンパク質の作用を遮断するために治療的に使用できる。
【0073】
同様の方法で、正常または突然変異形のいずれかであるヘプシジン遺伝子は、その遺伝子またはその転写体に対して向けられたアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用を通してダウンレギュレートすることができる。上記で考察したように抗体と結び付けて類似の戦略を利用できる。アンチセンスオリゴヌクレオチドの設計に関する考察および使用についての特に貴重な概論については、その開示がこれにより参照して組み込まれるUhlmann et al.,(1990)Chemical Reviews 90:543−584を参照されたい。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、いずれかの知られている化学的オリゴヌクレオチド合成方法によって合成できる。そのような方法は、一般に、例えばWinnacker Chirurg(1992)63:145に記載されている。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、最も有益には市販で入手できるいずれかの自動核酸合成装置を利用して調製される。そのような装置の1つであるApplied Biosystems社製380B型DNA合成装置は、β−シアノエチルホスホロアミダイトの化学的性質を利用する。
【0074】
ヘプシジン遺伝子に相補的であるDNAの完全ヌクレオチド合成は知られているので、cDNA配列のmRNA転写体もまた知られている。したがって、そのような転写体のいずれかの部分とハイブリダイズ可能なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、当業者に知られているオリゴヌクレオチド合成方法によって調製できる。本発明の実践ではいずれかの長さのオリゴヌクレオチドを利用できるが、12塩基より短い配列は標的mRNAへハイブリダイズする際に特異性が小さく、酵素消化によってより容易に破壊され、そして酵素消化によって不安定化される可能性がある。したがって、12ヌクレオチド以上を有するオリゴヌクレオチドが好ましい。長い配列、特に約40ヌクレオチドを越える配列は、標的細胞による取り込みが低下するために、翻訳を阻害することに有効性がいくらか低い可能性がある。そこで、好ましいのは12〜40ヌクレオチド、より好ましいのは15〜30ヌクレオチド、最も好ましいのは18〜26ヌクレオチドのオリゴマーである。特に最も好ましいのは18〜24ヌクレオチドの配列である。
【0075】
本発明のさらにまた別の態様では、ヘプシジンは、ヘプシジン、ならびにヘプシジンのアゴニストまたはアンタゴニストを用いて患者を治療することによって、本明細書に記載の疾患の治療に使用できる。細胞中の鉄取り込みは、ヘプシジンの濃度を変化させることによって、および/または鉄またはトランスフェリン受容体へのヘプシジン結合を阻害することによって調節できる。したがって、ヘプシジン、およびヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストは鉄代謝の障害が存在する状態の治療において有用な可能性がある。例えば、そのような物質はヘモクロマトーシス、神経変性疾患、虚血性脳卒中もしくは外傷を含む虚血性組織損傷、心疾患、および腫瘍、特に皮膚癌、ならびに本明細書に記載のその他の疾患などの状態の治療において有用なことがある。
【0076】
本発明は、さらにまたヘプシジンを使用する鉄代謝を変調する方法を包含している。特に、本発明は鉄代謝における障害を含有する状態を治療するための方法であって、鉄変調量のヘプシジン、またはヘプシジンの刺激剤、アゴニストもしくはアンタゴニストを投与するステップを含む方法に関する。本発明の方法を使用して治療できる鉄代謝の障害を含む状態には、例えば、ヘモクロマトーシス、神経変性性疾患、虚血性脳卒中もしくは外傷を含む虚血性組織損傷、心疾患、および腫瘍、特に皮膚癌ならびに本明細書に記載のその他の疾患が含まれる。ヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストである物質は、その物質がヘプシジンと鉄との、またはヘプシジンとトランスフェリン受容体TfRlもしくはTfR2との結合活性に及ぼす作用、またはその物質がヘプシジンを発現できる細胞中のヘプシジンの発現に及ぼす作用を決定することによって同定でき、この細胞は、それらの表面上でヘプシジンを発現するように遺伝子組換えにより作製された細胞を含む。
【0077】
このため本発明は、1つの態様で、ヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストを同定する方法に関しており、これは、ヘプシジンが鉄に結合できる条件下でヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストであることが疑われる物質とヘプシジンおよび鉄とを反応させるステップと、鉄に結合したヘプシジンの量を測定するステップと、鉄と結合したヘプシジンの量をコントロールについて決定した量と比較することによってその物質の作用を決定するステップとを含む。本発明は、さらにまたヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストを同定する方法に関しており、この方法は、ヘプシジンがトランスフェリン受容体に結合できる条件下でヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストであることが疑われる物質とヘプシジンおよびトランスフェリン受容体とを反応させるステップと、トランスフェリン受容体に結合したヘプシジンの量を測定するステップと、トランスフェリン受容体と結合したヘプシジンの量をコントロールについて決定した量と比較することによってその物質の作用を決定するステップとを含む。
【0078】
本発明はさらにまた、ヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストを同定する方法に関しており、この方法は、ヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストであることが疑われる物質とヘプシジンを産生する細胞とを反応させるステップと、細胞によって発現したヘプシジンの量を測定するステップと、ヘプシジンの発現量をコントロールについて決定した量と比較することによってその物質の作用を決定するステップとを含む。本発明はさらにまた、ヘプシジン媒介性鉄取り込みのアゴニストもしくはアンタゴニストを同定する方法に関しており、この方法は、鉄の存在下およびトランスフェリンの不在下においてその表面上でヘプシジンを発現する細胞とヘプシジンのアゴニストもしくはアンタゴニストであることが疑われる物質とをインキュベートするステップと、細胞内への鉄取り込み量を測定するステップと、および細胞内の鉄取り込み量とその物質の不在下でのコントロールインキュベーションからの細胞内の鉄取り込み量とを比較することによってヘプシジン媒介性鉄取り込みのアゴニストもしくはアンタゴニストを同定するステップとを含む。
【0079】
本発明の一部の実施形態では、ヘモクロマトーシスなどの一次鉄過剰疾患もしくは症候群、または例えば繰り返しの輸血のような二次的原因により引き起こされた他の鉄過剰状態の症状を有する患者において治療使用するためのヘプシジンペプチドが提供される。ヘプシジンペプチドは、全長ヘプシジンまたはヘプシジンの一部のフラグメントであってよい。好ましくは、ヘプシジンペプチドはヘプシジンの28から47または70から80のアミノ酸残基を含む。ヘプシジンの予測されるアミノ酸配列ならびにゲノムおよびcDNA配列は、これによりそれらの全体が参照して組み込まれる(Krause et al.,(2000)FEBS Lett.480,147−150;Pigeon et al.,(2001)J.Biol.Chem.276,7811−7819)に提供された。ヘプシジンタンパク質もしくそのフラグメントは、例えば複合体の形状にあるβ−2−ミクログロブリンと一緒に投与されてよい。一部の実施形態では、約20アミノ酸より大きいヘプシジンタンパク質はβ−2−ミクログロブリンとの複合体で投与される。
【0080】
本発明の一部の実施形態では、ヘプシジンタンパク質もしくはトランスフェリン受容体のアゴニストもしくはアンタゴニストが提供される。ヘプシジンポリペプチドのアゴニスト、および/またはトランスフェリン受容体のアンタゴニストは例えば原発性もしくは続発性鉄過剰疾患もしくは症候群の治療において有用であるが、他方ヘプシジンポリペプチドのアンタゴニスト、またはトランスフェリン受容体のアゴニストは例えば貧血症などの鉄欠乏性状態の治療において有用である。他の実施形態では、野生型ヘプシジンタンパク質のアンタゴニストとして機能する突然変異ヘプシジンタンパク質/ペプチドが提供される。アンタゴニストもしくはアゴニストは、トランスフェリン受容体、またはヘプシジンタンパク質の中央部分(アミノ酸20から50)もしくはC末端領域(アミノ酸65から84)に対して向けられた抗体であってよい。本発明の一部の実施形態では、ヘプシジンポリペプチドはトランスフェリン受容体のアンタゴニストとして機能できる。本発明のさらにまた別の実施形態では、ペプチドミメティックは、当分野において周知の技術を使用してヘプシジンタンパク質および/またはトランスフェリン受容体のアンタゴニストもしくはアゴニストとして設計できる。
【0081】
トランスフェリン受容体のためのリガンドは、アンタゴニストであってもアゴニストであっても、トランスフェリン受容体に結合する能力について本明細書に記載の技術を使用してスクリーニングすることができる。さらに、トランスフェリン受容体へのヘプシジン結合に対する競合は、当分野において周知の技術を使用して実施できる。リガンド、またはより一般的には、ヘプシジンタンパク質に対する結合パートナーは、例えば本明細書に記載の技術を使用して、ヘプシジンポリペプチドのβ−2−ミクログロブリンへの複合体化を阻害する能力についてスクリーニングすることができる。
【0082】
本発明の一部の実施形態では、トランスフェリンのアゴニストもしくはアンタゴニストは、同様に、患者の肝細胞またはリンパ球などの細胞内に輸送される鉄の量を増加または減少させるために利用される。例えば、薬物、治療薬、アゴニストもしくはアンタゴニストの有効性は、その調節をインビトロ細胞系中でモニタリングされるスクリーニングプログラムにおいて同定できる。様々な突然変異ヘプシジンタンパク質/ペプチドを発現する宿主細胞系は一次スクリーニング系として使用するために適合する。候補薬は、これらの細胞とのインキュベーションおよびヘプシジン遺伝子に依存する細胞機能を測定することによって、または適正なヘプシジンタンパク質のフォールディングまたはプロセシングを測定することによって評価できる。そのようなアッセイは、さらにまたヘプシジン遺伝子機能の研究によって決定されるような受容体様活性、鉄輸送および代謝、遺伝子転写またはその他の上流もしくは下流生物学的機能を測定するステップも必要とすることがある。
【0083】
あるいは、無細胞系を利用することもできる。精製ヘプシジンタンパク質は、無細胞系中でスクリーニングされる人工の膜もしくは小胞および薬物内で再構成することができる。そのような系はしばしばより便宜的であり、本質的には高スループットタイプのスクリーニングおよび自動化にとってより扱いやすい。
【0084】
ヘプシジンタンパク質の純度を決定するための基準には、タンパク質科学の分野にとって標準的な基準が含まれる。これらには、N末端アミノ酸決定法、一次元および二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動法、ならびに銀染色法が含まれる。精製タンパク質はドラッグデザインにおいて役立つように二次および三次構造の決定に関する研究、そして分子の生物学的機能についてのインビトロ研究において使用するために有用である。
【0085】
本発明の一部の実施形態では、構造の知見および知られているヘプシジンタンパク質の機能相互関係からヘプシジン遺伝子およびヘプシジンタンパク質活性を調節するための薬剤を設計できる。このため、X線結晶学検査、コンピュータ援用分子モデリング(CAMM)、定量的もしくは定性的構造−活性関係(QSAR)、および類似の工学技術の使用による合理的ドラッグデザインはさらに新薬発見の努力に焦点を合わせることができる。合理的設計は、ヘプシジンタンパク質活性と相互作用してヘプシジンタンパク質活性を修飾できるタンパク質もしくは合成構造の予測を可能にする。そのような構造は、化学合成できる、または生体組織中で発現することができる。このアプローチは、Capsey et al.,Genetically Engineered Human Therapeutic Drugs,Stockton Press,New York(1988)において検討されている。さらに、コンビナトリアルライブラリーを設計し、合成し、スクリーニングプログラムにおいて使用できる。
【0086】
本発明に基づく、またはそれに由来する治療薬を投与するために、改善された輸送、送達、耐性などを提供するために適切な担体、賦形剤、およびその他の物質を調製物中に組み込めることは理解されるであろう。
【0087】
全ての製薬専門家に知られている処方集では極めて多数の調製物を見いだすことができる。Remington’s Pharmaceutical Sciences,(15th Edition,Mack Publishing Company,Easton,Pa.(1975))、特にその中のBlaug,Seymourによる第87章。これらの調製物には、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ろう、オイル、脂質、無水吸収基剤、水中油型もしくは油中水型エマルジョン、カーボワックスエマルジョン(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半流動ゲル、およびカーボワックスを含有する半流動混合物が含まれる。
【0088】
上記の調製物は、調製物中の活性物質がその調製物によって不活化されない、そしてその調製物が生理学的に適合性であることを条件に、本発明による治療および療法において適切な可能性がある。
【0089】
本発明は、本明細書に記載の実施形態には限定されず、本発明の範囲から逸脱せずに修飾または変更することができる。
【実施例1】
【0090】
ヒト肝組織および組織標本中でのヘプシジンの発現
本研究で使用したヒト肝サンプル(n=7)は、肝転移を伴う成人被験者における部分的肝切除術後に入手した。健常組織は、免疫組織化学検査のために4%パラホルムアルデヒド中で固定するか、またはRT−PCR、ウェスタンブロットおよび免疫蛍光分析のために液体窒素中で急速冷凍した。
【0091】
モルモット(n=7)およびマウス(n=5)に麻酔をかけ、引き続いて頸椎脱臼によって致死させた。肝臓、骨格筋および心臓からの組織標本を切除し、ウェスタンブロット分析のために液体窒素中で急速冷凍するか、またはパラホルムアルデヒド中で固定した。
【0092】
ペプチド合成、免疫方法、および抗体
