説明

ヒト型オリゴ糖鎖を有するグリコシル化剤

【課題】従来の方法に較べて、比較的に簡単に多種類のヒト型オリゴ糖鎖を有する複合糖質類を合成するためのグリコシル化剤と、グリコシル化方法の提供。
【解決手段】式(I):G−X−Y[式中、Gは、水酸基やカルボキシル基を保護したヒト型オリゴ糖鎖であり;Xは、硫黄あるいはセレンであり;Yは、炭素数8〜20である直鎖アルキル基である。]で表されるグリコシル化剤;その製造方法;及び該グリコシル化剤を用いて複合糖質類を合成するためのグリコシル化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト型オリゴ糖鎖を有するグリコシル化剤に関するものであって、生化学研究や医薬などに用いられる複合糖質類の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複合糖質(糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカンなど)は、細胞間の接着や認識、そして細胞間情報伝達など、ヒト生体内の生命現象に深く関与している。このような生命現象の解明や医薬品の開発を目的として、ヒト型オリゴ糖鎖を有する複合糖質類が設計、合成されている(例えば、非特許文献1参照)。複合糖質類の合成において重要な工程は、タンパク質や脂質などに糖鎖を導入するグリコシル化の工程と、グリコシル化反応に用いるグリコシル化剤を調製する工程である。従来のグリコシル化法としては、化学的なグリコシル化法(例えば、非特許文献2参照)、糖加水分解酵素を用いるグリコシル化法(例えば、非特許文献3参照)、そして糖転移酵素を用いるグリコシル化法(例えば、非特許文献4参照)などが報告されている。これらのグリコシル化法に用いられるグリコシル化剤としては、化学的に調製した糖誘導体、天然糖鎖、天然糖鎖から調製した糖誘導体、そして糖ヌクレオチドなどが挙げられる。
【0003】
一方、複合糖質類の糖鎖部分の簡便な合成法として、細胞を用いた糖鎖の合成法が報告されている(例えば、特許文献1、非特許文献5参照)。これらの方法では、簡単な構造の糖鎖プライマーを培養細胞に投与すると、糖鎖伸長した複数のオリゴ糖鎖が培養細胞から放出される。また、培養細胞の種類を変えることによって異なった構造のオリゴ糖鎖を合成することができる。
【0004】
【非特許文献1】Y.C.Lee and R.T.Lee,(eds)(1994)「Neoglycoconjugate」(米国)、Academic Press、53−321.
【非特許文献2】N.Otsubo,H.Ishida,R.Kannagi and M.Kiso,Tetrahedron:Assymmetry,16,1321−1327(2005).
【非特許文献3】T.W.D.F.Rising,T.D.W.Claridge,J.W.B.Moir and A.J.Fairbanks,ChemBioChem,7,1177−1180(2006).
【非特許文献4】S.Jacques,J.R.Rich,C.−C.Ling and D.R.Bundle,Org.Biomol.Chem.,4,142−154(2006).
【非特許文献5】H.Nakajima,et al.,J.Biochem,124,148−156(1998).
【特許文献1】特開2000−247992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のグリコシル化剤の調製において化学的にグリコシル化剤を調製する場合には、還元末端の単糖残基の1位に保護基を導入する必要がある。すなわち、1位を保護した単糖残基の非還元末端に糖鎖伸長を行うことでオリゴ糖を合成し、引き続き1位の脱保護、脱離基の導入を行うことでグリコシル化剤が調製される。このようなグリコシル化剤の調製法では、1位の保護基とオリゴ糖への変換法との組み合わせが重要であり、適切な組み合わせが選択されなかった場合にはグリコシル化剤が低収率でしか生成しない(例えば、Sherman,A.A.,et al.,Carbohydr.Res.,336,13−46,2001.)。このように化学的グリコシル化剤の調製では、反応工程数が長く合成工程の設計が難しいことが問題となっている。また、天然糖鎖や、天然糖鎖から調製した糖誘導体をグリコシル化剤として用いる場合には、入手できる糖鎖の種類や量が限られてしまうという欠点があり、糖ヌクレオチドをグリコシル化剤として用いる場合には、糖ヌクレオチドが高価であるという欠点がある。また、前述の細胞を用いた糖鎖の合成法では多種類の糖鎖の調製が達成されているが、合成した糖鎖のグリコシル化剤への変換については検討されていない。以上のことから、簡便に多種類のヒト型オリゴ糖鎖を有するグリコシル化剤と、このグリコシル化剤を用いるグリコシル化法の開発が強く求められている。
【0006】
そこで、発明者らは鋭意研究を重ね、ラウリルチオグリコシドなどの直鎖アルキル基をアグリコンに有するチオグリコシドを利用したグリコシル化剤の調製法と、そのグリコシル化剤を用いるグリコシル化法を開発した。すなわち、前述の化学的なグリコシル化剤の調製において還元末端の単糖にラウリルチオグリコシドを用いると、ラウリルチオ基がオリゴ糖へ変換する際には保護基として作用し、グリコシル化の工程では脱離基として作用することを見いだした。この方法を従来の化学的なオリゴ糖鎖の調製法に適用することで、ヒト型オリゴ糖鎖を有するグリコシル化剤の簡便な調製が可能になった。また、ラウリルチオグリコシドなどの直鎖アルキル基をアグリコンに有するチオグリコシドは、前述の特許文献1記載の細胞を用いた糖鎖合成法の基質になることが知られている。そこで、ラウリルチオグリコシドを基質に用いてヒト型オリゴ糖鎖を生産する細胞を利用した糖鎖合成を行うことによって糖鎖伸長したチオグリコシドを合成し、このチオグリコシドに保護基を導入することでヒト型オリゴ糖鎖を有するグリコシル化剤が調製できることを見いだした。また、このグリコシル化剤は、グリコシル化反応によって複合糖質類へ誘導されることを見いだした。以上のように、発明者らは上記課題を解決し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、式(I):G−X−Y[式中、Gは、水酸基やカルボキシル基を保護したヒト型オリゴ糖鎖であり;Xは、硫黄あるいはセレンであり;Yは、炭素数8〜20である直鎖アルキル基である。]