説明

ヒドロシリル化架橋

【課題】ヒドロシリル化架橋による熱可塑性エラストマーの改良された製造方法を提供する。
【解決手段】非常に少量の白金含有ヒドロシリル化触媒を特定のジエン含有ゴムと組み合わせて使用する。また、本発明の1態様においては、ルイス塩基の化学的挙動を有する物質を実質的に含まないプロセス油の存在下にヒドロシリル化を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物のエラストマー成分のヒドロシリル化架橋(hydrosilylationcrosslinking)を使用して製造された熱可塑性エラストマー組成物に関する。熱可塑性エラストマーは、一般に、ポリマー又はポリマーのブレンドであって、従来的熱可塑性材料と同様にして加工及びリサイクルが可能であるが、使用温度において加硫したゴムに類似の特性及び機能的性能を有するものとして定義される。可塑性及びエラストマー性のゴムのブレンド又はアロイは、高性能熱可塑性エラストマーの製造において次第に重要になってきており、特に、様々な用途において熱硬化ゴムを置換するためにそうである。高度に加硫したゴム状ポリマーが熱可塑性のマトリックス(matrix)中に均質に分散している高性能熱可塑性エラストマーは一般に熱可塑性加硫物として知られている。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性と弾性特性の両方の組み合わせを有するポリマーブレンドは一般に熱可塑性樹脂をエラストマー組成物と、エラストマー成分が熱可塑性の連続相内部に離散した粒状相として均質的及び均一的に分散されるように、組み合わせることによって得られる。加硫したゴム成分についての初期の研究は米国特許第3,037,954号に見られ、この特許には、ゴムの静的加硫、並びに加硫可能なエラストマーが溶融した樹脂状の熱可塑性ポリマー中に分散されそしてブレンドを連続的に混合し剪断しながらエラストマーが硬化される動的加硫(dynamic vulcanization)の技術が開示されている。得られる組成物は、熱可塑性ポリマーの未硬化のマトリックス中に硬化したエラストマーのミクロゲルが分散したものである。
【0003】
米国再発行特許第32,028号には、オレフィン熱可塑性樹脂とオレフィンコポリマーを含むポリマーブレンドが記載されており、ここではゴムは部分的に硬化した状態まで動的に加硫される。得られる組成物は再加工可能である。米国特許第4,130,534号及び4,130,535号には、さらに、ブチルゴムとポリオレフィン樹脂、及びオレフィンゴムとポリオレフィン樹脂をそれぞれ含む熱可塑性加硫物が開示されている。これらの組成物は動的加硫によって製造され、ゴム成分は従来的溶媒に本質的に不溶性になる程度まで硬化される。ゴムの加硫のための架橋又は硬化剤の範囲は従来技術に記載されており、ペルオキシド、硫黄、フェノール樹脂、輻射線などが含まれる。
【0004】
米国特許第4,803,244号には、一般的に、ヒドロシリル化により熱可塑性エラストマーのゴム成分の架橋剤として触媒と組み合わせて多官能有機珪素化合物を使用することが開示されている。ヒドロシリル化には、しばしば遷移金属触媒による、水素化珪素の多重結合を横切っての付加を含む。この特許には、(可塑性相に対する補正後)34%までのゲル含有率を有する熱可塑性エラストマーを製造するためのポリプロピレンとのブレンド中のEPDMゴムのロジウム触媒によるヒドロシリル化が記載されている。加硫のこの程度は高濃度の触媒を使用した場合にのみ達成された。
【0005】
熱可塑性エラストマー組成物中のゴムのヒドロシリル化架橋のさらなる改良が欧州特許公開公報第651,009号に開示されている。同じ分子中にゴムに対して親和性を有する部分と熱可塑性樹脂に対して親和性を有する部分を含む相溶化剤(compatibilizing agent)を組成物に配合し、凝集を防ぐためにゴムと樹脂の間の結合を改善すると記載されている。
【0006】
【特許文献1】米国特許第3,037,954号
【特許文献2】米国再発行特許第32,028号
【特許文献3】米国特許第4,130,534号
【特許文献4】米国特許第4,130,535号
【特許文献5】米国特許第4,803,244号
【特許文献5】欧州特許公開公報第651,009号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ヒドロシリル化架橋による熱可塑性エラストマーの製造の改善された方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、熱可塑性エラストマー中のゴムのヒドロシリル化架橋方法が、立体障害のない炭素−炭素二重結合を主に有するジエン含有エラストマーと組み合わせて白金含有触媒を使用することによって改善できるという発見に基づくものである。この組み合わせは十分に加硫された状態までのエラストマーの速やかな架橋をもたらすが、硬化を達成するために予想されなかったほど低濃度の触媒しか必要としない。本発明においては、触媒濃度が極めて低い水準なので、優れた機械的特性を有し、気泡の形成をともなわず、そして非常に良好な着色適性を有する組成物を製造するために相溶化剤を必要としない。驚くべきことに、より低い触媒濃度は、非常に改善された熱老化特性、紫外線による劣化への抵抗、及び非吸湿性を有する組成物も製造する。
【0009】
本発明のもう1つの態様においては、ヒドロシリル化剤、白金含有ヒドロシリル化触媒、及びエキステンダー油又はプロセス油の存在下の熱可塑性樹脂と不飽和ゴムとのブレンドの動的加硫が、ルイス塩基の化学的挙動を有する物質を実質的に含まない油を使用することによって予想されなかった程改善される。ルイス塩基挙動は一般的に電子対の供与による結合の形成として定義される。本発明のこの態様は、ゴムの硬化を達成するためにさらに低い触媒濃度しか必要とせず、そして得られた熱可塑性エラストマーは優れた引っ張り特性を有し、望ましくない色を有していない。良好な熱老化、紫外線安定性、及び非吸湿性も得られる。
【0010】
本発明の別の態様においては、熱可塑性エラストマー中の残留水素化珪素官能基と反応できる添加剤をプロセス中に配合する。これによって改善された長期間熱老化特性をさらに有する組成物が得られる。
【0011】
改良された方法によって製造されたこの組成物は、様々な用途、特に、成型又は押出しが含まれ熱可塑性とエラストマー特性の組み合わせが利点を与える用途において、熱硬化ゴム化合物の代替物としての用途を有する。典型的な用途には、自動車のアンダーフード(underhood)部品、エンジニアリング及び構造材料、機械的ゴム製品、ホース、チューブ、及びガスケットのような工業用部品、電気部品用途、及び家庭用品が含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
熱可塑性エラストマー組成物は、一般に、熱可塑性樹脂とゴムをブレンドし、その後熱可塑性成分を溶融させ、そしてブレンドが均一になるまで溶融物を混合することによって製造できる。熱可塑性マトリックス中の加硫したゴムの組成物が望ましい場合、架橋剤(硬化剤又は加硫剤とも呼ばれる)をブレンドに添加し、架橋が混合中に起こる。後者のプロセスは動的加硫として説明される。
【0013】
広範囲の熱可塑性樹脂及びゴム及び/又はそれらの混合物が熱可塑性エラストマーの製造において使用されてきたが、それらには、ポリプロピレン、HDPE、LDPE、VLDPE、LLDPE、環式オレフィンホモポリマー又はコポリマー並びにオレフィンブロックコポリマー、ポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、及びエチレンプロピレンコポリマー(EP)熱可塑性プラスチック、及び、エラストマーとして、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、及び天然ゴムが含まれる。エラストマー成分を架橋する場合、硫黄、ペルオキシド、フェノール性及びイオン性化合物が使用されることが多い。
【0014】
ヒドロシリル化剤
ヒドロシリル化も架橋方法として開示されている。この方法においては、分子中に少なくとも2つのSiH基を有する水素化珪素を、熱可塑性樹脂とヒドロシリル化触媒の存在下に、熱可塑性エラストマーの不飽和(即ち、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含む)ゴム成分の炭素−炭素多重結合と反応させる。本発明の方法において有用な水素化珪素化合物には、メチル水素ポリシロキサン、メチル水素ジメチル−シロキサンコポリマー、アルキルメチルポリシロキサン、ビス(ジメチルシリル)アルカン、及びビス(ジメチルシリル)ベンゼンが含まれる。
【0015】
好ましい水素化珪素化合物は以下の式によって表すことができる。
【0016】
【化1】