公表されたプロヘプシジン配列(Krause et al.,(2000)FEBS Lett.480,147−150;Pigeon et al.,(2001)J.Biol.Chem.276,7811−7819)から、ペプチドであるヘプシジン−(28−47)およびヘプシジン−(70−84)を、標準Fmocプロトコール(Cetin et al.,(1994),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91,2935−2939)を使用してC末端アミドとして合成した。これらのペプチドはm−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを使用してアオガイヘモシアニンへ結合させ、そして2匹のSPFウサギ(Charles River Iffa Credo)を各ペプチドコンジュゲート(Eurogentec社、ベルギー国スラン)により免疫にした。本研究では、ELISAによって力価を試験した後、ヘプシジン−(70−84)に対して向けられた[EG(1)−HepC]ならびに各々ヘプシジン−(28−47)に対して向けられたEG(1)−HepNおよびEG(2)−HepNの3種の抗血清を使用した(図1)。(ヘプシジン28−47:PQQ TGQ LAE LQP QDR AGA RA(配列番号3)、ヘプシジン70−84:CGC CHR SKC GMC CKT(配列番号4))。抗血清を生成させるために使用したペプチドエピトープは、BLAST P2探索によって確証されたようにこれまでに報告されたいずれのタンパク質に対しても相同性を提示しなかった。
【0093】
あるいはマウスTfR2(BioTrend社、ドイツ国ケルン)に対するBT−TFR21S抗体は、例えばヒトTfR2−αの対応する領域に対して68%配列相同性を示しているαおよびβアイソフォームへスプライシングしたマウスTfR2−α(TfR2)のマウスの細胞質N末端に対して産生した。例えばFleming et al.,(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97,2214−2219)を参照されたい。この抗体をウサギにおいて生成し、アフィニティ精製した。
【0094】
ヒト肝における発現分析
RNA単離は、DNA消化を含むQiagen RNAeasyキットを使用して実施した。逆転写(RT)−PCR分析は、以前に記載のとおりに(Kulaksiz et al.,(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99,6796−6801;Kulaksiz et al.,(2002)Am.J.Pathol.161,655−664)、5−3’方向付けに提示された以下のプライマーおよび仕様ヒトヘプシジン(GenBankデータベース受託番号NM0211175)、ヌクレオチド位置147〜165および338〜316に対応する5’−CTG CAA CCC CAG GAC AGAG−3’(配列番号5)、および5,GGA ATA AAT AAG GAA GGG AGG GG−3’(配列番号6)を使用して実施した。ヌクレオチド位置2496〜2515および2694〜2675に対応するヒトTfR2(#AF067864)、5’−GAT TCA GGG TCA GGG AGG TG−3’(配列番号7)および5’−(GAA GGG GCT GTG ATT GAA GG−3’(配列番号8)。94℃、4分間での初期変性後;反応液には35サイクルの次の加熱プログラムを受けさせた。94℃で30秒間、60℃で30秒間、および72℃で30秒間;このプログラムの後には最後に72℃での5分間の鎖延長ステップが続いた。増幅産物は、臭化エチジウム染色した1.8%の89mM Tris/89mMホウ酸/2mM EDTA(pH 8.3)アガロースゲル上でランさせた。有意なレベルのゲノムDNAの増幅は、適切なコントロールによって排除した。
【0095】
HEPG2細胞中での発現分析
ヒト肝臓癌HepG2細胞をGerman Collection of Microorganisms and Cell Culture(ドイツ国ブラウンシュヴァイク)から入手し、10%(v/v)熱不活化FBS、ペニシリン(100単位/mL)、およびストレプトマイシン(100mg/mL)を補給したRPMI 1640培地(Gibco社、ドイツ国カールスルーエ)中の5% CO2中において37℃で増殖させた。細胞は、上記のプライマー仕様を使用してRT−PCRによって分析した。免疫蛍光アッセイ顕微鏡検査のためにHepG2細胞をメタノール中で4分間かけて固定したガラススライド上で増殖させ、そしてPBS中の0.5% Triton X−100を用いて透過処理した。ヘプシジン(1:2000)およびTfR2抗体(1:1000)の60分間に渡るインキュベーション、およびそれに続くCy−3−結合抗ウサギ抗体(Dianova社、ドイツ国ハンブルク)と一緒のインキュベーション後に、適切なフィルターを使用してOlympus AX70顕微鏡下で免疫染色を調査した。
【0096】
血清、組織およびHEPG2細胞からのヘプシジンおよびTFR2の抽出
ヘプシジンのより大きな起源として、本出願人らは慢性腎不全の患者から収集した血清を使用した。ヘプシジンを抽出するため、0.01N HClを用いて20mLの血清サンプルを1:1に希釈し、濃HClを用いてpH 3.0へ調整した。冷凍組織およびHepG2細胞を0.5M酢酸中で混合し、(Cetin et al.(1994)Proc Natl Acad Sci USA 91,2935−2939;Cetin et al.(1995)Proc Natl Acad Sci USA 92,5925−5929)に記載されたように8分間沸騰させた。Ultra−Turraxホモジナイザー(Janke & Kunkel、ドイツ国シュタウフェン)を用いて均質化した後、サンプルは4℃で20分間かけて20,000×gで遠心し、上清を孔径0.45μmのフィルターに通して濾過した。タンパク質を濃縮させるため、血清サンプル、細胞および全組織抽出液をオクタデカシリル(C18)Sep−Pakカートリッジ(Waters社、マサチューセッツ州)へ塗布した。カラムを0.01M HClで洗浄し、30%(v/v)の2−プロパノール/30%(v/v)のメタノール/0.01M HClを用いて溶離させた(Cetin et al.(1994)Proc Natl Acad Sci USA 91,2935−2939)。タンパク質分画を凍結乾燥させ、使用時まで−80℃で貯蔵した。TfR2分析のために、組織および細胞は100mM NaCI、50mM Tris−HCl(pH 7.4)、10%グリセロール、1% Triton X−100、2mg/mLのロイペプチン、2mg/mLのペプスタチン、および1mMのフッ化フェニルメチルスルホニルを含有するTris−HClバッファー中で均質化させ、そして4℃で30分間にわたり100,000gで遠心した。
【0097】
免疫ブロット分析
ウェスタンブロット分析のために、タンパク質抽出液は4%(w/v)SDS(Merck社、ドイツ国ダルムシュタット)、50mM Tris−HCl(pH 8.15)、1mM EDTA、3.24mMジチオスレイトール(Roth社、ドイツ国カールスルーエ)、12.5%(w/v)グリセロール(Merck社)、および0.002%ブロモフェノールブルー(Merck社)を含むサンプルバッファー中において94℃で7分間インキュベートした。ヘプシジンを検出するために、16.5%トリシン−SDS−ポリアクリルアミドゲルを公表されたプロトコール(Cetin et al.,(1994),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91,2935−2939;Kulaksiz et al.,(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99,6796−6801;Kulaksiz et al.,(2002)Am.J.Pathol.161,655− 664;Cetin et al.,(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92,5925−5929)によって使用した。TfR2イムノブロットは、8% SDS−ポリアクリルアミドゲルを使用して実施した。電気泳動法後に、半乾式ブロット法によって疎水性フッ化ポリビニリデンを基剤とする膜(Pall社、英国ポーツマス)上にタンパク質を移した。これらの膜は、上記の希釈率でヘプシジンまたはTfR2抗体と一緒に一晩インキュベートした。10mM Tris−HCl(pH 8.0)、150mM NaCl、および0.05% Tween 20を含有するTris−緩衝生理食塩液中で洗浄した後、色原体としてのニトロブルーテトラゾリウムおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェート(Sigma社)を使用してアルカリホスファターゼ結合ヤギ抗ウサギ抗体(希釈率1:50,000;Sigma社)とのインキュベーション後に各免疫反応性タンパク質を可視化した。ウェスタンブロット上の免疫反応は、抗体と対応するペプチド免疫原とのプレインキュベーション後に特異的に遮断された。第2ヤギ抗ウサギ抗体との公差反応性は、適切なコントロールによって排除した(Cetin et al.(1994)Proc Natl Acad Sci USA 91,2935−2939;Kulaksiz et al.(2002)Proc Natl Acad Sci USA 99,6796−6801;Kulaksiz et al.(2002)Am J Pathol 161,655−664;Cetin et al.(1995)Proc Natl Acad Sci USA 92,5925− 5929)。
【0098】
免疫組織化学検査および免疫蛍光法
組織を4%パラホルムアルデヒド中で18時間にわたり4℃で固定した。段階的希釈率でのエタノール中での脱水後、標本はパラフィン中に包埋した。パラフィン切片(5μm)をヘプシジン(抗体EG(l)−HepN、EG(2)−HepN、およびEG(l)−HepC、各希釈率1:2000)またはTfR2(抗体BT−TFR21−S.希釈率1:1000)に対して、以前に記載したとおりのアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ複合体(ABC)法およびインキュベーション順序(Kulaksiz et al.,(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99,6796−6801;Kulaksiz et al.,(2002)Am.J.Pathol.161,655−664)によって免疫染色した。これらの切片は各抗体と一緒に4℃で24時間インキュベートし、次に希釈率1:200のビオチニル化抗ウサギIgG(Jackson Immunoresearch社、米国ペンシルベニア州ウェストグローブ)と一緒に30分間インキュベートした。これらの切片は次にPBS中で希釈して前形成したビオチン−ペルオキシダーゼ/ストレプトアビジン(Jackson Immunoresearch社)の複合体と一緒に30分間インキュベートした(最終濃度:ビオチン−ペルオキシダーゼ、0.7μg/mL;ストレプトアビジン、5μg/mL)。抗原−抗体結合部位は、0.05M Tris−HCl(pH 7.6)中の07mM塩酸ジアミノベンジジン/0.002% H2O2中での切片のインキュベーションによって可視化された。
【0099】
免疫蛍光顕微鏡検査のために、ヒト肝からの組織切片(2〜4μm)はクライオトーム(FrigoCut 2800E;Leica社、ドイツ国Nussloch)を用いて調製し、2時間をかけて風乾し、そして低温アセトン(−20℃)中で10分間かけて固定した。二重免疫蛍光標識化は、特異的ヘプシジン抗体(希釈率1:1000)および希釈率1:30の小管P−糖タンパク質(Centocor社、ペンシルベニア州マルヴァーン)に対して産生されたモノクローナル抗体C219(id.)を使用して以前に記載されたとおり実施した(Rost et al.,(1999)Hepatology 29,814−821)。各抗血清とのインキュベーション後、マウスおよびウサギIgG(Dianova社、ドイツ国ハンブルク)に対するCy2−(1:200)およびCy3−(1:600)標識抗体とのインキュベーションによって染色を実施した。顕微鏡写真は、デジタルカメラ(color view 12,soft imaging system SIS社、ドイツ国ミュンスター)および分析ソフトウエア(SIS社、ドイツ国ミュンスター)を装備したOlympus AX70顕微鏡を用いて撮影した。
【0100】
特異性コントロール
方法依存性の非特異性は、(Cetin et al.,(1994),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91,2935−2939;Cetin et al.,(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92,5925−5929)に記載されたようにコントロールをランすることによって排除した。抗体特異性は、抗体と同種および異種抗原ペプチドとの前吸着によって試験した(6.25〜100μg/mLの抗血清)(Kulaksiz et al.,(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99,6796−6801;Kulaksiz et al.,(2002)Am.J.Pathol.161,655−664)。抗体と6.25μg/mLという低い濃度での同種抗原との前吸着は肝組織および細胞中での免疫染色を完全に遮断したが、抗体と100μg/mLまでの濃度の異種抗原との前吸着は免疫染色に影響を及ぼさなかった。
【0101】
ヘプシジンELISA競合結合アッセイ
血清サンプルは、26例の健常個体(女性13例、男性13例、年齢26〜64歳、平均43歳)、瀉血療法を受けた患者(15例)および受けていない患者(20例)を含むHFEにおけるC282Y突然変異に対するHHホモ接合性を備える患者35例(女性14例、男性21例、年齢23〜82歳、平均54歳)、ならびに長期的血液透析を受けている腎不全の患者59例(女性33例、男性26歳、年齢26〜96歳、平均57歳)から入手した。サンプル収集中には、患者が感染しないように細心の注意を払った。腎不全症群の患者19例は、最大値11g/dlのヘモグロビン値を特徴とする腎性貧血を有していた。慢性腎不全症を有する全患者は、3,000IEの組換えヒトエリスロポエチン(EPO)を用いて週2〜3回治療した。10mLの血液サンプルは氷温血清チューブ内に採取し、4℃で10分間、2,500×gで遠心した。測定は、40mM Tris−HCl(pH 7.3)、100mM NaClを含有するTris緩衝生理食塩液(TBS)中に1:4000で希釈したウサギ抗ヘプシジン抗体EG(2)−HepNで被覆された(200μL/ウエル)96ウエルマイクロタイタープレートを使用して2回ずつ実施した。様々な量の合成ペプチド(0、20、100、500、および1,000ng/mL)またはヒト血清サンプルを含有する標準物質50μLと、N末端がビオチニル化されたヘプシジン−(28−47)(Peptide Specialty Laboratories社、ドイツ国ハイデルベルク)150μLとを各ウエルに添加し(2ng/ウエル)、室温で1時間インキュベートした。TBST(0.05% Tween 20を含むTBS)を用いて洗浄した後、ビオチニル化抗原−抗体複合体は、基質のテトラメチルベンジジン(DRG Instruments社、ドイツ国マールブルク)を用いてストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ酵素(Dako社、ドイツ国ハンブルク)によって検出された。呈色反応は1M H2SO4を用いて停止させ、この溶液の吸光度を波長450/630nmで読み取った。
