説明

ヒドロペルオキシド流から有機酸を分離する方法

本発明は、ヒドロペルオキシド流を抽出液と接触させることにより有機ヒドロペルオキシド流から有機酸を分離する方法に関する。このプロセスにおいて、抽出液とヒドロペルオキシド流とは膜により相互に分離されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロペルオキシド流を抽出液と接触させることにより有機ヒドロペルオキシド流から有機酸を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ヒドロペルオキシドから有機酸を分離するための公知の方法は、現在、処理装置の腐食問題及び触媒の不活化を防止するために使用されている。このような公知の方法は、ヒドロペルオキシド流からの酸の液液抽出を含む。例えば、米国特許第5,883,268号において、プロピレンオキシドを生成させるための固体不均一系触媒により触媒されるプロピレンとの反応に有用な、精製されたエチルベンゼンヒドロペルオキシド流を入手するための方法は、エチルベンゼンの過酸化により入手された粗エチルベンゼンヒドロペルオキシド流をアルカリ金属塩基の水性溶液と接触させ、得られた混合物を水性流と脱酸性化された有機流へと分離すること;該有機流を水と接触させ、得られた混合物を有機夾雑水相と、低下したアルカリ金属含有量を有している有機相へと分離すること;並びに有機夾雑水相を、エチルベンゼン、ベンゼン、シクロヘキサン及びアルカンより選択された抽出用炭化水素と接触させ、得られた混合物を、有機夾雑水相と比較して低下したレベルの有機夾雑物を有している精製された水相と、炭化水素抽出剤及び有機夾雑水相からの有機不純物からなる有機相へと分離することを含む。
【0003】
しかしながら、このような公知の方法は、腐食性の抽出工程を利用しており、通常、重度の腐食性ヒドロペルオキシドエマルションが生成し、これは、装置腐食、操作の不安定性及び後続の工程における触媒消費量の増加のような多くの問題の原因となる。さらに、腐食性エマルションを処理するため、付加的な装置を使用した比較的高価な沈降工程が必要である。
【0004】
GB−A−1251042により示されたように、一旦混合されると、有機過酸化物と水との混合物は分離するのが困難である。GB−A−1251042は、液状過酸化物を細孔材料体に通し、得られた会合した水性小滴を水層へと分離することを可能にすることを含む、懸濁した水性液を含有している液状有機過酸化物を乾燥させるための面倒な方法を記載している。
【0005】
従って、前述のような短所をもたない、有機ヒドロペルオキシド流から有機酸を除去することにより、精製された有機ヒドロペルオキシド流を入手する方法が必要とされている。ヒドロペルオキシド流を抽出液と接触させることを含む(ここで、抽出液とヒドロペルオキシド流とは膜により相互に分離されている)、有機酸を除去する有利な方法が、今回見出された。ヒドロペルオキシド流を膜によって抽出液から分離しておくことにより、ヒドロペルオキシド流から抽出液へと有機酸を抽出する間、ヒドロペルオキシド流が抽出液と混合されることが回避され得る。このようなプロセスにおいて、有機酸は、好ましくは、膜の孔内又はこの表面において塩へと変換されることにより除去され得る。続いて、塩は、抽出液へと移動するであろう。従って、GB−A−1251042に記載されたもののような面倒な会合法は、もはや必要でない。
【0006】
膜を通して化合物を移動させる方法は、浸透増強抽出(permeation enhanced extraction)を意味する「パートラクション(pertraction)」という頭字語で知られており、「膜促進抽出(membrane facilitated extraction)」という用語でも知られている。パートラクションは、一般に、既知の方法である。例えば、GB2,355,455は、非多孔性の選択透過性の膜を使用した、水性流出物からのフェノール化合物の除去及び回収を記載しており、このプロセスの背後にある数学的理論は、R.Basuら,AIChEJ.,vol.36(3),p.450−460(1990)により記載されている。好ましくは、疎水性ポリマー、焼結ガラス、金属又はセラミックの限外濾過膜と混合物を接触させることによる、炭化水素フィードからのオレフィンの分離は、米国特許第5,107,058号に開示されている。米国特許第5,095,171号においては、芳香族化合物が、選択膜によって浸透プロセスにより非芳香族化合物から分離される。しかしながら、パートラクション法は、有機ヒドロペルオキシド流から有機酸を分離するためには使用されたことがなく、又は示唆されたこともない。
【発明の開示】
【0007】
本発明によると、ヒドロペルオキシド流は有機酸を含有している。ヒドロペルオキシド流は好ましくは非水性である。これに関して「非水性」という用語は、ヒドロペルオキシド流が、10%wt未満、好ましくは5%wt未満、最も好ましくは2%wt未満の水を含有していることを意味する。
【0008】
本発明によると、膜抽出又はパートラクションとは、交換相が障壁又は膜の使用により分離されている抽出プロセスである。本件の場合、ヒドロペルオキシド流が膜により抽出液から分離されており、有機酸がヒドロペルオキシド流から抽出液へと交換され得る。このように、有機酸及びヒドロペルオキシドのフィード混合物が抽出液と混合されることは防止されている。フィード側から抽出液への有機酸の物質移動は、膜障壁の孔を通して起こり得る。
【0009】
膜は、親水性、又は好ましくは疎水性の材料(例えば、セルガード(Celgard)又はメンブラナ(Membrana)として入手可能な多孔性ポリプロピレン(いずれもかつてのポリポア(Polypore)商標))を含み得る。疎水性の膜の場合、膜の孔構造へとこの相を促進するため、抽出液側に軽微な圧力を加えることが好ましい。しかしながら、この圧力は、抽出液側から有機ヒドロペルオキシド側への膜障壁のブレークスルーを防止するため、制限される。好ましくは、抽出液は、ヒドロペルオキシド流の圧力より1から10バール、より好ましくは1.5から3バール高い圧力を有している。セルロース型の膜のような親水性の膜が使用される場合には、ヒドロペルオキシド流に軽微な圧力を加えることが好ましい。この場合、ヒドロペルオキシド流は、好ましくは、抽出液の圧力より1から10バール、より好ましくは1.5から3バール高い圧力を有している。
【0010】
