説明

ヒト膵臓上皮前駆細胞ならびにその単離および使用の方法

【課題】膵臓前駆細胞集団、ならびに膵臓前駆細胞の単離および培養法を提供すること。
【解決手段】本発明は、ヒト膵臓上皮前駆細胞の実質的に純粋な集団、ならびにこの膵臓前駆細胞を単離および培養する方法を開示している。膵臓前駆細胞の微小環境を注意深く操作することによって、多数回の継代が達成できる。この多数回の継代においては、膵臓前駆細胞は、老化せず、そしてさらに機能的な外分泌細胞、または内分泌細胞になることができる。さらに、ヒト膵臓前駆細胞を使用するいくつかの方法が、本明細書において開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、発生生物学および細胞生物学の分野である。特に、本発明は、機能的内分泌細胞および外分泌細胞に分化することができる膵臓上皮前駆細胞集団、膵臓上皮前駆細胞の単離法、膵臓上皮前駆細胞の特徴づけ、ならびに膵臓上皮前駆細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景技術)
幹細胞および前駆細胞の単離および特徴づけは、これらの細胞が多くの潜在性を有することから、極めて重要な研究課題である。ヒトの身体で任意の細胞型になる能力を有する全能性幹細胞は、全能性細胞よりも分化した前駆細胞を産生する。これらの前駆細胞型の1つは、所定の膵臓上皮前駆細胞である。膵臓上皮前駆細胞は、異なる型の膵臓上皮前駆細胞となる能力を有する。異なる型の膵臓上皮前駆細胞には、腺房細胞、膵島細胞、および導管細胞が含まれる。腺房細胞は、一般に、膵臓頭部近傍で見出され、電子顕微鏡で容易に見ることができる酵素原顆粒を含む。腺房細胞は、アルカリ性の消化液を小腸へ放出することにより外分泌機能を行う。1日あたり約1500mLの膵液が分泌され、これは脂質およびタンパク質を分解するために必要な酵素を含む。非特許文献1。ランゲルハンス島とも呼ばれる膵島細胞には4つの型(膵島α、膵島β、膵島δ、および膵島PP)が存在する。膵島α細胞は、糖新生(すなわち、エネルギー貯蔵を破壊してより多くの循環グルコースを産生する)を促進するグルカゴンを分泌する。膵島β細胞は、循環グルコースの利用可能なエネルギー源への貯蔵を促進するインスリンを分泌する。他に若年性糖尿病としても既知の真性糖尿病I型では、膵島β細胞への自己免疫攻撃により膵島β細胞の機能が欠損し、これによりインスリンが欠乏して循環グルコースレベルが減少すると考えられている。膵島δ細胞は、グルカゴンおよびインスリンの分泌を制御するソマトスタチンを分泌する。第4の膵島細胞型である膵島PP(膵臓ポリペプチド)は、膵臓内で既知の機能を有するか定かではない。別の種類の膵臓下(sub−pancreatic)細胞は、導管細胞である。これらの細胞は、膵臓の異なる部分を接続する管を裏打ちしている。
他の型の前駆細胞と同様に、前駆細胞は短命な性質であるので、膵臓上皮前駆細胞の単離は困難である。単離に必要な前駆細胞の操作により、これらの細胞の脆弱な前駆細胞状態を阻止して分化させることができる。成長因子または基質との接触によっても膵臓前駆細胞を外分泌または内分泌細胞へ分化し始めるように誘導することができる。膵臓細胞領域の研究により、ラット由来のいくつかの膵臓上皮細胞系列が確立されている。非特許文献2。他の研究には、ヒト成体膵臓細胞の単離ならびに肝細胞成長因子/分散因子(HGF/SF)を用いたこれらの膵臓細胞の膵島β様構造への成長の誘導が含まれる。Jeffrey他、特許文献1。他の研究には、最初に血清を含む低グルコース培地で培養し、その後培地を高濃度の血清およびグルコース含有量を含む培地と交換することによる成体膵臓細胞からの膵島細胞成長の誘導が含まれる。特許文献2。膵臓前駆細胞領域のさらに他の研究には、前糖尿病成体からの前駆細胞の単離および機能的膵島細胞の成長を促進する血清を含有する所定の培地での培養が含まれる。特許文献3。しかし、これらの「前駆」細胞は全て膵島細胞のみを産生する。上記の研究の膵臓細胞は、内分泌細胞型および外分泌細胞型の両方に分化する能力を有さない。おそらく、上記研究の膵臓細胞は、膵臓前駆細胞の分化経路にさらに委ねられるので、本発明のヒト膵臓前駆細胞と異なる型の膵臓細胞であると考えられる。さらに、培地の補足に血清を使用する上記研究で使用した培養条件は、不都合な結果を招き得る。血液凝固後の血液の液体部分である血清は、アルブミンおよびα、βグロブリンなどの多くの生体分子を含む。in vivoでは、組織が損傷しない限り、細胞は通常血清の等価物に曝露されない。したがって、血清中での膵臓細胞の培養は、in vivoで存在する膵臓細胞内の生理学的パラメータを正確に反映し得ない。
理想的な膵臓前駆細胞集団は、外分泌(すなわち、腺房)細胞、外分泌細胞(すなわち、膵島α、膵島β、膵島δ、膵島pp)細胞、および導管細胞に分化可能であるべきである。このような膵臓前駆細胞集団は、臨床環境において(例えば、一定の型の糖尿病の治療または機能的膵臓細胞に分化することができる膵臓前駆細胞の移植による機能欠損膵臓細胞の治療)に有用であり得る。したがって、膵臓前駆細胞の分化潜在能力が保持される一方でこれらの細胞が増殖され、かつ老化が回避されるように、膵臓前駆細胞集団、ならびに膵臓前駆細胞の単離および培養法についての必要性が存在する。本明細書中に開示の膵臓前駆細胞ならびにこれらの膵臓前駆細胞の単離および培養法は、これらの必要性を満たし、関連する利点も得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5,888,705号明細書
【特許文献2】国際公開第9715310号パンフレット
【特許文献3】米国特許第5,834,308号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ganong, William F.Review of Medical Physiology、第26章、「胃腸機能の制御」、第15版、Appleton and Lange (1991)
【非特許文献2】Stephan,J.他、Endocrinology 140:5841−5854,(1999)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の開示)
本発明は、発生生物学および細胞生物学の分野に関連する。1つの態様では、本発明は、機能的な外分泌または内分膵臓細胞に分化する多分化能性を有する実質的に純粋なヒト膵臓上皮前駆細胞集団に関する。
【0006】
本発明の別の態様では、本発明は、機能的な外分泌または内分膵臓細胞に分化する多分化能性を有する実質的に純粋なヒト膵臓上皮前駆細胞集団の単離法に関する。
【0007】
本発明のさらに別の態様では、本発明は、機能的な外分泌または内分膵臓上皮細胞に分化する多分化能性を有する実質的に純粋なヒト膵臓上皮前駆細胞集団を維持する方法およびこれらの膵臓前駆細胞をその多分化能性を保持する一方で老化を回避するように維持または培養する方法に関する。
【0008】
本発明のさらに別の態様では、本発明は、免疫原の供給源をもたらす方法および免疫原としての実質的に純粋な膵臓前駆細胞集団の使用に関する。
【0009】
本発明のさらに別の態様では、本発明は、膵臓細胞の供給源としての実質的に純粋な膵臓前駆細胞集団を使用したヒト膵臓組織モデルを生成して非ヒトの哺乳動物レシピエントに膵臓前駆細胞を導入する方法に関する。
【0010】
本発明の別の態様では、本発明は、細胞治療を提供することによって実質的に純粋なヒト膵臓前駆細胞集団をレシピエントに導入する方法に関する。
【0011】
本発明の別の態様では、本発明は、実質的に純粋なヒト膵臓前駆細胞集団を膵臓の生物学的成分の供給源として使用し、1つまたは複数のこれらの膵臓の生物学的成分が開発される薬物の標的である、薬学的薬物を開発する方法に関する。
本発明の別の態様では、本発明は、実質的に純粋なヒト膵臓前駆細胞集団を核酸またはタンパク質の供給源として使用し、これらの核酸またはタンパク質をバイオアッセイにおける1つまたは複数の主成分またはバイオアッセイの開発に使用する、バイオアッセイを開発する方法に関する。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1) ヒト膵臓前駆細胞の実質的に純粋な集団であって、該膵臓前駆細胞は、ヒト胎児膵臓組織から単離された細胞の初代培養物から継代培養されており、該膵臓前駆細胞の集団は、腺房細胞、管細胞、または島細胞に分化し、かつ外分泌細胞および内分泌細胞の両方を有する膵臓組織を形成する多能性を保持している、ヒト膵臓前駆細胞の実質的に純粋な集団。
