説明

ヒト免疫不全ウイルス感染阻害剤およびエイズの治療薬または予防薬

【課題】新規なヒト免疫不全ウイルス感染阻害剤ならびにエイズ予防及び治療薬を提供する。
【解決手段】下記式(I)で表される化合物、その製薬上許容される塩、又はその水和物を有効成分として含有することを特徴とする、ヒト免疫不全ウイルス感染阻害剤:

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト免疫不全ウイルス感染阻害剤、及び当該阻害剤を含有する新しいタイプのエイズ予防薬及び治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
後天性免疫不全症候群(AIDS;エイズ)は、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)の感染によりCD4陽性T細胞が破壊されて宿主の免疫機能を著しく低下させ、種々の合併症を引き起こすことが知られている。現在までに日本で承認されているエイズ治療薬は、ジドブジン(AZT)、ジダノシン(ddI)、ザルシタビン(ddC)等の核酸系逆転写酵素阻害薬、ネビラピン、エファビレンツ、デラビルジン等の非核酸系逆転写酵素阻害薬、及びインジナビル(クリキシバン)、サキナビル等のプロテアーゼ阻害薬である。これらの薬剤はエイズ治療に有効であるが、HIV−1は変異が起こりやすく、治療を行う過程で薬剤耐性株が出現することが1つの問題点となっている。多種の薬剤を併用して用いる療法は、薬剤耐性株の出現を低下させる効果がある。しかし、現在利用可能な治療薬は上記のようにHIVの逆転写酵素とプロテアーゼを標的とするものに限られるため多剤併用療法にも限界がある。従って、新しい分子標的に対するエイズ治療薬の開発が期待されている。
【0003】
HIV−1のアクセサリー遺伝子の一つであるvprは、96個のアミノ酸からなり、ウイルス粒子に結合する15キロダルトン(kDa)の核タンパク質をコードする。HIV−1、HIV−2、及びSIV等の霊長類のレンチウイルスは、何れも非常によく保存されたVpr様タンパク質を含んでいる。HIVの複製に関連してVprタンパク質の多くの生物学的機能が報告されており、例えば、HIVを含む種々のレトロウイルスLTRの転写を活性化したり、あるいは、Vprは細胞周期のG2/M期で停止させる(例えば、非特許文献1及び2参照)。このVprの機能によりG2/M期で停止した細胞ではウイルスの複製が約2倍に増加することからHIVの増殖に重要な役割を果たすと考えられる。さらに、vprを欠損したSIVに感染した霊長類を用いた生体内(in vivo)実験によれば、Vpr機能が後天性免疫不全症(AIDS)の発症に重要であることも報告されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0004】
従って、Vprは抗エイズ薬の1つの標的タンパク質であることが提案されている。Vprによって誘導される細胞周期停止がテトラサイクリンプロモータによって調節される細胞株が樹立され、この細胞を用いたスクリーニングによりある種のフラボノイド(ケルセチン)がVprタンパク質機能を阻害することが示された(例えば、非特許文献2参照)。また、出芽酵母でVprタンパク質を発現させると酵母の増殖を抑制することも報告されている(例えば、非特許文献4参照)。
【0005】
一方、ある種の糸状菌から単離された化合物がVprの細胞増殖停止能を阻害することおよび当該化合物がエイズ治療薬として用いられることが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
また、宿主細胞内におけるHIV−1 mRNAの生成において、4kbフォームのmRNA群の生成を増加させ、および/または、2kbフォームのmRNA群の生成を減少させる活性を阻害する物質がHIV−1の増殖を抑制するための医薬組成物として使用できることが報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
さらに、ヒト免疫細胞へのHIV−1感染にはVprタンパク質とインポーチンαの相互作用が重要であり(例えば、非特許文献5および6参照)、Vprタンパク質とインポ
ーチンαとの結合を阻害する化合物をスクリーニングすることによりヒト免疫細胞へのHIV−1感染を阻害する薬剤が得られることが報告されている(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、HIV−1感染を阻害する低分子化合物はまだ十分知られておらず、優れた薬効を有する薬剤の開発が求められていた。
【特許文献1】特開2006-321759号公報
【特許文献2】国際公開第2005/032561号パンフレット
【特許文献3】特開2006-067994号公報
