説明

ヒドロシリル化反応制御剤、ヒドロシリル化触媒組成物、及び硬化性組成物

【解決手段】(1)アルコキシ基を配位子に有するチタン化合物と、(2)1分子あたり少なくとも1つの珪素原子に結合した水素原子を有する有機珪素化合物との反応生成物からなるヒドロシリル化反応制御剤。
【効果】本発明のヒドロシリル化制御剤は、酸素及び水蒸気(湿分乃至水分)の欠如下でヒドロシリル化触媒の触媒機能を確実に抑制することができ、これを用いたヒドロシリル化反応硬化性組成物は、酸素及び/又は水蒸気下で室温でも容易に硬化することができるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実質的に酸素及び/又は水蒸気の欠如下(例えば100ppm以下の酸素及び/又は水蒸気雰囲気下)に白金含有ヒドロシリル化触媒の触媒能を抑制するヒドロシリル化反応制御剤、該制御剤を含むヒドロシリル化触媒組成物、及び該制御剤及び/又は該触媒組成物を含有する長期保存可能な硬化性組成物に関する。なお、この硬化性組成物の硬化は、酸素及び/又は水蒸気(湿分)に曝すことにより達成される。
【背景技術】
【0002】
ヒドロシリル化反応によってアルケニル基等の脂肪酸不飽和結合を含有するオルガノポリシロキサンを含む硬化性組成物は、反応後、ゲルやエラストマー等になり、その用途は非常に広範囲に及ぶものである。
【0003】
前記組成物は、ヒドロシリル化反応により硬化を行っているため、比較的低温、かつ短時間で硬化するといった利点を有する。しかしながら、この種の硬化性組成物は貯蔵性が低いといった欠点を有する。このため、触媒を含む組成物を別途添加し、混合するといった工程を経なければならない。
【0004】
他のアプローチとして、温度に依存して数日乃至数ヶ月に亘る貯蔵安定性を与えるため、公知の白金抑制剤又はアセチレン性化合物及びアミンを用いて調製された一液型硬化性組成物も知られている。あるいは、これに代えて貯蔵安定性を与えるため、ヒドロシリル化触媒を前記組成物を硬化しようとするとき融解し又は崩壊して触媒を放出する物質中にカプセル化することができる。しかし、これらの方法は、いずれもコストが高いこと、比較的硬化温度が高いこと及び/又は硬化時間が長いことなど、それらに固有の欠点を持っている。
【0005】
この問題を解決しようと、酸素欠如下でヒドロシリル化触媒を抑制する方法も試みられたが、酸素欠如下において完全に触媒能を抑制することは困難である。
【0006】
そのような硬化性組成物の先行技術の代表的な特許は、米国特許第4578497号明細書(特許文献1)、米国特許第4526954号明細書(特許文献2)、米国特許第3249580号明細書(特許文献3)、米国特許第3188300号明細書(特許文献4)、欧州特許第511882号明細書(特許文献5)、特開平7−166060号公報(特許文献6)である。また、この技術の代表的な技術文献は、Lewis, L. and Lewis, N., Chem. of Materials, Vol.1, No.1, pp 106−114 (1989):非特許文献1、Lewis, L., J. Am. Chem. Soc., Vol.112, No.16, pp 5998−6004 (1990):非特許文献2、Lewis,L. and Uriate, R., Organometallics,Vol.9, pp 621−625 (1990):非特許文献3、Harrod, J.F. and Chalk A. J., Organic Synthesis via Metal Carbonyls, Wender, I. and Piano, P. Editors, Vol.2, pp 672, 682−683, John Wiley & Sons, New York,New York, (1977):非特許文献4、Dikers, H. et al., J. Chem. Soc., Vol.2 pp 308−313, Dalton Transactions (1980):非特許文献5である。
白金で触媒されたヒドロシリル化反応に及ぼす酸素欠如の条件の効果は、これらの特許文献及び雑誌の文献に報告されている。
【0007】
これまでに、以上のような方法を用い、酸素欠如下でヒドロシリル化触媒を抑制する硬化性組成物は、特開平7−166060号公報(特許文献6)に代表されるものが知られているが、このような白金触媒の制御法は、酸素濃度の管理が極めて厳密である。そのため、長期保存性を実現するには、酸素存在下でも抑制作用を有するアセチレン性化合物あるいはアミンを併用する必要があった。この場合、酸素存在下での硬化性は低下する。
【0008】
【特許文献1】米国特許第4578497号明細書
【特許文献2】米国特許第4526954号明細書
【特許文献3】米国特許第3249580号明細書
【特許文献4】米国特許第3188300号明細書
【特許文献5】欧州特許第511882号明細書
【特許文献6】特開平7−166060号公報
【非特許文献1】Lewis, L. and Lewis, N., Chem. of Materials, Vol.1, No.1, pp 106−114 (1989)
【非特許文献2】Lewis, L., J. Am. Chem. Soc., Vol.112, No.16, pp 5998−6004 (1990)
【非特許文献3】Lewis,L. and Uriate, R., Organometallics,Vol.9, pp 621−625 (1990)