【0017】
式中、各々のRは、独立して、1乃至20個の炭素原子を有するアルキル、4乃至12個の炭素原子を有するシクロアルキル、及びアリールから成る群から選択される。式(1)中においては、各々のRが1乃6個の炭素原子を有するアルキルから成る群から独立に選択されるのが好ましい。Rがメチルであるのがさらに好ましい。R′は、水素原子、1乃至約24個の炭素原子を有するアルキル又はアルコキシ基を表す。R″はR又は水素原子を表す。Dは以下の基を表す。
【0018】
【化2】

【0019】
D′は以下の基を表す。
【化3】

【0020】
Tは以下の基を表す。
【化4】

【0021】
mは1乃至50の範囲内の値を有する整数であり、nは1乃至50の範囲内の値を有する整数であり、そしてpは0乃至6の範囲内の値を有する整数である。
【0022】
特に好ましいポリオルガノシロキサンは、水素化珪素官能基の珪素原子がヘテロ原子/孤立電子対を有する原子によって結合されているものである。好ましいポリオルガノシロキサンは、反応媒体への溶解を可能にする適当な官能基で置換されていてもよい。この官能化の1つのタイプが米国特許第4,046,930号に記載されており、この特許はポリオルガノシロキサンのアルキル化を教示している。アルキル化の重量%は、立体的な制約により適切な反応速度を許さない水準を越えてはならない。
【0023】
本発明の方法において有用な水素化珪素化合物の量は、ゴム中の炭素−炭素二重結合当たり約0.1乃至約10.0モル当量のSiHの範囲内でよく、好ましくは熱可塑性エラストマーのゴム成分中の炭素−炭素二重結合当たり約0.5乃至約5.0モル当量のSiHの範囲内である。
【0024】
熱可塑性樹脂
本発明によって製造される組成物中において有用な熱可塑性樹脂には、結晶性ポリオレフィンホモポリマー及びコポリマーが含まれる。それらは、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテンなどのような2乃至20個の炭素原子を有するモノオレフィンモノマーから製造されるのが望ましく、また線状及び環式のオレフィンとプロピレンから誘導されたコポリマーも好ましい。本明細書において使用される「ポリプロピレン」という用語はプロピレンのホモポリマー並びにポリプロピレンの反応器コポリマーを包含し、前記コポリマーは約1乃至約20重量%のエチレン又は4乃至20個の炭素原子を有するα−オレフィンコモノマー、及びそれら混合物を含むことができる。ポリプロピレンは、結晶性、アイソタクチック又はシンジオタクチックポリプロピレンでよい。市販のポリオレフィンを本発明の実施において使用することができる。ゴム、水素化珪素、及びヒドロシリル化触媒に対して実質的に不活性なその他の熱可塑性樹脂も適している。熱可塑性樹脂のブレンドも使用できる。
【0025】
有用な組成物を提供することが判明した熱可塑性樹脂の量は、一般に、ゴムと樹脂の重量に基づいて、約5乃至約90重量%である。熱可塑性樹脂含有率は、全ポリマーの約20乃至約80重量%の範囲内であるのが好ましい。
【0026】
ゴム
本発明による熱可塑性エラストマーを製造するのに有用な不飽和ゴムには、2種以上のα−モノオレフィンの非極性、ゴム状コポリマー(好ましくは少なくとも1種のポリエン、通常はジエン、と共重合されたもの)を含むモノオレフィンコポリマーゴムが含まれる。しかしながら、EPDMゴムのような不飽和モノオレフィンはより適している。EPDMはエチレン、プロピレン、及び1種以上の非共役ジエンのポリマーであり、モノマー成分はとりわけチーグラー−ナッタ触媒又はメタロセン触媒反応を使用して重合することができる。適する非共役ジエンには、5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)、1,4-ヘキサジエン(HD)、5-メチリデン-2-ノルボルネン(MNB)、1,6-オクタジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン、1,3-シクロペンタジエン、1,4-シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン(DCPD)、5-ビニル-2-ノルボルネン(VNB)など、又はそれらの組み合わせが含まれる。
【0027】
本発明の1つの実施態様においては、ジエンモノマーが主に妨害されていない炭素−炭素多重結合(即ち、末端又は側鎖の二重結合のような立体的に妨害されていない結合)を有する構造を有するゴムは、本発明のヒドロシリル化硬化プロセスにおいて大幅に改善された硬化速度を提供する。この実施態様に含まれるのは、結合が通常妨害されていないか又は立体的に妨害されていない二重結合に容易に異性化されて、これが直ちにヒドロシリル化されるような構造であり、例えば、1,4-ヘキサジエン又はENBである。十分に硬化したゴム成分が望ましい場合、この改善は特に重要である。ジエン成分が5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、1,4-ヘキサジエン、及び5-ビニル-2-ノルボルネンから成る群から選択されるゴムの使用が好ましい。5-ビニル-2-ノルボルネンはそのようなゴムのジエン成分として特に好ましい。
【0028】
ブチルゴムも本発明の組成物において有用である。本明細書中においては、「ブチルゴム」という用語は、イソオレフィンと共役モノオレフィンのコポリマー、イソオレフィン、共役モノオレフィン、及びジビニル芳香族モノマーのターポリマー、及びそのようなコポリマーとターポリマーのハロゲン化誘導体を包含する。有用なブチルゴムコポリマーは主要割合のイソオレフィンと小割合(通常は30重量%未満)の共役マルチオレフィン(multiolefin)を含む。好ましいコポリマーは、約85〜99.5重量%のC4-7イソオレフィン(例えば、イソブチレン)と約15〜0.5重量%の4〜14個の炭素原子のマルチオレフィン(例えば、イソプレン、ブタジエン、ジメチルブタジエン、4-メチル-1,4-ペンタジエン、及びピペリレン)を含む。本発明において有用な市販のブチルゴムは、イソブチレンと少量のイソプレンのコポリマーである。その他のブチルコポリマー及びブチルターポリマーゴムは米国特許第4,916,180号中に記載されている。イソブチレン/ジビニルベンゼンはヒドロシリル化架橋に適するエラストマーとして特に好ましく、クロロブチル及びブロモブチルのようなブチルゴムのハロゲン化誘導体も同様である。
