説明

ヒンジ構造

本発明は、第1の剛体(10)と、第2の剛体(20)と、継ぎ手部材とを含む三次元ヒンジ(100)に関する。継ぎ手部材は、第1の剛体(20)と第2の剛体(20)とを連結する。継ぎ手部材は、少なくとも3つの基部コネクタ(32、33、34)を含み、各基部コネクタは、それぞれの連結箇所(22、23、24)において第2の剛体(20)に連結され、かつ第1の剛体の係合部分と係合している。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明はヒンジに関する。また、本発明は、かかるヒンジを含む装置または医療器具などの、かかるヒンジを含む器具、特にかかるヒンジを含む人工股関節に関する。
【0002】
人工関節などの医療用品は、通常、ポリマーと金属合金との組合せを用いる。金属合金は関節に用いられ、ポリマーは軟質ソケットとして用いられる。ポリマー部分は、使用の際に金属の関節部分に当たって摩耗し、時間が経つとポリマーの超微粒子が緩んで体内に入り込む。これらの粒子は、周囲の骨の再吸収を引き起こすことが知られている。これにより、人工器官の構成要素が緩み、場合により再手術さえ必要になる。
【0003】
米国特許第5,549,700号明細書には、ボールソケット型の人工関節器具が開示されている。ソケット構成要素は、高分子カップインサートと、その中に埋め込まれた複数の軸受部分とを含む。大腿骨の構成要素は、ボール要素の形態の関節動作面を含む。大腿骨のボール要素は、軸受部分の軸受面と摺動可能に接触された状態に保たれた球状の外部軸受面を有する。複数の軸受部分により、かかる軸受部分がない構造より接触している軸受面間に伝わる応力が低減されるが、ポリマーが緩んで体内に入り込む問題は未解決のままである。
【0004】
したがって、本発明の目的は、上記の問題が軽減された、改良されたヒンジを提供することである。
【0005】
この目的は、本発明によれば、第1の剛体と、第2の剛体と、第1の剛体および第2の剛体に連結された継ぎ手部材とを含むヒンジによって達成される。継ぎ手部材は、少なくとも3つの基部コネクタを含み、各基部コネクタは、それぞれの連結箇所において第2の剛体に連結され、かつ第1の剛体の係合部分と係合しており、基部コネクタは繊維から作製される糸であり、繊維の少なくとも一部は合成有機繊維である。第1の剛体は、支点としての係合部分を有し、第2の剛体に対して移動することができる。第2の剛体が、第1の剛体に対して押されるか、引かれるかまたは回転されると、糸は、ある程度のところで移動を停止する。移動の程度は、2つの剛体の間で糸が引っ張られる張り具合、糸の間の角度および糸の剛性に左右される。
【0006】
本発明の主な利点は、基部コネクタとして糸を使用することである。糸は張力下で剛性であるが、ねじりまたは線圧力による圧縮下で可撓性であり、第1の剛体と第2の剛体との間に直接の摺動接触がないため、ヒンジは、システムにおける摩擦がないかまたはごく限られた摩擦で移動する(例えば傾斜するおよび/または曲がる)能力を保ちながら、大きな負荷でも支えることができる。
【0007】
継ぎ手部材における基部コネクタの数は少なくとも3つである。場合によっては、より高い機械的強度の観点または力もしくは可動域の調節の向上の点から、基部コネクタの数が4つ、5つ、6つもしくはそれ以上であるのが有利であり得る。しかしながら、基部コネクタの数は3つであるのが好ましい。これは、少量の材料を使用する点、また基部コネクタからの張力またはねじりによって生じる内部応力を最小限に抑えることができる点で有利である。継ぎ手部材が5つ以上の基部コネクタを含むとき、糸の長さが異なることにより、異なる力が異なる糸にかかり、内部応力を生じるが、可動域の調節を向上させる方法ももたらす。
【0008】
本発明によって、2つの剛体が連結されるが、それらの表面にわたって互いに対する摩耗を生じる摺動運動を行わないヒンジが提供される。これは、剛体が互いに対して移動する際に、第1の剛体と、第1の剛体に面する第2の剛体の表面との間に摩耗がなく、これは剛体間の摩耗がないかまたはごく限られることを意味することから、非常に重要である。第1の剛体が第2の剛体に対して傾斜しているとき、傾斜の程度は、第1の剛体に面する第2の剛体の表面の周縁に接触している第1の剛体によって制限され得る。第1の剛体をその傾斜位置において回転させると、第1の剛体が上記の周縁に対して摺動する。しかしながら、この摺動運動によって生じる影響は、従来の人工股関節の構造などの、ボールがカップに対して摺動する構造における回転運動によって生じる摩耗よりかなり小さい。従来の人工股関節ではあらゆる可動域で摩耗が生じていたのに対し、本発明のヒンジによれば、第1の剛体が、第2の剛体に対してある非常に傾斜した位置で移動するときのみに摩耗が生じる。
