説明

ヒューズエレメント

【課題】短絡時の大電流を速やかに遮断できる高速溶断特性を維持しつつ、寿命特性や構造、サイズ等に大幅な影響を与えることなく、ヒューズ定格電流付近の過負荷溶断特性を具備したヒューズエレメントを提供する。
【解決手段】溶融導体からなる薄板状のエレメント本体2の少なくとも一部に挟隘部3である溶断部4が形成されているとともにエレメント本体2における溶断部4の近傍にエレメント本体1を形成する溶融導体よりも低温度で溶解する低融点融解体により形成される溶融6チップを付設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殊に大電流から回路を安全に遮断するための速断性ヒューズについて、従来困難であった、ヒューズ定格電流付近の過負荷溶断特性を両立させるためのエレメント構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば図3に示すように、溶融導体からなる薄板状のエレメント本体2の少なくとも一部に逆山形の凹部3、3により形成した挟隘部(所謂「くびれ部分」)である溶断部4を形成したヒューズエレメント1が用いられている。
【0003】
このヒューズエレメント1は電気回路の短絡時などに流れる電流を溶断部4に集中させて過電流に対する速断特性がきわめて良好であることから、大電流から回路や人体を保護するための速断性ヒューズとして用いられている。
【0004】
ところで、ひとつの電源から複数の装置に電力を供給する供給系統において、給電系の分岐部に接続されるヒューズには、ある装置で回路短絡が起きた場合に、異常系統を速やかに切離することが求められる。さらに、短絡時には、同一電源から供給される複数の給電系の電圧が低下するため、電源部や分岐部、そして装置などの要所に電圧安定化のためのコンデンサを接続し、短絡した給電系以外の装置が停止するのを防止する措置が講じられるが、溶断時間が長い場合には電圧変動を十分に抑制することは困難になるため、サブミリ秒以下の単位での速断性が強く求められている。
【0005】
また、ヒューズの配下に接続される配線は、過電流による配線火災を防止するため、ヒューズの溶断電流よりも配線の許容電流が大きくなるよう線径を選定する必要がある。すなわち定格電流に対し溶断電流が大きいヒューズの場合には、ヒューズの溶断電流に合わせて許容電流値の大きな太径のケーブルを使わねばならず、施工性やコストの面で問題が生じている。このため、ヒューズの溶断電流値はヒューズの定格電流値に対して著しく大きくない、すなわち定格電流を超えた過電流領域の遮断特性(過負荷溶断特性)も同時に求められている。
【0006】
しかしながら、これまでの速断系ヒューズにおいては、短絡保護を主としたものが多く、速断性には優れているものの、十分な過負荷溶断特性を兼備したものはなかった。
【0007】
これに対し、短絡保護と過電流配線保護を両立させる方法として、速断性に優れたヒューズと過負荷溶断特性に優れたヒューズ、あるいは速断性に優れたヒューズとブレーカとを組み合わせて使用する構成が考えられるが、いずれも抵抗体を直列に接続する構成となるため、発熱や損失の問題ならびに放熱施策や設置スペース、コストの関係で取り扱いに問題がある。
【0008】
そこで、例えば特開2004−319195号公報、特許3160294号公報、特開2006−286224号公報などでは、エレメント本体の溶断部にエレメント本体を形成する溶融導体よりも低融点の合金や樹脂などの低融点溶融体を付設することにより、流れる電流がヒューズの許容電流値を超えた際に低融点溶融体が溶融しエレメント母材から離脱し、溶断部の熱伝導度を急激に低下させることにより過電流溶断特性を具備できる旨が述べられている。
【0009】
しかしながら、低融点溶融体がエレメントに密着することによりヒューズ全体の熱容量が大きくなり、エレメント母材のみで構成する場合に比べて短絡時の遮断特性が劣化する欠点を有する。
【0010】
図4はエレメント本体2を形成する溶融導体よりも低融点の低融点溶融体6を付設して過負荷溶断特性を有する溶断部7と従来の挟隘部からなる速断性を有する4とを組み合わせて1つに形成したヒューズエレメント1を示すものであるが、過負荷溶断特性を有する溶断部7と速断性を有する溶断部4が直列に並ぶので全長が長くなり、ヒューズの抵抗値が大きくなる欠点があり、発熱により劣化しやすく寿命が短いという問題がある。また、ヒューズを搭載するホルダーや装置側に発熱対策が必要となり、給電効率の低下や設置スペース、冷却コスト増等を招く。
【0011】
また、図5はエレメント本体1を形成する溶融導体よりも低融点の低融点溶融体6を挟隘部に付設して過負荷溶断特性を付与させたものであるが、狭隘部に低融点溶融体を付与することにより、狭隘部の熱容量が増大するため短絡時の遮断速度が大幅に増加し、速断性が損なわれる問題がある。また、熱容量の増加を抑えるためにエレメント母材の狭隘部断面積を減少させた場合には、電気抵抗が増大するため流せる定格電流が減少してしまう。さらに、速断性を確保するための狭隘部は定格電流時においても電流密度が高くなるため、挟隘部の溶断部4に付与された低融点溶融体6は融解する恐れがあり、低融点溶融体6が劣化し寿命が短いという問題がある。また、製作時には狭隘部4に所望の量の低融点溶融体6をスポットなどの手段により高精度で付設することが必要であるが、そのための設備投資や歩留まり、品質の維持管理の点から問題が多い。
