説明

ヒドロキシル化油のトランスエステル化方法

【課題】軽質アルコール(メタノールまたはエタノール)および塩基触媒の存在下で、ヒドロキシル化油の脂肪酸エステルへのほぼ完全な変換率を可能にする温度、圧力およびアルコール/油重量比条件下で行われる、2つの連続したトランスエステル化段階を含むヒドロキシル化油のトランスエステル化方法。
【解決手段】第1トランスエステル化段階で直接得られた反応混合物に水溶液を添加してヒドロキシル化脂肪酸エステルおよびグリセロールを含む反応混合物を得る。この反応混合物に分離段階を実施して、主として脂肪酸エステルからなる低密度相と主としてグリセロール、および水および脂肪酸石鹸からなる高密度相A2とを得る。この低密度相に上記軽質アルコールおよび塩基触媒を添加して第2トランスエステル化段階を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシル化された油、特にヒドロキシル化植物油、例えばヒマシ油のトランスエステル化方法に関するものである。
本発明方法は軽質アルコールを用い且つ塩基触媒の存在下で行なわれ、第1トランスエステル化段階で得られた反応混合物に対して水溶液で洗浄する段階を含む。
本発明方法を用いることでヒドロキシル化脂肪酸エステルが豊富なフラクションを極めて高い変換率で得ることができる。
【背景技術】
【0002】
ヒマシ油は85〜95%がリシノール酸からなる脂肪酸のトリグリセリドからなる。メタノールの存在下でヒマシ油のトランスエステル化で得られるエステルは主としてリシノール酸メチル(またはメチル12−ヒドロキシ−シス−9−オクタデセノエート)である。この化合物は特に本出願人が開発した例外的な物理特性を有するポリアミドである11−アミノウンデカン酸(「リルサン(登録商標)」11の構成モノマーであり、その製造の出発材料として用いられる。
【0003】
11−アミノウンデカン酸の製造ではリシノール酸メチルの気相で熱分解を行う。そのために最小量のグリセリドすなわちトリ−、ジ−およびモノ−グリセリドを含んでいなければならない。すなわち、これらの化合物は気化させるのが極めて困難で、しばしば気化前に破壊され、分解の選択性が低下する。同様に、リシノール酸メチルは最小量のリシノール酸を含んでいなければならない。このリシノール酸自体も気化させるのが難しい。
【0004】
従って、トランスエステル化を可能なかぎり最も完全に実施できる方法が望ましい。
【0005】
植物油のトランスエステル化法は多数知られている。この反応が完全であるとみなされるには過剰アルコールを用いる必要がある。アルコールの過剰な消費を避けるためにトランスエステル化反応は2つの段階で実施できる:
(1)トランスエステル化の第1段階は、過剰量の軽質アルコールと酸または塩基触媒との存在下で実施され、生成されたグリセロールを反応混合物から抽出して軽質アルコールのエステルの生成へ向かって反応の平衡を移動させる、
(2)この第1段階の終了後に、回収された有機相を再度アルコールで処理し、最終的に100%に近いトランスエステル化収率を得る。
【0006】
この方法は例えば特許文献1(米国特許第5,354,878号明細書)に記載されている。この文献には、確かに植物油の脂肪酸エステルへの極めて高い変換率を得ることができるトランスエステル化方法が開示されているが、この方法は生成したグリセロールの4回分離する4つのトランスエステル化段階を必要とする。具体的には、トランスエステル化の第1段階は以下のように行う:カラムの形をした第1反応器14中で植物油、メタノールおよびNaOHを含む反応混合物をカラム底で除去されるグリセロールの沈降率より低い流量で、カラムの頂部に導入し、次いで、反応混合物を第2反応器20に移し、トランスエステル化を反応物を添加せずに第2段階を続ける。次いで、水を用いて洗浄した後、トランスエステル化の第3段階を(アルコールと触媒とを添加して)第3反応器36で実施し、次いで、グリセロールを第1トランスエステル化反応中と同様に分離し、反応混合物を第4反応器40に移し、ここで、トランスエステル化の第4段階を反応物を添加せずに実施する。トランスエステル化生成物を含む後者の反応混合物を水で洗浄し、乾燥させる。上記の多くの時間と労力を要する方法の実施に必要な設備は複雑で、製造コストを増大させる。
【0007】
