説明

ヒト内因性レトロウイルスのエンベロープタンパク質の発現を検出する方法、並びに上記タンパク質をコードする遺伝子の使用

【課題】インビトロで、プロモーター、好ましくは異種プロモーターの制御の下で発現された、非修飾HERV-Wエンベロープ糖タンパク質が、融合原性の特性を有することを示すこと。
【解決手段】ヒト内因性レトロウイルスのエンベロープタンパク質またはポリペプチドの発現を検出するための方法であり、上記タンパク質またはポリペプチドは、特定な配列または特定なの断片を含むポリペプチド配列を有し、あるいは特定なの配列または特定な断片と、いずれかの一連の20アミノ酸について、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらには少なくとも95%の同一性を示す配列を有し、且つ細胞組織または細胞培養物の細胞における上記タンパク質または上記断片の融合原性能力が、シンシチウムの形成を示すことによって検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
レトロウイルスは、その表面に上記ウイルスによってコードされる糖タンパク質スピキュールを有するエンベロープ化ウイルスである。これらのエンベロープ糖タンパク質は、ポリタンパク質前駆体(プレenv)の形態で合成され、次いで細胞プロテアーゼによって成熟表面(SU)タンパク質及び膜貫通(TM)タンパク質に切断される。エンベロープ糖タンパク質は、宿主細胞内へのウイルスの侵入に関与する。それらは細胞表面レセプターを特異的に認識して結合し、ウイルスエンベロープと宿主の細胞膜の融合のために必要である。上記レセプターとエンベロープは、マルチマーまたはオリゴマー分子である。全てのエンベロープ化ウイルスについて、細胞レセプターとエンベロープ糖タンパク質の相互作用は、上記融合ペプチドをさらすために必要とされるエンベロープの構造的な再配置を導く。上記融合は、細胞の表面または細胞ベシクルにおいて生じ、ビリオンのエンドサイトーシスの経路に依存する。さらに、ウイルスの侵入を可能にするため、ウイルス表面タンパク質によって介在される融合は、特定の条件の下で細胞と細胞の融合を生じ、巨大多核細胞またはシンシチウムの形成を引き起こす。シンシチウムの形成は、少なくとも二つの経路を介して生じる:ビリオンが二つの細胞と同時に融合し、その場合は"from without"で融合がなされると称され、またはその表面でエンベロープ糖タンパク質を発現する感染細胞が、隣接する細胞と融合する("from within"での融合)。
【背景技術】
【0002】
"from without"での融合の工程の間での、エンベロープの決定因子及びエンベロープにおける構造的変化を生じる現象の順列はオルトミクソウイルスについて十分に解説されており、上記ウイルスは、侵入のためにエンドサイトーシスベシクルにおいて酸性環境を必要とする(Skehel, J.J.等, PNAS, 79: 968-972 (1982))。レトロウイルスは、侵入のための経路がpHに依存せず、正確な決定因子及び融合の活性化のためのレセプターの認識から生ずる工程は、まだ十分に説明されていない。ネコ白血病ウイルス、マウス乳腺ガンウイルス、鳥類細網内皮症ウイルス、HIV及びSIVのような他のレトロウイルスは、細胞と細胞の融合("fusion from within")を誘導することが周知である。
【0003】
さらに、Fefferey S.及びRex Risser (Journal of Virology, 1993年1月, p. 67-74)は、野生型エコトロピック齧歯類白血病ウイルス(MuLV)のエンベロープ糖タンパク質が、ウイルスLTRの制御の下で、ビリオンの不存在下でラットXC細胞においてシンシチウムの形成を誘導可能であることを示している("from within"での融合)。
【0004】
本発明者の知見では、ヒト内因性レトロウイルスのエンベロープ糖タンパク質は、"from within"での融合の工程における融合原性能力を有することはまだ示されていない。
【0005】
ある論者は実際に、MLV(モロニー白血病ウイルス)に近いヒト内因性レトロウイルスであるERV3の内因性レトロウイルスエンベロープが、in vivoで融合の工程を解して胎盤の発達に関与しているという仮説をうち立てているが(Patrick J.W. Venables等, Virology, 211, 589-592 (1995))、この仮説はin vitroでは示されていない。さらに、コーカサス人起原の患者におけるERV3 envの多型に関する研究により、ERV3エンベロープの(SU)領域中の一つのミューテーションの存在を示すことが可能であり、それは研究された人口の1%においてホモ接合状態で存在する早期の停止コドンを生ずるが、これらの患者は、妊娠の異常または胎盤形成の発達の異常を示すことがなく(Nathalie de Parseval and Thierry Heidmann, Journal of Virology, Vol. 72, No. 4, pages 3442-3445 (1988))、これは以前にうち立てられた仮説に対して疑念を投げかける。
【非特許文献1】Skehel, J.J.等, PNAS, 79: 968-972 (1982)
【非特許文献2】Fefferey S.及びRex Risser (Journal of Virology, 1993年1月, p. 67-74)
【非特許文献3】Patrick J.W. Venables等, Virology, 211, 589-592 (1995)
【非特許文献4】Nathalie de Parseval and Thierry Heidmann, Journal of Virology, Vol. 72, No. 4, pages 3442-3445 (1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、in vitroで、プロモーター、好ましくは異種プロモーターの制御の下で発現された、非修飾HERV-Wエンベロープ糖タンパク質が、融合原性の特性を有することを示した。
【0007】
HERV-Wは、最近記載された、ヒト内因性レトロウイルスのマルチコピーファミリーであり、逆転写プライマーについての結合部位と、Trp tRNAを使用する鳥類レトロウイルスの結合部位の間のホモロジーのためこのように称されている。その複製のための十分な存在は記載されていない。プロモーター領域の機能性は確認されており、試験された各種の健康なヒト組織の中で、ノーザンブロットによってその発現は胎盤に制限されているようである(J.L. Blond等, Journal of Virology, Vol. 73, No. 2, pages 1175-1185 (1999))。潜在的な機能的レトロウイルスエンベロープをコードする単一のオープンリーディングフレームが、第7染色体に存在する。ゲノムの転写産物に相当し、エンベロープの完全な配列を有すると予想されるcDNAクローンが、胎盤材料から単離されている(クローンcl.PH74、GenBank AF072506、その配列は配列番号2によって同定される)。タンパク質レベルで実施された系統発生的研究により、上記エンベロープタンパク質はタイプDであることが示される。それ故本記載の最後に示された配列番号2の配列は、クローンcl.PH74の完全なcDNAヌクレオチド配列に対応し、そのタンパク質配列は、配列番号1によって同定される。
【0008】
Env HERV-Wは、レトロウイルスエンベロープの全ての「特徴」を有する:特に、リーダーペプチド、及びフリン切断部位によって分離された二つの特徴的サブユニットSUとTM、及びTMにおいて疎水性融合ペプチドを有すること、免疫抑制領域、及び長い細胞質テールが引き続く膜貫通カルボキシル領域。Env HERV-Wの発現は、胎盤において示されている。
【0009】
