説明

ヒドロキシスチレン誘導体及びアセトキシスチレン誘導体の製造方法

【課題】金属触媒や生体触媒などの特別な触媒、あるいは特殊な反応設備を用いることなく簡便に、且つ高収率でヒドロキシスチレン誘導体、及び、アセトキシスチレン誘導体を製造する方法の提供。
【解決手段】一般式(I)


(式(I)中、置換基R1、R2、R3およびR4は、水素、ヒドロキシル基及びメトキシ基のいずれかである)で示されるヒドロキシ桂皮酸誘導体を、有機塩基の存在下、疎水性溶媒中で加熱する工程を備えていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機能性高分子材料として有用であることが知られているヒドロキシスチレンポリマーの中間原料として有用な化合物であるヒドロキシスチレン誘導体及びアセトキシスチレン誘導体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化と高集積化を背景として、高解像度と高感度を有するフォトレジスト材料が要望されており、この要望に従って、最近、KrF、ArFエキシマレーザー等の短波長光の化学増幅型レジスト材料が開発されている。なかでも、光照射によって容易に脱離する保護基にて水酸基を保護したポリヒドロキシスチレン類が特に有用であることが知られている。このようなポリヒドロキシスチレン類の原料モノマーとしては、従来、水酸基を保護基で保護した置換オキシスチレン類、特に、アセトキシスチレン類が広く用いられている。
【0003】
このようなアセトキシスチレン類の製造方法は、従来、種々のものが知られており、例えば、ヒドロキシベンズアルデヒドをアセチル化してアセトキシベンズアルデヒドとし、有機溶剤中、亜鉛金属とトリメチルクロロシランや塩化アセチルのような活性な塩化物を触媒としてジブロモメタンを反応させ、アセトキシスチレンを得る方法が開示されている(特許文献1参照)。また、1-(4-アセトキシフェニル)エチルカルボキシレートを、不活性熱媒中、酸性触媒及び重合防止剤の存在下で、160〜200℃、0.1〜300ミリバール(10kPa〜30MPa)で脱カルボン酸反応することにより、4-アセトキシスチレンを製造する方法(特許文献2参照)やパラ-第三級ブトキシスチレンを出発原料として硫酸、リン酸等の鉱酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸、ポリスチレンスルホン酸等のカチオン交換樹脂等の酸触媒存在下に、無水酢酸、塩化アセチル等のアセチル化剤と反応させる方法(特許文献3参照)が既に知られている。
【0004】
しかしながら、上記各方法では目的物であるアセトキシスチレン誘導体を得るまでに多段階の反応が必要であり、また、高価な試薬や特殊な反応行うための設備が必要となることから、経済性および安全性に優れた製法として満足できるものではない。
【0005】
一方、ヒドロキシ桂皮酸誘導体の脱炭酸反応によりヒドロキシスチレン誘導体が得られることが古くから知られており、この方法で得られたヒドロキシスチレン誘導体をアセチル化すれば、アセトキシスチレン誘導体が得られる。例えば、4-ヒドロキシベンズアルデヒドとマロン酸から4-ヒドロキシ桂皮酸を得た後、キノリン中で銅触媒を添加し、225℃で加熱する。その後、減圧蒸留を行い、不純物のヒドロキノン、重合物を除去することによりp-ヒドロキシスチレンが得られ(非特許文献1参照)、これをアセチル化すれば良い。しかし、この方法で得られるp-ヒドロキシスチレンの収率は41%と低く、銅触媒の使用や高温での反応など工業化及び経済性の面で満足できるものではない。
【0006】
また、非特許文献2にはp-ヒドロキシ桂皮酸の脱炭酸反応速度に対する水溶液のpHの影響が詳しく報告されているが、生成物の詳細については明らかではなく、工業的に利用できる方法であるかどうかは不明である。
【0007】
更に、ヒドロキシ桂皮酸誘導体を脱炭酸しヒドロキシスチレン誘導体を製造する実用的な方法として、米糠から得られるフェルラ酸を利用する方法が種々提案され、微生物によりフェルラ酸を脱炭酸する手法(非特許文献3参照)やマイクロ波エネルギーの利用によりフェルラ酸を脱炭酸し4-ヒドロキシ-3-メトキシスチレンを製造する方法(特許文献4参照)が開示されている。これらの方法で得られたヒドロキシスチレン誘導体をアセチル化すれば、目的のアセトキシスチレン誘導体が得られる。
【0008】
しかし、非特許文献3に記載の微生物による製造方法の場合、高濃度での反応は生成物阻害などの弊害を伴い高効率な製造が難しく、経済性と工業化の面で問題がある。また、特許文献4に記載の方法では、エチレングリコールを溶媒として用いた場合に収率85%と良好であるが、溶媒の種類によりスチレン誘導体の収率が大幅に低下するなど反応の制御が難しいとともに、マイクロ波を照射する特殊な反応設備が必要になるなど工業生産には克服すべき課題が多い。
【0009】
【特許文献1】特開平8−157410号公報
【特許文献2】特開平6−192172号公報
【特許文献3】特開2000−178227号公報
【特許文献4】特開2004−231524号公報
【非特許文献1】R. C. Sovish, J. Org. Chem., 24, 1345 (1959).
