ヒートポンプ用吸着材及びその製造方法
【課題】発生した吸着熱を速やかに移動させうる吸着材構造を有するヒートポンプ用吸着材及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】熱伝導部材の表面に、金属酸化物から成るウィスカーが形成されているヒートポンプ用吸着材である。熱伝導部材が貫通した連結空孔を備える多孔質金属である。熱伝導部材に酸化物ウィスカーの主成分である元素が含まれている。熱伝導部材の表面に熱伝導部材と異なる組成から成る層が形成され、酸化物ウィスカーの主成分である金属元素が含まれている。
上記ヒートポンプ用吸着材を製造するに当たり、熱伝導部材乃至その前駆体を微量酸素の存在中で加熱処理し、酸化物ウィスカーを形成させる。
【解決手段】熱伝導部材の表面に、金属酸化物から成るウィスカーが形成されているヒートポンプ用吸着材である。熱伝導部材が貫通した連結空孔を備える多孔質金属である。熱伝導部材に酸化物ウィスカーの主成分である元素が含まれている。熱伝導部材の表面に熱伝導部材と異なる組成から成る層が形成され、酸化物ウィスカーの主成分である金属元素が含まれている。
上記ヒートポンプ用吸着材を製造するに当たり、熱伝導部材乃至その前駆体を微量酸素の存在中で加熱処理し、酸化物ウィスカーを形成させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプ用吸着材及びその製造方法に係り、更に詳細には、従来品に比べて熱交換速度を向上させたヒートポンプ用吸着材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水蒸気などが吸着材(ゼオライトなど)に吸・脱着する際の熱量変化を利用した昇温・冷熱生成システムとして、吸着式ヒートポンプが知られている。
このヒートポンプは、冷熱生成と再生をサイクルで繰り返すことによって冷房や暖房(加熱)などに利用することができる。
【0003】
例えば、シリカゲル粒子を銅製の配管および容器に入れたヒートポンプの吸脱着モジュールが提案されている(特許文献1参照。)。
また、比表面積の高いゼオライトの強度を上げるため、骨格構造にアルミニウム、リン、鉄からなるゼオライトを使用した吸着ヒートポンプが提案されている(特許文献2参照。)。
更に、吸着熱の出入りを効率よく行うため、金属フィン等の基材表面にゼオライトを塗布したヒートポンプが提案されている(特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開平11−23097号公報
【特許文献2】特開2004−136269号公報
【特許文献3】特開平9−264633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の技術では、吸脱着が行われるシリカゲルと銅の接触状態の均一性が悪く、製造時に高精度の加工が必要であった。
また、特許文献2に記載の技術では、ゼオライトの強度は上がっているが、ゼオライトの熱伝導性が低いため、内部に熱がこもりやすい。
更に、特許文献3に記載の技術では、吸着材として機能するゼオライトの占有率が低くなってしまう。また、基材表面でのゼオライト密度が高く、圧力損失などによって吸着効率が低下するという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、発生した吸着熱を速やかに移動させうる吸着材構造を有するヒートポンプ用吸着材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、熱伝導効率の高い酸化物ウィスカーを基体表面に形成することにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のヒートポンプ用吸着材は、熱伝導部材の表面に、金属酸化物から成るウィスカーが形成されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のヒートポンプ用吸着材の好適形態は、上記熱伝導部材が少なくとも一方向に貫通した連結空孔を備える多孔質金属であることを特徴とする。
【0009】
更に、本発明のヒートポンプ用吸着材の他の好適形態は、上記熱伝導部材に、上記酸化物ウィスカーの主成分である元素が含まれていることを特徴とする。
【0010】
更にまた、本発明のヒートポンプ用吸着材の製造方法は、上記ヒートポンプ用吸着材を製造するに当たり、
熱伝導部材を微量酸素の存在中で加熱処理し、酸化物ウィスカーを形成させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱伝導効率の高い酸化物ウィスカーを基体表面に形成させることとしたため、発生した吸着熱を速やかに移動させうる吸着材構造を有するヒートポンプ用吸着材及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のヒートポンプ用吸着材について説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、濃度、含有量、充填量などについての「%」は、特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0013】