【非特許文献1】Curr. Biol. Vol. 6, pp.1096-1103. (1996)
【非特許文献2】Biochemical and Biophysical Research Communication Vol. 261, No. 2, pp.308-316. (1999)
【非特許文献3】J. Virol. Vol. 69, pp.4807-4813. (1995)
【非特許文献4】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 92, pp.2770-2774. (1995)
【非特許文献5】Journal of Virology, May 2007, p. 5284-5293, Vol. 81, No. 10
【非特許文献6】Journal of Virology, March 2005, p. 3557-3564, Vol. 79, No. 6
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、HIVの感染を阻害しうる新規なエイズ治療薬または予防薬を見出すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、ヘマトキシリン化合物がVprタンパク質とインポーチンαの相互作用を阻害してVprタンパク質の核移行を妨げること、さらには、HIVウイルスのマクロファージへの感染を阻害することを見出して本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の第一の側面において、下記式(I)で表す化合物、その製薬上許容される塩、又はその水和物を有効成分として含有することを特徴とするヒト免疫不全ウイルス感染阻害剤が提供される。
【化1】

【0010】
本発明の他の側面において、前記阻害剤を有効成分として含有することを特徴とするエイズ治療薬またはエイズ予防薬が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のHIV感染阻害剤はエイズの発症予防薬又は治療薬として用いることができる。
本発明のHIV感染阻害剤は、HIVのVprタンパク質の核移行の阻害を介した感染阻害のみならず、Vprタンパク質によるウイルス産生細胞のG2/M期停止を解除し、ウイルス産生能を低下させる効果(He, J. et al., (1995) J. Virol. 69, 6705-6711)やウイルス感染CD4陽性T細胞のアポトーシスを阻害することにより、宿主免疫系に感染細胞に
対する細胞障害性リンパ球を誘導する効果(Finkel, T.H. et al., (1995) Nature Med., 1, 129-134)も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の阻害剤として有用な化合物には、下記式(I)で表す化合物、その製薬上許容される塩、又はその水和物が含まれる。
【化2】

【0013】
この化合物はヘマトキシリンとして知られている化合物であるが、ヘマトキシリンの用途は染色剤などが知られているのみであり、医薬としての用途は知られていない。
この化合物は分子内に不斉炭素原子を有するため光学異性体又はジアステレオマーなどの立体異性体が存在するが、本発明の範囲には純粋な形態の立体異性体のほか、任意の立体異性体の混合物またはラセミ体などが包含される。
【0014】
式(I)で表される化合物は、「Vprタンパク質」と「インポーチンα」の相互作用を阻害することにより、Vprタンパク質の核移行を妨げ、HIVウイルスの感染を阻害する。したがって、式(I)で表される化合物はHIV感染阻害剤として使用することができる。
なお、「Vprタンパク質」とは、HIV−1のVprタンパク質(例えば、Ogawa K., et al., Journal of Virology, 1989, Vol. 63, No.9, p. 4110-4114, 及びGenBank Accession No. M28355、配列番号2)のことをいうが、HIV−2、及びSIV等の霊長類のレンチウイルスにおいて非常によく保存されているVpr様タンパク質(Vpr及び/又はVpx)を用いてもよい。
また、「インポーチンα」としては、配列番号4のタンパク質が例示される。
【0015】
用語「製薬上許容される塩」とは、製薬上許容できる無毒の塩基又は酸から調製される塩を意味する。本発明に係る化合物が酸性である場合には、その対応する塩、例えば、カルシウム塩またはマグネシウム塩のようなアルカリまたはアルカリ土類金属塩、またはアンモニウム塩、またはメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ピペリジン、モルホリンまたはトリス−(2−ヒドロキシエチル)アミンのような有機塩基との塩である。本発明に係る化合物が十分に塩基性である場合には、その酸付加塩、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸またはマレイン酸のような無機酸または有機酸との酸付加塩が挙げられる。