【非特許文献2】L. A. CohenらJ. Am. Chem. Soc., 82, 1907(1960).
【非特許文献3】米光ら、第6回高専シンポジウム、講演要旨集、p97(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような状況下、金属触媒や生体触媒などの特別な触媒、あるいは特殊な反応設備を用いることなく簡便に、且つ高収率でヒドロキシスチレン誘導体、及び、アセトキシスチレン誘導体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、従来の方法の問題点を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、本発明に至った。すなわち、上記目的を達成するために、本発明にかかるヒドロキシスチレン誘導体の製造方法(以下、「請求項1の製造方法」と記す)は、下記の一般式(I)
【0012】
【化1】

(式(I)中、置換基R1、R2、R3およびR4は、水素、ヒドロキシル基及びメトキシ基のいずれかである)で示されるヒドロキシ桂皮酸誘導体を、有機塩基の存在下、疎水性溶媒中で加熱する工程を備えていることを特徴としている。
【0013】
本発明の請求項2に記載のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法(以下、「請求項2の製造方法」と記す)は、請求項1の製造方法において、有機塩基が有機アミンであることを特徴としている。
【0014】
本発明の請求項3に記載のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法(以下、「請求項3の製造方法」と記す)は、請求項1または請求項2の製造方法において、疎水性溶媒が、トルエン、キシレン、n − ヘキサン、n − オクタン、n − デカン、及び灯油からなる群より 選ばれた少なくとも1種であることを特徴としている。
【0015】
本発明の請求項4に記載のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法(以下、「請求項4の製造方法」と記す)は、請求項1乃至請求項3のいずれかの製造方法のヒドロキシ桂皮酸誘導体を加熱する工程において、ヒドロキシ桂皮酸誘導体を100℃以上の温度に加熱する工程を備えていることを特徴としている。
【0016】
本発明の請求項5に記載のアセトキシスチレン誘導体の製造方法(以下、「請求項5のアセトキシスチレン誘導体の製造方法」と記す)は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたヒドロキシスチレン誘導体とアセチル化剤とを、反応させる工程を備えていることを特徴としている。
【0017】
本発明のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法では、以下の反応式(1)のように、一般式(I)のヒドロキシ桂皮酸誘導体から一般式(II)のヒドロキシスチレン誘導体が反応生成される。
【0018】
【化2】

(式中、置換基R1、R2、R3およびR4は、水素、ヒドロキシル基およびメトキシ基のいずれかである)
【0019】
更に、本発明のアセトキシスチレン誘導体製造方法では、以下の反応式(2)のように、一般式(II)のヒドロキシスチレン誘導体から一般式(III)のアセトキシスチレン誘導体が生成される。
【0020】
【化3】

(式中、置換基R1、R2、R3およびR4は、水素、ヒドロキシル基およびメトキシ基のいずれかである)
【0021】
上記反応式(1)において一般式(I)で示される4位にヒドロキシル基を有するヒドロキシ桂皮酸誘導体は、その二重結合における立体配置としてトランス体とシス体とが存在し、いずれの異性体を用いてもよいが、その安定性から天然に得られるものを中心にトランス体が主である。
【0022】
