説明

ビスホスホネートの水性懸濁液を含む長期徐放性医薬組成物

ビスホスホネート薬物の長期徐放性医薬組成物が提供される。一の態様において、前記組成物は、ビスホスホネート薬物の塩及び五価のリンのオキソ酸の塩を含む固体の水性懸濁液を包含する。前記組成物は、骨粗しょう症を含む、広範な骨疾患の治療に使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願との相互参照
本出願は、2006年12月21日に米国特許商標庁に出願され、表題が"LONG TERM SUSTAINED RELEASE PHARMACEUTICAL COMPOSITION CONTAINING AQUEOUS SUSPENSION OF BISPHOSPHONATE"である米国仮出願第60/876,800号の優先権及びその利益を主張し、その全ての内容は、参照することにより本明細書中に援用される。
【0002】
本発明は、ビスホスホネート薬物の長期徐放性滅菌医薬組成物に関する。より具体的には、本発明は、骨粗しょう症及び他の関連する骨疾患を治療、又は予防するための、ビスホスホネート薬物の長期徐放性製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
骨粗しょう症は、骨量の低下及び骨組織の構造的劣化により特徴付けられる骨疾患であり、特に脊椎、臀部及び手根部の骨の脆弱性及び骨折の危険性の増加を導く。骨粗しょう症は、公衆衛生及び公衆経済の主要な問題である。米国National Osteoporosis Foundationによると、骨粗しょう症は4,400万人の米国人に影響を与えている。米国において1,000万人はすでに罹患していると概算されており、ほぼ3,400万人以上が骨密度の低下を有し、骨粗しょう症の危険性が増加する位置にあると概算されている。骨粗しょう症の影響を受けている者の約80%は女性である。データは、女性の2人に1人、及び50歳以上の男性の4人に1人が、一生の中で骨粗しょう症に関連する骨折をし得ることを指示する。しかしながら、骨粗しょう症はいずれの年齢においても発症し得る。骨粗しょう症は、毎年150万件以上の骨折に関与する。骨粗しょう症及び関連する骨折のための米国の直接費(診療所及び高齢者福祉施設)は、毎年合計で約140億ドルと概算されている。
【0004】
骨粗しょう症及び/又は他の関連する骨疾患は、患者の生活の質を低下させ、それらの疾患の予防/治療が重要な課題となっている。Estrace(登録商標)、Estraderm(登録商標)、Premarin(登録商標)等の名で市販されるエストロゲン/ホルモン補充療法(ERT/HRT);Evista(登録商標)の名で市販される選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM);Fosamax(登録商標)、Boniva(登録商標)、Actonel(登録商標)等の名で市販されるビスホスホネート等の、骨粗しょう症を予防及び/又は治療する多くの選択肢が利用可能である。また、Miacalcin(登録商標)の名で市販されるカルシトニン;カルシウムサプリメント;ビタミンD;及びフッ化ナトリウム等の、他の医薬品も利用可能である。
【0005】
ビスホスホネートは、骨粗しょう症、並びにパジェット症、悪性高カルシウム血症及び転移性骨疾患等の他の関連する疾患の予防及び/又は治療にとって、最も有効かつ一般的な選択肢であると思われる。現在市販されるビスホスホネートは、経口、又は静脈内投与に利用可能である。経口投与は、投与が容易である点で一般に都合が良い。しかしながら、ビスホスホネートの経口投与は往々にして生体利用効率が低く、また、食道炎、食道潰瘍、胸骨後の痛み、及び上部消化管粘膜の局所刺激を含む消化管に関連する副作用を引き起こすことも知られている。加えて、ビスホスホネートの投与は複雑であって、不都合な手順を含む。最適な条件の下で、Fosamax(登録商標)、Boniva(登録商標)、Actonel(登録商標)等のビスホスホネートの経口生体利用効率は1%未満であり、そして生体利用効率は推奨される投与過程が遂行されなければ更に低下する。経口吸収されるビスホスホネートの約50%のみが治療部位に到達し、残りは尿中に排出される。
【0006】
ビスホスホネートの静脈内(「IV」)投与は、高カルシウム血症の治療においては一般的であるが、骨粗しょう症の治療においては通常の投与方法ではない。更に、ビスホスホネートのIV投与は複雑であって、不都合な投与手順を含み、顎骨壊死(「ONJ」)等の更なる副作用と関連付けられる。ビスホスホネートに関連するONJの97%がIV投与の系列であったことが報告されている。いずれの投与においても、薬物は短時間でそのピークに達し、2〜3時間以内に系から取り除かれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
生体利用効率が乏しいことにより、ビスホスホネート薬物は骨粗しょう症の予防/治療に有効であるためには、数年間持続的に投与される必要がある。しかしながら、不都合な投与の要求及び関連した副作用により、骨粗しょう症の患者における長期間の予防及び治療のためのそれらの適用は困難であり、制限される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
本発明のある態様によるとビスホスホネート薬物の投与は数ヶ月ごとに1回のみ必要であり、そしてビスホスホネートの副作用は実質的に減少、又は消滅する。同様に、本発明の幾つかの態様は、骨ミネラル濃度の増加及び骨折の減少を含む、計り知れない長期間の利益を提供する。
【0009】
本発明のある態様は、筋肉内投与用のビスホスホネート薬物の長期徐放性滅菌医薬組成物に関する。一の態様において、前記医薬組成物は、ビスホスホネート薬物の水性懸濁液を含む。もう一つの態様において、本発明は、ビスホスホネート薬物の塩及び五価のリンのオキソ酸の塩からなる固体の水性懸濁液を含む、長期徐放性滅菌医薬組成物に関する。前記固体の水性懸濁液は、患者の体内で長時間、例えば約2月以上、ビスホスホネート薬物を放出するように適合させられる。前記組成物は筋肉内注射に適し、並びに骨粗しょう症及び他の骨関連疾患の治療及び予防に有用である。
【0010】
一の態様によると、前記ビスホスホネート薬物は、酸形態(ビスホスホン酸)が(HO)PO−R−OP(OH)で表される一般構造を有し、この場合Rが様々な官能基を含み得て、その結果そのビスホスホネートは、限定されないが、パミドロン酸、アレンドロン酸、イバンドロン酸、リセドロン酸、ゾレドロン酸、及びチルドロン酸を含む。
【0011】