【特許文献1】特開2004−319195号公報
【特許文献2】特許3160294号公報
【特許文献3】特開2006−286224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記の問題点を解決するためになされたものであり、短絡時の大電流を速やかに遮断できる高速溶断特性を維持しつつ、寿命特性や構造、サイズ等に大幅な影響を与えることなく、ヒューズ定格電流付近の過負荷溶断特性を具備したヒューズエレメントを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するためになされた本発明は、溶融導体からなる薄板状のエレメント本体の少なくとも一部に挟隘部である溶断部が形成されているとともに前記エレメント本体における溶断部の近傍に前記エレメント本体を形成する溶融導体よりも低温度で溶解する低融点融解体により形成される溶融チップが付設されていることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、回路の短絡などにより大電流が流れたときにはエレメント本体の少なくとも一部に形成された挟隘部である溶断部が従来の速断性のヒューズエレメントと同様、高速に溶断する。また、例えば漏電時のように許容電流値を超えた過負荷電流が流れた時は、低融点溶融体が溶融し、エレメント母材中へ拡散・合金化することによりエレメントが溶断し過電流を遮断する。
【0015】
また、本発明において、前記溶融チップが前記エレメント本体における溶断部の近傍に形成された凹部または透孔に前記低融点融解体が埋設されて形成される場合には、製造過程で溶接機のような大掛かりな設備を必要としないばかりか、所定の容量の低融点融解体を所定の位置に一律に埋設することができ、特にスポットによる場合に比べて多くの容量を均一に付設させることができ、また、エレメント本体の表面に盛り上がることがないので美観的にも優れる。
【0016】
さらに、前記凹部と溶断部中心位置との距離を調節することにより容易に溶断時間を調節することが可能である。また、特に低融点溶融体としてハンダ(融点230℃)を用いると製造が容易で、一般に用いられる低圧用給電系に最適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、回路短絡時の大電流を速やかに遮断できる速断性ヒューズのエレメント溶断部近傍に凹部または透孔を設け、そこにヒューズ溶断部を構成する材料よりも低融点な材料である溶融チップを埋設することで、ヒューズの短絡溶断特性と寿命、形状等に大幅な変更を与えることなく、速断性ヒューズに定格電流付近の過電流を遮断する過負荷溶断特性を具備させることが可能となった。
【0018】
また、溶融チップを形成する低融点溶融体の種類や量、低融点溶融体を埋設する凹部の大きさや形状さらには設置位置を変化させることによりきわめて容易に保護すべき負荷の特性にあわせて過負荷溶断電流や過負荷溶断時間を変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0020】
図1は本発明の形態であるヒューズエレメント1を示すものであり、全体の構成は従来から実施されている速断系のものと同様に、例えば銅、ニッケル、チタン、銀などの従来からヒューズエレメントとして用いられている溶融導体からなる例えば幅(図に示すa)が8mm程度の薄板状であるエレメント本体2の長さ方向の中央部に一対の逆山形の凹部3,3が中心線を挟んで対峙して形成されて挟隘部である幅(図に示すb)が0.5mm程度の溶断部4が形成されている。
【0021】
また、前記エレメント本体2における溶断部4の近傍、例えば溶断部4の中心からの距離(図に示すc)が1.5mm程度に形成された直径(d)が1mm程度の凹部5が形成されており、前記凹部5には前記エレメント本体2を構成する溶融導体よりも低融点で溶解する例えばハンダのような低融点融解体が埋設されて溶融チップ6が形成されている。尚、埋設は一旦溶融させたハンダを凹部5に充填して放置し凝固させればよく、必要であれば、エレメント本体2と面一になるよう加工する。
【0022】
以上の構成を有する本実施の形態は、従来のものと同様に両端に接続端子を配置して絶縁管などに収容してヒューズとして使用され、回路短絡のような大電流が流れたときには従来の速断型ヒューズと同様に溶断する。
【0023】
また、定格電流を超えて過負荷電流が流れると凹部5に埋設されている低融点融解体からなる溶融チップ6が融けてエレメント母材中に拡散し、合金化による相変化が生じ、融点が低下し周辺が溶融することで、所定の時間後にエレメント本体2の溶断部4が溶断する。
【0024】
尚、本実施の形態は本発明の一例を示すものであり、前記凹部5の大きさや形成位置、さらには低融点融解体6の種類などは問わないが、特に、本実施の形態では、低融点融解体6を埋設する凹部5を溶断部4に形成しないので定格電流によって低融点融解体6が高温にさらされることがないため融解や劣化が起こらず寿命が長い特長を有する。
【0025】