本発明者によって実施された実験は、Env HERV-Wは、細胞と細胞の融合により、ヒト及びサル起原の試験された各種の細胞系において、シンシチウムの形成を生ずることを示す。観察された融合現象は、トランスフェクションにおいて直接的に、及び他の細胞タイプとのトランスフェクトされた細胞の共培養において間接的に示されるように、特異的なレセプターの認識に依存的である。さらに本発明者は、Env HERV-W以外のエンベロープタンパク質で細胞レセプターをブロックし、かくしてシンシチウムの形成を妨げることによって、レトロウイルスエンベロープの妨害の特性に基づいた競合的なアプローチを使用して、Env HERV-Wに対する特異的なレセプターを同定した。本発明者によって同定されたレセプターは、ヒト細胞において発現される、タイプD哺乳動物レトロウイルスに対するhATBOレセプターである。(Rasko E.J.等, PNAS, 1999, 96: 2129-2134、及びTailor C.S.等, J. Virol., 1999, 73(5): 4470-4474)。実施例の一つにその説明のための方法が記載されているように、このレセプターの使用は、本発明の一部でもある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かくして、本発明の一つの主題は、ヒト内因性レトロウイルスのエンベロープタンパク質またはポリペプチドの発現を検出するための方法であり、本発明の方法に従って、上記タンパク質またはポリペプチドは、配列番号1の配列または配列番号1の断片を含むポリペプチド配列を有し、あるいは配列番号1の配列または配列番号1の断片と、いずれかの一連の20アミノ酸について、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらには少なくとも95%の同一性を示す配列を有し、且つ本発明の方法に従って、細胞組織または細胞培養物の細胞における上記タンパク質または上記断片の融合原性能力が、シンシチウムの形成を示すことによって検出される。
【0011】
本発明の別の主題は、ヒト内因性レトロウイルスのエンベロープタンパク質またはポリペプチドの発現を検出するための方法であり、本発明の方法に従って、上記タンパク質またはポリペプチドは、配列番号1の配列と、いずれかの一連の20アミノ酸について、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらには少なくとも95%の同一性を示すポリペプチド配列を有し、且つ本発明の方法に従って、細胞組織または細胞培養物の細胞における上記タンパク質の融合原性能力が、シンシチウムの形成を示すことによって検出される。
【0012】
本発明に従って、上記タンパク質または上記ポリペプチドは、配列番号1の配列または配列番号1の断片を含むポリペプチド配列を有し、あるいは配列番号1の配列または配列番号1の断片と、いずれかの一連の20アミノ酸について、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらには少なくとも95%の同一性を示す配列を有する。
【0013】
本発明に従って、上記タンパク質または上記ポリペプチド、または上記その断片が、配列番号1またはその断片と完全な同一性を示さないのであれば、それらは好ましくは、配列番号1またはその断片のものと少なくとも同等またはそれより大きい融合原性能力を有するべきであることは、明らかに理解される。
【0014】
もし、本発明のタンパク質またはポリペプチドの断片が、配列番号1の断片と完全な同一性を示すのであれば、これらの断片のサイズは20未満のアミノ酸であっても良く、例えばそれは約10アミノ酸、または約5アミノ酸であっても良い。
【0015】
上記タンパク質またはポリペプチド、またはそれらの断片のポリペプチド配列において、本発明に従って考慮されるバリエーションは、多型に結びついたバリエーションを含むが、特に配列番号1またはその断片のものと少なくとも同等またはそれ以上の融合原性能力を有するタンパク質、ポリペプチド、またはその断片を得るために、上記ポリペプチド配列内に導入された置換、欠失及び挿入のような修飾をも含む。
【0016】
多型分析は、SSCP(一本鎖配座多型)法によって実施されても良く、上記方法は、二つの短い配列(250bp未満)を識別する少なくとも一つのミューテーションの存在を、移動の差異を使用して客観化することが可能な電気泳動法である。かくして、図4に説明されるように、プライマーU6198とL6186、またはU6189とL6186を使用する全DNAに対する増幅の後、適切なサイズの10のオーバーラップする断片のセットを生産可能である、示されたプライマーのセット(U6302からL6321)を使用して、第7染色体上に位置するエンベロープの多型を分析することが可能である。サブ断片の一つの多型は、配列決定、マッピング、及び/または制限酵素法によって適切なように示されても良く、またはより単純に、ポイントミューテーションと同程度小さい識別を可能にするELOSAタイプのサンドイッチハイブリダイゼーション法によって示されても良い(Cros P.等, 欧州特許出願EP 0 486 661)。
【0017】
多型Env HERV-W配列の例が、添付された図1に示されており、対応するDNA配列が図2に示される。これらの図面は、3の異なる患者から由来するクローンの配列決定によって得られたタンパク質と核酸配列の整列を示す。
【0018】
さらに、第7染色体上に位置するenv遺伝子の転写に向けたLTRの多型が研究された。二つの群の5' LTRが観察され、その核酸配列で、2の異なる患者から由来する2のクローンの配列決定によって得られたものが、図3に示され整列されている。
【0019】
プライマーの賢明な選択は、U6198及びL6186プライマーを使用して、U3RU5-gag-pol-env-U3RU5の全ての情報を含む核酸断片を、全ヒトDNAから、第7染色体上で特異的に増幅することを可能にし、または限定的に、env-U3RU5配列については、U6189及びL6186プライマーを使用する。上記アプローチは例えば、レトロウイルス配列(U3上流、U5下流)が、連続する非レトロウイルス隣接配列と結合する領域をオーバーラップするプライマーを使用して可能である。例えば、L6186プライマーは、末端3' U5領域と下流の非レトロウイルス配列をオーバーラップする。ヒトゲノムに存在するHERV-W配列の混合物から興味ある配列を単離する上記PCR産物を使用して、多型の分析を実施することが可能である。
【0020】
好ましくは上記タンパク質は、以下の特徴の少なくとも一つを有する:
− HERV-W内因性レトロウイルスのenv遺伝子によってコードされる;
− ヒトゲノムの第7染色体上に位置する一つのオープンリーディングフレームによってコードされる;
− 配列番号1の配列を含むポリペプチド配列、またはいずれかの一連の20アミノ酸について、配列番号1と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらには少なくとも95%の同一性を示す配列を有する。好ましくは、配列番号1より成る。
【0021】
好ましくは上記ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸448で開始し、アミノ酸538で終結するポリペプチド配列を有し、またはいずれかの一連の20アミノ酸について、配列番号1のアミノ酸448で開始し、アミノ酸538で終結するポリペプチド配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらには少なくとも95%の同一性を示すポリペプチド配列を有する。好ましくはそれは、配列番号1のアミノ酸448で開始し、アミノ酸538で終結するポリペプチド配列より成る。上述の定義に対応するポリペプチドは、細胞−細胞融合試験において融合原性であると考慮されないレトロウイルスエンベロープに、またはそれに対して、その融合原性能力を与えるまたは回復可能な調節エレメントである。
【0022】
融合原性能力の提示が求められる、上記組織または上記細胞培養物の細胞は、骨細胞、筋細胞、胎盤細胞、内皮細胞、特に血管の内皮細胞、上皮細胞、グリア細胞、及び腫瘍細胞または腫瘍細胞系から由来する細胞から有利に選択される。
【0023】
以下の実施例において説明されるように、上記タンパク質または上記ポリペプチドの融合原性能力の検出は、以下の二つのプロトコールの少なくともいずれか一方に従って実施されても良い。
【0024】