さらに、上記文献に記載のトランスエステル化法は菜種油、その他の油、例えばひまわり油を用いた場合には十分に機能するが、ヒドロキシル化植物油、例えばヒマシ油を用いて実施するには極めて不利であることがわかった。すなわち、ヒマシ油/メタノール/塩基触媒反応混合物では、グリセロールの沈降速度は、菜種油またはひまわり油を用いた対応する混合物の場合より5〜20倍遅い。従って、第1トランスエステル化段階中に反応混合物からグリセロールを分離するのに十分な遅い流れが得られるようにカラム反応器を用いて上記方法を実施するためには、非常に大きな直径を有するカラムを用いる必要がある。
【0008】
特許文献2(米国特許第5,399,731号明細書)には、軽質アルコールを用い且つ塩基触媒の存在下で脂肪酸トリグリセリドをトランスエステル化する別の方法が記載されている。この方法は一回または複数のトランスエステル化段階を含み、さらに、水または希釈有機または無機酸を、グリセロール相の分離後に得られたエステル相に添加する段階も含む。この特許の第4欄第11〜16行目に記載のように、水の添加(第2または最終トランスエステル化の後に実施)によって、エステル相から触媒残留物、その他の不純物を除去できる。この方法は先の文献よりかなり単純で、製造コストを大幅に削減できるが、ヒマシ油を用いたこのトランスエステル化法を実施する試みは、単一または複数の連続したトランスエステル化段階を用いる、用いないに関わらず、バイオ燃料または「リルサン(登録商標)」11製造での出発材料としての使用に適したものにするには過度に多い残留グリセリドを含むエステルフラクションが得られる。
【0009】
他の文献にもヒマシ油に適用されるトランスエステル化方法が記載されているが、これらの方法で得られる油のエステルへの変換率は94%を超えない。
【0010】
特許文献3(英国特許第566,324号公報)には、メタノールおよび塩基触媒の存在下でヒマシ油をトランスエステル化する方法が記載されている。この特許の実施例2に記載の方法は第1トランスエステル化段階と、その後のグリセリンを豊富に含む下側相を沈降分離する段階とを含む。続いて、脂肪エステルが多い上側相を処理する複数の変形例が記載されている。第1変形例(実施例2.a)では上側相を水で3回洗浄する。得られたグリセリン回収率は78%である。第2変形例(実施例2.b)では上側相に第2トランスエステル化段階をメタノールおよび塩基触媒の存在下で実施し、次いで、酸性化段階を実施する。過剰メタノールを除去した後にグリセリンを多く含む相を沈降分離する。得られるグリセリン回収率は86%である。第3変形例(実施例2.c)ではこの上側相に第2、次いで第3のトランスエステル化段階を水の存在下で実施し、続いてグリセリンを沈降分離する。得られた変換率(グリセリン収率で測定)は94%である。
【0011】
非特許文献1(Agra I.B達による刊行物「再生可能エネルギー」ペルガモンプレス、オックスフォード、英国、第9巻、No.1、9月12日、1996年、1025〜1028頁)には、メタノールおよび硫酸の存在下で2段階で実施されるヒマシ油のトランスエステル化法が記載されている。第1トランスエステル化段階後に、反応混合物を水酸化ナトリウム溶液で中和し、塩化ナトリウムを添加してグリセリンの分離を助ける。その結果生じる上側相に第2トランスエステル化段階を実施する。得られたグリセリンの回収率はわずか82%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,354,878号明細書
【特許文献2】米国特許第5,399,731号明細書
【特許文献3】英国特許第566,324号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Agra I.B達による刊行物「再生可能エネルギー」ペルガモンプレス、オックスフォード、英国、第9巻、No.1、9月12日、1996年、1025〜1028頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、上記のトランスエステル化法が示す欠点を克服することにある。
本発明の目的は、ヒドロキシル化油、特にヒマシ油のトランスエステル化に特に適した方法を提案することである。
本発明の目的は、適度な温度および圧力で実施でき、適当な数の段階しか必要としないにもかかわらず、エステルへの極めて高い変換率を達成できる、ヒマシ油のメチルまたはエチルエステルを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の対象は、軽質アルコール(メタノールまたはエタノール)と塩基触媒の存在下で、ヒドロキシル化油の脂肪酸エステルへのほぼ完全な変換率を可能にする温度、圧力およびアルコール/油重量比条件下で行われる、2つの連続したトランスエステル化段階を含むヒドロキシル化油のトランスエステル化方法にある。
