説明

ヒト多能性幹細胞由来膵臓細胞のカプセル化

本発明は、膵臓前駆細胞を、生体適合性の半透過性カプセル化用デバイス中にカプセル化するための方法に関する。本発明は、グルコース刺激に応答した、哺乳動物におけるヒトインスリンの産生にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、米国特許法第119条(e)(35 U.S.C § 119(e))に基づき、2008年11月14日に提出されたENCAPSULATION OF PANCREATIC PROGENITORS DERIVED FROM HES CELLSという表題の米国仮特許出願第61/114,857号;および、2008年12月9日に提出されたENCAPSULATION OF PANCREATIC ENDODERM CELLSという表題の米国仮特許出願第61/121,084号、に対する優先権を主張する非仮出願(nonprovisional application)である。上記に列挙したそれぞれの優先権出願の開示内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられるものとする。
【0002】
本発明は医学および細胞生物学の分野に関する。特に、本発明は、ヒト胚性幹細胞および他の多能性のヒト細胞に由来する細胞のカプセル化に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒト胚性幹(hES)細胞、および、分化した成体の細胞由来の人工多能性幹(induced pluripotent stem;iPS)細胞は、それらが多能性でありかつ自己複製可能であるために、他に類を見ないほど細胞療法用途に適している。多能性幹細胞培養物を分化させる際に生じる細胞型は数多くあるので、効率的な、方向性を持った分化の達成に成功することは、ヒト多能性幹細胞の治療用途に有用である。種々の成長(増殖)因子およびシグナル伝達因子ならびに低分子(small molecule)を用いた、ヒト多能性幹細胞の、膵臓系統細胞を含む種々の中間細胞型への効率的で方向性を持った分化が必要である。
【発明の概要】
【0004】
本明細書に記載の実施形態は、宿主哺乳動物中に植え込み可能なチャンバーを提供し、ヒト多能性幹細胞(例えばhES細胞またはiPS細胞)由来の膵臓前駆細胞を前記チャンバーへと供給し、この膵臓前駆細胞を、in vivoにてグルコース刺激に応答してインスリンを産生するインスリン分泌細胞である成熟膵臓ホルモン分泌細胞へと成熟させ、それにより、当該哺乳動物においてin vivoでインスリンを産生することにより、哺乳動物においてインスリンを産生する方法に関する。いくつかの実施形態においては、当該チャンバーは、膵臓前駆細胞を導入する前に哺乳動物中に植え込まれる。他の実施形態では、当該チャンバーは、膵臓前駆細胞を導入する前に血管新生化させておく。さらに他の実施形態では、植え込み前に、細胞をチャンバー中へと導入する。
【0005】
一実施形態は、哺乳動物においてインスリンを産生する方法であって、以下のことを含む方法に関する:(a)植え込み可能な半透過性デバイス中にヒトPDX1陽性膵臓前駆細胞集団を供給すること;(b)その細胞集団を前記デバイスにおいて、腺房細胞と、in vivoにてグルコース刺激に応答してインスリンを産生する少なくとも1つのインスリン分泌細胞である内分泌細胞とを含む島(islet)へと成熟させ、それにより、当該哺乳動物に対しin vivoでインスリンを産生すること。
【0006】
もう1つの実施形態は、細胞集団を哺乳動物宿主中へと植え込むための細胞カプセル化用アセンブリ(cell encapsulating assembly)に関する。一局面では、当該アセンブリは、生細胞をカプセル化するための少なくとも1つのチャンバーを定義する密封された周辺を含む。もう1つの局面では、当該アセンブリは、周辺端部を有する壁手段(a wall means)を含むが、ここでは、当該アセンブリは、当該壁手段の周辺端部に第一の接着部を含み、それにより当該カプセル化用アセンブリが形成される。いくつかの局面では、当該アセンブリは、当該チャンバーの体積を効果的に減少させる第二の接着部を含む。
【0007】
もう1つの実施形態は、凍結保存したヒト膵臓前駆細胞集団に関する。当該実施形態の一局面において、当該細胞集団は哺乳動物への移植に適している。
【0008】
もう1つの実施形態は、移植に適した細胞の集団を得る方法に関する。当該実施形態の一局面では、移植に適した細胞は、次のことを含む方法によって得る:a)ヒト膵臓前駆細胞の集団を凍結保存溶液に接触させ、それにより凍結保存用の細胞の集団を得ること;b)この前駆細胞の凍結保存温度を約−196℃へと低下させて凍結保存細胞を得ること;および、c)この凍結保存細胞の温度を上昇させ、それにより、移植に適した膵臓前駆細胞の集団を得ること。いくつかの実施形態においては、この前駆細胞の凍結保存温度は、0℃、−10℃、−20℃、−30℃、−40℃、−50℃、−60℃、−70℃、−80℃、−90℃、−100℃、−110℃、−120℃、−130℃、−140℃、−150℃、−160℃、−170℃、−180℃、−190℃、−200℃、−210℃、−220℃、−230℃、−240℃、−250℃、または−260℃未満へと低下させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、主腔(main lumen)を区画化する内部超音波溶接継目を有するデュアルポートカプセル化デバイスの斜視図である。
【図2】図2は、図1に示したカプセル化デバイスの水平断面図である。
【図3】図3は、内部超音波溶接継目領域に沿った当該デバイスの中心を通ってとられた横断面を有する、図1に示したカプセル化デバイスの側面図である。
【図4】図4は、ポートの軸に沿った区画化された腔の中心を通ってとられた横断面を有する、図1に示したカプセル化デバイスの側面図である。
【図5】図5は、当該区画化された腔を通ってとられた横断面を有する、図1に示したカプセル化デバイスの端面図である。
【図6】図6は、装填用ポート(loading port)を有さず、かつ、当該内腔を区画化するための周期的な超音波スポット溶接継目を含有する、カプセル化デバイスの斜視図である。
【図7】図7は、図6に示したカプセル化デバイスの水平横断面図である。
【図8】図8は、区画化された腔の中心を通ってとられた横断面を有する、図6に示したカプセル化デバイスの側面図である。
【図9】図9は、当該区画化された腔を通る横断面を有する、図6に示したカプセル化デバイスの端面図である。
【図10】図10は、装填用ポートを有さず、かつ、当該内腔を区画化するための周期的な超音波スポット溶接継目を含有する、カプセル化デバイスの斜視図である。これらスポット溶接継目は、それぞれ、血管新生化を容易化するべくその中心が除去されている。
【図11】図11は、図10に示したカプセル化デバイスの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に記載の実施形態は、哺乳動物に、カプセル化用デバイス、例えば生体適合性のポリエチレングリコールベースのデバイスおよび機械的/医療用デバイスなど、に入ったヒト胚性幹細胞由来ヒト膵臓前駆細胞を植え込むことにより、in vivoでインスリンを産生する方法、に向けられたものである。
【0011】
特に断りのない限り、本明細書において使用される用語は、関連分野において通常の技能を有する者らによる慣例的用法に従い理解されるものとする。後述の用語の定義に加え、分子生物学における一般用語の定義は、Rieger et al, 1991 Glossary of genetics: classical and molecular, 5th Ed., Berlin: Springer-Verlag;およびCurrent Protocols in Molecular Biology, F. M. Ausubel et al., Eds., Current Protocols, a joint v
enture between Greene Publishing Associates, Inc. and John Wiley & Sons, Inc., (1998 Supplement)に見られるものであってもよい。本明細書および本特許請求の範囲において使用されているように、「a」または「an」は、それが使用されている文脈に応じて1つ以上を意味することがあると理解されるものとする。よって、例えば、「細胞(a cell)」という記載は、少なくとも1つの細胞が利用され得るということを意味することがある。
【0012】
また、本明細書および添付の特許請求の範囲の目的として、別途指示がない限り、本明細書および特許請求の範囲において用いられる、成分の量、パーセンテージまたは物質の割合を表現するすべての数字、反応条件、および他の数値は、すべての場合において、「約」という語により修飾されていると理解されるものとする。したがって、そうでないとの記述がない限り、以下明細書および添付の特許請求の範囲中に記載されているそれらの数値的なパラメータは本発明が得ようとする所望の性質に応じて変化し得る概算値である。最低でも、および、本特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限しようとする試みとしてではなく、数値的なパラメータはそれぞれ、少なくとも、報告された有効数字の数値に照らして、かつ、通常の丸め(rounding;切り捨て、切り上げ、四捨五入など)法により、解釈されるべきである。
【0013】
一実施形態では、hES由来細胞は、生体適合性のポリエチレングリコール(PEG)を用いてカプセル化する。PEGベースのカプセル化は、IMPLANTATION OF ENCAPSULATED
BIOLOGICAL MATERIALS FOR TREATING DISEASESという表題の米国特許第7,427,415号;GELS FOR ENCAPSULATION OF BIOLOGICAL MATERIALSという表題の米国特許第6,911,227号;および、GELS FOR ENCAPSULATION OF BIOLOGICAL MATERIALSという表題の米国特許第6,911,227号、第5,529,914号、第5,801,033号、第6,258,870号において、より詳細に記載されており、これは、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。
【0014】
もう1つの実施形態では、当該カプセル化用デバイスは、TheraCyte社製デバイス(カリフォルニア州アーバイン)である。TheraCyte社製細胞カプセル化デバイスは、米国特許第6,773,458号;第6,156,305号;第6,060,640号;第5,964,804号;第5,964,261号;第5,882,354号;第5,807,406号;第5,800,529号;第5,782,912号;第5,741,330号;第5,733,336号;第5,713,888号;第5,653,756号;第5,593,440号;第5,569,462号;第5,549,675号;第5,545,223号;第5,453,278号;第5,421,923号;第5,344,454号;第5,314,471号;第5,324,518号;第5,219,361号;第5,100,392号;および第5,011,494号においてさらに記載されており、これらはすべて、本明細書においてその全体が参照によりその全体が組み入れられるものとする。
【0015】
一実施形態では、hES由来細胞培養物または多能性幹細胞培養物の単一細胞懸濁液からhES細胞凝集塊懸濁液を作製するための方法について述べられている。この多能性幹細胞は、最初は繊維芽細胞フィーダー上で培養しても、フィーダーフリー(フィーダーなし)であってもよい。hESCを単離し、そのようにヒトフィーダー細胞上で培養する方法は、METHODS FOR THE CULTURE OF HUMAN EMBRYONIC STEM CELLS ON HUMAN FEEDER CELLSという表題の米国特許第7,432,104号に記載されている。この米国特許第7,432,104号は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。hES細胞凝集塊懸濁培養物および/またはhES由来細胞凝集塊懸濁培養物を作製するための種々の方法は、2008年10月4日に提出されたSTEM CELL AGGREGATE SUSPENSION COMPOSITIONS AND METHODS OF DIFFERENTIATION THEREOFという表題の米国出願第1
2/264,760号に詳細に記載されている。この米国出願第12/264,760号は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。
【0016】
本明細書に記載の分化培養条件およびhES由来細胞型は、上記D'Amour et al. 2006に記載されているもの、または米国特許第7,534,608号;2007年3月2日に提出された米国特許出願第11/681,687号;および、2007年7月5日に提出された第11/773,944号に記載されているものと実質的に同様であり、これらの開示内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられるものとする。D'Amourらは、次のような5段階の分化プロトコルを記載している:ステージ1(結果として主に胚体内胚葉が産生される)、ステージ2(結果として主にPDX1陰性前腸内胚葉が産生される)、ステージ3(結果として主にPDX1陽性前腸内胚葉が産生される)、ステージ4(結果として主に膵臓内胚葉または膵臓内分泌前駆細胞が産生される)、およびステージ5(結果として主にホルモン発現内分泌細胞が産生される)。
【0017】
本明細書で用いられているように、「胚体内胚葉(definitive endoderm;DE)」は、腸管または腸管由来の器官の細胞へと分化し得る複能性の内胚葉系統細胞を指す。特定の実施形態によれば、当該胚体内胚葉細胞は哺乳動物の細胞であり、また、好ましい一実施形態においては、当該胚体内胚葉細胞はヒトの細胞である。いくつかの実施形態においては、胚体内胚葉細胞は、特定のマーカーを発現するか、または、特定のマーカーを有意に発現しない。いくつかの実施形態においては、CER、FOZA2、SOX17、CXCR4、MIXL1、GATA4、HNF3‐β、GSC、FGF17、VWF、CALCR、FOXQ1、CMKOR1およびCRIP1から選択される1つ以上のマーカーが胚体内胚葉細胞中で発現される。他の実施形態では、OCT4、α‐フェトプロテイン(AFP)、トロンボモジュリン(TM)、SPARC、SOX7およびHNF4‐αから選択される1つ以上マーカーは胚体内胚葉細胞中で有意に発現されない。明確にするべく、胚体内胚葉細胞は、例えば胚体内胚葉に比べてHNF4‐αをかなり発現する前腸内胚葉または腸内胚葉(gut endoderm)またはPDX1陰性前腸内胚葉細胞などの他の内胚葉系統細胞とは区別される。胚体内胚葉細胞集団およびそれを産生する方法は、DEFINITIVE
ENDODERMという表題の米国特許第7,510,876号にも記載されており、この米国特許第7,510,876号は、本明細書によりその全体が組み入れられるものとする。
【0018】
さらに他の実施形態は、「PDX1陰性前腸内胚葉細胞」もしくは「前腸内胚葉細胞」もしくは「腸内胚葉」またはそれに相当する語句で称される細胞培養物に関する。いくつかの実施形態においては、当該前腸内胚葉細胞は、SOX17、HNF1‐β、HNF4‐αおよびFOXA1マーカーを発現するが、PDX1、AFP、SOX7、SOX1は実質的に発現しない。PDX1陰性前腸内胚葉細胞集団およびそれを産生する方法は、2006年10月27日に提出されたPDX1-expressing dorsal and ventral foregut endodermという表題の米国出願第11/588,693号にも記載されている。この米国出願第11/588,693号は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられるものとする。また、腸内胚葉は、当該胚体内胚葉細胞またはステージ1の細胞に比べてHNF4‐αをかなり発現する;下記実施例を参照のこと。
【0019】
他の本明細書に記載の実施形態は、「PDX1陽性の背側に偏った(dorsally-biased)前腸内胚葉細胞」、「PDX1陽性前腸内胚葉細胞」、もしくは「PDX1陽性内胚葉」またはそれに相当するものの細胞培養物に関する。いくつかの実施形態においては、当該PDX1陽性前腸内胚葉細胞は、PDX1、HNF6、SOX9およびPROX1マーカーを発現するが、NKX6.1、PTF1A、CPA、cMYC、SOX17、HNF1BまたはHNF4アルファ(alpa)は実質的に発現しない。PDX1陽性(postive)前腸内胚葉細胞集団およびそれを産生する方法は、2006年10月27日に提出されたPDX1-expressing dorsal and ventral foregut endodermという表題の米国出願第11/
588,693号にも記載されている。この米国出願第11/588,693号は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられるものとする。
【0020】
他の本明細書に記載の実施形態は、「膵臓前駆細胞」、「PDX1陽性膵臓内胚葉細胞」、「PDX1陽性膵臓前駆細胞」、「膵臓上皮」、「PE」またはそれに相当するものの細胞培養物に関する。PDX1陽性膵臓前駆細胞は複能性であり、腺房細胞、導管細胞(duct cell)および内分泌細胞などが挙げられるがこれに限定されない膵臓の種々の細胞を生じ得る。いくつかの実施形態においては、当該PDX1陽性膵臓前駆細胞は、PDX1およびNKX6.1マーカーをあまり発現しない非前膵臓内胚葉(non pre-pancreatic endoderm)細胞に比べて増加したレベルのPDX1およびNKX6.1を発現する。PDX1陽性膵臓前駆細胞は、低レベルのPTF1A、CPA、cMYC、NGN3、PAX4、ARXおよびNKX2.2、INS、GCG、GHRL、SST、およびPPも発現するか全く発現しない。
【0021】
あるいは、他の実施形態は、「PDX1陽性膵臓内胚葉先端(tip)細胞」、またはそれに相当するものの細胞培養物に関する。いくつかの実施形態においては、当該PDX1陽性膵臓内胚葉先端細胞は、PDX1陽性膵臓前駆細胞同様、増加したレベルのPDX1およびNKX6.1を発現するが、PDX1陽性膵臓前駆細胞とは違い、PDX1陽性膵臓内胚葉先端細胞は、増加したレベルのPTF1A、CPAおよびcMYCをさらに発現する。PDX1陽性膵臓内胚葉先端細胞は、低レベルのNGN3、PAX4、ARXおよびNKX2.2、INS、GCG、GHRL、SST、およびPPも発現するか全く発現しない。
【0022】
他の実施形態は、「膵臓内分泌前駆(precursor)細胞」、「膵臓内分泌前駆(progenitor)細胞」またはそれに相当するものの細胞培養物に関する。膵臓内分泌前駆細胞は複能性であり、アルファ、ベータ、デルタおよびPP細胞といった成熟内分泌細胞を生じる。いくつかの実施形態においては、当該膵臓内分泌前駆細胞は、他の非内分泌前駆細胞型に比べて増加したレベルのNGN3、PAX4、ARXおよびNKX2.2を発現する。膵臓前駆細胞は、低レベルのINS、GCG、GHRL、SST、およびPPも発現するか全く発現しない。
【0023】
さらに他の実施形態は、「膵臓内分泌細胞」、「膵臓ホルモン分泌細胞」、「膵島ホルモン発現細胞」、またはそれに相当するものの細胞培養物に関する。これらは、多能性細胞からin vitroで生じた、例えばアルファ、ベータ、デルタおよび/もしくはPP細胞またはその組み合わせなどの細胞を指すものである。当該内分泌細胞は多ホルモン性であっても単一ホルモン性であってもよく、例えば、インスリン、グルカゴン、グレリン、ソマトスタチンおよび膵臓ポリペプチドまたはその組み合わせを発現する。したがって、当該内分泌細胞は、ヒト膵島細胞の機能の少なくとも一部を有する1種類以上の膵臓ホルモンを発現してもよい。膵島ホルモン発現細胞は、成熟したものであっても、未成熟なものであってもよい。未成熟膵島ホルモン発現細胞は、特定のマーカーの差次的発現に基づき、またはそれらの機能的な能力、例えばin vitroまたはin vivoでのグルコース応答性、に基づき、成熟膵島ホルモン発現細胞と区別することができる。膵臓内分泌細胞は、低レベルのNGN3、PAX4、ARXおよびNKX2.2も発現するか全く発現しない。
【0024】
間葉系の胚体内胚葉細胞に比べ、上記細胞型のほとんどは上皮化されている。いくつかの実施形態においては、当該膵臓内胚葉細胞は、2006年10月27日に提出されたPDX1 EXPRESSING DOSAL AND VENTRAL FOREGUT ENDODERMという表題の関連米国出願第11/588,693号の表3から選択される1種類以上のマーカーおよび/または表4から選択される1種類以上のマーカー、ならびにまた、2005年4月26日に提出されたPDX1
-expressing endodermという表題の米国出願第11/115,868号から選択される1種類以上のマーカー、を発現する。これら米国出願は、本明細書により参照によりその全体が本明細書に組み入れられるものとする。
【0025】
