説明

ビスマスの電解精製方法

【課題】 鉛品位を1 mass %以下に予め調整したビスマスメタルアノードから、カソード電着物中の鉛品位が0.01 mass %以下の精製ビスマスを得るビスマスの電解精製方法を提供する。
【解決手段】 鉛品位を1 mass %以下に予め調整したビスマスメタルをアノードにし、カソードにチタン板を用い、電解液は、塩酸溶液中にビスマスを10〜30 g/l、電流密度を150 A/m2以下とした条件でビスマス電解精製を行うことで、槽電圧の安定した状態で電解を行うことができ、カソード電着物中の鉛品位が0.01 mass %以下の精製ビスマスを得るビスマスの電解精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスマスの電解精製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビスマスを電解にて精製する場合には、広く一般的な方法として、電解液にケイフッ酸溶液を用いるものが行われている。
電解液にケイフッ酸溶液を用いた場合には、電解液処理を行う際に、高濃度のフッ素化合物処理を検討しなければならないために、例えば消石灰などの薬品を大量に使用する必要があることや、大量に発生するスラッジの処理など、排水処理工程に多大な負担をかけることとなる。
また、特許文献1のように、塩酸溶液中のビスマスをアルミニウム、鉛、鉄等を添加し、還元しビスマススポンジを得る方法も開示されている。
【0003】
【特許文献1】特許第3704266号 ビスマスの回収方法 日鉱金属金属株式会社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、電解液に塩酸を用いた場合の液処理では、スラッジの発生を抑えられる苛性ソーダを使用することで簡単に中和ができ、適正なpHの溶液にすることができるうえに、鉛や銅などの重金属類も固液分離により容易に液中から除くことができる。
本発明は、上記塩酸液中のビスマスを効率よく回収する方法を見出すことを
課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、上記の課題を解決するために、
鉛品位を1 mass %以下に予め調整したビスマスメタルをアノードにし、カソードにチタン板を用い、電解液は、塩酸溶液中にビスマスを10〜30 g/l、電流密度を150 A/m2以下とした条件でビスマス電解精製を行うことで、槽電圧の安定した状態で電解を行うことができ、カソード電着物中の鉛品位が0.01 mass %以下の精製ビスマスを得るビスマスの電解精製方法。
を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、以下の効果を有する。
(1)槽電圧の安定した状態で、電解を行うことができる。
(2)カソード電着物中の鉛品位が、0.01mass%以下のビスマスを得ること
が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
電解液中の塩酸濃度について、塩酸濃度を100 g/l未満にして電解を行った場合、ビスマス濃度が30 g/l以上の場合には、電解中のアノード表面に徐々にオキシ塩化ビスマスの白色付着物が生成してくる。このものが生成するために電解中のビスマス濃度の低下が起こる。
また、この白色付着物は非常に硬く、水で流れ落ちるようなものでもないので、アノード表面を覆うことにより、槽電圧の異常上昇が見られて、電解状態が不安定になる。
また、電解液中の塩酸濃度が100 g/lの場合でも、ビスマス濃度が10 g/l以下の場合には、通電当初にはチタンカソード表面に付着物が見られるが、すぐに剥がれ落ちてしまうほど脆く、良好に電着しない。
【0008】
電解液中の塩酸濃度が110
g/l以下(好ましくは、90から110g/l)のときに、ビスマス濃度が10〜30 g/lの範囲で電解を行った場合には、アノード表面へのオキシ塩化ビスマスの白色付着物の生成が見られず、代わりに水で流せるような軟らかい黒色の付着物が生成する。槽電圧も低位で安定するため、安定した電解が行われる。
【0009】
電解液中の塩酸濃度を110 g/lより多い場合は、塩酸そのものの使用量が増えることに対する費用面と、電解液を廃棄処理する際の中和に大量のアルカリ剤が必要となることに対する費用面の両面から、不利となる。
【0010】
電流密度を150 A/m2より多い場合は、通常1 V以下で安定している槽電圧が、時には数V程度まで異常に上昇することもあり、安定した電着状態を保つことができなくなる。
【0011】
電解に用いるビスマスアノード中の鉛品位について、アノード中の鉛品位を1 mass %以下に予め調整することで、カソード電着物中の鉛品位を0.01 mass %以下に抑えられる。また、アノード中の鉛品位を1 mass %以下に予め調整することで、電解中の槽電圧を安定した状態に保つことが可能である。
【0012】
(実施例1)
塩酸濃度100 g/l、ビスマス濃度23 g/lの電解液を用い、電流密度
100 A/m2、ビスマスアノード中の鉛品位が0.17mass %で、カソードにチタン板を用いて91時間通電を行った。
その結果、カソード電着物中の鉛品位が10 mass ppm以下のビスマスが生成した。通電中の槽電圧は最大0.25 V、平均0.2 Vで安定に推移した。電解前のアノード品位および電解後のカソード電着物品位を表1に示す。