(項目2) 前記膵臓前駆細胞が、単離され、そして無血清培地中に維持されている、項目1に記載の膵臓前駆細胞。
(項目3) 前記膵臓前駆細胞が、少なくとも1つの細胞マーカーの発現によって同定可能である、項目1に記載の膵臓前駆細胞。
(項目4) 前記細胞マーカーが、以下:サイトケラチン−19、癌胎児抗原、炭酸脱水素酵素II、および嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子からなる群より選択される、項目3に記載の膵臓前駆細胞。
(項目5) 前記膵臓前駆細胞が、小さくかつ丸い、約10μm直径の細胞の形態、および非常に圧縮された円柱状の上皮形態を有する、項目4に記載の膵臓前駆細胞。
(項目6) 項目5に記載の膵臓前駆細胞であって、該膵臓前駆細胞は、アミラーゼを発現する腺房細胞にさらに分化し得、そして該腺房細胞が、腺房を形成する大きなクラスターの外観を有する、膵臓前駆細胞。
(項目7) 項目5に記載の膵臓前駆細胞であって、該膵臓前駆細胞は、サイトケラチン19を発現する管細胞にさらに分化し得、そして該管細胞が、小さくかつ丸い、約40μm直径の細胞の形態、および圧縮された立方形円柱状の上皮形態を有する、膵臓前駆細胞。
(項目8) 項目5に記載の膵臓前駆細胞であって、該膵臓前駆細胞は、インスリンおよびグルカゴンを発現する島細胞にさらに分化し得、そして該島細胞が、腺房外分泌単位によって囲まれた上皮島の外観を有する、膵臓前駆細胞。
(項目9) 項目1に記載のヒト膵臓前駆細胞の実質的に純粋な集団を単離する方法であって、以下の工程:
(a)ヒト胎児膵臓前駆細胞の供給源を顕微解剖して、膵臓前駆細胞を含む膵臓細胞の混合集団を得る、工程;
(b)該膵臓前駆細胞の生存を維持するのに十分な条件下で、栄養性培地中に該膵臓細胞の混合した集団を配置する工程であって、該栄養性培地は、以下:インスリン、トランスフェリン、上皮増殖因子、エタノールアミン、ホスホエタノールアミン、セレン、トリヨードサイロニン、プロゲステロン、ヒドロコルチゾン、フォルスコリン、ヘレグリン、アプロチニン、およびウシ下垂体抽出物からなる栄養素を含む、工程;
(c)膵臓前駆細胞が凝集形態または単層形態を形成することを可能にするのに十分な適切な培養条件を維持する工程;ならびに
(d)該凝集形態または単層形態を継代培養して、膵臓前駆細胞の実質的に純粋な集団を選択する、工程、
を包含する、方法。
(項目10) 異種レシピエントに対して免疫原の供給源を提供する方法であって、該方法は、該レシピエントにおける免疫応答を誘導するのに有効な量で、項目1に記載の複数の膵臓前駆細胞を導入する工程、を包含する、方法。
(項目11) 免疫不全または免疫無防備状態の非ヒト哺乳動物レシピエントにおいて、ヒト膵臓組織モデルを生成する方法であって、該方法は、間葉組織と再結合された、項目1に記載の実質的に純粋な集団由来の複数のヒト膵臓前駆細胞を、該レシピエント内のある位置で該レシピエントに投与する工程であって、該位置は、該膵臓前駆細胞の増殖および分化を支持し得る、工程、
を包含する、方法。
(項目12) ヒトレシピエントに対して細胞療法を提供する方法であって、該方法は、項目1に記載の実質的に純粋な集団由来の複数のヒト膵臓前駆細胞を、該レシピエント内のある位置で該レシピエントに投与する工程であって、該位置は、該膵臓前駆細胞の増殖および分化を支持し得る、工程、
を包含する、方法。
(項目13) 1つ以上の薬物の薬学的開発において膵臓組織特異的生物学的成分の供給源を提供する方法であって、該方法は、以下:項目1に記載のヒト膵臓前駆細胞の集団を単離する工程、および開発中の1つ以上の薬物の標的として、該膵臓前駆細胞、または該細胞の任意の細胞部分を用いる工程、を包含する、方法。
(項目14) バイオアッセイの開発において核酸またはタンパク質の供給源を提供する方法であって、該方法は、以下:項目1に記載のヒト膵臓前駆細胞由来の核酸またはタンパク質を単離する工程、および該バイオアッセイにおける1つ以上の主成分として該核酸またはタンパク質を用いる工程、を包含する、方法。
(項目15) 前記レシピエントを免疫抑制する工程をさらに包含する、項目12に記載の方法。
(項目16) 項目12に記載の方法であって、前記膵臓前駆細胞に対する前記レシピエントの免疫系応答を制限するバリアデバイス中に、該膵臓前駆細胞を提供する工程、をさらに包含する、方法
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、2つの異なる型の培地で成長させたヒト膵臓導管上皮細胞を示す。図1A(左)は、プレート上をフィブロネクチンで被覆したCMRL 1066中で増殖させた膵臓導管細胞を示す。巨大な円形の細胞が膵臓上皮細胞である。図1B(右)は、F12/DMEM培地中で成長させた膵臓上皮細胞を示す。膵臓上皮細胞は平らになって単層を形成している。
【図2】図2は、3継代後のコラーゲン被覆プレートで成長させたヒト膵臓導管上皮細胞を示す。矢印は、分裂細胞を示す。
【図3】図3は、組織組換え移植片の染色結果を示す。図3Aは、20倍の倍率の組織組換え移植片における膵島形成を示す。図3Bは、60倍の倍率の組織組換え移植片における膵島形成を示す。図3Cは、組織組換え移植片内の膵島、導管、および腺房組織の形成を示す。図3Dは、組織組換え移植片における導管形成を示す。図3Eは、組織組換え移植片における腺房細胞のクラスター(または凝集体)の形成を示す。
【図4】図4は、組織組換え移植片におけるグルカゴン(青色)およびインスリン(褐色)の染色結果を示す。
【図5】図5は、組織組換え移植片におけるインスリン(褐色)の染色結果を示す。
【図6】図6は、組織組換え移植片における導管形成を示す。
【図7】図7は、組織移植片からのパラフィン包埋組織切片におけるグルカゴン(青色)およびインスリン(褐色)の染色結果を示す。
【図8】図8は、全能性幹細胞からの膵臓細胞の発生の概略図である。点線は、本発明のヒト膵臓前駆細胞が属する分化の段階を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(発明を実施するための様式)
以下の発明の詳細な説明は、当業者による本発明の実施の一助となる。本発明の精神および範囲を逸脱することなく当業者により本明細書中に開示の実施形態を修正することができるので、この詳細な説明は、本発明を制限すると解釈されるべきではない。本開示を通して、種々の刊行物、特許、公開特許明細書は、参考として援用される。これらの刊行物、特許、公開特許は、その全体が本明細書中で本発明の開示の参考として援用される。
【0014】
本発明の実施には、特記しない限り、当業者の範囲内の従来の免疫学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、および組換えDNA技術を使用する。例えば、Sambrook他、「分子クローニング:実験マニュアル」、第2版(1989)、「現代の分子生物学プロトコール」(F.M.Ausubel他編、(1987))、酵素学方法論シリーズ(Academic Press, Inc.)、PCR2:実践アプローチ(M.J.MacPherson,B.D. Hames and G.R.Taylor編、(1995))、Harlow and Lane編(1988)、「抗体、実験マニュアルおよび動物細胞培養」(R.I.Freshney編(1987))を参照のこと。
【0015】
(定義)
明細書および特許請求の範囲で使用される、単数形「a」、「an」、および「the」には、文脈上特記しない限り複数形の意味が含まれる。例えば、用語「a cell」には、その混合物を含む、複数の細胞が含まれる。
【0016】
明細書および特許請求の範囲で使用される、用語「膵臓上皮前駆細胞」および「膵臓前駆細胞」は交換可能であり、ヒト起源の「膵臓上皮前駆細胞」および「膵臓前駆細胞」を指す。
【0017】