具体的には、4-ヒドロキシ桂皮酸(R1=R2=R3= R4=H)、4-ヒドロキシ-3-メトキシ桂皮酸(フェルラ酸)(R1= R2 =R4=H、R3= OMe)、3,4-ジヒドロキシ桂皮酸(カフェー酸)(R1= R2 =R4=H、R3= OH)、4-ヒドロキシ-3,5-ジメトキシ桂皮酸(シナピン酸)(R1= R4=H、R2 =R3= OMe)などが挙げられ、これらのヒドロキシ桂皮酸誘導体からそれぞれ、4-ヒドロキシスチレン、4-ヒドロキシ-3-メトキシスチレン、3、4-ジヒドロキシスチレン、4-ヒドロキシ-3,5-ジメトキシスチレンがヒドロキシスチレン誘導体として得られる。上記ヒドロキシ桂皮酸誘導体の中でも、特に4-ヒドロキシ-3-メトキシ桂皮酸(フェルラ酸)を用いれば、ヒドロキシスチレン誘導体である4-ヒドロキシ-3-メトキシスチレンを最も高収率で得ることが可能である。
【0023】
ヒドロキシ桂皮酸誘導体の反応の際に用いる有機塩基は触媒として作用し、特に限定しないが、例えば、直鎖状、分岐状のものが含まれるアルキルアミン(メチル、エチル、炭素数3のアルキル基(n-プロピル、iso-プロピル)、炭素数4のアルキル基(n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル)など炭素数20までのアルキルアミン)、ピペリジンおよびピロリジンなどの環状アミン類、アニリンなどの芳香族アミン類などをその具体例としてあげる事ができる。これらの中でも特に、請求項2に記載の製造方法のように、有機アミン類を用いることが好ましい。有機アミンは疎水性溶媒に溶解可能であり、ヒドロキシスチレン誘導体を高収率で得ることができるからである。
【0024】
有機塩基の使用割合は、ヒドロキシ桂皮酸誘導体に対し、0.01から5(モル比)、好ましくは、0.05から2(モル比)である。有機塩基が少ない場合には反応の進行が遅くなり、過剰に用いた場合は製造コスト高につながる。
【0025】
また、ヒドロキシ桂皮酸誘導体の反応の際に用いる疎水性溶媒は、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ヘキサフルオロイソプロパノール、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、エチルベンゼン、n − ヘキサン、シクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、イソヘキサン、n− ヘプタン、n − オクタン、イソオクタン、n − ノナン、n − デカン、灯油などを用いることができる。これらのうち特に、芳香族系疎
疎水性溶媒のn − ヘキサン、シクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、イソヘキサン、n− ヘプタン、n − オクタン、イソオクタン、n − ノナン、n − デカン、灯油などの群より選ばれた少なくとも1種の疎水性溶媒を用いることにより、効率よく高収率で目的物を得ることが可能となる。
【0026】
本発明に係るヒドロキシ桂皮酸誘導体の脱炭酸反応には、加熱が必要である。加熱温度は、特に限定されないが、概ね50℃から250℃の加熱により反応が速やかに進行し、より好ましくは100℃以上の高温である。また、反応は、加熱時においても加圧されない開放系、若しくは加熱中高温である場合に加圧される密閉系のいずれでも行うことができる。反応時の加熱方法は、特に限定されず、オイルバス等通常の加熱方法で構わない。
【0027】
請求項5に記載のアセトキシスチレン誘導体の製造方法で用いるアセチル化剤としては、一般的に無水酢酸、塩化アセチル、臭化アセチルから選ばれた少なくとも1種を用いることができる。アセチル化反応を効率よく進行せしめるには触媒を用いることが有効であり、触媒の種類は特に限定しないが、アルキルアミン(メチル、エチル、炭素数3のアルキル基(n-プロピル、iso-プロピル)、炭素数4のアルキル基(n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル)など炭素数20までのアルキルアミン)、ピペリジンおよびピロリジンなどの環状アミン類、アニリンなどの芳香族アミン類、ピリジンなどの含窒素芳香族化合物、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、高分子基材に担持された固体塩基などを用いることができる。これらのうち、トリエチルアミン、ピリジン等の疎水性溶媒に溶解するアミン類を使用することが好ましく、その使用割合はヒドロキシスチレン誘導体に対して、0.05から2(モル比)程度である。また、本発明においては、ヒドロキシスチレン誘導体の製造の際に用いた塩基をそのままアセチル化反応の触媒に利用してもよく、反応の進行状況に応じてアセチル化反応のために触媒を新たに追加することも可能である。
