説明

ヒトプロテアーゼ活性化受容体−2に対する高親和性ヒト抗体

本発明は、プロテアーゼ活性化受容体−2(PAR−2)に結合する抗体およびそれらの使用方法を提供する。本発明の一定の実施形態によると、これらの抗体は、ヒトPAR−2に結合する完全ヒト抗体である。本発明の抗体は、とりわけ、疼痛状態、炎症性状態および胃腸の状態の処置をはじめとする、1つ以上のPAR−2生物活性に関連した疾患および障害の処置に有用である。本発明は、患者におけるPAR−2活性に関連したまたは起因する疾患または障害を処置するための薬物の製造における、本発明の抗PAR−2抗体または抗体の抗原結合部分の使用も含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテアーゼ活性化受容体−2(PAR−2)に特異性のある抗体およびそれらの抗原結合フラグメントに関する。
【背景技術】
【0002】
プロテアーゼ活性化受容体(「PAR」)は、7回膜貫通型Gタンパク質共役受容体(seven−transmembrane G−protein coupled receptors)の1ファミリーである。7回膜貫通型Gタンパク質共役受容体の中でも、PARは、ユニークな活性化様式を有する;すなわち、PARは、「テザーリガンド」としての役割を果たす新たなN末端ドメインを生成するようなアミノ末端でのタンパク質分解的切断によって活性化される。前記テザーリガンドが前記受容体の細胞外ループ−2と相互作用し、その結果、受容体活性化が生ずることとなる。現在、PAR−1、PAR−2、PAR−3およびPAR−4と称するPARファミリーの4メンバーが公知である。
【0003】
PAR−2は、「C140」とも呼ばれている(特許文献1)。ヒトPAR−2とマウスPAR−2の両方がプロテアーゼ切断ドメインSKGRSLIG(配列番号:852の残基6〜13、および配列番号:856の残基8〜15)を共有する。この配列は、トリプシンなどの様々なプロテアーゼによって、ならびに肥満細胞トリプターゼ、組織因子/第VIIa因子複合体および第Xa因子、好中球プロテイナーゼ3(PR−3)、ヒト白血球エラスターゼ、および病原性生物起源のプロテアーゼによってR残基とS残基の間で切断される。
【0004】
PAR−2活性は、炎症性疾患、疼痛、胃腸の状態、神経疾患および心血管障害をはじめとする幾つかの疾患および状態に関係づけられている、または該疾患および状態と関連づけられている(例えば、非特許文献1Linderら、2000、J.Immunol.165:6504−6510;非特許文献2Vergnolleら、2001、Nature Medicine 7:821−826;非特許文献3Cenacら、2007、J.Clin.Investigation 117:636−647;非特許文献4Vergnolle、2004、British J.Pharmacol.141:1264−1274;非特許文献5Knightら、2001、J.Allergy Clin.Immunol.108:797−803;非特許文献6Schmidlinら、2002、J.Immunol.169:5315−5321参照)。PAR−2に結合する抗体は、PAR−2の活性にin vivoで拮抗する可能性を有する。従って、抗PAR−2抗体は、様々な疾患状態の処置および/または改善に潜在的に有用である。
【0005】
PAR−2に結合する抗体、およびそれらの一定の治療目的使用は、特許文献2、特許文献3、特許文献4、および特許文献5において述べられている。それでもなお、PAR−2媒介疾患および状態を処置するために使用することができる、抗PAR−2抗体をはじめとする、新規PAR−2調節剤が、当該技術分野において依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,874,400号明細書
【特許文献2】米国特許第5,874,400号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0237759号明細書
【特許文献4】国際公開第2009/005726号
【特許文献5】米国特許出願公開第2010/0119506号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Linderら、2000、J.Immunol.165:6504−6510
【非特許文献2】Vergnolleら、2001、Nature Medicine 7:821−826
【非特許文献3】Vergnolle、2004、British J.Pharmacol.141:1264−1274
【非特許文献4】Vergnolle、2004、British J.Pharmacol.141:1264−1274
【非特許文献5】Knightら、2001、J.Allergy Clin.Immunol.108:797−803
【非特許文献6】Schmidlinら、2002、J.Immunol.169:5315−5321
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ヒトPAR−2に結合するヒト抗体を提供する。本発明の抗体は、とりわけ、PAR−2媒介シグナリングの阻害に、ならびにPAR−2活性化に起因するまたは関連した疾患および障害の処置に有用である。
【0009】
本発明は、PAR−2のN末端領域と相互作用し、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位(本明細書中で定義するとおり)でのタンパク質分解的切断を遮断するが、1つ以上の非活性化性プロテアーゼ切断部位でのタンパク質分解的切断を遮断しない抗体を含む。一定の実施形態によると、そのようなタンパク質分解的切断遮断特性を呈示する抗PAR−2抗体は、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位の近位の特定のアミノ酸と相互作用する。例えば、本発明は、プロテアーゼ切断遮断活性を有する抗PAR−2抗体であって、ヒトPAR−2(配列番号:851)のVal−42およびAsp−43と相互作用するものであり、ならびにSer−37、Leu−38、Ile−39、Gly−40およびGly−44から成る群より選択される1つ以上のヒトPAR−2残基とさらに相互作用することができるものである抗PAR−2抗体を提供する。
【0010】
他の実施形態によると、本発明の抗PAR−2抗体は、ヒトPAR−2およびサルPAR−2に特異的に結合するが、マウス、ラット、ウサギ、イヌおよびブタPAR−2から成る群より選択される少なくとも1つのメンバーには結合しない。本発明は、PAR−2のタンパク質分解的活性化を阻害または減弱することができるが、PAR−2のタンパク質分解的切断を遮断しない抗体も含む。PAR−2切断またはタンパク質分解的活性化を遮断する抗体の能力を測定する/評価するための例示的方法は、本明細書の中で説明する。
【0011】
本発明の抗体は、完全長(例えば、IgG1もしくはIgG4抗体)である場合があり、または抗原結合部分(例えば、Fab、F(ab’)もしくはscFvフラグメント)しか含まないことがあり、および機能性に影響を及ぼすように、例えば残留エフェクター機能をなくすように、修飾されることがある(Reddyら、2000、J.Immunol.164:1925−1933)。
【0012】
本発明は、配列番号:2、18、22、26、42、46、50、66、70、74、90、94、98、114、118、122、138、142、146、162、166、170、186、190、194、210、214、218、234、238、242、258、262、266、282、286、290、306、310、314、330、334、338、354、358、362、378、382、386、402、406、410、426、430、434、450、454、458、474、478、482、498、502、506、522、526、530、546、550、554、570、574、578、594、598、602、618、622、626、642、646、650、666、670、674、690、694、698、714、718、722、738、742、746、762、766、770、786、790、794、810、814、818、834および838から成る群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似した配列、を有する重鎖可変領域(HCVR)を含む抗体または抗体の抗原結合フラグメントを提供する。一定の実施形態によると、前記抗体または抗体の抗原結合部分は、配列番号:98、146、338および714から成る群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVRを含む。
【0013】
本発明は、配列番号:10、20、24、34、44、48、58、68、72、82、92、96、106、116、120、130、140、144、154、164、168、178、188、192、202、212、216、226、236、240、250、260、264、274、284、288、298、308、312、322、332、336、346、356、360、370、380、384、394、404、408、418、428、432、442、452、456、466、476、480、490、500、504、514、524、528、538、548、552、562、572、576、586、596、600、610、620、624、634、644、648、658、668、672、682、692、696、706、716、720、730、740、744、754、764、768、778、788、792、802、812、816、826、836および840から成る群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似した配列、を有する軽鎖可変領域(LCVR)を含む抗体または抗体の抗原結合フラグメントも提供する。一定の実施形態によると、前記抗体または抗体の抗原結合部分は、配列番号:106、154、346および692から成る群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む。
【0014】
本発明は、配列番号:2/10、18/20、22/24、26/34、42/44、46/48、50/58、66/68、70/72、74/82、90/92、94/96、98/106、114/116、118/120、122/130、138/140、142/144、146/154、162/164、166/168、170/178、186/188、190/192、194/202、210/212、214/216、218/226、234/236、238/240、242/250、258/260、262/264、266/274、282/284、286/288、290/298、306/308、310/312、314/322、330/332、334/336、338/346、354/356、358/360、362/370、378/380、382/384、386/394、402/404、406/408、410/418、426/428、430/432、434/442、450/452、454/456、458/466、474/476、478/480、482/490、498/500、502/504、506/514、522/524、526/528、530/538、546/548、550/552、554/562、570/572、574/576、578/586、594/596、598/600、602/610、618/620、622/624、626/634、642/644、646/648、650/658、666/668、670/672、674/682、690/692、694/696、698/706、714/716、714/692、718/720、722/730、738/740、742/744、746/754、762/764、766/768、770/778、786/788、790/792、794/802、810/812、814/816、818/826、834/836および838/840から成る群より選択されるHCVRおよびLCVR(HCVR/LCVR)配列ペアを含む抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。一定の実施形態によると、前記抗体またはそのフラグメントは、配列番号:98/106、146/154、338/346および714/692のアミノ酸配列ペアから選択されるHCVRおよびLCVRを含む。
【0015】
本発明は、配列番号:8、32、56、80、104、128、152、176、200、224、248、272、296、320、344、368、392、416、440、464、488、512、536、560、584、608、632、656、680、704、728、752、776、800および824から成る群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似した配列、を有する重鎖CDR3(HCDR3)ドメインと;配列番号:16、40、64、88、112、136、160、184、208、232、256、280、304、328、352、376、400、424、448、472、496、520、544、568、592、616、640、664、688、712、736、760、784、808および832から成る群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似した配列、を有する軽鎖CDR3(LCDR3)ドメインとを含む、抗体または抗体の抗原結合フラグメントも提供する。
【0016】
一定の実施形態において、前記抗体または抗体の抗原結合部分は、配列番号:8/16、32/40、56/64、80/88、104/112、128/136、152/160、176/184、200/208、224/232、248/256、272/280、296/304、320/328、344/352、368/376、392/400、416/424、440/448、464/472、488/496、512/520、536/544、560/568、584/592、608/616、632/640、656/664、680/688、704/712、728/736、752/760、776/784、800/808および824/832から成る群より選択されるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列ペアを含む。一定の実施形態によると、前記抗体または抗体の抗原結合部分は、配列番号:104/112、152/160、344/352および704/712から成る群より選択されるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列ペアを含む。これらのHCDR3/LCDR3ペアを有する抗PAR−2抗体の非限定的な例は、それぞれH4H588N、H4H591N、H4H618NおよびH4H581Pと称する抗体である。
【0017】
本発明は、配列番号:4、28、52、76、100、124、148、172、196、220、244、268、292、316、340、364、388、412、436、460、484、508、532、556、580、604、628、652、676、700、724、748、772、796および820から成る群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似した配列、を有する重鎖CDR1(HCDR1)ドメインと;配列番号:6、30、54、78、102、126、150、174、198、222、246、270、294、318、342、366、390、414、438、462、486、510、534、558、582、606、630、654、678、702、726、750、774、798および822から成る群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似した配列、を有する重鎖CDR2(HCDR2)ドメインと;配列番号:12、36、60、84、108、132、156、180、204、228、252、276、300、324、348、372、396、420、444、468、492、516、540、564、588、612、636、660、684、708、732、756、780、804および828から成る群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似した配列、を有する軽鎖CDR1(LCDR1)ドメインと;配列番号:14、38、62、86、110、134、158、182、206、230、254、278、302、326、350、374、398、422、446、470、494、518、542、566、590、614、638、662、686、710、734、758、782、806および830から成る群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%配列同一性を有するその実質的に類似した配列、を有する軽鎖CDR2(LCDR2)ドメインとをさらに含む、抗体またはそのフラグメントも提供する。
【0018】
本発明の一定の非限定的、例示的抗体および抗原結合フラグメントは、(i)配列番号:100、102、104、108、110および112(例えば、H4H588N);(ii)配列番号:148、150、152、156、158および160(例えば、H4H591N);(iii)配列番号:340、342、344、348、350および352(例えば、H4H618N);ならびに(iv)配列番号:700、702、704、708、710および712(例えば、H4H581P)から成る群よりそれぞれ選択される、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3ドメインを含む。これらの例示的CDRのアミノ酸配列を図2および3に描写する。
【0019】
関連実施形態において、本発明は、PAR−2を特異的に結合する抗体または抗体の抗原結合フラグメントであって、配列番号:2/10、18/20、22/24、26/34、42/44、46/48、50/58、66/68、70/72、74/82、90/92、94/96、98/106、114/116、118/120、122/130、138/140、142/144、146/154、162/164、166/168、170/178、186/188、190/192、194/202、210/212、214/216、218/226、234/236、238/240、242/250、258/260、262/264、266/274、282/284、286/288、290/298、306/308、310/312、314/322、330/332、334/336、338/346、354/356、358/360、362/370、378/380、382/384、386/394、402/404、406/408、410/418、426/428、430/432、434/442、450/452、454/456、458/466、474/476、478/480、482/490、498/500、502/504、506/514、522/524、526/528、530/538、546/548、550/552、554/562、570/572、574/576、578/586、594/596、598/600、602/610、618/620、622/624、626/634、642/644、646/648、650/658、666/668、670/672、674/682、690/692、694/696、698/706、714/716、714/692、718/720、722/730、738/740、742/744、746/754、762/764、766/768、770/778、786/788、790/792、794/802、810/812、814/816、818/826、834/836および838/840から成る群より選択される重および軽鎖配列内に含有される重および軽鎖CDRドメインを含むものである抗体またはフラグメントを含む。一定の実施形態によると、前記抗体またはそのフラグメントは、配列番号:98/106、146/154、338/346および714/692のアミノ酸配列ペアから選択されるHCVRおよびLCVR内に含有されるCDR配列を含む。HCVRおよびLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定するための方法および技術は当該技術分野において周知であり、ならびに本明細書に開示する指定HCVRおよび/またはLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定するためにそれらを用いることができる。CDRの境界を同定するために用いることができる例示的規約としては、例えば、Kabat定義、Chothia定義、およびAbM定義が挙げられる。一般論として、Kabat定義は、配列可変性に基づき、Chothia定義は、構造ループ領域の位置に基づき、およびAbM定義は、KabatアプローチとChothiaアプローチの折衷案である。例えば、Kabat、「Sequences of Proteins of Immunological Interest」、National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991);Al−Lazikaniら、J.Mol.Biol.273:927−948(1997);およびMartinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:9268−9272(1989)を参照のこと。抗体内のCDR配列を同定するために公共データベースを利用することもできる。
【0020】
もう1つの態様において、本発明は、抗PAR−2抗体またはそれらのフラグメントをコードする核酸分子を提供する。本発明の核酸を担持する組換え発現ベクター、およびそのようなベクターが導入された宿主細胞も本発明に包含され、該抗体の生産を可能にする条件下で宿主細胞を培養し、生産された抗体を回収することによる、該抗体の生産方法も包含される。
【0021】
1つの実施形態において、本発明は、配列番号:1、17、21、25、41、45、49、65、69、73、89、93、97、113、117、121、137、141、145、161、165、169、185、189、193、209、213、217、233、237、241、257、261、265、281、285、289、305、309、313、329、333、337、353、357、361、377、381、385、401、405、409、425、429、433、449、453、457、473、477、481、497、501、505、521、525、529、545、549、553、569、573、577、593、597、601、617、621、625、641、645、649、665、669、673、689、693、697、713、717、721、737、741、745、761、765、769、785、789、793、809、813、817、833および837から成る群より選択される核酸配列、またはその少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%相同性を有する実質的に同一の配列、によってコードされたHCVRを含む抗体またはそのフラグメントを提供する。一定の実施形態によると、前記抗体またはそのフラグメントは、配列番号:97、145、337および713から成る群より選択される核酸によってコードされたHCVRを含む。
【0022】
本発明は、配列番号:9、19、23、33、43、47、57、67、71、81、91、95、105、115、119、129、139、143、153、163、167、177、187、191、201、211、215、225、235、239、249、259、263、273、283、287、297、307、311、321、331、335、345、355、359、369、379、383、393、403、407、417、427、431、441、451、455、465、475、479、489、499、503、513、523、527、537、547、551、561、571、575、585、595、599、609、619、623、633、643、647、657、667、671、681、691、695、705、715、719、729、739、743、753、763、767、777、787、791、801、811、815、825、835および839から成る群より選択される核酸配列、またはその少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%相同性を有する実質的に同一の配列、によってコードされたLCVRを含む抗体またはそのフラグメントも提供する。一定の実施形態によると、前記抗体またはそのフラグメントは、配列番号:105、153、345および715から成る群より選択される核酸によってコードされたLCVRを含む。
【0023】
本発明は、配列番号:7、31、55、79、103、127、151、175、199、223、247、271、295、319、343、367、391、415、439、463、487、511、535、559、583、607、631、655、679、703、727、751、775、799および823から成る群より選択されるヌクレオチド配列、またはその少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%相同性を有する実質的に同一の配列、によってコードされたHCDR3ドメインと;配列番号:15、39、63、87、111、135、159、183、207、231、255、279、303、327、351、375、399、423、447、471、495、519、543、567、591、615、639、663、687、711、735、759、783、807および831から成る群より選択されるヌクレオチド配列、またはその少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%相同性を有する実質的に同一の配列、によってコードされたLCDR3ドメインとを含む抗体または抗体の抗原結合フラグメントも提供する。一定の実施形態によると、前記抗体またはそのフラグメントは、配列番号:103/111、151/159、343/351および703/711から成る群より選択される核酸配列ペアによってコードされたHCDR3およびLCDR3配列を含む。
【0024】
本発明は、配列番号:3、27、51、75、99、123、147、171、195、219、243、267、291、315、339、363、387、411、435、459、483、507、531、555、579、603、627、651、675、699、723、747、771、795および819から成る群より選択されるヌクレオチド配列、またはその少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%相同性を有する実質的に同一の配列、によってコードされたHCDR1ドメインと;配列番号:5、29、53、77、101、125、149、173、197、221、245、269、293、317、341、365、389、413、437、461、485、509、533、557、581、605、629、653、677、701、725、749、773、797および821から成る群より選択されるヌクレオチド配列、またはその少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%相同性を有する実質的に同一の配列、によってコードされたHCDR2ドメインと;配列番号:11、35、59、83、107、131、155、179、203、227、251、275、299、323、347、371、395、419、443、467、491、515、539、563、587、611、635、659、683、707、731、755、779、803および827から成る群より選択されるヌクレオチド配列、またはその少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%相同性を有する実質的に同一の配列、によってコードされたLCDR1ドメインと;配列番号:13、37、61、85、109、133、157、181、205、229、253、277、301、325、349、373、397、421、445、469、493、517、541、565、589、613、637、661、685、709、733、757、781、805、829から成る群より選択されるヌクレオチド配列、またはその少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%相同性を有する実質的に同一の配列、によってコードされたLCDR2ドメインとをさらに含む、抗体またはそのフラグメントも提供する。
【0025】
一定の実施形態によると、前記抗体またはそのフラグメントは、配列番号:97および105;配列番号:145および153;配列番号:337および345;または配列番号:713および715の核酸配列によってコードされた重および軽鎖CDR配列を含む。
【0026】
本発明は、PAR−2を特異的に結合する単離された抗体または抗体の抗原結合フラグメントであって、HCDR3およびLCDR3を含み、該HCDR3が、式X−X−X−X−X−X−X−X−X−X10−X11−X12のアミノ酸配列(配列番号:843)(この式中、Xは、AlaまたはValであり、Xは、Lysであり、Xは、GlyまたはGluであり、Xは、AspまたはGlyであり、Xは、PheまたはAspであり、Xは、TrpまたはSer、Xは、SerまたはGlyであり、Xは、GlyまたはTyrであり、Xは、TyrまたはAspであり、X10は、PheまたはLeuであり、X11は、AspまたはAlaであり、X12は、Tyrである)を含み;およびに該LCDR3が、式X−X−X−X−X−X−X−X−Xのアミノ酸配列(配列番号:846)(この式中、Xは、MetまたはGlnであり、Xは、Glnであり、Xは、AlaまたはTyrであり、Xは、ThrまたはLysであり、Xは、Gln、SerまたはIleであり、Xは、PheまたはSerであり、Xは、Proであり、Xは、ThrまたはLeuであり、およびXは、Thrであるか不在である)を含むものである、単離された抗体または抗体の抗原結合フラグメントも提供する。