【0029】
本発明においてさらに別の適するゴムは天然ゴムである。天然ゴムの主要な構成成分は線状ポリマーのcis-1,4-ポリイソプレンである。天然ゴムは通常スモークド・シート又はクレープの形態で市販されている。合成ポリイソプレンも使用でき、特に好ましい合成ポリイソプレンエラストマーはポリマー主鎖に対して側鎖のビニル基を含むものであり、即ち、1,2-エンチェインメント(enchainment)である。
【0030】
ポリブタジエンもヒドロシリル化硬化用の適するエラストマーであり、ビニル官能基を含むポリブタジエンが最も好ましい。
【0031】
単独のオレフィンゴムよりもむしろ、上述のゴムのブレンドも使用できる。
【0032】
本発明の組成物の製造において、ゴムの量は、一般に、ゴムと熱可塑性樹脂の重量に基づいて、約95乃至約10重量%の範囲内である。ゴム含有率は、ポリマー全体の約80乃至約20重量%の範囲内であるが好ましい。
【0033】
ヒドロシリル化触媒
従来は、ゴムの炭素−炭素結合とのヒドロシリル化反応を促進することができる全ての触媒又は現場で触媒を形成することができる触媒先駆体を使用できると理解されてきた。そのような触媒には、パラジウム、ロジウム、白金などのような第VIII族の遷移金属が含まれ、これらの金属の錯体も含まれた。米国特許第4,803,244号及び欧州特許第651,009号には、クロロ白金酸が有用な触媒であると開示されており、これらの特許にはさらにこの触媒がゴムの重量に基づいてそれぞれ5乃至10,000ppm(parts per million)と100乃至200,000ppmの濃度で使用されなければならないことが開示されている。
【0034】
本発明の方法においては、かなり低い濃度の白金含有触媒を使用することができ、同時に反応速度と架橋効率の改善が得られる。白金金属として表して、約0.01乃至約20重量ppmの範囲内の触媒の濃度が、熱可塑性樹脂とゴムのブレンドを動的に加硫するプロセスにおいてゴムを速やかにかつ完全に硬化するのに有効である。このような低い触媒濃度は、ほとんど立体的に妨害されていない炭素−炭素多重結合を有するジエン含有ゴムと組み合わされたとき特に有効である。白金金属として表して、ゴムの重量に基づいて約0.1乃至約4重量ppmの触媒濃度が特に好ましい。
【0035】
本発明の方法において有用な白金含有触媒は、例えば、米国特許第4,578,497号、第3,220,972号、及び第2,823,218号に記載されている。これらの触媒には、クロロ白金酸、クロロ白金酸六水和物、クロロ白金酸とsym-ジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体、ジクロロ−ビス(トリフェニルホスフィン)白金(II)、cis-ジクロロ−ビス(アセトニトリル)白金(II)、ジカルボニルジクロロ白金(II)、塩化白金、及び酸化白金が含まれる。米国特許第3,775,452号、第3,814,730号、及び第4,288,345号に記載されているような、カーステッド触媒(Karstedt's catalyst)のような0価の白金金属錯体が特に好ましい。
【0036】
動的加硫環境中において触媒が最も効率的に機能するためには、触媒が本質的に熱安定性であること、又はその活性が急速過ぎる反応や触媒の分解を防ぐように抑制されていることが重要である。高温において白金触媒を安定化するのに適する適当な触媒禁止剤には、1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン及び、ビニル環式ペンタマー(pentamer)のような、より高級な類似物が含まれる。しかしながら、165℃より高温で安定なその他のオレフィンも有用である。これらには、マレエート、フマレート、及びその環式ペンタマーが含まれる。本発明においては、反応媒体中で可溶性のままである触媒を使用することも特に好ましい。
【0037】
添加剤
熱可塑性エラストマーは従来的添加剤を含むことができ、これらの添加剤は組成物に、ヒドロシリル化及び硬化の前、間、又は後に、熱可塑性樹脂、ゴム、又はブレンド中に導入することができる。そのような添加剤の例には、酸化防止剤、加工助剤、強化又は非強化充填剤、顔料、ワックス、ゴムプロセス油、エキステンダー油、粘着防止剤、静電防止剤、紫外線安定剤、可塑剤(エステルを含む)、発泡剤、難燃剤、及びゴム配合の技術分野において公知の加工助剤が含まれる。これらの添加剤は、最終の熱可塑性エラストマー生成物の重量に基づいて、約0.1乃至約300重量%を構成することができる。使用することができる充填剤及びエキステンダーには、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、タルク、二酸化チタニウム、カーボンブラックなどような従来的無機物が含まれる。ヒドロシリル化を妨害する可能性がある添加剤、充填剤、又はその他の化合物は、硬化が所望の水準に達した後に添加すべきである。
【0038】
もう1つの実施態様においては、本発明に従って製造された組成物の熱老化特性が、ブレンドに金属キレート剤を添加することによって、大幅に改善できることが判明した。この効果は、ヒドロシリル化触媒が活性な原子価状態にあるという事実によるものと考えられる。白金金属のこの形態は、長期間にわたる高温条件下において、熱可塑性エラストマーの劣化を促進する。
【0039】
この目的に有用な典型的キレート剤には、1,2-ビス(3,5-ジ-ter-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナモイル)ヒドラジンなどのような物質が含まれる。驚くべきことに、これらの試薬は、ヒドロシリル化硬化の前又は後に組成物に配合することができる。ゴム100部当たり約0.025乃至約10部(phr)の範囲内のキレート剤の量が有用であることが判明したが、約0.1乃至2phrの量が好ましい。