で表されるグリコシル化剤であり、このグリコシル化剤を用いるグリコシル化法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明を用いることにより、ヒト型オリゴ糖鎖を有するグリコシル化剤を簡便に調製することができる。また、このグリコシル化剤を用いることで複合糖質類の合成が容易になり、ヒト型オリゴ糖鎖を有する複合糖質の機能解明や、薬理活性を有する糖鎖誘導体の開発などに大きく貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の式(I)のグリコシル化剤において、Gは、水酸基やカルボキシル基を保護したヒト型オリゴ糖鎖である。ヒト型オリゴ糖鎖とは、ヒト生体内に存在するオリゴ糖鎖であり糖脂質糖鎖や糖タンパク質糖鎖などが挙げられ、例えば、Galα1−4Galβ1−4Glc、GalNAcβ1−3Galα1−4Galβ1−4Glc、Galα1−3Galα1−4Galβ1−4Glcなどのグロボ系列の糖脂質糖鎖が挙げられる(Galとはガラクトースであり、Glcとはグルコースであり、GalNAcとは、N−アセチルガラクトサミンである)。
【0010】
水酸基の保護基としては、アセチル基やベンゾイル基などのアシル系保護基、ベンジル基やアリル基などのエーテル系保護基、t−ブチルジメチルシリル基やt−ブチルジフェニルシリル基などのシリルエーテル系保護基、イソプロピリデン基やベンジリデン基などの環状アセタール系保護基などが使用できる。また、カルボキシル基の保護基としては、メチル基、ベンジル基などの保護基が使用できる。
【0011】
本発明の式(I)のグリコシル化剤において、Xは、硫黄あるいはセレンを用いることができ、好ましくは硫黄である。
【0012】
本発明の式(I)のグリコシル化剤において、Yは、炭素数8から20である直鎖アルキル基であればよく、フッ素化されていてもよい。好ましくは炭素数12または8の直鎖アルキル基である。
【0013】
本発明はまた、上記式(I)で表されるグリコシル化剤の調製方法であって、このグリコシル化剤は、ラウリルチオグリコシドのような直鎖アルキル基をアグリコンに有するチオグリコシドを還元末端単糖として出発物質に用い、化学的なヒト型オリゴ糖鎖の合成法(例えば、Nicolaou,K.C.,et al.,Carbohydr.Res.,202,177−191,1990)にしたがって調製することで得ることができる。ただし、出発物質に用いるチオグリコシドの水酸基には、アシル系の保護基を導入することが好ましい。また、上記式(I)で表されるグリコシル化剤は、前述の細胞を用いる糖鎖合成法によってラウリルチオグリコシドから得られる糖鎖に対して、その水酸基やカルボキシル基に保護基を導入することによって調製できる。式(I)で表されるグリコシル化剤のGがヒト型オリゴ糖鎖であるグリコシル化剤は、B16マウスメラノーマ細胞、ラットPC12細胞、ヒト−HL60細胞などを用いることにより調製できる。たとえば、B16マウスメラノーマ細胞を用いた場合にはNeuAcα2−3Galβ1−4Glcが得られ、ラットPC12細胞を用いた場合にはGalα1−4Galβ1−4Glcが得られる(Galとはガラクトースであり、Glcとはグルコースであり、NeuAcとはN−アセチルノイラミン酸である)。このように細胞から調製された糖鎖の水酸基やカルボキシル基への保護基の導入は、公知の保護基導入法に比べて過剰量の試薬を用いることによって達成される。たとえば、水酸基のベンジル基による保護は、糖鎖の1つの水酸基に対して5当量の水素化ナトリウムと5当量のベンジルブロミドとを反応させることによって達成される。
【0014】
上記の方法で得られた本発明の式(I)のグリコシル化剤は、チオグリコシドやセレノグリコシドの活性化剤の存在下に、糖受容体とカップリングさせることによって複合糖質類へ導くことができる。活性化剤としては、例えばメチルトリフラート、臭化銅(II)−臭化テトラブチルアンモニウム、N−ヨウ化コハク酸イミド−トリフルオロメタンスルホン酸、ヨードニウムジコリシン過塩素酸塩、ジメチルメチルチオスルホニウムトリフラートなどが利用できるが、好ましくは、N−ヨウ化コハク酸イミド−トリメチルシリルトリフラートが収率良く目的物を与える。糖受容体としては、エタノール、オクタノール、ドデカノールなどのアルコール類、3−N−benzyloxycarbonylamino−1−propanol、ethyl 9−hydroxynonanoate、6−azido−hexanolなどのタンパク質の導入に利用できるリンカー、2−(tetradecyl)hexadecanol、(2S,3R,4E)−2−azido−3−O−benzoyl−4−octadecene−1,3−diolなどの脂質を模した化合物などが挙げられる。
【実施例】
【0015】
以下に記載する実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
[実施例1]グロボトリオースを有するグリコシル化剤の調製と、これを用いるグリコシル化。
【0016】
1. 化学的手法によるグロボトリオースを有するグリコシル化剤の調製
1,2,3,6―テトラ―O―アセチル−4―O−(2,3,4,6―テトラ―O−アセチル−β−D−ガラクトピラノシル)−β−D−グルコピラノース、1.50g(2.21mmol)をアルゴン雰囲気下にジクロロメタン(11ml)に溶解した。この反応液に氷冷下、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.6ml(4.7mmol)を加え、室温に昇温して撹拌した。2時間30分後、氷冷下にトリエチルアミン0.92ml(6.6mmol)を加え、クロロホルムで抽出した。有機層を水洗したのち、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。抽出液をろ過、濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)にて精製し、式1に示すチオグリコシド誘導体(1)1.48g(収率81%)を得た。
【化1】

