説明

ヒトDuchenne型筋ジストロフィー遺伝子のエクソン43、46、50〜53のうちの少なくとも1個の効率的なスキッピングのための方法及び手段

本発明は、患者、好ましくは患者の単離細胞におけるDMD mRNA前駆体のエクソン43、エクソン46、エクソン50〜53のうちの少なくとも1個のスキッピングを誘導及び/又は促進するための分子が使用される方法であって、前記細胞及び/又は前記患者に分子を提供するステップを含む方法を提供する。本発明は、前記分子そのものにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝学、特にヒト遺伝学の分野に関する。本発明は、特にヒトDuchenne型筋ジストロフィーmRNA前駆体のスプライシングの調節に関する。
【背景技術】
【0002】
ミオパシーは、筋肉の機能不全をもたらす障害である。筋ジストロフィー(MD)は、進行性の脱力及び骨格筋の変性によって特徴付けられる遺伝病を意味する。Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)及びBecker型筋ジストロフィー(BMD)は、筋ジストロフィーの最も一般的な小児型である。これらは劣性障害であり、DMD及びBMDの責任遺伝子はX染色体上に存在するため、この突然変異は男児3500人に約1人の発生率で主に男性に影響を及ぼす。
【0003】
DMD及びBMDは、収縮における筋線維安定性を維持するための細胞骨格と細胞外マトリックスとの間の相互作用に必要な筋タンパク質である、ジストロフィンをコードするDMD遺伝子の遺伝的欠損に起因する。DMDは12歳前に車椅子補助への依存をもたらす重篤な致死性神経筋障害であり、DMD患者は多くの場合呼吸及び心不全により30歳前に死亡する。対照的に、BMD患者は多くの場合高齢期まで歩行可能であり続け、ほぼ標準的な平均寿命を有する。DMD遺伝子におけるDMD突然変異は、機能ジストロフィンの欠損をもたらす、フレームシフトを生じる挿入若しくは欠失又はナンセンス点突然変異によって特徴付けられる。一般にBMD突然変異は、リーディングフレームをインタクトに保ち、部分的に機能的なジストロフィンを合成させる。
【0004】
過去10年間、ジストロフィン転写産物の途絶したリーディングフレームを回復するための特定のスプライシング修飾は、Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)の有望な治療法として浮上してきた(van Ommen、van Deutekom、Aartsma−Rus、Curr Opin Mol Ther.2008;10(2):140〜9、Yokota、Duddy、Partidge、Acta Myol.2007;26(3):179〜84、van Deutekomら、N Engl J Med.2007;357(26):2677〜86)。
【0005】
スプライシングシグナルに干渉するアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を用いて、特定のエクソンのスキッピングをDMD mRNA前駆体に誘導し、したがってオープンリーディングフレームを回復させて重症型のDMDをより軽症型のBMD表現型に変換することができる(van Deutekomら、Hum Mol Genet.2001;10:1547〜54;Aartsma−Rusら、Hum Mol Genet2003;12(8):907〜14)。in vivoの実証実験は、先ずエクソン23におけるナンセンス突然変異に起因するジストロフィン欠損型mdxマウスモデルで得られた。変異エクソン23を標的とするAONの筋肉内及び静脈内注射は、少なくとも3カ月間ジストロフィン発現を回復させた(Luら、Nat Med.2003;8:1009〜14;Luら、Proc Natl Acad Sci U S A.2005;102(1):198〜203)。これは、線維膜におけるジストロフィン関連タンパク質の回復、そして処置筋肉の機能改善を伴った。マウス5番染色体に統合されたヒトDMD遺伝子の完全コピーを含むhDMDマウスモデルにおいて、ヒトエクソンのin vivoスキッピングも達成された(Bremmer−Boutら、Molecular Therapy.2004;10:232〜40;‘t Hoenら、J Biol Chem.2008;283:5899〜907)。
【0006】
近年、エクソン51のスキッピングを誘導するAONを4名のDMD患者の前脛骨筋の小領域に注射した、ヒト初回投与試験の完成に成功した。処置した4名の患者全員において筋線維の大部分に新規ジストロフィン発現が観察され、AONは安全で耐容性良好であった(van Deutekomら、N Engl J Med.2007;357:2677〜86)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
方法
第一の態様において、本発明は、患者、好ましくは患者の単離細胞におけるDMD mRNA前駆体のエクソン43、46、50〜53のうちの少なくとも1個のスキッピングを誘導及び/又は促進するための方法であって、前記細胞及び/又は前記患者に前記エクソン内の一続きの少なくとも8ヌクレオチドと結合する分子を提供するステップを含む方法を提供する。前記方法は、in vitro、in vivo又はex vivo法を包含することを理解するべきである。
【0008】
したがって、患者、好ましくは前記患者の単離細胞におけるDMD mRNA前駆体のエクソン43、46、50〜53のうちの少なくとも1個のスキッピングを誘導及び/又は促進するための方法であって、前記細胞及び/又は前記患者に前記エクソン内の一続きの少なくとも8ヌクレオチドと結合する分子を提供するステップを含む方法が提供される。
【0009】
本明細書で定義されているように、DMD mRNA前駆体は、好ましくは、DMD又はBMD患者のDMD遺伝子のmRNA前駆体を意味する。
【0010】
患者は、本明細書で後に定義するDMD若しくはBMDの患者又は患者の遺伝的背景によりDMD若しくはBMDを発症し易い患者を意味するものとすることが好ましい。DMD患者の場合、用いられているオリゴヌクレオチドは、好ましくは、前記患者のDMD遺伝子に存在する一突然変異を修正し、したがって好ましくは、BMDタンパク質に類似したDMDタンパク質を生成するであろう。前記タンパク質は、好ましくは、本明細書で後に定義する機能ジストロフィンであろう。BMD患者の場合、用いられているオリゴヌクレオチドは、好ましくは、前記患者のBMD遺伝子に存在する一突然変異を修正し、したがって好ましくは、前記BMD患者に本来存在していたジストロフィンよりも機能的なジストロフィンを生成するであろう。
【0011】
エクソンスキッピングは、通常であればそこに存在する特定のエクソンを含まない成熟mRNAを細胞に誘導することを意味する。エクソンスキッピングは、例えば前記エクソンのスプライシングに必要とされるスプライスアクセプター配列のスプライスドナー等、必須配列に干渉することができる分子、又はヌクレオチド配列がmRNAに含まれるべきエクソンとして認識されるのに必要とされるエクソン包含シグナルに干渉することができる分子を、前記mRNAのmRNA前駆体を発現している細胞に提供することにより行われる。mRNA前駆体という用語は、細胞核中のDNA鋳型から転写により合成された、未プロセシング又は部分プロセシングされたmRNAの前駆体を意味する。
【0012】
本発明の状況では、本明細書に示されているエクソンのスキッピングの誘導及び/又は促進は、処置された患者の1又は複数の(筋)細胞におけるDMD mRNAの少なくとも1%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%以上が前記エクソンを含まないことを意味する。これは、実施例に記載されているように、PCRによって評価されることが好ましい。
【0013】
好ましくは、患者の1又は複数の(筋)細胞におけるDMD mRNA前駆体のエクソン43、46、50〜53のうちの少なくとも1個のスキッピングを誘導及び/又は促進することによる本発明の方法は、前記患者に機能ジストロフィンタンパク質を提供し、及び/又は前記患者における異常ジストロフィンタンパク質の生成を低下させ、及び/又は前記患者における機能ジストロフィンの生成を増加させる。
【0014】
患者に機能ジストロフィンタンパク質を提供すること及び/又は前記患者における異常ジストロフィンタンパク質の生成を低下させることは通常、DMD患者に適用される。機能ジストロフィンの生成を増加させることは通常、BMD患者に適用される。
【0015】
したがって、好ましい方法は、患者又は前記患者の1又は複数の細胞に機能ジストロフィンタンパク質が提供され、及び/又は前記患者における異常ジストロフィンタンパク質の生成が減少し、及び/又は機能ジストロフィンの生成が前記患者で増加する方法であって、前記異常又は機能ジストロフィンレベルが方法開始における前記患者の前記ジストロフィンレベルと比較することによって評価される方法である。
【0016】
異常ジストロフィンの生成減少はmRNAレベルで評価することができ、好ましくは、異常ジストロフィンmRNA初期量の99%、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、5%以下がRT−PCRによってなお検出可能であることを意味する。本明細書において、異常ジストロフィンmRNA又はタンパク質は、非機能ジストロフィンmRNA又はタンパク質とも言う。非機能ジストロフィンタンパク質は、アクチン及び/又はDGCタンパク質複合体メンバーと結合できないジストロフィンタンパク質であることが好ましい。非機能ジストロフィンタンパク質又はジストロフィンmRNAは通常、そのインタクトなC末端を備えるジストロフィンタンパク質を含有しない、又はコードしない。
【0017】
前記患者又は前記患者の細胞における機能ジストロフィンの生成増加は、mRNAレベルで(RT−PCR解析により)評価することができ、好ましくは、検出可能量の機能ジストロフィンmRNAがRT−PCRにより検出できることを意味する。別の実施形態において、検出可能なジストロフィンmRNAの1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%以上が機能ジストロフィンmRNAである。
【0018】
前記患者又は前記患者の細胞における機能ジストロフィンの生成増加は、タンパク質レベルで(免疫蛍光及びウエスタンブロット解析により)評価することができ、好ましくは、検出可能量の機能ジストロフィンタンパク質が免疫蛍光又はウエスタンブロット解析により検出できることを意味する。別の実施形態において、検出可能ジストロフィンタンパク質の1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%以上が機能ジストロフィンタンパク質である。