上述の如く、本発明のヒートポンプ用吸着材は、熱伝導部材の表面の一部又は全部に、金属酸化物から成るウィスカーを形成して成る。
この酸化物ウィスカーは水蒸気吸着により反応熱を発生しうる。また、熱伝導部材は少なくとも酸化物ウィスカーより熱伝導率の高い金属等から成る。
【0014】
このように、ウィスカーを熱伝導の高い熱伝導部材上に形成することで、図1に示すように、ウィスカー1から生じた吸着熱は、熱伝導部材2を介して容器内壁まで効率良くスムーズに伝達される。よって、図2に示すように、吸着材内部からの発熱の排出速度が向上するとともに、吸着材再生時は吸着材への熱伝達向上による再生速度が向上する。
【0015】
ここで、上記熱伝導部材は、少なくとも一方向に貫通した連結空孔を備える多孔質金属であることが好ましい。言い換えれば、気体が熱伝導部材で圧力損失の少ない状態で移動できる連結空孔を備えることが良い。
このように、熱伝導部材が多孔質になっていることで、熱伝導パスが増加し、吸着材全体の熱伝達効率が向上しうる。これより、吸着材内部からの発熱の排出速度がより向上するとともに、吸着材再生時の吸着材への熱伝達向上による再生速度がより向上する。また、吸着材全体のクッション性により吸着材の強度が向上しうる。
例えば、図3に示すような種々の形状で使用することができる。
【0016】
また、上記熱伝導部材には、上記酸化物ウィスカーの主成分である元素が含まれていることが好ましい。
この場合は、ウィスカーが熱伝導部材から連続的に形成されているので、熱伝導部材への熱伝導が良好となりうる。
【0017】
上記酸化物ウィスカーの主成分である元素としては、例えば、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、インジウム(In)、銀(Ag)、ガリウム(Ga)、錫(Sn)、銅(Cu)、スカンジウム(Sc)又はゲルマニウム(Ge)、及びこれらの任意の組合わせに係るものを挙げることができる。特に、水との親和性の高い、SiOx、AlOx、MnOxなどの材料でウィスカーを形成することが望ましい。図4〜6に、SiOx、AlOx、MnOxを材料としたウィスカー例のSEM画像を示す。
【0018】
更に、上記熱伝導部材の表面に熱伝導部材と異なる組成から成る層が形成されており、上記酸化物ウィスカーの主成分である金属元素が含まれていることが好ましい。
この場合は、熱伝導部材に上述のウィスカーを形成する成分が含まれないときであっても、ウィスカーを形成できる。また、熱伝導性の高い材料と吸着熱の高い材料が互いに接触面積の高い構造体を得ることができるので、熱交換速度が向上しうる。
【0019】
また、ウィスカー形成部分の表面積は、当該熱伝導部材のみ(ウィスカー形成前)の表面積に対して10〜1000倍であることが望ましい。
具体的には、平均径が20nm、長さが10μmであるウィスカーを、40nm間隔で形成するときは、表面積が約400倍に増大する。
このように、熱伝導部材の表面積が著しく増大するので、吸着材の熱交換速度が向上する。また、熱伝導部材の表面に微細なウィスカーを形成した構成であるため、製造が容易であるとともに小型化が実現できる。
【0020】
なお、ウィスカーは、一般には、幹部の先端に球状頭部を有する構成や、幹部のみの構成をとるが、その他にも枝分かれ状、モール状、毛玉状などの構成をとる場合がある。
また、ウィスカーが形成されることによって熱伝導部材本来の用途や他の製作工程が阻害されなければ、基本的に熱伝導部材の表面の任意の部位にウィスカーを形成することができる。
更に、熱伝導部材の形状は、特に限定されるものではなく、発熱部位に合わせた形状で利用することができる。
【0021】
次に、本発明のヒートポンプ用吸着材の製造方法について説明する。
本発明のヒートポンプ用吸着材の製造方法は、上述のヒートポンプ用吸着材を製造するに当たり、熱伝導部材乃至その前駆体を微量酸素の存在中で加熱処理し、酸化物ウィスカーを形成させる。
なお、「熱伝導部材乃至その前駆体」と記載したのは、金属基体が加熱処理によって組成変化する場合を考慮したものである。
【0022】
これにより、ヒートシンクなどの放熱部品を作製する工程や取り付ける工程を行うことなく、表面積の大きい吸着材が得られる。
【0023】
ここで、上記微量酸素とは、ウィスカー原料となる元素及びその含有率によって異なるが、代表的には1〜1000ppmの酸素量を言う。また、上記加熱処理は、代表的には700〜1100℃の範囲で行うことができる。
【0024】
図7に、本製造方法で得られるヒートポンプ用吸着材の概略を示す。
上図(製法1)は金属基体2に酸化物ウィスカー1を直接形成する場合を示し、下図(製法2)は金属基体2を被覆したウィスカー原料含有層3に酸化物ウィスカー1を形成する場合を示している。