【0027】
より特定的な実施形態において、本発明は、PAR−2を特異的に結合する単離された抗体またはそのフラグメントであって、式X−X−X−X−X−X−X−XのHCDR1配列(配列番号:841)(この式中、Xは、Glyであり、Xは、Pheであり、Xは、Thrであり、Xは、Pheであり、Xは、SerまたはArgであり、Xは、SerまたはArgであり、Xは、Tyrであり、およびXは、Gly、AlaまたはThrである)と、式X−X−X−X−X−X−X−XのHCDR2配列(配列番号:842)(この式中、Xは、Ileであり、Xは、Ser、GlyまたはThrであり、Xは、Tyr、GlyまたはAspであり、Xは、Asp、GlyまたはSerであり、Xは、GlyまたはArgであり、Xは、Ile、GlyまたはAlaであり、Xは、Asn、Ser、ArgまたはGlyであり、およびXは、Lys、AlaまたはThrである)と、式X−X−X−X−X−X−X−X−X−X10−X11−X12のHCDR3配列(配列番号:843)(この式中、Xは、AlaまたはValであり、Xは、Lysであり、Xは、GlyまたはGluであり、Xは、AspまたはGlyであり、Xは、PheまたはAspであり、Xは、TrpまたはSerであり、Xは、SerまたはGlyであり、Xは、GlyまたはTyrであり、Xは、TyrまたはAspであり、X10は、PheまたはLeuであり、X11は、AspまたはAla、およびX12は、Tyrである)と、式X−X−X−X−X−X−X−X−X−X10−X11のLCDR1配列(配列番号:844)(この式中、Xは、Glnであり、Xは、SerまたはGlyであり、Xは、LeuまたはIleであり、Xは、ValまたはSerであり、Xは、His、AsnまたはThrであり、Xは、Ser、AsnまたはTyrであり、Xは、Aspであるか不在であり;Xは、Glyであるか不在であり、Xは、Asnであるか不在であり、X10は、Thrであるか不在であり、およびX11は、Tyrであるか不在である)と、式X−X−XのLCDR2配列(配列番号:845)(この式中、Xは、LysまたはAlaであり、Xは、Ile、AlaまたはThrであり、およびXは、Serである)とを含み;ならびにLCDR3が、式X−X−X−X−X−X−X−X−Xのアミノ酸配列(配列番号:846)(この式中、Xは、MetまたはGlnであり、Xは、Glnであり、Xは、AlaまたはTyrであり、Xは、ThrまたはLysであり、Xは、Gln、SerまたはIleであり、Xは、PheまたはSerであり、Xは、Proであり、Xは、ThrまたはLeuであり、およびXは、Thrであるか不在である)を含むものである、単離された抗体またはそのフラグメントを特徴とする。
【0028】
本発明は、修飾グリコシル化パターンを有する抗PAR−2抗体を包含する。一部の用途では、望ましくないグリコシル化部位を除去するための修飾は有用であり得る、つまり、例えば抗体依存性細胞傷害性(antibody dependent cellular cytotoxicity:ADCC)機能を増加させるために、オリゴ糖鎖上に存在するフコース部分を欠く抗体は有用であり得る(Shieldら(2002)JBC 277:26733参照)。他の用途では、補体依存性細胞傷害性(CDC)を修飾するためにガラクトシル化の修飾を行う場合がある。
【0029】
もう1つの態様において、本発明は、PAR−2を特異的に結合する組換えヒト抗体またはそのフラグメントと薬学的に許容され得る担体とを含む医薬組成物を提供する。関連態様において、本発明は、PAR−2阻害剤と第二の治療薬との組み合わせである組成物を特徴とする。1つの実施形態において、前記PAR−2阻害剤は、抗体またはそのフラグメントである。1つの実施形態において、前記第二の治療薬は、PAR−2阻害剤と有利に併用される任意の薬剤である。PAR−2阻害剤と有利に併用することができる例示的薬剤としては、限定ではないが、PAR−2活性を阻害する他の薬剤(他の抗体もしくはそれらの抗原結合フラグメント、ペプチド阻害剤、小分子アンタゴニストなど)、および/またはPAR−2上流もしくは下流シグナリングに干渉する薬剤が挙げられる。
【0030】
さらにもう1つの態様において、本発明は、本発明の抗PAR−2抗体または抗体の抗原結合部分を使用してPAR−2活性を阻害する方法であって、本発明の抗体または抗体の抗原結合フラグメントを含む治療有効量の医薬組成物を投与することを含むものである治療方法を提供する。処置される障害は、PAR−2抗体の除去、阻害または低減によって向上、改善、阻害または予防される任意の疾患または状態である。本発明の抗PAR−2抗体または抗体フラグメントは、PAR−2とプロテアーゼ(例えば、トリプシンもしくはトリプシン様セリンプロテアーゼ)との相互作用を遮断するように、でなければPAR−2のプロテアーゼ媒介活性化を阻害するように、作用することができる。あるいは、または加えて、本発明の抗PAR−2抗体は、PAR−2テザーリガンドと1つ以上のPAR−2細胞外ループとの相互作用に干渉することができる(PAR−2タンパク質分解的切断および活性化の一般的な論考については、例えばMacFarlaneら、2001、Pharmacological Reviews 53:245−282を参照のこと)。前記抗体または抗体フラグメントは、単独で使用することができ、または1つ以上の追加の治療薬と併用することができる。
【0031】
本発明は、患者におけるPAR−2活性に関連したまたは起因する疾患または障害を処置するための薬物の製造における、本発明の抗PAR−2抗体または抗体の抗原結合部分の使用も含む。
【0032】
他の実施形態は、後続の詳細な説明の再考から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、抗体H4H581P、H4H588N、H4H591NおよびH4H618Nの重鎖可変領域およびCDRの配列比較表である。
【図2】図2は、抗体H4H581P、H4H588N、H4H591NおよびH4H618Nの軽鎖可変領域およびCDRの配列比較表である。
【図3】図3における上のパネル(A)は、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位を取り囲む配列(GTNRSSKGRSLIGKVDGT;配列番号:852)に対応するCおよびN末端ビオチン標識ペプチドを示す。これらのプロテアーゼ切断部位を番号1(上流、非活性化性プロテアーゼ切断部位)および番号2(PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位)によって表す。非切断および切断フラグメントの予想サイズを上の表に示す。下のパネル(B)は、抗PAR−2抗体または陰性対照の存在下での0、5および15分のトリプシン処理後に観察されたフラグメントサイズを示す。
【図4】図4における上のパネル(A)は、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位を取り囲む配列(それぞれ、配列番号:883、858および852)に対応するマウス、ラットおよびヒトペプチドを示す。これらのプロテアーゼ切断部位を番号1および2(上流、非活性化性プロテアーゼ切断部位)ならびに番号3(PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位)によって表す。非切断および切断フラグメントの予想サイズを上の表に示す。下のパネル(B)は、抗PAR−2抗体または陰性対照の存在下での0および5分のトリプシン処理後に観察されたフラグメントサイズを示す。
【図5】図5は、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位を取り囲む配列(配列番号:852)に結合する抗体についてのアラニン・スキャニング・エピトープ・マッピング結果の描写である。白三角は、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位の上流に位置するプロテアーゼ切断部位を表す。PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位を黒三角によって示す。括弧内の数字は、完全長ヒトPAR−2配列(配列番号:851)内のアミノ酸番号付けを示す。アミノ酸残基の下の丸の中の番号は、表24〜26および28に示すとおりの、野生型ペプチドへの抗体結合のT1/2に対するアラニンスキャン突然変異体ペプチドへの抗体結合のT1/2のパーセントを示す。二重反復実験を行った場合、平均T1/2百分率を丸の中に示す。白い数字を伴う黒丸は、アラニンに変えたときに抗体結合のT1/2を野生型ペプチドへの抗体結合のT1/2の30%以下に低下させるアミノ酸を示す。そのようなアミノ酸を、本明細書では、抗体が相互作用する残基と定義する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明を説明する前に、本発明が、記載する特定の方法および実験条件に限定されないことを理解しなければならない。そのような方法および条件は様々であり得るからである。本明細書において用いる専門用語が、特定の実施形態の説明のみを目的とするものであること、および本発明の範囲は添付の請求項によってのみ限定されるので、限定を意図したものでないことも理解しなければならない。
【0035】
別の定義がない限り、本明細書において用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の通常の技術者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書において用いる場合、用語「約」は、個々に列挙する数値に関して用いるとき、その数値が列挙されている値から1%以下変動することがあることを意味する。例えば、本明細書において用いる場合、「約100」という表現は、99および101ならびに間のすべての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0036】
本明細書に記載するものに類似したまたは等価の任意の方法および材料を本発明の実施または試験の際に用いることができるが、好ましい方法および材料を、今般、説明する。
【0037】
定義
本明細書において用いる場合、用語「プロテイナーゼ活性化受容体−2」、「プロテアーゼ活性化受容体−2」および「PAR−2」は、完全長PAR−2タンパク質を指す。ヒトPAR−2は、配列番号:850に示す核酸配列によってコードされ、配列番号:851のアミノ酸配列を有する。非ヒト種(例えば、マウス、サル、ウサギ、イヌ、ブタなど)からのPAR−2分子のアミノ酸配列もパブリックソースから入手できる。
【0038】
用語「PAR−2フラグメント」は、本明細書において用いる場合、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位(下で定義するとおり)の上流(すなわち、N末端側)に位置する4、5、6、7、8、9、10以上の隣接アミノ酸および/またはPAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位の下流(すなわち、C末端側)に位置する4、5、6、7、8、9、10以上の隣接アミノ酸を含むペプチドまたはポリペプチドを意味する。例示的PAR−2フラグメント(Peptide「A」から「J」と呼ぶ、すなわち、それぞれ配列番号:852から861)は、実施例2、表2において例証する。
【0039】
「PAR−2」および「PAR−2フラグメント」という表現は、本明細書において用いる場合、非ヒト種からである(例えば、「マウスPAR−2」、「マウスPAR−2フラグメント」、「サルPAR−2」、「サルPAR−2フラグメント」など)と指定されていない限り、ヒトPAR−2タンパク質またはフラグメントを指す。
【0040】
本開示の文脈の中で用いる場合、「PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位」という表現は、ヒトPAR−2(配列番号:851)の残基Arg−36およびSer−37の接合点を意味する。PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位は、切断されたとき、天然に産生されるタンパク質中のPAR−2テザーリガンドが形成される結果となる部位である。
【0041】
用語「PAR−2プロテアーゼ」は、本明細書において用いる場合、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位でPAR−2またはPAR−2フラグメントを切断することができる酵素を意味する。例示的PAR−2プロテアーゼとしては、トリプシン、カテプシンG、アクロシン、組織第VIIa因子、組織第Xa因子、ヒト気道トリプシン様プロテアーゼ、トリプターゼ、膜結合型セリンプロテアーゼ1(membrane−type serine protease−1)(MT−SP1)、TMPRSS2、プロテアーゼ−3、エラスターゼ、カリクレイン−5、カリクレイン−6、カリクレイン−14、活性化プロテインC、デュオデナーゼ、ギンギパイン−R、Der p1、Der p3、Der p9、サーモライシン、セラリシン、およびT.denticlaプロテアーゼが挙げられる。
【0042】
用語「抗体」は、本明細書において用いる場合、ジスルフィド結合によって相互に連結されている4本のポリペプチド鎖、2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖、を含む免疫グロブリン分子、ならびにそれらの多量体(例えば、IgM)を指すことを意図したものである。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVRまたはVと略記する)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、C1、C2およびC3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVRまたはVと略記する)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(C)を含む。VおよびV領域は、より保存される領域[フレームワーク領域(FR)と呼ばれる]が散在する超可変性領域[相補性決定領域(CDR)と呼ばれる]にさらに細分することができる。各VおよびVは、次の順序でアミノ末端からカルボキシ末端へと配列された、3つのCDRおよび4つのFRから成る:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本発明の種々の実施形態において、抗Ang−2抗体(またはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖細胞系配列と同一であることがあり、または天然にもしくは人工的に修飾されていることがある。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRのサイド・バイ・サイド分析に基づいて定義することができる。
【0043】
用語「抗体」は、本明細書において用いる場合、完全抗体分子の抗原結合フラグメントも含む。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合」フラグメント、およびこれらに類する用語は、本明細書において用いる場合、抗原を特異的に結合して複合体を形成する任意の天然に産生される、酵素的に得ることができる、合成の、または遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合フラグメントは、例えば、タンパク質分解的消化、または抗体可変および場合により定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を含む組換え遺伝子工学技術などの、任意の適する標準的技術を用いて、完全抗体分子から誘導することができる。そのようなDNAは、公知であり、および/または例えば商業的供給源、DNAライブラリー(例えば、ファージ−抗体ライブラリーを含む)から容易に入手することができ、または合成することができる。前記DNAをシークエンシングし、化学的にまたは分子生物学技術を用いて操作して、例えば、1つ以上の可変および/もしくは定常ドメインを適する配置に配列すること、またはコドンを導入すること、またはシステイン残基を作ること、アミノ酸を修飾する、付加させるもしくは欠失させることなどができる。
【0044】
抗原結合フラグメントの非限定的な例としては、(i)Fabフラグメント;(ii)F(ab’)フラグメント、(iii)Fdフラグメント;(iv)Fvフラグメント;(v)一本鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAbフラグメント;および(vii)抗体の超可変領域を模倣するアミノ酸残基から成る最小認識単位(例えば、単離された相補性決定領域(CDR))が挙げられる。遺伝子工学で作られる他の分子、例えば、ダイアボディー、トリアボディー、テトラボディーおよびミニボディーも、本明細書において用いる「抗原結合フラグメント」という表現に包含される。
【0045】
抗体の抗原結合フラグメントは、少なくとも1つの可変ドメインを概して含むであろう。前記可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成のものであってよく、1つ以上のフレームワーク配列に隣接する、または1つ以上のフレームワーク配列とインフレームである、少なくとも1つのCDRを一般に含む。Vドメインと会合したVドメインを有する抗原結合フラグメントの場合、VおよびVドメインは、互いに対していずれの適する布置に置かれていてもよい。例えば、可変領域は、二量体であり、V−V、V−VまたはV−V二量体を含有することがある。あるいは、抗体の抗原結合フラグメントは、単量体VまたはVドメインを含有することがある。
【0046】
一定の実施形態において、抗体の抗原結合フラグメントは、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合で連結された少なくとも1つの可変ドメインを含有することがある。本発明の抗体の抗原結合フラグメント内に見いだすことができる可変および定常ドメインの非限定的、例示的配置としては、(i)V−C1;(ii)V−C2;(iii)V−C3;(iv)V−C1−C2;(v)V−C1−C2−C3;(vi)V−C2−C3;(vii)V−C;(viii)V−C1;(ix)V−C2;(x)V−C3;(xi)V−C1−C2;(xii)V−C1−C2−C3;(xiii)V−C2−C3;および(xiv)V−Cが挙げられる。上に列挙した例示的配置のいずれかを含む、可変および定常ドメインの任意の配置において、可変および定常ドメインは、互いに直接連結していることがあり、または完全もしくは部分ヒンジもしくはリンカー領域によって連結されていることがある。ヒンジ領域は、少なくとも2(例えば、5、10、15、20、40、60以上)のアミノ酸から成り得、これらのアミノ酸が、単一ポリペプチド分子内の隣接する可変および/または定常ドメイン間の可撓性または半可撓性の連結を生じさせる結果となる。さらに、本発明の抗体の抗原結合フラグメントは、互いにおよび/または1つ以上の単量体VもしくはVドメインと(例えば、ジスルフィド結合(単数または複数)により)の非共有結合的に会合している状態で、上に列挙した可変および定常ドメイン配置のいずれかのホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含むことがある。
【0047】
完全抗体分子と同様に、抗原結合フラグメントは、単一特異性であることがあり、または多重特異性(例えば、二重特異性)であることもある。抗体の多重特異性抗原結合フラグメントは、各ドメインが別の抗原にまたは同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合することができる、少なくとも2つの異なる可変ドメインを概して含むだろう。本明細書に開示する例示的二重特異性抗体フォーマットを含めて、任意の多重特異性抗体フォーマットが、当該技術分野において利用可能な常例的な技術を用いて本発明の抗体の抗原結合フラグメントに関連して使用することに適しているだろう。
【0048】
抗体の定常領域は、補体を固定するおよび細胞依存性細胞傷害性を媒介する抗体の能力に重要である。従って、抗体が細胞傷害性を媒介することが望ましいかどうかに基づいて、抗体のアイソタイプを選択することができる。
【0049】
用語「ヒト抗体」は、本明細書において用いる場合、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する抗体を含むことを意図したものである。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、in vitroでランダムまたは部位特異的突然変異誘発によりまたはin vivoで体性突然変異により導入される突然変異)を、例えばCDR内におよび特定のCDR3内に、含むことがある。しかし、用語「ヒト抗体」は、本明細書において用いる場合、マウスなどの他の哺乳動物種の生殖細胞系に由来するCDR配列をヒトフレームワーク配列にグラフトさせた抗体を含むことを意図したものではない。
【0050】
用語「組換えヒト抗体」は、本明細書において用いる場合、組換え手段によって調製、発現、作製または単離されるすべてのヒト抗体、例えば、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現された抗体(下でさらに説明する)、組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体(下でさらに説明する)、ヒト免疫グロブリン遺伝子に対してトランスジェニックである動物(例えばマウス)から単離された抗体(例えば、Taylorら(1992)Nucl.Acids Res.20:6287−6295参照)またはヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の技術によって調製、発現、作製もしくは単離された抗体を含むことを意図したものである。そのような組換えヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する。しかし、一定の実施形態において、そのような組換えヒト抗体は、in vitro突然変異誘発(または、ヒトIg配列に対してトランスジェニックな動物を使用するときにはin vivo体性突然変異誘発)に付されるので、それらの組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系VHおよびVL配列に由来し、関連している配列であるが、in vivoヒト抗体生殖細胞系レパートリーの中に天然に存在し得ない配列である。
【0051】
ヒト抗体は、ヒンジ不均一性に関連づけられる2つの形態で存在する場合がある。一方の形態での免疫グロブリン分子は、二量体が鎖間重鎖ジスルフィド結合によって一緒に保持されている、おおよそ150〜160kDaの安定した4本鎖構築物を含む。第二の形態では、二量体が鎖間ジスルフィド結合によって連結されず、共有結合によりカップリングされた軽および重鎖から成る約75〜80kDaの分子が形成される(半抗体)。これらの形態は、アフィニティー精製後でさえ、分離することが極めて難しい。
【0052】
様々なインタクトIgGアイソタイプにおける前記第二の形態の出現頻度は、抗体のヒンジ領域アイソタイプに関連した構造の相違によるが、これに限定されない。ヒトIgG4ヒンジのヒンジ領域における単一アミノ酸置換は、前記第二の形態の出現を、ヒトIgG1ヒンジを用いて典型的に観察されるレベルへと、有意に低減することができる(Angalら(1993)Molecular Immunology 30:105)。本発明は、例えば、生産の際、所望の抗体形態の収率を向上させるために望ましいことがあるヒンジ、CH2またはCH3領域に1つ以上の突然変異を有する抗体を包含する。
【0053】
「単離された抗体」は、本明細書において用いる場合、その天然の環境の少なくとも1つの成分から同定された、および分離された、および/または回収された抗体を意味する。例えば、その抗体が天然に存在するまたは天然に生産される生物、組織または細胞の少なくとも1つの成分から分離または除去された抗体は、本発明のための「単離された抗体」である。単離された抗体は、組換え細胞の中のin situでの抗体、ならびに少なくとも1つの精製または単離工程に付された抗体も含む。一定の実施形態によると、単離された抗体には他の細胞物質および/または化学物質が実質的にないことがある。
【0054】
用語「特異的に結合する」またはこれに類するものは、抗体またはその抗原結合フラグメントが、生理条件下で比較的安定である抗原との複合体を形成することを意味する。特異的結合は、1×10−6M以下の解離定数によって特徴づけることができる。2つの分子が特異的に結合するかどうかを判定するための方法は当該技術分野において周知であり、例えば、平衡透析法、表面プラズモン共鳴およびこれらに類するものを含む。例えば、ヒトPAR−2を「特異的に結合する」抗体は、本発明に関連して用いる場合、表面プラズモン共鳴アッセイで測定して、ヒトPAR−2またはその一部分(例えば、活性化性プロテアーゼ切断部位を含むPAR−2フラグメント)を約1000nM未満、約500nM未満、約300nM未満、約200nM未満、約100nM未満、約90nM未満、約80nM未満、約70nM未満、約60nM未満、約50nM未満、約40nM未満、約30nM未満、約20nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、約1nM未満、約0.5nM未満のKで結合する抗体を含む。(例えば、本明細書の実施例4参照)。しかし、ヒトPAR−2を特異的に結合する単離された抗体は、他の種からのPAR−2分子などの、他の抗原への交差反応性を有することがある。
【0055】
「中和」または「遮断」抗体は、本明細書において用いる場合、PAR−2への結合が、(i)PAR−2もしくはPAR−2フラグメントと1つ以上のプロテアーゼとの相互作用に干渉する、(ii)PAR−2プロテアーゼによるPAR−2もしくはPAR−2フラグメントの切断を防止する;(iii)PAR−2テザーリガンドとPAR−2細胞外ループとの相互作用を阻害する、および/または(iv)結果としてPAR−2の少なくとも1つの生物学的機能の阻害を生じさせる抗体を指すことを意図したものである。PAR−2中和または遮断抗体に起因する阻害は、適切なアッセイを用いて検出できるのであれば完全である必要はない。PAR−2阻害を検出するための例示的アッセイは、本明細書の中で説明する。
【0056】
本明細書に開示する完全ヒト抗PAR−2抗体は、重および軽鎖可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域内に、対応する生殖細胞系配列と比較して、1つ以上のアミノ酸置換、挿入および/または欠失を含むことがある。そのような突然変異は、本明細書に開示するアミノ酸配列と例えば公共抗体配列データベースから入手できる生殖細胞系配列とを比較することにより、容易に突きとめることができる。本発明は、1つ以上のフレームワークおよび/またはCDR領域内の1つ以上のアミノ酸が、対応する生殖細胞系残基(単数もしくは複数)にまたは対応する生殖細胞系残基(単数もしくは複数)の保存的アミノ酸置換(天然もしくは非天然)に復帰突然変異する(そのような配列変化を本明細書では「生殖細胞系復帰突然変異」と呼ぶ)、本明細書に開示する任意のアミノ酸配列に由来する抗体およびその抗原結合フラグメントを含む。当業者は、本明細書に開示する重および軽鎖可変領域配列で出発して、1つ以上の個々の生殖細胞系復帰突然変異またはそれらの組み合わせを含む非常に多数の抗体および抗原結合フラグメントを容易に生産することができる。一定の実施形態では、Vおよび/またはVドメイン内のフレームワークおよび/またはCDR残基のすべてが突然変異して生殖細胞系配列に戻る。他の実施形態では、一定の残基のみ、例えば、FR1の最初の8個のアミノ酸の中もしくはFR4の最後の8個のアミノ酸の中に見いだされる突然変異残基のみ、またはCDR1、CDR2もしくはCDR3の中に見いだされる突然変異残基のみ、が突然変異して生殖細胞系配列に戻る。さらに、本発明の抗体は、フレームワークおよび/またはCDR領域内に2つ以上の生殖細胞系復帰突然変異の任意の組み合わせを含有することがある、すなわち、この場合、一定の個々の残基は突然変異して生殖細胞系配列に戻り、その一方で生殖細胞系配列とは異なる一定の他の残基は維持される。得られたら、一定の1つ以上の生殖細胞系復帰突然変異を含有する抗体および抗原結合フラグメントを、1つ以上の所望の特性、例えば、結合特異性向上、結合親和性増大、(場合次第で)拮抗的または作動的生物学的特性向上または強化、免疫原性低減などについて容易に試験することができる。この一般的な手法で得られる抗体および抗原結合フラグメントは、本発明に包含される。
【0057】
