説明

ヒドラゾンポリマー及び金属錯体形成用ヒドラゾンポリマー

【課題】触媒金属の微細分散を可能とする電極触媒原料化合物として有用なヒドラゾンポリマーを提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする、ヒドラゾンポリマー。


(上記式(1)中、Pyは2−ピリジル基、3−ピリジル基又は4−ピリジル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドラゾンポリマー及び金属錯体形成用ヒドラゾンポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池における電極触媒としては、例えば、白金、コバルト、ニッケル、鉄、及び、白金−ルテニウム合金のような合金等が知られている。燃料電池の発電性能を高めるには、これら触媒金属の触媒作用を高めることが重要であり、例えば、触媒金属の微粒子化等による触媒利用率の向上が図られている。しかしながら、微細な粒子は非常に凝集しやすいため、従来、長期間にわたってその分散状態を保持することが困難であり、触媒利用率は充分に高められていない。触媒金属の安定した微細分散を実現すべく、触媒金属微粒子を炭素粒子や金属粒子等の導電性粒子に担持させることも行われているが、その効果は充分ではない。
また、従来の電極触媒や該電極触媒を分散させた電極の製造方法は、煩雑な操作や工程を要するため、より簡便な操作又は工程で製造可能な電極触媒原料化合物の開発が望まれている。
【0003】
一方、ある種のヒドラゾン化合物を原料として製造される合成高分子に金属を配位させ
て錯体化した後、この合成高分子金属錯体を焼成することにより、燃料電池用触媒を製造
しうることが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開公報WO2004/036674号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上記のような状況に鑑み、種々の新規ヒドラゾン化合物について鋭意研究を重ねた結果、特定の一般式で表されるヒドラゾンポリマーが電極触媒の原料化合物として適していることを見出した。
すなわち、本発明は、触媒金属の微細分散を可能とする電極触媒原料化合物として有用なヒドラゾンポリマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のヒドラゾンポリマーは、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする。
【0007】
【化1】

(上記式(1)中、Pyは2−ピリジル基、3−ピリジル基又は4−ピリジル基を示す。)
【0008】
このようなヒドラゾンポリマーは、ヒドラゾノ基(=NNH−)のヒドラゾン窒素(=N−)、フェノール類のヒドロキシル基及び/又はピリジン環の窒素(ピリジン窒素)において、金属種に対する配位能を有しており、しかもその分子構造から安定な金属錯体を形成することができる。
【0009】
本発明の金属錯体形成用ヒドラゾンポリマーは、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、少なくとも1種の金属種に配位して金属錯体を形成することを特徴とする。
【0010】
このような金属錯体形成用ヒドラゾンポリマーは、触媒金属種に配位させることによって、触媒金属を安定した状態で微細分散させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、触媒金属の微細分散を可能とする電極触媒原料化合物として有用なヒドラゾンポリマーを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】アルカリ燃料電池用セルの概略を説明する断面図である。
【図2】実施例の触媒製造において用いた熱処理装置の概略図である。
【図3】実施例におけるアノード用触媒(a)の評価結果を示すグラフである。
【図4】実施例におけるアノード用触媒(A)の評価結果を示すグラフである。
【図5】ヒドラゾンポリマーのIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のヒドラゾンポリマーは、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする。
【0014】
【化2】

(上記式(1)中、Pyは2−ピリジル基、3−ピリジル基又は4−ピリジル基を示す。)
【0015】
上記一般式(1)で表される繰り返し単位において、Pyで表される基は、2−ピリジル基、3−ピリジル基、及び4−ピリジル基のいずれであってもよいが、分子内で三座配位を形成しうると考えられる点からは2−ピリジル基が好ましい。上記一般式(1)で表される繰り返し単位には、E(Entgegen)体、Z(Zusammen)体の異性体が存在し、E体の純粋物、Z体の純粋物、又は両異性体を任意の割合で含む混合物として得られるが、代表して一般式(1)で表記する。