【0016】
本発明に係る化合物はまた、プロドラッグの形であってもよい。様々な形のプロドラッグ、例えば、生体内加水分解性エステルが、当該技術分野において知られている。生体内での加水分解性誘導体には、特に、ヒト体内で酸化されまたは還元されて親化合物を生じることができる薬学的に許容しうる誘導体、またはヒト体内で加水分解して親化合物を生じるエステルが含まれる。このようなエステルは、試験中の化合物を、例えば試験動物に静脈内投与した後、試験動物の体液を調べることによって同定することができる。ヒドロキシに適した生体内加水分解性エステルには、アセチルが含まれる。
【0017】
(本発明の医薬組成物)
本発明のHIV感染阻害剤は、医薬として投与する場合、そのまま又は医薬的に許容される無毒性かつ不活性の担体と共に医薬組成物としてヒトを含む哺乳動物に投与される。経口投与のための好適な担体は、緩衝剤、香料等のような微量成分を含有してもよい。医薬組成物中の担体の量は通常は全体の5〜95%の範囲内にあるが、剤型に応じて大幅に変更することができる。好適な担体としては、スクロース、ペクチン、ステアリン酸マグネシウム、ラクトース、落花生油、オリーブ油、水等を含む。
【0018】
本発明の医薬組成物を、エイズの感染者(無症候期患者)の予防又はエイズ発症後の患者の治療を目的としてヒトに投与する場合は、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、液剤等として経口的に、または注射剤、坐剤、経皮吸収剤、吸入剤等として非経口的に投与することができる。また、本発明の阻害剤の有効量を、その剤型に適した賦形剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、滑沢剤等の医薬用添加剤を必要に応じて混合し、医薬組成物とすることができる。注射剤の場合には、適当な担体とともに滅菌処理を行って製剤とする。
【0019】
本発明の医薬組成物は、単一の治療剤として又は他の治療剤と組み合わせて用いることができる。本発明のHIV感染阻害剤と組み合わせることができる薬剤としては、HIVの逆転写酵素阻害剤やプロテアーゼ阻害剤の他、種々のサイトカイン類などの免疫賦活剤、低分子干渉RNAを含むリポソーム製剤等も含まれる。これら医薬組成物の投与量は、疾患の状態、投与ルート、患者の年齢、または体重によっても異なり、最終的には医師の判断に委ねられるが、成人に経口で投与する場合、通常、0.1−100mg/kg/日、好ましくは、1−20mg/kg/日、非経口で投与する場合、通常、0.01−10mg/kg/日、好ましくは、0.1−2mg/kg/日を投与する。これを1回あるいは数回に分割して投与すればよい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0021】
<タンパク質の発現と精製>
プラスミドGST-N17C74-GFP-His6およびGST-Importin α-His6, はJournal of Virology, March 2005, p. 3557-3564, Vol. 79, No. 6に記載の配列にポリヒスチジン(His6)タグを付加して構築した。
GST-N17C74-GFP-His6は、インポーチンαと結合するαへリックス領域を含むVprの核移行の最小構成ドメインであるVprのN末端から17〜74番目のアミノ酸残基によって形成される領域(特開2006-067994号公報:配列番号2の17〜74番目のアミノ酸残基)に、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)タグと、GFP(Green fluorescence protein)タグと、His6タグの融合タンパク質を発現させるためのプラスミドである。また、GST-Importin α-His6はImportin αと、GSTタグと、ポリヒスチジンタグの融合タンパク質(GST-Impα-His6)を発現させるためのプラスミドである。
【0022】
上記各プラスミドで大腸菌を形質転換して組換え大腸菌を得た。得られた組換え大腸菌を培養することによって各融合タンパク質を発現させた。得られた融合タンパク質をGSTカラムを用いて精製した。GST-N17C74-GFP-His6をPreScission protease (Amersham Biosciences)で切断して、N17C74-GFP-His6を得た(Vpr-GFP-His6)。また、GST-N17C74-GFP-His6をTEV protease (Invitrogen)で切断して、GST-N17C74を得た。また、GST-Importin α-His6をPreScission protease で切断して、Importin α-His6を得た。