本発明は、1つ以上の保存的置換を有する、本明細書に開示する任意のHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列の変異体を含む抗PAR−2抗体も含む。例えば、本発明は、本明細書に開示する任意のHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列に比べて例えば10以下、8以下、6以下、4以下などの保存的アミノ酸置換を伴うHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列を有する抗PAR−2抗体を含む。1つの実施形態において、前記抗体は、8以下の保存的アミノ酸置換を伴う配列番号:698のアミノ酸配列を有するHCVRを含む。もう1つの実施形態において、前記抗体は、6以下の保存的アミノ酸置換を伴う配列番号:698のアミノ酸配列を有するHCVRを含む。もう1つの実施形態において、前記抗体は、4以下の保存的アミノ酸置換を伴う配列番号:698のアミノ酸配列を有するHCVRを含む。もう1つの実施形態において、前記抗体は、2以下の保存的アミノ酸置換を伴う配列番号:698のアミノ酸配列を有するHCVRを含む。1つの実施形態において、前記抗体は、8以下の保存的アミノ酸置換を伴う配列番号:706のアミノ酸配列を有するLCVRを含む。もう1つの実施形態において、前記抗体は、6以下の保存的アミノ酸置換を伴う配列番号:706のアミノ酸配列を有するLCVRを含む。もう1つの実施形態において、前記抗体は、4以下の保存的アミノ酸置換を伴う配列番号:706のアミノ酸配列を有するLCVRを含む。もう1つの実施形態において、前記抗体は、2以下の保存的アミノ酸置換を伴う配列番号:706のアミノ酸配列を有するLCVRを含む。
【0058】
用語「表面プラズモン共鳴」は、本明細書において用いる場合、例えばBIAcore(商標)システム(ニュージャージー州ピスカタウェイのBiacore Life Sciences division of GE healthcare)を用いて、バイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度の変化を検出することにより実時間相互作用分析を可能にする光学現象を指す。
【0059】
用語「K」は、本明細書において用いる場合、特定の抗体−抗原相互作用の平衡解離定数を指すことを意図したものである。
【0060】
用語「エピトープ」は、パラトープとして公知の抗体分子の可変領域内の特定の抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原が1つより多くのエピトープを有することがある。従って、異なる抗体が、抗原の異なるエリアに結合することがあり、異なる生物学的作用を及ぼすことがある。エピトープは、高次構造(conformational)であることもあり、または一次構造(linear)であることもある。高次構造エピトープは、線状ポリペプチド鎖の異なるセグメントからの空間的に並べられたアミノ酸によって作り出される。一次構造エピトープは、ポリペプチド鎖中の隣接アミノ酸残基によって作り出されるものである。一定の状況では、エピトープは、抗原上の糖類、ホスホリル基またはスルホニル基の部分を含むことがある。
【0061】
核酸またはそのフラグメントに言及するときの用語「実質的同一性」または「実質的に同一な」は、適切なヌクレオチド挿入または欠失があるが別の核酸(またはその相補鎖)と最適にアラインしたとき、下で説明するような任意の周知の配列同一性アルゴリズム、例えばFASTA、BLASTまたはGap、によって測定して、それらのヌクレオチド塩基の少なくとも約95%、およびさらに好ましくは少なくとも約96%、97%、98%または99%にヌクレオチド配列同一異性があることを示す。基準核酸分子との実質的同一性を有する核酸分子は、一定の場合、その基準核酸分子によってコードされたポリペプチドと同じまたは実質的に類似したアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードし得る。
【0062】
ポリペプチドに適用する場合、用語「実質的類似性」または「実質的に類似した」は、2つのペプチド配列が、例えばデフォルト・ギャップ・ウェイトを用いてプログラムGAPまたはBESTFITにより最適にアラインされたとき、少なくとも95%配列同一性、さらにいっそう好ましくは少なくとも98%または99%配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一でない残基位置は、保存的アミノ酸置換の点で異なる。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、類似した化学的性質(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されているものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能特性を実質的に変化させないであろう。2つ以上のアミノ酸配列が、互いに保存的置換の点で異なる場合、配列同一性パーセントまたは類似度を上方調整して、置換の保存的性質を補正することができる。この調整を行う手段は当業者に周知である。例えば、Pearson(1994)Methods Mol.Biol.24:307−331参照。類似した化学的性質を有する側鎖を有するアミノ酸の群の例としては、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン;(2)脂肪族−ヒドロキシル側鎖:セリンおよびトレオニン;(3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン;(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン;(5)塩基性側鎖:リシン、アルギニンおよびヒスチジン;(6)酸性側鎖:アスパルタートおよびグルタマート、ならびに(7)硫黄含有側鎖(システインおよびメチオニンである)が挙げられる。好ましい保存的アミノ酸置換群は、バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リシン−アルギニン、アラニン−バリン、グルタマート−アスパルタート、およびアスパラギン−グルアミンである。あるいは、保存的置き換えは、Gonnetら(1992)Science 256:1443−1445に開示されているPAM250対数尤度行列で正の値を有する任意の変化である。「中等度保存的」置き換えは、PAM250対数尤度行列で負でない値を有する任意の変化である。
【0063】
配列同一性とも呼ばれる、ポリペプチドの配列類似性は、概して、配列分析ソフトウェアを用いて測定される。タンパク質分析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含めて、様々な置換、欠失および他の修飾に割り当てられた類似性の尺度を用いて類似した配列をマッチングする。例えば、GCGソフトウェアは、デフォルトパラメータで用いて、密接な関係があるポリペプチド、例えば生物の異なる種からの相同ポリペプチド、または野生型タンパク質とその突然変異タンパク質の間の配列相同性または配列同一性を判定することができるプログラム、例えばGapおよびBestfit、を含有する。例えば、GCG Version 6.1参照。FASTAを用い、デフォルトまたは推奨パラメータを用いてポリペプチド配列を比較することもでき、GCG Version 6.1.FASTAの中のプログラム(例えば、FASTA2およびFASTA3)は、クエリ配列とサーチ配列の間の最高重複領域のアラインメントおよび配列同一性パーセントを提供する(Pearson(2000)上記)。本発明の配列と異なる生物からの多数の配列を含有するデータベースとを比較するときのもう1つの好ましいアルゴリズムは、デフォルトパラメータを用いるコンピュータプログラムBLAST、とりわけBLASTPまたはTBLASTN、である。例えば、Altschulら(1990)J.Mol.Biol.215:403−410およびAltschulら(1997)Nucleic Acids Res.25:3389−402参照。
【0064】
ヒト抗体の調製
完全ヒトモノクローナル抗体をはじめとするモノクローナル抗体の産生方法は、当該技術分野において公知である。任意のそのような公知の方法を本発明に関連して用いて、ヒトPAR−2に特異的に結合するヒト抗体を作製することができる。
【0065】
モノクローナル抗体を産生させるためのVELOCIMMUNE(商標)技術または任意の他の方法を用いて、PAR−2に対する、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する、高親和性キメラ抗体を最初に単離する。下の実験の部でのように、それらの抗体を特性づけし、親和性、選択性、エピトープなどをはじめとする所望の特性について選択する。マウス定常領域を所望のヒト定常領域と置き換えて、本発明の完全ヒト抗体、例えば、野生型または修飾IgG1またはIgG4、を産生させる。選択される定常領域は、具体的な用途によって様々であるが、高親和性抗原結合特性およびターゲット特異特性は、可変領域に存する。
【0066】
生物学的等価物
本発明の抗PAR−2抗体および抗体フラグメントは、記載する抗体のものとは異なるアミノ酸配列であるがヒトPAR−2を結合する能力を保持するものであるアミノ酸配列を有するタンパク質を包含する。そのような変異抗体および抗体フラグメントは、親配列と比較したときにアミノ酸の1つ以上の付加、欠失または置換を含むが、記載する抗体のものと本質的に等価である生物活性を提示する。同様に、本発明の抗PAR−2抗体をコードするDNA配列は、開示する配列と比較したときにヌクレオチドの1つ以上の付加、欠失または置換を含む配列であるが本発明の抗PAR−2抗体または抗体フラグメントと本質的に生物学的に等価である抗PAR−2抗体または抗体フラグメントをコードするものである配列を包含する。そのような変異アミノ酸およびDNA配列の例は、上で論じている。
【0067】
2つの抗原結合性タンパク質、すなわち抗体、は、例えばそれらが、単回投薬または反復投薬のいずれかの類似した実験条件下、同じモル用量で投与されたとき吸収速度および量に有意差を示さない薬学的等価物または薬学的代替物である場合、生物学的等価と見なされる。一部の抗体は、それらが、吸収量の点では等価であるが吸収速度の点では等価でなく、それにもかかわらず、そのような吸収速度の差が、意図的なものであり、標識づけに反映され、例えば慢性使用時に有効体内薬物濃度の達成に必須でなく、特定の医薬品研究にとって医学的に意味のないものと見なされるため、生物学的等価と見なすことができる場合には、等価物または薬学的代替物と見なされるだろう。
【0068】
1つの実施形態において、2つの抗原結合タンパク質は、それらの安全性、純度および作用強度に臨床的に意義のある差がない場合、生物学的等価である。
【0069】
1つの実施形態において、2つの抗原結合タンパク質は、基準製品と生物学的製剤の1回以上の切り替えを、そのような切り替えを伴わない継続治療と比較して、免疫原性の臨床的に有意な変化または有効性減少をはじめとする有害作用のリスクの予想される増加なしに、患者に施すことができる場合、生物学的等価である。
【0070】
1つの実施形態において、2つの抗原結合タンパク質は、それら両方が、使用条件(単数または複数)に対して共通の作用メカニズム(単数または複数)によって作用する場合、そのようなメカニズムがわかる範囲内で生物学的等価である。
【0071】
生物学的等価性は、in vivoおよびin vitro法によって実証することができる。生物等価性測定法としては、例えば、(a)血液、血漿、血清または他の生体液中の抗体またはその代謝産物の濃度を時間の関数として測定する、ヒトまたは他の哺乳動物におけるin vivo試験;(b)ヒトin vivoバイオアベイラビリティーデータとの相関関係が立証されており該データを合理的に予示する、in vitro試験;(c)抗体(またはそのターゲット)の適切な急性薬理作用を時間の関数として測定する、ヒトまたは他の哺乳動物におけるin vivo試験;および(d)抗体の安全性、効力またはバイオアベイラビリティーまたは生物学的等価性を確証する十分に管理された臨床試験が挙げられる。
【0072】
本発明の抗PAR−2抗体の生物学的等価変異体は、例えば、残基もしくは配列の様々な置換を行うこと、または生物活性に必要ない末端もしくは内部残基もしくは配列を欠失させることによって構築することができる。例えば、生物活性に必須でないシステイン残基を欠失させてまたは他のアミノ酸と置き換えて、復元時に不必要なまたは不適当な分子内ジスルフィド架橋の形成を防止することができる。他の状況では、生物学的等価抗体は、抗体のグルコシル化特性を修飾するアミノ酸変化、例えばグリコシル化をなくすまたは除去する突然変異、を含む抗PAR−2抗体変異体を含むことがある。
【0073】
抗体の生物学的特徴
本発明の抗体は、補体依存性細胞傷害性(CDC)または抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(antibody−dependent cell−mediated cytotoxicity:ADCC)によって作用することができる。「補体依存性細胞傷害性」(CDC)は、補体の存在下での本発明の抗体による抗原発現性細胞の溶解を指す。「抗体依存性細胞媒介細胞傷害性」(ADCC)は、Fc受容体(FcR)を発現する非特異的細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、およびマクロファージ)がターゲット細胞上の結合抗体を認識し、それによってそのターゲット細胞の溶解をもたらす、細胞媒介反応を指す。CDCおよびADCCは、当該技術分野において周知であり利用できるアッセイを用いて、測定することができる(例えば、米国特許第5,500,362号および同第5,821,337号、ならびにClynesら(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)95:652−656参照)。
【0074】
あるいは、または加えて、本発明の抗体は、PAR−2相互作用を遮断するまたは受容体成分相互作用を阻害する点で治療的上有用であり得る。本発明のPAR−2抗体の場合、抗体は、とりわけ、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位を遮断するかまたは覆い隠すことによって作用することができる。あるいは、本発明の抗体は、テザーリガンドと1つ以上の細胞外ループ(例えば、ループ−1、ループ−2および/またはループ−3)との相互作用に干渉することによって作用することができる。
【0075】
より具体的には、本発明の抗PAR−2抗体は、次の特徴のうちの1つ以上を呈示することができる:(1)ヒトPAR−2またはヒトPAR−2フラグメントに、および非ヒト(例えば、マウス、サル、ラット、ウサギ、イヌ、ブタなど)PAR−2またはPAR−2フラグメントに結合できること;(2)ヒトPAR−2またはヒトPAR−2フラグメントに結合できるが、非ヒト(例えば、マウス、サル、ラット、ウサギ、イヌ、ブタなど)PAR−2およびPAR−2フラグメントに結合できないこと;(3)ヒトPAR−2またはヒトPAR−2フラグメントに、およびサルPAR−2またはサルPAR−2フラグメントに結合できるが、マウス、ラット、ウサギ、イヌまたはブタPAR−2ならびにPAR−2フラグメントに結合できないこと;(4)ヒトPAR−2またはヒトPAR−2フラグメントに、およびヒトPAR−1、PAR−3もしくはPAR−4またはそれらのフラグメントに結合できること;(5)ヒトPAR−2またはヒトPAR−2フラグメントに結合できるが、ヒトPAR−1、PAR−3およびPAR−4ならびにそれらのフラグメントに結合できないこと;(6)ヒトPAR−2またはヒトPAR−2フラグメントに、および非ヒト(例えば、マウス、サル、ラット、ウサギ、イヌ、ブタなど)PAR−1、PAR−3もしくはPAR−4またはそれらのフラグメントに結合できること;(7)ヒトPAR−2またはヒトPAR−2フラグメントに結合できるが、非ヒト(例えば、マウス、サル、ラット、ウサギ、イヌ、ブタなど)PAR−1、PAR−3およびPAR−4ならびにそれらのフラグメントに結合できないこと;(8)ヒトPAR−2またはヒトPAR−2フラグメントのタンパク質分解的切断を遮断できること;(9)ヒトPAR−2またはヒトPAR−2フラグメントおよび非ヒト(例えば、マウス、サル、ラット、ウサギ、イヌ、ブタなど)PAR−2またはPAR−2フラグメントのタンパク質分解的切断を遮断できること;(10)ヒトPAR−2またはヒトPAR−2フラグメントのタンパク質分解的切断を遮断できるが、非ヒト(例えば、マウス、サル、ラット、ウサギ、イヌ、ブタなど)PAR−2またはPAR−2フラグメントのタンパク質分解的切断を遮断できないこと;(11)ヒトPAR−2またはヒトPAR−2フラグメントおよびヒトPAR−1、PAR−3もしくはPAR−4またはそれらのフラグメントのタンパク質分解的切断を遮断できること;(12)ヒトPAR−2またはヒトPAR−2フラグメントのタンパク質分解的切断を遮断できるが、ヒトPAR−1、PAR−3もしくはPAR−4またはそれらのフラグメントのタンパク質分解的切断を遮断できないこと;(13)ヒトPAR−2またはヒトPAR−2フラグメントおよび非ヒト(例えば、マウス、サル、ラット、ウサギ、イヌ、ブタなど)PAR−1、PAR−3もしくはPAR−4またはそれらのフラグメントのタンパク質分解的切断を遮断できること;および/または(14)ヒトPAR−2またはヒトPAR−2フラグメントのタンパク質分解的切断を遮断できるが、非ヒト(例えば、マウス、サル、ラット、ウサギ、イヌ、ブタなど)PAR−1、PAR−3もしくはPAR−4またはそれらのフラグメントのタンパク質分解的切断を遮断できないこと。
【0076】
上の項目(8)〜(14)で用いているような用語「タンパク質分解的切断」は、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位でPAR−2を切断することができるPAR−2プロテアーゼまたは他の酵素によるPAR分子(PAR−1、PAR−2、PAR−3もしくはPAR−4)またはそれらのフラグメントの切断を意味する。
【0077】
ヒトPAR−2のN末端領域は、少なくとも2つの「非活性化性」プロテアーゼ切断部位、すなわち、トリプシンによって切断され得るがその結果としてその受容体の活性化が生じることとならない部位を有する。これらのN末端非活性化性プロテアーゼ切断部位は、(a)PAR−2(配列番号:851)の前記Arg−31およびSer−32の接合点に;ならびに(b)ヒトPAR−2(配列番号:851)の残基Lys−34およびGly35の接合点に位置する。PAR−2のN末端の活性化性および非活性化性切断部位を図5(白三角は、非活性化性プロテアーゼ切断部位を示し、および黒三角は、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位を示す)に図示する;図4も参照のこと。本発明は、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位を遮断するが、非活性化性プロテアーゼ切断部位の一方または両方を遮断しない、抗PAR−2抗体を含む。候補抗体が、特定のプロテアーゼ切断部位を遮断するか遮断しないかを、当業者は、本明細書の実施例8において述べる例示的in vitro遮断アッセイなどの任意の適するアッセイを用いて判定することができる。実施例8において例証するように、例示的抗体H4H581Pは、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位でのならびにヒトPAR−2(配列番号:851)の残基Lys−34およびGly35の接合点に位置する非活性化性プロテアーゼ切断部位でのトリプシン切断を遮断することが証明されたが、ヒトPAR−2(配列番号:851)の残基Arg−31およびSer−32の接合点に位置する非活性化性プロテアーゼ切断部位での切断を遮断しなかった。対照的に、実施例8において用いたコンパレーター抗体は、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位および両方の非活性化性部位での切断を遮断した。これらの例示的抗PAR−2抗体の示差遮断能力は、これらの抗体が結合するPAR−2分子の特定の領域の違いを反映する可能性が最も高い(例えば、本明細書の実施例9参照)。
【0078】
本明細書において用いる場合、抗体は、表面プラズモン共鳴アッセイにおいて25℃でターゲット分子への結合について試験したときに500nMより大きいKを示す場合、または酵素免疫測定法(enzyme−linked immunosorbent assay:ELISA)において25℃でターゲット分子への結合について試験した場合に50nMより大きいEC50を示す場合、またはいずれのタイプのアッセイもしくはそれらの等価のものにおいても一切結合を示すことができない場合、指定ターゲット分子(例えば、マウスPAR−2、ラットPAR−2、ウサギPAR−2、イヌPAR−2、ブタPAR−2、またはそれらのフラグメント)に「結合しない」。
【0079】
本発明の一定の抗PAR−2抗体は、in vitro細胞アッセイにおいてPAR−2活性化を阻害または減弱することができる。PAR−2活性化についての非限定的な例示的in vitro細胞アッセイを本明細書に実施例6において例証する。この実施例では、PAR−2を発現する細胞であって、レポーター分子(例えば、ルシフェラーゼ)に融合したNF−κBを含む構築物を保有するものである細胞を使用する。簡単に言うと、そのような細胞を抗PAR−2抗体と併せ、その後、PAR−2プロテアーゼで処理する。阻害性抗PAR−2抗体の存在下で前記プロテアーゼで処理される細胞は、阻害性抗PAR−2抗体の不在下で前記プロテアーゼで処理される細胞と比較して、有意に少ないレポーターシグナルを呈示するまたはレポーターシグナルをまったく呈示しないであろう。レポーターシグナルの半最大阻害を達成するために必要な抗体の濃度(IC50)を、そのようなアッセイを用いて計算することができる。本発明は、上で説明したようなin vitro細胞アッセイにおいてPAR−2活性化について試験したときに300nM未満のIC50を示す阻害性抗PAR−2抗体を含む。例えば、本発明は、細胞を抗体と共に1時間、37℃でインキュベートし、その後、20nMのトリプシン(または他のPAR−2プロテアーゼ)で5時間、37℃で処理する、上で説明したようなin vitro細胞アッセイにおいてPAR−2活性について試験したときに、300、290、280、270、260、250、240、230、220、210、200、190、180、170、160、150、140、130、120、110、100、90、80、70、60、50、40、30、20、10、18、16、14、12、10、9、8、7、6、5、4、3、2または1nM未満のIC50を有する抗PAR−2抗体を含む。
【0080】
本発明は、次のペプチドのうちの1つ以上に結合する抗PAR−2抗体およびそれらの抗原結合フラグメントを含む:Peptide A(GTNRSSKGRSLIGKVDGT、配列番号:852);Peptide B(SLIGKVDGTSHVTG、配列番号:853);Peptide C(SLIGKV、配列番号:854);Peptide D(ヒトPAR−2のN末端ドメイン−マウスIgG、配列番号:855);Peptide E(LAPGRNNSKGRSLIGRLETQ、配列番号:856);Peptide F(GTNRSSKGRSLIGRVDGT、配列番号:857);Peptide G(GPNSKGRSLIGRLDTP、配列番号:858);Peptide H(GTNKTSKGRSLIGRNTGS、配列番号:859);Peptide I(GTNRTSKGRSLIGKTDSS、配列番号:860);Peptide J(GTSRPSKGRSLIGKADNT、配列番号:861);Peptide K(ATNATLDPRSFLLRNPND、配列番号:862);Peptide L(DTNNLAKPTLPIKTFRGA、配列番号:863);またはPeptide M(ESGSTGGGDDSTPSILPAP、配列番号:864)。これらのペプチドに関する追加の情報は、本明細書の実施例3において見つけることができる。これらのペプチドは、追加の標識および部分をまったく含有しないことがあり、またはN末端もしくはC末端標識もしくは部分を含有することがある。1つの実施形態において、前記標識または部分はビオチンである。結合アッセイでは、標識(もしあれば)の位置が、ペプチドが結合する表面に対するそのペプチドの配向を決めることがある。例えば、表面をアビジンで被覆する場合、N末端ビオチンを含有するペプチドは、そのペプチドのC末端部分がその表面の遠位になるように配向されるであろう。
【0081】
上述のPeptideに関して、本発明は、次の結合プロフィールのうちの1つ以上を有する抗PAR−2抗体を含む:(1)Peptide AおよびBに結合するが、Peptide Cには結合しない;(2)Peptide A、BおよびDに結合するが、Peptide Cには結合しない;(3)Peptide A、B、DおよびFに結合するが、Peptide Cには結合しない;(4)Peptide A、B、DおよびFに結合するが、Peptide CまたはEのいずれかに結合しない;(5)Peptide A、BおよびDに結合するが、Peptide K、LおよびMのいずれにも結合しない;(6)Peptide A、BおよびFに結合するが、Peptide K、LおよびMのいずれにも結合しない;(7)Peptide A、B、DおよびFに結合するが、Peptide K、LおよびMのいずれにも結合しない;ならびに/または(8)Peptide A、B、C、D、E、F、G、IおよびJのうちの少なくとも3つに結合するが、Peptide Hには結合しない。本発明の抗体の他の結合プロフィールは、本明細書の実施例から明らかに分かるだろう。
【0082】
エピトープマッピングおよび関連技術
特定のエピトープに結合する抗体(例えば、IgEのその高親和性受容体への結合を遮断するもの)をスクリーニングするために、Antibodies、HarlowおよびLane(Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harb.、NY)に記載されているものなどの常例的交差遮断アッセイを行うことができる。他の方法としては、アラニンスキャニング突然変異体、ペプチドブロット(Reineke、2004、Methods Mol Biol 248:443−463)、またはペプチド切断分析が挙げられる。加えて、エピトープ切除、エピトープ抽出および抗原の化学修飾を用いることができる(Tomer、2000、Protein Science 9:487−496)。
【0083】
用語「エピトープ」は、Bおよび/またはT細胞が応答する抗原上の部位を指す。B細胞エピトープは、隣接アミノ酸で構成される場合もあり、またはタンパク質の三次フォールディングによって並べられた非隣接アミノ酸で構成される場合もある。隣接アミノ酸で構成されたエピトープは、変性溶媒に曝露しても概して保持されるが、三次フォールディングにより形成されたエピトープは、変性溶媒で処理すると概して失われる。エピトープは、概して、少なくとも3、およびさらに通常は少なくとも5または8〜10のアミノ酸を独特の空間的高次構造で含む。
【0084】
抗原構造ベースの抗体プロファイリング(Antigen Structure−based Antibody Profiling:ASAP)としても公知の修飾援用プロファイリング(Modification−Assisted Profiling:MAP)は、化学的または酵素的に修飾された抗原表面への各抗体の結合プロフィールの類似性に従って同じ抗原に対して作られた多数のモノクローナル抗体(mAb)をカテゴリー分けする方法である(米国特許出願公開第2004/0101920)。各カテゴリーは、別のカテゴリーによって表されるエピトープと明確に異なるまたは部分的に重複するユニークエピトープを反映し得る。この技術は、遺伝学的に同一の抗体の迅速なフィルタリングを可能にするので、特性づけの焦点を遺伝学的に異なる抗体に絞ることができる。ハイブリドーマスクリーニングに応用した場合、MAPは、望ましい特性を有するmAbを生産する珍しいハイブリドーマクローンの同定を助長することができる。MAPを用いて、本発明の抗PAR−2抗体を異なるエピトープに結合する抗体の群に分類することができる。
【0085】
本発明は、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位のまたは付近の(例えば、5、10、15もしくは20アミノ酸以内の)エピトープに結合する抗PAR−2抗体を含む。一定の実施形態において、前記抗PAR−2抗体は、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位の上流(すなわち、N末端側)に位置するエピトープに結合する。本発明の一定の他の実施形態において、前記抗PAR−2抗体は、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位の下流(すなわち、C末端側)に位置するエピトープに結合する。さらに他の実施形態において、本発明の抗PAR−2抗体は、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位の上流に位置するアミノ酸配列とPAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位の下流に位置するアミノ酸配列の両方を含むエピトープに結合することができる。
【0086】
あるいは、本発明の抗PAR−2抗体は、一定の実施形態では、PAR−2タンパク質の1つ以上の細胞外ループ(例えば、細胞外ループ1、細胞外ループ2および/または細胞外ループ3)上に位置するエピトープに結合することができる。
【0087】
