説明

ヒト脂肪組織由来成体幹細胞、繊維芽細胞、及び脂肪又は脂肪細胞を含有する皮膚美容又は形成用の組成物

本発明は、ヒト脂肪組織由来の成体幹細胞、繊維芽細胞及び脂肪又は脂肪細胞を含有する皮膚美容又は形成用の組成物及びその製造方法に関する。本発明による皮膚美容又は形成用の組成物は、脂肪吸入術により得られる脂肪含有浮遊物を培養し、前記培養容器の表面に付着した脂肪由来成体幹細胞及び繊維芽細胞含有細胞層を回収した後、ここに脂肪細胞を添加して製造することができる。本発明による組成物は、皮膚の弾力改善、シワ及び皮膚垂れの改善、形成による陥没部位の修復などの美容に有効であるだけではなく、乳房組織の形成にも有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト脂肪組織由来の成体幹細胞、繊維芽細胞、及び脂肪又は脂肪細胞を含有する皮膚美容又は形成外科用の組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞とは、自己複製能を有すると共に、2以上の細胞に分化する能力を有する細胞のことを言い、全能性幹細胞、多能性幹細胞(pluripotent stem cells)、多分化能性幹細胞(multipotent stem cells)に分類することができる。
【0003】
近年、脂肪組織が多分化能性幹細胞の新規なソースであることが判明された(B. Cousin et al., BBRC, 301:1016, 2003; A. Miranville et al., Circulation, 110:349, 2004; S. Gronthos et al., J. Cell Physiol., 189:54, 2001; M.J. Seo et al., BBRC, 328:258, 2005)。すなわち、脂肪抽出(脂肪吸入術)により得られたヒト脂肪組織に未分化細胞群が含まれており、これがインビトロ上において脂肪細胞、骨形成原細胞(osteogenic cell)、筋原細胞及び軟骨母細胞(chondrogenic cells)への分化能を有するということが報告されている(P.A. Zuk et al., Tissue Eng., 7:211, 2001; A.M. Rodriguez et al., BBRC, 315:255, 2004)。さらに、脂肪組織由来細胞が筋肉再生能及び神経血管分化を促す能力があるということが動物モデル実験により知られている。このような脂肪組織は大量に抽出することができるというメリットがあり、従来の欠点を補完する新規な幹細胞のソースとして注目されている。
【0004】
これまで知られている脂肪由来幹細胞としては、上皮細胞に分化可能なヒト脂肪由来成体幹細胞(M. Brzoska et al., BBRC, 330:142, 2005)、骨形成及び脂肪細胞に分化可能なヒト脂肪由来成体幹細胞(Y. Cao et al., BBRC, 332:370, 2005)、神経細胞に分化可能なヒト脂肪由来成体幹細胞(K.M. Safford et al., BBRC, 294:371, 2005)、脂肪細胞に分化可能なラット脂肪由来幹細胞(R. Ogawa et al., BBRC, 319:511, 2004)、骨形成及び軟骨形成細胞に分化可能なラット脂肪由来幹細胞(R. Ogawa et al., BBRC, 313:871, 2004)、軟骨形成細胞に分化可能なヒト脂肪由来幹細胞(H.A. Awad et al., Biomaterials, 25:3211, 2004)、神経細胞に分化可能なラット脂肪由来幹細胞(J. Fujimura et al., BBRC, 333:116, 2005)及び骨細胞、軟骨細胞、神経細胞又は筋肉細胞に分化可能な脂肪由来幹細胞(アメリカ特許第6、777、231号公報)などがある。
【0005】
これまで、このような脂肪由来幹細胞は、主として難治病などの治療をはじめとする医学分野において利用しようとする努力が絶えずなされてきたが、美容又は形成を目的に幹細胞を利用しようとする試みは未だあまりなされていない。
【0006】