【0009】
第1の剛体に面する第2の剛体の表面の周縁および/または周縁と接触し得る第1の剛体の部分は、改良された耐摩耗特性を有するように作製され得る。これは、例えばこれらの部分に耐摩耗コーティングを施すことによって行われ得る。
【0010】
したがって、第1の剛体および第2の剛体は、剛体における摩耗損傷のリスクがかなり低減され、金属、セラミックおよびポリマーならびにそれらの組合せを含む任意の材料で作製されてもよい。金属が好ましい。金属の場合、外科用ステンレス鋼またはチタン合金が、医療用途に用いるのに好ましい。
【0011】
好ましくは、本発明に係るヒンジは三次元ヒンジである。本明細書において、三次元ヒンジは、ヒンジ自体によって互いに連結された2つの剛体が互いに対して移動して、互いに対して固定された立体角の範囲内で回転可能になっているヒンジを意味する。
【0012】
非常に好ましい実施形態において、ヒンジは、さらなる連結箇所で第2の剛体に連結され、かつ第1の剛体の係合部分と係合しているさらなるコネクタを含む。さらなる連結箇所は、基部コネクタの連結箇所とさらなる連結箇所とが、第1の剛体の係合部分が内部に位置決めされる(仮想の)多面体の角隅部を画定するように配置される。基部コネクタの数が4つであるとき、多面体は4面体である。第1の剛体の係合部分が多面体の内部に位置決めされることで、第1の剛体の係合部分が少なくとも4つの方向に確実に張力をかけられる。これにより、第1の剛体の係合部分は、多面体の仮想面に接触もせず、または多面体の仮想面を通り抜けもせず、多面体の内部に保たれることが可能になる。
【0013】
第1の剛体と第2の剛体との間の相対移動が、2つの剛体が互いに接触しないように基部コネクタによって制限されるように、2つの剛体は連結され得る。これは、第1の剛体へのコネクタの連結箇所、ならびに、例えば厚さ、材料、糸における繊維の配置などの、基部コネクタの特性を好適に選択することによって行うことができる。これは、2つの剛体の間に摩耗による損傷が生じない点で非常に有利である。接触が生じない、かかるヒンジの別の利点は、非導電性の糸が選択される場合、2つの剛体の間に電気的接続が形成されないことである。これは、例えば、電気接点によって損傷されるロボットアームのヒンジなど、ロボット用途にヒンジが用いられる場合に有利であり得る。
【0014】
本明細書において、糸とは、ねじり、撚り合わせ、編組などによって繊維から作製される、横方向の寸法が長さより短い任意の細長い物体を意味し、ケーブルまたは組紐を含む。糸は、コーティング、カバーまたは(硬化)樹脂などのさらなる要素を含み得る。繊維の少なくとも一部は、例えばポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリエチレン系などの合成有機繊維である。
【0015】
基部コネクタの糸の各々および/またはさらなるコネクタの糸は、高性能ポリエチレン(以後、HPPE)繊維を含むのが好ましい。糸におけるHPPE繊維は、第1の剛体と第2の剛体との間の非常に強い連結をもたらす。継ぎ手部材におけるHPPE繊維の靱性は、HPPE繊維の破断を防止し、比較的薄い糸の使用を可能にし、ひいては小型のヒンジ設計による新たな用途を生み出す。HPPE繊維は、曲げ疲労に対する非常に高い耐性も示す。これは、ヒンジの最も重要な機能が破断せずに多数回曲げることができることであるため、非常に有利である。
【0016】
本発明の文脈内で、繊維は、長さが実質的に不定であり、幅および厚さよりはるかに長い長さ寸法を有する細長い物体を意味することが理解される。ここで、繊維という用語は、モノフィラメント、マルチフィラメント糸、リボン、ストリップまたはテープなどを含み、規則的なまたは不規則な断面を有し得る。繊維という用語は、上記のもののいずれかの複数または上記のものの組合せも含む。
【0017】
モノフィラメントまたはテープ状の繊維の形態を有する繊維は、可変の力価を有するものであり得るが、通常10〜数十万dtexの範囲、好ましくは100〜25000dtexの範囲、より好ましくは200〜10000dtexの力価を有する。マルチフィラメント糸は、通常0.2〜25dtex、好ましくは約0.4または0.5〜20dtexの力価を有する複数のフィラメントを含有する。マルチフィラメント糸の力価も、例えば10または15〜数十万dtexの広い範囲で変化し得るが、好ましくは約100〜20000dtexの範囲、より好ましくは300〜10000dtexである。
