ヒンジ装置
【課題】摺動面の平坦度を改善し、テーパ、曲面やバリ・反りに起因した悪影響を軽減して安定した摩擦トルクを初期から継続して発生させることが可能なヒンジ装置を提供する。
【解決手段】固定側部材に対して回転側部材を回動可能に軸支する軸支部位に配置され、摺動面が相互に接触した状態で前記固定側部材及び回転側部材のそれぞれに連結される少なくとも2つの摩擦部材を備え、前記摺動面の間で摩擦トルクを発生しながら一方の摩擦部材が他方の摩擦部材に対して回動するヒンジ装置である。頂面が相手側の摩擦部材の摺動面に接触する複数の小凸部13が少なくとも一方の摩擦部材11の摺動面12に形成されている。
【解決手段】固定側部材に対して回転側部材を回動可能に軸支する軸支部位に配置され、摺動面が相互に接触した状態で前記固定側部材及び回転側部材のそれぞれに連結される少なくとも2つの摩擦部材を備え、前記摺動面の間で摩擦トルクを発生しながら一方の摩擦部材が他方の摩擦部材に対して回動するヒンジ装置である。頂面が相手側の摩擦部材の摺動面に接触する複数の小凸部13が少なくとも一方の摩擦部材11の摺動面12に形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノート型パソコンや携帯電話機のディスプレイを開閉させたり、自動車のコンソールボックスのリッドを開閉させるために用いられるヒンジ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコンでは、固定側部材としての装置本体に対し、回転側部材としてのディスプレイが開閉可能に取り付けられ、コンソールボックスでは、固定側部材としてのボックス本体に対し、回転側部材としてのリッドが開閉可能に取り付けられる。ヒンジ装置は、これらの回転側部材を固定側部材に回動可能に軸支する軸支部位に配置される。又、ヒンジ装置は、開閉される回転側部材を摩擦トルクによって所定の開放状態で保持するようになっている。
【0003】
図1は、上述した軸支部位に配置されるヒンジ装置1の一例を示し、アーム状に形成された可動ブラケット2が回転側部材(図示省略)に取り付けられ、クランク状に形成された固定ブラケット3が固定側部材(図示省略)に取り付けられる。可動ブラケット2には、シャフト4の一端4aが挿入されることにより、シャフト4が可動ブラケット2と一体回転するように取り付けられる。
【0004】
シャフト4の他端は、非円形のシャフト部4bとなっており、摩擦板5、固定ブラケット3のブラケット部3a、スプリングワッシャ6及び平座金7を貫通している。摩擦板5、スプリングワッシャ6及び平座金7は、シャフト部4bの外形に相応した非円形の貫通孔5a、6a、7aが形成されており、シャフト部4bが嵌合状態で貫通することにより、シャフト4の回転、すなわち可動ブラケット2の回転と一体回転する。これに対し、固定ブラケット3のブラケット部3aには、円形の貫通孔3bが形成されており、シャフト4のシャフト部4aが回転可能に貫通する。
【0005】
図1に示すヒンジ装置1において、可動ブラケット2に取り付けたシャフト4のシャフト部4bを摩擦板5、固定ブラケット3のブラケット部3a、スプリングワッシャ6及び平座金7に貫通させ、シャフト部4bの貫通端を加締めて摩擦板5、ブラケット部3a、スプリングワッシャ6及び平座金7を押圧して密着させると共にスプリングワッシャ6を撓ませる。これにより、摩擦板5と固定ブラケット3のブラケット部3aの対向面とが相互に摺動する摺動面となると共に、スプリングワッシャ6と固定ブラケット3のブラケット部3aの対向面とが相互に摺動する摺動面となり、これらの間で摩擦トルクが発生する。このようなヒンジ装置1においては、可動ブラケット2の回動によって可動側部材の回動が可能となり、この回動を停止することにより、上述した摺動面の摩擦トルクによって可動側部材を所定位置で停止させることができる。
【0006】
ヒンジ装置1においては、可動ブラケット2、平座金7がプレス加工によって成形されると共に、摺動面を共に有する摩擦板5、固定ブラケット3、スプリングワッシャ6がプレス加工によって成形される。ヒンジ装置1においては、相手部材と相互に摺動して摩擦トルクを発生する摩擦板5、ブラケット部3a、スプリングワッシャ6の摺動面は、平坦に加工されることが好ましいが、プレス加工では、平坦に加工することが難しく、テーパ状や曲面状に加工されたり、だれた加工とならざるを得ない。
【0007】
図14及び図15は、固定ブラケット3をプレス加工によって成形した場合におけるブラケット部3aの状態を示す。ブラケット部3aは摩擦板5及びスプリングワッシャ6に挟まれることにより、その両面が摺動面として機能するが、プレス加工では、図15の符号Kで示すように、ブラケット部3aの全体が幅方向にテーパ状に傾いたり、符号Lで示すように摺動面が曲面状となる。又、符号Mで示すように、バリ・反りも発生する。これらの不具合はバレル研磨等によって、ある程度改善できるが、完全な修復は難しい。このため、摺動面が平坦である場合に比べて安定した摩擦トルクを得ることができないものとなる。
【0008】
図15の符号K、L、Mで示すように、テーパ状に傾いたり、曲面状となったり、バリ・反りが摺動面に発生している場合においては、その摺動面が相手部材の摺動面と局部的に接触する。このため、回動動作で接触状態が変化し易く、ヒンジ装置1の使用中における摩擦トルクの変動が大きくばらつく。このような摩擦トルクのばらつきがあると、回転側部材の開閉操作性が悪くなったり、回転側部材の開状態の保持ができない不都合が発生する。
【0009】
かかるばらつきを軽減するため、従来では、初期に数十回の回動動作を行って初期摩耗を促進させて、摺動面をなじませて摩擦トルクをある程度、安定させる必要がある。このため、摩擦トルク安定までの回動動作が別途必要であり、製造の工程数が増える問題を有している。又、長期の使用においては、摺動面が摩耗荒れして摩擦係数が大きく変動し、この変動によって摩擦トルクが大小変動するため、回転側部材の回動操作性が低下したり、回転側部材の保持ができなくなる問題も有している。
