説明

ヒト化抗EGFRIgG1抗体及びイリノテカンによる癌の処置

本発明は、他の抗癌薬や放射線療法等の更なる剤や処置の併用又は不在下で、癌の併用処置に併用するためのヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンを提供する。本発明は更に、ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンの組み合わせを、医薬的に許容され得る担体中に含んでなる医薬組成物を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の処置に使用するための剤及び医薬組成物を目的とするものである。特に本発明は、癌の処置に併用するためのヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンを対象とする。
【背景技術】
【0002】
癌は、無秩序な増殖、分化の欠如、並びに局所組織への浸潤及び転移の能力を特徴とする、広範囲な細胞の悪性疾患に対する総称である。これらの悪性腫瘍は、罹患率こそ様々であるが、身体のあらゆる組織及び臓器を冒す。
【0003】
様々な種類の癌を処置するため、過去数十年間に多数の治療薬が開発されてきた。最も一般的に使用される抗癌剤の種類には、微小管攪乱物質(例えばビンブラスチン又はビンクリスチン等のビンカアルカロイド、ドセタキセル又はパクリタキセル等のタキサン類、イクサベピロン等のエポチロン類)、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキサート又はアミノプテリン等の抗葉酸剤、フルダラビン等の抗プリン剤、フルオロウラシル、カペシタビン又はゲムシタビン等の抗ピリミジン剤)、トポイソメラーゼ阻害剤(例えば、カンプトテシン、イリノテカン又はエトポシド)、DNA挿入剤(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、アクチノマイシン、ブレオマイシン)、アルキル化剤(例えば、シクロホスファミド、クロラムブシル、カルムスチン、ニムスチン、ストレプトゾシン、ブスルファン、シスプラチン、オキサリプラチン、トリエチレンメラミン、ダカルバジン)及びホルモン療法(例えば、グルココルチコイド類、タモキシフェン等のアロマターゼ阻害剤、フルタミド等の抗アンドロゲン、ロイプロリド等のゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アナログ)がある。
【0004】
イリノテカン(カンプト(登録商標))はトポイソメラーゼI阻害剤である。この物質は天然アルカロイドであるカンプトテシンの半合成アナログである。これは様々な種類の癌(例えば結腸癌等)の処置に、しばしば他の化学療法剤と組み合わせて使用される。
【0005】
より最近になって、癌治療における標的療法の重要性が高まっている。そのような物質(小分子又は抗体等の生物学的治療薬)は、特定の標的(例えば発癌及び腫瘍の成長を促進することが知られている細胞表面レセプター等)に干渉する。
【0006】
表皮成長因子レセプター(EGFR)及び抗EGFR抗体
ヒト表皮成長因子レセプター(別名HER−1又はErbB−1。本明細書では「EGFR」と称する。)は、c−erbBプロトオンコジーンによってコードされる170kDaの膜貫通レセプターであり、内因性チロシンキナーゼ活性を示す(Modjtahedi et al., Br J Cancer 73, 228-235 (1996); Herbst and Shin, Cancer 94, 1593-1611 (2002))。SwissProtデータベースエントリー番号P00533は、EGFRの配列を提供している。また、EGFRのイソ型及び変異体(例えば選択的RNA転写物、末端切除型、多型等)も存在する。例としては、これらに限定されるものではないが、SwissProtデータベースエントリー番号P00533−1、P00533−2、P00533−3、及びP00533−4で識別されるものが包含される。EGFRは、表皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子α(TGF−α)、アンフィレグリン、ヘパリン結合EGF(HB−EGF)、ベータセルリン及びエピレグリン等のリガンドに結合することが知られている(Herbst and Shin, Cancer 94,1593-1611 (2002); Mendelsohn and Baselga, Oncogene 19, 6550-6565 (2000))。EGFRは数多くの細胞プロセスを、チロシンキナーゼ媒介シグナル伝達経路を介して調節する。例としては、これらに限定されるものではないが、細胞増殖、分化、細胞の生存、アポトーシス、血管新生、有糸分裂誘発、及び転移を制御するシグナル伝達経路の活性化等が挙げられる(Atalay et al., Ann Oncology 14, 1346-1363 (2003); Tsao and Herbst, Signal 4, 4-9 (2003); Herbst and Shin, Cancer 94, 1593-1611 (2002); Modjtahedi et al., Br J Cancer 73, 228-235 (1996))。
【0007】
膀胱、脳、頭頸部、膵臓、肺、乳房、卵巣、結腸、前立腺及び腎臓の癌等の多くのヒト悪性疾患において、EGFRの過剰発現が報告されている(Atalay et al., Ann Oncology 14, 1346-1363 (2003); Herbst and Shin, Cancer 94, 1593-1611 (2002) Modjtahedi et al., Br. J. Cancer 73, 228-235 (1996))。これらの状態の多くにおいては、EGFRの過剰発現が、患者の予後不良に相関又は関連している(Herbst and Shin, Cancer 94, 1593-1611 (2002) Modjtahedi et al., Br J Cancer 73, 228-235 (1996))。EGFRは正常組織、特に皮膚の上皮組織、肝、及び胃腸管の細胞でも発現されるが、その発現レベルは一般に悪性細胞よりも低い(Herbst and Shin, Cancer 94, 1593-1611 (2002))。
【0008】
EGFRを標的としてEGFRシグナル伝達経路を遮断する様々な方策が報告されている。ゲフィチニブ、エルロチニブ、カネルチニブ/CI−1033、ペリチニブ/EKB−569、ネラチニブ/HKI−272、ラパチニブ/GW572016等等の小分子チロシンキナーゼインヒビターは、細胞内チロシンキナーゼ領域におけるEGFRの自己リン酸化を遮断し、それにより下流のシグナル伝達事象を阻害する(Tsao and Herbst, Signal 4, 4-9 (2003))。一方、モノクローナル抗体は、EGFRの細胞外部分を標的とし、その結果リガンド結合を遮断することによって、細胞増殖等の下流の事象を阻害する(Tsao and Herbst, Signal 4, 4-9 (2003))。
【0009】
斯かる遮断をインビトロで達成するマウスモノクローナル抗体が幾つか作製され、その腫瘍成長に対する作用がマウス異種移植モデルを用いて評価されてきた(Masui et al., Cancer Res. 46, 5592-5598 (1986); Masui et al., Cancer Res 44, 1002-1007 (1984); Goldstein et al., Clin Cancer Res 1, 1311-1318 (1995))。例えば、EMD55900(EMD Pharmaceuticals)は、ヒト類表皮癌腫セルラインA431に対して作製され、喉頭又は下咽頭の進行扁平上皮癌腫患者の臨床試験で試験された、マウス抗EGFRモノクローナル抗体である(Bier et al., Eur Arch Otohinolaryngol 252, 433-9 (1995))。更に、EGFRの細胞外ドメインに結合するラットモノクローナル抗体ICR16、ICR62及びICR80は、レセプターへのEGF及びTGF−αの結合の阻害に有効であることが示されている(Modjtahedi et al., Int J Cancer 75, 310-316 (1998))。マウスモノクローナル抗体(mAb)425は、ヒトA431癌腫セルラインに対して作製された別のmAbであるが、これがヒト表皮成長因子レセプターの外部ドメイン上のポリペプチドエピトープに結合することが見出された(Murthy et al., Arch Biochem Biophys 252, 549-560 (1987))。治療におけるマウス抗体の使用に伴う潜在的な課題は、非ヒトモノクローナル抗体はヒト宿主から外来蛋白として認識される可能性があり、ひいては斯かる抗体の反復注射が免疫反応を誘導し、有害な過敏性反応を引き起こし得る、ということである。マウスモノクローナル抗体の場合、これはしばしば、ヒト抗マウス抗体反応若しくは「HAMA」反応、又は、ヒト抗ラット抗体反応若しくは「HARA」反応と呼ばれる。更に、これらの「外来」抗体は宿主の免疫系による攻撃を受け、実際には標的部位に到達する前に中和されてしまう場合もある。更に、非ヒトモノクローナル抗体(例えばマウスモノクローナル抗体)は通常、ヒトのエフェクター機能を有していない。即ち、具体的には、補体依存性溶解を媒介する能力や、抗体依存性細胞媒介毒性又はFcレセプター媒介性貪食によりヒト標的細胞を溶解する能力を有しない。
【0010】
これらの課題を回避するため、キメラ抗体、ヒト化抗体、更には完全ヒト抗体が開発された。これらはそれぞれ、可変ドメインのみがマウス由来の抗体、相補性決定領域(CDR)のみがマウス由来の抗体、或いはマウス由来配列が全く存在しない抗体である。いずれの抗体も、その他全ての部分(特にFc領域)はヒト由来である。
【0011】
例えば、IMC−C225/セツキシマブ(アービタックス(登録商標);ImClone)は、種々のヒト異種移植モデルで抗腫瘍活性を示すことが報告された(Goldstein et al., Clin Cancer Res 1, 1311-1318 (1995); Herbst and Shin, Cancer 94, 1593-1611 (2002))キメラマウス/ヒト抗EGFR mAb(マウスM225モノクローナル抗体に基づき、これはヒト臨床試験でHAMA反応を生じた)である。IMC−C225の有効性は幾つかの機構によるものとされてきたが、中でも、EGFRシグナル伝達経路により、そしておそらくは増大した抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC)活性により調節される細胞事象の阻害等が挙げられている(Herbst and Shin, Cancer 94, 1593-1611 (2002))。IMC−C225は、放射線治療及び化学療法との組み合わせを含む臨床試験にも使用された(Herbst and Shin, Cancer 94, 1593-1611 (2002))。また、米国特許第5891996号(Mateo de Acosta del Rio et al.)は、EGFRに対して作製されたマウス/ヒトキメラ抗体、R3を論じている。ヒト化されたR3に基づく抗体h−R3/ニモツズマブ(Mateo et al., Immunotechnology 3, 71-81 (1997); Crombet-Ramos et al., Int J Cancer 101, 567-575 (2002), Boland & Bebb, Expert Opin Biol Ther 9, 1199-1206 (2009))が、癌治療のためOncoscience (Wedel, Germany) により開発されつつある。米国特許第5558864号は、キメラ及びヒト化型のマウス抗EGFRモノクローナル抗体(mAb)425の作製を論じており、そして、ヒト化されたmAb425に基づく抗体EMD72000/マツズマブ(Bier et al., Cancer Immunol Immunother 46, 167-173 (1998), Kim, Curr Opin Mol Ther 6, 96-103 (2004))が、癌治療のためMerck(Darmstadt, Germany)により開発されつつある。Abgenix, Inc. (Fremont, CA)は癌治療のためABX−EGF/パニツムマブを開発している。ABX−EGFは完全なヒト抗EGFR mAbである(Yang et al., Crit Rev Oncol/Hematol 38; 17-23 (2001))。もう一つの完全なヒト抗EGFR mAbである2F8/ズルツムマブはGenmab Inc.(Princeton, NJ)によって開発された(Bleeker et al., J Immunol 173, 4699-4707 (2004), Lammerts van Bueren, PNAS 105, 6109-6114 (2008))。
【0012】
抗体のグリコシル化
オリゴ糖成分は、物理的安定性、プロテアーゼ攻撃に対する抵抗性、免疫系との相互作用、薬物動態、及び特異的生物活性等の治療用糖蛋白の有効性に関連する特性に著しい影響を及ぼし得る。これらの特性は、オリゴ糖の存在又は不在に依存するのみならずその個別構造にも依存し得る。オリゴ糖構造と糖蛋白機能との間に幾らかの一般化を行うことができる。例えば、或るオリゴ糖構造は、特定の炭水化物結合蛋白との相互作用を通して血流からの糖蛋白の迅速なクリアランスを媒介し、一方別のオリゴ糖は、抗体と結合して望ましくない免疫反応を引き起こし得る(Jenkins et al., Nature Biotechnol 14, 975-81 (1996))。
【0013】
