説明

ヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体及びその製造方法

【課題】 生体組織に対して良好な親和性を有し、吸着性能、分離性能が優れ、しかも使用後の固液分離工程において濾材として目詰りを生じることのない吸着材、あるいは生体組織との親和性を必要とする化粧料基材として好適な新規なシリカ多孔体材料を提供する。
【解決手段】 長さ0.3〜50μm、幅0.1〜20μm、厚さ0.05〜1.5μm、長さと厚さのアスペクト比5〜300、平均細孔径1〜30nm、全細孔体積0.1〜1.5ml/g、BET比表面積50〜800m2/gを有し、かつX線回折スペクトルにおいて、ヒドロキシアパタイト固有の26°付近及び32°付近に2θのピークが存在するヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒担体、脱臭剤、濾過助剤、光拡散シート、インクジェット記録用シート、トナー、感光材料、顔料、太陽電池用基板、液晶表示装置、染料熱転写シート、耐熱性樹脂、紫外線遮蔽剤、ガス検出素子、各種フィラーとして広い範囲にわたる用途をもち、特に化粧品、生物組織用吸着剤、生物組織用分離剤などの生体親和性が要求される用途に対して好適な材料である新規なヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケイ酸塩材料は、濾過助剤、吸着剤、フィラーなどとして種々の用途に供されている。例えばケイ酸塩系板状結晶のマイカは、種々のフィラーや化粧品として利用されているが(特許文献1、特許文献2参照)、このものは多量のアルミニウムを含み、ケイ酸塩としての純度が低い上に、比表面積が小さく、しかも結晶構造が強固なために、疎水化又は親水化に必要な官能基を導入することがむずかしく、また吸油量が小さいという欠点があり、利用範囲が制限されるのを免れない。
【0003】
そのほか、水ガラスの希釈液を電気透析して得たシリカゾルを水熱処理して生成させたりん片状の低結晶性シリカも知られているが(特許文献3参照)、水熱処理に際して析出してくる結晶性シリカがケイ肺病の原因となるため環境衛生上問題になる上に、りん片状シリカはうろこ状の薄片が積層して構成されているため、屈曲や捩れを生じ、歪曲した形状になりやすく、また比表面積が小さいという欠点を有している。
【0004】
また、ケイ酸ナトリウムを硫酸で処理してナトリウムを除去することにより、ビール懸濁液中のタンパク質やポリフェノールを吸着除去するのに好適なシリカゲルが得られることも知られている(特許文献4参照)。
【0005】
しかしながら、このようなシリカゲルは濾過助剤としての機能を有しない上に、粒子表面においては優れた吸着性を示すが、粒子内部における吸着性は低いし、さらに吸着性を高めようとして微粉砕すると、固液分離の際に目詰りを生じるという欠点がある。
【0006】
このようなシリカゲルのもつ欠点を改良したものとして、本発明者らは、先に、長さ5〜50μm、幅1〜20μm、厚さ0.05〜0.5μm、長さと厚さのアスペクト比100〜300、平均細孔径1〜20nm、全細孔体積0.1〜1.5ml/g、BET比表面積200〜500m2/gを有し、かつX線回折スペクトルにおいて、21°付近及び26.5°付近に2θのピークが存在しないことを特徴とする薄板状シリカ多孔体、及び繊維長5〜50μm、繊維径0.05〜0.5μm、繊維長と繊維径とのアスペクト比100〜300、平均細孔径1〜20nm、全細孔体積0.1〜1.5ml/g、BET比表面積300〜800m2/gを有し、かつX線回折スペクトルにおいて、21°付近及び26.5°付近に2θのピークが存在しないことを特徴とする繊維状シリカ多孔体を提案した(特許文献5参照)。
【0007】
しかしながら、これらのシリカ多孔体は、生体組織の分離剤や吸着剤、化粧品基剤として用いるとき、生体親和性を欠き、十分な効果を発揮できないという欠点がある。
他方、ケイ酸化合物基材をカルシウム塩水溶液とリン酸塩水溶液に交互に浸漬し、基材表面に配向性をもつ骨類似のヒドロキシアパタイトを形成させることにより、生体高分子の分離剤や化粧品原料として好適なヒドロキシアパタイト複合体が得られることが知られている。
【0008】
しかしながら、前記した薄板状又は繊維状シリカ多孔体にヒドロキシアパタイトを被覆し、優れた吸着性能及び分離性能を示し、固体分離に際し目詰りを生じることがなく、しかも生体組織に対する親和性を向上させた複合体とすることはこれまで全く知られていなかった。
【0009】