第一のプロトコールに従って、上記タンパク質または上記ポリペプチドの発現のためのベクターが得られ、それに基づいて、上記タンパク質、ポリペプチド、またはその遺伝子の発現が、プロモーター、好ましくは強力なプロモーターの制御の下に配置される;細胞を得られたベクターでトランスフェクトし、その表面で上記タンパク質または上記ポリペプチドを発現するプロデューサー細胞を得る;並びにシンシチウムの形成、またはシンシチウムの形成の不存在を観察する。
【0025】
第二のプロトコールに従って、上記タンパク質または上記ポリペプチドの発現のためのベクターが得られ、それに基づいて、上記タンパク質、ポリペプチド、またはその遺伝子の発現が、プロモーター、好ましくは強力なプロモーターの制御の下に配置される;細胞を得られたベクターでトランスフェクトし、その表面で上記タンパク質または上記ポリペプチドを発現するプロデューサー細胞を得る;表面で上記タンパク質のレセプターを発現する未処理のインディケーター細胞を、上記プロデューサー細胞の存在下で共培養する;並びにシンシチウムの形成、またはシンシチウムの形成の不存在を観察する。
【0026】
本発明はまた、治療用または予防用の組成物の調製のための、発現を可能にする適切な条件下での、本発明の主題である方法の記載において上述されたような、タンパク質またはポリペプチドをコードする、遺伝子または核酸の使用、あるいは遺伝子または核酸の断片の使用に関する。
【0027】
本発明の別の主題は、上述のタンパク質またはポリペプチドをコードする、遺伝子または核酸、あるいは遺伝子または核酸の断片を含む、治療用または予防用の組成物である。
【0028】
上記組成物は、上記タンパク質または上記ポリペプチドの発現のための、異種または自己プロモーター、好ましくは異種プロモーターを含んでも良い。
【0029】
本発明はまた、以下の主題に関する:
− 上述のようなタンパク質またはポリペプチドをコードする、少なくとも一つの遺伝子または核酸、または遺伝子または核酸の断片と、宿主細胞におけるその発現に必要とされるエレメントとを含む発現ベクター;
− 本発明の少なくとも一つの発現ベクターを含む宿主細胞、並びに
− 本発明の少なくとも一つの発現ベクターまたは宿主細胞を含む、治療用または予防用の組成物。
【0030】
本発明の各種の治療用の組成物は、シンシチウムの形成によってガン細胞を破壊することによるような、ガンの治療のために特に企図される。本発明の各種の予防用の組成物は、胎盤の発達における欠陥を妨げるために特に企図される。
【0031】
上述のような本発明の治療用または予防用の組成物は、一般的に「遺伝子治療による治療」または「遺伝子トランスファーによる治療」と称される治療のために有利に企図される。
【0032】
上述のように、本発明において定義されるような、Env HERV-Wタンパク質の、Env HERV-Wポリペプチドの、またはその断片の融合原性能力は、ガンの遺伝子治療の領域における応用が特に見出される。
【0033】
今日まで、ガンに対する治療において最も一般的に使用されている遺伝子は、(i)プロ炎症性サイトカインのような、腫瘍細胞の免疫原性を増大するタンパク質をコードする遺伝子、(ii)単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ/ガンシクロビル系またはシトシンデアミナーゼ/5FC系のような、遺伝子/プロドラッグ系におけるプロ医薬に対してガン細胞を感受性にする酵素をコードする遺伝子である。
【0034】
理想的には、治療遺伝子のトランスファーは、ガン細胞の局所的な破壊と、治療遺伝子を輸送できない腫瘍領域を除去するために、抗腫瘍免疫性の活性化の両者を導くべきであり、上記治療は、宿主の正常な細胞組織、特に生命維持に必要な器官の組織に損傷を引き起こすべきではない。
【0035】
Env HERV-Wタンパク質またはその断片、特に配列番号1のアミノ酸448で開始し、アミノ酸538で終結する断片を含むまたはそれらより成る、あるいはいずれかの一連の20アミノ酸について、配列番号1または配列番号1の断片と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらには少なくとも95%の同一性を有するポリペプチド配列を含むまたはそれらより成る、本発明のタンパク質またはポリペプチド、及び特に上述の断片は、その発現を誘導可能な異種または自己プロモーターの制御の下で、シンシチウムの形成によって上述の指標に対応する。シンシチウムは、細胞と細胞の融合の工程によって、一つ以上のトランスフェクトされた細胞から形成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
治療上の特徴を最適化する観点での一つの実施態様として、本発明のタンパク質またはポリペプチド、またはいずれかの断片は、本質的に上述の指標に対応する限り、一つ以上の他のタンパク質またはタンパク質断片と任意に融合される。他方で、上記タンパク質の全てまたは一部、特に配列番号1のアミノ酸448で開始し、アミノ酸538で終結する配列を含むまたはその配列より成るポリペプチドまたはペプチド配列は、それらに特定の特性を与える観点から、他のタンパク質と融合されても良い。本発明のタンパク質またはポリペプチド、またはその断片は、中性に近いpHまたは中性pHで、シンシチウムの形成を誘導可能である。典型的に、発現ベクターまたはプラスミドは、シンシチウムの形成を誘導するタンパク質、ポリペプチドまたは断片の発現を可能なように調節され、それが発現された場合に、上記タンパク質、ポリペプチドまたは断片は、他の非トランスフェクト化ヒト細胞とトランスフェクト化細胞の融合を誘導するであろう。他のウイルス構成成分がベクター形成のために有用でなければ、本発明のタンパク質またはポリペプチドを、これらの構成成分と独立して発現することが所望される。
【0037】
かくして、本発明の一つの主題は、組換え生産され、トランスフォーム化細胞と標的悪性細胞の融合により、シンシチウムの形成を誘導する本発明のタンパク質、ポリペプチドまたは断片をコードする遺伝子または核酸、あるいは遺伝子または核酸の断片であり、並びにガンのような悪性疾患に対する治療の領域におけるその使用である。
【0038】
本発明はまた、組換え生産され、トランスフォーム化細胞と標的悪性細胞の融合により、シンシチウムの形成を誘導する本発明のタンパク質、ポリペプチドまたは断片をコードする遺伝子または核酸、あるいは遺伝子または核酸の断片を患者に投与することより成る、患者における悪性疾患を治療するための方法に関する。
【0039】
上記遺伝子または核酸、あるいは遺伝子または核酸の断片は、トランスフェクション、トランスダクション、またはトランスフォーメーションのような当業者に周知の標準法によって、不朽化した連続的な系の細胞のような適切なヒト細胞中にin vitroで導入され、次いでかくしてトランスフォームされた細胞が患者内に導入され、そこでそれらが融合原性の特性を発揮しても良い。
【0040】
本発明の遺伝子または核酸、あるいは遺伝子または核酸の断片は、ガンの治療のために、特に固いまたは柔らかいガンの治療のために、各種の態様で使用されても良い。標的細胞は、本発明のポリペプチドをコードするベクター(プラスミド)で、ex vivoまたはin vivoでトランスフォームされても良い。
【0041】
本発明において定義されるようなEnv HERV-Wタンパク質、Env HERV-Wポリペプチド、またはそれらの断片の融合原性特性はまた、胎盤の発達の欠陥を妨げ、妊娠の失敗を解消するために、予防の領域における応用も見出される。
【0042】
それ故、本発明において定義されるような遺伝子または核酸またはその断片は、各種の治療用または予防用の効果のために使用されても良く、究極的な目的は以下のものである:(i)アポトーシスによる細胞死以外の死の工程によって、標的細胞における細胞死を誘導するシンシチウムの形成により、標的細胞を破壊すること、または(ii)例えば妊娠の間の合胞体層の形成における欠陥を解消するため、またはシンシチウムのいずれかの他のタイプの自然な形成における欠陥を妨げるため、シンシチウムの形成を誘導または促進すること、ここで上記の欠陥は、病理と関連する。
【0043】