癌免疫療法において最も一般的に使用される抗体であるIgG1型抗体は、各CH2ドメインのAsn297に保存されたN結合グリコシル化部位を有する糖蛋白である。Asn297に結合している2個の複合二分岐オリゴ糖は、CH2ドメインの間に埋没し、ポリペプチド骨格との広範囲に及ぶ接触を形成し、また、それらの存在は、抗体が抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC)等のエフェクター機能を媒介するために不可欠である(Lifely et al., Glycobiology 5, 813-822 (1995); Jefferis et al., Immunol Rev 163, 59-76 (1998); Wright and Morrison, Trends Biotechnol 15, 26-32 (1997))。
【0014】
上記の抗EGFR抗体(例えば、セツキシマブ、ニモツズマブ、パニツムマブ)等のモノクローナル抗体の細胞媒介性エフェクター機能は、Umana et al., Nat Biotechnol 17, 176-180 (1999) 及び米国特許第6602684号(WO99/54342)に記載のように、それらのオリゴ糖成分を操作することによって増強できる。Umana等は、二分岐オリゴ糖の形成を触媒するグリコシルトランスフェラーゼであるa(1,4)−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)の、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞における過剰発現が、それらの細胞で産生された抗体のインビトロADCC活性を著明に増大させることを示した。Asn297炭水化物の組成変更又はその排除もまた、抗体FcドメインのFcaR及びC1q蛋白への結合に影響を及ぼす(Umana et al., Nat Biotechnol 17, 176-180 (1999); Davies et al., Biotechnol Bioeng 74, 288-294 (2001); Mimura et al., J Biol Chem 276, 45539-45547 (2001); Radaev et al., J Biol Chem 276, 16478-16483 (2001); Shields et al., J Biol Chem 276, 6591-6604 (2001); Shields et al., J Biol Chem 277, 26733-26740 (2002); Simmons et al., J Immunol Methods 263, 133-147 (2002))。
【0015】
抗腫瘍薬は、理想的には、非悪性細胞に対する毒性と比較して高い治療指数を伴って、癌細胞を選択的に殺滅するであろう。更に、当該薬物に長期暴露された後にも悪性細胞に対してその有効性を維持するであろう。残念ながら現在の抗癌治療にそのような理想的プロファイルを有するものは無い。それどころか殆どは極めて狭い治療指数を有する。更に、致死濃度を僅かに下回る抗腫瘍薬に暴露された癌細胞は、そのような薬物に対して抵抗性を発現することが非常に多く、別の幾つかの抗腫瘍薬に対する交差抵抗性を発現することもかなりしばしばである。
【0016】
したがって、腫瘍性及びその他の増殖性疾患のための、より有効な処置に対する必要性が存在する。既存薬の治療有効性を高める戦略には、投与スケジュールの変更、及び他の抗癌剤又は生化学的調節物質との併用が含まれていた。併用療法は、各々の薬剤の治療上適切な用量を単独で使用することに比較して、より高い有効性と減少した副作用をもたらすことのできる方法としてよく知られている。一部の例では薬物併用の効果は相加的(併用の有効性が、各薬物単独の効果の和にほぼ等しい)であるが、別の例ではその効果は相乗的(併用の効果が単独で投与された各薬物の効果の和より大きい)である。例えば、5−フルオロウラシル及びロイコボリンと併用した場合、オキサリプラチンは結腸癌の一次治療として25〜40%の奏功率を示す(Raymond, E. et al., Semin Oncol 25(2 Suppl. 5), 4-12 (1998))。
【0017】
同様に、癌細胞表面の特異的標的に対する抗体を化学療法剤と併用することは、単一薬剤による処置と比較して抗癌有効性を高めるかも知れない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
癌進行に関わる癌細胞上の表面レセプターを標的とする抗体を化学療法剤と組み合わせることの大きな治療可能性を認識し、本発明は、癌の処置における併用のためのヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンを提供する。
【0019】
本発明は更に、特に癌の処置に際して使用するための、医薬的に許容され得る担体中のヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンを含んでなる医薬組成物を包含する。
【0020】
本発明は更に、それを必要とする対象にヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンを投与することを含んでなる、癌の処置方法を目的とする。
【0021】
好ましくは、治療有効量のヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンの組み合わせを、同時又は連続的に、同じ又は異なる製剤で、そしてさらなる物質もしくは処置、例えば他の抗癌薬もしくは放射線療法を伴って又は伴わずに患者に投与するものとする。
【0022】
本発明にとって有用な好ましいヒト化抗EGFR IgG1抗体はWO2006/082515及びWO2008/017963に記載されており(これらの全内容を引用により本明細書の一部とする)、それらは、ラットモノクローナル抗体ICR62の結合特異性を有するキメラ抗体であること、そして変化したグリコシル化によりそれらのエフェクター機能が増強されていることを特徴とする抗体を包含する。
【0023】
好ましい抗EGFR抗体は、少なくとも1個(即ち、1、2、3、4、5、又は6個)のラットICR62抗体の相補性決定領域(CDR)、又は、少なくとも前記CDRのための特異性決定残基を含むその変異体もしくは末端切除型を含み、異種ポリペプチドに由来する配列を含むことを特徴とする。「特異性決定残基」とは、抗原との相互作用に直接関わる残基を意味する。具体的には、好ましい抗EGFR抗体は、(a)配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、及び配列番号13よりなる群から選ばれる重鎖CDR1配列;(b)配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、及び配列番号30よりなる群から選ばれる重鎖CDR2配列;並びに(c)重鎖CDR3配列 配列番号31、を含んでなる。好ましい抗EGFR抗体は更に、(a)配列番号32及び配列番号33よりなる群から選ばれる軽鎖CDR1配列;(b)軽鎖CDR2配列 配列番号34;及び(c)軽鎖CDR3配列 配列番号35、を含んでなる。
【0024】
より好ましい抗EGFR抗体は、少なくとも3個のラットICR62抗体のCDR、又は、少なくとも前記CDRのための特異性決定残基を含むその変異体もしくは末端切除型を含んでなることを特徴とする。
【0025】
本発明にとって有用な最も好ましい抗EGFR抗体は、
(a)重鎖可変ドメイン内に、配列番号1のCDR1、配列番号16のCDR2、及び配列番号31のCDR3を有し、
(b)軽鎖可変ドメイン内に、配列番号33のCDR1、配列番号34のCDR2、及び配列番号35のCDR3を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】媒質(実線)、25mg/kgの部分的にフコシル化されたGlycArt−mAb及び20mg/kg CPT−11/イリノテカン(破線)又は25mg/kgセツキシマブ(アービタックス(登録商標))及び20mg/kg CPT−11/イリノテカン(点線)で処置した、A549肺腺癌異種移植片を担持するSCIDベージュマウスの生存を示すカプラン・マイヤー曲線。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明にとって有用な好ましい抗EGFR抗体の可能なCDR配列を、表1(重鎖CDR)及び表2(軽鎖CDR)にまとめる。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
本発明にとって有用な好ましい抗EGFR抗体は、ヒト化免疫グロブリン由来の重鎖及び軽鎖可変ドメインフレームワーク配列を有する。
【0031】
本発明にとって有用な別の好ましい抗EGFR抗体は、配列番号36に記載のラットICR62抗体の重鎖可変ドメイン(VH)又はその変異体;及び非マウスポリペプチドを含んでなる。更に、好ましい抗EGFR抗体は、配列番号37に記載のラットICR62抗体の軽鎖可変ドメイン(VL)又はその変異体;及び非マウスポリペプチドを含んでなるかも知れない。
【0032】
本発明にとって有用な、より好ましい抗EGFR抗体は、配列番号38に記載の重鎖可変ドメイン及び配列番号39に記載の軽鎖可変ドメインを含んでなる。
【0033】
好ましい抗EGFR抗体の重鎖及び軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を表3に示す。本発明にとって有用な好ましい抗EGFR抗体は更に、表3に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列、又は、保存的アミノ酸置換を有する表3に示されるアミノ酸配列をも含み得る。
【0034】
【表3】

【0035】
本発明にとって有用な好ましい抗EGFR抗体は、霊長類化、又はより好ましくはヒト化抗体である。
【0036】
好ましくは、本発明にとって有用な抗EGFR抗体はヒトFc領域を含んでなる。より好ましくは、そのヒト重鎖不変領域は、配列番号40に開示されるIg γ−1であり、即ち、その抗体はヒトIgG1サブクラスに属する。
【0037】
ヒト重鎖不変領域Ig γ−1アミノ酸配列(配列番号40):
TKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKAEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0038】
しかしながら、ヒトFc領域の変異体及びイソ型もまた企図される。例えば、本発明における使用に好適な変異体Fc領域は、Prestaに対する米国特許第6737056号(1又は2以上のアミノ酸修飾により変化したエフェクター機能を持つFc領域変異体);又は米国特許出願第60/439498号;60/456041号;60/514549号;もしくはWO2004/063351(アミノ酸修飾により増大した結合親和性を持つ変異体Fc領域);又は米国特許出願第10/672280号もしくはWO2004/099249(アミノ酸修飾により変化したFcγRとの結合を有するFc変異体)で教示される方法(各々の内容は引用によりその全体を本明細書の一部とする)に従って作製できる。
【0039】
別の好ましい態様では、本発明にとって有用な抗EGFR抗体は、Fc領域に変化したオリゴ糖構造を有するよう糖操作されている。
【0040】
具体的には、好ましい抗EGFR抗体は、非糖操作抗体に比較して、Fc領域に、増加した割合の非フコシル化オリゴ糖を有する。好ましくはこの非フコシル化オリゴ糖のパーセンテージは、少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50〜70%、最も好ましくは少なくとも75%である。これらのパーセンテージの非フコシル化オリゴ糖を有する本発明にとって有用な抗EGFR抗体は、部分的にフコシル化された、とも呼ばれる。非フコシル化オリゴ糖はハイブリッド又は複合体型を有するかも知れない。
【0041】
好ましい抗EGFR抗体は更に、Fc領域に、増加した割合の二分岐オリゴ糖を有する。好ましくは、この抗体のFc領域における二分岐オリゴ糖のパーセンテージは、全オリゴ糖の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%、そして最も好ましくは少なくとも90〜95%である。
【0042】
特に好ましい抗EGFR抗体は、Fc領域に、増加した割合の二分岐非フコシル化オリゴ糖を有する。この二分岐非フコシル化オリゴ糖はハイブリッド又は複合体のいずれかであってよい。具体的には、この抗体のFc領域中のオリゴ糖の少なくとも15%、より好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも25%、より好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも35%が二分岐し非フコシル化されている抗EGFR抗体が好ましい。
【0043】
好ましい抗EGFR抗体は更に、それらが、増大したエフェクター機能及び/又は増大したFcレセプター結合親和性を有するよう糖操作されていることを特徴とする。
【0044】
好ましくは、この増大したエフェクター機能とは、以下の事柄のうち1又は2以上である:増大したFc媒介性細胞性細胞障害(増大した抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC)を包含する)、増大した抗体依存性細胞性ファゴサイトーシス(ADCP)、増大したサイトカイン分泌、抗原提示細胞による増大した免疫複合体媒介性抗原取り込み、増大したナチュラルキラー(NK)細胞との結合、増大したマクロファージとの結合、増大した単球との結合、増大した多型核細胞との結合、アポトーシスを誘導する増大した直接シグナル伝達、増大した標的結合抗体の架橋、増大した樹状細胞成熟、又は増大したT細胞プライミング。増大したFcレセプター結合親和性は、好ましくは、Fcγ活性化レセプターとの増大した結合、最も好ましくは増大したFcγRIIIaとの結合である。
【0045】
本発明にとって有用な最も好ましい抗EGFR抗体は、それが配列番号38の重鎖可変ドメイン及び配列番号39の軽鎖可変ドメインを含み、ヒト化されており、そして配列番号40に開示されるヒト重鎖不変領域Igγ−1を含むことを特徴とする。この抗体は「GlycArt−mAb」と呼ばれる。GlycArt−mAbは、部分的にフコシル化、即ち、上記のように糖操作されて、非糖操作抗体と比較して増加した割合の非フコシル化オリゴ糖をFc領域に有することもあればそうでないこともある。