【0102】
当該の4つの群中で測定したヘプシジン値をEXCELのスプレッドシート内に入力し、SAS WIN Version 8.2を使用して評価した。測定値は、診断グループ毎の次の要約統計量:観察回数、相加平均、標準偏差、最小値、中央値、および最大値によって要約した。可能性のある群間差はペアワイズWilcoxon U検定を用いて分析した。有意性レベルは5%(0.05)に設定した。プロヘプシジンと鉄、フェリチンまたはトランスフェリンとの相関関係はSpearman順位相関によって分析した。
【0103】
肝およびHEPG2細胞中のヘプシジンおよびTFR2の発現
RT−PCR分析は、ヘプシジンがヒト肝で発現することを証明した(Gehrke et al.(2003)Blood MS#2002−11−3610.R2)。同様に、192−bpの予測されたPCR産物がHepG2細胞(コントロール)中で検出されたが、これらは既にヘプシジンを発現することが証明された(Pigeon C et al.(2001)J Biol Chem 276,7811−7819;Gehrke et al.(2003)(図2A)。さらに、RT−PCR分析は、TfR2がヒト肝およびHepG2細胞中で発現することを明確に解明した(データは示していない)。
【0104】
ウェスタンブロット分析では、全ヘプシジン抗体[EG(l)−HepN、EG(2)−HepN、およびEG(1)−HepC]は一致してヒトおよびモルモット肝の抽出液中で〜10kDaの免疫反応性バンドを同定した。この肝ペプチドは、HepG2細胞のホモジネート中でヘプシジン抗体によって認識された免疫反応性バンドと共移動した(図2B〜D)。全抗体は、さらにまたヒトおよびモルモット肝抽出液もしくはHepG2細胞抽出液を負荷した全レーンにおいて〜20kDaで免疫反応性タンパク質を同定した。骨格筋抽出液(コントロール)のウェスタンブロット分析は、10kDaの免疫反応性バンドも20kDaのバンドも示さなかった(図2B〜D)。TfR2抗体BT−TFR21−Sを用いたウェスタンブロット分析は、マウス肝の抽出液中で予想された(Fleming et al.,(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97,2214−2219)〜105kDaタンパク質の染色を生じさせた。ヒト肝およびHepG2細胞の抽出液中では、〜95kDaの免疫反応性TfR2および少ない程度で〜105kDaの免疫反応性タンパク質が同一抗体によって認識された(データは示していない)。心臓(コントロール組織)中では、免疫反応性は検出されなかった。
【0105】
HEPG2細胞中の免疫蛍光
エピトープ特異的抗ヘプシジン抗体を使用して、HepG2細胞中のヘプシジンペプチドの発現を免疫蛍光分析により調査した。全抗体は同様に、強力な免疫反応性を生じさせたHepG2細胞中でヘプシジンを同定した(図3)。ヘプシジンの細胞局在に一致して、TfR2抗体は同一細胞中でTfR2を検出した(データは示していない)。
【0106】
ヘプシジンおよびTFR2の細胞局在および細胞内局在
様々な領域特異的抗体を用いた免疫組織化学的試験は一致して、ヘプシジンをヒト肝の肝細胞へ局在化した(図4)。クッパー細胞、内皮細胞、胆管、および血管系ではヘプシジン免疫反応性は完全に欠如していた。同一抗体は、モルモット肝においても強度のヘプシジン免疫反応性を検出した(図4)。肝小葉はヘプシジン免疫反応性に関して不均一であった。肝小葉内では、ヘプシジン免疫反応性細胞は主として門脈周囲体に位置しており、ヘプシジン陽性細胞の頻度は門脈三管から中心静脈に向かって連続的に減少した(図5)。顕著にも、ヘプシジン陽性細胞間には明確な細胞間の相違が存在した。大多数の肝細胞はヘプシジンに対して強度に陽性であったが、他の肝細胞はほんのかすかな染色しか示さなかった、またはヘプシジンに対して完全に非反応性であった(図5)。細胞内レベルでは、免疫組織化学によってヘプシジン免疫反応性は肝細胞の側底(=洞様)膜ドメインに限定された。各細胞の頂端膜ドメインでは免疫反応性は見いだされなかった(図2)。同様に、免疫蛍光分析は側底膜ドメインでヘプシジンに対する強力な免疫反応性を証明した;小管P−糖タンパク質に対して産生されたC219抗体を用いた二重染色によって明らかになったように頂端膜ドメインからの免疫反応性は見られなかった(Rost et al.(1999)Hepatology 29,814−821)(データは示していない)。
【0107】
ヘプシジンの局在に対応して、タンパク質特異的抗体BT−TFR21−Sはヒトおよびマウス肝中でTfR2を検出した。細胞レベルでは、TfR2は肝細胞の側底膜で見いだされたが、これは免疫反応性の強度に関する明確な細胞間の相違を明らかにした(データは示していない)。不均質性は肝小葉内でも観察され、中心静脈から門脈三管に向かって免疫反応性が増加した。
【0108】
ヒト血漿中のヘプシジンプロペプチドの検出
特異的N末端ヘプシジン抗体EG(2)−HepNを用いて、高い再現性および感受性を備える安定性プロヘプシジンELISAアッセイ(DRG Instruments社、ドイツ国マールブルク)が開発された。図6から明らかなように、ELISAは、ヒト血清中のプロヘプシジン濃度が決定される範囲である4から400ng/mLまでの間の最高解像力を示した。特異性コントロールとして、異種ペプチドを用いてELISAにおけるインキュベーションを実施した。異種ペプチドを使用したときに、交差反応性は観察されなかった。
【0109】
血中のプロヘプシジンの存在は、ウェスタンブロット分析により確証された。全ヘプシジン抗体は、ヒト血清の抽出液中で肝組織およびHepG2細胞抽出液中の免疫反応性ヘプシジンと一緒に正確に共移動した〜10kDa分子量の単一ヘプシジン免疫反応性バンドを同定した(図2、B〜D)。
【0110】
ELISAの特性
このアッセイの感受性は3.95ng/mLであった。最も低い標準物質(20ng/mL)との重複は見られなかった。ゼロ標準物質に溶解させたヒトプロヘプシジンの連続希釈液は90.6〜111.6%の範囲内の回収率でプロヘプシジンELISAの検量線と平行にランした。予測濃度からの観察されたパーセンテージとして表示した回収率は91.8%から105.7%であった。アッセイ範囲の全域で試験したプロヘプシジンの3種の濃度で良好な精度が証明された(全CV<10%)。
【0111】
遺伝性ヘモクロマトーシス、慢性腎不全症および腎性貧血中のプロヘプシジンレベル
高感受性ヘプシジンELISAを使用して、51.6〜153.4ng/mL(血清)(平均値±SE;106.2±32.1ng/mL)の範囲内のプロヘプシジンが健常志願者26例のコントロール群中で検出された(図7、表1)。HH患者では、プロヘプシジンの濃度は12.1から153.9ng/mL(血清)(平均値±SE;70.2±38.1ng/mL)であった。これらの濃度は、コントロール被験者の濃度と比較して有意に低かった(P<0.05)(図7、表1)。CRIに罹患している患者の血清中のプロヘプシジン濃度は31.1から471.3ng/mL(平均値±SE;1481±88.0ng/mL)まで変動し、コントロール被験者(P<0.01)およびHH(P<0.001)における濃度と比較して有意に増加した。これとは対照的に、RAを有する血液透析患者中のプロヘプシジンレベル(115.0±53.1ng/mL;範囲、20.5〜252.4ng/mL)(P=0.05)はCRI患者と比較して有意に低下した(図7、表1)。
【0112】
プロヘプシジンと鉄、フェリチンまたはトランスフェリン飽和との間で、本出願人らのサンプル(HH、CRI、およびRAからの血清)中で有意な相関は見いだされなかった(図8)。ゼロからの差についての試験は有意性を示さなかった。
【0113】
【表1】
【0114】
考察
特異的プライマーを用いたRT−PCR分析は、ヘプシジンが、多くの態様において正常肝細胞の生理学を示している明確に分化した肝細胞癌細胞系であるHepG2細胞(コントロール)中で高度に発現することを証明した(Aden et al.(1979)Nature 282,615−616)。HepG2細胞中に上首尾で使用された適切なプライマー仕様および組み合わせを使用して、RT−PCR試験はヒト肝中でのヘプシジンの発現を確証した。ヘプシジン前駆体分子中の様々なエピトープを認識する3種の相違する抗体(図1)は、ウェスタンブロット分析によって、HepG2細胞中だけではなく、2つの種であるヒトおよびモルモットの肝抽出物中でも、〜10kDaの免疫反応性ペプチドを同定した。この免疫反応性ペプチドの見かけの分子量は、cDNA配列からのヘプシジンプロホルモンに対して推定された予測分子量にしたがっている(Pigeon C et al.(2001)J Biol Chem 276,7811−7819)(図1)。興味深いことに、〜20kDaの第2免疫反応性バンドはHepG2細胞ならびにヒトおよびモルモット肝の抽出物中で全ヘプシジン抗体によって検出されたが、コントロール組織中では欠如していた。この免疫反応性タンパク質は、ダイマータイプのヘプシジンを反映する可能性がある。実際に、以前の研究では、凝集特性および可能性のあるマルチマーの形成がヘプシジン−25については記載されているがヘプシジン−20については記載されていない(Hunter et al.(2002)J Biol Chem 277,37597−37603)。
【0115】
領域特異的および分子ドメイン特異的ヘプシジン抗体を用いた免疫細胞化学的研究は、既に分子生物学技術によって証明されたように、これらの細胞中でのヘプシジンの発現を示すHepG2細胞中の強力な免疫反応性を解明した(Gehrke et al.(2003)Blood MS#2002−11−3610.R2)。これらの様々なヘプシジン抗体を使用した免疫組織化学的および免疫蛍光検査は、ヒトおよびモルモット肝中で、ヘプシジンが特に主として門脈三管の周囲に位置する肝細胞中に特異的に局在することを示した。ヒトおよびモルモット肝中だけではなくHepG2細胞中での様々な領域特異的抗体による一致した染色は、肝細胞がヘプシジンの起源であることを指摘している。ヘプシジン免疫反応性は門脈周囲帯から中心静脈に向かって減少した。この門脈小葉内での帯域は、門脈周囲肝細胞が腸から鉄富裕な血液を輸送する門脈静脈への初回通過アクセスを有するので、機能的有意性を有する可能性がある。顕著にも、ヘプシジンの発現または分泌における細胞間の相違を反映する可能性があるヘプシジン免疫反応性の密度に関してヘプシジン陽性細胞間には明確な細胞間の相違が存在した。
【0116】
細胞内レベルでは、ヘプシジンは肝細胞の側底膜ドメインに集中していた。頂端膜ドメインでは、免疫反応性は見いだされなかった。細胞内レベルでのヘプシジンの離散的な分布パターンからは、ヘプシジンの肝洞様血管内への遊離が側底膜へ向けられたことを推論できる。この指向性の分泌経路はヒト血清中でのヘプシジンプロホルモンの検出(図1)によって追加して立証された(下記参照)。その結果、これらの所見はプロヘプシジンの分泌を介して内分泌腺法で鉄代謝を調節できるというさらなる証拠を提供している。
【0117】
TfR2ならびに各標的膜ドメインの発現および細胞分布を分析するために、細胞レベルでのRT−PCR、ウェスタンブロットおよび免疫組織化学的研究を実施した。以前の研究で証明されたように、RT−PCR分析はTfR2がヒト肝中で高度に発現することを解明した。(Fleming et al.,(2000)Proc.Natl.Acadi.Sci.USA 97,2214−2219)。このタンパク質の存在は、ヒトおよびマウスTfR2に対して特異的なBT−TFR21−S抗体を使用してウェスタンブロット試験によって確証された。〜105kDaの免疫反応性タンパク質はマウス肝抽出物中で検出された。免疫反応性TfR2のこの分子量は予想された95kDa(Fleming et al.,(2000)Proc.Natl.Acadi.Sci.USA 97,2214−2219)よりわずかに大きく、以前に記載されたように(Kawabata et al.,(2000)J.Biol.Chem.275,16618−16625)何らかの翻訳後修飾を表す場合がある。しかし同一条件下で、TfR2−抗体は予想分子量95kDaのタンパク質およびヒト肝抽出物中では低い親和性を備える105kDaタンパク質を同定した。ヒトおよびマウス肝のイムノブロット間の矛盾は、種間の相違に起因すると考えられる。
【0118】
免疫組織化学的検査は、TfR2がヒトおよびマウス肝の肝細胞に局在することを解明した。ヘプシジンの細胞分布に一致して、タンパク質特異的抗体はTfR2を排他的に側底膜に局在化した。このタイプのTfR2の膜特異的関連は特に、二鉄トランスフェリンに結合して血液から肝細胞内へのトランスフェリン結合鉄の取り込みを媒介することによって鉄代謝に関係している、TfR2の側底膜活性化を支持している(Philpott,C.C.(2002)Hepatology 35,993−1001;Subramaniam et al.,(2002)Cell Biochem.Biophys.36,235−239)。注目すべきことに、ヘプシジンについて記載されたものに類似する小葉帯域がTfR2について観察され、免疫反応性は門脈周囲帯から中心静脈に向かって減少した。
【0119】
細胞レベルでのヘプシジンとTfR2との相互作用が以前の研究で考察されているので(Nicolas et al.,(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98,8780−8785;Frazer et al.,(2002)Gastroenterology 123,835−844)、HepG2細胞−明確に分化した肝細胞癌細胞系(Aden et al.,(1979)Nature 282,615−616)中のヘプシジンとTfR2との共在が分析され、多くの態様において正常肝細胞の生理学的性質が証明された。ヒト肝中で使用されて成功した適切なプライマー仕様および組み合わせを使用するRT−PCR試験は、HepG2細胞中のヘプシジンおよびTfR2の発現を同定した。翻訳レベルでは、HepG2細胞中のヘプシジンおよびTfR2の存在は、肝組織由来の対応する免疫反応性バンドと共移動する正確な分子量の免疫反応性タンパク質バンドを生じたウェスタンブロット試験によって確証された。HepG2細胞中の各タンパク質の共局在化は、対応する領域特異的および分子ドメイン特異的抗体を使用する免疫細胞化学によって特に実証された。全抗体は、HepG2細胞中のヘプシジン標識化を証明しており、これらの細胞中の顆粒免疫反応性パターンを解明し、これは電子顕微鏡によって肝細胞中で既に証明されている小さな分泌小胞へのペプチドの局在化を推測させる(Schwartz et al.,(1985)EMBO J.4,899−904)。TfR2は、固有の分布パターンを伴って、HepG2細胞へ免疫細胞化学的に局在化された。
