説明

ヒト病原体に対する抗菌剤

【課題】高い抗菌活性を有すると共に、抗菌活性が長期間持続可能な、ヒト病原体に対する抗菌剤を提供すること。
【解決手段】ヒバ油、乳化剤、水及びシリカが配合された、ナノ粒子化された、ヒト病原体に対する抗菌剤である。この抗菌剤は、適用部位全体を覆って塗布可能なように、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)ゲル内に保持されている。従って、比較的長期に渡って抗菌活性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子化された、ヒバ油を含む成分が配合された、ヒト病原体に対する抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ヒバから抽出されるヒノキチオールを含む精油(ヒバ油)が、防虫効果等を有することは良く知られていることである。また、最近になって、ヒバ油がヒト病原体の抗菌剤として有効であることが知られるようになった。例えば、特許文献1には、ヒト病原体の抗菌剤の一例として、「エコロジー2」(PCS500)、ヒバ油の乳化物、アルコール及び水等を含む消臭殺菌剤が示されている。
【0003】
また、ごく最近の発表によれば、公共施設における抗菌剤としての使用、例えば院内感染の原因菌などヒト病原体を対象とした抗菌剤として有効使用するため、ヒバ油をナノサイズまで微粒化して、広範囲に噴霧する方法も提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−187939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、噴霧状態で塗布した場合、ヒト病原菌に対して、固体や液体と同等の抗菌活性作用が得られるかも不明である。さらに、これまでは極めて短期間であった抗菌活性の持続性についても、改善が求められている。
【0006】
従って、本発明の目的は、高い抗菌活性を有すると共に、抗菌活性が長期間持続可能なヒト病原体に対する抗菌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題は、ヒバ油、乳化剤、水及びシリカが配合された、ナノ粒子化された、ヒト病原体に対する抗菌剤をゲル内に保持させることによって、適用部位全体に塗布可能なゲル状の抗菌剤が得られると共に、長期間に渡って良好な作用効果が持続する抗菌剤となる。
【0008】
この抗菌剤では、ヒバ油、乳化剤、水及びシリカの各成分が、それぞれ重量パーセントで、10:20:260:10〜30の割合にあるとき、極めて良好な抗菌作用を呈する。
【0009】
また、膨潤性に優れたゲルを得るため、すなわち抗菌剤をゲルに多量に保持させるため、ゲル基材として、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る抗菌剤はゲル状であるので、特定の部位全体を完全に覆うことができるだけでなく、そのナノヒバ油が持つ作用効果をより一層長期間保持することが可能になる。さらにまた、本発明に係る抗菌剤は、特に白癬菌に対して優れた抗菌活性持続性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の抗菌剤は、常温にてヒバ油に乳化剤を加え、ヒバ油をエマルジョン化し、該エマルジョンを市販の超微粒化装置(ナノマイザー)を用いてナノサイズ(10nm〜200nm)の粒子にした後、水とシリカを加えて調製される。このようにして調製されたヒバ油(通称、ナノヒバ油)をヒドロキシプロピルセルロース(HPC)ゲルに含浸させることによって、特定の部位に対して塗布可能なゲル状の抗菌剤とすることができる。
【0012】
ゲルに含浸させる前のヒバ油の調製は、ヒバ油に加える乳化剤の種類と混合比率、微細化装置の条件を変えながら行った。また、調製されたヒバ油製剤の安定性について、分散状態を目視で確認すると共に、エマルションの粒子径を動的光散乱式粒径分布測定装置(LB-550:(株)堀場製作所)で測定することよって評価した。
【0013】
ヒバ油は、青森ヒバ材から水蒸気蒸留で抽出した天然青森ヒバ油(森の精:(株)成田林業土木)を用いた。また、乳化剤は、食品添加物として認可されており、完成した乳化液を水で希釈して使用可能な水中油型エマルション(O/W型)を形成するように、HLB(Hydrophi1e-Lipophi1eBa1ance)値のできるだけ高い親水性の乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステル(DECAGLYN1-L:日光ケミカルズ(株)、HLB:15.5)を選択し使用した。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステルでも、HLB=12.0のDECAGLYN1-0V(日光ケミカルズ(株))では、良好な乳化状態は得られなかった。
【0014】
実験の結果、微細化装置としては、一般的なホモジナイザー(EXCELAUTO:(株)日本糖機製作所)や内部せん断力式分散機(CLM-O.8S:エムテクニック(株))と比較して、超音波式攪拌機(Sonicator(登録商標)5202:(有)大岳製作所)や高圧微粒化装置(ナノマイザー(登録商標)NM2-L200-D10-S:吉田機械興業(株))を用いた場合の方が、粒径の細かい安定した乳化が可能であることが確認できた。
【0015】
以上のようにして調製されたナノヒバ油をHPCゲルに含浸させた。HPCを基材としたゲルは、常温において、溶液濃度が20wt%のペースト状のHPC水溶液、又はHPCと橋かけ助剤とのブレンドにより調製したペースト状HPC/橋かけ助剤水溶液に、γ線を10kGy〜100kGy照射した後、水で洗浄して得ることができる。ここで、橋かけ助剤は、例えばトリコサエチレングリコールジメタクレレート(23G)など、水溶性橋かけ助剤であればよく、制限はない。このようにして得たHPCゲルのゲル分率は、10kGy照射で61%であり、100kGy照射で88%である。なお、ゲルの基材としては、ヒドロキシプロピルセルロース以外に、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどを使用しても良い。