【0046】
モノクローナル抗体及び抗体フラグメントの製造及び単離のための技術、非ヒト抗体をヒト化する方法、並びに抗体の組換え生産及び精製の手法は当分野で周知である。そのような技術の説明は、関連する参考文献を含めて、例えばWO2006/082515に記載されている。
【0047】
EGFR等の成長因子レセプターに対する抗体の治療有効性には幾つかのメカニズムが関与していることが知られている。これらには、それらのレセプターへのリガンド(例えば、EGF、TGF−α等)結合とそれに続くシグナル伝達経路活性化の遮断、抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC)、補体依存性細胞障害(CDC)並びに増殖停止、アポトーシス又は最終分化の誘導が包含される。
【0048】
本発明にとって有用なヒト化抗EGFR IgG1抗体の治療有効性は、WO2006/082515に記載のように、それを、β(1,4)−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(GnTIII)活性を有するポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドをも発現する宿主細胞中で産生させることにより増強することができ、その結果、低下した割合のフコシル化オリゴ糖をFc領域に有する抗体(「部分的にフコシル化された」抗体と呼ばれる)が得られる。好ましい局面では、GnTIII活性を有するポリペプチドは、GnTIIIの触媒ドメイン及びヘテロローガスなゴルジ常在ポリペプチドのゴルジ局在ドメイン、例えばマンノシダーゼII、マンノシダーゼI、β(1,2)−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI(GnTI)、β(1,2)−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII(GnTII)又はα1−6コアフコシルトランスフェラーゼ、好ましくはマンノシダーゼII又はGnTIのゴルジ局在ドメインを含んでなる融合ポリペプチドである。これらの融合ポリペプチドを作製し、増大したエフェクター機能を有する抗体を生産するためにそれらを利用する方法は、米国暫定特許出願第60/495142号及び米国特許出願公開第2004/0241817A1号に開示されており、これらの各々の全内容を引用により特に本明細書の一部とする。
【0049】
部分的にフコシル化されたヒト化抗EGFR IgG1抗体は、オリゴ糖修飾の結果、増大したFcレセプター結合親和性及び/又は増大したエフェクター機能を示す。好ましくは、この増大したFcレセプター結合親和性は、Fcγ活性化レセプター、例えばFcγRIIIaレセプターとの増大した結合である。増大したエフェクター機能は、好ましくは以下の事柄のうち1又は2以上である:増大したFc媒介性細胞性細胞障害(増大した抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC)を包含する)、増大した抗体依存性細胞性ファゴサイトーシス(ADCP)、増大したサイトカイン分泌、抗原提示細胞による増大した免疫複合体媒介性抗原取り込み、増大したNK細胞との結合、増大したマクロファージとの結合、増大した多型核細胞(PMN)との結合、増大した単球との結合、増大した標的結合抗体の架橋、アポトーシスを誘導する増大した直接シグナル伝達、増大した樹状細胞成熟、及び増大したT細胞プライミング。
【0050】
部分的にフコシル化された抗体は、当該抗体をコードしているポリヌクレオチド及びGnTIII活性を有するポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドを発現する宿主細胞、又はそのようなポリヌクレオチドを含むベクターにおいて生産できる。前記宿主細胞におけるヒト化抗EGFR IgG1抗体の生産は、以下の(a)GnTIII活性を有するポリペプチドをコードしている少なくとも1個の核酸を発現するよう操作された宿主細胞を、該抗体を生産させる条件下で培養し(ここで、GnTIII活性を有する前記ポリペプチドは、前記宿主細胞により生産される前記抗体のFc領域中のオリゴ糖を修飾するに充分な量で発現される);そして、(b)前記抗体を単離する、工程を含んでなる。
【0051】
抗体の生産には様々な宿主細胞及び発現ベクター系を使用でき、それらは当分野で周知である。本発明にとって有用なヒト化EGFR IgG1抗体を発現させるための好適な宿主細胞には、培養細胞、例えば培養された哺乳動物細胞、例えば幾つかを挙げるだけでもCHO細胞、HEK293−EBNA細胞、BHK細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、YOミエローマ細胞、P3X63マウスミエローマ細胞、PER細胞、PER.C6細胞又はハイブリドーマ細胞、E.coli細胞、酵母細胞、昆虫細胞、及び植物細胞があるが、それだけでなく、トランスジェニック動物、トランスジェニック植物又は培養された植物もしくは動物組織内に含まれる細胞がある。ヒト化抗EGFR IgG1抗体の生産についての詳細情報は、WO2006/082515及びそこに引用されている参考文献に見出すことができる。
【0052】
本発明は、癌の処置に併用するための、前記等のヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンを提供する。ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンは、一緒に又は別々に、同時又は連続的に、同じ又は異なる製剤で、同じ又は異なる経路で、そしてさらなる治療物質もしくは処置、例えば他の抗癌剤もしくは放射線療法を伴って又は伴わずに投与できる。
【0053】
本発明は更に、活性成分としての前記等のヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカン、医薬的に許容され得る担体、並びに場合により1又は2以上の他の治療活性成分もしくはアジュバントを含んでなる、医薬組成物、特に、癌の処置において使用するための医薬組成物を包含する。他の治療薬には、細胞傷害性物質、化学療法剤もしくは抗癌剤、又はこれらの物質の効果を増強する物質が包含され得る。
【0054】
以下の実施例に提示するデータは、イリノテカン及びヒト化抗EGFR IgG1抗体の同時投与が、進行癌、例えば非小細胞肺癌(NSCLC)の処置に有効であることを証明している。したがって本発明は、前記等のヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンの組み合わせの治療有効量を係る処置を必要とする対象に投与することを特徴とする、癌の処置のための方法を提供する。ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカン(以下「活性物質」と称する)の組み合わせの治療有効量は、各々の活性物質の治療有効量であってよい。或いは、癌の処置により惹起される副作用を低減するため、ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンの組み合わせの治療有効量は、相加的、又は超相加的もしくは相乗的抗腫瘍効果を生むのに有効である、そして、併用で腫瘍増殖の阻害に有効であるが、それらを単独で使用した場合にはその活性物質の一方又は両方の治療量以下であるかも知れない、2つの活性物質の量であってもよい。好ましくは、本発明による癌の処置方法において、ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンは、一緒に又は別々に、同時又は連続的に、同じ又は異なる製剤で、同じ又は異なる経路で、そしてさらなる物質もしくは処置、例えば他の抗癌薬もしくは放射線療法を伴って又は伴わずに患者に投与するものとする。
【0055】
本発明は更に、前記等のヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンの組み合わせの治療有効量が使用され、そして、そのヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンを、一緒に又は別々に、同時又は連続的に、同じ又は異なる製剤で、同じ又は異なる経路で、そしてさらなる物質もしくは処置を伴って又は伴わずに患者に投与することが意図されているという特徴を有する、癌の処置のための医薬を製造する方法を提供する。前記のように、ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンの組み合わせの治療有効量は、各々の活性物質の治療有効量であってもよいし、相加的、又は超相加的もしくは相乗的抗腫瘍効果を生むのに有効である、そして、併用で腫瘍増殖の阻害に有効であるが、それらを単独で使用した場合にはその活性物質の一方又は両方の治療量以下であるかも知れない、2つの活性物質の量であってもよい。
【0056】
本発明は更に、前記等のヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンの両者を含む単一容器を含んでなる、癌の処置に有用なキットを提供する。本発明は更に、前記等のヒト化抗EGFR IgG1抗体を含む第一の容器、及びイリノテカンを含む第二の容器を含んでなるキットを提供する。好ましい局面では、このキット容器は更に、医薬的に許容され得る担体を含んでいてもよい。このキットは更に無菌希釈剤を含んでいてよく、それは好ましくは別個のさらなる容器に保存されている。このキットは更に、癌を処置する方法としてこの併用処置の使用を指示する印刷された説明書を含んでなる添付文書を包含できる。
【0057】
本発明は癌の処置を意図している。したがって、それを必要とする対象は、癌又は前癌状態もしくは病変の処置を必要とするヒト、ウマ、ブタ、ウシ、マウス、ラット、イヌ、ネコ、トリ又はその他の温血動物、好ましくはヒトである。癌は好ましくは、前記等のヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンの組み合わせを投与することにより部分的又は完全に処置され得る任意の癌、即ち、EGFR発現に関連する疾患、特に、EGFRが発現される、より詳細には、EGFRが異常発現(例えば過剰発現)される細胞増殖性疾患である。癌は、例えば、肺癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、細気管支肺胞上皮癌腫、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部の癌、扁平上皮癌腫、皮膚もしくは眼内メラノーマ、子宮癌、卵巣癌、結腸直腸癌、直腸癌、肛門部の癌、胃癌(stomach cancer)、胃癌(gastric cancer)、結腸癌、乳癌、子宮癌、卵管の癌腫、子宮内膜の癌腫、頸部の癌腫、膣の癌腫、外陰部の癌腫、ホジキン病、食道の癌、小腸の癌、内分泌系の癌、甲状腺の癌、副甲状腺の癌、副腎の癌、軟組織の肉腫、尿道の癌、陰茎の癌、前立腺癌、膀胱の癌、腎臓又は尿管の癌、腎細胞癌腫、腎盂の癌腫、中皮腫、肝細胞癌、胆道癌、慢性又は急性白血病、リンパ球性リンパ腫、中枢神経(CNS)の腫瘍、脊椎(spinal axis)腫瘍、脳幹グリオーマ、多形性膠芽腫、星状細胞腫、神経鞘腫、上衣腫、髄芽腫、髄膜腫、扁平上皮癌腫、下垂体腺腫(任意の上記癌の難治性型、又は上記癌の1もしくはそれ以上の組み合わせを包含する)であってよい。癌の転移もまた包含される。前癌状態又は病変には、例えば口腔白板症、光線角化症(日光角化症)、結腸又は直腸の前癌状態ポリープ、胃上皮異形成、腺腫様異形成、遺伝性非ポリポーシス結腸癌症候群(HNPCC)、バレット食道、膀胱異形成、及び子宮頸部前癌状態が包含される。好ましくは、癌は肺癌又は結腸直腸癌、最も好ましくは非小細胞肺癌(NSCLC)である。
【0058】
本発明の幾つかの局面では、前記等のヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンを1又は2以上の抗癌剤と組み合わせて投与できる。好ましくは、前記抗癌剤は、微小管攪乱物質(例えば、ビンブラスチン又はビンクリスチン等のビンカアルカロイド、ドセタキセル又はパクリタキセル等のタキサン類、イクサベピロン等のエポチロン類)、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキサート又はアミノプテリン等の抗葉酸剤、フルダラビン、6−メルカプトプリン又は6−チオグアニン等の抗プリン剤、5−フルオロウラシル、カペシタビン又はゲムシタビン等の抗ピリミジン剤、ヒドロキシウレア)、トポイソメラーゼ阻害剤(例えば、カンプトテシン、トポテカン、又はエトポシド等のポドフィロトキシン)、DNA挿入剤(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、アクチノマイシン、ブレオマイシン)、アルキル化剤(例えば、シクロホスファミド、クロラムブシル、カルムスチン又はニムスチン等のニトロソウレア類、ストレプトゾシン、ブスルファン、シスプラチン、オキサリプラチン、トリエチレンメラミン、ダカルバジン)、ホルモン療法(例えば、グルココルチコイド類、タモキシフェン等のアロマターゼ阻害剤、フルタミド等の抗アンドロゲン、ロイプロリド等のゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アナログ)、抗生物質、キナーゼ阻害剤(例えば、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ)、レセプター拮抗剤、酵素阻害剤(例えば、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害剤)、アミノ酸涸渇酵素(例えばアスパラギナーゼ)、ロイコボリン、レチノイド類、腫瘍細胞アポトーシスのアクチベーター、及び抗血管新生剤よりなる群から選択できる。
【0059】