【0018】
本明細書において、HPPE繊維は、少なくとも1.4N/tex、好ましくは少なくとも2.0N/tex、より好ましくは少なくとも2.5N/texあるいは少なくとも3.0N/texの靱性を有する、ポリエチレンから作製される繊維であることが理解される。繊維の引張強度、また単に強度、または靱性は、ASTM D885−85またはD2256−97に基づく公知の方法によって測定される。HPPE繊維の靱性の上限には理由がないが、利用可能な繊維は通常、約5〜6N/tex以下の靱性を有する。HPPE繊維は、例えば少なくとも50N/tex、好ましくは少なくとも75N/tex、少なくとも100N/texまたは少なくとも125N/texの高い引張係数も有する。HPPE繊維は、高弾性ポリエチレン繊維とも呼ばれる。
【0019】
HPPE繊維は、好適な溶媒に溶解させた超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)の溶液を紡糸してゲル繊維にし、溶媒の部分的なまたは完全な除去の前、その間、および/またはその後にその繊維を延伸することによって作製され得る。すなわち、いわゆるゲル紡糸プロセスによる。UHMWPEの溶液のゲル紡糸は、当業者に周知であり;欧州特許出願公開第0205960A号明細書、欧州特許出願公開第0213208A1号明細書、米国特許第4413110号明細書、英国特許出願公開第2042414A号明細書、欧州特許第0200547B1号明細書、欧州特許第0472114B1号明細書、国際公開第01/73173A1号パンフレット、およびAdvanced Fiber Spinning Technology,Ed.T.Nakajima,Woodhead Publ.Ltd(1994),ISBN 1−855−73182−7、ならびにそれらに引用される参照文献を含む多くの刊行物(全て参照により本明細書に援用される)に記載されている。
【0020】
UHMWPEは、少なくとも5dl/g、好ましくは約8〜40dl/gの固有粘度(IV、135℃でデカリンに溶解させた溶液において測定した場合)を有するポリエチレンであることが理解される。固有粘度は、MおよびMのような実際のモル質量パラメータより容易に測定可能なモル質量(分子量とも呼ばれる)の尺度である。IVとMとの間にはいくつかの経験的関係があるが、かかる関係は、モル質量分布によって決まる。式M=5.3710[IV]1.37(欧州特許出願公開第0504954A1号明細書)に基づいて、8dl/gのIVは、約930kg/モルのMに等しい。好ましくは、UHMWPEは、100個の炭素原子当たり1つ未満の分枝、好ましくは300個の炭素原子当たり1つ未満の分枝;通常少なくとも10個の炭素原子を含有する分枝もしくは側鎖もしくは鎖分枝を有する線状ポリエチレンである。線状ポリエチレンは、プロピレン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテンまたはオクテンのようなアルケンなどの最大で5モル%の1種以上のコモノマーをさらに含み得る。
【0021】
HPPE繊維がゲル紡糸プロセスによって作製されるとき、残留溶媒含量は好ましくは100ppm以下である。これは、ヒンジが医療用途に用いられるとき特に重要である。本明細書において、残留溶媒含量は、最終的な繊維にまだ残っている、HPPE繊維を作製する際に用いられる溶媒の含量を意味することが理解される。糸を作製するプロセスにおいて、UHMwPEのゲル紡糸用の公知の溶媒のいずれかを用いることができる。
【0022】
HPPE繊維は、高分子量を有するポリエチレンの溶融紡糸によっても作製可能であるが、靱性などの機械的特性は、ゲル紡糸プロセスによって作製されるHPPE繊維と比較してより制限される。溶融紡糸され得るポリエチレンの分子量の上限は、UHMWPEの分子量の範囲であり得るが、ゲル紡糸プロセスを用いた場合の上限より低い。溶融紡糸されたHPPE繊維は、上で定義したUHMWPEより低い分子量を有するポリエチレンからも作製され得る。溶融紡糸プロセスは、当該技術分野で広く知られており、PE組成物を加熱してPE溶融物を形成し、PE溶融物を押し出し、押し出された溶融物を冷却して固化されたPEを得て、固化されたPEを少なくとも1回延伸することを含む。このプロセスは、例えば欧州特許出願公開第1445356A1号明細書および欧州特許出願公開第1743659A1号明細書に記載されており、これらの文献は参照により本明細書に援用される。