【特許文献1】特開平5−262514号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開2000−247630号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開平11−29317号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献4】特開平11−138017号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献5】特願2003−418740号(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、生体組織に対して良好な親和性を有し、吸着性能、分離性能が優れ、しかも使用後の固液分離工程において濾材として目詰りを生じることのない吸着材、あるいは生体組織との親和性を必要とする化粧料基材として好適な新規なシリカ多孔体材料を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、所定の割合のケイ酸原料と石灰原料とを水又は水酸化アルカリ水溶液中で水熱反応を行わせ、ケイ酸カルシウム含有スラリーを調製したのち、酸を加えて副生する酸化カルシウムの一部を溶解除去して多孔体を形成させ、さらにリン酸又はリン酸発生物質を加えて、残存する酸化カルシウムと反応させれば、ヒドロキシアパタイトが生成し、シリカ多孔体の表面がヒドロキシアパタイトで被覆されることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、長さ0.3〜50μm、幅0.1〜20μm、厚さ0.05〜1.5μm、長さと厚さのアスペクト比5〜300、平均細孔径1〜30nm、全細孔体積0.1〜1.5ml/g、BET比表面積50〜800m2/gを有し、かつX線回折スペクトルにおいて、ヒドロキシアパタイト固有の26°付近及び32°付近に2θのピークが存在することを特徴とするヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体、及び平均粒子径20μm以下のケイ酸原料粉末と石灰原料粉末とを、それぞれSiO2及びCaOに換算したときのモル比CaO/SiO2が0.6〜5.0になる割合で混合し、水又は水酸化アルカリ水溶液の存在下で水熱反応を行わせて、ケイ酸カルシウム含有水性スラリーを調製したのち、酸性物質を加えてスラリー中の酸化カルシウムの一部を溶解除去して多孔体を形成させ、次いでさらにリン酸又はリン酸発生物質を加えて、残存する酸化カルシウムと反応させてヒドロキシアパタイトを形成させて多孔体の表面をヒドロキシアパタイトで被覆することを特徴とするヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体の製造方法を提供するものである。
【0013】
本発明のヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体のベースとなるシリカ多孔体としては、特に限定はされないが、特定の物性をもつ薄板状又は繊維状シリカ多孔体が用いられる。この好ましい薄板状シリカ多孔体は、長さが5〜50μm、好ましくは10〜30μm、幅が1〜20μm、好ましくは5〜10μm、厚さが0.05〜0.5μm、好ましくは0.1〜0.3μmのサイズであり、長さと厚さのアスペクト比が5〜100、好ましくは10〜50の範囲にある。また、このものは平均細孔径1〜20nm、好ましくは3〜10nmの細孔を有し、全細孔体積は0.1〜1.5ml/g、好ましくは0.3〜1.0ml/gであり、かつBET比表面積50〜300m2/g、好ましくは100〜250m2/gを有している。
【0014】
また、好ましい繊維状シリカ多孔体は、繊維長が5〜50μm、好ましくは10〜30μm、繊維径が0.05〜0.5μm、好ましくは0.1〜0.3μmのサイズであり、繊維長と繊維径のアスペクト比が100〜300、好ましくは70〜250の範囲にある。また、このものは平均細孔径1〜20nm、好ましくは3〜10nmの細孔を有し、全細孔体積は0.1〜1.5ml/g、好ましくは0.3〜1.0ml/gであり、かつBET比表面積300〜800m2/g、好ましくは450〜550m2/gを有している。
【0015】
これらのシリカ多孔体は、文献未載の新規物質であり、比較的大きい粒径の粒子のケイ酸原料を用いて得られる従来の薄板状シリカ多孔体がCuKα線を用いて測定したX線回折スペクトルにおいて21°付近及び26.5°付近に顕著なピークを示すのに対し、このピークを全く示さないことによって特徴付けられている。
【0016】