そこで、本発明者らは、シワ改善、皮膚垂れの防止などの美容及び形成分野に幹細胞を利用するために鋭意努力した結果、脂肪吸入術により得られた脂肪含有浮遊物を培養して成体幹細胞及び繊維芽細胞含有細胞層を回収した後、脂肪と混合した結果、美容及び形成に有効であるということを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の詳細な説明】
【0007】
《技術的課題》
本発明の目的は、ヒト脂肪組織由来成体幹細胞、繊維芽細胞及び脂肪又は脂肪細胞を含有する美容又は形成用の組成物及びその製造方法を提供するところにある。
【技術的解決方法】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、(a)ヒト脂肪組織の脂肪吸入術により得られた脂肪含有浮遊物を培養容器において培養した後、前記培養容器に付着された脂肪由来成体幹細胞及び繊維芽細胞含有細胞層を回収するステップと、(b)前記回収された脂肪由来成体幹細胞及び繊維芽細胞含有細胞層を脂肪又は脂肪細胞と混合するステップと、を含む、(i)ヒト脂肪組織由来成体幹細胞、(ii)繊維芽細胞及び(iii)脂肪又は脂肪細胞を含有する皮膚美容外科又は形成外科用の組成物の製造方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、(a)ヒト脂肪組織由来ペレットをNAC(N−アセチル−L−システイン)含有培地において培養して脂肪由来成体幹細胞を製造した後、脂肪由来成体幹細胞と繊維芽細胞を回収するステップと、(b)前記回収された脂肪由来成体幹細胞及び繊維芽細胞を脂肪又は脂肪細胞と混合するステップと、を含む、(i)ヒト脂肪組織由来成体幹細胞、(ii)繊維芽細胞及び(iii)脂肪又は脂肪細胞を含有する皮膚美容又は形成用の組成物の製造方法を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、(i)ヒト脂肪組織由来成体幹細胞、(ii)繊維芽細胞及び(iii)脂肪又は脂肪細胞を含有する皮膚美容又は形成用の組成物を提供する。
【0011】
本発明の他の特徴及び実施態様は、下記の詳細な説明及び特許請求の範囲からなお一層明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明によるヒト脂肪組織由来多分化能性幹細胞、繊維芽細胞などを含むフラスコに付着する細胞を100倍率にて撮影した写真である。
【図2】図2は、本発明によるヒト脂肪組織由来多分化能性幹細胞をCORM−2含有MEBM培地において球状培養した後に免疫染色を用いてNestin、Oct4、SH2、SH3/4が発現した結果を100倍率にて示す写真である。
【図3】図3は、本発明によるヒト脂肪組織由来多分化能性幹細胞から分化された脂肪細胞を200倍率にて示すものである(A:分化された状態の位相コントラスト、B:オイルレッドO染色法により染色したもの)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、一つの観点において、ヒト脂肪組織由来成体幹細胞、繊維芽細胞及び脂肪又は脂肪細胞を含有する皮膚美容又は形成用の組成物に関する。
【0014】
本発明による組成物は、乳房組織の形成によるバスト拡大用又はシワ除去用であるが、これに制限されるものではない。例えば、微細脂肪移植術、自家脂肪移植術など顔の八字シワ及び眉間シワの除去及び弾力維持のために使用可能である。本発明による組成物に含有されるヒト脂肪組織由来成体幹細胞、繊維芽細胞及び脂肪は自家由来細胞であることが好ましい。
【0015】
本発明による美容又は形成用の組成物は、ヒト脂肪組織の脂肪吸入術により得られる脂肪含有浮遊物を培養して得られた脂肪由来成体幹細胞及び繊維芽細胞をその他の細胞又は組織と混合して製造することができる。
【0016】
一つの実施態様において、皮膚美容又は形成用の組成物は、下記の過程を経て製造することができる:(a)ヒト脂肪組織の脂肪吸入術により得られた脂肪含有浮遊物を培養容器において培養した後、前記培養容器に付着した脂肪由来成体幹細胞及び繊維芽細胞含有細胞層を回収するステップと、(b)前記回収された脂肪由来成体幹細胞及び繊維芽細胞含有細胞層を脂肪又は脂肪細胞と混合するステップ。
【0017】