【0017】
チオグリコシド誘導体(1)の物性値を示す。
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ:5.35(d,1H,J=2.7Hz),5.21(t,1H,J=9.6Hz),5.11(dd,1H,J=8.2,10.3Hz),4.95(dd,1H,J=3.4,10.4Hz)4.93(t,1H,J=8.2Hz),4.50−4.44(m,2H),4.47(d,1H,J=8.2Hz),4.15−4.05(m,3H),3.89−3.85(m,1H),3.78(t,1H,J=9.6Hz),3.63−3.58(m,1H),2.67−2.55(m,2H),2.15(s,3H),2.11(s,3H),2.06(s,3H),2.05(s,3H),2.04(s,6H),1.97(s,3H),1.40−1.19(m,20H),0.88(t,3H,J=6.9Hz).
【0018】
チオグリコシド誘導体(1)1.47g(1.79mmol)をメタノール(20ml)に溶解し、氷冷下に28%ナトリウムメトキシド(0.1ml)を加え、室温にて撹拌した。7時間後、析出した結晶をろ別し、減圧下に乾燥させた。この結晶752.5mgをアルゴン雰囲気下にN,N−ジメチルホルムアミド(15ml)に溶解し、ジメトキシプロパン0.38ml(3.1mmol)とDrierite1.14gを加えた。1時間30分後、カンファ−スルホン酸150.3mg(0.65mmol)を加え、80度で撹拌した。6時間後、反応液をセライト(No.545)を用いてろ過し、ろ液を減圧下に濃縮した。残渣をアルゴン雰囲気下にピリジン(14ml)に溶解し、氷冷下に塩化ベンゾイル2ml(17mmol)を加え、室温にて撹拌した。20時間後、反応液に氷冷下メタノールを加え、溶媒を減圧下に除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で精製し、式2に示すチオグリコシド誘導体(2)を1.24g(収率80%)得た。
【化2】

