説明

ヒータ線付きシート及びその製造方法、並びにヒータ装置

【課題】より簡便な方法によりヒータ線付きシートを製造して、低コスト化を図る。
【解決手段】ミシンを用い、電気絶縁性及び耐熱性を有する長繊維を編組してなる被覆体で発熱素線を包囲したヒータ線を、所定のパターンに沿って連続的に供給しながら耐熱性縫糸によりシート状基材に縫い付けて、ヒータ線付きシートを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性のシート状基材にヒータ線を縫着したヒータ線付きシート、及びその製造方法に関する。また、本発明は、前記ヒータ線付きシートを備えるヒータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配管や各種装置を加熱するために、ヒータ線とシート状断熱部材とを一体化したヒータ線付きシートが多用されている。このヒータ線付きシートは、シート状断熱部材の表面にヒータ線を所定のパターンで縫い付けて製造されるが、生産性を高めるためにミシンを用いてヒータ線を縫い付けることが行われている(特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−164156号公報
【特許文献2】特開2000−106268号公報
【特許文献3】特開平5−226066号公報
【特許文献4】特開平1−169892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヒータ線付きシートを縫い付ける際、これまでは、ヒータ線を断熱部材の表面に所定のパターンに一致させて配置し、仮止めしてパターンを維持した状態で、ミシンで縫い付けている。しかし、仮止めは手作業で行われ、製造コストに反映される。また、ヒータ線をパターンに沿って追随させ、同時に指で押さえ付けながらミシンで縫い付けることも行われているが、この方法も手作業であり、製造コストに反映される。
【0005】
このように、従来のミシンによる縫い付け方法では、人手に頼る部分が大きく、製造コストを抑える上で障害になっている。そこで本発明は、より簡便な方法によりヒータ線付きシートを製造して、低コスト化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は下記を提供する。
(1)耐熱性を有する柔軟性のシート状基材に、ヒータ線を縫着してなるヒータ線付きシートの製造方法であって、
ミシンを用い、電気絶縁性及び耐熱性を有する長繊維を編組してなる被覆体で発熱素線を包囲したヒータ線を、所定のパターンに沿って連続的に供給しながら耐熱性縫糸によりシート状基材に縫い付けることを特徴とするヒータ線付きシートの製造方法。
(2)刺繍用ミシンを用いることを特徴とする上記(1)記載のヒータ線付きシートの製造方法。
(3)被覆体が2重構造であるヒータ線を用いることを特徴とする上記(1)または(2)記載のヒータ線付きシートの製造方法。
(4)上記(1)〜(3)の何れか1項に記載の方法により得られ、
耐熱性を有する柔軟性のシート状基材の表面に、電気絶縁性及び耐熱性を有する長繊維を編組してなる被覆体で発熱素線を包囲したヒータ線を、所定のパターンに沿って耐熱性縫糸により縫着したことを特徴とするヒータ線付きシート。
(5)被覆体が2重構造であることを特徴とする上記(4)記載のヒータ線付きシート。
(6)上記(4)または(5)に記載のヒータ線付きシートと、ヒータ線付きシートの少なくともヒータ線が縫着された側の面を覆う柔軟性を有する耐熱性のカバー部材とを備えることを特徴とするヒータ装置。
(7)配管加熱用であり、クリーンルーム内で使用されることを特徴とする上記(6)に記載のヒータ装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヒータ線をパターンに一致させて仮止めしたり、パターンに追従して指で押さえながら縫い付ける方法のような手作業が不要になり、製造コストを低減することができる。また、ヒータ線の被覆体が長繊維を組編したものであるため、ヒータ線をシート状基材に供給する際の送り出しが円滑に行われるようになり、ヒータ線の曲率半径が小さいパターンや、複雑なパターンにも良好に追従させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】マントルヒータの外観を示す斜視図である。
【図2】図1に示すマントルヒータの加熱部分の一部を示す拡大斜視図である。
【図3】図1に示すマントルヒータを配管に装着した状態を示す側面図である。
【図4】ヒータ線を示す拡大斜視図である。
【図5】ヒータ線の他の例を示す拡大斜視図である。
【図6】ヒータ線の縫い付け方法の一例(本縫い)を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0010】