本発明はまた、遺伝子治療ベクターの表面での、上述のようなEnv HERV-Wタンパク質またはEnv HERV-Wの断片の使用に関し、上記遺伝子治療ベクターは、標的細胞内で発現可能である、または標的細胞から由来する相補的ヌクレオチド配列にハイブリダイズ可能である、治療上興味ある遺伝子、核酸配列またはオリゴヌクレオチドを特に含み、上記Env HERV-Wタンパク質またはこのタンパク質の上記断片は、上述の細胞レセプターと相互作用し、かくして治療上興味ある遺伝子、核酸配列またはオリゴヌクレオチドの標的細胞内への導入を促進する。
【0044】
かくして本発明は、ヒト内因性レトロウイルスのエンベロープタンパク質、ポリペプチドまたは断片を含む遺伝子治療ベクターに関し、上記タンパク質または上記ポリペプチドは、配列番号1の配列または配列番号1の断片、特に配列番号1のアミノ酸448で開始し、アミノ酸538で終結するペプチド配列の断片を含むポリペプチド配列を有し、または特に上述のような、いずれかの一連の20アミノ酸について、配列番号1の配列または配列番号1の断片と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらには少なくとも95%の同一性を示す配列を有する。好ましくは、本発明の遺伝子治療ベクターは、配列番号1の配列を含む。本発明の特定の実施態様として、上述の遺伝子治療ベクターは、MLVタイプの伝統的なレトロウイルスベクター、または上述のようなHERV-Wのエンベロープタンパク質の全てまたは一部を有するレンチウイルスベクターシュードタイプ、または別法として、細胞標的化及び細胞膜融合の特性を与える上述のようなEnv HERV-Wタンパク質の全てまたは一部を表面に有する合成ベクターより成る。
【0045】
本発明はまた、特に構成的なまたは誘導的な態様で、配列番号1に同定されたタンパク質を生産する標的細胞のための、配列番号1に同定されるタンパク質に対するレセプターをその表面で含む遺伝子治療ベクターに関する。
【0046】
治療上興味ある核酸配列及び/またはオリゴヌクレオチド(アンチセンスタンパク質またはタンパク質をコードするもの)は、特に遺伝子を発現する細胞を標的化可能である。
【0047】
アンチセンス核酸配列またはオリゴヌクレオチドは、標的のmRNAにおけるアンチセンスの位置に依存して、ポリソームの形成及び/または機能化を阻害することによって、標的タンパク質の合成を特異的に妨げることが可能である。それ故、アンチセンス核酸配列またはアンチセンスオリゴヌクレオチドによる阻害のための標的として、翻訳開始コドンを取り囲む配列を一般的に選択することは、開始複合体の形成を妨げることを目的とする。アンチセンスオリゴヌクレオチドによる阻害の他のメカニズムは、アンチセンスオリゴヌクレオチド/mRNAハイブリッドを切断するリボヌクレアーゼHの活性化、またはmRNAスプライシング部位である標的を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドによるスプライシング部位の妨害を含む。アンチセンスオリゴヌクレオチドはDNA配列に相補的でもあり、それ故3本鎖を形成することによって転写のレベルで妨害しても良く、この場合アンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA2本鎖の大きな隙間のレベルで「ホッグスティーン」("Hoogsteen")水素結合を介してペアリングする。この特定の場合、抗遺伝子オリゴヌクレオチドに対して、より正確な参考文献が存在する。アンチセンス核酸配列またはオリゴヌクレオチドは、それらがハイブリダイズしなければならないDNAまたはRNA標的に対して厳しく相補的であるが、それらが標的にハイブリダイズする条件ではそれほど相補的ではないことが、明らかに理解されている。同様に、それらは、ヌクレオチド内部結合のレベルで修飾されてもされなくても良い、アンチセンスオリゴヌクレオチドであっても良い。これらの概念の全ては、当業者の一般的な知見の一部である。
【0048】
それ故本発明は、遺伝子治療ベクター、上述のようなEnv HERV-Wタンパク質またはこのタンパク質の断片、及び上述のようなアンチセンス核酸配列またはオリゴヌクレオチドを特に含む、治療用の組成物に関する。
【0049】
Env HERV-Wタンパク質またはその断片の一つは、標的細胞内への治療上興味ある遺伝子のトランスファーのための治療用ベクターとして使用され、少なくとも一つの遺伝子治療ベクター、上述のようなEnv HERV-Wタンパク質またはこのタンパク質の断片、及び治療上興味ある遺伝子、並びに治療上興味ある上記遺伝子の発現を可能にするエレメントを含む治療用の組成物を形成しても良い。治療上興味ある遺伝子は、ミューテーションされていてもいなくても良い。それらはまた、標的細胞のゲノム内へのインテグレートを不可能にするように修飾された核酸より成っても良く、またはスペルミンのような薬剤で安定化された核酸より成っても良い。
【0050】
用語、「in vivoで治療上興味ある上記遺伝子の発現を確保するエレメント」は、特に標的細胞内へトランスファーされた後、上記治療上の遺伝子の発現を確保するために必要なエレメントを指す。それらは、特に上記細胞において有効であるプロモーター配列及び/または調節配列であり、任意に標的細胞の表面でポリペプチドの発現を可能にするのに必要とされる配列である。使用されるプロモーターは、ウイルス性、偏在的、または組織特異的プロモーターでも良く、あるいは合成プロモーターでも良い。
【0051】
例として、RSV(ラウス肉腫ウイルス)、MPSV、SV40(サルウイルス)、CMV(サイトメガロウイルス)、またはワクシニアウイルスプロモーターのようなプロモーターが挙げられる。所定の細胞タイプに特異的な、または所定の条件下で活性化可能なプロモーター配列を選択することも可能である。文献は、上記プロモーター配列に関する非常に詳しい情報を提供する。
【0052】
別の実施態様として、治療用の組成物における、上述のようなEnv HERV-Wタンパク質またはこのタンパク質の断片を発現する細胞の、サイズが大きい一つ以上の遺伝子のためのビヒクルとしての使用が挙げられ、上記タンパク質またはその断片の融合原性特性のため、一つ以上の所定の遺伝子を欠損した宿主細胞とベクター細胞を融合させることが可能であり、かくして欠損した遺伝子を補うことが可能である(例:ジストロフィー)。
【0053】
それ故本発明は、上記細胞、及び細胞ベクターとしてのその使用にも関する。
【0054】
本発明のタンパク質またはポリペプチド、あるいはそれらの断片の融合原性特性または融合原性能力は、医薬的物質または薬剤、あるいは遺伝子/プロドラッグ系を、上記タンパク質または上記ポリペプチドまたは上記断片を発現する細胞培養物の細胞と接触させ、シンシチウムの形成の抑制または消失を観察することによる、融合原性能力に対する質的及び/または量的な効果を有することが可能な、医薬的物質または薬剤、あるいは遺伝子/プロドラッグ系の有効性を試験し、且つそれらを選択する方法においても使用され、天然状態でのシンシチウムの形成は、病理学的状況と関連すると解される。例として、出血性の現象、ニューロン細胞の破壊または変性、及び骨芽細胞の悪化した変性または破壊が挙げられる。
【0055】
本発明はまた、上述のようなタンパク質またはポリペプチドまたは断片の融合原性能力に対する質的及び/または量的な効果を有することが可能な、医薬的物質または薬剤、あるいは遺伝子/プロドラッグ系を選択するための方法に関する。この方法に従って、上記医薬的物質または薬剤、あるいは遺伝子/プロドラッグ系は、上記タンパク質または上記ポリペプチドまたは上記断片を発現する細胞培養物の細胞と接触され、シンシチウムの形成の抑制または消失が観察される。
【0056】
本発明はまた、上述の指標に対応し、且つEnv HERV-Wタンパク質にハイブリダイズし、その合成を特異的に妨げることが可能な少なくとも一つのアンチセンス核酸配列または少なくとも一つのアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用、並びに病理学的状況と関連するシンシチウムの抑制または消失をin vivoで得ることを目的とした、上記アンチセンス核酸配列またはオリゴヌクレオチドを特に含む治療用の組成物に関する。
【0057】
