説明

ヒュージブルリンク

【課題】溶断部の溶断を短時間で確実に行うことができ、絶縁被覆が燃える危険性が小さなヒュージブルリンクを提供する。
【解決手段】長尺状の導体10と、導体10の長手方向の中間部に設けられ圧延加工により導体10の素線部15の断面積より小さい断面積に形成されて所定の値の電流により溶断可能な溶断部11と、溶断部11に溶着された導体10より低融点の低融点金属体13と、溶断部11を低融点金属体13と共に覆う耐火絶縁体12とで形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定値以上の電流が流れることにより溶断する溶断部を有したヒュージブルリンクに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒュージブルリンクは例えば、自動車のバッテリーと負荷とを接続してバッテリーの電流を負荷に分配供給するために用いられる。図4は特許文献1に開示されたヒュージブルリンク101を示す。このヒュージブルリンク101は薄板帯状に形成された導体102を有しており、この薄板状の導体102の長さ方向の一端にバッテリーのバッテリー端子に接続される第1端子部103が設けられ、他端に車体の負荷からの接続電線に接続される第2端子部104が設けられている。又、薄板状の導体102の長さ方向の中間部には、溶断部105が形成されている。このような導体102は全体が図示しない絶縁被覆によって被覆されて使用される。
【0003】
溶断部105は細い帯状となって形成されている。すなわち溶断部105は薄板状の導体102の他の部分よりも細くなるように導体102に形成されており、その断面積は導体102の他の部分の断面積よりも小さくなっている。これにより溶断部105の電気抵抗が導体102の他の部分よりも大きくなっている。このようなヒュージブルリンク101では、所定の値以上の過電流が導体102に流れると、溶断部105が導体102の他の部分よりも多く発熱し、この発熱によって溶断部105が溶断する。これにより負荷からの接続電線に過電流が流れることを防止でき、過電流による負荷への悪影響や負荷の損傷を防止することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】DE 19512113 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来のヒュージブルリンク101では、溶断部105が導体102の他の部分よりも単に細くなるように形成されるものであり、その溶断温度は導体102の他の部分と同じ温度である。このためレアショート領域での溶断部105の溶断時間が長くなり、迅速で確実な溶断が難しく安全性が低い問題を有している。また、低電流が流れた場合に絶縁被覆が燃える危険性も有している。
【0006】
そこで本発明は、溶断部の溶断を短時間で確実に行うことができ、絶縁被覆が燃える危険性が小さなヒュージブルリンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明のヒュージブルリンクは、長尺状の導体と、この導体の長手方向の中間部に設けられ圧延加工により前記導体の素線部の断面積より小さい断面積に形成されて所定の値の電流により溶断可能な溶断部と、この溶断部に溶着された前記導体より低融点の低融点金属体と、少なくとも前記溶断部を前記低融点金属体と共に覆う耐火絶縁体とで形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のヒュージブルリンクであって、前記耐火絶縁体が、前記溶断部を前記低融点金属体と共に覆うセラミック製の絶縁筒体と、この絶縁筒体と共に前記導体の素線部を覆う耐火絶縁テープとで形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のヒュージブルリンクであって、前記絶縁筒体は少なくとも前記導体の融点より高い融点であることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項2又は3記載のヒュージブルリンクであって、前記絶縁筒体は、前記低融点金属体が溶着された前記溶断部に非接触状態で、前記溶断部の両側の前記素線部の外周面に固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、溶断部が導体の素線部の断面積よりも小さくなっていることにより溶断部の電気抵抗が大きくなっており、電流によって溶断部が効率良く温度上昇する。従って、溶断部は電流による温度上昇が大きい。また、溶断部に低融点金属体が溶着されることにより低融点金属体が溶断部と合金化及び拡散しており、この合金化及び拡散によって溶断部の融点が導体の素線部の融点よりも下がっている。従って、溶断部は導体の素線部よりも溶断温度が低くなっており、素線部よりも低い温度で溶断可能となっている。さらに耐火絶縁体が低融点金属体と共に溶断部を覆っていることにより、溶断部で発熱した熱が外部に逃げることがなく溶断部が効率良く温度上昇する。これらによりヒュージブルリンクに所定値以上の電流が流れると、溶断部が短時間で確実に溶断するため、レアショート領域、デッドショート領域のいずれであっても負荷側の接続電線を保護することができ、しかも絶縁被覆が燃えることを防止できる。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、耐火絶縁体が溶断部を低融点金属体と共に覆うセラミック製の絶縁筒体と、この絶縁筒体と共に導体の素線部を覆う耐火絶縁テープとで形成されることにより、耐火絶縁テープによって溶断部を確実に覆うようにセラミック製の絶縁筒体が固定される。このように溶断部を覆うように固定されたセラミック製の絶縁筒体は溶断部から発熱した熱を外部に逃げることを防止するため、溶断部が短時間で確実に溶断して負荷側の接続電線を保護することができる。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、絶縁筒体が導体の融点より高い融点であるため、溶断部の熱によって絶縁筒体が溶融することがなく、溶断部の覆い状態を保持することができる。これにより溶断部の熱が外部に逃げることを確実に防止することができる。