[試験例] 抗菌活性及び持続試験
【0016】
HPC/23Gブレンド溶液(HPCと23Gの濃度は、それぞれ20%と0.2%)に10kGy又は20kGyのγ線照射を施し、HPCゲルを得た。ヒバ油濃度が3.3%の各ナノヒバ油溶液((1)ヒバ油:乳化剤:水:エタノール=10:20:255:15、(2)ヒバ油:乳化剤:水:エタノール:10:1:289:0、(3)ヒバ油:乳化剤:水:シリカ・10:20:260:10)に浸漬したゲルの抗菌活性試験の持続性を検討した。各種異なるナノヒバ油に浸漬したHPCゲルを、液体から取り出した後、約14×14mmの大きさに切り、4時間表面を乾燥させて実験に使用した。3週間に渡りHPCゲルを室温で保管し、1週間毎にTrichophyton(白癬菌)に対する抗菌活性試験を行った。Trichophyton(白癬菌)については1週間サブロー寒天培地で培養後、菌を回収1×107cfu/m1に調製した。調製した菌液はサブロー寒天培地に100μ1添加して延ばしたものに、HPCゲルを載せて室温で一週間培養後、阻止円の測定を行った。
【0017】
図1にシリカ無添加ナノヒバ油及びシリカ添加ナノヒバ油に浸漬したHPCゲルの阻止円の時間経過状態を示す。(A)及び(B)の各図は、γ線を10kGy及び20kGy照射した場合の測定結果を示す。また、図1において、10はシリカ無添加ナノヒバ油を、20はシリカ添加ナノヒバ油、そして30はシリカ及びエタノール共に無添加のナノヒバ油を示している。活性試験の結果、エタノールを含まないナノヒバ油よりもエタノールを含むナノヒバ油に浸漬したHPCゲルの方がより長期に渡る抗菌活性が見られた。しかし、シリカを添加したものでは長期間の持続に加え、最も高い抗菌活性が示された。
【0018】
なお、試験中、ナノヒバ油溶液から取り出し、室温保管したHPCゲルは、1日で乾燥して収縮してしまったが、活性試験の際に寒天培地上に置くことで培地から水分補給し、再び元の大きさに戻る様子が見られた。
【0019】
本発明は以上の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲を逸脱しない限り、本願の請求項に含まれる。例えば、本願の実施例においては、ゲル化に際してγ線を用いているが、これは電子線等の他の電離放射線でも良いことは明らかであろう。さらに、上述の試験では、ヒト病原菌の一例として、Trichophyton(白癬菌)を選択し、抗菌活性試験を行っているが、ナノヒバ油が効力を有する病原菌であれば、本願発明は白癬菌以外の他のヒト病原菌に対しても有効であることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、ヒト病原菌に対して有効なナノヒバ油をゲルに含浸させ、ナノヒバ油が持つ作用効果をより一層長期間保持させることができるため、皮膚病の部位に貼付するタイプの除菌剤だけでなく、例えば、靴用除菌剤として、帰宅後に靴の中に入れて置くことで、次の日の朝までに靴内を除菌することも可能である。また、皮膚病に対する除菌効果があることから、風呂やプールなどの出入口の敷マットなどにも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】シリカ無添加ナノヒバ油及びシリカ添加ナノヒバ油に浸漬したHPCゲルの阻止円の時間経過状態を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
10:シリカ無添加ナノヒバ油
20:シリカ添加ナノヒバ油
30:シリカ及びエタノールの両者無添加ナノヒバ油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒバ油、乳化剤、水及びシリカが配合された、ナノ粒子化された抗菌剤であって、該抗菌剤がゲル内に保持されていることを特徴とするヒト病原体に対する抗菌剤。
【請求項2】
請求項1に記載の抗菌剤において、ヒバ油、乳化剤、水及びシリカが、それぞれ重量パーセントで、10:20:260:10〜30の割合で配合されていることを特徴とするヒト病原体に対する抗菌剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抗菌剤において、前記ゲルが、水溶性の天然多糖類誘導体の中から選択される生分解性高分子ゲルであることを特徴とするヒト病原体に対する抗菌剤。
【請求項4】
請求項3に記載の抗菌剤において、前記生分解性高分子ゲルがヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とするヒト病原体に対する抗菌剤。
【請求項5】
請求項3に記載の抗菌剤において、前記生分解性高分子ゲルがカルボキシメチルセルロースであることを特徴とするヒト病原体に対する抗菌剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−1221(P2010−1221A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158859(P2008−158859)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(309015019)地方独立行政法人青森県産業技術センター (52)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100074631
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 幸彦
【Fターム(参考)】