【0040】
本発明の別の実施態様においては、熱可塑性エラストマー生成物中の残留又は未反応の水素化珪素官能基を減少させることが改善された熱安定性を有する組成物をもたらすことが示された。未反応の水素化珪素は、活性水素、炭素−炭素多重結合、炭素−酸素二重結合、又は炭素−窒素二重結合などを有する化合物と水素化珪素を反応させることによって減少又は除去させることができる。これらの残留の水素化珪素はこれらの化合物と反応して水素化珪素官能基を減少させ、珪素−酸素又は炭素−珪素結合を形成する。
【0041】
この目的に適する典型的化合物はシリカ及び水である。これらの化合物を、ヒドロシリル化硬化が終了した後、組成物に配合する。水は1回又は2回の操作の硬化の後、いつでも水蒸気として導入することができる。そのような化合物の量は、残留水素化珪素を測定し、理論量の化合物を添加することによって評価できる。熱老化特性における所望の改善を実現するために、十分量の水素化珪素を除去することが必要な場合には、理論量を越える量を添加することもできる。約1乃至約10モル当量の範囲内のそのような化合物の量が有用であることが判明したが、約1乃至3モル当量の範囲内の量が好ましい。
【0042】
エキステンダー油
熱可塑性エラストマー中で使用されるゴムプロセス油又はエキステンダー油は、一般に、石油留分から誘導されたパラフィン系、ナフテン系、又は芳香族系油である。種類は、組成物中に存在する特定のゴム又はゴム混合物と組み合わせて通常使用されるものであり、熱可塑性エラストマーの全ゴム含量に基づく量は、ゴム100部当たり0乃至数百部の範囲内でよい。触媒の効率に対して重要なことは、油及びその他の添加剤が、触媒禁止剤又は触媒の活性を妨害する化合物を全く含んでいないか又は非常に低濃度でのみ含んでいるということである。これらの化合物には、ホスフィン、アミン、スルフィド、チオール、又はルイス塩基として分類される化合物が含まれる。ルイス塩基、又は供与できる電子対を有するその他の化合物は、白金触媒と反応して、その活性を有効に中和する。そのような化合物の存在は、熱可塑性エラストマー組成物のゴム成分の動的加硫のプロセスにおいてヒドロシリル化硬化に対して驚くべきほどの悪影響を有することが判明した。硫黄又は窒素を含む化合物のような、ルイス塩基の化学的反応性を有する化合物の濃度が、約1000ppm未満の硫黄及び約300ppm未満の窒素しか与えない濃度に維持された場合、動的加硫において効果的なヒドロシリル化硬化を促進するのに必要な白金触媒の量を、熱可塑性エラストマー生成物のゴム硬化状態又は引張り特性に影響を与えることなく、大幅に減少させることができ、通常は約4ppm以下の範囲まで減少させることができる。硫黄と窒素の濃度はそれぞれ約500ppm以下及び200ppm以下であるのがより好ましく、約30ppm未満の硫黄濃度と約100ppm未満の窒素濃度が最も好ましい。硫黄と窒素の濃度が最も好ましい範囲内にあるならば、0.25ppmのような低い触媒濃度においても、エラストマーの十分な硬化が達成できることが判明した。
【0043】
ゴム工業用のほとんどのパラフィン系石油は原油蒸留物流れから誘導される。典型的な精製の履歴には、流動点を下げるためのある種の脱臘、芳香族化合物を物理的に除去するための溶媒抽出、及び芳香族構造を化学的に改質するための水素処理プロセスが含まれる。抽出と水素処理の両方が、飽和炭化水素構造の全体的濃度を正味に増加させ、芳香族、硫黄及び窒素含有化合物の全体的濃度を正味に減少させる。油中のこれらの化合物の濃度の減少の程度は、使用された精製のタイプと厳しさ、及び原油の性質に依存する。白色及びパラフィン系油は芳香族及びナフテン系油よりも大規模に処理を受けており、より低濃度の芳香族、硫黄及び/又は窒素化合物しか含まない。これらの化合物の化学的構造は複雑なので、それらを明らかにするのは困難である。油が白金触媒によるヒドロシリル化を妨害する傾向は、硫黄含有化合物と窒素含有化合物の濃度、並びに燐、錫、ヒ素、アルミニウム、及び鉄を含む化合物の濃度に直接関係する。
【0044】
処理
熱可塑性エラストマーのゴム成分は、一般に、連続熱可塑性樹脂マトリックス内部に、小さい、即ち、ミクロサイズの粒子として存在するが、ゴムの樹脂に対する量及びゴムの硬化の程度に応じて共連続形態(co-continuous morphology)又は転相も可能である。ゴムは少なくとも部分的に架橋しているのが望ましく、完全に又は十分に架橋しているのが好ましい。ゴムは動的加硫のプロセスによって架橋されるのが好ましい。本明細書中において使用される場合、「動的加硫(dynamic vulcanization)」という用語は、熱可塑性樹脂とブレンドされたゴムの加硫又は硬化プロセスであって、ゴムが混合物を流動化する温度において剪断条件下に加硫されるプロセスを意味する。従って、ゴムは加硫と同時に熱可塑性樹脂マトリックス内において微細な粒子として分散されるが、上述したようにその他の形態も存在してよい。動的加硫は、練りロール機、バンバリーミキサー、ブラベンダーミキサー、連続式混合機、混合押出し機などのような従来的混合装置中において、高温で熱可塑性エラストマーの成分を混合することによって行うことができる。動的に硬化された組成物のユニークな特徴は、ゴム成分が部分的に又は完全に硬化されたという事実にもかかわらず、組成物を、押出し、射出成型、及び圧縮成型のような従来的プラスチック加工技術によって加工及び再加工できるということである。スクラップ又はばりを回収して再加工することができる。
【0045】