【0016】
本発明方法の特徴は、第1トランスエステル化段階で直接得られる反応混合物に水溶液を添加して特にヒドロキシル化脂肪酸エステルとグリセロールとを含む反応混合物を得ることにある。この反応混合物に分離段階を実施して低密度相(主として脂肪エステルからなる)と高密度相A2(主としてグリセロールおよび水および脂肪酸石鹸からなる)とを得る。この低密度相に上記の軽質アルコールおよび塩基触媒を添加して第2トランスエステル化段階を実施する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の「ヒドロキシル化された油」とは、全ヒドロキシル化脂肪酸含有量が50重量%以上である、主として脂肪酸トリグリセリドを含む、純粋または混合物としての任意の油、特に植物起源の油を意味する。ヒドロキシル化脂肪酸の例としてはリシノール酸またはレスケロール酸(huile de lesquerrela)が挙げられる。
【0018】
本発明では特にヒマシ油、レスケレーラから抽出した油、ヒマシ油またはレスケレーラ油とその他の植物油との混合物、遺伝子組み換え植物起源の純粋または混合物としてのヒドロキシル化植物油を使用できる。
【0019】
本発明方法で得られるリシノールエステルは11−アミノウンデカン酸(「リルサン(登録商標)」11の構成モノマー)の製造で出発材料として直接使用できる。本発明方法でトランスエステル化を実施したヒドロキシル化油の変換率は極めて高く、場合によっては99.5%に達する。
【0020】
本発明の上記以外の特徴および利点は、以下の本発明によるトランスエステル化方法の詳細な説明から理解できよう。しかし、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【0021】
本発明の対象は、軽質アルコール(メタノールまたはエタノール)および塩基触媒の存在下で、2つのトランスエステル化段階のみでヒドロキシル化油の脂肪酸エステルへのほぼ完全な変換率を可能にする温度、圧力およびアルコール/油重量比条件下で、トランスエステル化を行うヒドロキシル化油のトランスエステル化方法であって、下記(a)〜(d)を含む方法にある:
(a)反応混合物M1を得る、ヒドロキシル化油のトランスエステル化の第1段階T1、
(b)特にヒドロキシル化脂肪酸エステルおよびグリセロールを含む反応混合物Aを得る、水溶液S1を添加する段階、
(c)低密度相A1(主として脂肪エステルからなる)および高密度相A2(主としてグリセロール、水および脂肪酸石鹸からなる)を得る、静的沈降および/または遠心沈降による反応混合物Aの分離段階、
(d)上記軽質アルコールおよび塩基触媒を相A1に添加して反応混合物M2を製造する、第2トランスエステル化段階T2。
【0022】
本発明の好ましい実施例の変形例で用いるヒドロキシル化油は脂肪酸トリグリセリドからなるヒマシ油で、主な脂肪酸はリシノール酸である。公知の天然油の中でこのような高い比率のヒドロキシル化脂肪酸を含むものは他にない。この特徴的なグリセリド組成がヒマシ油と他の植物脂肪および油とを区別し、これによって注目すべき物理的および化学的特性が与えられる。従って、ヒマシ油は全ての天然油の中で最高の粘度数および最高の密度を有する。これらの特性は特にヒドロキシル基間で形成される水素結合によるものである。化学反応中にヒマシ油に極めて独特の挙動を与えるのはこれらの特性であり、これは「通常の」植物油のトランスエステル化の公知方法を単純にはヒマシ油に置き換えられないことを意味する(注意:「通常の油」とは、油性植物、例えばひまわり、菜種または大豆から抽出した非ヒドロキシル化油を意味する)。
【0023】
本発明方法はリン脂質を含まず且つ酸度が低い(2mg KOH/g以下)ヒマシ油である「第1グレード」のヒマシ油に適用するのが好ましい。
【0024】
好ましい軽質アルコールはメタノールである。本発明方法で用いる塩基触媒は下記の群の中から選択される:水酸化ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウムアルコール、水酸化ナトリウム固体、水酸化カリウム水溶液、水酸化カリウムアルコール、水酸化カリウム固体、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウム。