この薄板状シリカ多孔体は例えば、平均粒子径が20μm以下のケイ酸原料と石灰原料とを、それぞれSiO2及びCaOに換算したときのモル比CaO/SiO2が0.6〜5.0になる割合で混合し、水又は水酸化アルカリ水溶液の存在下で水熱反応を行わせて、薄板状ケイ酸カルシウム含有水性スラリーを調製したのち、これに酸性物質を導入し、この中の酸化カルシウムを徐々に溶解除去し、薄板状シリカ多孔体を形成させることによって、また繊維状シリカ多孔体は、例えば平均粒子径が20μm以下のケイ酸原料と石灰原料とを、それぞれSiO2及びCaOに換算したときのモル比CaO/SiO2が0.6〜5.0になる割合で混合し、水又は水酸化アルカリ水溶液の存在下で水熱反応を行わせ、まず薄板状ケイ酸カルシウム含有水性スラリーを生成させ、さらに水熱反応を継続させて、繊維状ケイ酸カルシウム含有水性スラリーへと転移させたのち、これに酸性物質を導入し、この中の酸化カルシウムを徐々に溶解除去して、繊維状シリカ多孔体を形成させることによって製造される。
【0017】
そして、上記の酸性物質による酸化カルシウムを溶解除去する際に、まず酸化カルシウムの一部を溶解除去させる量の酸性物質を用いてシリカ多孔体を形成させたのち、さらにリン酸又はリン酸発生物質を加えて、残りの酸化カルシウムと反応させると、ヒドロキシアパタイトが生成し、これが多孔体の表面を被覆するので、本発明のヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体が得られる。
【0018】
上記のリン酸発生物質としては、例えばリン酸三ナトリウム、リン酸三カリウムのようなリン酸三アルカリ金属塩、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウムのようなリン酸水素二アルカリ金属塩、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムのようなリン酸二水素アルカリ金属塩及び対応するアンモニウム塩が用いられる。
【0019】
なお、上記の薄板状シリカ多孔体の製造に際しては、繊維状シリカ多孔体や二次粒子凝集体が副生するが、水熱反応を薄板状ケイ酸カルシウムの種結晶の存在下で行うと、これらの副生物の生成が抑制され、選択的に薄板状シリカ多孔体を得ることができるので好ましい。
【0020】
この種結晶としては、あらかじめケイ酸原料粉末と石灰原料粉末とを水又は水酸化アルカリ水溶液中で水熱反応させて得られる反応混合物の中から、繊維状ケイ酸カルシウム及び二次粒子凝集体のようなきょう雑物を除き、純粋な薄板状ケイ酸カルシウム結晶として回収したものを用いる。
【0021】
この種結晶は、ケイ酸原料と石灰原料との合計質量に基づき0.01〜10質量%の割合で添加される。この種結晶としては、通常、長径5〜50μm、厚さ0.05〜0.5μm、長径と厚さのアスペクト比100〜300のものが用いられるが、この種結晶のサイズを適当に選択することにより、得られる薄板状ケイ酸カルシウムの長さを1〜30μmの範囲で調節することができる。
【0022】
種結晶を添加しない場合には、原料のCaO/SiO2モル比を1.5にした場合、水熱反応条件を適切に選ぶことにより、薄板状ケイ酸カルシウムを生成させることが可能であったが、球状の二次粒子凝集体の混入を避けることができず、この混入を避けるためにはCaO/SiO2モル比を1.9以上にする必要があった。
しかし、本発明方法においては、この種結晶の添加によりCaO/SiO2モル比が1.2以下においても安定的に純粋な薄板状ケイ酸カルシウムを生成させることができる。
【0023】
また、上記の二次粒子凝集体の形成を抑制するには、ケイ酸原料と石灰原料の合計質量の10倍以上の水又はアルカリ水溶液を用いなければならなかったが、種結晶の添加により4倍程度であっても、二次粒子凝集体の形成なしに薄板状ケイ酸カルシウムを生成させることができる。
【0024】
さらに、種結晶を添加しない場合、CaO/SiO2モル比を最適の2.0に選んでも、水熱反応温度のわずかな差により、球状の二次粒子凝集体や繊維状ケイ酸カルシウムを生じ、品質的に不安定になるのを免れなかったが、種結晶の添加により、このような形状の異なる生成物の混入を抑制することができ、安定した品質の薄板状ケイ酸カルシウムを得ることができる。
【0025】
上記の方法において用いられるケイ酸原料としては、通常ケイ酸原料として用いられているものであればよく、特に制限はない。このようなケイ酸原料としては、例えば石英、ケイ砂、非晶質ケイ酸、ホワイトカーボン、ナトリウム長石、カリ長石、ガラス、陶石、シラス、フライアッシュ、スラグ、パーライトなどのケイ酸含有物質を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
これらのケイ酸原料は、平均粒子径20μm以下であることが必要であるが、スラリー中の分散性、水熱反応性、経済性など、特に分散したケイ酸カルシウムの板状化及び繊維状化の面から、通常平均粒子径0.01〜20μm、好ましくは0.1〜18μmの範囲のものが選ばれる。
【0027】
