説明

ヒト細胞系における組換えヒトタンパク質の無血清安定トランスフェクションおよび製造

本発明は、目的とするタンパク質をコードする遺伝子を含有する特異的ベクターで無血清条件下において安定にトランスフェクトされた不死化ヒト細胞系の無血清製造のための改良された方法に関する。さらに、本発明は、該方法により得られる生産細胞系、該生産細胞系を使用する目的とするタンパク質の製造方法、および目的とする遺伝子自体を含有する特異的ベクターに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的とするタンパク質をコードする遺伝子を含有する特異的ベクターで無血清条件下において安定にトランスフェクトされた不死化ヒト細胞系の無血清製造のための改良された方法に関する。さらに、本発明は、該方法により得られる生産細胞系、該生産細胞系を使用する目的とするタンパク質の製造方法、および目的とする遺伝子自体を含有する特異的ベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトタンパク質の組換え製造は一般に、安定にトランスフェクトされた真核生物(好ましくは哺乳類)細胞系の培養、および培養ブロスからの該タンパク質の単離により行われる。組換えタンパク質が医薬用に意図される場合には、ヒト細胞により保持され発現されうる感染因子が同時精製される危険性を排除するために非ヒト細胞系を使用することが長年にわたり一般的な慣例であった。
【0003】
ヒト血液凝固因子VIIIのようないくつかのヒトタンパク質の製造においては、非ヒト細胞系の使用は或る欠点(例えば、培地内への発現タンパク質の不十分な分泌レベル)を伴うことが見出された。これはタンパク質の翻訳および修飾のための細胞内経路に関する異なるタイプの哺乳類細胞における若干の相違によるものである可能性があり、これは発現ポリペプチドの生物活性にも影響を及ぼしうると考えられている。これとは別に、非ヒト発現系から精製された治療用タンパク質は、患者において抗原反応を引き起こしうる細胞成分で汚染される懸念があった。また、非ヒト発現系において組換え製造されたヒトタンパク質上で見出される非ヒトグリコシル化パターンも懸念材料であった。これは患者における抗原反応の可能性を増大させると考えられている。さらに、凝固因子のような血液タンパク質の生物学的安定性および効力はそれらのN−グリコシル化パターンにより相当に影響される。特に末梢および末端単糖が重要である。なぜなら、それらは、それらの分解を引き起こす細胞からの特異的受容体により検出されるからである。例えば凝固因子は末端単糖としてシアル酸残基を含有する。糖タンパク質のアンテナにおけるシアル酸の組成の修飾は不均一なグリコシル化パターンを招きうる。したがって、生物学的安定性および効力は、修飾が生じると決定的な影響を受ける。したがって、ヒト細胞系に対する非ヒト生産細胞系からのグリコシル化の影響を評価することが組換え凝固因子の製造における重要な考慮事項である。一方、ウイルス転写アクチベータータンパク質を発現する安定にトランスフェクトされた不死化哺乳類細胞系を含む、所望の遺伝子の高レベルのタンパク質発現のための一般的な方法が利用可能となった(例えば、米国特許第5,712,119号)。これらの細胞系は、目的とする遺伝子を定めるDNA配列に対して適当なウイルス転写プロモーターが作動的に連結されたベクター構築物で形質転換されうる。該細胞系により付与される転写アクチベータータンパク質はウイルス転写プロモーターを活性化して、目的とする遺伝子の発現を開始させる。
【0004】
細胞系と同様に重要なのは、固定化された生産細胞系内への組換え遺伝子の導入に使用されるベクターである。哺乳類タンパク質の翻訳には多種多様なベクターが利用される[例えば、Witsch−Baumgartner,Mら,Am.J.Genet(2000).66,402−412はDHCR7 cDNAをpCI−neo哺乳類発現ベクター内にクローニングし、HEK 293細胞において発現させた;McGarvey,T.W.ら,Oncogene(2001)20,1041−1051はTEREl遺伝子をpTARGET哺乳類発現ベクター内にクローニングし、ヒト膀胱移行上皮癌において発現させた;そして、Lin Linら,J Biol Chem(2002)277(44)41872−8はAchR遺伝子を哺乳類細胞発現ベクターpEF6/myc−Hisベクター内にクローニングし、それを293細胞において発現させた]。組換えタンパク質を過剰発現させうることが判明している最近開発された非常に有効なベクターは、InvitrogenのpcDNA(商標)3.1と称されるベクターである。Li J.ら,Life Sci.2004 Apr 16;74(22):2693−705は、HEK293細胞においてpcDNA3.1を使用してヒストンデアセチラーゼを過剰発現させることに成功している。該細胞は血清の存在下で安定にトランスフェクトされ培養された。Yuan−Gen Fu.ら,(World J Gastroenterol 2003)は、pcDNA3.1(+)に基づく真核生物ベクターを使用して、血清の存在下で該ベクターで一過性にトランスフェクトされ培養された胃癌細胞系SGC7901上で、組換えカスパーゼ3を製造した。Ma H.ら,Invest Ophthalmol Vis Sci.2000 Dec;41(13):4232−9は、COS−7を細胞系として使用してpcDNA3.1ベクター内にサブクローニングされたLp82およびLp82関連タンパク質を発現させて、安定なタンパク質の欠如および酵素活性の喪失を調べた。該細胞は培地内の血清の存在下で一過性にトランスフェクトされ培養された。チオレドキシンの過剰発現は肺内皮細胞におけるNOシンターゼ活性のNO誘導性低下を妨げる。Zhang J.ら,Am J Physiol.1998 Aug;275(2 Pt 1):L288−93は、培養ブタ肺動脈内皮細胞における、pcDNA3.1ベクターでのこれらの細胞の一過性トランスフェクションによるチオレドキシン遺伝子の過剰発現を開示している。該トランスフェクト化細胞は、血清で補足された培地内で培養された。Shinki T.ら,Proc Natl.Acad.Sci.USA 1997 Nov 25;94(24):12920−5は、ラット腎ミトコンドリアシトクロムP450混合機能オキシダーゼ25−ヒドロキシビタミンD3−1アルファ−ヒドロキシラーゼの完全長cDNAをビタミンD欠損ラット腎cDNAと比較し、それを哺乳類発現ベクターpcDNA3.1(+)内にサブクローニングし、COS−7形質転換サル腎細胞内に該ベクターを一過性にトランスフェクトした。該トランスフェクト化細胞は、血清で補足された培地内で培養された。Zhangら,Acta Biochimica et Biophysica Sinica 2004,36(10):707−712は、ヒト化520C9一本鎖Fv抗体/ヒトインターロイキン2融合タンパク質をコードする遺伝子を含有するpcDNAでのヒト胎児腎293細胞のトランスフェクションを開示している。該細胞を無血清SFMII培地内で3日間培養した後、上清が採取された。得られた融合タンパク質はp185(乳癌における抗体療法のための有望な標的である)に対する結合特異性を有し、IL−2の重要な免疫刺激活性を保有していた。Chen,J.Z.ら,Int J Biochem Cell Biol.2004 Aug;36(8):1554−61は、pcDNA−Bimアルファ3でトランスフェクトされたHEK293細胞を使用して、アポトーシスのための必須因子であるBimタンパク質を過剰発現させた。
【0005】
医薬用の組換えタンパク質の安全性を向上させるためのもう1つの手段は培養プロセスにおける無血清培地の使用である。なぜなら、血清の使用は、安全性を損なう要因の1つであり、望ましくない汚染源となるからである。そのような無血清培養は、製造プロセスの収率が一般に有意に低下するという欠点を有する。もう1つの安全性における懸念は、実施における常法としての、宿主細胞をトランスフェクトする際の血清の使用である。なぜなら、トランスフェクション法における血清の使用は細胞内への望ましくない生物学的物質の取り込みを引き起こすことがあり、それが後に、該製造プロセスにおいて該細胞により発現された産物を汚染しうるからである。組換えタンパク質の製造のための利用可能な方法のいくつか(前記のものを含む)は無血清培養を可能にするが、ヒト細胞の安定な無血清トランスフェクションは公知ではない。第19回ESACT Meeting(Harrogate,2005年6月5日〜8日)において、CHO細胞の無血清トランスフェクションがKuchenbeckerらにより示唆された。このように、ヒト組換えタンパク質を製造するための有効かつ安全な方法を開発することが望ましい。
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
驚くべきことに、目的とするタンパク質をコードする遺伝子で無血清条件下において安定にトランスフェクトされた不死化ヒト細胞系から未汚染ヒトタンパク質(すなわち、望ましくないタンパク質を副産物として含有しないタンパク質調製物)が良好な収率で得られうることが見出された。より詳しくは、本発明は、
(1)ヒト標的タンパク質またはその誘導体もしくは突然変異体をコードする遺伝子、プロモーターおよびウシ成長ホルモンポリアデニル化(ポリA)シグナル(該プロモーターおよびポリAシグナルは、それぞれ、該ヒト標的タンパク質をコードする遺伝子の5’および3’末端に連結されている)を含む核酸配列で安定にトランスフェクトされた不死化ヒト細胞系の製造方法であって、該核酸配列および複製起点を含むトランスフェクションベクターで無血清条件下において不死化ヒト宿主細胞系をトランスフェクトすることを含んでなる製造方法;
(2)トランスフェクションベクターが、配列番号4または5の配列を有するpcDNA3.1ベクターに由来する、前記(1)記載の製造方法;
(3)ヒト細胞系が、293細胞(ATCC CRL−1573;DSM ACC 305)、Freestyle 293細胞(以下、「293F」細胞と称する;Invitrogen R79007)および293T細胞(ATCC CRL 11268;DSM ACC 2494)から選ばれるヒト胎児腎細胞である、前記(1)または(2)記載の製造方法;
(4)ヒトタンパク質が血液凝固因子IX(例えば、配列番号1のbp939−2324によりコードされるもの)、アルファ−1−アンチトリプシン(以下、「A1AT」と称する;例えば、配列番号2のbp913−2259によりコードされるもの)、血液凝固因子VIII(配列番号8に示すwt因子VIII、または配列番号3のbp783−5162によりコードされるBドメイン欠失因子VIII突然変異体を含む)、因子VII/VIIa(その配列番号13および14によりコードされるaおよびb形態を含む)、G−CSF(それぞれ配列番号15、16および17に示すG−CSF a、bおよびc形態を含む)またはフォンビルブラント因子(vWF)である、前記(1)〜(3)のいずれか1項記載の製造方法;
(5)前記(1)および(2)のいずれか1項記載のヒトタンパク質をコードする遺伝子と複製起点とを含むトランスフェクションベクター(好ましくは、該トランスフェクションベクターは、前記(4)記載のヒトタンパク質の遺伝子を含むpcDNA3.1ベクターである);
(6)前記(1)〜(5)のいずれか1項記載の製造方法により入手可能な不死化ヒト細胞系、特に、前記(3)または(4)記載のヒト細胞系;ならびに
(7)前記(6)記載の不死化ヒト細胞系を、好ましくは無血清条件下において培養することを含む、ヒト標的タンパク質またはその誘導体もしくは突然変異体の組換え製造のための製造方法を提供する。