【0120】
転写レベルおよび翻訳レベルでの本試験データに基づくと、ヘプシジンおよびTfR2は肝臓内で共発現し、肝細胞の側底膜ドメインに共局在化される。細胞レベルでのTfR2およびヘプシジンの一致する局在化に加えて、門脈周囲帯における集中した免疫反応性および中心静脈に向かって減少する染色を伴う肝小葉内のこれらの分子の類似の分布もまた検出された。共通(側底)膜ドメインおよびそれらの類似の小葉帯域におけるこれらのタンパク質の調整発現は、調節性ペプチドホルモンヘプシジンとTfR2を介してのトランスフェリン結合鉄の取り込みとの形態機能的結合を支持している。実際に、様々なデータがヘプシジンとTfK2との相互作用を実証している。第一に、おそらくはTfR2によって感知されるトランスフェリン飽和における変化は肝性ヘプシジンの発現を調節する(Philpott,C.C.(2002)Hepatology 35,993−1001)。第二に、ヒト肝上での定量的RT−PCR分析から明らかなように、TfR2の肝性発現はトランスフェリン飽和によって調節されるヘプシジン発現と有意に相関している(S.G.Gehrke,H.Kulaksiz et al.、未公表データ)。第三に、ヘプシジンおよびTfR2は共通細胞膜ドメインに共局在しており、突然変異の症例ではTfR2(Fleming et al.,(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99,10653−10658)およびヘプシジン(Nicolas et al.,(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98,8780−8785)の発現を無効にする部位である門脈周囲帯における強力な免疫反応性を伴う同様の小葉分布を明らかにしているが、ヘプシジン(Zhou et al.,(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95,2492−2497;Levy et al.,(1999)Blood 94,9−11)およびB2m(Santos et al.,(1996)J.Exp.Med.184,1975−1985)の肝性鉄過負荷も発生する。第四に、TfR2遺伝子における突然変異はヘモクロマトーシスを引き起こすと報告された(Camasehella et al.,(2000)Nat.Genet.25,14−15)。これは、順に鉄吸収の上昇を生じさせる減少したヘプシジン発現の結果として発生する可能性がある(Nicolas et al.,(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98,8780−8785)。
【0121】
HepG2細胞中のヘプシジンおよびTfR2の同時の存在およびそれらの肝臓内での共通する極性局在および小葉分布は、ヘプシジンがトランスフェリン飽和によって調節され、そして順にヘプシジン発現を変調させるTfR2へ形態機能的に結合した内因性肝性ペプチドであることを指示している。そこで、ヘプシジンのシグナル経路に関する研究から関連する所見が得られると予想される。
【0122】
肝臓などの血液形成組織および鉄貯蔵部位は食事性鉄に対する身体の要求を指示する腸細胞へシグナルを伝送するので(Philpott C.C.(2002)Hepatology 35,993−1001)、ヘプシジンは肝細胞から分泌され、腸性鉄吸収を調節する候補シグナル因子である。しかし本発明の以前には、血液中における一定の分子形態のヘプシジンの存在については論争があった(Krause et al.(2000)FEBS Lett 489,147−150;Park et al.(2001)J Biol Chem 276,7806−7810;Hunter et al.(002)J Biol Chem 277,37597−37603)。
【0123】
ヘプシジンのプロホルモンが血液中に分泌されるかどうかを分析するため、そして健常志願者および様々な疾患を有する患者のヒト血清中のプロヘプシジンレベルの範囲を評価するために、ヘプシジンプロホルモンに対して産生されたN末端抗体EG(2)−HepNを適用することによってELISAが開発された。C末端抗体EG(l)−HepCはドットブロット(データは示していない)、ウェスタンブロット、免疫組織化学、および免疫蛍光の実験(図1〜4)において特異的結果を明らかにしたが、ELISAでは免疫反応性を入手することはできなかった。ヘプシジンの緻密なフォールディングパターンおよびその三次構造は、EG(l)−HepC抗体が循環中ヘプシジンを同定する能力がないことの原因である可能性がある。
【0124】
抗体EG(2)−HepNを用いたELISAは3.95ng/ウエルの検出限界をもつ高再現性、安定性および感受性ならびに4から400ng/mLの範囲内の強力な分解能を特徴とした。この範囲はヘプシジン濃度が決定された範囲であった。健常個体(n=26)由来のヒト血清中で、プロヘプシジンは51.6から153.4ng/mL(平均値±SE;106.2±32.1ng/mL)の範囲内で測定されたが、これは知られている調節性ペプチドホルモンの濃度に匹敵しており、ヒト尿中のヘプシジン濃度より約11倍高い(Park et al.(2001)J Biol Chem 276,7806−7810)。興味深いことに、測定された濃度は、このペプチドが強力な調節を受ける可能性があることを示す広範囲のプロヘプシジンを示した。
【0125】
cDNA構造は、ヘプシジンが、20〜25アミノ酸ペプチドへN末端でプロセシングされる84aaプレプロペプチドとして翻訳されることを示唆している(Park et al.(2001)(図1および9))。単一配列開裂部位に対する強力なコンセンサス配列は60残基プロペプチドを生じさせるであろうGly24とSer25との間に位置するが、以前の研究は肝組織および血液のような天然起源からより大きなプロペプチドを単離することに失敗した(Park et al.(2001))。技術的困難に加えて、肝臓中の富裕なプロペプチドコンバターゼは一定のプロペプチドの単離を阻害することがある。これに関連して、近年の研究は、血液(Krause et al.(2000)FEBS Lett 489,147−150)および尿(Park et al.(2001)J Biol Chem 276,7806−7810)中において2つの研究グループによって記載されたヒトにおけるヘプシジンの循環形態がこのタンパク質のC末端20−25アミノ酸から構成されることを証明している。しかし、本発明のELISA測定はヘプシジン前駆体のN末端に対して産生された特異的抗体を用いて実施され、これは20−25アミノ酸のプロセシングされた形態の他に、ヘプシジンプロホルモンが分泌され、ヒト血液中で循環することを示している。実際に、血液中へのプロヘプシジンの潜在的遊離がウェスタンブロット分析によって確証された。全ヘプシジン抗体はヒト血清の抽出液中で肝臓およびHepG2細胞の組織抽出物中の免疫反応性ヘプシジンと一緒に正確に共移動した〜10kDaの単一ヘプシジンバンドを同定した(ポジティブコントロール;図1)。10kDaより小さいヘプシジンフラグメントは検出されなかった。ヒト血清中のプロヘプシジンの存在は、肝細胞が内分泌経路を介する食事性鉄吸収を減少させる可能性があるヘプシジンのプロホルモンを分泌することを示している。
【0126】
鉄過剰を有する患者におけるヘプシジンの有意性を分析するために、本発明は検査下の全HH患者において検出される鉄過剰の典型的特性を有するHFEにおけるC282Y突然変異に対してホモ接合性であるHH患者35例の血清中のヘプシジン濃度を提供する。ヘプシジン濃度は、以前に想定されたように腸性鉄吸収を減少させるためにこれらの個体においては増加しなかった(Fleming and Sly(2001)Proc Natl Acad Sci USA 98,8160−8162)。HH患者の血清中のプロヘプシジンレベルは、非処置患者においてだけではなく、週1回の瀉血療法を受けている個体においても予想外にダウンレギュレートされた。健常志願者と比較して、プロヘプシジン濃度は106.2から70.2ng/mL(血清)へ顕著に低下した。処置および非処置HH患者間で相違は観察されなかった。これらの所見は、肝ヘプシジン発現がhfeノックアウトマウス(Ahmad et al.(2002)Blood Cells Mol Dis 29,361−366;Muckenthaler et al.(2003)Nat Genet 34,102−107)およびHFE関連性ヘモクロマトーシス患者においては有意に低下していることを証明した以前のHH試験と一致している。それらはさらに一次ヒト肝細胞およびHepG2細胞の鉄負荷がヘプシジンmRNAをダウンレギュレートすることを証明しているインビトロ試験とも一致している(Gehrke et al.(2003)Blood MS#2002−11−3610.R2;Nemeth et al.(2003)Blood 101,2461−2463)。鉄吸収がHHでは鉄過剰にもかかわらず強化され(Pietrangelo A.(2002)Am J Physiol.Gastrointest Liver Physiol 282,G403−414;Philpott C.C.(2002)Hepatology 35,993−1001;Anderson and Powell(2002)Int J Hematol 76,203−207)、そして構成性ヘプシジン発現はヘモクロマトーシスのマウスモデルでは鉄過剰を防止するので(Nicolas et al.(2003)Nat Genet 34,97−101)、HH患者ではヘプシジン調節は中断されると想定される。低下した濃度のヘプシジンは、明らかに上昇した腸性鉄吸収を十分に阻害することはできない。さらにこれらの所見は、肝ヘプシジン発現がhfeノックアウトマウス(Ahmad et al.(2002)Blood Cells Mol Dis 29,361−366;Muckenthaler et al.(2003)Nat Genet 34,102−107)およびHH患者(Bridle et al.(2003)Lancet 361,669− 673)においては有意に低下しているという所見に基づくと、鉄過剰にもかかわらずHHにおけるプロヘプシジンアップレギュレーションの欠如は、HFEが血清中ヘプシジンレベルの調節に関係している可能性があることを指摘している。
【0127】
以前の研究は尿によるヘプシジン排泄が血清中フェリチン濃度と明確に相関することを証明しているが(Nemeth et al.(2003)Blood 101,2461−2463)、本研究では、HHもしくは透析患者における循環中プロヘプシジンと血清中鉄もしくはフェリチンレベルとの間で相関関係は見いだされなかった。同様に、プロヘプシジンと、肝ヘプシジンの発現を調節すると言われている(Gehrke et al.(2003))トランスフェリン飽和との間の相関関係も検出されなかったが、検査下のHH患者はヘプシジンに影響を及ぼすパラメーターを表す貧血、低酸素症または炎症の影響を受けなかった。これらのデータは、鉄貯蔵による血清中のプロヘプシジンレベルの調節が複雑な間接的作用を含むことを示唆している(Nemeth et al.(2003)Blood 101,2461−2463)。
【0128】
ヘプシジンは尿からも単離されているが、本発明は腎不全症患者におけるヘプシジン調節の評価を提供する。HH患者および健常被験者とは対照的に、CRI患者の血清中の免疫反応性プロヘプシジン濃度は健常被験者における106.2ng/mLから148.1ng/mLへ有意に増加した。透析患者における増加したプロヘプシジンレベルは、腎臓が循環中ペプチドの代謝および/または排出に関係している可能性を示唆している。しかし、尿中ヘプシジンは血液から濾過されるだけであるのか、または腎臓起源であるのかについては現在は不明である。本発明に基づくと、ヘプシジンは腎尿細管細胞中でも見いだされたので(Kulaksiz et al.(2003)、未公表データ)、ヘプシジンが少なくとも一部には腎臓から遊離されることを排除できない。
【0129】
本発明は、正色素性、正球性赤血球を特徴とする進行性腎不全の明確に認識された合併症であるRAを有する透析患者におけるプロヘプシジン血清中レベルの決定を提供する。健常被験者と比較して、免疫反応性プロヘプシジン濃度はRA患者においては有意に高くはなかった(平均値、115.0ng/mL)。ペプチドホルモンの蓄積をもたらすこれらの患者における末期腎不全にもかかわらず、プロヘプシジンレベルは貧血を伴わない透析患者におけるより有意に低かった(平均値、148.1ng/mL)。本発明から、RAにおけるヘプシジン調節は炎症または肝細胞腺腫の貧血におけるヘプシジン調節とは相違すると結論される。RAにおけるプロヘプシジンのダウンレギュレーションは、腸による鉄吸収および細網内皮系マクロファージからの鉄遊離を強化させるためのペプチドの反応性の生理的変調を反映している。本発明は、プロヘプシジンがEPO療法にもかかわらず貧血を伴わないCRI患者群では増加することを提供する。そこで、ヘプシジンが失血のためにRAでは減少すると結論され、これがヘプシジンのダウンレギュレーションの理由である可能性がある(Nicolas et al.(2002)J.Clin.Invest 110,1037−1044)。
【0130】
本発明は、ヒト血清中のプロヘプシジンレベルを測定するためのELISAを提供する。このアッセイは非侵襲性である上に容易に実施することができ、したがってルーチン作業のために適切である。プロヘプシジンアッセイは、その精度、感受性、再現性およびヒト血清サンプルのヘプシジン−(28−47)の正確な決定に基づいている。本ELISAの適用は、数種の鉄代謝障害に罹患している患者におけるプロヘプシジンの検出および決定を初めて可能にする。様々な鉄の状態におけるプロヘプシジン作用の正確な分子機序を同定するためにはより詳細な研究が必要とされる。本発明は、さらにまたヘプシジンのアゴニストおよびアンタゴニストが鉄障害の予防および治療における潜在的薬物であることを提供する。
【0131】
ヘプシジンの役割を理解するためには、ペプチドの細胞起源およびシグナル経路についての知識が必須である。この点に関し、本発明は、肝細胞の側底膜ドメインに局在している部位であるヒトおよびモルモット肝中のヘプシジン免疫反応性について記載する。以前の研究は、これらの細胞と吸収性腸細胞との間に関連がある推測していた(Hunter et al.,(2002)J.Biol.Chem.,M205305200;Anderson et al.,(2002)Biochem.Soc.Trans.30,724−726)。本発明は、ヒト血漿中でのプロヘプシジンの検出について記載し、それにより、内分泌経路を介する食事性鉄吸収を減少させ得るヘプシジンのプロホルモンを、肝細胞が分泌することを示す。さらに、ヘプシジンはHepG2細胞中で検出され、その細胞中に新規発見のトランスフェリン受容体タイプ2も見いだされた(データは示していない)。