特定の実施形態において、「豊富にした(豊富になった)」、「単離した」、「分離した」、「選別した」、「精製した」もしくは枯渇させることにより精製するという語またはそれに相当する語は、少なくとも15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の、所望の細胞系統、または特定の細胞表現型を有する所望の細胞、例えば、特定の細胞マーカーを発現するかもしくはその細胞表現型に特有の特定の細胞マーカー遺伝子を発現しない細胞、を含有する細胞培養物または細胞集団または細胞試料を指す。hES細胞由来の内胚葉系統細胞を精製する、豊富にする、単離する、分離する、選別する、および/または枯渇させるための方法は、2008年4月21日に提出されたMETHODS FOR PURIFYING ENDODERM AND PANCREATIC ENDODERM CELLS DERIVED FROM HUMAN EMBRYONIC STEM CELLSという表題の米国出願第12/107,020号にも記載されている。この米国出願第12/107,020号は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられるものとする。
【0026】
本明細書で用いられているように、「接触させる」(すなわち、細胞、例えば分化可能細胞(differentiable cell)を、化合物に接触させる)という語は、化合物と細胞とをともにin vitroでインキュベートする(例えば、化合物を培養物中の細胞に添加する)ことを含むことが意図されている。この「接触させる」という語は、対象の中で自然に起こり得る、ErbB3リガンドおよび所望によりTGF‐βファミリーのメンバーを含む規定(defined)細胞培地への細胞のin vivoでの曝露(すなわち、自然な生理学的プロセスの結果として起こり得る曝露)を含むことは意図されていない。ErbB3リガンドおよび所望によりTGF‐βファミリーのメンバーを含む規定細胞培地に細胞を接触させる工程は、任意の適切な様式で行うことができる。例えば、細胞は、接着培養または懸濁培養にて処理してもよい。規定培地に接触した細胞を、細胞分化環境でさらに処理して、その細胞を安定化するか、または分化させることができるということが理解されるものとする。
【0027】
本明細書で用いられているように、「分化する」という語は、それが由来する元の細胞型よりも分化している細胞型が産生されることを指す。いくつかの実施形態においては、「分化する」という語は、その由来となった元の細胞よりも運命の選択肢がより少ない細胞を産生することを意味する。したがって、この語には、部分的におよび最終的に分化した細胞型が包含される。hES細胞由来の分化した細胞を、通常、hES由来細胞もしくはhES由来細胞凝集塊培養物、またはhES由来単一細胞懸濁液、またはhES由来細胞接着培養物等と称する。
【0028】
本明細書で用いられているように、「分化可能細胞」という語は、少なくとも部分的に成熟した細胞へと分化することができるか、または、細胞の分化に関与し得る、例えば、少なくとも部分的に成熟した細胞へと分化することができる他の細胞と融合し得る、細胞または細胞の集団を記述するのに用いられる。本明細書で用いられているように、「部分的に成熟した細胞」、「前駆細胞」、「未成熟細胞」、「前駆細胞」、「複能性細胞」またはそれに相当する語には、最終的には分化していないそれらの細胞、例えば、胚体内胚葉細胞、PDX1陰性前腸内胚葉細胞、PDX1陽性前膵臓(pre-pancreatic)内胚葉細胞をさらに含むPDX1陽性膵臓内胚葉細胞、およびPDX1陽性膵臓内胚葉先端細胞、が含まれる。すべて、同一器官または組織由来の、少なくとも1つの表現型特性、例えば成熟細胞の形態またはタンパク質発現など、を示す細胞であるが、少なくとも1種類の他の細胞型へとさらに分化することができる。例えば、正常な成熟肝細胞は、典型的には、
とりわけ、例えば、アルブミン、フィブリノーゲン、α‐1‐アンチトリプシン、プロトロンビン凝固因子、トランスフェリン、および、例えばシトクロムP‐450などの解毒酵素、などのタンパク質を発現する。よって、本明細書で用いられているように、「部分的に成熟した肝細胞」は、アルブミンまたは別の1種類以上のタンパク質を発現しているか、または正常な成熟肝細胞の機能または外観を有し始めていてもよい。
【0029】
本明細書で用いられているように、「実質的に」という語は、大きい程度または度合いを指し、例えば、文脈内の「実質的に同様(類似)」は、ある方法が、別の方法と同様の程度または度合いの大きさであることを記述するのに用いられるであろう。しかしながら、本明細書で用いられているように、「実質的にない(含まない)」という語、例えば、「実質的にない(含まない)」もしくは「混入物が実質的にない(混入物を実質的に含まない)」、もしくは「血清が実質的にない(血清を実質的に含まない)」もしくは「インスリンまたはインスリン様成長因子が実質的にない(インスリンまたはインスリン様成長因子を実質的に含まない」またはそれに相当する語は、溶液、培地、サプリメント、賦形剤等が、血清、混入物またはその同等物を少なくとも98%、または少なくとも98.5%、または少なくとも99%、または少なくとも99.5%、または少なくとも100%含まないことを意味する。一実施形態では、規定培養培地は、血清を全く含有しないか、または100%血清非含有であるか、または血清を実質的に含まない。反対に、本明細書で用いられているように、「実質的に同様(類似)」という語またはそれに相当する語が意味することは、組成、プロセス、方法、溶液、培地、サプリメント、賦形剤等は、当該プロセス、方法、溶液等が、ここで本明細書においてこれまでに記載されているもの、またはその全体が本明細書に組み入れられるこれまでに記載されているプロセスまたは方法においてこれまでに記載されているもの、と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%類似していることを意味することである。
【0030】
また、本明細書で用いられているように、細胞集団の組成に関連して、「本質的に」または「実質的に」という語は、優勢にまたは主に、を意味する。いくつかの実施形態においては、これらの語は、細胞集団中の細胞の少なくとも85%、細胞集団中の細胞の少なくとも86%、細胞集団中の細胞の少なくとも87%、細胞集団中の細胞の少なくとも88%、細胞集団中の細胞の少なくとも89%、細胞集団中の細胞の少なくとも90%、細胞集団中の細胞の少なくとも91%、細胞集団中の細胞の少なくとも92%、細胞集団中の細胞の少なくとも93%、細胞集団中の細胞の少なくとも94%、細胞集団中の細胞の少なくとも95%、細胞集団中の細胞の少なくとも96%、細胞集団中の細胞の少なくとも97%、細胞集団中の細胞の少なくとも98%、または細胞集団中の細胞の少なくとも99%、を意味する。他の実施形態では、「〜が本質的にない(〜を本質的に含まない)」および「〜が実質的にない(〜を実質的に含まない)」という語または句は、「本質的にまたは実質的に同種(homogenous)」、「本質的にまたは実質的に同種細胞(homo-cellular)」、「本質的にhES細胞」、「本質的にまたは実質的に胚体内胚葉細胞」、「本質的にまたは実質的に前腸内胚葉細胞」、「本質的にまたは実質的に腸内胚葉細胞」、「本質的にまたは実質的にPDX1陰性前腸内胚葉細胞」、「本質的にまたは実質的にPDX1陽性前膵臓内胚葉細胞」、「本質的にまたは実質的にPDX1陽性膵臓前駆細胞」、「本質的にまたは実質的に膵臓上皮細胞」、「本質的にまたは実質的にPDX1陽性膵臓内胚葉先端細胞」、「本質的にまたは実質的に膵臓内分泌前駆細胞」、「本質的にまたは実質的に膵臓内分泌細胞」等である、任意の細胞培養物中に存在する僅少の(de minimus)または減少した量の構成成分または細胞、例えば、本明細書に記載の膵臓前駆細胞、を指す。「本質的に」および「実質的に」という語は、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%がその細胞(胚体内胚葉;PDX1陰性前腸内胚葉;PDX1陽性前膵臓内胚葉;PDX1陽性膵臓前駆細胞;PDX1陽性(postiive)膵臓
先端細胞;内分泌前駆細胞、および内分泌性ホルモン分泌細胞)であることを意味することもある。
【0031】
本明細書で用いられているように、化合物の「有効量」という語またはそれに相当する語は、当該規定培地の残存構成成分の存在下にて、培養物中の分化可能細胞の、フィーダー細胞の非存在下および血清または血清代替物の非存在下での1ヶ月よりも長い期間にわたる安定化をもたらすのに十分である当該化合物のその濃度を指す。この濃度は、当業者により容易に決定される。
【0032】
本明細書で用いられているように、「発現する」という語は、細胞中でのポリヌクレオチドの転写またはポリペプチドの翻訳を指し、その結果、当該分子のレベルは、この分子を発現しない細胞におけるレベルよりも、この分子を発現する細胞において、測定可能な程度に、より高くなる。分子の発現を測定する方法は当業者によく知られており、ノーザンブロット、RT‐PCR、in situハイブリダイゼーション、ウエスタンブロット、および免疫染色などが挙げられるが、これに限定されない。
【0033】
本明細書で用いられているように、細胞、細胞株、細胞培養物または細胞の集団について言う場合、「単離した」という語は、その細胞、細胞株、細胞培養物、または細胞の集団がin vitroで培養可能となるように、天然の細胞源から実質的に分離されていることを指す。加えて、「単離(隔離)する」という語は、2つ以上の細胞を含む群から1つ以上の細胞を物理的に選別することを指すためにも使用される。この選別においては、当該細胞は、細胞形態および/または種々のマーカーの発現に基づいて選択される。
【0034】
本明細書で用いられているように、「細胞を保存する」という語は、移植前のある期間の間、細胞を、生存可能な状態に維持することを意味する。この期間は、1時間、2時間、5時間、10時間、15時間、20時間、24時間、2日、4日、5日、1週、2週、4週、1ヶ月、2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月、8ヶ月、10ヶ月、1年、2年、4年、6年、8年、10年、12年、14年、16年、18年、20年、22年、24年、30年、35年、40年、45年、もしくは100年であってもよく、または、この範囲に提示した任意の時間と任意の時間との間の任意の期間であってもよい。
【0035】
分化可能細胞は、本明細書で用いられているように、多能性(pluripotent)、複能性(multipotent)、寡能性(oligopotent)またはさらには単能性(unipotent)であってもよい。特定の実施形態では、当該分化可能細胞は、多能性の分化可能細胞である。より具体的な実施形態においては、当該多能性の分化可能細胞は、胚性幹細胞、ICM/エピブラスト細胞、原始外胚葉細胞、始原生殖細胞、およびテラトカルシノーマ細胞からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、当該分化可能細胞は、着床前胚に由来する。特定の一実施形態では、当該分化可能細胞は、哺乳動物の胚性幹細胞である。さらに特定の一実施形態では、当該分化可能細胞はヒト胚性幹細胞である。
【0036】
分化可能細胞から分化する細胞型は、創薬(drug discovery)、薬剤開発(drug development)および薬剤試験、毒性学、治療目的での細胞の産生、ならびに基礎科学研究など(ただしこれらに限定されない)の種々の研究開発分野においていくつかの用途がある。これらの細胞型は、種々の研究分野において興味の対象となっている分子を発現する。これらには、標準的な参照文献に記載されている種々の細胞型の機能に必要であることが知られている分子が含まれる。これらの分子として、サイトカイン、成長(増殖)因子、サイトカイン受容体、細胞外マトリックス、転写因子、分泌されるポリペプチドおよび他の分子、ならびに成長(増殖)因子受容体、が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
分化可能細胞は細胞分化環境との接触により分化させることができると考えられる。本
明細書で用いられているように、「細胞分化環境」という語は、当該分化可能細胞が、誘導されて分化するか、または誘導されて、分化した細胞中においてヒト細胞培養物が豊富となる細胞培養条件を指す。成長(増殖)因子により誘導される、この分化した細胞系統は、自然に均質(homogeneous)となることが好ましい。「均質(homogeneous)」という語は、所望の細胞系統をおよそ50%、60%、70%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%より多く含有する集団を指す。
【0038】
細胞分化培地または細胞分化環境を利用して、本明細書に記載の分化可能細胞を部分的に、最終的に、または可逆的に分化させてもよい。本明細書に記載の実施形態よれば、当該細胞分化環境の培地は、例えば、KODMEM培地(Knockout Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium;ノックアウトダルベッコ変法イーグル培地)、DMEM、ハムF12培地(Ham’s F12 medium)、FBS(ウシ胎仔血清)、FGF2(繊維芽細胞成長因子2)、KSRまたはhLIF(ヒト白血病阻害因子)など、種々の構成成分を含有していてもよい。当該細胞分化環境は、また、サプリメント、例えばL‐グルタミン、NEAA(non-essential amino acid;非必須アミノ酸)、P/S(ペニシリン/ストレプトマイシン)、N2、B27およびβ‐メルカプトエタノール(β‐ME)など、を含有していてもよい。当該細胞分化環境には、さらなる因子を添加してもよいと考えられ、その因子としては、例えば、フィブロネクチン、ラミニン、ヘパリン、ヘパリン硫酸、レチノイン酸、上皮増殖因子ファミリー(EGF)のメンバー、例えばFGF2、FGF7、FGF8、および/もしくはFGF10などの繊維芽細胞成長因子ファミリー(FGF)のメンバー、血小板由来増殖因子ファミリー(PDGF)のメンバー、例えばこれらに限定されるものではないがノギン(noggin)、フォリスタチン、コーディン(chordin)、グレムリン(gremlin)、cerberus/DANファミリータンパク質、ベントロピン(ventropin)、高用量アクチビン、およびamnionlessなどのトランスフォーミング増殖因子(TGF)/骨形成タンパク質(BMP)/増殖分化因子(growth and differentiation factor;GDF)因子ファミリーアンタゴニスト、またはその変異体もしくは機能的断片、が挙げられるが、これらに限定されない。また、TGF/BMP/GDFアンタゴニストは、TGF/BMP/GDF受容体‐Fcキメラの形で添加してもよいこともあるであろう。添加してもよい他の因子としては、Notch受容体ファミリーを介したシグナル伝達を活性化または不活性化し得る分子が挙げられ、例えば、Delta様ファミリーおよびJaggedファミリーのタンパク質、ならびにNotchのプロセシングもしくは切断の阻害剤、またはその変異体もしくは機能的断片、などがあるが、これらに限定されない。他の成長(増殖)因子には、インスリン様成長因子ファミリー(IGF)のメンバー、インスリン、wingless関連(wingless related;WNT)因子ファミリー、およびヘッジホッグ因子ファミリーまたはその変異体または機能的断片、が含まれていてもよい。さらなる因子を添加して、中内胚葉系幹/前駆細胞、内胚葉系幹/前駆細胞、中胚葉系幹/前駆細胞、または胚体内胚葉系幹/前駆細胞、の増殖および生存、ならびに、これら前駆細胞の派生物の生存および分化、を促進してもよい。
【0039】
分化可能細胞の、所望の細胞系統への進行または未分化状態での維持は、分化可能細胞型に特有のマーカー遺伝子の発現がないことを定量化することのみならず、当該所望の細胞系統に特有のマーカー遺伝子の発現を定量化することによってもモニタリングすることができる。このようなマーカー遺伝子の遺伝子発現を定量化する1つの方法は、定量的PCR(Q‐PCR)の使用によるものである。Q‐PCRを行う方法は、当該分野においてよく知られている。また、当該分野において知られている他の方法を使用することによって、マーカー遺伝子発現を定量化してもよい。マーカー遺伝子発現は、目的マーカー遺伝子に特異的な抗体を用いることによって検出することができる。
【0040】
また、本明細書に記載の実施形態では、動物個体中の任意の源(source)に由来する分化可能細胞が意図されているが、但し、当該細胞は、本明細書において定義されているように分化可能であるものとする。例えば、分化可能細胞は、胚もしくは胚中の任意の始原胚葉(primordial germ layer)から、または、胎盤組織もしくは絨毛膜組織から、または、例えば成体幹細胞などの、より成熟した組織、例えばこれらに限定されるものではないが脂肪、骨髄、神経組織、乳房組織、肝臓組織、膵臓、上皮組織、呼吸器組織、性腺組織および筋肉組織など、から、採取してもよい。具体的な実施形態においては、当該分化可能細胞は胚性幹細胞である。他の具体的な実施形態では、当該分化可能細胞は成体幹細胞である。さらに他の具体的な実施形態では、当該幹細胞は、胎盤または絨毛膜由来幹細胞である。
【0041】
他の実施形態では、分化可能細胞を産生する能力のある任意の動物に由来する分化可能細胞を用いることが意図されている。当該分化可能細胞を採取する元となる動物は、脊椎動物もしくは無脊椎動物、哺乳動物もしくは非哺乳動物、またはヒトもしくは非ヒト、であってもよい。動物源の例としては、霊長類、齧歯類、イヌ科、ネコ科、ウマ科、ウシ科およびブタ様、の動物が挙げられるが、これに限定されない。
【0042】
いくつかの実施形態では、非多能性細胞由来の多能性幹細胞である、人工多能性幹(iPS)細胞を用いることが意図されている。Zhou et al. (2009), Cell Stem Cell 4: 381-384;Yu et al., (2009) Science 324(5928):797-801, Epub March 26, 2009;Yu et al. (2007) Science 318(5858): 1917-20, Epub November 20, 2007;Takahashi et al., (2007) Cell, 131 :861-72;およびTakahashi K. and Yamanaka S. (2006), Cell 126:663-76を参照のこと。これら文献は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。当該非多能性細胞を採取する元となる動物は、脊椎動物もしくは無脊椎動物、哺乳動物もしくは非哺乳動物、またはヒトもしくは非ヒト、であってもよい。動物源の例としては、霊長類、齧歯類、イヌ科、ネコ科、ウマ科、ウシ科およびブタ様、の動物が挙げられるが、これに限定されない。
【0043】
本明細書に記載の分化可能細胞は、当業者に既知の任意の方法を用いて得てもよい。例えば、ヒト多能性細胞は、脱分化法および核移植法を用いて作製してもよい。また、本明細書において使用されるヒトICM/エピブラスト細胞または原始外胚葉細胞は、in vivoまたはin vitroで得る。原始外胚葉性細胞は、WO99/53021に記載されているように、接着培養にて、または懸濁培養における細胞凝集塊として、作製されてもよい。さらに、当該ヒト多能性細胞は、例えば酵素的継代培養(enzymatic passaging)または非酵素的継代培養(non-enzymatic passaging)などの、手作業での(manual)継代培養法および大量(bulk)継代培養法を含む、当業者に既知の任意の方法を用いて継代培養してもよい。
【0044】
特定の実施形態では、ES細胞を利用する場合、胚性幹細胞は正常核型を有し、一方、他の実施形態では、胚性幹細胞は異常核型を有する。一実施形態では、胚性幹細胞の大多数は正常核型を有する。試験される分裂中期細胞の50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%よりも多いか、または95%よりも多い細胞は正常核型を示すと考えられる。
【0045】
カプセル化および移植のための細胞の保存
いくつかの実施形態は、in vitroで培養していたおよび/または分化させていた細胞を凍結保存するための方法に関する。このような保存により、in vitroでの分析またはin vivoでの植え込みのいずれかに関連した、バンキング(banking)、品質管理、ならびに他の所望の手順および操作が可能となるであろう。移植前の細胞保存のための方法には、細胞を凍結すること(凍結保存)による、;または、凍結する温
度かそれよりも高い温度で細胞を冷却させておくこと(冬眠)による、組織の保存が含まれる。Chanaud et al. 1987 Neurosci Lett 82: 127-133;Collier et al. (1987) 436: 363-366;および、Sauer et al. 1991 Neurology and Neuroscience 2: 123-135;Gage et al. 1985 Neurosci Lett 60: 133-137、を参照のこと。これら文献の開示内容は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。冬眠は、凍結保存した組織に比べ、グラフト生存率および機能を上昇させることが報告されているが、細胞は、冬眠期間の間に細胞生存率を危険にさらすことなくこのような条件下で長期維持することができる能力を持つものでなくてもよい。
【0046】
本明細書で用いられているように、「細胞懸濁液」またはそれに相当する語は、培地と接触している細胞凝集塊および/または細胞クラスターおよび/または細胞球を指す。このような細胞懸濁液は、2008年11月8日に提出されたStem cell Aggregate Suspension Compositions and Methods of Differentiation Thereofという表題の米国出願第12/264,760号において詳細に記載されている。この米国出願第12/264,760号の開示内容は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。