【0019】
チオグリコシド誘導体(2)の物性値を示す。
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ:8.15−7.90(m,10H,aromatic),7.65−7.24(m.15H,aromatic),5.73(t,1H,J=9.6Hz),5.44(t,1H,J=9.6Hz),5.12(t,1H,J=7.6Hz),4.65(d,1H,J=9.6Hz),4.62−4.57(m,2H),4.46(dd,1H,J=4.1,11.7Hz),4.26−4.21(m,2H),4.17(t,1H,J=9.6Hz),4.07(dd,1H,J=2.1,5.5Hz),4.86−4.78(m,2H),3.68(dd,1H,J=7.6,11.7Hz),2.66−2.54(m,2H),1.65−1.41(m,2H),1.33−1.07(m,18H),0.88(t,3H,J=6.9Hz).
【0020】
チオグリコシド誘導体(2)1.23g(1.14mmol)をジクロロメタン(23ml)に溶解し、氷冷下に50%トリフルオロ酢酸水溶液(4ml)を加え、室温で撹拌した。9時間後、氷冷下に炭酸水素ナトリウムを用いて反応液を中和し、クロロホルムで抽出した。有機層を水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧下に溶媒を除去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製した。得られた結晶をアルゴン雰囲気下にピリジン(16ml)に溶解し−20度に冷却した。この反応液に塩化ベンゾイル0.12ml(1.0mmol)を加え、0度で撹拌した。20時間後、反応液にメタノールを加え、減圧下に溶媒を除去した。残渣をクロロホルムで抽出し、有機層を水洗したのち無水硫酸マグネシウムで乾燥した。抽出液をろ過、濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)にて精製し、式3に示すチオグリコシド誘導体(3)を796mg(収率62%)得た。
【化3】

【0021】
チオグリコシド誘導体(3)の物性値を示す。
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ:8.06−7.88(m,12H,aromatic),7.63−7.23(m,18H,aromatic),5.77(t,1H,J=9.6Hz),5.69(dd,1H,J=7.6,10.3Hz),5.45(t,1H,J=9.6Hz),5.12(dd,1H,J=3.4,10.3Hz),4.76(d,1H,J=7.6Hz),4.67(d,1H,J=9.6Hz),4.60−4.55(m,1H),4.44(dd,1H,J=4.8,12.4Hz),4.18(t,1H,J=9.6Hz),4.11−4.02(m,2H),3.86−3.83(m,1H),3.68−3.61(m,2H),2.69−2.54(m,2H),1.59−1.41(m,2H),1.33−1.07(m,18H),0.88(t,3H,J=6.9Hz).
【0022】
チオグリコシド誘導体(3)135mg(0.117mmol)と2,3,4,6−テトラ−O−ベンジル−α−D−ガラクトピラノシルトリクロロイミデート160mg(0.233mmol)とをアルゴン雰囲気下にジクロロメタン(3ml)とエーテル(6ml)に溶解した。この溶液にモレキュラーシーブ4A1.02gを加え、−5度で3時間撹拌した。この溶液にトリメチルシリルトリフラート0.014ml(0.077mmol)を加え撹拌した。2時間後、トリエチルアミン0.2ml(1.4mmol)を加え、反応液をセライト(No.545)にてろ過し、ろ液をクロロホルムで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。ろ過濃縮後、残渣を薄層シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)にて精製し、式4に示すグリコシル化剤(4)を81.7mg(収率42%)得た。
【化4】