【0007】
発明の詳細な説明
本発明は、完全な無血清および無タンパク質条件下のヒト不死化細胞系におけるヒト組換えタンパク質のトランスフェクションおよび製造のための改良された方法を提供する。それはヒトタンパク質の無血清トランスフェクションおよび製造を可能にする。該方法は、ヒト病原体での組換えタンパク質の汚染の危険性を減少させるウイルス不活性化法を含む1以上の精製工程を含みうる。また、ヒト細胞系において産生されたヒト組換えタンパク質はヒトグリコシル化パターンを含有するため、それらは、それらの天然グリコシル化パターンを欠くヒトタンパク質と比べて分解を受けにくい。要するに、本発明の方法は先行技術に対する種々の利点をもたらす。
【0008】
特に、本発明の実施形態(7)の方法は、安全かつ高活性なヒト組換え血液凝固因子(例えば、ヒトにおける血友病BおよびAの治療用の因子IXおよびFVIII)を製造するための有効な系を提供する。該方法はそれらの野生型タンパク質の発現に適しているが、それらのタンパク質の突然変異体(例えば、タンパク質分解不活性化に対して格別に安定であり、したがって過酷なウイルス不活性化プロトコールに付されうる因子VIII)にも使用されうる。
【0009】
本発明の実施形態(7)の好ましい態様の方法は、ヒト血液タンパク質をコードするDNA配列の5’末端に連結されたプロモーターを有するベクターを含有する不死化細胞の無血清培養を含む。該ヒト血液タンパク質をコードするDNA配列の3’末端は、ウシ成長ホルモンポリAシグナルに機能的に連結されている。本発明においては、不死化ヒト細胞系は該ベクターで安定にトランスフェクトされる。安定なトランスフェクションを検出するためには、該ベクターは、該ヒト血液タンパク質の遺伝子に加えて更に、プロモーターに機能的に連結された選択マーカー系に関する少なくとも1つの遺伝子を含みうる。
【0010】
適当なプロモーターには、ウイルスプロモーター、ハウスキーピング遺伝子プロモーター、組織特異的プロモーターなどが含まれる。該プロモーターがウイルスプロモーターである場合、該細胞系は、該プロモーターの対応ウイルス転写アクチベータータンパク質を含まない。しかし、該細胞は、該ヒト血液タンパク質をコードする遺伝子に機能的に連結されていない別のウイルスプロモーターを相補するT抗原のようなウイルス転写アクチベータータンパク質を含みうる。好ましくは、該プロモーターはSV40プロモーター、CMVプロモーター、EF−1アルファプロモーター、HSV TKプロモーターなどであり、最も好ましくは、該プロモーターはCMVプロモーター、すなわち、サイトメガロウイルスの構成的主要最初期プロモーターである。
【0011】
「トランスフェクション」または「トランスフェクト」なる表現は、タンパク質の発現を可能にする条件下の、細胞内への核酸の導入を意味する。一般に、該核酸はDNA配列であり、特に、適当なプロモーター下、目的とする遺伝子(その発現は該プロモーターにより制御される)を含有するベクターまたはプラスミドである。しかし、トランスフェクションなる語はRNAトランスフェクションをも含む。種々のトランスフェクション法が当業者によく知られており、担体分子、例えばカチオン性脂質、例えばDOTAP(Roche)、DOSPER(Roche)、Fugene(Roche)、Transfectam(登録商標)(Promega)、TransFast(商標)(Promega)およびTfx(商標)(Promega)、Lipofectamine(Invitrogene)および293fectin(商標)(Invitrogene)、またはリン酸カルシウムおよびDEAEデキストランを使用するトランスフェクション法が挙げられる。力ずくのトランスフェクション技術も当業者によく知られている。これらには、エレクトロポレーション、核酸で被覆された担体粒子の射入(遺伝子銃)およびマイクロインジェクションが含まれる。最後に、ウイルスベクターを使用する核酸トランスフェクションも当業者によく知られている。「一過性にトランスフェクト」または「一過性トランスフェクション」は、導入された核酸のエピソーム性による、目的とする遺伝子の一過性の、すなわち非永久的な発現を意味する。道理上、RNAトランスフェクションまたは細胞溶解ウイルスは一過性発現のみに使用されうる。DNA(プラスミドまたはベクター)を含むエピソーム核酸は2〜4日後に細胞により分解され、したがって、その時点で、目的とする遺伝子の発現は終結する。
【0012】
「安定にトランスフェクト」または「安定トランスフェクション」は、細胞のゲノム内へのトランスフェクト化DNAの組込みによる、目的とする遺伝子の永久的発現を意味する。すべてでなくともほとんどの細胞は、非常に低率でではあるがエピソームDNAをそれらのゲノム内に取り込む能力を有する。しかし、該トランスフェクト化DNAが組込まれた細胞を増殖させるために、工夫された選択法が用いられる。そのためには、該ベクターは例えばヒグロマイシンのような選択マーカーに関する少なくとも1つの遺伝子を含有する必要がある。
【0013】
本明細書においては、「安定トランスフェクション」または「安定にトランスフェクト」なる語は、自律複製可能であり従って外来遺伝子の長期発現に使用されうるプラスミドを含有する細胞を表すためにも用いられる。細胞を「安定にトランスフェクト」するのに適用可能な1つの特定の遺伝子導入系は組換えレトロウイルスに基づくものである。プロウイルスDNAの組込みはレトロウイルス複製サイクルにおける必須工程であるため、組換えレトロウイルスによる細胞の感染は、目的とする遺伝子が組込まれて安定にトランスフェクトされた非常に高い比率の細胞を与えるであろう。
【0014】
「培養」なる語は、細胞/細胞系の増殖および遺伝子発現を支持する培地を含有する容器内でのインビトロでの細胞/細胞系の維持を意味する。したがって、培養は、発現された分泌可能なタンパク質の、培地内の蓄積をもたらす。培地は通常、pHを安定化する補足物質ならびにアミノ酸、脂質、微量元素、ビタミンおよび他の成長増進成分を含有する。
【0015】
「無血清」、「無血清トランスフェクション」または「無血清培養」は、いずれの種類の血清をも除く適当な補足物質を含有する培地内での細胞のトランスフェクションおよび培養を意味する。補足物質は、アミノ酸、脂質、微量元素、ビタミンおよび他の成長増進成分から選ばれる。しばしば、「無血清」培養条件は、より一層厳密(ストリンジェント)であり、いずれの外因性タンパク質も添加されない又は未だ培地内に含まれていない場合には、該培地は「無タンパク質」と称される。
【0016】
「不死化ヒト細胞系」なる語は、生物から直接的に採取された初代細胞ではないヒト細胞を意味する。特に、それは、適当な新鮮培地および空間があってヘイフリック限界から逸脱している限り無限に増殖する永久樹立細胞系を意味する。
【0017】
「濃縮」なる語は、培地からの産生組換えタンパク質の濃縮を意味する。本質的に、それはタンパク質の濃縮をももたらす。限外濾過を含む濾過、遠心分離、沈殿などのような濃縮技術が当業者によく知られている。濃縮は必ずしも純粋なタンパク質を与えるものではなく、単離されたタンパク質は尚も非タンパク質およびタンパク質汚染物を含みうる。追加的な精製工程が必要となる場合が多い。
【0018】
「精製」なる語は、実質的に純粋(少なくとも60%純粋、好ましくは少なくとも75%純粋、より好ましくは90%以上純粋、最も好ましくは99.9%以上純粋)なヒト組換えタンパク質を得るために単離タンパク質が付される工程を意味する。純度は適当な方法により測定されうる。免疫アフィニティークロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、タンパク質沈殿、バッファー交換、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、電気泳動のような、組換えタンパク質の精製に利用可能な技術が当業者によく知られている。また、精製は、ウイルス不活性化工程、例えば、プロテアーゼインヒビターなどの化学物質の存在下または非存在下の乾燥または液体状態での溶媒界面活性剤(SD)処理および/または加熱処理を含みうる。さらに、精製は、プリオン除去のための1以上の工程、例えばタンパク質沈殿、濾過、クロマトグラフィー工程、特にアフィニティークロマトグラフィー工程を含みうる(例えば、“Partitioning of TSE infectivity during ethanol fractionation of human plasma”,Gregori,L.ら,Biologicals 32 1−10;2(2004);および“Removal of TSE agents from blood products”,Foster,P.R.,Vax Sanguinis 87(Suppl.2),S7−S10(2004))。ウイルス不活性化後、ウイルス不活性化に使用して化学物質の除去のために、前記のものから選ばれる更なる精製工程が必要かもしれない。
【0019】
「ベクター」なる語は、DNAの断片が挿入またはクローニングされうる、適当な制御要素と共に存在する場合に複製可能な任意の遺伝的構築物、例えばプラスミド、ファージ、コスミドなどを意味する。ベクターは唯一(ユニーク)の制限部位を含み、宿主細胞内での自律複製能を有しうる。この語はクローニングおよび発現ビヒクルを含む。「ベクター」は更に、1以上の他の調節要素を含有することが可能であり、該調節要素は、好ましくは、スプライス部位、組換え部位、ポリA部位、エンハンサー、マルチクローニング部位および原核生物プラスミド配列から選ばれる。
【0020】
「機能的に連結」なる語は、目的とするタンパク質、特にヒト血液タンパク質をコードするDNA配列の転写をプロモーターが刺激しうるよう該プロモーターがベクター内に位置する、該ベクターの配置を意味する。
【0021】
「成熟」なる語は、プロセシングされたタンパク質(すなわち、N末端輸出シグナルを欠くタンパク質)の、ある与えられたタンパク質の分子構造を意味する。
【0022】
「プロモーター」なる語は、転写の開始中にRNAポリメラーゼおよび転写因子が結合する調節DNA配列の領域を意味する。
【0023】
「エンハンサー」なる語は、真核生物プロモーターの利用を向上させ該プロモーターに対していずれの位置(上流または下流)およびいずれの配向においても機能しうるシス作用性配列を意味する。
【0024】
「ポリアデニル化(ポリA)シグナル」なる語は、特殊化された終結配列を意味する。それは、細胞質へのmRNAの輸出を可能にする、mRNAの末端へのアデニンの「尾部(テール)」の付加を指令する。細胞質に到達すると、mRNAのポリA尾部はタンパク質翻訳中は維持され、タンパク質発現中にmRNAを安定化する。
【0025】
「コード」または「コードする」なる語は、適当な調節配列の制御下に配置された場合にインビトロまたはインビボにおいて転写(DNAの場合)またはポリペプチド(タンパク質)へと翻訳(mRNAの場合)される核酸配列の特性を意味する。
【0026】
本発明の目的においては、「発現」、「発現する」または「発現させる」なる語は、タンパク質をコードする遺伝子の転写および翻訳を意味する。
【0027】