「膵臓上皮前駆細胞」および「膵臓前駆細胞」は、分化を終えた本質的に非分裂段階ではない膵臓内に見出される分裂前駆細胞を指す。「膵臓上皮前駆細胞」および「膵臓前駆細胞」は、最終的に多分化能性の組織特異的細胞を産生する全能性細胞に由来する。これらの多分化能性組織特異性分裂前駆細胞は、内胚葉細胞、外胚葉細胞、および中胚葉細胞を産生することができる。内胚葉多能生細胞のうちのいつくかは腸特異的分裂前駆細胞に分化する。他の腸特異的前駆細胞のうちのいくつかは、膵臓細胞になることが予め決定されている。これは、特許明細書中に記載の細胞集団が属するこの発生段階である。より詳細には、本明細書中に開示の「膵臓上皮前駆細胞」および「膵臓前駆細胞」の集団は、腸特異的前駆細胞が膵臓(または膵臓の一部)になると予め決定されている段階と膵臓特異的前駆細胞が細胞の膵臓下細胞型となることに委ねられている段階との間である。膵臓特異的前駆細胞は、以下のいくつかの型の細胞に分化することができる:腺房細胞、導管細胞、ならびに膵島α、膵島β、膵島δ、および膵島PP。腺房細胞の1つの外分泌機能は、腸への消化液の分泌である。膵島細胞の1つの内分泌機能は、グルカゴン(膵島α)およびインスリン(膵島β)の分泌である。本発明の膵臓前駆細胞は、上記のいかなる型の膵臓下細胞にも分化されなかったが、これらの任意の細胞になる能力を有する。
【0018】
「膵臓下」は、完全な器官としての膵臓内の細胞基盤を指す。膵臓下細胞の例には、腺房細胞、導管細胞、および膵島細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0019】
「全能性細胞」および「全能性幹細胞」は、全体を通して交換可能に使用され、これは、哺乳動物の体内で任意の細胞型になる能力を有する幹細胞を指す。
【0020】
「多分化能性」および「多能性」は、全体を通して交換可能に使用され、細胞が複数の細胞の1つになることができるが、もはや体内のいかなる型の細胞になることができない段階を指す。「多分化能性」細胞は、1つまたは複数の型の複数の細胞の前駆体であるので、「幹細胞」を指すのではなく、むしろ「前駆細胞」を指す。
【0021】
本明細書中で使用される、「所定の膵臓」は、腸特異的段階以降かつ最終的に分化した膵臓細胞(腺房細胞、膵島細胞、または導管細胞など)段階以前の多能性細胞の発達段階を指す。「所定の膵臓」細胞は、膵臓細胞になるとされているが、最終的に分化した膵臓細胞に未だ発達し始めていない。異なる要因により、所定の膵臓細胞は分化し始める。非限定的な例には、血清への曝露、インスリン成長因子(IGF)または上皮成長因子(EGF)への曝露、細胞の周辺組織または微小環境との接触、ならびに周辺組織との細胞−細胞接触が含まれる。発生の連鎖は、体内で任意の細胞になることができる全能性幹細胞から始まる。全能性幹細胞は、その細胞全能性により真の幹細胞である。全能性幹細胞以降の任意の段階では、ある経路に委ねられてもはや体内でいかなる種類の細胞になることができないので、「所定の前駆細胞」になる。
【0022】
用語「抗体」は、抗原に結合することができる免疫グロブリン分子である。本明細書中で使用されるこの用語は、無傷の免疫グロブリン分子だけでなく、抗イディオタイプ抗体、突然変異体、断片、融合タンパク質、ヒト化タンパク質、および必要な特異性の抗原認識部位を含む免疫グロブリン分子の改変物も含まれる。
【0023】
用語「抗原」は、抗体が結合することができる1つまたは複数のエピトープを含むことができる分子である。抗原は、免疫原性の特性を有することができる(すなわち、免疫応答を誘導する)物質である。抗原は、ある型の免疫原であると考えられる。本明細書中で使用される、用語「抗原」は、完全長タンパク質ならびに1つまたは複数のエピトープを含有するか含むそのペプチド断片を意味するとことを意図する。
【0024】
用語「表面抗原」および「細胞表面抗原」を、本明細書中では交換可能に使用し、これは、細胞の原形質膜成分を指す。これらの成分には、内在性および末梢性膜タンパク質、糖タンパク質、多糖類、脂質、ならびにグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)結合タンパク質が含まれるが、これらに限定されない。「内在性膜タンパク質」は、細胞の原形質膜の脂質二重層全体に伸長している膜貫通タンパク質である。典型的な完全膜タンパク質は、一般に疎水性アミノ酸残基を含む少なくとも1つの膜全体に及ぶセグメントからなる。末梢性膜タンパク質は脂質二重層内部まで伸長しておらず、他の膜タンパク質との非共有相互作用によって膜表面に結合している。GPI結合タンパク質は、脂質二重層に挿入された脂質テールによって細胞表面上に固定されたタンパク質である。
【0025】
本明細書中で使用される、用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一の抗体集団を有する抗体組成物を指す。抗体の供給源および作製様式(例えば、ハイブリドーマまたは組換え合成)に関して制限されることを意図しない。モノクローナル抗体は、非常に特異的で1つの抗原部位に指向される。典型的に異なる決定基(エピトープ)に対して指向する異なる抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の1つの決定基に対して指向する。
【0026】
「モノクローナル抗体集団」は、複数の異種モノクローナル抗体(すなわち、集団を含む各モノクローナル抗体は相互に異なる抗原決定基を認識することができる)を指す。
【0027】
「免疫原」は、免疫応答を誘導する任意の物質を指す。免疫原である物質を、「免疫原性」と記載する。免疫応答の誘導には、体液性応答(例えば、抗体の産生)または細胞性応答(例えば、細胞傷害性T細胞のプライミング)、炎症性応答(例えば、白血球の漸増)、ならびにサイトカインおよびリンホカインの分泌が含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
免疫化または移植で使用される細胞に適用される、用語「異種」は、細胞がレシピエント由来の遺伝子型が異なる構成要素に由来することを意味する。例えば、異種細胞は、レシピエントと同一の種由来の異なる種または異なる個体に由来し得る。ある種の個体由来の胚細胞は、同一の種の成体と異種である。
【0029】
細胞がそれぞれ胚の3つの胚葉(外胚葉、内胚葉、または中胚葉)の1つに由来する場合、細胞は「外胚葉」、「内胚葉」、または「中胚葉」起源である。外胚葉は、表皮および神経系細胞を産生する外層である。内胚葉は、消化管およびその関連器官(膵臓および肝臓が含まれるが、これらに限定されない)の裏打ちを産生する内層である。中間層である中胚葉は、いくつかの器官(心臓、腎臓、および生殖腺が含まれるが、これらに限定されない)、結合組織(例えば、骨、筋肉、腱)、および血球を産生する。
【0030】
用語「培地」、「細胞培養培地」、および「培養培地」は、交換可能に使用される。この用語は、哺乳動物細胞が倍地中で増殖する水性微小環境を指す。培地は、物理化学的、栄養学的、およびホルモンの微小環境を含む。
【0031】
細胞培養培地は、培地中の血清の容量%が細胞表面上の抗原部位または抗体結合部位をマスクしない場合に、「本質的に無血清」である。用語「本質的に無血清」は、一般に、細胞培養培地が約50%未満(容量あたり)、好ましくは約25%未満、さらにより好ましくは約5%未満、最も好ましくは約0.1%未満の血清を含む場合に適用される。
【0032】
抗原部位または抗体結合部位が抗体または抗体の一部により結合するか、またはこれらの抗原認識に利用不可能なように、少なくとも約75%の膵臓前駆細胞表面、より好ましくは少なくとも約90%の膵臓前駆細胞表面、さらにより好ましくは少なくとも約95%の膵臓前駆細胞表面、最も好ましくは少なくとも約99%の膵臓前駆細胞表面が、この細胞表面に結合する血清に由来する血清生体分子を有さない場合、細胞表面は「実質的に無血清生体分子」である。細胞表面を、細胞のサイズを測定することにより、顕微鏡かまたはフローサイトメトリーのいずれかにより同定し得る。例えば、一般に、種々の既知のサイズの合成ビーズが、フローサイトメトリーの較正に使用される。少量の較正ビーズを膵臓前駆細胞と混合し得、得られた集団をフローサイトメトリーで分析する。次いで、膵臓前駆細胞を、較正ビーズのサイズと比較し得る。ビーズサイズが既知であるので、細胞表面量の算出を達成し得る。
【0033】
本明細書中で使用される場合、膵臓前駆細胞の「実質的に純粋な」集団は、少なくとも約85%の膵臓前駆細胞、好ましくは少なくとも約90%の膵臓前駆細胞、さらにより好ましくは約95%以上の膵臓前駆細胞を含む細胞集団である。
【0034】