【非特許文献4】Harrod, J.F. and Chalk A. J., Organic Synthesis via Metal Carbonyls, Wender, I. and Piano, P. Editors, Vol.2, pp 672, 682−683, John Wiley & Sons, New York,New York, (1977)
【非特許文献5】Dikers, H. et al., J. Chem. Soc., Vol.2 pp 308−313, Dalton Transactions (1980)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、酸素及び水蒸気濃度が100ppm程度以下の実質的な酸素及び水蒸気の欠如下にヒドロシリル化触媒に対し抑制機能を発揮するヒドロシリル化反応制御剤及びこれを含むヒドロシリル化触媒組成物、並びにかかる酸素及び水蒸気(湿分)の欠如下に硬化が進行せず、酸素及び/又は水蒸気(湿分)の存在下に硬化してゲル、エラストマー等の硬化物を与える硬化性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、アルコキシ基を配位子に有するチタン化合物と、1分子あたり少なくとも1つの珪素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を有する有機珪素化合物との反応生成物が、酸素及び水素気欠如下でヒドロシリル化触媒の触媒活性を有効に抑制し得ることを知見した。
【0011】
従って、本発明は、下記のヒドロシリル化反応制御剤、ヒドロシリル化触媒組成物、及び硬化性組成物を提供する。
請求項1:
(1)アルコキシ基を配位子に有するチタン化合物と、(2)1分子あたり少なくとも1つの珪素原子に結合した水素原子を有する有機珪素化合物との反応生成物からなるヒドロシリル化反応制御剤。
請求項2:
(1)成分のアルコキシ基を配位子に有するチタン化合物が、式Ti(OR)4(但し、Rはそれぞれ独立にアルキル基)で示されるテトラアルコキシチタン又はオルトチタン酸アルキルエステルである請求項1記載のヒドロシリル化反応制御剤。
請求項3:
(1)成分のアルコキシ基を配位子に有するチタン化合物が、オルトチタン酸テトラエチル、オルトチタン酸テトラn−プロピル、オルトチタン酸テトライソプロピル、オルトチタン酸テトラブチル及びオルトチタン酸テトラ2−エチルヘキシルから選ばれる少なくとも1種である請求項2記載のヒドロシリル化反応制御剤。
請求項4:
(2)成分の1分子あたり少なくとも1つの珪素原子に結合した水素原子を有する有機珪素化合物が、下記式(i)で表されるオルガノハイドロジェンシラン、及び下記式(ii)で示される単位を分子中に少なくとも1個含有するオルガノハイドロジェン(ポリ)シロキサンから選ばれるものである請求項1〜3のいずれか1項記載のヒドロシリル化反応制御剤。
1b(OR24-a-bSiHa (i)
c1d(OR2eSiO(4-c-d-e)/2 (ii)
(式中、R1は一価炭化水素基、R2はアルキル基であり、aは1,2又は3であり、bは0,1,2又は3であり、a+bは1,2,3又は4である。cは1,2又は3であり、d及びeはそれぞれ0,1又は2であり、c+d+eは1,2又は3であり、R1又はR2の置換基が1より多く存在するときは、これらは同一でも異なってもよい。)
請求項5:
(2)成分の1分子あたり少なくとも1つの珪素原子に結合した水素原子を有する有機珪素化合物が、MH単位(ジオルガノハイドロジェンシロキサン単位)、DH単位(オルガノハイドロジェンシロキサン単位)又はTH単位(ハイドロジェンシルセスキオキサン単位)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである請求項4記載のヒドロシリル化反応制御剤。
請求項6:
(2)成分の1分子あたり少なくとも1つの珪素原子に結合した水素原子を有する有機珪素化合物が、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、1,1,1,3,5,5,5−ヘプタメチルトリシロキサン、1,1,1,3,5,7,7,7−オクタメチルテトラシロキサン及び1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンから選ばれる少なくとも1種である請求項4記載のヒドロシリル化反応制御剤。
請求項7:
白金族金属を含むヒドロシリル化触媒と請求項1〜6のいずれか1項記載のヒドロシリル化反応制御剤とを酸素及び水蒸気(湿分)の欠如下で接触、混合して得られるヒドロシリル化触媒組成物。
請求項8:
1分子あたり少なくとも2個のエチレン性不飽和二重結合又はアセチレン性不飽和基を含有する化合物、オルガノハイドロジェンポリシロキサン架橋剤、白金族金属を含むヒドロシリル化触媒及び請求項1〜6のいずれか1項記載のヒドロシリル化反応制御剤を含有する硬化性組成物。
請求項9:
1分子あたり少なくとも2個のエチレン性不飽和二重結合又はアセチレン性不飽和基を含有する化合物、オルガノハイドロジェンポリシロキサン架橋剤及び請求項7記載のヒドロシリル化触媒組成物を含有する硬化性組成物。
請求項10:
更に、請求項1〜6のいずれか1項記載のヒドロシリル化反応制御剤を含有する請求項9記載の硬化性組成物。
請求項11:
ヒドロシリル化反応制御剤の(2)成分の1分子あたり少なくとも1つの珪素原子に結合した水素原子を有する有機珪素化合物が、オルガノハイドロジェンポリシロキサン架橋剤となることを特徴とする請求項8記載の硬化性組成物。
請求項12:
請求項1〜6のいずれか1項記載のヒドロシリル化反応制御剤を白金族金属含有ヒドロシリル化触媒に対し1〜1,000当量含有する請求項11記載の硬化性組成物。
請求項13:
請求項1〜6のいずれか1項記載のヒドロシリル化反応制御剤を硬化性組成物中に0.0001〜5質量%含有する請求項8〜10のいずれか1項記載の硬化性組成物。
請求項14:
更に脱水剤を含有する請求項8〜13のいずれか1項記載の硬化性組成物。
請求項15:
1分子あたり少なくとも2個のエチレン性不飽和二重結合又はアセチレン性不飽和基を含有する化合物が、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンである請求項8〜14のいずれか1項記載の硬化性組成物。
請求項16:
酸素及び/又は水蒸気(湿分)の存在下で硬化させることを特徴とする請求項8〜15いずれか1項記載の硬化性組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明のヒドロシリル化制御剤は、酸素及び水蒸気(湿分乃至水分)の欠如下でヒドロシリル化触媒の触媒機能を確実に抑制することができ、これを用いたヒドロシリル化反応硬化性組成物は、酸素及び/又は水蒸気下で室温でも容易に硬化することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、アルコキシ基を配位子に有するチタン化合物と、珪素に結合した水素原子(SiH基)を有する有機珪素化合物との反応生成物からなるヒドロシリル化反応制御剤を用いて、酸素及び水蒸気の欠如下において白金族金属含有ヒドロシリル化触媒を不活性化するものである。この場合、この反応制御剤は、(A)1分子あたり少なくとも2つのアルケニル基等のエチレン性不飽和二重結合又はアセチレン性不飽和基を有する少なくとも1つの化合物及び(B)1分子あたり平均少なくとも2つの珪素に結合した水素原子を含むオルガノハイドロジェンポリシロキサン架橋剤を含有する貯蔵安定性の一液型又は多液型硬化性組成物を調製するために用いられる。上記の制御剤を含む組成物の硬化は、これら組成物が酸素あるいは水蒸気(湿分乃至水分)に曝されるまで抑制される。この組成物は、酸素及び/又は水蒸気(湿分乃至水分)の存在下で容易に硬化させることができる。
【0014】
本発明の酸素及び水蒸気(湿分乃至水分)の欠如下にヒドロシリル化触媒を抑制するヒドロシリル化反応制御剤は、(1)アルコキシ基を配位子に有するチタン化合物と(2)1分子あたり少なくとも1つの珪素に結合した水素原子(SiH基)を有する少なくとも1つの有機珪素化合物との反応生成物である。この反応制御剤は、(1)成分中のアルコキシ基と(2)成分中のヒドロシリル基(SiH基)との間の脱水素反応によって得られる反応生成物からなるものであり、該脱水素反応の進行による反応生成物は、(1)成分と(2)成分との混合物の変色により容易に確認することができる。
【0015】
酸素及び水蒸気の欠如下に活性な触媒を抑制する好ましい前記アルコキシ基を配位子に有するチタン化合物は、式Ti(OR)4で示されるテトラアルコキシチタン又はオルトチタン酸アルキルエステルである。
ここで、Rはそれぞれ独立にアルキル基を示し、好ましくは炭素数1〜12、特に2〜8のものである。
【0016】
オルトチタン酸アルキルエステルとして好ましいものは、オルトチタン酸テトラエチル、オルトチタン酸テトラn−プロピル、オルトチタン酸テトライソプロピル、オルトチタン酸テトラブチル及びオルトチタン酸テトラ2−エチルヘキシルである。
【0017】
一方、(2)成分の有機珪素化合物は、1分子あたり1〜3あるいはそれ以上の珪素に結合した水素原子を含むオルガノシラン、ポリシラン及びオルガノポリシロキサンが挙げられる。この場合、有機珪素化合物の珪素原子に結合した水素原子以外の置換基は、1価の炭化水素基、オルガノシリルアルキル基(−R*Si≡)(ここに、R*はアルキレン基を表す)、オルガノシロキシ基(−OSi≡)、アルコキシ基等が挙げられる。
【0018】
(2)成分の有機珪素化合物としては、オルガノハイドロジェンシラン及びオルガノハイドロジェン(ポリ)シロキサンが好ましく、特に下記式(i)で表されるオルガノハイドロジェンシラン、下記式(ii)で示される単位を分子中に少なくとも1個含有するオルガノハイドロジェン(ポリ)シロキサンが好ましい。
1b(OR24-a-bSiHa (i)
c1d(OR2eSiO(4-c-d-e)/2 (ii)
(式中、R1は一価炭化水素基、好ましくは炭素数1〜10、特に1〜8の一価炭化水素基であり、R2はアルキル基、好ましくは炭素数1〜4、特に1〜2のアルキル基であり、aは1,2又は3であり、bは0,1,2又は3であり、a+bは1,2,3又は4である。cは1,2又は3であり、d及びeはそれぞれ0,1又は2であり、c+d+eは1,2又は3であり、R1又はR2の置換基が1より多く存在するときは、これらは同一でも異なってもよい。)
【0019】
なお、R1の一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;又はこれらの炭化水素基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子、塩素原子、ニトリル基等で置換された基、例えば、トリフルオロプロピル基、クロロメチル基、シアノエチル基等が挙げられる。
【0020】
前記有機珪素化合物がオルガノハイドロジェン(ポリ)シロキサンであるときは、珪素に結合した水素原子を含む前記シロキサン単位は、1,2又は3個のシロキサン単位に結合していてもよい。また、オルガノハイドロジェン(ポリ)シロキサンは、下記式(iii)で示されるオルガノハイドロジェンジシロキサンを含む。
(SiR12H)2O (iii)
(式中、R1は上記の通り。)
【0021】