本発明の「ヒトタンパク質」には、ヒトタンパク質、ポリペプチド、それらの突然変異体および修飾体が含まれるが、これらに限定されるものではない。特に、ヒトタンパク質には、組換え血漿タンパク質、例えば血液凝固因子(例えば、因子VIII、因子VIII/VIIa、因子V、因子IX、因子XI、フォンビルブラント因子など)、成長因子(例えば、エリスロポエチンなど)、コロニー刺激因子(CSF)(例えば、顆粒球刺激因子(G−CSF)、マクロファージCSF(M−CSF)、顆粒球−マクロファージCSF(GM−CSF))、サイトカイン(例えば、インターロイキン、例えばインターロイキン3など)、プロテアーゼインヒビター(例えば、アルファ−1−アンチトリプシン(A1AT)、キモトリプシンなど)、輸送タンパク質(例えば、ホルモンなど)、抑制または調節作用性タンパク質などが含まれる。さらに、これらのタンパク質またはポリペプチドの突然変異および修飾、特に、組換えタンパク質の、より良好な安定性、半減期の延長またはより良好な回収をもたらす突然変異または修飾が含まれ、欠失、置換または挿入突然変異体、および官能基の化学突然変異体が含まれる。本出願の本発明の方法により製造されうる特に好ましいタンパク質は、ヒト因子VIII(Bドメイン欠失体または野生型を含む)ヒト因子IX、ヒトG−CSF、ヒトA1AT、ヒト因子VII/VIIaおよびフォンビルブラント因子である。
【0028】
因子VIIIおよびIXの組換え製造は当技術分野において公知である(EP−A−160457;WO−A−86/01961、米国特許第4,770,999号、第5,521,070号および第5,521,070号)。因子VIIIの場合、凝固活性を示す複合体の製造のためのサブユニットの組換え発現が当技術分野において公知である(例えば、EP−A−150735、EP−A−232112、EP−A−0500734、WO−91/07490、WO−95/13300、米国特許第5,045,455号および第5,789,203号)。さらに、高グリコシル化Bドメインをコードする配列を部分的または全体的に欠くトランケート化cDNA形態の発現が記載されている(例えば、WO−86/06101、WO−87/04187、WO−87/07144、WO−88/00381、EP−A−251843、EP−A−253455、EP−A−254076、米国特許第4,868,112号および第4,980,456号、EP−A−294910、EP−A−265778、EP−A−303540ならびにWO−91/09122)。少なくとも3個のArg残基を有し10〜25アミノ酸残基を含むArgに富むリンカーペプチドによりArg740位とGlu1649位との間のBドメインが置換された特定の因子VIII突然変異体(ここで、該因子VIIIの番号付けは、配列番号9に示す成熟野生型因子VIII配列に関するものである)がWO 01/70968(その全体を参照により本明細書に組み入れることとする)に開示されている。特に、Argに富むリンカーペプチドは14〜20アミノ酸残基を有し、一方、
アミノ酸配列SFSQNSRH(配列番号10)、および/または
アミノ酸配列QAYRYRRG(配列番号11)、および/または
アミノ酸配列SFSQNSRHQAYRYRRG(配列番号12)
を含むリンカーが特に好ましい。そのようなBドメイン因子VIII突然変異タンパク質は配列番号3のnt783−5162によりコードされる。
【0029】
G−CSFは、好中球として公知の或るタイプの白血球の骨髄からの産生を刺激する、人血中の系列特異的な小さな分子である。好中球は身体の免疫系において中心的な役割を果たし、感染を防御する。G−CSF(特に、そのa、bおよびc形態のcDNA配列がそれぞれ配列番号15、16および17に示されている;G−CSFb形態のタンパク質(以下、「G−CSFb」タンパク質と称する)が配列番号27に示されている)は単球、繊維芽細胞および内皮細胞により天然で産生される。通常、その血中濃度は健常者で約40pg/mlである。患者の血漿においては、G−CSFのレベルは10倍以上低下しうる。G−CSFは5637細胞のような癌細胞系においても産生され、これは約70ng/mlのG−CSFを分泌する。治療用には、組換えヒトG−CSFがN末端メチル化非グリコシル化形態としてAmgen Inc.(Filgrastim/Neupogen(登録商標))により大腸菌(E.coli)において製造されており、これはペジル化(PEGylated)産物(Pegfilgrastim/Neulasta(登録商標))としても入手可能である。もう1つの薬がChugai Pharmaceuticals CoによりCHO細胞において製造されており、これはグリコシル化産物(Lenograstim/Granocyte(登録商標))を与える。G−CSFは、遺伝的な又は化学療法(癌)、エイズもしくは骨髄移植により生じた好中球減少症の治療薬として使用される。このための典型的な用量は1日当たり5μg/kgである。
【0030】
本出願の本発明に適した特定のA1AT cDNA配列を配列番号2のbp973−2259に示す。特定の因子VII/VIIa cDNA配列を、それらのaおよびb形態に対応する配列番号13および14に示す。特定のvWF cDNAを配列番号18に示す。
【0031】
選択マーカー系には、ヒグロマイシン耐性、ピューロマイシン耐性、ネオマイシン耐性、アデノシンデアミナーゼ(ADA)耐性、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(neo、G418、APH)耐性、ブレオマイシン(phleo、bleo、zeocin)耐性、シトシンデアミナーゼ(CDA、CD)耐性、シトシンデアミナーゼ(CDA,CD)耐性、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)耐性、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(hisD)耐性、ヒグロマイシン−B−ホスホトランスフェラーゼ(HPH)耐性、ピューロマイシン−N−アセチルトランスフェラーゼ(PAC、puro)耐性、チミジンキナーゼ(TK)耐性、およびキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(XGPRT、gpt)耐性が含まれる。特に好ましいのはヒグロマイシン耐性遺伝子である。また、選択マーカーに対応する遺伝子はポリAシグナル、ウシ成長ホルモン(BGH)に由来するポリAシグナルまたはSV40ポリアデニル化シグナルに機能的に連結されうる。
【0032】
トランスフェクトされた細胞は、その培地内で、選択マーカー系のタンパク質(例えば、選択期中のヒグロマイシン)に絶えずさらされて、ベクターを含有する細胞のみの生存をもたらす。安定にトランスフェクトされる細胞の樹立に適した他の選択マーカー、および適用されることが必要な選択される選択剤の濃度は、当業者によく知られている。
【0033】
本発明の特に好ましいベクターはCMVプロモーター、ヒグロマイシン遺伝子、ポリA配列および目的とする遺伝子を含有し、好ましくは、配列番号4の配列を有するInvitrogenのpcDNA3.1ベクターである(該ベクターの再配列決定により、それは実際には、配列番号5に示す配列を有することが判明した)。
【0034】
本発明の方法に適した不死化細胞系は、腎臓、膀胱、肝臓、肺、心筋、平滑筋、卵巣または胃腸細胞よりなる群から選ばれる。それらの細胞は、それらのゲノム内に、アデノウイルスDNA配列、特に、Ad5配列の最初の4344ヌクレオチドを含有しうる。好ましいのは、293細胞(ATCC CRL−1573;DSM ACC 305;ECACC ref.:85120602)、293T細胞(DSM ACC 2494;ECACC:tsa201,ref.96121229)、およびFreeStyle 293細胞(293F細胞;Invitrogen R79007)よりなる群から選ばれるヒト胎児腎細胞(HEK)である。最も好ましいのは293F細胞である。該ベクターを含有する不死化細胞系は、該組換え遺伝子の発現を可能にする条件下で培養される。本質的には、それらは、当業者に公知の標準的な培養条件であるが、ヒト因子IXの遺伝子を含有する細胞の場合には、ビタミンKを培地内に含有させるべきである。
【0035】
本発明の特定の実施形態は、安定に不死化され同様に無血清条件下においてトランスフェクトされた細胞の無血清培養内の組換えタンパク質の無血清製造である。そのためには、前記の不死化ヒト細胞系のいずれか、好ましくは293F細胞系を無血清条件下においてトランスフェクトし培養する。該細胞を、血清の非存在下の懸濁培養内で安定にトランスフェクトし、ついで単細胞クローンの選択のために付着細胞増殖に適合化する。個々のクローンが得られたら、それらを付着状態で増殖させる。最良の産生クローンの選択の後、該細胞を懸濁培養に移す。全安定細胞系操作中および更なる製造規模の拡大においては、細胞を無血清培地内で増殖させ、血清にもヒトまたは動物タンパク質にも決して接触させないようにする。該組換え血液タンパク質(例えば、血液凝固因子のいずれか、またはプロテアーゼインヒビター、例えばA1AT、または増殖因子(例えば、G−CSFおよびGM−CSF))を培養ブロスから単離し、ついで標準的な精製工程に付す。より詳しくは、組換えヒト血液タンパク質、特にヒト因子VIIIまたは因子IXまたはA1ATまたはG−CSFbの無血清製造の特定の実施形態は以下の工程を含む。
【0036】
(1)血清の非存在下の懸濁培養内でのヒト不死化細胞、好ましくは293F細胞のトランスフェクション。細胞を、使い捨ての無菌ポリカルボナートエーレンマイヤーフラスコ内で培養する。トランスフェクション剤、好ましくはカチオン性トランスフェクション剤、より好ましくはリポフェクタミン2000 CD試薬(Invitrogen)、またはリン酸カルシウムトランスフェクション法のための試薬を使用して、細胞を例えば1×10生存可能細胞/mlの密度でトランスフェクトする。ヒト血液タンパク質をコードするベクターをトランスフェクトする。好ましくは、該ベクターはpcDNA3.1−FIX、pcDNA3.1−FVIII、pcDNA3.1−AlATまたはpcDNA3.1−GCSFbである。
【0037】
(2)トランスフェクションの24〜120時間後、好ましくは36〜96時間後、より好ましくは48時間後、適当な数の細胞(10〜1010個;好ましくは10〜10個、最も好ましくは10個の細胞)を沈降のために平坦な培養皿内に移して付着増殖を確立する。好ましくは、該培養皿は10cmの皿(ディッシュ)であり、細胞を無血清かつ無タンパク質培地、好ましくはFreestyle 293 Expression培地(12338−018,Invitrogen)または無血清自社製培地(Octapharma Stockholm)内で培養する。
【0038】
(3)該平坦培養皿へ移してから2〜50時間後、好ましくは48時間後、選択圧をかけ始める。該培地を、選択マーカー、例えばヒグロマイシン、ネオマイシン、G418およびZeocin(ゼオシン)よりなる群から選ばれる適当な選択剤で補足する。好ましい選択剤は、10〜300μg/ml、好ましくは50〜200μg/ml、最も好ましくは50μg/mlの濃度のヒグロマイシンである。該圧を少なくとも10〜20日間、好ましくは14日間維持し、この場合、該ヒグロマイシン補足培地を1日おきに交換する。安定にトランスフェクトされた細胞のみがこれらの選択条件において生存し、個々に拾い上げられうる付着細胞クローンを形成する。また、細胞を該皿に固着させ、細胞が1つのクローンから別の細胞クローンへと浮遊するのを防ぐために、付着因子を使用することが可能である。この付着因子としては、例えば、ポリ−D−リシン、ヒトまたは動物タンパク質を含有しない合成培地補足物質、あるいは他の物質が挙げられうるであろう。あるいは、クローンを拾い上げるためにクローニングリングを使用することが可能であろう。
【0039】