【0132】
ヒトまたは動物の血清およびその他の体液中におけるヘプシジンの定量的測定のための酵素イムノアッセイ
本発明の1つの実施形態では、ヘプシジン酵素イムノアッセイ(「EIA」)が使用される。EIAは、競合原理に基づく固相酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)である。96ウエルマイクロタイタープレートのマイクロタイターウエルは、ヘプシジン−(28−47)に対して向けられたポリクローナルウサギ抗ヘプシジン抗体で塗布される。サンプル中に存在する未知量のプロヘプシジンおよびビオチン分子と共役結合した固定量のヘプシジン−(28−47)は、ウエル上に固定されたヘプシジン抗体の結合部位を得るために競合する。1時間のインキュベーション後、競合反応を停止させるためにマイクロタイタープレートが洗浄される。引き続くインキュベーション後に、結合ビオチン分子がストレプトアビジンホースラディッシュペルオキシダーゼを用いて検出される。1時間半のインキュベーション後、プレートは2回洗浄される。基質溶液を添加した後、ヘプシジン濃度は測定された光学密度と反比例している。
【0133】
材料:
ウエルを抗ヘプシジン抗体で塗布したマイクロタイターウエル(96ウエル);試薬:ビオチンコンジュゲート(ビオチンにコンジュゲートしたヘプシジン)7mL;基準標準物質セット、各1.0mL;0、20、100、500、1,000、2,000ng/mL;プロヘプシジンコントロール、低および高、2バイアル(凍結乾燥物);試薬:酵素複合体(ホースラディッシュペルオキシダーゼにコンジュゲートしたストレプトアビジン(「HRP」))14mL;試薬:基質溶液 − HS−TMB、14mL;停止液、0.5M H2SO4、14mL;洗浄液、40×、30mL;マイクロタイタープレートリーダー(45±10nm)(例、DRG Instruments社マイクロタイタープレートリーダー);50および100μLのディスポーザブルチップを備える精密マイクロピペット;標準型の冷蔵庫;吸収紙;脱イオン水。
【0134】
この実施形態を好ましい材料に関して記載してきたが、本発明の分野における当業者であれば本発明において他の材料を使用できることを理解するであろう。例えば、当業者は、本発明においてビオチン/ストレプトアビジン以外の相補的結合成分ならびにホースラディッシュペルオキシダーゼ/過酸化物以外の酵素/基質の組み合わせを使用できることを理解するであろう。
【0135】
貯蔵条件
2〜8℃で貯蔵したときに、未開封試薬は使用期限までは反応性を維持するであろう。この期限の経過後に試薬を使用しないこと。マイクロタイターウエルは2〜8℃で貯蔵しなければならない。ホイル包装が開封されると、再度密に閉鎖するために注意を払わなければならない。塗布されたマイクロタイターウエルの免疫反応性は、開封されているが、乾燥剤を含有する緊密に閉鎖されたプラスチック製ファスナー付きパウチ中で約6週間安定性である。
【0136】
標本の収集および調製
本アッセイでは、ヒトまたは動物の血清またはEDTA血漿を使用しなければならない。生物学的サンプルの特別な前処理は不要である。生物学的サンプルは24時間までは2〜8℃で貯蔵することができるが、これより長期間については−20℃以下で冷凍しなければならない。肉眼的に溶血した、または肉眼的に脂肪血性である標本は使用しないこと。その他のサンプル材料については、特別な抽出プロトコールが必要になることがある。
【0137】
アッセイの性能:一般的所見
全ての試薬および標本は、使用前に室温にしなければならない。全ての試薬は、泡立たせずに混合しなければならない。
【0138】
テストがいったん開始されると、全ステップを中断させずに完了しなければならない。
【0139】
交差汚染を回避するためには、各試薬、標準物質または標本に対して新しいディスポーザブルのプラスチック製ピペットチップを使用すること。基質溶液および停止液を分注するためには、金属製パーツを備えるピペットを避けること。
【0140】
標準物質およびサンプルをウエルの底部にピペットで移す。酵素コンジュゲートおよび停止液をピペットで添加するためには、ピペットをウエルの上方で垂直位置に保持し、酵素コンジュゲートとサンプルまたは標準物質との、および停止液と基質溶液との完全な混合が達成されるように、ウエルの中心に相当する溶液を分注する。
【0141】
アッセイを開始する前に、全試薬を用意し、キャップを取り外し、必要な全てのウエルをホルダー内に固定することなどが推奨される。これは中断せずに各ピペット操作ステップを実施するために同等の経過時間を保証するであろう。
【0142】
一般的に、酵素反応は時間および温度と線形に比例している。これは一定の物理的−化学的条件のために内挿を可能にする。試験ランにおいてゼロ標準物質の吸光度が1.0未満またはマイクロタイタープレート分光計の性能上限より上方にある場合は、色の最終酵素的形成のインキュベーション時間を30もしくは10分間へ延長または短縮することができる。各ランにおいてキャリブレーターがアッセイされるので、吸光度の変動は結果に影響を及ぼさない。
【0143】
基質液は無色またはかすかなブルーもしくはグリーンでなければならない。この溶液がダークブルーである場合、試薬は使用不能なので廃棄しなければならない。
【0144】
基質溶液とのインキュベーション中には、マイクロタイタープレート上への直射日光を回避すること。
【0145】
試薬の調製
基準標準物質およびコントロール:1.0mLの二重蒸留水を用いて標準物質/コントロールバイアルの凍結乾燥内容物を再構成する。注意:再構成した標準物質/コントロールは2〜8℃で6日間は安定である。より長期間にわたり貯蔵するためには−20℃で冷凍する。洗浄液:40倍に濃縮した洗浄液(含量:30mL)へ脱イオン水を添加して最終量を1200mLとする。希釈洗浄液は、室温で2週間は安定である。
【0146】
アッセイ方法
所望の数の被覆されたストリップをホルダー内に固定する。
50μLのヘプシジン標準物質を適切なウエル内に分注する。
50μLのサンプルを選択したウエル内に分注する。
50μLのビオチンコンジュゲートを各ウエル内に分注する。
プレートを10秒間、完全に混合する。このステップで完全に混合することが重要である。
室温で60分間インキュベートする。
ウエルの中身を力強く振とうする。
希釈洗浄液を用いてウエルを3回すすぎ洗いする(1ウエル当たり400μL)。残っている液滴を取り除くために吸収紙上でウエルを激しくぶつける。
全ウエルに100μLのストレプトアビジンHRP複合体を添加する。
室温で30分間インキュベートする。
ウエルの含量を元気よく振とうする。
希釈洗浄液を用いてウエルを3回すすぎ洗いする(1ウエル当たり400μL)。残っている液滴を取り除くために吸収紙上にウエルを激しくぶつける。
指定時間間隔で、各ウエルに100μLの基質溶液を添加する。
室温で15分間インキュベートする。
ステップ10と同一時間間隔で各ウエルに100μLの停止液を添加することにより酵素反応を停止させ、450±10nmで各ウエルの吸光度を決定する。
【0147】
最終反応安定性
ステップ15から30分間以内にウエルを読み取ることが推奨される。
結果の計算
450±10nmで吸光度を決定できるあらゆるマイクロウエルリーダーを使用できる。各サンプルのテストステロン値を以下のとおりに入手する。
a.線形−線形または半対数グラフ用紙を使用して、各基準標準物質の平均吸光度(Y)をその対応する濃度(X)(ng/mL)に対してプロットすることによって検量線を構成する。検量線を構成するためには、4パラメーターロジスティック関数を推奨する。
b.必要であれば初期サンプル希釈率を掛けることによって、この検量線からの単純な内挿によって各サンプルの平均吸光度を使用して対応するテストステロン値を決定する。
【0148】
DRG ELIZA MAT 3000およびDRG回帰プログラムは、読取りおよび4パラメーターロジスティック関数を使用したコンピュータ援用解釈を可能にする。
【0149】
検量線の例
以下のデータは証明することだけを目的としており、アッセイ時点のデータ生成の代わりに使用することはできない。
【0150】
【表2】
【0151】
性能特性:感受性
図6は、ng/mL単位でのヘプシジン−(28−47)の濃度および波長450nmでのELISA溶液の吸光度を示している循環中ヒトプロヘプシジン検量線に対する代表的ELISAを示している。
【0152】
【表3】
【0153】
分析感受性は、平均値からゼロ標準物質の21回の反復分析(n=21)の2SD(SD=0.055)を差し引くことにより計算した。
【0154】
このアッセイの感受性は3.95ng/mLであった。このアッセイの直線性は、相違するヘプシジンレベルを有するサンプル(血清)をゼロ標準物質で希釈することによって評価した。希釈サンプル中のヘプシジン含量をELISAによってアッセイした。各サンプルおよび回収率(%)については3種の希釈率を計算した。
【0155】
【表4】
【0156】
ヘプシジンの分析的回収率は、血清サンプル中の3種の濃度で推定した。様々な初期ヘプシジン濃度を備えるサンプルへ、非標識ヘプシジンの量を増加させながら(50ng/mL、250ng/mL、500ng/mL)添加した。各サンプル(スパイクされていない、スパイクされている)をアッセイした。ヘプシジン濃度を測定し、回収率(%)を計算した。
【0157】
【表5】
【0158】
アッセイ内精度(ラン内)変動は、相違するヘプシジン含量を含む3つのコントロールサンプルの反復測定(n=12)によって決定した。
サンプル1:平均値=426.7;SD=20.2;CV(%)=4.69
サンプル2:平均値=210.7;SD=8.58;CV(%)=4.07
サンプル3:平均値=110.7;SD=4.74;CV(%)=4.28
【0159】
アッセイ間精度(ラン間)変動は、3種の相違するロットのキット中の相違する3つのコントロールサンプル(n=23)の反復測定(3×)によって決定した。
サンプル1:平均値=431.96;SD=20.8;CV(%)=4.82
サンプル2:平均値=216.17;SD=14.44;CV(%)=6.68
サンプル3:平均値=109.8;SD=10.72;CV(%)=9.76
【実施例2】
【0160】
ヒト腎臓中のヘプシジンの発現
ヘプシジンは遠位尿細管中で発現し、尿中に遊離される。
鉄ホメオスタシスは食事性鉄の吸収によって主として消化管内で制御されると広く考えられている。しかし、近年の研究は腎臓もまた鉄代謝に関係することを証明している。鉄調節性および抗菌性ペプチドであるヘプシジンはヒト尿から最初に単離されたので、本出願人は哺乳動物の腎臓におけるヘプシジンの細胞局在および細胞内局在を調査し、血清および尿中のプロヘプシジン濃度を分析するためにELISAアッセイを開発した。
【0161】
ヘプシジンの発現および細胞局在は、ヘプシジン特異的ポリクローナル抗血清を用いてヒト、マウス、およびラット腎においてRT−PCR、ウェスタンブロット、および免疫細胞化学検査によって証明された。その血清中および尿中濃度は感受性ELISAによって決定された。
【0162】
ヘプシジンは、ヒト、マウス、およびラット腎中で発現する。領域特異的抗血清を用いたウェスタンブロット分析は、プロヘプシジンの見かけの分子量に対応する〜9.5kDaのペプチドを同定した。局在試験は、ヘプシジンが腎皮質および腎の髄質外層中の遠位尿細管で発現することを明らかにした。細胞内レベルでは、ヘプシジンは尿中での追加の存在に基づいて、明白に尿中へ頂端で遊離される分泌性尿細管細胞の頂端膜ドメインに局在する。上昇したレベルのプロヘプシジン(156.8ng/mL、健常志願者104.2ng/mL)はCRI患者において決定されたが、これは腎臓が循環中ホルモンを代謝および/または排泄できることを示している。
【0163】
哺乳動物の腎臓中でのヘプシジンの発現から、本出願人らは鉄調節性ホルモンであるヘプシジンが内因性腎ペプチドであり、ヘプシジンは腎によって排泄/代謝されるだけではなく、腎尿細管系においても合成かつ尿中へ管腔を通して遊離されると結論する。腎臓中のヘプシジンの局在は、このペプチドが腎尿細管系において調節的役割を果たすことを意味している。
【0164】
緒言
近年の研究は、HFE−関連性ヘモクロマトーシスにおける異常なヘプシジン発現(Muckenthaler et al.,(2003)Nat Genet,34:102−107)および中断したヘプシジン調節(Bridle et al.,(2003)Lancet,361:669−673;and Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)ならびにヘプシジン突然変異と重度の若年性ヘモクロマトーシス(Roetto et al.,(2003)Nat.Genet.,33:21− 22)との関連を見いだした。これらの観察所見に基づくと、ヘプシジンが小腸における鉄吸収およびマクロファージからの鉄遊離の負の調節因子として作用する鉄ホメオスタシスにとって重要な構成要素であることが示唆されている(Nicolas et al.(2002)Proc Natl Acad Sci USA 99,4596−4601)。
【0165】
大多数の研究はヘプシジン産生の主要部位である(Park et al.;Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)肝臓中でのヘプシジンの調節および機能に集中しているが、このペプチドが腎臓および尿管においても役割を果たす可能性があるという指摘も集まっている(Id.,Wareing et al.,(2003)Am J Physiol Renal Physiol、印刷に先行する電子出版;およびFerguson et al.,(2003)Kidney Int.,64:1755−1764)。鉄ホメオスタシスは食事からの取り込みレベルでは主として消化管内で制御されると広く考えられている。生体中には鉄の分泌経路がないというのが現在の定説である。しかし、近年の研究は腎臓が鉄のホメオスタシスにおいて重要な役割を果たすことを証明している(Wareing et al.,(2003)Am J Physiol Renal Physiol.、印刷に先行する電子出版;Ferguson et al.,(2003)Kidney Int,64:1755−1764;およびGunshin et al.,(1997)Nature,388:482−488)。糸球体による限外濾過によって有意な比率の血清中の鉄を入手することができ、糸球体で濾過された鉄の大多数は再吸収される(Wareing et al.,(2000)J Physiol,524.2:581−586)。
【0166】