本発明は、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位の下流に位置する一定のアミノ酸残基と相互作用する、単離されたヒト抗体またはそれらの抗原結合フラグメントを含む。例えば、本発明は、ヒトPAR−2(配列番号:851)のVal−42およびAsp−43と相互作用する、単離されたヒト抗体またはそれらの抗原結合フラグメントを含む。これらの2つの残基に加えて、前記単離されたヒト抗体またはそれらの抗原結合フラグメントは、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位の下流に位置する次の残基のうちの1つ以上とも相互作用することができる:ヒトPAR−2(配列番号:851)のSer−37、Leu−38、Ile−39、Gly−40またはGly−44。一定の実施形態において、前記単離されたヒト抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPAR−2(配列番号:851)のLys−41と相互作用しない。例えば、本発明は、ヒトPAR−2(配列番号:851)のSer−37、Leu−38、Ile−39、Gly−40、Val−42およびAsp−43と相互作用するが、ヒトPAR−2(配列番号:851)のLys−41とは相互作用しない、単離されたヒト抗体またはそれらの抗原結合フラグメントを含む。実施例9において例証する実験手順を用いて、候補抗PAR−2抗体がPAR−2の特定のアミノ酸残基「と相互作用する」のか、「と相互作用しない」のかを判定することができる。例えば、候補抗体を、実施例9の手順を用いて配列番号:879を有するペプチド(PAR−2のVal−42がアラニンに突然変異される、PAR−2のN末端領域に対応する、例えば、表24〜28参照)への結合について試験し、その抗体のT1/2が、該候補抗体を野生型ペプチド(配列番号:871)への結合について試験したときに観察されるT1/2の30%未満であった場合には、本開示のために、該候補抗体は、アラニンに突然変異したアミノ酸(この場合、Val−42)「と相互作用する」と考える;すなわち、該候補抗体の結合は、Val−42に対応するアミノ酸がアラニンに突然変異されたときに実質的に低減される(そのような残基を図5に黒丸によって描写する)。一方、候補抗体を、実施例9の手順を用いて配列番号:878を有するペプチド(PAR−2のLys−41がアラニンに突然変異される、PAR−2のN末端領域に対応する、例えば、表24〜28参照)への結合について試験し、その抗体のT1/2が、該候補抗体を野生型ペプチド(配列番号:871)への結合について試験したときに観察されるT1/2の30%以上であった場合には、本開示のために、該候補抗体は、アラニンに突然変異したアミノ酸(この場合、Lys−41)「と相互作用しない」と考える;すなわち、該候補抗体の結合は、Lys−41に対応するアミノ酸がアラニンに突然変異されたときに実質的に低減されない(そのような残基を図5に白丸によって描写する)。
【0088】
本発明は、本明細書に記載する任意の特定の例示的抗体(例えば、H4H581P、H4H588N、H4H591NまたはH4H618N)と同じエピトープに結合する抗PAR−2抗体を含む。同様に、本発明は、PAR−2またはPAR−2フラグメントへの結合について本明細書に記載する任意の特定の例示的抗体(例えば、H4H581P、H4H588N、H4H591NまたはH4H618N)と交差競合する抗PAR−2抗体も含む。
【0089】
ある抗体が、基準抗PAR−2抗体と同じエピトープに結合するのか、または基準抗PAR−2抗体と結合について競合するのかは、当該技術分野において公知の常例的方法を用いることによって容易に判定することができる。例えば、試験抗体が、本発明の基準抗PAR−2抗体と同じエピトープに結合するかどうかを判定するために、該基準抗体を飽和条件下でPAR−2タンパク質またはペプチドに結合させる。次に、そのPAR−2分子に結合する試験抗体の能力を評価する。試験抗体が、基準抗PAR−2抗体との飽和結合後にPAR−2に結合することができる場合、該試験抗体は、該基準抗PAR−2抗体とは異なるエピトープに結合すると結論づけることができる。一方、試験抗体が、基準抗PAR−2抗体との飽和結合後にPAR−2分子に結合することができない場合には、該試験抗体は、本発明の基準抗PAR−2抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合することができる。その後、さらなる常例的実験(例えば、ペプチド突然変異および結合分析)を行って、試験抗体の観察された結合喪失が、実際、基準抗体と同じエピトープへの結合に起因するのか、または立体的遮断(もしくは別の現象)がその観察された結合喪失原因であるのかを確認することができる。この種の実験は、ELISA、RIA、Biacore、フローサイトメトリー、または当該技術分野において利用可能な任意の他の定量的もしくは定性的抗体結合アッセイを用いて行うことができる。本発明の一定の実施形態によると、2つの抗体は、例えば、1、5、10、20または100倍過剰な一方の抗体が、他方の結合を、競合結合アッセイ(例えば、Junghansら、Cancer Res.1990:50:1495−1502参照)で測定して少なくとも50%、しかし好ましくは75%、90%またはさらに99%阻害する場合、同じ(または重複)エピトープに結合する。あるいは、2つの抗体は、一方の抗体の結合を低減するまたはなくす抗原の本質的にすべてのアミノ酸突然変異が、他方の結合を低減するまたはなくす場合、同じエピトープに結合すると考えられる。2つの抗体は、一方の抗体の結合を低減するまたはなくすアミノ酸突然変異のサブセットのみが、他方の結合を低減するまたはなくす場合、「重複エピトープ」を有すると考えられる。
【0090】
ある抗体が、基準抗PAR−2抗体と結合について競合するかどうかを判定するために、上で説明した結合方法論を2つの方針で行う:第一の方針では、基準抗体を飽和条件下でPAR−2分子に結合させ、その後、そのPAR−2分子への試験抗体の結合を評価する。第二の方針では、試験抗体を飽和条件下でPAR−2分子に結合させ、その後、そのPAR−2分子への基準抗体の結合を評価する。両方の方針において、第一の(飽和)抗体のみがPAR−2分子に結合できる場合には、試験抗体と基準抗体は、PAR−2への結合について競合すると結論づけられる。当業者には理解されるであろうが、基準抗体と結合について競合する抗体は、その基準抗体と同じエピトープに必ずしも結合できるとは限らないが、重複または隣接エピトープを結合することによりその基準配列の結合を立体的に遮断することがある。
【0091】
種選択性および種交差反応性
本発明の一定の実施形態によると、抗PAR−2抗体は、ヒトPAR−2に結合するが、他の種からのPAR−2には結合しない。あるいは、本発明の抗PAR−2抗体は、一定の実施形態において、ヒトPAR−2に、および1種以上の非ヒト種からのPAR−2に結合する。例えば、本発明の抗PAR−2抗体は、ヒトPAR−2に結合することができ、場合次第で、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、アレチネズ、ブタ、ネコ、イヌ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、カニクイザル、マーモセット、アカゲザルまたはチンパンジーPAR−2のうちの1つ以上に結合することができ、または結合することができない。
【0092】
イムノコンジュゲート
本発明は、細胞毒、化学療法薬、免疫抑制剤または放射性同位体などの治療用部分にコンジュゲートした抗PAR−2モノクローナル抗体(「イムノコンジュゲート」)を包含する。細胞傷害剤は、細胞に有害である任意の作用因子を含む。イムノコンジュゲートの形成に適する細胞傷害剤および化学療法薬の例は、当該技術分野において公知である(例えば、国際公開第05/103081号参照)。
【0093】
多重特異性抗体
本発明の抗体は、単一特異性、二重特異性または多重特異性であることがある。多重特異性抗体は、1つのターゲットポリペプチドの異なるエピトープに特異的であることがあり、または1つより多くのターゲットポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含有することがある。例えばTuttら、1991、J.Immunol.147:60−69;Kuferら、2004、Trends Biotechnol.22:238−244参照。本発明の抗PAR−2抗体を別の機能性分子、例えば別のペプチドまたはタンパク質、に連結させることができ、または該分子と共発現させることができる。例えば、抗体またはそのフラグメントを1つ以上の他の分子エンティティー、例えば別の抗体または抗体フラグメント、に(例えば、化学的カップリングにより、遺伝子融合により、非共有結合性会合により、または別の方法で)機能的に連結させて、第二の結合特異性を有する二重特異性または多重特異性抗体を生産することができる。例えば、本発明は、免疫グロブリンの1つのアームがヒトPAR−2またはそのフラグメントに特異的であり、その免疫グロブリンの他のアームが第二の治療用ターゲットに特異的である、またはトリプシン阻害剤などの治療用部分にコンジュゲートしている、二重特異性抗体を含む。
【0094】
本発明に関連して用いることができる例示的二重特異性抗体フォーマットは、第一の免疫グロブリン(Ig)C3ドメインおよび第二のIg C3ドメインの使用を含み、この場合、該第一および第二のIg C3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸が互いに異なり、この少なくとも1つのアミノ酸の違いは、アミノ酸の違いのない二重特異性抗体と比較して、プロテインAへの該二重特異性抗体の結合を低減する。1つの実施形態において、前記第一のIg C3ドメインは、プロテインAを結合し、および前記第二のIg C3ドメインは、プロテインA結合を低減するまたは消失させる突然変異、例えばH95R修飾(IMGTエキソン番号付けによる;EU番号付けによるH435R)を含有する。前記第二のC3は、Y96F修飾(IMGTによる;EUによるY436F)をさらに含むことがある。前記第二のC3内で見いだすことができるさらなる修飾としては、IgG1抗体の場合、D16E、L18M、N44S、K52N、V57MおよびV82I(IMGTによる;EUによるD356E、L358M、N384S、K392N、V397MおよびV422I);IgG2抗体の場合、N44S、K52NおよびV82I(IMGT;EUによるN384S、K392NおよびV422I);ならびにIgG4抗体の場合Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79QおよびV82I(IMGTによる;EUによるQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419QおよびV422I)が挙げられる。上で説明した二重特異性抗体フォーマットの変形は、本発明の範囲に包含される。
【0095】
治療用製剤および投与
本発明は、本発明の抗PAR−2抗体またはそれらの抗原結合フラグメントを含む治療用組成物を提供する。本発明による治療用組成物の投与は、適する担体、賦形剤、ならびに向上された移入、送達、許容度およびこれらに類するものをもたらすために製剤に組み込まれる他の薬剤と共に投与される。すべての薬剤師に公知の処方集:Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、PAの中で沢山の適切な製剤を見つけることができる。これらの製剤としては、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、脂質(カチオン性またはアニオン性)含有小胞(例えば、LIPOFECTIN(商標))、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト、水中油型および油中水型エマルジョン、エマルジョンカルボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、ならびにカルボワックスの半固体混合物が挙げられる。Powellら「Compendium of excipients for parenteral formulations」PDA(1998)J Pharm Sci Technol 52:238−311も参照のこと。
【0096】
抗体の用量は、投与される被験者の年齢およびサイズ、ターゲット疾患、状態、投与経路およびこれらに類するものに依存して様々であり得る。好ましい用量は、体重または体表面積に従って概して計算される。本発明の抗体を成人患者におけるPAR−2活性に関連した状態または疾患の処置に使用するとき、本発明の抗体を、通常、約0.01〜約20mg/kg体重、さらに好ましくは約0.02〜約7、約0.03〜約5、または約0.05〜約3mg/kg体重の一回量で静脈内投与するのが有利であり得る。状態の重症度に依存して、処置の頻度および継続期間を調整することができる。PAR−2抗体の投与に有効な投薬量およびスケジュールは、経験的に決めることができ;例えば、患者の経過を定期評価によりモニターし、相応じて用量を調整することができる。さらに、当該技術分野において周知の方法を用いて投薬量の種間スケーリングを行うことができる(例えば、Mordentiら、1991、Pharmaceut.Res.8:1351)。
【0097】
様々な送達システム、例えばリポソーム、マイクロ粒子、マイクロカプセルへの封入、突然変異体ウイルスを発現することができる組換え細胞、受容体媒介エンドサイトーシス、が公知であり、本発明の医薬組成物を投与するために使用することができる(例えば、Wuら、1987、J.Biol.Chem.262:4429−4432参照)。導入方法は、内皮、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外および経口経路を含むが、これらに限定されない。前記組成物は、任意の適弁な経路によって、例えば注入もしくはボーラス注射によって、上皮または粘膜皮膚内層(例えば、口腔粘膜、直腸および腸管粘膜など)を通した吸収によって、投与することができ、および他の生物活性薬剤と一緒に投与することができる。投与は全身的である場合もあり、または局所的である場合もある。
【0098】
本発明の医薬組成物は、標準的な針および注射器で皮下または静脈内投与することができる。加えて、皮下送達に関しては、ペン型送達システムが本発明の医薬組成物の送達に利用される。そのようなペン型送達装置は、再使用可能である場合もあり、または使い捨てである場合もある。再使用可能なペン送達装置は、一般に、医薬組成物を収容する交換可能なカートリッジを用いる。カートリッジ内のすべての医薬組成物を投与し、そのカートリッジが空になったら、空のカートリッジを廃棄して医薬組成物が収容されている新しいカートリッジと交換することが容易にできる。その後、そのペン型送達装置を再使用することができる。使い捨てペン型送達装置には交換可能なカートリッジがない。もちろん、使い捨てペン型装置は、その装置内のレザバーの中に保持された医薬組成物が既に充填された状態になっている。レザバーに医薬組成物が空になったら、装置全体を廃棄する。
【0099】
非常に多数の再使用可能ペン型および自己注射器型送達装置が本発明の医薬組成物の皮下送達に利用される。例としては、ほんの少し名を挙げると、AUTOPEN(商標)(英国、ウッドストックのOwen Mumford,Inc.)、DISETRONIC(商標)ペン(スイス、バーグドーフのDisetronic Medical Systems)、HUMALOG MIX 75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN 70/30(商標)ペン(インディアナ州インディアナポリスのEli Lilly and Co.)、NOVOPEN(商標)I、IIおよびIII(デンマーク、コペンハーゲンのNovo Nordisk)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(デンマーク、コペンハーゲンのNovo Nordisk)、BD(商標)ペン(ニュージャージー州フランクリンレークのBecton Dickinson)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)およびOPTICLIK(商標)(ドイツ、フランクフルトのsanofi−aventis)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の医薬組成物の皮下送達に利用される使い捨てペン型送達装置の例としては、ほんの少し名を挙げると、SOLOSTAR(商標)ペン(sanofi−aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)およびKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICK(商標) Autoinjector(カリフォルニア州サウザンドオークスのAmgen)、PENLET(商標)(ドイツ、シュトゥットガルトのHaselmeier)、EPIPEN(Dey,L.P.)およびHUMIRA(商標) Pen(イリノイ州アボットパークのAbbott Labs)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0100】
一定の状況では、前記医薬組成物を制御放出システムで送達することができる。1つの実施形態では、ポンプを使用することができる(Langer、上記;Sefton、1987、CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201参照)。もう1つの実施形態では、高分子材料を使用することができる;Medical Applications of Controlled Release、Langer and Wise(編集)、1974、CRC Pres.、Boca Raton、Florida参照。もう1つの実施形態では、制御放出システムを前記組成物のターゲットの近くに配置することができ、それ故、全身用量の数分の一しか必要としない(例えば、Controlled Release、上記、第2巻、115−138頁のGoodson、1984参照)。他の制御放出システムは、Langer、1990、Science 249:1527−1533による総説において論じられている。
【0101】
注射用調製品としては、静脈内、皮下、皮内および筋肉内注射剤、点滴などを挙げることができる。これらの注射用調製品は、公知の方法によって調製することができる。例えば、注射用調製品は、例えば、上で説明した抗体またはその塩を注射剤に従来使用されている滅菌水性媒体または油性媒体に溶解、懸濁または乳化させることによって、調製することができる。注射剤用の水性媒体としては、例えば、生理食塩水、グルコースおよび他の助剤を含有する等張溶液、などがあり、これらは、適切な可溶化剤、例えばアルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO−50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50モル)付加体)]など、と併用されることがある。油性媒体としては、例えば、ゴマ油、ダイズ油などが利用されており、これらは、可溶化剤、例えば安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用されることがある。このようにして調製した注射剤を、好ましくは、適切なアンプルに充填する。
【0102】
有利には、上で説明した経口または非経口用の医薬組成物を、活性成分の用量に合わせるのに適した単位用量の剤形に調製する。単位用量のそのような剤形としては、例えば、錠剤、ピル、カプセル、注射剤(例えば、アンプル)、坐剤などが挙げられる。含有される前述の抗体の量は、一般に、単位用量の剤形1つにつき約5〜約500mgであり;特に注射剤の形態の場合は上述の抗体を約5〜約100mg、および他の剤形については約10〜約250mgで含有することが好ましい。
【0103】
抗体の治療目的使用
本発明の抗体は、とりわけ、PAR−2のタンパク質分解的活性化に関連した疾患または障害をはじめとするPAR−2活性に関連した任意の疾患または障害の処置、予防および/または改善に有用である。本発明の抗PAR−2抗体で処置することができる例示的疾患および障害としては、疼痛状態、例えば侵害受容性疼痛および内臓痛、ならびに炎症、手術切開後、ニューロパチー、骨折、火傷、骨粗しょう症性骨折、骨癌、痛風、偏頭痛、線維筋痛症などの状態に随伴する疼痛が挙げられる。本発明の抗体は、炎症性状態、例えば、関節の炎症、気道の炎症(喘息)、皮膚の炎症、皮膚炎(例えば、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎など)、炎症性腸疾患(IBD)、腎炎、間質性膀胱炎、膀胱の炎症、痛覚過敏症、関節リウマチ、変形性関節症、炎症性関節炎、多発性硬化症、抗リン脂質症候群、アルファ−1−アンチトリプシン欠損症などを処置、予防および/または改善するためにも使用することができる。本発明の抗体は、例えば、強皮症、胆汁性肝硬変、移植後線維症、腎線維症、肺線維症、肝線維症、膵線維症、精巣線維症、肥厚性瘢痕および皮膚ケロイドをはじめとする線維症状態を処置するために使用することができる。一定の実施形態において、本発明の抗体は、胃腸の状態(例えば、セリアック病、クローン病、潰瘍性大腸炎、特発性胃不全麻痺、膵炎、過敏性腸症候群(IBS)および潰瘍(胃および十二指腸潰瘍を含む));急性肺損傷;急性腎損傷;および敗血症の処置に有用である。本発明の抗PAR−2抗体は、そう痒、例えば、皮膚/そう痒受容性(pruritoceptive)、神経障害性、神経性および心因性痒み、ならびにアトピー性皮膚炎、乾癬、火傷瘢痕(火傷に関する痒み)、肥厚性瘢痕、ケロイド、腎不全および肝機能不全に随伴するそう痒の処置にも有用である。本発明の抗PAR−2抗体の他の治療目的使用としては、アルツハイマー病、ネザートン病、病的血管新生、慢性蕁麻疹、血管浮腫、肥満細胞症、子宮内膜症、不妊症(例えば、精巣線維症に関連した男性不妊症)、肥満細胞媒介疾患、Clostridium difficile毒素A誘導腸炎、および癌(例えば、血液細胞癌、脳癌、乳癌、大腸癌、頭頸部癌、肝癌、肺癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌、胃癌など)の処置、予防および/または改善が挙げられる。
【0104】
併用療法
本発明は、本発明の抗PAR−2抗体を少なくとも1つの追加の治療活性成分と併用で投与することを含む、治療的投与レジメンを含む。そのような追加の治療活性成分の非限定的な例としては、他のPAR−2アンタゴニスト(例えば、抗PAR−2抗体またはPAR−2の小分子阻害剤(例えば、N1−3−メチルブチリル−N4−6−アミノヘキサノイル−ピペラジン;ENMD−1068))、サイトカイン阻害剤(例えば、インターロイキン−1(IL−1)阻害剤(例えば、リロナセプトまたはアナキンラ、小分子IL−1アンタゴニスト、または抗−IL−1抗体);IL−18阻害剤(例えば、小分子IL−18アンタゴニストまたは抗−IL−18抗体);IL−4阻害剤(例えば、小分子IL−4アンタゴニスト、抗−IL−4抗体または抗−IL−4受容体抗体);IL−6阻害剤(例えば、小分子IL−6アンタゴニスト、抗−IL−6抗体または抗−IL−6受容体抗体);抗てんかん薬(例えば、ガバペンチン(gabapentain));神経成長因子(NGF)阻害剤(例えば、小分子NGFアンタゴニストまたは抗NGF抗体);低用量コルヒチン;アスピリン;NSAID;ステロイド(例えば、プレドニゾン、メトトレキサートなど);低用量シクロスポリンA;腫瘍壊死因子(TNF)またはTNF受容体阻害剤(例えば、小分子TNFもしくはTNFRアンタゴニストまたは抗−TNFもしくはTNFR抗体);尿酸合成阻害剤(例えば、アロプリノール);尿酸排泄促進剤(例えば、プロベネシド、スルフィンピラゾン、ベンズブロマロンなど);他の炎症性因子阻害剤(inflammatory inhibitors)(例えば、カスパーゼ−1、p38、IKK1/2、CTLA−4Igなどの阻害剤);および/またはコルチコステロイドが挙げられる。前記追加の治療活性成分(単数または複数)を、本発明の抗PAR−2抗体の投与の前に、該投与と同時に、又は該投与の後に、投与することができる。
【0105】
抗体の診断目的使用
本発明の抗PAR−2抗体は、例えば診断を目的として、サンプル中のPAR−2を検出および/または測定するためにも使用することができる。例えば、抗PAR−2抗体またはそのフラグメントは、PAR−2の異常発現(例えば、過剰発現、過少発現、発現欠如など)を特徴とする状態または疾患を診断するために使用することができる。PAR−2についての例示的診断アッセイは、例えば、患者から得たサンプルを本発明の抗PAR−2抗体と接触させることを含むことがあり、この場合の抗PAR−2抗体は、検出可能標識またはレポーター分子で標識されている。あるいは、未標識抗PAR−2抗体とそれ自体が検出可能に標識されている二次抗体とを診断用途で併用することができる。前記検出可能標識またはレポーター分子は、放射性同位体、例えば、H、14C、32P、35Sもしくは125I;蛍光性もしくは化学発光性部分、例えば、フルオレセインイソチオシアネート、もしくはローダミン;または酵素、例えば、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、もしくはルシフェラーゼであり得る。サンプル中のPAR−2を検出または測定するために使用することができる具体的な例示的アッセイとしては、酵素免疫測定法(ELISA)、放射免疫測定法(radioimmunoassay:RIA)および蛍光励起細胞分別法(FACS)が挙げられる。
【0106】
本発明によるPAR−2診断アッセイにおいて使用することができるサンプルとしては、正常または病的状態下の検出可能な量のPAR−2タンパク質またはそのフラグメントを有する患者から得ることができる任意の組織または流体サンプルが挙げられる。一般に、健常患者(例えば、異常PAR−2レベルまたは活性に関連した疾患または状態に罹患していない患者)から得た特定のサンプル中のPAR−2のレベルを測定して、最初にPAR−2のベースライン、または基準、レベルを確立する。その後、このPAR−2ベースラインレベルを、PAR−2関連疾患または状態を有すると推測される個体から得たサンプルで測定したPAR−2レベルと比較することができる。
【実施例】
【0107】
以下の実施例は、本発明の方法および組成物の製造および使用方法の完全な開示および説明を当業者に提供するために示すものであり、本発明者らが本発明者らの発明と考える範囲を限定することを意図したものではない。用いる数値(例えば、量、温度など)に関しては正確を期すように努めたが、多少の実験誤差および偏差は考えられるだろう。別の指示がない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度でのものであり、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。
【0108】
(実施例1)
ヒトPAR−2に対するヒト抗体の産生
アミノ酸配列GTNRSSKGRSLIGKVDGT(配列番号:852)を有するヒトPAR−2ペプチドを含む免疫原を、免疫応答を刺激するためのアジュバントと共に、ヒト免疫グロブリン重およびカッパ軽鎖可変領域をコードするDNAを含むVELOCIMMUNE(登録商標)マウスに、直接投与した。PAR−2特異的イムノアッセイによって、抗体免疫応答をモニターした。所望の免疫応答が達成されたら、脾細胞を回収し、マウス骨髄腫細胞と融合させてそれらの生存度を保ち、ハイブリドーマ細胞系を形成した。それらのハイブリドーマ細胞系をスクリーニングし、選択して、PAR−2特異的抗体を生産する細胞系を同定した。この技術を用いて、幾つかの抗PAR−2キメラ抗体(すなわち、ヒト可変ドメインおよびマウス定常ドメインを保有する抗体)を得た;この要領で産生させた例示的抗体を次のように呼んだ:H2M588、H2M589、H1M590、H2M591、H1M592、H1M595、H2M609、H2M610、H2M611、H1M612、H1M613、H2M614、H1M615、H1M616、H3M617、H2M618、H1M619、およびH3M620。
【0109】
抗PAR−2抗体を、米国特許出願公開第2007/0280945A1に記載されているように、骨髄腫細胞と融合させずに抗原陽性B細胞から直接単離もした。この方法を用いて、幾つかの完全ヒト抗PAR−2抗体(すなわち、ヒト可変ドメインおよびヒト定常ドメインを保有する抗体)を得た;この要領で産生させた例示的抗体を次のように呼んだ:H1H571、H1H572、H1H573、H1H574、H1H575、H1H576、H1H577、H1H578、H1H579、H1H580、H1H581、H1H583、H1H584、H1H585、H1H586、およびH1H587。
【0110】
本実施例の方法に従って産生させた例示的抗PAR−2抗体の生物学的特性を下の実施例で詳細に説明する。
【0111】
(実施例2)
重および軽鎖可変領域アミノ酸配列
表1は、選択した抗PAR−2抗体の重および軽鎖可変領域アミノ酸配列ペアおよびそれらの対応する抗体識別子を示すものである。N、PおよびG記号は、同一のCDR配列を有するが該CDR配列の範囲外になる領域に(すなわち、フレームワーク領域に)配列変動がある重および軽鎖を有する抗体を指す。従って、特定の抗体のN、PおよびG変異体は、それらの重および軽鎖可変領域内に同一のCDR配列を有するが、それらのフレームワーク領域内では互いに異なる。
【0112】
表1
【0113】
【表1】