(4)個々の細胞クローンを拾い上げ、選択圧をかけないで細胞を無血清増殖(大規模化)させるために別の培養容器に移す。任意の培養容器が適しているが、好ましくは、個々のクローンをまず、十分な量の培地を含有する96ウェルプレートに移し、ついで48ウェル、24ウェル、12ウェルおよび6ウェルプレートに移し、ついで遠心チューブに移す。該遠心チューブ段階においては、細胞を懸濁増殖に戻すために穏やかに振とうしながら該細胞を無血清培地内で培養する。該細胞が6セルウェルプレートまたは遠心チューブ段階に達したら、所望により、いくつかの選択基準[すなわち、細胞の増殖速度(より速く増殖する細胞が好ましい)、それらが産生する組換えタンパク質の量]に従い最良の細胞クローンを選択することが可能である。しかし、該選択は、より後のいずれかの段階においても行われうる。
【0040】
(5)遠心チューブ培養から得られた細胞を、十分な量の無血清培地を含有するエーレンマイヤー培養容器内に播いた。大規模化された懸濁増殖している無血清および無タンパク質細胞クローンに関する追加的な選択基準は以下のとおりである:生存度、細胞形態、凝集の非存在、遠心に対する強固さ、および細胞残渣の非存在。
【0041】
本発明の方法は、該ベクターがpcDNA3.1−hygro(+)−zzである場合に特に良好に機能する。ヒトタンパク質、特にヒトFIX、FVIII、A1ATまたはG−CSFbをコードする遺伝子を、それぞれ図2、3、7および11に示すとおりそれがCMVプロモーターの制御下に置かれるように挿入することが好ましい。好ましくは、組換え発現されるタンパク質がいずれの突然変異をも伴わず、血漿から単離された野生型タンパク質と構造的に同一となるよう、該遺伝子の野生型配列を挿入する。野生型ヒト因子IXの概要図を図1に示す。配列番号1、2、3および22は、それぞれpcDNA3.1−FIX、pcDNA3.1−A1AT、pcDNA3.1−FVIIIおよびpcDNA3.1−GCSFbの核酸配列を示す。推定タンパク質は、それぞれヌクレオチド939−2224、913−2259、679−5055および970−1584によりコードされる。
【0042】
したがって、本発明は、pcDNA3.1(商標)内にクローニングされてそれぞれpcDNA3.1−FIX、pcDNA3.1−A1AT、pcDNA3.1−FVIIIおよびpcDNA3.1−GCSFbを形成し、それらが不死化ヒト細胞、好ましくはヒト胎児腎細胞、例えば293細胞(ATCC CRL−1573;DSM ACC 305;ECACC ref.:85120602)、FreeStyle 293細胞(293F細胞;Invitrogen R79007)または293T細胞(DSM ACC 2494;ECACC:tsa201,ref.96121229)のゲノム内に組込まれる、ヒト因子IX,A1AT、因子VIIIおよびG−CSFbの組換え製造方法を提供する。
【0043】
pcDNA3.1−FIXまたはpcDNA3.1−A1ATまたはpcDNA 3.1−FVIIIまたはpcDNA 3.1−GCSFbを含有する細胞を、遺伝子発現を可能にする標準的な条件下で培養し、あるいはそれらを、ヒト病原体での汚染の危険性を最小限度に抑えるために無血清条件下において培養する。1以上のプリオン除去工程、例えばタンパク質沈殿、濾過、クロマトグラフィー工程、特にアフィニティークロマトグラフィー工程を加えることが可能である。その代わりに/それに加えて、プリオンノックアウト細胞系を発現細胞として使用することが可能である。これは完全ゲノムノックアウトまたはアンチセンス技術により入手可能である。ヒト因子IXの製造の場合、該細胞を、好ましくはビタミンKの存在下で培養する。該ヒト血液タンパク質を培養上清から単離し、純粋で安定で高活性な産物の収率を最大にするために当技術分野で公知の後続の精製工程(免疫アフィニティークロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーなど及びそれらの組合せから選ばれる)に付す。それらは、組換え因子IX、G−CSFbまたはA1ATを単離するために必要な具体的な要件に容易に適合化されうる。該精製操作の途中および後における精製タンパク質の量および活性はELISAおよび/または1段階凝固時間アッセイ(aPTT)によりモニターされうる。
【0044】
精製されたタンパク質サンプルにおける及び選択された分泌組換えタンパク質を含有する細胞培養上清から直接的に得られた産物における生じうる感染汚染の問題を克服するために、培養上清を、加熱処理および/またはSD処理(乾燥または液体状態、プロテアーゼインヒビターを含む化学物質の添加の存在下または非存在下)を含むウイルス不活性化のための操作で処理することが可能であろう。精製法は当業者によく知られている。例えば、アニオン交換クロマトグラフィーによる血漿からの高純度のウイルス不活性化因子VIIIの単離および精製および回収が既に記載されているI(WO93/15105)。また、血漿または他の生物学的起源から高純度非感染性凝固因子を製造するためのいくつかの方法が報告されている。潜在的に感染性である物質を疎水相で処理して2相系を形成させ、ついで該系から水不溶性部分を除去することにより、脂質被覆ウイルスは有効に不活性化される。同時に又は後に非イオン性生体適合性界面活性剤およびリン酸ジアルキルまたはトリアルキルで処理することにより疎水相処理が相補されるという利点も判明している(WO 96/36369、EP 0131740、US 6,007,979)。非脂質被覆ウイルスは、非イオン性界面活性剤での処理およびそれに続く数時間の加熱処理(60〜65℃)よりなる不活性化プロトコールを要する(WO 94/17834)。ウイルス不活性化後、化学物質を除去するための更なる精製工程が必要かもしれない。要約すると、本発明は、潜在的に危険な感染因子の不活性化のための及び受け入れられているタンパク質精製の方法と組合されたヒト細胞系に基づく有効なタンパク質製造方法を提供する。安全で簡便に使用される、組換えタンパク質(例えば、血液凝固因子IXまたはVIII、A1ATおよびG−CSFb)の製造のための系を確立した。組換え製造されたタンパク質の活性は標準的な試験で検査されうる。例えばヒト因子IXの場合には、手動凝固装置と共にDapptin TC(Kaolin/Sulfatid−Phospholipid Cat.No.5035090,Technoclone GmbH)活性化を用いる活性化部分トロンボプラスチン時間アッセイにより検査されうる。最後に、このようにして得られた組換えタンパク質、例えば前記の血液タンパク質、特にヒト因子IXは、医薬組成物において使用されうる。
【0045】
本発明は以下の実施例において更に詳しく説明されるが、該実施例は本発明を限定するものと解釈されるべきではない。
【0046】
実施例
材料および方法
タンパク質発現のためのヒト細胞系: 好ましい細胞系は、HEK293(ECACC Ref.85120602)、FreeStyle 293(293F;Invitrogen R79007)および293T(tsA201,ECACC Ref.96121229)(これは、SV40温度感受性T抗原を安定に発現する形質転換胎児ヒト腎細胞系である)である。これらの上皮様細胞系は種々の機能発現アッセイにおいて使用されており、高レベルの組換えタンパク質を産生すると報告されている。293細胞系に由来する293F細胞系(Invitrogen)は後記実施例において好ましく使用された。該親細胞系293は、せん断されたヒトアデノウイルス5型DNAで形質転換された初代胎児ヒト腎から樹立された永久系統である(Grahamら,1977;Harrisonら,1977)。293F細胞系は、FreeStyle(商標)293(293F)Expression Medium(12338−018,Invitrogen)における懸濁増殖に適合化された293細胞系の変異体である。293F細胞系はPharmacopeiaのRobert Horlickから入手した。293F細胞系は元々は、限界希釈により再クローニングされた親293F細胞に由来する低継代Master Cell Bank培養から調製された。細胞は一貫して、無血清FreeStyle 293 Expression培地または無血清培地(Octapharma Stockholm)内で、良好な生存度および良好な形態学的特徴を伴って、本発明の開発中の1年以上にわたり培養されている。
【0047】
ヒト因子IXの効率的な製造のために、該培地はビタミンKの添加により修飾されうる。これらの細胞系は、適当な補足物質を含有する無血清および/または無タンパク質培地内で培養可能である。
【0048】
標的タンパク質の決定および測定
ELISAによるヒト因子IX濃度の測定: 上清中のヒト組換え因子IXのレベルを、標準的な方法に従い、捕捉抗体としてヤギ抗ヒトFIX(GAFIX−AP,Affinity Biologicals)を使用するELISAにより測定した。すべてのインキュベーションは室温で加湿室内で行った。Octanyne(血漿由来FIX,Octapharma)およびBeneFIX(組換えFIX,Genetics Institute)の両方の標準品を使用した。検出用抗体はペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ヒトFIX(GAFIX−APHRP,Affinity Biologicals)であった。ABTS(Cat.No.1682008,Roche Diagnostics)を基質として各ウェルに加え、比色反応を405nmで15分のうちに検出した。結果を、標準吸光度に対する標準濃度の直線回帰により算出した。
【0049】
ヒト凝固因子IXの活性の測定: 上清中のヒト組換え因子IXの凝固活性を以下のとりに測定した。手動凝固装置(Amelung KC 4A micro,Amelung GmbH)と共にDapptin TC(Kaolin/Sulfatid−Phospholipid Cat.No.5035090,Technoclone GmbH)活性化を用いる部分トロンボプラスチン時間アッセイに基づいて、凝固活性をアッセイした。該研究のために、トランスフェクトされた細胞からの50μlの上清、50μlのFIX欠損血漿(Progen)および50μlのDapptin TCを37℃で2分間インキュベートした。50μlのCaCl(Cat.No.84687−22F,Instumentation Laboratory)を加えることにより凝固を開始させた。サンプル凝固時間をOctanyneまたは/およびBeneFIXの両方と比較した。
【0050】
COAMATIC:FVIIIアッセイ(Chromogenix)によるBDDrhFVIIIの測定: 市販の色素原アッセイキットCOAMATIC:FVIII(Chromogenix,cat.No.82 25 85)は、FIX、FX、およびFXa切断により黄色の水溶性色素に変化する色素原を含有する。FVIII含有サンプルがこの系を完成させる。FVIIIは複合体形成によりFIXを活性化し、この複合体がタンパク質分解切断によりFXを活性化してFXaを与える。FXaは該色素原を色素へと変化させ、ついで該色素が405nmで測光により測定される。この試験は、患者の血漿からのFVIIIの測定のために設計される。この試験を希釈培地中の因子VIIIの測定に適用可能なものにするために、以下の操作手段の準備を行った。対照標準品として、完全長組換えヒト凝固因子VIII(NIBSC,order no.57814F)および正常対照血漿(Instrumentation Laboratory Company)を使用した。
【0051】
サンプル調製:サンプルを、COAMATIC試薬と共に届けられた希釈バッファーで、2〜20mIU/mlの、予想された最終的なFVIII活性にまで希釈し、WHO No.6標準曲線と比較する。
【0052】
方法:加熱ブロック上に配置された96ウェルアレイ上で、両方の標準品およびサンプルを三重に測定する。
【0053】
【表1】