【0047】
本明細書で用いられているように、「適応細胞懸濁液」もしくは細胞懸濁培養物またはそれに相当する語には、凍結するかそれよりも高い温度、好ましくは4℃、で、冬眠培地にて、約1時間および約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25まで、または30日までの間保存されている、細胞懸濁液が含まれる。
【0048】
本明細書で用いられているように、移植に適した細胞とは、in vivoでの代謝障害の治療に対して、十分に生存可能な、および/または機能的な、細胞または細胞の集団を指す。例えば、糖尿病または糖尿病の1種類以上の症状は、糖尿病を患っている対象へ移植に適した細胞を植え込んだ後、ある期間の間、寛解または減少し得る。好ましい一実施形態では、移植に適した細胞または細胞集団は、膵臓前駆細胞もしくは集団、またはPDX1陽性膵臓前駆細胞もしくは集団、または内分泌前駆細胞もしくは集団、または多ホルモン性もしくは単一ホルモン性の内分泌細胞、および/または、その細胞もしくは細胞の集団の任意の組み合わせ、または、さらには、その、精製した、もしくは豊富にした細胞もしくは細胞の集団、である。本明細書に記載の実施形態に適した細胞は、米国特許第7,534,608号においてさらに詳細に記載されている。この米国特許第7,534,608号の開示内容は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。
【0049】
本明細書で用いられているように、「保存する」という語またはそれに相当する語は、凍結するかそれより高く、または凍結するよりも低く細胞を保持または維持することを指す。また、この語は、対象への移植における使用の前の細胞を維持することも含むよう意図されている。
【0050】
本明細書で用いられているように、「凍結保存」という語またはそれに相当する語は、凍結するより低い温度での細胞の保存を指す。
【0051】
本明細書で用いられているように、「冬眠(hibernation)」という語またはそれに相当する語は、1つ以上の正常細胞の生理学的プロセスが低下するかまたは停止するような、凍結するかそれより高い温度および正常な生理学的温度よりも十分に低い温度での細胞の保存、を指す。一実施形態では、好ましい冬眠温度は、0〜4℃の範囲であり、好ましくは約4℃である。本明細書で用いられている冬眠培地には、凍結保存剤を欠いている、および、凍結する温度かそれよりも高い温度、好ましくは約4℃、での細胞保存に生理学
的に適合性である、任意の培地が含まれる。
【0052】
冬眠条件
冬眠温度は、典型的には0〜5℃の範囲であり、好ましくは約4℃である。即時(instant)方法と併せて、数多くの培地の種類を冬眠培地として使用することができる。細胞を凍結する、および冬眠状態にするための先行技術方法では、緩衝液および添加タンパク質を含み、時として、例えば血清など、全体的にはっきりしない構成成分を含むこともある、複合培地が利用される。しかしながら、毒性および免疫原性を最小限にするためには、このような添加剤は、ヒトへの移植には望ましくない。好ましい実施形態では、冬眠培地は、添加Ca++を含有しない。特定の実施形態では、細胞を冬眠状態にするための培地は、添加タンパク質を含有せず、および/または、緩衝液を含有しない。好ましい冬眠培地は、例えば、生理食塩水中に、追加のグルコースを全く含まないか、または約0.1%〜0.9%のグルコースを含むなど、生理食塩水中に最少量のグルコースもしくは中程度の量のグルコースを含むか、またはこれらからなる。好ましい実施形態では、当該冬眠培地は、約0.1〜0.5%のグルコースを含むか、またはこれからなる。より好ましい一実施形態では、当該培地は、約0.2%グルコースを含むか、またはこれからなる。好ましい実施形態では、当該冬眠培地は、非常に低いパーセンテージ(vol/vol)のNaCl、例えば約0.1〜1%のNaCl、好ましくは約0.5〜0.9%のNaCl、を含むか、またはこれからなる。特定の実施形態においては、例えばハンクス平衡塩類溶液、ダルベッコ最小必須(minimal essential)培地、またはイーグル変法最小必須培地などの、さらなる複合培地を使用してもよい。特定の実施形態においては、選択した冬眠培地を、添加剤、例えば、添加タンパク質(例えば、哺乳動物の血清タンパク質または全血清(好ましくは熱非働化したもの))緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、HEPES、等) 抗酸化剤、成長(増殖)因子、KCl(例えば約30mMのもの)、乳酸塩(例えば約20mMのもの)、ピルビン酸塩、MgCl2(例えば約2〜3mMのもの)、ソルビトール(例えば約300mMのもの)、または当該分野において周知の他の添加剤など、で補うことが望ましいことがある。
【0053】
特定の実施形態では、細胞を、約0〜5℃で、好ましくは約4℃で、冬眠状態にする。特定の実施形態では、凍結前または使用前に、細胞を、約4℃で、冬眠培地中で維持する。他の実施形態では、凍結後、細胞を、約4℃で、冬眠培地中で維持する。さらに他の実施形態では、細胞を、凍結せずに、約4℃で、冬眠培地中で維持する。特定の実施形態では、凍結前、凍結後、または移植における使用の前に、細胞を、約4℃で、少なくとも約1時間および約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25まで、または30日までの間、冬眠培地中で維持する。他の実施形態では、凍結前、凍結後、または移植における使用の前に、細胞を、約4℃で、少なくとも約12〜72時間にわたり、冬眠培地中で維持する。特定の実施形態では、凍結前、凍結後、または移植における使用の前に、細胞を、4℃で、少なくとも約24時間、冬眠培地中で維持する。より好ましい一実施形態では、凍結前、凍結後、または使用前に、細胞を、約4℃で、少なくとも約36時間〜48時間にわたり、冬眠培地中で維持する。
【0054】
凍結保存条件
いくつかの実施形態では、細胞は、凍結保存溶液を用いて凍結保存する。凍結保存溶液または凍結保存培地としては、凍結保存剤、すなわち、細胞を凍結または解凍することによる細胞内および/または細胞膜のダメージから細胞を守る化合物、を含有する溶液が挙げられる。凍結保存剤は、当該凍結保存剤に接触させた細胞の生存率および/または機能性が、凍結保存剤の非存在下で同様に凍結または解凍した細胞に比べた場合に、亢進されているということにより同定される。任意の凍結保存剤は即時方法と併せて使用してもよく、また、この語は、細胞内凍結保存剤および細胞外凍結保存剤の両方を包含するよう意
図されている。
【0055】
当該分野において公知の任意の凍結保存剤を、凍結保存溶液に使用してもよい。特定の実施形態においては、凍結保存溶液は細胞内凍結保存剤を含むが、この細胞内凍結保存剤としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、種々のジオールおよびトリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールおよびトリオールならびにグリセロール)、ならびに種々のアミド(例えばホルムアミドおよびアセトアミド)、が挙げられるがこれに限定されず、;また、例えばこれらに限定されるものではないがホスホグリセリドのホスホモノおよびホスホジエステル異化代謝産物、ポリビニルピロリドン、またはメチルセルロース(例えば少なくとも0.1%のもの)などの細胞外凍結保存剤を、単独で、または当該細胞内凍結保存剤のうちのいずれかと組み合わせて使用してもよい。
【0056】
好ましい実施形態では、DMSOを凍結保存剤として用いる。DMSOは、種々の濃度、例えば約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、またはそれ以上の濃度、で使用してもよい。より好ましい実施形態では、DMSOの濃度は、約6%〜約12%の範囲である。特に好ましい実施形態では、DMSOの濃度は、約10%である。
【0057】
特定の実施形態では、凍結保存剤は、当該凍結保存剤の濃度を徐々に上昇させるべく、当該凍結保存剤の所望の終濃度に達するまで、段階的に細胞に添加する。特定の実施形態では、細胞を、所望の終濃度の当該凍結保存剤を含有する凍結保存溶液に接触させるか、または、当該凍結保存剤を、段階的な濃度上昇をさせることなく、基礎培地に直接添加する。
【0058】
当該凍結保存溶液には、適切な基礎培地中の凍結保存剤が含まれる。この目的のために、任意の種類の培地を用いてもよい。好ましい実施形態では、当該凍結保存剤を添加する当該基礎培地は、添加Ca++を含有しない。特定の実施形態では、当該凍結保存剤を添加する当該培地は、添加タンパク質を含有せず、および/または緩衝液を含有しない。他の実施形態では、当該凍結保存剤を添加する当該基礎培地(例えばDMEMまたはDMEM/F12)は、約0.1〜0.5%のグルコースもしくはゼロもしくは低グルコースを含むか、またはこれからなる。この実施形態のいくつかの局面では、当該凍結保存剤を添加する当該基礎培地(例えばDMEMまたはDMEM/F12)は、約0.5〜0.9%のNaClを含むか、またはこれからなる。好ましい実施形態では、当該凍結保存剤を添加する当該基礎培地は、ゼロから非常に低レベルまでのグルコースおよび約0.5〜0.9%のNaClを含むか、またはこれらからなる。もう1つの好ましい実施形態においては、当該凍結保存剤を添加する当該基礎培地は、約0.1〜0.2%のグルコースを含むか、またはこれからなる。この実施形態のいくつかの局面では、当該凍結保存剤を添加する当該基礎培地は、約0.5〜0.9%のNaClを含むか、またはこれからなる。
【0059】
特定の実施形態においては、当該凍結保存溶液は、また、添加タンパク質、例えば血清、例えばウシ胎仔血清もしくはヒト血清、または血清タンパク質、例えばアルブミンもしくはノックアウト血清代替物、を含有していてもよい。他の実施形態では、当該凍結保存剤は、また、他の添加剤、例えば冬眠培地に含めるものとして上述したもの、例えば、抗酸化剤、成長(増殖)因子、KCl(例えば約30mMのもの)、乳酸塩(例えば約20mMのもの)、ピルビン酸塩、MgCl2(例えば約2〜3mMのもの)、ソルビトール(例えば、約300mMのオスモル濃度まで)、または当該分野において周知の他の添加剤など、を含有していてもよい。
【0060】
細胞を凍結保存溶液に懸濁するとすぐに、細胞の温度は、コントロールされた状態で低
下する。細胞を凍結するより低い温度に冷却する際、好ましくは、この温度低下はゆっくりと生じ、その結果、これら細胞が、凍結保存剤の細胞内濃度と細胞外濃度との間の平衡を確立することとなり、その結果、細胞内の氷の結晶の形成が阻害される。いくつかの実施形態においては、冷却速度は、細胞を、過剰な水分喪失および凍結保存剤の毒性効果から守るのに十分速い速度であることが好ましい。その後、この細胞を、−20℃〜約−250℃の温度で凍結保存してもよい。好ましくは、細胞は、氷の再結晶化のリスクを最小限にするべく、−90℃未満で保存する。特に好ましい実施形態では、当該細胞は、液体窒素中で、約−196℃で凍結保存する。あるいは、コントロールされた凍結は、市販の電子的に制御されたフリーザー機器の助けを借りて達成されてもよい。
【0061】
解凍条件
凍結保存後、細胞は、利用可能な任意の方法により解凍してもよい。好ましい一実施形態では、細胞は、例えば37℃の液体に手早く浸漬させることなどにより、急速に解凍する。細胞を解凍するとすぐに、希釈培地の添加により、当該凍結保存剤の希釈が達成される。
【0062】
当該凍結保存溶液の希釈には、当該解凍細胞と接触している任意の培地を使用することができる。例えば、当該凍結保存溶液の希釈には、細胞を冬眠状態にする際に使用するための、または細胞の成長(増殖)および分化のための、上記に列記した培地のいずれを使用してもよい。他の培地、例えばハンクス平衡塩類溶液(好ましくはCa++を含まないもの)、グルコースを含まないかまたは最少量〜低量のグルコースを含む培地を含有するDMEMなど、も適している。また、添加剤、例えば冬眠培地または凍結培地に含めるものとして上述したものなど、を、希釈用の培地にて使用してもよい。好例の添加剤としては、例えば、緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、HEPES、等) 抗酸化剤、成長(増殖)因子、KCl(例えば約30mMのもの)、乳酸塩(例えば約20mMのもの)、ピルビン酸塩、MgCl2(例えば約2〜3mMのもの)、ソルビトール(例えば、約300mMのオスモル濃度まで)、または当該分野において周知の他の添加剤など、が挙げられる。もう1つの適切な添加剤としては、DNase(例えば、ジェネンテック社から市販されている、PULMOZYMEORとして取り込まれているもの)が挙げられる。当該凍結保存溶液の希釈に用いる当該培地は、所望により、添加タンパク質、例えば添加タンパク質(例えば、哺乳動物の血清(好ましくは熱非働化したもの)または例えばアルブミンなどの血清タンパク質など、を含有していてもよい。他の実施形態では、当該培地は、添加タンパク質および/または添加緩衝液を全くを含有しない。
【0063】
当該凍結保存剤の希釈後、次いで、当該凍結保存溶液を細胞からできる限り除去するべく、細胞を沈殿させておいてもよいし、または、細胞のペレットを遠心力下で形成してもよい。その後、この細胞を、凍結保存剤を含有していない培地中で洗浄してもよい。洗浄培地の添加の後、および、細胞を沈殿させておくかまたは遠心力下でペレットを形成させておくより前は、細胞を室温のままにしておくことが好ましいこともある。好ましい実施形態では、細胞は、2回目の遠心分離の前に、約10、15、20、30分間、室温のままにしておく。当該分野において公知の任意の培地を用いて細胞を洗浄してもよく、例えば、上記で記載した冬眠培地または希釈培地のいずれかを用いてもよい。
【0064】
解凍し、洗浄した後、細胞は、様々な長さの期間の間、37℃で培養し、移植前にリカバリーさせておく。細胞は、任意の培養培地中で、好ましくはそれらの分化ステージに適した培地中で、培養してもよい。この間に、ある細胞は細胞死を生じることがある。
【0065】
移植に使用するためには、細胞は、対象への投与に適した最終培地に懸濁しなければならない。細胞の移植は、米国特許第7,534,608号に記載されているものと実質的に同様であり、この米国特許第7,534,608号は、本明細書において参照によりそ
の全体が組み入れられるものとする。
【0066】
加えて、解凍した細胞は、移植における使用の前に、0〜37℃で、好ましくは約4℃で、1時間までおよび約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25まで、または30日までの間、生存率をあまり減少させることなく、上述したように、冬眠培地中で維持してもよい。いくつかの実施形態においては、統計的に有意な細胞生存率の減少が全く生じない。
【0067】
リカバリーさせた細胞の生存率の決定
保存後、細胞の生存率および/または機能性を移植前に検査して、例えば移植における使用など、使用への適性を確認することが望ましいことがある。これは、当該分野において公知の種々の方法を用いて達成してもよい。例えば、例えばトリパンブルーまたはエチジウムブロマイドまたはアクリジンオレンジなどの、生体染色法を用いて細胞を染色してもよい。特定の実施形態においては、移植に適した細胞の集団は、少なくとも約50〜100%が生存可能である。好ましい実施形態では、移植に適した細胞の集団は、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、が生存可能である。特に好ましい実施形態においては、このような細胞の集団は、少なくとも約85%が生存可能である。
【0068】
他の実施形態では、細胞の形態計測的特性を、細胞の、移植における使用への適性の尺度として決定してもよい。好ましい実施形態では、即時方法により保存していた細胞であって、移植に適している細胞の形態は、新鮮な細胞の形態と(例えば統計的に有意に)異ならない。好ましい実施形態では、即時方法により保存していた細胞であって、移植に適している細胞のin vivoでの形態は、新鮮な細胞の形態と(例えば統計的に有意に)異ならない。
【0069】
細胞クラスターの場合には、細胞塊を、細胞の凍結/解凍およびリカバリーの前ならびに後に、定量化してもよい。一実施形態では、懸濁液中で培養した細胞クラスターは、密接に密集するよう操作してもよい。その後、当該クラスターが占める面積を、撮影および測定してもよい。細胞が占める面積について凍結/解凍およびリカバリーの前と後とを比較することによって、パーセントリカバリー率の値を決定してもよい。
【0070】
また、保存していた細胞は、特定のhESおよび/もしくは膵臓前駆細胞またはホルモン分泌細胞のマーカーの存在について検査して、移植における使用に適しているかどうか判定してもよい。この方法は、上記において、上記Kroon et al. 2008に、または米国特許第7,534,608号に、詳細に記載されている。これら文献は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。
【0071】
加えて、またはあるいは、当該細胞を、例えば上記Kroon et al. 2008または米国特許第7,534,608号に記載されているように、細胞の機能性について試験してもよい。これら文献は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。
【0072】
カプセル化デバイス
本明細書に記載の一実施形態は、カプセル化デバイスに関する。このようなデバイスを哺乳動物に植え込んで、種々の疾患および障害を治療することができる。好ましい実施形態では、当該デバイスは、治療用生物学的活性剤および/または細胞をその中に完全にカプセル化することのできる、生体適合性の免疫隔離用デバイスを構成する。例えば、この
ようなデバイスは、治療に有効な量の細胞を以下のような細孔サイズを有する半透膜内に収容していてもよい。すなわち、酸素、ならびに細胞の生存および機能に重要な他の分子はこの半透膜を通って移動できるが、免疫系の細胞はその細孔を通って透過することも横切ることもできないような細孔サイズである。同様に、このようなデバイスは、治療に有効な量の生物学的活性剤、例えば血管新生因子、成長(増殖)因子、ホルモン等、を含有してもよい。
【0073】
本明細書に記載の当該デバイスは、生物学的活性物質の生物体への連続的供給を必要とする病態を治療するために用いることができる。このようなデバイスは、例えば、生物学的活性剤および/もしくは細胞の同種(homogenous)もしくは異種(heterogenous)混合物、または1種類以上の目的生物学的活性物質を産生する細胞を含有するバイオ人工臓器であるか、そう称されることもある。理想的には、当該生物学的活性剤および/または細胞は、少なくとも1枚以上の半透膜により境界されている少なくとも1つの内部スペースまたはカプセル化チャンバー中に、完全にカプセル化または封入する。このような半透膜により、この、カプセル化された目的生物学的活性物質は通過が可能となり(例えば、インスリン、グルカゴン、膵臓ポリペプチド等)、その結果、この活性物質は、当該デバイスの外側かつ患者の体内の標的細胞にとって利用可能なものとなるはずである。好ましい一実施形態では、当該半透膜により、当該対象の体内に天然に存在する栄養素は当該膜を通って通過することができるようになり、その結果、必須栄養素が、このカプセル化された細胞へと供給される。それと同時に、かかる半透膜は、当該患者の細胞、より具体的には免疫系細胞、が、当該デバイスを通過し、当該デバイスに入ること、および当該デバイス中のカプセル化された細胞に害を与えることを妨げるか、または防止する。例えば、糖尿病の場合には、このアプローチにより、当該植え込んだ細胞を免疫系細胞が認識および破壊するのを防止するとともに、グルコースおよび酸素は、インスリン産生細胞を刺激することが可能となり得り、その結果、体の必要に応じてリアルタイムでインスリンが放出されるようになり得る。好ましい一実施形態では、当該半透膜は、当該植え込んだ細胞がカプセル化を免れることを妨げる。
【0074】
好ましいデバイスは、これらに限定されるものではないが、次のうちの1つまたは組み合わせの、望ましい特定の特性を有していてもよい: i)pHおよび温度を含む生理学的条件下にて機能する生体適合性材料で構成される;その例としては、異方性材料、ポリスルホン(PSF)、ナノファイバーマット、ポリイミド、テトラフルオロエチレン/ポリテトラフルオロエチレン(PTFE;テフロン(登録商標)としても知られている)、ePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)、ポリアクリロニトリル、ポリエーテルスルホン、アクリル樹脂、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリアミド、ならびに、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース(HPMC)膜、が挙げられるが、これに限定されない; ii)当該デバイス内にカプセル化された生物学的活性剤および/または細胞に害を与える毒性化合物を放出しない; iii)当該デバイスを越えての生物学的活性剤または巨大分子の分泌または放出を促進する; iv)巨大分子の拡散の、速い動態を促進する; v)当該カプセル化された細胞の長期安定性を促進する; vi)血管新生化を促進する; vii)化学的に不活性な、膜または収容構造で構成される; viii)安定な機械的特性を提供する; ix)構造/収容完全性を維持する(例えば、毒物もしくは有害物および/または細胞の、意図しない漏出を防止する); x)詰め替え可能であり、および/または、洗い流し可能である; xi)機械的に伸張可能(expandable)である; xii)ポートを含有しないか、または、少なくとも1、2、3つ、またはそれ以上のポートを含有する; xiii)移植した細胞を宿主組織から免疫隔離するための手段を提供する; xiv)製作および製造が容易である;ならびに、xv)殺菌することができる。