【0023】
グリコシル化剤(4)の物性値を示す。
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ:8.06−7.77(m,12H,aromatic),7.61−7.03(m,38H,aromatic),5.80(t,1H,J=9.6Hz),5.73(dd,1H,J=8.2,11.0Hz),5.38(t,1H,J=9.6Hz),5.02(dd,1H,J=2.7,11.0Hz),4.86(d,1H,J=8.2Hz),4.79(d,1H,J=11.0Hz),4.73−4.62(m,4H),4.58−4.51(m,3H),4.47(dd,1H,J=4.8,11.7Hz),4.43(d,1H,J=11.7Hz),4.29(d,1H,J=2.7Hz),4.26−4.13(m,5H),4.07−4.04(m,1H),3.95−3.82(m,3H),3.90−3.85(m,1H),3.33(t,1H,J=8.9Hz),2.97(dd,1H,J=4.8,8.9Hz),2.65−2.53(m,2H),1.43−1.38(m,2H),1.34−1.06(m,18H),0.88(t,3H,J=6.9Hz).
【0024】
2.細胞を用いたグロボトリオースを有するグリコシル化剤の調製
式5に示すグロボトリオース誘導体(5)25.6mg(0.0372mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(5ml)に溶解し、水素化ナトリウム75.4mg(1.89mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。この混合液にベンジルブロミド0.2ml(1.68mmol)を滴下し、室温で24時間撹拌した。反応混合物に氷冷下、メタノール(2ml)を加えた後、室温にて1時間撹拌した。減圧下に溶媒を除去し、薄層シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)にて精製し、式6に示すグロボトリオースを有するグリコシル化剤(6)19.1mg(収率32%)を得た。
【化5】

【化6】

【0025】
以下に得られたグリコシル化剤(6)の物性値を示す。
HR RSI−TOF MS(m/z):calcd for C100116KO15S(M+K)1627.77,found1628.19.
【0026】
3.グロボトリオースを有するグリコシル化剤を用いたグリコシル化
【0027】
グロボトリオースを有するグリコシル化剤(6)19.3mg(0.0121mmol)を、アルゴン雰囲気下においてジクロロメタン(1.5ml)に溶解し、この反応液にエタノール0.007ml(0.12mmol)とモレキュラージーブス4A(150mg)を加え、室温にて1時間撹拌した。この反応液に氷冷下、N−ヨウ化コハク酸イミド15.8mg(0.0702mmol)と60mMトリメチルシリルトリフルオロメタンスルホナート/ジクロロメタン溶液0.2ml(0.0121mmol)を加えた。室温にて1時間撹拌した後、反応液にピリジン(0.1ml)と飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液(1ml)を加えた。セライト(No.545)を用いてろ過した後、クロロホルムにて抽出し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。抽出液に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥した後、減圧下に溶媒を除去し、薄層シリカゲルクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=12:1)にて精製し、式7に示すグロボトリオース誘導体(7)5.5mg(収率32%)を得た。
【0028】
【化7】

【0029】
以下に得られたグロボトリオース誘導体(7)の物性値を示す。
HR RSI−TOF MS(m/z):calcd for C9096NaO16(M+Na)1455.66,found1455.35.
【0030】
[実施例2] Galβ1−6Glc骨格を有するグリコシル化剤の調製と、これを用いるグリコシル化。
1. 化学的手法によるGalβ1−6Glc骨格を有するグリコシル化剤の調製
1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−β−D−グルコピラノース544mg(1.39mmol)と3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロ−1−デカンチオール1.0g(2.08mmol)をアルゴン雰囲気下にジクロロメタン(14ml)に溶解した。この反応液に氷冷下、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.54ml(4.26mmol)を加え、室温に昇温して攪拌した。8時間後、氷冷下にトリエチルアミン1.2ml(8.6mmol)を加え、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。抽出液をろ過、濃縮後、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)にて精製し、式8に示すチオグリコシド誘導体(8)943mg(収率84%)を得た。
【化8】