【0019】
本明細書に定義されているように、機能ジストロフィンは、配列番号1として識別されるアミノ酸配列を有するタンパク質に対応する野生型ジストロフィンであることが好ましい。機能ジストロフィンは、そのN末端部分のアクチン結合ドメイン(N末端の最初の240アミノ酸)、システインリッチドメイン(アミノ酸3361〜3685)及びC末端ドメイン(C末端の最後の325アミノ酸)を有するジストロフィンであることが好ましく、当業者に知られている通り、これらドメインのそれぞれが野生型ジストロフィンに存在している。本明細書に示されているアミノ酸は、配列番号1に表されている野生型ジストロフィンのアミノ酸に対応する。即ち、機能ジストロフィンは、少なくともある程度の野生型ジストロフィン活性を呈するジストロフィンである。「少なくともある程度」は、好ましくは、対応する野生型機能ジストロフィン活性の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又は100%を意味する。この文脈において、機能ジストロフィンの活性とは、好ましくは、アクチン及びジストロフィン結合糖タンパク質複合体(DGC)との結合のことである(Aartsma−Rus Aら、(2006)、Entries in the leiden Duchenne Muscular Dystrophy mutation database:an overview of mutation types and paradoxical cases that confirm the reading−frame rule、Muscle Nerve、34:135〜144)。ジストロフィンのアクチン及びDGC複合体との結合は、当業者の知る通り、筋生検由来の全タンパク質抽出物を用いた共免疫沈降か、切片の免疫蛍光解析のいずれかによって可視化することができる。
【0020】
Duchenne型筋ジストロフィーを患う個体又は患者は通常、ジストロフィンをコードする遺伝子に、完全タンパク質の合成を妨げる、即ち、早期停止によりC末端の合成を妨げる突然変異を有する。Becker型筋ジストロフィーにおいて、DMD遺伝子もまた野生型遺伝子と比べて突然変異を有するが、この突然変異は通常早期停止を誘導せず、通常C末端は合成される。この結果、必ずしも同じ活性量ではないが、野生型タンパク質と少なくとも本質的に同じ活性を有する機能ジストロフィンタンパク質が合成される。BMD個体のゲノムは通常、N末端部分(N末端の最初の240アミノ酸)、システインリッチドメイン(アミノ酸3361〜3685)及びC末端ドメイン(C末端の最後の325アミノ酸)を含むジストロフィンタンパク質をコードするが、その中央の桿状ドメインは野生型ジストロフィンよりも短い可能性がある(Aartsma−Rus Aら、(2006)、Entries in the leiden Duchenne Muscular Dystrophy mutation database:an overview of mutation types and paradoxical cases that confirm the reading−frame rule、Muscle Nerve、34:135〜144)。DMD治療のためのエクソンスキッピングは通常、桿状ドメインにおけるエクソンをスキッピングしてリーディングフレームを修正し、(より小さい桿状ドメインの結果タンパク質が若干小さくなるが)ジストロフィンタンパク質のC末端を含む残り部分を合成させることによる、mRNA前駆体における早期停止の克服を対象とする。好ましい一実施形態において、本明細書に定義されている方法による処置を受けているDMD個体は、少なくともある程度の野生型ジストロフィン活性を呈するジストロフィンを提供される。より好ましくは、前記個体がDuchenne型患者又はDuchenne型患者の疑いがある場合、機能ジストロフィンはBMD個体のジストロフィンである。通常、前記ジストロフィンは、アクチンとDGCの両方と相互作用することができるが、その中央の桿状ドメインは野生型ジストロフィンよりも短い可能性がある(Aartsma−Rus Aら、(2006)、Entries in the leiden Duchenne Muscular Dystrophy mutation database:an overview of mutation types and paradoxical cases that confirm the reading−frame rule、Muscle Nerve、34:135〜144)。野生型ジストロフィンの中央の桿状ドメインは、24個のスペクトリン様リピートを含む(Aartsma−Rus Aら、(2006)、Entries in the leiden Duchenne Muscular Dystrophy mutation database:an overview of mutation types and paradoxical cases that confirm the reading−frame rule、Muscle Nerve、34:135〜144)。例えば、本明細書に提供されているジストロフィンの中央の桿状ドメインは、アクチン及びDGCと結合できるだけの長さの、5〜23、10〜22又は12〜18個のスペクトリン様リピートを含むことができる。
【0021】
本発明の方法は、患者の筋原又は筋細胞の1又は複数種の特性を緩和する、又は欠失を有する全DMD患者の合計68%に発生する、DMD遺伝子におけるエクソン44、44〜46、44〜47、44〜48、44〜49、44〜51、44〜53(エクソン43スキッピングにより修正できる)、19〜45、21〜45、43〜45、45、47〜54、47〜56(エクソン46スキッピングにより修正できる)、51、51〜53、51〜55、51〜57(エクソン50スキッピングにより修正できる)、13〜50、19〜50、29〜50、43〜50、45〜50、47〜50、48〜50、49〜50、50、52(エクソン51スキッピングにより修正できる)、エクソン8〜51、51、53、53〜55、53〜57、53〜59、53〜60(エクソン52スキッピングにより修正できる)及びエクソン10〜52、42〜52、43〜52、45〜52、47〜52、48〜52、49〜52、50〜52、52(エクソン53スキッピングにより修正できる)を含むがこれらに限定されない欠失を有するDMD患者の1又は複数種の症状を緩和することができる(Aartsma−Rusら、Hum.Mut.2009)。
【0022】
或いは、本発明の方法は、患者の筋細胞の1又は複数種の特性を改善することができる、又は欠失を有する全DMD患者の合計36%に発生する、DMD遺伝子におけるエクソン43、46、50〜53に小さな突然変異又は単一エクソン重複を有するDMD患者の1又は複数種の症状を緩和することができる(Aartsma−Rusら、Hum.Mut.2009)。
【0023】
更に、エクソン43及び51の同時スキッピングを必要とするエクソン44〜50の欠失、エクソン45及び51の同時スキッピングを必要とするエクソン46〜50の欠失、エクソン43及び53の同時スキッピングを必要とするエクソン44〜52の欠失、エクソン45及び53の同時スキッピングを必要とするエクソン46〜52の欠失、エクソン50及び55の同時スキッピングを必要とするエクソン51〜54の欠失、エクソン52及び55の同時スキッピングを必要とするエクソン53〜54の欠失、エクソン52及び57の同時スキッピングを必要とするエクソン53〜56の欠失、エクソン43及び44の同時スキッピングを必要とするエクソン43若しくはエクソン44におけるナンセンス突然変異、エクソン45及び46の同時スキッピングを必要とするエクソン45若しくはエクソン46におけるナンセンス突然変異、エクソン50及び51の同時スキッピングを必要とするエクソン50若しくはエクソン51におけるナンセンス突然変異、エクソン51及び52の同時スキッピングを必要とするエクソン51若しくはエクソン52におけるナンセンス突然変異、エクソン52及び53の同時スキッピングを必要とするエクソン52若しくはエクソン53におけるナンセンス突然変異、又はエクソン43、46、50、51、52及び/若しくは53に関する二重又は複数エクソン重複等(これらに限定されないが)、特定の欠失、小さな(点)突然変異又は二重若しくは複数エクソン重複を有する患者を含む、一部の患者のため、エクソン43、エクソン46及び/又はエクソン50〜53に加えて、追加のエクソンのうちの1個の同時スキッピングがオープンリーディングフレームの回復に必要とされる。
【0024】
好ましい方法において、エクソン43のスキッピングが誘導され、又はエクソン46のスキッピングが誘導され、又はエクソン50のスキッピングが誘導され、又はエクソン51のスキッピングが誘導され、又はエクソン52のスキッピングが誘導され、又はエクソン53のスキッピングが誘導される。これらエクソンのうちの2個のスキッピングの誘導もまた本発明の方法に包含される。例えば、エクソン50及び51、又は52及び53、又は43及び51、又は43及び53、又は51及び52のスキッピングが好ましい。当業者であれば、患者で同定された突然変異の種類及び同一性(関与する特定のエクソン)に依存し、前記患者においてエクソンのどの組合せをスキッピングする必要があるか理解できるであろう。
【0025】
好ましい方法において、DMD又はBMD患者の1又は複数種の症状(単数又は複数)が緩和される、及び/又はDMD又はBMD患者由来の1又は複数の筋細胞の1又は複数種の特性(単数又は複数)が改善される。このような症状又は特性は、細胞、組織レベルで又は患者自身において評価することができる。
【0026】
1又は複数種の特性の緩和は、患者由来の筋原細胞又は筋細胞における次のアッセイ、即ち筋細胞によるカルシウムの取り込み低減、コラーゲン合成の低下、形態学的変化、脂質生合成の変化、酸化ストレスの低下、並びに/又は筋線維の機能、完全性及び/若しくは生存性の改善のうちのいずれかにより評価することができる。これらパラメーターは通常、筋生検切片の免疫蛍光及び/若しくは組織化学的解析を用いて評価される。
【0027】
筋線維の機能、完全性及び/又は生存性の改善は、次のアッセイ、即ち血中クレアチンキナーゼの検出可能な減少、ジストロフィーの疑いのある筋肉の生検切片における筋線維壊死の検出可能な減少及び/又はジストロフィーの疑いのある筋肉の生検切片における筋線維直径の均質性の検出可能な増加のうちの少なくとも1種を用いて評価することができる。これらアッセイのそれぞれは当業者に知られている。
【0028】