本発明の一の態様は、前記塩がカルシウム、亜鉛、マグネシウム及びそれらの組合せの塩である、ビスホスホネート薬物の塩及び五価のリンのオキソ酸の塩からなる固体の水性懸濁液を含む、長期徐放性医薬組成物に関する。前記ビスホスホネート薬物の塩は、限定されないが、正塩、酸性塩、塩基性塩及びそれらの組合せを含む。また、前記ビスホスホネート薬物の塩は、無水塩、水和物及び水和物の組合せを含み得る。前記五価のリンのオキソ酸の塩は、限定されないが、正塩、酸性塩、塩基性塩及びそれらの組合せを含む。また、前記五価のリンのオキソ酸の塩は、リン酸塩、ピロリン酸塩、メタリン酸塩、ポリリン酸塩及びそれらの組合せを含み得る。任意的に、前記五価のリンのオキソ酸の塩は、無水塩、水和物及び水和物の組合せを含み得る。
【0012】
前記五価のリンのオキソ酸の適切な塩の非制限的な例には、第二リン酸カルシウム二水和物、第二リン酸カルシウム無水和物、第八リン酸カルシウム、α−第三リン酸カルシウム、β−第三リン酸カルシウム、アモルファスリン酸カルシウム、カルシウム欠損ヒドロキシアパタイト、ヒドロキシアパタイト、及び第四リン酸カルシウムが含まれる。
【0013】
本発明のもう一つの態様は、ビスホスホネート薬物の塩及び五価のリンのオキソ酸の塩を含む固体を含み、その固体が生理食塩水において、ビスホスホン酸として約0.05重量%未満の溶解度を有する、長期徐放性医薬組成物に関する。前記固体は、アモルファス、結晶(様々な結晶構造を有し得る)、又はそれらの混合物であり得る。一の態様において、前記固体は約100マイクロメートル未満の粒径を有する。
【0014】
本発明の更なるもう一つの態様は、前記固体が水性溶媒中に懸濁され、そして約6.0〜約9.5の範囲のpHを有する長期徐放性組成物に関する。本発明の組成物のための1つの水性溶媒は、U.S.Pの注射用水である。
【0015】
一の態様による長期徐放性医薬組成物は更に、カルシウムとリンが約0.5〜約3.0の範囲の重量比を有し得る。
【0016】
また、一の態様による組成物は、1つ以上の不活性な医薬賦形剤を含み得る。適切な賦形剤の非制限的な例には、界面活性剤、懸濁剤、分散剤、等張剤、保存料、pH緩衝剤、浸透圧を調整する薬剤、粘度を調整する薬剤及び密度を調整する薬剤等が含まれる。
【0017】
本発明のもう一つの態様は、前記組成物を生産する方法に関する。適切な方法の非制限的な例には、共沈殿、共結晶化、分散、濾過、吸着等が含まれる。
【0018】
要するに、本発明の一の態様において、滅菌医薬組成物は、注射による投与が可能なビスホスホネート薬物の水性懸濁液を含む。前記組成物は、ビスホスホネートの塩及び五価のリンのオキソ酸の塩を含む固体である。前記組成物は、ビスホスホネート塩の徐放性に資する。前記固体は低い溶解度を有し、即ち生理食塩水において、ビスホスホン酸として、約0.05重量%未満である。
【0019】
一の態様によると、ビスホスホネート薬物は、その酸形態(ビスホスホン酸)が
【0020】
【化1】

【0021】
で表される一般構造を有する。式中、Rは様々な構造を有し得て、限定されないが、
1−ヒドロキシ−4−アミノ−ブチリデン (アレンドロン酸)、
1−ヒドロキシ−3−(メチルペンチルアミノ)プロピリデン (イバンドロン酸)、
1−ヒドロキシ−3−アミノ−1−プロピリデン (パミドロン酸)、
1−ヒドロキシ−2−(3−ピリジニル)−エチレン (リセドロン酸)、
4−クロロ−フェニル)−チオ−メチレン (チルドロン酸)
1−ヒドロキシ−2−イミダゾール−1−イル−エチレン(ゾレドロン酸)
を含む、任意のビスホスホネートが含まれる。
【0022】
もう一つの態様において、前記塩は、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、及びそれらの組合せの塩であり得る。ビスホスホネート薬物の塩は、正塩、酸性塩、塩基性塩又はそれらの組合せであり得る。ビスホスホネート薬物の塩は、無水塩、水和物、又はビスホスホネート薬物の様々な水和物の組合せであり得る。五価のリンのオキソ酸の塩は、リン酸塩、ピロリン酸塩、メタリン酸塩、ポリリン酸塩又はそれらの組合せであり得る。五価のリンのオキソ酸の塩は、正塩、酸性塩、塩基性塩又はそれらの組合せであり得る。五価のリンのオキソ酸の塩は、無水塩、水和物、又は様々な水和物の組合せであり得る。五価のリンのオキソ酸の適切な塩の非制限的な例には:
第二リン酸カルシウム二水和物(DCPD)、CaHPO・2H
第二リン酸カルシウム無水和物(DCPD)、CaHPO
第八リン酸カルシウム(OCP)、Ca(HPO)(PO)・5H
α−第三リン酸カルシウム(α−TCP)、α−Ca(PO)
β−第三リン酸カルシウム(β−TCP)、β−Ca(PO)
アモルファスリン酸カルシウム(ACP)、Ca (PO)・nH
カルシウム欠損ヒドロキシアパタイト(CDHA)、Ca10−x(HPO)(PO)6−x(OH)2−x(x=0〜1)
ヒドロキシアパタイト(HA)、Ca10(PO)(OH)
第四リン酸カルシウム(TTCP)、Ca(PO)
が含まれる。
【0023】
一の態様において、前記固体はアモルファス、又は様々な結晶構造を有する結晶、又はそれらの組合せであり得る。
【0024】
一の態様によると、前記組成物中のビスホスホネート薬物の塩の重量パーセントは、約50%未満である。前記組成物中のカルシウムとリンとの重量比は、約0.5〜約3.0の範囲である。前記組成物の平均粒径は、約1〜約100マイクロメートルの範囲である。
【0025】
一の態様において、前記組成物の滅菌医薬水性懸濁液における医薬水性媒体は、U.S.Pの注射用水である。注射による投与が可能な滅菌医薬水性懸濁液のpHは、約6.0〜約9.5の範囲である。
【0026】
もう一つの態様において、前記組成物の滅菌医薬水性懸濁液は、界面活性剤、懸濁剤、分散剤、等張剤、保存料、pH緩衝剤、浸透圧を調整する薬剤、粘度を調整する薬剤及び密度を調整する薬剤等の、不活性な医薬賦形剤を含み得る。
【0027】
前記組成物は、限定されないが、共沈殿、共結晶化、分散、濾過等を含む任意の適切な手段により生産され得る。
【0028】
一の態様によると、ビスホスホネート薬物の注射による投与が可能な滅菌医薬水性懸濁組成物には、ビスホスホネート薬物のカルシウム塩及び五価のリンのオキソ酸のカルシウム塩を有する固体が含まれる。前記組成物は、ビスホスホネート薬物の徐放性に資し、前記固体の水性懸濁液は、患者の体内で長時間、例えば2月以上、ビスホスホネート薬物を放出するように適合させられる。前記組成物は、ビスホスホン酸として、生理食塩水中で約0.05重量%未満の低い溶解度を有する。前記組成物は、約50重量%以下の量のビスホスホネート薬物のカルシウム塩を含む。前記懸濁組成物の粒径は、約1〜約100マイクロメートルの範囲である。前記滅菌医薬水性懸濁組成物のpHは、約6.0〜約9.5の範囲である。前記水性懸濁液中のカルシウムとリンとの重量比は、約0.5〜約3.0の範囲である。
【0029】