【0025】
特定の理論に拘束されるものではないが、軽質アルコールを用いたヒマシ油のトランスエステル化は下記の平衡系に従う:
【化1】

【0026】
トランスエステル化反応媒体は一般に2つの相すなわちメチルまたはエチルエステルを多く含む相およびグリセロールを多く含む相からなることは公知である。本発明者は、大部分の脂肪酸のメチルまたはエチルエステルとは違って、グリセロールは水の非存在下でヒマシ油のメチルまたはエチルエステルに非常に可溶であることを見出した。メチルまたはエチルエステル中に存在するグリセロールによって、メチルまたはエチルエステルへの極めて高い変換率が得られなくなる(最終平衡がわずかに右に移動)。第1トランスエステル化段階後に水溶液で洗浄することによって、メチルまたはエチルエステルを多く含む相中のグリセロール含有量が減少し、それによって、第2トランスエステル化段階後に極めて高い変換率まで進むことができる。第1の水での洗浄によって石鹸の形成が促進され、沈降が妨げられることが懸念されるため、この結果は予期し得ないものである。
【0027】
段階T1で用いるアルコールの重量はヒドロキシル化油の単位重量当たり0.1〜0.4、好ましくは0.13〜0.3である。
段階T1で用いる触媒の重量はヒドロキシル化油の単位重量当たり0.001〜0.04、好ましくは0.0015〜0.01である。
反応混合物Aを得るのに用いる水溶液S1の重量は、ヒドロキシル化油の単位重量当たり0.01〜0.4、好ましくは0.05〜0.2である。
【0028】
(c)段階の静的沈降は一つまたは複数の沈降装置で同時にまたは連続して実施できる。
アルコールおよび塩基触媒を添加した相A1に、第2トランスエステル化段階T2を実施する。
【0029】
段階T2で用いるアルコールの重量はヒドロキシル化油の単位重量当たり0.05〜0.3、好ましくは0.08〜0.2である。
段階T2で用いる触媒の重量はヒドロキシル化油の単位重量当たり0.005〜0.03、好ましくは0.001〜0.08である。
【0030】
この反応混合物M2(第2トランスエステル化段階T2で得られる混合物)に水溶液S2を添加して反応混合物Bを得る。この反応混合物に、次いで静的沈降および/または遠心沈降による分離段階を実施し、低密度相B1(主として脂肪エステルからなる)と高密度相B2(主としてグリセロール、水および必要に応じて脂肪酸石鹸からなる)を得る。
【0031】
本発明の一つの実施例の方法は、脂肪酸エステルおよび/または遊離脂肪酸および/または脂肪酸塩を含む混合物に、塩基触媒を添加したものを、水溶液S2の添加前に実施される第2トランスエステル化段階T2で得られる反応混合物に、再循環するR段階をさらに含む。一般に、添加する塩基触媒の量は媒体中に存在する全酸度を中和するのに十分な量にすべきである。
【0032】
T1段階、T2段階、R段階、水溶液S1およびS2の分離段階および添加段階は5バール以下の絶対圧力下、好ましくは2バール以下の絶対圧力下、10〜100℃、好ましくは15〜60℃、さらに好ましくは20〜50℃の温度で行う。
【0033】
トランスエステル化方法は、相B1に、アルコールの一部または全部を蒸発させた後に、水溶液S3のさらなる添加および相分離を実施し、脂肪エステルからなる低密度相C1およびアルコール、グリセロールおよび石鹸からなる高密度水相C2を得る段階をさらに含むことができる。アルコールの蒸発段階は60〜200℃、好ましくは100〜180℃の温度および0.1〜1.5バールの絶対圧力で行う。本発明の一つの実施例では、回収された高密度水相C2を、水溶液S1および/またはS2として用いて、反応混合物Aおよび/または反応混合物Bを得る。
【0034】
水溶液S1、S2およびS3は水からなるのが好ましいが、下記の群の中から選択することもできる:水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムの希釈水溶液、希釈酸(塩酸、硫酸またはその他の酸)の水溶液または少量の有機物質および/または塩を含む再循環水流。
【0035】