【0010】
特許文献1には、グリス等の潤滑剤溜まりとなる非貫通の凹部を摺動面に設け、潤滑剤を安定して供給する技術が開示されている。特許文献2には、摺動面に溝条や梨地状シボを設け、摩耗による粉塵を収容して粉塵による摩擦トルクの変動を防止する技術が開示されている。しかしながら、これらの技術は、摺動面が平坦状態であったり、バリ・反りが改善されている場合にだけ有効に作用するものに過ぎず、プレス加工に起因して発生する上述の問題点を根本的に解決できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−46039公報
【特許文献2】特開平9−41781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、以上の従来の問題点を考慮してなされたものであり、摺動面の平坦度を改善し、テーパ、曲面やバリ・反りに起因した悪影響を軽減して安定した摩擦トルクを初期から継続して発生させることが可能なヒンジ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の発明のヒンジ装置は、固定側部材に対して回転側部材を回動可能に軸支する軸支部位に配置され、摺動面が相互に接触した状態で前記固定側部材及び回転側部材のそれぞれに連結される少なくとも2つの摩擦部材を備え、前記摺動面の間で摩擦トルクを発生しながら一方の摩擦部材が他方の摩擦部材に対して回動するヒンジ装置であって、頂面が相手側の摩擦部材の摺動面に接触する複数の小凸部が少なくとも一方の摩擦部材の摺動面に形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のヒンジ装置であって、前記2つの摩擦部材は、前記固定側部材又は回転側部材のシャフトが貫通しており、前記回動が前記シャフトを中心になされることを特徴とする。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のヒンジ装置であって、前記摺動面における複数の小凸部を除く部分が凹部となっており、前記凹部が潤滑剤保持部となっていることを特徴とする。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項記載のヒンジ装置であって、前記複数の小凸部の頂面を合わせた面積は、前記摩擦部材の摺動面の面積の20〜80%であることを特徴とする。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項記載のヒンジ装置であって、前記複数の小凸部は、前記摩擦部材の回転中心を中心として外周側に向かって均等に分布するように形成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項記載のヒンジ装置であって、前記摩擦部材は、プレスによって加工され、前記複数の小凸部及び凹部は、前記プレス加工時に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、2つの摩擦部材の内の少なくとも一方の摩擦部材の摺動面に複数の小凸部が形成され、この複数の小凸部の頂面が相手側の摩擦部材の摺動面と接触する構造となっていることにより、相手側の摺動面が局部的に接触することがなくなり、相手側の摺動面との接触部分が大きくなる。これにより、テーパや曲面、バリ・反りを軽減して摺動面の平坦度を改善することができる。
【0020】
このような本発明では、安定した摩擦トルクを初期から継続して発生させることが可能となる。このため、摩擦トルクを安定させるまでの初期の回動動作が不要となって工程数を削減することができる。又、長期使用においても、摩擦係数が大きく変動することがないため、初期から長期の間、回転側部材の開閉操作性が低下することがなく、回転側部材の開状態の保持も確実となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ヒンジ装置の一例の分解斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態の摩擦部材の平面図である。
【図3】図2におけるA−A線断面図である。
【図4】(a)〜(g)は、一実施形態の摩擦トルクの変動を示すグラフである。
【図5】図4の摩擦トルクの平均値をプロットしたグラフである。
【図6】比較例の摩擦部材の断面図である。
【図7】(a)〜(g)は、比較例の摩擦トルクの変動を示すグラフである。
【図8】図7の摩擦トルクの平均値をプロットしたグラフである。
【図9】一実施形態の摩擦部材の初期の断面図である。
【図10】60回回動後の摩擦部材の断面図である。
【図11】作動耐久試験のグラフである。
【図12】本発明の別の実施形態の摩擦部材を示す平面図である。
【図13】本発明のさらに別の実施形態の摩擦部材を示す平面図である。
【図14】従来の摩擦部材を示す平面図である。
【図15】図14におけるE−E線断面図及び部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図2は、本発明の一実施形態における摩擦部材11の平面図、図3は、図2のA−A線断面図、図4は、一実施形態における摩擦部材11の摩擦トルク変動を示す特性図である。
【0023】
図2に示す摩擦部材11は、図1に示すヒンジ装置1に適用されるものであり、摩擦部材11は、ヒンジ装置1における固定ブラケット3のブラケット部3bに対応している。従って、摩擦部材11は、固定ブラケット3を介して固定側部材(図示省略)に連結されるものであり、本発明における一方の摩擦部材となる。
【0024】