【0025】
また、本製造方法においては、上記加熱処理を、アルゴン(Ar)などの不活性ガス雰囲気中で行い、該熱伝導部材の表面上にウィスカーを形成できる。
このように、不活性ガス雰囲気中で、熱伝導部材が融解しない温度で加熱処理するといった簡易な方法により所望のウィスカーを形成できるので、例えばCVDのように外部からウィスカー形成材料を供給することを必要とせずに製造できる。
【0026】
また、不活性ガス導入量は、反応炉や熱伝導部材のサイズや形状などに応じて決定されることになるが、例えば、反応炉容量が3Lの場合には、不活性ガスを毎分0.1〜5L程度供給することが望ましい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明をいくつかの実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
FCHW2合金(3%Alを含むFe−Cr系合金)を熱伝導部材として使用した。
この熱伝導部材を半導体チップのサイズにあわせて成型した後、Ar流量1LMフロー中で1000℃に1時間加熱し、長さ10μm、太さ10nmのウィスカーを備えたヒートポンプ用吸着材を得た。このウィスカーのSEM画像を図8に示す。
図9に示す概略のように、この吸着材を2枚の銅板の間に25μmごとに配設し、モジュールサイズを10mm(+0.2mm:銅板厚)×100mm×100mmとした。
【0029】
(実施例2)
実施例1と同様な銅板上に、スパッタ法(DCマグネトロンスパッタ)により、NiとMnを2元系DC(Ni 145W Mn 95W)、スパッタ圧0.6Pa(Ar)で成膜し熱伝導部材とした。
この熱伝導部材を半導体チップのサイズにあわせて成型した後、Ar流量0.5LMフロー中で800℃に1時間加熱し、長さ10μm、太さ100nmのウィスカーが0.2μmごとに配設されたヒートポンプ用吸着材を得た。このウィスカーのSEM画像を図10に示す。
【0030】
(比較例1)
実施例1と同様な銅板2枚の間に、図11に示すように、平均粒径3μmのゼオライト1層を配設し、3mm(+0.2mm:銅板厚)×100mm×330mmのヒートポンプ用吸着材を得た。
【0031】
(評価測定)
(1)前処理
実施例と比較例の構成からなるモジュールを、熱交換器(流水)中に設置し、真空中で十分に乾燥した後に温度25℃、湿度80%の空気を流して吸着させた。熱交換器の流量は1l/minとした。
【0032】
(2)80℃の流水中で乾燥空気布フロー中で加熱乾燥後、30度の冷却水に切り替えて冷却するのにかかった時間を測定した。乾燥は相対湿度が20%となったところで終了とし、その後冷却を開始した。
【0033】
80℃の温水を流し始めてから乾燥が終了するまでの所要時間は、実施例1(ウィスカー)では約25秒であり、比較例1(ゼオライト)では約40秒であった。
また、冷水に切り替えて冷却が終了するまでの時間は、実施例1では約10秒であり、比較例1では約15秒であった。
これより、ウィスカーを用いたヒートポンプ用吸着材は、ゼオライトを用いた吸着材の約64%の時間で再生が可能であり、同じ熱容量のモジュールでも出力が1.6倍近く上昇することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ウィスカー形成による熱伝導メカニズムを示す概略図である。
【図2】ウィスカー形成による熱循環の様子を示す概略図である。
【図3】熱伝導部材の形状例を示す断面概略図である。
【図4】SiOxウィスカーの一例を示すSEM画像である。
【図5】AlOxウィスカーの一例を示すSEM画像である。
【図6】MnOxウィスカーの一例を示すSEM画像である。
【図7】ウィスカー形成工程の一例を示す概略図である。
【図8】実施例1で用いたウィスカーを示すSEM画像である。
【図9】実施例1のヒートポンプ用吸着材の概略図である。
【図10】実施例2で用いたウィスカーを示すSEM画像である。
【図11】比較例1のヒートポンプ用吸着材の概略図である。
【符号の説明】
【0035】
1 ウィスカー
2 熱伝導部材(金属基体)
3 表面層(ウィスカー原料含有層)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプ用吸着材及びその製造方法に係り、更に詳細には、従来品に比べて熱交換速度を向上させたヒートポンプ用吸着材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水蒸気などが吸着材(ゼオライトなど)に吸・脱着する際の熱量変化を利用した昇温・冷熱生成システムとして、吸着式ヒートポンプが知られている。
このヒートポンプは、冷熱生成と再生をサイクルで繰り返すことによって冷房や暖房(加熱)などに利用することができる。
【0003】
例えば、シリカゲル粒子を銅製の配管および容器に入れたヒートポンプの吸脱着モジュールが提案されている(特許文献1参照。)。