(実施例3)
PAR−2ペプチドへの抗体結合
PAR−2およびPAR−2関連配列の合成ペプチド(テネシー州ナッシュヴィルのCeltek Bioscience)を生成して、抗PAR−2抗体の結合プロフィールを特性づけした。様々なペプチドのビオチン化形態と非ビオチン化形態の両方を、下に示す実施例のために生成した。ビオチン化形態については、ペプチドのC末端またはN末端のいずれかにGSリンカーによって共有結合でビオチン部分を付けた。表2は、これらのペプチドの配列および由来を示すものである。
【0114】
表2
【0115】
【表2】

抗PAR−2抗体をPAR−2ペプチドに結合するそれらの能力について試験した。様々なPAR−2 Peptide(表3)を96ウエルプレート上に2μg/mLの濃度で被覆し、一晩インキュベートし、その後、適するブロッキング剤で1時間ブロッキングした。同様に、ビオチン化ペプチド(N−Term:N末端ビオチン化されたもの:C−term:C末端ビオチン化されたもの)については、アビジンをプレートに2μg/mLで被覆し、その後、0.2μg/mLの濃度のビオチン化PAR−2ペプチドと共にインキュベートし、1時間インキュベートした。PAR−2ペプチドで被覆されたプレートに精製抗PAR−2抗体を0.2〜2.0μg/mLにわたる範囲の最終濃度まで添加し、1時間、室温でインキュベートした。結合抗体の検出をホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート化抗マウスまたはヒトIgG(ペンシルバニア州ウェストグローブのJackson Immuno Research Lab)で判定し、テトラメチルベンジジン(TMB)基質を使用して標準的な比色応答により発色させた。吸収を0.1秒間、OD450で読み取った。
【0116】
観察されたOD450値(それぞれ、1.0〜4.0、0.50〜0.99、0.1〜0.49、0.0〜0.09)に従って試験した各抗PAR−2抗体についての結合なし(−)と比較したときの非ビオチン化(No Biotin)またはビオチン化Peptide A、BおよびCへの相対結合(+++、++、+)を表3に示す。対照:「Sam11」、ヒトPAR−2を結合する市販マウスモノクローナル抗体(カリフォルニア州サンタクルーズのSanta Cruz Biotechnology)。
【0117】
表3
【0118】
【表3】