次に、このケイ酸原料と併用される石灰原料としては、通常の石灰原料として用いられるもの、例えば生石灰(酸化カルシウム)、消石灰(水酸化カルシウム)などの粉末を用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。この石灰原料の粘度としては、ケイ酸原料と同じ平均粒子径をもつものが好ましいが、それ以外の粒度のものを用いても差し支えない。
【0028】
前記シリカ原料と石灰原料は、CaO/SiO2モル比が0.6〜5.0、好ましくは1.0〜4.0の範囲になるような割合で用いることが望ましい。CaO/SiO2モル比0.6以下、又は5.0以上でもケイ酸カルシウムは得られるが、未反応シリカが多量に残り、これを除去しなければならないため、経済的でない。特に好ましい範囲は、1.8以上、特に2.0付近である。
【0029】
水熱反応は、上記のケイ酸原料と石灰原料とを所定の割合で水又は水酸化アルカリ水溶液中に分散させて行う。この際の水酸化アルカリ水溶液としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物を水に溶解して調製したものが用いられる。これらのアルカリ水酸化物は、単独で用いてもよいし、また2種類以上の混合物として用いてもよい。
【0030】
この場合のアルカリ水溶液の濃度としては、0.01〜1.0モルが好ましい。アルカリ水溶液の濃度が0.01モル未満では、生成するケイ酸カルシウムの結晶形態を変化させたり、水熱反応を促進させるアルカリ添加効果が十分に発揮されない。また、1.0モルより高くしても、アルカリ添加効果の向上は認められない。
【0031】
一方、シリカ原料と石灰原料を含む水又は水酸化アルカリ水溶液スラリーの濃度については特に制限はないが、水熱反応性及び体積効率などを考慮すると、ケイ酸原料と石灰原料との合計量に対し、水性溶媒を2〜30倍質量の割合で含むスラリーが好ましい。
【0032】
水熱反応は、例えばオートクレーブ中において、100〜250℃の温度の範囲で実施される。この水熱反応は自生圧力下で進行するが、必要に応じ適当に加圧して反応を行ってもよい。また、反応中は反応速度を促進させるために、必要に応じて撹拌を行ってもよい。
【0033】
水熱反応温度が100℃未満では反応速度が遅すぎて長時間を要し、実用的でなく、また250℃を超えると自生圧力が高くなりすぎ、装置面などにおいて経済的に不利になる。反応時間は、スラリ−濃度、原料の種類や粒度、反応温度などに左右され、一概に定めることはできないが、通常は0.5〜24時間程度で十分である。
【0034】
次に、シリカ多孔体を形成させるために水熱反応を行ったのち、その反応混合物に酸性物質を導入し、副生する酸化カルシウムの一部を溶解、除去する。
【0035】
この際の酸性物質としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、炭酸のような無機酸やギ酸、シュウ酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、乳酸、酸性陽イオン交換剤のような有機酸が用いられる。なお、この無機酸は硝酸アンモニウムのような塩の形でもよい。
【0036】
この無機酸としては、塩酸、硝酸又はそれらの混合物が好ましいが、これらは、電離度が大きく、急激にpHを降下させるので、pHが急激に降下しないように希釈した酸水溶液を徐々に添加する。このようにすれば、ケイ酸カルシウムの形態を変化させることなく、酸化カルシウムが除去される。なお、ケイ酸カルシウムの結晶性に応じては、ケイ酸カルシウムスラリーを室温ないし100℃の範囲で加熱することによって、より効率的に酸化カルシウムを除去することができる。
【0037】
これに対し、電離度が小さい酢酸、炭酸などの場合、高濃度の酸で直接ケイ酸カルシウムを処理しても、酸化カルシウムの除去も徐々に進行し、ケイ酸カルシウムの形態が維持された薄板状シリカ多孔体となる。また、ケイ酸カルシウムスラリーを室温ないし100℃の範囲で加熱すると電離度が大きくなり、酸化カルシウムの除去が促進される。
【0038】
なお、炭酸で処理したケイ酸カルシウムは、薄板状シリカ多孔体と水に難溶性の炭酸カルシウムが得られるため、炭酸カルシウムを塩酸などで溶解除去する必要がある。この酸処理に必要な時間は、ケイ酸カルシウムの結晶化度、使用する酸の種類、濃度、処理条件などにより左右されるが、通常は1〜120分間の範囲である。
【0039】
ケイ酸カルシウムから酸化カルシウムを除去するために用いる酸としては、有機酸も用いることができる。このような有機酸としては、ギ酸、酢酸、シュウ酸、プロピオン酸、マレイン酸、乳酸及び酸性陽イオン交換剤などが好ましい。
【0040】
この酸処理としては、水熱反応により得られるケイ酸カルシウムスラリーに、二酸化炭素ガスを吹き込む方法が、酸化カルシウムを徐々に溶解除去しうる点で有利である。
【0041】