したがって、ヘプシジンが局所ペプチドとして腎臓内にも存在するかどうかを分析するのは合理的である。このため、本出願人らはヘプシジン前駆体分子の様々なエピトープに対して抗血清を産生し、転写および翻訳レベルで3種の哺乳動物種について調査した。本出願人らの所見は、腎臓における血清中ヘプシジンの排泄の他に、このペプチドが哺乳動物の腎の遠位尿細管細胞中の内因性ホルモンとしても産生され、尿中に管腔を通して遊離されることを示しており、これは腎臓および/または尿管中でのヘプシジンの調節性の役割を意味している。
【0167】
材料および方法
組織および組織の調製:本研究で使用したヒト腎サンプル(n=5)は副腎腫を有する成人患者における腎切除術後に入手した。本研究で使用したヒト肝サンプル(n=7)は肝転移を伴う成人患者における部分的肝切除術後に入手した(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)。健常組織を免疫組織化学検査のためには4%パラホルムアルデヒドまたはブアン固定液中で固定するか、またはRT−PCRおよびウェスタンブロットのためには液体窒素中で急速冷凍した。ラット(n=5)およびマウス(n=5)に麻酔をかけ、引き続いて頸椎脱臼によって致死させた。腎臓および肝臓からの組織標本を切除し、RT−PCRまたはウェスタンブロット分析のためには液体窒素中で急速冷凍するか、またはパラホルムアルデヒド中で固定した。
【0168】
ペプチド合成、免疫方法、および抗体:公表されたプロヘプシジン配列(Krause et al.,(2000)FEBS Lett.480,147−150;Pigeon et al.,(2001)J Biol Chem 276,7811−7819)から、ペプチドであるヘプシジン−(28−47)およびヘプシジン−(70−84)を、標準Fmocプロトコール(Kulaksiz et al.,(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99:6796−6801;and Kulaksiz et al.,(2002)Am J Pathol.,161:655−664)を使用してC末端アミドとして合成した。これらのペプチドはm−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを使用してアオガイヘモシアニンへ結合させ、そして2匹のSPFウサギ(Charles River−Iffa Credo)を各ペプチドコンジュゲート(Eurogentec社、ベルギー国スラン)により免疫した。抗体EG(l)−HepC、EG(2)−HepC[各々プロヘプシジン−(70−84)に対して向けられた]、ならびにEG(l)−HepNおよびEG(2)−HepN[各々プロヘプシジン−(28−47)に対して向けられた]が生成され、特性付けられ、そして使用された(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)。
【0169】
腎臓中での発現分析:GenBank cDNA配列に基づいて、以下のプライマーを構築かつ使用した。5’−3’の方向で与えられるヒトヘプシジン(データベース受託番号:NM021175)5’−CTG CAA CCC CAG GAC AGA G−3’および5’−GGA ATA AAT AAG GAA GGG AGG GG−3’;ラットヘプシジン(#NM053469)、5’−ACA GAA GGC AAG ATG GCA CT−3’および5’−GAA GTT GGT GTC TCG CTT CC−3’、マウスヘプシジン−1(#NM032541)、5’−CGA TAC CAA TGC AGA AGA GAA GG−3’および5’−TTC AAG GTC ATT GGT GGG GA−3’。これらのプライマーは以前報告された配列に対する相同性を示さなかった。
【0170】
RNA単離は、DNA消化を含むQiagen社製RNAeasyキットを使用して実施した。逆転写(RT)−PCR分析は、以前に記載のとおりに実施した(Kulaksiz et al.,(2002)Proc Natl Acad Sci USA,99:6796−6801;およびKulaksiz et al.,(2002)Am J Pathol.,161:655−664)。94℃、4分間での初期変性後;反応液には30サイクルの次の加熱プログラムを受けさせた。94℃で30秒間、60℃で30秒間、および72℃で30秒間;このプログラムの後には最後に72℃での5分間の鎖延長ステップが続いた。増幅産物は、臭化エチジウム染色した1.8%の89mM Tris/89mM ホウ酸/2mM EDTA(pH 8.3)アガロースゲル上でランさせた。特異性についてのコントロールとして、増幅したPCR産物をMWG−Biotechによってシーケンシングした。
【0171】
免疫ブロット分析:ウェスタンブロット実験を16.5 %のトリシン−SDS−ポリアクリルアミドゲル上で実施した。ヒト、マウス、およびラットの腎および肝、ならびにヒト尿由来のタンパク質(各実験のために50mL)を公表されたプロトコール(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊;Kulaksiz et al.,(2002)Proc Natl Acad Sci USA,99:6796−6801;およびKulaksiz et al.,(2002)Am J Pathol.,161:655−664)によって抽出した。電気泳動法後に、半乾式ブロット法によって疎水性フッ化ポリビニリデンを基剤とする膜(Pall社、英国ポーツマス)上にタンパク質を移した。1:1000で希釈したヘプシジン抗体と一緒に膜を一晩インキュベートした。10mM Tris−HCl(pH 8.0)、150mM NaCl、および0.05% Tween 20を含有するTris−緩衝生理食塩液中で洗浄した後、色原体としてのニトロブルーテトラゾリウムおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェート(Sigma社)を使用してアルカリホスファターゼ結合ヤギ抗ウサギ抗体(希釈率1:50,000;Sigma社)とのインキュベーション後に免疫反応性タンパク質を可視化した。ウェスタンブロット上の免疫反応は、抗体と対応するペプチド免疫原とのプレインキュベーション後に特異的に遮断された。第2ヤギ抗ウサギ抗体との交差反応性は適切なコントロールによって排除した(Kulaksiz et al.,(2002)Proc Natl Acad Sci USA,99:6796−6801;およびKulaksiz et al.,(2002)Am J Pathol,161:655−664)。
【0172】
免疫細胞化学的プロトコール:組織を4%パラホルムアルデヒド中、またはブアン固定液中に4℃で18時間固定し、パラフィン中に包埋した。パラフィン切片(4〜5μm)をヘプシジン(抗体EG(l)−HepN、EG(2)−HepN、EG(l)−HepC、およびEG(2)−HepC、各希釈率1:2000)に対してアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ複合体(ABC)法によって免疫染色した。インキュベーション順序および抗原−抗体結合部位の可視化は以前に詳述したように実施した(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊;Kulaksiz et al.,(2002)Proc Natl Acad Sci USA 99:6796−6801;およびKulaksiz et al.,(2002)Am J Pathol 161:655−664)。手短には、これらの切片は各抗体と一緒に4℃で24時間インキュベートし、次に希釈率1:200のビオチニル化抗ウサギIgG(Jackson Immunoresearch社、米国ペンシルベニア州ウェストグローブ)と一緒に30分間インキュベートした。これらの切片は次にPBS中で希釈した前形成したビオチン−ペルオキシダーゼ/ストレプトアビジン(Jackson Immunoresearch社)の複合体と一緒に30分間インキュベートした(最終濃度:ビオチン−ペルオキシダーゼ、0.7μg/mL;ストレプトアビジン、5μg/mL)。抗原−抗体結合部位は、0.05M Tris−HCl(pH 7.6)中の0.7mM塩酸ジアミノベンジジン/0.002% H2O2中での切片のインキュベーションによって検出した。
【0173】
特異性コントロール:方法依存性の非特異性は、公表されたようにコントロールをランすることによって排除した(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)。抗体特異性は、抗体と同種および異種抗原ペプチドとの前吸着によって試験した(6.25〜100μg/mLの抗血清)(Kulaksiz et al.,(2002)Proc Natl Acad Sci USA 99:6796−6801;およびKulaksiz et al.,(2002)Am J Pathol 161:655−664)。抗体と6.25μg/mLという低い濃度での同種抗原との前吸着は腎臓中での免疫染色を完全に遮断したが、抗体と100μg/mLまでの濃度の異種抗原との前吸着は免疫染色に影響を及ぼさなかった。
【0174】
ヘプシジンのELISA競合結合アッセイ:血清および尿サンプルを個体22例(女性11例、男性11例、年齢23〜59歳、平均39歳)から入手し、および血清サンプルは長期血液透析を受けている腎不全症を有する患者22例から入手した(女性11例、男性11例、年齢25〜77歳、平均48歳)。慢性腎不全症を有する全患者は、3,000 IEの組換えヒトエリスロポエチン(EPO)を用いて週2〜3回治療した。サンプル収集中には、健常志願者および患者が感染も出血もしないように細心の注意を払った。10mLの血液サンプルは血清チューブ内に採取し、10mLの尿サンプルは採尿チューブ中に採取し、4℃で10分間、2,500×gで遠心した。測定は、以前に記載したように(8)96ウエルマイクロタイタープレートを使用して2回ずつ実施した。手短には、1:4,000で希釈したウサギ抗ヘプシジン抗体EG(2)−HepN200μL/ウエルで、マイクロタイタープレートを被覆した。様々な量の合成ペプチド(0、20、100、500、および1,000ng/mL)またはヒト血清および尿サンプルを含有する標準物質50μLならびにN末端がビオチニル化されたヘプシジン−(28−47)(Peptide Specialty Laboratories社、ドイツ国ハイデルベルク)150μLを各ウエルに添加し(2ng/ウエル)、室温で1時間インキュベートした。TBST(0.05% Tween 20を含むTBS)を用いて洗浄した後、基質のテトラメチルベンジジン(DRG Instruments社、ドイツ国マールブルク)を用いてストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ酵素(Dako社、ドイツ国ハンブルク)によってビオチニル化抗原−抗体複合体を検出した。呈色反応は1M H2SO4を用いて停止させ、この溶液の吸光度は波長450/630nmで読み取った。
【0175】
統計的分析:データは平均値±SEMとして表示した。統計的分析はスチューデントのt検定によって評価した。P<0.05である差を有意であると見なした。
【0176】
結果
哺乳動物腎臓中のヘプシジンの発現:RT−PCR分析は、肝臓(陽性コントロール、Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊を参照)だけではなくヒト、ラットおよびマウス腎においてもヘプシジンの明白な発現を解明した(図10)。これらの動物種の肝臓(データは示していない)および腎臓中で、ヒトに対する192bpの予想PCR産物、マウスに対する193bpの産物、ラットに対する201bpの産物が検出された。配列分析により、PCR生成産物が対応するペプチドのcDNAと完全相同性を有することが解明された。
【0177】
翻訳レベルでは、ヘプシジンの存在が領域特異的抗体を用いてのウェスタンブロット試験によって確証された(図10)。ヘプシジン前駆体分子のCおよびN末端に対して向けられた抗血清は一致して、ヒト、ラットおよびマウス腎の抽出物中において〜9.5kDaの免疫反応性バンドを同定した。
【0178】
ヘプシジンの細胞局在:領域特異的ヘプシジン抗血清を用いた免疫組織化学的試験は、一致してヘプシジンをヒト、マウス、およびラット腎の遠位尿細管中へ局在化した(図11〜15)。近位腎尿細管、集合管、および糸球体には完全にヘプシジン免疫反応性が欠如していた。免疫反応性遠位尿細管は腎皮質および腎の髄質外層へ限定され、腎の髄質内層はヘプシジンに対する免疫染色を示さなかった(図11、12)。注目すべきことに、ヘプシジン陽性尿細管細胞間には明確な細胞間の相違が存在した。大多数の尿細管細胞はヘプシジンに対して強度に陽性であったが、他はほんのかすかな免疫反応性しか示さないか、またはヘプシジンに対して完全に非反応性であった(図14)。著しくは、調査した全切片において、ヘプシジン抗血清は遠位尿細管を内張りしている上皮細胞の細胞質中で糸球体免疫反応性パターンを明らかにした(図11、12)。一部の組織では、ヘプシジン陽性細胞は分泌性細胞の頂極で濃縮した強力な免疫反応性を示したが(図13、15)、各細胞の側底膜ドメインでは免疫反応性は見いだされなかった。
【0179】
血清および尿中のヘプシジンプロペプチドの検出:特異的N末端ヘプシジン抗体EG(2)−HepNを用いて、高い再現性および感受性を備える安定性ヘプシジンELISAアッセイが開発された(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)。図16に見られるように、ELISAはヒト血清中にプロヘプシジンが存在することを明らかにした。プロヘプシジンは、健常被験者の血清中で68.5から139.2ng/mL(平均値±SE;104.2±19.5ng/mL)の範囲内で測定された。慢性腎不全に罹患している患者の血清中のプロヘプシジン濃度は63.9から327.3ng/mL(平均値±SE;156.8±61.9ng/mL)まで変動し、コントロール群における濃度と比較して有意に増加した。
【0180】
感受性ヘプシジンELISAを使用して、プロヘプシジンはコントロール群からのヒト尿中では13.9から456.0ng/mL(平均値±SE;180.1±94.8ng/mL)の範囲内で検出された。ヒト尿中のプロヘプシジンの存在は、さらにウェスタンブロット分析によっても確証された。ヘプシジン抗血清はヒト尿の抽出物中で腎組織中の免疫反応性ヘプシジンと一緒に正確に共移動した〜9.5kDa分子量の単一ヘプシジン免疫反応性バンドを同定した(図10)。
【0181】
考察
新規ホルモンであるヘプシジンは抗菌性ペプチドそして鉄ホメオスタシスの中心的調節因子である(Park et al.,(2001)J Biol Chem,276:7806−7810;Krause et al.,(2000)FEBS Lett,480:147−150;Pigeon et al.,(2001)J Biol Chem,276:7811−7819;Nicolas et al.,(2001)Proc Natl Acad Sci USA,98:8780−8785;およびNicolas et al.,(2002)Proc Natl Acad Sci USA,99:4596−4601)。以前の研究では、肝臓がヘプシジンの主要起源であることが証明された(Park et al.,CH(2001)J Biol Chem,276:7806−7810;およびKulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)。ヘプシジンは最初にヒト尿(Park et al.,(2001))および血液濾液(Krause et al.,(2000))から単離されたが、腎臓ではこの調節ペプチドの発現は検出されなかった(Pigeon et al.,(2001))。