【0075】
本明細書に記載の当該カプセル化デバイスの実施形態は、上記要素のうちの1つ以上が
達成されている限り、特定の、デバイスのサイズ、形状、デザイン、体積容量、および/または当該カプセル化デバイスを作るために用いられる材料、に限定されないことが意図されているものとする。
【0076】
デバイスデザイン
一実施形態においては、当該カプセル化されるデバイスは、細胞および/または生物学的活性剤の漏出を防止するために当該デバイスの周辺または端部を密封または溶接することによって作られる区画以外に、当該デバイス中に1つ以上の区画を作ることにより改良される。図1は、当該デバイスの一実施形態の概略図の例であるが、当該デバイスは、このデザインのみに拘束されるということは意図されていない。むしろ、当該デザインには、変形、例えば当該分野においてよくある(routine)ものなど、が含まれ得る。いくつかの実施形態においては、デバイスデザインは、カプセル化された生物学的活性剤および/または細胞の種類に応じて、ならびに、その研究のニーズと機能とを満たすべく、変更されてもよい。妥当な任意のサイズまたは形状を有するデバイスを、さらに区画化して、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個、少なくとも13個、少なくとも14個、少なくとも15個、少なくとも16個、少なくとも17個、少なくとも18個、少なくとも19個、少なくとも20個、少なくとも21個、少なくとも22個、少なくとも23個、少なくとも24個、またはそれ以上のチャンバーまたは区画を有するようにしてもよい。複数の区画を作る目的の1つは、それにより、当該カプセル化された細胞と、例えば、当該デバイスを取り囲む間隙スペース(interstitial space)との間での栄養素および酸素の交換のための表面積が増加するという点にある;例えば図1〜11を参照のこと。さらに、大きなクラスター/凝塊の中心に密集した細胞は、栄養素および酸素を得られないか、または、受け取る栄養素および酸素がより少なくなるために、生存することができない可能性があるが、こうしたデザインは、大きな細胞凝集塊(aggregate)もしくはクラスターもしくは凝塊(agglomeration)を妨げるか、または促進しない。したがって、複数のチャンバーまたは区画を含有するデバイスは、当該チャンバー/区画(単数または複数)の全体に細胞を分散させる能力がより優れている。このように、各細胞が栄養素および酸素を受け取る機会がより多くあることによって、細胞生存は促進され、また、細胞死は促進されない。
【0077】
一実施形態は、実質的に楕円形〜長方形の形状のデバイスに関する;図1および6を参照のこと。これらのデバイスは、さらに区画化されるか、または構成を変更され、その結果として、少し平らなデバイスの代わりに、当該デバイスの中心を走り、当該デバイスのそれぞれの半分をいずれも密封し、ひいては、2つの分離したリザーバー、腔、チャンバー、空間、コンテナー、もしくは区画を形成する、溶接継目(weld)もしくは継ぎ目(seam)ができるか、;または、当該溶接継目もしくは継ぎ目は、その溶接継目によって中央で隔てられているかもしくは分割されている、1つのU字形のチャンバーを作り出すが、ただし、この例におけるかかる溶接継目は当該チャンバーを完全に密封するものではない;図1を参照のこと。図1では、2つのポートは、当該チャンバー中への、および当該チャンバーを通っての、細胞の、充填および洗い流しのし易さを提供する。
【0078】
もう1つの実施形態は、当該デバイスの平面を横断する、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上の溶接継目を有する、同様の楕円形または長方形の形状のデバイスに関する。いくつかの局面では、当該溶接継目は、当該デバイスの水平方向の局面または平面を横断するものである。他の局面では、当該溶接継目は、当該デバイスの垂直方向の局面または平面を横断するものである。さらに他の局面では、交差した溶接継目が、水平方向と垂直方向の両方の局面の平面を横断して存在する。いくつかの局面では、当該溶接継目は、互いに平行かつ等距離である。他の局面では、当該溶接継目は、直交する
。さらに他の局面では、当該溶接継目は、平行ではあるが等距離ではない。上記の例に見られるように、このようなデザインは、当該溶接継目が横断して走り当該デバイスの両方の境界線を連結する場合には完全に隔てられる、2、3、4、5、6、7、8、9、10個までもしくはそれより多い数のチャンバーを効率的に形成し得るか、または、互いに入り込んだ(interdigitated)1つの連続したチャンバーを作り出し得る。また、平行な、または、平行かつ等距離である溶接継目とともに、特定の好例のデバイスが図1〜11に記載されているが、さらに他のデバイスは、例えばいずれの溶接継目にも遮断されることのない領域を有する長い溶接継目など、任意の方向または向きの溶接継目で、カスタマイズまたは作製されてもよい。用いる溶接継目の種類および数は、使用する細胞集団または薬剤、および如何なる処理または目的のためであるのかに依存し得る。いくつかの実施形態では、溶接継目は、当該デバイスの見た目を変えるよう配置されてもよい。
【0079】
図1には、本明細書に記載の特徴を具体的に表しているカプセル化デバイスが示されているが、上述したように、これは、単なる1つの例示であり、当業者は、任意のこのようなデバイスにおいて、溶接継目または継ぎ目を用いて異なる配置を形成することにより、目的に適した区画数をカスタマイズできると考えてもよい。図2〜5は、この同じデバイスの水平横断面、垂直横断面および端部横断面を示している。当該デバイスは、完全に封入された内腔を作り出すべく、外周1の周りを全て超音波溶接してもよい。他の、膜を密封するかまたは壁で囲んでデバイス様の小袋を形成する手段、を用いてもよい。当該腔は、中心に位置し、かつ、当該デバイスの長軸に伸びている、内部溶接継目2によってさらに区画化される。この溶接継目は、各区画の厚さまたは深さを効果的に制限する、点3へと伸びているが、当該内腔を完全には分離していない。このアプローチにより、これらの区画の幅および深さはコントロールされ、また、細胞製品の生存およびパフォーマンスを可能にするために必要に応じて変更することができる。さらに、例えばこれらに限定されるものではないが、全体の長さ、全体の幅、外周溶接継目の厚さ、外周溶接継目の幅、区画の長さ、区画の幅、区画の深さ、内部溶接継目の長さ、内部溶接継目の幅、およびポート位置などの、当該デバイスの寸法はすべて、固有の細胞製品および/または生物学的活性剤用に当該デバイスを最適化するために変更してもよいデザイン仕様である。
【0080】
図1では、当該区画には、細胞製品または生物学的活性剤が、2つの個々のポート5、5’を介して装填される。この2つのポートは、外周の超音波溶接の際に当該デバイス中に組み込まれるものである。これらのポートは、当該腔または区画中へと伸びており、装填時に、細胞および/または薬剤を均等に分布させることを目的とするこの区画へのアクセスを可能にする。さらには、これらポート5、5’は、図1に見られるようなU字形の内腔を介して連結されているため、気体は、隣接のポート5’にて装填が行われている間には、もう一方のポート5を介して通気することができ、ひいては、当該デバイス内の圧力の蓄積が防止される。
【0081】
あるいは、もう1つの実施形態においては、本明細書に記載の当該デバイスは、入口または出口のポートを含有しない。すなわちこのデバイスは、ポートレス、であると言われている。このような一実施形態を図6に示す。図7〜9は、実質的に同様なデバイスの水平横断面、垂直横断面および端部横断面を示している。図6〜11に示されているようなポートレスデバイスを作るのに、2段階、3段階、またはそれ以上の段階の溶接プロセスが必要であってもよい。例えば、一局面においては、まず、当該楕円形/長方形の外側の外周6および当該区画化スポット溶接継目7が、超音波溶接によって作製される。このスポット溶接継目7は、図1の内部溶接継目2と同じ様に機能する。このスポット溶接継目7は、当該デバイスを横断する様式で配置され、所定の任意の点における腔または区画8の伸張を周期的に制限する。また、この腔または区画8は、スポット溶接によって作製する。したがって、これら区画8は相互接続されており、また、いずれの腔もしくは区画も、隔離されてはいないかまたは完全には隔てられていない。さらに、当該スポット溶接継
目7の総数、直径および分布は、任意の細胞製品または薬剤の、装填によるダイナミクスおよび増殖速度、に適応するために最適化されてもよいデザインパラメータである。
【0082】
細胞を当該デバイス中に装填するとすぐに、当該外側の外周は、当該デバイスの端部9全域での2回目の超音波溶接により、完全に、かつ無菌的に密封される。この多段階密封プロセスの結果として、完成したデバイスは、完全に封閉されており、かつ、当該外周から伸びるポートを有しない。ポートは外周の領域であり得、また、この領域では最適以下(suboptimal)の超音波溶接によって裂けが生じる可能性があるが、このアプローチであれば、装填プロセスは単純化され、また、当該デバイスの全体的な完全性および安全性が改善される。
【0083】
さらには、上記プロセスは2つの逐次的な段階の形で記載したが、細胞および/または薬剤をカプセル化するための手段は、記載の2段階に限定されるものではなく、細胞のカプセル化に必要な、任意の順序の、任意の数の段階であり、また同時に、当該デバイスの裂けのレベルを減少させるかまたは防止する。
【0084】
もう1つの実施形態において、図10および11は、カプセル化デバイスを示す図であるが、このカプセル化デバイスは、図6に示されているデバイスと実質的に同様であるが、当該スポット溶接継目10は、溶接プロセス中に改変されて、その中心が除去されたものとなっている。当業者は、種々の方法により、例えば、内部先鋭化端部(internal sharpened edge)を有し、溶接後すぐに当該材料を切断することができる、超音波ソノトロード(sonotrode)用いることによって、これを達成することができる。これらの切り抜き溶接継目10には、宿主組織との一体化がより容易であるという利点があるが、これは、当該切り抜き溶接継目10によって当該デバイスの血管新生化が促進され、ひいては酸素依存性の細胞製品および/または薬剤の生存およびパフォーマンスが改善されるということに起因するものである。当該デバイスを介して、新たな脈管構造の容易化および促進をした結果、通常は平面状シートデバイスの中心に向かって制限を受けるX‐Y方向の酸素の拡散性の輸送が改善される。
【0085】
他の実施形態では、当該デバイスデザインは、違う形状であってもよく、例えば、当該細胞カプセル化デバイスは、管または扁平な管(flattened tube)の形をしていてもよく、または、本発明のデバイスに関する上記要件のうちの1つを満たすような他の任意の形状であってもよい。
【0086】
デバイス材料
構成成分となる細胞透過性および不透過性の膜は、Baxter社によるこれまでに上述されたか、またはそうでなければこれまでTheraCyte社製細胞カプセル化デバイスとして参照されたそれらの特許など、当該分野において記載されているが、そうした文献としては例えば、米国特許第6,773,458号;第6,520,997号;第6,156,305号;第6,060,640号;第5,964,804号;第5,964,261号;第5,882,354号;第5,807,406号;第5,800,529号;第5,782,912号;第5,741,330号;第5,733,336号;第5,713,888号;第5,653,756号;第5,593,440号;第5,569,462号;第5,549,675号;第5,545,223号;第5,453,278号;第5,421,923号;第5,344,454号;第5,314,471号;第5,324,518号;第5,219,361号;第5,100,392号;および第5,011,494号、が挙げられる。これら文献は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。
【0087】
一実施形態では、当該カプセル化用デバイスは、生体適合性材料で構成され、この生体
適合性材料の例としては、異方性材料、ポリスルホン(PSF)、ナノファイバーマット、ポリイミド、テトラフルオロエチレン/ポリテトラフルオロエチレン(PTFE;テフロン(登録商標)としても知られている)、ePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)、ポリアクリロニトリル、ポリエーテルスルホン、アクリル樹脂、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリアミド、ならびに、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース(HPMC)膜、が挙げられるが、これに限定されない。これらの、および実質的に同様の膜の種類および構成成分は、いくつか例を挙げるならば、少なくとも、Gore(登録商標)、Phillips Scientific(登録商標)、Zeus(登録商標)、Pall(登録商標)およびDewal(登録商標)により製造されている。
【0088】
固定化デバイス
また、カプセル化された細胞および/または生物学的活性剤を植え込み部位にて維持するため、および、例えばその植え込み部位からの、発現および分泌された治療用ポリペプチドなどの拡散を可能にするために、植え込み部位に固定化される植え込み可能なデバイスも提供する。一局面では、当該植え込み部位は、当該処置の焦点である組織または器官にあるか、またはその近くに近接している。他の局面では、当該デバイスから分泌される薬剤の送達が位置依存性ではなく、かつ、その薬剤の体内分布が当該脈管構造に依存性である場合には、当該デバイスは、離れた位置に植え込んでもよい。
例えば、好ましい一実施形態では、当該生体適合性デバイスは、前腕、または側腹部、または背部、または臀部、または下肢等の皮膚下の皮下に植え込まれ、当該デバイスは、例えば当該デバイスの除去が必要となる時まで、その場所に実質的にとどまる。
【0089】
伸張可能なデバイス
本明細書に記載のデバイスは内表面と外表面とを有するが、ここでは、当該デバイスは、少なくとも1つの空隙(またはリザーバー、または腔、またはコンテナー、または区画)を含有し、また、少なくとも1つの空隙は、当該デバイスの内表面に開かれている。従来型の植え込み可能なデバイスは、一般に、硬質の非伸張可能な生体適合性材料で作製される。本明細書に記載の当該デバイスの一実施形態は、伸張可能な材料で作製する。他の実施形態は、非伸張可能な材料に向けられたものである。当該デバイスが伸張する能力を有するかどうかは、当該デバイスの作製に使用する材料、例えば、伸張可能であるか、または、伸張可能なように、もしくは伸張できる能力を有するようにデザインされていてもよいポリマーシース(polymer sheath)など、に本質的に備わった性質によるものであってもよい。例えば、さらなる細胞を収容するか、または、現存のデバイスを詰め替えるためにサイズが伸張するデバイスが提供される。
【0090】
もう1つの実施形態では、当該植え込み可能なデバイスは、わずかにより硬く、また、非伸張可能ではあるものの、植え込みデバイスの数を増やすことにより細胞または薬剤容量を増加させるための十分な手段が可能となる収納器(housing)またはホルダー(holder)に含有される。例えば、それぞれが前もって装填された細胞または薬剤を含有している、追加のリザーバー、腔、コンテナー、区画、またはカセットを挿入するための手段である。あるいは、当該収納器は、複数のデバイスを含有し、そのうちの一部のみが細胞を装填されているかまたはその中にカプセル化された細胞を有するが、その一方、それ以外のデバイスは空であり、これらのデバイスは、その後のちょうどよい時期に(at a later
period in time)、または、最初の植え込み後の任意の時点で、細胞または薬剤を装填および充填してもよい。このような伸張可能な収納器は、体内への植え込みに適した不活性材料、例えば、哺乳動物への、より具体的にはヒトの体内への植え込みに適した、金属、チタン、チタン合金またはステンレス鋼合金、プラスチック、およびセラミックなど、で構成される。
【0091】
さらにもう1つの実施形態では、このような収納器または植え込みデバイスホルダーに
は、縦軸を有する外側スリーブ、その縦軸に沿った少なくとも1つの通路、ならびに、当該デバイスに協同的に係合するように適応させた遠位端(distal end)およびデバイス係合領域、が含まれる。類比(analogy)として、当該デバイスホルダーは、ある任意の時点で、または長期間にわたって、2つ以上のディスクまたはカセットを収容することのできるディスクホルダーまたはカセットホルダーと同じ様に機能する。さらにもう1つの実施形態では、当該デバイスホルダーは、当該ホルダーの高さを増加させるように適応させた伸張器を含有する。
【0092】
詰め替え可能な細胞カプセル化デバイス
もう1つの実施形態は、適切な治療剤もしくは生物学的活性剤および/または細胞で定期的に充填または洗い流すことのできる、詰め替え可能なリザーバー、腔、コンテナーまたは区画を備えたカプセル化デバイスに関する。かかる充填は、治療に有効な量の、適切な治療剤もしくは生物学的活性剤および/または細胞を、植え込まれたリザーバー、腔、コンテナーまたは区画中へと、例えば、真皮下または皮下に、シリンジまたは、in vivoで、類似のリザーバー、腔、コンテナーもしくは区画を充填するための、当該分野における標準的な他の手段を用いて注入することにより達成されてもよい。
【0093】
カプセル化される細胞
いくつかの実施形態では、当該システムに含まれる細胞密度は、約1×105、1×106細胞/ml〜約1×1010細胞/mL、またはそれ以上である。いくつかの実施形態においては、細胞は、細胞が当該システム中へと導入される/された時点、または細胞が当該システムにて十分に発生および/もしくは成熟する時点、例えばin vivoで機能的細胞へとさらに発生もしくは成熟する必要のある前駆細胞の植え込み時点、で発現される機能のうち少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上を示す機能性を有した状態で、当該システム中で、培養条件下またはin vivoにて、少なくとも1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月または1年以上にわたり、生存する。いくつかの実施形態においては、当該システム中の細胞は、該システム中で増大し、その結果、当該システムのin vivoへの植え込みにあたり細胞密度および/または細胞機能を上昇させる。
【0094】
細胞生存率を上昇させるための方法
細胞および組織のカプセル化/免疫隔離に関する分野への障壁の1つは、細胞および組織をカプセル化するのに用いられる高分子膜を横断する十分な酸素および栄養素輸送の不足であった。この不十分な気体および栄養素交換の結果が、代謝活性の低下と細胞死である。本明細書に記載の実施形態は、先行技術のこの欠点に対処する、植え込み可能な細胞カプセル化デバイスに関する。
【0095】
酸素分圧は、島内で、天然環境にて、単離後、および移植後、種々のポリマーデバイスにおいて、ならびに裸(naked)または遊離(free)で、例えば腎臓被膜(kidney capsule)下で、測定した。体内のあらゆる器官のうち、膵島における酸素分圧が最も高い(37〜46mmHg)。しかしながら、単離にあたり、これらの値は大幅に低下する(14〜19mmHg)。膵島の、血糖正常動物への移植にあたり、この値は、それらの単離された値に比べ、わずかに低下する(9〜15mmHg)。Dionne et al., Trans. Am. Soc. Artf. Intern. Organs. 1989; 35: 739-741;およびCarlsson et al., Diabetes July
1998 47(7): 1027-32、を参照のこと。これら文献の開示内容は、本明細書において明示的に、参照により組み入れられるものとする。これらの研究は、組織を免疫隔離して移植する場合、例えば腎臓被膜などの血管新生化された領域においてでさえ、酸素分圧は、そ
れらの天然状態と比べると低下する(37〜46mmHg)、ということを示している。したがって、こうしたほぼ無酸素の状況により、結果として、特に、細胞が細胞クラスターのコアまたはカプセル化用デバイスのコアに近ければ近いほど、細胞死が引き起こされる可能性がある。
【0096】
当該カプセル化された細胞もしくは組織および/または生物学的活性剤への酸素利用可能性および送達をより良くするべく、本明細書に記載の実施形態は、当該デバイスデザインおよび/または製剤、例えば当該デバイスのアセンブリに使用される膜または材料など、における、例えば全フッ素化物質など、の使用に関する。特に、パーフルオロ有機化合物、例えばパーフルオロカーボン類(PFCs)、は、水よりも数倍高い酸素溶解度を有するので、良好な溶媒である。例えば、正常条件下で、液体PFCsは、40〜55体積%の酸素および100〜150体積%のCO2を溶解する。PFCsは、概して、代用血液および組織保存として用いられる。そのうえ、PFC誘導体は、高密度で、化学的に不活性であり、かつ、水不溶性の化合物であり、代謝することができない。