図1に示すように、ブラケット部3bの両側には、摩擦板5及びスプリングワッシャ6が配置され、これらが固定ブラケット3のブラケット部3b(本発明における摩擦部材11)に両側から接触している。摩擦板5及びスプリングワッシャ6は、シャフト4及び可動ブラケット2を介して回転側部材(図示省略)に連結されるものであり、本発明における他方(相手側)の摩擦部材となる。
【0025】
本実施形態において、一方の摩擦部材11(図1におけるブラケット部3b)の両面は、他方の摩擦部材(図1における摩擦板5及びスプリングワッシャ6)の対向面に接触した状態で摺動する。このため、一方の摩擦部材11の両面が摺動面12となる。他方の摩擦部材(図1における摩擦板5及びスプリングワッシャ6)の対向面は、一方の摩擦部材11(図1におけるブラケット部3b)の両面が接触した状態で摺動する。このため、他方の摩擦部材においては、その対向面が摺動面となる。
【0026】
図2に示すように、一方の摩擦部材11は外形が円形となっており、その中心部分には、貫通孔15が形成されている。貫通孔15は、円形となっており、図1におけるシャフト4のシャフト部4bが貫通する。シャフト部4bが貫通孔15を貫通することにより、一方の摩擦部材11は、シャフト部4bを中心に回動可能となっている。これに対し、他方の摩擦部材である摩擦板5及びスプリングワッシャ6はシャフト4と一体回転する。このような構造では、一方の摩擦部材11と他方の摩擦部材は、シャフト4を中心に回動する。
【0027】
図2及び図3に示すように、摩擦部材11の摺動面12には、複数の小凸部13が形成されている。本実施形態において、小凸部13は、摩擦部材11の両側の摺動面12に形成されるが、摩擦部材11の片側の摺動面12に形成されるものであっても良い。
【0028】
複数の小凸部13は、摩擦部材11の回転中心16を中心として外周側に向かって均等に分布するように摩擦部材11の摺動面12の全面にわたって形成されている。以下、本実施形態における小凸部13の形状、寸法等の条件について説明する。
【0029】
小凸部13は、摩擦部材11の摺動面12に所定のピッチ間隔で形成されている。又、小凸部13は、平面から見て四角形の柱状に形成されている。本実施形態において、ピッチ間隔は、0.3〜1.0mmの範囲で設定される。図2におけるα、βは、小凸部13の四角形の各辺の寸法であり、本実施形態においては、0.2〜0.8mm、好ましくは0.5mm程度に設定される。小凸部13の高さとしては、0.02〜0.2mm、好ましくは0.1mm程度に設定される。これらの数値は、摩擦部材11の直径が8mm、厚さ2mmの場合であり、摩擦部材11の大きさや厚さ、さらには、相手側の摩擦部材の大きさに応じて適宜変更することが可能である。
【0030】
複数の小凸部13は、相手側の摩擦部材に向かって突出しており、その頂面21が相手側の摩擦部材の摺動面に接触する。複数の小凸部13の頂面21を合わせた面積は、摩擦部材11の摺動面12の面積に対し、20〜80%、好ましくは40〜70%に設定される。摩擦部材11は、このように設定された頂面21を合わせた面積を有して相手側の摩擦部材の摺動面と接触する。このような接触面積を有して相手側の摩擦部材の摺動面と接触することにより、相手側の摺動面が摩擦部材11に局部的に接触することがなくなり、相手側の摺動面との接触部分が大きくなる。これにより、テーパや曲面、バリ・反りを軽減して摺動面の平坦度を改善することができる。
【0031】
図3に示すように、摩擦部材11の摺動面12においては、複数の小凸部13を除く部分が下方に凹んだ凹部18となっている。凹部18は、それぞれの小凸部13の間に形成されるものであり、グリス等の潤滑剤が充填される潤滑剤保持部とすることができる。凹部18を潤滑剤保持部とすることにより、相手側の摩擦部材との摺動時に潤滑作用がなされるため、接触状態が安定し、摩擦トルクが安定する。本実施形態において、凹部18は摩擦部材11を貫通することのない有底となっており、潤滑剤を安定して保持することができる。
【0032】
摩擦部材11を備えた固定ブラケット3(図1参照)の全体は、プレスによって加工される。複数の小凸部13及び凹部18は、摩擦部材11のプレス加工時にローレット状にプレス加工される。このような加工では、小凸部13及び凹部18の形成を摩擦部材11のプレス工程中に織り込めるため、後工程処理等が不要となる。例えば、摩擦部材11のプレス加工後に、小凸部13を面押し加工によって形成する場合には、プレス加工による圧力以上の圧力が必要になるのに比べ、加工工程を増加することなく、小凸部13を簡単に形成することができる。又、潤滑剤保持部となる凹部18も別工程で加工する必要がなくなる。このようなプレス加工を行うため、摩擦部材11としては、ステンレス、鉄系材料、銅合金等の金属材料が用いられる。
【0033】
次に、摩擦部材11の摩擦トルクの変動を比較例と共に説明する。図4は、本実施形態の摩擦部材11を相手側の摩擦部材と摺動させた場合の摩擦トルクの変動を示す。摩擦部材11としては、貫通孔15を有したステンレスからなる円形部品を用いた。小凸部13は、図2に示すように、貫通孔15の周囲に均等に分散するように形成されている。小凸部13は、寸法α、βが0.5mm、ピッチ間隔が5mmとなるように形成されている。相手側の摩擦部材の摺動面は、平坦面となっている。
【0034】
図4は、相手側の摩擦部材との回動回数に分けて示しており、(a)は初回回動、(b)は10回回動、(c)は20回回動、(d)は30回回動、(e)は40回回動、(f)は50回回動、(g)は60回回動における摩擦トルクを示している。それぞれの場合において、30個の摩擦部材を検査品として用いた。図4(a)〜(g)において、縦軸が摩擦トルク(N・mm)、横軸がそのトルクを発生した摩擦部材の個数を示す。特性曲線Fは、摩擦トルクの正規分布であり、特性曲線Gは、各回動数における摩擦トルクの平均値を示す。図4に示すように、本実施形態の摩擦部材11においては相手側の摩擦部材との回動回数(摺動回数)にかかわらず、摩擦トルクの平均値Gが安定している。