図1は本発明のヒータ線付きシートを応用したヒータ装置の一例としてのマントルヒータの外観を示す斜視図であり、図2は加熱部分の一部を示す拡大斜視図であり、図3はマントルヒータを配管に装着した状態を示す側面図である。図示されるように、マントルヒータAは、断熱性で柔軟性を有するシート状基材1の表面に、ヒータ線4を所定のパターンに縫い付け、更にヒータ線4が縫い付けられた面上に断熱材2を積層し、全体を袋状のカバー部材3で包囲し、更にカバー部材3の一部から引き出したリード線6に電源接続用端子またはコネクタ7を取り付けて構成されている。また、マントルヒータAは、配管に巻き付けて使用され、巻き付けた状態を保持するために、カバー部材3には、留め具8を有する複数本の耐熱クロス製のベルト9が縫着され、所要部位に、同様な材料で作ったベルトガイド10が縫着されており、ベルト9を留め具8で係止する構成になっている。そして、図3に示すように、マントルヒータAを配管Bに巻き付け、ベルト9を留め具8により固定する。尚、留め具8に代えて、ベルト9の端部の表裏面に面ファスナーを付設してもよい。
【0011】
シート状基材1は、耐熱性及び柔軟性を有する限り制限はないが、例えばシリコンスポンジ製のシート、無機繊維ブランケット、耐熱性ゴムシート、ガラス繊維や、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維といった耐熱性繊維を織り込んだ無機繊維製クロス等を使用できる。
【0012】
断熱材2は、ガラスファイバーやセラミックファイバー、シリカファイバー等を集成し、ニードル加工を施した無機繊維マットを使用できる。また、コロイダルシリカやアルミナゾル、ケイ酸ソーダ等の無機質バインダーや、でんぷんなどの有機質バインダーでマット状に成形してもよい。あるいは、アラミドやポリアミド、ポリイミド等の耐熱性の有機樹脂製多孔質成形体とすることもできる。こうした断熱材の厚さは、5〜100mmが適当であり、5〜50mmが好適であり、8〜30mmがさらに好適である。
【0013】
カバー部材3は内部からの発塵を抑える部材であり、例えばガラス繊維や、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維といった無機繊維からなる無機繊維製クロス(織布)、こういった無機繊維製クロスに前記フッ素系樹脂をコーティング処理したフッ素樹脂コーティング無機繊維製クロスを使用できる。従って、マントルヒータAは、クリーンルームでの使用に好適となる。
【0014】
また、カバー部材3として、PTFE(ポリテトラフォルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ETFE(テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体)、ECTFE(クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフロライド)等のフッ素系樹脂からなるフッ素樹脂製シート、あるいは前記のフッ素系樹脂の繊維を編んだフッ素樹脂繊維製クロス(織布)を使用することもできる。
【0015】
さらに、上記フッ素系樹脂以外にポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケルトン、ポリフタルアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリメチルペンテン等の耐熱性ではあるが、フッ素系樹脂よりは低融点の樹脂も使用できる。
【0016】
ヒータ線4は、ニクロム線やカンタル線等の発熱素線を、電気絶縁性及び耐熱性を有する長繊維、例えば繊維太さが10〜300tex、より好ましくは50〜200texの、例えばガラス繊維や、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維といった長繊維を編組してなる被覆体で被覆したものである。ここで、長繊維とは、ヤーン、ロービング、ストランド、フィラメントなどを含む糸状のものをいう。長繊維を用いることにより、絶縁性が高まるとともに摺動性も高まり、後述するように、シート状基材1に縫い付ける際にミシンから所定のパターンに押し出しやすくなる。また、被覆体は、発熱素線の外周面に長繊維を編み込む方が、筒状の被覆体を発熱素線に被嵌するよりも発熱素線と被覆体との密着性が増して好ましい。すなわち、こうした編組してなる被覆体によれば、発熱素線を締め付けるように編み込むことができるので発熱素線と被覆体との密着性を高めることができる。
【0017】
また、被覆体は2重構造にすることが好ましく、例えば図4に示すように、耐熱性が高く保護効果により優れるアルミナ系長繊維からなる内層42と、アルミナ系繊維よりは保護効果が劣るものの安価であるシリカ系長繊維からなる外層43との2層構造とすることができる。また、内層42、外層43ともにシリカ系長繊維により構成することもできる。これにより、ヒータ線4の保護とともに、パターン追従性が高まる。尚、図中の符合41は、上記した発熱素線である。
【0018】