上記一般式(1)で表される繰り返し単位を形成するヒドラゾンモノマーの具体例としては、例えば、4−{1−[(2−ピリジン−2−イル)ヒドラゾノ]エチル}ベンゼン−1,3−ジオール、4−{1−[(3−ピリジン−2−イル)ヒドラゾノ]エチル}ベンゼン−1,3−ジオール、4−{1−[(4−ピリジン−2−イル)ヒドラゾノ]エチル}ベンゼン−1,3−ジオールが挙げられる。
上記式(1)の繰り返し単位においては、他の繰り返し単位との結合位置は、ベンゼン環上であれば特に限定されない。結合位置の例としては、ベンゼン環上の2位及び5位、又は2位及び6位、又は5位及び6位等を挙げることができる。
【0016】
本明細書においては、まず、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を形成するヒドラゾン化合物のモノマー(以下、ヒドラゾンモノマーという)について説明した後、該繰り返し単位を有する本発明のヒドラゾンポリマーについて説明する。
【0017】
1.ヒドラゾンモノマーについて
ヒドラゾンモノマーは、下記式(2)で表される。
【0018】
【化3】

(上記式(2)中、Pyは2−ピリジル基、3−ピリジル基又は4−ピリジル基を示す。)
【0019】
ヒドラゾンモノマーは、ヒドラゾン窒素、ピリジン窒素及び/又はフェノール類のヒドロキシル基が金属種に対する配位性を有しており、そのため配位子として機能し、錯体を形成することができる。しかも、ヒドラゾンモノマーが配位して得られる錯体は安定性に優れる。得られる錯体の安定性は、ヒドラゾンモノマーの配位性部位の構造に起因すると考えられる。すなわち、ヒドラゾンモノマーの配位部位であるヒドラゾノ基の窒素(=N−)が、該窒素に隣接する炭素と、該ヒドラゾノ基が結合するフェノール類の4位と3位の炭素と、該フェノール類のベンゼン環の3位に結合する酸素(ヒドロキシル基)と共に、C字型構造を形成しており、該ヒドラゾン窒素(=N−)と金属、さらにはフェノール類のヒドロキシル基と金属が配位結合を形成することによって、該中心金属と、上記C字型構造を形成している該ヒドラゾン窒素(=N−)、該ヒドラゾン窒素に隣接する炭素、該ヒドラゾノ基が結合するフェノール類の4位と3位の炭素、及び、該フェノール類のベンゼン環の3位に結合する酸素とによって、六角形構造が形成されるためと推測される(下記式(3)参照)。
【0020】
【化4】

【0021】
さらに、ヒドラゾンモノマーにおいては、ヒドラゾノ基に結合するピリジン環の窒素(ピリジン窒素)も金属種に対する配位能を有しており、金属錯体の形成に関与することが推測される。その配位については、当該ピリジン窒素がピリジン環の3位又は4位に存する場合には、複数のヒドラゾンモノマーの関与により金属錯体を形成することも推測され、また一方、当該窒素がピリジン環の2位に存するものにおいては、いわゆる三座配位を分子内で形成することにより金属錯体を形成することも推測される。
上記式(3)に示した構造は、ヒドラゾンモノマーを用いて得られる金属錯体の構造の典型例である。なお、本明細書においては、ヒドラゾンモノマーを用いて得られる金属錯体の構造を式(3)のごとき表記で代表させるが、該金属錯体の構造としては式(3)に示した構造の他にも、例えば、「窒素原子とともに金属錯体形成に寄与している水酸基以外のもう1つの水酸基を用いて、2以上のヒドラゾンモノマー分子と金属との間で配位結合あるいはイオン結合を形成した構造」等を挙げることができる。
【0022】
錯体を形成することによって、金属種は凝集が抑制されており、その分散性を高めることができる。上述したように、ヒドラゾンモノマーを配位子とする錯体は、錯体の安定性が高いため、金属種の分散性をさらに高めることが可能であり、しかも、その分散性を長期間にわたって維持することができる。
ゆえに、ヒドラゾンモノマーを配位子(金属錯体形成用配位子)とし、触媒金属種に配位させて錯体を形成することによって、触媒金属の微細分散が可能となり、その結果、触媒金属の利用率を向上させることができる。従って、ヒドラゾンモノマーを用いることによって、触媒金属微粒子の製造工程や使用中において生じる粒成長が抑制されており、少量の触媒金属で優れた触媒作用を発現する触媒を得ることが可能である。そして、このようにヒドラゾンモノマーと触媒金属を用いて得られる金属錯体を、電極触媒の原料化合物として用いることにより、発電性能に優れた燃料電池を得ることも可能である。しかも、ヒドラゾンモノマーと触媒金属とを配位結合させてなる錯体は、従来の一般的な方法に準じて製造することが可能であり、非常に簡便な操作、工程で得られ、生産性に優れるものである。
【0023】
ヒドラゾンモノマーの製造方法は特に限定されないが、例えば、下記に示す反応スキームに従って製造することができる。
【0024】
【化5】

(式中、Pyは2−ピリジル基、3−ピリジル基又は4−ピリジル基を示す。)
【0025】
一般式(2)で表されるヒドラゾンモノマーは、適当な溶媒中又は無溶媒で、縮合剤の存在下又は非存在下で、一般式(4)で表されるケトン化合物(2,4−ジヒドロキシアセトフェノン)と一般式(5)で表されるヒドラジン化合物(ヒドラジノピリジン)とを反応させることにより製造することができる。
一般式(4)で表されるケトン化合物及び一般式(5)で表されるヒドラジン化合物は、共に公知であり、市販品として入手又は一般的な方法に準じて合成することができる。