本発明における上記の、並びに他の特徴及び長所は、添付図面と併せて考察する以下の詳細な記載を参照することで、より理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明の一の態様に係るアレンドロン酸カルシウム−リン酸カルシウム複合体中の活性医薬成分の量に基づく、その複合体の溶解度のグラフである。
【図2】図2は、本発明の一の態様に係るアレンドロン酸カルシウム−リン酸カルシウム複合体及び活性な先行技術のコントロールの経時的なラットの日常尿中排出量を比較したグラフである。
【図3】そして、図3は、2つの異なる投薬量の本発明の一の態様に係るアレンドロン酸カルシウム−リン酸カルシウム複合体及び生理食塩水の偽薬を投与後の経時的な骨ミネラル濃度変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
本発明の一の態様によると、滅菌医薬組成物には、ビスホスホネート薬物の水性懸濁液が含まれる。前記医薬組成物は、ビスホスホネート薬物の塩及び五価のリンのオキソ酸の塩を含む固体の水性懸濁液を含む長期徐放性組成物である。前記固体の水性懸濁液は、患者の体内で長時間、例えば約2月以上、ビスホスホネート薬物を放出するように適合させられる。上記組成物は筋肉内注射に適し、並びに骨粗しょう症及び他の骨関連疾患の予防及び治療に有用である。
【0032】
驚くべきことに、出願人らは、本発明の組成物、即ちビスホスホン酸の複合塩の懸濁液が、先行技術のカルシウム塩と比較して顕著な溶解度の低下(約100〜1000倍低下)をもたらすことを見出した。これにより、下にまとめられている実施例に例証されているように、本発明の製剤は、非常に緩慢で、非常に長期の徐放プロフィールを示すことが可能となる。例えば、上述のように、前記固体の水性懸濁液は、患者の体内で長時間、例えば約2月以上、ビスホスホネート薬物を放出するように適合させられる。
【0033】
一の態様において、前記ビスホスホネート薬物はその酸形態(ビスホスホン酸)が(HO)PO−R−OP(OH)で表される一般構造を有してもよく、その場合、Rにはビスホスホネートを構成する任意の官能基が含まれ得て、その非制限的な例として、1−ヒドロキシ−3−アミノ−1−プロピリデン (パミドロン酸)、1−ヒドロキシ−4−アミノ−ブチリデン (アレンドロン酸)、1−ヒドロキシ−3−(メチルペンチルアミノ)プロピリデン (イバンドロン酸)、1−ヒドロキシ−2−(3−ピリジニル)−エチレン (リセドロン酸)、1−ヒドロキシ−2−イミダゾール−1−イル−エチレン(ゾレドロン酸)、及び(4−クロロ−フェニル)−チオ−メチレン (チルドロン酸)が含まれる。
【0034】
一の態様によると、本発明は、ビスホスホネート薬物の塩及び五価のリンのオキソ酸の塩を含む固体を含む徐放性組成物に関する。前記固体は、水性溶媒中に懸濁される。前記固体は、生理食塩水中で、ビスホスホン酸として約0.05重量%未満の溶解度を有する。前記固体は約100マイクロメートル未満の粒径を有し、例えば前記固体は約10〜約50マイクロメートルの範囲の粒径を有し得る。前記固体はアモルファス、結晶(様々な結晶構造を有する)、又はそれらの混合物であり得る。適切な水性媒体の非制限的な例は、U.S.Pの注射用水である。
【0035】
前記組成物に適する塩の非制限的な例には、カルシウム、亜鉛、マグネシウム及びそれらの混合物の塩が含まれる。前記ビスホスホネート薬物の塩には、限定されないが、正塩、酸性塩、塩基性塩、無水塩、水和物及びそれらの組合せが含まれ得る。前記五価のリンのオキソ酸の塩は、限定されないが、正塩、酸性塩、塩基性塩、リン酸塩、ピロリン酸塩、メタリン酸塩、ポリリン酸塩、無水塩、水和物及びそれら組合せを含み得る。
【0036】
五価のリンのオキソ酸の適切な塩の非制限的な例には、第二リン酸カルシウム二水和物(DCPD)、CaHPO・2HO;第二リン酸カルシウム無水和物(DCPA)、CaHPO;第八リン酸カルシウム(OCP)、Ca(HPO)(PO)・5HO;α−第三リン酸カルシウム(α−TCP)、α−Ca(PO);β−第三リン酸カルシウム(β−TCP)、β−Ca(PO);アモルファスリン酸カルシウム(ACP)、Ca (PO)・nHO;カルシウム欠損ヒドロキシアパタイト(CDHA)、Ca10−x(HPO)(PO)6−x(OH)2−x(x=0〜1);ヒドロキシアパタイト(HA)、Ca10(PO)(OH);及び第四リン酸カルシウム(TTCP)、Ca(PO)Oが含まれる。
【0037】
一の態様によると、前記組成物はカルシウムとリンとの重量比を約0.5〜約3.0の範囲で有し、例えば、カルシウムとリンとの重量比は約1.5〜約2.5の範囲であり得る。前記組成物のpHは約6.0〜約9.5の範囲であり得て、例えば、前記組成物のpHは約6.5〜約8.5の範囲であり得る。また、任意的に、前記組成物は、様々な不活性な医薬賦形剤を含み得る。適切な賦形剤の非制限的な例には、界面活性剤、懸濁剤、分散剤、等張化剤、保存料、pH緩衝剤、浸透圧を調整する薬剤、粘度を調整する薬剤及び密度を調整する薬剤、及びそれらの混合物が含まれ得る。
【0038】
一の態様において、前記組成物は、(a)ビスホスホネート薬物の塩、及び(b)五価のリンのオキソ酸の塩を含む固体の長期徐放性製剤であり、その固体は水性媒体に懸濁され、懸濁液を形成する。ビスホスホネート薬物の塩は、前記組成物中に約50重量%未満の量が存在し、例えば、ビスホスホネート薬物の塩は、前記組成物中に重量で約5〜約30%未満の量が存在する。前記組成物の典型的な塩は、カルシウム塩である。前記組成物のカルシウムとリンとの重量比は約0.5〜約3.0の範囲であり、例えば、カルシウムとリンとの重量比は約1.5〜約2.5の範囲であり得る。前記固体は約100マイクロメートル未満の粒径を有し、例えば前記固体は約10〜約50マイクロメートルの範囲の粒径を有し得る。前記水性媒体は、U.S.Pの注射用水であり得る。前記水性懸濁物は約6.0〜約9.5の範囲のpHを有し得て、例えば、そのpHは約6.5〜約8.5の範囲であり得る。前記水性懸濁物は、限定されないが、界面活性剤、懸濁剤、分散剤、等張化剤、保存料、pH緩衝剤、浸透圧を調整する薬剤、粘度を調整する薬剤、密度を調整する薬剤等の、1つ以上の不活性な医薬賦形剤を含み得る。
【0039】
本発明のある組成物は、長期徐放性ビスホスホネート薬物を提供する。加えて、ある組成物は、ビスホスホネート薬物の経口投与に伴う種々の不都合な副作用を回避する。発明に係る組成物の到達量は、経口投与の場合よりはるかに小さく、高い生体利用効率を有し、したがって高い経口投与量と関連した多くの不都合な副作用の多くが回避される。また、本発明に係る徐放性組成物は、実質的に最高投与量(過剰投与量)及び最低投与量(過少投与量)を取り除く。前記発明に係る組成物は、患者にとって都合が良く、及び溶解度が極めて低いことによって組織刺激を減少させる。
【0040】