「規定培地」および「基底細胞維持培地」は、本明細書中で交換可能に使用され、これは、培地成分が既知であるように培地中の細胞の生存および/または増殖に必要な栄養の要件およびホルモンの要件を含む培地をいう。伝統的には、規定培地は、増殖および/または生存に必要な栄養因子および増殖因子の添加によって処方される。代表的には、規定培地は、1つまた複数の以下のカテゴリーから少なくとも1つの成分を提供する:a)全ての必須アミノ酸(通常、20種のアミノ酸+シスチンの基本的なセット)、b)エネルギー源(通常、グルコースのような炭水化物の形態)、c)低濃度で必要とされるビタミン類および/または他の有機化合物、d)遊離脂肪酸、およびe)微量元素(微量元素は代表的に非常に低濃度(通常、マイクロモル範囲)で必要とされる無機化合物または天然に存在する元素として定義される)。規定培地はまた、以下の任意のカテゴリー由来の1つまたは複数の成分を必要に応じて補足することができる:a)1つまたは複数の分裂促進剤、b)塩および緩衝液(例えば、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩)、c)ヌクレオシドおよび塩基(例えば、アデノシンおよびチミジン、ヒポキサンチンなど)、ならびにd)タンパク質および組織加水分解物。
【0035】
本明細書中で使用される、「馴化培地」は、膵臓上皮前駆細胞が培養されたインタクトな細胞を含まない培養培地を指す。栄養培地中で増殖した膵臓細胞は、膵臓前駆細胞の継続的な生存、増殖、および分化前の現存の状態の維持を促進する因子を放出し得る。条件培地を使用して、細胞ペレットを再構成し、培養プレートにすでに存在する細胞に添加し得る。馴化培地を単独で使用するか、または膵臓細胞の供給に使用される栄養培地を補足され得る。馴化培地が栄養培地に由来しており、本明細書中に記載のように、馴化培地もまた本質的に無血清であるため、条件培地もまた本質的に無血清である。
【0036】
「標準的なインキュベーション条件」は、細胞が配置される組織培養のために設計されたインキュベーター中での物理化学的条件をいう。一般に、標準的なインキュベーション条件は、約37℃で5%CO含有量(加湿)である。全ての組織培養技術および機器は、滅菌条件下で行うべきである。組織培養容器は、細胞培養に使用され得る任意の型の容器をいう。非限定な例として、フラスコまたはプレートが挙げられる。
【0037】
「分裂促進剤」または「成長因子」は、哺乳動物細胞の有糸分裂を刺激する分子である。一般に、分裂促進剤または成長因子は、細胞培養中の哺乳動物の生存および増殖を増加し、これはポリペプチドである。細胞分裂誘起性ポリペプチドは、産生される方法に無関係の「天然」または「天然配列」ポリペプチド(すなわち、天然に存在する成長因子のアミノ酸配列を有する)(例えば、分子の内因性供給源から単離するか、または組換え技術を含む合成技術によって産生され得る)、またはその変異型または突然変異体であり得る(以下の定義を参照のこと)。非限定的な例には、erbB受容体ファミリーの1つまたは複数のメンバーのアクチベーター、培養培地中のcAMPレベルを上昇させる薬剤(例えば、フォルスコリン、コレラ毒素、cAMP、またはそのアナログ)、接着分子(例えば、神経細胞接着分子(N−CAM)、ラミニン、またはフィブロネクチン)、プロゲステロン、神経栄養因子(例えば、骨由来神経栄養因子(BDNF)、および毛様体神経栄養因子(CNTF))、ニューロトロフィン3、ニューロトロフィン4、ニューロトロフィン5、またはニューロトロフィン6、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞成長因子(例えば、酸性FGF(aFGF)および塩基性FGF(bFGF))、血管内皮成長因子(VEGF)、形質転換成長因子(TGF)(例えば、TGF−αおよびTGF−β)、インスリン様成長因子(IGF−IおよびIGF−IIを含む)、ホルモン(例えば、エストロゲン、テストステロン、甲状腺ホルモン、インスリン、およびMather,J.P.およびRoberts, P.E.(1998)、「Introduction of Cell and Tissue Culture」、Plenum Press, New Yorkの138〜139頁の表8.2に列挙した任意のマイトジェン)が含まれる。
【0038】
「膵臓前駆細胞凝集体」、「膵臓前駆細胞球体」、および「膵臓細胞クラスター」は全体を通して交換可能に使用され、およそ球形に類似した三次元構造を形成し得る複数の膵臓前駆細胞の塊を指す。
【0039】
本明細書中で使用される場合、用語「移植組換え体」は、間葉組織と共に配置された膵臓前駆細胞凝集体の組み合わせ単位を指す。間葉組織は、膵臓または非膵臓起源であり得る。間葉組織は、移植片レシピエントと異種の種由来であり得る。間葉組織はまた、膵臓前駆細胞の供給源と異種の種由来でもあり得る。移植組換え体を、基質(好ましくは、軟質の生物基質(例えば、寒天))上に1時間〜72時間の間、より好ましくは6時間〜24時間の間、さらにより好ましくは一晩(約8〜16時間のインキュベーション時間)の範囲でインキュベートされ得る。Olumi A.F.ら、Cancer Research 59,5002−5011,(1999)。
【0040】
本明細書中で使用される場合、「血清」は、血液が凝固した後に残存する哺乳動物の血液の液相を指す。
【0041】
本明細書中で使用される場合、「血清生体分子」は、血清中に見出される英部津学的組成物を指す。例として、アルブミン、α1グロブリン、α2グロブリン、βグロブリン、およびγグロブリンが挙げられるが、これらに限定されない。血清生体分子は、血清中に天然に見出されるか、または血清の処理および操作に由来するかのいずれかである、全体または部分的な生物学的組成物を含み得る。
【0042】
用語「哺乳動物」または「哺乳動物の」は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、サル、競技用動物、およびペットが含まれるが、これらに限定されない温血脊椎動物をいう。
【0043】
(膵臓前駆細胞の単離および維持)
本発明の膵臓前駆細胞をヒト胎児膵臓組織から単離する。胎児の年齢は、約6週齢と約40週齢との間、好ましくは約8週齢と約26週齢との間、さらにより好ましくは約12週齢と約22週齢との間である。膵臓組織を、肉眼解剖学、外観、および胎児内の位置によって同定し得る。膵臓を識別する肉眼解剖学および外観のいくつかの特徴は以下である:細長い小葉に分かれた腹膜後腺、被膜の欠如、および腸の十二指腸の陥凹から脾臓までの伸長。膵臓は、十二指腸陥凹内の平坦な頭部、腹部を横切って伸長している細長い三面の胴部、および脾臓と連結した尾部からなる。一旦同定されると、胎児膵臓組織を、顕微解剖する。顕微解剖の目的は、結合組織および非膵臓組織(脂肪、膜など)から上皮細胞を含む構造を分離すること、または細胞を互いに分離することである。顕微解剖の非限定的な例には、機械的剪断力を付与するデバイス(すなわち、ホモジナイザー、乳鉢および乳棒、ブレンダーなど)、切断または裂くデバイス(すなわち、外科用メス、シリンジ、ピンセットなど)、または超音波処理デバイスが含まれる。あるいは、胎児膵臓組織の別の顕微解剖法は、酵素処理の使用である。顕微解剖組織に使用される種々の酵素処理は、当該分野で既知である。1つの方法は、膵臓組織から単離した細胞の生存能力を維持する緩衝培地中で部分的に剪断した膵臓組織を消化するためのコラゲナーゼ−ディスパーゼの使用を含む。少なくとも約0.5mg/ml、より好ましくは少なくとも約1mg/ml、さらにより好ましくは少なくとも約5mg/mlの濃度のコラゲナーゼ−ディスパーゼを使用する。酵素量は、胎児の年齢および膵臓組織の大きさに依存する。好ましい実施形態では、約14週齢と約22週齢との間の胎児由来の膵臓組織を、約5mg/mlのコラゲナーゼ−ディスパーゼで消化する。広範な種々の基底細胞維持培地が、膵臓前駆細胞の生存を促進する範囲の液体のpHを維持するため、および酵素消化を行い得る範囲の更なる液体体積を提供するために用いられ得る。非限定的な例として、F12/DMEM、Ham’s F10(Sigma)、CMRL−1066、Minimal essential medium(MEM、Sigma)、RPMI−1640(Sigma)、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM、Sigma)、およびIscove’s Modified Medium(IMEM)が挙げられる。さらに、Ham and Wallance Meth.Enz.,58:44(1979)、Barnes and Sato Anal.Biochem.,102:255 (1980)、またはMather,J.P. and
Roberts,P.E.、「Introduction to Cell and Tissue Culture」、Plenum Press,New