上記反応における各化合物の使用量としては、一般式(4)で表されるケトン化合物1モルに対して、一般式(5)で表されるヒドラジン化合物を、通常、0.8〜10モル、好ましくは、1.0〜5.0モル、より好ましくは1.0〜2.0モルの範囲とする。
【0026】
上記反応は、酸触媒の存在下で進行するが、反応を促進するために縮合剤を用いることが好ましい。酸触媒の具体例としては、例えば、塩化水素、濃硫酸、リン酸、酢酸、等のプロトン酸を用いることができ、また、縮合剤の具体例としては、例えば、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)等の一般的なもの用いることができる。酸触媒、縮合剤の使用量としては、一般式(4)で表されるケトン化合物1モルに対して、酸触媒、縮合剤それぞれを、通常、0.0001〜10モル、好ましくは0.0001〜5モル、より好ましくは0.0001〜2モルの範囲とする。
【0027】
また、上記反応は、無溶媒でも進行するが、より円滑に反応を進行させるために溶媒を用いることが好ましい。該反応に用いうる溶媒としては、反応を阻害せず安定なものであれば良く、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;フェニルエーテル、アニソール等のエーテル類:トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン等の芳香族炭化水素類:デカリンその他脂環式炭化水素類:N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン(TMSO)等の非プロトン性極性溶媒類:ニトロベンゼン、p−ニトロトルエン等の芳香族系ニトロ化合物:クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等の芳香族系ハロゲン化合物等を例示できる。溶媒の使用量としては、一般式(4)で表されるケトン化合物1モルに対して、通常、0〜3.0L、好ましくは0.05〜1.5Lの範囲である。
【0028】
上記反応の反応温度は、反応が進行する限りにおいて、特に制限はないが、通常、−20℃〜150℃、好ましくは10℃〜120℃、より好ましくは20〜100℃の範囲である。
また、反応時間は特に制限されないが、副生成物抑制の観点等から、好ましくは0.5〜40時間である。
反応後は、析出した結晶をろ過等により分離し、必要に応じてメタノール等の有機溶媒や水、これらの混合物等を用いて洗浄し、乾燥すればよい。乾燥温度は特に限定されず、本発明のヒドラゾンモノマーの融点又は分解点未満であれば差し支えないが、通常、20〜200℃、好ましくは30〜180℃、さらに好ましくは40〜150℃の範囲を例示できる。
【0029】
上述したように、ヒドラゾンモノマーは、金属種(金属原子、金属イオン)に配位結合し、錯体を形成する(上記式(3)参照)。
配位する金属種としては、特に限定されず、例えば、遷移金属、具体的には8〜10族(第VIIIA族)遷移金属、より具体的には、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金を例示することができる。中でも、鉄、コバルト、ニッケルを好適に用いることができる。ヒドラゾンモノマーを金属種に配位させてなるヒドラゾン金属錯体は、配位する金属種を選択し、必要に応じて金属種を還元することによって、特定の化学反応に対して触媒活性を示しうる(例えばオレフィン重合用触媒などが考えられる)。
【0030】
ヒドラゾンモノマーを金属種に配位させてなるヒドラゾン金属錯体を得る方法は、特に限定されず、一般的な方法に準じることができる。例えば、まず、ヒドラゾンモノマーを、該ヒドラゾンモノマー及び生成した金属錯体に対しての溶解性が小なる極性溶媒、具体的には水、アセトンに代表されるケトン類、メタノール、エタノールに代表されるアルコール類等の適当な溶媒もしくはその混合溶媒に分散させ、該溶液中に金属種の原料となる金属塩を加え混合し、pH調節剤を加え、さらに混合することでヒドラゾン金属錯体が得られる。上記溶媒としては、さらにはアルキルニトリル、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル等の溶媒も使用可能である。
該ヒドラゾン金属錯体の製造は、通常、20〜60℃の温度範囲で行うことが好ましい。得られたヒドラゾン金属錯体は、ろ過等により分離し、必要に応じて、生成した金属錯体に対しての溶解性が小なる極性溶媒、具体的には水、アセトンに代表されるケトン類、メタノール、エタノールに代表されるアルコール類等の適当な溶媒により洗浄、乾燥することで、単離することができる。
【0031】
金属塩としては、例えば、酢酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩等を用いることができる。用途に応じて、これら金属塩は1種のみでも或いは複数種を組み合わせてもよい。複数種の金属塩を用いる場合、各金属塩の仕込み比(金属原子換算)を反映した比率で、各金属種に配位したヒドラゾン金属錯体が混在した混合物を得ることができる。