クレアチンキナーゼは、Hodgettsら(Hodgetts S.ら、(2006)、Neuromuscular Disorders、16:591〜602.2006)に記載されている通り、血液中で検出することができる。クレアチンキナーゼの検出可能な減少は、処置前の同一DMD又はBMD患者におけるクレアチンキナーゼ濃度と比べて5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%以上の減少を意味することができる。
【0029】
筋線維壊死の検出可能な減少は、好ましくは筋生検で、より好ましくはHodgettsら(Hodgetts S.ら、(2006)、Neuromuscular Disorders、16:591〜602.2006)に記載されている通り生検切片を用いて評価される。壊死の検出可能な減少は、生検切片を用いて壊死が確認された領域の5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%以上の減少となり得る。減少は、処置前の同一DMD又はBMD患者で評価された壊死との比較により測定される。
【0030】
筋線維直径の均質性の検出可能な増加は、好ましくは筋生検切片で、より好ましくはHodgettsら(Hodgetts S.ら、(2006)、Neuromuscular Disorders、16:591〜602.2006)に記載されている通りに評価される。増加は、処置前の同一DMD又はBMD患者における筋線維直径の均質性との比較によって測定される。
【0031】
1又は複数種の症状の緩和は、患者自身における次のアッセイ、即ち歩行能力喪失までの時間延長、筋力改善、重量物持ち上げ能力の改善、床からの立ち上がりに要する時間の改善、9メートル歩行時間の改善、4段階段を登るのに要する時間の改善、脚の機能グレードの改善、肺機能改善、心機能改善、クオリティーオブライフ改善のうちのいずれかにより評価することができる。これらアッセイのそれぞれが当業者に知られている。一例として、Manzurら(Manzur AYら、(2008)、Glucocorticoid corticosteroids for Duchenne muscular dystrophy(review),Wiley publishers、The Cochrane collaboration.)の刊行物は、これらアッセイのそれぞれに対して広範な説明を与える。これらアッセイのそれぞれに対して、アッセイにおける測定パラメーターの検出可能な改善又は延長が判明し次第、これは好ましくは、本発明の方法を用いることによって、Duchenne型筋ジストロフィー又はBecker型筋ジストロフィーの1又は複数種の症状が個体において緩和したことを意味する。検出可能な改善又は延長は、Hodgettsら(Hodgetts S.ら、(2006)、Neuromuscular Disorders、16:591〜602.2006)に説明されている通り、統計的に有意な改善又は延長であることが好ましい。或いは、Duchenne型筋ジストロフィー又はBecker型筋ジストロフィーの1又は複数種の症状(単数又は複数)の緩和は、本明細書で後に定義する通り、筋線維の機能、完全性及び/又は生存性の改善を測定することにより評価することができる。
【0032】
本発明に係る方法における治療は、少なくとも1週間、少なくとも1カ月、少なくとも数カ月、少なくとも1年、少なくとも2、3、4、5、6年以上の期間がかかる可能性がある。
【0033】
本明細書に定義されている、本発明に係る使用のための各分子若しくはオリゴヌクレオチド又はそれらの均等物は、DMD又はBMDに罹患又は発症リスクのある個体の細胞、組織及び/又は器官へのin vivoでの直接投与に適切となることができ、in vivo、ex vivo又はin vitroで直接投与することができる。本発明の分子、オリゴヌクレオチド又は組成物の投与頻度は、患者の年齢、患者の突然変異、分子の数(用量)、前記分子の製剤等、数種類のパラメーターに依存し得る。頻度は、2週間、3週間、4週間、5週間又はそれ以上長い期間に少なくとも1回の範囲となることができる。
【0034】
分子若しくはオリゴヌクレオチド又はそれらの均等物は、細胞そのものへと送達することができる。前記分子、オリゴヌクレオチド又はそれらの均等物を個体に投与する場合、それらを送達方法と適合する溶液に溶解することが好ましい。静脈内、皮下、筋肉内、くも膜下及び/又は脳室内投与のため、溶液は生理食塩水であることが好ましい。本明細書に定義されている前記分子、オリゴヌクレオチド又はそれらの機能的均等物の細胞及び細胞内、好ましくは筋細胞への送達を更に増強する賦形剤の使用が、本発明の方法に特に好ましい。好ましい賦形剤は、表題「医薬組成物」節に定義されている。
【0035】
本発明の好ましい方法において、患者のDMD mRNA前駆体の別のエクソンスキッピングを誘導及び/又は促進することができる追加的な分子が用いられる。好ましくは、第二のエクソンが、患者のDMD mRNA前駆体のエクソン6、7、11、17、19、21、43、44、45、50、51、52、53、55、57、59、62、63、65、66、69又は75から選択される。用いることができる分子は、表1〜7のうちのいずれか1表に示されている。このように、DMD mRNA前駆体の2個以上のエクソンの、該mRNA前駆体から生成されたmRNAにおける含有が抑制される。この実施形態は、更に二重又は複数エクソンスキッピングとも言う(Aartsma−Rus A、Janson AA、Kaman WEら、Antisense−induced multiexon skipping for Duchenne muscular dystrophy makes more sense.Am J Hum Genet 2004;74(1):83〜92、Aartsma−Rus A、Kaman WE、Weij R、den Dunnen JT、van Ommen GJ、van Deutekom JC.Exploring the frontiers of therapeutic exon skipping for Duchenne muscular dystrophy by double targeting within one or multiple exons.Mol Ther 2006;14(3):401〜7)。多くの場合、二重エクソンスキッピングは、DMD mRNA前駆体から2個の標的エクソンのみの排除をもたらす。しかし、他の場合、前記mRNA前駆体における標的エクソン及び前記エクソン間の全領域は、他のエクソン(介在エクソン)がこのような領域に存在していたとしても、生成されたmRNAには存在しないことが判明した。この複数スキッピングは、エクソン45に対するオリゴヌクレオチド1種及びエクソン51に対するオリゴヌクレオチド1種がDMD遺伝子を転写している細胞に添加された、DMD遺伝子に由来するオリゴヌクレオチドの組合せにおいて顕著にその通りであった。このようなセットアップは、エクソン45〜51を含まずに生成されたmRNAを生じた。明らかに、言及されているオリゴヌクレオチド存在下のmRNA前駆体の構造は、スプライシング機構が刺激されてエクソン44と52を互いに接続するようなものであった。
【0036】
2本の相補的オリゴヌクレオチドの間の接続を提供することによって、介在エクソンのスキッピングも特異的に促進することが可能である。したがって、一実施形態において、少なくとも2個のジストロフィンエクソンと相補的なヌクレオチド配列は、接続部分によって分離される。少なくとも2本のヌクレオチド配列は、本実施形態において、このように単一分子を形成するよう接続される。
【0037】
場合により、2種以上の化合物又は分子が本発明の方法において用いられ、前記化合物類は任意の順序で個体に投与することができる。一実施形態において、前記化合物類は同時に投与される(前記化合物類が10時間以内、好ましくは1時間以内に投与されることを意味する)。しかし、これは必要とされない。別の実施形態において、前記化合物類は順次投与される。
【0038】
分子
第二の態様において、前節の表題「方法」に記載されている方法における使用のための分子が提供される。本明細書に定義されている分子は、オリゴヌクレオチド又はアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)であることが好ましい。
【0039】
本研究者らにより、エクソン43、46、50〜53のうちのいずれかが、前記エクソン内の一続きの少なくとも8ヌクレオチドと好ましくは結合する分子を用いて高頻度で特異的にスキッピングされることが判明した。この効果は、一続きの8ヌクレオチド未満と結合する分子と比べて前記分子のより高い結合親和性と関連し得るが、ハイブリッド二本鎖の熱力学的、動態的又は構造的特性に有利に働く関連する他の細胞内パラメーターが存在する可能性がある。好ましい一実施形態において、前記エクソン内の一続きの少なくとも8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50ヌクレオチドと結合する分子が用いられる。
【0040】
好ましい一実施形態において、DMD mRNA前駆体のエクソン43、46、50〜53のうちのいずれかの一部と相補的な配列を含む本発明の分子又はオリゴヌクレオチドは、相補部分が、本発明のオリゴヌクレオチドの長さの少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、更により好ましくは少なくとも70%、更により好ましくは少なくとも80%、更により好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%又は更により好ましくは98%、最も好ましくは最大100%となるものである。「前記エクソンの一部」は、好ましくは、一続きの少なくとも8ヌクレオチドを意味する。最も好ましい一実施形態において、本発明のオリゴヌクレオチドは、本明細書に定義されているDMD mRNA前駆体の前記エクソンの一部と相補的な配列からなる。例えば、オリゴヌクレオチドは、本明細書に定義されているDMD mRNA前駆体の前記エクソンの一部と相補的な配列及び追加的なフランキング配列を含むことができる。より好ましい一実施形態において、前記オリゴヌクレオチドの前記相補部分の長さは、少なくとも8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50ヌクレオチドの長さである。好ましくは、追加的なフランキング配列は、タンパク質と前記分子若しくはオリゴヌクレオチドとの結合を修飾するため、又はオリゴヌクレオチドの熱力学的特性を修飾するため、より好ましくは、標的RNA結合親和性を修飾するために用いられる。
【0041】
本発明の方法で用いられる好ましい分子は、
エクソン43のスキッピングのための
【化1】