病理学的状況と関連するシンシチウムの形成の抑制またはシンシチウムの消失をin vivoで得ることを目的として、上述のレセプターを認識可能であり、シンシチウムの形成の工程を不活性化または阻害可能なリガンドを特に含む治療用の組成物が調製され、あるいは標的細胞または所定の標的細胞組織においてin vivoで発現され得るリガンドをコードする遺伝子を含む組成物が調製され、上記遺伝子は、標的細胞または細胞組織内へトランスファーされた後、発現を確保する必要とされるエレメントのコントロールの下に存在する。
【0058】
かくして用語、「リガンド」は、上記レセプターを認識可能で、及び/またはその機能を阻害可能であるいずれかの分子を意味するように企図される。それは特に、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体、あるいはモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体断片であっても良い。それはまた、上記レセプターの機能を阻害する分子であっても良く、そのアフィニティー定数は、上記レセプターに対する結合及び付着のためのEnv HERV-Wタンパク質のものより大きいであろう。
【0059】
ポリクローナル及びモノクローナル抗体の生産は、当業者の一般的な知見の一部である。参考として、モノクローナル抗体の生産についてKohler G.及びMilstein C. (1975): Continuous culture of fused cells secreting antibody of predefined specificity, Nature 256: 495-497、並びにGalfre G.等 (1977) Nature, 266: 522-550、並びにポリクローナル抗体の生産についてRoda A, Bolelli G.F.: Production of high-titer antibody to bile acids, Jounal of Steroid Biochemistry, Vol. 13, pp 449-454 (1980)が挙げられる。モノクローナル抗体の生産について、免疫原は、免疫化のための支持体としてキーホールリンペットヘモシアニン(KLHペプチド)に、または血清アルブミン(SAペプチド)に接合されても良い。動物は、完全フロイントアジュバントを使用して免疫原の注射を与えられる。免疫化された動物から由来する血清及びハイブリドーマ培養上清を、例えばELISAまたはウエスタンブロットアッセイのような従来法を使用して、その特異性及びその選択性について分析する。最も特異的で最も感受性である抗体を生産するハイブリドーマを選択する。モノクローナル抗体はまた、生産されたハイブリドーマの細胞培養によってin vitroで、またはマウス内へのハイブリドーマの腹膜内注射の後、腹水液の回収によって生産されても良い。上清によるまたは腹水によるといった生産の方法がなんであれ、次いで抗体は精製される。使用される精製法は、必須にイオン交換ゲル濾過、及び排除クロマトグラフィーまたは免疫沈降である。最も有効なものを同定するのに十分な抗体の数が、機能的なアッセイにおいてスクリーニングされる。抗体、抗体断片、または遺伝学的操作によって生産されるキメラ抗体のような抗体誘導体のin vitro生産は、当業者に周知である。
【0060】
とりわけ、用語、「抗体断片」は、天然の抗体のF(ab)2、Fab、Fab'またはsFv断片(Blazar等, 1997, Journal of Immunology 159: 5821-5833及びBird等, 1988, Science 242: 423-426)を意味するように企図され、用語、「誘導体」は、特に天然の抗体のキメラ誘導体を特に意味するように企図される(例えばArakawa等, 1996, J. Biochem 120: 657-662及びChaydray等, 1989, Nature 339: 394-397参照)。
【0061】
上述のように、遺伝子治療は、上記リガンドをコードする少なくとも一つの遺伝子を含む治療用の組成物を投与することによって、in vivoで上記リガンドを発現する可能性を開く。治療上興味ある上記遺伝子は特に、(i)抗体または抗体断片が、組織の標的細胞または標的細胞類の表面でin vivoで発現され、上記レセプターを認識してそれに結合できることを条件に、少なくとも一つのポリクローナルまたはモノクローナル抗体、モノクローナルまたはポリクローナル抗体断片、あるいは天然膜貫通抗体または上記抗体の断片をコードし、あるいは(ii)上述のような少なくとも一つの阻害分子をコードする。
【0062】
上述のような用語、「標的細胞」または「組織の標的細胞」は、(i)シンシチウムの形成を妨げるまたは阻害するように機能することを企図したレベルの細胞、または(ii)これら以外のものであるが、リガンドを発現可能で、その結果上記レセプターの機能的活性を阻害及び/またはブロック可能な細胞のいずれかを意味するように企図される。
【0063】
用語、「上記遺伝子のin vivoでの発現を確保するエレメント」は、特に標的細胞内にトランスファーされた後に、発現を確保するのに必要とされるエレメントを指す。それらは特に、上記細胞において有効であるプロモーター配列及び/また調節配列、並びに任意に上述のような阻害ポリペプチドまたは分子の表面での発現を可能にするのに必要とされる配列である。使用されるプロモーターは、ウイルス性、偏在的または組織特異的プロモーター、あるいは合成プロモーターであっても良い。上記プロモーターの例は、上述の通りである。
【0064】
用語、「膜貫通抗体」は、上記レセプターを認識し結合可能な少なくとも機能的な領域が、認識及び結合を可能にするように標的細胞の表面で発現される抗体を意味する。上記抗体は、機能的な領域を規定するアミノ酸配列と、標的細胞の膜の脂質二重層内に、また箱の脂質二重層の外側表面に埋め込むことを可能にする膜貫通ポリペプチドを規定するアミノ酸配列とを含む融合ポリペプチドより成っても良い。上記膜貫通抗体をコードする核酸配列は、文献に記載されている。
【0065】
用語、「遺伝子または核酸配列またはそれらの断片」は、(i)酵素的切断によって得られる単離された天然遺伝子または核酸またはそれらの単離された断片、あるいは(ii)Applied Biosystemsによって販売されている合成器のような自動合成器を使用する化学的合成によって得られる遺伝子または核酸またはそれらの断片を意味するように企図される。
【0066】
用語、「腫瘍細胞」は、(i)不朽化細胞系の細胞、または(ii)患者から取り出された一次腫瘍細胞を意味するように企図される。
【0067】
用語、「自己プロモーター」は、機能的である条件でのHERV-Wの5' LTRを意味するように企図され、用語、「異種プロモーター」は、機能的な条件での、任意に修飾された、ウイルス、レトロウイルスまたは細胞起原のHERV-Wファミリーに属しないいずれかのプロモーターを意味するように企図される。有利には自己または異種プロモーターは強力なプロモーターである、即ち、それは上記タンパク質またはポリペプチドの量的に有意な発現を誘導可能である。
【0068】
Env HERV-Wタンパク質の融合原性能力はまた、異種または同種移植片の場合、または細胞修復工程において、細胞の接着の工程を促進するために使用されても良い。
【実施例】
【0069】
実施例1
細胞系:
TELCeB6系(Cosset等, Jounal of Virology, 69(12): 7430-7436 (1995))は、MoMLV(モロニー齧歯類白血病ウイルス)タイプのGag及びPolタンパク質を生産するように企図された発現プラスミドのトランスフェクション及びクローン選択の後の、TELac2系から由来する。TELac2系は元々、ヒト横紋筋肉腫細胞TE671(ATCC CRL 8805)から由来し、nlsLacZレトロウイルスレポーターベクターを発現する(Takeushi等, Jounal of Virology, 68(12): 8001-8007 (1994))。TELCeB6細胞による感染性レトロウイルス粒子の生産は、トランスフェクトされたエンベロープ発現ベクターに依存する。
【0070】