さらに詳しくは、脂肪吸入術により得られる生理食塩水に浮遊された脂肪含有浮遊物を培養した後、フラスコなどの培養容器に付着した幹細胞及び繊維芽細胞を回収する直前に生理食塩水により1回洗浄して上澄み液の残余脂肪及び血球細胞などを除去し、底面に付着している幹細胞及び繊維芽細胞層をトリプシンにより処理した後に回収したり、スクラッパーにより掻き取って少量の生理食塩水に浮遊されるものを直接的に回収したり、又は、遠心分離により遠心分離された細胞層を回収して脂肪と混合して製造する。
【0018】
本発明において、前記成体幹細胞は中胚葉由来細胞であることが好ましく、前記中胚葉由来細胞は脂肪生成性の細胞であることが好ましい。
【0019】
本発明において、前記成体幹細胞はデキサメサソン、インドメタシン、インシュリン及びIBMXを含有するα−MEM培地に培養して脂肪生成性の細胞に分化されることを特徴とする。
【0020】
他の実施態様において、皮膚美容又は形成用の組成物は下記の過程を経て製造することができる:(a)ヒト脂肪組織由来ペレットをNAC(N−アセチル−L−システイン)含有培地において培養して脂肪由来成体幹細胞を製造した後、脂肪由来幹細胞と繊維芽細胞を回収するステップと、(b)前記回収された脂肪由来成体幹細胞及び繊維芽細胞を脂肪又は脂肪細胞と混合するステップ。
【0021】
前記脂肪吸入術は、脂肪除去の美容又は形成手術の1技法であって、脂肪質部を切開して真空ポンプにより脂肪質を引き抜くこと、又は、注射器の圧力により引き抜くことを意味する。
【0022】
本発明において、脂肪又は脂肪細胞としては、ヒト脂肪組織の脂肪吸入術により付随して得られるものが使用可能であるが、これに制限されるものではない。本発明における脂肪は、脂肪組織を含む。
【0023】
本発明の皮膚美容外科又は形成外科用の組成物は、脂肪を使用する場合には、脂肪組織は1mlに対して1×10〜1×10個の脂肪由来幹細胞と繊維芽細胞を含有することが好ましく、脂肪細胞を使用する場合には、脂肪由来幹細胞と繊維芽細胞の合計の細胞数に対して1〜50倍の脂肪細胞を使用することが好ましい。
【0024】
さらに、繊維芽細胞とは、繊維性結合組織の重要な成分を構成する細胞であって、繊維細胞とも呼ばれる。組織切片にして観察すれば、平らで且つ長い外形を有し、不揃いの突起がよく見られる。細胞質は、ミトコンドリア、ゴルジ体、中心体、脂質滴などを含み、その他に特殊な分化は示さない。核は染色性が弱く、楕円形である他、リンを含有する。膠原繊維に密接している場合が多く、その形成に預かると考えられて上記のように命名されることになった。本発明において、前記繊維芽細胞は脂肪組織から幹細胞を分離する過程において一緒に分離することができる。
【0025】
一方、上記のようにして得られたヒト脂肪組織由来幹細胞液から目的の表面抗原を発現している多分化能性幹細胞を得る方法としては、ソート機能を有するフローサイトメータを用いたFACS法(Int. Immunol., 10(3):275, 1998)、磁気ビーズを使用する方法、多分化能性幹細胞を特異的に認識する抗体を用いたパニング法(J. Immunol., 141(8):2797, 1998)などがある。また、大量の培養液などから多分化能性幹細胞を得る方法としては、細胞の表面に発現されて分子(以下、表面抗原と称する。)を特異的に認識する抗体を単独又は組み合わせてカラムとして使用する方法がある。
【0026】
フローサイトメータソート方式としては、水滴荷電方式、セルキャプチャー方式などが挙げられる。いかなる方法も細胞の表面抗原を特異的に認識する抗体を蛍光により標識し、標識された抗体と抗原の結合体に対する蛍光を測定して蛍光強度を電気信号に変換することにより細胞の抗原発現量を定量することができる。また、使用する蛍光物質の種類を組み合わせることにより、複数の表面抗原を発現している細胞を分離することも可能である。ここに使用可能な蛍光物質としては、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、PE(フィコエリスリン)、APC(アロフィコシアニン)、TR(テキサスレッド)、Cy3、CyChrome、Red613、Red670、TRI-Color、QuantumRedなどがある。
【0027】