本明細書中において使用される「十分に加硫した(fully vulcanized)」及び「十分に硬化した(fully cured)」又は「十分に架橋した(fully crosslinked)」という用語は、架橋されたゴムの弾性特性が、熱可塑性エラストマーは別にして、従来的な加硫された状態のゴムの弾性特性に類似である状態まで加硫されるべきゴム成分が硬化又は架橋されたことを意味する。硬化の程度はゲル含有率、或いは逆に抽出可能成分によって表すことができる。(架橋可能なゴムの重量に基づいて)ゲル%として報告されるゲル含有率は、室温の有機溶媒中で48時間サンプルを浸漬して不溶性のポリマーの量を測定すること、乾燥残渣を秤量すること、及び組成物に関する知識に基づいて適切な校正を行うことを含む方法によって決定される。従って、修正された最初と最後の重量は、初期重量から加硫されるゴム以外の可溶性成分、例えば、エキステンダー油、可塑剤、及び有機溶媒中に可溶性の組成物の成分、並びに硬化することを意図していない生成物のゴム成分の重量を引くことによって得られる。不溶性ポリマー、顔料、充填剤などは最初と最後の重量の両方から引かれる。ヒドロシリル化によって硬化され得るゴムの約5%未満、好ましくは3%未満しか熱可塑性エラストマー生成物からそのゴム用の溶媒によって抽出されない場合、そのゴム成分は十分に硬化されたということができる。或いは、硬化の程度は架橋密度によって表すことができる。これらの説明は全て本技術分野において公知であり、例えば、米国特許第4,593,062号、第5,100,947号、及び第5,157,081号に開示されている。
【0046】
以下の一般的手順を、以下の実施例中において、本発明の方法によって熱可塑性エラストマーを製造するのに使用した。熱可塑性樹脂と油展ゴムを、ヒドロシリル化剤及びヒドロシリル化触媒と共に加熱された密閉式混合器に入れた。ヒドロシリル化剤と触媒は任意の適する方法で組成物に配合することができ、例えば、油中の溶液として又は純粋な成分として注入することができるが、希釈された触媒溶液が好ましい。酸化防止剤、紫外線安定剤、及び充填剤のような添加剤も油中のスラリーとして添加できる。ブレンドプロセスを容易にするために、成分のマスターバッチを製造することもできる。混合物を熱可塑性成分を溶融させるのに十分な温度まで加熱し、所望によりプロセス油を添加して、混合のトルクの最大値が加硫が生じたことを示すまで混合物を素練りした。所望の程度の加硫が達成されるまで混合を続けた。
【0047】
ヒドロシリル化剤及びヒドロシリル化触媒の添加の順序が重要であることが判明した。ヒドロシリル化剤を初めにブレンドに添加し、その後ヒドロシリル化触媒を添加したときに、最大の触媒効率が得られた。この添加順序に従ったとき、熱可塑性エラストマー生成物の機械的特性と硬化の程度が改善された。
【0048】
本発明は以下の実施例を参照することによってより理解されるだろう。これらの実施例は本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。実施例中においては、以下の試験方法を使用して熱可塑性エラストマーの特性を測定した。
【0049】
硬度(ショアA/D)−ASTM D 2240 極限引張り強さ(UTS−psi) − ASTM D 412 極限伸び(UE−%) − ASTM D 412 100/300%伸びでのモジュラス (M1又はM3−psi) − ASTM D 412 残留伸び(TS−%) − ASTM D 412 油膨脹(OS−%) − ASTM D 471 熱老化(Heat aging) − ASTM D 573
【0050】
実施例に従って製造された組成物中において使用されたゴム成分は以下の通りである。
【0051】
ゴムA − EPDM − 2.1 %ENB、52%エチレン ゴムB − EPDM − 5 %HD、55%エチレン ゴムC − EPDM − 3 %VNB、64%エチレン ゴムD − EPDM − 1.6 %VNB、50%エチレン ゴムE − EPDM − 0.9%VNB、72%エチレン ゴムF − EPDM − 3%VNB、55%エチレン ゴムG − EPDM − 5.5%ENB、60%エチレン ゴムH − EPDM − 3%DCPD、66%エチレン ゴムI − EPDM − 4.2%ENB、0.3%VNB、58%エチレン ゴムJ − EPDM − 4.4%ENB、68%エチレン ゴムK − EPDM − 1.1%VNB、64%エチレン ゴムL − EPDM − 0.7%VNB、62.6%エチレン
【実施例】
【0052】
実施例1
上で一般的に説明した本発明の方法によって、ポリプロピレン樹脂とジエン成分としてENBを含むEPDMゴムを使用して組成物を製造した。可塑性成分とゴム成分を180℃のブラベンダーミキサー中でポリプロピレンが溶融するまで溶融混合した。水素化珪素(アルキル化メチル水素ポリシロキサン)を溶融混合物に滴下して加え、白金[プラチネート(II)ヘキサクロロ、二水素反応生成物(2,4,6,8-テトラエテニル-2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサンと)(platinate(II) hexachloro, dihydrogen reaction product with 2,4,6,8-tetraethenyl-2,4,6,8-tetramethyl cyclotetrasiloxane)]含有油溶液を添加した。最大トルクに達するまでブレンドを混合することによってゴムを動的に加硫させた。生成物をミキサーから取り出し、その後ミキサーに戻しさらに1分間180℃で混練りした。動的加硫の生成物を200℃において1.524mm(60ミル)の厚さまで圧縮成型し、その後加圧下に冷却することによってプラック(plaques)を製造し、これらのプラックを使用して物理的特性を測定した。全ての生成物は、ASTMD 1566によって定義して弾性であり、即ち、全ての生成物が50%未満の残留伸びを有していた。組成物とそれらの特性を第I表に示す。
【0053】
比較の目的のために、米国特許第4,803,244号の実施例1も記載する。この比較例においては、類似の樹脂とゴム成分をヒドロシリル化によって動的に加硫したが、35 ppmの当量のロジウム金属を触媒として使用した。
【0054】
【表1】