本発明にとって有用なヒト化抗EGFR IgG1抗体を、化学療法剤等の細胞傷害性物質、毒素(例えば、細菌、真菌、植物もしくは動物由来の、酵素的に活性な毒素、又はそれらのフラグメント)、放射性アイソトープ、又は細胞傷害性物質のプロドラッグにコンジュゲートさせることもできる。
【0060】
本発明で使用されるヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカン、又は本発明に係る医薬組成物は、当分野で知られる任意の有効な方法、例えば経口、局所、静脈内、腹腔内、リンパ管内、筋肉内、関節内、皮下、鼻内、眼内、腟内、直腸内、もしくは皮内経路によって、又は直接腫瘍内に注射することによって投与できる。投与経路の選択は、処置される癌の種類、及び、例えば公開されている臨床研究結果に基づく処方医師の医学的判断に依存する。ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンは、同じ又は異なる経路で投与できる。好ましくは、本発明で使用されるヒト化抗EGFR IgG1抗体は非経口投与を意図したものであり、本発明で使用されるイリノテカンは非経口又は経口投与を意図したものである。好ましくは、本発明に係る医薬組成物、又は本発明で使用されるヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンは、同じ経路で投与される場合、非経口投与され、最も好ましくは静脈内投与される。本発明で使用されるヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカン又は本発明に係る医薬組成物は、制御放出手段及び/又はデリバリー器具によって投与できる。
【0061】
本発明によれば、前記等のヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンは、治療有効量で投与されるべきであり、それは、各々の活性物質が治療有効用量で投与されること、又は、2つの活性物質の量が、活性物質が単独で使用された場合には治療量以下であるが、併用すると腫瘍増殖の阻害に有効であるように、相加的、又は超相加的もしくは相乗的抗腫瘍効果を生むのに有効であることを意味する。
【0062】
本発明に係る組み合わせの化合物のための用量レベルは、ほぼ前記のとおりであるか、又はこれらの化合物について当分野で記載されたとおりである。本発明で使用されるヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカン、又は本発明に係る医薬組成物の最も有効な投与様式及び投与レジメンは、疾患の重篤度及び経過、患者の一般健康状態、年齢、体重、性別、食習慣及び処置に対する反応、投与の時間及び経路、排泄経路、他の薬物との併用、並びに処置する医師の判断を包含する様々な因子に依存する。したがって、ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカン、又は組成物の用量は、個々の患者に応じて調整すべきである。とは言え、本発明に使用されるヒト化抗EGFR IgG1抗体の治療有効用量は、一般に約0.01〜約2000mg/kgの範囲となろう。典型的には、非経口投与される用量あたりの該抗体の治療有効量は、一日あたり約1〜25mg/kg(患者の体重)の範囲となるであろう。或る局面では、有効用量は約1.0mg/kg〜約25.0mg/kgの範囲である。より詳細な局面では、その用量は約1.5mg/kg〜約15mg/kgの範囲である。別の局面では、その用量は約1.5mg/kg〜約4.5mg/kg、又は約4.5mg/kg〜約15mg/kgの範囲である。本発明に係る用量は更に、これらの範囲内にあって1.0mg/kg、1.5mg/kg、2.0mg/kg、2.5mg/kg、3.0mg/kg、3.5mg/kg、4.0mg/kg、4.5mg/kg、5.0mg/kg、5.5mg/kg、6.0mg/kg、6.5mg/kg、7.0mg/kg、7.5mg/kg、8.0mg/kg、8.5mg/kg、9.0mg/kg、9.5mg/kg、10.0mg/kg、10.5mg/kg、11.0mg/kg、11.5mg/kg、12.0mg/kg、12.5mg/kg、13.0mg/kg、13.5mg/kg、14.0mg/kg、14.5mg/kg、又は15.0mg/kgを包含する(但しこれらに限定されない)任意の用量とすることができる。本発明で使用されるイリノテカンの治療有効用量は、一般に約0.1〜約2000mg/kgの範囲となるであろう。典型的には、非経口投与される用量あたりのイリノテカンの治療有効量は、一日あたり約1〜25mg/kg(患者の体重)の範囲、又は約10〜約1000mg/mの範囲となるであろう。より詳細な局面では、イリノテカンの有効用量は約1〜約10mg/kgの範囲、又は約20〜約500mg/mの範囲である。本発明に係る用量は更に、これらの範囲内にあって1.0mg/kg、1.5mg/kg、2.0mg/kg、2.5mg/kg、3.0mg/kg、3.5mg/kg、4.0mg/kg、4.5mg/kg、5.0mg/kg、5.5mg/kg、6.0mg/kg、6.5mg/kg、7.0mg/kg、7.5mg/kg、8.0mg/kg、8.5mg/kg、9.0mg/kg、9.5mg/kg、10.0mg/kgを包含する(但しこれらに限定されない)、又は25mg/m、50mg/m、75mg/m、100mg/m、125mg/m、150mg/m、175mg/m、200mg/m、225mg/m、250mg/m、275mg/m、300mg/m、325mg/m、350mg/m、375mg/m、400mg/m、425mg/m、450mg/m、475mg/m、500mg/mを包含する(但しこれらに限定されない)任意の用量とすることができる。
【0063】
しかしながら上に記載したように、ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンの推奨量は、かなり治療上の裁量に任される。上に述べたように、適切な用量及び投与計画を選択する際の主たる因子は、得られる結果である。例えば、進行中の、そして急性の疾患の処置には、初期に比較的高用量が必要であるかも知れない。最も有効な結果を得るためには、疾患又は障害にもよるが、その疾患又は障害の最初の徴候、診断、発現、又は発症にできる限り近接して、又はその疾患もしくは障害の寛解中にこのアンタゴニストを投与する。
【0064】
腫瘍を処置するために抗EGFR抗体を使用する場合、最適な治療結果は一般に、標的細胞上のEGFレセプターを完全に飽和するに十分な用量によって達成される。飽和の達成に必要な用量は、腫瘍細胞あたりの発現されるEGFレセプターの数(これは異なる腫瘍型の間で著しく相違し得る)に依存する。或る腫瘍の処置に際しては僅か30nMの血清中濃度で有効であるが、一方別の腫瘍では、最適な治療効果を達成するために100nMを超える濃度が必要となることがある。与えられた腫瘍について飽和を達成するのに必要な用量は、ラジオイムノアッセイ又は免疫沈降により容易にインビトロで決定できる。
【0065】
本発明に係る用量は、時として予測的バイオマーカーを使用して決定できる。予測的バイオマーカーとは、腫瘍関連遺伝子もしくは蛋白、又は腫瘍関連シグナル伝達経路の細胞成分の発現及び/又は活性化のパターンを決定する(即ち、観察及び/又は定量する)ために用いられる分子マーカーである。腫瘍組織における標的化治療の生物学的効果を解明し、それらの効果を臨床反応と関連付けることは、腫瘍において作用している支配的な増殖及び生存経路を特定し、それにより、応答しそうな者のプロファイルを確立し、そして逆に、抵抗性を克服する戦略を設計するための理論的根拠を提供する助けとなる。例えば、抗EGFR治療のバイオマーカーは、Akt、RAS、RAF、MAPK、ERK1、ERK2、PKC、STAT3、STAT5を包含する(但しこれらに限定される訳ではない)、細胞増殖性疾患を導くEGFR下流シグナル伝達経路中の分子を含んでなる(Mitchell, Nat Biotech 22, 363-364 (2004); Becker, Nat Biotech 22; 15-18 (2004); Tsao and Herbst, Signal 4, 4-9 (2003))。抗EGFR治療のためのバイオマーカーは、EGFR、ErbB−2(HER2/neu)、及びErbB−3(HER3)等の成長因子レセプターをも含み、抗EGFR治療に対する患者の反応の、正又は負の予測因子となり得る。例えば、成長因子レセプターErbB−3(HER3)は、抗EGFR抗体ABX−EGFについての負の予測的バイオマーカーであると決定された(米国特許出願公開第2004/0132097A1号)。
【0066】
予測的バイオマーカーは、実時間逆転写PCRもしくはマイクロアレイ型転写プロファイリングによるRNAの検出及び/又は定量、免疫組織化学、フローサイトメトリー、免疫蛍光分析、捕捉・検出アッセイ、ウェスタンブロット、ELISA、逆相アッセイ、及び/又は米国特許出願公開第2004/0132097A1号(その全内容を引用により本明細書の一部とする)に開示されるアッセイによる蛋白の検出及び/又は定量、を包含する(但しこれらに限定されない)、当分野で周知のアッセイにより測定できる。
【0067】
或る局面では、本発明は、治療前にヒト対象由来の試料を、癌等のEGFR関連疾患の予測的バイオマーカーの発現及び/又は活性化を検出する1個又は複数の試薬でアッセイし;予測的バイオマーカーのうち1個又はそれ以上の発現及び/又は活性化のパターンを決定し[ここで、このパターンは、抗EGFR治療に対するそのヒト対象の反応を予測する];そして、抗EGFR処置に好反応をすると予測されるヒト対象に、ヒト化抗EGFR IgG1抗体を含んでなる組成物の治療有効量を投与することによる、処置を必要とするヒト対象における抗EGFR治療に対する反応を予測することを含んでなる、EGFR関連疾患の処置方法を提供する。本明細書で使用する「抗EGFR処置に好反応をすると予測されるヒト対象」とは、抗EGFRがEGFR関連疾患に関して測定され得る効果(例えば腫瘍の退縮/縮小)を有する、そして、抗EGFR治療の有害作用(例えば毒性)が利益を上回らないヒト対象である。本明細書で使用する試料とは、1個又はそれ以上の細胞を含んでなる、生物、特にヒト由来の任意の生体試料を意味し、それには、任意の由来の単一細胞、乳房、肺、胃腸管、皮膚、頸部、卵巣、前立腺、腎臓、脳、頭頸部等の臓器又はその他任意の身体の臓器もしくは組織から取り出された組織又は生検試料、並びに、塗抹標本、喀痰、分泌物、脳脊髄液、胆汁、血液、リンパ液、尿及び糞便を包含する(但しこれらに限定されない)その他の身体試料が包含される。
【0068】
本発明の目的のため、ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンを「同時投与」、「同時投与する」、「組み合わせを投与する」及び「組み合わせる」とは、2つの活性物質を別々に又は一緒に投与することを指し、ここでこの2つの活性物質は、併用療法の利益を得るために設計された適切な投与レジメンの一部として投与される。したがって、2つの活性物質は、同じ医薬組成物の一部として、又は別々の医薬組成物として投与することができる。イリノテカンは、ヒト化抗EGFR IgG1抗体の投与の前に、同時に、もしくは後に、又はこれらを幾つか組み合わせて投与できる。ヒト化抗EGFR IgG1抗体を、例えば標準的な処置経過の最中に、間隔をおいて患者に反復投与する場合、イリノテカンは、ヒト化抗EGFR IgG1抗体の各投与の前に、同時に、もしくは後に、又はこれらを幾つか組み合わせて、又は、ヒト化抗EGFR IgG1抗体処置とは異なる間隔で、又は、ヒト化抗EGFR IgG1抗体による処置経過の前に単回投与で、その最中の任意の時点で、もしくはその後に投与できる。
【0069】
ヒト化抗EGFR IgG1抗体は、当分野で知られるように、そして例えばWO2006/082515に記載のように、典型的には、その患者の処置される癌の最も有効な処置(有効性及び安全性の視点から)を提供する投与レジメンで患者に投与されるであろう。
【0070】
上に論じたように、投与されるヒト化抗EGFR IgG1抗体の量及び抗体投与のタイミングは、処置される患者のタイプ(人種、性別、年齢、体重等)及び状態、処置される疾患又は状態の重篤度、及び投与経路に依存するであろう。例えば、ヒト化抗EGFR IgG1抗体は、単回もしくは分割投与で、又は持続注入により、1日あたり又は1週間あたり0.1〜100mg/kg(体重)の範囲の用量で患者に投与できる。幾つかの例では、前述の範囲の下限を下回る用量レベルで充分であるかも知れないが、一方、別の例では、更に大用量を終日投与のためにまず幾つかの小用量に分割するという条件で、いかなる有害な副作用も惹起することなく、より大用量を使用できるかも知れない。同じことがイリノテカンの投与量及びイリノテカン投与のタイミングについても当てはまる。
【0071】
本発明に従って使用されるヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンは、同じ又は異なる経路で別々に又は一緒に、そして多様な異なる投与型で投与できる。
【0072】
本発明で使用されるヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンの両者並びに本発明に係る医薬組成物は、液体の溶液もしくは懸濁液、乳濁液、錠剤、丸剤、糖衣錠、散剤、軟膏、クリーム、坐剤又はインプラントを包含する(但しこれらに限定される訳ではない)種々の剤型とすることができる。本発明で使用されるヒト化抗EGFR IgG1抗体及び/又はイリノテカン又は本発明に係る組成物を、例えばコアセルベーション技術又は界面重合により製造されたマイクロカプセル、例えば、各々コロイド薬物デリバリー系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルジョン中のヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン−マイクロカプセル及びポリ−(メチルメタクリラート)マイクロカプセル中に捕捉することもできる。これらの技術はRemington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Mack Pub. Co. (1980) に開示されている。好ましい剤型は、投与様式及び治療用途に依存する。典型的には、本発明で使用されるヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカン又は本発明に係る医薬組成物は、注射溶液又は点滴溶液で投与されるであろう。注射又は点滴製品は無菌でなければならず、それは無菌濾過膜での濾過により容易に達成できる。