【0014】
請求項4記載の発明によれば、絶縁筒体が溶断部に非接触状態で溶断部の両側の前記素線部の外周面に固定されているため、絶縁筒体が溶断部を覆った状態となって溶断部の熱を絶縁筒体の内部に封じ込めることができるのに加えて絶縁筒体が溶断部と接触して溶断部の熱を奪うことがない。従って、溶断部が効率良く温度上昇するため短時間で溶断部が溶断する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)〜(d)は本発明の実施形態のヒュージブルリンクを製造工程とともに示す斜視図である。
【図2】(a)及び(b)はヒュージブルリンクを示す平面図及び側面図である。
【図3】溶断特性を示すグラフである。
【図4】従来のヒュージブルリンクを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図示する実施形態により具体的に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態のヒュージブルリンク1の製造工程、図2は製造されたヒュージブルリンク1の形状を示す。
【0018】
ヒュージブルリンク1は、長尺状の導体10(図1(a))と、導体10の中間部に設けられた溶断部11(図1(b))と、溶断部11に溶着された低融点金属体13(図1(c))と、溶断部11を覆う耐火絶縁体12(図1(c)及び(d))とを備えている。また、耐火絶縁体12は絶縁筒体17及び耐火絶縁テープ18によって形成されている(図2)。
【0019】
導体10は導電性金属からなる細線の撚り線によって長尺な棒状に形成されているが、導電性金属の細帯によって長尺状に形成されていても良い。導電性金属としては、銅、銀、アルミニウム或いはこれらの合金等を用いることができる。
【0020】
溶断部11は導体10の長手方向に中間部に設けられる。溶断部11は導体10の中間部を圧延加工することにより、導体10の他の部分よりも断面積が小さくなっている。すなわち溶断部11は図1(b)のD領域で示す導体10の素線部15の断面積より小さい断面積に形成されるものである。断面積が小さくなっていることにより溶断部11の熱容量が素線部15よりも小さくなる。また、溶断部11の電気抵抗が素線部15の電気抵抗よりも大きくなっており、素線部15に比べて発熱量が多く、素線部15よりも大きく温度上昇する。
【0021】
低融点金属体13は溶断部11に溶着される。低融点金属体13は導体10よりも低融点の金属が用いられる。この金属としては、錫、カドミウム、鉛、ビスマス、インジウム或いはこれらの合金等を用いることができる。低融点金属体13が溶断部11に溶着されることにより、低融点金属体13が溶断部11と合金化すると共に溶断部11に拡散する。この低融点金属体13の合金化及び拡散によって溶断部11の融点が導体10の素線部15の融点よりも下がるため、溶断部11の溶断温度が素線部15よりも低くなる。
【0022】
耐火絶縁体12は溶断部11を低融点金属体13と共に覆うものであり、溶断部11を覆うことにより溶断部11で発熱した熱が外部に逃げることを防止する。これにより溶断部11が効率良く温度上昇する。
【0023】
耐火絶縁体12はセラミック製の絶縁筒体17(図1(c))と、絶縁筒体17を導体10の素線部15に固定する耐火絶縁テープ18(図2)とによって形成されている。
【0024】
絶縁筒体17は溶断部11よりも長い筒状に形成されている。また、絶縁筒体17は導体10の外径と同等か、幾分大きな内径を有した筒体となっており、導体10が挿通可能となっている。導体10に対し、絶縁筒体17は低融点金属体13が溶着されている溶断部11を覆うように配置され、溶断部11からの熱を絶縁筒体17の内部に封じ込めて外部に逃げることを防止する。
【0025】
溶断部11を覆うように絶縁筒体17を設ける場合、溶断部11の両側の素線部15の外周面に絶縁筒体17の両端部を固定する。この固定は、耐火絶縁テープ18を絶縁筒体17及び素線部15に巻き付けることにより行われる。この固定において、溶断部11が導体10の素線部15よりも断面積が小さくなっているため、絶縁筒体17は溶断部11と非接触状態となって素線部15の外周面に固定される。このように絶縁筒体17が溶断部11と非接触となっていることにより、絶縁筒体17が溶断部11の熱を奪うことがない。従って溶断部11が効率良く温度上昇することができる。
【0026】
絶縁筒体17は導体10の融点よりも高い融点を有したセラミックによって形成されており、溶断部11の熱によって絶縁筒体17が導体10に先だって溶融することがない。これにより絶縁筒体17が溶断部11の覆い状態を確実に維持することができる。
【0027】
耐火絶縁テープ18は絶縁性を有した耐火マイカテープ等が用いられる。耐火絶縁テープ18は絶縁筒体17の外周面及び導体10の素線部15の外周面に巻き付けられることにより、溶断部11を覆うように絶縁筒体17を導体10の素線部15に固定する。この耐火絶縁テープ18はヒュージブルリンク1を覆う絶縁被覆として機能する。
