説明

ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類の製造方法

【課題】環状アセタール化合物の酸化反応により、高収率かつ高選択的にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類を得ることができる製造方法を目的とする。
【解決手段】貴金属からなる主成分の第1成分金属と、周期律表の11〜16族元素の金属群から選ばれる1種以上の第2成分金属とを担体に担持した触媒の存在下に、特定の環状アセタール化合物を酸化反応させることを特徴とするヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類の製造方法は種々知られているが、最も広く用いられている方法が、アルキレンオキサイドと(メタ)アクリル酸との付加反応を利用する方法である。この製法は、例えば(メタ)アクリル酸と触媒とを含む溶液中にアルキレンオキサイドを滴下しつつ加熱し、反応を進行させる方法が一般的である(特許文献1、2)。
【0003】
一方、その他の製造方法として、環状アセタール化合物を経由し、その酸化反応によりヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類を製造する方法が知られている(特許文献3)。
【特許文献1】特公昭43−26606号公報
【特許文献2】特公昭46−37805号公報
【特許文献3】特公昭43−11205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、特許文献3のように環状アセタール化合物からヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類を製造する場合、貴金属を担体に担持した触媒を用いることが知られていたが、反応収率は工業的には不十分であった(最高で60.2%)。また、副生物として、特に環状アセタール化合物のα,β−不飽和結合が水素化された化合物(以下、「水素化物」という。)が生成してしまい、該水素化物が目的物であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類と沸点差が殆どないために精製により除去できないという問題があった。さらに、選択性に優れた触媒であっても活性が非常に低い等の課題があった。そのため、高活性と高選択性を兼ね備えた触媒が望まれていた。
【0005】
そこで本発明は、環状アセタール化合物の酸化反応により、高収率かつ高選択的にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類を得ることができる製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類の製造方法は、貴金属からなる主成分の第1成分金属と、周期律表の11〜16族元素の金属群から選ばれる1種以上の第2成分金属とを担体に担持した触媒の存在下に、下式(1)で表される環状アセタール化合物を酸化反応させることを特徴とする方法である。
【化1】

(式中、nは2〜10の整数であり、Rは水素原子又はメチル基であり、R及びRは互いに独立に水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アリール基、又はアルキルオキシ基である。)
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法は、環状アセタール化合物の酸化反応により、高収率かつ高選択的にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の製造方法は、触媒の存在下に、環状アセタール化合物を酸化反応させることによりヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類を製造する方法である。
本発明の製造方法により製造するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類は特に限定されず、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0009】
本発明における環状アセタール化合物は、下式(1)で表される化合物である。
【化2】