上述のように、及び下記の実施例に例証されるように、本発明の組成物のある態様は、先行技術の組成物と比較して改善された徐放性プロフィールを有する。特に、本発明の一の態様によると、前記組成物は、約10%未満が初期ボーラスで放出される。初期ボーラスは、投与後の最初の3日以内に放出された薬物の量として定義される。例えば、本発明の一の態様では、下記の実施例に例証されるように、約8%が初期ボーラスで放出される(先行技術の約55%よりも極めて少ない)。
【0041】
本発明のもう一つの態様によると、前記組成物は、約10mcg/day未満の最大の濃度、又は最高量(Cmaxと表記する)で放出する。例えば、本発明の一の態様は、約8mcg/dayのCmaxを有し、先行技術の約74mcg/dayよりも極めて少ない。
【0042】
更にもう一つの態様において、前記組成物は、長期間に渡り最高量(Cmax)で放出する。Cmaxで放出が行われるまでに掛かる時間はtmaxと表記され、一の態様によると、tmaxは約10日より長い。例えば、本発明の一の態様は、約13日のtmaxを有し、先行技術の1日よりも極めて長い。
【0043】
本発明の更にもう一つの態様において、前記組成物が前記薬物の50%及び90%を放出するために長い時間が掛かる。前記組成物が前記薬物の50%を放出するために掛かる時間をN50と表記し、前記組成物が前記薬物の90%を放出するために掛かる時間をN90と表記する。一の態様によると、前記組成物は約15日以上のN50を有し、及び約35日以上のN90を有する。例えば、一の態様において、前記組成物は約16.6日のN50を有し、及び約38.5日のN90を有し、これもまた、先行技術のそれぞれ2.8日及び9日よりも極めて長い。
【0044】
本発明の組成物は、多くの方法により生産される。一の態様において、例えば、前記組成物は、共沈殿により生産される。もう一つの態様において、前記組成物は、共結晶により生産される。なおもう一つの態様において、前記組成物は、分散により生産される。更にもう一つの態様において、前記組成物は、濾過又は吸着により生産される。本発明の徐放性組成物及びその組成物を生産する方法は、以下の実施例により更に例証されるが、それは例証のみを目的として提供され、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例】
【0045】
比較例1: アレンドロン酸カルシウム(AC)の生産
本発明のある態様と比較する目的で、五価のリンのオキソ酸の塩を含まないアレンドロン酸カルシウム(AC)組成物は、本実施例により生産された。
【0046】
2.03g(6.3mM)のアレンドロン酸ナトリウム三水和物は、60mLの水に溶解された。0.94gの塩化カルシウム二水和物は、30mLの水に溶解された。両方の溶液は、室温まで冷却された。
【0047】
前記塩化カルシウム溶液が全て添加されるまで溶液のpHを7.0に維持するため、水酸化ナトリウム及び塩化カルシウムが同時に、前記アレンドロン酸溶液に添加された。沈殿物は濾過により回収され、水で洗浄された。その固体は120℃で一昼夜オーブン中で乾燥され、1.5gのアレンドロン酸カルシウム(CaYと表記される(Yはアレンドロン酸アニオンである))を収得した。中性溶液(ヒト血液のpH)中で生産されたアレンドロン酸カルシウムのkの平均値は、1.5±0.1であった。化学的に、Ca1.5YはCaに対応する。生理食塩水中のCa1.5Yの溶解度は、アレンドロン酸として247mcg/mL、又は0.0247%と測定された。
【0048】
生理食塩水への溶解度測定は、以下のように遂行された(他に記載が無い限り、前記複合産物の生理食塩水中の溶解度は全て、以下の手段を使用して測定された)。前記生理食塩水はpH=7.4でpH緩衝された。200mgの生産物が、20mLの上記緩衝生理食塩水に添加された。この溶液は、平衡に達するまで室温で撹拌された。上澄が遠心分離により分画され、そして0.1μmのフィルターで濾過された。アレンドロン酸塩は、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定された。
【0049】
実施例1: アレンドロン酸カルシウム−リン酸カルシウム(AC−PC)複合体(Sosolid)の生産
リン酸塩は、五価のリンのオキソ酸の通常使用される塩である。この実施例は、本発明の一の態様による、共沈殿によるアレンドロン酸カルシウム−リン酸カルシウム(AC−PC)の複合体又はsosolidの生産を明示する。
【0050】
4.06g(12.5mM)のアレンドロン酸ナトリウム三水和物及び同モル量となる1.5g(12.5mM)の第一リン酸ナトリウム(無水和物)は160mLの水に溶解され、溶液Aが収得された。4.75gの塩化カルシウム二水和物は50mLの水に溶解され、溶液Bが収得された。溶液A及びBの両方は、室温まで冷却された。溶液Bがアレンドロン酸塩−リン酸塩溶液(溶液A)に添加され、そしてその混合物はよく混合され、溶液Cが収得された。この透明な溶液CのpHは、3前後であった。
【0051】
前記溶液Cが全て添加されるまで40℃で溶液のpHを6.75に維持するため、1Nの水酸化ナトリウム及び溶液Cが、300mLの水に攪拌しながら同時に添加された。沈殿物は濾過により回収され、水で洗浄された。その固体は、120℃で16時間より長くオーブン中で乾燥された。このようにして、分子比率が1:1のアレンドロン酸及びリン酸のカルシウム複合塩が5.61g収得された。リン酸カルシウムの存在により、アレンドロン酸カルシウム−リン酸カルシウム(AC−PC)の複合体又はsosolidが収得された。AC−PC複合体中の活性医薬成分(API)は、アレンドロン酸塩である。
【0052】
AC−PCの複合体を生産するために、同一の手段を遂行したが、アレンドロン酸ナトリウムとリン酸カルシウムとのモル比を変化させ、即ちn=3,5,6,8,10,12,15及び20であった。APIの量を変化させた前記AC−PC複合体は、下記の表1にまとめられている。
【0053】
【表1】

【0054】
表1のデータは、AC−PCの溶解度が、アレンドロン酸として、驚くべきことにアレンドロン酸カルシウム(AC)自体の場合より100〜1200倍低下することを示す。例えば、APIが12.6%含まれるAC−PC複合体における生理食塩水へのAPIの溶解度は、僅かに0.44mcg/mL、又は0.0000044%であり、比較例1において報告されたアレンドロン酸カルシウムの溶解度、即ち247mcg/mLよりも558倍低下する。この極端に低いAC−PC複合体におけるAPIの溶解度は、APIの更に良好な徐放性の基礎を提供する。図1は、AC−PC複合体の実験的な溶解度が、AC−PC複合体中のAPIの量が減少するにつれて一様に低下することを明示する。
【0055】
AC−PC複合体を生産するための上記共沈殿法の反応は、異なるpH値、温度、反応物質の混合順序等の異なる条件下で遂行され得る。しかしながら、APIの溶解度が低い複合体を収得するためのプロフィールは、同一で維持される。