膜はいかなる親水性又は疎水性の膜であってよい。多孔性のポリプロピレン、ポリイミド、ポリスルホン、PVDF(ポリビニリデンジフルオリド)又はPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)のような疎水性の膜が好ましい。効率の理由のため、中空繊維膜が特に好ましい。ヒドロペルオキシド流と抽出液とは、向流モード、並流モード又は交差流モードで操作され得る。ヒドロペルオキシド流と抽出液との間の最大濃度差を入手し、最大の物質移動を入手するためには、向流法が好ましい。
【0011】
膜の相対的な孔径は、0.1から6μm、好ましくは0.5から2μmの範囲内であり、孔の形状は、いかなる形を有していてもよく、例えば、丸形又はスリット形であり得る。膜の多孔度は通常70から90%である。極めて高いモジュール体積当たりの膜表面積は、中空繊維のような特別な膜モジュール形状によって入手され得、従って、これは物質移動を増強する。
【0012】
市販されている形状の一例は、例えば、300トン/hの流量のエチルベンゼンヒドロペルオキシド流から有機酸を分離して、25トン/hの抽出流を提供する、面積2000mの膜である。流入してくる流れは、4.10−3重量分率の酸を含有している。
【0013】
好ましくは、抽出液の流量とヒドロペルオキシド流の流量との比率は、1:100から1:10、より好ましくは1:25から3:50である。
【0014】
膜は、混合することなく、抽出液とフィード相との接触を促進する。さらに、全体の物質移動は、膜の大きな接触面積によって増強され、選択された抽出液が、プロセスの最終的な選択性及び速度を決定する。
【0015】
抽出液は、当業者が使用され得ると理解するであろう広範囲の液体より選択され得る。抽出液の極性は、一般に、酸を効率的に除去するため、有機ヒドロペルオキシド流の極性とは実質的に異なっているであろう。より好ましい実施態様において、抽出液は水性溶液又は水である。水性溶液は好ましくは塩基を含む。塩基が存在する場合、有機酸は酸塩基反応により塩に変換され得る。この変換は、一般に、膜の孔内で、場合によってはこの表面上で起こるであろう。酸がこの塩に変換された場合、これは水性抽出液へと移動し得る。この変換は、膜を通して有機酸の高い濃度勾配を維持する。
【0016】
溶液は、好ましくは、抽出液の総量に基づき0.01から10%wt、より具体的には0.05から5%wt、好ましくは0.05から1%wtの塩基を含有している。塩基は、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム及びこれらの混合物より選択される。最も好ましくは、抽出液は、pKbが有機酸のpKaより小さい陰イオンを含む。さらに、抽出液のpHは、好ましくは7超、好ましくは7.5から10、より具体的には8から10である。
【0017】
本方法は、いかなる有機ヒドロペルオキシド流からのいかなる有機酸の分離にも使用され得る。好ましくは、有機ヒドロペルオキシド流は、エチルベンゼン及び/又はクメンのような有機化合物の酸化により入手される。この酸化は、希釈剤の存在下で液相において実施され得る。この希釈剤は、好ましくは、反応条件下で液状であり、出発材料及び得られた生成物と反応しない化合物である。しかしながら、希釈剤は、反応中に必然的に存在する化合物であってもよい。例えば、アルキルアリールがエチルベンゼンである場合に、希釈剤もエチルベンゼンであってよく、アルキルアリールがクメンである場合に、希釈剤もクメンであってよい。所望の有機ヒドロペルオキシドに加え、一連の夾雑物が、有機化合物の酸化の間に生成される。
【0018】
本発明の方法は、エチルベンゼンヒドロペルオキシド又はクメンヒドロペルオキシドの流れからギ酸、酢酸、プロピオン酸及び安息香酸のような有機酸を分離するのに特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出液とヒドロペルオキシド流とが膜により相互に分離されていることを特徴とする、ヒドロペルオキシド流を抽出液と接触させることにより有機ヒドロペルオキシド流から有機酸を分離する方法。
【請求項2】
抽出液が塩基を含む水性の液体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム及びこれらの混合物より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
抽出液が7を超えるpHを有している、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ヒドロペルオキシド流と抽出液とが向流状態にある、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
抽出液の流量とヒドロペルオキシド流の流量の比が、1:100から1:10、好ましくは1:25から3:50である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
有機酸がエチルベンゼンヒドロペルオキシド流又はクメンヒドロペルオキシド流から分離される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
膜が中空繊維膜である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
疎水性の膜が使用され、抽出液がヒドロペルオキシド流の圧力より1から10バール、好ましくは1.5から3バール高い圧力を有している、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
親水性の膜が使用され、ヒドロペルオキシド流が抽出液の圧力より1から10バール、好ましくは1.5から3バール高い圧力を有している、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2007−513126(P2007−513126A)
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541948(P2006−541948)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【国際出願番号】PCT/EP2004/053243
【国際公開番号】WO2005/054182
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】