【0055】
ENBを含むEPDMゴムのヒドロシリル化架橋において非常に低濃度の白金触媒の使用が、触媒としてロジウムを使用した場合と比較して、(ゲル含有率によって反映されるように)架橋の程度を著しく増加させ、熱可塑性エラストマーの引張り特性を改善したことが分かる。
【0056】
実施例2
ジエンターモノマーとして1,4-ヘキサジエンを含むEPDMゴムを使用して、実施例1と同様に組成物を製造した。(実施例1と同様に)白金をヒドロシリル化触媒として使用した。生成物からプラックを製造し、物理的特性を測定した。結果を第II表に示す。
【0057】
ここでもロジウム触媒によるヒドロシリル化との比較の目的のために、米国特許第4,803,244号の実施例7を示す。この比較例においては、ポリプロピレンと(ヘキサジエンを含む)EPDMのブレンドを35 ppmの当量のロジウム金属を触媒として使用してヒドロシリル化によって動的に加硫した。
【0058】
【表2】

【0059】
上記のデータによって示されているように、ヒドロシリル化剤と組み合わされた白金触媒を使用することによって、ロジウム触媒と比較して、ジエンターモノマーとして1,4-ヘキサジエンを含むEPDMゴムがより効率的かつより完全に架橋される。白金触媒を使用して製造された動的加硫物は、ロジウム触媒の必要量よりも桁違いに少ない触媒濃度でさえ、かなり高いゲル含有率とより良好な引張り特性を有していた。架橋速度も、高濃度のロジウム触媒と比較しても、低濃度の白金触媒を使用してずっと速かった。
【0060】
実施例3
動的加硫を実施するための混合手段として二軸スクリュー押出し機を使用して組成物を製造した。ジエン成分として5-ビニル-2-ノルボルネン又は5-エチリデン-2-ノルボルネンを含むEPDMゴムを使用し、実施例1の白金触媒を使用するヒドロシリル化により動的加硫を行った。熱可塑性エラストマーからプラックを製造し、物理的特性を測定した。結果を第III表に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
VNB/EPDMを使用した組成物F及びGは、ヒドロシリル化剤と触媒の量が非常には低かったが、非常に高い架橋水準を有していた。組成物H(ENB/EPDM)の架橋水準は低かったが、それでも許容可能な水準であった。
【0063】
実施例4
比較の目的のために、ポリプロピレンの存在下に白金触媒によるヒドロシリル化硬化を使用して、ジシクロペンタジエンを含むEPDMゴムを実施例1と同様に動的に加硫させた。組成物I及びJに対する溶融温度は180℃であり、組成物Kに対する溶融温度は200℃であった。結果を第IV表に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
ジエン成分中に妨害された二重結合、即ち、内部二重結合を含むゴムに対しては、高濃度のヒドロシリル化触媒を使用しても完全な加硫は得られなかった。
【0066】
実施例5
ジエン成分としてENBとVNBの混合物を含むEPDMゴムを使用し、実施例1に記載した条件を使用して組成物を製造した。生成物を、同じEPDMを使用して製造したが、ヒドロシリル化触媒がウィルキンソンの触媒(Wilkinson's catalyst)[クロロトリス(トリフェニル)ホスフィンロジウム(I)]である組成物と比較した。これは米国特許第4,803,244号に開示されている触媒の中で代表的なロジウム触媒である。製造された組成物及び生成物の物理的特性を第V表に示す。
【0067】
【表5】