【0035】
図5は、図4における摩擦トルクの平均値をプロットしたものであり、縦軸が摩擦トルク(N・mm)、縦軸が摺動回数である。図5において、特性曲線Hが摩擦トルクの平均値、特性曲線Iが摩擦トルクの最小値と最大値の幅を示す。図5に示すように、本実施形態では、初期状態から回動回数が多くなっても摩擦トルクの平均値が安定した挙動となっている。
【0036】
図6は、比較例の摩擦部材100の断面、図7は、比較例の摩擦トルクの変動を示している。比較例の摩擦部材100は、本実施形態の摩擦部材11と同大同形状及び同材料によって形成されている。又、比較例の摩擦部材100はプレス加工により形成されるが、その摺動面110は、複数の小凸部13が形成されておらず、その表面(摺動面)に対してバレル研磨がなされている。
【0037】
図7は、図4に対応するグラフであり、摩擦トルクの平均値Gが回動回数が異なるたびに大きく変動している。図8は、図7における摩擦トルクの平均値をプロットしたものであり、本実施形態の図5に対応している。図8に示すように、比較例においては、初期からの摩擦トルクの平均値の変動が10%以上あり、50〜60の回動回数を経ることにより平均値が安定する。又、比較例においては、摩擦トルクの最小値と最大値の幅(特性曲線I)が大きく、摩擦トルクが大きくばらついている。これに対し、本実施形態では、図5に示すように、摩擦トルクの最小値と最大値の幅(特性曲線I)が小さく、摩擦トルクのばらつきが小さくなっている。
【0038】
図9及び図10は、本実施形態における小凸部13の摩耗状況を示しており、図9は製造直後における断面、図10は回動回数60回後の断面である。相手側の摩擦部材との摺動により小凸部13が摩耗するが、小凸部13の平坦状況にそれほど変化がない。このため、長期間安定した摩擦トルクを発生することができる。
【0039】
図11は、本実施形態の摩擦部材11と比較例の耐久試験結果を示す。図11においては、図4及び図7に用いたと同様の摩擦部材11、100により試験した。図11の横軸は回動回数、縦軸はトルク変動であり、トルク変動においては、初期のトルクを100%としたときの変動率としている。特性曲線Pは、本実施形態の耐久試験結果、特性曲線Qは比較例の耐久試験結果である。図11に示すように、本実施形態の摩擦部材11においては、比較例に比べてトルク変動の上昇が格段に抑制されている。この場合、潤滑剤が凹部18に充填されているため、潤滑剤切れを抑制することができ、トルク変動の抑制に寄与している。
【0040】
以上のような本実施形態の摩擦部材11では、頂面21が相手側の摩擦部材の摺動面と接触する複数の小凸部13を形成しているため、相手側の摺動面が局部的に接触することがなくなり、相手側の摺動面との接触部分が大きくなる。これにより、安定した摩擦トルクを初期から継続して発生させることができ、摩擦トルクを安定させるまでの初期の回動動作が不要となって工程数を削減することができる。長期使用においても、摩擦係数が大きく変動することがないため、初期から長期の間、回転側部材の開閉操作性が低下することがなく、回転側部材の開状態の保持も確実となる。
【0041】
図12及び図13は、本発明の別の実施形態の摩擦部材を示す。図12の摩擦部材11Aにおいては、摺動面12Aに形成される小凸部13Aが平面から見て円形となっている。図13の摩擦部材11Bにおいては、摺動面12Bに形成される小凸部13Bが平面から見て三角形状となっている。これらの小凸部13A及び13Bは、摩擦部材11A、11Bの回転中心を中心として外周に向かって均等に分散するように形成されている。これにより、長期間安定した摩擦トルクを発生することができる。
【0042】
本発明は、以上の実施形態に限定されることなく種々変形が可能である。小凸部13は、摩擦部材1の回転中心16を中心にして外周側に向かって均等に分布するように形成されていれば良く、回転中心16を中心として外周側に広がる放射状に配置しても良く、同心円状に配置しても良い。
【符号の説明】
【0043】
1:ヒンジ装置、2:可動ブラケット、3:固定ブラケット、3b:ブラケット部、4:シャフト、4b:シャフト部、5:摩擦板、6:スプリングワッシャ、7:平座金、11,11A,11B:摩擦部材、12,12A,12B:摺動面、13、13A、13B:小凸部、15:貫通孔、16:回転中心、18:凹部、21:頂面
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノート型パソコンや携帯電話機のディスプレイを開閉させたり、自動車のコンソールボックスのリッドを開閉させるために用いられるヒンジ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコンでは、固定側部材としての装置本体に対し、回転側部材としてのディスプレイが開閉可能に取り付けられ、コンソールボックスでは、固定側部材としてのボックス本体に対し、回転側部材としてのリッドが開閉可能に取り付けられる。ヒンジ装置は、これらの回転側部材を固定側部材に回動可能に軸支する軸支部位に配置される。又、ヒンジ装置は、開閉される回転側部材を摩擦トルクによって所定の開放状態で保持するようになっている。
【0003】
図1は、上述した軸支部位に配置されるヒンジ装置1の一例を示し、アーム状に形成された可動ブラケット2が回転側部材(図示省略)に取り付けられ、クランク状に形成された固定ブラケット3が固定側部材(図示省略)に取り付けられる。可動ブラケット2には、シャフト4の一端4aが挿入されることにより、シャフト4が可動ブラケット2と一体回転するように取り付けられる。
【0004】