尚、本実施の形態では、溶融チップ6をエレメント本体2の溶断部4近傍に形成した凹部5に低融点融解体を埋設するものとしたことにより、エレメント本体2の表面または裏面の一面において低融点融解体の充填ならびに表面加工などをすることができることから製造がきわめて容易であるが、本発明においては凹部5の代わりに透孔を用いて溶融チップ6を形成してもよく(図示せず)、この場合には、定格電流を超えた過負荷電流により融解した低融点融解体がエレメント本体2の表面及び裏面の両面に同時に作用するので溶断が迅速且確実に行われ、更にはエレメント本体2が薄く凹部の形成が困難な場合にも実施できる等の利点がある。
【0026】
また、本実施の形態では、溶融チップ6を形成する低融点融解体として適した融点を有するとともに取り扱いが容易なハンダを用いたが、低融点融解体は少なくとも本体2よりも低融点を有し融解物がエレメント本体2と合金化反応をおこしてエレメント本体2の溶断温度を低下させるものであればよく、元素・合金の種類に限られない。
【0027】
図2は本発明の異なる実施の形態を示すものであり、速断型の溶断部4を増やした高電圧型のものであり、作用・効果については前記実施の形態と同様である。
【実施例】
【0028】
次に、前記図1に示した実施の形態と同様の形態を有する実施例について短絡特性、過負荷溶断特性、ならびに、実際の使用形態を想定し、図6に示すような直流電源8から分岐部を介して2分岐した給電系を構築し、片方の配線を短落用スイッチ12で短絡させた時の他方の配線につながれている装置11への影響についての結果を確認した。なお、図6の給電系では直流電源ならびに分岐盤、装置には短絡時の電圧安定化のためのコンデンサを搭載している。
【0029】
前記実施例の装置11への影響についての結果を比較例とともに表1に示した。尚、比較例1は前記図1に示した本発明の実施の形態と同様の形態のヒューズエレメントの狭隘部上に低融点融解体をのせたもの、比較例2は従来の速断性ヒューズ、比較例3は市販の過負荷電流遮断用ヒューズである。
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示した『短絡試験』の結果によれば、本発明の実施例が比較例2(従来の速断性ヒューズ)と同等の高速遮断特性が維持されているのに対し、エレメント狭隘部に低融点融解体をのせた比較例1では遮断時間が延伸していることが確認できる。
【0032】
また、『過負荷電流時の遮断特性』について比較すると、比較例2(従来の速断ヒューズ)では定格電流の200%を通電しても遮断しないのに対し、本実施例では135%の条件でも短時間で遮断していることが確認される。さらに、比較例3(市販の過負荷電流遮断用ヒューズ)と比較しても、速断性をもつ本実施例の溶断容量(I^2t)が小さい効果が現れ、短時間で確実に遮断できることがわかる。
【0033】
さらに、実際の使用形態で短絡により1つのヒューズが溶断するのを想定した『短絡時他装置への影響』では、速断性を有する本実施例と比較例2では、短絡時の溶断時間が十分に短いため他の装置は停止することなく運転可能であったが、これらのヒューズに比べて溶断時間の長い比較例1および比較例2では、短絡時の電圧降下をコンデンサで抑えられず他の装置の入力電圧が動作下限電圧を下回り停止した。
【0034】
これらのことから、本発明技術を用いることにより短絡時の速断性と、過負荷電流時の確実な遮断特性を併せ持ち、かつ寿命も長いヒューズを提供することができる。また、低融点融解体の量や種類、狭隘部からの離隔距離を調整することにより、ヒューズの遮断特性を幅広く調整できる利点を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明における実施形態の一例を示す正面部分図。
【図2】本発明における異なる実施形態の一例を示す正面部分図。
【図3】従来例を示す正面部分図。
【図4】従来技術の組み合わせにより構成した例を示す正面部分図。
【図5】更に異なる従来技術の組み合わせにより構成した例を示す正面部分図。
【図6】本発明の実施例と比較例についての短絡特性、過負荷溶断特性を調べるための実際の使用形態を想定した回路図。
【符号の説明】
【0036】
1 ヒューズエレメント、2 エレメント本体、3 挟隘部、4 溶断部、5 凹部、 6 溶融チップ、7 溶断部、8 直流電源、9 分岐盤、10 ヒューズ、11 装置、12 短絡用スイッチ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融導体からなる薄板状のエレメント本体の少なくとも一部に挟隘部である溶断部が形成されているとともに前記エレメント本体における溶断部の近傍に前記エレメント本体を形成する溶融導体よりも低温度で融解する低融点融解体により形成される溶融チップが付設されていることを特徴とするヒューズエレメント。
【請求項2】
前記溶融チップが前記エレメント本体における溶断部の近傍に形成された凹部または透孔に前記低融点融解体が埋設されて形成されていることを特徴とする請求項1記載のヒューズエレメント。
【請求項3】
前記溶融チップの付設位置と前記溶断部中心位置との距離を調節することにより溶断時間を調節することが可能な請求項1記載のヒューズエレメント。
【請求項4】
前記低融点溶融体としてハンダを用いる請求項1,2または3記載のヒューズエレメント。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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