York(1999)に記載の任意の基本栄養培地を使用することもできる。組織の消化に使用され得る他の酵素の例として、中性プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ(トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、コラゲナーゼ、およびサーモリシンが含まれるが、これらに限定されない)が挙げられる。別の好ましい実施形態では、遊離のDNAによる組織の凝集を防止するために、DNAを消化する酵素(例えば、DNAアーゼ)を使用してDNAを小片に切断する。胎児膵臓組織の酵素を用いた処理により、種々の量の細胞が得られる。いくつかの細胞は単一の細胞懸濁液であるが、他の細胞は、細胞凝集体である。個体組織物質に会合していない細胞を、密度勾配の使用によって、相互に、固体組織物質から、または破片から分離し得る。密度勾配を作製するのに使用され得る化合物には、血清(すなわち、ウシ血清アルブミン(すなわち、BSA))、オバルブミン、スクロースの非イオン性合成ポリマー(すなわち、FicollTM)、コロイド状ポリビニルピロリドン被覆シリカ(すなわち、PercollTM)、ポリビニルピロリドン(すなわち、PVP)、およびメチルセルロースが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、膵臓組織の消化に使用した酵素を中和し得る密度勾配を使用する。このような密度勾配の1つの例は、BSAである。BSAの量は、約50%、より好ましくは約25%、より好ましくは約10%、さらにより好ましくは約5%の体積比である。除去する必要のある破片の量は、いくつかの要因(膵臓組織に適用した消化範囲または機械的剪断力)に依存する。いくつかの場合、1つの密度勾配で、破片(例えば、間葉組織、脂肪粒子、または破壊細胞膜)を除去するのに十分である。他の場合では、1つ以上の密度勾配の適用が必要である。所望の生成物は、比較的純粋な膵臓細胞凝集体集団である。
【0044】
次いで、膵臓細胞を、基底細胞維持培地中に再懸濁する。種々の基底細胞維持培地が使用のために利用可能である。例として、Ham’s F12培地、RPMI−1640、およびCMRL−1066が挙げられるが、これらに限定されない。膵臓前駆細胞の生存および成長を促進するより多くの至適条件のために、種々の栄養素を添加して基本培地を補足し得る。例として、インスリン、トランスフェリン、上皮成長因子、エタノールアミン、ホスホエタノールアミン、セレン、トリヨードチロニン、プロゲステロン、ヒドロコルチゾン、フォルスコリン、ヘレグリン、アプロチニン、ウシ下垂体抽出物、およびゲンタマイシンが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、以下の量の栄養素を使用して、膵臓前駆細胞の生存および成長を促進する:少なくとも約1μg/mlのインスリンおよび約100μg/ml以下のインスリン、より好ましくは約10μg/mlのインスリン;少なくとも約1μg/mlのトランスフェリンおよび約100μg/ml以下のトランスフェリン、より好ましくは約10μg/mlのトランスフェリン;少なくとも約1ng/mlの上皮成長因子および約100ng/ml以下の上皮成長因子、より好ましくは約5ng/mlの上皮成長因子;少なくとも約1×10−8Mのエタノールアミンおよび約1×10−2M以下のエタノールアミン、より好ましくは約1×10−6Mのエタノールアミン;少なくとも約1×10−9Mのホスホエタノールアミンおよび約1×10−1M以下のホスホエタノールアミン、より好ましくは約1×10−6Mのホスホエタノールアミン;少なくとも約5×10−12Mのセレンおよび約1×10−1M以下のセレン、より好ましくは約2.5×10−8Mのセレン;少なくとも約1×10−15Mのトリヨードチロニンおよび約5×10−1M以下のトリヨードチロニン、より好ましくは約1×10−12Mのトリヨードチロニン;少なくとも約1×10−12Mのプロゲステロンおよび約1×10−1M以下のプロゲステロン、より好ましくは約1×10−9Mのプロゲステロン;少なくとも約1×10−15Mのヒドロコルチゾンおよび約1×10−1M以下のヒドロコルチゾン、より好ましくは約1×10−9Mのヒドロコルチゾン;少なくとも約0.001μMのフォルスコリンおよび約50μM以下のフォルスコリン、より好ましくは約1μMのフォルスコリン;少なくとも約0.1nMのヘレグリンおよび約100nM以下のヘレグリン、より好ましくは約10nMのヘレグリン;少なくとも約1μg/mlのアプロチニンおよび約100μg/ml以下のアプロチニン、より好ましくは約25μg/mlのアプロチニン;少なくとも約1μg/mlのウシ下垂体抽出物および約500μg/ml以下のウシ下垂体抽出物、より好ましくは約75μg/mlのウシ下垂体抽出物;少なくとも約1μg/mlのゲンタマイシンおよび約1mg/ml以下のゲンタマイシン、より好ましくは約100μg/mlのゲンタマイシン。膵臓前駆細胞を、所望の細胞の物理的方向性のタイプに依存して、異なる基質上で増殖させ得る。使用され得る基質の非限定的な例として、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、ポリリジン、ニトロセルロース、ナイロン、およびポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。1つの実施形態では、膵臓前駆細胞を、フィブロネクチン被覆組織培養プレートの上記の好ましい栄養培地中で増殖させる。フィブロネクチン被覆プレート中の好ましい栄養培地中で培養した場合、膵臓前駆細胞は細胞凝集体を形成する。さらに、培養の組み合わせにより、所望でない間葉細胞および膵臓前駆細胞凝集体が分離される。好ましい実施形態では、フィブロネクチンプレート中の基本培地としてCMRL 1066を使用した好ましい培地中での膵臓前駆細胞の培養によって、膵臓細胞凝集体の精製が容易に達成される。膵臓前駆細胞は、非接着性である細胞の巨大な球形のクラスターを形成するが、他の細胞型(すなわち、間葉細胞)はフィブロネクチン被覆に接着する。次いで、膵臓前駆細胞のクラスターを回収し、継代培養および増殖用の別の組織培養コンテナに移し得る。より多くの膵臓前駆細胞クラスターの増殖が望まれる場合、組織培養コンテナをフィブロネクチンで被覆し、膵臓前駆細胞を、基本培地としてCMRL 1066を使用した本明細書中に開示される好ましい培地中で培養する。別の実施形態では、膵臓前駆細胞を、コラーゲン被覆組織培養コンテナ中の基本培地としてF12/DMEMを使用した好ましい栄養培地中で増殖させる。膵臓前駆細胞は、この実施形態において単層を形成する。
【0045】
膵臓前駆細胞を供給する頻度は、1日に1回または1日おきに1回であり得る。1つの実施形態では、膵臓前駆細胞を、古い栄養培地の新しい栄養培地への全体の置換によって供給し得る。別の実施形態では、膵臓前駆細胞を、これらの細胞が増殖した馴化培地で供給し得る。多数の細胞を得るための膵臓前駆細胞の継代培養を、膵臓前駆細胞をクラスター形態(フィブロネクチンで増殖)または単層形態(コラーゲンで増殖)にし、複数の細胞を多数の組織培養コンテナに分注することによって達成する。次いで、各組織培養コンテナに栄養培地を添加して、元の組織培養コンテナ内よりも低濃度の膵臓前駆細胞を得る。添加される栄養培地は、所望の膵臓前駆細胞の配列のタイプに依存する。単層配置が所望される場合、次いで組織培養コンテナ中のコラーゲン被覆と組み合わせた本明細書中に開示の好ましい栄養培地中の基本培地としてF12/DMEMを使用する。膵臓細胞クラスターが所望される場合、組織培養コンテナ中のフィブロネクチン被覆と組み合わせた本明細書中に開示の好ましい栄養培地中の基本培地としてCMRL 1066を使用する。特許請求の範囲に記載の膵臓前駆細胞は本発明に固有であり、そしてこれらの細胞に特異的な因子を分泌するので、膵臓前駆細胞由来の馴化培地もまた固有である。本発明では、膵臓前駆細胞は、フィブロネクチン組織培養プレート中の上記に規定される好ましい栄養倍地中で増殖させた場合、凝集体を形成する。基質がコラーゲン被覆組織培養プレートである場合、膵臓前駆細胞は、付着した間質性単層を形成する。馴化培地の添加により、膵臓前駆細胞におけるより大きな生存力が促進される。好ましい馴化培地の量は、全培地体積の少なくとも約1%〜少なくとも約25%である。さらに好ましい馴化培地の量は、全培地体積の約15%である。膵臓前駆細胞の生存および増殖を促進するのに好ましい供給頻度は、1週間に1回、さらにより好ましくは1週間に2回、最も好ましくは1日おきである。本発明の膵臓前駆細胞を複数回継代し得るが、分裂能力を維持し、そしてこれら膵臓前駆細胞の最終的に分化した腺房細胞、膵島細胞、または導管細胞への分化を誘導しない。