また、pH調節剤としては、例えば有機酸塩、有機酸、無機酸塩、無機酸を包含する一般的な塩基及び/又は酸であればよく、具体的には、トリチルアミン等の三級アミン類、及びピリジン類等を包含する有機塩基;メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸類、及び酢酸等のカルボン酸類を包含する有機酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化金属類、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の金属炭酸塩類、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸水素カリウム等の金属炭酸水素塩類を包含する無機塩基;塩酸等のハロゲン化水素酸類、硫酸、リン酸、及び硝酸等を包含する無機酸が挙げられ、NaOH、KOH、NaCO、NaHCO、HCl、HSO、HNO、KHSO、CHCOOH等を例示できる。
【0032】
2.本発明のヒドラゾンポリマーについて
本発明のヒドラゾンポリマーは、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする。本発明のヒドラゾンポリマーの製造方法は特に限定されないが、上述したヒドラゾンモノマーを用いて製造することが好ましい。
ヒドラゾンモノマーを用いる際には、他の化合物と重合させることで、該ヒドラゾンモノマーから誘導される構成単位を含有するヒドラゾンポリマーを製造することができる。具体的には、例えば、少なくとも、ヒドラゾンモノマー、フェノール類、及びアルデヒド類を重合させることにより、本発明のヒドラゾンポリマーを得ることができる。さらに具体的には、ヒドラゾンモノマーと、フェノールと、ホルムアルデヒドとを、塩基又は酸触媒存在下、重合することによって、下記式(6)で表されるヒドラゾンポリマーが得られる。
【0033】
【化6】

【0034】
上記式(6)中、n、mはそれぞれ1以上の整数である。また、lは2以上の整数である。
ここでフェノール類としては、フェノールの他、フェノールに1つ又は2つ以上の置換基が結合しているものが挙げられる。フェノールに導入される置換基としては、例えば、−OH、−OR、−NR’R”、炭素数1〜15のアリール基又はアルキル基(分岐構造を有していてもよい)が挙げられ、高い重合反応性が期待できることから、電子供与性を有しているものが好ましい。尚、Rは、アルキル置換基又はアリール置換基であれば特に限定されないが、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基が好ましい。また、R’及びR”は一価の有機基であれば特に限定されないが、好ましくは、それぞれ独立して、水素、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基のいずれかであることが好ましい。
【0035】
アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが好適である。
【0036】
上記式(6)で表されるヒドラゾンポリマーの具体的な製造方法としては、ヒドラゾンモノマー、フェノール類、アルデヒド類を適当な溶媒(例えば、水、アセトンに代表されるケトン類、メタノール、エタノールに代表されるアルコール類等の適当な溶媒又はこれらの混合物)中に溶解又は分散させ、NaOH等の塩基又はHCl等の酸存在下、所定の温度条件(例えば、20℃〜150℃)とすることで、ヒドラゾンモノマーとアルデヒド類及びフェノール類とアルデヒド類を縮合させる方法が挙げられる。
【0037】
上記式(6)で表されるヒドラゾンポリマーにおいて、ヒドラゾンモノマーから誘導される構成単位とフェノール類から誘導される構成単位の割合は特に限定されず、適宜選択することができる。
【0038】
なお、本発明のヒドラゾンポリマーは、上記式(6)に示した構造を有するポリマーには必ずしも限定されることはなく、ヒドラゾンモノマーを、上記フェノール類や、アルデヒド類以外のその他の化合物と重合することによっても、製造が可能である。
具体的には、塩基触媒存在下において合成したレゾール樹脂を酸化条件下にて加熱・攪拌を行うこと、もしくは酸性条件下において合成したノボラック樹脂に、ヘキサメチレンテトラミン等の架橋剤を添加することにより、より高分子化された本発明のヒドラゾンポリマーを合成することが可能である。
【0039】
なお、ヒドラゾンポリマーを構成する繰り返し単位の連結の順番に関しては、上記式(1)に示された繰り返し単位、及び他の化合物から誘導される繰り返し単位のそれぞれが、どのような順番で何回ずつ連結されていても構わない。たとえば、一定数同じ繰り返し単位が連結されたブロックが、互いに共重合するブロック共重合体であってもよいし、あるいは異なる繰り返し単位が交互に重合する交互共重合体であってもよい。また、繰り返し単位の配列に全く秩序が無いランダム共重合体であってもよい。
【0040】
以下、本発明のヒドラゾンポリマーを利用したヒドラゾン高分子金属錯体、及び該錯体を用いた金属触媒(製造方法、触媒の用途等)について説明する。
【0041】
3.ヒドラゾン高分子金属錯体について