【0054】
エラスターゼ活性試験によるA1AT活性の測定: A1AT cDNAのトランスフェクションの後、A1ATが発現され、細胞培養内に分泌された。遠心分離(5分間、1000rpm)による細胞の除去の後、培養上清においてA1AT活性を測定した。この活性試験においては、A1AT活性を、エラスターゼに対するその阻害作用により測定した。エラスターゼは基質N−スクシニル−(Ala)−pNAからpNAを切断する。pNAの遊離は405nmにおいて測光的に測定される。一定のA1AT活性を有する標準サンプルとの比較により、それぞれのサンプルの活性を測定する。他の実験において証明されているとおり、該試験は無血清Freestyle培地において妥当なものである。Freestyle培地が該試験に影響を及ぼさないことを確認するために、2つの標準曲線を作成した。標準ヒト血漿をT+バッファー中またはFreestyle培地中で希釈した。
【0055】
サンプルの希釈: すべてのサンプルは、未希釈、1:10および1:50希釈(Freestyle培地中)で試験し、ヒト血漿の標準希釈液と比較する。
【0056】
方法: 50μlの各標準希釈液およびサンプル希釈液をそれぞれ、96ウェルマイクロタイタープレートのウェル内にピペッティングした。150μlのエラスターゼ使用溶液を各ウェルに加えた後、該96ウェルプレートをELISAリーダー上で1分間振とうし、37℃で30分間インキュベートした。100μlの基質使用溶液をマルチペットで各ウェルに加えた。基質溶液の添加の直後および暗室中で37℃で7分間のインキュベーションの後、405nmにおける吸光度を測定した。第1の値は、エラスターゼ触媒反応を伴わない場合の基底吸収を表し、エラスターゼが基質からpNAを切断した後の吸光度を表す第2の値から差し引かれる。差し引き後の結果を用いて、標準曲線に基づき該サンプルのA1AT活性を算出する。
【0057】
ELISAのG−CSF活性の測定: 標準的な方法に従い、捕捉抗体としてマウス抗ヒトG−CSF抗体(MAB−214,R&D System)を使用するELISAにより、細胞培養上清中のヒト組換えG−CSFレベルを測定した。すべてのインキュベーションは加湿室内で室温で行った。G−CSF標準品(組換えhG−CSF,大腸菌(E.coli),214−CS−025,R&D Systems)を使用した。検出用抗体は、ビオチン化ヤギ抗ヒトG−CSF(BAF−214,R&D Systems)であった。該検出用抗体に連結されたホースラディッシュペルオキシダーゼ(DY998,R&D Systems)にストレプトアビジンを結合させた。QuantaBlu(商標)Fluorogenic Peroxidase Substrate(15169,Pierce)を基質として各ウェルに加えた。蛍光測定反応は励起320nm/発光420nmで60分以内に検出された。結果を標準相対蛍光単位(RFU)に対する標準濃度の直線回帰により算出した。
【実施例1】
【0058】
標的タンパク質のクローニング
A.ヒト因子IXのクローニング: WO01/70968に開示されているベクターpTG36から、ヒト凝固因子IXのオープンリーディングフレームを含有する1.4kbの断片をHindIIIおよびNotIでの二重消化により切り出した。この断片を、HindIIIおよびNotIで二重消化されたベクターpcDNA3.1Hygro(+)−zz(V870−20(Invitrogen)由来)である5.6kbの断片に連結して、図2に示すベクターpcDNA3.1−FIXを得た。pcDNA3.1−FIXのDNA配列を配列番号1に示す。Invitrogenにより公開されている配列(配列番号4に示す)と比べて、pcDNA3.1Hygro(+)−zz(配列番号5を参照されたい)においては該ベクターバックボーンにおける3つの追加的ヌクレオチド挿入が見出された。ベクターpcDNA3.1−FIXは、安定にトランスフェクトされた細胞クローンに関する選択法を可能にするカセットヒグロマイシン耐性遺伝子を含有する(図2、3および7を参照されたい)。該ベクターは、リン酸カルシウムトランスフェクションなどによる安定発現細胞系の樹立、およびそれに続くヒグロマイシン耐性に関する選択を可能にする。
【0059】
B.ヒト因子VIIIのクローニング: Bドメイン欠失ヒト凝固因子VIIIのオープンリーディングフレームを含有する4380bpのFVIIIcDNAをベクターpTGF8−2hyg−s(配列番号7;その製造はWO01/70968に開示されている)からNotI+XhoI消化により単離し、XhoI+PspOMIで線状化されたpcDNA3.1Hygro(+)−zzに連結して、図7に示すベクターpcDNA3.1−FVIIIを得た。
【0060】
C.ヒトA1ATのクローニング: mRNA Miniprep Kit(Sigma,Cat# MRN−10)を使用して、A1AT mRNAをHepG−2細胞(DSMZ# ACC 180)から直接単離した。次の工程において、mRNAをオリゴ(dT)ビーズ上に捕捉した。ついで、RT−PCR(逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応)の後、ニワトリ骨髄芽球症ウイルス逆転写酵素(Avian Myeloblastosis Virus Reverse Transcriptase)(AMV RT,Promega,Cat# M5101)でmRNAは二本鎖cDNAに転写される。A1AT cDNAをPCR反応により増幅した。PCR産物をアガロースゲル上にローディングした。適当なDNAバンドを単離し、ついでQiaquik Gel Extraction Kit(Qiagen,Cat# 28704)で精製した。ついでA1AT断片を市販ベクター(TOPO(登録商標)Invitrogen,Cat# K4650−01)内にサブクローニングした。pCMV−Scriptのクローニングのために、PCR II TOPO−AlATをEcoRIで消化し、A1ATの1370bpの断片を、EcpRIで線状化されたpCMV−Scriptに連結した。
【0061】
pCI−neo−A1ATのクローニングのために、PCR II TOPO−A1ATをEcoRIで消化し、A1ATの1370bpの断片を、EcoRIで線状化されたpCI−neoに連結した。
【0062】
pcDNA3.1−FVIIIのクローニングのために、1370bpのA1ATをPCR II TOPO−AlATと共に単離し、XhoI+HindIIIで消化し、XhoI+HindIIIにより線状化されたpcDNA3.1に連結した。得られたベクターを図3に示す。
【0063】
pTG1−A1ATのクローニングのために、PCR II TOPO−A1ATをHindIIIおよびNotIで消化した。A1ATの1370bpの断片を、HindIIIおよびNotIで線状化されたpTG1(no PRE)に連結した。得られたベクターを図9に示す。
【0064】
D.ヒトG−CSF cDNAのクローニング: 全RNAをRNeasyミニキット(QIAGEN,cat.No.74104)で天然5637ヒト膀胱癌細胞から直接単離した。ついで、単離された全RNAをDNアーゼIと共にインキュベートして、混入しているかもしれない5637細胞ゲノムDNAを消化した。DNアーゼ非含有全RNAを得るために、該反応混合物をRNeasyクリーン・アップ・キット(QIAGEN,cat.No.74204)で処理した。全RNAを鋳型として使用するRT−PCRを、RNアーゼインヒビター(Roche,Cat.No.799−017)の存在下、オリゴ(dT)12−18プライマー(Invitrogen,Cat.No.18418−012)およびSuperscript(商標)II RNase H−Reverse Transcriptase(Invitrogen,Cat.No.18064−022)を使用して行って、5637細胞からのds cDNAプールを合成した。ついでG−CSF cDNAをPCR反応により増幅した。G−CSF cDNAをQIA quick Gel Extractionキット(QIAGEN,Cat.No.28704)でアガロースゲルから単離し、以下のG−CSF PCRプライマーの両方を使用して配列決定した。
【0065】
【化1】