(2)成分の有機珪素化合物としては、これらの中で、メチルジメトキシシラン、トリメトキシシラン及びトリエトキシシラン等のアルコキシシラン類、あるいはMH単位(ジオルガノハイドロジェンシロキサン単位)、DH単位(オルガノハイドロジェンシロキサン単位)又はTH単位(ハイドロジェンシルセスキオキサン単位)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが好ましく、具体的にはトリメトキシシラン、トリエトキシシラン、1,1,1,3,5,5,5−ヘプタメチルトリシロキサン、1,1,1,3,5,7,7,7−オクタメチルテトラシロキサン及び1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン等が例示される。
【0022】
アルコキシ基を配位子に有するチタン化合物は、1分子あたり少なくとも1つの珪素に結合した水素原子を有する有機珪素化合物と酸素及び水蒸気欠如下で反応させる。この反応生成物は前記ヒドロシリル化触媒を抑制する作用を有するが、酸素及び水蒸気存在下で分解し、その抑制作用が消失する。
【0023】
典型的には、前記アルコキシチタン化合物を、酸素及び水蒸気欠如下において有機珪素化合物に加える。有機珪素化合物とアルコキシチタン化合物のモル比はアルコキシチタン化合物のチタンに対する有機珪素化合物中のSiH基のモル比が、1より大きく、好ましくは2以上、より好ましくは4以上である。その上限は特に制限されないが、通常100以下、好ましくは30以下、特に10以下である。
【0024】
反応は、酸素及び水蒸気の欠如下(好ましくはそれぞれ100ppm以下、特に10ppm以下)において、0〜60℃、特に0〜30℃で通常10分以上、好ましくは30分以上の反応時間とすることができる。反応時間の上限には特に制限はないが、工程上の効果等の点から、通常24時間以内、特に12時間以内であればよい。得られた制御剤は、単離され、酸素及び水分の欠如下に貯蔵される。
【0025】
この反応は必要に応じて任意に溶媒を添加して溶液中での反応とすることができるが、この場合、溶媒としては前記アルコキシチタンとSiH基含有有機珪素化合物を溶解し得るものであればいずれの溶媒でも使用することができ、脂肪族系炭化水素、芳香族系炭化水素等の有機溶媒シリコーン系溶媒(ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等)、ハロゲン化炭化水素系溶媒等が好適であり、また溶液中の前記アルコキシチタンとSiH基含有有機珪素化合物の合計の濃度が50質量%以上となるような高濃度溶液での反応が好ましい。
【0026】
上記ヒドロシリル化反応制御剤は、ヒドロシリル化触媒の触媒活性を制御する。即ち、本発明の重要な態様は、ヒドロシリル化反応(付加反応)硬化性組成物に対し、酸素及び水蒸気欠如下にそれらの貯蔵安定性を持っていることである。この特質は、この反応制御剤が、周期律表の白金族金属及びこれら金属の化合物を含む、酸素の欠如下に活性なヒドロシリル化触媒を抑制することに起因する。
【0027】
本発明において、酸素の欠如下に活性な白金触媒としては、アルケニル基又はアルキニル基と珪素に結合した水素原子とのヒドロシリル化反応を触媒し得るとして文献に報告されている白金族金属及びこれらの金属の化合物のいずれでもよい。
有用な酸素の欠如下に活性な触媒としては、白金黒、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール変性物、塩化白金酸とオレフィン、アルデヒド、ビニルシロキサン、アセチレンアルコール類等との錯体、ロジウム等が挙げられる。
触媒として特に好ましいものは、ハロゲン含有白金化合物、例えば塩化白金(II)又は塩化白金酸と末端不飽和の炭化水素、アルケニル置換シラン又はsym−テトラアルキルジビニルジシロキサンとの反応生成物である。ジシロキサン類及び塩化白金酸から誘導される錯体は米国特許第3419593号明細書に記載されている。
【0028】
上述したヒドロシリル化反応制御剤は、白金触媒を含有するヒドロシリル化硬化性組成物に直接添加することによっても効果があるが、予め制御剤と白金族金属を含むヒドロシリル化触媒とを高濃度で接触、混合させたヒドロシリル化触媒組成物を調製し、該触媒組成物の形態でヒドロシリル化硬化性組成物に添加することにより、制御効果がより向上する。
【0029】
この場合、触媒組成物の調製(即ち、上記制御剤と白金族金属含有のヒドロシリル化触媒との予備混合)には、上記制御剤と白金族金属を含むヒドロシリル化触媒とを酸素及び水蒸気の欠如下において、該ヒドロシリル化触媒中の白金族金属に対する上記制御剤中のチタンのモル比で1〜1,000、好ましくは5〜500、より好ましくは10〜300程度の割合で使用することが好ましく、0〜60℃、特に0〜30℃で通常10分以上、好ましくは30分以上の接触、混合時間で接触、混合することが好ましい。接触、混合時間の上限は特に制限されないが、通常24時間以内、特に12時間以内とすることができる。
【0030】
また、本発明は、以下の成分を含む酸素及び水蒸気の欠如下に硬化抑制性を示し、保存性に優れた硬化性組成物を提供する。即ち、
A.1分子あたり少なくとも2つのエチレン性不飽和基又はアセチレン性不飽和基を有する化合物、
B.1分子あたり少なくとも2つの珪素に結合した水素原子を有し、活性なヒドロシリル化触媒の存在下に前記組成物を硬化させるに十分な量の化合物(オルガノハイドロジェンポリシロキサン架橋剤)、
C.白金族金属を含むヒドロシリル化触媒、
D.酸素及び水蒸気の欠如下において白金含有ヒドロシリル化触媒を不活性化させるに十分な量のアルコキシ基を配位子に有するチタン化合物と珪素に結合した水素原子を有する化合物との反応生成物からなる反応制御剤、
及び、