上記の高密度の相A2、B2、任意の相のC2を混合し、この混合物に、蒸発、酸性化および沈降段階を含む処理を実施して、低密度の油性相D1および高密度相D2(主としてグリセロールと水とからなる)を得る。蒸発段階の目的は、混合物からメタノールの一部または全部、必要に応じてさらに、存在する水の一部を除去することである。酸性化は例えば硫酸または塩酸を用いて実施できる。低密度油性相D1は主として脂肪エステルおよび脂肪酸からなる。
【0036】
本発明方法は、油性相D1をアルコールおよび下記の群:塩酸、硫酸、メタンスルホン酸およびパラ−トルエンスルホン酸の中から選択される酸触媒と、40〜120℃の温度で反応させて、脂肪酸エステルと遊離脂肪酸とを含む混合物M3を得るエステル化段階をさらに含むことができる。エステル化段階で用いるアルコールの重量は油性相D1の単位重量当たり0.1〜1.5、好ましくは0.2〜0.8である。エステル化段階で用いる酸触媒の重量はヒドロキシル化油の単位重量当たり0.001〜0.05、好ましくは0.01〜0.03である。
【0037】
後者の2つの段階によって一般に数パーセントの収率でエステルを回収できる。そうしないと、このエステルはエステルまたは石鹸または脂肪酸の形でグリセロールと一緒に除去される。
【0038】
第1変形例では、混合物M3を再循環段階Rで用いる。別の実施例の変形例では、酸性、塩基性または中性の水溶液、好ましくは水を混合物M3に添加し、次いで、この混合物を分離して、高密度水相E2および低密度相E1(エステルを含む)を得ることができる。この場合は、再循環段階Rで用いられるのは相E1である。相E2は相A1とA2との混合物と一緒に再循環できる。
【0039】
本発明方法によってT2段階の終了後に油のほぼ完全な変換率を得ることができる。「ほぼ完全な変換率」とは、得られた混合物が、脂肪酸エステルに対して5%以下、好ましくは2%以下のトリグリセリド、ジグリセリドおよびモノグリセリドを含むこと、すなわち、95%以上、好ましくは98%以上の変換率であることを意味する。
【0040】
本発明の各段階は、油のトランスエステル化に関する刊行物および特許に豊富に記載されている当業者に公知の任意タイプの反応器でバッチ式または連続的に実施できる。バッチ式では例えば一つまたは複数の撹拌反応器を使用できる。連続式では連続撹拌反応器、静的ミキサー、カラム反応器および栓流反応器を使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
本発明を用いて形成された脂肪エステル混合物であって相B1または相C1を構成するものを、必要に応じて続けて精製した後に、バイオ燃料としてまたはディーゼル燃料中の添加剤として、または、(ヒドロキシル化油がヒマシ油であるときに)熱分解またはクラッキングによって、ヘプタン酸の先駆体であるヘプタナールおよびウンデシレン酸に変換可能なウンデシレン酸メチルを製造するための出発材料として使用できる。ウンデシレン酸は11−アミノウンデカン酸および「リルサン(登録商標)」11の製造で用いる出発材料である。
本発明は以下の実施例からより良く理解できよう。
【実施例】
【0042】
分析方法
50mgの定量的に測定されたメチル脂肪エステルの混合物、1mlの無水ジメチルホルムアミドおよび1mlのビストリメチルシリルトリフルオロアセトアミドとクロロトリメチルシランとの99/1混合物を3mlのフラスコに導入する。フラスコを密閉した後、この混合物を激しく撹拌し、70℃で20分間加熱する。CPSIL 5CBカラム(長さ15m、直径0.32mm、フィルム厚さ0.25μm)とフレームイオン化検出器とを備えたガスクロマトグラフに1μlの混合物を注入する。P1、メチルエステルピークの領域、P2、モノグリセリドの領域、P3、ジグリセリドの領域および、P4、トリグリセリドの領域を記録する。
【0043】
メチルエステルの変換率は下記の計算によって評価する:
変換率=P1/(P1+P2+P3+P4)
【0044】
実施例1(本発明)
水酸化ナトリウムを触媒とするヒマシ油のバッチ式トランスエステル化
402gのヒマシ油と132gのメタノールとの混合物を、撹拌装置を備えた1リットルのバッチ式反応器内で、大気圧で30℃で調製する。3.5gの30%水酸化ナトリウム水溶液を激しく撹拌しながら添加し、混合物をこの温度で撹拌下に30分間放置し、次いで、44gの水を添加する。5分間撹拌した後に、得られた混合物を2時間放置して沈降させる。28%のグリセロールを含む106gの下側相A2を分離する。さらに、47gのメタノールと2.8gの30%水酸化ナトリウム水溶液とを上側相A1に添加する。この混合物を30℃で30分間激しく撹拌し、次いで、さらに、92gの水を添加する。5分間撹拌した後に、得られた混合物を放置して沈降させる。6.4%のグリセロールを含む162gの下側相B2、および、77%のリシノール酸メチルと5%のメタノールと0.29%のグリセロールとを含む432gの上側相B1を回収する。シリル化後のガスクロマトグラフィによる分析から、変換率が98.8%であることがわかる。