【0023】
HIV−1ゲノムを含む組み込み前複合体が免疫細胞の核膜を通過するためにはVprタンパク質の核移行が重要であり、このVprタンパク質の核移行はインポーチンαによって媒介される。そこで、Vprタンパク質とインポーチンαの相互作用を測定する系としてELISAアッセイとGSTプルダウンアッセイを構築し、化合物が両タンパク質の相互作用を阻害するかについて調べた。
<GSTプルダウンアッセイ>
試験化合物を含むPBS/1 % BSA中で、N17C74-GFP-His6を、あらかじめglutathione-Sepharose 4FF beads (Amersham Pharmacia Biotech)に吸着させたGST-Impα-His6と4℃で1時間反応させた。ビーズをPBS/0.1 % Triton Xで6回洗浄した後、98℃で5分加熱してビーズに結合したタンパク質を溶出させた。溶出したタンパク質をSDS-PAGE (15 % polyacrylamide)で分離し、PVDF膜 (Immobilon; Millipore, Bedford, Mass.) に転写してイムノブロット解析した。膜をPBS/5 % skim milkで1時間ブロッキングした後、抗GFPモノクローナル抗体(MBL)と反応させた。PBS/0.05 % Tween20で洗浄した後、HRP結合抗マウスIgGと反応させた。検出は、SuperSignalTM West Pico Chemiluuminescent substrate (Pierce,
Rockford, Ill)を用いて行った。
【0024】
<ELISAアッセイ >
50 mM NaHCO3 (pH9.8)に溶解した抗GSTモノクローナル抗体 (SIGMA) をコラーゲンコートマイクロプレート(NUNC)の各ウェルに加え、4℃で6時間コートした。ウェルをPBS/0.1% Tween20で洗浄し、PBS / 5% BSAでブロッキング(30℃、2時間)した後、PBS/5% BSA に溶解したGSTまたはGST-N17C74 を0.5 μg/ウェルで添加し、化合物の存在下または非存在下にて4℃で2時間インキュベートした。ウェルを洗浄した後、PBS/5% BSA に溶解したImportin α-His6 を1.0 μg/ウェルで添加し、4℃で2時間インキュベートした。その後、溶液を除去し、プレートをPBS / 0.1% Tween20で洗浄した後、ワサビペルオキシダーゼ結合抗Hisモノクローナル抗体(Invitrogen)を加えて22℃で1時間インキュベートした。マイクロプレートをPBS / 0.1% Tween20で3回洗浄した後、50μl のtetra methyl benzidine (TMB) (Pierce) を添加した。37℃で30分インキュベートした後、反応停止液を加えて VprとImportin αとの結合の程度をELISA plate reader (WALAC)でOD450を測定することにより調べた。
【0025】
<核移行アッセイ>
In vitroでの核移行アッセイは、ジギトニン処理HeLa細胞とVpr-GFP-His6とGST-Importin α-His6を用いて行った。カバーガラス上に80%コンフルエンスに培養したHeLa細胞を、核移行解析用バッファー(TB; 20 mM HEPES-KOH(pH 7.3), 110 mM 酢酸カリウム、2 mM 酢酸マグネシウム、5 mM 酢酸ナトリウム、2 mM EGTA、1 mM dithiothreitol)中、40μg/mlジギトニン(Fluka AG)で4℃、5分間処理して透過性にした。試験化合物を含む核移行解析用バッファー中に、それぞれ終濃度で1μMとなるようにVpr-GFP-His6とGST-Importin α-His6を添加し、40μlを試験サンプルとして細胞に添加した。核移行反応を28℃で、15分間進行させた後、氷冷した核移行解析用バッファーで細胞を3回洗浄し、4%ホルムアルデヒドを含む核移行解析用バッファー中、氷上で30分間固定した。グルセロールで包埋して作製した標本について、GFPの蛍光を共焦点レーザースキャニング顕微鏡(ラディアンス2100、バイオラッド)で観察した。
【0026】
<感染アッセイ>
Journal of Virology, May 2007, p. 5284-5293, Vol. 81, No. 10に記載の方法に従い、ヒト末梢血単核球より単球を単離し、マクロファージに分化させることにより、マクロファージを調製した。