上記成分A,B、あるいは成分A,B,Cに加えて、
E.上記ヒドロシリル化触媒組成物
を含む硬化性組成物を提供する。
【0031】
1分子あたり少なくとも2つのエチレン性不飽和基又はアセチレン性不飽和基を有する化合物は、モノマー、オリゴマー又はポリマーであってもよく、本発明の硬化性組成物から得られる硬化物は、ゲルからエラストマー乃至樹脂にわたる。
【0032】
ここで、「エチレン性不飽和基」は、アルケニル基、例えばビニル、アリル及び1,3−ブタジエニル等が例示され、酸素及び/又は水蒸気暴露後の硬化性組成物の硬化を妨げない範囲において、酸素及び窒素のようなヘテロ原子を含んでもよい。例えば、アクリロキシ、−O(O)CCH=CH2及びアクリルアミド、−NH(O)CCH=CH2等が例示される。
【0033】
また、「アセチレン性不飽和基」は、エチニル、−C≡C−のような炭化水素基、及びプロパルギル、−O(O)CC≡CHのような置換炭化水素基が例示される。
【0034】
成分Aに存在するエチレン性不飽和基又はアセチレン性不飽和基は、好ましくは炭素原子数2〜20のアルケニル基である。
【0035】
成分Aとしては、室温で液体又は固体でもよく、オルガノポリシロキサン、ブタジエン、多官能性アルコールから誘導されたジアクリレートのようなモノマー;ポリエチレン、ポリプロピレン、及びスチレンと他のエチレン性不飽和化合物、例えばアクリロニトリル及びブタジエンとのコポリマーのようなポリオレフィン、エチレンプロピレンジエンターポリマー;並びにアクリル酸、メタクリル酸又はマレイン酸のエステルのような官能性置換有機化合物から誘導されたアクリル樹脂等のポリマー等が例示される。
これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
これらの中で、成分Aとしては、アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンが好ましい。アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンは、回転粘度計による25℃での粘度0.1〜1,000Pa・sの液体であってもウィリアムス可塑度(Williams plasticity values)で特徴付けられるコンシステンシーの高いガム状であってもよい。
【0037】
成分Aがオルガノポリシロキサンであるときは、前記アルケニル基は好ましくはビニル基、アリル基又は5−ヘキセニル基であり、特にビニル基が好ましい。
【0038】
成分Aとして用いられるオルガノポリシロキサンの珪素原子に結合したアルケニル基以外の有機基及び本発明組成物の硬化剤として用いられるオルガノハイドロジェンシロキサンの珪素原子に結合した水素原子以外の有機基は、エチレン性又はアセチレン性不飽和のない1価の炭化水素基である。これらの炭化水素基はハロゲン原子、例えば塩素、臭素及びフッ素等で置換されていても非置換であってもよい。本発明の硬化性組成物の硬化を阻害しない範囲でエポキサイド基のような硬化物の接着性を付与するような置換基を有していてもよい。
【0039】
好ましい炭化水素基は、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のハロアルキル基、例えばクロロメチル基及び3,3,3−トリフルオロプロピル基、並びに芳香族基、例えばフェニル基及びトリル基であり、特にメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、フェニル基である。
【0040】
最も好ましい硬化性組成物は、成分Aがアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンである硬化性オルガノシロキサン組成物であるが、この場合、成分Aのアルケニル置換オルガノポリシロキサン及びオルガノハイドロジェンポリシロキサンに存在する炭化水素基の少なくとも50モル%、特に80モル%以上はメチル基であり、残りがあるとすればそれはフェニル基及び/又は3,3,3−トリフルオロプロピル基等である。
【0041】
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンのアルケニル基は、分子鎖末端でも側鎖でもその両方に有していてもよいが、1分子あたり少なくとも2個有している必要がある。
例えば、末端にのみビニル基を含む好ましいアルケニル基含有オルガノポリシロキサンの代表的な具体例としては、ジメチルビニルシロキシ末端ジメチルポリシロキサン、ジメチルビニルシロキシ末端メチル−3,3,3−トリフルオロプロピルポリシロキサン、ジメチルビニルシロキシ末端ジメチルシロキサン/3,3,3−トリフルオロプロピルメチルシロキサンコポリマー及びメチルフェニルシロキサンコポリマー等が例示される。
なお、ジメチルシロキサン、メチルビニルシロキサン、メチルシルセスキオキサン及びトリメチルシロキシ単位も、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン成分として含有していてもよい。
【0042】
成分Aとして、オルガノポリシロキサンの1種を単独で用いてもよく、分子量、珪素原子に結合したアルケニル基の数や種類、珪素原子に結合した他の有機基の種類等が相違する2種以上を併用してもよい。
【0043】
成分Aを含有する硬化性組成物は、成分Bの1分子あたり少なくとも2個の珪素原子に結合した水素原子を有する化合物(SiH基含有化合物)との反応により硬化される。SiH基含有化合物は、1分子あたり少なくとも2個の珪素に結合した水素原子を含む有機オリゴマー、有機ポリマーもしくはシラン類又はオルガノハイドロジェンシロキサン等である。これら化合物の珪素に結合した有機基は、非置換であるか、ハロゲン原子のような置換基を含む一価の炭化水素基である。これらのSiH基含有化合物は、当技術分野で周知であり、エチレン性及びアセチレン性不飽和結合がないものである。