【0046】
(膵臓前駆細胞の特徴づけ)
本明細書中に開示される様式で単離した本発明の膵臓前駆細胞集団は、いくつかの定義的な特徴を有する。第1に、膵臓前駆細胞は、「所定の膵臓」と記載され得る段階にある。腸特異的前駆細胞のうちのいくつかは、膵臓細胞になるように予め決定されている。この発生段階に、本特許請求の範囲に記載の膵臓前駆細胞集団が属する(図8)。本発明の膵臓前駆細胞は、外分泌細胞または内分泌細胞のいずれかとなる能力を有する。本明細書中で使用される内分泌細胞および外分泌細胞は、その分泌によって規定される。内分泌細胞(例えば、α膵島細胞およびβ膵島細胞)は、それぞれグルカゴンおよびインスリンを分泌する。外分泌性細胞(例えば、腺房細胞)は、種々の膵臓消化液(例えば、トリプシノゲン、αアミラーゼ、およびリパーゼ)を分泌する。
【0047】
膵臓前駆細胞の同定は、形態学または特異的マーカーもしくはその両技術の組み合わせによって達成され得る。本明細書中に開示される膵臓前駆細胞は、膵臓前駆細胞が増殖する培養条件に依存して、球形で嚢胞様の外観であるか、または細長い単層形態であり得る。分化した膵臓前駆細胞の同定もまた、形態学によって達成され得る。膵島細胞の形態は、卵形で、約75μm〜175μmのサイズ(長軸)である。膵島細胞は、膵臓の尾部末端の方向(十二指腸腔から離れている)により多く位置する傾向がある。膵島細胞の検出に使用され得るマーカーには、膵島α細胞についてグルカゴン、膵島β細胞についてインスリン、膵島δ細胞についてソマトスタチン、および膵島PP細胞について膵臓ポリペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。導管細胞の検出に使用され得るマーカーとしては、サイトケラチン(CK)7、CK8、CK18、CK19、ムチンMUC1、炭酸脱水酵素II、および炭水化物抗原19.9(シアリル−ルイスa)が挙げられるが、これらに限定されない。導管細胞の形態は、小さな球形で、細胞を横切って約10μmであり、緊密に封入された立法形の上皮のようである。腺房細胞の形態には、導管細胞よりも大きいサイズ、形状、および腺房細胞内に依存するチモーゲン顆粒を含む。腺房細胞の同定に使用され得るマーカーとしては、カルボキシペプチダーゼAおよびアミラーゼが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
Ki67またはPCNAは、膵臓前駆細胞の増殖の確定に使用され得るマーカーである。所定の膵臓前駆細胞は依然として分裂し得るが、最終的に分化した外分泌細胞または内分泌細胞は本質的に分裂しない。Ki67またはPCNAでの染色により、分析下での膵臓細胞の増殖状態を決定し得る。
【0049】
本発明の膵臓前駆細胞は、無血清培地中でそれらの先在する分裂前状態で維持される。基本細胞維持培地または本明細書中に開示される好ましい栄養培地もしくは馴化培地を使用して、in vitroで膵臓前駆細胞を培養し得る。組織培養プレート上で異なる型の基質を使用して、膵臓前駆細胞の凝集体または単層のいずれかを獲得し得る。本明細書中に開示される好ましい栄養培地と組み合わせたフィブロネクチンの使用により膵臓前駆細胞が凝集し、組織培養プレート上でのコラーゲンの使用により、単層の膵臓前駆細胞が得られる。
【0050】
本発明の膵臓前駆細胞は、本明細書中に開示される好ましい無血清栄養培地中で複数回継代される能力を有する。各継代の間および継代後の任意の時点で、多能性が保持され、本発明の膵臓前駆細胞は、機能的な外分泌細胞または内分泌細胞に分化し得る。さらに、各継代後の任意の時点で、膵臓前駆細胞は、ヒト膵臓モデルを確立するための細胞治療、バイオアッセイのため、または本明細書中に開示される薬物発見および/または開発のための免疫原として使用され得る。
【0051】
本発明の膵臓前駆細胞の別の特徴は、レシピエント哺乳動物の腎臓被膜下での移植の際に外分泌または内分泌細胞に分化する能力である。移植前、膵臓前駆細胞は、アミラーゼまたはリパーゼのような消化酵素を産生せず、消化酵素について陽性に染色しない。本明細書中に開示される膵臓前駆細胞を、膵臓前駆細胞集合体中または単層中のいずれかで増殖させ、そして間葉細胞組織と組み合わせ、そしてレシピエント哺乳動物の腎臓被膜下に配置し得る。好ましくは、ヒト膵臓前駆細胞集合体を、ラット未熟小胞間葉組織と組み合わせ、レシピエント哺乳動物の腎臓被膜の下に配置する。移植部分を、マーカー、形態学、またはその組み合わせを使用して、分析のために取り出し、膵臓細胞を同定し得る。
【0052】
膵臓前駆細胞集団を同定するために使用され得る抗体(モノクローナルまたはポリクローナルのいずれか)として、抗サイトケラチン19、抗癌胎児性抗原(CEA)、抗炭酸脱水酵素II、抗嚢胞性線維症膜貫通調節因子(CFTR)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0053】
(膵臓前駆細胞の使用)
(免疫原としての使用)
膵臓前駆細胞は免疫原として使用される。本発明で開示されるような、独特の無血清培養条件は、膵臓前駆細胞の細胞表面に、表面に結合可能な血清タンパク質または血清生体分子が存在しないままにすることを可能にする。血清生体分子による結合で「マスク」され得る抗原部位の潜在的な問題は、本開示の無血清単離および培養技術の使用によって回避される。したがって、血清を含む培養条件を使用する場合に「マスク」される新規に利用可能な抗原に対する抗体のパネルを生成することができる。
【0054】
本明細書中に開示の方法で単離および培養した膵臓前駆細胞を、異種レシピエントに投与する免疫原として使用することができる。免疫原としての膵臓前駆細胞の投与を、いくつかの方法によって行うことができる。異種レシピエントへの免疫原としての膵臓前駆細胞の投与法には、以下が含まれるが、これらに限定されない:免疫化、塗布(swabbing)または画線(scratch)装置などの直接接触による膜への投与、エアゾールによる粘膜への投与、および経口投与。当該分野で周知のように、免疫化は、受動免疫化または能動免疫化のいずれかであり得る。免疫化法を、異なる経路(腹腔内注射、皮内注射、局所注射が含まれるが、これらに限定されない)を介して行うことができる。免疫化の被験体には、マウスなどの哺乳動物を含み得る。免疫化の経路およびスケジュールは、一般に、抗体刺激および産生のために確立された従来の技術に従う。この実施形態ではマウスを使用する一方で、ヒトを含む任意の哺乳動物被験体またはそれ由来の抗体産生細胞を本発明のプロセスに従って操作して、哺乳動物ハイブリドーマ細胞株の産生に基づいて役立ち得る。代表的には、マウスを免疫原性量の膵臓前駆細胞を用いて腹腔内または別の領域(すなわち、フットパッド、テールベース(tail base)など)に接種して、類似の量の免疫原で追加免疫する。あるいは、非生体膜基質上で増殖させた細胞を、宿主哺乳動物に手術によって腹腔内に移植する。リンパ球(好ましくは、マウス由来の脾臓リンパ球)を、最後の追加免疫から数日後に回収し、細胞懸濁液を融合での使用のためにこれらから調製する。
【0055】
ハイブリドーマをリンパ球から調製し、Buck,D.Wら、In Vitro,18:377−381(1982)によって改変されたKohler,B.およびMilstein,C.Nature 256:495−497(1975)の一般的な体細胞ハイブリダイゼーション技術を使用して骨髄種細胞を不死化する。利用可能な骨髄腫株(X63−Ag8.653およびSalk Institute,Cell Distribution Center,San Diego,Calif.,USA由来の株が含まれるが、これらに限定されない)をハイブリダイゼーションに使用することができる。この技術は、ポリエチレングリコールなどの融合剤を使用するか、当業者に周知の電気的手段によって骨髄腫細胞とリンパ球を融合する工程を包含する。融合後、細胞を融合培地から分離し、選択増殖培地(HAT培地など)で増殖させて、ハイブリダイズしていない親細胞を排除する。本明細書中に記載の任意の培地を、モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマの培養に使用することができる。別の代替的な細胞融合技術として、EBV不死化B細胞を使用して、本発明のモノクローナル抗体を産生する。ハイブリドーマを拡大またはサブクローニングし、所望ならば、上澄み液を従来の免疫アッセイ手順(例えば、放射免疫アッセイ、酵素免疫アッセイ、または蛍光免疫アッセイ)によって抗免疫原活性についてアッセイする。