【0068】
ENBとVNBジエン部分の両方を含むEPDMゴムのヒドロシリル化硬化に対して白金はロジウムよりも効果的な触媒である。8 ppm白金金属当量を触媒として使用することによって98%のゲル含有率(十分な加硫)が得られたが、同じ条件下で79 ppmロジウム金属当量からは40%のゲル含有率しか得られなかった。白金金属触媒によるヒドロシリル化の生成物においては優れた物理的特性も得られた。高濃度のウィルキンソンの触媒を使用して製造された組成物はオレンジ色の生成物を与えた。
【0069】
実施例6
上述したように、ヒドロシリル化架橋によって製造された熱可塑性エラストマーの熱老化特性は、生成物中の残留Si−H官能基を活性水素、炭素−炭素多重結合、炭素−酸素結合などを含む化合物と反応させたとき、改善されることが判明した。非晶質シリカも生成物から未反応の水素化珪素を除去するのに有用な化合物である。この実施例においては、ゴム成分のヒドロシリル化架橋によって製造された熱可塑性エラストマーを180℃のブラベンダーミキサー中で非晶質シリカとブレンドした。シリカとの混合の前と後に各々の熱可塑性エラストマーの薄いフィルムのサンプルを製造した。FTIRスペクトルを各々のサンプルについて測定し、Si−Hの吸収(2061cm-1)に割り当てられたピーク下の面積を測定した。その後、サンプルを150℃で7日間と14日間熱老化させ、機械的特性を測定した。結果を第VI表に示す。
【0070】
【表6】

【0071】
これらの結果は、未反応のSi−Hが組成物から除去されると、熱老化後の物理的特性の維持が劇的に改善されることを示している。
【0072】
実施例7
遷移金属触媒によるヒドロシリル化を使用して製造された組成物は金属キレート剤として作用する化合物を使用して安定化するのが好ましい。遷移金属触媒残渣は活性な原子価状態にあり、この形態の金属は劣化を促進する可能性があると考えられる。キレート化は金属がこの反応にかかわるのを防ぎ、組成物の長期間熱老化特性がそのような安定化によって改善される。白金触媒によるヒドロシリル化を使用して2種類の熱可塑性組成物を製造したが、一方(組成物S)はゴム100部当たり1部の1,2-ビス(3,5-ジ-ter-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナモイル)ヒドラジンを添加することによって安定化したが、もう一方(組成物T)は安定化しなかった。組成物の物理的特性を製造直後と150℃で3日間と5日間の熱老化後再び測定した。結果を第VII表に示す。
【0073】
【表7】

【0074】
安定剤を含まない組成物の特性は150℃で3日間後大幅に低下したが、金属失活剤を含む組成物は150℃で5日間後も特性を維持した。
【0075】
実施例8
エキステンダー油の効果を研究するために、上で一般的に説明したようにポリプロピレン樹脂とEPDMゴムを使用して組成物を製造した。芳香族留分が徐々に少なくなり硫黄と窒素の濃度も少なくなる3種類の異なるエキステンダー油を含むゴムのマスターバッチを製造した。マスターバッチ組成は、100部のゴム、100部のエキステンダー油、42部のクレー、2部の酸化亜鉛、及び5部のワックスであった。ポリプロピレン(41部)をゴムKのこのマスターバッチに添加し、ポリプロピレンが溶融するまで180℃のブラベンダーミキサー中で混合した。水素化珪素(3 phr)を滴下して混合物に加え、その後様々な濃度で白金触媒を含む油溶液を添加した。ブレンドを最大トルクに達するまで混合することによってゴムを動的加硫した。硬化後、さらにプロセス油(30部)を添加した。生成物をミキサーから取り出し、その後ミキサーに戻して180℃でさらに1分間混練りした。生成物を200℃で圧縮成型することによって試験サンプルを製造した。ASTM D471の試験方法によって、125℃で24時間IRM 903油を使用して、油膨脹特性を測定した。サンプルの膨脹%(又は重量増加)によって表される結果を第VIII表に示す。
【0076】
【表8】

【0077】
油中の膨脹の相対的な程度は加硫されたゴムの架橋密度を表し、即ち、ゴム中の架橋密度が高ければ高いほど、油膨脹値が低い。第VIII表中のデータは、少量の硫黄及び窒素しか含まないエキステンダー油を使用して製造され、硫黄又は窒素の触媒中の白金に対するモル比が低い材料は、ヒドロシリル化によってずっと効率的に架橋された熱可塑性エラストマーをもたらすことを明らかに示している。この効果は極めて低い触媒濃度においても見られる。
【0078】
実施例9
実施例8に記載した条件下に、異なる2種類のエキステンダー油を含むゴムのマスターバッチを使用して組成物を製造した。生成物の物理的特性を評価して第IX表に示す。
【0079】
【表9】