【0056】
実施例2: リセドロン酸カルシウム及びリン酸カルシウム(PC)の複合体の生産
本実施例は、PCがもう一つのビスホスホネート薬物のカルシウム塩、リセドロン酸カルシウムとの複合体をも形成し得ることを明示する。
【0057】
0.61g(2mM)のリセドロン酸ナトリウム無水和物及び2.4gの第一リン酸ナトリウム(無水和物)は30mLの水に溶解された。5.6gの塩化カルシウム二水和物は10mLの水に溶解された。それらのリセドロン酸塩−リン酸塩溶液及び塩化カルシウム溶液は、室温で混合された。
【0058】
前記リセドロン酸塩が全て添加されるまで溶液のpHを7.00に維持するため、前記リセドロン酸−リン酸−カルシウム溶液及び0.5Nの水酸化ナトリウムが、100mLの水に同時に添加された。沈殿物は濾過により回収され、水で洗浄された。その固体は、105℃でオーブン中で乾燥された。このようにして、リセドロン酸及びリン酸のカルシウム複合塩が3.93g収得された。
【0059】
分析により、前記複合体は12.33%の量のAPI(リセドロン酸として)を有することが指示される。この複合体の室温の生理食塩水中におけるAPI(リセドロン酸として)の溶解度は、2.8mcg/mL、又は0.00028%であった。これは非常に低い溶解度であり、そしてビスホスホネート薬物の徐放性にとって適切である。
【0060】
実施例3: ゾレドロン酸カルシウム及びリン酸カルシウム(PC)の複合体の生産
本実施例は、PCがもう一つのビスホスホネート薬物のカルシウム塩、ゾレドロン酸カルシウムとの複合体をも形成し得ることを明示する。
【0061】
0.27g(1mM)のゾレドロン酸及び0.6gm(5mM)の第一リン酸ナトリウム(無水和物)は10mLの水に溶解された。1.5gの塩化カルシウム二水和物は5mLの水に溶解された。それらのゾレドロン酸塩−リン酸塩溶液及び塩化カルシウム溶液は、室温で混合された。0.05gの塩化カルシウム二水和物及び0.3gの塩化ナトリウムは20mLの水に添加された。前記ゾレドロン酸塩−リン酸塩溶液が全て添加されるまで溶液のpHを室温で7.00に維持するため、水酸化ナトリウム及びゾレドロン酸−リン酸−カルシウム溶液は、同時に添加された。沈殿物は濾過により回収され、水で洗浄された。その固体は、120℃でオーブン中で乾燥された。このようにして、ゾレドロン酸及びリン酸のカルシウム複合塩が、1:5の分子量比で1.15g収得された。
【0062】
分析により、この複合体は24.1%の量のAPI(ゾレドロン酸として)を有することが指示される。この複合体の室温の水中における溶解度は、ゾレドロン酸として、7.5mcg/mL、又は0.00075%であった。これもまた、非常に低い溶解度である。
【0063】
実施例4: ACとピロリン酸カルシウム(PPC)との複合体の生産
ピロリン酸塩もまた、一般的な五価のリンのオキソ酸の塩である。本実施例は、共沈殿法によりアレンドロン酸カルシウム−ピロリン酸カルシウム(AC−PPC)の複合体を生産する1つの典型的な方法を明示する。
【0064】
0.81gのアレンドロン酸ナトリウム三水和物及び1.12gのピロリン酸ナトリウム十水和物(Na・10HO)は75mLの水に溶解された。1.21gの塩化カルシウム二水和物は75mLの水に溶解された。アレンドロン酸塩−ピロリン酸塩溶液の温度は、40〜50℃に維持された。前記塩化カルシウム溶液が全て添加されるまで溶液のpHを7.4に維持するため、塩化カルシウム溶液及び水酸化ナトリウム溶液が、アレンドロン酸塩−ピロリン酸塩溶液に同時に撹拌されながら添加された。混合物は、室温まで冷却された。沈殿物は濾過により回収され、水で洗浄された。その固体は、105℃で一昼夜オーブン中で乾燥された。このようにして、分子比率が1:1のアレンドロン酸とピロリン酸とのカルシウム複合塩が1.06g収得された。
【0065】
ピロリン酸カルシウムの存在により、アレンドロン酸カルシウムとピロリン酸カルシウムとの(AC−PPC)複合体又はsosolidが生産された。更にAC−PPC複合体を生産するために、上記と同一の手段を遂行したが、アレンドロン酸ナトリウムとピロリン酸カルシウムとのモル比を変化させ、即ちn=2,3,5,及び10であった。APIの量を変化させた前記AC−PPC複合体は、下記の表2にまとめられている。
【0066】
【表2】

【0067】
前記AC−PPC複合体は、生理食塩水中の溶解度において、AC−PC複合体の場合と同一の特性を示す。具体的には、AC−PPC複合体はAPIにおいて0.00001%〜0.001%という極めて低い溶解度をする。また、前記複合体中のAPIの量を低くすることにより、APIの溶解度はより低くなる。
【0068】
実施例5: ACとトリポリリン酸カルシウム(TPC)との複合体の生産
本実施例は、もう一つの五価のリンのオキソ酸のカルシウム塩であるトリポリリン酸塩もまた、共沈殿法によりアレンドロン酸カルシウム−トリポリリン酸カルシウム(AC−TPC)の複合体を形成することを明示する。
【0069】
2.03gのアレンドロン酸ナトリウム三水和物(6.25mmol)及びトリポリリン酸ナトリウム(Na10)は100mLの水に添加され、そしてその混合物は全て溶解されるまで撹拌された。10.34gの塩化カルシウム二水和物は200mLの水に溶解された。その塩化カルシウム溶液は40℃に加熱され、そしてpHは7.0に調整された。前記アレンドロン酸塩−トリポリリン酸塩溶液は前記塩化カルシウム溶液中に滴下され、1Nの水酸化ナトリウムの添加により、得られる溶液のpHが7.0となるように維持された。沈殿物は濾過により回収され、水で洗浄された。その固体は、120℃で一昼夜オーブン中で乾燥された。このようにして、アレンドロン酸とトリポリリン酸とのカルシウム複合塩が8.82g収得された。
【0070】
分析により、この複合体は12.6%のAPIをアレドロン酸として有することが指示される。この複合体の室温の生理食塩水中におけるAPIの(リセドロン酸としての)溶解度は、2.69mcg/mL、又は0.000269%であった。AC−TPCもまた、APIの溶解度が非常に低い複合体である。
【0071】
実施例6: アレンドロン酸亜鉛−リン酸亜鉛の複合体の生産
AC−PC複合体中の金属は、亜鉛、マグネシウム等の他の二価の金属に置換され得る。本実施例は、共沈殿法によるアレンドロン酸亜鉛−リン酸亜鉛の複合体の生産を明示する。
【0072】