【0045】
実施例2(本発明)
ナトリウムメトキシドを触媒とするヒマシ油のバッチ式トランスエステル化
407gのヒマシ油と126gのメタノールとの混合物を、撹拌装置を備えた1リットルのバッチ式反応器内で、大気圧で40℃で調製する。5.4gの25%のナトリウムメトキシドのメタノール溶液を激しく撹拌しながら添加し、反応混合物をこの温度で撹拌下に1時間放置し、次いで、41gの水を添加する。5分間撹拌した後に、得られた混合物を1時間放置して沈降させる。グリセロールと水とを含む98gの下側相A2を分離する。さらに、28gのメタノールと4gの25%のナトリウムメトキシドのメタノール溶液とを上側相A1に添加する。この混合物を30℃で30分間激しく撹拌し、次いで、さらに、105gの水を添加する。5分間撹拌した後に、得られた混合物を放置して沈降させる。グリセロールと水とを含む175gの高密度相B2、および、77%のリシノール酸メチルと7%のメタノールと0.1%のグリセロールとを含む438gの上側相B1を回収する。シリル化後のガスクロマトグラフィによる分析から、変換率が99.5%であることがわかる。
次いで、この混合物を回転蒸発器内で140℃に加熱し、メタノールを蒸発させる。100gの水で洗浄した後に沈降させ、水相C2を除去し、それによって、85%のリシノール酸メチルと、4%のリノール酸メチルと、3%のオレイン酸メチルと、1%のステアリン酸メチルと、1%のパルミチン酸メチルとを含む399gのメチルエステル混合物C1を回収できる。
【0046】
実施例3(本発明)
水酸化ナトリウムおよびナトリウムメトキシドを触媒とするヒマシ油のバッチ式トランスエステル化
実施例2の操作を繰り返すが、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液の代わりに、3.1gの30%水酸化ナトリウム水溶液を相A1に添加する。99.5%の変換率が得られる。
【0047】
実施例4(本発明)
水酸化ナトリウムを触媒とするヒマシ油の連続式トランスエステル化
連続運転装置内で、650g/時のヒマシ油、210g/時のメタノールおよび5.5g/時の30%水酸化ナトリウム水溶液を静的ミキサーに注入する。このミキサーは、ジャケットによって30℃に維持された、内径が2cmで、高さが1.5mのラシヒリングが充填されたカラムの底部に連結されている。カラム頂部から出る流れを静的ミキサーによって70g/時の水流とオンラインで混合し、次いで、連続運転遠心分離デカンタに送り、このデカンタによって、高密度の水およびグリセリン相A2(190g/時)および低密度相A1を得ることができる。低密度相A1の連続流を、静的ミキサーによって、流量が75g/時のメタノールおよび4.5g/時の30%水酸化ナトリウム水溶液とオンラインで混合し、次いで、ジャケットによって30℃に維持された、内径が2cmで、高さが1.5mのラシヒリングが充填されたカラムの底部に注入する。40g/時の再循環流E1(再循環流E1の調製は以下で説明する)、および、1.5g/時の30%水酸化ナトリウム水溶液を、カラムから頂部を介して出る流れとオンラインで混合する。この流れを次いで静的ミキサーに送り、ここで、160g/時の水相を注入する(第1の実験では水を用い、次の実験では、以下で説明する水相C2を用いる)。この混合物を次いで静的デカンタに連続的に送り、このデカンタによって主として水、グリセロールおよびメタノール(300g/時)からなる高密度相B2、および、メチルエステルの混合物(720g/時)を含む低密度相B1を抜き出すことができる。この低密度相B1を2時間かけて回収し(1440g)、次いで、130℃の回転蒸発器に移してメタノールを蒸発させ、次いで、60℃に冷却し、400gの水と混合する。得られた混合物を次いで沈降させ、水相(C2)およびメチルエステル相C1(1320g)を形成する。このメチルエステル相C1は86%のリシノール酸メチルと8%のC18メチル脂肪エステル(ステアリン酸塩、オレイン酸塩およびリノール酸塩)を含む。
【0048】