細胞を、10%の胎児ウシ血清(Life Technologies)を含むDMEM培地(ダルベッコ修飾イーグル培地−Life Technologies)で培養する。一般的にこの培地は、全ての他の細胞系、即ちTE671(ATCC CRL 8805−ヒト横紋筋肉腫)、A-431(ATCC CRL-1555−固化腫瘍、ヒト類表皮カルシノーマ)、HeLa(ATCC CCL-2)、COS(ATCC CRL-1651)、PAE(ブタ大動脈内皮細胞)、XC(ATCC CCL-165−ラット肉腫)、NIH-3T3及びQTB(ATCC CRL-1708)細胞に対して使用された。
【0071】
エンベロープ発現ベクターの構築:
pHCMVプラスミドを、env HERV-Wの発現のために使用した。FBASALF-ARlessプラスミドを、融合のためのポジティブコントロールとして使用した;それは細胞質内ペプチドp2-Rの最初のアミノ酸の前に停止コドンを導入することによって修飾された、両栄養性MLVエンベロープ糖タンパク質の高融合原性形態を生産する(Rein等, Jounal of Virology, 68(3): 1773-1781 (1994))。pHCMVプラスミド内でアンチセンス方向でクローン化されたenv HERV-Wを、ネガティブコントロールとして使用した。
【0072】
トランスフェクション及び細胞と細胞の融合試験(共培養):
エンベロープ糖タンパク質発現プラスミドを、リン酸カルシウム沈降によってTELCeB6細胞内にトランスフェクトする(Cosset等, Jounal of Virology, 69(10): 6314-6322 (1995))。Envを発現する集合したTELCeB6細胞を、トランスフェクション後の24時間PBS中の0.5%グルタルアルデヒドで固定する。次いでMay-Grunwald及びGiemsa溶液(MERCK)での染色を、供給者の推奨に従って実施する。それは核を紫に、細胞質を藤色に染色し、シンシチウムの視覚化を可能にする。
【0073】
共培養実験のため、トランスフェクトされた細胞を支持体からはぎ取り、計数し、次いで6穴プレートに等しい濃度(3×10細胞/ウェル)で蒔く。次いで新鮮なインディケーター細胞をウェル当たり10でトランスフェクト化細胞に加え、共培養を24時間継続させる。XGal(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド)染色を、TELCeB6細胞の核を染色するために実施しても良い(Cosset等, Jounal of Virology, 69(10): 6314-6322 (1995))。それに引き続き、供給者の推奨に従って、May-Grunwald及びGiemsa溶液(MERCK)での染色を実施する。
【0074】
ほとんどのシンシチウムは、トランスフェクションの開始の後18から24時間で観察できる;細胞の進行性の脱着は、トランスフェクションの後36時間で観察または染色をもはや可能にしない。観察された融合は、ビリオン−細胞の融合に引き続くシンシチウムの形成に対応する"from without"での融合に対して、エンベロープを発現する細胞に基づく細胞と細胞の融合である"from within"での融合に対応する。
【0075】
以下の表1は、ARlessコントロールエンベロープのものと比較した、直接的なトランスフェクションによるEnv HERV-Wの細胞と細胞の融合のための能力に関して得られた結果を与える。TELCeB6及びTE671細胞は、ヒト起原の系に対応する。COS細胞は、ミドリザル腎細胞である。XC細胞はラット細胞である。
【0076】
【表1】

融合インデックスは、(N-S)/Tのパーセンテージに対応し、Nはシンシチウムにおける核の数であり、Sはシンシチウムの数であり、Tは計数された核の全数である。inn.は「ネットワーク」を形成して計数不可能なことを表す。
【0077】
表1は、Env HERV-Wについての結果が、少なくともヒトの細胞についてのコントロールについての結果と同程度良好であることを示す。それらはサル細胞に対してはあまり良好ではない。Env HERV-Wは、ラット細胞に対してはシンシチウムの形成を誘導しない。
【0078】
以下の表2は、pHCMV-env HERV-WでトランスフェクトされたTELCeB6細胞とのインディケーター細胞の共培養の実験において観察されたデータを示す。インディケーター細胞のタイプ、起原、及び種類が示されている。シンシチウムの形成は、用語yes/noによって示される。
【0079】
【表2】

【0080】
表2は、試験された細胞系の関数としての共培養実験の結果を示す。シンシチウムは、ヒト横紋筋肉腫(TE671)、類表皮カルシノーマ(A431)及び類上皮カルシノーマ(HeLa)細胞において観察され、さらに線維芽細胞タイプのサル細胞(COS)、ブタ内皮細胞(PAE)、及び線維芽細胞タイプのマウス細胞(3T3)でも観察される。ヒト内因性エンベロープEnv HERV-Wが、ブタ細胞において融合可能であるという事実は、器官移植(異種移植)の文脈において問題を露呈するであろう。
【0081】
実施例2
エンベロープのLTRの結合と選択的増幅
第7染色体に位置するエンベロープのコード領域と会合5' LTR U3プロモーター領域の多型の研究のため、10kb断片に特異的な増幅を、特異的プライマーのペアを使用して実施する。実際、HERV-Wファミリーは多くの非コードコピー、特に著しい数のLTRを含むことを考慮して、このストラテジーは、排他的に第7染色体の上流に位置するenv領域とそのプロモーター配列(5' LTR)を特異的且つ結合的に増幅することが可能である。このため、第7染色体上の5' LTRの上流に位置する特異的配列にハイブリダイズするプライマーU6198と、この同じ染色体上の3' LTR U5領域と隣接する細胞遺伝子にオーバーラップする態様でハイブリダイズするプライマーL6186の使用が実施される。長距離PCR(またはLD-PCR)を、以下の条件の下で実施する:94℃で1×5分、10×(94℃で10秒、55℃で30秒、68℃で8分)、25×(94℃で10秒、55℃で30秒、68℃で8分+10秒/サイクル)、68℃で1×7分、増幅バッファー(50mM Tris HCl, pH9.0, 25℃, 15mM (NH4)2SO4, 0.1% Triton X-100);1.5mM MgCl2, 0.25mMの各dNTP、330nMの各プライマー(U6198とL6186), 1UのDNAポリメラーゼ及び200ngのマトリックス(ゲノムDNA)、最終容量50ml。
【0082】
増幅的"env"PCRと増幅的"LTR"PCRを、これらの二つの領域の多型の存在または不存在を客観化するために、この希釈した10kb PCR産物を使用して実施する。希釈により、LD-PCR産物からの特異的増幅が可能であるが、開始ゲノム材料からの増幅は実施しない。増幅的"env"PCRを、U6189及びL6186プライマーを使用して実施し、U6189プライマーはLD-PCRのために使用されるものであり、U6189プライマーはenv ATGの上流に位置するものである。5' LTR U3領域を、U6460及びL5643プライマーのペアで増幅する。U6460プライマーは、5' LTRの上流にハイブリダイズし、一方でL5643プライマーは、5' LTRのRドメインにハイブリダイズする。増幅的PCRを、以下の条件の下で実施する:94℃で1×5分、30×(94℃で1分、55℃で1分、72℃で3分)、72℃で1×7分、増幅バッファー(10mM Tris HCl, pH8.3, 50mM KCl), 1.5mM MgCl2, 0.25mMの各dNTP、330nMの各プライマー, 1.25UのDNAポリメラーゼ及び等量のLD-PCR増幅産物、最終容量50ml。
【0083】
多型の分析:
多型の存在または不存在を客観化するために、増幅的PCR産物を各種の方法で分析でき、特にSSCP(一本鎖構造多型)法による配列決定または分析は、250bpの平均サイズを有する二つの短い配列間の少なくとも一つのミューテーションの存在を示す頃が可能である。
【0084】