シャフト4の他端は、非円形のシャフト部4bとなっており、摩擦板5、固定ブラケット3のブラケット部3a、スプリングワッシャ6及び平座金7を貫通している。摩擦板5、スプリングワッシャ6及び平座金7は、シャフト部4bの外形に相応した非円形の貫通孔5a、6a、7aが形成されており、シャフト部4bが嵌合状態で貫通することにより、シャフト4の回転、すなわち可動ブラケット2の回転と一体回転する。これに対し、固定ブラケット3のブラケット部3aには、円形の貫通孔3bが形成されており、シャフト4のシャフト部4aが回転可能に貫通する。
【0005】
図1に示すヒンジ装置1において、可動ブラケット2に取り付けたシャフト4のシャフト部4bを摩擦板5、固定ブラケット3のブラケット部3a、スプリングワッシャ6及び平座金7に貫通させ、シャフト部4bの貫通端を加締めて摩擦板5、ブラケット部3a、スプリングワッシャ6及び平座金7を押圧して密着させると共にスプリングワッシャ6を撓ませる。これにより、摩擦板5と固定ブラケット3のブラケット部3aの対向面とが相互に摺動する摺動面となると共に、スプリングワッシャ6と固定ブラケット3のブラケット部3aの対向面とが相互に摺動する摺動面となり、これらの間で摩擦トルクが発生する。このようなヒンジ装置1においては、可動ブラケット2の回動によって可動側部材の回動が可能となり、この回動を停止することにより、上述した摺動面の摩擦トルクによって可動側部材を所定位置で停止させることができる。
【0006】
ヒンジ装置1においては、可動ブラケット2、平座金7がプレス加工によって成形されると共に、摺動面を共に有する摩擦板5、固定ブラケット3、スプリングワッシャ6がプレス加工によって成形される。ヒンジ装置1においては、相手部材と相互に摺動して摩擦トルクを発生する摩擦板5、ブラケット部3a、スプリングワッシャ6の摺動面は、平坦に加工されることが好ましいが、プレス加工では、平坦に加工することが難しく、テーパ状や曲面状に加工されたり、だれた加工とならざるを得ない。
【0007】
図14及び図15は、固定ブラケット3をプレス加工によって成形した場合におけるブラケット部3aの状態を示す。ブラケット部3aは摩擦板5及びスプリングワッシャ6に挟まれることにより、その両面が摺動面として機能するが、プレス加工では、図15の符号Kで示すように、ブラケット部3aの全体が幅方向にテーパ状に傾いたり、符号Lで示すように摺動面が曲面状となる。又、符号Mで示すように、バリ・反りも発生する。これらの不具合はバレル研磨等によって、ある程度改善できるが、完全な修復は難しい。このため、摺動面が平坦である場合に比べて安定した摩擦トルクを得ることができないものとなる。
【0008】
図15の符号K、L、Mで示すように、テーパ状に傾いたり、曲面状となったり、バリ・反りが摺動面に発生している場合においては、その摺動面が相手部材の摺動面と局部的に接触する。このため、回動動作で接触状態が変化し易く、ヒンジ装置1の使用中における摩擦トルクの変動が大きくばらつく。このような摩擦トルクのばらつきがあると、回転側部材の開閉操作性が悪くなったり、回転側部材の開状態の保持ができない不都合が発生する。
【0009】
かかるばらつきを軽減するため、従来では、初期に数十回の回動動作を行って初期摩耗を促進させて、摺動面をなじませて摩擦トルクをある程度、安定させる必要がある。このため、摩擦トルク安定までの回動動作が別途必要であり、製造の工程数が増える問題を有している。又、長期の使用においては、摺動面が摩耗荒れして摩擦係数が大きく変動し、この変動によって摩擦トルクが大小変動するため、回転側部材の回動操作性が低下したり、回転側部材の保持ができなくなる問題も有している。
【0010】
特許文献1には、グリス等の潤滑剤溜まりとなる非貫通の凹部を摺動面に設け、潤滑剤を安定して供給する技術が開示されている。特許文献2には、摺動面に溝条や梨地状シボを設け、摩耗による粉塵を収容して粉塵による摩擦トルクの変動を防止する技術が開示されている。しかしながら、これらの技術は、摺動面が平坦状態であったり、バリ・反りが改善されている場合にだけ有効に作用するものに過ぎず、プレス加工に起因して発生する上述の問題点を根本的に解決できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−46039公報
【特許文献2】特開平9−41781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、以上の従来の問題点を考慮してなされたものであり、摺動面の平坦度を改善し、テーパ、曲面やバリ・反りに起因した悪影響を軽減して安定した摩擦トルクを初期から継続して発生させることが可能なヒンジ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の発明のヒンジ装置は、固定側部材に対して回転側部材を回動可能に軸支する軸支部位に配置され、摺動面が相互に接触した状態で前記固定側部材及び回転側部材のそれぞれに連結される少なくとも2つの摩擦部材を備え、前記摺動面の間で摩擦トルクを発生しながら一方の摩擦部材が他方の摩擦部材に対して回動するヒンジ装置であって、頂面が相手側の摩擦部材の摺動面に接触する複数の小凸部が少なくとも一方の摩擦部材の摺動面に形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のヒンジ装置であって、前記2つの摩擦部材は、前記固定側部材又は回転側部材のシャフトが貫通しており、前記回動が前記シャフトを中心になされることを特徴とする。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のヒンジ装置であって、前記摺動面における複数の小凸部を除く部分が凹部となっており、前記凹部が潤滑剤保持部となっていることを特徴とする。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項記載のヒンジ装置であって、前記複数の小凸部の頂面を合わせた面積は、前記摩擦部材の摺動面の面積の20〜80%であることを特徴とする。