水相A2およびB2を2時間かけて回収する(980g)。メタノールおよび水の一部を次いで回転蒸発器内で蒸発させ、570gの24%グリセロール水溶液を得る。この水溶液を14gの33%塩酸で酸性化し、次いで、沈降させる。約60%のメチル脂肪エステルおよび31%の脂肪酸からなる最も低密度相D1(75g)を分離し、50gのメタノールおよび2.5gの33%HClと混合して、混合物M3を形成し、次いで、90℃で2時間加熱する。脂肪酸のメチル脂肪エステルへの変換率は80%以上である。この混合物M3を次いで75gの水で洗浄する。高密度水相E2およびメチル脂肪エステルを含む低密度有機相E1(80g)が得られる。この相E1を第2トランスエステル化段階の後に再循環する。この水相処理によって、ヒマシ油をメチル脂肪エステルの混合物へ変換するプロセスの全収率を3%近く上げることができる。
【0049】
比較例5
中間洗浄せずに水酸化ナトリウムを触媒とするヒマシ油のトランスエステル化
402gのヒマシ油と132gのメタノールとの混合物を、撹拌装置を備えた1リットルのバッチ式反応器内で、大気圧で30℃で調製する。3.5gの30%水酸化ナトリウム水溶液を激しく撹拌しながら添加し、混合物をこの温度で撹拌下に30分間放置し、得られた生成物を一晩沈降させる。沈降は非常に遅い。70%のグリセリンを含む18gの下側相を分離する。さらに、47gのメタノールと2.8gの30%水酸化ナトリウム水溶液とを上側相に添加する。この混合物を30℃で30分間激しく撹拌し、次いで、92gの水を添加する。5分間撹拌した後に、混合物を放置して沈降させる。7%のグリセリンを含む172gの下側相および74%のリシノール酸メチルと、7%のメタノールと、2%のグリセリンとを含む436gの上側相を回収する。シリル化後のガスクロマトグラフィによる分析から、変換率がわずか94.8%であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(d)を含む、2つのトランスエステル化段階のみで、ヒドロキシル化された油の脂肪酸エステルへの変換率を95%以上にすることができる、メタノールまたはエタノールおよび塩基触媒の存在下で、温度、圧力およびアルコール/油重量比の条件下で、トランスエステル化を行うヒドロキシル化された油のトランスエステル化方法:
(a)反応混合物M1を得る、ヒドロキシル化された油のトランスエステル化の第1段階T1、
(b)特にヒドロキシル化脂肪酸エステルとグリセロールを含む反応混合物Aを得る、水溶液S1を添加する段階、
(c)主として脂肪エステルから成る低密度相A1と、主としてグリセロール、水および脂肪酸石鹸から成る高密度相A2とを得ることができる、静的沈降および/または遠心沈降による反応混合物Aの分離段階、
(d)メタノールまたはエタノールおよび上記塩基触媒を相A1に添加して反応混合物M2を製造する、第2トランスエステル化段階T2。
【請求項2】
脂肪酸エステル、遊離脂肪酸および塩基触媒を含む混合物を、第2トランスエステル化段階T2で得られる反応混合物M2中に再循環する段階Rをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水溶液S2を、反応混合物M2または再循環段階Rで得られる反応混合物に添加して、反応混合物Bを得る請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
静的沈降および/または遠心沈降による反応混合物Bの分離段階をさらに含み、主として脂肪エステルから成る低密度相B1と主としてグリセロール、水および必要に応じて脂肪酸石鹸から成る高密度相B2とを得る請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
T1段階、T2段階、R段階、水溶液S1、S2の分離段階および添加段階を5バール以下の圧力および10〜100℃、好ましくは15〜60℃、さらに好ましくは20〜50℃の温度で行う請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
相B1でアルコールを部分的または完全に蒸発させ、次いで、水溶液の添加および相分離を実施し、脂肪エステルからなる低密度相C1およびアルコール、グリセロールおよび石鹸を含む高密度の水相C2を得る請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