【0028】
ヒドロキシスチレン誘導体とアセチル化剤との反応終了後は、水洗、乾燥、溶媒を留去することにより95%以上の純度でアセトキシスチレン誘導体が得られる。さらに、減圧蒸留により高純度のものが得られる。また、反応終了後に直ちに蒸留により精製することも可能である。
【発明の効果】
【0029】
本発明にかかるヒドロキシスチレン誘導体の製造方法は、ヒドロキシ桂皮酸誘導体を、有機塩基の存在下、疎水性溶媒中で加熱する工程を備えているので、工業的に入手可能なヒドロキシ桂皮酸誘導体から脱炭酸反応によりヒドロキシスチレン誘導体を高収率で得ることができる。特に、ヒドロキシ桂皮酸誘導体として米糠などから得られる天然由来のフェルラ酸を用いた場合には、炭素源が空気中の二酸化炭素であることから、カーボンニュートラルな環境調和型ポリマー用の良好な原料となる。
【0030】
また、有機塩基が有機アミンである場合には、より高収率でヒドロキシ桂皮酸からヒドロキシスチレン誘導体を得ることができる。
【0031】
そして、疎水性溶媒が、トルエン、キシレン、n − ヘキサン、n − オクタン、n − デカン、及び灯油からなる群より選ばれた少なくとも1種である場合には、短時間且つ高収率でヒドロキシスチレン誘導体を得ることが可能となる。
【0032】
更に、ヒドロキシ桂皮酸誘導体を加熱する工程において、ヒドロキシ桂皮酸誘導体を100℃以上の温度に加熱する工程を備えている場合には、より短時間且つ高収率でヒドロキシスチレン誘導体を得ることが可能となる。
【0033】
更に、本発明に係るアセトキシチレン誘導体の製造方法は、請求項1乃至4のいずれかの製造方法により得られたヒドロキシスチレン誘導体をアセチル化剤と反応をさせることより、アセトキシスチレン誘導体を容易かつ高収率で得ることができる。得られたアセトキシスチレン誘導体は、ヒドロキシル基が保護されていることから貯蔵性、重合性が良好であり、高分子材料の良好な原料となる。特に、4-アセトキシ-3-メトキシ構造や3,4-ジアセトキシ構造を有するアセトキシスチレン誘導体は化学合成が困難であることから、フォトレジスト材料などの機能性高分子材料の物性調整用の材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の詳細について実施例によって具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
〈ヒドロキシスチレン誘導体の製造工程における溶媒の影響〉
ヒドロキシスチレン誘導体の製造工程における溶媒の種類及び反応温度について比較するため、原料のヒドロキシ桂皮酸誘導体として4-ヒドロキシ-3-メトキシ桂皮酸(フェルラ酸)を0.97g(5.0 mmol)、有機塩基としてトリエチルアミンを用い、表1に示す溶媒、温度、有機塩基使用割合でヒドロキシスチレン誘導体の製造を行った。反応の終点を薄層クロマトグラフィー(TLC)で確認し、原料消失までの時間および得られたヒドロキシスチレン誘導体である4-ヒドロキシ-3-メトキシスチレンの収率をNMRで調べた。
【0036】
【表1】

※ 24時間の加熱では原料が消失しなかった
【0037】
上記表1から、上記実験番号1〜11に用いた各種疎水性溶媒中において、ヒドロキシ桂皮酸誘導体を有機塩基であるトリエチルアミンの存在下で、加熱することによりヒドロキシスチレン誘導体が得られることが分かる。特に実験番号4〜11に示すように、反応温度100℃以上の場合、短時間且つ高収率でヒドロキシスチレン誘導体が得られることがわかる。また、表1における実験番号9〜11より有機塩基としてのトリエチルアミンの割合を少なくした場合であっても短時間で高収率のヒドロキシスチレン誘導体が得られることが分かる。
【0038】
(比較例1)
溶媒をトルエンに替えてエチレングリコールとした以外は上記表1における実験番号4と同様の条件で6時間反応を行ったところ、ヒドロキシスチレン誘導体である4-ヒドロキシ-3-メトキシスチレンの収率が約50%となり、残りは不純物であった。