エクソン46のスキッピングのための
【化2】


エクソン50のスキッピングのための
【化3】


エクソン51のスキッピングのための
【化4】


エクソン52のスキッピングのための
【化5】


及びエクソン53のスキッピングのための
【化6】


から選択されるヌクレオチド配列のうちの一つの配列内の一続きの少なくとも8ヌクレオチドと結合する、又は相補的である。
【0042】
前記エクソンうちの一つのエクソン内の、配列番号2〜7によって定義されている、理論的に一続きのヌクレオチドと結合するよう調製することができる数多くの分子のうち、本発明は、エクソン43、エクソン46及び/又はエクソン50〜53のうちの少なくとも1個の効率的なスキッピングのための方法で用いることができる異なる分子を提供する。スキッピング効果は前記配列内の比較的高密度の推定SRタンパク質結合部位を言うことができるが、分子の取り込みに有利な他の関連パラメーター又はハイブリッド二本鎖の熱力学的、動態的若しくは構造的特性等、他の細胞内パラメーターも存在し得る。
【0043】
配列番号2〜7のうちのいずれかに含まれる又はいずれかからなる一続きと結合する分子が、この分子を提供された細胞及び/又は患者における、それぞれエクソン43、エクソン46及び/又はエクソン50〜53の高効率のスキッピングをもたらすことが判明した。したがって、好ましい一実施形態において、分子が配列番号2〜7内の一続きの少なくとも8、10、12、15、18、20、25、30、35、40、45、50ヌクレオチドと結合する方法が提供される。
【0044】
エクソン43、エクソン46及び/又はエクソン50〜53のうちのいずれかのスキッピングを誘導及び/又は促進するための好ましい一実施形態において、本発明は、表1〜6のうちのいずれかに示されているアンチセンスヌクレオチド配列から選択されるアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなる分子を提供する。本発明の分子は、配列番号16、配列番号65、配列番号70、配列番号91、配列番号110、配列番号117、配列番号127、配列番号165、配列番号166、配列番号167、配列番号246、配列番号299、配列番号357のアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなることが好ましい。
【0045】
本発明の好ましい分子は、20ヌクレオチド、21ヌクレオチド、22ヌクレオチド、23ヌクレオチド、24ヌクレオチド、25ヌクレオチド、26ヌクレオチド、27ヌクレオチド、28ヌクレオチド、29ヌクレオチド、30ヌクレオチド、31ヌクレオチド、32ヌクレオチド、33ヌクレオチド、34ヌクレオチド、35ヌクレオチド、36ヌクレオチド、37ヌクレオチド、38ヌクレオチド、39ヌクレオチド、40ヌクレオチド、41ヌクレオチド、42ヌクレオチド、43ヌクレオチド、44ヌクレオチド、45ヌクレオチド、46ヌクレオチド、47ヌクレオチド、48ヌクレオチド、49ヌクレオチド又は50ヌクレオチド等、8〜50ヌクレオチド又は塩基、より好ましくは10〜50ヌクレオチド、より好ましくは20〜40ヌクレオチド、より好ましくは20〜30ヌクレオチドの、ヌクレオチドに基づく、ヌクレオチド又はアンチセンスオリゴヌクレオチド配列を含む。
【0046】
本発明の最も好ましい分子は、25ヌクレオチドのヌクレオチドに基づく配列を含む。
【0047】
更に、示されている配列のうちスプライス部位の保存部分に由来するものはない。したがって、前記分子は、DMD mRNA前駆体由来の他のエクソン又は他の遺伝子由来のエクソンの示差的なスプライシングを媒介しないと思われる。
【0048】
一実施形態において、本発明の分子は、特定の配列に結合する化合物分子、又はRNA結合タンパク質若しくはDMD RNA前駆体分子上の対応するヌクレオチド配列と結合することができるよう修飾された非天然ジンクフィンガータンパク質等、タンパク質である。特定のヌクレオチド配列と結合する化合物分子をスクリーニングするための方法は、例えば参照により本明細書に組み込まれている国際出願PCT/NL01/00697号明細書及び米国特許第6,875,736号明細書に開示されている。特定のヌクレオチド配列と結合するRNA結合ジンクフィンガータンパク質を設計するための方法は、参照により本明細書に組み込まれているFriesen及びDarby、Nature Structural Biology5:543〜546(1998)により開示されている。
【0049】
本発明の好ましい分子は、DMD遺伝子のエクソン43に存在する配列、
【化7】


の少なくとも一部と結合する。より好ましくは、本発明は、配列番号8〜配列番号69のアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなる分子を提供する。
【0050】
更により好ましい一実施形態において、本発明は、配列番号16及び/又は配列番号65のアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなる分子を提供する。
【0051】
最も好ましい一実施形態において、本発明は、配列番号65のアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなる分子を提供する。この分子が、筋細胞及び/又は患者におけるDMD mRNA前駆体のエクソン43のスプライシング調節に非常に効率的であることが判明した。
【0052】
本発明の別の好ましい分子は、DMD遺伝子のエクソン46に存在する配列、
【化8】


の少なくとも一部と結合する。より好ましくは、本発明は、配列番号70〜配列番号122のアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなる分子を提供する。
【0053】
更により好ましい一実施形態において、本発明は、配列番号70、配列番号91、配列番号110及び/又は配列番号117のアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなる分子を提供する。
【0054】
最も好ましい一実施形態において、本発明は、配列番号117のアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなる分子を提供する。この分子が、筋細胞又は患者におけるDMD mRNA前駆体のエクソン46のスプライシング調節に非常に効率的であることが判明した。
【0055】
本発明の別の好ましい分子は、DMD遺伝子のエクソン50に存在する配列、
【化9】


の少なくとも一部と結合する。より好ましくは、本発明は、配列番号123〜配列番号167及び/又は配列番号529〜配列番号535のアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなる分子を提供する。
【0056】
更により好ましい一実施形態において、本発明は、配列番号127又は配列番号165又は配列番号166及び/又は配列番号167のアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなる分子を提供する。
【0057】
最も好ましい一実施形態において、本発明は、配列番号127のアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなる分子を提供する。この分子が、筋細胞及び/又は患者におけるDMD mRNA前駆体のエクソン50のスプライシング調節に非常に効率的であることが判明した。
【0058】
本発明の別の好ましい分子は、DMD遺伝子のエクソン51に存在する配列、
【化10】


の少なくとも一部と結合する。より好ましくは、本発明は、配列番号168〜配列番号241のアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなる分子を提供する。
【0059】
本発明の別の好ましい分子は、DMD遺伝子のエクソン52に存在する配列、
【化11】


の少なくとも一部と結合する。より好ましくは、本発明は、配列番号242〜配列番号310のアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなる分子を提供する。更により好ましい一実施形態において、本発明は、配列番号246及び/又は配列番号299のアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなる分子を提供する。最も好ましい一実施形態において、本発明は、配列番号299のアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなる分子を提供する。この分子が、筋細胞及び/又は患者におけるDMD mRNA前駆体のエクソン52のスプライシング調節に非常に効率的であることが判明した。
【0060】
本発明の別の好ましい分子は、DMD遺伝子のエクソン53に存在する配列、
【化12】