回収された高密度水相C2を水溶液S1またはS2として用いて、反応混合物Aまたは反応混合物Bを得る請求項6に記載の方法。
【請求項8】
高密度の相A2、B2および任意成分の相C2を混合し、得られた混合物に、蒸発、酸性化および沈降段階を含む処理を実施して低密度の油性相D1と主としてグリセロールと水とから成る高密度相D2とを得る請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
油性相D1をアルコールおよび塩酸、硫酸、メタンスルホン酸およびパラ−トルエンスルホン酸から成る群の中から選択される酸触媒と、40〜120℃の温度で反応させて脂肪酸エステルと遊離脂肪酸とを含む混合物M3を得る請求項8に記載の方法。
【請求項10】
混合物M3を再循環段階Rで用いる請求項9に記載の方法。
【請求項11】
酸性、塩基性または中性の水溶液、好ましくは水を混合物M3に添加し、次いで、この混合物を分離して高密度水相E2とエステルを含む低密度相E1とを得る請求項9に記載の方法。
【請求項12】
相E1を再循環段階Rで用いる請求項11に記載の方法。
【請求項13】
塩基触媒が水酸化ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウムアルコール、水酸化ナトリウム固体、水酸化カリウム水溶液、水酸化カリウムアルコール、水酸化カリウム固体、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムから成る群の中から選択される請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
水溶液S1およびS2が水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムの希釈水溶液、希釈酸の水溶液または少量の有機物質および/または塩を含む再循環水流から成る群の中から選択され、好ましくは水である請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
段階T1で用いるアルコールの重量が、ヒドロキシル化された油の単位重量当たり0.1〜0.4、好ましくは0.13〜0.3である請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
反応混合物Aを得るのに用いる水溶液S1の重量が、ヒドロキシル化油の単位重量当たり0.01〜0.4、好ましくは0.05〜0.2である請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ヒドロキシル化された油がヒドロキシル化植物油である請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
ヒドロキシル化植物油がヒマシ油である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ヒドロキシル化植物油がレスケレーラ油(huile de lesquerrela)である請求項17に記載の方法。
【請求項20】
ヒドロキシル化植物油のヒドロキシル化脂肪酸含有量が50重量%以上である請求項17に記載の方法。
【請求項21】
トランスエステル化段階T1およびT2をメタノールの存在下で行う請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
相B1またはC1を必要に応じてさらに精製した後に、バイオ燃料としてまたはディーゼル燃料中の添加剤として用いる請求項17〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
相B1またはC1を必要に応じてさらに精製した後に、11−アミノウンデカン酸の製造での出発材料として用いる請求項18に記載の方法。

【公表番号】特表2012−508218(P2012−508218A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535157(P2011−535157)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【国際出願番号】PCT/FR2009/052164
【国際公開番号】WO2010/052443
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】