3.25gのアレンドロン酸ナトリウム三水和物及び1.42gのリン酸ナトリウム(無水和物)は100mLの水に溶解された。その溶液の温度はホットプレート上で50℃に維持された。この温度は、本工程を通して維持された。攪拌している間に、50mLの水に含まれる5.8gの酢酸亜鉛二水和物の溶液が、前記アレンドロン酸塩−リン酸塩溶液に添加された。水酸化ナトリウム溶液を同時に添加することにより、前記酢酸亜鉛溶液が全て添加されるまで前記溶液のpHは7.4に維持された。沈殿物は濾過により回収され、水で洗浄された。次に、その固体は、120℃で一昼夜乾燥された。このようにして、分子比率が1:1のアレンドロン酸及びリン酸の亜鉛複合塩が5.28g収得された。この複合体の室温の生理食塩水中におけるAPIの(リセドロン酸としての)溶解度は、2.4mcg/mL、即ち0.00024%であった。これもまた、非常に低いAPIの溶解度を有する。
【0073】
実施例7: 吸着によるAC−PC複合体の生産
共沈殿法と別に、前記AC−PC複合体は、例えば、吸着及び分散等の、様々な他の方法により生産され得る。本実施例において、リン酸カルシウムの様々な形態の一つである、市販の水酸化アパタイト(HA)が、吸着によるAC−PC複合体の生産に用いられた。
【0074】
0.66g(2.0mM)のアレドロン酸ナトリウム三水和物が50mLの水に添加され、そしてその溶液は全て溶解するまで撹拌された。そのpHは、8.0から8.5の範囲内に調整された。2gの水酸化アパタイト(Spectrum CAl 65)が添加され、その溶液は室温で20時間撹拌された。攪拌後、200mLの水が添加され、そして固体が濾過により分離された。その固体は移し替えられ、200mLの水が加えられ、そしてその固体は再び濾過された。この工程がもう一度繰り返された。その個体産物は、105℃で3時間乾燥された。その複合体は、アレンドロン酸として8.8%のAPIを有しており、室温の生理食塩水中におけるそのAPIの溶解度は、7.9mcg/mL、又は0.00079%であった。
【0075】
実験例1: ラットモデルにおけるAC−PC複合体の薬物動態学的(PK)調査
本調査において、実施例1において生産されたAPIが12.6%のAC−PCが、雌のSprague−DawleyラットA群(n=12)に筋肉内注射された。前記雌のラットの月齢は約4月であった。各ラットには、1mgのAPI(アレンドロン酸として)を含む8mgのAC−PC複合体が注射された。長期徐放性のPKプロフィールは、アレンドロン酸塩の尿中排出を通じて試験された。尿試料は、24時間より長い間隔で採取された。尿中に排出されるAP−CP由来のアレンドロン酸塩は、最初にリン酸カルシウム共沈殿法により沈殿され、それから2,3−ナフタレンジアルデヒドにより誘導体化され、そして蛍光検出装置を備えた逆相高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)により判定された。
【0076】
比較例1において生産された、先行技術の活性コントロールであるアレンドロン酸カルシウムは、雌のラットB群(n=10)における本PK調査に使用された。その活性コントロールは、生理食塩水中において404mcg/mL、又は0.0404%のAPIの溶解度を有し、それは実施例1のAC−PC複合体の場合よりも遥かに高い。表3において、実施例1のAC−PC複合体及び活性コントロールの投与後の、アレドロン酸塩の、アレドロン酸としての、日常尿中排出量がまとめられている。
【0077】
図2は、実施例1のAC−PC複合体(青い曲線)及び先行技術の活性コントロール(赤い曲線)の両方における、投与後の日数に対するラットの尿中日常排出の曲線を示す。この図は、本発明のある態様による複合体が、先行技術よりも顕著に良好かつ長期間の徐放性を提供することを明示する。
【0078】
【表3】

【0079】
下記の表4によりまとめられているように、2つの産物、本発明のAC−PC複合体及び先行技術(ACのみ)が、同一の動物モデル(ラット)で、同一の投与量(1mg/ラット)で試験され、そして同一の総排出量を明示した。試験された本発明の組成物(AC−PC複合体)は、下記のように、極めて良好な徐放性を示した。
【0080】
(1)初期ボーラス: 7倍低下する
初期ボーラスは、放出された量の合計の中で投与後の最初の3日以内に放出された量のパーセントとして定義される。徐放性薬物においては、高い初期ボーラスにより引き起こされる、過剰摂取を減少させ、及び副作用可能性の急増を回避するため、小さな初期ボーラスが望ましい。本発明のある態様は、最初の3日間で、放出された量の合計中8%のみ放出する。しかしながら、先行技術に係る産物は、同一の期間中に、放出された量の合計中55%を放出する。即ち、最初の3日間でその薬物の半分以上が放出される。ゆえに、本発明のある態様における初期ボーラスは、先行技術の7倍低下する。
【0081】
(2)Cmax: 9倍低下する
徐放性により、人体中で薬物が高い最高量に達することが回避される。最高量は、Cmaxと表記される。良好な徐放性薬物は、高いCmaxにより引き起こされる毒性及び副作用の可能性を減少するため、より低いCmaxを有すべきである。本実施例では、徐放性の指標として、尿中排出が使用された。Cmaxは最高日常尿中排出に対応し、それは先行技術では74mcg/dayが、そして本発明の試験に用いられた複合体では8mcg/dayが測定された。即ち、本発明のある態様は、先行技術の産物よりも9倍低いCmaxを有する。
【0082】
(3)tmax: 13倍遅延する
Cmaxが出現する時間は、tmaxとして定義される。長期徐放性薬物は、遅延したtmaxも有するべきである。tmaxは先行技術では1日であり、そして本発明の試験に用いられた複合体では13日であった。即ち、本発明のある態様は、先行技術の産物より13倍遅延するtmaxを有する。
【0083】
【表4】

【0084】
(4)薬物の50%を放出する日数: 6倍長い
徐放性薬物の効果はその薬物の50%を放出するために掛かる日数により特徴付けられ得て、それはN50として示され得る。長期徐放性薬物は、より長いN50を有するべきである。N50は、先行技術では2.8日であり、そして本発明の試験に用いられた複合体では16.6日であった。故に、本発明のある態様は、先行技術の産物より6倍長いN50を有する。
【0085】
(5)薬物の90%を放出する日数:4倍長い
薬物の徐放性の効果はその薬物の50%を放出するために掛かる日数によっても特徴付けられ得て、それはN90として示され得る。長期徐放性薬物は、より長いN90を有するべきである。N90は、先行技術では9.0日であり、そして本発明の試験に用いられた複合体では38.5日であった。故に、本発明のある態様は、先行技術の産物より4倍長いN90を有する。
【0086】
実験例2: ラットモデルにおけるAC−PCの有効性調査
本実験例は、本発明のあるAC−PC複合体の長期徐放性の有効性を明示する。本調査において、AC−PC複合体製剤は、雌のSprague−Dawleyラットに筋肉内注射された。本調査に用いられたラットは、卵巣摘出手術(OVX)を受けた。外科手術が行われた時、雌のラットの月齢は、2月半前後であった。術後回復を保証し、並びにAC−PC複合体による処理に先立ち低エストロゲン血症及び骨粗しょう症を構築するため、卵巣摘出/偽手術の後に2月半の回復期間が置かれた。