ヒドラゾンモノマー同様、本発明のヒドラゾンポリマーも、ヒドラゾンモノマーに由来するヒドラゾン窒素、ピリジン窒素及び/又はフェノール類のヒドロキシル基において金属種に配位してヒドラゾン高分子金属錯体を形成することができる(下記式(7)参照)。本発明のヒドラゾンポリマーを金属種に配位させる方法は、ヒドラゾンモノマーからヒドラゾン金属錯体を製造する方法と同様である。
本発明のヒドラゾンポリマーに、複数種の金属塩を用いる場合、各金属塩の仕込み比(金属原子換算)を反映した比率で、各金属種を含有するヒドラゾン高分子金属錯体が得られる。本発明のヒドラゾンポリマーの全体的な分子骨格の違いにより、各金属に対する親和性に違いが見られるのが一般的であり、これを利用して分子の構造により金属含有量をコントロールすることができる。
【0042】
【化7】

【0043】
或いは、上記したようなヒドラゾン金属錯体を他の化合物と重合させることにより、該ヒドラゾン金属錯体から誘導される構成単位を含有するヒドラゾン高分子金属錯体を得ることもできる。具体的には、ヒドラゾン金属錯体と、フェノール類、アルデヒド類と重合させることによって上記式(7)と同様の構造を有するヒドラゾン高分子金属錯体を製造することができる。
上記式(7)に示した構造は、本発明に係るヒドラゾンポリマーを用いて得られる金属錯体の構造の典型例である。なお、本明細書においては、ヒドラゾンポリマーを用いて得られる金属錯体の構造を式(7)のごとき表記で代表させるが、該金属錯体の構造としては式(7)に示した構造の他にも、例えば、「窒素原子とともに金属錯体形成に寄与している水酸基以外のもう1つの水酸基を用いて、ヒドラゾンポリマー中の2以上のヒドラゾン部位と金属との間で配位結合あるいはイオン結合を形成した構造」や、「ポリマー製造において、ヒドラゾンモノマーと共に用いられるフェノール原料由来の2以上のフェノール性水酸基と金属との間で、配位結合あるいはイオン結合を形成した構造」等を挙げることができる。
このようにヒドラゾンポリマーを触媒金属に配位させたり、或いは、ヒドラゾン金属錯体を他のモノマーと重合させたりすることによって得られるヒドラゾン高分子金属錯体においては、上記ヒドラゾン金属錯体(モノマー)と比較して、触媒金属の分散性のさらなる向上が可能である。
ヒドラゾン金属錯体と、フェノール類と、アルデヒド類との重合は、上記ヒドラゾンモノマーとフェノール類とアルデヒド類との重合反応と同様の条件において行うことができる。
【0044】
4.金属触媒について
4−1.金属触媒の製造方法について
ヒドラゾン金属錯体及びヒドラゾン高分子金属錯体(以下、まとめて単に金属錯体ということがある)は、焼成することにより電気化学反応に対して触媒活性を発現し得る。さらにこれら金属錯体単独よりも導電性担持材料と共に焼成することでより強く触媒活性を発現し得る。
具体的には、Pt、Ni、Fe、Co、Ag、Pd、Cu、Mn、Mo、Ru、Rh、Cr等の金属触媒種にヒドラゾンモノマー又はヒドラゾンポリマーが配位したヒドラゾン金属錯体又はヒドラゾン高分子金属錯体と、活性炭等の炭素質導電性担持材料と、を焼成することにより、ヒドラゾンと炭素質導電性担持材料に部分的な結合が生じ、ヒドラゾン金属錯体又はヒドラゾン高分子金属錯体が炭素質導電性担持材料表面に固定化される。これにより生成するヒドラゾン金属錯体・炭素質導電性担持材料複合体又はヒドラゾン高分子金属錯体・炭素質導電性担持材料複合体は、触媒金属の導電性担体として機能し得るようになり、該複合体に担持された触媒金属が電気化学反応に対して触媒活性を発現できるようになる。
【0045】
上記金属錯体の焼成は、不活性ガス雰囲気下、或いは、水素ガス雰囲気等の還元条件下で行うことが好ましい。不活性雰囲気又は還元条件下で行うことによって、触媒金属に配位するヒドラゾンモノマー又は本発明のヒドラゾンポリマーを酸化させることなく、電気化学反応に対する触媒活性の付与、及び、触媒金属とヒドラゾンモノマー又は本発明のヒドラゾンポリマーとの配位構造の維持が可能となる。
焼成温度及び焼成時間等の焼成条件は、ヒドラゾン金属錯体又はヒドラゾン高分子金属錯体を構成する、ヒドラゾンノマー又は本発明のヒドラゾンポリマー、並びに金属触媒の種類、さらに、触媒の使用用途等を考慮して適宜決定すればよい。但し、焼成温度及び焼成時間は、電気化学反応に対する触媒活性の付与と共に、焼成後も触媒金属とヒドラゾンモノマー又は本発明のヒドラゾンポリマーの由来の窒素との配位部位の構造が保持されるように、それぞれ設定することが重要である。焼成温度が高すぎたり、或いは焼成時間が長すぎたりすると、触媒金属の配位状態が保持されず、ヒドラゾンモノマーの焼成体又は本発明のヒドラゾンポリマーの焼成体に金属触媒が担持されず、触媒金属の微細分散状態の保持が困難となる。
【0046】
また、上記ヒドラゾン金属錯体及びヒドラゾン高分子金属錯体の焼成を、該焼成により得られる触媒を担持しうる導電性担持材料の存在下行う場合、上記したような強い触媒活性の発現の他、これら金属錯体の触媒化と同時に、得られる触媒を該導電性担持材料に担持させることができるという利点もある。ヒドラゾン金属錯体又はヒドラゾン高分子金属錯体を焼成して得られる触媒を導電性担持材料に担持させることで、金属触媒のさらなる微細分散を実現することが可能となる。