【0023】
一実施形態において、UHMWPEは、少量、好ましくは1000個の炭素原子当たり少なくとも0.2または少なくとも0.3の比較的小さい基を、ペンダント側鎖、好ましくはC1〜C4アルキル基として含有する。かかる繊維は、高い強度および耐クリープ性の有利な組合せを示す。しかしながら、側基が大き過ぎたり、または側基の量が多過ぎたりすると、繊維を作製するプロセスに悪影響を及ぼす。このため、UHMWPEは、好ましくはメチルまたはエチル側基、より好ましくはメチル側基を含有する。側基の量は、好ましくは1000個の炭素原子当たり20以下、より好ましくは10以下、5以下、または3以下である。
【0024】
HPPE繊維は、少量、一般に5質量%未満、好ましくは3質量%未満の、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、流動促進剤などの通常の添加剤をさらに含有してもよい。UHMWPEは、単一ポリマーグレードであり得るが、例えばIVまたはモル質量分布、および/またはコモノマーまたは側基のタイプまたは数の異なる、2つ以上の異なるポリエチレングレードの混合物でもあり得る。
【0025】
第1の剛体および/または第2の剛体は金属であるのが好ましい。金属は、その引張強度および圧縮強度のために好ましい。あるいは、第1の剛体および/または第2の剛体は、樹脂を含浸させた強化繊維を含む複合材料を含む。強化繊維は、例えば、炭素、ガラス、SiC、B、Alであり得る。樹脂は、生体適合性タイプの樹脂から選択されるのが好ましい。
【0026】
第2の剛体は、好ましくは平面を画定する少なくとも1組の3つの連結箇所を有する限り、いずれの形状のものであってもよい。より好ましくは、第2の剛体は、連結箇所とさらなる連結箇所とが(多面体)空間を画定するように配置されたさらなる連結箇所も有する。第2の剛体は凹面を有するのが好ましい。例えば、第2の剛体は、矩形断面、三角形断面または他の形状を有してもよい。しかしながら、より好ましくは、第2の剛体は、ほぼ半球形を有する。
【0027】
一実施形態において、第2の剛体は、互いに対して堅固に配置された少なくとも2つの部分によって形成される。これは、例えば、平面部材(例えばリングのような)上に配置された連結箇所および平面部材から外れて配置されるが、例えば骨部分を介して平面部材に連結されるさらなる連結箇所を有することによって実現され得る。
【0028】
第1の剛体は、好ましくは、基部コネクタおよび任意選択のさらなるコネクタと係合している係合部分を含む棒状部分を備える。一実施形態において、さらなるコネクタは、無負荷状態において棒状部分のほぼ軸方向に、係合部分から第2の剛体の連結箇所まで延在する。「無負荷状態」という用語は、本明細書において、第1の剛体および第2の剛体を互いに対して移動させる外力が第1の剛体および第2の剛体に加えられていないことを意味する。ヒンジの無負荷状態において、基部コネクタは、通常、ある最小の張力で第1の剛体と第2の剛体との間で直線である。したがって、ヒンジのいわゆる無負荷状態は、基部コネクタに張力がかかっていないことを示さず、基部コネクタの張力が平衡を保っていることを示すことが認められるべきである。
【0029】
さらなるコネクタは、第1の剛体および第2の剛体が互いに引かれるとき、第1の剛体と第2の剛体との間の移動を制限する。好ましい実施形態において、さらなるコネクタは、基部コネクタと同じタイプのものであり、すなわち繊維から作製される糸であり、繊維の少なくとも一部は合成有機繊維である。さらなるコネクタは、例えば剛性、強度などに関して基部コネクタとほぼ同じ特性を有し得るが、非常に好ましい実施形態において、さらなるコネクタの張力下での剛性は、基部コネクタの剛性より低い。これにより、ヒンジのねじりおよび/または回転の際にコネクタの張力が高まるのに応じて、さらなるコネクタは変形することができる。より好ましくは、さらなるコネクタの剛性は、基部コネクタの剛性の50%未満である。剛性の低減は、例えば、別のタイプの糸または別の力価の同じ糸を用いることによって実現され得る。あるいは、さらなるコネクタは、例えばゴムまたは金属などのエラストマーのような、異なるタイプの材料から作製され得る。この実施形態において、さらなるコネクタは、糸ではなく、はりまたはばねである。