【表1】

【0013】
(実施例2)
塩酸濃度100 g/l、ビスマス濃度19 g/lの電解液を用い、電流密度
100 A/m2、ビスマスアノード中の鉛品位が0.95 mass %で、カソードにチタン板を用いて92時間通電を行った。
その結果、カソード電着物中の鉛品位が30 mass ppmのビスマスが生成した。通電中の槽電圧は最大0.6 V、平均0.3 Vで安定に推移した。電解前のアノード品位および電解後のカソード電着物品位を表2に示す。
【表2】

【0014】
(実施例3)
塩酸濃度100 g/l、ビスマス濃度10 g/lの電解液を用い、電流密度
100 A/m2、ビスマスアノード中の鉛品位が0.08 mass %で、カソードにチタン板を用いて117時間通電を行った。
その結果、カソード電着物中の鉛品位が10 ppm以下のビスマスが生成した。通電中の槽電圧は最大0.25 V、平均0.2 Vで安定に推移した。電解前のアノード品位および電解後のカソード電着物品位を表3に示す。
【表3】

【0015】
(実施例4)
塩酸濃度100 g/l、ビスマス濃度25 g/lの電解液を用い、電流密度
150 A/m2、ビスマスアノード中の鉛品位が0.11 mass %で、カソードにチタン板を用いて164時間通電を行った。
その結果、カソード電着物中の鉛品位が40 :mass ppmのビスマスが生成した。通電中の槽電圧はおおよそ0.2 Vで安定に推移した。電解前のアノード品位および電解後のカソード電着物品位を表4に示す。
【表4】

【0016】
(比較例1)
塩酸濃度50 g/l、ビスマス濃度51 g/lの電解液を用い、電流密度
100 A/m2、ビスマスアノード中の鉛品位が0.23 mass %で、カソードにチタン板を用いて165時間通電を行った。
その結果、通電中の槽電圧が、平均は0.4 Vであるが、0.2 Vから0.6 Vの間で終始不安定に推移した。また、電解終了時のビスマス濃度が42 g/lまで低下し、アノード表面には白色付着物が見られた。
【0017】
(比較例2)
塩酸濃度100 g/l、ビスマス濃度20 g/lの電解液を用い、電流密度
200 A/m2、ビスマスアノード中の鉛品位が0.17 mass %で、カソードにチタン板を用いて96時間通電を行った。
その結果、通電中の槽電圧が、平均は0.4 Vであるが、0.3 Vから0.6 Vの間で終始不安定に推移した。アノード表面には白色付着物が見られた。
【0018】
(比較例3)
塩酸濃度100 g/l、ビスマス濃度4 g/lの電解液を用い通電を開始したが、カソード表面に電着は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛品位を1mass%以下に予め調整したビスマスメタルをアノードにし、カソードにチタン板を用い、
電解液は、塩酸溶液中にビスマスを10〜30 g/l、電流密度を150 A/m2以下とした条件でビスマス電解精製を行うことで、
槽電圧の安定した状態で電解を行うことができ、カソード電着物中の鉛品位が0.01 mass %以下の精製ビスマスを得ることを特徴とするビスマスの電解精製方法。





【公開番号】特開2009−97072(P2009−97072A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335487(P2007−335487)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】