【0044】
本発明の好ましい硬化性組成物において、1分子あたり少なくとも2個のアルケニル基を含む1又はそれ以上のオルガノポリシロキサンは、1分子あたり平均少なくとも2個の珪素に結合した水素原子を有する比較的低分子量で、液体の有機ポリマー又はオルガノハイドロジェンシロキサン(成分B)と反応する。硬化物を得るためには、各組成物の1分子あたりのアルケニル基及び珪素に結合した水素原子の平均数の合計は4より大きい。
オルガノハイドロジェンシロキサンは、1分子あたり最低4個から平均20個又はそれ以上の珪素原子を含み、好ましくは25℃で10Pa・s以下の粘度を有する。これらのオルガノハイドロジェンシロキサンは、式HSiO1.5,R1HSiO及び/又はR12HSiO0.5で示される反復単位を含む。この成分の分子は、1個又はそれ以上の、珪素に結合した水素原子を含まないモノオルガノシロキサン、ジオルガノシロキサン、トリオルガノシロキシ及びSiO4/2単位も含んでもよい。なお、各R1は上に定義したように、一価の炭化水素基であるが、脂肪族不飽和結合を有さないことが好ましい。
【0045】
また、成分Bは、式R1HSiOで示されるオルガノハイドロジェンシロキシ基を少なくとも4個を含む環状化合物、又は式HR12SiO(HR1SiO)aSiR12H(ここに、aは少なくとも1である)で示される化合物であってもよい。
1は上述した通りであるが、最も好ましくはR1はメチル基である。成分Bは、好ましくは1分子あたり平均5〜50個の反復単位を有し、そのうち30〜100モル%はメチルハイドロジェンシロキサン単位である鎖状トリメチルシロキシ末端メチルハイドロジェンポリシロキサン又はジメチルシロキサン/メチルハイドロジェンシロキサンコポリマーである。
【0046】
炭化水素基及びこの組成物の硬化に要求される反応性基に加えて、成分A及びBは、本発明組成物を用いて得られる硬化物に接着性又は他の有用な性質を提供するアルコキシ基又はエポキシ基のような他の置換基を含んでいてもよい。
成分A及びBの分子量は、珪素原子に結合した水素原子及びアルケニル基の数と分布と共に、硬化物中の架橋の位置を決定し、ガラス状樹脂、エラストマー又はゲルとなる。
単位体積あたりの架橋の濃度即ち架橋密度によって、硬化したエラストマーのある種の物性、特に硬度、引っ張り強さ及び伸びを決定する。
そのため、目的とする硬化物を得るために、当業者が通常行っているように成分A,Bの構造や配合比率の選択をすればよい。
【0047】
成分B中の珪素原子に結合した水素原子対成分A中のアルケニル基のモル比は、珪素原子に結合した水素原子対アルケニル基のモル比0.3〜5:1、特に0.5〜1.5:1とすることが好ましい。
【0048】
成分Cである白金族金属を含むヒドロシリル化触媒の配合量は、硬化有効量であり、通常、白金族金属換算で成分Aに対し0.1〜1,000ppm、特に1〜500ppmである。
【0049】
また、成分Dであるヒドロシリル化反応制御剤の配合量は、酸素及び水蒸気(湿分)の欠如下にヒドロシリル化触媒の触媒作用を制御するための有効量であり、ヒドロシリル化触媒中の白金族金属に対する上記制御剤中のチタンのモル比(当量比)が1〜1,000当量、好ましくは5〜500当量、特に10〜300当量であり、また硬化性組成物全体の0.0001〜5質量%、特に0.01〜1質量%であることが好ましい。
【0050】
また、本発明の硬化性組成物中には実質的に水が含まれていてはならない。この場合、脱水の方法としては、凍結乾燥を行ってもよいが、脱水剤を添加してもよい。脱水剤としては、本発明の硬化性組成物の特性に影響を与えないもの、即ち中性あるいは弱塩基性のものが好ましく、例えば、ケテンシリルアセタール、α−シリルエステル、シラザン、無水硫酸ナトリウム、モレキュラーシーブス等が好ましい。特に、2−トリメトキシシリルプロピオン酸エステル、2−メチルジアルコキシシリルプロピオン酸エステル等が好ましい。
脱水剤の配合量は、成分A100質量部に対して0.01〜10質量部、特に0.1〜5質量部である。
【0051】
上記した反応制御剤は、予め(1)アルコキシ基を配位子に有するチタン化合物と(2)1分子あたり少なくとも1つの珪素原子に結合した水素原子を有する有機珪素化合物とを反応させたものであるが、かかる制御剤(即ち、アルコキシ基を配位子に有するチタン化合物と珪素に結合した水素原子を有する化合物との反応生成物からなる反応制御剤)は、ヒドロシリル化硬化性組成物を製造する途中で、各成分の配合時に該組成物中で調製することもできる。即ち、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン等の少なくとも2個のエチレン性不飽和二重結合又はアセチレン性不飽和基を含有する化合物とオルガノハイドロジェンポリシロキサン架橋剤とを含む混合物中に、酸素及び水蒸気の欠如下で前記制御剤の(1)成分であるアルコキシ基を配位子に有するチタン化合物を添加、混合することによって、該混合物中に架橋剤として配合されているオルガノハイドロジェンポリシロキサンの一部とチタン化合物のアルコキシ基とが組成物中で脱水素反応した反応生成物(制御剤)が生成する。この場合も、該組成物の変色によって制御剤の生成を容易に確認することができる。この様に、ヒドロシリル化硬化性組成物の製造途中で、組成物中で制御剤を生成させる場合には、酸素及び水蒸気の欠如下で前記制御剤の(1)成分であるアルコキシ基を配位子に有するチタン化合物を添加、混合すること及び該制御剤の生成が終了した後に、該組成物に白金触媒を添加する必要がある。