【0030】
基部コネクタは、好ましくは、第1の剛体および第2の剛体が互いに対して押されるとき、第1の剛体と第2の剛体との間の移動を制限する方向に延在する。基部コネクタの間の角度は、好ましくは、無負荷状態においてほぼ等しい。例えば、基部コネクタの数が3つである場合、好ましくは基部コネクタの連結箇所によって画定される三角形はほぼ正三角形である。基部コネクタの数が4つである場合、好ましくは基部コネクタの連結箇所によって画定される四角形はほぼ正方形である。
【0031】
好ましくは、基部コネクタ、さらなるコネクタのうちのいずれか2つの間の角度は、無負荷状態においてほぼ等しい。これは、糸の間の角度が、約100°〜約120°の範囲であり、好ましくは基部コネクタの数が3つである場合、約109.5°であることを意味する。
【0032】
基部コネクタおよび任意選択のさらなるコネクタの糸は、様々な方法で第1の剛体および第2の剛体に取り付けられ得る。例えば、剛体には、糸が貫通する孔が設けられていてもよく、糸が剛体から外れないように結び目が形成される。例えば、糸が孔を貫通した後、孔の直径より大きい結び目を形成することによって、糸が孔によって剛体から外れるのが防止される。一実施形態において、第1の剛体は中空である。糸は、第1の剛体に設けられた1つまたは複数の孔を貫通し、中空体の内部に結び目が形成される。結び目は、1つの糸またはいくつかの糸から形成され得る。別の実施形態において、第1の剛体は、結び目が周りに形成される突出部を備える。別の実施形態において、第1の剛体は、第2の剛体に面する端部にリングを備え、このリングに糸が巻き付けられる。別の実施形態において、基部コネクタおよび任意選択のさらなるコネクタのうちの2つ以上は、例えば、第1の剛体を介して第2の剛体における連結箇所から、第2の剛体における同じまたは別の連結箇所まで延在している1つの糸によって形成され得る。この実施形態は、糸の取り付けの数が制限されるため非常に有利である。本発明は、本発明に係るヒンジを含む医療器具にも関する。医療器具は、医療用具または医療用インプラントであり得る。好ましくは、継ぎ手部材における糸は、HPPE繊維から実質的になる。好ましくは、第1の剛体および第2の剛体は、外科用ステンレス鋼またはチタン合金、あるいはポリマー、好ましくはポリオレフィン、より好ましくはポリエチレン、最も好ましくはUHMWPEなどの生体適合性材料から実質的になる。
【0033】
本発明は、本発明に係るヒンジを含む人工関節にも関する。
【0034】
本発明は、本発明に係るヒンジを含む人工股関節にも関する。人工股関節は、大腿骨頭部分および臼蓋窩部分を含む。大腿骨頭部分は第1の剛体を構成し、臼蓋窩部分は第2の剛体を構成する。少なくとも4つの糸を含む継ぎ手部材の存在により、大腿骨頭部分は臼蓋窩部分に連結されるが、それに接触しない。大腿骨頭部分と臼蓋窩部分との間の摩耗によってポリマー粒子が緩んで体内に入り込む問題は生じない。
【0035】
同様に、本発明は、本発明に係るヒンジを含む人工肩関節にも関する。人工肩関節は、上腕骨頭部分および関節窩部分を含む。上腕骨頭部分は第1の剛体を構成し、関節窩部分は第2の剛体を構成する。
【0036】
本発明の別の態様は、本発明の第1の態様に係るヒンジを含む装置に関する。例えば、本発明に係るヒンジは、曲げの繰り返しを含む様々な機械的用途に用いられ得る。本明細書において、摺動部分がないことで、摩擦により連結部分の摺動面が徐々に摩耗するときの従来のヒンジに通常見られる時間の経過による運動パターンの変化がほとんどなく、連結部分のねじりまたは曲げ運動が非常に円滑になる。より小さい交互の前後回転を有する用途のための玉軸受の代用品が、本発明の別の主な用途である。例えば、本発明に係るヒンジを含むロボットアームが、ドアおよびアクチュエータにおける用途と同様に特に有利である。
【0037】
本発明に係るヒンジは、非常に大きいサイズも有し得る。かかる一例はオランダの「Maaslandkering」と呼ばれるダムなどのダムである。Maaslandkeringでは、2つの壁の摺動運動によってゲートが開閉され、この摺動運動は、非常に大きい玉軸受によって調節される。特に数千程度の力価を有するUHMWPE糸が用いられるとき、この玉軸受の代わりに本発明に係るヒンジが用いられ得る。
【0038】
本発明は、以後、添付の図面を参照してさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のヒンジの一実施形態の斜視図である。