また、図5に示すように、無機繊維製のフェルトを内層42aに用いてもよい。このフェルト状の内層42aを製造するには、バインダー溶液に無機短繊維を分散させたスラリーに発熱素線41を浸して通過させ、乾燥することにより、発熱素線41の表面に無機短繊維が集成したフェルトを固着させることができる。内層42aは、短繊維が複雑に絡み合っているために、一旦形成された後は加熱によりバインダーが消失しても固着した状態を維持し続けることができる。そのため、バインダーは耐熱性を必要とせず、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、酸化ケイ素、グリコール酸ナトリウム等の一般的なバインダーを使用することができる。また、無機短繊維としては、例えばシリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維といった無機短繊維等を使用することができる。このようなフェルト状の内層42aは、強固であるとともに、高い柔軟性を備えており、高温に加熱されても剥離することが無く、微粉の発生も少ない。
【0019】
被覆体の厚さには制限はないが、2層構造の場合は、内層42、42aを100μm以上にすることが好ましく、300〜1000μmがより好ましい。尚、フェルト状の内層42aの厚さは、スラリー溶液におけるセラミック短繊維の濃度により制御することができる。また、外層43の厚さは100μm以上にすることが好ましく、300〜1000μmがより好ましい。長繊維を編組したものを1層で用いる場合は、100μm以上にすることが好ましく、300〜2000μmがより好ましい。
【0020】
尚、ヒータ線4を縫い付ける縫糸は、耐熱性を有する繊維を撚り合わせたものであり、例えばガラスヤーンやシリカヤーンを用いることができる。
【0021】
本発明では、上記のマントルヒータAを製造する際、ミシンを用い、シート状基材1の表面にヒータ線4を供給しながら、縫糸で縫い付ける。このような縫い付けを実施するには、刺繍用ミシンを用いることができる。刺繍用ミシンは、刺繍模様の線を構成する刺繍糸に、縫糸上を巻き付けるようにして布に縫い付けることができ、刺繍糸の代わりにヒータ線4を用いることで、シート状基材1にヒータ線4を縫い付けることができる。
【0022】
縫い方に制限はないが、本縫いや単環縫いを行うことができる。本縫いは、図6に示すように、シート状基材1の上から、穴のあいたミシン針50の穴51に通された上糸55が、針50ごとシート状基材1を貫通し、その際シート状基材1の裏側の下糸56と交差させ、縫い目を作る縫い方であり、解けにくく強度に優れるなどの利点を有する。
【0023】
ヒータ線4は所定のパターンに従いシート状基材1の表面に縫い付けられるが、パターンのデータは図示されないコンピュータに格納されており、ミシンの昇降筒の動きをコンピュータでパターンに合わせて制御することにより、自動化が可能である。しかも、ヒータ線4は、シート状基材1に供給されるのとほぼ同時に上糸や下糸により縫い付けられるため、従来のように、ヒータ線4を仮縫いして固定したり、縫製時にヒータ線4を指で押える必要もない。
【符号の説明】
【0024】
A マントルヒータ
1 シート状基材
2 断熱材
3 カバー部材
4 ヒータ線
8 留め具
9 ベルト
41 発熱素線
42、42a 内層
43 外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性を有する柔軟性のシート状基材に、ヒータ線を縫着してなるヒータ線付きシートの製造方法であって、
ミシンを用い、電気絶縁性及び耐熱性を有する長繊維を編組してなる被覆体で発熱素線を包囲したヒータ線を、所定のパターンに沿って連続的に供給しながら耐熱性縫糸によりシート状基材に縫い付けることを特徴とするヒータ線付きシートの製造方法。
【請求項2】
刺繍用ミシンを用いることを特徴とする請求項1記載のヒータ線付きシートの製造方法。
【請求項3】
被覆体が2重構造であるヒータ線を用いることを特徴とする請求項1または2記載のヒータ線付きシートの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の方法により得られ、
耐熱性を有する柔軟性のシート状基材の表面に、電気絶縁性及び耐熱性を有する長繊維を編組してなる被覆体で発熱素線を包囲したヒータ線を、所定のパターンに沿って耐熱性縫糸により縫着したことを特徴とするヒータ線付きシート。
【請求項5】
被覆体が2重構造であることを特徴とする請求項4記載のヒータ線付きシート。
【請求項6】
請求項4または5に記載のヒータ線付きシートと、ヒータ線付きシートの少なくともヒータ線が縫着された側の面を覆う柔軟性を有する耐熱性のカバー部材とを備えることを特徴とするヒータ装置。
【請求項7】
配管加熱用であり、クリーンルーム内で使用されることを特徴とする請求項6に記載のヒータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−209208(P2012−209208A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75609(P2011−75609)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】