また、比表面積の高いゼオライトの強度を上げるため、骨格構造にアルミニウム、リン、鉄からなるゼオライトを使用した吸着ヒートポンプが提案されている(特許文献2参照。)。
更に、吸着熱の出入りを効率よく行うため、金属フィン等の基材表面にゼオライトを塗布したヒートポンプが提案されている(特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開平11−23097号公報
【特許文献2】特開2004−136269号公報
【特許文献3】特開平9−264633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の技術では、吸脱着が行われるシリカゲルと銅の接触状態の均一性が悪く、製造時に高精度の加工が必要であった。
また、特許文献2に記載の技術では、ゼオライトの強度は上がっているが、ゼオライトの熱伝導性が低いため、内部に熱がこもりやすい。
更に、特許文献3に記載の技術では、吸着材として機能するゼオライトの占有率が低くなってしまう。また、基材表面でのゼオライト密度が高く、圧力損失などによって吸着効率が低下するという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、発生した吸着熱を速やかに移動させうる吸着材構造を有するヒートポンプ用吸着材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、熱伝導効率の高い酸化物ウィスカーを基体表面に形成することにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のヒートポンプ用吸着材は、熱伝導部材の表面に、金属酸化物から成るウィスカーが形成されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のヒートポンプ用吸着材の好適形態は、上記熱伝導部材が少なくとも一方向に貫通した連結空孔を備える多孔質金属であることを特徴とする。
【0009】
更に、本発明のヒートポンプ用吸着材の他の好適形態は、上記熱伝導部材に、上記酸化物ウィスカーの主成分である元素が含まれていることを特徴とする。
【0010】
更にまた、本発明のヒートポンプ用吸着材の製造方法は、上記ヒートポンプ用吸着材を製造するに当たり、
熱伝導部材を微量酸素の存在中で加熱処理し、酸化物ウィスカーを形成させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱伝導効率の高い酸化物ウィスカーを基体表面に形成させることとしたため、発生した吸着熱を速やかに移動させうる吸着材構造を有するヒートポンプ用吸着材及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のヒートポンプ用吸着材について説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、濃度、含有量、充填量などについての「%」は、特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0013】
上述の如く、本発明のヒートポンプ用吸着材は、熱伝導部材の表面の一部又は全部に、金属酸化物から成るウィスカーを形成して成る。
この酸化物ウィスカーは水蒸気吸着により反応熱を発生しうる。また、熱伝導部材は少なくとも酸化物ウィスカーより熱伝導率の高い金属等から成る。
【0014】
このように、ウィスカーを熱伝導の高い熱伝導部材上に形成することで、図1に示すように、ウィスカー1から生じた吸着熱は、熱伝導部材2を介して容器内壁まで効率良くスムーズに伝達される。よって、図2に示すように、吸着材内部からの発熱の排出速度が向上するとともに、吸着材再生時は吸着材への熱伝達向上による再生速度が向上する。
【0015】
ここで、上記熱伝導部材は、少なくとも一方向に貫通した連結空孔を備える多孔質金属であることが好ましい。言い換えれば、気体が熱伝導部材で圧力損失の少ない状態で移動できる連結空孔を備えることが良い。
このように、熱伝導部材が多孔質になっていることで、熱伝導パスが増加し、吸着材全体の熱伝達効率が向上しうる。これより、吸着材内部からの発熱の排出速度がより向上するとともに、吸着材再生時の吸着材への熱伝達向上による再生速度がより向上する。また、吸着材全体のクッション性により吸着材の強度が向上しうる。
例えば、図3に示すような種々の形状で使用することができる。
【0016】
また、上記熱伝導部材には、上記酸化物ウィスカーの主成分である元素が含まれていることが好ましい。
この場合は、ウィスカーが熱伝導部材から連続的に形成されているので、熱伝導部材への熱伝導が良好となりうる。
【0017】
上記酸化物ウィスカーの主成分である元素としては、例えば、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、インジウム(In)、銀(Ag)、ガリウム(Ga)、錫(Sn)、銅(Cu)、スカンジウム(Sc)又はゲルマニウム(Ge)、及びこれらの任意の組合わせに係るものを挙げることができる。特に、水との親和性の高い、SiOx、AlOx、MnOxなどの材料でウィスカーを形成することが望ましい。図4〜6に、SiOx、AlOx、MnOxを材料としたウィスカー例のSEM画像を示す。