また、成分Cと成分Dは事前に酸素及び水蒸気の欠如下で混合し、ヒドロシリル化触媒組成物としておいてもよい。
【0052】
本発明の硬化性組成物は、成分A、成分B、成分C及び成分Dを酸素及び水蒸気(湿分)の実質的な欠如下で混合し、貯蔵することにより優れた保存安定性を示す。また、酸素及び/又は水蒸気に曝すことにより、室温で速やかに硬化する。この場合、酸素及び水蒸気(湿分)の実質的な欠如下は、本発明の制御剤の効果が奏する範囲であれば特に制限されないが、酸素濃度及び水蒸気(湿分)濃度が100ppm以下、特に10ppm以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例で、粘度は回転粘度計を用いて25℃で測定した値である。
また、下記の例において、シリコーンオイルの平均組成を示す記号は以下の通りの単位を示す。
M :(CH33SiO1/2
H :(CH3)HSiO2/2
D :(CH32SiO2/2
vi:(CH2=CH)(CH32SiO1/2
φ:(CH3)(C65)SiO2/2
T :(CH3)SiO3/2
H :(CH32HSiO1/2
更に、以下の例において、使用した化合物は、いずれも脱水した後に用いた。作業はアルゴングローブボックス内にて酸素濃度10ppm以下の酸素及び水蒸気の欠如下において行った。
【0054】
[参考例]白金触媒の調製
本実施例に使用した白金触媒は、六塩化白金酸とsym−テトラメチルジビニルジシロキサンとの反応生成物であり、この反応生成物を白金含量が1.0質量%となるように粘度0.6Pa・sの液体ジメチルビニルシロキシ末端ジメチルポリシロキサンで希釈したもの(触媒A)あるいは粘度1.0Pa・sの液体トリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサンで希釈したもの(触媒B)である。
【0055】
[実施例1、比較例1]
以下の実施例では、アルコキシ基を配位子に有するチタン化合物及び珪素原子に結合した水素原子を有する化合物からなり、酸素及び水蒸気の欠如下において白金含有ヒドロシリル化触媒を不活性化させるヒドロシリル化反応制御剤及びヒドロシリル化触媒組成物について記載する。
オルトチタン酸テトライソプロピル1gに1,1,1,3,5,5,5−ヘプタメチルトリシロキサン3.13gを添加し、15時間撹拌した。これにより、脱水素が起こり、無色から黒色へと変化したものを制御剤Aとする。また、オルトチタン酸テトライソプロピル1gに1,1,1,3,5,5,5−ヘプタメチルトリシロキサン2.35gを添加し、15時間撹拌し、同様に黒色に変化したものを制御剤Bとする。
【0056】
前記制御剤A,Bはヒドロシリル化硬化性組成物に直接添加することによっても効果があるが、予め白金触媒と高濃度で接触、混合させた触媒組成物として添加することにより、制御効果がより向上する。上記触媒B10gに対し、制御剤A20.65gを添加し、15時間混合したものを触媒C(ヒドロシリル化触媒組成物)とする。
【0057】
粘度1.0Pa・sであるジメチルビニルシロキシ末端ジメチルポリシロキサン100g、平均組成M2H33.158のシリコーンオイル4g、及び2−メチルジメトキシシリルプロピオン酸2−エチルヘキシルエステル2gの混合物に、0.61gの触媒Cを加えた。
【0058】
上で得られた組成物(実施例1)はアルゴン下で少なくとも1ヶ月液状を維持した。この場合、空気に曝した比較サンプルは10分で表面が硬化した。
比較のために、アルコキシ基を配位子に有するチタン化合物を加えない条件、即ち六塩化白金酸とsym−テトラメチルジビニルジシロキサンとの反応生成物における白金含量が0.5質量%のトルエン溶液10gに、トリエトキシシラン2.90gを滴下した触媒をDとし、粘度1.0Pa・sであるジメチルビニルシロキシ末端ジメチルポリシロキサン100g、平均組成M2H33.158のシリコーンオイル4gに、0.77gの触媒Dを加えた。得られた組成物(比較例1)は、アルゴン下30分で硬化した。
【0059】
[比較例2]
粘度1.0Pa・sであるジメチルビニルシロキシ末端ジメチルポリシロキサン100g、平均組成M2H33.158のシリコーンオイル4g、一般に加熱硬化に使用されている制御剤であるエチニルシクロヘキサノール0.01gの混合物に0.20gの触媒Aを加えた。得られた組成物は空気中に曝した場合、アルゴン下に保存した場合ともに2時間で硬化した。
【0060】
[実施例2]
実施例2は、酸素及び水蒸気欠如下において、ヒドロシリル化の反応性が高いジメチルビニルシロキシ末端ジメチルポリシロキサンとジメチルハイドロジェンシロキシ末端ジメチルポリシロキサンの反応を抑制した組成物の調製法である。
平均組成MVi0.820.7196.5φ21.5のシリコーンオイル100g、MH218.1のシリコーンオイル7.0g及び2−メチルジメトキシシリルプロピオン酸2−エチルヘキシルエステル2gの混合物に、制御剤B2.0g、触媒C0.31gを順次加えて混合した。
上で得られた組成物は少なくとも1ヶ月液状を維持した。この場合、空気に曝した比較サンプルは2時間で表面がゲル化した。
【0061】
[実施例3]
次の実施例は、制御剤を別途調製する必要のない組成物の調製法である。