env遺伝子の多型:20のプライマー(10の偶数のセンスプライマー:6302から6320、及び10の奇数のアンチセンスプライマー:6303から6321)の使用は、増幅的エンベロープPCR産物を使用するエンベロープのコード領域を配列決定することを可能にする。これらのプライマーはまた、SSCPによる多型の分析のために使用されても良い。例として、D6、D10及びD21トラベルされた3人の健康なドナーのエンベロープ遺伝子の配列を、図2に示す。これらの配列は、低い多型割合の存在を示す。もしドナーD6のエンベロープ配列を、恣意的な参考として使用したならば、ドナーD21のエンベロープの配列は、386位でバリンからアラニンへのアミノ酸変化を引き起こすチミンからシトシンの置換(T386C)であるミューテーションを有する(タンパク質数によりV128A)。同様に、ドナーD10のエンベロープ遺伝子の配列は、ドナーD6の配列に対して、671位(T671C)及び920位(G920A)の二つのミューテーションを有し、それぞれバリンからアラニン(タンパク質数によりV224A)及びセリンからアスパラギン(タンパク質数によりS306N)の2つのアミノ酸変化を引き起こす。これらの配列は、多型の存在を説明する。12の患者のDNAを配列決定し、試験されたDNA間の低い多型割合を観察することが可能であった。例えば、10及び21と称される二人の患者から由来する配列の比較により、上記遺伝子の1617ベースに亘り3塩基の核酸差異の存在が示され、それは0.19%の多型割合に対応する。二つのミューテーションは、DNA10の配列に位置し(T671C及びG920A)、DNA21の配列に一つ(T386C)位置する。患者6の配列を参考として使用する。タンパク質レベルでのこの同じ分析により、全体で538アミノ酸を含む完全なエンベロープに対して3のミューテートされたアミノ酸を観察することが可能であり、即ち0.56%の多型割合である。患者10から由来する配列の二つのミューテーションは、V224AとS306Nであり、患者21から由来する配列のミューテーションはV128Aである。
【0085】
エンベロープ遺伝子と会合するLTR 5' U3プロモーターの多型:5' LTR U3ドメインの配列決定を、増幅的LTR PCRで以前に使用された2のプライマーを使用して実施する。例として、エンベロープがさらに配列決定されている健康なドナー(D6及びD21トラベルされる)の二人の5' LTR U3領域(エンベロープ遺伝子と会合する)の配列が図3に示される。これらの配列は、エンベロープ遺伝子対するものより高い多型割合の存在を示す。210位(D6についてT、D21についてC)、211位(D6についてG、D21についてA)、229位(D6についてA、D21についてG)、231位(D6についてT、D21についてC)、及び232位(D6についてC、D21についてA)のバリエーションは、特に気がつくであろう。
【0086】
PCR、SSCP及び配列決定について使用されたプライマーの配列は、以下の表3に示される。
【0087】
【表3−1】

【表3−2】

【0088】
Uはセンスプライマーを指し、Lは逆方向プライマーを指す。
【0089】
実施例3
ヒト細胞において発現されることが周知のレセプター、即ちPiT-2(両栄養性MLVに対するレセプター)、PiT-1(GALV−テナガザル白血病ウイルス、及びFeLV-B−ネコ白血病ウイルスタイプBに対するレセプター)及びhTABO(タイプD哺乳動物レトロウイルスに対するレセプター、RD114レトロウイルスによっても認識される)の中で、HERV-Wのエンベロープ糖タンパク質によって認識されるレセプターを測定するために、妨害試験を実施した。このため、TELCeB6細胞を、HERV-Wエンベロープをコードする発現プラスミド、HERV-Wエンベロープをコードする遺伝子に対するアンチセンスメッセンジャーRNAを発現する発現プラスミド、またはARlessと称される両栄養性MLVエンベロープの超融合原性変異体をコードする発現プラスミドのそれぞれでトランスフェクトした。「プロデューサー細胞」と称されるこれらの細胞を、HERV-Wエンベロープを発現し、且つGALVのエンベロープ、両栄養性MLVのエンベロープ、またはRD114のエンベロープを安定に発現する、「インディケーター細胞」と称されるヒト細胞と共培養した。これらの細胞でのこれらの多様なエンベロープ糖タンパク質の発現は、対応するレセプターを認識してそれらをブロックすることが可能であり、それ故それらにタイプするが、「プロデューサー」細胞の表面で外因的に発現されるレトロウイルスエンベロープ糖タンパク質と相互作用する能力を減少することが可能である。かくして、もし共培養による融合に対する試験の間で、全ての3種の潜在的なレセプターが十分接近可能である元となるインディケーター細胞と比較して、これらのレセプターの一つをブロックするインディケーター細胞タイプについてのシンシチウムの形成の現象が観察されたならば、プロデューサー細胞で発現されるエンベロープによって認識されるレセプターの性質は、それらから推定されるであろう。二日間の共培養の後、細胞を固定化して染色し、融合インデックスを測定する、その結果が、以下の表4に示される。
【0090】
【表4】

−はシンシチウムの欠如を示し、+はシンシチウムの存在を示す。
Controlは、この細胞において発現されるエンベロープタンパク質が存在しないことを示す。
【0091】
これらの結果は、HERV-Wのエンベロープ糖タンパク質が、タイプD哺乳動物レトロウイルスに対してhTABOレセプターを認識することを推定させることを可能にする。特にこのエンベロープは、元となるインディケーター細胞、またはMLV-AエンベロープまたはGALVエンベロープのそれぞれを発現するインディケーター細胞に対して融合原性であるが、HERV-Wのエンベロープ糖タンパク質を発現するプロデューサー細胞を、RD114エンベロープを発現するインディケーター細胞と共培養する場合、シンシチウムは観察されない。
【0092】
実施例4
細胞質成分によるEnv HERV-Wの融合原性活性のコントロール
この糖タンパク質の融合原性活性におけるEnv HERV-Wの細胞質成分の関与を、以下の組換え糖タンパク質の構築と特徴付けによって測定する:
【0093】
ヒトCD46から由来し、補体に対して細胞を保護し、シンシチウムの形成に関与せず、CD46の細胞質ドメイン(aa335から369)に融合したEnv HERV-Wの細胞外ドメインと膜貫通ドメイン(aa1から469)を含む因子であるW/CD46+。このキメラ分子は、細胞−細胞融合試験において融合原性ではない(図5)。
【0094】
MLV-A(両栄養性齧歯類白血病ウイルス)レトロウイルスのエンベロープ糖タンパク質から由来し、MLV-Aの他のタンパク質とは独立して発現された場合融合原性ではなく、MLV-Aレトロウイルスのエンベロープ糖タンパク質の細胞質ドメイン(aa622から654)と融合したEnv HERV-Wの細胞外ドメイン及び膜貫通ドメイン(aa1から469)を含むW/R+。このキメラ分子は、細胞−細胞融合試験において融合原性ではない(図5)。
【0095】
RD114ネコ内因性レトロウイルスのエンベロープ糖タンパク質から由来し、RD114の他のタンパク質とは独立して発現された場合に融合原性ではなく、RD114レトロウイルスのエンベロープタンパク質の細胞外ドメイン(aa1から508)と融合したEnv HERV-Wの細胞質ドメインと膜貫通ドメイン(aa448から538)を含むRD/W。このキメラ分子は、細胞−細胞融合試験において融合原性である(図5)。
【0096】
添付された図5は、上述のEnv HERV-Wキメラのスキームと特徴付け、並びに細胞−細胞融合試験において得られた結果を示す。
【0097】
Env HERV-Wの細胞外ドメインは、アミノ酸(aa)21から447を含むタンパク質前駆体から由来するポリペプチドによって規定される;膜貫通ドメイン、aa448から469、及び細胞質成分aa470から538(Blond等, (1999), Molecular characterization and placental expression of HERV-W, a new human endogeneous retrovirus family. Journal of Virology. 73: 1175-1185)。
【0098】