【0018】
更に、上記熱伝導部材の表面に熱伝導部材と異なる組成から成る層が形成されており、上記酸化物ウィスカーの主成分である金属元素が含まれていることが好ましい。
この場合は、熱伝導部材に上述のウィスカーを形成する成分が含まれないときであっても、ウィスカーを形成できる。また、熱伝導性の高い材料と吸着熱の高い材料が互いに接触面積の高い構造体を得ることができるので、熱交換速度が向上しうる。
【0019】
また、ウィスカー形成部分の表面積は、当該熱伝導部材のみ(ウィスカー形成前)の表面積に対して10〜1000倍であることが望ましい。
具体的には、平均径が20nm、長さが10μmであるウィスカーを、40nm間隔で形成するときは、表面積が約400倍に増大する。
このように、熱伝導部材の表面積が著しく増大するので、吸着材の熱交換速度が向上する。また、熱伝導部材の表面に微細なウィスカーを形成した構成であるため、製造が容易であるとともに小型化が実現できる。
【0020】
なお、ウィスカーは、一般には、幹部の先端に球状頭部を有する構成や、幹部のみの構成をとるが、その他にも枝分かれ状、モール状、毛玉状などの構成をとる場合がある。
また、ウィスカーが形成されることによって熱伝導部材本来の用途や他の製作工程が阻害されなければ、基本的に熱伝導部材の表面の任意の部位にウィスカーを形成することができる。
更に、熱伝導部材の形状は、特に限定されるものではなく、発熱部位に合わせた形状で利用することができる。
【0021】
次に、本発明のヒートポンプ用吸着材の製造方法について説明する。
本発明のヒートポンプ用吸着材の製造方法は、上述のヒートポンプ用吸着材を製造するに当たり、熱伝導部材乃至その前駆体を微量酸素の存在中で加熱処理し、酸化物ウィスカーを形成させる。
なお、「熱伝導部材乃至その前駆体」と記載したのは、金属基体が加熱処理によって組成変化する場合を考慮したものである。
【0022】
これにより、ヒートシンクなどの放熱部品を作製する工程や取り付ける工程を行うことなく、表面積の大きい吸着材が得られる。
【0023】
ここで、上記微量酸素とは、ウィスカー原料となる元素及びその含有率によって異なるが、代表的には1〜1000ppmの酸素量を言う。また、上記加熱処理は、代表的には700〜1100℃の範囲で行うことができる。
【0024】
図7に、本製造方法で得られるヒートポンプ用吸着材の概略を示す。
上図(製法1)は金属基体2に酸化物ウィスカー1を直接形成する場合を示し、下図(製法2)は金属基体2を被覆したウィスカー原料含有層3に酸化物ウィスカー1を形成する場合を示している。
【0025】
また、本製造方法においては、上記加熱処理を、アルゴン(Ar)などの不活性ガス雰囲気中で行い、該熱伝導部材の表面上にウィスカーを形成できる。
このように、不活性ガス雰囲気中で、熱伝導部材が融解しない温度で加熱処理するといった簡易な方法により所望のウィスカーを形成できるので、例えばCVDのように外部からウィスカー形成材料を供給することを必要とせずに製造できる。
【0026】
また、不活性ガス導入量は、反応炉や熱伝導部材のサイズや形状などに応じて決定されることになるが、例えば、反応炉容量が3Lの場合には、不活性ガスを毎分0.1〜5L程度供給することが望ましい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明をいくつかの実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
FCHW2合金(3%Alを含むFe−Cr系合金)を熱伝導部材として使用した。
この熱伝導部材を半導体チップのサイズにあわせて成型した後、Ar流量1LMフロー中で1000℃に1時間加熱し、長さ10μm、太さ10nmのウィスカーを備えたヒートポンプ用吸着材を得た。このウィスカーのSEM画像を図8に示す。
図9に示す概略のように、この吸着材を2枚の銅板の間に25μmごとに配設し、モジュールサイズを10mm(+0.2mm:銅板厚)×100mm×100mmとした。
【0029】
(実施例2)
実施例1と同様な銅板上に、スパッタ法(DCマグネトロンスパッタ)により、NiとMnを2元系DC(Ni 145W Mn 95W)、スパッタ圧0.6Pa(Ar)で成膜し熱伝導部材とした。
この熱伝導部材を半導体チップのサイズにあわせて成型した後、Ar流量0.5LMフロー中で800℃に1時間加熱し、長さ10μm、太さ100nmのウィスカーが0.2μmごとに配設されたヒートポンプ用吸着材を得た。このウィスカーのSEM画像を図10に示す。
【0030】
(比較例1)
実施例1と同様な銅板2枚の間に、図11に示すように、平均粒径3μmのゼオライト1層を配設し、3mm(+0.2mm:銅板厚)×100mm×330mmのヒートポンプ用吸着材を得た。