の少なくとも一部と結合する。より好ましくは、本発明は、配列番号311〜配列番号358のアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなる分子を提供する。
【0061】
最も好ましい一実施形態において、本発明は、配列番号357のアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなる分子を提供する。この分子が、筋細胞及び/又は患者におけるDMD mRNA前駆体のエクソン53のスプライシング調節に非常に効率的であることが判明した。
【0062】
本発明の分子のヌクレオチド配列は、本明細書で後に更に詳述するように、RNA残基又は1若しくは複数のDNA残基及び/又は1若しくは複数のヌクレオチドアナログ又はその均等物を含むことができる。
【0063】
本発明の分子は、ヌクレアーゼ抵抗性を高めるよう、及び/又はアンチセンスヌクレオチドの標的配列に対する親和性を高めるよう修飾された1又は複数の残基を含むことが好ましい。したがって、好ましい一実施形態において、アンチセンスヌクレオチド配列は、修飾塩基及び/若しくは修飾骨格及び/若しくは非天然ヌクレオシド間結合、又はこれら修飾の組合せを有する残基として定義された、少なくとも1個のヌクレオチドアナログ又はその均等物を含む。
【0064】
好ましい一実施形態において、ヌクレオチドアナログ又はその均等物は修飾骨格を含む。このような骨格の例として、モルホリノ骨格、カルバメート骨格、シロキサン骨格、スルフィド、スルホキシド及びスルホン骨格、ホルムアセチル及びチオホルムアセチル骨格、メチレンホルムアセチル骨格、リボアセチル骨格、アルケン含有骨格、スルファメート、スルホネート及びスルホンアミド骨格、メチレンイミノ及びメチレンヒドラジノ骨格並びにアミド骨格が挙げられる。ホスホロジアミデートモルホリノオリゴマーは、以前にアンチセンス薬として研究された修飾骨格オリゴヌクレオチドである。モルホリノオリゴヌクレオチドは、DNAのデオキシリボース糖が六員環に置換され、ホスホジエステル結合がホスホロジアミデート結合に置換された、非荷電骨格を有する。モルホリノオリゴヌクレオチドは、酵素分解抵抗性であり、RNaseHを活性化させることよりもむしろ、翻訳を停止すること、又はmRNA前駆体のスプライシングに干渉することにより、アンチセンス薬として機能すると思われる。モルホリノオリゴヌクレオチドは、細胞膜を物理的に崩壊させる方法により組織培養細胞に首尾よく送達され、これら方法の数種を比較したある研究により、スクレイプローディングが最も効率的な送達方法であることが判明した。しかし、モルホリノ骨格は非荷電であるため、カチオン性脂質は細胞へのモルホリノオリゴヌクレオチド取り込みの効果的な媒介物ではない。近年の報告は、モルホリノオリゴヌクレオチドによる三重鎖形成を示し、これら研究は、モルホリノオリゴヌクレオチドがその非イオン性骨格のため、マグネシウムの不在下で三重鎖を形成できることを示した。
【0065】
短鎖アルキル若しくはシクロアルキルヌクレオシド間結合、混合へテロ原子及びアルキル若しくはシクロアルキルヌクレオシド間結合又は1若しくは複数種の短鎖へテロ原子若しくは複素環ヌクレオシド間結合により形成された結合等、骨格における残基間の結合は、リン原子を含まないことが更に好ましい。
【0066】
好ましいヌクレオチドアナログ又はその均等物は、修飾ポリアミド骨格を有するペプチド核酸(PNA)を含む(Nielsenら、(1991)Science 254、1497〜1500)。PNAに基づく分子は、塩基対認識に関してDNA分子の真の模倣となる。PNA骨格は、ヌクレオ塩基がメチレンカルボニル結合により骨格と結合した、ペプチド結合により結合したN−(2−アミノエチル)−グリシンユニットを含む。代替的な骨格は、1炭素伸長したピロリジンPNAモノマーを含む(Govindaraju及びKumar(2005)Chem.Commun、495〜497)。PNA分子の骨格は荷電リン酸基を含まないため、PNA−RNAハイブリッドは通常、それぞれRNA−RNA又はRNA−DNAハイブリッドより安定的である(Egholmら、(1993)Nature365、566〜568)。
【0067】
更に好ましい骨格は、リボース又はデオキシリボース糖がモルホリノ六員環に置換されたモルホリノヌクレオチドアナログ又はその均等物を含む。最も好ましいヌクレオチドアナログ又はその均等物は、リボース又はデオキシリボース糖がモルホリノ六員環に置換され、隣接するモルホリノ環間のアニオン性ホスホジエステル結合が非イオン性ホスホロジアミデート結合に置換された、ホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー(PMO)を含む。
【0068】
更に別の実施形態において、本発明のヌクレオチドアナログ又はその均等物は、ホスホジエステル結合における非架橋酸素のうちの1個の置換を含む。この修飾は、塩基対合を僅かに不安定化させるが、ヌクレアーゼ分解に対する顕著な抵抗性を付加する。好ましいヌクレオチドアナログ又はその均等物は、ホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、H−ホスホネートや、3’−アルキレンホスホネート、5’−アルキレンホスホネート及びキラルホスホネート等、メチル及び他のアルキルホスホネート、ホスフィネートや、3’−アミノホスホラミデート、アミノアルキルホスホラミデート及びチオノホスホラミデート等、ホスホラミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、セレノホスフェート又はボラノホスフェートを含む。
【0069】
本発明の更に好ましいヌクレオチドアナログ又はその均等物は、−OH;−F;1又は複数のヘテロ原子によって分断され得る置換又は非置換、直鎖又は分岐鎖低級(C1〜C10)アルキル、アルケニル、アルキニル、アルカリル、アリル、アリール又はアラルキル;O−、S−又はN−アルキル;O−、S−又はN−アルケニル;O−、S−又はN−アルキニル;O−、S−又はN−アリル;O−アルキル−O−アルキル、−メトキシ、−アミノプロポキシ;−アミノキシ;メトキシエトキシ;−ジメチルアミノオキシエトキシ;及び−ジメチルアミノエトキシエトキシ等、2’、3’、及び/又は5’位置において1又は2基置換された1又は複数種の糖部分を含む。糖部分は、ピラノース若しくはその誘導体又はデオキシピラノース若しくはその誘導体、好ましくはリボース若しくはその誘導体又はデオキシリボース若しくはその誘導体となることができる。このような好ましい誘導体化糖部分は、2’−炭素原子が糖環の3’又は4’炭素原子と結合し、これにより二環式糖部分を形成しているロックド核酸(LNA)を含む。好ましいLNAは、2’−O,4’−C−エチレン架橋核酸を含む(Moritaら、2001.Nucleic Acid Res Supplement No.1:241〜242)。これら置換は、ヌクレオチドアナログ又はその均等物にRNaseH及びヌクレアーゼ抵抗性を付与し、標的RNAに対する親和性を高める。
【0070】
当業者であれば、アンチセンスオリゴヌクレオチドにおける全位置が均一に修飾される必要がないことが理解できる。更に、上述のアナログ又はその均等物のうちの2種以上が、単一のアンチセンスオリゴヌクレオチドに取り込まれてもよく、又は更にはアンチセンスオリゴヌクレオチド内の単一位置に取り込まれてもよい。特定の実施形態において、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも2種類の異なるアナログ又はその均等物を有する。
【0071】
本発明に係る好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドは、2’−O−メチル修飾リボース(RNA)、2’−O−エチル修飾リボース、2’−O−プロピル修飾リボース及び/又はハロゲン化誘導体等のこれら修飾の置換誘導体等、2’−O−アルキルホスホロチオエートアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む。本発明に係る最も好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドは、2’−O−メチルホスホロチオエートリボースを含む。
【0072】
本発明の分子の機能的均等物は、前記機能的均等物の活性が少なくともある程度保持されている、本明細書に定義されているオリゴヌクレオチドとして定義することができる。好ましくは、前記機能的均等物の活性は、エクソン43、46、50、51、52又は53スキッピングを誘導し、機能ジストロフィンタンパク質を提供する。したがって、前記機能的均等物の前記活性は、エクソン43、46、50、51、52又は53スキッピングの検出及び機能ジストロフィンタンパク質量の定量化によって評価されることが好ましい。本明細書における機能ジストロフィンは、アクチン及びDGCタンパク質複合体のメンバーと結合できるジストロフィンとして定義されることが好ましい。オリゴヌクレオチドの前記活性評価は、RT−PCRにより、又は免疫蛍光又はウエスタンブロット解析により実施されることが好ましい。前記活性は、機能的均等物の由来する前記オリゴヌクレオチドの対応する活性の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%以上を示す場合、少なくともある程度保持されることが好ましい。本願を通じて、単語、オリゴヌクレオチドが用いられている場合、これは本明細書に定義されているその機能的均等物に置き換えることができる。
【0073】
当業者であれば、ヒトDMD mRNA前駆体のエクソン43、エクソン46、エクソン50、エクソン51、エクソン52及び/又はエクソン53のうちのいずれかを効率的にスキッピングするため、異なるアンチセンスオリゴヌクレオチドを組み合わせてよいことを理解するであろう。前記エクソン(即ち、エクソン43、46、50、51、52又は53)のうちの1個をスキッピングするための、1、2、3、4、5種類以上のオリゴヌクレオチドの使用は、本明細書により包含されている。前記エクソンのうちの少なくとも2個をスキッピングするための、少なくとも2種類のオリゴヌクレオチドの使用もまた包含されている。好ましくは、前記エクソンのうちの2個がスキッピングされる。より好ましくは、これら2個のエクソンは、
−43及び51、又は
−43及び53、又は
−50及び51、又は
−51及び52、又は
−52及び53
である。
【0074】
当業者であれば、DMD又はBMD患者に存在する突然変異の種類、数及び位置に依存し、エクソンのどの組合せがスキッピングされるのに好ましいか理解するであろう。
【0075】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、細胞、好ましくは筋細胞におけるアンチセンスオリゴヌクレオチド取り込みを増強する構成成分と結合することができる。このような構成成分の例として、コレステロール、炭水化物、ビタミン、ビオチン、脂質、リン脂質や、アンテナペディア、TAT、トランスポータンを含むがこれらに限定されない細胞透過性ペプチド、オリゴアルギニン、ポリアルギニン、オリゴリシン又はポリリシン等、正荷電アミノ酸、及び抗体、抗体のFabフラグメント又はラクダ型(cameloid)単ドメイン抗原結合ドメイン等、短鎖抗原結合ドメインにより提供されるような抗原結合ドメインが挙げられる。
【0076】
好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドは、ペプチド結合PMOを含む。
【0077】