【0066】
5637細胞から合成されたDNAの配列は、配列分析により、GCSF−b形態(配列番号26に示す配列を有する)であると確認された。ついで、前記のとおりに単離されたGCSF−b形態のcDNAを市販ベクターpCR2.1(Invitrogen)に直接連結した。得られたプラスミドをpCR2.1d2−GCSFbと命名し、図10に示す。
【0067】
PCR2.1d2−GCSFbをHindIIIおよびNotIで消化し、705bp GCSFb cDNA断片を単離し、HindIIIおよびNotIで線状化されたベクターpcDNA3.1Hygro(+)−zzに連結した。得られたpDNA3.1−GCSFbベクターを図11に示す。
【0068】
PCR2.1d2−GCSFbをEcoRIで消化し、629bpのGCSFb cDNA断片を単離し、EcoRIで線状化されたpCINeoベクター内に連結した。得られたpCINeo−GCSFbベクターを図12に示す。
【0069】
PCR2.1d2−GCSFbをBamHIおよびXhoIで消化し、693bpのGCSFb cDNA断片を単離し、BamHIおよびXhoIで線状化されたpCMVScriptベクター内に連結した。得られたpCMVScript−GCSFbベクターを図13に示す。
【0070】
PCR2.1d2−GCSFbをHindIIIおよびNotIで消化し、705bpのGCSFb cDNA断片を単離し、HindIIIおよびNotIで線状化されたpTG2−hyg−asベクター内に連結した。得られたpTG2−GCSFb−hyg−asベクターを図14に示す。
【実施例2】
【0071】
種々の細胞系および種々のベクターにおける標的タンパク質の発現:
本方法を組換えタンパク質の製造のために最適化する際に、種々の細胞系(すべて、アルファ−1−アンチトリプシン(A1AT)の組換え遺伝子を含むベクターを含有する)の高レベル発現能を試験した。CHO、BHKおよび他の細胞系は、一過性トランスフェクションアッセイにおいて、293T細胞系の場合より少量の組換えタンパク質を産生することが判明した。したがって、他のヒト胎児腎細胞系誘導体を調べた。結果を図4〜6に示す。
【実施例3】
【0072】
無血清条件下においてトランスフェクトされた培養された293F細胞と比較した場合の血清含有培地内の293Tおよび293細胞の一過性トランスフェクション:
293Tまたは293細胞の0.1〜0.2×10個の生存可能細胞を6ウェル内にプレーティングした。翌日、リン酸カルシウム法(Biotechniques 6:7 632−638(1988))を用いて細胞をトランスフェクトした。すなわち、4μgのプラスミドDNAを0.1×TEバッファー(200μlのトランスフェクション混合物を含有)中で希釈し、穏やかに混合し、20μlの2.5M CaClおよび100μlの2×HBSを該トランスフェクションサンプルに加えた。該トランスフェクションサンプルを室温で20分間インキュベートした。6時間のインキュベーションの後、培地を交換し、ついで細胞を48時間インキュベートした。
【実施例4】
【0073】
無血清培地内の293F細胞における標的タンパク質の無血清トランスフェクションおよび発現:
10個の生存可能293F細胞の細胞密度で28mlの懸濁培養を調製した(トランスフェクション実験の当日)。30μgのプラスミドDNAをOpti−MEM(登録商標)I(Invitrogen)中で1mlの総容量になるまで希釈することにより、脂質−DNA複合体を調製し、40μlの293fectin(登録商標)をOpti−MEM(登録商標)中で1mlの総容量になるまで希釈した。室温で5分間のインキュベーションの後、希釈されたDNAを293fectin(登録商標)に加えて2mlの総容量とした。該トランスフェクト化サンプルを暗所で室温で20分間インキュベートした。2mlの該トランスフェクション混合物を28mlの293F懸濁培養(最終細胞密度は1×10細胞/ml)に加えた。該トランスフェクト化293F細胞を、125rpmで回転する軌道(orbital)振とう器上、37℃/空気中の8% COの湿潤雰囲気において72時間インキュベートした。
【0074】
A:A1ATのトランスフェクションおよび発現: 293Fを293および293T細胞と比較するそれらの実験の結果を図4に示す。すべての実験において、一定量の細胞(10細胞)をpcDNA3.1−A1ATでトランスフェクトした。これらの種々の細胞系において発現されたA1ATの量を比較した。293F細胞におけるA1ATの発現量を100%に設定した。図4から認められうるとおり、293および293T細胞は293F細胞に対して僅か12〜13%量のA1ATを産生したに過ぎなかった。
【0075】
さらに、種々のベクターバックボーンが、293F細胞において産生される組換えタンパク質の量に影響を及ぼすかどうかを試験した。ヒトアルファ−1−アンチトリプシン(A1AT)のコード配列をpTG(自社製ベクター)、pCMV Script(登録商標)(Stratagene)、pcl neo(Promega)およびpcDNA3.1(商標)ベクター内に挿入した。
【0076】
pcDNA3.1−A1ATからのA1ATの発現レベルを100%に設定した。それらの他のベクターはいずれも、、pcDNA(商標)3.1−A1ATで見られた高い発現に近い発現を示さなかった。pcDNA 3.1−A1ATはELISAでの検出で最大量のA1ATを産生することが判明した(図5を参照されたい)。該自社製ベクターは、pcDNA3.1から発現されたA1ATの量に対して僅か20%の量を発現したに過ぎず、その他の市販ベクターは該A1AT量に対して15〜30%の範囲を示した。したがって、すべての更なる実験のためにpcDNA3.1を選択した。
【0077】
要約すると、種々の細胞系が、A1AT遺伝子を含有するpcDNA3.1(商標)で一過性にトランスフェクトされていた。無血清293F細胞系は10細胞当たりに293Tおよび293細胞の場合より7倍多いA1ATを発現することが示された。したがって、安定トランスフェクション実験のためにfreestyle293F細胞系を選択した。
【0078】
一過性トランスフェクション実験の結果を図6に示す。上パネル(A)は、異なるトランスフェクションベクターを使用する6つの異なるトランスフェクション試験の上清のSDS−PAGE分析を示す。解析用図面から導き出されるとおり、分析した細胞培養上清中に存在するα1−アンチトリプシンは、1である抗原に対する活性比から推定されうるとおり良好な質を有すると結論づけられうる(非表示データ)。該試験結果の妥当性は、陰性対照がα1−アンチトリプシン活性も抗原も示さないことから推定されうる。
【0079】
SDS−PAGEにより分析された分子量分布は、それらの3つのα1−アンチトリプシン含有サンプルに関する、十分に比較しうる分子量分布像を示した。該陰性対照においては、予想どおり、α1−アンチトリプシンに相当するバンドが欠如しているだけでなく、27kDの分子量の追加的なバンドが視認されうる。
【0080】
ウエスタンブロット法(抗ヒトα1−アンチトリプシン一次抗体を使用するもの)を用いる分析により、該タンパク質は、還元条件下、予想分子量領域において確認されうる。分割(split)産物は視認できない。
【0081】
黒矢印は、52kDaの組換えタンパク質アルファ−1−アンチトリプシンに対応する優勢バンドを示す。レーン4および8に、27kDaのGFPタンパク質に対応するバンドも視認可能であり、これは、細胞系freestyle293F細胞内で対照として一過性に発現されたものである。レーン1、2、3および5、6および7における追加的なバンドは宿主細胞タンパク質(freestyle293F細胞由来)である。下パネル(B)はウエスタンブロット分析を示す。該アッセイの、より高い厳密さ(ストリンジェンシー)のため、該結果はより簡潔に見え、A1ATに対応するバンドのみが視認されうること以外は、それらの結果は同一である。
【0082】
B:FVIIIのトランスフェクションおよび発現: 図8に、最良の3つの安定にトランスフェクトされたクローンの因子VIIIの平均量を示す。pcDNA−FVIIIベクターで発現されたそれらの3つの最良クローンの因子VIIIの平均量を産生率(産生度)100%に設定した。自社製ベクターpTGF8−2hyg−sとの比較は、293F細胞におけるpcDNA3.1−FVIIIベクターでは、約3倍高い因子VIIIの産生率を示している。
【0083】
C:FIXのトランスフェクションおよび発現: 因子IXを発現するpcDNA3.1−FIXおよびpUC 19/Xに基づくベクターpTGF36(WO 01/70968を参照されたい)を使用して安定にトランスフェクトされた293F細胞においては、以下の表1において認められうるとおり、293F細胞内でpcDNA3.1ベクターを使用することにより約3倍高い産生率(産生度)を示すことが可能であった。
【0084】
【表2】