【0073】
膜制御持続放出系又はポリマー型マトリックス系といった持続放出製品が製造できる。持続放出マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えばポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリラート)又はポリ(ビニルアルコール))、ポリアクチド(米国特許第3773919号)、L−グルタミン酸及びγ−エチル−L−グルタミン酸のコポリマー、非分解性エチレン−ビニルアセタート、分解性乳酸−グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOT(登録商標)(乳酸−グリコール酸コポリマー及びロイプロリドアセタートよりなる注射用マイクロスフェア)、及びポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸がある。
【0074】
本発明で使用されるヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカン又は本発明に係る医薬組成物は、バルクで、又は、薬学分野で周知の任意の方法により製造される単位剤型で都合良く提供され得る。これらの単位剤型は、例えば経口投与(カプセル剤、カシェ剤、錠剤等)に好適であり、各々が予め定められた量の活性成分(群)を含有する。
【0075】
本発明で使用されるヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカン並びに本発明に係る医薬組成物は、良好な医療に矛盾しない方法で製剤化、投薬、及び投与されるであろう。
【0076】
本発明に使用されるヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカン並びに本発明に係る医薬組成物の最適な製剤は、処置される特定の疾患又は障害、処置される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、疾患又は障害の原因、当該物質のデリバリー部位、投与経路(例えば、非経口、経口、局所、直腸内)、投与計画立案、及び医師の知悉するその他の因子に依存するであろう。
【0077】
全ての製剤は、ヒト化抗EGFR IgG1抗体の変性及び/又は分解並びに生物活性の喪失を回避し、そして/又はイリノテカンの完全性及び生物活性を維持するよう、選択されるべきである。
【0078】
実際には、本発明に使用されるヒト化抗EGFR IgG1抗体及び/又はイリノテカンを活性成分として合し、常套的医薬品配合技術に従って薬学的担体と緊密に混合する。担体は、投与、例えば非経口(静脈内を包含する)投与にとって望ましい製剤型に応じた様々な形態をとることができる。使用される薬学的担体は、例えば、固体、液体、又は気体とすることができる。固体担体の例には、乳糖、白土、スクロース、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、ステアリン酸マグネシウム、及びステアリン酸がある。液体担体の例は、シュガーシロップ、落花生油、オリーブ油、及び水である。気体担体の例には、二酸化炭素及び窒素がある。担体成分に加えて、この医薬製剤は更に、緩衝剤、希釈剤、溶媒、安定剤、抗酸化剤、製剤を等張化するための物質、香料、結合剤、界面活性剤、増粘剤、潤滑剤、保存剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、錠剤を崩壊させる物質等等の他の成分を適宜含有させることができる。この製剤は任意の薬学的方法により製造できる。
【0079】
本発明に使用されるヒト化抗EGFR IgG1抗体及び/又はイリノテカン又は本発明に係る医薬組成物を含有する、注射に好適な医薬製剤は、無菌の水溶液又は分散液を包含する。更に、活性物質及び組成物は、これらの無菌注射溶液又は分散液の即時調製のための無菌粉末の形態であってもよい。いずれにせよ最終的な注射用形態は、無菌でなければならず、また、容易な被注射可能性のため事実上液体でなければならない。この製剤は、製造及び保存の条件下で安定でなければならず、したがって、好ましくは細菌及び真菌等の微生物の汚染作用がないように保存されるべきである。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコール)、植物油、及びそれらの適当な混合物を含有する、溶媒又は分散媒であってよい。
【0080】
活性物質のいずれか又は両者を非経口投与するためには、ゴマ油もしくは落花生油又は水性プロピレンクリコール中の溶液、並びに活性物質又はその対応する水溶性塩を含む無菌水溶液を使用できる。これらの無菌水溶液は好ましくは、例えばヒスチジン、酢酸又はリン酸緩衝液で適切に緩衝化され、また、好ましくは、例えば充分な生理食塩水又はグルコースで等張化される。これら特別な水溶液は特に、静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内注射目的に好適である。油性溶液は、関節内、筋肉内及び皮下注射目的に好適である。無菌条件下におけるこれら全ての溶液の調製は、当業者に周知の標準的薬学技術により容易に達成される。
【0081】
ヒト化抗EGFR IgG1抗体及び/又はイリノテカンを含有する治療用製剤は、所望の純度を有する活性成分を、場合により医薬的に許容され得る単体、溶媒、賦形剤又は安定剤と混合することにより製造される(Remington’s Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Mack Pub. Co. (1980))。それらは凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で保存できる。許容される担体、溶媒、賦形剤、又は安定剤は、使用される用量及び濃度においてレシピエントにとって非毒性であり、例えばリン酸塩、クエン酸塩、ヒスチジン、酢酸塩及びその他の有機酸等の緩衝剤;アスコルビン酸及びメチオニン等の抗酸化剤;保存剤(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール;ブチル又はベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えばメチル又はプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;及びm−クレゾール);低分子量(約10残基に満たない)ポリペプチド;蛋白、例えば血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン又はポリエチレングリコール(PEG);アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン;アルギニン、又はリジン;単糖類、二糖類、及びグルコース、マンノース、又はデキストリンを包含するその他の炭水化物;キレート剤、例えばEDTA;糖類、例えばスクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール;塩を形成する対イオン、例えばナトリウム;金属錯体(例えばZn−蛋白錯体));及び/又は非イオン性界面活性剤、例えばポリオキシエチレン−ソルビタン脂肪酸エステル(Tween(登録商標))又はポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマー(Pluronic(登録商標))を包含する。
【0082】
皮下投与に適合する凍結乾燥製剤がWO97/04801に記載されている。これらの凍結乾燥製剤は、高い蛋白濃度となるまで適当な希釈剤で再構成でき、その再構成された製剤を、本発明において処置される哺乳動物に皮下投与することができる。
【0083】
抗体又はその抗原結合フラグメントを含んでなる医薬組成物の製造方法は当分野で知られており、例えばWO2006/082515に記載されている。イリノテカンを含んでなる医薬組成物の製造方法もまた当分野で知られている(例えば、Rothenberg et al., J Clin Oncol 11, 2194-2204 (1993))。ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンを含んでなる医薬組成物の製造方法は、上に引用した刊行物及びその他の既知の文献、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences, 18th edition, Mack Pub. Co. (1990)から明らかであろう。この組み合わせ組成物は任意の薬学的方法により製造できる。
【0084】
下記の実施例は、本発明をより詳細に説明するものである。以下の製造例及び実施例は、当業者が本発明をより明確に理解し実施できるよう記載するものである。しかしながら本発明は、例示された局面(それは本発明の一つの局面の例示を意図しているに過ぎない)によりその範囲を限定されるものではなく、機能的に同等の方法が本発明の範囲内にある。事実、本明細書に記載されたものに加えて本発明の様々な修飾が、上の説明及び添付の図面から、当業者には明白となるであろう。そのような修飾は、付記した請求項の範囲内にあるものとする。
【0085】
別途以下のように定義されていない限り、本明細書においては、当分野で一般的に使用されるように用語を使用する。
【0086】
本明細書で使用する「抗体」という語は、モノクローナル、ポリクローナル及び多特異性(例えば二重特異性)抗体を包含する抗体分子全体、及びFc領域を有し結合特異性を保持している抗体フラグメント、並びに免疫グロブリンのFc領域に相当する領域を含み結合特異性を保持している融合蛋白を包含するものとする。VIIフラグメント、VLフラグメント、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、scFVフラグメント、FVフラグメント、ミニボディ、ダイアボディ、トリアボディ、及びテトラボディを包含する(但しこれらに限定されない)、結合特異性を保持している抗体フラグメントもまた包含される(例えばHudson and Souriau, Nat Med 9, 129-134 (2003)を参照されたい)。遺伝子操作された、組換え、ヒト化、霊長類化及びキメラ抗体並びにマウス又はヒト等の異なる種由来の抗体もまた包含される。
【0087】
本明細書で使用する「モノクローナル抗体」又は「モノクローナル抗体組成物」という語は、単一のアミノ酸組成を有する抗体分子の調製物を指す。したがって、「ヒトモノクローナル抗体」という語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列から誘導される可変及び不変領域を有する単一の結合特異性を示す抗体を指す。或る態様では、ヒトモノクローナル抗体は、ヒト重鎖トランスジーン及びヒト軽鎖トランスジーンを含むゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動物、例えばトランスジェニックマウスから得られるB細胞を不死化細胞に融合させた、ハイブリドーマによって産生される。
【0088】
本明細書で使用する「ヒト化」という語は、親分子の抗原結合特性を保持又は実質的に保持するがヒトにおいて抗原性があまり高くない、非ヒト抗原結合分子、例えばマウス抗体から誘導される抗原結合分子、例えばキメラ抗体を指すのに用いられる。免疫原性の低減は、(a)非ヒト可変ドメイン全体をヒト不変領域に接合してキメラ抗体を作製する、(b)決定的なフレームワーク残基(例えば、良好な抗原結合親和性又は抗体機能の保持にとって重要な残基)を保持しつつ、又は保持せずに、非ヒトCDRのみをヒトフレームワーク及び不変領域に接合する、(c)非ヒト特異性決定領域(SDR;抗体−抗原相互作用にとって決定的な残基)のみをヒトフレームワーク及び不変領域に接合する、又は、(d)非ヒト可変ドメイン全体を移植するが、表面残基の置換によりヒト様(human-like)部分でそれらを「覆い隠す」、といった様々な方法で達成できる。これらの方法は、Morrison et al., Proc Natl Acad Sci USA 81, 6851-6855 (1984); Morrison and Oi, Adv Immunol 44, 65-92 (1988); Verhoeyen et al., Science 239, 1534-1536 (1988); Padlan, Molec Immun 28, 489-498 (1991); Padlan, Molec Immun 31(3), 169-217 (1994), Kashmiri et al., Methods 36, 25-34 (2005) に記載されており、これらは全て引用によりその全内容を本明細書の一部とする。抗体の重鎖及び軽鎖可変ドメインの各々には一般に3個の相補性決定領域、又はCDR(CDR1、CDR2及びCDR3)があり、それらは抗体の重鎖及び軽鎖可変ドメインの各々に存在する4個のフレームワーク小領域(即ち、FR1、FR2、FR3、及びFR4)に隣接している:FR1−CDR1−FR2−CDR2−FR3−CDR3−FR4。ヒト化抗体についての議論は特に、米国特許第6632927号及び公開された米国出願第2003/0175269号に見出され、これらは共に引用によりその全内容を本明細書の一部とする。
【0089】
同様に、本明細書で使用する「霊長類化」という語は、親分子の抗原結合特性を保持又は実質的に保持しているが霊長類において免疫原性があまり高くない、非霊長類抗体、例えばマウス抗体から誘導された抗体を指す。