【0031】
(評価測定)
(1)前処理
実施例と比較例の構成からなるモジュールを、熱交換器(流水)中に設置し、真空中で十分に乾燥した後に温度25℃、湿度80%の空気を流して吸着させた。熱交換器の流量は1l/minとした。
【0032】
(2)80℃の流水中で乾燥空気布フロー中で加熱乾燥後、30度の冷却水に切り替えて冷却するのにかかった時間を測定した。乾燥は相対湿度が20%となったところで終了とし、その後冷却を開始した。
【0033】
80℃の温水を流し始めてから乾燥が終了するまでの所要時間は、実施例1(ウィスカー)では約25秒であり、比較例1(ゼオライト)では約40秒であった。
また、冷水に切り替えて冷却が終了するまでの時間は、実施例1では約10秒であり、比較例1では約15秒であった。
これより、ウィスカーを用いたヒートポンプ用吸着材は、ゼオライトを用いた吸着材の約64%の時間で再生が可能であり、同じ熱容量のモジュールでも出力が1.6倍近く上昇することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ウィスカー形成による熱伝導メカニズムを示す概略図である。
【図2】ウィスカー形成による熱循環の様子を示す概略図である。
【図3】熱伝導部材の形状例を示す断面概略図である。
【図4】SiOxウィスカーの一例を示すSEM画像である。
【図5】AlOxウィスカーの一例を示すSEM画像である。
【図6】MnOxウィスカーの一例を示すSEM画像である。
【図7】ウィスカー形成工程の一例を示す概略図である。
【図8】実施例1で用いたウィスカーを示すSEM画像である。
【図9】実施例1のヒートポンプ用吸着材の概略図である。
【図10】実施例2で用いたウィスカーを示すSEM画像である。
【図11】比較例1のヒートポンプ用吸着材の概略図である。
【符号の説明】
【0035】
1 ウィスカー
2 熱伝導部材(金属基体)
3 表面層(ウィスカー原料含有層)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導部材の表面に、金属酸化物から成るウィスカーが形成されていることを特徴とするヒートポンプ用吸着材。
【請求項2】
上記熱伝導部材が少なくとも一方向に貫通した連結空孔を備える多孔質金属であることを特徴とする請求項1に記載のヒートポンプ用吸着材。
【請求項3】
上記熱伝導部材に、上記酸化物ウィスカーの主成分である元素が含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載のヒートポンプ用吸着材。
【請求項4】
上記熱伝導部材の表面に熱伝導部材と異なる組成から成る層が形成されており、上記酸化物ウィスカーの主成分である金属元素が含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のヒートポンプ用吸着材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つの項に記載のヒートポンプ用吸着材を製造するに当たり、
熱伝導部材乃至その前駆体を微量酸素の存在中で加熱処理し、酸化物ウィスカーを形成させることを特徴とするヒートポンプ用吸着材の製造方法。
【請求項1】
熱伝導部材の表面に、金属酸化物から成るウィスカーが形成されていることを特徴とするヒートポンプ用吸着材。
【請求項2】
上記熱伝導部材が少なくとも一方向に貫通した連結空孔を備える多孔質金属であることを特徴とする請求項1に記載のヒートポンプ用吸着材。
【請求項3】
上記熱伝導部材に、上記酸化物ウィスカーの主成分である元素が含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載のヒートポンプ用吸着材。
【請求項4】
上記熱伝導部材の表面に熱伝導部材と異なる組成から成る層が形成されており、上記酸化物ウィスカーの主成分である金属元素が含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のヒートポンプ用吸着材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つの項に記載のヒートポンプ用吸着材を製造するに当たり、
熱伝導部材乃至その前駆体を微量酸素の存在中で加熱処理し、酸化物ウィスカーを形成させることを特徴とするヒートポンプ用吸着材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−73569(P2008−73569A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252288(P2006−252288)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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