粘度1.0Pa・sのジメチルビニルシロキシ末端ジメチルポリシロキサン100g、平均組成M2H33.158のシリコーンオイル4g及びオルトチタン酸テトライソプロピル1.0gを混合の後、15時間静置した。混合物が無色透明から黒色に変化したことにより、混合物中において上記SiH基含有シリコーンオイルとオルトチタン酸テトライソプロピルとの脱水素反応生成物(制御剤)の生成を確認した後、触媒A0.2gを添加し、混合した。この組成物は空気に曝すことにより10分で表面が硬化したが、アルゴン下での保存性は6ヶ月以上であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)アルコキシ基を配位子に有するチタン化合物と、(2)1分子あたり少なくとも1つの珪素原子に結合した水素原子を有する有機珪素化合物との反応生成物からなるヒドロシリル化反応制御剤。
【請求項2】
(1)成分のアルコキシ基を配位子に有するチタン化合物が、式Ti(OR)4(但し、Rはそれぞれ独立にアルキル基)で示されるテトラアルコキシチタン又はオルトチタン酸アルキルエステルである請求項1記載のヒドロシリル化反応制御剤。
【請求項3】
(1)成分のアルコキシ基を配位子に有するチタン化合物が、オルトチタン酸テトラエチル、オルトチタン酸テトラn−プロピル、オルトチタン酸テトライソプロピル、オルトチタン酸テトラブチル及びオルトチタン酸テトラ2−エチルヘキシルから選ばれる少なくとも一種である請求項2記載のヒドロシリル化反応制御剤。
【請求項4】
(2)成分の1分子あたり少なくとも1つの珪素原子に結合した水素原子を有する有機珪素化合物が、下記式(i)で表されるオルガノハイドロジェンシラン、及び下記式(ii)で示される単位を分子中に少なくとも1個含有するオルガノハイドロジェン(ポリ)シロキサンから選ばれるものである請求項1〜3のいずれか1項記載のヒドロシリル化反応制御剤。
1b(OR24-a-bSiHa (i)
c1d(OR2eSiO(4-c-d-e)/2 (ii)
(式中、R1は一価炭化水素基、R2はアルキル基であり、aは1,2又は3であり、bは0,1,2又は3であり、a+bは1,2,3又は4である。cは1,2又は3であり、d及びeはそれぞれ0,1又は2であり、c+d+eは1,2又は3であり、R1又はR2の置換基が1より多く存在するときは、これらは同一でも異なってもよい。)
【請求項5】
(2)成分の1分子あたり少なくとも1つの珪素原子に結合した水素原子を有する有機珪素化合物が、MH単位(ジオルガノハイドロジェンシロキサン単位)、DH単位(オルガノハイドロジェンシロキサン単位)又はTH単位(ハイドロジェンシルセスキオキサン単位)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである請求項4記載のヒドロシリル化反応制御剤。
【請求項6】
(2)成分の1分子あたり少なくとも1つの珪素原子に結合した水素原子を有する有機珪素化合物が、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、1,1,1,3,5,5,5−ヘプタメチルトリシロキサン、1,1,1,3,5,7,7,7−オクタメチルテトラシロキサン及び1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンから選ばれる少なくとも1種である請求項4記載のヒドロシリル化反応制御剤。
【請求項7】
白金族金属を含むヒドロシリル化触媒と請求項1〜6のいずれか1項記載のヒドロシリル化反応制御剤とを酸素及び水蒸気(湿分)の欠如下で接触、混合して得られるヒドロシリル化触媒組成物。
【請求項8】
1分子あたり少なくとも2個のエチレン性不飽和二重結合又はアセチレン性不飽和基を含有する化合物、オルガノハイドロジェンポリシロキサン架橋剤、白金族金属を含むヒドロシリル化触媒及び請求項1〜6のいずれか1項記載のヒドロシリル化反応制御剤を含有する硬化性組成物。
【請求項9】
1分子あたり少なくとも2個のエチレン性不飽和二重結合又はアセチレン性不飽和基を含有する化合物、オルガノハイドロジェンポリシロキサン架橋剤及び請求項7記載のヒドロシリル化触媒組成物を含有する硬化性組成物。
【請求項10】
更に、請求項1〜6のいずれか1項記載のヒドロシリル化反応制御剤を含有する請求項9記載の硬化性組成物。
【請求項11】
ヒドロシリル化反応制御剤の(2)成分の1分子あたり少なくとも1つの珪素原子に結合した水素原子を有する有機珪素化合物が、オルガノハイドロジェンポリシロキサン架橋剤となることを特徴とする請求項8記載の硬化性組成物。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項記載のヒドロシリル化反応制御剤を白金族金属含有ヒドロシリル化触媒に対し1〜1,000当量含有する請求項11記載の硬化性組成物。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれか1項記載のヒドロシリル化反応制御剤を硬化性組成物中に0.0001〜5質量%含有する請求項8〜10のいずれか1項記載の硬化性組成物。
【請求項14】
更に脱水剤を含有する請求項8〜13のいずれか1項記載の硬化性組成物。
【請求項15】
1分子あたり少なくとも2個のエチレン性不飽和二重結合又はアセチレン性不飽和基を含有する化合物が、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンである請求項8〜14のいずれか1項記載の硬化性組成物。
【請求項16】
酸素及び/又は水蒸気(湿分)の存在下で硬化させることを特徴とする請求項8〜15いずれか1項記載の硬化性組成物。

【公開番号】特開2008−255343(P2008−255343A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58998(P2008−58998)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】