類似した実験で、突然変異体ヒトIgG4(配列番号:849)にクローニングした選択抗PAR−2抗体を、非ビオチン化およびビオチン化形態のヒトPAR−2ペプチド(上で説明したとおり)を結合するそれらの能力について試験した。結果を表4に示す。
【0119】
表4
【0120】
【表4】

もう1つの実験では、選択抗PAR−2抗体を非ビオチン化Peptide D、K、LおよびM(上で説明したとおり)への結合について試験した。キメラ抗体(例えば、H2M588N)および完全ヒト抗体(例えば、H4H572P)についての結果をそれぞれ表5および6に示す。Peptide Dについては、結合抗体の検出をホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート化抗マウスκ(アラバマ州バーミングハムのSouthern Biotech)で判定した。
【0121】
表5
【0122】
【表5】

表6
【0123】
【表6】

もう1つの実験では、選択抗PAR−2抗体をN末端ビオチン化マウス(Peptide E N−Term)およびサル(Peptide F N−Term)PAR−2ペプチド(上で説明したとおり)への結合について試験した。
【0124】
表7
【0125】
【表7】

もう1つの実験では、ヒトIgG4にクローニングした選択抗PAR−2抗体を非ビオチン化およびビオチン化形態のPeptide EからJ(上で説明したとおり)への結合について試験した。結果を表8に示す。
【0126】
表8
【0127】
【表8】

もう1つの実験では、ヒトIgG4にクローニングした選択抗PAR−2抗体を非ビオチン化およびビオチン化形態のPAR−2ペプチド(Peptide A、E、FおよびG;上で説明したとおり)への結合について試験した。この実験では、13.3nMから0.22pMまでの3倍系列希釈した抗PAR−2抗体を前記ペプチド被覆プレート上で1時間、室温でインキュベートした。GraphPad Prism(カリフォルニア州ラホーヤのGraphPad Software,Inc.)のシグモイド型用量反応モデルを使用して450nmでの吸収値を分析し、EC50値を報告した(表9)。EC50値は、PAR−2ペプチドへの最大結合の50%を達成するために必要とされる抗体濃度と定義する。
【0128】
表9
【0129】
【表9】