マクロファージ指向性分子クローンpYK-JRCSFを293T細胞にFugene(ロシュ)を用いて導入後、24時間および48時間後に上清を回収し、p24ELISA法(HIV-1 p24gag ELISA kit (RETRO TEC; ZeptoMetrix, NY))によってウイルス量を定量してストックウイルスと
した。
ウイルス感染は、24ウエルプレート培養したマクロファージにp24量として2ngのウイルスを接種し、37℃で3時間感染させた。その後、3回洗浄し、24ウエルプレート(Nunc)に移し、10%仔牛胎児血清を添加したRPMI1640培地(sigma)にて、化合物の存在下、37℃、5%CO2雰囲気下で培養した。8日後に、上清を採取し、p24ELISA法にてウイルス産生を測定した。
【0027】
<細胞傷害アッセイ>
化合物の細胞傷害性を調べるために、ミトコンドリアの脱水素活性に基づくMTTアッセイを行った。Molt4T細胞株を、最終濃度0.75 mg/mlのMTT存在下、化合物を含む培地中で37℃で2時間インキュベートした。その後、細胞を90 % isopropanol, 10 % TritonX-100および1% HClを含む溶液で溶解し、37℃で24時間インキュベートした。生成したMTT formazanを、マイクロプレートリーダー(Wallac ARVO SX 1420, Perkin-Elmer)を用いて定量した(励起波長570nm、発光波長655nm)。
【0028】
<結果>
2000個以上の化合物について、ELISAアッセイにてVprとインポーチンαの結合阻害活性を調べたところ、表1のように、49個の化合物が得られた。それらの化合物をGSTプルダウンアッセイによるVprタンパク質とインポーチンαの相互作用阻害活性をさらに評価した結果、11個の化合物が得られた。そして、核移行アッセイにより、2個の化合物がVprの核移行を阻害することがわかった。
【0029】
【表1】

【0030】
2つの化合物のうちの1つはヘマトキシリンであった。ヘマトキシリンのELISAアッセイとGSTプルダウンアッセイの結果を図1に示す。図1より、ヘマトキシリンがVprとインポーチンαの結合を阻害することがわかる。
【化3】

ヘマトキシリン(H化合物)
【0031】
図2に示されるように、ヘマトキシリンはVprタンパク質の核移行を阻害することが確認された。
【0032】
また、ヘマトキシリンがHIV感染を実際に阻害するかを感染アッセイで調べた結果、図3に示されるように、ヘマトキシリンは、マクロファージへのHIVの感染を阻害することも確認された。また、図4に示されるようにMolt4T細胞株において細胞障害性が低いことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(A)GST-N17C74とImportin α-His6を用いたELISAアッセイの結果を示す図(写真)。Impβはポジティブコントロールのインポーチンβであり、Hがヘマトキシリン。(B)GST-Impα-His6とVpr-GFP-Hisを用いたGSTプルダウンアッセイの結果を示す図(写真)。GFPのレーンはGFPをGST-Impα-His6と反応させたものを示す。コントロールとしては反応液に溶媒のみを加えた。その結果、化合物(ヘマトキシリン)は、濃度依存的(1μM、10μM、100μM)にImpαとVprの結合を阻害した。
【図2】ジギトニン処理HeLa細胞を用いた核移行アッセイの結果を示す図(写真)。化合物(ヘマトキシリン)は、濃度依存的(1μM、10μM、100μM)にVprの核移行を阻害した。
【図3】マクロファージへの感染アッセイの結果を示す図。横軸は化合物の濃度(μM)を示す。●と■はいずれもヘマトキシリンの結果であり、アッセイに用いたマクロファージの由来が異なる。
【図4】細胞傷害アッセイの結果を示す図。横軸は化合物の濃度(μM)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物、その製薬上許容される塩、又はその水和物を有効成分として含有することを特徴とする、ヒト免疫不全ウイルス感染阻害剤:
【化1】

【請求項2】
請求項1に記載の阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする、エイズの治療または予防のための医薬。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−242247(P2009−242247A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87297(P2008−87297)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 独立行政法人 医薬基盤研究所基礎研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】