【0039】
(比較例2)
溶媒をトルエンに替えてジエチレングリコールジメトキシエーテルとした以外は上記表1における実験番号4と同様の条件で反応を行った。その結果、、原料消失までに24時間以上要し、ヒドロキシスチレン誘導体の収率が約60%であった。
【0040】
したがって、比較例1,2におけるヒドロキシスチレン誘導体の収率は、ともに上記実施例1における実験番号4のヒドロキシスチレン誘導体の収率である95%以上より低い収率となった。
【0041】
(実施例2)
<ヒドロキシスチレン誘導体の製造における塩基の影響>
ヒドロキシスチレン誘導体の製造における触媒としての有機塩基の影響を確認するため、有機塩基を表2に示す種類及びヒドロキシ桂皮酸誘導体に対する割合として反応を行った以外は、上記実施例1の表1における実験番号4と同様の条件で反応を行った。原料消失までの時間および得られたヒドロキシスチレン誘導体である4-ヒドロキシ-3-メトキシスチレンの収率をNMRで調べた。
【0042】
【表2】

※24時間の加熱では原料が消失せず(途中で分析した結果)
【0043】
表2から、各種有機塩基、特に有機アミンを用いることにより、短時間且つ高収率でヒドロキシスチレン誘導体である4-ヒドロキシ-3-メトキシスチレンが得られることがわかる。
【0044】
(比較例3)
有機塩基に替えて、表3に示した各種塩基をヒドロキシ桂皮酸誘導体に対し0.2(モル比)用いた以外は上記実施例1の表1における実験番号4と同様の条件で反応を行い、原料消失までの時間および得られたヒドロキシスチレン誘導体である4-ヒドロキシ-3-メトキシスチレンの収率をNMRで調べた。結果を表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
表3の実験番号1〜3に示す塩基では反応時間を長くしても原料であるヒドロキシ桂皮酸誘導体が消失せず、目的物であるヒドロキシスチレン誘導体はほとんど得られなかった。
【0047】
上記実施例1,2の結果を参考に、以下の実施例3〜9において各種アセトキシスチレン誘導体の製造を行った。
【0048】
(実施例3)
<アセトキシスチレン誘導体の製造>
ヒドロキシ桂皮酸誘導体としての4-ヒドロキシ-3-メトキシ桂皮酸(フェルラ酸)15.52 g (80 mmol)をトルエン200 mlに分散した後にトリエチルアミン3.3 ml (24 mmol, 0.3(モル比))を添加し、110 ℃で15時間加熱し、これによりヒドロキシスチレン誘導体を得た。ヒドロキシスチレン誘導体製造の終点をTLCで確認した後に、引き続きアセトキシスチレン誘導体の製造を行うため同一反応容器内にアセチル化剤としての無水酢酸10 mlを加え110℃で5時間反応した。冷却後、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(3回)、飽和食塩水で順次洗浄し、有機相を硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾別し、溶媒を減圧留去して、アセトキシスチレン誘導体を得た。このアセトキシスチレン誘導体を減圧蒸留により精製し、純度100 %の4-アセトキシ-3-メトキシスチレン14.6g(収率 95%)を得た。得られた4-アセトキシ-3-メトキシスチレンのスペクトルデータは次の通りである。
4-Acetoxy-3-methoxy styrene
oil ; bp 104-105℃/4mmHg; 1H NMR (CDCl3) δ= 2.32 (s, 3H, CH3), 3.85 (s, 3H, OCH3), 5.25 (dd, 1H, J=0.9, 10.8 Hz, =CH2), 5.70 (dd, 1H, J=0.9, 17.6 Hz, =CH), 6.68 (dd, 1H, J=10.8, 17.6 Hz, =CH2), 6.99-7.01 (m, 3H, ArH); 13C NMR (CDCl3) δ= 20.6, 55.8, 109.8, 114.0, 118.9, 122.7, 136.2, 136.6, 151.0, 169.0; MS (ESI-TOF) calcd for [C11H12O3]+ 192.08, found 193.058 [M + H]+.