前の実験によって示されるように、抗体H4H581P、H4H588N、H4H591NまたはH4H618Nすべてが、配列SLIGKVDGT(配列番号:852のアミノ酸10〜18)を含むヒトPeptide A、BおよびDへの、ならびに配列SLIGRVDGT(配列番号:857のアミノ酸10〜18)を含むサルPeptideFへの実質的結合を示す。抗体H4H588N、H4H591NおよびH4H618Nについては、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位の下流に位置する配列VDGTは、この配列を変えるとこれらの抗体による結合が実質的に低減するまたはなくなるので、結合に特に重要であるようである(例えば、Peptide E(マウス)、G(ラット)、H(ウサギ)、I(イヌ)およびJ(ブタ)についての結合データを参照のこと)。
【0130】
(実施例4)
抗原結合親和性判定
選択、精製PAR−2抗体への抗原結合について平衡解離定数(K値)を、実時間表面プラズモン共鳴バイオセンサーアッセイを用いて表面反応速度により決定した。BIACORE(商標)CM5センサーチップへの直接アミン化学的カップリングによって作られたウサギ抗マウスIgGポリクローナル抗体(ニュージャージー州ピスカタウェイのGE Healthcare)表面またはヤギ抗ヒトIgGポリクローナル抗体(ペンシルバニア州ウェストグローブのJackson Immuno Research Lab)表面のいずれかに抗体を捕捉して、抗体捕捉表面を形成した。様々な濃度(15.6〜250nMにわたる範囲)の単量体ヒトPAR−2ペプチド(Peptide AおよびB)を100μL/分の速度でその抗体捕捉表面に90秒間注入した。抗原−抗体結合および解離を室温で実時間でモニターした。反応速度分析を行って、抗原/抗体複合体解離のKおよび半減期を計算した(表10)。T1/2値を示さない抗体については、定常状態分析を用いてK値を計算した。NB:本実験条件下で観察される結合なし。ND:決定できない。
【0131】
表10
【0132】
【表10】

類似した実験で、ヒトIgG4にクローニングした選択抗体の非ビオチン化単量体マウス(Peptide E)およびN末端ビオチン化サル(Peptide F N−Term)PAR−2ペプチドへの結合についてのK値を(上で説明したとおり)決定した(表11)。抗体H4H588N、H4H591NおよびH4H618Nは、Peptide Eを結合しなかったが、対照抗体は、PeptideEにもFにも結合しなかった。
【0133】
表11
【0134】
【表11】

もう一系列の実験で、選択したビオチン化および非ビオチン化形態のPAR−2ペプチドへの精製抗体結合についての平行解離定数(K値)を、実時間表面プラズモン共鳴バイオセンサーアッセイを用いて表面反応速度により決定した。アミンカップリングケミストリーを用いてNeutravidin(イリノイ州ロックフォードのPierce)をBiacore(商標)C1チップまたはCM5チップの表面に共有結合でカップリングさせた。ビオチン化(N−TermまたはC−Term)PAR−2ペプチド(Peptide AおよびB)をその表面にビオチンとアミンカップリングNeutravidinとの高親和性結合相互作用により固定化した。
【0135】
このフォーマットを用いる第一の実験では、固定化ペプチドを低密度(<1RU)で被覆した表面に、様々な濃度(5〜100μg/mLにわたる範囲)の精製抗体を、50μL/分の速度で300秒間注入した。抗体−ペプチド結合および解離を実時間25℃でモニターした(表12)。
【0136】
表12
【0137】
【表12】

もう1つの類似した実験で、ヒトIgG4にクローニングした選択抗体のビオチン化形態のPeptide A、B、C、E、FおよびGの低密度表面(<1RU)への結合についてのK値を(上で説明したように)決定した。C末端およびN末端ビオチン化PAR−2ペプチドへの結合についての結果をそれぞれ表13〜14に示す。この実験では、抗体H4H581PだけはN末端ビオチン化Peptide Cに対する親和性(>100nMのK)を明示したが、対照を含めて試験したすべての他の抗体は、このペプチドへの結合を示さなかった。
【0138】
表13
【0139】
【表13】

表14
【0140】
【表14】

類似した実験で、ヒトIgG4にクローニングした選択抗体の単量体ビオチン化および非ビオチン化形態のPAR−2ペプチド(Peptide A、B、E〜M)への結合についてのK値を(上で抗体捕捉表面について説明したように)決定した。結果を表15〜16に示す。試験したいずれの抗体もPeptide K、LまたはMへの結合を示さなかった。
【0141】
表15
【0142】
【表15】

表16
【0143】
【表16】

(実施例5)
PAR−2を発現するように(遺伝子)操作された細胞への抗体結合
抗PAR−2抗体をさらに特性づけするために、ヒト胎児由来腎臓293細胞系(HEK293)の細胞を、完全長ヒト(配列番号:851)またはマウス(配列番号:866)PAR−2のいずれかを過剰発現するように遺伝子操作した。
【0144】
HEK293細胞にNF−κB−ルシフェラーゼ−IRES−eGFPレポータープラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞の安定性を、eGFP発現によりフローサイトメトリーおよびルシフェラーゼ活性によって検出されるようなIL−1βに対する応答によって立証した。IL−1βで誘導したときに低バックグラウンドレベルのルシフェラーゼ活性および高レベルのeGFPを有する、D9という名の、クローナル細胞系を、フローサイトメトリーを用いる細胞集団の一連の逐次選別によって作製した。その後、T293/D9細胞系にヒトPAR−2またはマウスPAR−2を個別にトランスフェクトして、安定した細胞系293/D9/hPAR−2recおよび293/D9/mPAR−2recをそれぞれ生じさせた。
【0145】
293/D9/hPAR−2rec細胞への抗PAR−2抗体の結合をELISAによって判定した。293/D9および293/D9/hPAR−2rec細胞を培地中5×10細胞/ウエルの密度でプレーティングし、37℃および5%COで一晩インキュベートした。精製細胞を細胞に10μg/mLの最終濃度まで添加し、室温で1時間インキュベートした。その後、細胞を固定し、洗浄した後、HRPコンジュゲート化抗マウスIgGで結合抗体を検出し、TMB基質を使用して標準的な比色応答により発色させた。吸光度をOD450で0.1秒間読み取った。293/D9細胞と比較した293/D9/hPAR−2recへの抗体結合のA450比を表17に示す。
【0146】
表17
【0147】
【表17】

類似した実験で、電気化学発光技術(メリーランド州ゲーサーズバーグのMeso Scale Discovery)を用いて、抗PAR−2抗体を293/D9、293/D9/hPAR−2recおよび293/D9/mPAR−2rec細胞への結合について試験した。細胞をMSD高結合型96ウエルプレートにPBS中4×10細胞/ウエルの密度でプレーティングし、1時間、室温でインキュベートした。その後、2%BSAを伴うPBSで細胞をブロッキングし、室温で1時間インキュベートした。0.5%BSAを伴うPBSで抗PAR−2抗体(100nM〜0.098nMにわたる範囲)を二倍系列希釈し、それらの細胞を1時間、室温でインキュベートし、その後、0.5%BSAを伴うPBS中で洗浄した。その後、0.1μg/mLの濃度のSulfo−TAG標識(Sulfo−tagged)抗ヒトIgG抗体(MSD)を細胞/抗体混合物に添加し、室温でさらに1時間インキュベートした。さらなる洗浄の後、1×界面活性剤不含読み取り用緩衝液(read buffer)を添加し、電気化学発光シグナルをMSD Sector Imagerで読み取った。293/D9細胞への抗体結合のシグナルを293/D9/hPAR−2recまたは293/D9/mPAR−2rec細胞へのシグナルから減算した。GraphPad Prismのシグモイド型用量反応モデルを用いて減算データを分析し、EC50およびBmax値を報告した(表18)。EC50値は、細胞への最大結合(Bmax)の50%を達成するために必要とされる抗体濃度と定義した。
【0148】
表18
【0149】
【表18】

(実施例6)
抗PAR−2抗体によるヒトPAR−2活性化のin vitro遮断
293/D9/hPAR−2rec細胞への選択、精製抗PAR−2抗体の結合(実施例5参照)によるPAR−2活性化(シグナリング)の遮断をルシフェラーゼアッセイによって判定した。293/D9/hPAR−2rec細胞を低血清培地中5×10〜10細胞/ウエルにわたる範囲の濃度で96ウエルプレートにプレーティングし、5%COでの37℃で一晩インキュベートした。培地を除去し、精製抗PAR−2抗体を様々な濃度(51pM〜1μMにわたる範囲)でそれらの細胞に添加し、5%COでの37℃で1時間インキュベートした。その後、様々な濃度の異なるセリンプロテアーゼ(トリプシン、ヒトトリプシン1、第Xa因子および肺トリプターゼ)をその細胞/抗体混合物に個別に添加し、5%COでの37℃で5時間インキュベートした。このアッセイにおけるPAR−2のタンパク質分解的切断は、NF−κB−ルシフェラーゼレポーター構築物の発現をもたらすが、低減されたまたは減弱されたルシフェラーゼシグナルレベルは、PAR−2切断の阻害を示す。IC50値を表19に示す。ND:決定できない。
【0150】
表19
【0151】
【表19】

表20に示すように、抗体H4H581P、H4H588N、H4H591NおよびH4H618Nは、レポーター細胞におけるPAR−2のプロテアーゼ活性化を有意に遮断することができた。対照的に、抗PAR−2抗体H4H592N、H4H595N、H4H611N、H4H613N、H4H614N、H4H615N、H4H616N、H4H617NおよびH4H619Nは、このアッセイにおいてPAR−2切断/活性化の測定可能な遮断を一切明示しなかった(データを示さない)。
【0152】
表20
【0153】
【表20】

この実施例において用いた実験条件下で、抗体H4H572P、H4H573P、H4H576P、H4H578PおよびH4H587Pについて観察されたPAR−2シグナリングの遮断はなかったが、抗体H4H579P、H4H580P、H4H581P、H4H583P、H4H584P、H4H585P、H4H588N、H4H591NおよびH4H618Nでの有意な遮断が(様々な程度に)観察された。
【0154】
もう1つの類似した実験では、ヒトトリプシン1、第Xa因子および肺トリプターゼによって媒介されるPAR−2シグナリングの抗体遮断を、ヒトIgG4にクローニングした選択、精製抗PAR−2抗体(上で説明したとおり)について判定した。結果を表21に示す。
【0155】
表21.IC50(nM)
【0156】
【表21】

ヒト、サル、マウスまたはラットPAR−2を発現するHEK293/NFκB−ルシフェラーゼ細胞を、漸増量の抗PAR−2抗体H4H581Pとのプレインキュベーション後、様々なプロテアーゼで処理し、IC50を決定した。結果を表22にまとめる。
【0157】
表22
【0158】
【表22】

用いた特定の実験条件下で、H4H581P抗体は、ヒトおよびサルPAR−2のプロテアーゼ活性化を有効に阻害したが、マウスまたはラットPAR−2についてはしなかった。
【0159】
(実施例7)
ヒトPAR−2依存性カルシウム動員のin vitro抗体遮断
カルシウム動員FLIPRアッセイ(カリフォルニア州サニーヴェールのMolecular Devices)において、ヒトIgG4にクローニングした選択、精製抗PAR−2抗体でのHEK293細胞の処理により、トリプシン刺激PAR−2活性化(シグナリング)の遮断を判定した。このアッセイにおいて非PAR−2特異的対照抗体も試験した。
【0160】
簡単に言うと、低血清培地(0.5%FBSを伴うDME)中の8×10HEK293細胞をPoly−D−Lysineプレート(カリフォルニア州サンホゼのBD Biosciences)にプレーティングし、5%COでの37℃で一晩インキュベートした。翌日、細胞を様々な濃度(0〜1μMにわたる範囲)の選択抗PAR−2抗体、または対照抗体、と共にインキュベートし、その後、トリプシンを添加した。PAR−2のトリプシン媒介活性化は、カルシウム動員によって示される。FlexStation 3(カリフォルニア州サニーヴェールのMolecular Devices)でFluo−4 NW Calcium Assay Kit(カリフォルニア州カールズバッドのInvitrogen)を使用してカルシウムシグナリングの細胞内測定値を測定した。トリプシン媒介カルシウムシグナリングの半最大阻害を生じさせるために必要な抗体濃度(IC50)を各実験および対照抗体について測定した。結果をIC50(nM)として表23に示す。
【0161】
表23
【0162】
【表23】