【0087】
前記ラットは、3つの群に分けられた。
群−A:低投与量、0.25mgのAC−PC複合体(アレンドロン酸)による治療
群−B:高投与量、1.0mgのAC−PC複合体(アレンドロン酸)による治療
群−C:偽薬(生理食塩水)による治療
【0088】
前記治療薬物又は偽薬(生理食塩水)は、2月に一度注射された。0日、60日、及び120日目の3回、注射による投与が行われた。
【0089】
本例において使用されたAC−PC複合体は12.6%のAPIを有しており、実施例1に記載されるように生産された。前記複合体の骨保全効果は、右大腿骨近位端から4.3mmの8.6x7.2mmにおける、二重X線吸収測定法(DEXA)による骨ミネラル濃度(BMD)のパーセントの変化として測定される。全てのラットにおけるBMDは、0,7,14,28,35,42,49,56,90,120,135,150,165及び180日目に測定された。収得されたデータは、表5及び図3においてまとめられている。
【0090】
【表5】

【0091】
3つ全てのラット群におけるAUC0,180(曲線下の面積)は、下記の表6にまとめられている。有効性のp値は、偽薬群(群C)で評価される。全てのp値は0.05より顕著に小さく、試験された骨粗しょう症に対する長期徐放性の複合体の有効性が確かめられた。
【0092】
【表6】

【0093】
実験例3: ラットモデルによるAC−PC複合体の組織耐性(TT)の評価
本例の目的は局所的組織耐性の評価であり、AC−PC複合体の組織毒性/反応の肉眼的、及び顕微鏡的(組織病理学的)両方の試験が遂行された。
【0094】
ビスホスホネート塩は、筋肉内注射後の組織障害及び刺激を引き起こし得る。しかしながら、本発明のある態様に係るAC−PC複合体におけるビスホスホネートの溶解度は、先行技術に係るアレンドロン酸カルシウムと比較して100〜1000倍減少される。従って、AC−PC複合体における組織耐性レベルは、FDA及び患者に許容されるレベルと同一にまで達し得る。
【0095】
(1)調査手順
実施例1に記載のように生産された、APIが12.6%のAC−PC複合体は、ラットモデルによる組織耐性評価に使用された。0.9%の生理食塩水は、陰性コントロールとして使用された。酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)懸濁液注射(150mg/mL)(FDA認可徐放性薬物)は、参照コントロールとして用いられた。
【0096】
合計で70頭のラットが、本調査に使用された。群Tに割り当てられた35頭のラットは、右大腿部に0.25mLのAC−PC複合体、左大腿部に0.25mLの0.9%生理食塩水が筋肉内(IM)注射された。もう一つの群Rの35頭のラットは、右大腿部に0.25mLのMPA(参照コントロール)がIM注射された。ラットは0日目の注射前に一般的健康状態が検査された。全組織反応評価は、注射後1,7,14,28,56,84、及び120日目に遂行された。上に列記された注射後の各時点で、各群(T及びR)から5頭のラットがサクリファイスされた。
【0097】
(2)肉眼による浮腫及び紅斑の検査
治療部位における紅斑及び浮腫等の任意の組織反応の兆候の検査が遂行された。浮腫及び紅斑の評点システムは、インビボの、USP <88> Biological Reactivity Testが適用された。
【0098】
肉眼で浮腫及び紅斑を評価するために、Mean Tissue Reaction Score(MTRS)が使用された。MTRSは、全ての浮腫及び紅斑評点の平均である。7つの評価時点における3つの処理全てのMTRSは、下の表7に列記されている。
【0099】
表7に示されるように、調査時点全体で、肉眼による浮腫及び紅斑の評価では、AC−PC複合体及び参照コントロールのMPA、並びにネガティブコントロールで観察された組織刺激は、殆どないか、又は全く確認されなかった。AC−PC複合体の肉眼的MTRS評点は0であり、これはAC−PC複合体が、浮腫及び紅斑に関しては、120日の調査期間を通して無刺激性薬物であることを指示する。
【0100】
【表7】

【0101】
(3)顕微鏡的組織病理学的試験
顕微鏡的評価は、ASTM F 981 (2004)及びISO 10993-6:1994 (E)のガイドラインの生物学関連の側面を充足する0〜4の格付けシステムを使用して遂行された。
【0102】
平均組織病理学的試験評点(mean histopathological examination score (MHES))は、注射後同一の日数が経過した後の5つの組織病理学的試験評点全ての平均を用いて計算された。7つの評価時点における3つの処理全てのMHESは、下の表8に列記されている。
【0103】
【表8】

【0104】
表8に示されるように、AC−PC複合体の顕微鏡的組織病理学的試験評点は、期間を通して参照コントロール及びMPAのものと非常に類似していた。MHESが時間と共に減少することから、経時的な炎症反応の対応する減退と共に、AC−PC複合体の吸収が起こると考えられる。
【0105】
(4)組織耐性の結論
要するに、肉眼的、及び顕微鏡的評価の両方に基づき、本発明のある態様に係るAC−PC複合体は、商業的に、及び臨床的に利用可能な参照コントロール(MPA)と比較したとき、許容される組織耐性のレベルと関連し得る。
【0106】
上に記載した実施例及び実験は、例示的目的のためにのみ提示され、いかなる場合も本発明の範囲を限定することを意味しない。本発明は幾つかの典型的な態様を参照して記載されているが、当業者は、添付された特許請求の範囲に定義されるような、本発明の精神と範囲から逸脱することなしに、記載された態様に多くの変更及び改変がなされ得ることを認識し得るため、本発明は記載された態様に限定されないことが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスホスホネート薬物の塩;及び
五価のリンのオキソ酸の塩;
を含む医薬組成物。
【請求項2】
前記ビスホスホネート薬物の塩が約50重量%未満の量で存在する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ビスホスホネート薬物が(HO)PO−R−OP(OH) で表わされる化合物を含み、その官能基Rの化学物がビスホスホネート薬物をパミドロン酸、アレンドロン酸、イバンドロン酸、リセドロン酸、ゾレドロン酸及びチルドロン酸として決定付ける、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ビスホスホネート薬物の塩が、