【実施例5】
【0085】
G−CSFbの製造
A.無血清培地内での293F細胞のトランスフェクション,一過性トランスフェクション: 1.1×10生存可能293F細胞/mlの細胞密度での293F細胞の28mlの懸濁培養をトランスフェクション実験の当日に調製した。30μgのプラスミドDNA(pcDNA3.l−G−CSFb)をOpti−MEM(登録商標)I(Invitrogen)中で1mlの総容量になるまで希釈することにより、脂質−DNA複合体を調製し、30μlのリポフェクタミン2000CDをOpti−MEM(登録商標)中で1mlの総容量になるまで希釈した。室温で5分間のインキュベーションの後、希釈されたDNAをリポフェクタミン2000CDに加えて2mlの総容量とした。該トランスフェクト化サンプルを暗所で室温で20分間インキュベートした。2mlの該トランスフェクション混合物を28mlの293F懸濁培養(最終細胞密度は1×10細胞/ml)に加えた。該トランスフェクト化293F細胞を、125rpmで回転する軌道(orbital)振とう器上、37℃/空気中の8% COの湿潤雰囲気において72時間インキュベートした。
【0086】
B.安定トランスフェクション: 前記Aに記載の一過性トランスフェクションの72時間後、適当な数の細胞(10〜10個の細胞)を沈降のために平坦な培養皿内に移して付着増殖を確立した。該平坦皿へ移してから2〜50時間後、好ましくは48時間後、選択圧をかけ始めた。好ましい選択剤は75μg/mlの濃度のヒグロマイシンであった。該圧を少なくとも10〜20日間、好ましくは14日間維持し、この場合、該ヒグロマイシン補足培地を2〜3日間の全てにおいて交換した。
【0087】
C.分析および採集ロボットClonePixFL(Genetix)を使用する最良G−CSF産生クローンの選択: 前記Bに記載のとおりに安定にトランスフェクトされたFreeStyle 293F細胞を、約2日後、クローンの選択のための適当な抗生物質および蛍光による最高産生クローンの検出のための標識抗体を含有する半固体のメチルセルロースに基づく培地内に播いた。後に数百個のG−CSF最良産生クローンのみを拾い上げるために、多数(数千個)のクローンを、細胞数およびG−CSF分泌に関して、ClonePixFL(Genetix)を使用して分析した。非産生クローンおよび混合クローンまでもがランダムに拾い上げられる他の公知法とは対照的に、ClonePixFLの使用は、単一の細胞に由来する高産生体のみである速く増殖しているクローンの拾い上げを可能にする。拾い上げられた細胞を、完全な操作のための無血清条件下、マイクロタイタープレート内で、ついで遠心チューブ、細胞培養フラスコおよび発酵槽内で増殖させる。
【0088】
この場合も、すべての安定トランスフェクション操作は無血清条件下において行う。また、すべての後続の増殖および細胞培養操作中、該細胞は血清または動物由来タンパク質に全く接触しなかった。増殖中、強固さ、高い増殖速度、生存度および活性G−CSFの産生(ELISA形態で測定されるもの)に関して最良クローンを選択する。この選択段階の後、拾い上げたクローンを、抗生物質補足物の非存在下、無血清条件下において培養する。全操作中、293F細胞を完全無血清条件下において培養し、培地を1日おきに交換した。該細胞の大規模化は、Kuhner Shakers内のエーレンマイヤーフラスコからより高容量のウェイブ・リアクター(wave reactor)(Wave Biotech Europe)へと、完全無血清条件下において行った。この選択中、僅か数個の最良産生クローンへと該数を再び減少させる。適切なcDNA配列、mRNA含量および発酵の際の挙動は、サブクローニングのための最良クローンを特定するための基準である。このためには、選択されたクローンの細胞をプレーティングし、分析し、ClonePixFLで拾い上げ、ついで前記のとおりに増殖させ選択する。サブクローニングは、該クローンのプレーティングされた亜集団における生じうる遺伝的変異を排除するために、より良好な産生クローンを再び選択するための必須工程である。サブクローニング後、選択されたクローンを再び、無血清条件下において保存する。発現された組換えヒトG−CSFタンパク質は、より詳細に生化学的に特徴づけられる。
【0089】
D.ELISAによるヒトG−CSF濃度の測定: このようにして得られたFeeStyle 293F細胞系により発現されたrhG−CSFの量をELISAにより測定し、種々のベクターでトランスフェクトされた細胞で得られたタンパク質の収量を比較した(図15を参照されたい)。実施例2および3に記載のFIXおよびA1ATでの発現実験から予想されたとおり、この場合も、ベクターpcDNA3.1−GCSFbと293F細胞系との組合せが最高の産生率を示し、したがって、これを組換えヒトG−CSFbの製造に使用した。
【0090】
E.還元性SDS PAGEにおけるrhG−CSFのウエスタンブロット: HEK293およびHEK293F細胞からの上清において産生された10μlのG−CSFを15% SDS PAGEおよびウエスタンブロット上で分析した。G−CSFの検出はBAF214−bio/SA−HRP/DABにより行った(図16を参照されたい)。矢印は、正しい分子量のrhG−CSFの単量体バンドを示す。
【0091】
配列表(フリーテキスト)
【0092】
【表3】