この実施例で証明されるように、抗体H4H581PおよびH4H588Nそれぞれが、対照抗体と比較して有意な程度にトリプシン刺激カルシウムシグナリングを阻害した。
【0163】
(実施例8)
PAR−2ペプチドのトリプシン媒介切断のin vitro遮断
マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型(MALDI−TOF)アッセイを展開して、ヒトPAR−2ペプチド(Peptide A、配列番号:852)のトリプシン媒介切断を遮断する選択、精製抗PAR−2抗体の能力を判定した。(C末端またはN末端ビオチンを含有する)ビオチン化バージョンのPeptide Aを抗PAR−2抗体と混合して3:1の抗体対ペプチドモル比を獲得し、その後、トリプシンをそのペプチド−抗体混合物に添加した。モノ−アビジンによる免疫沈降(IP)によってビオチン化ペプチドを回収し、MALDI−TOFによって分析した。
【0164】
代表的な実験では、ヒトIgG4にクローニングした選択、精製抗PAR−2抗体(H4H581PおよびH4H588N)を、ビオチン化PAR−2ペプチドのトリプシン媒介切断を遮断するそれらの能力について試験した。同じアイソタイプの非PAR−2特異的抗体を陰性対照(図3における「Neg Ctrl」)として使用した。H4H581Pおよび陰性対照抗体については、ビオチン化ペプチドを4.75μMの最終濃度で使用し、抗体を14.25μMで使用した。H4H588Nについては、ビオチン化ペプチドを2.45μMの最終濃度で使用し、抗体を7.35μMで使用した。ペプチドおよび抗体をPBS中で混合し、平衡になるように1時間、室温で放置した。その後、トリプシン(96ng)を添加し、その混合物を37℃で0、5、10および15分間インキュベートした。各時点で、ビオチン化ペプチドの100ngに等しいアリコートを除去し、10μLの単量体アビジン樹脂(Pierce)と1分間混合した。結合ペプチドを200μLのPBSで3回すすぎ、その後、20μLの100mMグリシンpH2.5で溶離した。ZipTips(Millipore)を使用してその溶離ペプチド混合物から塩を除去した。トリプシン切断後に生じた主要ビオチン化PAR−2ペプチドの分子量を、MALDI−TOF分析によって明らかにして、図3にまとめる。
【0165】
これらの実験において使用したPAR−2ペプチドは、2つのR/Sプロテアーゼ切断部位を含有する。(図3において部位「(1)」で示す)第一の部位は、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位のN末端側に位置する「上流」切断部位である。(図3において「(2)」で示す)PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位は、切断されたとき、自然に産生するタンパク質においてPAR−2テザーリガンドを形成する結果となる部位である。異なる部位での切断後に検出されるペプチドのサイズを図3の上の部分(パネルA)に示す。
【0166】
図3(パネルB)に示すように、C末端ビオチンPAR−2ペプチドは、アイソタイプをマッチさせた対照抗体で処理し、その後、トリプシンインキュベーションを行ったとき、1558Daの切断フラグメント(配列番号:852の残基10〜18を含有)を生じさせた。この1558Daフラグメントは、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位(2)での切断の結果である。この切断パターンは、H4H588N抗PAR−2抗体を使用する実験においても観察された。それ故、このアッセイによると、対照抗体もH4H588N抗体もPAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位(2)でのトリプシン切断を阻害しない。
【0167】
対照的に、C末端ビオチンPAR−2ペプチドは、H4H581P抗体で処理し、その後トリプシンインキュベーションを行ったとき、2073Daの切断フラグメント(配列番号:852の残基5〜18を含有)を生じさせた。この2073Daフラグメントは、上流切断部位(1)のみでの切断によって生じたフラグメントである。それ故、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位(2)での切断は、明らかにH4H581P抗体によって遮断された。
【0168】
N末端ビオチンPAR−2ペプチドでの実験は、試験したすべての抗体の存在下で、上流切断部位(1)でのトリプシン切断を示し、そのようにして988Da Nビオチン化フラグメント(配列番号:852の残基1〜4を含有)を生じさせた。従って、試験したいずれの抗体も、これらの実験条件下で上流切断部位(1)での切断を遮断しなかった。
【0169】
上の実施例6および7に示したように、H4H581PとH4H588Nの両方が細胞ベースのアッセイにおいてトリプシンによるPAR−2活性化を遮断した。しかし、本実施例では、H4H581PのみがPAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位でのトリプシン切断を遮断した。いずれの機構的理論による拘束も受けないが、従って、H4H588NはPAR−2のテザーリガンドと1つ以上の細胞外ループ(例えば、ループ1、ループ2および/またはループ3)との相互作用に干渉することによりその阻害作用(単数または複数)を発揮し得るようである。一方、H4H581Pは、主としてプロテアーゼ切断を遮断することによってPAR−2活性を阻害することができるが、テザーリガンド相互作用にもまた干渉することもできる。
【0170】
抗PAR−2抗体のプロテアーゼ切断遮断特性をさらに調査するために、C末端ビオチン化マウス、ラットおよびヒトPAR−2ペプチドを使用して追加のMALDI−TOF実験を行った。(図4参照)。これらの実験において試験した抗体は、H4H581P、H4H588N、国際公開第2009/005726号において「1A1」と呼ばれている抗体の重および軽鎖可変領域を有するコンパレーター抗体(図5において「Comp.Ab」と呼ぶ)、ならびに陰性対照抗体(図4において「Neg Ctrl」と呼ぶ)であった。(上で説明した)前のMALD−TOF実験で用いたのと同じ実験手順をこの実験でも用いた。
【0171】
これらの実験において使用したペプチドは、それぞれ、トリプシンによって切断され得る多数の部位を(図5において「(1)」、「(2)」および「(3)」で示す)を保有する。各ペプチドについての部位(3)が活性化性プロテアーゼ切断部位である。異なる部位での切断後に生じるペプチドのサイズを図4の上の部分(パネルA)に示す。
【0172】
図4にまとめたように、ビオチン化ヒトPAR−2ペプチドは、H4H581Pでの処理の後、およびトリプシンインキュベーション後、2074kDaペプチドを生じさせた。これは部位(1)のみでの切断に対応する。それ故、H4H581Pは、部位(2)での切断も部位(3)での切断も遮断する。対照的に、ヒトPAR−2ペプチドは、コンパレーター抗体で処理した後、およびトリプシンインキュベーション後、2502kDaで維持された。これは切断がないことを意味する。それ故、コンパレーター抗体は、このアッセイにおいて、最N末端部位(1)を含む3つすべてのプロテアーゼ切断部位を遮断する。抗体H4H588Nで前処理したとき、ヒトPAR−2ペプチドは、トリプシン切断後に1772kDaフラグメントと1558kDaフラグメントの両方を生じさせた。この切断パターンは、H4H588Nが活性化性部位(3)での切断を部分的に遮断するが、中間部位(2)を完全に遮断することを示唆する。
【0173】
この実験を、Sam−11と呼ばれている抗体(Molinoら、Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.18:825−832(1998))の重および軽鎖可変領域を有するコンパレーター抗体を使用することによっても行った。予想どおり、この特定のコンパレーター抗体は、いずれのプロテアーゼ切断部位における切断も遮断しなかった(データを示さない)。
【0174】
(実施例9)
PAR−2ペプチドのアラニンスキャニング突然変異誘発によるエピトープマッピング
PAR−2抗体が相互作用するPAR−2のアミノ酸をさらに詳細に同定するために、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位を含むペプチドを使用してアラニンスキャニング研究を行った。これらの実験については、ヒトPAR−2(配列番号:851)の位置35から45の各アミノ酸を個々にアラニンに置き換えることで11の別個のC末端ビオチン化ペプチド(配列番号:871〜882)を合成した。PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位の直ぐC末端側に位置する14のアミノ酸を含む追加のC末端ビオチン化ペプチドセットも使用し、Val−42および/またはAsp−43をアラニンに変えた(配列番号:884〜887)。
【0175】
PAR−2抗体に結合する各ペプチド突然変異体の能力を、バイオレイヤー干渉法(Octet Red;ForteBio)を用いて測定した。各ペプチド(2.5μg/mL)をストレプトアビジン被覆バイオセンサーチップ(Octet SAセンサー)上に10秒間、捕捉した。各ペプチドとPAR−2抗体との結合および解離を測定するために、それらのペプチド被覆バイオセンサーをPAR−2抗体の200nM溶液と5分間接触させ(結合)、その後、10分間、抗体を伴わない緩衝液に移した(解離)。個々の抗体結合シグナルをそのペプチドについて観察された原ペプチド負荷シグナルで割って個々のバイオセンサー上のペプチド負荷量のわずかな変動を修正した後のネイティブ・シグナル・パーセントとして、各ペプチドへのPAR−2抗体の結合を表示した。Scrubberバージョン2.0a曲線当てはめソフトウェアを使用して解離曲線から解離半減期(T1/2)を計算し、個々のペプチドについて観察された半減期を天然ペプチドの半減期で割ることによって相対半減期を計算した。結果をWTペプチドに対する結合パーセントおよびT1/2パーセントとして表示する(表24〜28)。[コンパレーター1=国際公開第2009/005726号において「1A1」と呼ばれている抗体の重および軽鎖可変領域を有する抗体:コンパレーター2=Sam−11と呼ばれている抗体(Molinoら、Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.18:825−832(1998))の重および軽鎖可変領域を有する抗体;ならびにコンパレーター3=米国特許出願公開第2010/0119506号において「PAR−B」と呼ばれている抗体の重および軽鎖可変領域を有する抗体]。一定の場合、結合実験を反復した(縦列見出し実験1および実験2で示す)。NB=観察される結合なし。
【0176】
表24:H4H581P
【0177】
【表24】

表25:H4H588N
【0178】
【表25】

表26:コンパレーター1
【0179】
【表26】

表27:コンパレーター2
【0180】
【表27】

表28:コンパレーター3
【0181】
【表28】

アラニンスキャニング実験の結果を図5にまとめる。この図中の黒丸は、アラニンに変えられたとき、対応する抗体による結合を実質的に低減する(すなわち、突然変異ペプチドに結合する抗体T1/2が、野生型ペプチドに結合する抗体のT1/2の30%未満である)PAR−2のアミノ酸を示す。(図5中の白三角は、非活性化性上流プロテアーゼ切断部位を示し、および黒三角は、活性化性プロテアーゼ切断部位を示す)。図5に図示するように、コンパレーター1および3は、活性化性プロテアーゼ切断部位の両側の残基での突然変異に対して感受性であった。対照的に、抗体H4H581PおよびH4H588Nは、活性化性プロテアーゼ切断部位のC末端側において見いだされる残基での突然変異に対してしか感受性でない。それ故、PAR−2上のH4H581P結合部位は、コンパレーター1および3抗体の結合部位に対してC末端方向に約2〜4アミノ酸シフトされたように見え、H4H588N結合部位は、H4H581P結合部位からC末端方向に約2〜4アミノ酸シフトされる。コンパレーター2抗体は、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位の下流の14のアミノ酸を含むペプチド、すなわちSLIGKVDGTSHVTG(配列番号:884の残基1〜14)、のみに結合し、アスパラギン酸残基(配列番号:851のAsp−43)での突然変異に対して感受性であったが、バリン残基(配列番号:851のVal−42)での突然変異に対しては感受性でなかった。
【0182】
有意なことに、この実験は、抗体H4H581PおよびH4H588N両方が、PAR−2活性化性プロテアーゼ切断部位のC末端側に位置する最初のVおよびD残基(すなわち、配列番号:851のVal−42およびAsp−43)と相互作用するが、コンパレーター1および3抗体は、これらの残基のいずれとも相互作用せず、コンパレーター2抗体は、Asp−43と相互作用するがVal−42とはしないことを示している。コンパレーター抗体と比較したときのPAR−2上のH4H581Pの結合シフトは、以下のin vivo実施例において実証されるように、コンパレーターに対するH4H581Pの機能的優位性の説明となり得る。
【0183】
(実施例10)
そう痒モデルにおける抗PAR−2抗体の用量反応
この実施例では、2つの異なるプロテアーゼ誘導そう痒モデルにおいて痒みを減弱する抗PAR−2抗体H4H581Pの能力を評価した。ヒトPAR−2(hPAR2+/+)を発現するトランスジェニックマウスをこの実験におけるすべてのコホートに使用した。マウスの別個のコホートに150mg/kg(s.c.)のアイソタイプ対照mAbまたは10、25、50、75、100および150mg/kg(s.c.)のH4H581Pを施した。抗体投薬の24時間後、すべてのコホートに150μgのブタトリプシン、または10μgの組換えヒトベータトリプターゼを施し(s.c.、肩甲骨間)、30から60分間のひっかき行動の発作を生じさせた。トリプシン注射前にH4H581Pを施したマウスにおいて、25mg/kgの推定ED50で、用量反応関係が観察された。これらの実験結果を、トリプシン投与後30分間にわたってまたはトリプターゼ投与後60分間にわたって記録したひっかき発作の総数の変化パーセントによって表示し、表29に示す(すべてのデータは、平均±SEMとして表す;ND=決定できない;=アイソタイプ対照群と比較してp<0.05)。
【0184】
表29
【0185】
【表29】

この実施例において証明されるように、mAb H4H581Pは、2つの異なるプロテアーゼ誘導痒みモデルを使用して用量依存的にプロテアーゼ誘導そう痒行動を遮断できた。
【0186】
(実施例11)
ハプテン誘導慢性皮膚炎モデルにおける抗PAR−2抗体の投与によるそう痒行動の低減
生理学的に意義のある疾病状態においてそう痒行動を低減する抗PAR−2抗体H4H581Pの能力をさらに評価するために、慢性皮膚炎のマウスモデルを使用した。このモデルでは、ハプテン化剤、オキサゾロン、の反復皮膚適用をマウスに施した。この慢性オキサゾロン誘導皮膚炎モデルは、ヒトにおけるアトピー性皮膚炎の多くの臨床的、組織学的および免疫学的ホールマークを再現することが証明されている(Manら、2008、J.Invest.Dermatol.128(1):79−86)。
【0187】
マウスを左耳への1%オキサゾロンまたはビヒクル(100mg/kg、s.c.)の単回皮膚適用で感作した。その後、その感作適用の7日後に始めて肩甲骨間への0.6%オキサゾロンの合計9回の皮膚適用をマウスに施した。H4H581P抗PAR−2抗体の週1回の投薬(合計3回)を、初回オキサゾロン攻撃(100mg/kg、s.c.)の24時間前に開始した。この投薬パラダイムは、最終オキサゾロン攻撃によって惹起されたひっかき発作の減少数によって測定したとき、そう痒行動を有意に低減した。すべてのデータを、n=6マウス/群についてのひっかき発作の平均数±SEMとして表す(=オキサゾロン+IgG対照群と比較したときテューキー(Tukey)ポストホック検定によりp<0.05;#=ビヒクル+IgG対照群と比較したときテューキー・ポスト・ホック検定によりp<0.05)。
【0188】
表30
【0189】
【表30】

組織学的分析により、オキサゾロン攻撃動物において表皮過形成および免疫細胞浸潤の有意な増加が証明された。(データは示さない)。H4H581P抗PAR−2抗体とアイソタイプ対照の間にこれらのパラメータの有意差は一切観察されなかった。
【0190】
(実施例12)
mAb H4H581Pのそう痒抑制活性の比較
この実施例では、マウスそう痒モデルにおいて痒み発作を減弱するmAb H4H581Pの能力をコンパレーター抗PAR−2 mAb(国際公開第2009/005726号に記載されているコンパレーター「1A1」)のものと比較した。
【0191】
ヒトPAR−2(hPAR2+/+)を発現するトランスジェニックマウスを3コホートに分けた。コホートAには50mg/kg(s.c.)のアイソタイプ対照mAbを施し、コホートBには50mg/kg(s.c.)のH4H581Pを施し、コホートCには50mg/kg(s.c.)のコンパレーター抗PAR−2抗体を施した。抗体投薬の24時間後、すべてのコホートに150μgのトリプシン(s.c.、肩甲骨間)を施し、30分間、ひっかき行動の発作を生じさせた。対照処置マウスと比較したときの処置マウスについて観察されたひっかき発作数の変化パーセントを表29に示す(すべてのデータを平均±SEMとして表す)。
【0192】
表31
【0193】
【表31】

この実施例において証明されるように、ここで用いたトリプシン誘導痒みモデルにおいて、mAb H4H581Pは、そう痒行動を低減する点でコンパレーターmAbより実質的に有効であった。
【0194】
本発明は、本明細書に記載する特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。実際、本明細書に記載したものに加えて本発明の様々な変形が上の説明および添付の図面から当業者には明らかになるであろう。そのような変形は添付の請求項の範囲に入ると解釈される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトPAR−2(配列番号:851)に特異的に結合し、ヒトPAR−2のVal−42およびAsp−43と相互作用する、単離されたヒト抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
ヒトPAR−2のSer−37、Leu−38、Ile−39、Gly−40およびGly−44から成る群より選択される1つ以上の残基とも相互作用する、請求項1に記載の単離されたヒト抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項3】
ヒトPAR−2のLys−41と相互作用しない、請求項1または2に記載の単離されたヒト抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項4】
ヒトPAR−2のSer−37、Leu−38、Ile−39、Gly−40、Val−42及びAsp−43と相互作用するが、ヒトPAR−2のLys−41とは相互作用しない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の単離されたヒト抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項5】
配列番号:98/106および配列番号:714/692から成る群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列ペアの相補性決定領域(CDR)を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の単離されたヒト抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項6】
(a)配列番号:100−102−104/108−110−112;および(b)配列番号:700−702−704/708−710−712から成る群より選択されるHCDR1−HCDR2−HCDR3/LCDR1−LCDR2−LCDR3アミノ酸配列を含む、請求項5に記載の単離されたヒト抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項7】
ヒトPAR−2の残基Arg−36およびSer−37の接合点に位置する活性化性切断部位でのヒトPAR−2のトリプシン切断を遮断する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の単離されたヒト抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項8】
ヒトPAR−2の残基Arg−31およびSer−32の接合点に位置する非活性化性切断部位ならびにヒトPAR−2の残基Lys−34およびGly−35の接合点に位置する非活性化性切断部位から選択される1つ以上の非活性化性切断部位でのヒトPAR−2のトリプシン切断を遮断しない、請求項7に記載の単離されたヒト抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項9】
ヒトPAR−2(配列番号:851)に特異的に結合する単離されたヒト抗体またはその抗原結合フラグメントであって、該抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトPAR−2のSer−37、Leu−38、Ile−39、Gly−40、Val−42およびAsp−43と相互作用するが、ヒトPAR−2のLys−41とは相互作用しないものであり、そしてヒトPAR−2の残基Arg−36およびSer−37の接合点に位置する活性化性切断部位でのヒトPAR−2のトリプシン切断を遮断するが、ヒトPAR−2の残基Arg−31およびSer−32の接合点に位置する非活性化性切断部位でのヒトPAR−2のトリプシン切断を遮断しないものである、単離されたヒト抗体または抗原結合フラグメント。
【請求項10】
(a)配列番号:714のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)と、配列番号:692のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)とを含む抗体;および(b)配列番号:98のアミノ酸配列を有するHCVRと、配列番号:106のアミノ酸配列を有するLCVRとを含む抗体から成る群より選択される基準抗体と、ヒトPAR−2上の同じエピトープに結合する単離されたヒト抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合フラグメントと薬学的に許容され得る担体または希釈剤とを含む医薬組成物。
【請求項12】
PAR−2活性に起因する疾患または障害の1つ以上の症状または徴候を呈示する患者に請求項11に記載の医薬組成物を投与することを含む治療方法。
【請求項13】
PAR−2活性に起因する前記疾患または障害が、疼痛、そう痒、喘息、関節リウマチ、線維症、アトピー性皮膚炎、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、膵炎、潰瘍、クローン病、癌およびネザートン病から成る群より選択される、請求項12に記載の治療方法。
【請求項14】
IL−1阻害剤、IL−18阻害剤、IL−4阻害剤、IL−4受容体阻害剤、IL−6阻害剤、IL−6受容体阻害剤、神経成長因子(NGF)阻害剤、腫瘍壊死因子(TNF)阻害剤、TNF受容体阻害剤、尿酸合成阻害剤およびコルチコステロイドから成る群より選択される少なくとも1つのさらなる治療活性成分を前記患者に投与することをさらに含む、請求項12または13に記載の治療方法。
【請求項15】
疼痛、そう痒、喘息、関節リウマチ、線維症、アトピー性皮膚炎、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、膵炎、潰瘍、クローン病、癌およびネザートン病から成る群より選択される疾患または障害である、PAR−2活性に起因する疾患または障害のうちの1つ以上の症状または徴候を呈示する患者の処置に使用するための、請求項1〜10のいずれか一項に記載の単離されたヒト抗体もしくは抗原結合フラグメント、または請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項16】
疼痛、そう痒、喘息、関節リウマチ、線維症、アトピー性皮膚炎、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、膵炎、潰瘍、クローン病、癌およびネザートン病から成る群より選択される疾患または障害である、PAR−2活性に起因する疾患または障害のうちの1つ以上の症状または徴候を呈示する患者の処置に使用するための薬物の製造における、請求項1〜10のいずれか一項に記載の単離された抗体もしくは抗原結合フラグメント、または請求項11に記載の医薬組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−504577(P2013−504577A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528860(P2012−528860)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/048034
【国際公開番号】WO2011/031695
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(597160510)リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (50)
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】