【0182】
肝臓で使用して成功した適切なプライマー仕様および組み合わせ(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊;およびGehrke et al.,(2003)Blood,102:371−376)を使用して、本RT−PCR分析は、ヘプシジンが肝臓中だけではなく、ヒト、ラット、およびマウスの3種の哺乳動物種の腎臓中でも発現することを明白に証明した。シーケンシング分析は生成したPCR産物の特異性を解明した。
【0183】
腎臓中の翻訳されたヘプシジンペプチドの存在を検証するために、本出願人らはヘプシジンに対する大量の領域特異的抗血清を産生し、それらをウェスタンブロット分析および免疫組織化学において使用した。ウェスタンブロット分析は、腎臓中でのヘプシジンの発現を確証した。ヘプシジン前駆体分子中の様々なエピトープを認識する4種の抗血清は3種の動物種の腎臓中で〜9.5kDaの免疫反応性ペプチドを同定したが、これは各cDNA配列から推定されたヘプシジンプロホルモンの分子量に対応する(Pigeon et al.,(2001))。この免疫反応性ペプチドの見かけの分子量もまた、肝臓中で検出されたヘプシジンプロホルモンの分子量と一致している(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)。出願人らの所見は、ヘプシジンが腎臓中にも存在するので、ヘプシジンが肝特異的ではないことを明確に証明した。
【0184】
4種の領域特異的ヘプシジン抗血清を用いた免疫組織化学的調査によって、ヒト、マウス、およびラットの腎臓中では、ヘプシジンが腎皮質および髄質外層の尿細管系に特異的に局在することが明らかになった。これらの免疫反応性尿細管は、光学顕微鏡で検出されたそれらの典型的な形態学的特徴によって遠位腎尿細管であると同定された。ヒトにおいてだけではなくマウスおよびラットの腎臓中での様々な領域特異的抗体による一致した染色は、遠位尿細管が腎ヘプシジンの起源であることを指摘している。近位腎尿細管、集合管、および糸球体または腎臓の髄質内層中ではヘプシジンに対する免疫反応性が検出されなかった。
【0185】
腎皮質および髄質外層では、ヘプシジンの免疫反応性は遠位尿細管の上皮分泌性細胞に限定された。注目すべきことに、全ヘプシジン抗血清は糸球体免疫反応性パターンを生じさせたが、これは既に電子顕微鏡によってこれらの細胞中で同定されている各細胞の小さな分泌小胞またはリソソーム中にこのペプチドが局在することを推定させる(van Katachalan MA,Kritz W:Pathology of the kidney.Edited by JC Jennette,JL Oldson,MM Schwarz,SG Silver:Philadelphia,Heptinstall’s,1998,pp 3−66)。顕著にも、ヘプシジンの発現または分泌における細胞間の相違を反映する可能性があるヘプシジン免疫反応性の密度に関して同一尿細管の上皮細胞間には明確な細胞間の相違が存在した。注目すべきことに、一部の尿細管ではヘプシジンの免疫反応性は上皮細胞の全細胞質中に存在したが、他の尿細管中では強力なヘプシジンの免疫反応性は分泌性細胞の頂極に集中していた。この細胞レベルでのヘプシジンの特有の分布パターンは、ヘプシジンの管腔を介する遊離を前提としている。本出願人らは、腎尿細管細胞の側底膜ドメインではヘプシジン発現を検出しなかった。これは、腎ヘプシジンが尿細管を内張している分泌性細胞によって血中に遊離されないことを示唆している。
【0186】
身体の鉄ホメオスタシスの制御は主として近位小腸における食事からの鉄取り込みの緊密な調節に依存すると広く考えられている。しかし、近年の研究は腎臓が鉄ホメオスタシスにおいて重要な役割を果たすことを証明している(Wareing et al.,(2003)Am J Physiol.Renal.Physiol.、印刷に先行する電子出版;Ferguson et al.,(2003)Kidney Int,64:1755−1764;およびGunshin et al.,(1997)Nature,388:482−488)。Wareingおよび共同研究者らは、代謝的に重大な量の鉄が糸球体で濾過され、実際的に尿中へ排泄されるのは濾過された鉄の0.8〜1.5%に過ぎないことを納得できるように証明することができた(Wareing et al.,(2000)J.Physiol.,524.2:581−586)。そこで、腎尿細管に沿って鉄再吸収のための極めて有効な経路があり、強力な調節が行われるに違いない。実際に、Fergusonおよび共同研究者らは、腎臓の尿細管系中で二価金属トランスポーター1(DMT−1)を局在することができた(Ferguson et al.,(2001)Am J Physiol Renal Physiol.,280:F803−F814)。このタンパク質は、消化管による食事性鉄の取り込みのための主要経路であると提案されている(Gunshin et al.,(1997))。注目すべきことに、DMT−1発現は、本出願人らもまたヘプシジンを見いだした場所である腎皮質および髄質外層の尿細管細胞の頂端膜ドメインで最高であることが証明されている。さらに、近年の研究は、変化した食事性鉄の摂取が腎DMT−1発現を強力に調節することを証明している(Wareing et al.,(2003))。ヘプシジン発現が十二指腸DMT−1の発現と逆相関していることを証明するこれらの所見およびデータ(Frazer et al.,(2002)Gastroenterology,123:835−844)に基づくと、本出願人らは腎鉄輸送においてヘプシジンが調節性の役割を果たすことを提案している。
【0187】
尿中へのヘプシジンの遊離の可能性は、ウェスタンブロット試験によって実証された。領域特異的ヘプシジン抗血清は、一致して、腎組織抽出物の場合と同様に免疫反応性プロヘプシジンと正確に共移動する正確な分子量(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)の強力に標識されたバンドを同定した。これらの所見は、プロヘプシジンが分泌性遠位尿細管によって合成され、そこでは尿細管タンパク質分解および再循環を免れる尿中へ管腔を通して遊離されることを明らかに示している。ヒト尿中のプロヘプシジン濃度を測定するために、3.95ng/ウエルの検出感受性を備える高感受性ELISAを開発した。すでにELISA実験(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)で使用されて成功を収めているヘプシジン抗血清EG(2)−HepNを用いたELISA分析は、健常被験者の尿中で13.9から456.0ng/mL(平均値±SE;180.1±94.8ng/mL)の範囲内の高濃度のプロヘプシジンを明らかにした。この濃度は、同一個人の循環中のプロヘプシジン濃度(68.5から139.2ng/mL;平均値±SE、104.2±19.5ng/mL)より相当に高い。注目すべきことに、循環中プロヘプシジンと血清中鉄もしくはフェリチンレベルとの間で相関は見いだされなかった(Kulaksiz et al.,(2003)Gut、近刊)。同様に、尿中プロヘプシジンと肝中ヘプシジン発現を調節すると提案されている血清中鉄もしくはフェリチンレベル(Pigeon et al.,(2001)J Biol Chem,276:7811−7819;Nemeth et al.,(2002 Blood,101:2461−2463;およびGanz T,(2003)Blood,102:783−788)との間でも相関は検出されなかった(データは示していない)。このため、本出願人らは腎/尿中プロヘプシジンの調節は血清中鉄もしくはフェリチンによる直接的影響を受けないと提案する。
【0188】
長期的血液透析を受けている腎不全症患者におけるプロヘプシジン調節の評価は、これらの患者の血清中のプロヘプシジン濃度は健常被験者における104.2ng/mLから156.8ng/mLへ有意に増加することを明らかにした。透析患者における増加したプロヘプシジンレベルは、腎臓がヘプシジンの合成に関係しているだけではなく、それらが循環中ペプチドの代謝および/または排出にも関係している可能性を示唆している。興味深いことに、最新の研究では、腎ホルモンであるエリスロポエチンが肝ヘプシジン遺伝子発現をダウンレギュレートすることが証明されている(Nicolas(2002)Blood Cells,Molecules,and Diseases,29:327−335)。したがって、透析患者における増加したプロヘプシジン濃度についてまた別の説明は、末期腎不全症において一様に遭遇するエリスロポエチンの相対欠乏性であろう(Eckardt KU,(2000)Clin.Nephrol,53:S2−8;およびSantoro A:(2002)Rev Clin Exp Hematol,Suppl 1:12−20)。しかし、本出願人らはヘプシジン阻害性ホルモンであるエリスロポエチンを用いて治療された慢性腎不全症患者において測定されたプロヘプシジンの増加したレベルを報告しているが、これはヘプシジンの腎濾過を支持している。本発明の1つの実施形態は、尿中ヘプシジンが一部は腎臓、そして一部は肝臓を起源とすることを提供する。このため、測定された尿中プロヘプシジンが遊離された腎ペプチドおよび排泄された循環中ペプチドの総計であることに注目しなければならない。
【0189】
これらをまとめると、近年の研究は腎臓が鉄ホメオスタシスにおいて重要な役割を果たすことを証明しているが(Wareing et al.,(2003)Am J Physiol Renal Physiol、印刷に先行する電子出版;Ferguson et al.,(2003)Kidney Int,64:1755−1764;Gunshin et al.,(1997)Nature,388:482−488;Wareing et al.,(2000)J Physiol,524.2:581−586およびFerguson et al.,(2001)Am J Physiol Renal Physiol,280:F803−F814)、腎鉄輸送の調節機構についてのデータは存在しない。これに関連して、本出願人らは3種の哺乳動物種の腎臓中で最初にヘプシジンを局在した。本出願人らの所見は、ヘプシジンが肝臓特異的ではないことを示している。腎臓における血清中ヘプシジンの排泄の他に、ペプチドは分泌性腎遠位尿細管中の内因性ホルモンとしても産生され、尿中に管腔を通して遊離されることを示しており、これは腎臓および/または尿管中でのヘプシジンの調節性の役割を意味している。腎尿細管系におけるヘプシジンの調節機構は、今後の研究で分析されなければならない。
【実施例3】
【0190】
ヒト膵臓中のヘプシジンの発現
本研究に使用した膵臓組織は、膵臓癌に罹患している患者におけるホイップル手術後に入手した。肝臓および腎臓で使用されて成功を収めている適切なプライマー仕様および組み合わせを使用して、このRT−PCR分析は、ヘプシジンが肝臓および腎臓中だけではなく、ヒト膵臓中でも発現することを明らかにした。シーケンシング分析は、生成したPCR産物の特異性を解明した。
【0191】
特異的抗体を用いたウェスタンブロット分析は、膵臓中での翻訳レベルでのヘプシジンの発現を確証した。同一抗体を使用して、ヘプシジンは免疫組織化学によって膵臓中で局在化された。パラフィン切片は、ヘプシジンの免疫反応性が膵臓内分泌腺に局在することを明らかにした。膵臓外分泌腺では免疫反応性が見いだされなかった。
【産業上の利用可能性】
【0192】
本発明は、プロヘプシジンおよびそのフラグメントを含むヘプシジンタンパク質の非生理的レベルを特徴とする疾患状態を診断することに関連する用途を有している。
【0193】
本明細書では特定実施形態を参照しながら本発明について記載してきたが、これらの実施形態は本発明の原理および用途の単なる例示であることを理解されたい。このため、代表的な実施形態に多数の修飾を加えられること、そして添付の特許請求項によって規定された本発明の精神および範囲から逸脱することなく他の配置を考案できることを理解されたい。
【0194】
本明細書に言及した全ての特許文献および非特許文献は、本発明が関係する当業者の技術レベルを示している。これらの出版物および特許出願は全て、各々の出版物および特許出願が特別かつ個別に参照してここに組み込まれると指示されているのと同一程度に参照して本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0195】
【図1】N末端での典型的な24aaシグナルペプチド(aa24と25との間の線は推定シグナル配列開裂部位を示している)、35aaプロ領域、ならびに矢印で示したようにそれらのN末端短縮だけが相違するC末端20−、22−、および25−aaヘプシジンペプチドを含有するヒトヘプシジン前駆体タンパク質のアミノ酸配列を示した図である。ヘプシジン前駆体からのシグナルペプチドの開裂後、60aaから構成されるプロヘプシジン分子が産生する。ヘプシジン25において提案されたジスルフィド結合性は、破線によって示したように1−8、2−7、3−6、および4−5である(Hunter et al.,20から)。抗体記号によって示したように、抗血清EG(1および2)−HepNはヘプシジン前駆体aa28−47に対して産生され、抗血清EG(1)−HepCはaa70−84に対して産生される。
【図2】下記を示した図である。(A):ヘプシジンの遺伝子発現を示しているヒト肝(レーン2および3)およびHepG2細胞(レーン4および5)のRT−PCR分析。塩基対DNA格子が示されている(レーン1および7)。レーン6は陰性コントロールを示している。(B〜D):抗体EG(1)−HepN(B)、EG(2)−HepN(C)およびEG(1)−HepC(D)を用いた、モルモット(レーン1)およびヒト肝(レーン2)の抽出物ならびにHepG2細胞(レーン3)、ヒト血清(レーン4)、およびモルモット骨格筋(レーン5、コントロール)中でのヘプシジンのウェスタンブロット分析。全抗体を用いて入手した10および20kDaでの免疫反応性バンドがヘプシジン前駆体中で様々なエピトープを認識することに留意されたい(使用した分子量マーカー:ホスホリラーゼB、105kDa;グルタミン酸脱水素酵素、53kDa;炭酸脱水酵素、34kDa;ミオグロビンブルー、23kDa;ミオグロビンレッド、17kDa;リゾチーム、13kDa;アプロチニン、7kDa;インスリン、3kDa)。
【図3】抗体EG(1)−HepN(A)、EG(2)−HepN(B)、およびEG(1)−HepC(C)を用いた免疫蛍光顕微鏡によるHepG2細胞中のヘプシジンの検出を示した図である(スケールバー:8μm)。