【0090】
本明細書で使用する「可変領域」又は「可変ドメイン」(軽鎖の可変領域(VL)、重鎖の可変領域(VH))とは、抗原に対する抗体の結合に直接関わる、軽鎖及び重鎖の対の各々を意味する。ヒト軽鎖及び重鎖可変ドメインは同じ一般構造を有し、各ドメインは、3個の「超可変領域」(又は相補性決定領域、CDR)で連結された、その配列が広範に保存されている4個のフレームワーク(FR)領域を含む。このフレームワーク領域はβシートコンホメーションを採り、CDRがそのβシート構造を連結するループを形成し得る。各鎖のCDRはフレームワーク領域によってそれらの三次元構造を保持し、他の鎖由来のCDRと共に抗原結合部位を形成する。抗体の重鎖及び軽鎖CDR3領域は、本発明にとって有用な抗体の結合特異性/親和性において特に重要な役割を果たし、したがって本発明のさらなる目的を提供する。
【0091】
本明細書で使用される場合、「超可変領域」又は「抗体の抗原結合部分」という語は、抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、「相補性決定領域」又は「CDR」のアミノ酸残基を含んでなる。「フレームワーク」又は「FR」領域は、本明細書に定義される超可変領域の残基以外の可変ドメイン領域である。故に、抗体の軽鎖及び重鎖の可変領域は、N末端からC末端に向かって、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4を含んでなる。特に重鎖のCDR3は抗原結合に最も貢献する領域である。CDR及びFR領域は、Kabat et al., “Sequences of Proteins of Immunological Interest”, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991) の標準的定義及び/又は「超可変ループ」由来の残基に従って決定できる。
【0092】
当分野内で使用されそして/又は許容される1つの用語に2又はそれ以上の定義が存在する場合、本明細書で使用されるその用語の定義は、それに反する旨が明記されていない限り、そのような意義の全てを包含するものとする。1つの具体例は、重鎖及び軽鎖ポリペプチドの両方の可変領域内に見出される非隣接抗原結合部位を描写する「相補性決定領域」(「CDR」)という用語の使用である。この特定の領域は、Kabat et al., “Sequences of Proteins of Immunological Interest”, National Institutes of Health, Bethesda (1983) 及びChothia et al., J Mol Biol 196, 901-917 (1987) によって説明されている(これらは引用により本明細書の一部とする)が、そこでは、その定義は、相互比較した場合のアミノ酸残基の重複又は部分集合を包含している。にも拘わらず、抗体又はその変異体のCDRを指す定義のいずれの適用も、本明細書に定義され使用されている当該用語の範囲内にあるものとする。上記引用文献の各々により定義されたCDRを包含する適切なアミノ酸残基を、比較のため下の表4に開示する。特定のCDRを包含する正確な残基数は、そのCDRの配列及び大きさによって異なる。当業者は、その抗体の可変領域アミノ酸配列が与えられたなら、いずれの残基が特定のCDRを含むのかを常套的に決定することができる。
【0093】
【表4】

【0094】
Kabat et al. は、任意の抗体に適用できる可変ドメイン配列の番号付けシステムをも規定した。当業者は、当該配列自体以外のいかなる実験データにも頼らずに、任意の可変ドメイン配列に対してこの「Kabat番号付け」システムを明確に割り当てることができる。本明細書で使用する「Kabat番号付け」とは、Kabat et al., “Sequences of Proteins of Immunological Interest”, National Institutes of Health, Bethesda (1983) により開示された番号付けシステムを指す。特に規定のない限り、抗原結合分子中の特定アミノ酸残基の位置の番号付けへの言及は、Kabat番号付けシステムに従う。
【0095】
「不変ドメイン」は、可変領域以外の抗体分子の部分である。それらは抗原への抗体の結合に直接関与しないが、エフェクター機能(例えば、ADCC、CDC)に関わっている。本発明にとって有用な抗体の不変ドメインは好ましくはIgG1アイソタイプのものである。これらの性質を持つヒト不変ドメインが、Kabat et al., “Sequences of Proteins of Immunological Interest”, National Institutes of Health, Bethesda (1991)、及び Bruggemann et al., J Exp Med 166, 1351-1361 (1987); Love et al., Methods Enzymol 178, 515-527 (1989) に詳述されている。本発明において有用な不変ドメインは、補体結合及びFcレセプター結合を提供する。ADCC及び場合によりCDCは、可変ドメイン及び不変ドメインの組み合わせによって提供される。
【0096】
本明細書で使用する「Fc領域」という語は、IgG重鎖のC末端領域を指すものとする。IgG重鎖のFc領域の境界は若干異なることがあるが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常Cys226位のアミノ酸残基からカルボキシ末端までと定義される。
【0097】
本明細書で使用する「免疫グロブリンのFc領域に相当する領域」という語は、免疫グロブリンのFc領域の天然に存在するアレレ変異体、並びに、置換、付加、又は欠失を生ずるが、エフェクター機能(例えば抗体依存性細胞媒介性細胞障害)を媒介する免疫グロブリンの能力を実質的に低下させない変化を有する変異体を包含するものとする。例えば、1又は2以上のアミノ酸を、生物学的機能を実質的に喪失させずに免疫グロブリンのFc領域のN末端又はC末端から除去することができる。これらの変異体を、活性に最小限の影響しか及ぼさないよう、当分野で周知の一般則に従い選択することができる(Bowie et al., Science 247, 1306-1310 (1990))。
【0098】
本明細書で使用する「GnTIII活性を有するポリペプチド」とは、N結合オリゴ糖のトリマンノシル核のβ結合マンノシドへの、β−1−4結合によるN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基の付加を触媒できるポリペプチドを指す。これは、特定の生物学的アッセイで測定したところ、用量依存性を持つ又は持たない、β(1,4)−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(国際生化学分子生物学連合の命名法委員会(NC−IUBMB) によるとβ−1,4−マンノシル−糖蛋白4−β−N−アセチルグルコサミニル−トランスフェラーゼ(EC2.4.1.144)としても知られる)の活性に類似の(但し必ずしも同一ではない)酵素活性を示す融合ポリペプチドを包含する。用量依存性が存在する場合には、GnTIIIのそれと同一である必要はなく、GnTIIIと比較して所定の活性における用量依存に実質的に類似していればよい(即ち、候補ポリペプチドは、GnTIIIと比較して、より高い活性、又は最大で約25倍低い、好ましくは最大で約10倍低い活性、そして最も好ましくは最大で約3倍低い活性を示す)。
【0099】
本明細書で使用する「ゴルジ局在ドメイン」という語は、そのポリペプチドをゴルジ複合体内部の位置に繋ぎ止めることを担うゴルジ常在ポリペプチドのアミノ酸配列を指す。一般に局在ドメインは酵素のアミノ末端「尾」を含む。
【0100】
本明細書で使用する「宿主細胞」という語は、本発明の抗体を生産させるために操作され得る任意の種類の細胞系を包含する。或る態様では、宿主細胞は、修飾された糖型の抗体の生産を可能にするように操作される。好ましくは、宿主細胞は、GnTIII活性を有する1又は2以上のポリペプチドを増加レベルで発現するように操作されている。宿主細胞には、培養細胞、例えば哺乳動物培養細胞、例えば幾つかを挙げるだけでもCHO細胞、HEK293−EBNA細胞、BHK細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、YOミエローマ細胞、P3X63マウスミエローマ細胞、PER細胞、PER.C6細胞又はハイブリドーマ細胞、E.coli細胞、酵母細胞、昆虫細胞、及び植物細胞があるが、それだけでなく、トランスジェニック動物、トランスジェニック植物又は培養された植物もしくは動物組織内に含まれる細胞がある。
【0101】
本明細書で使用する「エフェクター機能」という語は、抗体のFc領域(天然配列のFc領域又はアミノ酸配列変異体のFc領域)に帰すことのできる生物活性を指す。抗体エフェクター機能の例には、Fcレセプター結合親和性、抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC)、抗体依存性細胞性ファゴサイトーシス(ADCP)、サイトカイン分泌、抗原提示細胞による免疫複合体媒介性抗原取り込み、細胞表面レセプターのダウンレギュレーション等があるが、これらに限定される訳ではない。
【0102】
本明細書で使用する「操作する」、「操作された」、「操作」、「グリコシル化操作」、「糖操作された」という語は、天然に存在するもしくは組換えされた蛋白、ポリペプチド又はそれらのフラグメントのグリコシル化パターンの任意の操作を包含する。糖操作は、細胞のグリコシル化機構の代謝的操作を包含し、それには、これらの細胞において発現される糖蛋白のグリコシル化の改変を達成するための、オリゴ糖合成経路の遺伝的操作が包含される。更に、糖操作には、グリコシル化に関する突然変異及び細胞環境の影響が包含される。特に、糖操作は、変化したグリコシルトランスフェラーゼ活性、例えば変化したグルコサミニルトランスフェラーゼ及び/又はフコシルトランスフェラーゼ活性をもたらすことがある。
【0103】
本明細書で使用する「Fc媒介性細胞性細胞障害」という語は、抗体依存性細胞媒介性(時には「細胞性」とも呼ばれる)細胞障害(ADCC)及びヒトFc領域を含む可溶性Fc融合蛋白により媒介される細胞性細胞障害を包含する。それは、「ヒト免疫エフェクター細胞」による「抗体標的細胞」の溶解を導く免疫機構である。
【0104】
「ヒト免疫エフェクター細胞」とは、表面にFcレセプターを提示する白血球集団であり、Fcレセプターを介してそれらは抗体又はFc融合蛋白のFc領域に結合してエフェクター機能を遂行する。これらの集団には末梢血単核球(PBMC)及び/又はナチュラルキラー(NK)細胞が包含され得るがこれらに限定される訳ではない。
【0105】
「抗体標的細胞」とは、抗体又はFc融合蛋白と結合する細胞である。抗体又はFc融合蛋白は、N末端からFc領域に至る蛋白部分を介して標的細胞に結合する。
【0106】
本明細書で使用する「増大したFc媒介性細胞性細胞障害」という語は、上に定義されたFc媒介性細胞性細胞障害のメカニズムにより、標的細胞を取り巻く媒質中で、所定の時間内に所定の濃度の抗体又はFc融合蛋白で溶解する「抗体標的細胞」数の増加、及び/又は、Fc媒介性細胞性細胞障害のメカニズムにより、標的細胞を取り巻く媒質中で、所定の時間内に、所定数の「抗体標的細胞」の溶解を達成するのに必要とされる、抗体又はFc融合蛋白の濃度の減少として定義される。Fc媒介性細胞性細胞障害の増大は、当業者の知悉する、同じ標準的生産、精製、処方及び保存方法を用いて同種類の宿主細胞により産生されるが、本明細書に記載の方法によってグリコシルトランスフェラーゼGnTIIIを発現するよう操作された宿主細胞により産生されたものではない、同じ抗体又はFc融合蛋白により媒介される細胞性細胞障害と比較したものである。
【0107】
「増大した抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC)を有する抗体」とは、本明細書でその用語が定義されるように、当業者の知悉する任意の適切な方法で測定された増大したADCCを有する抗体を意味する。許容されているインビトロADCCアッセイは以下のとおりである:
【0108】
1)このアッセイは、抗体の抗原結合領域により認識される標的抗原を発現することが知られている標的細胞を使用する;
【0109】
2)このアッセイは、無作為に選択された健康なドナーの血液から単離されたヒト末梢血単核球(PBMC)をエフェクター細胞として使用する;
【0110】
3)このアッセイは、以下のプロトコルに従って実施する:
【0111】
i)PBMCを標準密度勾配遠心分離法を用いて単離し、5x106細胞/mlをRPMI細胞培地に懸濁する;
【0112】
ii)標的細胞を標準組織培養法で増殖させ、90%を超える生存率の状態で指数増殖期から収穫し、RPMI細胞培地で洗浄し、100マイクロキュリーの51Crで標識し、細胞培地で2回洗浄し、そして、105細胞/mlの密度で細胞培地に再懸濁する;
【0113】
iii)上記のように調製した最終標的細胞懸濁液100マイクロリットルを96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに移す;
【0114】
iv)この抗体を細胞培地中で4000ng/ml〜0.04ng/mlに連続希釈し、得られた抗体溶液50マイクロリットルを96ウェルマイクロタイタープレート中の標的細胞に加え、上記の濃度範囲全体をカバーする様々な抗体濃度をトリプリケートで試験する;
【0115】
v)最大放出(MR)対照のために、標識された標的細胞の入ったプレート内の3個の追加ウェルに、抗体溶液(上記ポイントiv)の代わりに非イオン性洗浄剤(Nonidet, Sigma, St. Louis)の2%(v/v)水溶液50マイクロリットルを加える;
【0116】
vi)自然放出(SR)対照のために、標識された標的細胞の入ったプレート内の3個の追加ウェルに、抗体溶液(上記ポイントiv)の代わりにRPMI細胞培地50マイクロリットルを加える;