【0097】
実施形態のもう1つの局面では、強化されたO2送達は、PFCエマルジョン、またはPFCとなんらかのマトリックスとの混合物、によって行われる。当該デバイス構成成分または細胞を、例えば、このエマルジョン/マトリックス中で懸濁または浸漬またはインキュベートして、コーティングを形成してもよいであろう。より高い重量/体積濃度を有するさらなる特定のPFCエマルジョンが酸素送達および保持特性を改善したとのことが知られている。また、PFCsのO2運搬能により生じるより高い酸素分圧のために、O2圧力勾配が生じ、これが、溶解した酸素の当該組織中への拡散を駆動し、それにより当該細胞へのO2送達が強化される。
【0098】
当該PFC物質としては、パーフルオロトリブチルアミン(FC‐43)、パーフルオロデカリン、臭化パーフルオロオクチル、ビス‐パーフルオロブチル‐エテン、または他の適切なPFCs、が挙げられるが、これに限定されない。好ましいPFCsは、典型的には、約60〜約76重量パーセントの炭素結合フッ素(carbon-bonded fluorine)を含有する。当該全フッ素化流体は、単一化合物であってもよいが、通常は、このような化合物からなる混合物である。米国特許第2,500,388号(Simons);第2,519,983号(Simons);第2,594,272号(Kauck et al.);第2,616,927号(Kauck et al.);および第4,788,339号(Moore et al.)、の開示内容は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。また、本明細書に記載の実施形態において有用なPFCsとしては、Encyclopedia of Chemical Technology,
Kirk-Othmer, Third Ed., Vol. 10, pages 874-81, John Wiley & Sons (1980)に記載のもの挙げられる。例えば、有用なPFCとしては、パーフルオロ‐4‐メチルモルホリン、パーフルオロトリエチルアミン、パーフルオロ‐2‐エチルテトラヒドロフラン、パーフルオロ‐2‐ブチルテトラヒドロフラン、パーフルオロペンタン、パーフルオロ‐2‐メチルペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロ‐4‐イソプロピルモルホリン、パーフルオロジブチルエーテル、パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン、およびその混合物、が挙げられる。好ましい不活性フルオロケミカル液体としては、パーフルオロヘキサン、パーフルオロ‐2‐ブチルテトラヒドロフラン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン、およびその混合物が挙げられる。本明細書に記載の実施形態において有用な市販のPFCsとしては、FLUORINERT(商標)流体、例えば、1990 product bulletin #98-0211-5347-7(101.5) NPI, FLUORINERT.TM. fluidsに記載の、FC‐72、FC‐75、FC‐77およびFC‐84など(Minnesota Mining and Manufacturing Company社、ミネソタ州セントポール、から入手可能)、およびその混合物、が挙げられる。
【0099】
in vivo画像化能
一実施形態では、in vivoの当該カプセル化用デバイス中の細胞を画像化または検出するための手段が提供される。画像化は、幹細胞療法において、重要な役割を果たす。例えば、非侵襲型の画像化法は、次のことをするのに用いることができる:すなわち、(1)扱おうとする細胞および/または疾患の、存在、重症度または表現型を判定する;(2)有害な、または標的としていない細胞型および構造、例えば嚢胞または小嚢胞など、の外観について、移し植え細胞治療をモニタリングする;(3)治療の送達をガイドする;(4)疾患の経時変化を追跡し、治療の効果または有効性を評価する;(5)標識を提供し、治療のメカニズムを定義づける;(6)移し植えた細胞の生存および機能を分析および評価する;ならびに、(7)例えば、本明細書に記載の、置き換えおよび/または膵臓前駆細胞の植え込みによる糖尿病の治療のための細胞療法などの細胞療法に関する、移し植え、生存、および局所機能を判定することなどにより、あらゆる細胞治療のプロセスを一般的に容易化する、こと。加えて、細胞療法は、罹病率/死亡率を減少させることを目的とするが、本明細書において記載した、かつ、以下でより詳細に記載する非侵襲性の画像化技術は、例えば予備試験または前臨床研究などにおいて、有用なサロゲートエンドポイントとして役立ち得る。
【0100】
あらゆるin vivo画像化技術は、理想的には、:i)非侵襲性である;ii)確実反復性(reliably repetitive)である;iii)少なくとも3mmの深さまでの組織透過が可能である;iv)100μm以下の、および理想的には50μm以下の分解能を有する;v)画像化がデバイス材料によって減弱(attentuate)されない、例えば、PTFEにより画像化することができる;vi)臨床的に適合性であり、かつ、技術的に面倒もしくは複雑でない;vii)市販されている;viii)ヒト使用用にFDA承認されている;ix)リーズナブルな費用対効果を示す;ならびに、x)妥当な期間(例えば複数秒または複数分)で、細胞を画像化することができる、または、上記性質のいずれかを併せ持っている。
【0101】
現在までのところ、最近の方法としては、共焦点顕微鏡法、二光子顕微鏡法、高周波数超音波、光干渉断層撮影法(OCT)、光音響断層撮影法(PAT)、コンピュータ断層撮影法(CT)、磁気共鳴画像法(MRI)、単一光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)および陽電子放射型断層撮影法(PET)が挙げられるが、これらに限定されない。これら単独またはこれらを併せたものは、移植細胞をモニタリングするための有用な手段を提供し得る。また、こうした技術は時間とともに改良されてゆくことが予想されるが、それぞれの技術がどのように機能するかという本質的な教義(essential tenet)またはその有用性は実質的に同様であることが予想される。ということで、本明細書に記載のin vivo画像化法は、以下に記載の技術に限定されることは意図されていないものの、のちに発見され記述された、本明細書に記載の有用性と同様の有用性を提供するであろう技術は意図している。
【0102】
一実施形態では、使用する画像化技術は、非侵襲性であり、また、三次元断層撮影データを提供し、また、高い時間・空間分解能を有し、また、分子イメージングを可能にし、ならびに、安価および持ち運び可能であるであろう。現在のところ、理想的な単一のモダリティ(modality)は存在していない(これについては以下でより詳細に論じる)が、それぞれが別々の特性を有しており、これらのモダリティが協同して、褒められるような(complimentary)情報を提供することができる。
【0103】
共焦点顕微鏡法は光学的な画像化技術であるが、これは、顕微鏡像のコントラストを増加させる顕微鏡法であり、かつ、空間的な(spatial)ピンホールを用いることで、その焦点面よりも厚い試料における、焦点外の光を除去することにより、三次元画像を再構築することが可能な顕微鏡法である。一度に照射されるのは試料中の1点のみであるため、2Dまたは3Dの画像化には、試料中の規則的なラスター上の走査(すなわち平行走査線
の長方形パターン)が必要である。一般的には、共焦点顕微鏡画像を生じさせるのに、3つの主な走査バリエーションが用いられている。根本的に同等の共焦点動作(fundamentally equivalent confocal operation)は、横方向に平行移動する試料ステージを、固定された照射光ビームとともに用いる(ステージ走査)か、走査光ビームを、固定されたステージとともに用いる(ビーム走査)か、または、回転するNipkowもしくはNipkovディスク中の孔を通って透過される光点のアレイを用いて、試料の走査の際、ステージと光源の両方を固定状態に維持することにより、達成することができる。それぞれの技術には、性能の特徴があり、その技術はその性能の特徴により特殊な共焦点用途に対しては有利となるが、他の用途に対してはその特徴の有用性は制限される、というものである。
【0104】
すべての共焦点顕微鏡は、光学切片と称される高分解能画像を、比較的厚い切片またはホールマウント試料を通るシークエンス(sequence)にて生じさせる技術の能力に頼っている。基本画像ユニットとしてのこの光学切片に基づいて、固定および染色された試料から、単一波長、二波長、三波長または多波長照射モードでデータを収集することができ、種々の照射および標識ストラテジーを用いて収集された画像はそれぞれの他の画像とともにレジスタに入ることとなる。生細胞イメージングおよびタイムラプスシークエンスが可能であり、また、画像のシークエンスに適用されるデジタル画像処理法により、試料のzシリーズおよび三次元表現、ならびに、四次元イメージングとしての3Dデータの時系列表示(time-sequence presentation)が可能となる。現在見出されているかまたは今後見出される他の共焦点顕微鏡も本明細書に記載の実施形態に包含されるため、上記共焦点顕微鏡の使用は制限的なものではない。
【0105】
比較的単純なプロトコルにて取り込ませた場合に、特定の細胞表面マーカーおよび/またはタンパク質ならびに細胞内小器官および細胞内構造を染色することができる、例えばCelltracker、DiI、核染色色素(nuclear vital dye)等の、数多くの蛍光プローブが利用可能である。直接的または間接的に、特定の細胞表面マーカーに特異的に結合する蛍光マーカーは、例えば、望まない細胞型などの同定に特に有用であり得る。好ましい一実施形態では、カプセル化された多能性細胞の存在を調べるためのリアルタイムin vivo画像化法は、例えばhES細胞もしくはヒト胚性性腺細胞(embryonic gonadal cell)または人工多能性幹(IPS)細胞または単為生殖細胞などの多能性幹細胞が原因となって引き起こされる奇形腫形成、を検出するための手段を提供し、ひいてはそれを防止できる可能性を提示する。同様の検出手段により、当該デバイスから逃れたか、または漏出した(または脱カプセル化(un-encapsulated)となる)多能性幹細胞を同定することもできる。そのような細胞の同定は、蛍光標識されたプロモーター遺伝子OCT4およびNANOGを用いて行われてもよい。これらは、多能性幹細胞中で発現がアップレギュレートされる遺伝子である。同様に、核、ゴルジ装置、小胞体およびミトコンドリア、ならびにさらには例えば蛍光標識されたファロイジン(細胞内の重合アクチンを標的とする)などの色素を標識する細胞内蛍光マーカーもある程度市販されており、細胞の運命についての重要な情報が提示され得る。
【0106】
もう1つの実施形態においては、二光子励起蛍光(TPEF)顕微鏡法は、分化をモニタリングするための、逆に言えば、分化しなかったか、または本明細書に記載の当該デバイス中にカプセル化された非常に低いパーセンテージの製品細胞として不注意に植え込まれた多能性幹細胞(例えばhESCまたはIPS細胞または単為生殖細胞)を同定するための、非侵襲性手段である。二光子励起蛍光顕微鏡法は、実質的には、内在性のコントラスト源に頼っているが、第二高調波発生により、例えば繊維状マトリックス分子(fibrillar matrix molecule)などを検出することも可能である。手短に言えば、二光子顕微鏡法は、共焦点顕微鏡法で用いられるのと同様の蛍光発光に頼っている。Rice et al. (2007)では、TPEFを用いることで、生化学的な状態の定量的な差、ならびに分化している
幹細胞および分化していない幹細胞の二次元(2‐D)における形状を明らかにすることができるということが記載された。Rice et al. (2007) J Biomed Opt. 2007 Nov-Dec;12(6)を参照のこと。この文献の開示内容は、明示的に本明細書において参照により組み入れられるものとする。一実施形態では、多能性幹細胞は、蛍光タンパク質、例えば、強化緑色蛍光タンパク質(enhanced green fluorescence protein)、を発現するよう遺伝的に改変されてもよく、また、多能性幹細胞プロモーター(例えば、OCT4もしくはNANOG、または今後同定される任意の他の多能性幹細胞プロモーター)により駆動されてもよい。皮下植え込みよりも深い、すなわち皮膚表面より下の深さの、それら植え込み可能なデバイスについては、二光子が、共焦点顕微鏡法よりも深い、非侵襲性の画像化を提供する。さらには、使用される赤外光は、生細胞に対して、可視光または紫外光曝露よりも害が少ない。これは、蛍光励起に必要な光子エネルギーは焦点面のみで発生し、焦点外の面にある細胞または組織では起こらないためである。
【0107】
さらにもう1つの実施形態では、超音波は、持ち運び可能であり本質的に無害で汎用性が高く、カプセル化された細胞製品および/またはカプセル化された生物学的活性剤の植え込み時にリアルタイムで行うことが可能である。特に、高周波数超音波、例えばVisualSonics社により記載されたものなど、がある。高分解能イメージングは、哺乳動物の縦断的研究における、解剖学的構造および血行動態的機能のin vivoアセスメントを可能にする。例えば、VisualSonics社のVevoは、:(1)個々の対象における疾患の進行および後退の縦断的研究を行える能力;(2)30ミクロンまでの解剖学的および生理学的構造の画像分解能;(3)画像誘導針の穿刺および引抜き(image-guided needle injection and extraction)を可視化する能力;(4)微小循環系および心臓血管系の血流評価(blood flow assessment);(5)ユーザーフレンドリーな機器およびリサーチ駆動型(research-driven)インターフェースを介しての高いスループット;ならびに、(6)包括的な測定およびアノテーションならびにオフラインデータ分析を可能にするオープン・アーキテクチャ、を提供する。微小循環系および心臓血管系の血流を評価できる能力は、細胞の生存率の決定、例えばO2流量およびO2送達の測定、を支援するであろう。
【0108】
もう1つの実施形態では、磁気共鳴画像法(MRI)を利用することにより、造影剤を用いて健康な組織と罹患組織とを識別してもよい。また、もう1つの実施形態では、コンピュータ断層撮影法(CT)またはCTスキャンを用いて、身体の組織および構造の詳細な像を作成してもよい。ここでもまた、造影剤を利用し、造影剤により、比吸収率に起因する異常組織の可視化を容易にする。半減期は短いが、例えばインジウム111(I‐111)オキシンなどの造影剤の用途の1つは、幹細胞を追跡するための使用である。さらに、もう1つの実施形態においては、陽電子放射断層撮影(Positron Emission Tomography;PET)スキャンを用いて、陽電子放出分子(いくつか例を挙げるならば、例えば炭素、窒素および酸素など)からの放出を測定し、価値ある機能情報を得てもよい。さらに別の実施形態では、光干渉断層撮影法(OCT)または光音響断層撮影法(PAT)もまた、当該デバイスの内側および外側の細胞および組織を調べるのに使用してもよい。OCTは、種々の組織の反射率の差を検出するが、一方、PATは、組織が低エネルギーレーザー光への曝露によって加熱される際に生じる超音波を検出する。
【0109】
種々の方法および技術または器具を、単独で、または組み合わせて用いて、in vivoの当該デバイス内側の植え込まれた細胞を可視化、分析、および評価してもよい。これらの技術、および、他の、現在知られていないかまたは今後開発される技術を、本明細書に記載の細胞および/または薬剤のin vivo画像化およびモニタリングが可能となる程度まで利用してもよい。
【0110】
本願全体にわたり、様々な文献が参照されている。本特許が関係する技術水準をより完全に記述するために、これら文献およびそれらの文献内で引用されているそれら参照文献
は、すべて、その開示内容全体が、本明細書により、参照により本願中へとその全体が組み入れられるものとする。
【実施例1】
【0111】
カプセル化された膵臓前駆細胞はin vivoにて機能する
以下の実施例を少なくとも部分的に行い、第一に、生体適合性デバイスおよび医療用/機械的デバイスなどの、膵臓前駆細胞をカプセル化する方法の完全性を判定し、;また、第二に、完全にカプセル化された膵臓前駆細胞が、カプセル化されていない膵臓前駆細胞(コントロール)に比べて生存するかどうか、および、in vivoにて、機能するホルモン分泌細胞へと成熟するかどうか、を判定した。
【0112】
ヒト胚性幹(hES)細胞由来の膵臓細胞系統を生じさせるための方法は、実質的に、METHODS OF PRODUCING PANCREATIC HORMONESという表題の米国特許第7,534,608号、2008年10月4日に提出されたSTEM CELL AGGREGATE SUSPENSION COMPOSITIONS AND METHODS OF DIFFERENTIATION THEREOFという表題の米国出願第12/264,760号;2007年7月5日に提出されたMETHODS OF PRODUCING PANCREATIC HORMONESという表題の米国出願第11/773,944号;2008年6月3日に提出された米国出願第12/132,437号、GROWTH FACTORS FOR PRODUCTION OF DEFINITIVE ENDODERM;2008年4月8日に提出されたMETHODS FOR PURIFYING ENDODERM AND PANCREATIC ENDODERM CELLS DERIVED FROM HUMAN EMBRYONIC STEM CELLSという表題の米国出願第12/107,020号;2007年10月19日に提出されたMETHODS AND COMPOSITIONS FOR FEEDER- FREE PLURIPOTENT STEM CELL MEDIA CONTAINING HUMAN SERUMという表題の米国出願第11/875,057号;2007年2月23日に提出されたCOMPOSITIONS AND METHODS FOR CULTURING DIFFERENTIAL CELLSという表題の米国出願第11/678,487号;ALTERNATIVE COMPOSITIONS & METHODS FOR THE CULTURE OF STEM CELLSという表題の米国特許第7,432,104号;Kroon et al. (2008) Nature Biotechnology 26(4): 443-452;d'Amour et al. 2005 Nat Biotechnol. 23: 1534-41;D'Amour et al. 2006 Nat Biotechnol. 24(11): 1392-401;McLean et al., 2007 Stem Cells 25:29-38、に記載されている通りであり、これらはすべて、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。
【0113】
手短に言えば、未分化のヒト胚性幹(hES)細胞を、20%ノックアウト血清代替物(KnockOut serum replacement;KOSR、GIBCO BRL社製)、1mM非必須アミノ酸(GIBCO BRL社製)、グルタマックス(GIBCO BRL社製)、ペニシリン/ストレプトマイシン(GIBCO BRL社製)、0.55mMの2‐メルカプトエタノール(GIBCO BRL社製)、および4ng/mLの組換えヒトFGF2(R&Dシステムズ社製)を追加した、ならびに、あるいは、10〜20ng/mLのアクチビンA(R&Dシステムズ社製)中に追加した、DMEM/F12(Mediatech社製)中のマウス胚繊維芽細胞フィーダー層(特殊培地)上で維持した。ヒトES細胞培養物を、約1:4〜1:8、1:9、または1:10の分割比で、5〜7日おきに、手作業で継代培養した。接着培養物としてのまたは細胞凝集塊懸濁液中での分化の前に、それらを、PBS+/+(Mg++およびCa++含有、インビトロジェン社製)中で手短に洗浄した。ヒトES細胞株としては、CyT49、CyT203、Cyt25、BG01およびBG02が挙げられるが、これに限定されない。
【0114】
懸濁液にて細胞または細胞集団を培養する、および分化させるための方法は、2007年2月23日に提出された国際出願PCT/US2007/062755、COMPOSITIONS
AND METHODS FOR CULTURING DIFFERENTIAL CELLS、および、2008年11月4日に提出された米国出願第12/264,760号、STEM CELL AGGREGATE SUSPENSION COMPOSITIONS AND METHODS OF DIFFERENTIATION THEREOF、に詳細に記載されている。この、国際
出願PCT/US2007/062755および米国出願第12/264,760号は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。
【0115】