導電性担持材料としては、触媒金属を担持させる担体として一般的に使用されている導電性材料、例えば、活性炭(具体的には、Vulcan XC−72R(商品名)、Ketjen black(商品名)等)のようなカーボン粒子、Al、SiO、CeOのような多孔質酸化物のような金属粒子、等が挙げられる。また、これら導電性材料をシート状等に成型したものでもよい。
尚、ヒドラゾン金属錯体又はヒドラゾン高分子金属錯体は、触媒の用途に応じて、上記焼成の前に、配位金属を還元する還元処理を施してもよい。還元処理方法としては、一般的な方法が挙げられ、例えば、水素ガスや水素化ホウ素アルカリ金属塩、水素化ホウ素4級アンモニウム塩、ジボラン、ヒドラジン、アルコール、アルコールアミン等の還元剤を用いる方法等が挙げられる。
【0047】
具体的な焼成条件として、例えば、燃料電池のアノード触媒(燃料の酸化反応用触媒)を得るためには、まず、水素ガス雰囲気又はNaBH、KBH、LiBH、テトラアルキルアンモニウム(NR)等をカチオンとするテトラハイドロボレート塩(XBH)、NaHPO等の化学的還元剤の存在下、250〜450℃で1〜10時間半焼成し、ヒドラゾンモノマー又は本発明のヒドラゾンポリマーに配位した金属種を還元する。その後、還元条件(具体的には水素ガス雰囲気下)、350〜400℃で1〜2時間焼成する。このとき、上述したように、導電性担持材料と混合した状態で焼成を行うことによって、焼成により得られる触媒を導電性担持材料に担持させること、より強い触媒活性を示す触媒を作製することが可能である。
一方、燃料電池のカソード触媒(酸化剤の還元用触媒)を得るためには、窒素ガス雰囲気やアルゴンガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気下、500〜1000℃、好ましくは800℃で1〜2時間焼成する。このとき、アノード触媒同様、上述したように、導電性担持材料と混合した状態で焼成を行うことによって、焼成により得られる触媒を導電性担持材料に担持させること、より強い触媒活性を示す触媒を作製することが可能である。
【0048】
4−2.金属触媒の用途について
以上のような、本発明のヒドラゾンポリマーを用いて得られる触媒は、白金に代表される希少な金属を用いる場合には、その使用量を低減することが可能であり、また、白金等の希少な金属を用いずとも、優れた触媒作用を示すという点で、産業上の利用価値が高い。
触媒の用途としては、例えば、燃料電池の電極触媒、自動車等の排ガスの浄化触媒、アンモニアの分解触媒等の様々な分野において使用可能である。燃料電池としては、電荷キャリアが水酸化物イオン(OH)であるアルカリ燃料電池の他、電荷キャリアがプロトン(H)である固体高分子電解質型燃料電池、固体酸化物型燃料電池、リン酸型燃料電池等が挙げられる。本発明のヒドラゾンポリマーを用いて得られる上記触媒を用いることによって、触媒金属の分散性に優れた電極を容易に製造することが可能である。中でも、電荷キャリアが水酸化物イオンであり、Ni、Fe、Co等の卑金属を電極触媒として好適に用いることが可能なアルカリ燃料電池において好ましく用いられる。
アルカリ燃料電池用触媒として利用する場合には、8族の遷移金属、9族の遷移金属、10族の遷移金属及び11族の遷移金属を中心金属とするヒドラゾン金属錯体又はヒドラゾン高分子金属錯体を用いることが好ましい。特に、8族遷移金属に配位してなるヒドラゾン金属錯体、9族遷移金属に配位してなるヒドラゾン金属錯体、10族遷移金属に配位してなるヒドラゾン金属錯体、及び、11族遷移金属に配位してなるヒドラゾン金属錯体のうち、少なくとも2種以上又は3種以上を組み合わせた混合物や、8族遷移金属、9族遷移金属、10族遷移金属及び11族遷移金属から選ばれる2種以上又は3種以上の遷移金属に配位したヒドラゾン高分子金属錯体等、多元系とすることが好ましい。
【0049】
具体的には、アルカリ型直接エタノール燃料電池のアノード用触媒としては、触媒金属として、Ni、Co、Feが好ましく、特にこれらの触媒金属を2種以上用いた多元系、中でもNi、Co及びFeの三元系であることが好ましい。一方、アルカリ燃料電池のカソード用触媒としては、触媒金属として、Ni、Co、Fe、Mnが好ましく、特にこれらの触媒金属を2種以上用いた多元系、中でもNi及びCoの二元系であることが好ましい。
【0050】
ここで、アルカリ燃料電池の一形態例について図1を用いて説明する。尚、アルカリ燃料電池は、以下に示す構造に限定されるものではない。
アルカリ燃料電池は、電解質1として水酸化カリウム水溶液やアニオン交換樹脂膜等を用い、酸化剤極3において、酸素と水との反応(1/2O+HO→2HO)により生成した水酸化物イオンが、電解質1を通って燃料極2へと移動し、燃料極2において燃料(水素ガス等)と反応により水と電子を生じる(H+2OH→2HO+2e)。燃料極2で生成した水は、電解質1を経て酸化剤極へと移動し、酸化剤極3の電極反応原料となる。
アニオン交換膜としては、酸化剤極で生成した水酸化物イオンを燃料極へと移動させることができるものであれば、特に限定されないが、例えば、4級アンモニウム基、ピリジニウム基などのアニオン交換基を有するアニオン交換樹脂を含有する固体高分子膜が挙げられる。