このようにして、長さ0.3〜50μm、幅0.1〜20μm、厚さ0.05〜1.5μm、長さと厚さのアスペクト比5〜300、平均細孔径1〜30nm、全細孔体積0.1〜1.5ml/g、BET比表面積50〜800m2/gを有し、かつX線回折スペクトルにおいて、ヒドロキシアパタイト固有の26°付近及び32°付近に2θのピークが存在するヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体を得ることができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、化粧品、生物組織用吸着剤、生物組織用分離剤などの生体親和性が要求される分野において好適に用いられる新規な材料であるヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以上本発明の課題を解決するための手段について一般的な説明を記述したが、次に実施例により本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、各例中の物性は以下の方法によって求めたものである。
【0044】
(1)シリカ原料の平均粒子径と粒度分布
レーザー回析・散乱式粒度分布測定装置を用い、粒子径は体積基準で、平均粒子径(メジアン径)及び粒度分布を求めた。
【0045】
(2)寸法測定
走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、約30個の寸法測定を行い、平均寸法とした。
【0046】
(3)BET比表面積、全細孔体積及び平均細孔径
BET比表面積測定装置を用い、250℃で十分に加熱脱気した試料について、窒素ガスを吸着させる多点法による比表面積、全細孔体積及び平均細孔径を求めた。
【0047】
(4)ケイ酸含有率
ケイ酸含有率は、蛍光X線を用いて測定した。
【0048】
(5)透過率(Darcy)
濾過面積9.6cm2の円柱状加圧濾過器を用い、濾過板の上に約3cmのケーク層を形成させ、次にケーク層を崩さないように200mlの水を注ぎ込み、0.5kg/cm2で加圧し、濾液の採取量から透過率(Darcy)を求めた。
【0049】
(6)チトクロームCの吸着率
pH4に調整した500μg/mlのチトクロームC水溶液を100ml採取し、これに試料0.3gを投入して30℃の恒温インキュベ−ターで1時間浸透午後、5Cの濾紙を用いて濾過した。この濾液中のチトクロームCの残量を分光光度計を用いて吸光度(波長410nm)を測定し、初期濃度との差から吸着率を求めた。
【0050】
(7)吸油量
JIS K5101に従い、試料1gを使用して行った。
【0051】
参考例(種結晶の調製方法)
平均粒子径0.5μmに粉砕した非晶質のケイ酸原料と生石灰原料とを、CaO/SiO2モル比が2.0になるように混合し、原料全量に対して、質量比で20倍質量の0.1モルのNaOH水溶液を加えてかきまぜ、スラリーを調製した。
次いで、このスラリーをオートクレーブ中に入れ、撹拌しながら200℃で4時間水熱反応を行い、ケイ酸カルシウムスラリーを得た。得られたケイ酸カルシウムスラリーが薄板状ケイ酸カルシウムであることをSEM観察で確認した後、スラリーを洗浄濾過して原料全量に対して、質量比で20倍質量の水を加え、ボールミルを用いて48時間湿式粉砕し、洗浄濾過して150℃で乾燥処理することにより、種結晶を得た。
【実施例1】
【0052】
平均粒子径17.2μmに粉砕した非晶質のケイ酸原料と生石灰原料とを、CaO/SiO2モル比が2.0になるように混合し、原料全量に対して、質量比で10倍の0.2モルのNaOH水溶液を加えてかきまぜ、スラリーを調製した。次いで、このスラリーをオートクレーブ中に入れ、撹拌しながら200℃で8時間水熱反応を行い、ケイ酸カルシウムスラリーを得た。このスラリーを70℃まで冷却して、0.2モルのNaOH水溶液の中和及びケイ酸カルシウム中の酸化カルシウムの70質量%を溶解除去するのに必要な高濃度の酢酸(濃度99.7%)を添加し、60分間撹拌することによりシリカ多孔体を形成させたのち、残りの30質量%の酸化カルシウムをヒドロキシアパタイト化するのに十分な量のリン酸水素二アンモニウムを添加し、70℃において60分間攪拌しながら反応させ、次いで120℃で乾燥処理することにより、ヒドロキシアパタイト被覆薄板状シリカ多孔体を得た。
このもののは、X線回折スペクトルにおいて、26°付近及び32°付近に2θのピークを有していた。このものの物性を表1に示す。
【実施例2】
【0053】
平均粒子径0.5μmに粉砕した非晶質のケイ酸原料と生石灰原料とを、CaO/SiO2モル比が1.5になるように混合し、原料全量に対して、質量比で参考例で得た種結晶0.1wt%と10倍の水を加えてかきまぜ、スラリーを調製した。