分化培養条件は、上記D'Amour et al. 2006および以下の実施例4に記載されているものと実質的に同様であった。これら文献はいずれも、次のような5段階の分化プロトコルを記載している:ステージ1(胚体内胚葉;第1日目〜第4日目)、ステージ2(原始腸管または前腸内胚葉;第5日目〜第8日目)、ステージ3(後前腸(posterior foregut)またはPdx1陽性内胚葉;第9日目〜第12日目)、ステージ4(膵臓前駆細胞、膵臓上皮および/または内分泌前駆細胞;第13日目〜第15日目)、およびステージ5(ホルモン発現内分泌細胞、第16日目以降)。
【0116】
ステージ4では、レチノイン酸(RA)をステージ3培養物から取り除き、その培養物を、DMEMにB27を加えたもの(1:100、GIBCO社製)で1回洗浄し、次いで、その洗浄液を、4〜8日間、DMEM+1×B27サプリメント単独か、または、以下の因子の、任意の組み合わせ、もしくはいずれか、もしくはすべて、を含有するDMEM+1×B27サプリメントかのいずれかに交換した:ノギン(Noggin)(50ng/ml)、FGF10(50ng/ml)、KGF(25〜50ng/ml)、EGF(25〜50ng/ml)、1〜5%FBS。RAを添加しなかった場合には、30〜100ng/mLのノギン(noggin)(R&Dシステムズ社製)を培地に1〜9日間添加した。あるいは、追加の成長(増殖)因子はステージ4では添加しなかった。また、例えば、Y‐27632、ファスジル、H‐1152P、および、インスリン/トランスフェリン/セレン(ITS)を含む混合物、といった細胞生存剤(cell-survival agent)を当該培養物に添加してもよい。
【0117】
当該膵臓前駆細胞が接着培養物から産生したのか細胞凝集塊懸濁液中で産生したのかに関わらず、哺乳動物中へと移植された場合には、すべての膵臓前駆細胞集団は、in vivoで発生し、機能的内分泌組織へと成熟した。当該hES由来移植細胞によるin vivoでのインスリンの産生については、上述の米国出願および文献、例えば、METHODS OF PRODUCING PANCREATIC HORMONESという表題の米国出願第11/773,944号、および上記Kroon et al. 2008、に記載されている。
【0118】
米国出願第11/773,944号および上記Kroon et al. 2008に記載の細胞組成とは違い、この研究でのこれら膵臓前駆細胞は、in vivoで完全に隔離されるかまたはカプセル化された。膵臓前駆細胞を、IMPLANTATION OF ENCAPSULATED BIOLOGICAL MATERIALS FOR TREATING DISEASESという表題の米国特許第7,427,415号により詳細に記載されている生体適合性のポリエチレングリコール(PEG)を用いてカプセル化した。この米国特許第7,427,415号は、参照により組み入れられるものとする。PEGカプセル化膵臓前駆細胞を、精巣上体脂肪パッド(EFP)下に移植し、;グルコース刺激後の種々の時点における血清C‐ペプチドレベルを決定し;および、このPEGカプセル化外植片に対して免疫組織化学的分析を行った。また、これらの方法は、METHODS OF PRODUCING PANCREATIC HORMONESという表題の米国出願第11/773,944号および上記Kroon et al. 2008においてこれまでに記述されている(データ不掲載)。免疫組織化学的分析により、当該膵臓前駆細胞が、in vivoで成熟可能であり、また、インスリン、グルカゴンおよびソマトスタチンなどのホルモンを発現する細胞を含有していたことが示された。
【0119】
当該膵臓前駆細胞のカプセル化は、医療用または機械的デバイス、例えばTheraCyte社製細胞カプセル化デバイス、を用いても行った。TheraCyte社製細胞カプセル化デバイスに関するすべての言及は、当該メーカー(Theracyte社、カリフォルニア州アーバイン)から直接購入したデバイスに対するものであり、また、米国特
許第6,773,458号;第6,156,305号;第6,060,640号;第5,964,804号;第5,964,261号;第5,882,354号;第5,807,406号;第5,800,529号;第5,782,912号;第5,741,330号;第5,733,336号;第5,713,888号;第5,653,756号;第5,593,440号;第5,569,462号;第5,549,675号;第5,545,223号;第5,453,278号;第5,421,923号;第5,344,454号;第5,314,471号;第5,324,518号;第5,219,361号;第5,100,392号;および第5,011,494号、においてさらに記述されている。これら文献はすべて、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。膵臓前駆細胞を、ex vivoで当該デバイス中に装填したか、または、いったん、当該デバイスをある期間の間植え込んで、当該デバイスの予備血管新生化(prevascularization)をさせておき、その後、当該細胞を、in vivoで、当該デバイスの片側の装填用ポートを介して装填したか、のいずれかを行った。
【0120】
したがって、当該デバイスは、第一膜を含有するが、この第一膜は、細胞に不透過性(0.4ミクロン)であるが、それと同時に、この内膜の中および外の酸素および種々の栄養素の動きを制限しない、例えば、当該内膜の外側からのグルコースが、グルコースに応答してインスリンを分泌し得る成熟膵臓ホルモン分泌細胞を含有する当該カプセル中へと透過することができ、次いで、そのインスリンが当該内膜の外へと透過する、などの膜である。当該デバイスは、また、血管新生化外膜(outer vascularizing membrane)も含有する。
【0121】
デバイスを、なんらかの細胞療法に用いるためには、当該デバイスは、in vivoにおいて当該細胞を完全に含有している(例えば、当該hES由来細胞を宿主から免疫隔離している)必要がある。当該TheraCyte社製デバイスの完全性を判定するために、当該膵臓前駆細胞を含有する無傷の(intact)デバイスを、in vivoにて、当該膜中に孔が穿孔されたデバイスと比較した。当該デバイスへの孔の穿孔は、宿主細胞の侵入を許し、それ故、宿主とグラフトとの間の細胞間接触が確立される。
【0122】
2つの4.5μL TheraCyte社製デバイスは、それらを、外科的に、各オスの重症複合型免疫不全(severe combined immunodeficient;SCID)‐ベージュ(beige;Bg)マウスの、精巣上体脂肪パッド(EFP)下または皮下(SQ)に植え込むことにより、まず、予備血管新生化した。つまり、ある1匹はEFP下に2つのデバイスを受け、別のもう1匹はSQに2つのデバイスを受けたということである。これらの、無傷ではあるが空の(膵臓前駆細胞を含有しない)デバイスは、十分な期間、例えば少なくとも2〜8週間、にわたって当該動物中に残存し、宿主の脈管構造を形成させ、当該デバイスと関係させておいた。8週間後、hES細胞由来の約1.5×106個の膵臓前駆細胞を、当該4つのデバイスのそれぞれへと装填した。当該動物が、当該予備血管新生化されたデバイスを装填されたのと同時に、他の3匹の動物は、同じサイズ(4.5μL)の原形Theracyte社製デバイスがデバイスの当該膜中に穿孔を有するよう改変されたものである、改変Theracyte社製デバイスを2つ植え込まれた。これらの有孔デバイス(1匹あたり2つの有孔デバイス)に、細胞を、ex vivoで、当該有孔デバイスに装填したのとほぼ同じ用量の細胞で装填した。またそれと同時に、2匹のポジティブコントロールについてもこれらの実験と一緒に行い、一方の動物には、EFP下に2つのグラフトを入れ、もう一方の動物ではEFPに1つだけグラフトを入れたが、両動物とも、METHODS OF PRODUCING PANCREATIC HORMONESという表題の米国出願第11/773,944号および上記Kroon et al. 2008に記載されているようにして、ゼルフォーム上の膵臓前駆細胞でグラフトした。上記の実験の結果を表1にまとめる。
【0123】
【表1】

グルコース刺激によるインスリン分泌(GSIS)に関し、0はゼロ時間を指し、;5はグルコース刺激後5分を指し、;30はグルコース刺激後30分を指し、;60はグルコース刺激後60分を指し、;PV TC EFPは、予備血管新生化した、TheraCyte、精巣上体脂肪パッド下;PV TC SQは、予備血管新生化した、TheraCyte、皮下;nPV TC +孔 EFPは、予備血管新生化無しのTheraCyte、有孔、精巣上体脂肪パッド下、;および、EFP GFは、精巣上体脂肪パッド、ゼルフォーム上、を指し、2×1.5Mは、およそ1.5×106個の細胞を含有する2つの構築物、ということを指す。
【0124】
当該膵臓前駆細胞は、in vivoで発生および成熟させておき、また、当該成熟中(now mature)ホルモン分泌細胞のインスリン分泌およびグルコース応答性を、実質的には、METHODS OF PRODUCING PANCREATIC HORMONESという表題の米国出願第11/773,944号および上記Kroon et al. 2008に記載されている通りに測定した。表1を参照のこと。さらに、当該デバイスの完全性を判定するために、何匹かの動物を屠殺し、当該デバイスの免疫組織化学的試験を行った。
【0125】
出願人らは、これまでに、インスリン分泌細胞がin vivoでグルコースに対して
応答性であることを示すには、50pM未満の血清ヒトC‐ペプチドレベルまたは25pM未満のインスリンレベルは無意味(insignificant)である、ということを示した。この同じ基準を、これらの研究で用いた。当該研究の結果を表1に示す。血清C‐ペプチドレベルが他のいずれの動物よりもずっと高かったグルコース刺激後30分時点の動物番号681を除き、8、12および15週間後の原形Theracyte社製デバイスおよび改変Theracyte社製デバイスは、ともに、同程度の血清ヒトC‐ペプチドレベル(動物番号675〜676および679〜681)を有していた。
【0126】
まず当該TheraCyte社製カプセル化用デバイスの完全性に関して、当該原形Theracyte社製デバイスおよび当該改変Theracyte社製デバイス(それぞれ、動物番号は675〜676および679〜681)の標準的なヘマトキシリンおよびエオシン染色を行った。これらデバイスの顕微鏡検査により、当該原形Theracyte社製デバイスが、当該デバイスを取り囲む血管型細胞(vascular type cell)を含む、種々の宿主の脈管構造を有することが示されたが、これらの同様の構造が、当該内部細胞不透過性膜に侵入すること、および、hES由来細胞を含有しているスペース中へと入っていることは観察されなかった。つまり、当該hES由来細胞またはグラフトを収容している当該内部細胞不透過性膜の内側では、宿主の脈管構造は観察されなかったということである。反対に、当該改変Theracyte社製デバイスの顕微鏡検査では、当該デバイスの外側と関係する宿主の脈管構造があっただけでなく、当該有孔内部細胞不透過性膜の内側で観察された脈管構造および血管細胞があった、ということが示された。したがって、当該原形TheraCyte社製デバイスは、hES由来細胞を完全に含有することができ、宿主細胞および組織は、hES由来細胞を収容するスペース内では観察されなかった。
【0127】
まとめると、当該TheraCyte社製デバイスは、in vivoにおいて、hES由来細胞を完全にカプセル化(隔離)することができ、膵臓前駆細胞は、これらのデバイスにおいて、in vivoで、生存し、機能するホルモン分泌細胞へと成熟し得る。
【0128】
当該TheraCyte社製デバイスの完全性を実証することに加えて、本研究では、当該全く無傷のデバイスにより含有hES由来細胞と宿主環境との間での十分な酸素および種々の栄養素の交換が可能となるということ、また、当該膵臓前駆細胞にはin vivoで生存および成熟する能力があるということも実証される。例えば、当該予備血管新生化されたデバイスにおける9週および12週時点での血清ヒトC‐ペプチドレベルは、当該コントロール(動物682および684)と比較した同じ時点におけるレベルほど強くはなかった。しかしながら、第15週目(植え込み後、細胞含有)では、当該予備血管新生化されたデバイスにおける血清ヒトC‐ペプチドレベルは、当該カプセル化されていない(ゼルフォーム)コントロールと同程度であった。
【0129】
さらに、当該原形Theracyte社製(予備血管新生化された)デバイスを有する動物を屠殺し、当該デバイス(または外植片)を摘出した(動物番号675および676)。再び、免疫組織化学を、実質的に、上記Kroon et al. 2008に記載されている通り、摘出したデバイスおよび/または外植片を固定し、かつ、10枚の切片に切って薄いマイクロメートル切片にすることにより行った。切片をPBSで2回洗浄し、その後、PBST(PBS/0.2%(wt/vol)Tween20;サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)で洗浄した。ブロッキングは、24℃で1時間、5%の正常ロバ血清(Jackson Immuno Research Labs社製)/PBSTr(PBS/0.1%(wt/vol)Triton X‐100(Sigma社製))を用いて行った。グラフト用には、一次および二次抗体は、1%BSA(Sigma社製)/PBSTr中に希釈した。一次抗体を4℃で一晩インキュベートし、二次抗体はモイスチャーチャンバー中で約1時間15分インキュベートした。次の一次抗体および希釈度を用いた
;モルモット抗インスリン(INS)、1:500(ダコ社製、A0564);ウサギ抗ソマトスタチン(SST)、1:500(ダコ社製、A0566);ヤギ抗ソマトスタチン(SST)、1:300(Santa Cruz Biotechnology社製、SC‐7819);ヤギ抗グルカゴン(GCG)、1:100(Santa Cruz Biotechnology社製、SC‐7780)。画像化は、共焦点顕微鏡法(ニコン社製、Eclipse 80i、Ci)により行った。
【0130】
当該原形Theracyte社製デバイス/外植片の免疫組織化学的試験では、単一陽性ホルモン性細胞、例えば、GCG、INSおよびSSTを発現する細胞、が明らかに認められた。このデータは、当該移植されたhES由来細胞のグルコース応答性を示している、当該血清ヒトC‐ペプチドのデータを支持するものである。ホルモン分泌細胞の存在は、膵臓前駆細胞が、完全にカプセル化された場合でさえ、in vivoでの生存および成熟の能力を有する、ということを示すものである。
【0131】
上記研究は、宿主細胞によって当該内部細胞不透過性膜を越えて侵入されることなしに、当該hES由来膵臓前駆細胞を完全に含有する、当該原形TheraCyte社製デバイスと当該改変TheraCyte社製デバイスの両方の有効性を明らかに示している。これらの研究はまた、当該デバイスの内部細胞不透過性膜は、細胞に不透過性であるものの、酸素および当該デバイス中でのhES由来膵臓前駆細胞の生存に必要な種々の栄養素には透過性であり、その結果、この前駆細胞は、グルコース応答性でありグルコースに応答して機能するホルモン分泌細胞へとin vivoで成熟することができる、ということも示している。
【0132】
さらには、膵臓系統細胞集団、特に、少なくとも本明細書に記載の膵臓前駆細胞は、当該改良デバイス、例えば、少なくとも図1〜11に記載されているデバイスの中にカプセル化した場合にも、in vivoで成熟および機能するであろうと考えられる。
【実施例2】
【0133】
カプセル化された膵臓前駆細胞は、in vivoにて、宿主とグラフトとの細胞接触の非存在下で機能する
移植された膵臓前駆細胞集団のin vivoにおける機能に宿主とグラフトとの間の細胞間接触が必要であったかどうかを判定するべく、細胞を予備血管新生化無しの細胞カプセル化デバイス中へ装填した。
【0134】
膵臓前駆細胞集団は、実質的に、実施例1に上述した通りに作製した。本研究ではデバイスには、予備血管新生化を行わず、すべてのTheraCyte社製デバイス(4.5μL)に、ex vivoで、各デバイスに、少なくとも1.5×106個の細胞(1.5M)または4.5×106個の細胞(4.5M)を装填した。ex vivoで、1.5M細胞を含有する3つのデバイスを皮下に植え込み(TC SQ 1.5M)、また、4.5×106個の細胞(4.5M)または約15μLを含有する3つのデバイスを皮下に植え込んだ(TC SQ 4.5M)。反対に、また、コントロールとして、カプセル化されていない膵臓前駆細胞を植え込まれた動物についても、当該カプセル化されたが予備血管新生化を行わなかった実験と一緒に行った。3匹のマウスそれぞれの皮下に2つのゼルフォーム構築物を植え込んだが、このゼルフォーム構築物は、約1.9〜2.4×106個の細胞(2つの構築物の合計)、または約4μL/構築物、を装填したものであった。また、2匹のマウスのEFP下に2つのゼルフォーム構築物を植え込んだが、このゼルフォーム構築物は、約1.9〜2.4×106個の細胞(2つの構築物の合計)、または約4μL/構築物、を装填したものであった。上記の実験の結果を表2にまとめる。
【0135】
【表2】

グルコース刺激によるインスリン分泌(GSIS)に関し、0はゼロ時間を指し、;60はグルコース刺激後60分を指し、;SQは皮下のデバイス;SQ GFは皮下のゼルフォーム、EFP GFは、EFP、精巣上体脂肪パッド、ゼルフォーム;1.5Mは、1.5×106個の細胞;4.5は、4.5×106個の細胞;1.9〜2.4Mは、1.9〜2.4×106個の細胞;ndは、検出されず(none detected)、ということを指す。
【0136】
実施例1では、hES由来細胞が、in vivoにおいて、予備血管新生化されたデバイス中で、生存し、成熟し、および機能する、ということが示されたが、表2に基づくならば、予備血管新生化は、細胞生存、増殖および/または成熟に必ずしも必要というわけではない。表2では、カプセル化された膵臓前駆細胞が、カプセル化されていないゼルフォーム上の膵臓前駆細胞と比較されている。後者が、in vivoで機能するホルモン分泌細胞を産生することは、これまで文書により十分な裏付けがされてきた。上記Kroon et al. 2008を参照のこと。事実、グルコース刺激後60分において、当該カプセル化された細胞からの血清C‐ペプチドレベルは、カプセル化されていない細胞から観察された血清C‐ペプチドレベルと同程度であった。動物番号833〜838を動物番号819
〜823と比較のこと。事実、当該カプセル化された細胞は、皮下に植え込んだ場合に、例えば動物番号833〜835(TC SQ 1.5M)を819〜821(SQ 1.9〜2.4M)と比較すると、当該カプセル化されていないものよりもよく機能した。よって、本実施例において明確に示されたように、移植された完全にカプセル化された細胞は、あらゆる、宿主とグラフトとの間の細胞間接触がすべて非存在下であっても生存、増殖および成熟することから、宿主とグラフトとの間の細胞間接触は必ずしも必要ではない。
【0137】
本明細書に記載の方法、組成、およびデバイスは、好ましい実施形態の現在の代表例であり、好例であって、本特許の範囲に対する限定として意図されたものではない。そこでの変更、代替、改変および変形、ならびに他の用途が当業者の心に浮かぶであろうが、それらは本発明の精神内に包含されるものあり、本開示の範囲により定義されているものである。例えば、TheraCyte社製デバイスには4.5μL、20μL、および40μLのサイズがあり、それ故、当業者は、より多い数の細胞を含有することのできるデバイスを採用すれば、上記研究のスケールアップが可能である。さらには、上記Kroon et al. 2008では、ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病マウスの救済における、グラフト植え込み前および後の膵臓前駆細胞の有効性が示されているため、当業者は本明細書に記載の当該カプセル化された細胞を用いて類似性研究を行うことができる。また、特定のhES由来集団を精製または豊富にする方法は、2008年4月8日に提出されたMETHODS FOR PURIFYING ENDODERM AND PANCREATIC ENDODERM CELLS DERIVED FROM HES CELLSという表題の米国出願第12/107,020号において詳細に記載されており、この米国出願第12/107,020号は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられる。よって、当業者は、特異的なhES由来細胞、例えばこれらに限定されるものではないが膵臓前駆細胞、膵臓内分泌前駆細胞および/または内分泌前駆細胞など、を豊富にさせてもよい。
【実施例3】
【0138】
植え込みの際に凍結保存されていた膵臓前駆細胞はin vivoにて発生し、機能する
細胞移植は、利用可能な細胞源の不足およびオペレーション上の問題やロジスティックな問題が障害となっているために、移植用の細胞源が、患者にとって都合のよい時に、制限無く提供される必要性がある。
【0139】
ヒトES細胞を、実質的に、実施例1、2および上記Kroon et al., 2008、ならびに以下表3a〜hに記載されている通りに分化させた。分化第14日目に、当該膵臓前駆細胞を遠心し、次いで、30%Xeno‐free(異種成分を含まない)ノックアウト血清代替物、25mM HEPESおよび10%ジメチルスルホキシド溶液を有するDMEMを含有する凍結培地中に再懸濁した。細胞を凍結バイアルに分注した。細胞を、凍結培地中で、約15分間周囲温度で、次いで、45分間4℃で、平衡化し、次いで、氷中に静置し、および、0℃に平衡化されたプログラムフリーザー(programmed freezer)に入れた。
【0140】