【0080】
ルイス塩基の化学的挙動を有する物質を非常に低濃度でしか含んでいないエキステンダー油Cの使用は、約0.2 ppmのような低い触媒濃度においてさえも、優れた引張り特性と高いエラストマーの架橋の程度を有する熱可塑性エラストマー生成物をもたらした。これに対して、より高い濃度の硫黄及び窒素含有化合物を含むエキステンダー油Aを使用して製造した生成物は同様な特性を達成するために反応において約5倍の触媒の使用を必要とした。
【0081】
実施例10
油展され、硫黄化合物の濃度が次第に高くなるようにブレンドされたゴムを使用して熱可塑性エラストマー組成物を製造した。実施例8と同様に、ゴムIのマスターバッチを使用して熱可塑性エラストマーを製造した。生成物の特性を第X表に示す。
【0082】
【表10】

【0083】
エキステンダー(プロセス)油中の硫黄と窒素含有率の増加の硬化状態に対する影響は、S:Ptモル比が約4000:1を越え、N:Ptモル比が約800:1を越えたときに生じる油膨脹の急激な増加によって明らかである。ルイス塩基の化学的挙動を有する物質全体の白金触媒に対するモル比は約5000:1未満であるのが望ましく、硫黄及び窒素の白金に対する好ましいモル比はそれぞれ約2000:1未満と600:1未満である。最も好ましいモル比は、約1000:1未満のS:Ptと約100:1未満のN:Ptである。
【0084】
実施例11
実施例8に記載した方法に従い、ゴムJをエラストマーとして使用して熱可塑性エラストマー組成物を製造した。2種類の異なるエキステンダー油を使用して製造した生成物の比較を第XI表に示す。
【0085】
【表11】

【0086】
ゴムJは、白金含有触媒対してルイス塩基のように挙動する物質を本質的に含んでいないエキステンダー油が使用されたとき、同じ架橋改善効果を示す。
【0087】
これまで、本発明の最良の態様及び好ましい実施態様を記載してきたが、本発明はそれらに限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロシリル化剤、白金含有ヒドロシリル化触媒、及びエキステンダー油又はプロセス油の存在下の動的加硫により熱可塑性樹脂と不飽和ゴムのブレンドを架橋する方法であって、ルイス塩基の化学的挙動を有する物質を実質的に含まない油を使用することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記油が、硫黄、燐、錫、窒素、又はヒ素を含む物質を実質的に含まない、請求項1の方法。
【請求項3】
ルイス塩基の化学的挙動を有する物質の白金に対するモル比が5000:1未満である、請求項1の方法。
【請求項4】
前記ヒドロシリル化触媒が、ゴムの重量に基づいて白金金属として表して約0.01乃至約4ppmの量の白金を含有する、請求項1の方法。
【請求項5】
ゴムが主に立体的に妨害されていない炭素−炭素二重結合を有するジエンモノマーを含む、請求項1の方法。
【請求項6】
前記油が、約30ppm未満の硫黄と約100ppm未満の窒素しか含まないパラフィン系白色油である、請求項1の方法。
【請求項7】
熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、a)熱可塑性樹脂と、ルイス塩基の化学的挙動を有する物質を実質的に含まないエキステンダー油を含む不飽和ゴムとを混合する工程、b)ヒドロシリル化剤を工程(a)からの混合物に添加する工程、c)工程(b)からの混合物を混合物を流動化するのに十分な温度でブレンドする工程、d)所望によりルイス塩基の化学的挙動を有する物質を実質的に含まないプロセス油を混合物に配合する工程、e)白金金属として表して、ゴムの重量に基づいて、ゴムの約0.01乃至約20ppmの範囲内の量の白金含有ヒドロシリル化触媒を混合物に配合する工程、及びf)ゴムが架橋するまで熱と剪断条件下に工程(e)からの混合物を混練りする工程、を含む方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂、ゴムプロセス油又はエキステンダー油、及びヒドロシリル化剤と白金含有ヒドロシリル化触媒を使用する動的加硫によって架橋された不飽和ゴムを含む熱可塑性エラストマー組成物であって、前記油がルイス塩基の化学的挙動を有する物質を実質的に含まない組成物を含んで成ることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂である、請求項1又は7の方法。
【請求項10】
ポリオレフィン樹脂がポリプロピレンである、請求項9の方法。
【請求項11】
ゴムがジエンモノマーとして5-ビニル-2-ノルボルネンを含むEPDMゴムである、請求項5又は7の方法。
【請求項12】
動的加硫の後に、ゴムが熱可塑性樹脂のマトリックス中の離散した粒子の形態であり、架橋可能なゴムの約5重量%未満しかゴム用溶媒によって熱可塑性エラストマー生成物から抽出できない程度まで架橋されている、請求項1〜11のいずれかの方法。
【請求項13】
ヒドロシリル化触媒が0価の白金金属錯体である、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかの方法によって製造された熱可塑性エラストマー生成物。

【公開番号】特開2007−284699(P2007−284699A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206522(P2007−206522)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【分割の表示】特願平8−334626の分割
【原出願日】平成8年11月29日(1996.11.29)
【出願人】(591162239)アドバンスド エラストマー システムズ,エル.ピー. (14)
【住所又は居所原語表記】388 South Main Street,Akron,Ohio 44311−1059,United Stetes of America
【Fターム(参考)】