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項記載のヒンジ装置であって、前記複数の小凸部は、前記摩擦部材の回転中心を中心として外周側に向かって均等に分布するように形成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項記載のヒンジ装置であって、前記摩擦部材は、プレスによって加工され、前記複数の小凸部及び凹部は、前記プレス加工時に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、2つの摩擦部材の内の少なくとも一方の摩擦部材の摺動面に複数の小凸部が形成され、この複数の小凸部の頂面が相手側の摩擦部材の摺動面と接触する構造となっていることにより、相手側の摺動面が局部的に接触することがなくなり、相手側の摺動面との接触部分が大きくなる。これにより、テーパや曲面、バリ・反りを軽減して摺動面の平坦度を改善することができる。
【0020】
このような本発明では、安定した摩擦トルクを初期から継続して発生させることが可能となる。このため、摩擦トルクを安定させるまでの初期の回動動作が不要となって工程数を削減することができる。又、長期使用においても、摩擦係数が大きく変動することがないため、初期から長期の間、回転側部材の開閉操作性が低下することがなく、回転側部材の開状態の保持も確実となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ヒンジ装置の一例の分解斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態の摩擦部材の平面図である。
【図3】図2におけるA−A線断面図である。
【図4】(a)〜(g)は、一実施形態の摩擦トルクの変動を示すグラフである。
【図5】図4の摩擦トルクの平均値をプロットしたグラフである。
【図6】比較例の摩擦部材の断面図である。
【図7】(a)〜(g)は、比較例の摩擦トルクの変動を示すグラフである。
【図8】図7の摩擦トルクの平均値をプロットしたグラフである。
【図9】一実施形態の摩擦部材の初期の断面図である。
【図10】60回回動後の摩擦部材の断面図である。
【図11】作動耐久試験のグラフである。
【図12】本発明の別の実施形態の摩擦部材を示す平面図である。
【図13】本発明のさらに別の実施形態の摩擦部材を示す平面図である。
【図14】従来の摩擦部材を示す平面図である。
【図15】図14におけるE−E線断面図及び部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図2は、本発明の一実施形態における摩擦部材11の平面図、図3は、図2のA−A線断面図、図4は、一実施形態における摩擦部材11の摩擦トルク変動を示す特性図である。
【0023】
図2に示す摩擦部材11は、図1に示すヒンジ装置1に適用されるものであり、摩擦部材11は、ヒンジ装置1における固定ブラケット3のブラケット部3bに対応している。従って、摩擦部材11は、固定ブラケット3を介して固定側部材(図示省略)に連結されるものであり、本発明における一方の摩擦部材となる。
【0024】
図1に示すように、ブラケット部3bの両側には、摩擦板5及びスプリングワッシャ6が配置され、これらが固定ブラケット3のブラケット部3b(本発明における摩擦部材11)に両側から接触している。摩擦板5及びスプリングワッシャ6は、シャフト4及び可動ブラケット2を介して回転側部材(図示省略)に連結されるものであり、本発明における他方(相手側)の摩擦部材となる。
【0025】
本実施形態において、一方の摩擦部材11(図1におけるブラケット部3b)の両面は、他方の摩擦部材(図1における摩擦板5及びスプリングワッシャ6)の対向面に接触した状態で摺動する。このため、一方の摩擦部材11の両面が摺動面12となる。他方の摩擦部材(図1における摩擦板5及びスプリングワッシャ6)の対向面は、一方の摩擦部材11(図1におけるブラケット部3b)の両面が接触した状態で摺動する。このため、他方の摩擦部材においては、その対向面が摺動面となる。
【0026】
図2に示すように、一方の摩擦部材11は外形が円形となっており、その中心部分には、貫通孔15が形成されている。貫通孔15は、円形となっており、図1におけるシャフト4のシャフト部4bが貫通する。シャフト部4bが貫通孔15を貫通することにより、一方の摩擦部材11は、シャフト部4bを中心に回動可能となっている。これに対し、他方の摩擦部材である摩擦板5及びスプリングワッシャ6はシャフト4と一体回転する。このような構造では、一方の摩擦部材11と他方の摩擦部材は、シャフト4を中心に回動する。
【0027】
図2及び図3に示すように、摩擦部材11の摺動面12には、複数の小凸部13が形成されている。本実施形態において、小凸部13は、摩擦部材11の両側の摺動面12に形成されるが、摩擦部材11の片側の摺動面12に形成されるものであっても良い。
【0028】
複数の小凸部13は、摩擦部材11の回転中心16を中心として外周側に向かって均等に分布するように摩擦部材11の摺動面12の全面にわたって形成されている。以下、本実施形態における小凸部13の形状、寸法等の条件について説明する。
【0029】
小凸部13は、摩擦部材11の摺動面12に所定のピッチ間隔で形成されている。又、小凸部13は、平面から見て四角形の柱状に形成されている。本実施形態において、ピッチ間隔は、0.3〜1.0mmの範囲で設定される。図2におけるα、βは、小凸部13の四角形の各辺の寸法であり、本実施形態においては、0.2〜0.8mm、好ましくは0.5mm程度に設定される。小凸部13の高さとしては、0.02〜0.2mm、好ましくは0.1mm程度に設定される。これらの数値は、摩擦部材11の直径が8mm、厚さ2mmの場合であり、摩擦部材11の大きさや厚さ、さらには、相手側の摩擦部材の大きさに応じて適宜変更することが可能である。