【0010】
環状アセタール化合物におけるnは、2〜10の整数である。nは、2〜5であることが好ましい。
また、Rは水素原子又はメチル基である。
また、R及びRは、互いに独立に水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アリール基、又はアルキルオキシ基である。アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルキルオキシ基の炭素原子数は、特に限定されないが、1〜20であることが好ましい。また、R及びRは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0011】
環状アセタール化合物の具体例としては、例えば、(メタ)アクロレイン−エチレングリコールアセタール(n=2、R:水素原子又はメチル基、R及びR:水素原子)、(メタ)アクロレイン−プロピレングリコールアセタール(n=3、R:水素原子又はメチル基、R及びR:水素原子)、(メタ)アクロレイン−ブタンジオールアセタール(n=4、R:水素原子又はメチル基、R及びR:水素原子)、(メタ)アクロレイン−グリセリンアセタール(n=2、R:水素原子又はメチル基、R及びR:4つのうち1つがヒドロキシメチル基、他の3つが水素原子)等が挙げられる。
【0012】
メタクロレイン−エチレングリコールアセタールの酸化反応によりヒドロキシエチルメタクリレートが、メタクロレイン−プロレングリコールアセタールの酸化反応によりヒドロキシプロピルメタクリレートが、メタクロレイン−ブタンジオールアセタールの酸化反応によりヒドロキシブチルメタクリレートが、メタクロレイン−グリセリンアセタールの酸化反応により2,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレートと1,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレートの混合物が得られる。
【0013】
環状アセタール化合物を製造する方法は特に限定されず、例えば、アクロレイン又はメタクロレインと、エチレングリコールやプロピレングリコール等のグリコール類とを反応させる方法等が挙げられる。
【0014】
本発明の製造方法における触媒は、貴金属からなる主成分の第1成分金属と、周期律表の11〜16族元素の金属群から選ばれる1種以上の第2成分金属とを担体に担持した触媒である。
第1成分金属の貴金属は、例えば、パラジウム、白金、ロジウム等が挙げられる。貴金属としては、反応性及び経済性に優れる点からパラジウムが特に好ましい。
【0015】
第2成分金属は、周期律表の11〜16族元素の金属群であり、例えば、銅(11族)、亜鉛(12族)、アルミニウム(13族)、ゲルマニウム(14族)、アンチモン(15族)、テルル(16族)、ポロニウム(16族)等が挙げられる。なかでも12族、15族元素の金属であることが好ましく、ビスマス、アンチモン、亜鉛がより好ましい。
第2成分金属は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
第1成分金属及び第2成分金属を担持させる担体は、金属の担持に用いられる公知の担体を用いることができ、反応の選択率が向上し、特に水素化物を低減する効果に優れる点から、炭酸カルシウム、シリカ−マグネシア等の塩基性の無機化合物であることが好ましい。
【0017】
担体に担持する金属成分量(第1成分金属と第2成分金属の合計量)は、担体質量に対して0.1〜50質量%であることが好ましく、0.5〜30質量%であることがより好ましい。前記金属成分量が0.1質量%以上であれば、充分な反応速度が得られやすい。また、前記金属性分量が50質量%以下であれば、経済性に優れる。
【0018】
触媒における第1成分金属(モル量:Ma)と第2成分金属(モル量:Mb)とのモル比(Mb/Ma)は、0.1〜10であることが好ましく、0.2〜1であることがより好ましい。モル比(Mb/Ma)が0.1以上であれば、反応の選択性がより高くなる。モル比(Mb/Ma)が10以下であれば、主反応速度がより高くなる。
【0019】
また、触媒は、反応の選択率が向上する点から、使用する前に還元処理を施しておくことが好ましい。
還元処理の方法は、特に限定されず、例えば、ホルマリンと水酸化ナトリウム水溶液の混合溶液中に触媒を浸して加熱処理する方法等を用いることができる。
【0020】
本発明における触媒の製造方法は、特に限定されず、金属を担体に担持させる際に用いられる従来公知の方法を用いることができる。
例えば、塩化物、硝酸塩等の第1成分金属及び第2成分金属の無機酸塩を、前記無機酸塩のいずれか一方と同じ無機酸に加熱溶解し、担体を加えた溶液を加熱攪拌し、その後にろ過、水洗、乾燥工程を経て触媒を得る方法が挙げられる。また、この方法を用いる場合は、前記溶液にホルマリン及び水酸化ナトリウム水溶液を添加した状態で加熱攪拌以降の工程を行ってもよい。
【0021】
本発明における酸化反応は、溶媒を用いずに行ってもよいが、反応の選択率が向上する点から、溶媒を用いることが好ましい。
溶媒は、難酸化性の溶媒が好ましく、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、又はこれらのハロゲン化物であるクロロホルム、四塩化炭素、パークロルエタン、クロルベンゼン;エチルアルコール、n−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、tert−アミルアルコール等のアルコール類;ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン等のエーテル類;ニトリル化合物;ニトロ化合物等が挙げられる。
【0022】
溶媒を用いて酸化反応を行う場合の環状アセタール化合物の使用量は、反応液の全質量を100質量%として、10〜90質量%であることが好ましい。環状アセタール化合物の使用量が10質量%以上であれば、生産性に優れる。また、環状アセタール化合物の使用量が90質量%以下であれば、反応の選択性がより高くなる。
【0023】
酸化反応の条件は特に限定されないが、反応速度向上及び副反応抑制の点から、反応温度を20〜120℃とすることが好ましく、40〜100℃とすることがより好ましい。
また、酸化反応中の酸素濃度は、高いほど反応の選択率が向上する傾向があるため、10〜100%であることが好ましく、20〜100%であることがより好ましい。
【0024】
また、酸化反応中の圧力は、5〜1500kPaであることが好ましく、10〜1000kPaであることがより好ましい。圧力が5kPa以上であれば、充分な反応速度が得られやすい。また、圧力が1500kPa以下であれば、酸化反応中に二酸化炭素が増加して反応の選択率が低下することを抑制しやすい。
【0025】
触媒の使用量は、環状アセタール化合物1molに対して、第1成分金属及び第2成分金属の合計が0.01〜100mol%であることが好ましく、0.1〜10mol%であることがより好ましい。前記使用量が0.1mol%以上であれば、充分な反応速度が得られやすい。また、前記使用量が10mol%以下であれば、経済性に優れる。
【0026】
また、本発明の製造方法では、生成したヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類の重合を防止する点から、重合防止剤の共存下で酸化反応を行うことが好ましい。
重合防止剤は、公知の重合防止剤を用いることができ、例えば、ハイドロキノン、パラメトキシフェノール等のフェノール系化合物、N,N’−ジイソプロピルパラフェニレンジアミン、N,N’−2−ナフチルパラフェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)パラフェニレンジアミン、フェノチアジン等のアミン系化合物、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル等のN−オキシル系化合物、あるいは下式(2)で表されるN−オキシル系化合物等が挙げられる。
これらの重合防止剤は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
【化3】