フローサイトメータを用いたFACS法としては、以上のようにして得られた幹細胞溶液を集め、遠心分離などの方法により細胞を分離した後、直接的に抗体で染色する方法や、一回適当な培地中において培養、増殖を行った後に抗体を染色する方法を利用することができる。細胞の染色は、先ず、表面抗原を認識する1次抗体と目的細胞サンプルを混合し、氷上において30分から1時間かけてインキュベーションする。1次抗体が蛍光で標識されている場合には、洗浄後にフローサイトメータにより分離を行う。1次抗体が蛍光標識されていない場合には、洗浄後に1次抗体に対して結合活性を有する蛍光標識された2次抗体と1次抗体が反応した細胞を混合し、さらに氷水中において30分から1時間かけてインキュベーションする。洗浄後、1次抗体と2次抗体から染色された細胞をフローサイトメータにより分離する。
【0028】
本発明によるヒト脂肪組織由来成体幹細胞、繊維芽細胞及び脂肪を含有する組成物は皮膚の弾力を高め、シワ、特に、顔の八字シワ及び眉間シワと皮膚垂れを改善すると共に、陥没部位を形成外科により修復することにより美容に有効である。加えて、前記ヒト脂肪組織由来成体幹細胞は脂肪生成性の細胞に分化可能であることから、本発明による組成物は乳房組織形成などにも有用である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、これらの実施例は単に本発明を一層詳しく説明するためのものであり、本発明の要旨により本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではないということは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかである。
【0030】
実施例1:脂肪組織からの多分化能成体幹細胞の分離及び形成用の組成物の製造
製造例1
ヒト脂肪組織の脂肪吸入術により付随して得られる生理食塩水に浮遊された脂肪含有浮遊物を適正量の生理食塩水により満遍なく再浮遊させて細胞培養用のフラスコ又はローラーボトルに適当量入れた後、静置培養又は回転培養を行った。静置培養の場合、少なくとも6時間から12時間かけて静置した。その後、フラスコの表面に付着される細胞層(脂肪由来MSC、線維芽細胞)をトリプシンにより処理して回収した(図1)。このとき、少量の生理食塩水に浮遊されたものを直接的に回収して直ちに使用するか、あるいは、細胞層の体積を低減しようとする場合、前記生理食塩水により回収した細胞層を1000rpmにおいて10分間遠心分離して、沈下したペレット層だけを使用した。前記分離された細胞層には成体幹細胞と繊維芽細胞が含有されている。前記分離された細胞層を脂肪と混合して本発明による成体幹細胞、繊維芽細胞及び脂肪又は脂肪細胞を含有する皮膚美容又は形成用の組成物を製造した。
【0031】
製造例2
ヒト脂肪組織から多分化能性幹細胞を分離及び精製した。すなわち、分離されたヒト脂肪組織をPBSにより3回に亘って洗浄した後、組織を細かく切断した後、コラゲナーゼタイプ1(1mg/ml)を添加したDMEM−LG(低グルコース)培地を用いて脂肪とDMEMを1:3の割合にて混合し、37℃の温度下において1時間かけて分解させた。PBSにより洗浄後、1000rpmにおいて5分間遠心分離した。上澄み液は吸入し、底面に残留しているペレットは1:1で混合した10%FBSとDMEM−LG(低グルコース)により洗浄した後、1000rpmで5分間遠心分離した。残留ペレットは100μm網目に通させてフィルターリングして破片を除去した後、PBSにより洗浄した。その後、DMEM(10%FBS、2mMNAC、0.2mMアスコルビン酸)培地にインキュベーションした。一晩経過後、未付着細胞はPBSにより洗浄し、K−NAC培地(ケラチノサイト−SFM培地+2mM NAC+0.2mMアスコルビン酸+0.09mMカルシウム+5ng/ml rEGF+50μg/ml BPE+5μg/mlインシュリン+74ng/mlヒドロコルチゾン)を2日置きに交換しながら培養してヒト脂肪組織由来多分化能性幹細胞及び繊維芽細胞液を得た。前記得られた細胞に脂肪を混合して、本発明による成体幹細胞、繊維芽細胞及び脂肪又は脂肪細胞を含有する皮膚美容外科又は形成用の組成物を製造した。
【0032】