細胞および凍結チャンバーを、2℃/分の速度で−9℃にした。このチャンバーおよび試料をこの温度で約10分間保持し、当該バイアルは手作業で播種された。この試料を−9℃で約10分間保持し、次いで、0.2℃/分の速度で、当該試料が−40℃に達するまで冷却した。当該凍結チャンバーを、引き続き、25℃/分の速度で当該試料が約−150℃に達するまで冷却した。次いで、バイアルに入った細胞(vialed cell)を、液体窒素保存フリーザーの気相へと移動させた。
【0141】
所望の時に、細胞を37℃のウォーターバスに移すことにより、当該バイアルを急速に解凍した。この細胞を、B‐27含有DMEM(1:100)と、KGF+EGF(それ
ぞれ50ng/mL)とを含有する15ml殺菌チューブへと移し、穏やかに混合し、50×gで手短にスピンさせた。上清を除去し、細胞を、25μg/mLで、DNAseをプラスした同じ緩衝液中に再懸濁し、および回転培養にかけた。
【0142】
細胞生存は、膵臓前駆細胞凝集塊を撮像することによって定量化したが、この撮像は、それらを組織培養ウェルの中心へと回旋させた時に、何らかの有意な細胞減少が生じるよりも前の解凍時に素早く、および、細胞塊の減少が完了した解凍後4日目に、行った。当該細胞がこの写真中で占める面積を定量化し、解凍後4日目におけるパーセント生存率として表した。本実施例では、少なくとも52%の生存率を得た。凍結保存後と解凍後の培養膵臓前駆細胞の形態は新鮮な細胞の形態と同一であった。
【0143】
4日間の解凍後培養の後、当該細胞を、実質的に上記に記載した通りにデバイス中に装填し、上記に記載した通りに哺乳動物中へ外科的に植え込んだ。新鮮な膵臓前駆細胞凝集塊について記述された能力と同様に、当該凍結保存細胞も、in vivoにて、発生し、膵臓の、機能するホルモン分泌細胞および腺房細胞へと成熟する能力を有していた。実施例4を参照のこと。
【0144】
したがって、in vitroのhES細胞由来ヒト膵臓前駆細胞の凍結保存は、植え込み後の発生にほとんど影響しないか、全く影響しない。よって、凍結保存は、移植に適したhESC由来膵臓前駆細胞を保存する信頼性の高い方法であるということが分かった。
【実施例4】
【0145】
糖尿病治療用のヒト膵臓前駆細胞を提供する方法
多能性幹細胞培養条件
多能性幹細胞、特に、ES細胞およびIPS細胞、の培養、増殖および維持は、実質的に、上記D'Amour et al. 2005 & 2006およびKroon et al. 2008に記載の通りに行った。DMEM‐F12/1%グルタマックス/1%非必須アミノ酸/1%Pen‐Strep/0.2%b‐メルカプトエタノール、というES基礎培地を用いた。ステージ0またはhES細胞増殖では、種々の成長(増殖)因子ならびに/またはインスリンおよびインスリン様成長因子のレベルを非常に低く保った。フィーダーフリー多能性幹細胞を、低いレベルのヒト血清を用いて培養した。この多能性幹細胞は、Rhoキナーゼ阻害剤Y27632を用いて維持した。同様の結果となる他のRhoキナーゼ阻害剤を使用してもよいとのことは理解されるであろう。当該ES細胞または多能性幹細胞培養条件は、上述した実施例1および2と実質的に同様である。
【0146】
当該ES基礎培地には、約20%ノックアウト血清代替物(Knockout Serum Replacement;KSR)またはXeno‐free(異種成分を含まない;XF)ノックアウト血清代替物がルーチンに含有されていてもよいということは理解されるであろう。
【0147】
hES細胞培養物が、ルーチンに約0ng/mL、約4ng/mlまたは約10ng/mL塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)を含有するということは理解されるであろう。これまでに示された通り、特定の条件下では、低いレベルのアクチビンAは、hES細胞の分化を促進することなく多能性幹細胞の増殖を促進するのを助ける。したがって、多能性幹細胞培養物は、典型的には、約5ng/mL、約10ng/mLまたは約20ng/mLのアクチビンAもしくはB、または他の、同様に生物学的に活性のあるTGF‐β増殖因子ファミリー、例えば、少なくともGDF‐8およびGDF‐11、を含有する。さらに他の多能性幹細胞培養物では、低いレベルの、例えばheregulinなどのErrb2結合リガンドも、例えば約5〜10ng/mLで、hES細胞の増殖を促進する
のを助ける。また、成長(増殖)因子のレベルがhES細胞の増殖およびそれらの多能性を促進し、かつその細胞の分化を促進しないよう低く維持される限りは、様々なまたは低いレベルのbFGF、アクチビンA、B、または他のTGF‐β増殖因子ファミリーメンバー、特にGDF‐8および‐11、ならびに例えばheregulinなどのErrb2結合リガンド、の任意の組み合わせを使用してhES細胞培養物を促進してもよい。本明細書に記載の実施形態では、多能性幹細胞培養物を維持および増殖させることにおいて種々の成長(増殖)因子(いくつかの場合には巨大タンパク質)が記載されているが、大規模製造に基づいた場合のこれらのタンパク質のコストは高いため、法外な費用のかかるものとなってしまう。より大きな成長(増殖)因子タンパク質の代わりにするために特定の低分子を同定および特徴決定することは、それ自体、有益であることがある。そのような分子の1つはノルエピネフリン(NE)であり、これは、SMALL MOLECULES SUPPORTING
PLURIPOTENT CELL GROWTH AND METHODS THEREOFと題され、2009年4月27日に提出された米国出願第61/172,998号に、より詳細に記載されており、また、これは、本明細書において参照によりその全体が組み入れられる。一実施形態では、約5ng/mL、約10ng/mL、約20ng/mL、約30ng/mL、約40ng/mL、約50ng/mL、約60ng/mL、約70ng/mL、約80ng/mL、約90ng/mL、約100ng/mLまたはそれ以上を用いて、多能性幹細胞培養物、例えば、hES培養物またはiPS培養物を維持する。好ましい一実施形態では、hES細胞培養物において、約50ng/mLを用いてもよい。
【0148】
多能性幹細胞の増殖はルーチンに繊維芽細胞フィーダー細胞上で維持される、あるいは、ES細胞は細胞外マトリックスコートされたプレート(コーニング社製)上で培養してもよい、ということは理解されるであろう。さらには、Bodnarら(ジェロン社、米国カリフォルニア州メンロパーク)は、単層の細胞外マトリックス上でhES細胞培養物を成長させることについて記述したが、このマトリックスは、繊維芽細胞フィーダー層を、第6,800,480号の米国特許に溶解することにより得られたものでり、この米国特許第6,800,480号の開示内容は、本明細書において明示的に、参照により組み入れられるものとする。しかしながら、好ましい一実施形態では、フィーダーフリー多能性幹細胞は、例えば、基礎ES細胞培地中、約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1%、約1.2%、約1.4%、約1.6%、約1.8%、約2%〜約10%、またはそれ以上などの、低いレベルのヒト血清を用いて培養する。ヒト血清は当該基礎培地に同時に添加してもよく、それにより、第6,800,480号の米国特許において想定されているような、または、コーニング社によって提供されている、プレコート組織培養ディッシュは全く不要となる。多能性幹細胞培養物の培養、維持および増殖のためのヒト血清の使用については、2007年10月19日に提出されたMETHODS AND COMPOSITIONS FOR FEEDER-FREE PLURIPOTENT STEM CELL MEDIA CONTAINING HUMAN SERUMという表題の米国出願第11/875,057号に、より詳細に記載されている。この米国出願第11/875,057号は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。
【0149】
多能性幹細胞は、また、Rhoキナーゼファミリーの阻害剤、例えば少なくともY27632、の添加により維持してもよい。最近、Y27632は、自己複製特性または多能性に悪影響を及ぼすことなく、分離したヒト多能性幹細胞の生存率およびクローニング効率を高める以外にも、アポトーシスの防止もする、ということが見出された。本明細書に記載の実施形態では、Y27632がその商業的利用可能性のために使用されているが、他のRhoキナーゼ阻害剤を用いてもよく、また、それらもやはり、本発明の範囲内に含まれる。
【0150】
多能性幹細胞の、ステージ1への分化条件
多能性幹細胞の、特にES細胞およびIPS細胞の、方向性を持った分化は、実質的に
、上記D'Amour et al. 2005 & 2006およびKroon et al. 2008ならびに2009年4月22日に提出されたCELL COMPOSITIONS DERIVED FROM DEDIFFERENTIATED REPROGRAMMED CELLSと題された米国出願第61/171,759号を含む上述の関連米国出願、に記載の通りに行った。これら文献は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。
【0151】
分化ステージ1の前に、または当該分化プロセスの第0日目に、多能性幹細胞を、RPMI1640/1%グルタマックス/1%Pen‐Strepおよび実質的に血清非含有ならびに/または約0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)、で構成される培地中で培養した。また、それぞれ、1:5000または1:1000または約0.02%もしくは0.1%のインスリン/トランスフェリン/セレン(ITS)サプリメントを添加した。加えて、TGF‐βスーパーファミリー増殖因子およびWntファミリーメンバーなどの種々の成長(増殖)因子を当該分化培地に添加した。
【0152】
この添加するTGF‐βスーパーファミリー増殖因子としては、アクチビンA、アクチビンB、GDF‐8またはGDF‐11が挙げられるが、これに限定されないとのことは理解されるであろう。いくつかの実施形態においては、Wnt経路アクチベーターを用いてもよい。もう1つの実施形態では、Wnt‐3aを、TGF‐βスーパーファミリー増殖因子のうちの1つとともに使用する。さらに好ましい一実施形態では、約50ng/mLのWnt3aを、約100ng/mLのTGF‐βスーパーファミリーメンバー、例えばアクチビンA、アクチビンBならびにGDF‐8および‐11など、とともに用いる。さらにもう1つの実施形態では、同様のシグナル伝達経路を活性化する低分子を、当該増殖因子と置き換えてもよい。例えば、マウスおよびヒト胚性幹細胞の分化を内胚葉へと方向付ける2つの低分子について記載しているBorowiak, M. et al. (2009)を参照のこと。Borowiak, M. et al. (2009) Cell Stem Cell, 4(4):348-358は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。
【0153】
この多能性細胞を、上記培地条件で少なくとも24時間にわたりインキュベートし、その後、この培地を、RPMI1640/1%グルタマックス/1%Pen‐StrepおよびFBSのわずかな増加、およそ0.2%FBS、を含み、かつ、約100ng/mLのTGF‐βスーパーファミリーメンバーをさらに含有する培地へと交換した。Wntファミリーメンバーは添加しなかった。Wntファミリーメンバーが約24時間後に当該培養物へと添加されてもよいとのことは理解されるであろう。
【0154】
この細胞をこの培地中でさらに24時間培養した。これらの細胞が分化してから合計約48時間後(第0日目〜第2日目)では、当該培養物中の細胞には、分化した胚体内胚葉細胞が含まれる。
【0155】
ステージ1における分化の合計日数は、第0日目(多能性幹細胞)から開始して、約1〜3日であってもよく、好ましくは約1〜2日、およびさらにより好ましくは約2日である、とのことは理解されるであろう。ステージ1分化の後では、当該培養物中の細胞には、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%または約99%の分化した胚体内胚葉細胞が含まれることとなるとのことは理解されるであろう。
【0156】
当該培養物の組成を測定するための方法は、上記関連出願においてこれまでに記述されてきたが、それらは、主に、当該分野において周知のRNAおよびタンパク質アッセイによるものであった。胚体内胚葉細胞は、増加したレベルの、特定のサインとなる細胞表面マーカー(signature cell surface marker)、例えばSOX17およびFOXA2など、を発現するが、増加したレベルのCERおよびCXCR4も発現することがあるが、前
腸内胚葉(またはPDX1陰性前腸)細胞でかなり発現されるHNF4‐αはあまり発現しない。胚体内胚葉細胞は、後のステージ3、4または5の細胞で観察されるマーカー、例えば、すなわち、PDX1陽性前腸内胚葉細胞で発現するPDX1、NNF6、SOX9およびPROX1、または、PDX1陽性膵臓前駆細胞もしくはPDX1/NKX6.1共陽性膵臓前駆細胞で発現するPDX1、NKX6.、PTF1A、CPAおよびcMYC、または、内分泌前駆細胞で発現するNGN3、PAX4、ARXおよびNKX2.2、または、多ホルモン性もしくは単一ホルモン性の膵臓内分泌細胞で発現するINS、GCG、GHRL、SSTもしくはPP、などもあまり発現しない。
【0157】
ステージ2への分化条件
約48時間(約2日間)の多能性幹細胞のDEへの分化の後、当該DE分化培地を、別の培地条件で交換した。ここにいう別の培地条件とは、ヒト前腸内胚葉(PDX1陰性前腸内胚葉)形成またはステージ2の細胞を促進する培地条件である。この細胞培養培地は、RPMI1640/1%グルタマックス/1%Pen‐Strepおよび0.2%FBSまたはFBSのさらなる増加、例えば約2%FBS、を含む。上記ステージ1の培養培地と同様に、それぞれ、約1:5000または1:1000または約0.02%もしくは0.1%のITSサプリメントを添加した。
【0158】
当該DE分化培地には、常にITSが追加されるわけではないとのとは理解されるであろう。
【0159】
しかしながら、DE分化の成長(増殖)因子、例えばTGF‐βスーパーファミリー増殖因子またはWntファミリーメンバーなど、は当該培地には意図的に含まれない。当該培地には、TGF‐βキナーゼ阻害剤を添加した。
【0160】
TGF‐βスーパーファミリーメンバーの排除は適切な前腸内胚葉形成に有益であるので、例えばTGF‐βキナーゼ阻害剤などのTGF‐βスーパーファミリーメンバー阻害剤の使用は、TGF‐βスーパーファミリーメンバーのその作用の効果が実質的に阻害されることを確実にする。これにより、当該培養物において、DE分化の影響がだらだらと残ることなく、DEの前腸内胚葉(PDX1陰性前腸内胚葉)への効率的な直接分化が可能となる。
【0161】
当該培養物には、TGF‐βスーパーファミリーメンバーの代わりに、ケラチノサイト増殖因子(KGF)を添加して、前腸内胚葉形成を促進した。細胞をこの培地中で約24時間インキュベートし、その後、この培地を、今度はTGF‐βキナーゼ阻害剤が当該培養物から排除される以外は実質的に同一の培地に交換した。次いで、これらの細胞を、この培地(TGF‐βキナーゼ阻害剤をマイナスしたもの)中で5日間、培地交換しながらインキュベートした。
【0162】
この細胞を、この培地(TGF‐βキナーゼ阻害剤をマイナスしたもの)中で、ステージ2への約3日間まで、差し支えない程度に培地交換しながらインキュベートししてもよいとのことは理解されるであろう。分化の合計日数は、第0日目および多能性幹細胞で開始して、約3〜5日、好ましくは約4〜5日、および、より好ましくは約5日である。
【0163】
今回の場合も同様に、当該培養物の組成を測定するための方法は、上記関連出願においてこれまでに記述されてきたが、それらは、主に、当該分野において周知のRNAおよびタンパク質アッセイによるものであった。前腸内胚葉細胞またはPDX1陰性前腸内胚葉細胞は、増加したレベルの、特定のサインとなる細胞表面マーカー、例えばSox17、HNF3‐βおよびHNF4‐αなど、を発現する。これは、HNF4‐αをあまり発現しないが当該他の2つのマーカー、Sox17およびHNF3‐βをかなり発現するステ
ージ1のDEとは区別される。PDX1陰性前腸細胞は、後のステージ3、4または5の細胞で観察されるマーカー、例えば、すなわち、PDX1陽性前腸内胚葉細胞で発現するPDX1、NNF6、SOX9およびPROX1、または、PDX1陽性膵臓前駆細胞もしくはPDX1/NKX6.1共陽性膵臓前駆細胞で発現するPDX1、NKX6.1、PTF1A、CPAおよびcMYC、または、内分泌前駆細胞で発現するNGN3、PAX4、ARXおよびNKX2.2、または、多ホルモン性もしくは単一ホルモン性の膵臓内分泌細胞で発現するINS、GCG、GHRL、SSTもしくはPP、などもあまり発現しない。
【0164】
ステージ3への分化条件
ステージ2のPDX1陰性前腸内胚葉細胞からのPDX1陽性前腸内胚葉細胞の分化を促進するために、当該PDX1陰性前腸内胚葉細胞培養培地を交換し、約1または2μMのレチノイン酸(RA)のいずれかを含有し約0.25μMのKAAD‐シルコパミン(Cylcopamine)を含有しかつ約50ng/mLのノギン(Noggin)を含有するかまたは含有しない、DMEM 高グルコース/1%グルタマックス/1%Pen‐Step/1%B27サプリメント、を含む培地中でインキュベートした。あるいは、一部の培養物は、RAを受ける代わりに、1nM〜約3nMの芳香族レチノイド(E)‐4‐[2‐(5,6,7,8‐テトラヒドロ‐5,5,8,8‐テトラメチル‐2‐ナフチレニル)‐1プロペニル]安息香酸(TTNPB)を受けた。さらに他の培養物は、約1mMのドルソモルフィンを受けた。この細胞をこの培養培地中で約3日間インキュベートした。細胞は、約1〜5日、好ましくは2〜4日、およびより好ましくは3日インキュベートしてもよいとのことは理解されるであろう。
【0165】
上記同様、当該培養物の組成を測定するための方法は、上記関連出願においてこれまでに記述されてきたが、それらは、主に、当該分野において周知のRNAおよびタンパク質アッセイによるものであった。PDX1陽性前腸内胚葉細胞は、PDX1の他に、増加したレベルの、特定のサインとなる細胞表面マーカー、例えばSox9、HNF6およびPROX1など、を発現するが、後のステージ4または5の細胞の、他のマーカー、例えば、すなわち、膵臓前駆細胞に見られるPDX1、NKX6.1、PTF1A、PCAおよびcMYC、または、内分泌前駆細胞で発現するNGN3、PAX4、ARXおよびNKX2.2、または、多ホルモン性もしくは単一ホルモン性の膵臓内分泌細胞で発現するINS、GCG、GHRL、SSTもしくはPP、などをあまり発現しない。
【0166】
ステージ4への分化条件
PDX1陽性前腸内胚葉細胞からの、適切に分化するPDX1/NKX6.1共陽性膵臓前駆細胞の分化をさらに促進するするために、当該PDX1陽性前腸内胚葉細胞培養培地を交換し、RAまたは例えばTTNPBなどのレチノイン酸誘導体またはノギン(noggin)またはドルソモルフィンを含有しない以外は、上記ステージ3にあるのと同様の基礎培地、DMEM 高グルコース/1%グルタマックス/1%Pen‐Step/1%B27サプリメント、を含む培地中でインキュベートした。その代わりとして、当該培養物に、約50ng/mLのノギン(Noggin)、KGFおよびFGFを添加した。当該培養物に、約10〜100ng/mLの上皮増殖因子および繊維芽細胞成長因子(EGFおよびFGF)を添加してもよいとのことは理解されるであろう。好ましくは約10〜50ng/mL、または好ましくは約10ng/mLのEGF、および約50ng/mLのFGF、が当該培養物に添加される。あるいは、FGFが当該培養物に添加されなくてもよく、または各約25〜100ng/mLの、ノギン(Noggin)、KGF、FGF、もしくは好ましくは約50ng/mLのノギン(Noggin)、KGFおよびFGFを用いた。当該細胞を、培地交換しながら、この培地中に約4〜5日間保持した。細胞は、差し支えない程度に培地交換しながら、培地中で、約2〜6日、好ましくは3〜5日、およびさらにより好ましくは4〜5日、保持してもよい、とのことは理解されるであろう。
【0167】
上記同様、当該培養物の組成を測定するための方法は、上記関連出願においてこれまでに記述されてきたが、それらは、主に、当該分野において周知のRNAおよびタンパク質アッセイによるものであった。PDX1/NKX6.1共陽性膵臓前駆細胞または内胚葉細胞は、増加したレベルの、特定のサインとなる細胞表面マーカー、例えばPDX1、NKX6.1、PTF1A、CPAおよびcMYCなど、を発現するが、後のステージの細胞に見られる他のマーカー、例えば、内分泌前駆細胞で発現するNGN3、PAX4、ARXおよびNKX2.2、または、多ホルモン性もしくは単一ホルモン性の膵臓内分泌細胞で発現するINS、GCG、GHRL、SSTもしくはPP、などをあまり発現しない。
【0168】
PDX1陽性膵臓前駆細胞の移植および精製
このステージ4の細胞培養培地にて約3〜5日後、当該細胞培養物を、:i)フローサイトメトリー分離および/または精製および分析用;ii)上記にてより詳細に論じた細胞カプセル化デバイスへのカプセル化用;および/または、iii)哺乳動物への移植用、に、調製した。あるいは、ステージ4からの細胞培養物を、フローサイトメトリーおよび/または移植の前に、約1〜2日間、成長(増殖)因子をマイナスした、DMEM 高グルコース/1%グルタマックス/1%Pen‐Step/1%B27サプリメント、の培地中に移したか、または適応させた。
【0169】