【0056】
このような抗体を産生するハイブリドーマを、公知の手順を使用してインビトロまたはインビボで増殖させることができる。所望ならば、モノクローナル抗体を、従来の免疫グロブリン精製手順(例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲル電気泳動、透析、クロマトグラフィー、および限外濾過)によって培養培地または体液から単離することができる。望ましくない活性が存在する場合、例えば、固相に結合した免疫原から作製された吸着物質へ調製物を流出して、免疫原から所望の抗体を溶出または放出することによって除去することができる。
【0057】
この様式では、膵臓前駆細胞段階に特異的な細胞表面抗原に対する新規の抗体のパネルを、本発明の膵臓前駆細胞を使用して生成することができる。一旦膵臓前駆細胞上の細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体が本明細書中に開示の方法によって作製されると、この抗体をいくつかの用途に使用することができる。抗体は、組換え抗体またはヒト化抗体を生成するために配列決定またはクローン化され得る。膵臓前駆細胞特異的抗体の他の用途には、生物学的試験および精製(すなわち、フローサイトメトリーおよびパニングなどの方法による膵臓前駆細胞の単離)、治療用途(すなわち、標的細胞への抗体の結合による細胞増殖の促進もしくは停止または標的細胞への抗体の結合による細胞集団の増殖の促進もしくは停止)、臨床的診断、および生物学的マーカー(すなわち、他の膵臓細胞または非膵臓細胞の同定)が含まれるが、これらに限定されない。
【0058】
免疫原としての別の用途は、異種レシピエントにおける全免疫応答を調節することである。当該分野で十分に実証されているように、異種レシピエントに導入された細胞または器官などの外来物質は、種々の免疫応答を誘導し得る。免疫応答は、拒絶(例えば、器官移植)、T細胞活性化(例えば、交差プライミング)、アネルギー、耐性の形態であり得る。全ての免疫応答は、全身性または局所性であり得る。局所性免疫応答が望ましい場合(例えば、腸領域)、膵臓前駆細胞などの免疫原を腸領域に有効量で導入する。有効量は、漸増量の膵臓前駆細胞を異種レシピエントに導入してその後の免疫応答を監視する段階的様式で決定され得る。全ての免疫応答(例えば、抗体産生、サイトカイン産生、T細胞増殖、アネルギー、耐性など)を、多数の方法(ELISA、増殖アッセイ、細胞表面マーカーを使用したフローサイトメトリー、および免疫組織化学が含まれるが、これらに限定されない)によってモニターすることができる。
【0059】
(薬物発見のための膵臓前駆細胞の使用)
膵臓前駆細胞の別の用途は、薬物発見に関する。分化前多分化性膵臓前駆細胞集団が開示の様式で単離および培養されていないので、膵臓前駆細胞集団は、これまで発見または特徴付けられていなかったタンパク質を分泌することができる。血清を使用する以前の培養技術は、タンパク質の分泌を阻害し得る。あるいは、タンパク質は、分泌され、血清生体分子と相互作用するので、機能、コンホメーション、または活性が変化し得る。膵臓前駆細胞によって分泌されたタンパク質は、血清生体分子からの干渉が最小であるので、より生理学的かつ位相幾何学的に正確であり得る。したがって、膵臓前駆細胞によって分泌されたタンパク質を、薬物開発のための標的として使用することができる。1つの実施形態では、インビボで、膵臓前駆細胞に特異的タンパク質が標的されるように薬物を作製することができる。薬物の結合により、膵臓前駆細胞の特異的膵臓下細胞(sub−pancreatic cell)(例えば、膵島細胞)への分化を促進することができる。このアプローチは、膵島細胞新生が望ましい場合(例えば、糖尿病の治療)に有用であり得る。別の実施形態では、膵臓前駆細胞の調節タンパク質に特異的な薬物を使用して、特定の型の細胞(例えば、腺房細胞が管細胞(ductal cell)に置換される嚢胞性線維症の場合)の増殖を停止させることができる。別の実施形態では、薬物は、胎児抗原を発現する幹細胞または癌細胞の増殖のインヒビターであり得る。これらタンパク質のいずれかを標的として使用して、治療用抗体、タンパク質、または低分子薬物を開発することができる。
【0060】
(細胞治療のための膵臓前駆細胞の使用)
別の用途では、膵臓前駆細胞株は細胞治療に使用される。膵臓前駆細胞の移植は、このような細胞治療の一例である。異なる型の膵臓細胞(膵島細胞または腺房細胞など)は、それぞれ、インスリンまたはグルカゴンを分泌する機能を発揮することができない場合、本発明の膵臓前駆細胞は多分化性であり、かつ機能的外分泌細胞および内分泌細胞に分化することができるので、治療法を提供する。この用途の実施のために、開示の方法を使用して膵臓前駆細胞を単離し、無血清の栄養規定培地中に培養する。膵臓前駆細胞をフィブロネクチン被覆組織培養プレート上で増殖させて、膵臓前駆細胞凝集体を得る。膵臓前駆細胞凝集体を標準的なインキュベーション条件下で約半日〜約7日間、より好ましくは約1日〜約5日間、さらにより好ましくは約3日間にわたって増殖させる。次いで、膵臓細胞凝集体をレシピエントに投与して、分化させることができる。あるいは、膵臓細胞凝集体を、膵臓細胞が1以上の遺伝子とトランスフェクトし、送達デバイスに封入され、次いでレシピエントに投与される、遺伝子治療の細胞キャリアとして使用することができる。別の実施形態では、膵臓細胞凝集体を腎臓被膜下に置き、腺房細胞、管細胞、または膵島細胞に分化させる。別の実施形態では、膵臓細胞凝集体をデバイス(細胞を含み、免疫系の応答を制限するために他の細胞(すなわち、Theracyte(登録商標))との接近を制限する)中で使用する。
【0061】
(ヒト組織モデルを作製するための膵臓前駆細胞の使用)
膵臓前駆細胞の別の用途は、非ヒト哺乳動物においてヒト組織モデルを作製することである。膵臓前駆細胞凝集体を、間葉組織の上部に置いて移植組換え体を形成させる。移植組換え体を形成させるために、約1〜15個の膵臓細胞球(sphere)、より好ましくは約5〜8個の膵臓細胞球を間葉組織の上部に置く。間葉組織は、膵臓組織または非膵臓組織のいずれかであり得、そして膵臓前駆細胞が単離される種とは異なる種由来であり得る。作業の例では、ヒト膵臓前駆細胞をラット間葉精嚢組織の上部において移植組換え体を形成する。当業者は、最初に本明細書中に開示の方法を使用してヒト膵臓前駆細胞を単離し、その後異なる器官由来の間葉組織と組み合わせることによる、段階的様式で至適な組み合わせを決定することができる。いくつかの実施形態では、異なる種(例えば、ラット)を、ヒト膵臓前駆細胞との組み合わせにおける間葉細胞組織の供給源として使用する。異種の使用によって、ヒト特異的マーカーを使用して分化膵臓細胞の同一性を決定し得る。ラット間葉組織を使用する場合、偽陽性の尤度が減少する。同様に、膵臓間葉組織を超える精嚢間葉組織の使用により、分化膵臓細胞の同定における偽陽性の尤度が減少する。好ましい実施形態では、約1〜12個の膵臓前駆細胞球、さらにより好ましくは約5〜8個の膵臓前駆細胞球をラット精嚢間葉組織の上部に置く。好ましくは、約1×10〜約5×10個の間葉細胞を使用する。さらにより好ましくは、約2×10〜約5×10個の間葉細胞を使用する。次に、間葉組織に置いた膵臓前駆細胞球を含む移植組換え体を、脂肪パット中、皮下に、または膵臓前駆細胞を含むがレシピエント哺乳動物中の膵臓前駆細胞(すなわち、Theracyte(登録商標))への他の細胞の接近を制限したデバイス中の腎臓被膜下に置く。可能なレシピエント哺乳動物には、マウスおよびラットが含まれるが、これらに限定されない。代表的には、移植状況では、ドナー組織は、レシピエントの免疫系による攻撃に脆弱である。移植片拒絶を軽減するために、いくつかの技術を使用することができる。1つの方法は、レシピエントに致死用量以下の放射線を照射して移植片を攻撃し得る免疫細胞を破壊することである。別の方法は、レシピエントにシクロスポリンまたは他のT細胞免疫抑制薬を投与することである。レシピエント哺乳動物としてマウスを使用して、移植片拒絶を緩和するための広範な種々の方法が可能である。1つのこのような方法は、免疫不全マウス(ヌードまたは重篤複合免疫不全すなわちSCID)の使用である。作業例では、ヒト膵臓前駆細胞球をラット精嚢間葉組織上に置き、免疫不全マウスの腎臓被膜下に置く。移植片組換え体は、レシピエント内で約1〜約52週間、好ましくは約5〜約40週間、さらにより好ましくは約6〜約8週間維持され、その後、その移植片を回収し、そして膵臓前駆細胞分化について分析する。いくつかの場合、移植片の小部分が分析に必要である。膵島細胞に特異的なマーカー(すなわち、インスリン、グルカゴンなど)、管細胞に特異的なマーカー(すなわち、CK19など)、および腺房細胞に特異的なマーカー(すなわち、アミラーゼなど)を、免疫組織学分析で使用する。外分泌機能および内分泌機能の別のマーカーのセット(インスリンまたはグルカゴンに特異的なマーカーなど)を使用して、移植の有効性を分析することもできる。これらのマーカーを、個別または互いに組み合わせて使用することができる。さらに、1以上のこれらのマーカーの組み合わせを細胞形態学と組み合わせて使用して、移植の有効性を決定することができる。