【0031】
チオグリコシド誘導体(8)の物性値を示す
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ:5.24(t,1H,J=9.6Hz),5.08(t,1H,J=9.6Hz),5.06(t,1H,J=9.6Hz),4.53(d,1H,J=9.6Hz),4.22(dd,1H,J=5.5,12.4Hz),4.15(dd,1H,J=2.1,12.4Hz),3.76−3.71(m,1H),3.01−2.94(m,1H),2.86−2.78(m,1H),2.54−2.43(m,2H),2.07(s,3H),2.06(s,3H),2.04(s,3H),2.02(s,3H).
【0032】
チオグリコシド誘導体(8)2.04g(2.51mmol)をメタノール(30ml)とテトラヒドロフラン(30ml)に溶解した。この反応液に28%ナトリウムメトキシド0.2mlを加え、室温にて攪拌した。4.5時間後、反応液に陽イオン交換樹脂(Amberlite−IR120(H+))を加えて中和し、ろ過、濃縮し、アモルファス状物質を1.54g得た。このアモルファス状物質をN,N−ジメチルホルムアミド(24ml)に溶解しクロロトリフェニルメタン781mg(2.80mmol)、4−ジメチルアミノピリジン33.4mg(0.27mmol)、トリエチルアミン0.5ml(3.59mmol)を加え、室温にて攪拌した。48時間後、氷冷下にメタノールを加えた後、減圧下にて濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=6:1)にて精製し、アモルファス状物質2.51gを得た。アルゴン雰囲気下、このアモルファス状物質にピリジン(20ml)と塩化ベンゾイル2.5ml(21.5mmol)を加え室温にて攪拌した。19時間後、氷冷下に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を水、0.5N塩酸水溶液、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを加え乾燥した。抽出液をろ過、濃縮後、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=15:1)にて精製し、式9に示すチオグリコシド誘導体(9)2.03g(収率71%)を得た。
【化9】

【0033】
チオグリコシド誘導体(9)の物性値を示す
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ:8.12−7.66(m,6H,aromatic),7.58−7.14(m,24H,aromatic),5.82(t,1H,J=9.6Hz),5.64(t,1H,J=9.6Hz),5.56(t,1H,J=9.6Hz),4.82(d,1H,J=9.6Hz),3.93−3.87(m,1H),3.38(dd,1H,J=2.1,11.0Hz),3.29(dd,1H,J=4.8,11.0Hz),3.15−3.06(m,1H),3.04−2.96(m,1H),2.57−2.44(m,2H).
【0034】
チオグリコシド誘導体(9)2.03g(1.70mmol)をクロロホルム(12ml)とメタノール(6ml)に溶解した。この反応液にカンファースルホン酸3.94g(17.0mmol)と塩化リチウム360mg(8.5mmol)を加え、室温にて攪拌した。25時間後、反応液をクロロホルムで抽出し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。抽出液をろ過、濃縮後、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=8:1)にて精製し、式10に示すチオグリコシド誘導体(10)1.48g(収率91%)を得た。
【化10】

【0035】
チオグリコシド誘導体(10)の物性値を示す
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ:8.02−7.22(m,15H,aromatic),5.98(t,1H,J=9.6Hz),5.55(t,1H,J=9.6Hz),5.51(t,1H,J=9.6Hz),4.85(d,1H,J=9.6Hz),3.90−3.81(m,2H),3.76−3.72(m,1H),3.09−3.02(m,1H),2.99−2.91(m,1H),2.57(dd,1H,J=5.5,8.2),2.55−2.42(m,2H).
【0036】
チオグリコシド誘導体(10)72.7mg(0.0762mmol)と2,3,4,6−テトラ−O−アセチルガラクトピラノシルトリクロロアセトイミデート45.9mg(0.0932mmol)にアルゴン雰囲気下、ジクロロメタン(3ml)、モレキュラーシーブス4A(414mg)を加えマイナス40度に冷却した。この反応液にトリメチルシリルトリフラート3μlを加え攪拌した。1.5時間後、トリエチルアミン0.05ml(0.359mmol)を加え、反応液をセライトにてろ過し、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。抽出液をろ過、濃縮後、残渣を薄層シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2.5:1)にて精製し、式11に示すGalβ1−6Glc骨格を有するグリコシル化剤(11)75.2mg(収率77%)を得た。
【化11】