【0030】
複数の小凸部13は、相手側の摩擦部材に向かって突出しており、その頂面21が相手側の摩擦部材の摺動面に接触する。複数の小凸部13の頂面21を合わせた面積は、摩擦部材11の摺動面12の面積に対し、20〜80%、好ましくは40〜70%に設定される。摩擦部材11は、このように設定された頂面21を合わせた面積を有して相手側の摩擦部材の摺動面と接触する。このような接触面積を有して相手側の摩擦部材の摺動面と接触することにより、相手側の摺動面が摩擦部材11に局部的に接触することがなくなり、相手側の摺動面との接触部分が大きくなる。これにより、テーパや曲面、バリ・反りを軽減して摺動面の平坦度を改善することができる。
【0031】
図3に示すように、摩擦部材11の摺動面12においては、複数の小凸部13を除く部分が下方に凹んだ凹部18となっている。凹部18は、それぞれの小凸部13の間に形成されるものであり、グリス等の潤滑剤が充填される潤滑剤保持部とすることができる。凹部18を潤滑剤保持部とすることにより、相手側の摩擦部材との摺動時に潤滑作用がなされるため、接触状態が安定し、摩擦トルクが安定する。本実施形態において、凹部18は摩擦部材11を貫通することのない有底となっており、潤滑剤を安定して保持することができる。
【0032】
摩擦部材11を備えた固定ブラケット3(図1参照)の全体は、プレスによって加工される。複数の小凸部13及び凹部18は、摩擦部材11のプレス加工時にローレット状にプレス加工される。このような加工では、小凸部13及び凹部18の形成を摩擦部材11のプレス工程中に織り込めるため、後工程処理等が不要となる。例えば、摩擦部材11のプレス加工後に、小凸部13を面押し加工によって形成する場合には、プレス加工による圧力以上の圧力が必要になるのに比べ、加工工程を増加することなく、小凸部13を簡単に形成することができる。又、潤滑剤保持部となる凹部18も別工程で加工する必要がなくなる。このようなプレス加工を行うため、摩擦部材11としては、ステンレス、鉄系材料、銅合金等の金属材料が用いられる。
【0033】
次に、摩擦部材11の摩擦トルクの変動を比較例と共に説明する。図4は、本実施形態の摩擦部材11を相手側の摩擦部材と摺動させた場合の摩擦トルクの変動を示す。摩擦部材11としては、貫通孔15を有したステンレスからなる円形部品を用いた。小凸部13は、図2に示すように、貫通孔15の周囲に均等に分散するように形成されている。小凸部13は、寸法α、βが0.5mm、ピッチ間隔が5mmとなるように形成されている。相手側の摩擦部材の摺動面は、平坦面となっている。
【0034】
図4は、相手側の摩擦部材との回動回数に分けて示しており、(a)は初回回動、(b)は10回回動、(c)は20回回動、(d)は30回回動、(e)は40回回動、(f)は50回回動、(g)は60回回動における摩擦トルクを示している。それぞれの場合において、30個の摩擦部材を検査品として用いた。図4(a)〜(g)において、縦軸が摩擦トルク(N・mm)、横軸がそのトルクを発生した摩擦部材の個数を示す。特性曲線Fは、摩擦トルクの正規分布であり、特性曲線Gは、各回動数における摩擦トルクの平均値を示す。図4に示すように、本実施形態の摩擦部材11においては相手側の摩擦部材との回動回数(摺動回数)にかかわらず、摩擦トルクの平均値Gが安定している。
【0035】
図5は、図4における摩擦トルクの平均値をプロットしたものであり、縦軸が摩擦トルク(N・mm)、縦軸が摺動回数である。図5において、特性曲線Hが摩擦トルクの平均値、特性曲線Iが摩擦トルクの最小値と最大値の幅を示す。図5に示すように、本実施形態では、初期状態から回動回数が多くなっても摩擦トルクの平均値が安定した挙動となっている。
【0036】
図6は、比較例の摩擦部材100の断面、図7は、比較例の摩擦トルクの変動を示している。比較例の摩擦部材100は、本実施形態の摩擦部材11と同大同形状及び同材料によって形成されている。又、比較例の摩擦部材100はプレス加工により形成されるが、その摺動面110は、複数の小凸部13が形成されておらず、その表面(摺動面)に対してバレル研磨がなされている。
【0037】
図7は、図4に対応するグラフであり、摩擦トルクの平均値Gが回動回数が異なるたびに大きく変動している。図8は、図7における摩擦トルクの平均値をプロットしたものであり、本実施形態の図5に対応している。図8に示すように、比較例においては、初期からの摩擦トルクの平均値の変動が10%以上あり、50〜60の回動回数を経ることにより平均値が安定する。又、比較例においては、摩擦トルクの最小値と最大値の幅(特性曲線I)が大きく、摩擦トルクが大きくばらついている。これに対し、本実施形態では、図5に示すように、摩擦トルクの最小値と最大値の幅(特性曲線I)が小さく、摩擦トルクのばらつきが小さくなっている。
【0038】
図9及び図10は、本実施形態における小凸部13の摩耗状況を示しており、図9は製造直後における断面、図10は回動回数60回後の断面である。相手側の摩擦部材との摺動により小凸部13が摩耗するが、小凸部13の平坦状況にそれほど変化がない。このため、長期間安定した摩擦トルクを発生することができる。
【0039】
図11は、本実施形態の摩擦部材11と比較例の耐久試験結果を示す。図11においては、図4及び図7に用いたと同様の摩擦部材11、100により試験した。図11の横軸は回動回数、縦軸はトルク変動であり、トルク変動においては、初期のトルクを100%としたときの変動率としている。特性曲線Pは、本実施形態の耐久試験結果、特性曲線Qは比較例の耐久試験結果である。図11に示すように、本実施形態の摩擦部材11においては、比較例に比べてトルク変動の上昇が格段に抑制されている。この場合、潤滑剤が凹部18に充填されているため、潤滑剤切れを抑制することができ、トルク変動の抑制に寄与している。