実施例2:脂肪由来多分化能性幹細胞の免疫学的な特性
実施例1において得られた脂肪組織由来成体幹細胞をPBSにより洗浄し、トリプシン処理した後に細胞を回収して5分間1000rpm、4℃の条件下において遠心分離した。上澄み液を除去した後、2%FBS及びPBSの混合液を入れて洗浄し、その後、1000rpm、5分間及び4℃の条件下において遠心分離を行った。上澄み液を除去した後、細胞をPBSに浮遊させてサンプル数だけ1×10個の細胞を分注し、その後、1000rpm、5分間及び4℃の条件下において遠心分離を行った。次いで、上澄み液を除去し、150μlのブロッキング溶液(PBS中の5%FBS)を入れた後、よく混合して1000rpm、5分間及び4℃の条件下において遠心分離した。さらに上澄み液を除去し、100μlのブロッキング溶液(PBS中の5%FBS)を入れた後、よく混合して4℃の温度条件下において30分間反応させた。さらに、1000rpm、5分間及び4℃の条件下において遠心分離した後、上澄み液を除去し、150μlのブロッキング溶液(PBS中の5%FBS)を入れた後によく混合し、各ウェルに抗体(R-phycoerythrin-conjugated mouse anti-human monoclonal antibody)を入れ、4℃の温度条件下において30分間反応させた。反応後に1000rpm、5分間及び4℃の条件下において遠心分離した。上澄み液を除去した後にPBSにより洗浄し、1000rpm、5分間及び4℃の条件下において遠心分離した。さらに前記上澄み液を除去した後にPBSにより洗浄し、1000rpm、5分間及び4℃の条件下において遠心分離する過程を繰り返し行った。上澄み液を除去した後、200μlのPBSによく混合した後、1%パラホルムアルデヒドを入れて固定し、フローサイトメータを用いて分析した。
【0033】
【表1】

【0034】
その結果、表1に示すように、本発明の脂肪組織由来成体幹細胞は、CD73に対しては91%、CD90に対しては97%、CD29に対しては96%、CD44に対しては83%、CD105に対しては80%の陽性反応を示していた。また、他の抗原に対する免疫表現型を確認した結果、CD33、CD34、CD45、CD4、CD31、CD62p、CD14及びHLA−DRに対していずれも陰性の免疫学的な特性を示していた。
【0035】
実施例3:脂肪組織由来幹細胞の免疫染色分析
前記実施例1において得られた脂肪組織由来幹細胞をPBSにより3回に亘って洗浄し、4%パラホルムアルデヒドを含有するPBSにより30分間固定した。PBSにより3回に亘って洗浄した後、0.1%トリトン−X100を含有するPBSに10分間透過させた。PBSにより3回に亘って洗浄した後、10%NGSにより1時間かけて反応させ、1次抗体を含有するPBSで一晩、反応させた。PBSにより3回に亘って洗浄し、2次抗体により暗室中において1時間かけて反応させた。PBSにより3回に亘って洗浄した後、マウントした。
【0036】
その結果、図2に示すように、本発明による多分化能性幹細胞球体は、未分化状態の細胞マーカーであると言えるOct4及び中間葉幹細胞のマーカーであるSH2(CD105)、SH3/4(CD73)に対して陽性反応を示していた。
【0037】
実施例4:脂肪由来多分化能性幹細胞の脂肪細胞への分化
実施例1において得られた脂肪組織由来多分化能成体幹細胞を5%FBS、1μMデキサメタソン、200μMインドメタシン、10μg/mlインシュリン、0.5mMIBMX(3−イソブチル−1−メチルキサンチン)を含有するα−MEM培地中において2週間培養して多分化能性幹細胞の脂肪生成性の細胞への分化を誘導し、オイルレッドO染色法を用いて分析した。その結果、図3に示すように、本発明によるヒト脂肪組織由来多分化能性幹細胞が脂肪生成性の細胞に分化されていることを確認することができた。
【0038】
実施例5:脂肪由来多分化能性幹細胞を用いた動物実験
マウスを用いて、脂肪組織由来幹細胞の脂肪体積保存能を確認した。マウスは実験群12匹と対照群12匹を使用し、実験群には脂肪1mlと実施例1において分離された脂肪組織由来多分化能性成体幹細胞及び繊維芽細胞(5×10/200μl生理食塩水)をマウスのうち皮下脂肪のない部位である頭部皮下に注入し、対照群には脂肪1ml+ビヒクル(200μl生理食塩水)を注入した。