本発明の1又は複数種のヌクレオチドアナログ又はその均等物を含む好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドは、全身送達において心筋細胞等、1又は複数の筋細胞におけるスプライシングを調節する。この点において、特定のヌクレオチドアナログ又はその均等物を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドの全身送達は、筋細胞のサブセットへのターゲティングをもたらし得るが、異なるヌクレオチドアナログ又はその均等物を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドは、筋細胞の異なるサブセットへのターゲティングをもたらし得る。したがって、一実施形態において、ヒトDMD mRNA前駆体のエクソン43、46、50、51、52又は53のスキッピングを誘導するために、異なるヌクレオチドアナログ又はその均等物を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドの組合せを使用することが好ましい。
【0078】
細胞は、プラスミド由来のアンチセンスオリゴヌクレオチドの発現又はアデノウイルス若しくはアデノ随伴ウイルスに基づくベクターによって提供されたウイルス発現により、ヒトDMD mRNA前駆体のエクソン43、エクソン46、エクソン50、エクソン51、エクソン52又はエクソン53の高効率的のスキッピングをもたらす、必須配列に干渉することができる分子を提供され得る。好ましい一実施形態において、本明細書で同定されている分子の発現を駆動する発現カセットを含む、ウイルスに基づく発現ベクターが提供される。発現は、U1、U6又はU7RNAプロモーター等、ポリメラーゼIIIプロモーターにより駆動されることが好ましい。筋又は筋原細胞は、水溶液中のプラスミドを提供することにより、アンチセンスオリゴヌクレオチド発現のためのプラスミドを提供され得る。或いは、プラスミドは、例えばLipofectAMINE(商標)2000(Invitrogen)若しくはポリエチレンイミン(PEI;ExGen500(MBI Fermentas))又はそれらの誘導体等、公知のトランスフェクション剤を用いてトランスフェクションにより提供され得る。
【0079】
アンチセンスオリゴヌクレオチド発現の好ましい一システムは、アデノ随伴ウイルス(AAV)に基づくベクターである。DMD mRNA前駆体のエクソン43、46、50、51、52又は53の高効率のスキッピングのための小さなアンチセンスヌクレオチド配列の長期発現に用いることができる、一本鎖及び二本鎖のAAVに基づくベクターが開発された。
【0080】
好ましいAAVに基づくベクターは、ポリメラーゼIIIプロモーター(Pol III)により駆動される発現カセットを含む。好ましいPol IIIプロモーターは、例えばU1、U6又はU7RNAプロモーターである。
【0081】
したがって、本発明は、ヒトDMD mRNA前駆体のエクソン43、エクソン46、エクソン50、エクソン51、エクソン52又はエクソン53のスキッピングを誘導するための、本発明の1又は複数種のアンチセンス配列を発現するためのPol IIIプロモーター駆動発現カセットを含む、ウイルスに基づくベクターも提供する。
【0082】
医薬組成物
必要に応じて、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドを発現する分子又はベクターは、薬学的に許容される担体を添加することにより、薬学的に活性な混合物又は組成物に取り込まれることができる。
【0083】
したがって、更に別の態様において、本発明は、本発明に係るアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む分子、及び/又は本発明に係るアンチセンス配列(単数又は複数)を発現する、ウイルスに基づくベクターと、薬学的に許容される担体とを含む組成物、好ましくは医薬組成物を提供する。
【0084】
好ましい医薬組成物は、DMD mRNA前駆体のエクソン6、7、11、17、19、21、43、44、45、50、51、52、53、55、57、59、62、63、65、66、69又は75のスキッピングを誘導することができる、本明細書に定義されている分子及び/又はベクターと任意選択で組み合わせた、本明細書に定義されている分子及び/又は本明細書に定義されているベクターと、薬学的に許容される担体又は賦形剤とを含む。これらエクソンのうちのいずれかのスキッピングを誘導することができる好ましい分子は、表1〜7のうちのいずれか1つに同定されている。
【0085】
好ましい賦形剤は、本明細書に定義されているこのような分子、好ましくは複合体を形成した又は細胞膜により小胞又はリポソームに捕捉されたオリゴヌクレオチドを送達する複合体、小胞及び/又はリポソームを形成することができる賦形剤を含む。これら賦形剤の多くは、本技術分野で公知のものである。適切な賦形剤は、このような分子、好ましくは本明細書に定義されているオリゴヌクレオチドを細胞、好ましくは筋細胞に送達できる粒子に自己集合することができる、ポリエチレンイミンとその誘導体、又はポリプロピレンイミン若しくはポリエチレンイミンコポリマー(PEC)とその誘導体等を含む、類似のカチオン性ポリマー、ExGen500、合成両親媒性物質(SAINT−18)、リポフェクチン(商標)、DOTAP及び/又はウイルスカプシドタンパク質を含む。このような賦形剤は、(アンチセンス等、オリゴヌクレオチド)核酸を筋細胞等、種々の培養細胞へ効率的に送達することが示された。これらの高いトランスフェクション潜在能力は、全細胞生存に関して除外される低度から中程度の毒性と組み合される。構造的修飾の容易さを利用して、更なる修飾と、これらの更なる(in vivo)核酸転移特性及び毒性を分析することができる。
【0086】
リポフェクチンは、リポソームトランスフェクション剤の一例を表す。これは、2種の脂質成分、カチオン性N−[1−(2,3ジオレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−塩化トリメチルアンモニウム(DOTMA)(cp.DOTAPは、メチル硫酸塩)及び中性脂肪ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)からなる。中性成分は、細胞内放出を媒介する。デリバリーシステムの別のグループは、高分子ナノ粒子である。
【0087】
DNAトランスフェクション剤としてよく知られているジエチルアミノエチルアミノエチル(DEAE)−デキストラン等、ポリカチオンは、ブチルシアノアクリレート(PBCA)及びヘキシルシアノアクリレート(PHCA)と組み合わせて、本明細書に定義されている分子又は化合物、好ましくはオリゴヌクレオチドを、細胞膜を通過して細胞内に送達することができるカチオン性ナノ粒子を製剤することができる。
【0088】
これら一般的なナノ粒子材料に加えて、カチオン性ペプチドプロタミンは、本明細書に定義されている化合物、好ましくはオリゴヌクレオチドをコロイドとして製剤するための代替的アプローチを提供する。このコロイド状ナノ粒子システムは、簡便な自己集合プロセスにより調製されて、本明細書に定義されている化合物、好ましくはオリゴヌクレオチドを封入し細胞内放出を媒介することができる、いわゆるプロティクル(proticle)を形成することができる。当業者であれば、本明細書に定義されている化合物、好ましくはヒトのDuchenne型筋ジストロフィー又はBecker型筋ジストロフィーの治療のために前記化合物を送達する、本発明における使用のためのオリゴヌクレオチドの封入及び送達のための、上述又は他の市販の代替的賦形剤及びデリバリーシステムのうちのいずれかを選択し、適合させることができる。
【0089】
更に、本明細書に定義されている化合物、好ましくはオリゴヌクレオチドは、細胞、細胞質及び/又はその核への取り込みを促進するよう特異的に設計されたターゲティングリガンドと共有又は非共有結合することができる。このようなリガンドは、(i)細胞への取り込みを促進する、細胞、組織又は器官特異的エレメントを認識する(ペプチド(様)構造を含むがこれに限定されない)化合物、及び/又は(ii)細胞への取り込み及び/又は本明細書で定義されている化合物、好ましくはオリゴヌクレオチドの小胞、例えばエンドソーム又はリソソームから細胞内への放出を促進することができる化学合成物を含むことができる。
【0090】
したがって、好ましい一実施形態において、本明細書に定義されている化合物、好ましくはオリゴヌクレオチドが、少なくとも1種類の賦形剤及び/又は送達のためのターゲティングリガンド及び/又は前記化合物の細胞への送達デバイス及び/又はその細胞内送達を促進する物質を提供された薬剤に製剤される。したがって、本発明は、本明細書に定義されている化合物、好ましくはオリゴヌクレオチドを含み、少なくとも1種類の賦形剤及び/又は送達のためのターゲティングリガンド及び/又は前記化合物の細胞への送達デバイス及び/又はその細胞内送達を促進する物質を更に含む、薬学的に許容される組成物も包含する。
【0091】
分子、化合物又はオリゴヌクレオチドは、単一の組成物又は調製物に製剤してはならないことを理解するべきである。当業者であれば、その同一性に依存して、どの種類の製剤が各化合物に最も適切であるか理解することができるであろう。
【0092】
好ましい一実施形態において、0.1nM〜1□Mの範囲のin vitro濃度の、本明細書に定義されている分子又はオリゴヌクレオチドが用いられている。より好ましくは、用いられている濃度は、0.3〜400nM、更により好ましくは1〜200nMの範囲である。本明細書に定義されている分子又はオリゴヌクレオチドは、0.1〜20mg/kg、好ましくは0.5〜10mg/kgの範囲の用量で用いることができる。数種類の分子又はオリゴヌクレオチドが用いられる場合、これらの濃度は、オリゴヌクレオチドの合計濃度又は添加された各オリゴヌクレオチドの濃度を意味することができる。上述のオリゴヌクレオチド(単数又は複数)の濃度範囲は、in vitro又はex vivoにおける使用に好ましい濃度である。当業者であれば、用いられているオリゴヌクレオチド(単数又は複数)、処置される標的細胞、遺伝子標的及びその発現レベルに依存して、用いられる培地並びにトランスフェクション及びインキュベーション条件、用いられるオリゴヌクレオチド(単数又は複数)濃度は更に変化することができ、更なる最適化が必要となり得ることを理解するであろう。
【0093】
より好ましくは、DMD又はBMDを予防、治療するために本発明に用いられる化合物、好ましくはオリゴヌクレオチドは合成的に生成され、薬学的に許容される組成物又は調製物の製剤形態で、細胞、組織、器官及び/又は患者に直接投与される。医薬組成物の被験者への送達は、好ましくは1又は複数種の非経口注射、例えば静脈内及び/又は皮下及び/又は筋肉内及び/又はくも膜下及び/又は脳室内投与、好ましくはヒトの身体の1又は複数部位における注射により行われる。
【0094】
本発明の1又は複数種のヌクレオチドアナログ又はその均等物を任意選択で含む、本明細書に定義されている好ましいオリゴヌクレオチドは、全身送達において1又は複数の心筋細胞等、筋細胞におけるスプライシングを調節する。この点において、特定のヌクレオチドアナログ又はその均等物を含むオリゴヌクレオチドの全身送達は、筋細胞のサブセットへのターゲティングを生じ得るが、一方異なるヌクレオチドアナログ又はその均等物を含むオリゴヌクレオチドは、筋細胞の異なるサブセットへのターゲティングを生じ得る。
【0095】