正塩、酸性塩、塩基性塩及びそれらの組合せ;
カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、及びそれらの組合せ;並びに
無水塩、水和物及び水和物の組合せ
からなる群から選択される塩を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
金属とリンとの重量比が約0.5〜約3.0の範囲にある、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記五価のリンのオキソ酸の塩が、
正塩、酸性塩、塩基性塩及びそれらの組合せ;
カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、及びそれらの組合せ;
リン酸塩、ピロリン酸塩、メタリン酸塩、ポリリン酸塩及びそれらの組合せ;並びに
無水塩、水和物及び水和物の組合せ
からなる群から選択される塩を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記五価のリンのオキソ酸の塩が、第二リン酸カルシウム二水和物、第二リン酸カルシウム無水和物、第八リン酸カルシウム、α−第三リン酸カルシウム、β−第三リン酸カルシウム、アモルファスリン酸カルシウム、カルシウム欠損ヒドロキシアパタイト、ヒドロキシアパタイト、及び第四リン酸カルシウムからなる群から選択される、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記ビスホスホネート薬物の塩及び五価のリンのオキソ酸の塩が、約100マイクロメートル未満の平均粒径を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記ビスホスホネート薬物の塩及び五価のリンのオキソ酸の塩が、水性溶媒中に懸濁され、水性懸濁液を形成する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記水性懸濁液が約6.0〜約9.5の範囲のpHを有する、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記ビスホスホネート薬物の塩及び五価のリンのオキソ酸の塩が、生理食塩水において、ビスホスホン酸として約0.05重量%未満の溶解度を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
少なくとも1つの不活性な医薬賦形剤を更に含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
賦形剤が、界面活性剤、懸濁剤、分散剤、等張化剤、保存料、pH緩衝剤、浸透圧を調整する薬剤、粘度を調整する薬剤及び密度を調整する薬剤からなる群から選択される、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
固体の水性懸濁液を含む医薬組成物であり、その固体が、
ビスホスホネート薬物のカルシウム塩;及び
五価のリンのオキソ酸のカルシウム塩
を含む、前記医薬組成物。
【請求項15】
前記ビスホスホネート薬物のカルシウム塩が、約50重量%未満の量で存在する、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記固体が、約1〜約100マイクロメートルの範囲で平均粒径を有する、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記固体の水性懸濁液が、約6.0〜約9.5の範囲のpHを有する、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記固体の水性懸濁液が、約0.5〜約3.0の範囲にカルシウムとリンとの重量比を有する、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記ビスホスホネート薬物のカルシウム塩及び五価のリンのオキソ酸のカルシウム塩が、生理食塩水において、ビスホスホン酸として約0.05重量%未満の溶解度を有する、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項20】
患者にビスホスホネート薬物を投与する方法であり、
ビスホスホネート薬物の塩及び五価のリンのオキソ酸の塩を含む固体の水性懸濁液を準備し;
患者にその固体の水性懸濁液を筋肉内注射すること
を含む前記方法。
【請求項21】
前記固体の懸濁液が、患者の体内で長時間ビスホスホネート薬物を放出するように適合させられる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記長時間が、2月以上を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項1に記載の医薬組成物を患者に筋肉内注射する方法を含む、患者の骨疾患を治療、又は予防する方法。
【請求項24】
前記骨疾患が骨粗しょう症である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項14に記載の医薬組成物を患者に筋肉内注射する方法を含む、患者の骨疾患を治療、又は予防する方法。
【請求項26】
前記骨疾患が骨粗しょう症である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
患者の骨疾患を治療、又は予防する方法であり、
ビスホスホネート薬物の塩及び五価のリンのオキソ酸の塩を含む固体の水性懸濁液を準備し;
患者に前記固体の水性懸濁液を筋肉内注射する
ことを含む前記方法。
【請求項28】
前記骨疾患が骨粗しょう症である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記固体の懸濁液が、患者の体内で長時間ビスホスホネート薬物を放出するように適合させられる、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記長時間が、2月以上を含む、請求項29に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−513483(P2010−513483A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542815(P2009−542815)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/025569
【国際公開番号】WO2008/085281
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(509174129)アムファスター ファーマシューティカルズ,インコーポレイティド (1)
【Fターム(参考)】