【0040】
同じ参照番号は、実施形態における対応する要素に用いられていることが留意される。
【0041】
図1を参照すると、本発明に係るヒンジ100の一実施形態の斜視図が示されている。ヒンジ100は、第1の剛体10および第2の剛体20を含む。本明細書において、第1の剛体10は、第2の剛体20に面する端部に係合部分を有する棒形状を有するが、例えば(部分的な)ボール形、円錐形または不規則な形状のような、第1の剛体部材の他の形状も、本発明の範囲から逸脱せずに実現可能である。第2の剛体20は半球形を有するが、第2の剛体部材の他の形状も、本発明の範囲から逸脱せずに実現可能である。本明細書において、第1の剛体10は、第2の剛体20の凹面によって囲まれた空間の内部に延在している。4つの糸31、32、33、34はまとめて継ぎ手部材30と呼ばれ、第1の剛体10と第2の剛体20とを連結する。基部コネクタの糸32、33および34は各々、係合部分から第2の剛体20の連結箇所22、23、24まで延在している。さらなるコネクタの糸31(これは、本発明の本質的な特徴ではないが、この非常に好ましい実施形態に含まれる)は、棒の軸とほぼ同じ方向に、第1の剛体10の係合部分から第2の剛体20のさらなる連結箇所21まで延在している。これにより、含まれる力の好ましい平衡を保つことが可能になるが、棒の軸とほぼ同じ方向から外れたさらなる連結箇所の配置も実現可能である。場合によっては(例えば、ヒンジがほぼ垂直な配置で用いられない場合)、棒の軸とほぼ同じ方向から外れたさらなる連結箇所21の配置が非常に有利であり得る。係合部分は図1に示されていないが、例えば、糸31、32、33、34が連結されるループとして、または第1の剛体が中空である場合には開口としての形状であり得る。連結箇所22、23、24とさらなる連結箇所21とは4面体を画定する。基部コネクタが多くなるほど、より面数の多い多面体が画定され得る。糸の間の角度は約109.5度である。第1の剛体10の係合部分は、この4面体のほぼ中央にある。第1の剛体10を第2の剛体20の凹面に押し込むことは、さらなるコネクタの糸31によって抑えられないが、係合部分を反対方向に押し返す基部コネクタの糸32、33、34の相乗効果によって停止される。第1の剛体10を第2の剛体20の反対側に引くことは、係合部分を反対方向に引くさらなるコネクタの糸31によって抑えられる。しかしながら、第1の剛体10を第2の剛体20の反対側に引くことが予測される用途でない場合、さらなるコネクタは不要であり、省略され得る。第1の剛体10を、第2の剛体20に対して軸の周りに回転させることは、主に基部コネクタの糸32、33、34の存在によってある程度可能になる。
【0042】
この実施形態に対する様々な変更が可能であることが理解されよう。特に、第1の剛体と糸との連結は、多くの異なる方法で行われ得る。力が第1の剛体および第2の剛体にかけられるとき移動が固定された立体角の範囲内に制限されるように糸が係合部分と係合する限り、様々な連結が行われ得る。例えば、糸は、中空の棒の形状の第1の剛体に入り込み、第1の剛体の側壁における貫通孔から出てもよい。側壁の外側に形成される結び目により、糸が第1の剛体に固定される。
【0043】
あるいは、第2の剛体の凹面に面する第1の剛体の端部は、孔を備えた壁であってもよく、第1の剛体はこの場合も中空である。糸は、孔を貫通して第1の剛体に入り込む。結び目が、糸から第1の剛体の内部に形成される。結び目は、糸31、32、33、34が第1の剛体に固定されるように孔の直径より大きいサイズを有する。第2の剛体に対する、第1の剛体の移動は、孔の周縁と係合している糸によって調節され、この周縁は、この実施形態において第1の剛体の係合部分であるものとみなされる。
【0044】
別の変形例において、第1の剛体は、側壁に溝を備えた棒としての形状であり得る。糸は、溝の周りに巻かれて、溝の上に固定され得る。この場合、溝は係合部分として機能する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の剛体(10)と、第2の剛体(20)と、前記第1の剛体および前記第2の剛体に連結される継ぎ手部材(30)とを含むヒンジであって、前記継ぎ手部材が、少なくとも3つの基部コネクタ(32、33、34)を含み、各基部コネクタが、それぞれの連結箇所(22、23、24)において前記第2の剛体(20)に連結され、かつ前記第1の剛体(10)の係合部分と係合しており、前記基部コネクタ(32、33、34)が繊維から作製される糸であり、前記繊維の少なくとも一部が合成有機繊維であるヒンジ。