この点において、特定のヌクレオチドアナログ又はその均等物を含むオリゴヌクレオチドの全身送達は、筋細胞のサブセットへのターゲティングを生じ得るが、一方異なるヌクレオチドアナログ又はその均等物を含むオリゴヌクレオチドは、筋細胞の異なるサブセットへのターゲティングを生じ得る。したがって、この実施形態において、少なくとも1種類の筋細胞におけるDMD mRNAスプライシングを調節するための異なるヌクレオチドアナログ又はその均等物を含むオリゴヌクレオチドの組合せを使用することが好ましい。
【0096】
好ましい一実施形態において、薬剤としての使用のため、好ましくはDMD mRNA前駆体のスプライシングを調節するため、より好ましくは本明細書に同定されているエクソン43、46、50〜53のうちのいずれかのスキッピングを促進又は誘導するための分子又はウイルスに基づくベクターが提供される。
【0097】
使用
更に別の態様において、本発明は、DMD mRNA前駆体のスプライシングを調節するための、本発明に係るアンチセンスオリゴヌクレオチド若しくは分子及び/又は本発明に係る1若しくは複数種のアンチセンス配列を発現するウイルスに基づくベクター及び/又は医薬組成物の使用を提供する。スプライシングは、好ましくはヒト筋原細胞又は筋細胞においてin vitroで調節される。より好ましくは、スプライシングはヒト筋細胞においてin vivoで調節される。したがって、本発明は更に、DMD mRNA前駆体のスプライシングを調節するための、又はDMD若しくはBMD患者を治療するための薬剤を調製するための、本明細書に定義されている分子及び/又は本明細書に定義されているベクター及び/又は本明細書に定義されている医薬組成物の使用に関する。
【0098】
本文書及びその特許請求の範囲において、動詞「含む」及びその活用形は、その非限定的な意義で用いられ、この単語の前の項目が包含されるが、特に言及されていない項目が除外されるわけではないことを意味する。更に、動詞「からなる」は、「から本質的になる」に置き換えてもよく、本明細書に定義されている分子、ウイルスに基づくベクター又は組成物が、特に同定されている成分以外に、本発明の独自の特性を変化させない追加的な成分(単数又は複数)を含んでよいことを意味する。更に、不定冠詞「a」、「an」による要素への言及は、文脈がその要素の1つ及び1つだけが存在することを明らかに必要としない限り、1を超える要素が存在する可能性を除外しない。したがって、不定冠詞「a」、「an」は通常、「少なくとも1」を意味する。
【0099】
本明細書に同定されている各実施形態は、他に断りがない限り、共に組み合わせることができる。本明細書に引用されているあらゆる特許及び参考文献は、これによりその全体が参照によって本明細書に組み込まれている。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】ヒトコントロール筋管において、エクソン43を標的とする一連のAON(PS237、PS238及びPS240;それぞれ配列番号65、66、16)を500nMで試験した。PS237(配列番号65)は、最高レベルのエクソン43スキッピングを再現可能に誘導した(M:DNAサイズマーカー;NT:未処置細胞)。
【図2】エクソン45欠失を有するDMD患者由来の筋管において、エクソン46を標的とする一連のAON(PS177、PS179、PS181及びPS182;それぞれ配列番号91、70、110及び117)を2種類の異なる濃度(50及び150nM)で試験した。PS182(配列番号117)は、最高レベルのエクソン46スキッピングを再現可能に誘導した(M:DNAサイズマーカー)。
【図3】ヒトコントロール筋管において、エクソン50を標的とする一連のAON(PS245、PS246、PS247及びPS248;それぞれ配列番号167、165、166及び127)を500nMで試験した。PS248(配列番号127)は、最高レベルのエクソン50スキッピングを再現可能に誘導した(M:DNAサイズマーカー;NT:未処置細胞)。
【図4】ヒトコントロール筋管において、エクソン52を標的とする2種類の新規AON(PS232及びPS236;それぞれ配列番号246及び299)を2種類の異なる濃度(200及び500nM)で試験し、以前に記載したAON(52−1)と直接比較した。PS236(配列番号299)は、最高レベルのエクソン52スキッピングを再現可能に誘導した(M:DNAサイズマーカー;NT:未処置細胞)。
【発明を実施するための形態】
【0101】
次の実施例は、説明目的のためだけに提供されており、決して本発明の範囲を限定することを目的としない。
【実施例】
【0102】
(例1〜4)
材料及び方法
AON設計は、(部分的に)m−foldプログラムにより予見される標的エクソンRNAの重複オープン二次構造に、また(部分的に)ESE−finderソフトウエアにより予見される重複推定SR−タンパク質結合部位に基づいて行った。AONは、Prosensa Therapeutics B.V.(ライデン、オランダ)により合成し、これは2’−O−メチルRNA及び全長ホスホロチオエート(PS)骨格を含む。
【0103】
組織培養、トランスフェクション及びRT−PCR解析
健常個体(「ヒトコントロール」)(例1、3及び4;エクソン43、50、52スキッピング)又はエクソン45欠失を有するDMD患者(例2;エクソン46スキッピング)由来の筋管培養物を以前記載した通りに処理した(Aartsma−Rusら、Neuromuscul.Disord.2002;12:S71〜77及びHum Mol Genet2003;12(8):907〜14)。AONのスクリーニングのため、筋管培養物を50nM及び150nM(例2)、200nM及び500nM(例4)又は500nMのみ(例1及び3)の各AONでトランスフェクションした。トランスフェクション試薬UNIFectylin(Prosensa Therapeutics BV、オランダ)は、AON1□g当たり2□lのUNIFectylinを用いた。エクソンスキッピング効率は、標的エクソン(43、46、50、51、52又は53)側方のエクソンに存在するプライマーを用いたネステッドRT−PCR解析により決定した。配列検証のため、アガロースゲルからPCR断片を単離した。定量化のため、DNA1000LabChipsキットを用いてAgilent2100bioanalyzer(Agilent Technologies、米国)においてPCR産物を解析した。
【0104】
結果
DMDエクソン43スキッピング
エクソン43内の配列を標的とする一連のAONを設計し、健常なコントロール筋管培養物にトランスフェクションした。続く単離RNAのRT−PCR及び配列解析は、本明細書では配列番号2として定義されているエクソン43内の一続きのヌクレオチドを標的とするほぼ全てのAONが、エクソン43スキッピングを確実に誘導できることを示した。図1に示す通り、PS237(配列番号65)は、500nMで最高レベルのエクソン43スキッピング(最大66%)を再現可能に誘導した。比較のため、それぞれ最大13%及び36%のエクソン43スキッピングレベルを誘導する、PS238及びPS240も示す(図1)。エクソン43の正確なスキッピングは、新規のより小さな転写産物断片の配列解析によって確認した。エクソン43スキッピングは、未処置細胞(NT)には観察されなかった。
【0105】
DMDエクソン46スキッピング
エクソン46内の配列を標的とする一連のAONを設計し、DMD遺伝子にエクソン45欠失を有するDMD患者由来の筋管培養物にトランスフェクションした。このような突然変異を有する患者のため、アンチセンスが誘導するエクソン46スキッピングは、疾病の1又複数種の症状を確実に緩和することができる、新規BMD様ジストロフィンタンパク質の合成を誘導した。続く単離RNAのRT−PCR及び配列解析は、本明細書では配列番号3として定義されているエクソン46内の一続きのヌクレオチドを標的とするほぼ全てのAONが、50nMと比較的低濃度のAONであってもエクソン46スキッピングを確実に誘導できることを示した。図2に示す通り、PS182(配列番号117)は、最高レベルのエクソン46スキッピング(50nMで最大50%、150nMで74%)を再現可能に誘導した。比較のため、150nMでそれぞれ最大55%、58%及び42%のエクソン46スキッピングレベルを誘導する、PS177、PS179及びPS181も示す(図2)。エクソン46の正確なスキッピングは、新規のより小さな転写産物断片の配列解析によって確認した。エクソン46スキッピングは、未処置細胞(NT)には観察されなかった。
【0106】
DMDエクソン50スキッピング
エクソン50内の配列を標的とする一連のAONを設計し、健常なコントロール筋管培養物にトランスフェクションした。続く単離RNAのRT−PCR及び配列解析は、本明細書では配列番号4として定義されているエクソン50内の一続きのヌクレオチドを標的とするほぼ全てのAONが、エクソン50スキッピングを確実に誘導できることを示した。図3に示す通り、PS248(配列番号127)は、最高レベルのエクソン50スキッピング(500nMで最大35%)を再現可能に誘導した。比較のため、500nMで最大14〜16%のエクソン50スキッピングレベルを誘導する、PS245、PS246及びPS247も示す(図3)。エクソン50の正確なスキッピングは、新規のより小さな転写産物断片の配列解析によって確認した。エクソン50スキッピングは、未処置細胞(NT)には観察されなかった。
【0107】
DMDエクソン51スキッピング
エクソン51内の配列を標的とする一連のAONを設計し、健常なコントロール筋管培養物にトランスフェクションした。続く単離RNAのRT−PCR及び配列解析は、本明細書では配列番号5として定義されているエクソン51内の一続きのヌクレオチドを標的とするほぼ全てのAONが、エクソン51スキッピングを確実に誘導できることを示した。配列番号180を有するAONは、最高レベルのエクソン51スキッピングを再現可能に誘導した(データなし)。
【0108】
DMDエクソン52スキッピング
エクソン52内の配列を標的とする一連のAONを設計し、健常なコントロール筋管培養物にトランスフェクションした。続く単離RNAのRT−PCR及び配列解析は、本明細書では配列番号6として定義されているエクソン52内の一続きのヌクレオチドを標的とするほぼ全てのAONが、エクソン52スキッピングを確実に誘導できることを示した。図4に示す通り、PS236(配列番号299)は、最高レベルのエクソン52スキッピング(200nMで最大88%、500nMで91%)を再現可能に誘導した。比較のため、500nMを投与した場合、それぞれ最大59%及び10%レベルのエクソン52スキッピングを誘導するPS232及びAON52−1(Aartsma−Rusら、Oligonucleotides2005により以前刊行された)も示す(図4)。新規のより小さな転写産物断片の配列解析によって、エクソン52の正確なスキッピングを確認した。エクソン52スキッピングは、未処置細胞(NT)には観察されなかった。
【0109】
DMDエクソン53スキッピング
エクソン53内の配列を標的とする一連のAONを設計し、健常なコントロール筋管培養物にトランスフェクションした。続く単離RNAのRT−PCR及び配列解析は、本明細書では配列番号7として定義されているエクソン53内の一続きのヌクレオチドを標的とするほぼ全てのAONが、エクソン53スキッピングを確実に誘導できることを示した。配列番号328を有するAONは、最高レベルのエクソン53スキッピングを再現可能に誘導した(データなし)。
【0110】
[配列表]
DMD遺伝子アミノ酸配列
【化13−1】