【0093】
【表4】

【0094】
【表5】

【0095】
【表6】

【0096】
【表7】

【0097】
配列番号6:ベクターpTG1−AlAT
【0098】
【表8】

【0099】
配列番号8:ヒト野生型因子VIII cDNA
【0100】
配列番号9:ヒト野生型因子VIII
【0101】
配列番号10−12:リンカーペプチド
【0102】
配列番号13:hFVII a形態のcDNA
【0103】
配列番号14:hFVII b形態のcDNA
【0104】
配列番号15:ヒトGCSF a形態のcDNA,CDS:41−661
【0105】
配列番号16:ヒトGCSF b形態のcDNA,CDS:41−652
【0106】
配列番号17:ヒトGCSF c形態のcDNA,CDS:229−828
【0107】
配列番号18:hvWFのcDNA
【0108】
配列番号19および20:G−CSFフォワードおよびリバースプライマー
【0109】
【表9】

【0110】
【表10】

【0111】
【表11】

【0112】
【表12】

【0113】
【表13】

【0114】
配列番号26:ヒトGCSF b形態のcDNA
【0115】
配列番号27:ヒトGCSF b形態タンパク質
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】野生型ヒト凝固因子IX(FIX)タンパク質。FIX遺伝子の、その5’非翻訳(5’UTR)領域およびその3’UTR領域を伴う概要図。プロセシングされていない461アミノ酸のタンパク質の以下の8個のドメインが示されている:S:シグナルペプチド;P:プロペプチド;Glaドメイン:γ−カルボキシグルタミルドメイン;Hドメイン:疎水性配列;EGFドメイン:上皮増殖因子様ドメイン;L:連結配列;AP:活性化ペプチド;触媒ドメイン。FIX成熟タンパク質は415アミノ酸の長さ、および約55kDaの分子量を有する。
【図2】ベクターpcDNA3.1−FIX。該環状DNAベクターは6,960塩基対を含み、その厳密な配列は配列番号1に示されている。該概要図には、CMVプロモーター(CMV)、ヒトFIX遺伝子(hFIX)、f1起点(f1)、SV40プロモーター(SV40)の制御下のヒグロマイシン(Hyg)遺伝子、ポリA領域(SV40ポリA)、pUC起点およびアンピシリン(Amp)耐性遺伝子ならびに多数の制限部位が示されている。このベクターは、再配列決定されたpcDNA3.1ベクターである、配列番号5のpcDNA3.1Hygro(+)−zzに由来する。
【図3】ベクターpcDNA3.1−A1AT。該環状DNAベクターは6,914bpを含み、その厳密な配列は配列番号2に示されている。該概要図には、CMVエンハンサープロモーター、A1AT cDNA、ウシ成長ホルモンポリアデニル化(ポリA)シグナル(mRNA安定性の増強のための転写終結配列を含む)、f1起点(f1)、SV40プロモーター(SV40)の制御下のヒグロマイシン(Hyg)遺伝子、SV40ポリA領域(SV40ポリA)、pUC起点およびアンピシリン(Amp)耐性遺伝子ならびに多数の制限部位が示されている。このベクターは配列番号5のpcDNA3.1Hygro(+)−zzに由来する。
【図4】アルファ−1−アンチトリプシンをコードするベクターでの種々のヒト胎児腎細胞の一過性トランスフェクション。一過性トランスフェクション研究における細胞系に比較が示されている。細胞10個当たりに発現されたアルファ−1−アンチトリプシン(A1AT)の量(%)が293、293Tおよび293F細胞に関して示されている。pcDNA3.1−A1ATで一過性にトランスフェクトされた293F細胞において発現されたA1ATの量が100%に設定されている。
【図5】アルファ−1−アンチトリプシンをコードする種々のベクターでの293F細胞系の一過性トランスフェクション。一過性にトランスフェクトされたfreestyle 293F細胞系を使用して種々のベクターから発現されたA1AT濃度の比較が示されている。A1AT pcDNA3.1−A1ATの発現レベルが100%に設定されている。A1AT遺伝子を含有する種々の他のベクターも試験した。自社製ベクターpTG1−A1AT(図10に示す、ヒト組換えA1ATを製造するための自社製ベクター)、pCMV Script(登録商標)A1AT(Stratagene)およびpcl neo−A1AT(Promega)をpcDNA3.1−A1AT(pcDNA3.1)に対して比較した。それらの他のベクターはいずれも、pcDNA3.1−A1ATで見られた高い発現レベルに近いレベルを示さなかった。
【図6】細胞培養上清のSDS−PAGEおよびウエスタンブロット。pcDNA3.1−A1AT(レーン1〜3および6〜8)で又はGFPを発現する対照プラスミド(レーン4および8)で一過性にトランスフェクトされたfreestyle 293F細胞の上清のアリコートをSDS−PAGEおよびウエスタンブロットの両方により分析した。レーン1はサイズマーカーを含有し、レーン5は空である。A1ATに関するバンドが矢印で示されている。レーン4および8に、GFPに対応する27kDaバンドも視認されうる。
【図7】図7は、pcDNA3.1−F.VIIIを示す。該ベクターは9,975bpを含み、その厳密な配列は配列番号3に示されている。bp783−5162によりコードされる因子VIIIタンパク質は、WO 01/70968に開示されているBドメイン欠失因子VIII突然変異体である。この場合も、このベクターは配列番号5のpcDNA3.1Hygro(+)−zzに由来する。
【図8】pcDNA3.1−FVIIIおよび自社製ベクターpTGF8−2hyg−sで293および293F細胞をトランスフェクトして得られた最良の3つの安定にトランスフェクトされたクローンの産生因子VIIIの平均量の比較。その厳密な配列は配列番号7に示されている。
【図9】図9はベクターpTG1−A1ATを示す。該ベクターは5,610bpを含み、その厳密な配列は配列番号6に示されている。
【図10】図10はベクターpCR2.1d2−GCSFbを示す。該ベクターは4,542bpを含み、その厳密な配列は配列番号21に示されている。
【図11】図11はベクターpDNA3.1−GCSFbを示す。該ベクターは6,237bpを含み、その厳密な配列は配列番号22に示されている。
【図12】図12はベクターpCINeo−GCSFbを示す。該ベクターは6,101bpを含み、その厳密な配列は配列番号23に示されている。
【図13】図13はベクターpCMVScript−GCSFbを示す。該ベクターは4,920bpを含み、その厳密な配列は配列番号24に示されている。
【図14】図14はベクターpTG2−GCSFb−hyg−asを示す。該ベクターは6,917bpを含み、その厳密な配列は配列番号25に示されている。
【図15】図15は、実施例9に従い種々の発現構築物により産生されたrhG−CSFの量を比較している。
【図16】図16は、実施例9に従い産生されたrhG−CSFのウエスタンブロットを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト標的タンパク質またはその誘導体もしくは突然変異体をコードする遺伝子、プロモーターおよびウシ成長ホルモンポリアデニル化(ポリA)シグナル(該プロモーターおよびポリAシグナルは、それぞれ、該ヒト標的タンパク質をコードする遺伝子の5’および3’末端に連結されている)を含む核酸配列で安定にトランスフェクトされた不死化ヒト細胞系の製造方法であって、該核酸配列および複製起点を含むトランスフェクションベクターで無血清条件下において不死化ヒト宿主細胞系をトランスフェクトすることを含んでなる前記製造方法。
【請求項2】
ヒト標的タンパク質が、血液凝固因子、例えば因子IX、因子VIII(野生型およびBドメイン欠失体)、因子VII/VIIaおよびフォンビルブラント因子(vWF)、増殖因子、例えばエリスロポエチン、コロニー刺激因子(CSF)、例えば顆粒球刺激因子(G−CSF)、マクロファージCSF(M−CSF)および顆粒球マクロファージCSF(GM−CSF)、サイトカイン、例えばインターロイキン、プロテアーゼインヒビター、例えばアルファ−1−アンチトリプシン(A1AT)およびキモトリプシン、輸送タンパク質、例えばホルモン、抑制または調節作用性タンパク質ならびにこれらの誘導体および突然変異体から選ばれるヒト血漿タンパク質であり、好ましくは、該ヒトタンパク質が、因子IX、因子VIII(野生型因子VIIIおよびBドメイン欠失因子VIIIを含む)、因子VII/VIIa、G−CSF、vWFならびにA1ATから選ばれ、最も好ましくは、該ヒトタンパク質が、配列番号1のbp939−2324によりコードされる血液凝固因子IX、配列番号2のbp973−2259によりコードされるヒトA1AT、配列番号9に示される野生型因子VIII、配列番号3のbp783−5162によりコードされるBドメイン欠失ヒト因子VIII、配列番号13および14によりコードされる因子VII/VIIa、配列番号15、16および17によりコードされるG−CSF、または配列番号18によりコードされるvWFである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
トランスフェクションベクターにおいて、
(i)プロモーターが、ウイルスプロモーター、ハウスキーピング遺伝子プロモーターおよび組織特異的プロモーターから選ばれ、好ましくは、該プロモーターが、イントロンAを伴う又は伴わないCMVプロモーター、SV40プロモーター、EF−1アルファプロモーター、HSV TKプロモーターなどであり、最も好ましくは、該プロモーターがCMVプロモーターであり、および/または
(ii)複製起点が細菌におけるプラスミドの複製および増幅を可能にし、
(iii)該ベクターが更に、好ましくはヒグロマイシン耐性、ネオマイシン耐性、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(neo、G418、APH)耐性、ブレオマイシン(phleo、bleo、zeocin)耐性、およびキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(XGPRT、gpt)耐性から選ばれる選択マーカーに対応する少なくとも1つの遺伝子を含有し、および/または前記(i)記載のプロモーターの制御下にあり、および/または
(iv)該ベクターが更に、1以上の他の調節要素を含有し、該調節要素が、好ましくは、スプライス部位、組換え部位、ポリA部位、エンハンサー、マルチクローニング部位および原核生物プラスミド配列から選ばれる、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
トランスフェクションベクターが、CMVプロモーター、ヒグロマイシン遺伝子、ポリA配列および目的とする遺伝子を含有し、好ましくは、配列番号4または5の配列を有するpcDNA3.1ベクターに由来する、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
不死化ヒト細胞系が、
(i)無血清条件下においてトランスフェクトされ培養されることが可能であり、および/または
(ii)そのゲノムに組込まれたアデノウイルス配列を有し、および/または
(iii)腎臓、膀胱、肝臓、肺、心筋、平滑筋、卵巣または胃腸細胞よりなる群から選ばれ、好ましくは、ヒト腎細胞系であり、および/または
(iv)ヒトプリオンタンパク質を発現し得ない、請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
腎細胞がヒト胎児腎細胞であり、好ましくは、293細胞(ATCC CRL−1573;DSM ACC 305)、293T細胞(DSM ACC 2494)、FreeStyle 293細胞(293F細胞;Invitrogen R79007)から選ばれる胎児ヒト腎細胞であり、好ましくは293F細胞(Invitrogen R79007)である、請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
細胞系が293Fであり、トランスフェクションベクターがpcDNA3.1に由来し、該ベクターが、好ましくは、配列番号1のbp939−2324により示されるヒト血液凝固因子IX、配列番号2のbp973−2259によりコードされるヒトA1AT、配列番号9に示される野生型ヒト因子VIIIもしくは配列番号3に示されるBドメイン欠失ヒト因子VIII、FVII/FVIIa、配列番号27に示されるG−CSFb含有G−CSF、またはフォンビルブラント因子をコードする、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
無血清トランスフェクションを、カチオン性トランスフェクション剤またはリン酸カルシウム、好ましくはリポフェクタミン(lipofectamine)2000 CD試薬(Invitrogen)を使用して血清の存在しない懸濁培養内で行う、請求項1〜7のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項9】
好ましくは産生組換えタンパク質の産生度、活性および産物の質による、安定にトランスフェクトされた細胞に関する選択を更に含む、請求項1〜8のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の製造方法により入手可能な安定にトランスフェクトされた不死化ヒト細胞系。
【請求項11】
請求項4〜9のいずれか1項記載の製造方法により入手可能であり、好ましくは293Fであり、トランスフェクションベクターがpcDNA3.1に由来する、請求項10記載の細胞系。
【請求項12】
請求項10または11記載の不死化ヒト細胞系を培養することを含んでなる、ヒト標的タンパク質またはその誘導体もしくは突然変異体の組換え製造方法。
【請求項13】
ヒト標的タンパク質が、配列番号1のbp939−2324により示されるヒト血液凝固因子IX、配列番号2のbp973−2259によりコードされるヒトA1AT、配列番号9に示される野生型ヒト因子VIIIもしくは配列番号3に示されるBドメイン欠失ヒト因子VIII、FVII/FVIIa、配列番号27に示されるG−CSFb含有G−CSF、またはフォンビルブラント因子をコードする、請求項12記載の製造方法。
【請求項14】
組換えヒトタンパク質を培養ブロスから濃縮し、および/または該タンパク質を精製し、および/またはプリオンを除去する工程を更に含む、請求項12または13記載の製造方法。
【請求項15】
ヒトタンパク質の製造を無血清条件下において行う、請求項12〜14のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜4のいずれか1項記載のヒト標的タンパク質またはその誘導体もしくは突然変異体をコードする遺伝子を含む核酸配列と複製起点とを含んでなるトランスフェクションベクター。
【請求項17】
ヒトタンパク質凝固因子IX、ヒトA1AT、ヒト血液凝固因子VIII(その野生型およびBドメイン欠失突然変異体を含む)、G−CSF(そのa、bおよびc形態を含む)、FVII/VIIa(そのaおよびb形態を含む)およびvWFよりなる群から選ばれる標的タンパク質をコードする遺伝子を含むpcDNA3.1ベクターであり、好ましくは、配列番号1,2、3または22に示される核酸配列を有する、請求項16記載のトランスフェクションベクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2008−544750(P2008−544750A)
【公表日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518853(P2008−518853)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際出願番号】PCT/EP2006/063705
【国際公開番号】WO2007/003582
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(506290545)オクタフアルマ・アー・ゲー (2)
【Fターム(参考)】