【0051】
燃料極は、上記水素と水酸化物イオンから水を生成させる触媒作用を有する電極触媒を含み、酸化剤極は、上記酸素と水から水酸化物イオンを生成させる触媒作用を有する電極触媒を含む。各電極の構成としては、これら電極触媒を、該電極触媒へ燃料又は酸化物を供給できる多孔質構造及び電子伝導性を有する多孔質導電体上に配置した構成が挙げられる。多孔質導電体としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンシート等の導電性炭素質の他、Ni、Ti等の金属メッシュ、金属発泡体等が挙げられる。各電極は、電極触媒が固定されれば、上記のような多孔質導電体がなくてもよい。
燃料極の外側には、燃料不透過性且つ導電性を有する燃料極側セパレータ4、酸化剤の外側には、酸化剤不透過性且つ導電性を有する酸化剤極側セパレータ5が配置され、燃料電池用単セルが構成される。
そして、燃料極には燃料極側セパレータを介して水素を含有又は水素発生化合物を含有する燃料が供給され、酸化剤極には酸化剤極側セパレータを介して空気を含有又は空気発生化合物を含有する酸化剤が供給され、発電する。
【実施例】
【0052】
(ヒドラゾンモノマーの製造)
還流冷却管、温度計、攪拌機を備えた3Lの4つ口フラスコに、2−ヒドラジノピリジン33.8g(0.309mol)及びメタノール2Lを仕込み、攪拌下、室温で濃硫酸1mLを滴下した。その後、2,4−ジヒドロキシアセトフェノン44.0g(0.289mol)を仕込み、40℃で8時間攪拌して反応させた。
析出した結晶をろ過で取り出し、メタノール及び水で洗浄し、60℃で乾燥後、淡黄色の結晶として33.0gの4−{1−[(2−ピリジン−2−イル)ヒドラゾノ]エチル}ベンゼン1,3−ジオールを得た。収率は50%だった。
得られた結晶について、GC/MS、H−NMR、IR測定を行った。結果を以下に示す。
【0053】
・融点 : 230℃
・GC/MS(EI) : M/Z=243(M)、228(M−CH
H−NMR(300MHz、DMSO−d) : δ=2.33(s,3H),6.26(d,1H,J=2.4Hz),6.31(dd,1H,J=2.4Hz,J=8.7Hz),6.80(ddd,1H,J=0.7Hz,J=5.1Hz,J=7.2Hz),6.89(d,1H,J=8.4Hz),7.36(d,1H,J=8.7Hz),7.64(ddd,1H,J=1.8Hz,J=7.2Hz,J=8.4Hz),8.18(ddd,1H,J=0.7Hz,J=1.8Hz,J=5.1Hz),δ=9.65(s,1H),δ=9.93(s,1H),δ=13.36(s,1H),
・IR(KBr、cm−1) : 3440,3372,1630,1598,1578,1506,1454,1255,767
【0054】
(ヒドラゾンポリマーの製造)
200mLフラスコで上記にて得られたヒドラゾンモノマー8gをエタノール水溶液(水:エタノール=1:2)100mLに懸濁させ、ヒドラゾン溶液を調製した。次に、該ヒドラゾン溶液に、フェノール4.0g、ホルムアルデヒド(37wt%)4.0mL、NaOH0.25gを加え、110℃にて加熱還流を行い、6時間反応させた。
反応後、HCl水溶液にてpH2〜3に調整し、さらに1時間反応を継続した。得られた懸濁液をNaOH水溶液にて中和した後、濾過し、濾物をアセトン水溶液[アセトン:水=1:1]で3回洗浄した。得られた固形物(ヒドラゾンポリマー)を65℃で3日間乾燥させた。
【0055】
得られた固形物について、示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning calorimetry)を行ったところ、400℃までは吸熱を示す負のピークが観測されなかった。
【0056】
また、得られたポリマーについて、IR測定を行った。図5は、ヒドラゾンポリマーのIRスペクトルである。また、IRスペクトルの代表的なピークを以下に示す。
IR(KBr、cm−1) : 3300,1600,1480,1443,1371,1306,1148,1092,989,770,512
【0057】
(ヒドラゾン金属錯体(1)の製造)
まず、上記にて得られたヒドラゾンモノマー0.5gを100mLのアセトンと混合し、攪拌した。続いて、0.08gのCo(AcO)・4HO、0.13gのNi(AcO)・4HO、0.08gのFe(AcO)・4HOを加え、攪拌した。さらに、1MのNaOH水溶液約100mLを加え、pH9付近に調整した。
10時間攪拌した後、ろ過し、得られた濾物を数回水で洗浄した。得られた固形物(ヒドラゾン金属錯体(1))を、65℃で真空乾燥した。
【0058】
(ヒドラゾン高分子金属錯体(1)の製造)
まず、上記にて得られたヒドラゾンポリマー1.0gを20mLのアセトンと混合し、攪拌した。続いて、0.5gのCo(AcO)・4HO、0.5gのNi(AcO)・4HO、0.5gのFe(AcO)・4HO、及び、アセトン15mLを加え、攪拌した。さらに、1MのNaOH水溶液約20mLを加え、pH9付近に調整した。
10時間攪拌した後、ろ過し、得られた濾物を数回水で洗浄した。得られた固形物(ヒドラゾン高分子金属錯体(1))を、65℃で真空乾燥した。
【0059】
(アノード用触媒(a)の製造)