【0117】
vii)次いでこの96ウェルマイクロタイタープレートを50xgで1分間遠心分離し、4℃で1時間インキュベートする;
【0118】
viii)PBMC懸濁液(上記ポイントi)50マイクロリットルを各ウェルに加えて25:1のエフェクター:標的細胞比を得、そしてこのプレートを5%CO2雰囲気下に37℃のインキュベーターに4時間入れる;
【0119】
ix)各ウェル由来の無細胞上清を収穫し、実験的に放出された放射能(ER)をガンマカウンターを用いて定量する;
【0120】
x)特異的溶解のパーセンテージを、式(ER−MR)/(MR−SR)x100[式中、ERは、その抗体濃度について定量された(上記ポイントixを参照されたい)平均放射能であり、MRは、MR対照(上記ポイントvを参照されたい)について定量された(上記ポイントixを参照されたい)平均放射能であり、そしてSRは、SR対照(上記ポイントviを参照されたい)について定量された(上記ポイントixを参照されたい)平均放射能である]に従って各抗体濃度について算出する;
【0121】
4)「増大したADCC」とは、上記で試験された抗体濃度範囲内で観察される特異的溶解の最大パーセンテージの増大として、及び/又は、上記で試験された抗体濃度範囲内で観察される特異的溶解の最大パーセンテージの半分を達成するのに必要とされる抗体濃度の減少として定義される。このADCCの増大は、当業者の知悉する、同じ標準的生産、精製、処方及び保存方法を用いて同種類の宿主細胞により産生されるが、GnTIIIを過剰発現するよう操作された宿主細胞により産生されたものではない、同じ抗体により媒介される、上記アッセイで測定されたADCCと比較したものである。
【0122】
本明細書で使用する「変異体」(又は「アナログ」)という語は、例えば組換えDNA技術を使用して創成された、アミノ酸の挿入、欠失、及び置換により、具体的に列挙された本発明のポリペプチドと相違するポリペプチドを指す。本発明に係る抗体の変異体は、1個又は数個のアミノ酸残基が、抗原(例えばEGFR)結合親和性に実質的影響を及ぼさないような方法で、置換、付加及び/又は欠失によって修飾されている、キメラ、霊長類化又はヒト化抗体を包含する。目的とされる活性を無効にすることなく、どのアミノ酸残基を置換、付加又は除去すればよいかを決定する際の指針は、特定のポリペプチド配列を相同的ペプチドの配列と比較し、高相同性領域(保存領域)に施されるアミノ酸配列の変更の数を最小限にすることによって、又は、アミノ酸をコンセンサス配列に置き換えることによって見出すことができる。
【0123】
或いは、これらの同一又は類似ポリペプチドをコードしている組換え変異体を、遺伝コードの「重複性」を利用して合成又は選択することができる。様々なコドン置換、例えば種々の制限部位を生成するサイレント変化を導入して、プラスミドもしくはウイルスベクター内へのクローニング又は特定の原核細胞もしくは真核細胞系における発現を最適化することができる。ポリヌクレオチド配列における突然変異が、そのポリペプチド又はそのポリペプチドに加えられた他のペプチドのドメインに反映されて、そのポリペプチドの任意の部分の性質を修飾し、リガンド結合親和性、鎖間親和性、又は分解/代謝回転率等の性質を変化させることがある。
【0124】
好ましくは、アミノ酸「置換」は、或るアミノ酸を類似の構造及び/又は化学的性質を有する別のアミノ酸に置き換えた結果、即ち保存的なアミノ酸置き換えである。「保存的」アミノ酸置換は、関与する残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性の類似性に基づいて行うことができる。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸には、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、及びメチオニンが包含され;極性中性アミノ酸には、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、及びグルタミンが包含され;正に荷電した(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リジン、及びヒスチジンが包含され;そして負に荷電した(酸性)アミノ酸にはアスパラギン酸及びグルタミン酸が包含される。「挿入」又は「除去」は好ましくは約1〜20個のアミノ酸、より好ましくは1〜10個のアミノ酸の範囲内である。許容される変異は、組換えDNA技術を用いてポリペプチド分子内へのアミノ酸の挿入、除去、又は置換を系統的に行い、得られた組換え変異体を活性についてアッセイすることによって実験的に決定することができる。
【0125】
本発明に係るクエリーアミノ酸配列と、少なくとも例えば95%「同一」のアミノ酸配列を有するポリペプチドに関しては、対象ポリペプチド配列がクエリーアミノ酸配列の100アミノ酸につき最大5個のアミノ酸変化を含むかも知れないことを除けば、対象ポリペプチドのアミノ酸配列がクエリー配列と同一であるものとする。言い換えれば、クエリーアミノ酸配列と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを得るために、対象配列のアミノ酸残基の最大5%が、挿入され、除去され、又は別のアミノ酸で置換されるかも知れない。リファレンス配列のこれらの変化は、リファレンスアミノ酸配列のアミノ末端もしくはカルボキシ末端の位置に、又は、リファレンス配列の残基の間に個別に点在して、もしくはリファレンス配列内に1もしくはそれ以上の隣接した群として、それらの末端位置の間のどこかに存在するかも知れない。
【0126】
実際課題として、特定のポリペプチドがリファレンスポリペプチドと少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるかどうかは、既知のコンピュータプログラムを使用して常套的に決定することができる。グローバル配列アラインメントとも呼ばれる、クエリー配列(本発明の配列)と対象配列の間の最良の総合的な合致を決定するための好ましい方法は、Brutlag et al., Comp App Biosci 6, 237-245 (1990) のアルゴリズムに基づくFASTDBコンピュータプログラムを使用して決定することができる。
【0127】
本明細書で使用する「EGFR」という語は、ヒト上皮成長因子レセプター(HER−1又はErbB−1としても知られる)(Ulrich et al., Nature 309, 418-425 (1984); SwissProt受理番号P00533; 二次受理番号:O00688, O00732, P06268, Q14225, Q68GS5, Q92795, Q9BZS2, Q9GZX1, Q9H2C9, Q9H3C9, Q9UMD7, Q9UMD8, Q9UMG5)並びにその天然に存在するイソ型及び変異体を指す。これらのイソ型及び変異体には、EGFRvIII変異体、選択的スプライシング生成物(例えば、SwissProt 受理番号P00533-1, P00533-2, P00533-3, P00533-4)、変異体GLN−98、ARG−266、Lys−521、ILE−674、GLY−962、及びPRO−988(Livingston et al., NIEHS-SNPs, environmental genome project, NIEHS ES15478, Department of Genome Sciences, Seattle, WA (2004))、並びに以下の受理番号: NM_005228.3, NM_201282.1, NM_201283.1, NM_201284.1 (REFSEQ mRNAs); AF125253.1, AF277897.1, AF288738.1, AI217671.1, AK127817.1, AL598260.1, AU137334.1, AW163038.1, AW295229.1, BC057802.1, CB160831.1, K03193.1, U48722.1, U95089.1, X00588.1, X00663.1; H54484S1, H54484S3, H54484S2 (MIPS assembly); DT.453606, DT.86855651, DT.95165593, DT.97822681, DT.95165600, DT.100752430, DT.91654361, DT.92034460, DT.92446349, DT.97784849, DT.101978019, DT.418647, DT.86842167, DT.91803457, DT.92446350, DT.95153003, DT.95254161, DT.97816654, DT.87014330, DT.87079224 (DOTS Assembly) により特定されるその他のものがある。
【0128】
本明細書で使用する「エピトープ」という語は、抗体に特異結合できる蛋白決定基を意味する。エピトープは通常、アミノ酸又は糖側鎖等の化学的に活性な表面分子集団で構成され、通常は特異的な三次元構造特性及び特異的電荷特性を有する。立体配座エピトープ及び非立体配座エピトープは、前者との結合は変性溶媒の存在下で失われるが後者との結合は失われないことで区別される。
【0129】
本明細書で使用する「リガンド」という語は、レセプター、例えばEGFRに結合する、そして/又はそれを活性化するポリペプチドを指す。この用語は、そのリガンドの膜結合前駆体型、及び蛋白分解的プロセシングを受けたそのリガンドの可溶性型を包含する。
【0130】
本明細書で使用する「EGFRのリガンド活性化」という語は、EGFRリガンド結合により媒介されるシグナル伝達(例えば、レセプター自身又は基質ポリペプチド中のチロシン残基をリン酸化する、EGFRの細胞内キナーゼドメインにより惹起されるシグナル伝達)を指す。
【0131】
本明細書で使用する「EGFR又はEGFRリガンドの異常な活性化もしくは生産を特徴とする疾患もしくは障害、又はEGFR発現に関連する障害」という語は、EGFR及び/又はEGFRリガンドの異常な活性化及び/又は生産が、当該疾患又は障害を有する、又はその素因のある対象の細胞又は組織で起こっている状態を指し、悪性腫瘍又は癌を含むこともあれば含まないこともある。
【0132】
本明細書においてEGFRを発現する細胞に関連して使用される「過剰発現する」、「過剰発現された」、及び「過剰発現している」という語は、同じ組織型の正常細胞と比較して、或る程度高いレベルのEGFRをその表面に有する細胞を指す。これらの過剰発現は、遺伝子増幅又は増大した転写もしくは翻訳によって引き起こされ得る。EGFR発現(及び、したがって過剰発現)は、当分野で周知の技術、例えば免疫組織化学的アッセイ、免疫蛍光アッセイ、免疫酵素アッセイ、ELISA、フローサイトメトリー、ラジオイムノアッセイ、ウェスタンブロット、リガンド結合、キナーゼ活性等(一般に、Cell Biology: A Laboratory Handbook, Celis, J., ed., Academic Press (2nd ed., 1998); Current Protocols in Protein Science, Coligan, J.E. et al., eds., John Wiley & Sons (1995-2003)を参照されたく、また、Sumitomo et al., Clin Cancer Res 10, 794-801 (2004)をも参照されたい。これらの全内容は引用により本明細書の一部とする。)により細胞表面又は細胞溶解液中に存在するEGFRのレベルを評価することにより、診断又は予後判定アッセイで決定できる。これらに代わり、又はこれらに加えて、細胞内のEGFRコード化核酸分子のレベルを、例えば蛍光in situ ハイブリダイゼーション、サザンブロッティング、又はPCR法によって測定することもできる。正常細胞におけるEGFRのレベルを細胞増殖性疾患(例えば癌)に冒された細胞のレベルと比較して、EGFRが過剰発現されているかどうか決定する。
【0133】
動物における「癌」という語は、癌を誘発する細胞に典型的な性質、例えば制御されていない増殖、不死化、転移の可能性、急速な成長及び増殖速度、並びに或る特有の形態学的特徴を有する細胞の存在を指す。しばしば癌細胞は腫瘍の形態をとるが、そのような細胞は動物の体内に単独で存在することもあれば、白血病細胞のように独立した細胞として血流を循環することもある。
【0134】
本明細書で使用する「異常な細胞の成長」という語は、別途指摘のない限り、正常な調節メカニズムから独立した細胞成長(例えば、接触阻止の喪失)を指す。これは、(1)突然変異したチロシンキナーゼの発現又はレセプターチロシンキナーゼの過剰発現により増殖する腫瘍細胞(腫瘍群);(2)異常なチロシンキナーゼ活性化が起こるその他の増殖性疾患の良性及び悪性細胞;(4)レセプターチロシンキナーゼの発現及び/又は活性化により増殖する任意の腫瘍;(5)異常なセリン/スレオニンキナーゼ活性化により増殖する任意の腫瘍;及び(6)異常なセリン/スレオニンキナーゼ活性化が起こるその他の増殖性疾患の良性及び悪性細胞、の異常成長を包含する。
【0135】
本明細書で使用する「処置する」という語は、別途指摘のない限り、腫瘍、腫瘍の転移、又は患者におけるその他の癌誘発細胞もしくは腫瘍性細胞の成長を、部分的もしくは完全に、逆転させ、軽減し、進行を阻害し、又は防止することを意味する。患者はヒト又は動物であってよい。本明細書で使用する「処置」という語は、別途指摘のない限り、処置する行為を指す。
【0136】
例えば癌に対して適用する場合の「処置する方法」という句又はそれに相当する句は、ヒトもしくは動物において癌細胞の数を減少させ又は排除し、癌の進行を防止し、又は癌の症状を軽減するために計画された手段又は方策を指す。癌又はその他の増殖性疾患を「処置する方法」は、必ずしも、癌細胞又はその他の障害が実際に排除され、細胞数もしくは障害が実際に減少し、又は癌もしくはその他の障害の症状が実際に軽減されることを意味する訳ではない。しばしば癌を処置する方法は、成功の見込みが低くても実行されるが、ヒト又は動物の病歴及び推定余命を考慮すると、それでも尚、全般的には有益な方策であるとみなされる。