【0039】
15日経過後、マウスの頭皮を切開して脂肪を外した後、体積を測定した。その結果、対照群においては注入した脂肪の体積が31%に縮小されているのに対し、実施例1において製造した組成物を一緒に注入した実験群においては注入した脂肪体積の45%が維持されていた。この結果から、本発明による脂肪組織由来幹細胞と繊維芽細胞は脂肪移植術において発生する脂肪体積の低下をかなり低減する効果があるということを確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上詳述したように、本発明は、ヒト脂肪組織由来成体幹細胞、繊維芽細胞及び脂肪又は脂肪細胞を含有する皮膚美容又は形成用の組成物を提供する効果がある。本発明による皮膚美容又は形成用の組成物は、皮膚の弾力を高め、シワ及び皮膚垂れを改善すると共に、陥没部位を形成により修復することにより、美容に有効であるだけではなく、前記成体幹細胞が脂肪生成性の細胞に分化可能であることから、乳房組織の形成などにも有効である。
【0041】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳述したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は単なる好適な実施様態に過ぎず、これにより本発明の範囲が制限されることはないという点は明らかであろう。よって、本発明の実質的な範囲は特許請求の範囲とこれらの等価物により定まると言えるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ヒト脂肪組織由来成体幹細胞、(ii)繊維芽細胞及び(iii)脂肪又は脂肪細胞を含有する皮膚美容又は形成用の組成物。
【請求項2】
前記組成物は、乳房組織の形成用又はシワ除去用であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
次のステップを含む、(i)ヒト脂肪組織由来成体幹細胞、(ii)繊維芽細胞及び(iii)脂肪又は脂肪細胞を含有する皮膚美容又は形成用の組成物の製造方法:
(a)ヒト脂肪組織の脂肪吸入術により得られた脂肪含有浮遊物を培養容器において培養した後、前記培養容器に付着された脂肪由来成体幹細胞及び繊維芽細胞含有細胞層を回収するステップと、
(b)前記回収された脂肪由来成体幹細胞及び繊維芽細胞含有細胞層を脂肪又は脂肪細胞と混合するステップ。
【請求項4】
前記成体幹細胞は、中胚葉由来細胞であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記成体幹細胞はデキサメサソン、インドメタシン、インシュリン及びIBMXを含有するα−MEM培地で培養して脂肪細胞に分化されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
次のステップを含む、(i)ヒト脂肪組織由来成体幹細胞、(ii)繊維芽細胞及び(iii)脂肪又は脂肪細胞を含有する皮膚美容又は形成用の組成物の製造方法:
(a)ヒト脂肪組織由来ペレットをNAC(N−アセチル−L−システイン)含有培地において培養して脂肪由来成体幹細胞を製造した後、脂肪由来成体幹細胞と繊維芽細胞を回収するステップと、
(b)前記回収された脂肪由来成体幹細胞及び繊維芽細胞を脂肪又は脂肪細胞と混合するステップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−539546(P2009−539546A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515298(P2009−515298)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際出願番号】PCT/KR2007/002641
【国際公開番号】WO2007/145438
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(508252859)アールエヌエル バイオ カンパニー,リミティッド (2)
【Fターム(参考)】