【0062】
1つの実施形態では、ヒト膵臓モデルを、SCID(重篤複合免疫不全)マウスにおいて生成することができる。このヒト膵臓モデルを、本明細書中に開示した方法で単離および培養したヒト膵臓前駆細胞の使用および移植組換え体を作製するためのヒト膵臓前駆細胞の使用によって作製することができる。次いで、移植片組換え体を、マウスの腎臓被膜下に置く。腎臓被膜下での移植から約1〜10週間後、好ましくは約6〜8週間後に、その移植片またはその一部を回収し、免疫組織化学によって分析した。外分泌機機能または内分泌機能に特異的なマーカー(インスリンまたはグルカゴンなど)を使用して、組織モデル系の有効性を分析する。あるいは、膵臓組織に特異的なマーカー(膵島細胞(すなわち、PDX−1)、腺房細胞(すなわち、アミラーゼ)、管細胞(すなわち、CK19)など)を使用する。膵臓前駆細胞分化の結果のさらに別の評価法は、形態学によるものである。膵臓前駆細胞は、小さな円形で細胞の直径が約10μmであり、非常にコンパクトな円柱状の上皮形態の外観を有する。腺房細胞は、腺房を形成する巨大なクラスターの外観を有する。管細胞は、小さな円形で細胞の直径が約40μmであり、コンパクトな円柱状の立方上皮の外観を有する。膵島細胞は、外分泌腺房単位に取り囲まれた上皮膵島の外観を有する。さらに、より完全に評価するために、形態学をインスリンおよびグルカゴンの機能的マーカーならびに特異的細胞の細胞表面マーカーと組み合わせる。したがって、組換え組織は、マウスにおいて完全なヒト小膵臓を示す。これらのヒト膵臓組織モデルを使用して、I型およびII型糖尿病、膵炎、膵癌、および他の膵臓不全症の処置のために開発されている薬物候補の有効性および毒性を評価することができる。これらを使用して、任意の薬物を膵臓毒性についてスクリーニングすることもできる。さらなる用途では、手術でまたは化学的(すなわち、ストレプトアゾチシン)にレシピエンド動物の膵臓または膵島β細胞が剥離されるので、産生されたインスリンが移植片に由来する。
【0063】
(バイオアッセイにおける膵臓前駆細胞の使用)
本明細書中に開示の膵臓前駆細胞を、種々のバイオアッセイに使用することができる。1つの用途では、膵臓前駆細胞を使用して、どの生物因子が分化に必要であるかを決定する。異なる生体化合物(ホルモン、特異的増殖因子など)と組み合わせた段階的様式における膵臓前駆細胞の使用によって、1以上の特異的生体化合物が、膵島細胞への分化を誘導することを見出すことができる。同一の段階的様式の組み合わせを使用して、1以上の特異的生体化合物が導管細胞と同様に腺房細胞への分化を誘導することを見出すことができる。バイオアッセイにおける膵臓前駆細胞の他の用途は、ディファレンシャルディスプレイ(すなわち、mRNAのディファレンシャルディスプレイ)および膵臓前駆細胞由来の分泌タンパク質を使用するタンパク質−タンパク質相互作用である。タンパク質−タンパク質相互作用を、酵母ツーハイブリッド系などの技術を使用して決定することができる。膵臓前駆細胞由来のタンパク質を使用して、膵臓前駆細胞と相互作用する他の未知のタンパク質または他の細胞型を同定することができる。これらの未知のタンパク質は、次の1以上であり得る:成長因子、ホルモン、酵素、転写因子、翻訳因子、および腫瘍抑制因子。膵臓前駆細胞およびこれらの細胞が形成するタンパク質−タンパク質相互作用を含むバイオアッセイならびにタンパク質−タンパク質またはさらに細胞−細胞接触の効果を使用して、周囲組織(例えば、間葉組織など)がどのようにして膵臓前駆細胞分化に寄与するのかを決定することができる。
【0064】
以下の実施例は、膵臓前駆細胞の単離、特徴づけ、および使用の詳細な説明を提供する。これらの実施例は、本発明を制限することを決して意図しない。
【実施例】
【0065】
(実施例1:膵臓前駆細胞の単離)
胎児膵臓(妊娠齢14〜22週)を、酵素分離の前に立体顕微鏡下での顕微解剖により機械的に引き離した。酵素処理は、部分的に解剖した組織を5mg/mlコラゲナーゼ−ディスパーゼ、20μg/mlのダイズトリプシンインヒビター、および50μg/mlDNAアーゼを含む1mlのF12/DMEM培地にて37℃で15分間置く工程を包含する。
【0066】
細胞凝集体を、5容量%のBSA勾配の上部に宗嬢にし、900rpmで6分間の遠心分離によって洗浄した。依然として凝集体形態のペレット化細胞を以下の因子を含むCMRL 1066栄養培地からなる増殖培地中に再懸濁した。
【0067】
【表1】

再懸濁細胞凝集体を、24ウェルディッシュのフィブロネクチン被覆ウェル(6〜12)にアリコートし、37℃の5%加湿COインキュベーターで72時間インキュベートした。72時間後、上皮細胞は懸濁した周辺構造(図1A)を形成し、間葉細胞または間質細胞はウェル表面に接着した。単層形成が望ましい場合、これらのウェルのうちの6ウェル由来の膵臓凝集物または膵臓球をマイクロピペットで回収し、開示の栄養補助物質を含む基礎栄養培地としてF12/DMEMを使用するコラーゲン被覆60mm皿に置いた。24時間以内に、構造物が接着し、構造物由来の細胞がコラーゲン上に拡大して、上皮単層を形成した(図1B)。これらの膵臓前駆細胞を、少なくとも3回継代することができた(図2)。
【0068】
(実施例2:移植における膵臓前駆細胞の使用)
組換え移植の目的のために、細胞を最初のプレーティング由来の球状のままにするか、コラーゲンから単層を放出させ、これらの細胞を懸濁液中で維持し、球状構造に再凝集する非被覆フラスコで増殖させた。
【0069】
移植の目的ために、球状物をe15ラット由来の精嚢間葉の上部に置く(通常5〜8個の球状物を2×10〜5×10細胞の間葉凝集物に置く)。それぞれの組換え体を寒天上に置いて、37度の5%CO加湿チャンバで一晩インキュベートした。
【0070】
移植は、免疫不全マウス(ヌードまたはSCID)の腎臓被膜下への3〜6個の組換え体を置く工程および6〜8時間放置する工程を包含する。次いで、移植片を回収し、免疫組織化学のために処理した。
【0071】
膵臓組織組換え移植片移植の結果を、形態学によって評価した。膵臓前駆細胞は、小さな円形で細胞の直径が約10μmであり、非常にコンパクトな円柱状の上皮形態の外観を有する。腺房細胞は、腺房を形成する巨大なクラスターの外観を有する(図3E)。管細胞は、小さな円形で細胞の直径が約40μmであり、コンパクトな円柱状の立方上皮の外観を有する(図3D)。膵島細胞は、外分泌腺房単位に取り囲まれた上皮膵島の外観を有する(図3A、3B、3C、および図7)。
【0072】
(実施例3:移植膵臓前駆移植片細胞の同一性、膵臓前駆細胞の分化状態、およびその機能の決定)
膵臓球体をマウスの腎臓被膜下に移植してその位置で6〜8週間維持させた後、移植片を回収し、免疫組織化学および機能によって膵臓細胞の同一性を分析した。移植片は、インスリンおよびグルカゴンの発現を示した(図4、5、および7)。さらに、組織移植片組換え体は、導管構造の形成を示した(図6)。したがって、組織組換え移植片は、インスリンおよびグルカゴンを発現して管構造を形成し得る機能的膵臓細胞を産生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−46098(P2010−46098A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272973(P2009−272973)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【分割の表示】特願2001−575154(P2001−575154)の分割
【原出願日】平成13年4月10日(2001.4.10)
【出願人】(504258240)レイベン バイオテクノロジーズ,インコーポレイティド (9)
【Fターム(参考)】