膵臓前駆細胞および/または膵臓内分泌細胞または内分泌前駆細胞を、豊富にする、分離する、単離する、および/または精製することに関する詳細な説明は、2008年4月8日に提出されたMETHODS FOR PURIFYING ENDODERM AND PANCREATIC ENDODERM CELLS DERIVED FROM hES CELLSという表題の米国出願第12/107,020号に詳細に記載されている。この米国出願第12/107,020号は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。
【0170】
手短に言えば、PBSで手早く洗浄され、また、TrypLEおよび3%FBS/PBS/1mM EDTA(選別用緩衝液)を用いた実質的に単一な細胞懸濁液中に酵素的に解離された、PDX1陽性膵臓前駆細胞(または膵臓上皮細胞またはPE)を豊富にするためにCD142を用いた。この単一細胞懸濁液を、40〜100μMフィルターに通過させ、次いで、ペレット状にし、選別用緩衝液中で再び洗浄し、再度ペレット状にし、次いで、再び実質的単一細胞懸濁液として選別用緩衝液中に約1×108細胞/mLで再懸濁した。次いで、この再懸濁した細胞を、1×107個の細胞当たり10μlのフィコエリトリン結合抗マウスCD142抗体(BD PHARMIGEN(商標))とともにインキュベートした。この細胞を、体積選別用緩衝液(volume sorting buffer)で少なくとも1回洗浄し、ペレット状にし、実質的単一細胞懸濁液として抗フィコエリトリンマイクロビーズ(Miltenyi Biotec社製)の溶液を含有する選別用緩衝液中に再び再懸濁し、インキュベートした。細胞を少なくとも1回洗浄し、CD142陽性細胞の免疫磁気選別を行った。その、前選別(pre-sort)分画、結合分画および素通り分画をそれぞれ回収し、抗PDX1および/または抗CHGAで対比染色した。
【0171】
当該結合分画は、前選別分画および素通り分画に比べて、CD142陽性細胞およびPDX1陽性膵臓前駆細胞が非常に豊富になった。米国出願第12/107,020号の表9を参照のこと。例えば、当該前選別分画中の約22%PDX1陽性膵臓前駆細胞、および当該素通り分画中の約8%PDX1陽性膵臓前駆細胞に比して、当該抗CD142陽性または結合分画は、約71%のPDX1陽性膵臓前駆細胞を含んでいた。したがって、当該抗CD142陽性または結合分画中のPDX1陽性膵臓前駆細胞は、当該前選別集団に対して、約3倍豊富であった。また、当該CD142陽性または結合分画は、クロモグラニンA(CHGA)陽性細胞が枯渇していたが、これは、複数ホルモン性または単一ホル
モン性の内分泌細胞が選択されなかったか、または、この集団中で豊富になってなかったことを示している。したがって、CD142を正の免疫選択に用いて、PDX1陽性(postiive)膵臓前駆細胞または上皮細胞を豊富にしおよび/または精製してもよく、一方、当該素通り分画(当該抗体カラムに結合しない分画または細胞;すなわちCD142−)は膵臓内分泌型細胞で豊富になる。米国出願第12/107,020号の表10についても参照のこと。
【実施例5】
【0172】
膵臓前駆細胞のin vivo成熟は、糖尿病誘発動物において、低血糖を寛解させる
凍結保存された集団を含む、当該PDX1陽性膵臓前駆細胞培養物またはPDX1陽性膵臓前駆細胞が豊富になった集団が、in vivoで発生し、かつ、グルコース感受性インスリン分泌細胞へと成熟することが十分にできるかどうかを判定するために、当該前駆細胞集団を、上記実施例1および2にて記載したものと同様のカプセル化用デバイス中へ、平滑末端化された(blunted)適切な大きさのゲージの針を有するハミルトンシリンジか、またはメーカーの手順に従った遠心装填法のいずれかを用いて、装填した。
【0173】
デバイスへの細胞の装填前に、当該デバイスは、ヒトを含む哺乳動物における移植および使用に適していると判断された。例えば、当該デバイスは殺菌を含む代表的な品質管理標準に合格している。当該デバイスの膜構成成分が、例えばPTFEなどの疎水性の膜で構成されて、それにより、水をはじくであろうことから、デバイスの殺菌は、典型的には、デバイスをアルコール溶媒(例えば95%ETOH)中で湿らせ、次いでそれを生理食塩水中で繰り返し洗浄することにより達成される。したがって、デバイスは、装填前には湿った状態に保たれていなければならない。理想的には、いかなるデバイス装填法も殺菌条件下で行い、植え込まれるデバイス構成成分のいずれにも、望まない細胞が混入しないようにする。
【0174】
デバイス装填は、ハミルトンシリンジまたはそれと同様のもの、に、平滑末端化された(blunted)適切な大きさのゲージの消毒針(大きさはデバイスのポートの直径に応じて変動する)またはそれと同様のもの、例えば22ゲージの針、をつけたもののいずれかを使用することにより行ってもよい。当該針は、当該適切なハミルトンシリンジに連結され、また、治療に有効な量または用量の細胞を反映する約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100μLまたはそれ以上の細胞容積を含有する。次いで、この針を、当該デバイスの少なくとも1つのポートを通し、かつ当該腔(またはチャンバーまたはリザーバー)を通すが、デバイスの壁には触れないようにして挿入する。針を引き抜きながら、それと同時に、当該シリンジの実質的に全ての内容物をゆっくりと当該デバイス中に出す。
【0175】
あるいは、針を使用して当該デバイスを装填するもう1つの方法は、ポートには挿入されるが腔には入らない針へ当該デバイスポートを連結する、殺菌プラスチックまたはシリコーンポートチューブを用いる方法である。この方法では、シリコーン接着剤をこのシリコーンポートチューブ中に注入し、それによりこのデバイスポートを壁で囲むか、または密封する。次いで、このポートチューブを切断し、漏れまたは裂けがないか調べる。
【0176】
遠心法を用いて当該デバイスを装填するには、治療に有効な量または用量の細胞を含有するある特定の細胞容積をマイクロピペット先端中に吸い上げ、当該先端をデバイスポートに接触させる。また、当該デバイスおよび当該ピペット先端は、より大きな容器、または遠心コニカルチューブに入れてもよく、固定化されてもされなくともよい。特定の容積の培地を、当該ピペット先端中の、およびまた、より大きいコニカルチューブ中の、細胞懸濁液の上に層化させる場合もある。次いで、このコニカルチューブを、約1000rpmで数分間、好ましくは20秒から約2分まで、または細胞が当該デバイス中へと装填さ
れるまで、遠心する。次いで、大いに注意を払ってこの装填用構成成分を除去し、当該装填されたデバイスを確保する。
【0177】
次いで、このデバイス中のカプセル化された細胞を、哺乳動物、例えば、例えばSCID/Bgなどの免疫不全マウス、ラット、より大きな哺乳動物またはヒト患者など、への植え込み用に調製した。このカプセル化された細胞およびデバイスを植え込む方法は、Kroon et al.において当該細胞がゼルフォーム上に植え込まれ、デバイス内に含有されないこと以外は、実質的に、実施例1および2ならびにKroon et al., 2008において上述した方法の通りである。しかしながら、このカプセル化された細胞集団は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるKroon et al. 2008および2007年7月5日に提出されたMETHODS OF PRODUCING PANCREATIC HORMONESと題された米国特許第7,534,608号により記載されたのと同様に、実質的に前駆細胞集団を含有するので、細胞の機能性を決定するためのアッセイは、実質的に同様であった。手短に言えば、このカプセル化された細胞がin vivoにて今度はベータ細胞へと適切に成熟した場合にグルコースに応答してインスリンを分泌するであろう動物に、アルギニンまたはグルコース、好ましくはグルコース、をボーラス注入することによりそれらの動物を約2、3または4週間おきに試験した。要するに、この成熟したベータ細胞は、自然に生じるベータ細胞と変わらず、グルコースに応答性である。血液をこの哺乳動物から回収し、ヒトベータ細胞へと成熟していた当該移植されたヒト前駆細胞から分泌されるヒトC‐ペプチドのレベルを決定した。ヒトC‐ペプチドが動物血清中に早くも移植後4〜6週間で検出された。そして、ヒトC‐ペプチドのレベルは、適切に機能するベータ細胞へと成熟する前駆細胞または内分泌前駆細胞が増えるにつれて、時間とともに、増加する。典型的には、50pMを超えるヒトC‐ペプチドの量を、当該移植された細胞の機能の指標とみなした。これまで、当該PDX1陽性膵臓前駆細胞からの移し植え細胞は、機能する膵臓ホルモン分泌細胞のマーカーおよび生理学的特性を発現する内分泌細胞を忠実に生じる、ということが示された。上記Kroon et al. 2009および2007年7月5日に提出されたMETHODS OF PRODUCING PANCREATIC HORMONESと題された米国出願第11/773,944号、を参照のこと。この文献は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。
【0178】
特定の哺乳動物については、当該デバイス中の前駆細胞が十分に成熟し、グルコースに応答性となるまでの最初のしばらくの間は、免疫抑制が考えられ得る。一部の哺乳動物では、免疫抑制療法は、約1、2、3、4、5、6週間またはそれ以上であってもよく、当該哺乳動物に依存する可能性がある。
【0179】
最後に、Kroon et al. 2008と同様に、このカプセル化された細胞は、内分泌細胞を含有する膵島クラスターへと成熟するのみならず、例えば腺房細胞などの島関連細胞へも発生する。よって、この移植されたPDX1陽性膵臓前駆細胞は、単に単一ホルモン性の内分泌細胞になることになったのみならず、内分泌細胞および腺房細胞の両方を含む、実質的にヒト島に類似のものへと成熟および発生することもできた。また、この移植された細胞の、このin vivoにおける成熟およびグルコース応答性は、その前駆細胞(PDX1/NKX6.1共陽性;内分泌前駆細胞、または特定の多ホルモン性もしくは単一ホルモン性の細胞)がin vitroで培養され、分化し、その後、移植されたものであろうと、または、特定の前駆細胞が、移植前に精製されるかもしくは豊富になったものであろうと、または、それらがそれまでに1回以上のバッチから作製され、また、移植前に、凍結保存され、解凍され、および培養物中に適応したものであろうと、観察された。
【0180】
手短に言えば、移植後、その移植された細胞をin vivoで分化させておき、さらに成熟させておいた。この移植された細胞が、例えば自然に生じるベータ細胞のような正常な生理学的機能を有していたかどうかを判定するために、ヒトC‐ペプチドのレベルを検査することにより、ヒトインスリンのレベルを決定した。ヒトC‐ペプチドは、ヒトプ
ロインスリンから切り出されるかプロセシングされるため、ヒトC‐ペプチドが検出されること、および内因性のマウスC‐ペプチドが検出されないこと、は、インスリン分泌が、グラフトした(外因性の)細胞由来のものであることを示している。
【0181】
この移植された細胞の、グルコース刺激による血清中のヒトC‐ペプチド分泌を、移植後の種々の時点で測定した。グルコース刺激によるヒトC‐ペプチド分泌は、種々の時点で、例えば、少なくとも30、35、40、45、50、55、60、65日およびそれ以上の日において測定してもよいとのことは理解されるであろう。グルコース刺激によるヒトC‐ペプチドレベルは、血清中で、グルコース投与または注入後、早くも約15分で急性的に測定することができた。当該動物から、グルコース投与後約15、30および60分の時間間隔で、血液を採取した。その血清を、メーカー(ベクトン・ディッキンソン社)により記述されているような微小容器(micro-container)中での遠心分離により血球から分離した。超高感度ヒト特異的C‐ペプチドELISAプレート(Alpco社製)を用い、当該血清について、ELISA分析を行った。概して、このカプセル化されて移植された細胞を受ける動物の過半数以上は、ヒトC‐ペプチドの閾値レベル50pMを超えるレベルで示されているように、グルコースに応答した。
【0182】
まとめると、上記デバイスによって完全にカプセル化された細胞は、ひとたび成熟してしまえば、細胞の成熟にも生理学的機能にも影響を及ぼさない。さらには、これら糖尿病誘発動物において低血糖の寛解が観察された。また、この寛解は、上記Kroon et al. (2008)ならびに米国特許第7,534,608号のいずれにも、完全にカプセル化されて移植された細胞またはグラフトが記載されていないにもかかわらず、これら文献においてこれまで記載されているものと実質的に同様のものであった。これらの文献は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。
【0183】
したがって、本明細書に開示されたこれらの実施形態に対し、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、種々の置き換え、変更もしくは最適化、または組み合わせがなされ得るとのことは当業者にとって自明である。
【0184】
本明細書において言及したすべての文献および特許は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられるものとする。
【0185】
添付の特許請求の範囲においておよび本開示の全体にわたり用いられているように、「〜から本質的になる」という句では、この句により列挙されているいずれの要素、および、この列挙されている要素について本開示にて明示されている活性または作用に干渉または寄与しない他の要素に限定されているいずれの要素をも含むことが意味されている。よって、当該「〜から本質的になる」という句は、当該列挙されている要素が必要または必須であるが、他の要素は所望により選択されるものであり、それらが当該列挙されている要素の活性または作用に影響を及ぼすかどうかに応じて存在していてもしていなくてもよい、とのことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物においてin vivoでインスリンを産生するための方法であって、前記方法が、:
(a) in vitroのヒトPDX1陽性膵臓前駆細胞集団を、植え込み可能な半透過性デバイス中へと供給すること;
(b) 前記デバイスを前記細胞前駆細胞集団とともに哺乳動物宿主中へと植え込むこと;ならびに
(c) 前記前駆細胞集団が、腺房細胞と、少なくとも一部がin vivoにてグルコース刺激に応答してインスリンを産生するインスリン分泌細胞である内分泌細胞とを含むように、前記前駆細胞集団を前記デバイスにおいてin vivoで成熟させ、それにより、前記哺乳動物においてin vivoでインスリンを産生させること、
を含む方法。
【請求項2】
PDX1陽性膵臓前駆細胞を腺房細胞または導管細胞(duct cell)へと成熟させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記デバイスを、まず、前記哺乳動物に植え込むことにより予備血管新生化させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記デバイスが、前記デバイス中の前記ヒトPDX1陽性膵臓前駆細胞集団の体積に対する表面積の比を最大化するための複数の溶接継目(weld)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記デバイスが、前記宿主の血管新生化を増加させるための複数の溶接継目を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記デバイスが詰め替え可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記デバイスが伸張可能(expandable)である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記in vivoの細胞集団をモニタリングする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
グルコース刺激後の前記哺乳動物の血清中に、25pMを超えるインスリンが検出可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
グルコース刺激後の前記哺乳動物の血清中に、50pMを超えるヒトC‐ペプチドが検出可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞集団を、前記宿主哺乳動物の1つ以上の細胞から守る、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記哺乳動物が免疫抑制されている、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ヒトPDX1陽性膵臓前駆細胞集団の作製に、細胞集団を解凍することが含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ヒトPDX1陽性膵臓前駆細胞集団の作製に、PDX1/NKX6.1共陽性膵臓前駆細胞の細胞集団を豊富にすることがさらに含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ヒトPDX1陽性膵臓前駆細胞集団の作製に、細胞集団をCD142抗原に結合する抗体に接触させて前記CD142結合細胞を豊富にすることにより、PDX1/NKX6.1共陽性膵臓前駆細胞の細胞集団を豊富にすることがさらに含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
生細胞をカプセル化するための少なくとも1つのチャンバーを含む、哺乳動物宿主中へと植え込むための細胞カプセル化用アセンブリ(cell encapsulating assembly)であって、前記カプセル化用アセンブリをそれにより形成するところの前記アセンブリの周辺端部の第一の接着部、および、前記チャンバーの体積を効果的に減少させるがデバイス表面積を増加させる第二の接着部、を含む、アセンブリ。
【請求項17】
前記アセンブリが半透膜を含む、請求項16に記載のアセンブリ。
【請求項18】
前記アセンブリが、第三または第四の接着部を有し、前記チャンバー体積をさらに減少させる、請求項16に記載のアセンブリ。
【請求項19】
少なくとも1つの装填用ポート(loading port)をさらに含む、請求項16に記載のアセンブリ。
【請求項20】
2つの装填用ポート含む、請求項16に記載のアセンブリ。
【請求項21】
前記アセンブリが生細胞をさらに含む、請求項16に記載のアセンブリ。
【請求項22】
前記生細胞がヒトPDX1陽性膵臓前駆細胞である、請求項21に記載のアセンブリ。
【請求項23】
哺乳動物への移植に適したものである、凍結保存したヒト膵臓前駆細胞集団。
【請求項24】
前記細胞集団の細胞が、前記哺乳動物において島または腺房細胞へと成熟する能力を有する、請求項23に記載の細胞集団。
【請求項25】
前記細胞集団の細胞が、グルコース刺激に応答してインスリンを分泌することができるベータ細胞へと成熟する能力を有する、請求項23に記載の細胞集団。
【請求項26】
前記膵臓前駆細胞集団がPDX1陽性膵臓前駆細胞を含む、請求項23に記載の細胞集団。
【請求項27】
移植に適した細胞のin vitroの集団を保存する方法であって、前記方法が、
a) ヒト膵臓前駆細胞の集団を凍結保存溶液に接触させ、それにより凍結保存用の細胞のin vitroの集団を保存すること;および
b) 前記前駆細胞の凍結保存温度を約0℃未満へと低下させ、それにより、移植に適した膵臓前駆細胞の集団を得ること、
を含む方法。
【請求項28】
前記前駆細胞の凍結保存温度を約−50℃未満へと低下させる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記前駆細胞の凍結保存温度を約−100℃未満へと低下させる、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記前駆細胞の凍結保存温度を約−150℃未満へと低下させる、請求項27に記載の
方法。
【請求項31】
前記前駆細胞の凍結保存温度を約−190℃未満へと低下させる、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
移植に適した細胞のin vitroの集団を提供する方法であって、前記方法が、凍結保存細胞集団の温度を上昇させて、移植に適した膵臓前駆細胞の集団を得ることを含む、方法。
【請求項33】
前記細胞集団を細胞カプセル化アセンブリへと供給する段階をさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記細胞カプセル化アセンブリが請求項16に記載のアセンブリである、請求項33に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2012−508584(P2012−508584A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536536(P2011−536536)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/064459
【国際公開番号】WO2010/057039
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(503431792)ヴィアサイト,インコーポレイテッド (9)
【Fターム(参考)】