【0028】
次に、この実施形態のヒュージブルリンク1の製造手順を説明する。図1(a)の状態の導体10に対し、導体10の長さ方向の中間部を圧延加工して素線部15よりも小さな断面積の溶断部11を形成する(図1(b))。この溶断部11に対して低融点金属体13を溶着する(図1(c))。そして、絶縁筒体17が溶断部11を覆う位置となるように導体10を絶縁筒体17に挿通する(図1(d))。この場合、図示しないクリップ等によって絶縁筒体17を導体10に仮止めしても良く、これにより溶断部11を覆った位置となるように絶縁筒体17を導体10に仮止めすることができる。
【0029】
これに加えて、導体10の両端部に端子金具20を取り付ける。それぞれの端子金具20は加締め部21及び端子部22を有しており、加締め部21を導体10に加締めることにより導体10への取り付けが行われる。それぞれの端子部22に対してはバッテリー端子及び負荷からの接続電線との接続が行われる。
【0030】
その後、図2に示すように、耐火絶縁テープ18を絶縁筒体17の外周面及び素線部15の外周面に巻き付ける。これにより溶断部11を覆った位置に絶縁筒体17を固定する。
【0031】
図3は溶断特性を示し、実線が溶断部11及び低融点金属体13の溶着がなされていない導体を、破線が溶断部11及び低融点金属体13の溶着がなされたこの実施形態を示す。この実施形態では、導体10に素線部15よりも断面積が小さい溶断部11を形成しているため、溶断部11が効率良く温度上昇する。また、絶縁筒体17が溶断部11に非接触状態で覆っており、溶断部11の熱を奪うことないと共に絶縁筒体17の外部に逃げることを防止している。これにより溶断特性が図3のa→bで示すように変化する。また、溶断部11には低融点金属体13が溶着して合金化及び拡散しているため、溶断部11の融点が素線部15の融点よりも下がっている。これにより溶断特性が図3のc→dで示すように変化する。
【0032】
以上の実施形態によれば、溶断部11が導体10の素線部15の断面積よりも小さくなって電気抵抗が大きくなっており、溶断部11が効率良く温度上昇する。また、溶断部11に低融点金属体13が溶着されることによる低融点金属体13の合金化及び拡散によって溶断部11の融点が導体10の素線部15の融点よりも下がっており、溶断部11は導体10の素線部15よりも溶断温度が低くなっている。さらに耐火絶縁体12が低融点金属体13と共に溶断部11を覆っているため、溶断部11で発熱した熱が外部に逃げることがなく溶断部11が効率良く温度上昇する。従ってヒュージブルリンク1に所定値以上の電流が流れると、溶断部11が短時間で確実に溶断するため、レアショート領域、デッドショート領域のいずれであっても負荷側の接続電線を保護することができる。また、耐火絶縁テープ1が燃えることを防止できる。
【0033】
また、耐火絶縁体12においては、耐火絶縁テープ18によって溶断部11を確実に覆うようにセラミック製の絶縁筒体17が固定されるため、溶断部11から発熱した熱を外部に逃げることを防止でき、溶断部11が短時間で確実に溶断して負荷側の接続電線を保護することができる。
【0034】
また、絶縁筒体17が導体10の融点より高い融点であるため、溶断部11の熱によって絶縁筒体17が溶融することがなく、溶断部11の覆い状態を保持することができ、これにより溶断部11の熱が外部に逃げることを確実に防止することができる。
【0035】
また、絶縁筒体17が溶断部11を非接触状態で覆った状態となっており、溶断部11の熱を絶縁筒体17の内部に封じ込めることができ、さらには絶縁筒体17が溶断部11の熱を奪うことがない。このため溶断部11が効率良く温度上昇し、短時間で溶断部11が溶断する。
【符号の説明】
【0036】
1 ヒュージブルリンク
10 導体
11 溶断部
12 耐火絶縁体
13 低融点金属体
15 素線部
17 絶縁筒体
18 耐火絶縁テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の導体と、この導体の長手方向の中間部に設けられ圧延加工により前記導体の素線部の断面積より小さい断面積に形成されて所定の値の電流により溶断可能な溶断部と、この溶断部に溶着された前記導体より低融点の低融点金属体と、少なくとも前記溶断部を前記低融点金属体と共に覆う耐火絶縁体とで形成されていることを特徴とするヒュージブルリンク。
【請求項2】
請求項1記載のヒュージブルリンクであって、
前記耐火絶縁体が、前記溶断部を前記低融点金属体と共に覆うセラミック製の絶縁筒体と、この絶縁筒体と共に前記導体の素線部を覆う耐火絶縁テープとで形成されていることを特徴とするヒュージブルリンク。
【請求項3】
請求項2記載のヒュージブルリンクであって、
前記絶縁筒体は少なくとも前記導体の融点より高い融点であることを特徴とするヒュージブルリンク。
【請求項4】
請求項2又は3記載のヒュージブルリンクであって、
前記絶縁筒体は、前記低融点金属体が溶着された前記溶断部に非接触状態で、前記溶断部の両側の前記素線部の外周面に固定されていることを特徴とするヒュージブルリンク。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−37929(P2013−37929A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173716(P2011−173716)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】