(式中、mは1〜18の整数であり、R及びRは、共に水素原子であるか、又はRとRのどちらか一方が水素原子で他方がメチル基である。また、R〜Rは互いに独立に直鎖状あるいは分岐状のアルキル基であり、R10は水素原子又は(メタ)アクリロイル基である。)
【0028】
以上説明した本発明の製造方法は、貴金属からなる主成分の第1成分金属と、周期律表の11〜16族元素の金属群から選ばれる1種以上の第2成分金属とを担体に担持した触媒を用いた環状アセタール化合物の酸化反応により、高い生産性で高品質なヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類を製造することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
本実施例における分析は、ガスクロマトグラフィー(GC)により、反応収率、選択率、及び水素化物の割合を測定することにより行った。
反応収率(%)=(B/A)×100
選択率(%)=(B/C)×100
水素化物の割合(%)=(D/B)×100
式中、Aは反応に用いた環状アセタール化合物のモル数、Bは生成したヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類のモル数、Cは反応した環状アセタール化合物のモル数、Dは生成した水素化物のモル数である。
【0030】
[合成例1]メタクロレイン−エチレングリコールアセタールの合成
温度計、ディーンスターク、冷却管、エア導入管を備えた500mlの4つ口フラスコに、メタクロレイン106.4g(1.4mol)、エチレングリコール86.8g(1.4mol)、リン酸0.686g(0.007mol)、ハイドロキノン0.11g、n−ヘキサン200gを仕込み、内温62〜74℃で加熱攪拌した。副生する水はヘキサンと共沸させてディーンスタークで系外へ除去した。15時間後、留出した水の総量が25mlとなった時点で加熱を止めた。反応収率は72.6%であった。反応液は2層に分かれており、上層を濃縮してヘキサンの大半を留去した後、その濃縮液を62〜73℃、8.67〜9.87kPaで単蒸留精製した。蒸留後のメタクロレイン−エチレングリコールアセタールの取得量は107.29g(GC純度98.2%)であった。
【0031】
以下、合成例1で得られたメタクロレイン−エチレングリコールアセタールの酸化反応によるヒドロキシエチルメタクリレートの製造について説明する。
[実施例1]
以下に示す方法で触媒を調製した。
塩化パラジウム0.85g、硝酸ビスマス0.46g及び60質量%硝酸水溶液5gを純水50mlに加熱溶解し、これに平均粒径100μmのシリカ−マグネシア粉末10gを加えて攪拌した。
ついで、37質量%のホルマリン水溶液6.23g、2N水酸化ナトリウム水溶液12.80gを添加し、70℃で2時間加熱攪拌した後、ろ過、水洗、乾燥し、5質量%パラジウム−3質量%ビスマスを担持したシリカ−マグネシア粉末9.55gの触媒を得た。
【0032】
ついで、50mlの還流器付きフラスコに、上記触媒2.7g、合成例1で得たメタクロレイン−エチレングリコールアセタール18g(0.158mol)、トルエン18g、重合防止剤として4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(HO−TEMPO)のベンジルエステル体0.018gを添加し、反応系中をアスピレーターで減圧脱気し、酸素ガス入り風船を取り付けた後、70℃で32時間反応させた。
【0033】
[実施例2〜3]
担体として、シリカ−マグネシアの代わりに炭酸カルシウム(実施例2)、アルミナ(実施例3)を用いて触媒を得た後、表1に示す通りに触媒を用いた以外は、実施例1と同様の方法で酸化反応を実施した。
【0034】
[実施例4]
第2成分金属を与える無機酸塩として硝酸ビスマス及び酢酸亜鉛を用いて触媒を得た後、表1に示す通りに触媒を用いた以外は、実施例1と同様の方法で酸化反応を実施した。
【0035】
[比較例1]
硝酸ビスマスを用いずに触媒を得た後、表1に示す通りに触媒を用いた以外は、実施例1と同様の方法で酸化反応を実施した。
【0036】
[比較例2]
市販のパラジウム−炭素(5質量%Pd/炭素粉、Aldrich社製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で酸化反応を実施した。
実施例1〜4及び比較例1〜2における、反応収率、選択率、及び水素化物の割合を測定した結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すように、本発明の触媒を用いた実施例1〜4は、反応収率が高く、また選択率も高かった。
一方、第2成分金属を用いなかった比較例1では、水素化物の副生が少なく選択率が高かったものの、反応収率が非常に低かった。
また、第2成分金属を用いず、担体として炭素粉を用いた比較例2では、反応収率が高かったものの、水素化物の副生が多く、選択率が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の製造方法は、環状アセタール化合物の酸化反応を用いて高収率かつ高選択的にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類を製造できる。そのため、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類の製造方法として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属からなる主成分の第1成分金属と、周期律表の11〜16族元素の金属群から選ばれる1種以上の第2成分金属とを担体に担持した触媒の存在下に、下式(1)で表される環状アセタール化合物を酸化反応させることを特徴とするヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類の製造方法。
【化1】

(式中、nは2〜10の整数であり、Rは水素原子又はメチル基であり、R及びRは互いに独立に水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アリール基、又はアルキルオキシ基である。)

【公開番号】特開2009−274987(P2009−274987A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127604(P2008−127604)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】