CD46の細胞外ドメインは、アミノ酸(aa)35から312を含むタンパク質前駆ターから由来するポリペプチドによって規定される;膜貫通ドメイン、aa313から334、及び細胞質成分、aa335から369(Yant等, (1997), Identification of a cytoplasmic Tyr-X-X-Leu motif essntial for down regulation of the human cell receptor CD46 in persistent measles virus injection. J. Virol. 71: 766-770)。
【0099】
Env MLV-Aの細胞外ドメインは、アミノ酸(aa)32から598を含むタンパク質前駆ターから由来するポリペプチドによって規定される;膜貫通ドメイン、aa599から621、及び細胞質成分、aa622から654(Ott及びRein, (1990), Sequence analysis of amphotropic and 10A1 murine leukemia virus: close relationship to mink cell fucus forming viruses. J. Virol. 64: 757-766)。
【0100】
Env RD114の細胞外ドメインは、アミノ酸(aa)18から508を含むタンパク質前駆体から由来するポリペプチドによって規定される;膜貫通ドメイン、aa509から530、及び細胞質成分、aa531から564(Cosset等, (1995b), High titer packaging cells producing recombinant retroviruses resistant to human serum. J. Virol. 69: 7430-7436)。
【0101】
SUは表面サブユニットを表す:TMは膜貫通サブユニットを表す;SPはシグナルペプチドを表す;tmは膜貫通アンカードメインを表す;cytは細胞質成分を表す;RBDはレセプター結合ドメインを表す;PRRはプロリンリッチ領域を表す;CはSUのカルボキシ末端ドメインを表す。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、3の異なる患者から由来するクローンの配列決定によって得られた多型Env HERV-Wタンパク質配列の整列を示す図である。
【図2−1】図2は、3の異なる患者から由来するクローンの配列決定によって得られた多型Env HERV-W核酸配列の整列を示す図である。
【図2−2】図2−1の続きである。
【図3】図3は、二つの群の5' LTRが観察され、その核酸配列で、2の異なる患者から由来する2のクローンの配列決定によって得られたものの整列を示す図である。
【図4】図4は、プライマーU6198とL6186、またはU6189とL6186を使用する全DNAに対する増幅の後、適切なサイズの10のオーバーラップする断片のセットを生産可能である、示されたプライマーのセット(U6302からL6321)を使用して、第7染色体上に位置するエンベロープの多型を分析することが可能であることを示す図である。
【図5】図5は、各種のEnv HERV-Wキメラのスキームと特徴付け、並びに細胞−細胞融合試験において得られた結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロデューサー細胞のポリペプチドと、インディケーター細胞の中性アミノ酸トランスポーター細胞表面レセプターとの間の相互作用が、ex vivoまたはin vitroで生ずるかを検出する方法であって、
前記ポリペプチドが配列番号1からなる配列を有し、
前記インディケーター細胞を前記プロデューサー細胞と接触させる工程;
前記プロデューサー細胞と前記インディケーター細胞との間のシンシチウムの形成、または前記プロデューサー細胞と前記インディケーター細胞との間のシンシチウムの非形成を観察する工程;及び
前記シンシチウムの形成を、前記プロデューサー細胞のポリペプチドと、前記インディケーター細胞の中性アミノ酸トランスポーター細胞表面レセプターとの間の相互作用の発生と関連付けし、または前記シンシチウムの非形成を、前記プロデューサー細胞のポリペプチドと、前記インディケーター細胞の中性アミノ酸トランスポーター細胞表面レセプターとの間の相互作用の欠如と関連付けする工程
を含む方法。
【請求項2】
前記レセプターが、タイプD哺乳動物レトロウイルスに対するhATBOレセプターである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記インディケーター細胞が、ガン細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記インディケーター細胞が、ヒト起源の細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記シンシチウムの形成を、前記プロデューサー細胞の表面での前記ポリペプチドの発現と関連付けする工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記プロデューサー細胞が、骨細胞、筋細胞、胎盤細胞、内皮細胞、上皮細胞、グリア細胞、腫瘍細胞 及び腫瘍細胞系から由来する細胞から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記プロデューサー細胞が、血管から由来する細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記プロデューサー細胞を、医薬的物質、薬剤、または遺伝子/プロドラッグ系と接触させ、前記医薬的物質、薬剤、または遺伝子/プロドラッグ系の、前記シンシチウムの形成または非形成に対する効果を測定することによる、前記方法によって前記医薬的物質、薬剤、または遺伝子/プロドラッグ系の有効性を試験し、または前記医薬的物質、薬剤、または遺伝子/プロドラッグ系を選択する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリペプチドをコードする遺伝子と、前記ポリペプチドを発現するためのプロモーターとを含むベクターで細胞をトランスフェクトすることによって、前記プロデューサー細胞を得る工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記プロモーターが異種プロモーターである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記プロモーターが自己プロモーターである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記接触させる工程が中性pHで実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記プロデューサー細胞のポリペプチドと、前記インディケーター細胞の中性アミノ酸トランスポーター細胞表面レセプターとの間の相互作用の発生に基づいて、医薬的物質、薬剤、または遺伝子/プロドラッグ系の候補を選択する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−72194(P2009−72194A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244988(P2008−244988)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【分割の表示】特願2001−519732(P2001−519732)の分割
【原出願日】平成12年9月1日(2000.9.1)
【出願人】(596020794)
【出願人】(591282995)アンスティテュ ナスィヨナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (2)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE
【住所又は居所原語表記】101, rue de Tolbiac/75654  PARIS CEDEX 13/FRANCE
【Fターム(参考)】