【0049】
(実施例4)
4-ヒドロキシ-3-メトキシ桂皮酸(フェルラ酸)0.97g (5 mmol)をトルエン20 mlに分散した後にn-ブチルアミン0.1 ml (1 mmol, 0.2 (モル比))を添加し、110 ℃で5時間加熱し、ヒドロキシスチレン誘導体を製造した。反応の終点をTLCで確認した後、引き続き、この反応容器に無水酢酸0.6 ml、トリエチルアミン0.28ml(ヒドロキシスチレン誘導体の反応率を100%とした場合のヒドロキシスチレン誘導体に対するモル比が0.4)を加えアセトキシスチレン誘導体の製造するため110℃で3時間撹拌した。その後の処理は上記実施例3と同様に洗浄、乾燥、溶媒の減圧留去までを行ったところ、粗4-アセトキシ-3-メトキシスチレン0.79g(収率 82%)を得た。
【0050】
(実施例5)
疎水性溶剤としてのトルエンに替えてn-オクタンを、有機塩基としてのn-ブチルアミンに替えてトリエチルアミンを使用し、無水酢酸の添加後のアセトキシスチレン誘導体の製造時トリエチルアミンを添加せず、アセトキシスチレン誘導体の反応時間を4時間とした以外は上記実施例4と同様の条件で反応を行ったところ、粗4-アセトキシ-3-メトキシスチレン0.82g(収率 89%)を得た。
【0051】
(実施例6)
疎水性溶剤としてのトルエンに替えて キシレンを、有機塩基としてのn-ブチルアミンに替えてトリエチルアミンを使用し、ヒドロキシスチレン誘導体製造のための反応温度を140 ℃とし、無水酢酸の添加後のアセトキシスチレン誘導体の製造時トリエチルアミンを添加せず、アセトキシスチレン誘導体の反応を100℃で4時間とした以外は、上記実施例4と同様の条件で行ったところ、粗4-アセトキシ-3-メトキシスチレン0.80g(収率 87%)を得た。
【0052】
(実施例7)
<密閉系>
4-ヒドロキシ-3-メトキシ桂皮酸(フェルラ酸)31.07 g (0.16 mol)をトルエン500 mlに分散した後にトリエチルアミン3 ml (21.6mmol, 0.14(モル比))を添加し、140 ℃で反応器の内圧を0.15 MPaに保ち6時間加熱した。反応の終点をTLCで確認した後に、無水酢酸17 ml、トリエチルアミン3 ml(ヒドロキシスチレン誘導体の反応率を100%とした場合のヒドロキシスチレン誘導体に対するモル比が0.14)を加え110℃で3時間撹拌した。その後の処理は上記実施例3と同様の洗浄、乾燥、溶媒の減圧留去、精製を行い、純度100 %の4-アセトキシ-3-メトキシスチレン28.84g(収率 94%)を得た。
【0053】
(実施例8)
<密閉系>
4-ヒドロキシ桂皮酸26.26 g (0.16 mol)をトルエン500 mlに分散した後にトリエチルアミン3 ml (21.6mmol, 0.14 eq)を添加し、140 ℃で反応器の内圧を0.15 MPaに保ち3時間加熱した。反応の終点をTLCで確認した後に、無水酢酸17 ml、トリエチルアミン3 ml(ヒドロキシスチレン誘導体の反応率を100%とした場合のヒドロキシスチレン誘導体に対するモル比が0.14)を加え110℃で3時間撹拌した。その後の処理は上記実施例3と同様に洗浄、乾燥、溶媒の減圧留去、精製を行い、純度100 % の4-アセトキシスチレン24.0g(収率 92 %)を得た。得られたスチレン誘導体のスペクトルデータは次の通りである。
4-Acetoxy styrene
oil ; bp 68-70℃/2mmHg; 1H NMR (CDCl3) δ= 2.30 (s, 3H, CH3), 5.26 (d, 1H, J=12.0 Hz, =CH2), 5.71 (d, 1H, J=20.0 Hz, =CH), 6.71 (dd, 1H, J=12.0, 20.0 Hz, =CH2), 7.05-7.44 (m, 3H, ArH); 13C NMR (CDCl3) δ= 21.0, 113.9, 121.6, 127.1, 135.3, 135.8, 150.1, 169.4; MS (ESI-TOF) calcd for [C10H10O2]+ 162.07, found 163.058 [M + H]+.