次いで、このスラリーをオートクレーブ中に入れ、撹拌しながら200℃で2時間水熱反応を行い、ケイ酸カルシウムスラリーを得た。
次に、ケイ酸カルシウムスラリーを70℃まで冷却し、ケイ酸カルシウム中の酸化カルシウムの70質量%を除去するのに必要な高濃度の酢酸(濃度99.7%)を添加し、10分間撹拌した。これを洗浄濾過した後水を加え、残りの酸化カルシウムをヒドロキシアパタイト化するのに十分な量のリン酸水素二アンモニウムを添加し、70℃で60分間撹拌した後、洗浄濾過して120℃で乾燥処理することにより、ヒドロキシアパタイト被覆薄板状シリカ多孔体を得た。
このもののは、X線回折スペクトルにおいて、26°付近及び32°付近に2θのピークを有していた。このものの物性を表1に示す。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体は、触媒担体、脱臭剤、濾過助剤、光拡散シート、インクジェット記録用シート、トナー、感光材料、顔料、太陽電池用基板、液晶表示素子、染料熱転写シート、耐熱性樹脂、紫外線遮蔽剤、ガス検出素子、各種フィラーなどとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ0.3〜50μm、幅0.1〜20μm、厚さ0.05〜1.5μm、長さと厚さのアスペクト比5〜300、平均細孔径1〜30nm、全細孔体積0.1〜1.5ml/g、BET比表面積50〜800m2/gを有し、かつX線回折スペクトルにおいて、ヒドロキシアパタイト固有の26°付近及び32°付近に2θのピークが存在することを特徴とするヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体。
【請求項2】
平均粒子径20μm以下のケイ酸原料粉末と石灰原料粉末とを、それぞれSiO2及びCaOに換算したときのモル比CaO/SiO2が0.6〜5.0になる割合で混合し、水又は水酸化アルカリ水溶液の存在下で水熱反応を行わせて、ケイ酸カルシウム含有水性スラリーを調製したのち、酸性物質を加えてスラリー中の酸化カルシウムの一部を溶解除去して多孔体を形成させ、次いでさらにリン酸又はリン酸発生物質を加えて、残存する酸化カルシウムと反応させてヒドロキシアパタイトを形成させて多孔体の表面をヒドロキシアパタイトで被覆することを特徴とするヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体の製造方法。
【請求項3】
反応混合物から薄板状シリカ多孔体を分離、回収し、乾燥後さらに300〜1400℃で加熱処理する請求項2記載のヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体の製造方法。
【請求項4】
ケイ酸原料が石英、ケイ砂、非晶質ケイ酸、ホワイトカーボン、長石、陶石、ガラス、シラス、フライアッシュ、スラグ及びパーライトの中から選ばれたケイ酸含有物質の少なくとも1種類である請求項2又は3記載のヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体の製造方法。
【請求項5】
石灰原料が生石灰又は消石灰あるいはその混合物である請求項2、3又は4記載のヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体の製造方法。
【請求項6】
酸性物質が無機酸の水溶液又は希釈水溶液である請求項2ないし5のいずれかに記載のヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体の製造方法。
【請求項7】
無機酸が塩酸、硫酸、硝酸及び炭酸の中から選ばれた少なくとも1種である請求項6記載のヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体の製造方法。
【請求項8】
酸性物質が有機酸水溶液である請求項2ないし5のいずれかに記載のヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体の製造方法。
【請求項9】
有機酸が、ギ酸、酢酸、シュウ酸、プロピオン酸、マレイン酸、乳酸又は酸性陽イオン交換剤である請求項8記載のヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体の製造方法。
【請求項10】
酸性物質がガス状二酸化炭素である請求項2ないし5のいずれかに記載のヒドロキシアパタイト被覆シリカ多孔体の製造方法。

【公開番号】特開2006−282446(P2006−282446A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104439(P2005−104439)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】