【0040】
以上のような本実施形態の摩擦部材11では、頂面21が相手側の摩擦部材の摺動面と接触する複数の小凸部13を形成しているため、相手側の摺動面が局部的に接触することがなくなり、相手側の摺動面との接触部分が大きくなる。これにより、安定した摩擦トルクを初期から継続して発生させることができ、摩擦トルクを安定させるまでの初期の回動動作が不要となって工程数を削減することができる。長期使用においても、摩擦係数が大きく変動することがないため、初期から長期の間、回転側部材の開閉操作性が低下することがなく、回転側部材の開状態の保持も確実となる。
【0041】
図12及び図13は、本発明の別の実施形態の摩擦部材を示す。図12の摩擦部材11Aにおいては、摺動面12Aに形成される小凸部13Aが平面から見て円形となっている。図13の摩擦部材11Bにおいては、摺動面12Bに形成される小凸部13Bが平面から見て三角形状となっている。これらの小凸部13A及び13Bは、摩擦部材11A、11Bの回転中心を中心として外周に向かって均等に分散するように形成されている。これにより、長期間安定した摩擦トルクを発生することができる。
【0042】
本発明は、以上の実施形態に限定されることなく種々変形が可能である。小凸部13は、摩擦部材1の回転中心16を中心にして外周側に向かって均等に分布するように形成されていれば良く、回転中心16を中心として外周側に広がる放射状に配置しても良く、同心円状に配置しても良い。
【符号の説明】
【0043】
1:ヒンジ装置、2:可動ブラケット、3:固定ブラケット、3b:ブラケット部、4:シャフト、4b:シャフト部、5:摩擦板、6:スプリングワッシャ、7:平座金、11,11A,11B:摩擦部材、12,12A,12B:摺動面、13、13A、13B:小凸部、15:貫通孔、16:回転中心、18:凹部、21:頂面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側部材に対して回転側部材を回動可能に軸支する軸支部位に配置され、摺動面が相互に接触した状態で前記固定側部材及び回転側部材のそれぞれに連結される少なくとも2つの摩擦部材を備え、前記摺動面の間で摩擦トルクを発生しながら一方の摩擦部材が他方の摩擦部材に対して回動するヒンジ装置であって、
頂面が相手側の摩擦部材の摺動面に接触する複数の小凸部が少なくとも一方の摩擦部材の摺動面に形成されていることを特徴とするヒンジ装置。
【請求項2】
前記2つの摩擦部材は、前記固定側部材又は回転側部材のシャフトが貫通しており、前記回動が前記シャフトを中心になされることを特徴とする請求項1記載のヒンジ装置。
【請求項3】
前記摺動面における複数の小凸部を除く部分が凹部となっており、前記凹部が潤滑剤保持部となっていることを特徴とする請求項1又は2記載のヒンジ装置。
【請求項4】
前記複数の小凸部の頂面を合わせた面積は、前記摩擦部材の摺動面の面積の20〜80%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のヒンジ装置。
【請求項5】
前記複数の小凸部は、前記摩擦部材の回転中心を中心として外周側に向かって均等に分布するように形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のヒンジ装置。
【請求項6】
前記摩擦部材は、プレスによって加工され、前記複数の小凸部及び凹部は、前記プレス加工時に形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のヒンジ装置。
【請求項1】
固定側部材に対して回転側部材を回動可能に軸支する軸支部位に配置され、摺動面が相互に接触した状態で前記固定側部材及び回転側部材のそれぞれに連結される少なくとも2つの摩擦部材を備え、前記摺動面の間で摩擦トルクを発生しながら一方の摩擦部材が他方の摩擦部材に対して回動するヒンジ装置であって、
頂面が相手側の摩擦部材の摺動面に接触する複数の小凸部が少なくとも一方の摩擦部材の摺動面に形成されていることを特徴とするヒンジ装置。
【請求項2】
前記2つの摩擦部材は、前記固定側部材又は回転側部材のシャフトが貫通しており、前記回動が前記シャフトを中心になされることを特徴とする請求項1記載のヒンジ装置。
【請求項3】
前記摺動面における複数の小凸部を除く部分が凹部となっており、前記凹部が潤滑剤保持部となっていることを特徴とする請求項1又は2記載のヒンジ装置。
【請求項4】
前記複数の小凸部の頂面を合わせた面積は、前記摩擦部材の摺動面の面積の20〜80%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のヒンジ装置。
【請求項5】
前記複数の小凸部は、前記摩擦部材の回転中心を中心として外周側に向かって均等に分布するように形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のヒンジ装置。
【請求項6】
前記摩擦部材は、プレスによって加工され、前記複数の小凸部及び凹部は、前記プレス加工時に形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のヒンジ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−80509(P2011−80509A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231917(P2009−231917)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】
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