【請求項2】
前記少なくとも3つの基部コネクタが各々HPPE繊維を含み、好ましくは前記基部コネクタの繊維がHPPE繊維から実質的になる、請求項1に記載のヒンジ。
【請求項3】
さらなる連結箇所(21)において前記第2の剛体(20)に連結され、かつ前記第1の剛体(10)の係合部分と係合しているさらなるコネクタ(31)をさらに含み、前記連結箇所(22、23、24)と前記さらなる連結箇所(21)とが多面体を画定し、その多面体の中に前記第1の剛体の前記係合部分が位置決めされる、請求項1または2に記載のヒンジ。
【請求項4】
前記さらなるコネクタ(31)の剛性が、前記基部コネクタ(32、33、34)の剛性より低く、好ましくは前記さらなるコネクタ(31)の剛性が、前記基部コネクタ(32、33、34)の剛性の50%未満である、請求項3に記載のヒンジ。
【請求項5】
前記第1の剛体および/または第2の剛体が、金属または複合材料を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のヒンジ。
【請求項6】
前記第2の剛体(20)がほぼ半球形を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のヒンジ。
【請求項7】
前記第1の剛体が棒状部分を含み、前記棒状部分が、前記第1の剛体(10)の前記係合部分を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載のヒンジ。
【請求項8】
前記さらなるコネクタ(31)が、無負荷状態において前記棒状部分のほぼ軸方向に、前記第1の剛体(10)の前記係合部分から前記第2の剛体(20)の前記さらなる連結箇所(21)まで延在する、請求項7に記載のヒンジ。
【請求項9】
前記少なくとも3つの基部コネクタ(32、33、34)からなる群から選択される2つの基部コネクタの間の角度が、無負荷状態においてほぼ等しい、請求項1〜8のいずれか一項に記載のヒンジ。
【請求項10】
前記基部コネクタ(32、33、34)のうちの1つと前記さらなるコネクタ(31)との間の角度が、無負荷状態において前記基部コネクタ(32、33、34)の全てについてほぼ等しい、請求項1〜9のいずれか一項に記載のヒンジ。
【請求項11】
前記第1の剛体(10)が、前記係合部分を含む細長部分を含み、前記第2の剛体(20)がほぼ半球形を有し、前記継ぎ手部材(30)が、3つの基部コネクタ(32、33、34)および1つのさらなるコネクタ(31)からなり、前記継ぎ手部材(30)の前記4つのコネクタ(31、32、33、34)から選択されるいずれか2つのコネクタの間の角度が、無負荷状態において100°〜120°の範囲であり、好ましくは無負荷状態において約109.5°である、請求項1〜10のいずれか一項に記載のヒンジ。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のヒンジを含む装置。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のヒンジを含む医療器具。
【請求項14】
前記第1の剛体(10)を構成する大腿骨頭部分と、前記第2の剛体(20)を構成する臼蓋窩部分とを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載のヒンジを含む人工股関節。
【請求項15】
前記第1の剛体(10)を構成する上腕骨頭部分と、前記第2の剛体(20)を構成する関節窩部分とを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載のヒンジを含む人工肩関節。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2012−529920(P2012−529920A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514496(P2012−514496)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058354
【国際公開番号】WO2010/146039
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】