【図4】モルモット(A〜F)およびヒト(G〜I)肝中のヘプシジンの細胞局在を示した図である。領域特異的抗体EG(1)−HepN(A、D、G)、EG(2)−HepN(B、E、H)およびEG(1)−HepC(C、F、I)を用いて免疫染色したパラフィン切片は、肝細胞の側底膜ドメイン(矢印)での明確な免疫反応性を示している。(倍率:A〜C、×180;D〜I、×540)。
【図5】肝小葉内のヘプシジンの明白な帯状構造を示しているモルモット肝の免疫組織化学的切片(A、抗体EG(1)−HepN;B、抗体EG(2)−HepN;C、抗体EG(1)−HepC)を示した図である。免疫反応性は門脈周囲帯域(星印)から中心静脈(矢じり)に向かって減少している。中心静脈周囲の肝細胞中では免疫反応性が見いだされないことに留意されたい(Bにおける矢印は門脈三管を示している)。(A〜C、×180)
【図6】循環中ヒトプロヘプシジンについてのELISA結果を示した図である。ng/mL単位でのヘプシジン−(28−47)の濃度および波長450nmでのELISA溶液の吸光度を示している代表的検量線である。ヘプシジン−(28−47)の濃度が4から400ng/mLの範囲内では分解能が高いことに留意されたい。
【図7】健常志願者26例(コントロール)、慢性腎不全症患者40例、慢性腎不全症および腎性貧血を有する患者19例、ならびに遺伝性ヘモクロマトーシス患者35例中での静脈血清中プロヘプシジン濃度値のボックスプロットを示した図である。ボックス内の線は中央値を示し、円は平均値を示している。ボックスの下縁および上縁は、第1および第3四分位を示し、ひげは最小値および最大値を示している。破線は、循環中免疫反応性プロヘプシジンに対するコントロール群の平均レベルを記している(106.16ng/mL)。
【図8】治療を受けた、および受けていないHH患者のサンプル中でのプロヘプシジンと鉄との相関関係(A)、フェリチンとの相関関係(B)およびトランスフェリン飽和との相関関係(C)を示した図である。本出願人らのサンプル中では顕著な相関が見いだされなかったことに留意されたい。
【図9】GenBankデータベース受託番号NM021175およびAAH20612各々から再現したヘプシジンの1つの形態の完全ヌクレオチド(配列番号1)およびアミノ酸配列(配列番号2)を示している。
【図10】下記を示した図である。(A):ヘプシジンの遺伝子発現を示しているヒト(レーン2)、マウス(レーン3)、およびラット(レーン4)腎のRT−PCR分析。塩基対DNA格子が示されている(レーン1および5)。(B、C):抗体EG(2)−HepN(B)、およびEG(1)−HepC(C)を用いてヒト(レーン1)、ラット(レーン2)、およびマウス(レーン3)腎の抽出物中、ならびにヒト尿(レーン4)中のヘプシジンのウェスタンブロット分析。両方の抗体を用いて入手した9.5kDaでの免疫反応性バンドがヘプシジン前駆体中で相違するエピトープを認識することを留意されたい(使用した分子量マーカー:ホスホリラーゼB、105kDa;グルタミン酸脱水素酵素、53kDa;炭酸脱水酵素、34kDa;ミオグロビンブルー、23kDa;ミオグロビンレッド、17kDa;リゾチーム、13kDa;アプロチニン、7kDa;インスリン、3kDa)
【図11】ラット腎皮質中のヘプシジンの細胞局在を示した図である。領域特異的抗体EG(l)−HepC(A)、EG(2)−HepC(B)、EG(1)−HepN(C)、およびEG(2)−HepN(D)を用いて免疫染色したパラフィン切片は、腎皮質の遠位尿細管中の明確な免疫反応性を示している。一部の尿細管では免疫反応性は上皮細胞の細胞質(矢印)内に分布しているが、他の尿細管中では免疫反応性は各細胞の頂極(D、矢じり)に局在している。腎糸球体(星印)にはヘプシジン免疫反応性が欠如することに留意されたい。(倍率:A、×90;B〜D、×180)
【図12】ラット(AおよびC)およびマウス(BおよびD)腎中でのヘプシジンの組織分布を示した図である。抗体EG(2)−HepNを用いての免疫組織化学検査結果は、黒色弧状点線によって示される外帯(os)と内帯(is)との間のヘプシジン免疫反応性の顕著な減少を伴う髄質外層(AおよびB)を示している。CおよびDは、髄質内層(m)内でのヘプシジン免疫反応性の欠如を示している。皮質(c)中では強度の免疫反応性が観察されている。(倍率:A、B、およびD、×90;C、×180)
【図13】抗体EG(1)−HepN(A)、EG(2)−HepN(BおよびD)、およびEG(1)−HepC(C)を用いたラット腎中のヘプシジンの細胞内局在を示した図である。一部の遠位尿細管では免疫反応性は上皮細胞の細胞質(矢印)内に分布しているが、他の尿細管中では免疫反応性は各細胞の頂極に向かって強度に集中している(黒色矢じり)。腎糸球体(星印)および近位尿細管(透明矢じり)にはヘプシジン免疫反応性が欠如することに留意されたい。(倍率:A〜D、×360)
【図14】ヒト腎臓中のヘプシジンの細胞局在を示した図である。抗体EG(1)−HepN(A)、EG(2)−HepN(BおよびD)、およびEG(1)−HepC(C)は腎皮質遠位尿細管(矢印)中の明確な免疫反応性を示している。同一尿細管では、細胞質染色を伴う強度の(黒色矢じり)およびかすかな(透明矢じり)免疫反応性の上皮細胞を示しているヘプシジン免疫反応性の細胞内の相違が存在する。糸球体(星印)中では免疫反応性は見られない。(倍率:A〜C、×180;D、×360)
【図15】抗体EG(1)−HepN(A)、EG(2)−HepN(BおよびD)、およびEG(2)−HepC(C)を用いたヒト腎中の遠位尿細管細胞の頂極でのヘプシジン免疫反応性の検出を示した図である。分泌性上皮細胞の頂極(黒色矢じり)では強度の免疫染色が見られるが、一部の細胞はヘプシジン免疫反応性が欠如する(透明矢じり)ことに留意されたい。星印は腎糸球体を示している。(倍率:A〜C、×180;D、×360)。
【図16】健常志願者22例(コントロール)および慢性腎不全を有する患者22例における静脈血清および尿中プロヘプシジン濃度値のボックスプロットを示した図である。ボックス内の線は中央値を示し、円は平均値を示している。ボックスの下縁および上縁は、第1および第3四分位を示し、ひげは最小値および最大値を示している。破線は、循環中免疫反応性プロヘプシジンに対するコントロール群の平均レベル(104.2ng/mL)を記している。
【配列表】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非生理的レベルのヘプシジンにより疾患状態を診断する方法であって、前記方法は、被験者から組織または液体サンプルを入手するステップと、前記サンプルをヘプシジンの中央部分もしくはカルボキシ末端エピトープ1つ以上に特異的に結合する抗体もしくはそのフラグメントと接触させるステップと、前記サンプル中のヘプシジンレベルを定量するステップと、を含み、非生理的レベルのヘプシジンが前記疾患状態を表示する、方法。
【請求項2】
前記抗体がヘプシジンのアミノ酸28から47内に含有される中央部分エピトープに特異的に結合する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記抗体がヘプシジンのアミノ酸70から84内に含有されるカルボキシ末端エピトープに特異的に結合する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記定量ステップが、ラジオイムノアッセイ、酵素結合免疫吸着アッセイ、サンドイッチアッセイ、沈降反応、ゲル免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、蛍光免疫法、タンパク質Aイムノアッセイおよび免疫電気泳動アッセイからなる群から選択されるアッセイを実施するステップを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
非生理的レベルのヘプシジンにより疾患状態を検出するキットであって、前記キットは、ヘプシジンの中央部分もしくはカルボキシ末端エピトープ1つ以上に特異的に結合する抗ヘプシジン抗体もしくはそのフラグメントと、前記抗体もしくはそのフラグメントに直接的もしくは間接的に結合する試薬1種とを含む、キット。
【請求項6】
前記抗ヘプシジン抗体もしくはそのフラグメントが支持体上に固定される、請求項5記載のキット。
【請求項7】
前記試薬が第1結合分子と複合したヘプシジンを含む、請求項5記載のキット。
【請求項8】
第1結合分子がビオチンである、請求項7記載のキット。
【請求項9】
前記キットが、第2結合分子と複合した1種の酵素および前記酵素の基質をさらに含む、請求項8記載のキット。
【請求項10】
第2結合分子がストレプトアビジンである、請求項9記載のキット。
【請求項11】
前記酵素がホースラディッシュ・ペルオキシダーゼであり、前記基質が過酸化物を含む、請求項9記載のキット。
【請求項12】
ヘプシジンの中央部分もしくはカルボキシ末端エピトープ1つ以上に特異的に結合する抗体またはそのフラグメント。
【請求項13】
前記中央部分エピトープがヘプシジンのアミノ酸28から47内に含有されている、請求項12記載の抗体。
【請求項14】
前記カルボキシ末端エピトープがヘプシジンのアミノ酸70から84内に含有されている、請求項12記載の抗体。
【請求項15】
前記ヘプシジンがプロヘプシジン、ヘプシジンもしくはそのフラグメントを含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記ヘプシジンがプロヘプシジンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記ヘプシジンがプロヘプシジンもしくはヘプシジンを含む、請求項5記載のキット。
【請求項18】
前記ヘプシジンがプロヘプシジンを含む、請求項5記載のキット。
【請求項19】
前記ヘプシジンがプロヘプシジンもしくはヘプシジンを含む、請求項12記載のヘプシジン。
【請求項20】
前記ヘプシジンがプロヘプシジンを含む、請求項12記載のヘプシジン。
【請求項1】
非生理的レベルのヘプシジンにより疾患状態を診断する方法であって、前記方法は、被験者から組織または液体サンプルを入手するステップと、前記サンプルをヘプシジンの中央部分もしくはカルボキシ末端エピトープ1つ以上に特異的に結合する抗体もしくはそのフラグメントと接触させるステップと、前記サンプル中のヘプシジンレベルを定量するステップと、を含み、非生理的レベルのヘプシジンが前記疾患状態を表示する、方法。
【請求項2】
前記抗体がヘプシジンのアミノ酸28から47内に含有される中央部分エピトープに特異的に結合する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記抗体がヘプシジンのアミノ酸70から84内に含有されるカルボキシ末端エピトープに特異的に結合する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記定量ステップが、ラジオイムノアッセイ、酵素結合免疫吸着アッセイ、サンドイッチアッセイ、沈降反応、ゲル免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、蛍光免疫法、タンパク質Aイムノアッセイおよび免疫電気泳動アッセイからなる群から選択されるアッセイを実施するステップを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
非生理的レベルのヘプシジンにより疾患状態を検出するキットであって、前記キットは、ヘプシジンの中央部分もしくはカルボキシ末端エピトープ1つ以上に特異的に結合する抗ヘプシジン抗体もしくはそのフラグメントと、前記抗体もしくはそのフラグメントに直接的もしくは間接的に結合する試薬1種とを含む、キット。
【請求項6】
前記抗ヘプシジン抗体もしくはそのフラグメントが支持体上に固定される、請求項5記載のキット。
【請求項7】
前記試薬が第1結合分子と複合したヘプシジンを含む、請求項5記載のキット。
【請求項8】
第1結合分子がビオチンである、請求項7記載のキット。
【請求項9】
前記キットが、第2結合分子と複合した1種の酵素および前記酵素の基質をさらに含む、請求項8記載のキット。
【請求項10】
第2結合分子がストレプトアビジンである、請求項9記載のキット。
【請求項11】
前記酵素がホースラディッシュ・ペルオキシダーゼであり、前記基質が過酸化物を含む、請求項9記載のキット。
【請求項12】
ヘプシジンの中央部分もしくはカルボキシ末端エピトープ1つ以上に特異的に結合する抗体またはそのフラグメント。
【請求項13】
前記中央部分エピトープがヘプシジンのアミノ酸28から47内に含有されている、請求項12記載の抗体。
【請求項14】
前記カルボキシ末端エピトープがヘプシジンのアミノ酸70から84内に含有されている、請求項12記載の抗体。
【請求項15】
前記ヘプシジンがプロヘプシジン、ヘプシジンもしくはそのフラグメントを含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記ヘプシジンがプロヘプシジンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記ヘプシジンがプロヘプシジンもしくはヘプシジンを含む、請求項5記載のキット。
【請求項18】
前記ヘプシジンがプロヘプシジンを含む、請求項5記載のキット。
【請求項19】
前記ヘプシジンがプロヘプシジンもしくはヘプシジンを含む、請求項12記載のヘプシジン。
【請求項20】
前記ヘプシジンがプロヘプシジンを含む、請求項12記載のヘプシジン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2006−517198(P2006−517198A)
【公表日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−509957(P2005−509957)
【出願日】平成15年11月19日(2003.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2003/036946
【国際公開番号】WO2004/058044
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(505184447)ディーアールジー・インターナショナル,インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年11月19日(2003.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2003/036946
【国際公開番号】WO2004/058044
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(505184447)ディーアールジー・インターナショナル,インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
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