【0037】
Galβ1−6Glc骨格を有するグリコシル化剤(11)の物性値を示す
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ:8.00−7.22(m,15H,aromatic),5.88(t,1H,J=9.6Hz),5.51(t,1H,J=9.6Hz),5.41(t,1H,J=9.6Hz),5.38−5.35(m,1H),5.21(dd,1H,J=8.2,10.6Hz),4.99(dd,1H,J=3.4,10.6Hz),4.79(d,1H,J=9.6Hz),4.51(d,1H,J=8.2Hz),4.11−4.01(m,3H),4.88−4.84(m,1H),3.72(dd,1H,J=6.9,11.0Hz),3.10−2.92(m,2H),2.55−2.40(m,2H),2.12(s,3H),2.10(s,3H),1.98(s,3H),1.97(s,3H).
【0038】
2. Galβ1−6Glc骨格を有するグリコシル化剤を用いたグリコシル化
Galβ1−6Glc骨格を有するグリコシル化剤(11)61mg(0.0475mmol)とメチル 2,3,4−トリ−O−ベンゾイル−α−D−グルコピラノシド29.1mg(0.0575mmol)にアルゴン雰囲気下、1,2−ジクロロエタン(3ml)とモレキュラーシーブス4A(420mg)を加えた。反応液をマイナス20度に冷却し、ブロモコハク酸イミド19.4mg(0.109mmol)とトリメチルシリルトリフラート2μl(0.011mmol)を加え、攪拌した。反応温度を室温まで徐々に昇温し、22時間後、セライトにてろ過し、ろ液をクロロホルムで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウムで洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。抽出液をろ過、濃縮後、残渣を薄層シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:3)にて精製し、式12に示すオリゴ糖誘導体(11)51.7mg(収率92%)を得た。
【化12】

【0039】
オリゴ糖誘導体(12)の物性値を示す
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ:8.17−7.13(m,30H,aromatic),6.08(t,1H,J=9.6Hz),5.85(t,1H,J=9.6Hz),5.45(dd,1H,J=8.2,9.6Hz),5.42−5.35(m,2H),5.32(t,1H,J=9.6Hz),5.21(dd,1H,J=8.2,10.3Hz),5.11(dd,1H,J=4.1,9.6Hz),5.08(dd,1H,J=3.4,10.3Hz),4.98(d,1H,J=4.1Hz),4.91(d,1H,J=8.2Hz),4.61(d,1H,J=8.2Hz),4.23−4.17(m,1H),4.16−4.12(m,1H),4.07−4.03(m,2H),4.02−3.95(m,2H),5.91−5.86(m,1H),3.80(dd,1H,J=7.6,11.7Hz),3.76(dd,1H,J=6.9,11.7Hz),3.08(s,3H),2.11(s,3H),2.67(s,3H),1.98(s,3H),1.97(s,3H).
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明である、ヒト型オリゴ糖鎖を有するグリコシル化剤が、医薬品や食品添加物、化粧品、高分子モノマー機能性材料、医療材料などの製造を容易にすることは確実である。とりわけ、従来は困難であったヒト型オリゴ糖を有する複合糖質類の調製を簡便にすることから、産業的価値やその波及効果は極めて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):G−X−Y[式中、Gは、水酸基やカルボキシル基を保護したヒト型オリゴ糖鎖であり;Xは、硫黄あるいはセレンであり;Yは、炭素数8〜20である直鎖アルキル基である。]で表されるグリコシル化剤。
【請求項2】
Gが、水酸基をベンジル基で保護したグロボトリオースである請求項1記載のグリコシル化剤。
【請求項3】
Gが、水酸基をアセチル基またはベンジル基で保護したGalβ1−6Glcである請求項1記載のグリコシル化剤。
【請求項4】
Xが、硫黄である請求項1から3のいずれか1項に記載のグリコシル化剤。
【請求項5】
Yが、−(CH211CH3である請求項1から4のいずれか1項に記載のグリコシル化剤。
【請求項6】
Yが、−(CF27CF3である請求項1から4のいずれか1項に記載のグリコシル化剤。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のグリコシル化剤を用いるグリコシル化法。
【請求項8】
N−ヨウ化コハク酸イミドとトリメチルシリルトリフラートの存在下に反応させる請求項7に記載のグリコシル化法。

【公開番号】特開2008−260763(P2008−260763A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68340(P2008−68340)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月12日発行 日本化学会第88春季年会(2008)講演予稿集CD−ROMに発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18、19年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000173924)財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】