【0054】
(実施例9)
3,4-ジヒドロキシ桂皮酸0.9 g (5 mmol)をトルエン20 mlに分散した後にN-エチルジイソプロピルアミン0.17 ml (1 mmol、0.2 eq)を添加し、100 ℃で20時間加熱した。反応の終点をTLCで確認した後に、無水酢酸1.5 ml、トリエチルアミン0.5mlを加え90℃で1時間撹拌した。その後の処理は上記実施例4と同様に洗浄、乾燥、溶媒の減圧留去までを行ったところ、粗3,4-ジアセトキシスチレン0.86g(収率 78 %)を得た。得られたスチレン誘導体のスペクトルデータは次の通りである。
3.4-Diacetoxy styrene
oil ; 1H NMR (CDCl3) δ= 2..29 (s, 3H, CH3), 2.31 (s, 3H, CH3), 5.27(d, 1H, J=12.0 Hz, =CH2), 5.71 (d, 1H, J=20.0 Hz, =CH), 6.65 (dd, 1H, J=12.0, 20.0 Hz, =CH2), 7.10-7.30 (m, 3H, ArH);
【0055】
以上実施例3〜9のヒドロキシスチレン誘導体の製造工程における反応条件を表4に、同じく実施例3〜9のアセトキシスチレン誘導体の製造工程における反応条件及びアセトキシスチレン誘導体の収率を表5にまとめて示す。
【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
(実施例10)
アセトキシスチレン誘導体の安定性を確認するため、4-ヒドロキシ-3-メトキシスチレンの4位のアセチル化を行った4-アセトキシ-3-メトキシスチレンについて重クロロホルム溶液(5mg/1ml)を作成し、NMRによりアセトキシスチレン誘導体の製造直後及び室温で一ヶ月保存した後の経時変化を追跡した。結果を図1に示す。
【0059】
図1より、製造直後と室温での1ヶ月保存後とを比較すると、スペクトルに大きな変化はなく、貯蔵安定性が良好であることがわかった。これは、ヒドロキシル基をアセチル化したためであると考えられる。
【0060】
(比較例4)
比較例として、4位のアセチル化を行っていない4-ヒドロキシ-3-メトキシスチレンについて同様に重クロロホルム溶液(5mg/1ml)を作成し、ヒドロキシスチレン誘導体の製造直後、及び室温で2日間、5日間、12日間保存した後の経時変化をNMRにより追跡した。また、TLCによりヒドロキシスチレン誘導体の製造直後及び室温で12日間保存後の比較を行った。結果を図2に示す。
【0061】
図2のNMRスペクトルより、2日、5日、12日の楕円で示す部分が変化していることがわかる。また、TLCの確認試験の結果においても製造直後と12日後とでは変化がみられた。これより、ヒドロキシスチレン誘導体のヒドロキシル基をアセチル化しない場合には、時間の経過と共にヒドロキシスチレン誘導体が自己重合によって安定性が劣ることとなることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明にかかるヒドロキシスチレン誘導体の製造方法及びアセトキシチレン誘導体の製造方法により得られるヒドロキシスチレン誘導体及びアセトキシスチレン誘導体は、機能性高分子材料として有用であることが知られているヒドロキシスチレンポリマーの中間原料として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】アセトキシスチレン誘導体の重クロロホルム中でのNMRスペクトルの経時変化を示す図である。
【図2】ヒドロキシスチレン誘導体の重クロロホルム中でのNMRスペクトルの経時変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)
【化1】

(式中、置換基R1、R2、R3およびR4は、水素、ヒドロキシル基及びメトキシ基のいずれかである)で示されるヒドロキシ桂皮酸誘導体を、有機塩基の存在下、疎水性溶媒中で加熱する工程を備えていることを特徴とするヒドロキシスチレン誘導体の製造方法。
【請求項2】
有機塩基が有機アミンであることを特徴とする請求項1に記載のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法。
【請求項3】
疎水性溶媒が、トルエン、キシレン、n − ヘキサン、n − オクタン、n − デカン、及び灯油からなる群より 選ばれた少なくとも1種である請求項1または請求項2に記載のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法。
【請求項4】
ヒドロキシ桂皮酸誘導体を加熱する工程において、ヒドロキシ桂皮酸誘導体を100℃以上の温度に加熱する工程を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のヒドロキシスチレン誘導体の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたを備えていることを特徴とする、アセトキシスチレン誘導体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−57294(P2009−57294A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223576(P2007−223576)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究「環境調和資源・技術による機能性有機材料の開発」産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(591023594)和歌山県 (62)
【出願人】(591066362)築野食品工業株式会社 (31)
【Fターム(参考)】