【0137】
「治療的有効物質又は治療物質」という語は、研究者、獣医、医師又はその他の治療者が追求する、組織、系、動物もしくはヒトの生物学的又は医学的反応を導き出す組成物を意味する。
【0138】
「治療有効量」又は「有効量」という語は、研究者、獣医、医師又はその他の治療者が追求する、組織、系、動物もしくはヒトの生物学的又は医学的反応を導き出す、対象化合物又は組成物の量を意味する。
【0139】
本明細書で使用する「イリノテカン」という語は、イリノテカン及び医薬的に許容され得るその塩(例えばイリノテカン塩酸塩三水和物)を包含する。特別な、特に好適な多型もまた包含される。
【0140】
本発明は、以下に述べる実験の詳細から、より良く理解されるであろう。しかしながら、当業者は、記載されている具体的な方法及び結果は、その後に記載される請求項においてより完全に説明されている本発明の単なる例示であって、いかなる手段によってもそれを限定するものと解してはならないことが、容易に理解できるであろう。
【0141】
本明細書に開示される全ての特許、公開特許出願及びその他の参考文献を、引用により明確に本明細書の一部とする。
【0142】
当業者は、日常的な実験法以上のものを利用せずに、本明細書に具体的に記載された本発明の特定の局面に対する数多くの等価物を認識又は確認できるであろう。これらの等価物は以下の請求項の範囲内に包含されるものとする。
【実施例】
【0143】
抗EGFR抗体及びイリノテカンの組み合わせで処置した、肺腺癌異種移植片を担持するマウスの生存
被験物質
GlycArt−mAbを、組換え蛋白の生産から一般的に知られている技術により製造する。変化したグリコシル化パターンを持つヒト化抗EGFR IgG1抗体の生産のためのセルラインの作製、修飾されたグリコシル化パターンを有する抗体を発現する転写物又は形質転換体の同定、及び抗体依存性細胞媒介性細胞障害性(ADCC)を包含する増大したエフェクター機能を有するヒト化抗EGFR IgG1抗体の作製は、WO2006/082515及びWO2008/017963に詳細に記載されている。簡潔に述べると、遺伝子操作されたチャイニーズハムスター卵巣セルライン(CHO)をマスターセルバンク由来の細胞培養で拡大させる。抗体を、MabSelect SuRe(登録商標)カラム(GE)上のプロテインAアフィニティクロマトグラフィー、続いてCapto S(登録商標)カラム(GE)上の陽イオン交換クロマトグラフィー、そして最後のCapto Q(登録商標)カラム(GE)上の陰イオン交換クロマトグラフィー工程を用いて馴化細胞培地から精製する。Viresolve(登録商標)Proメンブレン(Millipore)を用いるナノ濾過によってウイルスを除去し、抗体を濃縮し、ダイアフィルトレーションによって所望の緩衝液中に移行させる。
【0144】
部分的にフコシル化されたGlycArt−mAbの製造のため、US7517670に記載され、具体的にはWO2006/182515及びWO2008/017963に記載されているように、β(1,4)−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)を過剰発現するCHOセルラインを使用する。
【0145】
部分的にフコシル化されたGlycArt−mAbは、ヒスチジン、トレハロース及びポリソルベート20を含有する緩衝液中に保存溶液(c=11.3mg/ml)として提供された。この抗体保存溶液を、注射前にPBSで適宜希釈した。
【0146】
抗EGFR抗体セツキシマブ(アービタックス(登録商標))は、臨床用製剤(5mg/ml)としてMerck Pharma GmbH, Darmstadt, Germanyから購入した。抗体濃度を、再構成された保存溶液の希釈により注射前に調節した。
【0147】
イリノテカン/CPT−11(カンプト(登録商標))は、臨床用製剤(20mg/ml)としてPfizer Pharma GmbH, Karlsruhe, Germanyから購入した。抗体濃度を、再構成された保存溶液の希釈により注射前に調節した。
【0148】
セルライン及び培養条件
A549ヒト非小細胞肺癌(NSCLC)細胞をATCCから取得した。この腫瘍セルラインを、10%牛胎児血清(PAA Laboratories, Austria)及び2mM L−グルタミンを添加したRPMI培地(PAA Laboratories, Austria)中、37℃で、5% CO2の水飽和雰囲気下に常套的に培養した。
【0149】
腫瘍細胞の注射
第3代継代のA549細胞をインビボ注射に使用した。PBS中2x106細胞を静脈内注射(i.v.)した。
【0150】
動物
雌性SCIDベージュマウス;到着時7〜8週齢(Charles River, Sulzfeld, Germanyから購入)を、関係する指針(GV-Solas; Felasa; TierschG)に従い、特定病原体未感染条件の下に12時間明/12時間暗の明暗周期に維持した。この実験研究プロトコルは地方自治体により再審査され認可された。到着後、動物を、新たな環境に馴化させるため、そして観察のため、動物施設の隔離室に1週間維持した。継続した健康管理を定期的に実施した。飼料(Provimi Kliba 3337)及び水(pH2.5〜3に酸性化)を自由に与えた。
【0151】
監視
動物を、臨床症状及び有害作用の検出のために毎日検査した。監視のため、実験全体にわたって動物の体重を記録した。
【0152】
動物の処置
動物の処置を、腫瘍細胞の注射の7日後、動物の無作為化の後に開始した。GlycArt−mAb又は抗EGFR抗体セツキシマブ(アービタックス(登録商標))を7日毎に試験の第7日目、14日目、21日目、28日目、35日目、42日目、49日目、56日目、63日目、70日目、77日目、84日目、91日目及び最後に98日目に、指示された用量25mg/kgを腹腔内(i.p.)投与した。対応する媒質を同じ日に投与した。イリノテカンは、単剤として、又は抗EGFR抗体と併用して、試験の第7日目、10日目、14日目、及び17日目に20mg/kgの用量で4回i.p.投与した。
【0153】
インビボでの動物の生存研究
市販の抗EGFR抗体セツキシマブとイリノテカンの組み合わせ、並びに抗EGFR抗体及びイリノテカン両者の単剤と比較した、GlycArt−mAb及びイリノテカンの組み合わせのインビボ抗腫瘍効果を、A549肺腺癌異種移植片モデルにおいて解析した。第一のパラメータは生存性である。データはログランク検定により統計解析した。
【0154】
両方の抗EGFR抗体GlycArt−mAb及びセツキシマブ又はイリノテカン(CPT−11)の単剤による、A549異種移植片を担持するマウス(i.v.注射後)の処置は、媒質対照と比較して、動物の生存を著明に延長した(各々p=0.0005、p=0.0031及びp=0.017)。更に、抗EGFR抗体GlycArt−mAb又はセツキシマブとイリノテカンの併用処置は、対照と比較していずれも動物の中央値及び長期生存を改善した(p<0.0001及びp=0.0003)。GlycArt−mAbについては、イリノテカンとの併用が、単剤のGlycArt−mAb又はイリノテカンと比較して更に優れていた(p=0.0116及びp=0.0001)。イリノテカンと抗EGFR抗体の併用の直接比較は、セツキシマブ(アービタックス(登録商標))とイリノテカンの併用(p=0.246)に比してGlycArt−mAbとイリノテカンの併用の優位性を際立たせた。生存データを図1にカプラン・マイヤー曲線として示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンを、医薬的に許容され得る担体中に含む、特に癌に使用するための医薬組成物であって、
ヒト化抗EGFR IgG1抗体が、
a)重鎖可変ドメイン内に、配列番号1のCDR1、配列番号16のCDR2、及び配列番号31のCDR3を有し、
b)軽鎖可変ドメイン内に、配列番号33のCDR1、配列番号34のCDR2、及び配列番号35のCDR3を有する、医薬組成物。
【請求項2】
ヒト化抗EGFR IgG1抗体が、そのFc領域に少なくとも20%の非フコシル化又は二分岐非フコシル化オリゴ糖を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
ヒト化抗EGFR IgG1抗体が、配列番号38(I−HHD重鎖可変領域構築物)及び配列番号39(I−KC軽鎖可変領域構築物)のアミノ酸配列を含んでなる、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
更に1又は2以上の他の抗癌剤を含んでなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
癌の処置に併用するためのヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンであって、
ヒト化抗EGFR IgG1抗体が、
a)重鎖可変ドメイン内に、配列番号1のCDR1、配列番号16のCDR2、及び配列番号31のCDR3を有し、
b)軽鎖可変ドメイン内に、配列番号33のCDR1、配列番号34のCDR2、及び配列番号35のCDR3を有する、ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカン。
【請求項6】
ヒト化抗EGFR IgG1抗体が、そのFc領域に少なくとも20%の非フコシル化又は二分岐非フコシル化オリゴ糖を有する、請求項5に記載の、癌の処置に併用するためのヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカン。
【請求項7】
ヒト化抗EGFR IgG1抗体が、配列番号38(I−HHD重鎖可変領域構築物)及び配列番号39(I−KC軽鎖可変領域構築物)のアミノ酸配列を含んでなる、請求項5又は6に記載の、癌の処置に併用するためのヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカン。
【請求項8】
ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンが同じ製剤に含まる、請求項5〜7のいずれか1項に記載の、癌の処置に併用するためのヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカン。
【請求項9】
ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンが異なる製剤に含まれる、請求項5〜7のいずれか1項に記載の、癌の処置に併用するためのヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカン。
【請求項10】
同一又は個別の容器に入ったイリノテカン及びヒト化抗EGFR IgG1抗体を含む、癌の処置に使用するためのキットであって、
ヒト化抗EGFR IgG1抗体が、
a)重鎖可変ドメイン内に、配列番号1のCDR1、配列番号16のCDR2、及び配列番号31のCDR3を有し
b)軽鎖可変ドメイン内に、配列番号33のCDR1、配列番号34のCDR2、及び配列番号35のCDR3を有する、キット。
【請求項11】
ヒト化抗EGFR IgG1抗体が、そのFc領域に少なくとも20%の非フコシル化又は二分岐非フコシル化オリゴ糖を有する、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
癌の処置方法であって、
斯かる処置を必要とする対象に、ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンの組み合わせの治療有効量を投与することを含み、
該ヒト化抗EGFR IgG1抗体が、
a)重鎖可変ドメイン内に、配列番号1のCDR1、配列番号16のCDR2、及び配列番号31のCDR3を有し、
b)軽鎖可変ドメイン内に、配列番号33のCDR1、配列番号34のCDR2、及び配列番号35のCDR3を有する、方法。
【請求項13】
ヒト化抗EGFR IgG1抗体が、そのFc領域に少なくとも20%の非フコシル化又は二分岐非フコシル化オリゴ糖を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ヒト化抗EGFR IgG1抗体が、配列番号38(I−HHD重鎖可変領域構築物)及び配列番号39(I−KC軽鎖可変領域構築物)のアミノ酸配列を含む、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンが同じ製剤で投与される、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンが異なる製剤で投与される、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
ヒト化抗EGFR IgG1抗体及びイリノテカンが同じ経路で投与され、好ましくは非経口投与される、請求項12〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
1又は2以上の他の抗癌剤を更に使用する、請求項12〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
本明細書記載の発明。

【図1】
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【公表番号】特表2012−518680(P2012−518680A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551500(P2011−551500)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053973
【国際公開番号】WO2010/112413
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(506153815)ロシュ グリクアート アクチェンゲゼルシャフト (25)
【Fターム(参考)】