【化13−2】


【化14】


【化15】


【化16】


【化17】


【化18】


【化19】


【表1】


【表2】


【表3】


【表4】


【表5】


【表6】


【表7−1】


【表7−2】


【表7−3】


【表7−4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エクソン50のスキッピングのための
【化1】


エクソン43のスキッピングのための
【化2】


エクソン46のスキッピングのための
【化3】


エクソン51のスキッピングのための
【化4】


エクソン52のスキッピングのための
【化5】


及びエクソン53のスキッピングのための
【化6】


から選択されるヌクレオチド配列のうちの一つの配列内の一続きの少なくとも8ヌクレオチドと結合する分子。
【請求項2】
表1〜6に示されている配列番号8〜358及び/又は配列番号529〜535から選択されるアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなる、請求項1に記載の分子。
【請求項3】
配列番号16、配列番号65、配列番号70、配列番号91、配列番号110、配列番号117、配列番号127、配列番号165、配列番号166、配列番号167、配列番号246、配列番号299及び配列番号357から選択されるアンチセンスヌクレオチド配列を含む又はからなる、請求項2に記載の分子。
【請求項4】
2’−O−アルキルホスホロチオエートアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む、請求項1から2までのいずれか一項に記載の分子。
【請求項5】
2’−Oメチルホスホロチオエートリボースを含む、請求項4に記載の分子。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか一項に記載の分子の発現を駆動する発現カセットを含む、ウイルスに基づくベクター。
【請求項7】
好ましくは、DMD若しくはBMD患者のDMD mRNA前駆体のスプライシングを調節するため、又はDMD若しくはBMD患者を治療するための薬剤として使用される、請求項1から5までのいずれか一項に記載の分子又は請求項6に記載のウイルスに基づくベクター。
【請求項8】
患者のDMD mRNA前駆体のエクソン6、7、11、17、19、21、43、44、45、50〜53、55、57、59、62、63、65、66、69又は75のうちの少なくとも1個のスキッピングを誘導又は促進することができる分子と任意選択で組み合わせた、請求項1から5までのいずれか一項に記載の分子及び/又は請求項6に記載のベクター、薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項9】
患者、好ましくは患者の単離細胞におけるDMD mRNA前駆体のエクソン43、エクソン46、エクソン50〜53のうちの少なくとも1個のスキッピングを誘導及び/又は促進するための方法であって、前記細胞及び/又は前記患者に請求項1から5までのいずれか一項に記載の分子又は請求項6に記載のベクターを提供するステップを含む上記方法。
【請求項10】
患者のDMD mRNA前駆体のエクソン6、7、11、17、19、21、43、44、45、50〜53、55、57、59、62、63、65、66、69又は75のうちの少なくとも1個のスキッピングを誘導又は促進することができる追加的な分子が使用される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
DMD mRNA前駆体のスプライシングを調節するための、又はDMD若しくはBMD患者を治療するための薬剤を調製するための、請求項1から5までのいずれか一項に記載の分子、請求項6に記載のベクター又は請求項8に記載の医薬組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−506698(P2012−506698A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533127(P2011−533127)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【国際出願番号】PCT/NL2009/050113
【国際公開番号】WO2010/050802
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(510114583)
【出願人】(511104554)
【出願人】(510114594)プロセンサ テクノロジーズ ベー.フェー. (4)
【出願人】(510215477)プロセンサ ホールディング ビーブイ (3)
【Fターム(参考)】