上記にて得られたヒドラゾン金属錯体(1)0.10gとカーボン粒子(Valkan XC−72R)1.00gとを混合した。該混合物を石英ガラス管内に設置し、石英ガラス管内に水素ガスを導入(250mL/min)して昇温速度6.5℃で360℃まで昇温した(図2に示す熱処理装置参照)。360℃を2時間保持し、ヒドラゾン金属錯体(1)の酢酸塩を還元すると共に、該金属錯体を焼成した。その後、室温まで降温させ、水素ガスを停止し、アノード用触媒(a)を得た。
尚、図2に示す熱処理装置において、石英ガラス管内の温度は熱電対によりモニターし、温調のマントルヒーターによりコントールした。また、石英ガラス管に導入されるガスの流量はフローメーターにより調節した。ガラスウールは、管内の試料がガス流で移動しないようにするために用いた。
【0060】
(アノード用触媒(A)の製造)
上記にて得られたヒドラゾン高分子金属錯体(1)0.10gとカーボン粒子(Valkan XC−72R)1.00gとを混合した。該混合物を石英ガラス管内に設置し、石英ガラス管内に水素ガスを導入(250mL/min)して昇温速度6.5℃で360℃まで昇温した(図2参照)。360℃を2時間保持し、ヒドラゾン高分子金属錯体(1)の酢酸塩を還元すると共に、該高分子金属錯体を焼成した。その後、室温まで降温させ、水素ガスを停止し、アノード用触媒(A)を得た。
【0061】
[触媒の評価]
(アノード用触媒(a)の評価)
上記にて得られたアノード用触媒(a)0.5gを、約10mLの水に分散させ、該触媒分散液をニッケル製の多孔体シート(ニッケルフォーム、厚さ約1mm)に塗布し(36mm角、0.3mm)、乾燥してアノード電極(厚さ0.3mm)とした。一方、カソード用触媒(上記アノード用触媒(a)と同じもの)0.5gを、テトラフルオロエチレン0.05gと共に、超音波分散により約10mLの水に分散させ、該触媒分散液をカーボン製の多孔体シート(カーボンシート、厚さ約1mm)にスプレー塗布し(36mm角、0.2mm)、乾燥してカソード電極とした。
アニオン交換膜(炭化水素系膜、膜厚40μm、65mm角)を、アノード電極及びカソード電極の触媒分散液塗布面と接するように、アノード電極及びカソード電極で挟み込み、さらに、セル治具に設置して評価用燃料電池セル1を作製した。
評価用燃料電池セル1について、以下の条件下、ガルバノスタットによりI−V特性を測定した。結果を図3に示す。
【0062】
<I−V特性測定条件>
・アノード燃料:KOHエタノール水溶液(エタノール10wt%、KOH 1M)
・アノード燃料流量:約600mL/min
・カソードガス:空気
・カソードガス流量:130mL/min
・温度(恒温槽温度):50℃
【0063】
(アノード用触媒(A)の評価)
上記アノード用触媒(a)の評価において、アノード用触媒(a)の代わりにアノード用触媒(A)を用いる(アノード用触媒及びカソード用触媒共に)以外は、同様にして、評価用燃料電池セル2を作製し、I−V特性を測定した。結果を図4に示す。
【0064】
(結果)
図3に示すように、ヒドラゾンモノマーを原料とするアノード用触媒(a)を用いた燃料電池セル1は、OCV約0.65V、最高出力密度約0.88mW/cm(電流密度3.8mA/cmの時)という良好な発電性能を示した。
また、図4に示すように、ヒドラゾンポリマーを原料とするアノード用触媒(A)を用いた燃料電池セル2は、OCV約0.58V、最高出力密度約1.4mW/cm(電流密度6.4mA/cmの時)という良好な発電性能を示した。
これらの結果から、ヒドラゾン高分子金属錯体を焼成して得られたアノード用触媒Aの方が、ヒドラゾン金属錯体を焼成して得られたアノード用触媒aよりも、大幅に高い出力密度が得られることがわかる。これは、ヒドラゾン金属錯体を用いる場合と比較して、ヒドラゾン高分子金属錯体を用いることによって、電極における触媒金属の分散性が向上したためと推測される。
【符号の説明】
【0065】
1 電解質
2 燃料極
3 酸化剤極
4 燃料極側セパレータ
4a 燃料流路
5 酸化剤極側セパレータ
5a 酸化剤流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする、ヒドラゾンポリマー。
【化1】

(上記式(1)中、Pyは2−ピリジル基、3−ピリジル基又は4−ピリジル基を示す。)
【請求項2】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、少なくとも1種の金属種に配位して金属錯体を形成することを特徴とする、金属錯体形成用ヒドラゾンポリマー。
【化2】

(上記式(1)中、Pyは2−ピリジル基、3−ピリジル基又は4−ピリジル基を示す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−196002(P2010−196002A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45349(P2009−45349)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000102049)イハラケミカル工業株式会社 (48)
【Fターム(参考)】